説明

定在波型超音波アクチュエータの駆動方法およびその駆動装置

【課題】起動時には、被駆動体の落下を防止するとともに被駆動体の不安定な動作を解消することができ、駆動停止時には、被駆動体が停止するまでの時間を短縮することができる定在波型超音波アクチュエータの駆動方法およびその駆動装置を提供することを目的とする。
【解決手段】定在波型超音波アクチュエータ10の駆動方法は、超音波振動子4に縦振動と屈曲振動とを発生させることにより、超音波振動子4の摩擦接触子18に略楕円振動を生じさせ、該楕円振動の摩擦力を推力として、超音波振動子4と超音波振動子4に接触する被駆動体2とを相対的に移動させる定在波型超音波アクチュエータ10の駆動方法であって、起動時に、前記縦振動を励起した後に、前記屈曲振動を励起させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定在波型超音波アクチュエータの駆動方法およびその駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁型モータに代わる新しいモータとして超音波モータが注目されている。この超音波モータは、従来の電磁型モータに比べ以下のような利点を有している。
(1)ギヤなしで高トルクが得られる。
(2)電気OFF時に保持力がある。
(3)高分解能である。
(4)静粛性に富んでいる。
(5)磁気的ノイズを発生せず、また、ノイズの影響も受けない。
【0003】
超音波モータは、波動原理から進行波型の超音波モータや定在波型の超音波モータ等に区分される。従来の超音波モータとして、例えば、特許文献1には進行波型の超音波モータが開示されている。特許文献1では、超音波モータの起動時には定在波から進行波の状態へ、超音波モータの停止時には進行波から定在波の状態へ徐々に駆動交番電圧の位相差を変化させることにより、起動時および停止時の音の発生を抑制することとしている。
【特許文献1】特開2002−199749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特開2002−199749号公報に開示されている進行波型の超音波モータでは、起動時および停止時に駆動トルクを小さくしているため、結果的に振動子と被駆動体との間の摩擦力を低下させることとなる。このような起動方法および停止方法を定在波型の超音波モータに適用した場合、起動時には、振動子と被駆動体との間の静止摩擦力が低下することにより、重力の影響で被駆動体が落下するという問題があった。また、駆動停止時には、慣性力が大きい場合に被駆動体が停止するまでに時間がかかるといった問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、起動時には、被駆動体の落下を防止するとともに被駆動体の不安定な動作を解消することができ、駆動停止時には、被駆動体が停止するまでの時間を短縮することができる定在波型超音波アクチュエータの駆動方法およびその駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを発生させることにより、前記超音波振動子の出力端に略楕円振動を生じさせ、該楕円振動の摩擦力を推力として、前記超音波振動子と前記超音波振動子に接触する被駆動体とを相対的に移動させる定在波型超音波アクチュエータの駆動方法であって、起動時に、前記縦振動を励起した後に、前記屈曲振動を励起させる定在波型超音波アクチュエータの駆動方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、定在波型超音波アクチュエータの起動時において、まず、超音波振動子に縦振動のみが励起される。超音波振動子と被駆動体との間には静止摩擦力が働いているので、被駆動体は静止状態に保持される。続いて、屈曲振動が励起されると、超音波振動子の出力端に縦振動と屈曲振動とが合成した楕円振動が発生し、この楕円振動により、超音波振動子が浮上状態となる。この結果、超音波振動子と被駆動体との間の静止摩擦力が低下するので、縦振動の推進力により、被駆動体が移動し始める。
【0008】
このように構成された定在波型超音波アクチュエータの駆動方法によれば、縦振動のみが励起された状態では、静止摩擦力の働きによって被駆動体の移動が抑制されるので、被駆動体が重力の影響によって落下するのを防ぐことができる。また、被駆動体を静止状態に保持しつつ、縦振動による推力が十分な状態で屈曲振動を励起することにより、楕円振動が成長するまでの、例えば、逆走等の被駆動体の不安定な動作を解消することができる。
