説明

定着ローラ、定着装置、画像形成装置

【課題】プロセス速度が高速の画像形成装置に適用される定着ローラについて、樹脂層が弾性層から剥離し難くする。
【解決手段】定着ローラは、芯金と、上記芯金の外周に形成される弾性材料からなる弾性層と、上記弾性層の外周に形成されるフッ素樹脂からなる樹脂層とを含む構成である。この構成において、樹脂層の厚みを40μm以上にし、所定のピーリング試験を行うことによって得られる限界剥離温度をTr(℃)、定着処理が実行される時の上記定着ローラの温度をTc(℃)とする場合、Tr≧Tc+60またはTr≧Tc+75が満たされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置に含まれている定着装置の構成要素である定着ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置(複写機、複合機、プリンタ)に用いられる定着ローラ、なかでもカラープリンタに用いられる定着ローラは、一般的に、金属製の芯金の外周に、シリコーンゴムからなる弾性層を形成し、この弾性層の外周にPFAチューブからなる樹脂層(表層)を設けた構造になっている。
【0003】
このようなPFAチューブを被覆した定着ローラは、円筒状金型の内面に、内周面をエッチング処理しプライマーを塗布したPFAチューブを固定し、芯金を挿入した後に、芯金とPFAチューブの隙間にシリコーンゴムを注入し、加熱硬化させて、PFAチューブとシリコーンゴムとを一体成型するといった方法で製造されている。
【0004】
また、定着ローラにおいては、シリコーンゴムの弾性を極力損なうことなく、より広いニップ幅や用紙の剥離性を確保し、光沢ムラが生じないようにするために、30μmの厚みのPFAチューブが一般的に用いられている。
【特許文献1】特開2001−312169(公開日:2001年11月9日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような定着ローラでは、例えばプロセス速度(定着ローラの周速度)が300mm/s以上の高速のプリンタに用いられる場合、PFAチューブに加わる機械的、熱的ストレスが大きくなるために、PFAチューブにしわが発生するといった不都合が生じる。
【0006】
このしわを防止するには、PFAチューブの厚みを厚くし(例えば40μm以上)、PFAチューブの機械的な強度を向上させるのが効果的であるが、本願の発明者が検討した結果、PFAチューブの厚みを厚くすると、シリコーンゴム(弾性層)からPFAチューブ(樹脂層)が界面剥離しやすくなるという課題が発生することがわかった。これは、PFAチューブを厚くすることによってチューブの柔軟性が低くなり、シリコーンゴムの変形にPFAチューブが十分追従することができなくなることから、PFAチューブとシリコーンゴムとの界面でずれ応力が生じるためである。
【0007】
特に、シリコーンゴムの厚み(弾性層の層厚)が厚かったり、シリコーンゴムの硬度が低い場合は、シリコーンゴムからなる弾性層の変形(ずれ応力)が大きくなることから、上述した課題が顕著となる。
【0008】
上述した課題を解決するための方法として、特許文献1の段落0020には、予めシリコーンゴムを形成したゴムローラにPFAチューブを被覆し、ゴムローラとPFAチューブとの間に、自己接着性を示すシリコーンゴムからなる接着剤を注入し、Oリングによって、注入した接着剤をPFAチューブの上から反対側の端部まで絞り上げてから、接着剤を加熱硬化させることで、ゴムローラにPFAチューブを接着する方法が提案されている。しかしながら、このような方法では、従来の製法に比べて製造工程が非常に複雑になると同時に、接着剤層を所定の厚さで均一に形成するのが困難であり、品質上の問題やコストアップが避けられない。
【0009】
それゆえ、特許文献1に示される定着ローラとは異なる定着ローラであって、上記した課題(シリコーンゴムからなる弾性層から、PFAチューブからなる樹脂層が剥離しやすくなる)が抑制される定着ローラが所望されている。
【0010】
本発明は、プロセス速度が高速(300mm/s以上)の画像形成装置に適用され、かつ、樹脂層を厚くしても(40μm以上)、樹脂層が弾性層から剥離し難い定着ローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の目的を達成するために、本発明は、画像形成装置の定着装置に備えられる定着ローラであり、芯金と、上記芯金の外周に形成される弾性材料からなる弾性層と、上記弾性層の外周に形成されるフッ素樹脂からなる樹脂層とを含む定着ローラにおいて、上記樹脂層の厚みが40μm以上であり、上記定着装置においての上記定着ローラの周速度が300mm/s以上に設定されており、下記の剥離試験を行うことによって得られる下記の限界温度をTr(℃)、上記定着装置において定着処理が実行される時の上記定着ローラの温度をTc(℃)とする場合、
Tr≧Tc+60
(上記剥離試験とは、上記弾性層と上記樹脂層とを含めるようにして上記定着ローラの一部分をサンプルとして切り出し、切り出したサンプルに荷重を作用させながら当該サンプルに温度X(℃)の加熱体を接触させることによって当該サンプルを加熱し、この加熱後に上記サンプルにおいて上記樹脂層が上記弾性層から剥離するか否かを確認する試験である。そして、上記剥離試験を複数回行い(試験を行う度に上記温度X(℃)を変更する)、上記剥離が確認されなかった各剥離試験のなかから温度X(℃)が最高の剥離試験を特定し、特定した剥離試験の温度X(℃)を上記限界温度とする。)が満たされることを特徴とする。
【0012】
以上のように、Tr≧Tc+60の関係が満たされる定着ローラは、樹脂層の厚みを40μm以上とし、定着ローラの周速度が300mm/s以上に設定されている高速の画像形成装置に適用される場合であっても、樹脂層が弾性層から剥離(界面剥離)し難くなるという効果を奏する。
【0013】
また、以上の目的を達成するために、本発明は、画像形成装置の定着装置に備えられる定着ローラであり、芯金と、上記芯金の外周に形成される弾性材料からなる弾性層と、上記弾性層の外周に形成されるフッ素樹脂からなる樹脂層とを含む定着ローラにおいて、上記樹脂層の厚みが40μm以上であり、上記定着装置においての上記定着ローラの周速度が355mm/s以上に設定されており、下記の剥離試験を行うことによって得られる下記の限界温度をTr(℃)、上記定着装置において定着処理が実行される時の上記定着ローラの温度をTc(℃)とする場合、
