説明

安定化タンパク質

組換えヒトアデノシンデアミナーゼ(rhADA)などのように少なくとも1つの酸化可能なアミノ酸を有するタンパク質を安定化する方法について開示している。該方法は、酸化可能なアミノ酸を有するタンパク質にグルタチオンなどのキャップ化剤の十分量を反応させることを含むが、このときの反応条件は、実質的にタンパク質を不活化せずに酸化可能なアミノ酸をキャップ化するのに十分な条件である。安定化キャップ化タンパク質、キャップ化タンパク質ポリマー複合体およびそれを用いた治療法についても開示している。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本願は、2007年4月20日に受理された米国特許出願No.11/738,012号の優先権の利益を主張するものであり、また、該特許は、2006年6月21日に受理された米国特許出願No.60/805,417号の優先権の利益を主張するものである。ここに参照することにより、それぞれの内容の全てを本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、タンパク質の溶液環境にさらされた、1個もしくはそれ以上の酸化可能なシステイン残基を保護またはキャップ化することによって安定化された、アデノシンデアミナーゼ酵素などのタンパク質を提供する。
【背景技術】
【0003】
アデノシンデアミナーゼ(ADA)は、重症複合型免疫不全症(SCID)または、時には「バブルボーイ」疾患と呼ばれることもある、酵素不全性疾患の治療に使用されている。エンゾンファーマシューティカル社(Enzon Pharmaceuticals)は、15年以上も前から、ウシ起源の酵素を使用し、患者に使用可能なPEG化ADAを製造している。
【0004】
近年、ウシ起源の酵素を組換え起源の酵素(以後、「rADA」と記す)に置き換えようとする試みがなされている。精製天然ウシADAの代替品としては、組換えヒトADA(「rhADA」)および組換えウシADA(「rbADA」)が考えられている。rbADAおよびrhADAは、現在使用されている天然の精製ウシ酵素よりも若干安定性に欠ける。rhADAおよびrbADAは、システイン分解と同様の方法、すなわち、酸素付加;ジチオール類の生成;pH上昇に伴う分解増加;特に、pH上昇およびサンプルの濃縮に伴う沈澱、によって分解すると考えられている。還元状態においては、システインは、分解を担う形態である、反応性SH基(スルフヒドリル基)を含む。
【0005】
発明者らは、単一の曝露されたシステインがrbADAおよびrhADAの両方で観察される分解に関与していることを示唆する事実を見出した。ウシから精製したADAは、rhADAと非常に類似した構造を有している。ウシADAおよびrhADAは、一次配列の同一位置に同一数のシステインを有する。現在入手可能な組換えウシADAは、システインの反応性と一致する分解物/不純物(ジチオール類)を含んでいる。天然ウシADAは、組換えウシADAと構造的に異なっており、後者は1モルのADAに対して1モルのシステインが結合しており、前者は高pH条件下で安定であることから、ADAに結合しているシステインが保護基の役割を果たしていることが示唆される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の事実にもかかわらず、所望する活性化PEGを用いる場合に、酵素の至適PEG化に有用なpHレベルにおいて安定、すなわち著しい分解を起こさないrbADAおよびrhADAを提供することには利益がある。例えば、ある種のインターフェロン類など、不安定化に関与する遊離システイン基を有するその他のタンパク質および酵素の安定化にも、同様に利益がある。本発明は、この必要性に応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、少なくとも1つのアミノ酸残基を含むキャップ化タンパク質を提供し、該残基は、タンパク質が水性媒体中にある場合に、アミノ酸の酸化が阻害されるように選択されたキャップ化剤でキャップされており、それにより、キャップ化タンパク質は、水性媒体中において、キャップされていないものよりも実質的に安定である。アミノ酸は酸化可能なアミノ酸であり、例えば、システイン、トリプトファンまたはメチオニンなどである。キャップ化タンパク質としては、目的の任意のタンパク質を用いることができ、例えば、アデノシンデアミナーゼタンパク質(天然型または組換え発現型のもの)、インターフェロン(βインターフェロン、αインターフェロンおよびγインターフェロンなど)などが挙げられる。好ましくは、アデノシンデアミナーゼは組換えヒトアデノシンデアミナーゼ(例えば、SEQ ID NO:2など)または組換えウシアデノシンデアミナーゼ(例えば、SEQ ID NO:4など)である。さらに、組換えアデノシンデアミナーゼは、対応するDNAオープンリーディングフレームの理論的翻訳によって示唆された6個のC末端残基が欠如している。さらに別の態様においては、対応するDNAオープンリーディングフレームの理論的翻訳によって示唆されたN末端Metは、キャップ化タンパク質中に存在する。
【0008】
本発明に従うキャップ化タンパク質は、酸化グルタチオン、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、システイン、その他のジチオール類およびそれらの混合物などのキャップ化剤でキャップされている。
【0009】
本発明に従うキャップ化タンパク質は、さらに、実質的に非抗原性であるポリマーに共役し、ポリマー複合組換えキャップ化タンパク質を形成するが、そのようなポリマーとしては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンオキシドが挙げられ、ここで、該ポリアルキレンオキシドの分子量は約2,000〜約100,000である。ポリアルキレンオキシドは、リンカー化学物質を介してタンパク質と共役することが好ましく、例えば、スクシンイミジルカルボネート、チアゾリジンチオン、ウレタンおよびアミド系のリンカーなどが挙げられる。ポリアルキレンオキシドが共有結合する部位は、当該分野において共有結合部位として既知であるその他の部位よりも、該システイン安定化組換えヒトアデノシンデアミナーゼ上のLysのε−アミノ基であることが好ましい。好ましくは、本発明に従うキャップ化タンパク質は、該タンパク質上のLysのε−アミノ基に少なくとも5本のポリエチレングリコール鎖が結合しており、あるいはまた、該タンパク質上のLysのε−アミノ酸に約11〜18本のPEG鎖を有する。
【0010】
さらに、本発明は、組換え発現タンパク質を実質的に不活化させることなく、反応性アミノ酸をキャップ化するのに十分な反応条件下で、水溶液中において、十分量のキャップ化剤で、酸化可能なアミノ酸を含むタンパク質を処理する工程を有してなる、酸化可能なアミノ酸を有するタンパク質の安定化方法を提供する。反応性アミノ酸としては、システインもしくはメチオニン、および/または、当該分野において既知のその他の任意の反応性タンパク質などが挙げられる。タンパク質は、上述したような任意の目的タンパク質を用いることができる。キャップ化剤は、例えば、酸化グルタチオン、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、システイン、その他のジチオール類およびそれらの混合物などが挙げられるが、酸化グルタチオンが好ましい。好ましくは、酸化グルタチオンは、約20〜約100mMの濃度でタンパク質と反応し、あるいは、酸化グルタチオンは、約22〜約30mMの濃度でタンパク質と反応する。
【0011】
好ましくは、本発明に従う方法は、pHが約6.5〜約8.4である水溶液を含む反応条件で提供される。より具体的には、反応条件には、pHが約7.2〜約7.8である水溶液が含まれる。
【0012】
好ましい態様においては、水溶液は、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、TrisおよびHepesからなる群より選択される緩衝液を含み、それらの濃度は20〜150mMの範囲である。
【0013】
さらに、本発明の方法は、キャップ化タンパク質−ポリマー複合体を形成するのに十分な条件下、水溶液中でキャップ化タンパク質を活性化ポリマーと反応させる工程を含む。このとき用いる活性化ポリマーとしては、例えば、スクシンイミジルカルボネート活性化ポリエチレングリコール、チアゾリジンチオン活性化ポリエチレングリコール、および/または、ウレタン結合もしくはアミド結合形成性活性化ポリエチレングリコールなどの活性化ポリエチレングリコールが挙げられ、ここでポリエチレングリコールは、約2,000〜約100,000の分子量を有することが好ましく、約4,000〜約45,000の分子量を有することがさらに好ましい。
【0014】
さらに、本発明の方法は、
適切な原核細胞性発現系中でタンパク質を組換え発現させ、
十分量のキャップ化剤を含む細胞抽出溶媒から組換え発現タンパク質を回収し、
それによって組換え発現タンパク質上の酸化可能なアミノ酸が、適切な原核細胞性発現系中の原核細胞から分泌された際に安定化される、
各工程を有してなる、酸化可能なシステインを有する組換え発現タンパク質を安定化する方法を含む。好ましくは、原核細胞性発現系は、組換えアデノシンデアミナーゼを産生できる大腸菌(E.coli)発現系であり、さらに、組換え発現タンパク質は、アデノシンデアミナーゼおよび/またはインターフェロンである。
【0015】
さらに、本発明に従う方法は、目的の酸化可能なタンパク質の安定化誘導体を産生する方法を提供し、そのような方法は、