【0009】
また、本発明は、超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを発生させることにより、前記超音波振動子の出力端に略楕円振動を生じさせ、該楕円振動の摩擦力を推力として、前記超音波振動子と前記超音波振動子に接触する被駆動体とを相対的に移動させる定在波型超音波アクチュエータの駆動方法であって、駆動停止時に、前記屈曲振動を停止した後に、前記縦振動を停止する定在波型超音波アクチュエータの駆動方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、定在波型超音波アクチュエータの駆動停止時において、まず、屈曲振動が停止される。これにより、超音波振動子の出力端に発生している楕円振動が急激につぶされ、超音波振動子の浮上状態が抑制される。したがって、超音波振動子と被駆動体との間の摩擦力が大きくなるので、被駆動体の移動を抑制することができる。また、超音波振動子に励起される縦振動による移動方向の伸縮運動によって、被駆動体に働く慣性力を低減させることができる。
【0011】
このように構成された定在波型超音波アクチュエータの駆動方法によれば、被駆動体に摩擦力を効かせ、被駆動体の慣性力を低減させた状態で、縦振動を停止するので、被駆動体の停止時間(超音波振動子に対する駆動信号の印加を停止してから被駆動体が停止するまでの時間)を短縮することができる。
【0012】
また、本発明は、超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを発生させることにより、前記超音波振動子の出力端に略楕円振動を生じさせ、該楕円振動の摩擦力を推力として、前記超音波振動子と前記超音波振動子に接触する被駆動体とを相対的に移動させる定在波型超音波アクチュエータの駆動装置であって、起動時に、前記縦振動を励起した後に、前記屈曲振動を励起させる定在波型超音波アクチュエータの駆動装置を提供する。
【0013】
本発明によれば、定在波型超音波アクチュエータの起動時において、まず、超音波振動子に縦振動のみが励起される。超音波振動子と被駆動体との間には静止摩擦力が働いているので、被駆動体は静止状態に保持される。続いて、屈曲振動が励起されると、超音波振動子の出力端に縦振動と屈曲振動とが合成した楕円振動が発生し、この楕円振動により、超音波振動子が浮上状態となる。この結果、超音波振動子と被駆動体との間の静止摩擦力が低下するので、縦振動の推進力により、被駆動体が移動し始める。
【0014】
このように構成された定在波型超音波アクチュエータの駆動装置によれば、縦振動のみが励起された状態では、静止摩擦力の働きによって被駆動体の移動が抑制されるので、被駆動体が重力の影響によって落下するのを防ぐことができる。また、被駆動体を静止状態に保持しつつ、縦振動による推力が十分な状態で屈曲振動を励起することにより、楕円振動が成長するまでの、例えば、逆走等の被駆動体の不安定な動作を解消することができる。
【0015】
また、本発明は、超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを発生させることにより、前記超音波振動子の出力端に略楕円振動を生じさせ、該楕円振動の摩擦力を推力として、前記超音波振動子と前記超音波振動子に接触する被駆動体とを相対的に移動させる定在波型超音波アクチュエータの駆動装置であって、駆動停止時に、前記屈曲振動を停止した後に、前記縦振動を停止する定在波型超音波アクチュエータの駆動装置を提供する。
【0016】
本発明によれば、定在波型超音波アクチュエータの駆動停止時において、まず、屈曲振動が停止される。これにより、超音波振動子の出力端に発生している楕円振動が急激につぶされ、超音波振動子の浮上状態が抑制される。したがって、超音波振動子と被駆動体との間の摩擦力が大きくなるので、被駆動体の移動を抑制することができる。また、超音波振動子に励起される縦振動による移動方向の伸縮運動によって、被駆動体に働く慣性力を低減させることができる。
【0017】
このように構成された定在波型超音波アクチュエータの駆動装置によれば、被駆動体に摩擦力を効かせ、被駆動体の慣性力を低減させた状態で、縦振動を停止するので、被駆動体の停止時間を短縮することができる。
【0018】
