説明

安全運転促進システム

【課題】運転者の危機感を喚起し、重大な被害をもたらす、衝突の危険度の高い、運転行動は、自粛しよう、という運転者の意識を高められるようにする。
【解決手段】前記車間距離と前記停止距離とから自車両がターゲットと衝突する可能性を示す指標として衝突可能性指数を求める手段21と、前記自車両と前記ターゲットとの衝突によって生じると予測される被害度を示す指標として衝突直前の自車両の運動エネルギを求める手段22と、前記衝突可能性指数および前記運動エネルギ値に基づいて衝突のリスクおよび衝突時に予測される被害を自車両の運転室に警報する手段(23,12)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、安全運転促進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の安全運転に係る、従来のシステムにおいては、先行車と自車両との車間距離を検出して適宜警報を行うものや、自車両の運転走行状態(運転行動)の記録から評価データを作成して運転者毎に通知して危険運転の自制を促すというものがある(特許文献、参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−076632号公報
【特許文献2】特開平06−162396号公報
【特許文献3】特開平06−075048号公報
【特許文献4】特許公表平09−501784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のシステムにおいては、車両走行中の警報や運転者に対する運転技量の評価や注意点は与えられるものの、運転者の抱える様々な事情やそれらに伴う必要性・緊急性などから、軽視されやすく、安全運転の促進に直結しにくい、という不具合が考えられる。
【0005】
この発明は、このような不具合を想定してなされたものであり、衝突の危険度の高い、運転行動は、自粛しようという、運転者の意識を高められるシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、安全運転促進システムにおいて、自車両と自車両の前方に存在する先行車などターゲットとの車間距離を求める手段と、自車両の停止距離を求める手段と、前記車間距離と前記停止距離とから自車両がターゲットと衝突する可能性を示す指標として衝突可能性指数を求める手段と、前記自車両と前記ターゲットとの衝突によって生じると予測される被害度を示す指標として衝突直前の自車両の運動エネルギを求める手段と、前記衝突可能性指数および前記運動エネルギ値に基づいて衝突のリスクおよび衝突時に予測される被害を自車両の運転室に警報する手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記衝突可能性指数が所定値以上になると所定値以上の衝突可能性指数が継続する時間を計測する手段と、前記衝突可能性指数および前記継続時間に基づいて運転者の疲労度など負荷の判定を行う手段と、その判定結果に基づいて車両の停止および運転者の休息を促す警報の出力を制御する手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、前記衝突可能性指数および前記運動エネルギ値を含む自車両の運転走行データを自車両の搭載メモリに格納する手段と、その格納データに基づいて衝突可能性指数および前記運動エネルギ値を用いてリスク評価マップを作成する手段と、リスク評価マップを自車両の運転室に表示する手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
第4の発明は、第1の発明〜第3の発明の何れか1つにおいて、データベースを構築する外部記憶装置と、前記衝突可能性指数および前記運動エネルギ値を含む自車両の運転走行データを前記外部記憶装置に蓄積するべくデータベースへ送信手段と、リスク評価マップの提供を前記データマップへ要求する手段と、その要求を受けると前記外部記憶装置の蓄積データに基づいてデータベース上で衝突可能性指数および前記運動エネルギ値を用いて要求に対応するリスク評価マップを作成する手段と、このリスク評価マップを要求の発信先へ送信する手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