(a)目的の酸化可能なタンパク質を識別する工程であって、前記タンパク質が、水溶液中に存在する場合に、1つまたはそれ以上のアミノ酸残基において酸化可能であり、
(b)前記目的のタンパク質中の酸化可能なアミノ酸を少なくとも1つを識別し、
(c)前記目的の酸化可能なタンパク質を、酸化可能なアミノ酸の酸化を防ぐように選択したキャップ化剤と反応させる、
各工程を有してなる。
【0016】
タンパク質は、例えば、アデノシンデアミナーゼまたはインターフェロンであり、酸化可能なアミノ酸は、システインまたはメチオニンであり、キャップ化剤は、酸化グルタチオン、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、システイン、その他のジチオール類およびそれらの混合物から選択される。
【0017】
本発明の更なる態様は、システイン安定化組換えタンパク質、酵素など、ならびに、それらの調製方法を含む。これに関連して好ましい形態は、システイン安定化rbADAおよび/もしくはrhADAである。それらのポリマー複合体も本発明の実施の形態に含まれる。ポリマーは、ポリアルキレンオキシドが好ましく、例えば、ポリエチレングリコールなどがさらに好ましい。複合体は、キャップ化タンパク質を活性化ポリマーと反応させることによって調製し、そのような活性化ポリマーとしては、例えば、スクシンイミジルカルボネート活性化ポリエチレングリコール(SC−PEG)、チアゾリジンチオン活性化ポリエチレングリコール(T−PEG)、および/または、ウレタン結合もしくはアミド結合形成性活性化ポリエチレングリコールなどが挙げられる。SC−PEGが好ましい。
【0018】
本発明の更なる態様は、ポリマー複合型または非複合型の安定化酵素を用いた治療方法を包含する。特に、本発明の方法は、SCIDまたはその他の酵素不全に関連する状態の治療を目的として、システイン安定化rADAを有効量でそれを必要とする患者に投与する工程を含む。
【0019】
本発明の目的を遂行するためには、「有効量」とは、当然ながら、所望する臨床効果、すなわち、患者(すなわち、ほ乳類またはヒト)の酵素不全またはSCID状態を軽減、遅延、寛解、あるいは回復するような効果を達成する量を意味するものと理解されたい。
【0020】
さらに、明細書中で便宜上単数で表している事項については、これに限定しているわけではない。従って、例えば、細胞を含む組成物には、そのような細胞を1つもしくはそれ以上含む組成物が含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.概要
広義には、本発明は、安定性が高められたキャップまたは保護タンパク質を提供する。特に、タンパク質が、例えば保管中に溶液中で不安定な性質を表すように、タンパク質の溶液環境下に晒された、1つまたはそれ以上の酸化可能なまたは反応性のシステイン残基を発現したタンパク質を提供する。好ましくは、該タンパク質は組換え産生ADA酵素である。
【0022】
本発明に従ってキャップされうる酸化可能なアミノ酸残基の数は、目的のタンパク質中に存在するそのようなアミノ酸残基の数、および該タンパク質の三次構造中のそれらの位置に応じて決まる。いずれの理論または仮説にも縛られることは意味しないが、タンパク質が水性媒体中に溶解または懸濁されている場合に、溶液に晒された酸化可能なアミノ酸は、酸化を介したタンパク質の分解を最も生じやすいと考えられる。従って、そのようなアミノ酸を識別し、キャップ化することによって、そのようなアミノ酸残基の酸化を阻害し、それにより、キャップされていないタンパク質と比較して、安定性が高められたキャップ化タンパク質を提供する。故に、例えば、キャップされるべき残基は、水性媒体中で不安定な目的のタンパク質の分解生成物を同定し、酸化可能なアミノ酸の存在に対するフラグメント切断の位置を決定することによって決定できる。キャップすべき残基の数は、少なくとも1個から目的のタンパク質の安定化に必要な数まで(例えば、50個まで、またはそれ以上など)である。さらに詳細には、キャップすべき残基の数は、さらに典型的には1〜約20個の範囲であり、さらに具体的には、1〜約10個の範囲である。
【0023】
本発明は、酸化可能なシステインを有する組換え発現タンパク質を安定化させる方法も提供する。本発明は、組換え発現タンパク質を実質的に不活化することなく、酸化可能なシステインをキャップするのに十分な反応条件下で、酸化可能なシステインを有する組換え発現タンパク質を十分量のキャップ化剤で処理する工程を含む。
【0024】
当業者においては自明であるように、この態様において「処理する」とは、反応性システインの選択的酸化を進行させながら、該タンパク質の生物学的活性を保護するであろう、適切な緩衝液中で2種類の主要反応物を接触させることにより、組換え発現タンパク質をキャップ化剤と反応させることである。「処理」は、発現後、組換え体産生の様々な段階で行うことができるが、本発明のこの態様では、発現後の精製工程のうちの1つもしくはそれ以上の工程が好ましい。例えば、細胞抽出物由来のADAタンパク質の初期精製は、ジチオスレイトール(DTT)などの還元剤の存在下、陰イオン交換クロマトグラフィーを通すことによって行える。続いて、DTTを除去する際に、半精製ADAを十分量のキャップ化剤で処理し、反応性システインを遮断できる。同様の操作は、精製の任意の段階において、あるいは、精製の最後であってPEG化の前に精製タンパク質を用いて、実施することができる。一旦キャップ化されると、修飾ADAの安定性を維持するための還元剤は必要ない。
【0025】
B.ADAタンパク質
本発明の特定の好ましい態様では、組換え発現タンパク質は、rhADAまたはrbADAである。より好ましくは、翻訳rhADAは、キャップ化前にSEQ.ID.NO.2のアミノ酸配列を有しており、また、翻訳rbADAは、キャップ化前にSEQ.ID.NO.4のアミノ酸配列を有している。SEQ.ID.NO.2および4は、予想される成熟翻訳配列であり、N末端Met残基の翻訳後切断を反映していることは注目に値する。故に、翻訳された各成熟ADAタンパク質中では、システイン残基は74番の位置に存在している。さらに、ウシの腸から単離した天然ウシADAは、C末端から翻訳後除去された6残基を有することも注目に値する。本発明の追加的特徴として、rbADAは、C末端の6残基を有しない状態で(ムテインとして)発現されるか、または、翻訳後修飾を受け、精製天然ウシADAには欠けているのと同一の該C末端残基が除去される。
【0026】
ウシの腸から単離された天然ウシADAは多型であることも注目すべきである。故に、SEQ.ID.NO.4を参照すると、ウシADA多型には、例えば、198番のリジンの位置にグルタミンが、245番のスレオニンの位置にアラニンが、351番のグリシンの位置にアルギニンが存在するものなどが含まれる。従って、本発明に従う組換え位置74番ムテインのウシADAも、次に示す位置またはそれらと類似の位置の1つもしくはそれ以上の位置でさらなる置換を有する場合がある:198番のリジンの代わりにグリシン;245番のスレオニンの代わりにアラニン;351番のグリシンの代わりにアルギニン。
【0027】
さらに、rhADAは、SEQ.ID.NO.1に従い、大腸菌での発現に最適化されたコドンを有するDNAによって発現され、rbADAは、SEQ.ID.NO.3に従い、大腸菌での発現に最適化されたコドンを有するDNAによって発現される。適切な発現ベクターは、rhADAまたはrbADAをそれぞれコードしているゲノムDNAまたはcDNAから調製でき、さらに、随意的に、適切に機能発揮できるように接続した誘導性プロモーターの制御下におくことができる。
【0028】
以下に例示するように、基本rhADAヌクレオチド配列を含むベクター(pET9d)は、米国ノースカロライナ州デューク・メディカルセンター(Duke Medical Center)のマイク・ハーシュフィールド(Mike Hersufield)氏から入手した(HADA1092クローン)。次に、HADA1092クローンを細菌発現用に最適化し、誘導性プロモーターの制御下にある適切な発現ベクターに挿入し、BLR(λDE3)株に形質転換した。この組換えクローンをEN760と名付けた。
【0029】
同様に、組換えrbADA発現クローンは、BioCatalyticsプラスミド(p2TrcGro−RoADA2−23)を新鮮な大腸菌BL21化学的コンピテント細胞(Novagen社、カタログ番号69449−4、ロット番号N60830、遺伝子型F- ompT hsdS(r--)gal dcm)に形質転換することによって構築した。このクローンは、Roche社から提供されたウシADA遺伝子および大腸菌GroEL/GroESシャペロンオペロン(米国特許第6,366,860号明細書参照)を有するプラスミドp2TrcGro−RoADA2−23を含む。この新規形質転換クローンは、CFB培地(10g/Lの大豆ペプトン、5g/Lの酵母抽出物、10g/Lの塩化ナトリウム)、2%(w/v)寒天および25μg/mlのカナマイシンを含むプレート上、30℃で培養した。rbADAの発現はIPTGで誘導した。
【0030】
C.キャップ化剤および反応条件
本発明に従う方法において使用するキャップ化剤としては、酸化グルタチオン(これが好ましい)、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、システインおよび当業者において既知のその他のジチオール類、ならびにそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。本明細書に記載している方法の反応相中に含まれるキャップ化剤の量および濃度は、使用するキャップ化剤および熟練者の必要性によって異なるが、それらの決定にあたっては、不要な実験を要しない。基本型として酸化グルタチオンを使用する場合には、rhADAなどの組換えタンパク質と反応させる時の濃度範囲は、約25μM〜約100mMである。好ましくは、酸化グルタチオンは、約5mM〜約25mMの濃度範囲で組換えタンパク質と反応させる。
