説明

安全運転支援装置及び安全運転支援方法

【課題】空走時間を短くして、より安全な車両の制御を可能にする安全運転支援装置等を提供する。
【解決手段】車両に搭載される安全運転支援装置は、車両を運転する運転者の脳波信号を計測する脳波計測部と、運転者の視野範囲をセンシングするセンシング部とセンシング部が取得した運転者の視野範囲において、移動する物体を検出する物体検出部と、物体が検出されたタイミングを起点として予め定められる脳波特徴区間における脳波信号の事象関連電位の特徴成分の値と、予め定められた閾値とを比較し、比較した結果に基づいて運転者が危険を認知しているか否かを判別する危険判別部と、判別結果が、運転者が危険を認知していないことを示しているときは、車両を制御するための制御信号を出力する出力部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を制御する車両制御装置及び車両制御方法に関する。より具体的には、本発明は、ユーザの脳波を計測し、事象が発生した際のユーザの危険認知の反応を判別して衝突回避の制御を作動させる、安全運転を支援するための装置、方法、およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に関連する衝突を回避する機能が開発されてきている。そのような機能は、ABS(Antilock Brake System)等のブレーキの制御を含んでいる。
【0003】
例えば、車両に備えられたレーダやカメラにより、歩行者や他車両などの障害物を検知し、車両と障害物との衝突回避を行うプリクラッシュセーフティシステムの開発が進められている。より具体的に説明すると、プリクラッシュセーフティシステムは、検知した歩行者や他車両などの障害物と、車両との衝突危険度を算出する。このシステムは、衝突危険度に基づいて車両が障害物に衝突する危険性が高いと判断した場合には、運転者の意思にかかわらずブレーキ制御等を自動的に発動させて、事故を回避することを可能としている。
【0004】
特許文献1は、衝突危険度を算出して自車を自動制御する装置を開示している。特許文献1によれば、車の前方にカメラが備えられ、装置はそのカメラを用いて自車と障害物との距離及び相対速度を検出する。当該装置は障害物との距離及び相対速度の値から接触の可能性を判断し、自動的に各車輪のブレーキをかける。
【0005】
自車と障害物との距離を相対速度で除した値はTTC(Time To Collision)と呼ばれている。自動車業界では、障害物接近の危険を示す一つの指標として、一般的に利用されている。TTCの値と閾値とを比較して、TTCが閾値を下回った場合には、自動ブレーキを発動させて衝突事故を回避する。
【0006】
上記TTCを利用して、特許文献1では、自車の車速に応じて閾値を設定する手法が提案されている。速度が遅い方が、速い場合に比べて衝突時の衝撃も小さく、危険性は少ない。しかしその反面、車間距離を充分に確保することができないため、閾値は小さく設定される。設定される閾値の例としては、時速80kmを上回る場合には閾値1.2が、時速80kmを下回る場合には、閾値0.8が設定される。例えば、市街地等において自車が時速40kmで走行している場合を考える。歩行者や前方車に対するTTCが0.8を下回ると、自動ブレーキが発動される。TTCが0.8を下回る状況では、このままブレーキを踏まなければ自車は0.8秒後に前方の人や車両に衝突する。逆に、高速道路等において自車が時速100kmで走行しており、前方車が急に停止した場合、前方車対するTTCが1.2を下回るときに、自動ブレーキが発動される。TTCが1.2を下回る状況では、自車と前方車との車間距離は120mである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−24524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の衝突回避システムは、自車が障害物に接近し、衝突の危険性が高くなったタイミングまで運転者がブレーキを踏まなかったと判定すると、衝突回避のための自動制御、すなわち自動ブレーキの発動を行う。その結果、急制動となることが避けられず、周囲の車や人に危険を及ぼしてしまうという課題があった。以下に、この課題の詳細を説明する。
【0009】
TTCと比較される閾値の値を大きくすれば、時間的余裕を持った衝突回避制御が可能になる。すなわち、接近してくる物体が存在する場合、すぐに自動ブレーキを発動させることも可能である。しかし、早めに自動ブレーキを発動させると、運転者が衝突回避システムを過信し、システムに依存することになる。これでは、本当にブレーキを強く踏み込むことが必要な場面で、運転者がブレーキを踏まないという事態が発生してしまう。
【0010】
よって、運転者がシステムを過剰に依存しすぎないようにするために、システムは衝突の危険性が高くなったタイミングであるにもかかわらず運転者がブレーキを踏まなかったと判定するまでは、自動ブレーキを発動させないようにしなければならない。運転者が本当にブレーキを踏むかどうかは、ブレーキを強く踏み込まなければもはや衝突は避けられない衝突直前のタイミングでブレーキが踏まれていたか(踏む動作を見せたか)どうかで判断する必要がある。つまり、衝突直前になるまでその判断をすることができない。
【0011】
次に、従来の衝突回避システムにおいて、運転者が本当にブレーキを踏むかどうかを確認するタイミングを説明する。危険事象が発生した際、運転者がその危険を察知し、実際にブレーキを踏む動作を開始するまでに、ある程度の時間がかかる。危険事象が発生してから、運転者がブレーキを踏む動作に移るまでの時間は空走時間と呼ばれている。空走時間は、前方車両衝突警報の性能要求に関する文献(「自動車−前方車両衝突警報装置−性能要求事項及び試験手順[JIS D 0802:2002]」、日本規格協会発行。12ページA.3.1、2002)によると、平均0.66秒であるといわれている。この空走時間は、運転者が危険事象の知覚、認知、行うべき動作の判断、脳から足への動作の指示、ペダルの踏み替え動作等を行っている時間である。すなわち、運転者が素早くブレーキを踏んだと思っても、実際にブレーキを踏むという行為が行われるまで0.6秒程度を要すると言える。従って、従来の衝突回避システムは、危険事象が発生してから約0.6秒待たなければ、運転者がブレーキを踏んだかどうかを確認することができない。
【0012】
ブレーキ制御等の安全運転支援の発動タイミングが遅くなると、衝突までに残された時間が短くなる。その結果、衝突回避のための制御が、急ブレーキや急ハンドルなどの急制動になる。自動的に急制動が行われると、周囲の車や人に、副次的な危険を発生させてしまう可能性がある。
【0013】
例えば、自車が突然、自動的に急ブレーキを発動させた場合、後続の車は、突然停止した前方車への追突を回避するため、同様に急ブレーキ等の急制動を行わなければならない。特に運転者が高齢の場合は、ブレーキを踏んだことを確認できないと判定されることが多くなり、自動的な急ブレーキ等の制御が多く発動する傾向が考えられる。それに伴い、周囲への危険も多くなることが問題となる。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、空走時間を短くして、より安全な車両の制御を可能にする安全運転支援装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による安全運転支援装置は、車両に搭載される安全運転支援装置であって、前記車両を運転する運転者の脳波信号を計測する脳波計測部と、前記運転者の視野範囲をセンシングするセンシング部と、前記センシング部が取得した前記運転者の視野範囲において、移動する物体を検出する物体検出部と、前記物体が検出されたタイミングを起点として予め定められる脳波特徴区間における前記脳波信号の事象関連電位の特徴成分の値と、予め定められた閾値とを比較し、比較した結果に基づいて前記運転者が危険を認知しているか否かを判別する危険判別部と、前記判別結果が、前記運転者が危険を認知していないことを示しているときは、前記車両を制御するための制御信号を出力する出力部とを備えている。
【0016】
前記危険判別部は、前記事象関連電位の特徴成分の値が、前記予め定められた閾値以上の場合には、前記運転者が危険を認知していると判別し、前記事象関連電位の特徴成分の値が、前記予め定められた閾値未満の場合には、前記運転者が危険を認知していないと判別してもよい。
