説明

定位置停止装置

【課題】列車を目標停止位置で確実に停止させる。
【解決手段】定位置停止装置10は、路線データベース13の路線データ13A、列車の速度を計測する速度センサ101からの速度情報101a、地上子102からの受信情報102aに基づき、列車の現在位置から目標停止位置までの停止速度パターン14Aを作成する停止速度パターン作成部14と、列車に設置された滑走検知装置104がその列車の滑走を検知すると、停止速度パターン14Aの速度より低速な滑走停止速度パターン15Aを作成する滑走停止速度パターン作成部15と、滑走停止速度パターン15Aまたは停止速度パターン14Aに従って列車の速度を制御する速度制御部12とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば列車を予め定められた位置に停止させる定位置停止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
定位置停止装置は、例えば鉄道分野において列車の運転装置に用いられており、列車が速度制御開始位置を通過すると、列車走行位置から目標停止位置までの位置に応じた目標走行速度を示す停止速度パターンを作成し、列車の走行速度が停止速度パターンに追従するよう列車のブレーキ装置を制御している。このとき、定位置停止装置は、所定の間隔で路線上の特定位置に設けられた地上子を通過した際の位置情報に、列車の車輪回転数から算出した走行距離を加算することで列車走行位置を算出している。
一方、雨天時や列車減速時などの条件においては、列車が滑走しやすくブレーキ装置の制御が難しい。特許文献1の自動列車制御装置によれば、列車の滑走が発生すると制限速度を低下させて減速を行うことで列車を停止させる構成が開示されている。特許文献2の列車自動運転装置によれば、過去の走行記録を参照し、空転・滑走が頻発している区間では、事前に走行速度を目標速度より低めに調整し、空転・滑走が繰返し発生することを抑制するように構成して列車の滑走に対応する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−249401号公報
【特許文献2】特開平5−42872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の定位置停止装置は、列車が滑走すると、正確な走行距離が算出できずに列車走行位置を正しく認識できなくなるため、例えば図11に示すように列車が地上子を目標走行速度超過で地上子を通過して目標停止位置を超えた位置で停止(オーバーラン)したり、図12に示すように列車が次の地上子を通過する前の位置で停止してしまったりする。その結果、目標停止位置(定位置)で列車を停止させることができないという課題があった。また、特許文献1の自動列車制御装置は、制限速度を低下させるのみで高精度な定位置停止制御を行えないため、上記の課題を解決することができない。さらに、特許文献2の列車自動運転装置は、全ての空転・滑走の発生を抑制できるとは限らず、上記の課題を解決することができない。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、列車を目標停止位置で確実に停止させる定位置停止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る定位置停止装置は、列車の路線上に設置される地上子の設置位置と列車の目標停止位置を路線データとして記憶する路線データベースと、路線データベースの路線データ、列車の速度を計測する速度センサからの速度情報、地上子からの受信情報に基づき、列車の現在位置から目標停止位置までの停止速度パターンを作成する停止速度パターン作成部と、列車に設置された滑走検知装置がその列車の滑走を検知すると、停止速度パターン作成部からの停止速度パターンの速度より低速な滑走停止速度パターンを作成する滑走停止速度パターン作成部と、滑走停止速度パターン作成部の滑走停止速度パターンまたは停止速度パターンに従って列車の速度を制御する制御部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る定位置停止装置によれば、列車の滑走を検知すると、停止速度パターンの速度より低速な滑走停止速度パターンに追従させて列車の走行速度を抑制するよう構成したことにより、列車が滑走した場合でも、地上子を通過する際に目標走行速度近傍で通過し、地上子通過後の停止制御の手遅れを防ぐことができる。