【0031】
キャップ化剤と組換えタンパク質との反応中の反応条件としては、さらに、pH約6.5〜8.4、好ましくは約7.2〜7.8の範囲の水溶液を使用することを含む。加えて、好ましくは、該水溶液は、適切な緩衝液、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、Tris、Hepesおよびそれらの混合物を10〜150mMの濃度範囲で含む(コメント:キャップ化は、この濃度範囲外、すなわち、10mM未満または150mMより高い緩衝液中でも進行する)。さらに、反応条件としては、タンパク質が分解を起こさない温度、すなわち 約4〜37℃で反応を進行させることを含む。場合によっては、キャップ化はこの温度範囲外、例えば、0〜4℃未満または37℃より高くても進行する。反応は、反応性システインの安定化が所望する状態に達するまで十分時間行う。単なる例ではあるが、反応は、約5秒〜約8時間(例えば、一晩など)行う。
【0032】
本発明は、好ましい組換えタンパク質、すなわち、rhADAまたはrbADAについて記載しているが、本明細書中に記載している過程は、不安定性に関与している遊離システイン基を有する任意の組換え調製タンパク質、酵素など(例えば、ある種のインターフェロン類など)を用いて実施できることは明かである。例えば、α、βまたはγインターフェロンは、本明細書記載の方法に従って安定化できる。その他の適切なタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドとしては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:ヘモグロビン、血清タンパク質(第VII因子、第VIII因子および第IX因子を含む血液因子など)、免疫グロブリン類、サイトカイン類(インターロイキン類、すなわち、IL−1〜IL−13など)、コロニー刺激因子(顆粒球コロニー刺激因子、血小板由来増殖因子など)など。生物学的または治療上の関心が高いその他のタンパク質としては、インスリン、植物タンパク質(レシチン類およびリシン類など)、腫瘍壊死因子および関連タンパク質、トランスフォーミング増殖因子などの増殖因子(TGFαまたはβ、ならびに上皮増殖因子など)、ホルモン類、ソマトメジン類、エリスロポエチン、色素性ホルモン類、視床下部放出因子、抗利尿ホルモン類、プロラクチン、絨毛性ゴナドトロピン、卵胞刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、ヒト組織プラスミノゲン活性化因子などが挙げられる。免疫グロブリンとしては、IgG、IgE、IgM、IgA、IgDならびにそれらのフラグメントおよびそれらを構築する1本鎖が挙げられる。
【0033】
酵素としては、炭水化物特異的酵素、タンパク質分解酵素、酸化還元酵素、トランスフェラーゼ、加水分解酵素、脱炭酸酵素、異性化酵素およびリガーゼなどが挙げられる。 特定の酵素に限定されるわけではないが、目的の酵素の例としては次のようなものが挙げられる:L−アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデイミナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、エンドトキシナーゼ類、カタラーゼ類、キモトリプシン、リパーゼ類、ウリカーゼ類、アデノシンジホスファターゼ、チロシナーゼ類およびビリルビンオキシダーゼなど。炭水化物特異的酵素としては、グルコースオキシダーゼ類、グルコシダーゼ類、ガラクトシダーゼ類、グルコセロブロシダーゼ類、グルコウロニダーゼ類などが挙げられる。
【0034】
上記のリストは、本発明に従う方法を用いて安定化させることが企図されるタンパク質の例示に過ぎない。本明細書で定義されるタンパク質、酵素などは、特別に取り上げたものではなくても、反応性システインを有するものであれば、本発明の方法に含まれることが意図されているものと理解されたい。
【0035】
本発明の方法を用いた結果として、安定化タンパク質は、反応性システインの位置に、結合したキャップ化基を有する。例えば、グルタチオンまたはその他のキャップ化基は、次に示すように、ジスルフィド結合を介してrhADAに結合する:
ADA−S−S−グルタチオン
ここで、ADAの一次配列中の1つのシステインは、1分子のグルタチオンと結合し、以下に示すように、ADA Cysの−SHがグルタチオンの−SHと反応する:
【化1】

【0036】
このようなジスルフィド結合は、酸化分解経路に対して安定であり、従って、特にpH7.4の範囲においては、rhADAをより安定化させる。さらに、rhADAなどの安定化タンパク質のグルタチオン付加物の分子量は、非安定化型と比較して、使用したキャップ化剤の分子量とほぼ同量分だけ増加する。このことにより、望ましい場合には、所望する付加物の分離が可能である。安定化付加物は、さまざまな物理的および化学的特性を有しており、このことを利用してクロマトグラフィーによる分離および単離もできるであろう。
【0037】
D.ポリマー複合体
本発明の別の態様では、システインがキャップ化または安定化された組換えタンパク質を、ポリマー複合体の作出を目的として、適切なポリマーと共役させる。ポリマーの共役は、当業者に既知の反応であるPEG化反応によって行なわれることが好ましい。概説すると、例えば、システインがキャップ化または安定化されたポリマー複合体が生成するのに十分な条件下、水溶液中でrhADAまたはrbADAを活性化ポリマーと反応させる。これに関しては、広範な活性化ポリエチレングリコール類を使用でき、それらとしては例えば、米国特許第5,122,614号、同第5,324,844号、同第5,612,460号および同第5,808,096号(スクシンイミジルカルボネート活性化ポリエチレングリコール(SC−PEG)および関連する活性化PEG類)、同第5,349,001号(環状イミドチオン活性化PEG類)、同第5,650,234号の各明細書に記載されているもの、ならびに当業者において既知のその他のものなどが挙げられる。上述の特許のそれぞれの開示を本明細書中に参照として援用する。ネクター/シェアウォーター/ポリマーズ(Nektar/Shearwater Polymers)社から入手可能な活性化ポリマーも参照のこと。活性化PEG類は、直線、分岐鎖またはU−PEG誘導体(例えば、米国特許第5,605,976号、同第5,643,575号、同第5,919,455号および同第6,113,906号の各明細書に記載されているものなど。これらを本明細書中に参照として援用する)、または分岐鎖誘導体である。さらに、PEGに基づくポリマーに加え、その他多数のポリアルキレンオキシド類も使用できることが理解されよう。例えば、本発明の複合体は、参照することにより本明細書に援用される、日油株式会社のDrug Delivery Systemカタログ第8版(2006年4月)に記載されている、マルチアームPEG−OHまたは「スター−PEG」生成物を、適切な活性化ポリマーに転換することを含む方法によっても調製でき、その際、前述の米国特許第5,122,614号または同第第5,808,096号の各明細書に記載の活性化法を用いる。特に、PEGは次のような化学式で表される:
【化2】

【0038】
または
【化3】

【0039】
ここで、u’は、約4〜約455までの整数であり、好ましくは、与えられるポリマーの分子量が約5,000〜約40,000の範囲になるような整数であり;さらに、残基のうち、最大3つまでの末端部位がメチルもしくはその他の低級アルキルでキャップされる。
【0040】
いくつかの好ましい実施形態では、PEGのアームの4本全てが適切な離脱基、すなわち、SCなどに転換され、組換えタンパク質に容易に結合できるようになっている。転換前のそのような化合物としては次のようなものが挙げられる:
【化4−1】

【化4−2】

【0041】
および
【化5】

【0042】
本発明に従う最も好ましい実施態様では、活性化ポリエチレングリコールはタンパク質とウレタン結合またはアミド結合するものである。
【0043】
さらに別の態様では、活性化ポリマーとして、立体的に妨害された(hindered)エステル系リンカーを用いることができる。例えば、発明の名称を「立体的に妨害されたエステルに基づく生体分解性リンカーを有するポリアルキレンオキシド類(Polyalkylene Oxides Having Hindered Ester−Based Biodegradable Linkers)」とする米国特許仮出願第60/844,942号明細書を参照のこと。参照することにより、その内容を本明細書に援用する。例えば、次のような化合物が挙げられるが、これらに限定されるわけではない:
【化6】

【0044】
および
【化7】

【0045】
ここで、「u」は、10〜約455までの整数である。
【0046】
適切なポリマーは、分子量によって実質的に異なる。通常、平均分子量が約2,000〜約100,000の範囲のポリマーを本発明の目的遂行のために選択する。分子量約4,000〜約45,000のものが好ましく、5,000〜約12,000のものが特に好ましい。
【0047】