また、本発明は、定在波型超音波アクチュエータと、上記定在波型超音波アクチュエータの駆動装置とを備える定在波型超音波アクチュエータシステムを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、定在波型超音波アクチュエータの起動時には、被駆動体の落下を防止するとともに被駆動体の動作を安定させて起動することができ、定在波型超音波アクチュエータの駆動停止時には、被駆動体の停止時間を短縮することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る定在波型超音波アクチュエータ(以下、単に「超音波アクチュエータ」という。)の駆動方法およびその駆動装置について、図を参照して以下に説明する。
本実施形体に係る超音波アクチュエータ10は、図1に示されるように、被駆動体2と、該被駆動体2に接触配置される超音波振動子4とを備えている。超音波振動子4は、図示しない押圧手段により、被駆動体2に所定の押圧力で押し付けられている。また、本実施形態に係る超音波アクチュエータシステム6は、上記超音波アクチュエータ10と、該超音波アクチュエータ10を駆動する駆動装置8とを備えている。
【0021】
超音波振動子4は、例えば、図2および図3に示されるように、矩形板状の圧電セラミックスシート12の片側面にシート状の内部電極14(図4および図5参照)を設けたものを複数枚積層してなる直方体状の圧電積層体16と、該圧電積層体16の幅方向の一側面に形成される2つの出力端に接着された2つの摩擦接触子18と、振動子保持部材20とを備えている。
【0022】
圧電積層体16は、図2に示されるように、例えば、長さ20mm、幅5.0mm、厚さ3.2mmの外形寸法とされている。圧電積層体16を構成する圧電セラミックスシート12は、例えば、厚さ約80μmのチタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックス素子(以下、PZTという。)である。PZTとしては、Qm値の大きなハード系材料を使用することが好ましい。Qm値は約1800である。
【0023】
また、内部電極14は、図4および図5に示されるように、例えば、厚さ約4μmの銀パラジウム合金からなっている。積層方向の一端に配置される圧電セラミックスシート12a(図2および図3参照)は内部電極14を備えていない。それ以外の圧電セラミックスシート12は、図4および図5に示されるような2種類の内部電極14を備えている。
【0024】
図4に示される圧電セラミックスシート12は、駆動用の内部電極14(A+),14(B+)と、振動検出用の内部電極14(C+)とを備えている。
内部電極14(C+)は、圧電セラミックスシート12の幅方向の中央部において、圧電セラミックスシート12の長さ方向に沿って帯状に設けられている。具体的には、内部電極14(C+)は、図8に示すように、圧電セラミックスシート12を長手方向に2等分および幅方向に2等分して第1の領域乃至第4の領域からなる4つの領域に区分した場合に、第1から第4の各領域における占有面積が略等しくなるように配置されている。
【0025】
なお、内部電極14(C+)は、上記配置例に代えて、4つの領域のうち、所定の2つの隣接する領域における占有面積が略等しく、また、その他の2つの隣接する領域における占有面積が略等しくなるように配置されてもよい。例えば、第1の領域と第2の領域とが同一占有面積とされ、第3の領域と第4の領域とが同一占有面積とされるように配置されることとしてもよい。この場合、第1の領域と第3の領域とは、占有面積が異なってもよい。また、4つの領域にわたって内部電極14(C+)を配置するのではなく、隣接する2つの領域にわたって内部電極14(C+)を配置することとしてもよい。例えば、内部電極14(C+)を、第3の領域と第4の領域にわたって互いの領域における占有面積が略等しくなるように配置することとしてもよい。
【0026】
また、図4に示されるように、駆動用の内部電極14(A+),14(B+)は、圧電セラミックスシート12の長手方向に沿って一列に配置されている。本実施形態では、内部電極14(A+)が図8における第4の領域に、内部電極14(B+)が第3の領域に配置されている。
【0027】
同様に、図5に示される圧電セラミックスシート12は、駆動用の内部電極14(A−),14(B−)と、振動検出用の内部電極14(C−)とを備えている。
内部電極14(C−)は、図4に示した圧電セラミックスシート12における内部電極14(C+)に対応する位置に配置されている。同様に、内部電極14(A−),14(B−)についても、図4に示した内部電極14(A+),14(B+)にそれぞれ対応する位置に配置されている。
【0028】