【0017】
前記脳波特徴区間は、前記物体が検出されたタイミングを起点とした100ms以上300ms以下の区間であってもよい。
【0018】
前記物体検出部は、前記車両の進行方向と交差する方向に移動している物体を前記移動する物体として検出してもよい。
【0019】
前記センシング部は、前記運転者の視線方向を計測するセンサをさらに有し、前記物体検出部は、検出した前記物体の位置と前記センサが計測した前記視線方向とが一致したタイミングを、物体が検出されたタイミングとして検出してもよい。
【0020】
前記出力部は、前記車両を加速又は減速するための制御信号、または、前記車両を旋回させるための制御信号を出力してもよい。
【0021】
前記出力部は、前記運転者が危険を認知したことを周囲へ通知するための制御信号を出力してもよい。
【0022】
前記出力部は、ランプの点灯およびホーンの鳴動の少なくとも一方を行うための制御信号を出力してもよい。
【0023】
前記安全運転支援装置は、前記出力部が前記制御信号を出力した後、前記運転者による操作が行われたか否かを監視する操作監視部をさらに備え、前記操作監視部による監視の結果、前記制御信号の出力後、前記物体が検出されたタイミングを起点とする所定の時間経過後に前記運転者によって前記制御信号に関連する車両設備の操作が行われなかった場合には、前記出力部は前記制御信号に基づく制御を解除してもよい。
【0024】
所定の時間は600msであってもよい。
【0025】
前記操作監視部による監視の結果、前記制御信号の出力後、前記物体が検出されたタイミングを起点とする所定の時間経過後に前記運転者によって前記制御信号に関連する車両設備の操作が行われなかった場合であって、かつ、前記移動している物体と前記車両との距離を、前記移動している物体と前記車両との相対速度で除した値が予め設定された閾値以上のときは、前記出力部は前記制御信号に基づく制御を解除してもよい。
【0026】
前記操作監視部による監視の結果、前記制御信号の出力後、前記物体が検出されたタイミングを起点とする所定の時間経過後に前記運転者によって前記制御信号に関連する車両設備の操作が行われなかった場合であって、かつ、前記移動している物体と前記車両との距離を、前記移動している物体と前記車両との相対速度で除した値が予め設定された閾値未満のときは、前記出力部は前記制御信号に基づく制御を継続してもよい。
【0027】
本発明による他の安全運転支援装置は、車両に搭載される安全運転支援装置であって、前記運転者の視野範囲をセンシングするセンシング部と、前記センシング部が取得した前記運転者の視野範囲において、移動する物体を検出する物体検出部と、脳波計測部によって計測された、前記車両を運転する運転者の脳波信号の、前記物体が検出されたタイミングを起点として予め定められる脳波特徴区間における前記脳波信号の事象関連電位の特徴成分の値と、予め定められた閾値とを比較し、比較した結果に基づいて前記運転者が危険を認知しているか否かを判別する危険判別部とを備えている。
【0028】
本発明による安全運転支援方法は、車両を運転する運転者の脳波信号を計測するステップと、前記運転者の視野範囲をセンシングするステップと、センシングされた前記運転者の視野範囲において、移動する物体を検出するステップと、前記物体が検出されたタイミングを起点として予め定められる脳波特徴区間における前記脳波信号の事象関連電位の特徴成分の値と、予め定められた閾値とを比較し、比較した結果に基づいて前記運転者が危険を認知しているか否かを判別するステップと、判別する前記ステップの判別結果が、前記運転者が危険を認知していないことを示しているときは、前記車両を制御するための制御信号を出力するステップとを包含する。
【0029】
本発明によるコンピュータプログラムは、安全運転支援装置に設けられたコンピュータによって実行されるコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは、前記安全運転支援装置に実装されるコンピュータに対し、車両を運転する運転者の脳波信号を受け取るステップと、前記運転者の視野範囲をセンシングするステップと、センシングされた前記運転者の視野範囲において、移動する物体を検出するステップと、前記物体が検出されたタイミングを起点として予め定められる脳波特徴区間における前記脳波信号の事象関連電位の特徴成分の値と、予め定められた閾値とを比較し、比較した結果に基づいて前記運転者が危険を認知しているか否かを判別するステップと、判別する前記ステップの判別結果が、前記運転者が危険を認知していないことを示しているときは、前記車両を制御するための制御信号を出力するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、危険事象発生直後のユーザの危険認知状態を判別して車両を制御できるため、空走時間が短く、早めに危険回避のための自動制御を発動させることができるため、急制動が減少され、安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】国際10−20法の電極位置を示す図である。
【図2】1コース目の危険認知/危険非認知事象に対応するERPの総加算平均波形を示す図である。
【図3】危険認知事象ERPと危険非認知事象ERPの時間ごとのT検定結果を示す図である。
【図4】危険認知事象に対応するERPと危険非認知事象に対応するERPについて、実験協力者ごとの100ms以上200ms以下の区間平均電位の値のプロット結果を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1における安全運転支援装置100のブロック構成図である。
【図6】安全運転支援装置100の構成の一例として、自動車の運転席に構成した例を示す図である。
【図7】安全運転支援装置100の全体的な処理手順を示すフローチャートである。
【図8】(a)は、センシング部30により撮影された映像の例を示す図であり、(b)は算出されたオプティカルフローの例を示す図である。
【図9】危険判別部50が行うステップS50の処理のフローチャートである。
【図10】ベースライン補正されたERPの例を示す図である。
【図11】従来方法のTTCを利用した手法と、本手法の比較を示す図である。
【図12】本発明の実施形態1において、従来手法と同様の急ブレーキを作動させた場合の例を示す図である。
【図13】本発明の実施形態2にかかる安全運転支援装置110のブロック構成図である。
【図14】安全運転支援装置110の全体的な処理手順を示すフローチャートである。
【図15】図14のステップS70の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本願発明者らは、空走時間を短くするために、ブレーキを踏む前の運転者の脳活動に着目した。脳による事象の知覚、認知の過程において、運転者がその事象を危険と感じたかどうかを検出できれば、ブレーキを踏んだことの確認を待たずに危険回避のための機器が自動制御を行うべきかを判断できると考えた。
【0033】
そこで、本願発明者らは、事象が発生した際に、その事象を危険と感じたかどうかで運転者の脳波に違い(特徴)が現れるかを計測する実験を実施した。その結果、運転者が危険とは思わなかった事象に比べ、危険と認知した事象では、事象発生後100ms以上200ms以下の区間に特徴的な信号が現れることを見出した。本願明細書では、上記のような、運転者が危険と認知することを「危険認知」と呼び、危険と認知した事象を「危険認知事象」と呼ぶこととする。逆に、運転者が危険とは認知しなかったことを「危険非認知」、危険とは思わなかった事象を「危険非認知事象」と呼ぶこととする。
【0034】
まず、その実験内容及び実験結果から得られた新しい知見を説明する。
【0035】
本願発明者らは、ドライビングシミュレータ(Driving Simulator。ホンダ製。以降「DS」と省略する。)を利用し、8名の男性実験協力者に対し、実験を行った。DSでは、約2分の市街地コースを運転する課題を与えた。市街地コースの道路状況として、センターラインのない狭い道路を設定した。実験協力者らはこの市街地コースを所定の道順を時速30kmで走行した。カーナビゲーションシステムによる経路案内は使用しなかった。道順の暗記や速度感覚の練習のため、実験協力者らには実験直前に2回、コースを所定の道順で走行してもらった。