末端にカルボン酸を有するポリマーを高純度で調製する方法については、米国特許出願第11/328,662号明細書に記載されており、参照することによりその内容を本明細書に援用する。該方法には、最初にポリアルキレンオキシドの四級アルキルエステルを調製し、次に、それらをカルボン酸誘導体に転換する工程を含む。PAOカルボン酸調製の第一段階には、ポリアルキレンオキシドカルボン酸のt−ブチルエステルのような中間体を形成する工程を含む。この中間体は、カリウムt−ブトキシドなどの塩基の存在下、PAOをt−ブチルハロアセテートと反応させることによって生成する。一旦t−ブチルエステル中間体が生成すると、ポリアルキレンオキシドのカルボン酸誘導体は、92%を超える純度、好ましくは、97%超える純度、より好ましくは99%超える純度、最も好ましくは99.5%超える純度で得られる。 さらに別の態様においては、末端アミノ基を有するポリマーを用いてADA複合体を生成できる。末端アミンを有するポリマーの高純度調製法については、米国特許出願第11/508,507号および同第11/537,172号の各明細書に記載されており、参照することによりそれらの内容を本明細書に援用する。例えば、アジドを有するポリマーをトリフェニルホスフィンなどのホスフィン系還元剤、またはNaBH4などのアルカリ金属ボロヒドリド還元剤と反応させる。別の方法としては、遊離基を有するポリマーは、保護アミン塩(例えば、メチル−tert−ブチルイミドジカルボネートのカリウム塩(KNMeBoc)またはジ−tert−ブチルイミドジカルボネートのカリウム塩(KNBoc2)など)と反応させ、続いて、保護アミノ基を脱保護する。これらの工程に従って生成された末端アミンを有するポリマーは、約95%を超える純度、好ましくは99%を超える純度である。
【0048】
上掲の米国特許第5,643,575号明細書のポリマー類によって分岐がもたらされることにより、ひとつの付着点から派生する生物学的活性分子上へのポリマー結合数を増やす方法として、二次的または三次的分岐が可能になる。必要であれば、不要な実験を行うことなく、二官能性結合基に結合できるように、水溶液ポリマーを機能性化できるものと理解されたい。
【0049】
好ましくは、本明細書において使用するポリマー性基質は、室温で水溶性である。そのようなポリマーとしては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール類などのホモポリマー類、ポリオキシエチレン化ポリオール類、それらのコポリマー類ならびにそれらのブロックコポリマー類など。このとき、該ブロックコポリマー類の水溶性は維持されている。mPEGに加えて、C1-4アルキル末端ポリマー類も有用である。
【0050】
PAOに基づくポリマー類とは別に、有用な非抗原性材料であるデキストラン、ポリビニルピロリドン類、HPMA類(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド類)などのポリアクリルアミド類、ポリビニルアルコール類、炭水化物に基づくポリマー類、それらのコポリマー類なども用いられる。当業者には、上掲の化合物群は単なる例示であり、本明細書に記載している性質を有する全てのポリマー材料が含まれることは明らかであろう。本発明の目的遂行のためには、「実質的に、または実際上は非抗原性である」とは、ほ乳類において非毒性であり、かつ明白な免疫原性応答を誘起しないことが当該分野において確認されている全ての材料を指す。
【0051】
E.キャップ化剤を含む細胞抽出培地
本発明の別の態様においては、反応性システインを有する組換え発現タンパク質を安定化させる別の方法を提供する。この方法には、適切な原核細胞性発現系内で組換えによって発現されたタンパク質、および、十分量のキャップ化剤を含む細胞抽出培地から該組換え発現タンパク質を回収する工程が含まれ、それによって、該組換え発現タンパク質上の反応性システインは、適切な原核細胞性発現系内の原核細胞から分泌される際に実質的に安定化される。本発明の第一の態様に従えば、発現される好ましいタンパク質はrhADAまたはrbADAである。適切な原核細胞性発現系は、rhADAまたはrbADAを産生できる大腸菌発現系である。
【0052】
発現ベクター(pET9d)を含むrhADA cDNAは、大腸菌発現株BL21(λDE3)に導入し、あるいは、同等の発現ベクターおよび細菌性株の組み合わせにより、IPTG誘導によって細菌内で組換えタンパク質を合成させる。次に、EDTAおよび所望する濃度(本明細書においては5〜50mM)のキャップ化剤を添加したTris緩衝液(pH7.4)中で細胞を溶解させ、発現されたrhADAを含む抽出物を調製する。
【0053】
以下の実施例は、本発明の更なる理解のために供するものであるが、如何なる意味においても、本発明の有効範囲を制限するためのものではない。
【実施例】
【0054】
実施例1
合成rhADA cDNAを有する組換え細菌性クローンの作成
基本的なヒトアデノシンデアミナーゼヌクレオチド(rhADA)配列を有するベクター(pET9d−HCADA 1092)は、米国ノースカロライナ州デューク・メディカルセンター(Duke Medical Center)のマイク・ハーシュフィールド(Mike Hersufield)氏から入手した(HADA1092クローン)。該cDNAは、大腸菌K12用の標準的な細菌コドン使用法に従う細菌性発現用に最適化されたコドンであり、コドンデータとしては、グランサム(Grantham),R.ら(1981;「遺伝子発現性のために調整されたゲノム計画におけるコドンカタログの使用法(Codon catalogue usage in genome strategy modulated for gene expressivity)」、Nucleic Acid Res.,9:r43-r47)、およびラテ(Lathe),R.(1985;「アミノ酸配列データから推定された合成オリゴヌクレオチドプローブ類:理論的および実践的考察(Synthetic oligonucleotide probes deduced from amino acid sequence data,Theoretical and Practical considerations)、J.Mol.Biol.,183:1-12」)によって記載されたものを使用し、ここに参照することによりこれらの文献の全体を本明細書に援用する。次に、対応するRNA配列に関し、ヘアピン構造もしくはループ形成についての分析を行い、最低遊離エネルギー計算を行い、続いて、NcoIおよびHindIII隣接部位を合成的に挿入し、発現ベクターpET28a(ノヴァジェン(Novagen)社から購入可能)にクローニングできるようにした。ヒトADA cDNAを有する得られた組換えプラスミドをpHADApET28aと名付け、大腸菌のBLR(λDE3)株(ノヴァジェン(Novagen)社)に形質転換し、rhADAを活発に発現するクローンを作出した。この組換えクローンは、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)−誘導性プロモーターの制御下にあるrhADA遺伝子を有しており、EN760と名付けた。rhADAタンパク質をコードしているコドン最適化DNA分子は、SEQ.ID.NO.1に示している。
【0055】
実施例2
rhADAを発現するEN760クローンの発酵
BLR(λDE3)プレート由来のひとつのコロニーは、10μg/mlのカナマイシンおよび12.5μg/mlのテトラサイクリンを加えた5mlの培地(50ml管)中に接種した。管は、37℃/250rpmのシェーカー内で7時間インキュベートし、次に、250μlの培養物を取り出し、新鮮な完全LB培地250mlが入った1Lフラスコに接種した。このフラスコは、37℃/250rpmのシェーカー内で一晩インキュベートした。一晩培養したもの(OD600=4.401)を取り出し、4.5Lの完全SuperBroth(完全:10μg/mlのカナマイシン、12.5μg/mlのテトラサイクリン、5ml/Lのグリセロール、および1.68ml/LのMgSO4・7H2O)を含むBioFlo 3000発酵機(容量5L;ノース・ブランウスウィック・サイエンティフィック社(North Brunswick Scientific Company)、米国ニュージャージー州エジソン)に接種したところ、初期のOD600=0.2445であった。培養物はOD600=22.5に達するまで増殖させ(EFT 6時間)、5mMのIPTGで誘導することにより、産生相を開始させた。培養物は、誘導から2時間後(OD600=44)に、ベックマン(Beckman)社のCoulter Centrifuge(7000rpm/4℃/20分)を用いて回収し、湿細胞重量として282gを得た。
【0056】
培地組成
SuperBrothの組成(BD バイオサイエンシーズ(BD BioSciences)社から購入したDifco(商標)SelectAPS(商標)SuperBroth)
オートクレーブ組成物:
大豆加水分解物 12.0g/L
酵母抽出物 24.0g/L
リン酸二カリウム 11.4g/L
リン酸一カリウム 1.7g/L
ろ過組成物(添加物)
カナマイシン 10μg/ml
テトラサイクリン 12.5μg/ml
発酵パラメーター:
回転数:1000rpm、温度:37℃、pH:7.0、通気:1.5/2.0(誘導)vvm、カナマイシン:10μg/ml、テトラサイクリン:12.5μg/ml
、MgSO4・7H2O:1.68ml/L
【0057】
実施例3
合成rbADA cDNAを有する組換え細菌性クローンの作成