Tr≧Tc+75
(上記剥離試験とは、上記弾性層と上記樹脂層とを含めるようにして上記定着ローラの一部分をサンプルとして切り出し、切り出したサンプルに荷重を作用させながら当該サンプルに温度X(℃)の加熱体を接触させることによって当該サンプルを加熱し、この加熱後に上記サンプルにおいて上記樹脂層が上記弾性層から剥離するか否かを確認する試験である。そして、上記剥離試験を複数回行い(試験を行う度に上記温度X(℃)を変更する)、上記剥離が確認されなかった各剥離試験のなかから温度X(℃)が最高の剥離試験を特定し、特定した剥離試験の温度X(℃)を上記限界温度とする。)が満たされることを特徴とする。
【0014】
以上のように、Tr≧Tc+75の関係が満たされる定着ローラは、樹脂層の厚みを40μm以上とし、定着ローラの周速度が355mm/s以上に設定されている高速の画像形成装置に適用される場合であっても、樹脂層が弾性層から剥離(界面剥離)し難くなるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明の定着ローラにおいて、上記弾性材料は、耐熱性に優れたゴムであることが好ましく、特にシリコーンゴムが適している。但し、シリコーンゴムに限定されるものではなく、フッ素ゴム、シリコーンゴムとフッ素ゴムとの混合物等であってもよい。
【0016】
さらに、本発明の定着ローラにおいて、上記フッ素樹脂は、耐熱性および離型性に優れた材料であることが好ましく、特にPFA(テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)が適している。但し、PFAに限定されるものではなく、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFAとPTFEとの混合物等であってもよい。
【0017】
また、定着ローラにおいて高速化に対応するためには、弾性層を厚くし、弾性層を構成する弾性材料を低硬度に設計し、定着ニップ幅を広くすることが好ましいが、従来の定着ローラにおいてこのように設計した場合、弾性層の変形が大きくなり、樹脂層の剥離が生じ易いという問題が生じる。より具体的には、樹脂層の厚みが40μm以上の従来の定着ローラであって、弾性層の厚みを2mm以上、弾性層を構成する弾性材料のアスカーC硬度を20度以下に設計する場合、樹脂層の剥離が生じ易くなる。
【0018】
しかしながら、樹脂層の厚みを40μm以上、弾性層の厚みを2mm以上、弾性層を構成する弾性材料のアスカーC硬度を20度以下にした定着ローラであっても、上述したTr≧Tc+60またはTr≧Tc+75の関係を満たす定着ローラの場合、樹脂層の剥離が抑制される。
【0019】
さらに、定着ローラの樹脂層における弾性層と対向する面のプライマーの塗布量が多すぎると、上記樹脂層と上記弾性層との間において厚いプライマー層が生成されてしまい、この厚いプライマー層においては分断が生じやすく、上記樹脂層が上記弾性層から剥離しやすくなってしまう。したがって、上記樹脂層における上記弾性層と対向する面に対して必要な量だけプライマーを塗布すべきであり、具体的に、プライマーの塗布量は0.144g/cm以下であることが好ましい。
【0020】
また、逆に、上記樹脂層における上記弾性層と対向する面のプライマーの塗布量が少なすぎると、この面において部分的にプライマーの塗布されていない箇所が生じ、この箇所を起点として樹脂層が上記弾性層から剥離し始めるという不都合が生じ易くなる。したがって、上記樹脂層における上記弾性層と対向する面に対しては十分な量のプライマーを塗布すべきであり、具体的には、0.006g/cm以上であることが好ましい。
【0021】
また、上記樹脂層における上記弾性層と対向する面に塗布するプライマーとして、樹脂系プライマーを用いた場合、上記弾性層と上記樹脂層との間の接着強度は十分に保てるものの、ゴム系プライマーを用いた場合、上記接着強度が劣る場合があったり、定着処理における用紙の剥離性に劣る場合がある。それゆえ、上記樹脂層における上記弾性層と対向する面に塗布するプライマーは樹脂系のプライマーであることが好ましい。
【0022】
本発明の定着ローラにおいて、上記樹脂層における上記弾性層と対向する面にエッチング処理が施されていると、上記樹脂層を構成するフッ素樹脂の有する非粘着性(不活性)という性質が改質され、上記樹脂層へのプライマーの塗布が容易になり、上記樹脂層と上記弾性層との接着強度が向上する。なお、このようなエッチング処理としては、金属ナトリウムが溶解されている液体アンモニアを処理液とした化学エッチング処理、または、エキシマレーザを照射することによる物理エッチング処理が好ましい。
【0023】
なお、本発明は、上述した定着ローラを備えた定着装置と表現してもよいし、この定着装置を備えた画像形成装置と表現してもよい。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明は、画像形成装置の定着装置に備えられる定着ローラであり、芯金と、上記芯金の外周に形成される弾性材料からなる弾性層と、上記弾性層の外周に形成されるフッ素樹脂からなる樹脂層とを含む定着ローラにおいて、上記樹脂層の厚みが40μm以上であり、上記定着装置においての上記定着ローラの周速度が300mm/s以上に設定されており、上記剥離試験を行うことによって得られる上記限界温度をTr(℃)、上記定着装置において定着処理が実行される時の上記定着ローラの温度をTc(℃)とする場合、
Tr≧Tc+60
が満たされることを特徴とする。
【0025】
これにより、定着ローラの周速度が300mm/s以上に設定されている高速の画像形成装置に適用される場合であっても、樹脂層が弾性層から剥離(界面剥離)し難くなるという効果を奏する。
【0026】
また、以上のように、本発明は、画像形成装置の定着装置に備えられる定着ローラであり、芯金と、上記芯金の外周に形成される弾性材料からなる弾性層と、上記弾性層の外周に形成されるフッ素樹脂からなる樹脂層とを含む定着ローラにおいて、上記樹脂層の厚みが40μm以上であり、上記定着装置においての上記定着ローラの周速度が355mm/s以上に設定されており、上記剥離試験を行うことによって得られる上記限界温度をTr(℃)、上記定着装置において定着処理が実行される時の上記定着ローラの温度をTc(℃)とする場合、
Tr≧Tc+75
が満たされることを特徴とする。
【0027】
