説明

存在確率分布推定装置及びプログラム

【課題】道路情報外においてもマップマッチングの手法を適用して、誤差分布の拡大を抑制した移動体位置の存在確率分布を推定する。
【解決手段】推測航法移動量分布算出部20で、ヨーレイトθobs、車速Vobs、各センサの推定計測誤差σθ及びσに基づいて、自車両の移動量分布を算出し、推測航法軌跡算出部22で、θobs及びVobsの時系列データに基づいて、自車両の走行軌跡の形状を算出し、MM尤度分布算出部24で、地図情報の全グリッドについて、道路リンク上のMM尤度、またはそれより低い道路リンク外のMM尤度を算出したMM尤度分布を得て、第1分布算出部26で、前タイムステップの第2存在確率分布と移動量分布とを掛け合わせて、第1存在確率分布を算出し、第2分布算出部28で、第1存在確率分布とMM尤度分布とを掛け合わせて算出される第2存在確率分布を、現在の自車位置の存在確率分布として推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、存在確率分布推定装置及びプログラムに係り、特に、道路情報を含む地図上における移動体位置の存在確率分布を推定する存在確率分布推定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体の位置を検出するナビゲーション装置において、移動体の挙動情報を検出する自律センサと、自律センサによる検出情報を累積して移動体の慣性測位位置を検出し、時刻tの慣性測位位置の誤差分散、自律センサのセンサ誤差分散及び計算誤差を、移動体の移動モデルに基づいて更新式に適用して、時刻t+1の誤差分散を漸化的に算出するナビゲーション装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、地図データ内の道路形状と車両の走行軌跡の形状との一致度に基づいて、車両位置を更新するナビゲーション装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−20365号公報
【特許文献2】特開2009−287925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、誤差分布の範囲が時刻と共に累積し、誤差範囲が拡大する、という問題がある。
【0006】
この誤差分布の拡大を抑制するために、特許文献1の誤差分布の推定手法に特許文献2のマップマッチングの手法を適用した場合を考える。マップマッチングでは道路幅方向の誤差の累積を抑制できるため、誤差分布の拡大の抑制効果はあると考えられるが、道路リンク外での移動体の位置分散の算出が不可能である、という問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、道路外においてもマップマッチングの手法を適用して、誤差分布の拡大を抑制した移動体位置の存在確率分布を推定することができる存在確率分布推定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の存在確率分布推定装置は、移動体の運動状態を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された移動体の運動状態に基づいて、前記移動体の移動軌跡を算出する軌跡算出手段と、道路情報を含む地図を複数に区画した領域毎の道路情報の確からしさを示す尤度の分布であって、前記尤度を、前記領域が前記道路情報の示す道路上に相当する場合には、前記道路情報と前記軌跡算出手段により算出された移動軌跡とのマップマッチングにより算出した第1尤度、前記領域が前記道路情報の示す道路外に相当する場合には、前記第1尤度より低い第2尤度とした分布を算出する尤度分布算出手段と、前記検出手段により検出された移動体の運動状態、及び過去に推定された前記領域毎の移動体の存在確率分布に基づいて、前記領域毎の移動体の第1存在確率分を算出する第1分布算出手段と、前記尤度分布算出手段により算出された尤度の分布、及び前記第1分布算出手段により算出された第1存在確率分布に基づいて、前記領域毎の移動体の第2存在確率を算出し、該第2存在確率分布を、現在の前記領域毎の移動体の存在確率分布として推定する第2分布算出手段と、を含んで構成されている。