上記各内部電極14は、圧電セラミックスシート12の幅方向に、約0.4mmの絶縁距離を開けて配置されているとともに、圧電セラミックスシート12の長さ方向に約0.4mmの絶縁距離を開けて設けられている。なお、各内部電極14は、その一部が圧電セラミックスシート12の周縁まで延び、後述する各外部電極22(図2および図3参照)に接続されるようになっている。
【0029】
圧電セラミックスシート12の中央に帯状に設けられた内部電極14(C+),14(C−)は共に略同一の大きさを有し、また、内部電極14(A+),14(B+),14(A−),14(B−)は、それぞれ略同一の大きさを有している。
図4に示される圧電セラミックスシート12と、図5に示される圧電セラミックスシート12とは、交互に複数枚積層されることにより、直方体状の圧電積層体16を構成している。
【0030】
このようにして構成された圧電積層体16の長さ方向の端面には、各圧電セラミックスシート12に配置された同種の内部電極14(A+)乃至14(C−)をそれぞれ接続するための外部電極22がそれぞれ設けられている。
具体的には、図2および図3に示されるように、圧電積層体16の長さ方向の一端には、圧電積層体16の他側面の側(図において上側)からC相の外部電極22(C+),B相の外部電極22(B+),22(B−)が設けられ、これに対向する面には、C相の外部電極22(C−),A相の外部電極22(A+),22(A−)が設けられている。
【0031】
A相およびB相の外部電極22は駆動用の外部電極であり、C相の外部電極22は振動検出用の外部電極である。各外部電極22にはそれぞれ配線(図11参照)が接続されている。この配線は、リード線、フレキシブル基板等、可撓性を有する配線であれば任意のものでよい。
具体的には、A相の外部電極22(A+),22(A−)にそれぞれ接続される1対の配線、並びに、B相の外部電極22(B+),22(B−)にそれぞれ接続される1対の配線は、それぞれA相,B相の駆動用信号線として、図11に示す駆動装置8のドライブIC28に接続される。
【0032】
また、図11に示されるように、超音波振動子4のC相の外部電極22(C+)に接続される1対の配線L1、および,超音波振動子4のC相の外部電極22(C−)に接続される一対の配線L2は、駆動装置8の振動検出回路30に接続される。
【0033】
次に、このようにして構成された圧電積層体16の動作について説明する。
A相の外部電極22(A+),22(A−)およびB相の外部電極22(B+),22(B−)に同位相で共振周波数に対応する駆動交番電圧を印加すると、図6に示されるような1次の縦振動が励起されるようになっている。また、このとき、前述した圧電セラミックスシート12に生ずる電荷は、例えば、図8に示すように、圧電セラミックシート12を4つの領域に区分した場合、図9に示すように、第1の領域から第4の領域において正電荷もしくは負電荷が同時に励起された状態となる。
【0034】
また、A相の外部電極22(A+),22(A−)およびB相の外部電極22(B+),22(B−)に逆位相で共振周波数に対応する駆動交番電圧を印加すると、図7に示されるような2次の屈曲振動が励起されるようになっている。このとき、前述した各領域では、図10に示すような電荷状態となる。すなわち、屈曲振動が励起されている場合には、図8に示す第1の領域から第4の領域のうち、対角線上に位置する領域、つまり、第1の領域と第4の領域、第2の領域と第3の領域では同符号の電荷が同時に励起され、隣り合う領域、つまり、第1の領域と第2の領域、第2の領域と第4の領域、第4の領域と第3の領域、第3の領域と第1の領域では異符号の電荷が同時に励起されていることになる。
なお、対をなす内部電極14(C+),14(C−)には、互いに異符号の電荷がそれぞれ励起されることとなる。
【0035】
以上のことから、隣接する領域に対して均等に分布して配置されているC相の内部電極14(C+),14(C−)においては、それぞれ屈曲振動による電荷は相殺され、縦振動にのみ比例した電荷が励起された状態となる。従って、C相の外部電極22(C+)の一対の配線L1およびC相の外部電極22(C−)の一対の配線L2により検出される電気信号は、縦振動に比例した電気信号となる。なお、どちらの符号の電荷が励起されるかは振動の位相状態によって決まる。
【0036】