これにより、定着ローラの周速度が355mm/s以上に設定されている高速の画像形成装置に適用される場合であっても、樹脂層が弾性層から剥離(界面剥離)し難くなるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の一実施形態の定着ローラは、後で詳述する限界剥離温度をTr(℃)、定着処理が行われる時の当該定着ローラの温度をTc(℃)とする場合、Tr≧Tc+60またはTr≧Tc+75の関係が成立することを特徴とするものである。
【0029】
本願発明者は、上記の関係を見出すために様々な試験を行ったが、以下では、まず、試験に用いられる定着ローラの構成および製造方法について説明し、その後、行われた試験について詳細に説明することとする。
【0030】
図1は、試験用の定着ローラを示した断面図である。同図に示すように、定着ローラは、金属製の芯金と、芯金の外周に形成されるシリコーンゴム(弾性材料)からなる弾性層と、弾性層の外周に形成されるPFAチューブ(フッ素樹脂)からなる樹脂層(表層)とを含む構成である。なお、この定着ローラの仕様の詳細は以下の通りである。
【0031】
<定着ローラの仕様>
定着ローラ径:50mm
PFAチューブ:非導電・熱収縮(周方向及び軸方向の両方向)タイプ
PFAチューブ厚:50μm
PFAチューブの内周面の処理方法:金属ナトリウムが溶解されている液体アンモニアを処理液としたエッチング処理
シリコーンゴム厚:2mm
シリコーンゴム硬度:20度(ASKER−C硬度)
シリコーンゴム熱伝導率:0.45W/(m・℃)
芯金:アルミニウム製
芯金径:35.9mm
芯金肉厚:3mm
なお、上記PFAチューブ厚は、定着ローラの樹脂層の厚み(肉厚)に相当し、図1の参照符αに相当する長さである。また、上記シリコーンゴム厚は、定着ローラの弾性層の厚みに相当し、図1の参照符βに相当する長さである。
【0032】
また、このようなPFAチューブを被膜した定着ローラの製造方法は、以下の通りである。
【0033】
<定着ローラの製造方法>
(1)円筒状金型の内面に、内周面をエッチング処理したPFAチューブを固定する。
(2)塗布治具を用いて、PFAチューブの内周面にプライマーを塗布する。
(3)円筒状金型に固定されているPFAチューブに芯金を挿入する。
(4)芯金とPFAチューブとの隙間にシリコーンゴムを注入する。
(5)円筒状金型を加熱し、シリコーンゴムを加熱硬化させる(1次加硫)。
(6)芯金とシリコーンゴムとPFAチューブとから成る定着ローラを円筒状金型から取り外す。
(7)取り外した定着ローラをバッチ炉に入れ、加熱する(2次加硫)。
【0034】
本実施形態では、このような製造方法で作製した定着ローラの性能を調べるために、従来のカラー中速複合機と、カラー高速複合機とに、定着ローラを実際に搭載して、第1の実写エージング試験(評価本数:計10本)を行った。
【0035】
ここで、第1の実写エージング試験とは、複合機において印刷を連続で実行することによって、当該複合機に搭載されている定着ローラのライフ(寿命)を測定するものである。なお、ライフは、定着ローラにおいてPFAチューブがシリコーンゴムから剥離するまでに要した印刷枚数で表すこととする。
【0036】
また、前記したカラー中速複合機(以下、「中速機」とする)は、シャープ株式会社製のMX−4500Nであり、プロセス速度(定着ローラの周速度、用紙搬送速度、定着速度とも称す)225mm/s、印字速度45枚/分のスペックを有するものである。さらに、前記したカラー高速複合機(以下、「高速機」とする)は、シャープ株式会社の試作機であり、プロセス速度300mm/s、印字速度62枚/分のスペックを有するものである。
【0037】
第1の実写エージング試験の結果を以下の表1に示す。なお、表1において、N1〜N10、およびM1〜M10は、評価対象である定着ローラの各々の識別符号である。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示されるように、中速機に定着ローラを搭載した場合、10本共目標ライフの20万枚をクリアしたにもかかわらず、高速機に定着ローラを搭載した場合、10本中2本が目標ライフの20万枚に到達しなかった。なお、この目標に到達しなかった定着ローラは、2本共、PFAチューブがシリコーンゴムから浮いてきたためにライフエンドとなった。
【0040】
そこで、本願の発明者は、高速機に定着ローラを搭載すると、定着ローラのPFAチューブがシリコーンゴムから浮いてしまうことがある理由を検討した。この検討結果について以下詳細に説明する。
【0041】
PFAチューブはシリコーンゴムに比べて変形しにくい(柔軟性に劣る)。それゆえ、定着ニップ部(図5参照)付近において生じるシリコーンゴムの変形にPFAチューブが十分追従することができず、定着ローラにおいてPFAチューブとシリコーンゴムとの界面での機械的なストレス(ずれ応力)が発生する。この機械的なストレスは、プロセス速度(つまり定着ローラの周速度)が速いほど大きくなるため、プロセス速度が高速である程、定着ローラにおいてPFAチューブがシリコーンゴムから界面剥離して浮いてしまい易くなると考えられる。さらに、プロセス速度が速いほど、定着ニップ部での用紙の加熱時間が短くなることから、これによる熱量不足を補うために、定着温度を高く設定する必要がある。これにより、PFAチューブとシリコーンゴムとの界面の熱的なストレスも大きくなり、シリコーンゴムからPFAチューブが剥離しやすくなると考えられる。なお、定着温度とは、定着装置において定着処理が行われる時の定着ローラの温度であり、定着ローラの周面に用紙が接触する時の定着ローラの温度を意味する。
【0042】
ところで、表1に示されるように、第1の実写エージング試験の結果、試験に用いられた定着ローラ毎でライフに大きなばらつきがあった。このようなばらつきが生じるのは、製造時においてシリコーンゴム(弾性層)に対するPFAチューブ(樹脂層)の接着強度にばらつきが生じるためと考えられ、本願の発明者はこのばらつきを抑えることができれば、定着ローラ毎のライフを長くかつ略均一にできるものと考えた。
【0043】
そこで、本願の発明者は、シリコーンゴムに対するPFAチューブの接着強度にばらつきが生じる要因として、表2に示す6種類の製造条件に着目し、これら製造条件と上記接着強度との関係について調べてみた。
【0044】
【表2】

【0045】