【0009】
本発明の存在確率分布推定装置によれば、検出手段が、移動体の運動状態を検出し、軌跡算出手段が、検出手段により検出された移動体の運動状態に基づいて、移動体の移動軌跡を算出する。そして、尤度分布算出手段が、道路情報を含む地図を複数に区画した領域毎の道路情報の確からしさを示す尤度の分布であって、尤度を、領域が道路情報の示す道路上に相当する場合には、道路情報と軌跡算出手段により算出された移動軌跡とのマップマッチングにより算出した第1尤度、領域が道路情報の示す道路外に相当する場合には、第1尤度より低い第2尤度とした分布を算出する。また、第1分布算出手段は、検出手段により検出された移動体の運動状態、及び過去に推定された領域毎の移動体の存在確率分布に基づいて、領域毎の移動体の第1存在確率分を算出する。そして、第2分布算出手段が、尤度分布算出手段により算出された尤度の分布、及び第1分布算出手段により算出された第1存在確率分布に基づいて、領域毎の移動体の第2存在確率を算出し、該第2存在確率分布を、現在の領域毎の移動体の存在確率分布として推定する。
【0010】
このように、検出手段により検出された移動体の移動量分布に基づく移動体の第1存在確率分布と、マップマッチングにより算出した道路上の第1尤度、及び第1尤度より低い道路外の第2尤度を領域毎に算出した尤度の分布とに基づいて、移動体の第2存在確率分布を算出し、これを移動体の存在確率分布として推定するため、道路外においてもマップマッチングの手法を適用して、誤差分布の拡大を抑制した存在確率分布を推定することができる。
【0011】
また、本発明の存在確率分布推定プログラムは、コンピュータを、移動体の運動状態を検出する検出手段により検出された移動体の運動状態に基づいて、前記移動体の移動軌跡を算出する軌跡算出手段、道路情報を含む地図を複数に区画した領域毎の道路情報の確からしさを示す尤度の分布であって、前記尤度を、前記領域が前記道路情報の示す道路上に相当する場合には、前記道路情報と前記軌跡算出手段により算出された移動軌跡とのマップマッチングにより算出した第1尤度、前記領域が前記道路情報の示す道路外に相当する場合には、前記第1尤度より低い第2尤度とした分布を算出する尤度分布算出手段、前記検出手段により検出された移動体の運動状態、及び過去に推定された前記領域毎の移動体の存在確率分布に基づいて、前記領域毎の移動体の第1存在確率分を算出する第1分布算出手段、及び前記尤度分布算出手段により算出された尤度の分布、及び前記第1分布算出手段により算出された第1存在確率分布に基づいて、前記領域毎の移動体の第2存在確率を算出し、該第2存在確率分布を、現在の前記領域毎の移動体の存在確率分布として推定する第2分布算出手段として機能させるためのプログラムである。
【0012】
なお、本発明のプログラムを記憶する記憶媒体は、特に限定されず、ハードディスクであってもよいし、ROMであってもよい。また、CD−ROMやDVDディスク、光磁気ディスクやICカードであってもよい。更にまた、該プログラムを、ネットワークに接続されたサーバ等からダウンロードするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の存在確率推定装置及びプログラムによれば、検出手段により検出された移動体の移動量分布に基づく移動体の第1存在確率分布と、マップマッチングにより算出した道路上の第1尤度、及び第1尤度より低い道路外の第2尤度を領域毎に算出した尤度の分布とに基づいて、移動体の第2存在確率分布を算出し、これを移動体の存在確率分布として推定するため、道路外においてもマップマッチングの手法を適用して、誤差分布の拡大を抑制した移動体位置の存在確率分布を推定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施の形態に係る存在確率分布推定装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図2】走行軌跡と道路リンクとのマップマッチングを説明するための図である。
【図3】第1の実施の形態に係る存在確率分布推定装置のコンピュータにおける存在確率分布推定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図4】MM尤度分布の算出を説明するための図である。