【0036】
続いて実験条件を説明する。本実験では、コース中に、明らかに危険認知事象および危険非認知事象と判断される複数の事象を発生させた。以下の説明では、実験協力者によって現実にはまだ認知が行われていない事象であっても、その事象を発生させれば危険認知事象または危険非認知事象に分類される蓋然性が極めて高いものについては、それぞれ危険認知事象および危険非認知事象と呼ぶ。
【0037】
危険認知事象と危険非認知事象のどちらも、道路の右側および左側から人物を飛び出させることとした。人物の飛び出し事象は、道路わきの路地から突然人物が出現する事象で、飛び出し開始まで、実験協力者は人物の存在を知ることができないようにした。
【0038】
危険認知事象と危険非認知事象では、人物の飛び出しタイミングに違いを設定した。危険認知事象では、DS内の仮想的な空間内での飛び出し位置から約16m手前(時速30kmでTTC2秒)に自車が差し掛かったときに、人物を飛び出させた。危険非認知事象では、飛び出し位置から約24m手前(時速30kmでTTC3秒)に自車が差し掛かったときに、人物を飛び出させた。
【0039】
実験協力者には、交通ルールを遵守して走行するよう指示したため、危険認知/危険非認知事象ともに、実験協力者は事象発生後に衝突回避のためのブレーキを踏む必要があった。1回の走行で、危険認知事象2回、危険非認知事象2回の計4回の事象を発生させ、人物を飛び出させた。各実験協力者は、それぞれ危険認知/危険非認知事象の順番や発生位置が異なるコースを4回走行した。各実験協力者は、合計で危険認知事象8回、危険非認知事象8回を体験してもらった。
【0040】
また、実験協力者には運転中に脳波計(ティアック製。ポリメイトAP−1124)を装着させた。脳波計の電極は国際10−20電極法に従って配置した。図1は、国際10−20法の電極位置を示す。以下、図1に示す記号を用いて説明する。導出電極をPz(正中頭頂部)、基準電極をA2(右マストイド)、接地電極をFpz(前額部)にそれぞれ配置した。脳波として、A2電位を基準とするPzの電位を計測した。本願発明者らは、サンプリング周波数200Hz、時定数3秒で計測した脳波データに対して1Hz以上15Hz以下のバンドパスフィルタ処理をかけた。事象発生時点(人物飛び出し時点)を起点に−200msから1000msの脳波データを1つの事象関連電位(以降、ERP(Event−Related Potential)と記述する。)の解析区間とし、−200msから0msの電位の平均値でベースライン補正を行った。
【0041】
本願発明者らは、上記実験の実験協力者のうち、覚醒度が低い1名、DS酔いが発生した1名を除く6名の脳波を対象に、解析を行った。また、危険であると最も強く感じた1回目のコースの危険認知/危険非認知事象を対象に、事象発生起点で抽出したERPの解析を行った。
【0042】
以下では、危険認知/危険非認知事象の事象発生時点を起点にしたERPを、それぞれ、危険認知/危険非認知事象に対応するERPと記述する。
【0043】
図2は、1コース目の危険認知/危険非認知事象に対応するERPの総加算平均波形を示す。図2の横軸は、飛び出し事象発生からの時間(単位:ms)で、縦軸はPzの電位(単位:μV)を示している。グラフの実線は危険認知事象に対応するERP波形、点線は危険非認知事象に対応するERP波形を示している。グラフ下部の黒線は、危険認知と危険非認知の各波形において5%有意な差が見られる時区間を示している。図2の結果より、危険認知事象では、危険非認知事象に比べて、200msの部分で陽性の信号が発生していると考えられる。
【0044】
図3は、危険認知事象ERPと危険非認知事象ERPの時間ごとのT検定結果を示す。図3の横軸は時間(単位:ms)で、縦軸はP値を示している。図3中の2本の破線に挟まれた区間は、5%以下の有意差の範囲を示している。
【0045】
図2、図3の結果から、危険認知事象に対応するERPと危険非認知事象に対応するERPでは、200ms以上400ms未満、600ms周辺、800ms周辺に違いが見られ、特に、200ms周辺(100ms以上200ms以下の範囲)に大きな差が見られることがわかる。
【0046】
図4は、危険認知事象に対応するERPと危険非認知事象に対応するERPについて、実験協力者ごとの100ms以上200ms以下の区間平均電位の値のプロット結果を示す。図4の左側は、危険認知事象に対応するERPの区間平均電位の値を示している。丸印は各実験協力者の区間平均値であり、棒グラフは全実験協力者の平均の値である。右側の危険非認知事象に対応するERPも同様に、実験協力者ごとの区間平均電位の値と平均の値とを示している。図4の結果から、100ms以上200ms以下において、危険認知事象に対応するERPと危険非認知事象に対応するERPの値の分布に5%有意な差が見られた。すなわち、危険認知事象では、危険非認知事象に比べ、200ms付近に陽性の成分が発生するという知見が得られた。
【0047】
脳波の成分で、刺激呈示後200ms付近に発生する陽性成分はP200成分と呼ばれ、これまで様々な用途で利用されている。従来のP200成分の利用方法を以下に説明する。たとえば鎮静睡眠薬剤の薬効の計測に関する文献(特開平10−33513号公報)によれば、P200成分は刺激の痛さ等を知覚として認識した場合の反応と説明されている。また、覚醒時/REM睡眠時/入眠時の外科医刺激に対する応答性比較に関する研究(「REM睡眠期と入眠期の事象関連電位の比較」、高原他、広島大学総合科学部紀要IV理系編、第28巻、1−11頁、2002年12月)によれば、P200成分はREM睡眠時の音声刺激の反応として認知されていた。さらに、脳波特徴信号を利用した脳波インタフェースに関する技術「事象関連電位を利用したヒトの心理状態等の判定装置」(特許第4369290号公報)では、目標とする刺激に対する反応としてP200成分が扱われている。「脳波インタフェースシステムのための起動装置、方法およびコンピュータプログラム」(特許第4392465号公報)では、ユーザのアプリ起動意思を反映する信号として利用されている。
【0048】
上記のように、P200成分はこれまで、刺激に対する危険の認知反応としては考慮されていなかった。また、物体が出現したタイミング(または移動を開始したタイミング)を起点としてERPの特徴成分を抽出することは、考慮されていなかった。つまり、対象物を危険と認知した際に出現する200msの陽性成分は、上記の実験により見出された従来とは異なる知見であるといえる。
【0049】
上記の知見から、本願発明者らは、ある事象を見て危険と感じる場合(危険認知の場合)と危険と感じない場合(危険非認知の場合)とを、事象発生時点を起点としたERPの特定の時区間の平均電位値で判別することにより、ブレーキ動作を行う前に危険を感じブレーキを踏む意思があるかどうか(自動ブレーキを発動させるべきかどうか)を判別できることを着想し、本願発明をなすに至った。
【0050】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0051】
(実施形態1)
図5は、本実施形態における安全運転支援装置100のブロック構成図を示す。
【0052】
安全運転支援装置100は、運転者10の脳波信号を利用して危険を認知したかを検出し、自車を自動的に制御する装置である。
【0053】
安全運転支援装置100は、脳波計測部20と、センシング部30と、物体検出部40と、危険判別部50と、出力部60とを備えている。
【0054】
脳波計測部20は、運転者10の脳波を計測する。センシング部30は、運転者の視野範囲を継続的に監視(センシング)し、センシングした情報を逐次出力する。物体検出部40は、センシングした情報から進行方向に存在する物体を検出する。危険判別部50は、検出された物体が出現したタイミングを起点に計測した脳波信号を解析し、前記物体に対して危険を感じたかを判別する。出力部60は判別結果に基づいて、自車を制御する。なお、運転者10のブロックは説明の便宜のために示されている。以下、各ブロックを詳しく説明する。
【0055】
脳波計測部20は、運転者10の頭部に装着された電極の電位変化(脳波信号)を計測する脳波計である。本願発明者らは、将来的には装着型の脳波計を想定している。そのため、脳波計はヘッドマウント式脳波計であってもよい。その際、運転者10は予め脳波計を装着しているものとする。