その結果、列車を目標停止位置で確実に停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係る定位置停止装置を含む列車停止システムの構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る定位置停止装置の処理動作を示すフロー図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る定位置停止装置を用いた定位置停止制御の一例を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る定位置停止装置を用いた定位置停止制御の一例を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係る定位置停止装置を用いた定位置停止制御の他の例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態3に係る定位置停止装置を含む列車停止システムの構成を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態3に係る定位置停止装置を用いた定位置停止制御の一例を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態4に係る定位置停止装置を含む列車停止システムの構成を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態4に係る定位置停止装置における推定滑走距離の算出方法を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態4に係る定位置停止装置を用いた定位置停止制御の一例を示す図である。
【図11】従来の定位置停止装置を用いた定位置停止制御の一例を示す図である。
【図12】従来の定位置停止装置を用いた定位置停止制御の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1の定位置停止装置10を含む列車停止システム1の構成を示している。列車停止システム1は、定位置停止装置10、速度センサ101、地上子102、車上子103、滑走検知装置104、ブレーキ装置105で構成されており、地上子102は路線上に配置され、地上子102以外は列車に搭載されている。
【0010】
速度センサ101は、自列車の走行速度を測定し、測定値を速度情報101aとして出力するよう機能する。
地上子102と車上子103は、列車が地上子102上を通過するとき列車に搭載された車上子103と通信接続され、地上と車上との間で通信を行う通信装置として機能する。地上子102は、路線上にユーザ任意の間隔で複数配置されており、例えば列車がその設置位置を通過する際、車上子103へ位置情報を伝送する。車上子103は、地上子102から受信した位置情報を地上子受信情報102aとして出力する。
【0011】
滑走検知装置104は、自列車の車輪の回転速度を監視することによって滑走を検知するよう機能し、滑走を検知すると滑走検知情報104aを出力する。
ブレーキ装置105は、定位置停止装置10からのブレーキ指令信号10a(制御信号)に従って自列車車輪の回転を抑制するよう機能する。
【0012】
定位置停止装置10は、停止速度パターン演算部11と速度制御部12(制御部)で構成されており、速度センサ101からの速度情報101a、車上子103で受信した位置情報としての地上子受信情報102a、滑走検知装置104からの滑走検知情報104aに基づきブレーキ装置105を制御して列車の走行速度を抑制するものである。
【0013】
停止速度パターン演算部11は、路線データベース13、停止速度パターン作成部14、滑走停止速度パターン作成部15で構成されている。
路線データベース13は、自列車の運行情報を示す路線データ13Aとして各目標停止位置13bと各地上子設置位置13cを保持している。
【0014】