第5の発明は、第3の発明または第4の発明において、前記リスク評価マップは、衝突可能性指数および運動エネルギ値をパラメータとする2軸の座標系で表されるグラフであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明においては、衝突可能性指数に基づいて、自車両の進行方向の前方に存在するターゲットに対する自車両の衝突可能性を運転室に警報することができるばかりでなく、衝突直前の運動エネルギ値に基づいて、衝突時に想定される被害度(被害の程度)を警報することができる。このため、運転者へ安全運転の重要性を強くアピールすることが可能となる。つまり、運転者の危機感が喚起され、重大な被害をもたらす衝突の危険度の高い運転行動は、自粛しようという意識を運転者に持たせることができる。
【0012】
第2の発明においては、衝突可能性指数および所定値以上の衝突可能性指数が継続する時間に基づいて、自車両の運転者の負荷(運転疲労度など)が推定され、負荷が大きいと判断すると、車両の停止や運転者の休息を促す警報が発生するため、衝突の危険度の高い運転行動のストレスに原因する衝突事故の発生を防止することができる。
【0013】
第3の発明においては、自車両の搭載メモリの格納データに基づいて衝突可能性指数および前記運動エネルギ値をパラメータとして作成されるリスク評価マップが運転室に表示されるため、このリスク評価マップにより、運転者は、自己の運転行動の危険度を随時に確認することが可能となる。
【0014】
第4の発明においては、要求を受けると前記外部記憶装置の蓄積データに基づいてデータベース上で衝突可能性指数および前記運動エネルギ値をパラメータとして要求に対応するリスク評価マップが作成され、要求の発信先へ提供(送信)されるので、要求の発信先において、データベースから提供されるリスク評価マップを安全運転の促進に有効利用することが可能となる。例えば、このリスク評価マップと、自車両の搭載メモリの格納データに基づいて衝突可能性指数および前記運動エネルギ値をパラメータとして作成されるリスク評価マップと、の比較によって運転行動の詳細な分析も可能となる。
【0015】
第5の発明においては、グラフの2軸の座標系上で衝突の危険度は衝突可能性指数と運動エネルギ値との関数としてプロットされるので、プロットの分布状態からそのときの運転行動の特性(傾向)が容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両搭載設備を説明する概要構成図である。
【図2】車載搭載設備で行われる制御内容を説明するフローチャートである。
【図3】同じく制御内容を説明するフローチャートである。
【図4】同じく制御内容を説明するフローチャートである。
【図5】同じく制御内容を説明するフローチャートである。
【図6】リスト評価マップを例示する説明図である。
【図7】同じくリスト評価マップを例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態を説明する。
【0018】
この発明に係る安全運転促進システムは、車両の運行管理を行う設備(運行管理設備)と、運行管理の対象となる車両に搭載される設備(車両搭載設備)と、これら設備と相互にデータ(情報)の送受信可能なデータベースを構築する外部記憶装置(図示せず)と、から構成される。
【0019】
運行管理設備(図示せず)においては、車両搭載設備から後述のライブ通信を受信すると、ライブ通信の内容(データ)を記憶する処理と、ライブ通信の内容に対応するメッセージ(指示や命令)データを作成する処理と、これを車両搭載設備へ送信する処理と、が行われる。また、データベースに対する情報の提供要求が操作入力されると、これに対応する送信データ要求信号)を作成する処理と、その信号をデータベースへ送信する処理と、これに応答する情報の提供を受信すると、そのデータを情報表示装置(モニタ)やプリンタへ出力する処理と、が行われる。
【0020】