【0056】
運転者10の頭部に装着されたとき、その頭部の所定の位置に接触するよう、脳波計測部20には電極が配置されている。例えば図1に示す国際10−20法の電極位置において、後頭部(Pz)、マストイド(A1またはA2)の位置で頭部と接触するように電極を配置する。
【0057】
また、車のシート(たとえばヘッドレスト)に電極を埋め込み、または、天井やシートベルトアンカー付近から延びる細長いアームに電極を設け、運転者10が着座すると、脳波計の電極が運転者10の頭部と接するようにしてもよい。但し、後頭部Pz以外の部位でも計測は可能であり、ヘッドレストに電極が埋め込まれている場合など、Oz等のPz周辺位置に電極を配置しても良い。電極位置は、信号測定の信頼性および装着の容易さ等から決定される。
【0058】
この結果、脳波計測部20は運転者10の脳波を測定できる。測定された脳波の信号は、コンピュータで処理できるようにサンプリングされ、予め決められた一定時間分のデータは脳波計測部20内部にある記憶部に記憶され、かつ随時更新できる。なお、脳波計測部20は、脳波信号に予め例えば1Hz以上15Hz以下のバンドパスフィルタ処理を施すことにより、脳波信号に混入するノイズの影響を低減できる。なお、脳波計測部20によってローパスフィルタ処理が施された脳波信号は、有線または無線で後述する危険判別部50に送る。
【0059】
センシング部30は、運転者の視野範囲を継続的に監視(センシング)し、センシングした情報を逐次出力する。センシング部30は、例えば運転者の視野範囲である車両の進行方向の映像を撮影するカメラ、ミリ波によって距離や形状を計測するミリ波レーダである。センシング部30は、センシングして得られた映像信号、距離、形状等の情報をコンピュータで処理できるようにサンプリングする。予め決められた一定時間分のデータはセンシング部30の記憶部に記憶され、かつ随時更新することができる。
【0060】
物体検出部40は、センシング部30から出力された情報に基づいて、自車が衝突する可能性のある物体を探索し、対象となる物体が出現したタイミングを検出する。ここで、衝突する可能性のある物体とは、自動車や人物、自転車などに代表される動体や、信号や照明などの、動体ではないが、見え方が変化する物体が挙げられる。
【0061】
センシング部30がカメラであり、映像の撮影によるセンシングを行っていた場合、物体検出部40は、画像処理を行って撮影された映像中に存在する物体を探索する。例えば、人物を探索する場合は、色情報を利用して肌色検出を行ったり、領域分割による形状解析から、胴体や足と思われる領域を検出したり、映像の画像差分を利用することで、領域形状の変化から姿勢を推定し、人物を特定する処理を行う。
【0062】
なお、上記のように、必ずしも動体が何であるかを認識して検出を行わなくてもよい。例えば、映像中のオプティカルフロー(動画像のフレームにおける物体の動きに関するベクトル)を計算し、背景のオプティカルフローと逸脱した動作をする領域を動体として検出してもよい。また、画像中の輝度により、輝度が一定値以上変化したものを対象物体として検出してもよい。
【0063】
危険判別部50は、脳波計測部20から脳波信号を受け取り、物体検出部40が検出した対象物体の出現タイミングを起点に脳波信号を解析する。ここでいう「対象物体の出現タイミング」とは、対象物体が検出されたタイミングを意味している。
【0064】
そして危険判別部50は、運転者10が対象物体に対し危険を感じたかどうかを判別する。具体的には、危険判別部50は、対象物体の出現タイミングを起点にしたERPを解析し、ERPに含まれる特徴成分の値と、予め危険判別部50が保持する閾値との比較により、その事象は危険認知事象および危険非認知事象のいずれであったかを判別する。
【0065】
出力部60は、危険判別部50の判別結果に基づいて、自車を制御する。自車の制御とは、例えば、ブレーキをかけたり、周囲の車に運転者10の危険認知を通知する制御である。
【0066】
次に、安全運転支援装置100の具体的な構成を説明する。
【0067】
図6は、安全運転支援装置100の構成の一例として、自動車の運転席に構成した例を示す。
【0068】
運転席のヘッドレストに脳波計測部20が配置されている。脳波計測部20の電極は、運転者10の着座時に、脳波計測部20は運転者10の耳後(マストイド)の位置と後頭部に自然に接するように配置されている。計測されたデータは、有線または無線で、危険判別部50に送信される。
【0069】
脳波計測部20の電極は、銀塩化銀電極により接触抵抗の変動が抑えられており、後頭部に接する電極については、電極表面に突起を設けて髪の毛をよけて直接電極が頭皮に接する機構を設けてもよく、必ずしも電極にペーストをつけておく必要は無い。
【0070】
センシング部30はフロントガラス上部に配置され、自車前方の映像を撮影する。センシング部30は運転者10の視界の妨げにならない位置に配置される。例えば、センシング部30はルームミラーの裏側やダッシュボード上部に配置されてもよい。計測されたデータは、有線または無線で、物体検出部40に送信される。
【0071】
物体検出部40は、運転者10のシート内やダッシュボード内に配置される。物体検出部40が比較的小型であれば、センシング部30と同一の筐体に含むよう構成してもよい。計測されたデータは、有線または無線で、危険判別部50に送信される。
【0072】
危険判別部50は、運転者10のシート内や下、あるいはダッシュボード内に配置される。脳波計測部10がヘッドマウント式脳波計である場合には、ヘッドマウント内部に配置されてもよい。計測されたデータは、有線または無線で、出力部60に送信される。
【0073】
出力部60は、車内に配置される。例えば出力部60はダッシュボード下に配置され、ブレーキを制御する回路に接続される。または出力部60は、物理的にブレーキペダルを動作させるよう、ブレーキペダルの支点付近に配置される。
【0074】
上記の機能ブロックは、同一のCPUやDSP内部で処理されてもよい。また、センシング部30と物体検出部40、脳波計測部20と危険判別部50、出力部60をそれぞれ別の端末とし、端末間を有線や無線通信を利用して安全運転支援装置100を構成してもよい。
【0075】
次に、安全運転支援装置100の処理を説明する。
【0076】
本実施形態では、自動車に安全運転支援装置100を組み込み、危険予測時に、自動的に衝突回避のためのブレーキ制御を行う例を説明する。
【0077】
図7は、安全運転支援装置100の全体的な処理手順を示すフローチャートである。以下、図7の安全運転支援装置100のフローチャートに沿って、動作を説明する。
【0078】
ステップS10で、運転が運転者10により開始される。運転が開始されると、安全運転支援装置100による処理も開始される。運転の開始時点は、例えば、エンジンスタートが挙げられる。
【0079】
ステップS11で、危険判別部50は、運転者10が運転を終了したかを判定する。運転者が運転を終了すると、安全運転支援装置100による処理も終了する。運転の終了時点は、例えば、エンジンの停止が挙げられる。運転が終了していない場合は、ステップS20以降の処理が継続される。
【0080】
尚、ステップS10、ステップS11で、危険判別部50が安全運転支援装置100を開始、終了すると記載したが、これに限定されない。エンジンスタートを検出するため、エンジンスタータに直結された他の構成要素により、開始、終了判定を行ってもよい。
【0081】
ステップS20で、脳波計測部20は、運転者10の脳波を計測する。脳波計測部20によって測定された脳波信号は、危険判別出部50に送られる。なお、脳波に混入するノイズの影響を低減するため、脳波計測部20において計測される脳波は、予め例えば1以上15Hz以下のバンドパスフィルタ処理をしても良い。
【0082】
ステップS30で、センシング部30は、車両の前方をセンシングする。たとえばセンシング部30をカメラとしたとき、センシングは、カメラで自車前方向を撮影することによって行う。本実施形態では、撮影の範囲を、自運転者が運転席に前を見て座った状態での視認範囲の中心を原点として、上下左右それぞれ90度の範囲とする。左記の撮影の範囲を撮影するようカメラ(センシング部30)が固定される。
【0083】