ウシ腸調製物由来の精製成熟ADAタンパク質は、cDNA配列(GenBank NP 776312:本明細書に参照として援用する)から予測されるN末端メチオニンおよび最後の6つのC末端残基を欠いた、356個のアミノ酸からなるタンパク質である。概説すると、確認済みのポリペプチド配列をバイオカタリティクス(BioCatalytics)社に提供し、重複オリゴヌクレオチドセグメントの化学合成を含む該社の方法に従い、大腸菌内での発現用に最適化されたコドンを有する新規遺伝子の全合成を行った。バイオカタリティクス(BioCatalytics)法については、米国特許第6,366,860号明細書に詳細に記載されており、その内容の全てを本明細書に参照として援用する。
【0058】
ウシADAの発現については、いくつかの発現系で調べた。例えば、隣接する制限酵素部位であるNdeIおよびBamHIは遺伝子の末端に位置している。制限酵素NdeIおよびBamHIで合成DNAを切断した後、やはり同じ2種の酵素で切断したプラスミドベクターpET−9d(ノヴァジェン(Novagen)社)内に、T4 DNAリガーゼを介して1.1kbの遺伝子を結合させた。組換えプラスミドは、BTX Electro Cell Manipulator 600をメーカーの指示に従って使用し、電気穿孔法によって大腸菌株BLR(DE3)またはHMS174(DE3)内に導入した。形質転換混合物は、カナマイシン(15μg/ml)を含むLB寒天プレート上に播種した。これにより、プラスミドpET−9d/bADA(bADA/pET9d:BLR(DE3)またはbADA/pET9d:HMS174(DE3)と名付けた)を含むコロニーを選択した。ADA変異体遺伝子ヌクレオチド配列は、Big Dye Terminatorsを用い、ABI Prism 310 Genetic AnalyzerによるDNA配列分析を行って確認した。さらに、単離したコロニーを培養することによって精製し、LB培地中でのIPTG誘導性遺伝子発現について分析を行った。この分析は、ノヴァジェン(Novagen)pET System Manual 第9版に記載されているような標準的な方法に従って行った。時間、温度および誘導物質濃度を含むいくつかの誘導パラメーターについて調べた。好ましい条件は、0.3%のラクトースを用いた、37℃、12時間の誘導であり、これによって宿主細菌の細胞質中のADA産生が高レベルに達し、細胞総タンパク質の約20%を占めるまでになった。ADA生成物は、SDS PAGE分析を行って発現を確認した。
【0059】
実施例4
実施例3においてrbADA発現クローンから産生された組換えADAタンパク質の精製
rbADAの精製は、エンゾン(Enzon)社によって開発された3クロマトグラフィープロトコールに従って行った。概説すると、−80℃で保存していた200gの溶解細胞ペースト(バイオカタリティクス(BioCatalytics)社から入手)を20mMのBis−Tris、1mMのEDTAを含む1800mlの緩衝液(pH7.4)に再懸濁し、Tempest Virtis(Sentry(商標)マイクロプロセッサー、米国マサチューセッツ州ボストン)を用いて1200RPMで10秒間均質化した。この懸濁物をステンレスのメッシュ(網目サイズ250μm、No.60、W.S.タイラー(Tyler)社)に通し、大きな固まりを除去した。均質な細胞懸濁物は、15,000psiで3サイクルの微細流動化を行った(装置を氷槽中に入れた)(Micro Fluidizerを使用、マイクロフルーディクス(Microfluidics)社、モデル#110Y、米国マサチューセッツ州ボストン)。微細流動化の最後に、上記の緩衝液200mlを用いて装置をすすぎ、この溶液を懸濁液とあわせた。細胞溶解物由来の可溶性タンパク質は、4℃、7100rpm(12000×g)で60分間遠心分離することによって抽出した(Avanti J−201を使用、ベックマン・クールター(Beckman Coulter)社、ローター#JLA8.1000)。上清を注意深く回収し、不要な混入が生じないようにした。得られた上清の量は2100mlであり、BCA法で求めた総タンパク質濃度は13.2mg/mlであった。
【0060】
この細胞抽出物からヌクレオチド類を除去することを目的として、31mlの10%PEI溶液を上記の上清に加(PEIの最終濃度は0.15%)え、10分間撹拌することによってよく混合した。細胞抽出物は4℃で一晩保存した。一晩保存したサンプルに生じた沈殿物は、4℃、7100rpm(12000×g)で60分間遠心分離することによって除去した(Avanti J−201を使用、ベックマン・クールター(Beckman Coulter)社、ローター#JLA8.1000)。同様に、上清を注意深く回収し、不要な混入が生じないようにした。得られた上清の量は1940mlであり、BCA法で求めた総タンパク質濃度は3.53mg/mlであった。システインの酸化からrbADAまたはrhADAを保護する操作は、pH2〜10において、5〜50mMの酸化グルタチオンを加えることによって行った。第一カラムへのADAの結合を補助することを目的として、この細胞抽出物にPEG4600をゆっくり加え、さらに、1NのNaOHおよび1NのHClを用いてこの細胞抽出物のpHを6.5にゆっくりと調整した。この上清については、再度、4℃、7100rpm(12000×g)で60分間遠心分離した後(Avanti J−201を使用、ベックマン・クールター(Beckman Coulter)社、ローター#JLA8.1000)、次のカラムにかけた。
【0061】
細胞抽出物は、20mMのTris−Bis、1mMのEDTAを含む緩衝液(pH6.5)で予め平衡化したCapto Qカラム(カタログ#17−5316−01、GEヘルスケア(GE Healthcare)社、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ:XK−50カラムにベッド容量350mlが予め充填されている)にかけた。ADAの溶出は、始めに60mMおよび70mMのNaClをカラムに流して不純物を除去した後、80mMのNaClを含む平衡緩衝液を用いて行った。溶出プロファイルは、ADA活性、SDS−PAGE分析、ウェスタンブロットおよびRP−HPLCによって分析した。
【0062】
Capto Qカラムによる溶出後、2つの疎水性相互作用クロマトグラフィー精製を続けて行い、タンパク質の純度をさらに上げた。最初に用いたHICはOctyl Sepharose 4FF(カタログ#17−0946−02、GEヘルスケア(GE Healthcare)社、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)である。Capto Qカラム由来のADAフラクションをプールしたものに硫酸アンモニウム粉末を直接加えて(NH42SO4濃度を1.5Mに調整し、pHを6.5に調整した。ろ過したサンプル(ナルジーン・ヌンク(Nalgene Nunc)社、カタログ#540887、MEMB 0.2PESを使用、米国ニューヨーク州ロチェスター)を第一のHICカラムにかけたが、このとき該カラムは、1.5Mの(NH42SO4、20mMのリン酸カリウム、1mMのEDTA(pH6.5)で予め平衡化しておいた(XK−50カラムにベッド容量150mlが予め充填されている:GEヘルスケア(GE Healthcare)社、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)。ADAタンパク質は硫酸アンモニウム濃度勾配によって流出させ、この溶出物の純度プロファイルはSDS−PAGEおよびRP−HPLCで確認した。第一のHICカラムのフラクション中のADAタンパク質を集め、(NH42SO4濃度を1Mに調整し、直接第二のHICカラム(XK−50カラムにベッド容量150mlのHIC Phenyl HPが予め充填されている:GEヘルスケア(GE Healthcare)社、カタログ#17−1082−01、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)にかけたが、該カラムは、1Mの(NH42SO4、20mMのKH2PO4−K2HPO4、1mMのEDTA(pH6.5)で予め平衡化しておいた。ADAは、20mMのKH2PO4−K2HPO4、1mMのEDTA(pH6.5)中で硫酸アンモニウム濃度を1M〜300mMまで変化させた溶液を用いて溶出させた。これらのフラクションのADA純度は、SDS−PAGEおよびRP−HPLCで分析した。さらに、精製したrbADAまたはrhADAは、脱塩し、LabScale(商標)TFFシステム(メンブレン・バイオマックス5(Membrane BioMax 5)、米国マサチューセッツ州ベッドフォード)内で濃縮した。
【0063】
実施例5
酸化グルタチオンで処理したrhADA細胞抽出物の調製
実施例2に従って調製した冷凍細胞を溶解し、20mMのBis−Trisおよび1mMのEDTAを含む再懸濁用緩衝液(pH7.4)に再懸濁した。溶解、再懸濁した細胞を均質化し、250μのステンレスメッシュに通してろ過し、さらに、15000psiで3サイクル処理して微細流動化し、完全溶解物を得た。得られた細胞抽出物は、遠心分離して清澄化し、上清の半分を25mMの酸化グルタチオン(GSSG)(最終濃度)に加えた(GSSGは、200mMのBis−Tris(pH7.4)中で250mMとなるように調製した貯蔵溶液から調製した)。抽出物の残り半分は、さらに25mMのGSSGを加えて処理した後(故に、GSSGの総濃度は50mM)、更なる処理に供した。次に、両サンプルについて、0.1%のポリエチレンイミン(PEI、pH7.4)を用い、4℃で一晩処理した後、遠心分離して核酸およびタンパク質沈殿物を除去し、続いてろ過を行った。次に、清澄サンプルを陰イオン交換クロマトグラフィーにかけてさらに処理を行った。細胞抽出物調製の詳細については、以下の表1にまとめた。