図1は、車両に搭載される設備(車両搭載設備)の概要構成を示すものであり、計算処理装置11と、情報表示装置12(モニタ)および操作盤13と、運行管理設備および外部記憶装置のデータベースとの間で情報(データ)の送受信を行う通信装置14と、車両(自車両)の運転走行状態を検出する各種手段15と、を備える。通信装置14の入出力処理回路と、計算処理装置11の入出力処理回路と、は通信回線によって接続される。各種手段15は、計算処理装置11の入力処理回路16とCANデータバスを介して接続される。
【0021】
各種手段15は、車両(自車両)の位置情報を取得するGPS(Global Positioning System)アンテナ装置17と、自車両の進行方向の前方に存在するターゲット(先行車や歩行者を含む前方監視対象物)との車間距離を計測する装置18と、車両の各種検出装置(車速センサ、アクセル開度センサ、等を配線するCANデータバス)19と、自車両の質量推定計測装置20と、を備える。
【0022】
自車両の質量推定計測装置20は、例えば、車両のサスペンションスプリングの撓み量からバネ上質量を求め、これにバネ下質量(固定値)を加えることにより、車両質量mを推定する。あるいは、車両が平坦路を加速走行時の、エンジン回転速度の検出値とエンジントルクの検出値とから車両駆動力Fを求め、車速の検出値から車両加速度αを求め、運動方程式F=α・mから車両の推定質量mを計算する。
【0023】
計算処理装置11は、ターゲットとの衝突に至る可能性を示す指標として衝突可能性指数CPI(Collision Prone Index) を計算する手段21と、ターゲットとの衝突によって生じる被害の程度(被害度)を示す指標として衝突直前の自車両の運動エネルギ値KE(Kinetic Energy)を計算する手段22と、衝突可能性指数CPIおよび運動エネルギ値KEに基づき、データベース(図示せず)から取得される走行環境情報を絡め、リスク(衝突の可能性および衝突によって生じる被害度)を予測する手段23と、を備える。
【0024】
衝突可能性指数CPIの計算手段21において、CPIは、自車両とターゲットとの車間距離Dhwに対する自車両の停止距離Dstの比(CPI=Dst/Dhw)として定義される。自車両の停止距離Dstは、下記式で与えられる。
【0025】
Dst=Vf・Tr+Vf2/(2・μ・g)
【0026】
Vfは自車両の車速、Trは自車両の運転者の反応時間、μは自車両のタイヤ-路面間の摩擦係数、gは重力加速度、を示す。
【0027】
Dstは、例えば、ターゲットがその場で停止するイベントの発生時点から、これに気づいて運転者がブレーキペダルを踏み込み、急減速させる場合(理想ブレーキ状態とする)に想定される自車両の停止距離を示すものである。CPIが1.0を超えると、Dst>Dhwとなり、急減速をもって対処しても、衝突が発生することを意味する。
【0028】
Vfは自車両の車速の検出値、Tr、μ、gは、固定値(設定値)が用いられる。Tr、μについては、適宜な手法によって求められる実測値を使用することも考えられる。
【0029】
運転エネルギ値KEの計算手段22において、KEは、自車両の質量をm、衝突直前の自車両の車速をVcとすれば、KE=m・Vc2/2として定義される。ただし、CPIが1.0未満の場合は、運動エネルギ値KEはゼロとする。Vcは、自車両とターゲットとの車間距離をDhw、自車両の運転者の反応時間をTr、自車両の車速値をVf、自車両のタイヤ-路面間の摩擦係数をμとすれば、の下記式で与えられる。
【0030】
Vc={−2μg(Dhw−Vf・Tr)+Vf21/2
【0031】
リスクの予測手段23においては、GPSアンテナ装置17からの信号に基づいて自車両の位置(走行区間)およびその走行環境情報(例えば、交通量、交差点の有無、歩行者の数)が検出およびデータベース上で調査され、衝突可能性指数CPIおよび運動エネルギ値KEに基づいて、衝突の可能性(イベントの発生確率を含む)および衝突によって生じる被害度が具体的に予測される。その予測内容は、衝突の危険度(CPIおよびKE)が所定レベル以上になると、運転室の情報表示装置12へ出力され、文字表示と共に音声出力をもって警報するようになっている。
【0032】
計算処理装置21は、衝突可能性指数CPIが1.0(所定値)以上になるとCPI≧1.0が継続する時間CPItを計測する手段と、CPIおよびCPItに基づいて運転者の疲労度(運転疲労度)や運転集中力の低下を推定する手段と、これらの推定結果が所定レベル以上になると車両の停止および運転者の休息を促す警報を文字表示と共に音声出力をもって発生すべく情報表示装置12を制御する手段と、を備える。