図2に戻り、摩擦接触子18は、前記圧電積層体16の2次の屈曲振動の腹となる2カ所の位置に接着されている。これにより、圧電積層体16に1次の縦振動が発生したときには、摩擦振動子18が、圧電積層体16の長さ方向(図2および図6に示されるX方向)に変位させられるようになっている。一方、圧電積層体16に2次の屈曲振動が生じたときには、摩擦接触子18が、圧電積層体16の幅方向(図2および図7に示されるZ方向)に変位させられるようになっている。
【0037】
したがって、超音波振動子4のA相の外部電極22とB相の外部電極22とに、位相がずれた共振周波数に対応する駆動交番電圧を印加することにより、1次の縦振動と2次の屈曲振動とが同時に発生して、図2に矢印Cで示されるように、摩擦接触子18の位置において時計回りまたは反時計回りの略楕円振動が発生するようになっている。
なお、摩擦接触子18は、例えば、PPS樹脂中にチタン酸カリウムの繊維、カーボンの繊維、PTFE(4フッ化エチレン)等が混入された素材からなる。
【0038】
前記振動子保持部材20は、断面略コ字状に形成された保持部20aと、該保持部20aの両側面から垂直に突出するとともに、該保持部20aに対して一体的に取り付けられたピン24とを有している。保持部20aは、圧電積層体16の幅方向の一側から圧電積層体16を囲むようにして、例えば、シリコン樹脂またはエポキシ樹脂により圧電積層体16に接着されている。保持部20aが圧電積層体16に接着された状態で、保持部20aの両側面に一体的に設けられた2つのピン24は、圧電積層体16の縦振動と屈曲振動の共通の節となる位置に同軸に配置されるようになっている。
【0039】
次に、本実施形態に係る超音波アクチュエータ10の駆動装置8について図11〜図16を参照して説明する。
図11に示すように、駆動装置8は、2相の駆動制御信号を発生する駆動パルス発生回路26と、該駆動パルス発生回路26から出力される駆動制御信号に基づいて駆動交番電圧を生成するドライブIC28と、超音波振動子4の振動を検出する振動検出回路30と、該振動検出回路30から出力される振動検出信号と前記駆動パルス発生回路26から発生される駆動制御信号との位相差を求める位相比較回路32と、この位相差に応じて超音波振動子4に印加する駆動交番電圧を制御する周波数制御回路34と、周波数設定回路36と、方向指示回路38とを備えている。
【0040】
駆動パルス発生回路26は、図12に示すように、所定の駆動周波数、および、同位相または所定の位相差θの2相(A相,B相)の駆動制御信号を生成し、ドライブIC28に出力する。所定の位相差θは、例えば、約90°とされている。
【0041】
ドライブIC28は、駆動パルス発生回路26から出力される2相の駆動制御信号に基づいて、同位相または所定の位相差θ、および、所定の駆動周波数の2相(A相,B相)の駆動交番電圧を生成し、各駆動交番電圧を上述した超音波振動子4のA相の外部電極22(A+),22(A−)、並びにB相の外部電極22(B+),22(B−)に印加する。
【0042】
振動検出回路30は、C相の外部電極22(C+),22(C−)と配線L1,L2を介して接続されており、C相の外部電極22(C+),22(C−)からのアナログ電気信号(以下、「C相電気信号」という。)に基づいて、超音波振動子4に生じている縦振動に対応する振動検出信号を生成する。具体的には、配線L1,L2を介して入力されたC相電気信号に対して、レベル調整、ノイズ除去、2値化等の各種信号処理を施してデジタル信号に変換し、処理後のデジタル信号を振動検出信号として出力する。
【0043】
位相比較回路32には、振動検出回路30から出力された振動検出信号とドライブIC28に入力されるA相の駆動制御信号とが入力されるようになっている。位相比較回路32は、図13に示すように、A相の駆動制御信号と振動検出信号との位相差φを求め、更に、この位相差φと予め記憶している基準位相差φrefとの差分Δφ(=φ−φref)を求め、この差分Δφに応じた信号を出力する。
【0044】
本実施形態では、例えば、基準位相差φrefを3π/4に設定し、A相の駆動制御信号と振動検出信号との位相差φが常に基準位相差3π/4となるように駆動周波数が制御される。これは、位相差φが3π/4のときに、駆動周波数を取ることとなり、超音波アクチュエータ10を最も効率の良い領域で駆動することができるからである。
なお、基準位相差φrefの値については、特に限定されることなく、超音波アクチュエータ10の駆動効率、換言すると、所望のアクチュエータの速度に応じて設計事項により任意に決定できる。
【0045】