なお、運転者10がフロントガラスから見える範囲を撮影の範囲として、カメラを固定してもよい。
【0084】
また、カメラの撮影範囲を運転者10の有効視野と撮影範囲を連動させてもよい。一般的な知見では、自車速度と有効視野の大きさに相関がある(速度大で有効視野狭)といわれている。また、従来文献(三浦利章ら、事故と安全の心理学、2007、p133、東京大学出版会)では、外部の混雑状況に伴い、有効視野が狭まることが述べられている。左記の知見から、運転者10の有効視野の範囲の変化を想定して、速度や周囲の混雑状況に合わせて撮影画角の調整を行ってもよい。
【0085】
なお、センシング部30は、カメラではなく、ミリ波などのレーダでもよい。レーダによる計測の場合も、カメラと同様、自車速度や周囲の混雑状況に応じたセンシング範囲の調整をおこなってもよい。
【0086】
ステップS40で、物体検出部40は、新たな対象物体がセンシングされたデータの中に存在するかを探索する。上述したように、対象物体は、運転者10が危険を感じる可能性のある物体で、自動車や人物、自転車などの動体や、信号機や照明など動体ではないが、見え方が変化する物体が挙げられる。物体検出部40は、センシングされた映像から動体のオプティカルフローを算出し、背景のオプティカルフローと逸脱した動作をする領域を動体として検出する。また物体検出部40は、映像中の輝度を監視し、輝度が一定値以上変化したものを対象物体として検出する。
【0087】
オプティカルフローにより対象物体を検出する例を説明する。図8(a)は、センシング部30により撮影された映像の例を示す。センシング部30では、運転者10の視野方向の映像が撮影されている。この例では、側道から合流しようとしている車両が対象物体11として存在しているとする。物体検出部40が検出対象としている対象物体は、例えば歩行者や自転車、他車両など、移動している物体である。物体検出部40は、地面や塀などの静止物の動きとは異なる動きをする物体(移動している物体)を、オプティカルフローの向き、大きさを利用して検出する。
【0088】
すなわち、物体検出部40は、撮影された映像をもとに、映像中のオプティカルフローを算出する。図8(b)は算出されたオプティカルフローの例を示す。進行方向を撮影した映像のため、オプティカルフローは、全体的に、画面上部中央から、下向きに広がっている。それに対し、側道から出現した車両のような対象物体11のオプティカルフローは、図8(b)の点線内に示すように、画面中央部右向きの方向に横切っている。画面中央右向きのフローは、背景のフローの向きとは異なるため、物体検出部40は、画面中央右向きのフローの画素の領域を、対象物体11として検出できる。オプティカルフローを算出することにより、物体検出部40は、車両の進行方向に交差する方向に移動する物体を対象物体11として検出できる。同様の方式を利用することで、人物、自転車などの移動物体や、停車車両の突然開いたドアや、飛び出してきた動物なども検出できる。
【0089】
なお、センシング部30がレーダの場合は、レーダにより物体の形状を計測し、危険対象物の形状との比較を行うことで、物体検出してもよい。または、背景物体との移動方向の違いを検出し、動物体の検出を行ってもよい。
【0090】
ステップS41で、物体検出部40は、対象物体の存在の有無で処理を分岐する。対象物体が存在した場合には、ステップS42の処理に進み、対象物体が存在しなかった場合には、ステップS11に戻り、運転終了確認と脳波計測が継続される。
【0091】
ステップS42で、物体検出部40は、対象物体の出現タイミングを検出する。物体検出部40は、動体に関しては、対象物体が映像中にフレームインした瞬間や動作をはじめたタイミング(車両の進行方向のオプティカルフローから逸脱するオプティカルフローが出現した時点)を出現タイミングとして検出する。輝度変化に関しては、物体検出部40は、対象物体の輝度が、予め設定した閾値以上変化したタイミングを出現タイミングとして検出する。
【0092】
なお、実際の運転中にステップS40で検出される対象物体は、多くの個数となることが考えられる。検出された全ての対象物体に対して、ステップS42より後の処理を行った場合、処理対象の数の多さから、装置の処理負荷が高くなってしまうことが考えられる。よって、処理負荷の軽減を目的に、探索された対象物体の中から、衝突の可能性の高いもののみを選別してもよい。
【0093】
例えば、そのオプティカルフローが自車の進行方向(センシング方向の正面中央方向)に向かう物体は、将来衝突の危険が高い物体と考えられる。逆に、そのオプティカルフローが正面中央方向に向かわない物体は、衝突の危険は極めて低いと判断できる。このように、オプティカルフローの方向情報等の利用により、センサの正面中央方向に向かう物体のみを、対象物体として検出してもよい。
【0094】
なお、上記説明でステップS42は、対象物体の出現タイミングを検出するとしたが、これに限定されない。例えば、対象物体が運転者10の視野に入ったとしても、運転者10はその物体に気付いていない場合が考えられる。ステップS42の検出タイミングを、運転者10が対象物体を見たタイミングとして、検出を行ってもよい。運転者10が対象物体を見たタイミングとは、例えば運転者10の中心視野(視点)がステップS40で検出された対象物体と座標が一致したタイミングにより検出される。運転者10の中心視野(視点)は、例えば、運転者が運転席に前を見て座った状態での視認範囲の中心を原点として、上下左右10度ずつの範囲として固定してもよいし、または、センシング部30に視線計測センサを備えることにより視点位置を計測してもよい。
【0095】
ステップS50で、危険判別部50は、ステップS20で計測された脳波データから、対象物体出現タイミングを起点としたERPを解析して脳波特徴信号の振幅値を抽出し、予め保持していた閾値との比較を行う。具体的には、ステップS42で抽出した対象物体の出現タイミングを起点として、−200msから200msまでの脳波データを解析対象とし、ERPを解析する。ERPの特徴信号の振幅値から、運転者10が対象物体を危険と感じたかどうかを判別する。処理の詳細については後述する。なお、脳波データの解析対象となる時区間(−200msから200msまで)は一例である。脳波の現れ方は個人差が大きいため、より広い時区間を解析対象としてもよい。たとえば図2に示されるように、終端の200msに関してはたとえば300ms程度であっても陽性成分は充分に検出し得る。よって、−200msから300msを解析対象としてもよい。終端は、後述する脳波特徴成分の判定区間が含まれるよう設定されていればよい。
【0096】
ステップS51で、危険判別部50は、ステップS50の判別結果に基づき、処理を分岐する。ステップS50で抽出した脳波特徴成分値が閾値以上の場合は、ステップS60の処理に進む。逆に、ステップS50で抽出した脳波特徴成分値が閾値未満の場合には、ステップS11に戻り、運転終了確認と脳波計測が継続される。
【0097】
ステップS60で、出力部60は、自動ブレーキ制御のための制御信号を出力する。出力部60は、ブレーキ制御信号を出力し、各車輪のブレーキを作動させる。または、物理的にブレーキペダルを物理的に制御し、ペダルの押し圧を調整することでブレーキ力を制御する。出力部60によるブレーキ制御で、対象物体の衝突が回避される。自動ブレーキ発動後は、ステップS11に戻り、安全運転支援処理が運転終了まで継続される。
【0098】
次に、ステップS50で行われる危険判別部50の処理の詳細を説明する。図9は、危険判別部50が行うステップS50の処理のフローチャートである。
【0099】
ステップS501で、危険判別部50は、ステップS42で計測された対象物体の出現タイミングを物体検出部40より受信する。
【0100】
ステップS502で、危険判別部50は、ステップS20で計測された脳波データを受信し、脳波データにおける出現タイミングのデータ位置を検索する。
【0101】
ステップS503で、危険判別部50は、解析対象となるERPを設定する。危険判別部は、出現タイミングを0msとして、−200msから200msの区間を解析区間として設定する。
【0102】