停止速度パターン作成部14は、停止速度パターン作成用の目標減速度βを保持しており、目標減速度β、速度情報101a、地上子受信情報102a、路線データ13Aに基づき、自列車の位置に応じた目標走行速度を算出して停止速度パターン14Aを作成するよう機能する。停止速度パターン作成部14は、例えば、地上子102からの地上子受信情報102aにより自列車の現在位置情報を取得し、自列車の現在位置が目標停止位置から所定の距離以内になると、後述のように停止速度パターン14Aを作成し、速度制御部12へ停止速度パターン14Aを出力する。
また、停止速度パターン作成部14は、滑走検知装置104からの滑走検知情報104aに基づき自列車に設置された滑走検知装置104がその列車の滑走を検知したと判定すると、路線データ13Aと停止速度パターン14Aを滑走停止速度パターン作成部15に出力するよう機能する。
【0015】
滑走停止速度パターン作成部15は、停止速度パターン作成部14からの路線データ13Aと停止速度パターン14Aに基づき、停止速度パターン14Aの目標走行速度(第1の目標走行速度)より低速な目標走行速度(第2の目標走行速度)を示す滑走停止速度パターン15Aを作成するよう機能する。滑走停止速度パターン作成部15は、例えば、列車の進行方向前方に設置されている地上子102における通過目標走行速度14bを算出し、その通過目標走行速度14bを現在位置から地上子設置位置13cまでの滑走停止速度パターン15Aとし、その滑走停止速度パターン15Aを速度制御部12へ出力する。
また、滑走停止速度パターン作成部15は、停止速度パターン作成部14を介して自列車の現在位置情報を取得すると、停止速度パターン作成部14からの目標減速度β、速度情報101a、自列車の現在位置情報、路線データ13Aに基づき、地上子設置位置13cから目標停止位置13bまでの間の目標走行速度を再計算し、滑走停止速度パターン15Aを作成するよう機能する。
【0016】
次に、実施の形態1の定位置停止装置10の処理動作について図2を用いて説明する。
定位置停止装置10は、例えば目標停止位置13bから所定の距離に配置された地上子102からの地上子受信情報102aを車上子103を介して取得すると定位置停止制御を開始する。
定位置停止装置10の停止速度パターン作成部14は、地上子受信情報102aに基づき自列車の現在位置を取得すると、路線データベース13から路線データ13Aの目標停止位置13bを取得し、自列車の現在位置から目標停止位置13bまでの残走距離dを算出する。停止速度パターン作成部14は、残走距離dと目標減速度βを用いて、例えば下記式(1)により停止速度パターン(Vp)14aを作成する(ステップST201)。

ただし、式(1)において、目標減速度βは列車走行速度や残走距離dによらず一定値であり、停止速度パターン(Vp)14aは残走距離dの地点における停止速度パターン14A上の速度を示している。
【0017】
停止速度パターン作成部14は、滑走検知装置104からの滑走検知情報104aの変化を利用し、自列車が滑走開始を検知したかを判定する(ステップST202)。
停止速度パターン作成部14は、自列車の滑走を検知していないと判定した場合(ステップST202“NO”)、停止速度パターン(Vp)14aを速度制御部12へ出力する。速度制御部12は、停止速度パターン作成部14からの停止速度パターン(Vp)14aと速度センサ101からの速度情報101aに基づき、現在の自列車位置における目標走行速度(第1の目標走行速度)と自列車の実走行速度を比較し、実走行速度が目標走行速度に追従するようブレーキ指令を行う(ステップST203)。速度制御部12は、速度情報101aに基づいて自列車が停車したかを判定(ステップST204)し、自列車が停車したと判定した場合(ステップST204“YES”)、定位置停止制御を終了する。速度制御部12は、自列車が停車していないと判定した場合(ステップST204“NO”)、ステップST202からの処理を繰り返す。
【0018】
停止速度パターン作成部14は、自列車の滑走を検知したと判定した場合(ステップST202“YES”)、滑走検知装置104からの滑走検知情報の変化を利用し、滑走終了を検知したかを判定する(ステップST205)。