図11に戻り、周波数制御回路34は、位相比較回路32からの差分Δφが入力されるようになっている。周波数制御回路34は、差分Δφに基づいて、差分Δφをゼロにするための周波数の変化量Δfを求め、この周波数の変化量Δfを周波数設定回路36へ出力する。具体的には、差分Δφがプラスの値を示していた場合には、周波数を所定数増加させるための変化量+Δfを出力し、差分Δφがマイナスの値を示していた場合には、周波数を所定量減少させるための変化量−Δfを出力する。このように、本実施形態では、差分Δφに基づく逐次制御を実施する。
【0046】
周波数設定回路36は、周波数制御回路34からの周波数の変化量Δfが入力されるようになっている。周波数設定回路36は、例えば、発振器、分周回路等を備えて構成されている。周波数設定回路36は、周波数を周波数制御回路34からの変化量Δfに応じて増減させたクロック信号を生成し、これを上述の駆動パルス発生回路26に出力する。
【0047】
なお、駆動パルス発生回路26には、方向指示回路38から方向指示信号が入力されるようになっている。駆動パルス発生回路26は、方向指示信号に応じてドライブIC28に出力する2相の駆動制御信号の位相差θを変更する。これにより、超音波振動子4の摩擦接触子18に発生する略楕円振動の向きを正転、または負転に切り替えることができ、この結果、図1の被駆動体2の回転方向をCW方向、CCW方向に移動させることができる。
【0048】
次に、上記超音波アクチュエータ10の駆動方法について説明する。
まず、超音波アクチュエータ10の起動時には、駆動装置8は、図14に示すように、超音波振動子4に縦振動を励起させた後、屈曲振動を励起させる。
図14において、横軸は時間を示し、縦軸は被駆動体2の移動速度を示している。本実施形態では、t0からt1までの間で縦振動を励起させ、t1以降は縦振動と屈曲振動を励起させる。
【0049】
具体的には、超音波アクチュエータ10の起動時には、駆動パルス発生回路26から所定の駆動周波数、および、同位相の2相の駆動制御信号がドライブIC28に入力される。これにより、同位相、および、所定の駆動周波数の2相の駆動交番電圧が、超音波振動子4のA相の外部電極22(A+),22(A−)、およびB相の外部電極22(B+),22(B−)にそれぞれ印加される。
【0050】
この結果、超音波振動子4には、縦振動が励起され、図15(a)に示すような縦振動が摩擦接触子18に発生する。この状態では、被駆動体2と超音波振動子4との間には、図示しない押圧手段の押圧力による静止摩擦力が働いているので、図14に示すように、被駆動体4は、移動が制限されて静止状態に保持される。
【0051】
続いて、縦振動による推力が十分となった状態になると、位相差θが90°のA相とB相の駆動制御信号(図12参照)が駆動パルス発生装置26から発生される。位相差θが90°のA相とB相の駆動制御信号が超音波振動子4に印加されると、超音波振動子4は、縦振動と屈曲振動とが励起された状態となる。これにより、屈曲振動の成長に合わせて、図15(b)に示すような縦振動と屈曲振動による楕円振動が摩擦接触子18の先端に発生する。これに伴い、超音波振動子4が浮上状態となって、被駆動体2と超音波振動子4との間の静止摩擦力が低下するので、縦振動の推進力により、図14に示すように、被駆動体2が移動し始める。
【0052】
上述のように、超音波アクチュエータ10の起動時においては、縦振動のみが励起されることにより、静止摩擦力が働いて被駆動体2の移動が抑制されるので、被駆動体2が重力の影響によって落下するのを防ぐことができる。また、被駆動体2を静止状態に保持しつつ、縦振動による推力が十分な状態で屈曲振動が励起されることにより、楕円振動が成長するまでの、例えば、逆走等の被駆動体2の不安定な動作を解消することができる。
【0053】
続いて、A相とB相の駆動制御信号の位相差θが90°に切り替えられると、A相とB相との駆動制御信号の周波数を共振周波数で一定とするために、振動検出回路30等によるフィードバック制御が開始される。
具体的には、超音波振動子4に生じている縦振動と屈曲振動のうち、縦振動に応じた電気信号が配線L1,L2を介して振動検出回路30に入力され、振動検出回路30において、デジタル信号に変換されて、振動検出信号として位相比較回路32に入力される。
【0054】
位相比較回路32に入力された振動検出信号は、A相の駆動制御信号と比較されることによって位相差φが求められ、更に、この位相差φと基準位相差φrefとの差分Δφが求められることにより、差分Δφに応じた信号が周波数制御回路34に出力される。
周波数制御回路34においては、差分Δφの符号(プラス、または、マイナス)に基づいて周波数の変化量Δfの符号(プラス、または、マイナス)が決められ、この変化量Δfが周波数設定回路36に出力される。