【表1】

【0064】
PEI処理による細胞抽出物の清澄化は、SDS−PAGEで確認した。GSSGによるADAタンパク質の保護については、逆相HPLCカラムで確認した。
【0065】
実施例6
酸化グルタチオン存在下で陰イオン交換クロマトグラフィーを行うことによるrhADAの精製
上の実施例によって得られた細胞抽出物(100ml)を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムにかけた(カラムとしては、Q Sepharose fast flow、DEAE Sepharose fast flow、Capto Q Sepharose fast flowなどを使用できる。GEヘルスケア(GE Healthcare)社、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)。2種類の異なるクロマトグラフィーを行い、25mMのGSSG処理細胞抽出物および50mMのGSSG処理細胞抽出物からrhADAを精製した。概説すると、細胞抽出物のpHおよび伝導性を1NのNaOHを用いてそれぞれ6.5および1.5mS/cmに調整し、続いて、蒸留水で希釈した。調整済み細胞抽出物の約100ml(25mMのGSSGで処理したもの)は、20mMのBis−Trisおよび1mMのEDTAを含む平衡緩衝液(pH6.5)で予め平衡化した27mlのDEAEカラムに通した。2cv(カラム容量)の平衡緩衝液を用いて非特異的結合タンパク質を除去し、ヒトADAは、上記緩衝液中で調製したKClの直線濃度勾配(20cvで20mMまで)を用いて溶出させた。ピークに相当するフラクションを回収し、4〜20%の還元ゲルで分析し、ヒトADAを含むフラクションをプールした。タンパク質溶出に続き、NaOHおよび酢酸を用いてカラムを浄化し、平衡緩衝液で平衡化した後、同様のプロトコールに従い、50mMのGSSG処理細胞抽出物からヒトADAを精製した。グルタチオン修飾分子種の集積性を保護することを目的として、精製段階では還元剤を使用しなかった。
【0066】
このクロマトグラフィー法によってその他の不純物から分取したグルタチオンキャップrhADA(GS−rhADA)は、標準的なSDS−PAGE上での流動ピークフラクションによって確認した。GS−rhADAのADA活性は標準的な酵素アッセイによって確認した。
【0067】
実施例7
酸化グルタチオンの存在下、クロマトグラフィー法を用いたrbADAの精製
rbADAの精製は、3クロマトグラフィープロトコールに従って行った。概説すると、−80℃で保存していた200gの細胞ペースト(実施例4で得られたもの、同上)を溶解し、これを20mMのBis−Trisおよび1mMのEDTAを含む緩衝液(pH7.4)1800mlに再懸濁し、Tempest Virtis(Sentry(商標)マイクロプロセッサー、米国マサチューセッツ州ボストン)を用いて1200rpm、10秒間均質化した。この懸濁液をステンレスメッシュ(網目の大きさ250μ、No.60、W.S.タイラー(Tyler)社)に通し、大きな固まりを除去した。 均質な細胞懸濁物は、15,000psiで3サイクルの微細流動化を行った(装置を氷槽中に入れた)(Micro Fluidizerを使用、マイクロフルーディクス(Microfluidics)社、モデル#110Y、米国マサチューセッツ州ボストン)。微細流動化の最後に、上記の緩衝液200mlを用いて装置をすすぎ、この溶液を懸濁液とあわせた。細胞溶解物由来の可溶性タンパク質は、4℃、7100rpm(12000×g)で60分間遠心分離することによって抽出した(Avanti J−201を使用、ベックマン・クールター(Beckman Coulter)社、ローター#JLA8.1000)。上清を注意深く回収し、不要な混入が生じないようにした。得られた上清の量は2100mlであり、BCA法で求めた総タンパク質濃度は13.2mg/mlであった。
【0068】
この細胞抽出物からヌクレオチド類を除去することを目的として、31mlの10%PEI溶液を上記の上清に加え(PEIの最終濃度は0.15%)、10分間撹拌することによってよく混合した。細胞抽出物は4℃で一晩保存した。一晩保存したサンプルに生じた沈殿物は、4℃、7100rpm(12000×g)で60分間遠心分離することによって除去した(Avanti J−201を使用、ベックマン・クールター(Beckman Coulter)社、ローター#JLA8.1000)。同様に、上清を注意深く回収し、不要な混入が生じないようにした。得られた上清の量は1940mlであり、BCA法で求めた総タンパク質濃度は3.53mg/mlであった。
【0069】
74番のシステイン(すなわち、N末端Metが存在する場合には、75番のシステイン)の保護は、pH6.5において25mMの酸化グルタチオンを用いてこのアミノ酸をキャップすることによって行った。ADAの第一カラムへの結合を補助することを目的として、この細胞抽出物に10%のPEG4600をゆっくり加え、1NのNaOHを用いてこの細胞抽出物のpHを6.5にゆっくり調整した。この上清について再度4℃、7100rpm(12000×g)で60分間遠心分離した(Avanti J−201を使用、ベックマン・クールター(Beckman Coulter)社、ローター#JLA8.1000)後に次のカラムにかけた。
【0070】
細胞抽出物は、20mMのTris−Bis、1mMのEDTAを含む緩衝液(pH6.5)で予め平衡化したCapto Qカラム(カタログ#17−5316−01、GEヘルスケア(GE Healthcare)社、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ:XK−50カラムにベッド容量350mlが予め充填されている)にかけた。ADAの溶出は、始めに60mMおよび70mMのNaClをカラムに流して不純物を除去した後、80mMのNaClを含む平衡緩衝液を用いて行った。溶出プロファイルは、ADA活性、SDS−PAGE分析、ウェスタンブロットおよびRP−HPLCによって分析した。
【0071】
Capto Qカラムによる溶出後、2つの疎水性相互作用クロマトグラフィー精製を続けて行い、タンパク質の純度をさらに上げた。最初に用いたHICはOctyl Sepharose 4FF(カタログ#17−0946−02、GEヘルスケア(GE Healthcare)社、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)である。Capto Qカラム由来のADAフラクションをプールしたものに硫酸アンモニウム粉末を直接加えて(NH42SO4濃度を1.5Mに調整し、pHを6.5に調整した。ろ過したサンプル(ナルジーン・ヌンク(Nalgene Nunc)社、カタログ#540887、MEMB 0.2PESを使用、米国ニューヨーク州ロチェスター)を第一のHICカラムにかけたが、このとき該カラムは、1.5Mの(NH42SO4、20mMのリン酸カリウム、1mMのEDTA(pH6.5)で予め平衡化しておいた(XK−50カラムにベッド容量150mlが予め充填されている:GEヘルスケア(GE Healthcare)社、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)。ADAタンパク質は硫酸アンモニウム濃度勾配によって流出させ、この溶出物の純度プロファイルはSDS−PAGEおよびRP−HPLCで確認した。第一のHICカラムのフラクション中のADAタンパク質を集め、(NH42SO4濃度を1Mに調整し、直接第二のHICカラム(XK−50カラムにベッド容量150mlのHIC Phenyl HPが予め充填されている:GEヘルスケア(GE Healthcare)社、カタログ#17−1082−01、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)にかけたが、該カラムは、1Mの(NH42SO4、20mMのKH2PO4−K2HPO4、1mMのEDTA(pH6.5)で予め平衡化しておいた。ADAは、20mMのKH2PO4−K2HPO4、1mMのEDTA(pH6.5)中で硫酸アンモニウム濃度を1M〜300mMまで変化させた溶液を用いて溶出させた。これらのフラクションのADA純度は、SDS−PAGEおよびRP−HPLCで分析した。さらに、精製したrbADAは、脱塩し、LabScale(商標)TFFシステム(メンブレン・バイオマックス5(Membrane BioMax 5)、米国マサチューセッツ州ベッドフォード)内で濃縮した。
【0072】
実施例8
質量分析および逆相HPLC(RP−HPLC)を用いて行った部分精製rhADAの特性付け
グルタチオン修飾組換えヒトADA細胞抽出物は、溶出液として20mMのBis−Trisおよび1mMのEDTAに80mMのNaClを加えたもの(pH6.5)を用い、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(Capto Qカラム、GEヘルスケア(GE Healthcare)社、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)にかけることによって部分精製を行った。主生成物含有フラクションを液体クロマトグラフィー/質量分析機(LC/MS)にかけ、ADAのグルタチオン付加物の存在について分析した。分析から、クロマトグラフィーグラムの総面積の85%を占める主ピークの分子量は40,940Daであり、これは、グルタチオン修飾rhADAの理論的質量に相当することが示された。非修飾rhADAの微量構成成分を含む数種のその他の不純物が存在しており、それらはクロマトグラムの残り15%に相当していた。