停止速度パターン作成部14は、滑走終了を検知していないと判定した場合(ステップST205“NO”)、停止速度パターン(Vp)14aを速度制御部12へ出力する。速度制御部12は、停止速度パターン作成部14からの停止速度パターン(Vp)14aと速度センサ101からの速度情報101aに基づき、現在の自列車位置における目標走行速度(第1の目標走行速度)と自列車の実走行速度を比較し、実走行速度が目標走行速度に追従するようブレーキ指令を行う(ステップST206)。速度制御部12は、速度情報101aに基づき自列車が停車したかを判定(ステップST207)し、自列車が停車したと判定した場合(ステップST207“YES”)、定位置停止制御を終了する。速度制御部12は、自列車が停車していないと判定した場合(ステップST207“NO”)、ステップST205からの処理を繰り返す。
【0019】
一方、停止速度パターン作成部14は、滑走終了を検知したと判定した場合(ステップST205“YES”)、停止速度パターン(Vp)14aと路線データベース13からの路線データ13Aを滑走停止速度パターン作成部15へ出力する。滑走停止速度パターン作成部15は、停止速度パターン(Vp)14aと路線データ13Aの目標停止位置13b、各地上子設置位置13cに基づき、停止速度パターン(Vp)14aの目標走行速度より低速の滑走停止速度パターン15aを作成し(ステップST208)、速度制御部12へ出力する。速度制御部12は、滑走停止速度パターン作成部15からの滑走停止速度パターン15aと速度センサ101からの速度情報101aに基づき、現在の自列車位置における目標走行速度(第2の目標走行速度)と自列車の実走行速度を比較し、実走行速度が目標走行速度に追従するようブレーキ指令を行う(ステップST209)。速度制御部12は、速度情報101aに基づき自列車が停車したかを判定(ステップST210)し、自列車が停車したと判定した場合(ステップST210“YES”)、定位置停止制御を終了する。速度制御部12は、自列車が停車していないと判定した場合(ステップST210“NO”)、ステップST209からの処理を繰り返す。
【0020】
ここで、実施の形態1の定位置停止装置10で作成される滑走停止速度パターン15aについて説明する。図3は、定位置停止装置10を用いた定位置停止制御の一例による列車の位置と速度の関係を示している。
定位置停止装置10は定位置停止制御を開始すると、停止速度パターン作成部14が停止速度パターン14Aを作成し、速度制御部12が停止速度パターン14Aに追従してブレーキ装置105を制御し、列車の走行速度を抑制していく。図3に示すように滑走検知装置104が列車の滑走開始を検知した後、滑走終了を検知すると、滑走停止速度パターン作成部15は、停止速度パターン作成部14からの停止速度パターン14Aと路線データ13Aの地上子設置位置13cを用いて、地上子設置位置13cにおける地上子通過目標走行速度14bを算出する。滑走停止速度パターン作成部15は、地上子通過目標走行速度14bを滑走終了時の現在位置から列車の進行方向前方に設置されている地上子設置位置13cまでの滑走停止速度パターン15Aとし、地上子設置位置13cから目標停止位置13bまでの滑走停止速度パターン15Aを停止速度パターン14Aと同等にする。
【0021】
なお、実施の形態1の定位置停止装置10では、滑走検知装置104が滑走終了を検知したときに滑走停止速度パターン15Aを作成するものとして説明したが、滑走開始を検知したときに滑走停止速度パターン15Aを作成する構成としてもよい。この場合、停止速度パターン作成部14が滑走検知装置104から滑走検知情報104aを受信し始めるときを滑走開始と判定して処理を行う。
【0022】
以上のように、実施の形態1の定位置停止装置10は、列車の滑走を検知すると、停止速度パターン14Aの目標走行速度より低速な滑走停止速度パターン15Aを作成する滑走停止速度パターン作成部15と、その滑走停止速度パターン15Aに追従させて列車の走行速度を抑制する速度制御部12とを備えるよう構成したことにより、列車の滑走によって正しい走行位置が不明になった場合でも、地上子を通過する際に目標走行速度近傍で通過させるよう走行速度を抑制して、定位置停止制御の手遅れを防止することができる。その結果、列車を目標停止位置で確実に停止させることができるという効果が得られる。
【0023】
実施の形態2.