【0055】
周波数設定回路36は、変化量Δfに応じて周波数を変化させたクロック信号を生成し、これを駆動パルス発生回路26に出力する。
これにより、A相の駆動制御信号と振動検出信号との位相差φが基準位相差φrefとなるようなフィードバック制御が行われることとなり、超音波振動子4の内部電極14(C+),14(C−)から検出される縦振動の電気信号に追従した所望の駆動周波数で,超音波アクチュエータ10を駆動させることが可能となる。
【0056】
次に、超音波アクチュエータ10の駆動停止時において、駆動装置8は、図16に示すように、超音波振動子4に縦振動のみを所定の期間励起させ、その後、超音波振動子4の駆動を停止する。
図16において、横軸は時間を示し、縦軸は被駆動体2の移動速度を示している。本実施形態では、t1´において屈曲振動を停止して縦振動のみを励起し、t2´において駆動信号を停止させる。
【0057】
具体的には、超音波アクチュエータ10の駆動停止時においては、駆動パルス発生回路26から所定の駆動周波数、および、同位相の2相の駆動制御信号がドライブIC28に入力される。これにより、同位相、および、所定の駆動周波数の2相の駆動交番電圧が、超音波振動子4のA相の外部電極22(A+)、22(A−)、および、B相の外部電極22(B+),22(B−)にそれぞれ印加される。これにより、超音波振動子4に生じていた屈曲振動は減退し、縦振動のみが励起された状態となる。この結果、摩擦接触子18に発生している楕円振動は、図14(b)から図14(a)に示すように小さくなり、超音波振動子4の浮上状態が抑制される。
【0058】
これにより、被駆動体2と超音波振動子4との間の摩擦力は大きくなり、被駆動体2の移動が抑制される。また、超音波振動子4に励起される縦振動による移動方向の伸縮運動によって、被駆動体2に働く慣性力が低減される。そして、この状態で、A相およびB相の駆動制御信号を停止することにより、被駆動体2の移動が停止される。
【0059】
この結果、被駆動体2に摩擦力を効かせ、被駆動体2の慣性力を低減させた状態で、被駆動体2の移動を停止させるので(図16において実線A参照)、縦振動と屈曲振動とが合成した楕円振動を発生させたまま駆動信号を停止する場合(図16において一点鎖線B参照)よりも、停止時間を短縮することができる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態に係る超音波アクチュエータ10によれば、起動時には、被駆動体2の落下を防止するとともに被駆動体2の不安定な動作を解消することができ、駆動停止時には、被駆動体2が停止するまでの時間を短縮することができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、A相の駆動制御信号と振動検出信号とを比較することとしたが、A相の駆動制御信号に代えてB相の駆動制御信号を用いることとしてもよい。この場合には、基準位相差φrefをA相の駆動制御信号とB相の駆動制御信号との位相差θに応じて変更する必要がある。また、2相の駆動制御信号に代えて、ドライブIC28から超音波振動子4へ印加される2相の駆動交番電圧のいずれか一方を用いることとしてもよい。
【0062】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、本実施形態では、A相およびB相の電極に位相差の異なる駆動制御信号を印加することにより、超音波振動子4に縦振動と屈曲振動とを励起させたが、これに代えて、超音波振動子が、縦振動を誘起する専用の電極と屈曲振動を誘起する専用の電極とを備えることとし、超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを励起させることとしてもよい。このようにすることで、縦振動の振動速度と屈曲振動の振動速度とをそれぞれ変えることができる。この結果、縦振動と屈曲振動との合成により被駆動体が移動される超音波アクチュエータにおいては、被駆動体の移動速度は縦振動の振動速度で一義的に決まるため、屈曲振動の振動速度を変えることで、被駆動体の移動速度を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波アクチュエータの全体構成を示す概略図である。
【図2】図1の超音波アクチュエータを構成する超音波振動子を示す概略図である。
【図3】図2の超音波振動子を別の角度から見た概略図である。