【0073】
さらに、実験を行ってグルタチオン濃度がrhADAの修飾度合いに与える影響を調べた。粗細胞抽出物を2つに分け、それぞれ、25mMおよび50mMのグルタチオンで処理した。次に、各調製物を陰イオン交換クロマトグラフィーで部分精製し、LC/MSで分析した。LC/MSの結果から、各調製物の主ピークはグルタチオン修飾rhADAの理論的質量に相当する質量を有していることが示され、そのピーク面積は、クロマトグラムの総面積の83〜85%を占めていた。非修飾rhADAの微量構成成分を含む数種のその他の不純物が存在しており、それらはクロマトグラムの残り15〜17%に相当していた。これらの結果から、グルタチオン処理は25mMおよび50mMのいずれであっても、効果的にrhADAをグルタチオン修飾rhADAに転換させることが示唆された。
【0074】
実施例9
IAAでキャップしたシステインがrhADAにもたらす保護効果の確認
以下の実験は、IAAでキャップしたADAの保護効果を確認することを目的として行った。約0.6mg/mlの濃度のrhADAは、pH7.4のリン酸ナトリウム緩衝液中、37℃で16時間、125mMのヨードアセトアミド(IAA)と反応させた。反応開始後数分間では、UVを用いたRP−HPLCおよび質量分析計によるサンプル分析から、rhADAの約70.9%がIAAでモノ誘導体化され、17.2%が二カ所において誘導体化されたことが示された。37℃で2および16時間インキュベートした後では、クロマトグラフィープロファイルは顕著な変化が見られず、酸化物の生成は示唆されなかったことから、IAA誘導体は、rhADAにおいて一般的である酸化分解路に対して安定であることが示唆された。
【0075】
IAAで誘導体化していないrhADAサンプルを用い、同一条件下(37℃、16時間、pH7.4)でインキュベートし、同様に分析を行ったところ、rhADAタンパク質は、30%程度が分解して酸化物になった。
【0076】
故に、IAAを用いたキャップ化前により、37℃、pH7.4において生じる酸化的分解からrhADAは保護された。
【0077】
実施例10
グルタチオンを用いてキャップしたシステインがrhADAにもたらす保護効果の確認
IAAに代わり、通常の生体構成成分である酸化グルタチオンを用いて反応性システインの誘導体化を試みることにした。0.6mg/mlの濃度のrhADAは、pH7.4のリン酸ナトリウム緩衝液中で25mMの酸化グルタチオンと反応させた。4、8および12時間インキュベートした後、UVを用いたRP−HPLCおよび質量分析計によってサンプルを分析した。GS−rhADAで表されるモノ誘導体型が独占的に形成されており、該誘導体は、25℃で12時間インキュベート後も安定であった。さらに、モノグルタチオン化rhADA化合物の活性は、非誘導体化rhADAのそれとの差異がほとんど確認できなかった。故に、酸化グルタチオンでrhADAの反応性システインをキャップ化することにより、優先的にモノ誘導体が得られ、これは、非誘導体化rhADAが酸化的分解を受ける条件下において安定であり、かつ、該誘導体は、rhADAの非誘導体型の活性と同等のそれを有する。
【0078】
実施例11
GS−rbADAに関する保護効果の確認
74番のシステインをグルタチオンでキャップした成熟rbADA(GS−rbADA)のサンプルは、リン酸緩衝液(pH7.8)中、0.5mg/mlの濃度に調製し、安定性試験に使用した。安定性は、220nmにおけるUV検出および質量分析計による検出(Micromass Q−TOFエレクトロスプレー質量分析計)を併用した逆相HPLC(RP−HPLC)でモニターした。HPLC条件は以下の通りである:
カラム:Zorbax 300 SB−C8(Agilent、250×4.6mm、ポアサイズ300Å、粒子径5ミクロン)
移動相A:0.1%のトリフルオロ酢酸を含む水
移動相B:0.1%のトリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル/水(80/20;v/v)
濃度勾配:時間 移動相Bの%
0 20
5 20
45 80
46 20
60 20
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/分
注入量:50μL
化合物の純度は、RP−HPLC分析によって測定し、安定性試験開始時、および試験開始後4、8および17日目を含む多数の時間点において測定した。rbADAおよびGS−rbADAのサンプルは、本試験開始時において、調製から約2ヶ月が経過しており、既にある程度の分解を受けていたことを特記しておく。しかしながら、本試験の目的遂行に対しては、調査すべき有意味なパラメーターは、試験開始時および25℃で17日間インキュベートした後における純度の差である。表1に示すように、試験開始時におけるrbADAの純度は83.7%であり、17日後には66.1%に低下していたことから、この期間中に17.6%のrbADAが分解したことが示されている。クロマトグラフィーによって分離を示したピークを質量分析したところ、31.851分に溶出し、クロマトグラムの面積の30.5%を占めている主要分解物は、質量がrbADAのそれより32Da大きかった。この質量変化は、rbADAに2つの酸素が付加し、rbADAの74番の遊離システインがスルフィン酸分解物を形成したものと一致している。32.538分に溶出した、分子量のより小さい分解物ピークは、rbADAに1つの酸素が付加し、rbADAの74番の遊離システインがスルフェン酸分解物を形成したものと一致している。rbADAでは大量の分解が観察されたのとは対照的に、GS−rbADAでは、同一条件下で保存した場合に、顕著な分解を示さなかった。その開始時の純度は81.9%であり、25℃、17日後の純度は87.4%であった。純度の明らかな上昇は、クロマトグラフィーに変化が生じたためと考えられ、このことは、連続する4つの時間点における純度(%)を調べた場合により明かである。rbADAにおいては、明らかな酸化分解の事実が観察されなかったことから、rbADAの反応性システインをキャップ化することにより、この分解経路から該酵素が保護されることが示された。これにより、74番のシステインが、ADAにおいて生じる酸化的分解の真の要因であることが示された。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップ化剤に結合している少なくとも1つのアミノ酸残基を含む、キャップ化タンパク質であって、
前記キャップ化タンパク質が、水性溶媒中において、同等の非キャップ化タンパク質よりも実質的に安定であり、
結合しているアミノ酸残基は酸化可能なアミノ酸であり、キャップ化剤は、前記アミノ酸の酸化を阻害するように選択されることを特徴とする、
キャップ化タンパク質。
【請求項2】
前記酸化可能なアミノ酸が、システイン残基、メチオニン残基、トリプトファン残基およびそれらの組合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載のキャップ化タンパク質。
【請求項3】
前記キャップ化タンパク質が、アデノシンデアミナーゼタンパク質またはインターフェロンであることを特徴とする請求項1記載のキャップ化タンパク質。
【請求項4】
前記アデノシンデアミナーゼが、組換えヒトアデノシンデアミナーゼおよび組換えウシアデノシンデアミナーゼからなる群より選択されることを特徴とする請求項3記載のキャップ化タンパク質。
【請求項5】
前記組換えヒトアデノシンデアミナーゼが、キャップ化前にSEQ.ID.NO.2を含んでおり、
前記組換えウシアデノシンデアミナーゼが、キャップ化前にSEQ.ID.NO.4を含んでいる、
ことを特徴とする請求項4記載のキャップ化タンパク質。
【請求項6】
ウシアデノシンデアミナーゼのC末端の6残基が欠如していることを特徴とする請求項5記載のキャップ化タンパク質。
【請求項7】
前記キャップ化剤が、酸化グルタチオン、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、システイン、その他のジチオール類およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載のキャップ化タンパク質。
【請求項8】
実質的に非抗原性のポリマーと共役し、ポリマー複合キャップ化タンパク質を形成することを特徴とする請求項4記載のキャップ化タンパク質。
【請求項9】
前記ポリマーが、ポリアルキレンオキシドであることを特徴とする請求項8記載のポリマー複合キャップ化タンパク質。
【請求項10】
前記ポリアルキレンオキシドが、分子量約2,000〜約100,000の大きさの範囲であることを特徴とする請求項9記載のポリマー複合キャップ化タンパク質。
【請求項11】
前記ポリアルキレンオキシドが、ポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項9記載のポリマー複合キャップ化タンパク質。
【請求項12】
前記ポリエチレングリコールが、スクシンイミジルカルボネート、チアゾリジンチオン、ウレタンおよびアミド系リンカーからなる群より選択されるリンカー化学物質を介して前記タンパク質に共役していることを特徴とする請求項11記載のポリマー複合キャップ化タンパク質。
【請求項13】
前記ポリエチレングリコールが、前記キャップ化タンパク質のLysのε−アミノ基に共有結合していることを特徴とする請求項11記載のポリマー複合キャップ化タンパク質。