ステップS504で、危険判別部50は、ERPのベースライン補正を行う。ERPのベースラインは、−200msから0msの区間平均の値とする。図10は、ベースライン補正されたERPの例を示す。図の横軸は、出現タイミングを0msとした場合の時間(単位:ms)を示し、縦軸は脳電位の値(単位:μV)を示している。図10では、−200msから1000msの区間のERPが示されているが、このうちの−200msから200msの区間が解析区間として設定される。上述のとおり、この区間は一例であり、個人差を考慮してより広い時区間にしてもよい。
【0103】
ステップS505で、危険判別部50は、ERPに含まれる脳波特徴成分の抽出を行う。本願発明者らの実験の知見により、危険を感じたときの脳波特徴成分は、ERPの100msから200msに現れる。よって、危険判別のための脳波特徴成分として、ERPの100msから200msの区間平均電位を算出する。図10のERPの例では、脳波特徴成分の値は、−20.3μVとなる。
【0104】
ステップS506で、危険判別部50は、脳波特徴成分の値と、危険判別部50にあらかじめ設定してある閾値との比較を行う。閾値との比較を行うことで、対象物体に対して危険と感じたかを判別する。脳波特徴成分の値が閾値を超えていた場合には、危険判別部50は、対象物体に対して危険認知と判定する(ステップS507)。逆に閾値を超えなかった場合には、危険非認知と判定する(ステップS508)。
【0105】
ここで、判別のための閾値を説明する。本願発明者らの実験結果によると、危険と感じた場合と感じていない場合とで、脳波特徴成分の値(100msから200msの区間平均電位値)は、図4のように分類できることがわかっている。図4の結果から、危険認知の値および危険非認知の値を判別するためには、危険認知の最小値よりも下で、危険非認知の2番目に大きな値よりも上に閾値を設定することにより、最も高い判別率で危険認知および危険非認知を区別できることがわかる。具体的には、危険認知の最小値2.7μVと危険非認知の2番目に大きな値−0.1μVの中間値1.3μVを閾値として設定することで、判別が可能になる。
【0106】
上記閾値を利用した場合、図10のERPの例では、脳波特徴成分の値は、−20.3μVとなり、ステップS506における閾値との比較では、脳波特徴成分の値>閾値となることから、運転者10は対象物体に対し危険を感じたと判別される。
【0107】
なお、本実施形態では、本願発明者らの実験結果に基づいて閾値を設定したが、個人差に対応した閾値を設定してもよい。例えば、日常の運転において、急ブレーキを踏む前の脳波特徴成分の値を蓄積しておき、急ブレーキを踏んだ際の脳波特徴成分の値と、通常時の脳波特徴成分の値とを区別するように、閾値を設定するようにしてもよい。
【0108】
なお、本実施形態では、脳波特徴成分の値と閾値との比較により、危険認知および危険非認知を区別するとして説明を行ったが、判別方法はこれに限定されるものではない。例えば、あらかじめ200msに特徴成分が出現しているテンプレートの波形を危険判別部50が保持しておき、計測されたERPの波形とテンプレート波形の類似度を計測し、類似度と閾値との比較により、危険認知および危険非認知の判別を行ってもよい。類似度として、2つの波形の各サンプル点の誤差の積算値や相関係数を利用し、あらかじめ危険判別部50が保持している閾値との比較により、判別をおこなってもよい。また、他の類似度の算出方法としては、波形のテンプレートマッチングが挙げられる。
【0109】
なお、本実施形態では、100msから200msを脳波特徴成分の区間としたが、これに限定されるものではない。例えば、5%有意な差がある区間は、正確には135msから190msの区間であるため、当該区間を脳波特徴成分としてもよい。または、10%有意な差がある区間も含めて、300ms付近の区間も脳波特徴成分が存在する区間としてもよい。よって、少なくとも100ms以上300ms以下の区間において、脳波特徴成分が存在する区間としてもよい。
【0110】
なお、脳波特徴成分の算出方法として、特徴区間の区間平均電位を利用したが、特徴区間に含まれる極大値の振幅値など、区間を代表する他の指標を利用して算出してもよい。
【0111】
このように本実施形態にかかる構成および処理の手順により、運転者の状態を判別し安全運転支援を行う装置において、物体出現時のERPの特徴成分を抽出し、特徴成分の値に基づいて、運転者が出現した物体に対して危険を感じたかどうかを判別することで、実際にブレーキ動作を行う前に、ブレーキを踏む意思があるかどうかが判断できる。
【0112】
具体的に、図11および図12を参照しながら、時速30kmで走行している場合を例に、本実施形態にかかる構成に基づく効果を説明する。図11は、従来方法のTTCを利用した手法と、本手法の比較を示す。図11では、横軸を時間として、自車停止までのタイムチャートを従来手法と本発明の手法とで上下に並べて示している。
【0113】
従来手法では、危険事象発生時刻を0msとした場合、ブレーキが踏まれるまでに600msかかる。そこで、600ms後にブレーキが踏まれたかを確認した後、ブレーキが踏まれていない場合には、自動ブレーキが発動する。危険が発生してから自動ブレーキ発動までの時間として600msの空走時間が存在する。また、自動ブレーキでは、運転者への負担を考慮して、0.7G程度の急ブレーキが発動される。
【0114】
一方、本実施形態では、危険事象発生時刻を0msとした場合、ERPの利用による運転者の危険認知の判別により、200msで自動ブレーキを発動させることができる。従って、時車両停車の時間を同じとした場合には、従来方式に比べ400ms前から制動を開始することができる。よって、自動ブレーキは0.5Gの制動で衝突回避が可能になり、自動制御が急制動とならない。急制動の回避により、運転者への負担も少なく、周囲への危険も削減される。
【0115】
また、図12は、本実施形態において、従来手法と同様の急ブレーキを作動させた場合の例を示す。図12でも図11と同様、横軸を時間として、自車停止までのタイムチャートを従来手法と本発明の手法とで上下に並べて示している。従来方式と比較し、本発明の手法では、400ms早く自動ブレーキの発動させることができるため、自車の停止時刻も、400ms早く停車することができる。時速30kmで走行している場合だと、従来手法と比べ約3.3m手前で停車することが可能になる。
【0116】
上記のように、物体出現時のERPの特徴成分を利用した運転者の危険認知判別により、空走距離が短縮でき、余裕を持った衝突回避の制動や、早めの停止が可能になり、安全性が向上する。
【0117】
なお、本実施形態では、衝突回避のための制動を自動ブレーキとして説明を行ったが、制動はこれに限定されない。例えば、自動ブレーキまでは発動させず、あくまで運転者の支援という形態で、ブレーキの効きを強くするなどの制御を行ってもよい。また、危険を認知したタイミングや対象物体を記録蓄積しておき、危険認知のデータベースを構築してもよい。データベース構築により、自車や他車が再度同じような状況になったときに、警告表示や自動車両制御などの支援を行うことが可能になる。
【0118】
また、出力部60の制御により、自動ブレーキはかけずに、周囲の車に、危険認知を知らせる警告を表示してもよい。例えば、ブレーキランプ点灯および/またはホーンの鳴動が挙げられる。危険認知を通知することにより、周囲の車へ、早めの対応を促すことが可能になる。例えば、運転者が危険を感じた際に、ブレーキランプを点灯させることにより、後続の車は、本当にブレーキがかかる400ms前に、ブレーキがかかることを知ることができ、旋回等、早めの回避行動に移ることができる。後続車の早めの対応を可能とすることにより、追突などの事故が減少し、周辺交通の安全性が向上できる。また、周囲に警告表示のみおこなうことで、ブレーキ等の急な自動制御は行われず、運転者の急な自車の制御に戸惑いを回避できる。
【0119】
さらに、出力部60の制御として、車両の進行方向または加速を制御してもよい。これにより、危険事象が発生した際に、運転者が事態を回避するための運転操作に先行して車両を制御し、車両をスムースに動作させることができる。その結果、運転者は危険対象物を安全に回避することができるともに、後続車両その他周辺交通の安全性も向上させることができる。
【0120】