【0033】
CPIの計算値、KEの計算値、CPItの計測値は、運転走行状態の必要な検出値を含めて車両搭載設備のメモリに随時記憶される。
【0034】
車両搭載設備においては、要求(自車両の運転行動パターンのチェック要求)が発生すると、メモリの蓄積データを用いて、リスト評価マップを情報表示装置12の画面に表示する手段と、要求(過去の一部または全体の運転行動パターンのチェック要求)が発生すると、データベースから提供されるリスト評価マップを情報表示装置12の画面に表示する手段と、これら(自車両のメモリの蓄積データに基づくリスト評価マップと、データベースから提供されるリスト評価マップと、の2つ)を比較しやすく情報表示装置12の画面に表示する手段と、が備えられる。各種の要求は、情報表示装置12の操作盤13を所定の入力パターンに従って操作すると発生する。
【0035】
車両搭載設備のメモリにおいては、既述の運転行動パターンに関する運転走行データのほか、衝突の危険度の高い運転行動にあるかどうかを判定するための基準値(CPIと比較される判定基準値、CPItと比較される判定基準値、KEと比較される判定基準値)、運行管理上直ちに対処すべき運転行動を監視・判定を行うためのライブ通報条件、運転走行データのデータベースへの送信条件、等が設定される。
【0036】
車両搭載設備においては、データベースへの送信条件の成立時にメモリの格納データ(CPIやKEを含む運行走行データ)をデータベースへ送信すべく制御する手段が備えられる。これらの送信データは、車両の識別符号、運転者の識別符号、走行区間の識別符号、車両質量の識別符号、等データベースの管理システム上、必要なキーワードを付けてデータベースへ送信される。
【0037】
データベースにおいては、車両搭載設備からの運行走行データがデータベース上の管理システムに従って格納される。車両搭載設備や運行管理設備から情報の提供を要求されると、蓄積データを用いて要求に対応する情報データを作成して要求の発信先へ送信する。
【0038】
例えば、運行管理設備から、ある運転者の、ある走行区間の、リスク評価マップと、これと比較される標準的なリスト評価マップと、の提供が要求されると、これらの要求に対応するリスト評価マップを作成し、その作成データを運行管理設備へ送信する。
【0039】
運行管理設備においては、車両搭載設備からのライブ通報を受信するとその通報内容(情報)に基づいて運行管理上の問題を分析する手段と、その結果を記憶すると共にそのデータに対応する指示をライブ通報の発信先の車両搭載設備へ送信する手段と、が備えられる。
【0040】
このようなシステムにおいては、車両搭載設備により、CPIに基づいて、自車両の進行方向の前方に存在するターゲットに対する自車両の衝突可能性を自車両の運転者に警報することができるばかりでなく、KEに基づいて、衝突時に想定される被害度(被害の程度)を具体的に警報することができる。そのため、運転者へ安全運転の重要性を強くアピールすることが可能となる。つまり、運転者の危機感が喚起され、重大な被害をもたらす衝突の危険度の高い運転行動は、自粛しよう、という運転者の意識を高めることができる。
【0041】
車両搭載設備においては、CPIおよびCPItに基づいて、自車両の運転者の負荷(運転疲労度や運転集中度)が推定され、負荷が大きいと判断すると、車両の停止および運転者の休息を促す警報が発生するため、衝突の危険度の高い運転行動の継続によってもたらされるストレスに原因する衝突事故の発生を防止することができる。
【0042】
車両搭載設備においても、リスク評価マップの表示により、例えば、運転者は、情報表示装置12の操作盤13を入力操作することにより、車両運行の終了時に一日の自己の運転行動を、標準的な比較マップを参照しながら、チェックしたりすることも可能となる。
【0043】
リスト評価マップについては、平面上の直交する2軸の座標系で表されるグラフにおいて、衝突可能性指数CPIの計算値および運動エネルギ値KEの計算値が随時プロットされる(図6,図7、参照)。これにより、運行管理者や運転者は、座標系上の各プロット(各点の位置)から、その点における、衝突の可能性およびその際に想定される被害度の大きさをチェックしたり、プロットの分布状態から、運転行動の傾向(特性)をチェックしたりすることが可能となる。車両搭載設備のメモリに格納される蓄積データに基づくリスク評価マップについては、情報表示装置12の操作盤13の入力操作に拠らず、情報表示装置12の画面に随時表示されるものとする。