【図5】第2の実施の形態に係る存在確率分布推定装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図6】第2の実施の形態に係る存在確率分布推定装置のコンピュータにおける存在確率分布推定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、車両に搭載され、道路情報を含む地図上における自車位置の存在確率分布を推定する存在確率分布推定装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0016】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る存在確率分布推定装置10は、自車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ12と、自車両の速度を検出する車速センサ14と、地図情報が格納された地図データベース(地図DB)16と、自車位置の存在確率分布を推定するコンピュータ18とを備えている。
【0017】
地図DB16に格納された地図情報は、道路リンク情報を含む。また、地図情報が示す地図は、二次元グリッドで構成され、1グリッド(1ピクセル)を1単位とする。地図上の位置はグリッド座標(x,y)で表される。
【0018】
コンピュータ18は、CPU、後述する存在確率分布推定処理ルーチンを実現するためのプログラムを記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、及びHDD等の記憶装置を含んで構成されている。
【0019】
このコンピュータ18を以下で説明する存在確率分布推定処理ルーチンに従って機能ブロックで表すと、図1に示すように、ヨーレイトセンサ12及び車速センサ14の検出値に基づいて、自車両の移動量分布を算出する推測航法移動量分布算出部20と、ヨーレイトセンサ12及び車速センサ14の検出値に基づいて、自車両の走行軌跡を算出する推測航法軌跡算出部22と、自車両の走行軌跡及び地図情報に基づいて、マップマッチング尤度(MM尤度)の分布を算出するMM尤度分布算出部24と、移動量分布及び前タイムステップの第2存在確率分布に基づいて、第1存在確率分布を算出する第1分布算出部26と、第1存在確率分布及びMM尤度分布に基づいて、第2存在確率分布を算出する第2分布算出部28とを含んだ構成で表すことができる。
【0020】
なお、推測航法移動量分布算出部20及び第1分布算出部26が本発明の第1分布算出手段の一例である。
【0021】
推測航法移動量分布算出部20は、ヨーレイトセンサ12から取得したヨーレイトθobs及び車速センサ14から取得した車速Vobsに基づいて、自車両の移動量分布f(△x,△y)を算出する。具体的には、ヨーレイトの真値がθである確率をfyaw(θ)、車速の真値がVである確率をfvel(V)、移動量の真値が(Δx,△y)である確率をf(△x,△y)と定義すると、移動量分布f(△x,△y)は、下記(1)式で表わすことができる。
【0022】
【数1】

【0023】
また、ヨーレイトセンサ12によるヨーレイトの計測値をθobsとし、その誤差分布を平均0、分散σθの正規分布と仮定した場合、下記(2)式が成立する。同様に、車速センサ14による車速の計測値をVobsとし、その誤差分布を平均0、分散σの正規分布と仮定した場合、下記(3)が成立する。
【0024】
【数2】

【0025】
(1)式に(2)式及び(3)式を代入すると、下記(4)式が得られる。
【0026】
【数3】

【0027】
従って、推測航法移動量分布算出部20は、ヨーレイトセンサ12で検出されたヨーレイトθobs、及び車速センサ16で検出された車速Vobsを取得し、ヨーレイトセンサ12及び車速センサ16の計測精度に基づいて予め求められた推定計測誤差σθ及びσと共に、(4)式に代入することにより、自車両の移動量分布を算出する。
【0028】
推測航法軌跡算出部22は、ヨーレイトセンサ12で検出されたヨーレイトθobs、及び車速センサ14で検出された車速Vobsの時系列データを保持し、自車両の走行軌跡の形状を算出する。