なお、本実施形態では、物体出現タイミングを起点のERPを利用する例で説明を行ったが、センシング部30が運転者10の視線方向を計測するセンサを有し、物体検出部40により、運転者10が対象物体を見たタイミングを起点としてERPを解析してもよい。たとえば、検出した物体の位置とセンサが計測した視線方向とが一致したタイミングを、運転者10が対象物体を見たタイミングとすればよい。視線計測方法としては、センシング部30は、内向き赤外線カメラを有し、運転者10の両眼の瞳孔の位置を計測することにより、視線方向の計測を行う方法が挙げられる。図7のステップS40におけるオプティカルフローや輝度変化に、運転者10の視線位置(視点)を重畳させて解析することにより、画像処理により検出された対象物がフレームインまたは動き出した瞬間ではなく、画像処理により検出された対象物の領域と視点が一致した瞬間を、危険対象物の出現タイミングとして検出してもよい。上記処理により、運転者10が危険対象物を知覚して認知する反応を精度よくERPで解析することが可能になると考えられる。
【0121】
なお、本実施形態の手法だけでは、運転者が前方不注意等の状況では、対象物を知覚していないために、危険は認知せず、自動ブレーキが発動されない可能性がある。よって、従来のTTCを利用した手法を本発明の手法とあわせて構成することにより、運転者による見落しが発生した状況でも、衝突回避の制御を発動させるようにしてもよい。具体的には、図7のステップS50により、対象物に対して危険を認知していないと判別された状況であっても、対象物とのTTCの値が閾値を下回った場合には、自動ブレーキを発動させるようにしてもよい。
【0122】
TTCによる衝突予測の処理は、センシング部30が計測したデータに基づいて、物体検出部40が対象物体までの距離と相対速度を検出してTTCを算出した後、危険判別部50がTTCと予め保持していた閾値とを比較するという流れになる。
【0123】
上記のような本発明とTTCの手法を組み合わせは、例えば運転者が漫然状態(ボーっとして集中していない状態)で運転していて、突然道路わきから飛び出してきた(急に停止した)車両を見逃してしまった場合に効果を発揮する。漫然状態のため、飛び出してきた対象物体を認知できず危険認知の脳波反応は出ない場合でも、TTCによる衝突予測判定により、自動的にブレーキを発動し、衝突が回避できる。
【0124】
(実施形態2)
実施形態1の構成により、運転者10の対象物に対する危険認知を判別することで、空走時間を短くすることが可能になった。
【0125】
しかし、脳波は非常に微弱で、運転操作などの動作を行うことにより、筋電等のノイズが混入してしまう可能性がある。ノイズの混入により、運転者が危険と判断していない対象物に対しても、安全運転支援装置100が危険認知と誤判別してしまう可能性が考えられる。そこで、装置が誤判別を行った場合でも、制御を補正する仕組みが必要となる。
【0126】
本実施形態では、従来のTTCを利用した方式と同様に、運転者によってブレーキが踏み動作が行われたかを確認することで、補正の必要性を判断する安全運転支援装置を説明する。
【0127】
また、本実施形態では、実施形態1の変形例として記載したTTCを利用した手法と組み合わせた場合を例に説明する。
【0128】
図13は、本実施形態にかかる安全運転支援装置110のブロック構成図を示す。図13において、図5と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。図13において、安全運転支援装置110は、新たに操作監視部70を有している。操作監視部70は、ブレーキやハンドル等と接続され、運転者10によるブレーキ等の運転操作を検出する。具体的には操作監視部70は、運転者10によるブレーキの踏み込みの有無や、衝突回避のためのハンドル舵角などを計測する。ハンドルの舵角を計測する理由は、ブレーキ以外にも操舵などで衝突を回避する可能性もあると考えられるためである。
【0129】
図14は、上記安全運転支援装置110の全体的な処理手順を示すフローチャートである。図7の処理と同一の処理は、同じ符号を用い、説明を省略する。図14に示す処理が、図7に示す実施形態1の処理と相違する点は、ステップS70の自動制動と補正処理である。以下に、ステップS70の処理を説明する。
【0130】
ステップS70では、ステップS50にて危険認知と判別された場合に自動ブレーキを発動する。また、操作監視部70によりブレーキの監視が行われ、ブレーキが踏まれなかった場合には、ステップS50でなされた判別結果は誤判別であったと判断し、自動ブレーキを解除し、制御を補正する。
【0131】
誤判別時の動作の根拠は以下のとおりである。図11および図12に示すように、通常の運転者であれば危険認知後約600msにブレーキを踏むことができる。そのため、実施形態1に係る処理によって危険認知と判別された後200msに自動ブレーキがかかったとしても、約600msに運転者自らブレーキを踏むはずである。それにもかかわらずブレーキが踏まれなかったということは、運転者が危険はなかったと判断したためであると推測される。そこで、そのような場合には自動ブレーキを解除することにした。ただし、本実施形態では、運転者がブレーキを踏まなかった場合には、物体検出部40が対象物体までの距離と相対速度を計測し、安全が確認された場合のみ自動ブレーキを解除している。
【0132】
次に、ステップS70で行われる処理の詳細を説明する。図15は、図14のステップS70の処理の流れを示すフローチャートである。
【0133】
ステップS601で、出力部60は、ステップS50で危険認知と判別された結果に基づいて、自動ブレーキを作動させる。運転者10がブレーキを踏む前に自動制御可能なため、ゆるやかな制御を行う。
【0134】
ステップS701で、操作監視部70は、運転者10がブレーキを踏むと予想される時刻にブレーキが踏まれるかどうかを確認する。運転者10が危険を感じた場合、危険事象発生後600ms後にブレーキが踏まれると予想される。操作監視部70は、事象発生後600ms後にブレーキが踏まれたかを監視する。
【0135】
ステップS702で、操作監視部70は、ブレーキが踏まれたかどうかで処理の分岐を行う。ブレーキが踏まれた場合には、ステップS50で判別された結果は正しかったと判断する。また逆に、ブレーキが踏まれなかった場合には、運転者10は危険を感じておらず、ステップS50でなされた判別結果は誤判別であったと判断することができる。
【0136】
従って、ステップS702でブレーキが踏まれた場合には、ステップS602で、出力部60は、自動ブレーキの制御を継続する。または、運転者10によりブレーキ踏みの行為が行われているため、運転者10によるブレーキに切り替えたり、ブレーキの効きを強くし、運転者10がブレーキ強度を制御できるようにしたりしてもよい。また、従来のTTCを利用した手法と同様、0.7G程度の急ブレーキを発動してもよい。
【0137】
ステップS702でブレーキが踏まれていなかった場合には、TTCによる衝突予測を行うステップS510の処理に進む。
【0138】
ステップS510で、危険判別部50は、TTCと予め保持していた閾値との比較を行う。TTCは、センシング部30のデータに基づいて、物体検出部40が対象物体までの距離と相対速度を計測することで、算出される。距離の算出方法としては、例えば、センシング部30がミリ波レーダを有し、前方対象物体までの距離を計測する。また、距離の時間推移を計測することにより、相対速度を算出することができる。また別の例として、センシング部30がステレオカメラで構成されている場合は、ステレオカメラに映る対象物体の視差を利用することにより、距離が算出できる。TTCが閾値よりも大きい場合には、自動制御を行わなくても衝突危険性は低いと判断し、ステップS603で出力部60は、自動ブレーキの制御信号の出力を止め、自動ブレーキを解除する。逆に、TTCが閾値よりも小さい場合には、衝突可能性が高いと判断し、出力部60による自動ブレーキ制御が継続される(ステップS602)。
【0139】
なお、上記では、ステップS601での衝突回避の自動制御として自動ブレーキを例に説明を行ったが、ブレーキランプ等による危険認知の周囲への警告を自動制御としておこなってもよい。その場合、出力部60により、ステップS602ではブレーキ制御、ステップS603では、ブレーキランプの消灯が行われる。以上の処理により、自動制御により自車両の過剰な制動を抑制できる。
【0140】
このように本実施形態にかかる構成および処理の手順により、600ms後のブレーキ操作の有無で衝突回避制御の補正が行われるため、誤制動が削減できる。