【0044】
図6は、ある運転走行条件下における、全体のリスク評価マップを表すものであり、図7は、図6と異なる別の運転走行条件下における、全体のリスク評価マップを表すものである。
【0045】
図6において、太線Laは、ある運行の中で衝突の可能性が高いCPI>1のプロットされた点群について CPI=1(停止距離と車間距離が等しい点)を原点として引かれた直線であり、リスクのある運転についての分布状態の傾向を示している。細線Ldは、ある運行全体についてプロットされた点群についての分布状態の傾向を示す直線である。x軸との交差角(傾き角)θは、運転中の車間距離の保ち方に対しての衝突した際の被害の大きさを示す為、交差角が大きいということは、仮に車間距離から見た衝突の可能性CPIが低くても衝突の被害が大きくなる事を示すという特性がある。CPI=1を原点としプロットされた点群を包括する円弧を描くと、その円弧の半径が大きいほど衝突の可能性CPIと衝突直前の運動エネルギKE(換言すれば衝突被害度と考えられる値)は大きくなる事を示している。また、この図のプロットされた点列を水平に見ると、衝突直前の運動エネルギKEは変わらないのにCPIが大きく変化していることを示している。これは走行中の車両の速度は変わらず、車間距離が大きく変化していることを表している。それに対して、この図のプロットされた点列を垂直方向に見ると、衝突の可能性CPIは変わらないのに衝突直前の運動エネルギKEは大きく変化していること示している。これは、走行車速が低くても高くても同じ車間距離を保ちながら走行していることを表している。
【0046】
図7において、細線Ldの特性を持つ運転者は、x軸との交差角(傾き角)θが小さく、CPI=1を原点として引かれたプロット点を包括する円弧も比較的小さいという傾向を持っていることがわかる。運行の中で発生している最大のCPIの値に対して衝突直前の運動エネルギ値が低いという特徴から、図6に比べて衝突の可能性が低いといえるほどでは無いが、仮に衝突事故が発生したとしても、その際に発生する衝突エネルギは小さいという事を表している。図7において、KEが低いところ(この図7ではCPI=1.9程度)で水平になっていることから、この運転者は速度を維持しながら走行していることが把握できる。このように運行結果をプロットした図を見ることによって、運転者がどのような運転行動を取る傾向にあるかを読み取ることができる。
【0047】
このように、リスク評価マップにおいては、プロットの分布状態の密集帯を通ってこれに沿って延びる直線の長さと、その傾き角(x軸との交差角)と、から運転行動の危険度(リスク)を評価することができる。
【0048】
図6のリスト評価マップと、図7のリスク評価マップと、が運転者を除く、他の運転走行条件が同一であると仮定すると、プロットの分布状態の傾向から、リスク評価マップ(図7、参照)の持ち主(運転者)は、リスク評価マップ(図6、参照)の持ち主(運転者)と比較すると、プロットの分布状態の密集帯を通ってこれに沿って延びる直線の長さが短く、その傾き角(x軸との交差角)が小さいので、運転行動の危険度が低い、という評価を与えることができる。つまり、図6のリスト評価マップの持ち主は、図7のリスク評価マップの持ち主に較べると、運転行動の危険度が高い、と評価することができる。
【0049】
運行管理設備においては、リスト評価マップの、直線(2軸の座標系において、プロットの分布状態の密集帯を通ってこれに沿って延びる直線)の長さとその傾き角との関数を指標としてリスク評価を処理する手段、を設定することも考えられる。
【0050】
図2および図3は、車両搭載設備で行われる制御内容を説明するメインフローである。A〜Eは、制御処理の繋がり(接続)を表示する符号である。
【0051】
車両のイグニッションスイッチのオンにより、S1において、システムのオンと共にメモリの蓄積データの初期化(イニシャライズ)が行われる。S1においては、前回のデータ(CPI、CPIt、GPSアンテナ信号に基づく自車両の位置、車速の検出値、車間距離の計測値、車両質量の推定値、など)が消去される。S2においては、車両CANデータバスおよび車両質量推定計測装置、などの故障診断が行われる。