【0029】
MM尤度分布算出部24は、推測航法軌跡算出部22で算出された自車両の走行軌跡の形状及び地図DB16に格納された道路リンク情報を含む地図情報に基づいて、地図情報を区画した領域毎のMM尤度を算出する。MM尤度は、地図上のあるグリッドの道路リンクの確からしさを示す値である。本実施の形態では、1グリッドを1単位としており、グリッド毎にMM尤度が算出される。このMM尤度は、そのグリッドが道路リンク上か道路リンク外かで異なる。以下、道路リンク上のMM尤度、及び道路リンク外のMM尤度に分けて説明する。
【0030】
道路リンク上のMM尤度は、道路リンク上の全グリッドにおいて、推測航法軌跡算出部22で算出された走行軌跡の形状と比較を行うことにより算出する。具体的には、まず、図2(a)に示すように、推測航法軌跡算出部22で算出された走行軌跡の形状から自車位置を中心にM×Nピクセルの走行軌跡ウインドウを切り出す。図2(a)中黒く塗りつぶしたグリッドは走行軌跡を表す。次に、同図(b)に示すように、地図情報から、ある道路リンク上のグリッド座標(x,y)を中心としてM×Nピクセルの道路リンクウインドウを切り出す。図2(b)中黒く塗りつぶしたグリッドは道路リンクを表す。
【0031】
そして、切り出した走行軌跡ウインドウと道路リンクウインドウとを比較することで、道路リンク上のグリッド座標(x,y)上のMM尤度W(x,y)を、例えば、下記(5)式に従って算出する。なお、MM尤度は回転やスケールに対し不変な特徴量を用いて算出するようにしてもよい。
【0032】
【数4】

【0033】
ここで、(i,j)は両ウインドウ中における相対的なグリッド座標を示し、I(i,j)は走行軌跡ウインドウ中のグリッド座標(i,j)が走行軌跡上であれば1、そうでなければ0となる関数を示す。T(i,j)も同様に、道路リンクウインドウ中のグリッド座標(i,j)が道路リンク上であれば1、そうでなければ0となる関数を示す。また、M及びNはそれぞれ両ウインドウのグリッドサイズを示し,1≦i≦M,1≦j≦Nとする。(5)式に従って、道路リンク上にある全てのグリッドについてMM尤度W(x,y)を算出する。
【0034】
次に、道路リンク外のMM尤度について説明する。道路リンク外のグリッド座標(x,y)におけるMM尤度W(x,y)は、道路リンク上のグリッド座標(x,y)のMM尤度W(x,y)を用いて、下記(6)式に従って算出する。
【0035】
【数5】

【0036】
ただし、定積分のLは全道路リンクを示す。また、Cは定数を示し、道路リンク外のMM尤度W(x,y)が、道路リンク上のMM尤度W(x,y)よりも十分に低い値となるように設定する。道路リンク外の全領域に所定のMM尤度を与えることで、自車両が道路リンクから外れたルートを走行している場合でも、自車位置の存在確率分布の算出が可能となる。(6)式に従って、道路リンク外にある全てのグリッドについてMM尤度W(x,y)を算出する。これにより、地図情報の全グリッドについてMM尤度(W(x,y)またはW(x,y))が算出されたMM尤度分布が得られる。
【0037】
第1分布算出部26は、後述する第2分布算出部28で前タイムステップにおいて算出された自車位置の第2存在確率分布Pt−1(x,y)と、推測航法移動量分布算出部20で算出された移動量分布Pins(x,y)とを掛け合わせて、地図上の任意のグリッド座標(x,y)について、現タイムステップにおける自車位置の第1存在確率分布P(x,y)を、下記(7)式に従って算出する。
【0038】
【数6】

【0039】
ただし、t=0の時は、Pt−1(X)の代わりとして、GPS受信機からのデータなどで推定した測位結果に基づいた測位位置分布など、適当な分布を初期分布として用いことができる。
【0040】
第2分布算出部28は、第1分布算出部26で算出された自車位置の第1存在確率分布P(x,y)と、MM尤度分布算出部24で算出されたMM尤度W(x,y)とを掛け合わせて、下記(8)式に従って、自車位置の第2存在確率分布を算出する。
【0041】
【数7】

【0042】
MM尤度W(x,y)は、グリッド座標(x,y)が道路リンク上であれば、(5)式により得られるW(x,y)であり、グリッド座標(x,y)が道路リンク外であれば、(6)式により得られるW(x,y)である。このようにして得られた第2存在確率分布P(x,y)を自車位置の存在確率分布の推定結果として出力すると共に、第1分布算出部26へ出力する。