実施の形態1においては、現在位置から地上子設置位置13cまで地上子通過目標走行速度14bを一定の目標走行速度とした滑走停止速度パターン15Aを作成した。実施の形態2は、停止速度パターン14Aの目標走行速度より所定の割合だけ低速にする構成について説明する。
実施の形態2の定位置停止装置は、実施の形態1の滑走停止速度パターン作成部15以外の構成は同様であるため図示を省略し、同一の符号を用いて説明する。ただし、実施の形態2の説明においては、実施の形態1の構成と区別するため、列車停止システム2、定位置停止装置20、停止速度パターン演算部21、滑走停止速度パターン作成部25と記載する。
【0024】
列車停止システム2の定位置停止装置20は、停止速度パターン演算部21と速度制御部12(制御部)で構成されており、速度センサ101からの速度情報101a、車上子103で受信した位置情報としての地上子受信情報102a、滑走検知装置104からの滑走検知情報104aに基づきブレーキ装置105を制御して列車の走行速度を抑制するよう機能する。速度制御部12の構成は、実施の形態1と同様であるため説明を省略する。
【0025】
停止速度パターン演算部21は、路線データベース13、停止速度パターン作成部14、滑走停止速度パターン作成部25で構成されている。なお、滑走停止速度パターン作成部25以外の構成は実施の形態1と同様であるため説明を省略する。
滑走停止速度パターン作成部25は、停止速度パターン作成部14からの路線データ13Aと停止速度パターン14Aに基づき、停止速度パターンの目標走行速度(第1の目標走行速度)より低速な目標走行速度(第2の目標走行速度)を示す滑走停止速度パターン25Aを作成するよう機能する。滑走停止速度パターン作成部25は、例えば、停止速度パターン14Aの目標走行速度に予め任意に設定された割合を乗じて現在位置から地上子設置位置13cまでの滑走停止速度パターン25Aを作成し、その滑走停止速度パターン25Aを速度制御部12へ出力する。
なお、定位置停止装置20の処理動作は、実施の形態1の定位置停止装置10の処理動作と同様であるため説明を省略する。
【0026】
ここで、実施の形態2の定位置停止装置20で作成される滑走停止速度パターン25Aについて説明する。図4は、定位置停止装置20を用いた定位置停止制御の一例による列車の位置と速度の関係を示している。
定位置停止装置20は定位置停止制御を開始すると、停止速度パターン作成部14が停止速度パターン14Aを作成し、速度制御部12が停止速度パターン14Aに追従してブレーキ装置105を制御し、列車の走行速度を抑制していく。図4に示すように滑走検知装置104が列車の滑走開始を検知した後、滑走終了を検知すると、滑走停止速度パターン作成部25は、停止速度パターン作成部14からの停止速度パターン14Aの目標走行速度に予め任意に設定された割合として20%を乗じた結果を用いて滑走停止速度パターン25Aとする。このとき、滑走停止速度パターン作成部25は、滑走停止速度パターン25Aの目標走行速度が地上子通過目標走行速度14bに到達するまで演算を行い、到達した位置から地上子設置位置13cまでの間の滑走停止速度パターン25Aを地上子通過目標走行速度14bとし、地上子設置位置13cから目標停止位置13bまでの間の滑走停止速度パターン25Aを停止速度パターン14Aと同等にする。
【0027】
なお、図4において、滑走停止速度パターン作成部25は滑走停止速度パターン25Aの目標走行速度が地上子通過目標走行速度14bに到達するまで演算しているが、図5に示すように地上子設置位置13cで地上子通過目標走行速度14bとなるよう演算する構成であってもよい。その場合、滑走停止速度パターン作成部25は、停止速度パターン14Aの目標減速度βに予め任意に設定された割合を乗じ、例えば20%だけ目標減速度を低減するものとすれば、図4の滑走停止速度パターン25Aよりもさらに緩やかに地上子通過目標走行速度14bになるよう走行速度抑制を行うことができる。
【0028】
以上のように、実施の形態2の定位置停止装置20は、実施の形態1と同様の効果に加え、停止速度パターン14Aより所定の割合だけ低速の滑走停止速度パターン25Aを作成する滑走停止速度パターン作成部25を備えるよう構成したことにより、実施の形態1の滑走停止速度パターン15Aに追従する走行速度抑制より緩やかに走行速度の抑制を行うことができるという効果が得られる。
【0029】
実施の形態3.