【請求項14】
前記タンパク質が、前記キャップ化タンパク質のLysのε−アミノ基に結合している、少なくとも5本のポリエチレングリコール鎖を有することを特徴とする請求項11記載のポリマー複合キャップ化組換え発現タンパク質。
【請求項15】
前記タンパク質が、前記キャップ化タンパク質のLysのεアミノ基に結合している、約11〜18本のPEG鎖を有することを特徴とする請求項11記載のポリマー複合キャップ化組換え発現タンパク質。
【請求項16】
少なくとも1つの酸化可能なアミノ酸を有するタンパク質をキャップ化する方法であって、
タンパク質を実質的に不活化せずに、酸化可能なアミノ酸をキャップするのに十分な反応条件下で、前記酸化可能なアミノ酸を含むタンパク質を、十分量のキャップ化剤で処理し、安定化タンパク質を得る、
工程を有してなる方法。
【請求項17】
前記タンパク質が、組換えヒトアデノシンデアミナーゼおよび組換えウシアデノシンデアミナーゼからなる群より選択される、組換えアデノシンデアミナーゼであることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記組換えヒトアデノシンデアミナーゼが、キャップ前にSEQ.ID.NO.2を含、み、
前記組換えウシアデノシンデアミナーゼが、キャップ前にSEQ.ID.NO.4を含む、
ことを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記キャップ化剤が、酸化グルタチオン、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、システイン、その他のジチオール類およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記キャップ化剤が、酸化グルタチオンであることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記酸化グルタチオンを、約20〜約100mMの濃度でタンパク質と反応させることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記酸化グルタチオンを、約22〜約30mMの濃度でタンパク質と反応させることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記反応条件が、pHが約6.5〜約8.4の水溶液を含むことを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項24】
前記反応条件が、pHが約7.2〜約7.8の水溶液含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記水溶液が、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、TrisおよびHepesからなる群より選択される緩衝液を、20〜150mMの濃度範囲で含むことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項26】
前記水溶液中における前記キャップ化タンパク質を、キャップ化タンパク質−ポリマー複合体を形成するのに十分な条件下で、活性化ポリマーと反応させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項27】
前記活性化ポリマーが、活性化ポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記活性化ポリエチレングリコールが、スクシンイミジルカルボネート活性化ポリエチレングリコール、チアゾリジンチオン活性化ポリエチレングリコール、ならびに、ウレタン結合もしくはアミド結合形成活性化ポリエチレングリコールからなる群より選択されることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記ポリエチレングリコールが、約2,000〜約100,000の分子量を有することを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項30】
前記ポリエチレングリコールが、約4,000〜約45,000の分子量を有することを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記タンパク質がインターフェロンであることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項32】
前記インターフェロンが、βインターフェロン、αインターフェロンおよびγインターフェロンからなる群より選択されることを特徴とする請求項31記載の方法。
【請求項33】
反応性システインを有する組換え発現タンパク質を安定化する方法であって、
適切な原核細胞性発現系内でタンパク質を組換え発現させ、
十分量のキャップ化剤を含む細胞抽出培地から前記組換え発現タンパク質を回収する、
各工程を有してなり、
それによって、前記組換え発現タンパク質上の前記反応性システインが、前記適切な原核細胞性発現系内で前記原核細胞から分泌される際に安定化されることを特徴とする、
方法。
【請求項34】
前記原核細胞性発現系が、組換えアデノシンデアミナーゼを産生可能な大腸菌発現系であることを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記組換え発現タンパク質が、アデノシンデアミナーゼおよびインターフェロンからなる群より選択されることを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項36】
前記組換え発現アデノシンデアミナーゼが、キャップ化前に、SEQ.ID.NO.2またはSEQ.ID.NO.4のアミノ酸配列を有していることを特徴とする請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記キャップ化剤が、酸化グルタチオン、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、システイン、その他のジチオール類およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項38】
前記キャップ化剤が酸化グルタチオンであることを特徴とする請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記細胞抽出培地中の前記グルタチオンが、約20〜約100mMの濃度で存在することを特徴とする請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記細胞抽出培地中の前記グルタチオンが、約20〜約50mMの濃度で存在することを特徴とする請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記細胞抽出培地が、pHが7.4において、20mMのBis−Trisおよび1.0mMのEDTAを含むことを特徴とする請求項32記載の方法。
【請求項42】
ほ乳類におけるアデノシンデアミナーゼが介在する病状を治療する方法であって、
請求項15に記載のポリマー複合キャップ化組換え発現アデノシンデアミナーゼを、有効量で投与する工程を有してなる方法。
【請求項43】
前記アデノシンデアミナーゼが介在する病状が、重症複合型免疫不全症であることを特徴とする請求項42記載の方法。
【請求項44】
目的の酸化可能なタンパク質の安定誘導体の生成方法であって、
(a)前記目的とする酸化可能なタンパク質を識別する工程であって、前記タンパク質が水溶液中に存在する場合に、前記タンパク質が、1つまたはそれ以上のアミノ酸残基位置において酸化可能である工程と、
(b)前記目的とするタンパク質中の少なくとも1つの酸化可能なアミノ酸を識別する工程と、
(c)前記目的とする酸化可能なタンパク質を、前記酸化可能なアミノ酸の酸化を防ぐように選択されたキャップ化剤と反応させる工程と、
を有してなる方法。
【請求項45】
前記タンパク質が、アデノシンデアミナーゼまたはインターフェロンであることを特徴とする請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記酸化可能なアミノ酸はシステインであることを特徴とする請求項44記載の方法。
【請求項47】
前記キャップ化剤が、酸化グルタチオン、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、システイン、その他のジチオール類およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項44記載の方法。
【請求項48】
前記反応条件が、pH約6.5の水溶液を含むことを特徴とする請求項23記載の方法。

【公表番号】特表2010−500963(P2010−500963A)
【公表日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516623(P2009−516623)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/069948
【国際公開番号】WO2007/149686
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(505354899)エンゾン ファーマスーティカルズ インコーポレイテッド (28)
【氏名又は名称原語表記】ENZON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】