【0043】
次に、図3を参照して、第1の実施の形態の存在確率分布推定装置10において実行される存在確率分布推定処理ルーチンについて説明する。
【0044】
ステップ100で、ヨーレイトセンサ12で検出されたヨーレイトθobs、及び車速センサ14で検出された車速Vobsを取得する。
【0045】
次に、ステップ102で、上記ステップ100で取得したヨーレイトθobs、及び車速Vobs、並びにヨーレイトセンサ12及び車速センサ16の計測精度に基づいて予め求められた推定計測誤差σθ及びσと共に、(4)式に代入することにより、自車両の移動量分布を算出する。
【0046】
次に、ステップ104で、上記ステップ100で取得したヨーレイトθobs、及び車速Vobsの時系列データに基づいて、自車両の走行軌跡の形状を算出する。
【0047】
次に、ステップ106で、図4(a)に示すように、上記ステップ104で算出された走行軌跡の形状から自車位置を中心にMピクセル×Nピクセルの走行軌跡ウインドウを切り出す。また、地図情報から、ある道路リンク上のグリッド座標(x,y)を中心としてMピクセル×Nピクセルの道路リンクウインドウを切り出す。そして、切り出した走行軌跡ウインドウと道路リンクウインドウとを比較して、(5)式により、道路リンク上のグリッド座標(x,y)上のMM尤度W(x,y)を算出する(同図(b))。
【0048】
また、道路リンク外のグリッド座標(x,y)におけるMM尤度W(x,y)を、道路リンク上のグリッド座標(x,y)のMM尤度W(x,y)を用いて、(6)式に従って算出して、地図情報の全グリッドについてMM尤度が算出されたMM尤度分布を得る(同図(c))。
【0049】
次に、ステップ108で、前タイムステップにおいて算出された自車位置の第2存在確率分布Pt−1(x,y)と、上記ステップ102で算出された移動量分布Pins(x,y)とを掛け合わせて、地図上の任意のグリッド座標(x,y)について、現タイムステップにおける自車位置の第1存在確率分布P(x,y)を、(7)式に従って算出する。
【0050】
次に、ステップ110で、上記ステップ108で算出された自車位置の第1存在確率分布P(x,y)と、上記ステップ106で算出されたMM尤度W(x,y)とを掛け合わせて、(8)式に従って、自車位置の第2存在確率分布を算出する。本ステップで算出された第2存在確率分布は、次のタイムステップのステップ108で用いられる。
【0051】
次に、ステップ112で、上記ステップ110で算出された第2存在確率分布P(x,y)を自車位置の存在確率分布の推定結果として出力して、処理を終了する。
【0052】
以上説明したように、第1の実施の形態の存在確率分布推定装置によれば、センサの計測誤差を考慮した自車位置の第1存在確率分布と、道路リンク上のMM尤度及び道路リンク上のMM尤度より低い道路リンク外のMM尤度を地図情報のグリッド毎に算出したMM尤度分布とを掛け合わせた自車位置の第2存在確率分布を算出し、これを自車位置の存在確率分布の推定結果とすることにより、道路リンク外においてもマップマッチングの手法を適用して、誤差分布の拡大を抑制した存在確率分布を推定することができる。
【0053】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態の存在確率分布推定装置の構成において、第1の実施の形態の存在確率分布推定装置10と同一の構成については、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0054】
図5に示すように、第2の実施の形態に係る存在確率分布推定装置210は、ヨーレイトセンサ12と、車速センサ14と、GPS衛星からの衛星信号を受信して擬似距離データを出力するGPS受信機15と、地図DB16と、自車位置の存在確率分布を推定するコンピュータ218とを備えている。
【0055】