【0052】
S2の判定がOKのときは、S3において、システムの稼働「OK」を運転室の前部に配置される表示盤に表示する。S2の判定がNGのときは、S28、S29→S24、S25へ進む。S4においては、ライブ通報がリセットかどうかを判定する。ライブ通報は、システムのオン時においては、リセットに初期化される。
【0053】
S4の判定がyesのときは、S6において、ライブ通報をリセット状態に保つ。S4の判定がnoのときは、S6へ飛ぶ。S6においては、自車両の運転行動を監視するのに必要な情報(GPSアンテナ信号に基づく自車両の位置、車速の検出値、車間距離の計測値、車両質量の推定値、など)を取得する。
【0054】
S7においては、CPIを計算する。S7においては、CPIを「1」と比較する。S7の比較において、CPI≧1のときは、S10へ進み、CPI<1のときは、S9において、自車両の進行方向の前方に存在するターゲットとの衝突の可能性がないと判定され、S6へ戻る。
【0055】
S10においては、CPI≧1の継続時間CPItを計測(カウントアップ)する。CPItは、自車両の位置(走行区間)に応じて設定する。そのため、S11において、自車両の現在の走行区間(運行区間)に対応するCPItの提供をデータベースへ求め、S10において、そのCPItを車両搭載設備のメモリに設定する、という処理が随時に行われる。
【0056】
S12においては、KEを計算する。S13においては、自車両の現在の走行区間(運行区間)に対応する走行環境情報の検索を求め、KEに基づいて検索情報を絡め、被害度の具体的な予測データの提供をデータベースへ求める、という処理が随時に行われる。
【0057】
S14においては、運転者の疲労度や集中力低下を判定するため、CPItを基準値CPItEと比較する。CPItEについては、自車両の現在の走行区間(運行区間)に対応するCPItEの提供をデータベースへ求め、S14において、CPItとの比較に用いるCPItEとして車両搭載設備のメモリに設定する、という処理が随時に行われる。
【0058】
S14において、CPIt≧CPItEのときは、S15において、CPIが高い状態が長時間継続する運転状態にあり、運転者の疲労度や集中力の低下も大きいと判断され、車両の停止・運転者の休息を促す警報を発生させる。
【0059】
例えば、「高い運転ストレス状態が続いています。事故発生の危険性が高くなっていますので、速やかに車を停めて休憩してください」とアナウンスされる。
【0060】
S14において、CPIt<CPItEのときは、S16へ進み、CPIを基準値CPIcEと比較する。CPItEについても、自車両の現在の走行区間(運行区間)に対応するCPIcEの提供をデータベースへ求め、S14において、CPIとの比較に用いるCPIcEとして車両搭載設備のメモリに設定する、という処理が随時に行われる。
【0061】
S16において、CPI≧CPIcEのときは、S17において、衝突の可能性が極めて高く、車間距離を拡げるように促す警報を発生させる。
【0062】
例えば、「前方の車両に接近し過ぎています。車間距離を開けてください。現在の走行環境においては、衝突に至る発生確率は、85%です。交通量や歩行者数を考慮すると、衝突によって想定される被害の程度は、○○××です。直ちに車間距離を開けて走行してください」とアナウンスされる。
【0063】
S16において、CPI<CPIcEのときは、S18へ進む。なお、S14において、CPIt≧CPItEのときは、車両の停止・運転者の休息を促す警報に加え、S16において、CPI≧CPIcEのときは、車間距離を拡げるように促す警報が発生することになる。
【0064】
S18においては、ライブ通報条件を満たすかどうかの判定に用いられる要因情報を整える処理を行う。要因情報は、自車両の車速、自車両の加速度、自車両のCPI、自車両のCPIt、CPI最大値、路面摩擦係数、等が用いられる。自車両の加速度は、自車両の車速から計算される。路面摩擦係数は、例えば、進行方向の前方の自車両近く路面へ所定の角度をもってレーザを照射してその反射波の強弱から路面の凹凸を検知することによって推定される。