【図4】図2の超音波振動子を構成する圧電セラミックスシートを示す斜視図である。
【図5】図2の超音波振動子を構成する圧電セラミックスシートを示す斜視図である。
【図6】図2の圧電積層体が1次の縦振動で振動する様子をコンピュータ解析により示した図である。
【図7】図2の圧電積層体が2次の屈曲振動で振動する様子をコンピュータ解析により示した図である。
【図8】圧電セラミックスシートに設けられた内部電極に発生する電荷状態を説明するための図であって、圧電セラミックスシートを4つの領域に区分した図である。
【図9】縦振動が励起されているときに、図8に示した各領域に励起される電荷状態を示した図である。
【図10】屈曲振動が励起されているときに、図8に示した各領域に励起される電荷状態を示した図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る超音波アクチュエータの駆動装置の概略構成を示したブロック図である。
【図12】駆動パルス発生回路により生成される2相の駆動制御信号を示した図である。
【図13】A相の駆動制御信号と振動検出信号を示した図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る超音波アクチュエータの起動時の振動の励起時間と被駆動体の移動速度との関係を示した図である。
【図15】図15(a)は摩擦接触子の縦振動を示し、図15(b)は摩擦接触子の縦振動と屈曲振動との合成による楕円振動を示す図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る超音波アクチュエータの駆動停止時の振動の励起時間と被駆動体の移動速度との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0064】
2 被駆動体
4 超音波振動子
10 超音波アクチュエータ(定在波型超音波アクチュエータ)
18 摩擦接触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを発生させることにより、前記超音波振動子の出力端に略楕円振動を生じさせ、該楕円振動の摩擦力を推力として、前記超音波振動子と前記超音波振動子に接触する被駆動体とを相対的に移動させる定在波型超音波アクチュエータの駆動方法であって、
起動時に、前記縦振動を励起した後に、前記屈曲振動を励起させる定在波型超音波アクチュエータの駆動方法。
【請求項2】
超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを発生させることにより、前記超音波振動子の出力端に略楕円振動を生じさせ、該楕円振動の摩擦力を推力として、前記超音波振動子と前記超音波振動子に接触する被駆動体とを相対的に移動させる定在波型超音波アクチュエータの駆動方法であって、
駆動停止時に、前記屈曲振動を停止した後に、前記縦振動を停止する定在波型超音波アクチュエータの駆動方法。
【請求項3】
超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを発生させることにより、前記超音波振動子の出力端に略楕円振動を生じさせ、該楕円振動の摩擦力を推力として、前記超音波振動子と前記超音波振動子に接触する被駆動体とを相対的に移動させる定在波型超音波アクチュエータの駆動装置であって、
起動時に、前記縦振動を励起した後に、前記屈曲振動を励起させる定在波型超音波アクチュエータの駆動装置。
【請求項4】
超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを発生させることにより、前記超音波振動子の出力端に略楕円振動を生じさせ、該楕円振動の摩擦力を推力として、前記超音波振動子と前記超音波振動子に接触する被駆動体とを相対的に移動させる定在波型超音波アクチュエータの駆動装置であって、
駆動停止時に、前記屈曲振動を停止した後に、前記縦振動を停止する定在波型超音波アクチュエータの駆動装置。
【請求項5】
定在波型超音波アクチュエータと、
請求項3または請求項4に記載の駆動装置と
を備える定在波型超音波アクチュエータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−172853(P2008−172853A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−770(P2007−770)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】