コンピュータ218を以下で説明する存在確率分布推定処理ルーチンに従って機能ブロックで表すと、図5に示すように、推測航法移動量分布算出部20と、推測航法軌跡算出部22と、MM尤度分布算出部24と、擬似距離データに基づいて、GPS測位位置分布を算出するGPS測位位置分布算出部30と、GPS測位位置分布及び前タイムステップの第2存在確率分布に基づいて、第3存在確率分布を算出する第3分布算出部32と、第3存在確率分布及び移動量分布に基づいて、第1存在確率分布を算出する第1分布算出部226と、第2分布算出部28とを含んだ構成で表すことができる。
【0056】
GPS測位位置分布算出部30は、GPS受信機15から出力された擬似距離データを取得し、受信位置を測位する。また、擬似距離の残差に基づいた正規分布を誤差分布として算出し、GPS測位位置分布を算出する。
【0057】
また、GPS測位位置分布算出部30は、GPS受信機15から出力された擬似距離データによる測位が可能な場合には、GPS測位位置分布を第3分布算出部32に出力し、遮蔽などによりGPS測位が不可能な場合、またはGPS測位の信頼度が所定値以下の場合には、GPS測位位置分布を出力しない。
【0058】
第3分布算出部32は、第2分布算出部28で前タイムステップにおいて算出された自車位置の第2存在確率分布Pt−1(x,y)と、GPS測位位置分布算出部30で算出されたGPS測位位置分布Pgps(x,y)とを掛け合わせて、地図上の任意のグリッド座標(x,y)について、現タイムステップにおける自車位置の第3存在確率分布P(x,y)を、下記(9)式に従って算出する。なお、GPS測位位置分布算出部30からのGPS測位位置分布の出力がなかった場合には、第3存在確率分布P(x,y)は、下記(10)式となる。
【0059】
【数8】

【0060】
第1分布算出部226は、第3分布算出部32で算出された自車位置の第3存在確率分布P(x,y)と、推測航法移動量分布算出部20で算出された移動量分布Pins(x,y)とを掛け合わせて、地図上の任意のグリッド座標(x,y)について、現タイムステップにおける自車位置の第1存在確率分布P(x,y)を、下記(11)式に従って算出する。
【0061】
【数9】

【0062】
次に、図6を参照して、第2の実施の形態の存在確率分布推定装置210において実行される存在確率分布推定処理ルーチンについて説明する。なお、第1の実施の形態の存在確率分布推定処理ルーチンと同一の処理については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0063】
ステップ200で、ヨーレイトセンサ12で検出されたヨーレイトθobs、及び車速センサ14で検出された車速Vobs、並びにGPS受信機15から出力された擬似距離データを取得する。
【0064】
次に、ステップ202で、上記ステップ200で取得した擬似距離データに基づいて、受信位置を測位する。また、擬似距離の残差に基づいた正規分布を誤差分布として算出し、GPS測位位置分布を算出する。なお、遮蔽などによりGPS測位が不可能な場合、またはGPS測位の信頼度が所定値以下の場合には、GPS測位位置分布を出力しない。
【0065】
次に、ステップ102で、自車両の移動量分布を算出し、次に、ステップ104で、自車両の走行軌跡の形状を算出し、次に、ステップ106で、MM尤度分布を算出する。
【0066】
次に、ステップ204で、前タイムステップにおいて算出された自車位置の第2存在確率分布Pt−1(x,y)と、上記ステップ202で算出されたGPS測位位置分布Pgps(x,y)とを掛け合わせて、地図上の任意のグリッド座標(x,y)について、現タイムステップにおける自車位置の第3存在確率分布P(x,y)を、(9)式に従って算出する。上記ステップ202でGPS測位位置分布が出力されていない場合には、(10)式に従って自車位置の第3存在確率分布P(x,y)を算出する。
【0067】
次に、ステップ206で、上記ステップ204で算出された自車位置の第3存在確率分布P(x,y)と、上記ステップ102で算出された移動量分布Pins(x,y)とを掛け合わせて、地図上の任意のグリッド座標(x,y)について、現タイムステップにおける自車位置の第1存在確率分布P(x,y)を、(11)式に従って算出する。
【0068】