【0065】
S19においては、CPIやKEを含む運行走行データが車両の識別符号、運転者の識別符号、等の管理システム上、必要なキーワードを付けて送信可能な状態にあるかどうかを判定する。
【0066】
S19の判定がyesのときは、S20へ進む一方、S19の判定がnoのときは、S27へ進み、ライブ通報のリセット指示を入力する。
【0067】
S20においては、データベースへの送信条件(バッチ処理条件)を満たすかどうかを判定する。S20の判定がyesのときは、S21において、データベースへCPIやKEを含む運行走行データを送信する。S20の判定がnoのときは、S22へ飛ぶ(S21の処理はパスされる)。S21においては、データベースへのCPIやKEを含む運行走行データがEへ取り出され、Eの接続先の処理によってリスク評価マップ上にCPIおよびKEがプロットされる。
【0068】
Eの接続先の処理においては、情報表示装置12の操作盤13の入力操作により、車両搭載設備のメモリの蓄積データに基づくリスク評価マップやデータベースの蓄積データに基づくリスク評価マップ情報表示装置12の画面に表示可能となるほか、車両搭載設備のメモリの蓄積データに基づくリスク評価マップについては、情報表示装置12の画面に随時表示されることになる。
【0069】
S22においては、運行管理設備へライブ通報すべきか否かを判定する。S22の判定がyesのときは、S24〜S26が行われ、S22の判定がnoのときは、S24〜S26の処理がパスされ、Aへリターンする。
【0070】
S24においては、ライブ通報をセットする。S25においては、運転行動に運行管理上の問題があることを警報すべく情報表示装置12を制御する。S26においては、運行管理設備へライブ通報条件に該当する運行走行データを送信する。
【0071】
S2において、故障診断結果がNGのときは、S28において、故障診断結果が「NG」であること共に故障原因を示す故障コードを運転室の前部に配置される表示盤に表示する。ついで、S29において、ライブ通報をセットし、S25およびS26において、故障診断結果に係る処理を実行する。
【0072】
図4は、CPIの計算処理(図のS7で行われる)を説明するサブフローである。
【0073】
S41においては、運転者の反応時間Trを取得する。Trは、既述のように自車両のメモリの設定値(固定値)を用いるが、例えば、運転中において、ターゲットとしての先行車のストップランプを検知する手段と、ブレーキペダルの踏み込みを検出する手段と、を備え、先行車のストップランプの点灯時点とブレーキペダルの踏み込み時点との時間差を計測することにより、その計測値をTrとして用いることも考えられる。
【0074】
S42においては、タイヤ-路面間の摩擦係数μを取得する。μは、Trと同様にメモリの設定値(固定値)が用いられるが、既述のように路面摩擦係数を検出することにより、その値から推定しても良い。S43においては、自車両の車速Vfを取得する。Vfは、車速センサの検出値が用いられる。
【0075】
S44においては、ターゲットとの車間距離Dhwを取得する。Dhwは、車間距離計測装置の計測値が用いられる。S45においては、車両の停止距離Dst=Vf・Tr+Vf2/(2・μ・g)を計算する。g(重力加速度)は、既述のようにメモリの設定値(固定値)を用いる。S46およびS47においては、CPI=Dst/Dhwを計算することにより、衝突可能性指数CPIを求める。
【0076】
図5は、KEの計算処理(図のS12で行われる)を説明するサブフローである。
【0077】
S51においては、タイヤ-路面間の摩擦係数μを取得する。S52においては、ターゲットとの車間距離Dhwを取得する。S53においては、自車両の車速Vf(衝突直前の車速Vcに対して現在の車速と定義する)を取得する。S54においては、車両質量mを取得する。S55においては、運転者の反応時間Trを取得する。ここで、Tr、μ、Vf、Dhwは、前記と同様の手法によって取得される。mは、車両質量推定計測装置20の推定計測値が用いられる。
【0078】