より具体的に、本願発明者は、これら6種類の製造条件の各々を変数(パラメータ)とし、他の製造条件および仕様は図1に示した定着ローラと同一条件として、14本の定着ローラ(表2の定着ローラa〜定着ローラn)を製造した。そして、定着ローラa〜定着ローラnの各々について、本願発明者が独自に編み出したピーリング試験(ホットプレート試験,剥離試験)を行い、シリコーンゴムに対するPFAチューブの接着強度を評価することによって、上記の製造条件と上記の接着強度との関係を調べた。このピーリング試験の結果は表2に示す。
【0046】
なお、表2において、「標準」「高い」「低い」「長い」「短い」等の評価は、定着ローラaの各製造条件の値を標準とした場合の相対評価を示したものである。例えば、定着ローラbのプライマー乾燥時間は、「標準」であるため、定着ローラaのプライマー乾燥時間と同一値となり、定着ローラcの1次加硫温度は、「低い」であるため、定着ローラaの1次加硫温度よりも低い値である。
【0047】
また、表2の2次加硫時間およびプライマー塗布量の欄において、カッコ内に数値が記入されているが、この数値は、定着ローラaの値に対する割合を示したものである。例えば、定着ローラjのプライマー塗布量の欄には3.7が記入されているが、これは、定着ローラjのプライマー塗布量が定着ローラaのプライマー塗布量の3.7倍であることを示したものである。
【0048】
なお、定着ローラhの2次加硫温度の欄において−20℃という値が示されているが、これは、定着ローラhの2次加硫温度が定着ローラaの2次加硫温度よりも20℃低いことを示したものである。
【0049】
以下、表2の結果を考察する前に、まず上記のピーリング試験の手順について図2および図3に基づいて詳細に説明し、その後に表2に示すプライマー塗布量の測定方法についても詳細に説明する。
【0050】
<ピーリング試験の手順>
(1)定着ローラにおいて弾性層(シリコーンゴム)と樹脂層(PFAチューブ)とを含めた層を被膜層とすると、図2および図3に示すように、定着ローラから被膜層を幅10mmかつ長さ20mmの長方形状の大きさで芯金に沿って切り出し、切り出した被膜層を試験用のサンプルとして扱う。弾性層(シリコーンゴム)の厚さは1mm程度あれば良い。
(2)図3に示すように、加熱面が温度X(℃)になるように制御されたホットプレート(ここでは、アズワン株式会社製ND−1)上に、切り出したサンプルを置く。なお、サンプルのPFAチューブ側(表層側)がホットプレートの加熱面(加熱体)に接するように、ホットプレート上にサンプルを置く。
(3)図3に示すように、サンプルの上に、力(重量)が9.8N(1kgf)に相当するカウンターウエイトを置き、サンプルに荷重を加える。なお、カウンターウエイトは、金属製(本実施形態ではステンレス製)であり、高さ50mm、幅50mm、奥行き50mmの四角柱形状である。
(4)上記の荷重を加えた状態、かつ、温度X(℃)の加熱面をサンプルに接触させた状態で5時間放置することによって、サンプルを加熱する。
(5)5時間加熱後のサンプルについて、PFAチューブがシリコーンゴムから剥離するかを確認する。なお、ここでの確認とは、実験者が手でPFAチューブを軽く引っ張ることによってPFAチューブがシリコーンゴムから剥離するか否かを確認する作業を意味する。そして、この確認後、以下の指標に基づいて、シリコーンゴムに対するPFAチューブの接着強度を評価する。
【0051】
(指標)
○:PFAチューブとシリコーンゴムとの間で界面剥離が生じなかったもの(シリコーンゴム部でのゴム破断に至ったもの)。
△:PFAチューブとシリコーンゴムとの接着面の一部分において、PFAチューブとシリコーンゴムとの界面剥離が生じたもの。
×:PFAチューブとシリコーンゴムとの接着面の全てにわたって、PFAチューブとシリコーンゴムとの界面剥離が生じたもの。
―:評価せず。
【0052】
なお、本実施形態では、評価の対象となる定着ローラの各々について、ピーリング試験を複数回実行することにする(但し、試験の度に、ホットプレートの加熱面の温度X(℃)を変更する)。具体的には、評価の対象となる定着ローラの各々について、サンプルa,サンプルb,サンプルcの三つのサンプルを切り出す。そして、サンプルaについては上記温度X(℃)を250℃として5時間加熱して上記接着強度の評価を行い、サンプルbについては上記温度X(℃)を265℃として5時間加熱して上記接着強度の評価を行い、サンプルcについては上記温度X(℃)を280℃として5時間加熱して上記接着強度の評価を行った。このようにすれば、一つの定着ローラについて、温度X(℃)を互いに異ならせた3通りのピーリング試験が実行されることになる(250℃の試験と、265℃の試験と、280℃の試験とが実行される)。なお、この評価の結果は、表2の「ピーリング試験」の欄に示す通りである。
【0053】
つぎに、表2に示す定着ローラa〜定着ローラnの各々においての、PFAチューブの内周面のプライマー塗布量を測定する方法を説明する。なお、この測定は定着ローラの製造時に行われる。
【0054】
<プライマー塗布量の測定方法>
(1)円筒状金型の内面にPFAチューブを固定する。
(2)PFAチューブをセットした状態での円筒状金型の重量W1を測定する。
(3)塗布治具を用いて、PFAチューブの内周面にプライマーを塗布する。
(4)プライマーを塗布して10秒後の円筒状金型の重量W2を測定する。
(5)プライマー塗布量をWpとしたとき、以下の式Aを用いてWpを算出する。
Wp=(W2−W1)/S (式A)
但し、SはPFAチューブ内面の表面積である。
【0055】
つぎに、表2の内容を考察する。表2の内容からすれば、シリコーンゴムに対するPFAチューブの接着強度がばらつく要因としては、PFAチューブのエッチング処理時間や、1次・2次加硫温度、2次加硫時間、プライマーの乾燥時間等の製造条件は関係なく、プライマーの塗布量の影響が非常に大きいことがわかる。
【0056】
そこで、本願の発明者は、プライマーの塗布量と上記の接着強度との関係をより詳細に検討し、また、上記の接着強度と因果関係のある製造条件を検討するために、さらに計21本の定着ローラを製造し、この21本の定着ローラについて比較検討を行った。
【0057】
これら21本の定着ローラは、PFAチューブ内周面のエッチング処理時間や1次・2次加硫温度、2次加硫時間、プライマーの乾燥時間等の製造条件を表2の標準に固定し、プライマー塗布量、プライマーの種類、PFAチューブの厚み、PFAチューブの内周面の処理方法を変数とし、その他の条件については図1の定着ローラと同一とすることによって製造されたものである。なお、以下では、製造した21本の定着ローラを、実施例1〜13および比較例1〜8として表す(表3参照)。