【0141】
なお、上述の実施形態においては、安全運転支援装置は脳波計測部20および出力部60を有するとした。しかしながら、この構成は必須ではない。たとえば脳波計測部(脳波計)が車両に組み込まれているときは、脳波計測部を安全運転支援装置の構成要素とする必要はない。また、出力部60が、各車両設備への制御信号を出力するI/Oインタフェースを備えたコンピュータであるときは、出力部60は安全運転支援装置の構成要素とする必要はない。ただし、車両のコンピュータに対して制御信号を出力する出力端子は安全運転支援装置の構成要素としてもよい。
【0142】
本発明は、コンピュータプログラムとしても実施され得る。そのようなコンピュータプログラムは、たとえば図7、9、14および15のフローチャートによって示される手順を実行するための命令を含む。コンピュータプログラムは、CD−ROM等の記録媒体に記録されて製品として市場に流通され、または、インターネット等の電気通信回線を通じて伝送される。なお、上述の実施形態および変形例にかかる注意状態判別装置は、半導体回路にコンピュータプログラムを組み込んだDSP等のハードウェアとして実現することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明にかかる安全運転支援装置は、乗り物の運転や機械操作における危険回避に有用である。例えば、乗用車、バス、トラックといった自動車以外にも、電車や自転車、車椅子などの運転操作時にも有効である。また、工場におけるライン操作など、危険を察知して、緊急停止させる必要がある状況において適用可能である。
【符号の説明】
【0144】
10 運転者
20 脳波計測部
30 センシング部
40 物体検出部
50 危険判別部
60 出力部
70 操作監視部
100、110 安全運転支援装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される安全運転支援装置であって、
前記車両を運転する運転者の脳波信号を計測する脳波計測部と、
前記運転者の視野範囲をセンシングするセンシング部と、
前記センシング部が取得した前記運転者の視野範囲において、移動する物体を検出する物体検出部と、
前記物体が検出されたタイミングを起点として予め定められる脳波特徴区間における前記脳波信号の事象関連電位の特徴成分の値と、予め定められた閾値とを比較し、比較した結果に基づいて前記運転者が危険を認知しているか否かを判別する危険判別部と、
前記判別結果が、前記運転者が危険を認知していないことを示しているときは、前記車両を制御するための制御信号を出力する出力部と
を備えた安全運転支援装置。
【請求項2】
前記危険判別部は、
前記事象関連電位の特徴成分の値が、前記予め定められた閾値以上の場合には、前記運転者が危険を認知していると判別し、
前記事象関連電位の特徴成分の値が、前記予め定められた閾値未満の場合には、前記運転者が危険を認知していないと判別する、
請求項1に記載の安全運転支援装置。
【請求項3】
前記脳波特徴区間は、前記物体が検出されたタイミングを起点とした100ms以上300ms以下の区間である、請求項1に記載の安全運転支援装置。
【請求項4】
前記物体検出部は、前記車両の進行方向と交差する方向に移動している物体を前記移動する物体として検出する、請求項1に記載の安全運転支援装置。
【請求項5】
前記センシング部は、前記運転者の視線方向を計測するセンサをさらに有し、
前記物体検出部は、検出した前記物体の位置と前記センサが計測した前記視線方向とが一致したタイミングを、物体が検出されたタイミングとして検出する、
請求項1に記載の安全運転支援装置。
【請求項6】
前記出力部は、前記車両を加速又は減速するための制御信号、または、前記車両を旋回させるための制御信号を出力する、請求項1に記載の安全運転支援装置。
【請求項7】
前記出力部は、前記運転者が危険を認知したことを周囲へ通知するための制御信号を出力する、請求項1に記載の安全運転支援装置。
【請求項8】
前記出力部は、ランプの点灯およびホーンの鳴動の少なくとも一方を行うための制御信号を出力する、請求項7に記載の安全運転支援装置。
【請求項9】
前記出力部が前記制御信号を出力した後、前記運転者による操作が行われたか否かを監視する操作監視部をさらに備え、
前記操作監視部による監視の結果、前記制御信号の出力後、前記物体が検出されたタイミングを起点とする所定の時間経過後に前記運転者によって前記制御信号に関連する車両設備の操作が行われなかった場合には、前記出力部は前記制御信号に基づく制御を解除する、請求項1に記載の安全運転支援装置。
【請求項10】
所定の時間は600msである、請求項9に記載の安全運転支援装置。
【請求項11】
前記操作監視部による監視の結果、前記制御信号の出力後、前記物体が検出されたタイミングを起点とする所定の時間経過後に前記運転者によって前記制御信号に関連する車両設備の操作が行われなかった場合であって、かつ、前記移動している物体と前記車両との距離を、前記移動している物体と前記車両との相対速度で除した値が予め設定された閾値以上のときは、前記出力部は前記制御信号に基づく制御を解除する、請求項9に記載の安全運転支援装置。
【請求項12】
前記操作監視部による監視の結果、前記制御信号の出力後、前記物体が検出されたタイミングを起点とする所定の時間経過後に前記運転者によって前記制御信号に関連する車両設備の操作が行われなかった場合であって、かつ、前記移動している物体と前記車両との距離を、前記移動している物体と前記車両との相対速度で除した値が予め設定された閾値未満のときは、前記出力部は前記制御信号に基づく制御を継続する、請求項9に記載の安全運転支援装置。
【請求項13】
車両に搭載される安全運転支援装置であって、
前記運転者の視野範囲をセンシングするセンシング部と、
前記センシング部が取得した前記運転者の視野範囲において、移動する物体を検出する物体検出部と、
脳波計測部によって計測された、前記車両を運転する運転者の脳波信号の、前記物体が検出されたタイミングを起点として予め定められる脳波特徴区間における前記脳波信号の事象関連電位の特徴成分の値と、予め定められた閾値とを比較し、比較した結果に基づいて前記運転者が危険を認知しているか否かを判別する危険判別部と
を備えた安全運転支援装置。
【請求項14】
車両を運転する運転者の脳波信号を計測するステップと、
前記運転者の視野範囲をセンシングするステップと、
センシングされた前記運転者の視野範囲において、移動する物体を検出するステップと、
前記物体が検出されたタイミングを起点として予め定められる脳波特徴区間における前記脳波信号の事象関連電位の特徴成分の値と、予め定められた閾値とを比較し、比較した結果に基づいて前記運転者が危険を認知しているか否かを判別するステップと、
判別する前記ステップの判別結果が、前記運転者が危険を認知していないことを示しているときは、前記車両を制御するための制御信号を出力するステップと
を包含する、安全運転支援方法。
【請求項15】
安全運転支援装置に設けられたコンピュータによって実行されるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムは、前記安全運転支援装置に実装されるコンピュータに対し、
車両を運転する運転者の脳波信号を受け取るステップと、
前記運転者の視野範囲をセンシングするステップと、
センシングされた前記運転者の視野範囲において、移動する物体を検出するステップと、
前記物体が検出されたタイミングを起点として予め定められる脳波特徴区間における前記脳波信号の事象関連電位の特徴成分の値と、予め定められた閾値とを比較し、比較した結果に基づいて前記運転者が危険を認知しているか否かを判別するステップと、
判別する前記ステップの判別結果が、前記運転者が危険を認知していないことを示しているときは、前記車両を制御するための制御信号を出力するステップと
を実行させる、コンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−173803(P2012−173803A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32466(P2011−32466)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】