S56においては、衝突直前の車速Vc={−2μg(Dhw−Vf・Tr)+Vf21/2を計算する。S57においては、E=m・Vc2/2を計算することにより、衝突直前の運動エネルギ値KEを求める。S58においては、CPIを「1」と比較する。S58の比較において、CPI≦1のときは、S59へ進み、S58の計算値Eを0(衝突直前の運動エネルギ値KE=0)とする。
【0079】
この実施形態においては、衝突可能性指数としてCPIを用いるが、KE(衝突直前の運転エネルギ値)を用いれば、CPIの代わりにTTC(Time To Collision)を用いてもよい。TTCは、自車両の進行方向の前方に存在するターゲットと自車両との相対速度が現在のまま推移すると仮定すると、衝突へ至るまでに後、どのぐらいの時間があるか、を表すものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
この発明に係る安全運転促進システムは、電車など軌道上を走行する車両へも適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
11 計算処理装置
12 情報表示装置
15 運転走行状態の検出手段
18 車間距離計測装置
21 衝突可能性指数の計算手段
22 衝突直前の運動エネルギの計算手段
23 リスクの予測手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両と自車両の前方に存在する先行車を含むターゲットとの車間距離を求める手段と、自車両の停止距離を求める手段と、前記車間距離と前記停止距離とから自車両がターゲットと衝突する可能性を示す指標として衝突可能性指数を求める手段と、前記自車両と前記ターゲットとの衝突によって生じると予測される被害度を示す指標として衝突直前の自車両の運動エネルギを求める手段と、前記衝突可能性指数および前記運動エネルギ値に基づいて衝突のリスクおよび衝突時に予測される被害を自車両の運転室に警報する手段と、を備えることを特徴とする安全運転促進システム。
【請求項2】
前記衝突可能性指数が所定値以上になると所定値以上の衝突可能性指数が継続する時間を計測する手段と、前記衝突可能性指数および前記継続時間に基づいて運転者の疲労度など負荷の判定を行う手段と、その判定結果に基づいて車両の停止および運転者の休息を促す警報の出力を制御する手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の安全運転促進システム。
【請求項3】
前記衝突可能性指数および前記運動エネルギ値を含む自車両の運転走行データを格納する手段と、その格納データに基づいて衝突可能性指数および前記運動エネルギ値を用いてリスク評価マップを作成する手段と、リスク評価マップを自車両の運転室に表示する手段と、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の安全運転促進システム。
【請求項4】
データベースを構築する外部記憶装置と、前記衝突可能性指数および前記運動エネルギ値を含む自車両の運転走行データを前記外部記憶装置に蓄積するべくデータベースへ送信手段と、リスク評価マップの提供を前記データマップへ要求する手段と、その要求を受けると前記外部記憶装置の蓄積データに基づいてデータベース上で衝突可能性指数および前記運動エネルギ値を用いて要求に対応するリスク評価マップを作成する手段と、このリスク評価マップを要求の発信先へ送信する手段と、を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の安全運転促進装置。
【請求項5】
前記リスク評価マップは、衝突可能性指数および運動エネルギ値をパラメータとする2軸の座標系で表されるグラフであることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の安全運転促進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−191849(P2011−191849A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55508(P2010−55508)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【出願人】(500372717)学校法人福岡工業大学 (32)
【Fターム(参考)】