【0058】
実施例1〜13および比較例1〜8の比較検討について詳細に説明すると以下の通りである。まず、実施例1〜13および比較例1〜8の各々を、下記の(A)〜(D)の複合機の各々に搭載して第2の実写エージング試験を行った。
(A)プロセス速度173mm/s(印字速度41枚/分)の複合機
(B)プロセス速度225mm/s(印字速度45枚/分)の複合機
(C)プロセス速度300mm/s(印字速度62枚/分)の複合機の試作機
(D)プロセス速度355mm/s(印字速度70枚/分)の複合機の試作機
第2の実写エージング試験とは、50枚間欠モード(50枚連続通紙した後3秒間停止する動作を繰り返すモード)にて合計20万枚を目標として印刷を行った場合の定着ローラの劣化度合を評価する試験である。また、第2の実写エージング試験では、A4サイズ、かつ、単位面積当たりの質量が60g/mである用紙を用いた。さらに、第2の実写エージング試験では、定着ローラの温度を190℃に制御した。
【0059】
また、実施例1〜13および比較例1〜8についても、前述したピーリング試験を行い、シリコーンゴムに対するPFAチューブの接着強度を評価した。なお、試験の手順および評価の指標については前述した通りである。
【0060】
以下、実施例1〜13および比較例1〜8を対象とした第2の実写エージング試験およびピーリング試験の結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
以下では、まず表3の内容について説明する。
【0063】
表3において、プライマーA、プライマーB、プライマーCの各々の意味は以下の通りである。
プライマーA:樹脂系プライマー(東レ・ダウコーニング社製DY39−067)。
プライマーB:ゴム系プライマー(東レ・ダウコーニング社製DY39−051A)。
プライマーC:ゴム系プライマー(東レ・ダウコーニング社製DY39−051B)。
【0064】
また、表3において、処理A、処理B、処理Cの意味は以下の通りである。
処理A:金属ナトリウムが溶解された液体アンモニアを処理液としたエッチング処理。
処理B:エキシマレーザを用いたエッチング処理。
処理C:金属ナトリウムが溶解されたナフタレンとテトラヒドロフランとの混合液を処理液としたエッチング処理。
【0065】
また、表3の「第2の実写エージング試験」の各欄における左側の評価(○、△、×)の意味は以下の通りである。
○:20万枚の印刷中においてしわの発生は無し。
△:印刷枚数が10万枚〜20万枚でしわが発生。
×:印刷枚数が10万枚以下でしわが発生。
【0066】
また、表3の「第2の実写エージング試験」の各欄における右側の評価(○、△、×)の意味は以下の通りである。
○:20万枚の印刷中においてPFAチューブの剥離は無し。
△:印刷枚数が10万枚〜20万枚でPFAチューブの剥離が発生。
×:印刷枚数が10万枚以下でPFAチューブの剥離が発生。
【0067】
つぎに、表3の内容について検討する。
【0068】
(a)PFAチューブの厚みと接着強度との関係(比較例1〜比較例3)
定着ローラにおいて、シリコーンゴム(弾性層)の弾性を極力損なうことなく、より広いニップ幅や用紙の剥離性を確保し、また、光沢ムラが生じないようにするために、定着ローラ用のPFAチューブとしては30μmの厚みのものが従来から一般的に用いられている。
【0069】
しかし、比較例1の結果から、PFAチューブの厚みが30μmである定着ローラにおいては、プロセス速度300mm/s以上の高速条件下で使用されると、PFAチューブにしわが発生するという問題があることがわかる。これは、プロセス速度が速くなることにより、PFAチューブに加わる機械的、熱的ストレスが大きくなるためである。
【0070】
また、プロセス速度が高速の条件において定着ローラのPFAチューブのしわを抑制するには、比較例2、比較例3の結果から、PFAチューブの厚みを40μm以上にすることによってPFAチューブの機械的な強度を向上させるのが効果的であることがわかる。しかしながら、PFAチューブを厚くすると、PFAチューブがシリコーンゴムから剥離しやすくなる傾向があることもわかる。これは、PFAチューブを厚くすることによって、PFAチューブの柔軟度が低くなり、PFAチューブがシリコーンゴムの変形に十分追従することができなくなることから、PFAチューブとシリコーンゴムとの界面でのずれ応力が大きくなるためである。
【0071】
(b)プライマーの塗布量と接着強度との関係(比較例3〜4、実施例1〜8)
比較例3〜比較例4および実施例1〜実施例8に対するピーリング試験の結果から、プライマーの塗布量が少ないほど、定着ローラの限界剥離温度(限界温度)が高くなることがわかる。
【0072】
ここで、定着ローラの限界剥離温度とは、当該定着ローラを試験対象としてピーリング試験を複数回行い(試験の度に、ホットプレートの加熱面の温度X(℃)を変更する)、PFAチューブの剥離が確認されなかった各ピーリング試験のなかから温度X(℃)が最高のピーリング試験を特定し、特定したピーリング試験の温度X(℃)を意味するものである。
【0073】
この限界剥離温度について、実施例2の定着ローラを例にして説明すると以下の通りである。表3に示すように、実施例2の定着ローラに対して、温度X(℃)が250℃のピーリング試験と温度X(℃)が265℃のピーリング試験と温度X(℃)が280℃のピーリング試験とが行われている(合計3回)。ここで、PFAチューブの剥離が確認されなかった試験は、温度X(℃)が250℃の試験と、温度X(℃)が265℃の試験とであり、このうち、温度X(℃)が最高のピーリング試験は温度X(℃)が265℃のピーリング試験である。したがって、実施例2の定着ローラの限界剥離温度は265℃となる。
【0074】
この限界剥離温度の高い定着ローラほど、PFAチューブを剥離するためには、より高温下での加熱が必要になる。それゆえ、以上にて説明した限界剥離温度は、定着ローラにおいてのPFAチューブの剥がれ難さを示した尺度といえる。したがって、定着ローラにおいて、この限界剥離温度が高いほど上記の接着強度が高いといえ、限界剥離温度が低いほど上記の接着強度が低いといえる。
【0075】