実施の形態1では、現在位置から地上子設置位置13cまでの間を地上子通過目標走行速度14bで一定にする滑走停止速度パターン15Aとし、実施の形態2では、停止速度パターン14Aに対して所定の割合を乗じた滑走停止速度パターン25Aとする構成について説明した。実施の形態3は、列車の走行データを用いて滑走停止速度パターンを作成する構成について説明する。
【0030】
図6は、実施の形態3に係る定位置停止装置30を含む列車停止システム3の構成を示している。なお、図6において、実施の形態1と同様の構成については図1と同一の符号を付している。
列車停止システム3は、定位置停止装置30、速度センサ101、地上子102、車上子103、滑走検知装置104、ブレーキ装置105で構成されており、地上子102は路線上に配置され、地上子102以外は列車に搭載されている。定位置停止装置30以外の構成については、実施の形態1と同様であるため説明を省略する。
【0031】
定位置停止装置30は、停止速度パターン演算部31と速度制御部12(制御部)で構成されており、速度制御部12については実施の形態1と同様の構成であるため説明を省略する。
停止速度パターン演算部31は、路線データベース13、停止速度パターン作成部14、滑走停止速度パターン作成部35、滑走走行履歴保持部36で構成されている。路線データベース13と停止速度パターン作成部14は実施の形態1と同様の構成であるため説明を省略する。
【0032】
滑走停止速度パターン作成部35は、停止速度パターン作成部14からの路線データ13A、停止速度パターン14Aと、滑走走行履歴保持部36からの滑走距離履歴データ36bに基づき、停止速度パターンの目標走行速度(第1の目標走行速度)より低速な目標走行速度(第2の目標走行速度)を示す滑走停止速度パターン35Aを作成するよう機能する。滑走停止速度パターン作成部35は、例えば、滑走走行履歴保持部36からの滑走距離履歴データ36bを用いて滑走距離の平均値(後述する図7の平均滑走距離36c)を算出し、地上子設置位置13cから平均滑走距離36cを差し引いた位置を算出する。滑走停止速度パターン作成部35は、地上子設置位置13cより平均滑走距離36c手前の位置で地上子通過目標走行速度14bとなるように目標減速度βの滑走停止速度パターン35Aを作成し、その滑走停止速度パターン35Aを速度制御部12へ出力する。
また、滑走停止速度パターン作成部35は、停止速度パターン作成部14を介して自列車の現在位置情報を取得すると、停止速度パターン作成部14からの目標減速度β、速度情報101a、自列車の現在位置情報、路線データ13Aに基づき、地上子設置位置13cから目標停止位置13bまでの間の目標走行速度を再計算し、滑走停止速度パターン35Aを作成するよう機能する。このとき、滑走停止速度パターン作成部35は、自列車の現在位置(地上子設置位置13c)から目標停止位置までの地上子設置距離Sと、滑走してから地上子設置位置13c通過まで誤って認識していた残走距離lとを用いて列車の滑走距離sを下記式(2)を用いて算出し、滑走走行履歴保持部36へ出力する。

滑走走行履歴保持部36は、滑走停止速度パターン作成部35から滑走距離(s)値35bを取得すると、滑走距離履歴データ36bとして記録、蓄積するよう機能する。また、滑走走行履歴保持部36は、滑走停止速度パターン作成部35からの要求に応じて、滑走距離履歴データ36bを滑走停止速度パターン作成部35へ出力するよう機能する。
【0033】
なお、定位置停止装置30の処理動作は、実施の形態1の定位置停止装置10の処理動作と同様であるため説明を省略する。
【0034】
次に、実施の形態3の定位置停止装置30で作成される滑走停止速度パターン35aについて説明する。図7は定位置停止装置30を用いた定位置停止制御の一例による列車の位置と速度の関係を示している。
定位置停止装置30は定位置停止制御を開始すると、停止速度パターン作成部14が停止速度パターン14Aを作成し、速度制御部12が停止速度パターン14Aに追従してブレーキ装置105を制御し、列車の走行速度を抑制していく。図7に示すように滑走検知装置104が列車の滑走開始を検知した後、滑走終了を検知すると、滑走停止速度パターン作成部35は、滑走走行履歴保持部36からの滑走距離履歴データ36bを用いて平均滑走距離36cを算出し、地上子設置位置13cより平均滑走距離36c手前の位置で地上子通過目標走行速度14bとなるように目標減速度βの滑走停止速度パターン35Aを作成する。このとき、滑走停止速度パターン作成部35は、地上子通過目標走行速度14bに到達した位置から地上子設置位置13cまでの間の滑走停止速度パターン35Aを地上子通過目標走行速度14bとし、地上子設置位置13cから目標停止位置13bまでの間の滑走停止速度パターン35Aを停止速度パターン14Aと同等にする。
【0035】
なお、本構成では滑走終了を検知したときに滑走停止速度パターン35Aを作成するものとしたが、この構成の替わりに、滑走開始を検知したときに滑走停止速度パターン35Aを作成するものとしてもよい。
なお、平均滑走距離36cの替わりに滑走距離の履歴の最高値や、直近の値などを用いてもよい。
なお、滑走走行履歴保持部36は、滑走停止速度パターン作成部35に内包する構成であってもよい。
【0036】
以上のように、実施の形態3の定位置停止装置30は、実施の形態1の効果に加え、過去の滑走走行の結果を滑走停止速度パターン35Aに反映できるという効果が得られる。
【0037】
実施の形態4.