次に、ステップ110で、上記ステップ206で算出された自車位置の第1存在確率分布P(x,y)と、上記ステップ106で算出されたMM尤度W(x,y)とを掛け合わせて、(8)式に従って、自車位置の第2存在確率分布を算出する。本ステップで算出された第2存在確率分布は、次のタイムステップのステップ204で用いられる。
【0069】
次に、ステップ112で、上記ステップ110で算出された第2存在確率分布P(x,y)を自車位置の存在確率分布の推定結果として出力して、処理を終了する。
【0070】
以上説明したように、第2の実施の形態の存在確率分布推定装置によれば、GPS測位位置分布も用いることで、より精度良く存在確率分布を推定することができる。
【0071】
なお、上記第1及び第2の実施の形態では、道路リンク外のMM尤度として、道路リンクからの距離が離れるほど低くなるようなMM尤度((6)式)を算出する場合について説明したが、この場合に限定されず、道路リンク上のMM尤度より、道路リンク外のMM尤度の方が低くなるような尤度であればよい。
【符号の説明】
【0072】
10、210 存在確率分布推定装置
12 ヨーレイトセンサ
14 車速センサ
15 GPS受信機
16 車速センサ
18、218 コンピュータ
20 推測航法移動量分布算出部
22 推測航法軌跡算出部
24 尤度分布算出部
26、226 第1分布算出部
28 第2分布算出部
30 GPS測位位置分布算出部
32 第3分布算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の運動状態を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された移動体の運動状態に基づいて、前記移動体の移動軌跡を算出する軌跡算出手段と、
道路情報を含む地図を複数に区画した領域毎の道路情報の確からしさを示す尤度の分布であって、前記尤度を、前記領域が前記道路情報の示す道路上に相当する場合には、前記道路情報と前記軌跡算出手段により算出された移動軌跡とのマップマッチングにより算出した第1尤度、前記領域が前記道路情報の示す道路外に相当する場合には、前記第1尤度より低い第2尤度とした分布を算出する尤度分布算出手段と、
前記検出手段により検出された移動体の運動状態、及び過去に推定された前記領域毎の移動体の存在確率分布に基づいて、前記領域毎の移動体の第1存在確率分を算出する第1分布算出手段と、
前記尤度分布算出手段により算出された尤度の分布、及び前記第1分布算出手段により算出された第1存在確率分布に基づいて、前記領域毎の移動体の第2存在確率を算出し、該第2存在確率分布を、現在の前記領域毎の移動体の存在確率分布として推定する第2分布算出手段と、
を含む存在確率分布推定装置。
【請求項2】
コンピュータを、
移動体の運動状態を検出する検出手段により検出された移動体の運動状態に基づいて、前記移動体の移動軌跡を算出する軌跡算出手段、
道路情報を含む地図を複数に区画した領域毎の道路情報の確からしさを示す尤度の分布であって、前記尤度を、前記領域が前記道路情報の示す道路上に相当する場合には、前記道路情報と前記軌跡算出手段により算出された移動軌跡とのマップマッチングにより算出した第1尤度、前記領域が前記道路情報の示す道路外に相当する場合には、前記第1尤度より低い第2尤度とした分布を算出する尤度分布算出手段、
前記検出手段により検出された移動体の運動状態、及び過去に推定された前記領域毎の移動体の存在確率分布に基づいて、前記領域毎の移動体の第1存在確率分を算出する第1分布算出手段、及び
前記尤度分布算出手段により算出された尤度の分布、及び前記第1分布算出手段により算出された第1存在確率分布に基づいて、前記領域毎の移動体の第2存在確率を算出し、該第2存在確率分布を、現在の前記領域毎の移動体の存在確率分布として推定する第2分布算出手段
として機能させるための存在確率分布推定プログラム。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−233801(P2012−233801A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102916(P2011−102916)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】