以下、プライマーの塗布量と限界剥離温度との関係についてより詳細に検討する。例えば、プライマーの塗布量が0.198mg/cm以上である比較例3および比較例4は、ピーリング試験における温度X(℃)を250℃にしてもPFAチューブが剥離するため(×評価または△評価)、限界剥離温度が250℃未満であるものと考えられる。これに対し、プライマーの塗布量が0.144mg/cm以下である実施例2〜8は、PFAチューブの限界剥離温度が265℃となる。すなわち、プライマーの塗布量が少なくなるにつれて、限界剥離温度は高くなり、プライマーの塗布量が多くなるにつれて、限界剥離温度は低くなり、プライマーの塗布量と限界剥離温度との間には負の相関関係が成立している。これは、プライマーの塗布量が多すぎると、シリコーンゴムとPFAチューブとの間に形成されるプライマー層の厚さが増し、プライマー層の内部で剥離(分断)が生じるためと考えられる。
【0076】
この点、プライマーの塗布量が0.144mg/cm以下の実施例2〜8においては、プロセス速度が355mm/sの高速条件でもPFAチューブの剥離が発生しないことがわかった。よって、プライマー塗布量は0.144mg/cm以下が好ましい。
【0077】
さらに、プライマーの塗布量が少なすぎると、PFAチューブの内面において部分的にプライマーが塗布されない箇所ができ、そこを起点としてPFAチューブが浮いてくることが懸念されるが、実施例8の結果より、プライマー塗布量が0.006mg/cmでも、ピーリング試験及び第2の実写エージング試験のいずれにおいてもPFAチューブの完全な剥離が発生していないことがわかり、プライマー塗布量の下限値は0.006mg/cmであるといえる(つまり、プライマー塗布量は0.006mg/cm以上が好ましい)。
【0078】
(c)プライマーの種類と接着強度との関係(比較例5〜6、実施例2〜10)
比較例5、比較例6および実施例2〜実施例10に対するピーリング試験の結果から、プライマーの種類によっても、定着ローラの限界剥離温度が大きく変わることがわかる。
【0079】
具体的には、プライマーAまたはプライマーBが用いられている実施例2〜10は、ピーリング試験において温度X(℃)が265℃の場合にはPFAチューブの剥離が起こらない。つまり、実施例2〜10では、限界剥離温度が少なくとも265℃以上であることがわかる。これに対し、プライマーCが用いられている比較例5〜6は、ピーリング試験において温度X(℃)が250℃でもPFAチューブが完全に剥離する(×評価)。つまり、比較例5〜6では、限界剥離温度が250℃未満であることがわかる。したがって、ピーリング試験の結果から、プライマーAまたはプライマーBが用いられている定着ローラは、プライマーCが用いられている定着ローラよりも、シリコーンゴムに対するPFAチューブの接着強度が高いといえる。
【0080】
また、プライマーAまたはプライマーBが用いられている実施例2〜10では、プロセス速度が355mm/sの高速条件で第2の実写エージング試験を行っても、PFAチューブの剥離が発生していない。これに対し、プライマーCが用いられている比較例5〜6では、プロセス速度を300mm/s以上にして第2の実写エージング試験を行うと、PFAチューブの剥離が発生してしまうことがわかった。したがって、第2の実写エージング試験の結果から、プライマーAまたはプライマーBが用いられている定着ローラは、プライマーCが用いられている定着ローラよりも、シリコーンゴムに対するPFAチューブの接着強度が高いといえる。
【0081】
さらに、プライマーAを用いた定着ローラ、プライマーBを用いた定着ローラについて、別途、用紙の剥離性を評価する実験を行った結果を以下の表4に示す。実験方法としては、実施例5を搭載した複合機、実施例9を搭載した複合機、実施例10を搭載した複合機を用いて、試験印刷を行った。なお、この試験印刷は、単位面積当たりの質量が60g/mの用紙に、カラー3層かつ印字率100%のベタ画像(シアン画像、マゼンタ画像、黄画像を重ねたベタ画像)を形成した場合に(トナー付着量1.2mg/cm)、用紙が定着ローラから問題無く剥離するかどうかを試験するものである。また、この試験印刷は定着温度を変数として複数回行った。
【0082】
【表4】

【0083】
なお、表4において、○は「用紙剥離問題無し」を意味し、×は「用紙剥離問題有り(剥離爪跡発生)」を意味する。
【0084】
表4に示される結果より、プライマーB(ゴム系)はプライマーA(樹脂系)に比べて用紙の剥離性の点で劣ることがわかる。以上の結果から、PFAチューブの内周面(図1において、樹脂層における弾性層に対向する面)に塗布するプライマーとしては樹脂系が好ましい。
【0085】
(d)PFAチューブの内周面の処理と接着強度との関係(比較例7、実施例6および11)
比較例7、実施例6、実施例11のピーリング試験の結果から、PFAチューブの内周面の処理方法によっても、PFAチューブの限界剥離温度が大きく変わることがわかる。具体的には、処理Aや処理Bを採用した実施例6や実施例11の場合、限界剥離温度が少なくとも265℃以上であるのに対し、処理Cを採用した比較例7の場合、ピーリング試験において加熱温度が250℃でもPFAチューブが完全に剥離する。つまり、比較例7は限界剥離温度が250℃未満であることがわかる。したがって、ピーリング試験の結果から、処理Aや処理Bが採用されている定着ローラは、処理Cが採用されている定着ローラよりも、シリコーンゴムに対するPFAチューブの接着強度が高いといえる。
【0086】
また、処理Aや処理Bを採用した実施例6や実施例11では、プロセス速度が355mm/sの高速条件で第2の実写エージング試験を行ってもPFAチューブの剥離が発生していないのに対し、処理Cを採用した比較例7では、プロセス速度を300mm/s以上にして第2の実写エージング試験を行うと、PFAチューブの剥離が発生してしまうことがわかった。したがって、第2の実写エージング試験の結果から、処理Aや処理Bが採用されている定着ローラは、処理Cが採用されている定着ローラよりも、シリコーンゴムに対するPFAチューブの接着強度が高いといえる。
【0087】
それゆえ、定着ローラにおいて、PFAチューブの内周面の処理方法としては、前述の処理Aまたは処理Bを採用することが好ましい。
【0088】
(e)PFAチューブ厚40μmでの接着強度(比較例8、実施例12、実施例13)
上記の(a)〜(d)はいずれもPFAチューブ厚が50μmでの検討結果であることから、つぎに、PFAチューブ厚40μmの場合についても、検討を行った。
【0089】
比較例8、実施例12、実施例13のピーリング試験の結果および第2の実写エージング試験の結果より、PFAチューブの厚みが40μmの場合でも、プライマーの塗布量を少なくすると、シリコーンゴムに対するPFAチューブの接着強度が向上することがわかる。