実施の形態3においては、走行データとしての滑走距離を用いて滑走停止速度パターン35Aを作成する構成について説明した。実施の形態4は、滑走時間を用いる構成について説明する。
図8は、実施の形態4に係る定位置停止装置40を含む列車停止システム4の構成を示している。なお、図8において、実施の形態1と同様の構成については図1と同一の符号を付している。
列車停止システム4は、定位置停止装置40、速度センサ101、地上子102、車上子103、滑走検知装置104、ブレーキ装置105で構成されており、地上子102は路線上に配置され、地上子102以外は列車に搭載されている。定位置停止装置40以外の構成については、実施の形態1と同様であるため説明を省略する。
【0038】
定位置停止装置40は、停止速度パターン演算部41と速度制御部12(制御部)で構成されており、速度制御部12については実施の形態1と同様の構成であるため説明を省略する。
停止速度パターン演算部41は、路線データベース13、停止速度パターン作成部14、滑走停止速度パターン作成部45、滑走時間計測部46で構成されている。路線データベース13と停止速度パターン作成部14は実施の形態1と同様の構成であるため説明を省略する。
【0039】
滑走時間計測部46は、滑走検知装置104から受信する滑走検知情報104aに基づいて滑走継続時間46aを計測し、その滑走継続時間46aを滑走停止速度パターン作成部45に送信するよう機能する。
【0040】
滑走停止速度パターン作成部45は、例えば停止速度パターン作成部14から路線データ13Aと停止速度パターン14Aデータを入力し始めると列車の滑走が発生したと判定し、速度センサ101から取得した速度情報101aに基づき滑走開始時に速度センサ101で測定された認識速度と滑走中に速度センサ101で測定された最低認識速度を保持する。滑走停止速度パターン作成部45は、滑走時間計測部46から滑走継続時間46aを入力すると、滑走終了と判定し、滑走開始時の認識速度、滑走中の最低認識速度、滑走継続時間46aに基づいて推定滑走距離45bを算出する。滑走停止速度パターン作成部45は、推定滑走距離45bを用いて滑走停止速度パターン45Aを作成する。
【0041】
ここで、滑走停止速度パターン作成部45における、推定滑走距離45bの算出方法の一例を図9を用いて説明する。図9は、実施の形態4の定位置停止装置40を用いた定位置停止制御を行ったときの時間と列車走行速度の関係を示している。
滑走停止速度パターン作成部45は、自列車が滑走を終了したと判定すると、滑走開始時の認識速度V、滑走中の最低認識速度V、滑走継続時間(t)46aに基づき、例えば下記式(3)を用いて推定滑走距離(s)110を算出する。

ただし、式(3)においては、図9に示すように、滑走終了時の速度が滑走開始時の速度Vと同等であると仮定している。
【0042】
次に、実施の形態4の定位置停止装置40で作成される滑走停止速度パターン45aについて説明する。図10は定位置停止装置40を用いた定位置停止制御の一例による列車の位置と速度の関係を示している。
定位置停止装置40は定位置停止制御を開始すると、停止速度パターン作成部14が停止速度パターン14Aを作成し、速度制御部12が停止速度パターン14Aに追従してブレーキ装置105を制御し、列車の走行速度を抑制していく。図10に示すように滑走検知装置104が列車の滑走開始を検知した後、滑走停止速度パターン作成部45は、速度センサ101からの速度情報101aに基づき滑走開始時の認識速度V、滑走中の最低認識速度Vを記録する。滑走検知装置104が滑走終了を検知すると、滑走停止速度パターン作成部45は、滑走開始時の認識速度V、滑走中の最低認識速度V、滑走時間計測部46からの滑走継続時間(t)46aに基づいて推定滑走距離45bを算出する。滑走停止速度パターン作成部45は、地上子設置位置13cより推定滑走距離45b手前の位置で地上子通過目標走行速度14bとなるように目標減速度βの滑走停止速度パターン45Aを作成する。このとき、滑走停止速度パターン作成部45は、地上子通過目標走行速度14bに到達した位置から地上子設置位置13cまでの間の滑走停止速度パターン45Aを地上子通過目標走行速度14bとし、地上子設置位置13cから目標停止位置13bまでの間の滑走停止速度パターン45Aを停止速度パターン14Aと同等にする。