【0090】
以上、(a)〜(e)に示した検討結果から、PFAチューブの厚さや内周面の処理方法、プライマーの種類やプライマーの塗布量等、PFAチューブの接着強度に影響を与える種々のパラメータの条件がどうであろうとも、限界剥離温度が250℃以上であった定着ローラはいずれも、プロセス速度が300mm/s以上で第2の実写エージング試験を行ってもPFAチューブの剥離が発生しない事がわかった。また、本実施形態のピーリング試験は、PFAチューブの接着強度試験として問題ないこともわかった。
【0091】
また、ピーリング試験による限界剥離温度が265℃以上であった定着ローラはいずれも、プロセス速度が355mm/s以上で第2の実写エージング試験を行っても、PFAチューブの剥離が発生しないこともわかった。
【0092】
つぎに、本願の発明者は、定着ローラの限界剥離温度と定着温度との関係を検討するために、さらに計7本の定着ローラを製造し、この7本の定着ローラについて第3の実写エージング試験を行った(表5参照)。
【0093】
この7本の定着ローラは、プライマー塗布量を互いに異ならせることによって限界剥離温度が互いに異なるように製造されたものである。なお、この7本の定着ローラを、定着ローラA〜定着ローラGとして表す。
【0094】
【表5】

【0095】
ここで、第3の実写エージング試験とは、定着ローラA〜Gを以下の(E)(F)の各々に搭載し、定着温度を180℃、190℃、200℃の3通りで、50枚間欠モードにて合計20万枚を目標として印刷を行った場合の定着ローラの劣化度合を判定する試験である。
(E)プロセス速度300mm/s(印字速度62枚/分)である複合機の試作機(シャープ株式会社製)。
(F)プロセス速度355mm/s(印字速度70枚/分)である複合機の試作機(シャープ株式会社製)。
【0096】
なお、第3の実写エージング試験では、A4サイズ、かつ、単位面積当たりの質量が60g/cmの用紙が用いられた。
【0097】
また、表5の「第3の実写エージング試験」の各欄における評価(○、△、×、−)の意味は以下の通りである。
○:20万枚の印刷中においてPFAチューブの界面剥離は無し。
△:印刷枚数が10万枚〜20万枚でPFAチューブの界面剥離が発生。
×:印刷枚数が10万枚以下でPFAチューブの界面剥離が発生。
−:評価せず(界面剥離無しと考えられるため)。
【0098】
また、図4は、表5に示されるプロセス速度300mm/sにおける試験結果とプロセス速度355mm/sにおける試験結果との各々について、定着ローラの限界剥離温度と定着温度との関係を簡易にグラフ化したものである。
【0099】
図4および表5に示すように、PFAチューブの剥離耐久性を確保するためには、複合機の定着温度が高くなるほど、限界剥離温度が高い定着ローラが必要になることがわかる。
【0100】
特に、表5の「第3の実写エージング試験」の各欄における評価が○であれば合格であるものと扱う場合、表5からすれば、
プロセス速度が300mm/s以上の複合機においては、
Tr≧Tc+60
(Tr→定着ローラの限界剥離温度 Tc→定着温度)
また、プロセス速度が355mm/s以上の複合機においては、
Tr≧Tc+75
の関係を満たす定着ローラの品質は合格となる。
【0101】
以上のように、Tr≧Tc+60の関係が満たされる定着ローラは、樹脂層の厚みを40μm以上とし、定着ローラの周速度が300mm/s以上に設定されている高速の画像形成装置に適用される場合であっても、樹脂層が弾性層から剥離(界面剥離)し難くなるという効果を奏する。また、Tr≧Tc+75の関係が満たされる定着ローラは、樹脂層の厚みを40μm以上とし、定着ローラの周速度が355mm/s以上に設定されている高速の画像形成装置に適用される場合であっても、樹脂層が弾性層から剥離(界面剥離)し難くなるという効果を奏する。つまり、上記の関係を満たす定着ローラによれば、複合機、複写機、プリンタのプロセス速度を高速化した場合においても、PFAチューブのしわや剥離が生じることを抑制でき、品質的にも安定でコストアップにも繋がることがない。
【0102】
また、本実施形態の定着ローラの弾性層は、シリコーンゴムであるが、耐熱性に優れた弾性材料であればシリコーンゴムに限定されず、フッ素ゴム、シリコーンゴムとフッ素ゴムとの混合物等であってもよい。
【0103】
さらに、本実施形態の定着ローラの樹脂層は、PFAチューブであるが、耐熱性および離型性に優れた樹脂(フッ素樹脂)であればPFAに限定されず、PTFE、PFAとPTFEとの混合物等であってもよい。
【0104】
また、樹脂層の厚みが40μm以上の定着ローラについて、高速化に対応するためには、弾性層を厚くし、弾性層を構成するシリコーンゴムを低硬度に設計し定着ニップ幅を広くすることが好ましく、具体的には、弾性層の厚みを2mm以上、シリコーンゴムのアスカーC硬度を20度以下に設計することが好ましい。但し、従来の定着ローラにおいてこのように設計した場合、弾性層の変形が大きくなり、樹脂層の剥離が生じ易いという問題が生じる。
【0105】
しかしながら、上述したTr≧Tc+60またはTr≧Tc+75の関係を満たす定着ローラの場合、樹脂層の厚みを40μm以上、弾性層の厚みを2mm以上、弾性層を構成するシリコーンゴムのアスカーC硬度を20度以下に設計しても、樹脂層の剥離が抑制される。
【0106】
つぎに、以上にて説明した本実施の形態の定着ローラが実装される定着装置について詳細に説明する。
【0107】
<定着装置の説明>
本実施の形態に係る定着装置は、未定着のカラートナー画像が表面に形成された記録紙(用紙,記録材)に対し、熱および圧力によりトナー画像を用紙上に定着させるものである。未定着のトナー画像は、非磁性一成分現像剤(非磁性トナー)、非磁性二成分現像剤(非磁性トナーおよびキャリア)、磁性現像剤(磁性トナー)等の現像剤(以下、トナーとも称する)によって形成される。
【0108】
図5は、本実施の形態に係る定着装置10の構成を示す断面図である。図5に示すように、定着装置10は、第1定着ローラ11、第2定着ローラ(加圧ローラ)12、外部加熱部材としての外部加熱ベルト13、外部加熱ベルト13を懸架し加熱するための加熱ローラ14A・14B、加熱ローラ14A・14Bを加熱するための熱源であるヒータランプ15A・15B、第1定着ローラ11を加熱するための熱源であるヒータランプ16、第2定着ローラを加熱するための熱源であるヒータランプ17、第1定着ローラ11と第2定着ローラ12と外部加熱ベルト13との各々の温度を検出するための温度検出手段である温度センサとしてのサーミスタ18・19・20、第1定着ローラ11をクリーニングするためのウエブクリーニング装置21を備えている。