【0043】
以上のように、実施の形態4の定位置停止装置40は、実施の形態1の効果に加え、現在の停止制御中に起きる滑走の開始速度や滑走中の最低認識速度、滑走継続時間といった滑走走行データを一つの要素として利用し、滑走停止速度パターンを作成する滑走停止速度パターン作成部45を備えるよう構成したことにより、現在の停止制御中に生じた滑走の影響としての走行データを滑走停止速度パターン45Aに反映できるという効果が得られる。
【0044】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。また、図において、同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものであり、このことは上述した全文において共通することである。さらに、上述した全文に表れている構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0045】
1,3,4 列車停止システム、10,30,40 定位置停止装置、11,31,41 停止速度パターン演算部、12 速度制御部(制御部)、10a ブレーキ指令信号(制御信号)、13 路線データベース、13A 路線データ、13b 目標停止位置、13c 地上子設置位置、14 停止速度パターン作成部、14A 停止速度パターン、14b 地上子通過目標走行速度、15,35,45 滑走停止速度パターン作成部、15A,25A,45A 滑走停止速度パターン、35a 滑走距離、36 滑走走行履歴保持部、36a 平均滑走距離、46 滑走時間計測部、46a 滑走継続時間、101 速度センサ、101a 速度情報、102 地上子、102a 地上子受信情報(位置情報)、103 車上子、104 滑走検知装置、104a 滑走検知情報、105 ブレーキ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の路線上に設置される地上子の設置位置と前記列車の目標停車位置を路線データとして記憶する路線データベースと、
前記路線データベースの路線データ、前記列車の速度を計測する速度センサからの速度情報、前記地上子からの受信情報に基づき、前記列車の現在位置から目標停止位置までの停止速度パターンを作成する停止速度パターン作成部と、
前記列車に設置された滑走検知装置がその列車の滑走を検知すると、前記停止速度パターン作成部からの停止速度パターンの速度より低速な滑走停止速度パターンを作成する滑走停止速度パターン作成部と、
前記滑走停止速度パターン作成部の滑走停止速度パターンまたは前記停止速度パターンに従って前記列車の速度を制御する制御部と、
を備えた定位置停止装置。
【請求項2】
滑走停止速度パターン作成部は、列車の進行方向前方に設置されている地上子における目標通過速度を算出し、その目標通過速度を現在位置から前記地上子の設置位置までの滑走停止速度パターンとすることを特徴とする請求項1記載の定位置停止装置。
【請求項3】
滑走停止速度パターン作成部は、予め設定された割合値を停止速度パターンに乗じて滑走停止速度パターンを作成することを特徴とする請求項1記載の定位置停止装置。
【請求項4】
滑走停止パターン作成部が算出する列車の滑走距離を蓄積する走行履歴保持部を備え、
前記滑走停止速度パターン作成部は、前記走行履歴保持部の滑走距離の履歴を参照し、
前記滑走距離を用いて滑走停止速度パターンを作成することを特徴とする請求項1記載の定位置停止装置。
【請求項5】
滑走検知装置からの滑走検知情報に基づいて滑走継続時間を計測する滑走時間計測部を備え、
滑走停止速度パターン作成部は、前記滑走時間計測部からの滑走継続時間を一つの要素として滑走停止速度パターンを作成することを特徴とする請求項1記載の定位置停止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−152085(P2012−152085A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10802(P2011−10802)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】