【0109】
第1定着ローラ11および第2定着ローラ12は、所定の荷重(ここでは600N)で互いに圧接されて、それらの間に定着ニップ部(第1定着ローラ11および第2定着ローラ12が互いに当接する部分)を形成している。なお、本実施形態では、定着ニップ部の用紙搬送方向の長さは9mmである。
【0110】
記録紙は、この定着ニップ部を通過することで、トナー画像が定着されるようになっている。記録紙が定着ニップ部を通過する時には、第1定着ローラ11は記録紙のトナー画像形成面に当接する一方、第2定着ローラ12は記録紙におけるトナー画像形成面とは反対の面に当接するようになっている。
【0111】
第1定着ローラ11の内部には、第1定着ローラ11を加熱するヒータランプ16が配置されている。制御回路22からヒータランプ16に通電されることにより、ヒータランプ16が発光し、赤外線が放射される。これにより、第1定着ローラ11の内周面が赤外線を吸収して加熱され、第1定着ローラ11全体が加熱される。
【0112】
第1定着ローラ11は、第1定着ローラ11に対して設定されている所定の定着温度にまで加熱されて、定着装置10の定着ニップ部を通過する未定着トナー画像が形成された記録紙を加熱するためのものである。第1定着ローラ11は、直径50mmで、その内側から順に、芯金、弾性層、樹脂層(表層、離型層)が形成された3層構造からなる。
【0113】
芯金には、たとえば、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅等の金属あるいはそれらの合金等が用いられるが、ここでは厚さ3mmのアルミ製芯金を用いている。また、弾性層にはシリコーンゴム、樹脂層にはPFAやPTFE等のフッ素樹脂が適しているが、ここでは、弾性層として厚さ2mmのシリコーンゴム、樹脂層として厚さ50μmのPFAチューブが用いられる。
【0114】
第2定着ローラ12も第1定着ローラ11と同様、直径50mmであり、厚さ3mmのアルミニウム製芯金の外周表面に厚さ2mmシリコーンゴムの弾性層を有し、更にその上に厚さ50μmのPFAチューブからなる樹脂層(表層、離型層)が形成されている。そして、第2定着ローラ12は、定着処理時において、ヒータランプ17から照射される赤外線によって、第2定着ローラ12に対して設定されている所定の定着温度にまで加熱される。
【0115】
外部加熱ベルト13は、直径30mmであり、所定の温度(ここでは220℃)に加熱された状態で第1定着ローラ11表面に当接して、第1定着ローラ11表面を加熱するものである。外部加熱ベルト13は、直径15mmの2本の加熱ローラ14A、14Bによって懸架されており、加熱ローラ14A、14Bの内部には、加熱ローラ14A、14Bを加熱する加熱源としてのヒータランプ15A,15Bが配置されている。
【0116】
そして、制御回路22からヒータランプ15A,15Bに通電されることにより、ヒータランプ15A,15Bが発光して赤外線が放射される。これにより、加熱ローラ14A,14Bの周面が加熱され、加熱ローラ14A,14Bを介して間接的に外部加熱ベルト13が加熱されるよう構成されている。
【0117】
外部加熱ベルト13は、第1定着ローラ11に対し定着ニップ部の上流側に設けられ、待機時には第1定着ローラ11から離間し、動作時には所定の押圧力(ここでは40N)をもって第1定着ローラ11に圧接されるようになっている。そして、第1定着ローラ11との間に加熱ニップ部が形成されている。なお、本実施の形態では、加熱ニップ部の用紙搬送方向の長さは20mmである。
【0118】
外部加熱ベルト13は、第1定着ローラ11の回転時には、第1定着ローラ11に従動して回転するようになっており、この外部加熱ベルト13の回転に従動して、加熱ローラ14A,14Bも回転するよう構成されている。
【0119】
外部加熱ベルト13の構成としては、ポリイミド等の耐熱樹脂或いはステンレスやニッケル等の金属材料からなる中空円筒状の基材の表面に、離型層として、耐熱性および離型性に優れた合成樹脂材料(例えばPFAやPTFE等のフッ素樹脂)が形成された2層構成となっている。なお、本実施形態では、厚さ90μmのポリイミド製の基材表面にPFAとPTFEのブレンドからなる厚さ15μmの離型層が設けられた構成である。また、外部加熱ベルト13の寄り力を低減するために、ベルト基材の内面に、フッ素樹脂等のコーティングを施してもよい。
【0120】
加熱ローラ14A,14Bとしては、アルミニウムや鉄系材料等からなる中空円筒状の金属製芯材からなる。また、外部加熱ベルト13の寄り力を低減するために、金属製芯材の表面に、フッ素樹脂等のコーティングを施してもよい。
【0121】
第1定着ローラ11、第2定着ローラ12、外部加熱ベルト13の各々の周面には、温度検知手段としてのサーミスタ18,19,20が配設されており、各ローラ、ベルトの表面温度を検出するようになっている。そして、各サーミスタ18,19,20により検出された温度データに基づいて、温度制御手段としての制御回路22が、各ローラ、ベルトの表面温度が所定の温度となるようヒータランプ15A,15B,16,17への通電を制御する。
【0122】
また、定着ニップ部に所定のプロセス速度(定着速度)で未定着トナー像が形成された記録紙Pが搬送され、熱と圧力により定着が行われる。なお、本実施の形態の場合、プロセス速度は300mm/sまたは355mm/sである。また、プロセス速度が300mm/sの場合、印字速度(複写速度、1分あたりの印刷枚数)は70枚/分であり、プロセス速度300mm/sの場合、印字速度は62枚/分になる。
【0123】
さらに、図5には示していないが、定着ニップ部を記録紙が通過するように、第1定着ローラ11を回転駆動する駆動モータ(駆動手段)が設けられている。また、第2定着ローラ12は、第1定着ローラ11の回転に従動して回転する。つまり、第1定着ローラ11と第2定着ローラ12とは、図5に示すように、互いに逆方向に回転される。
【0124】
なお、本発明の定着ローラは、外部加熱ベルト13を用いた定着装置10だけでなく、外部加熱ローラを用いた定着装置や、外部加熱手段を持たない定着装置にも適用可能である。また、本発明の定着ローラは、第1定着ローラ11、第2定着ローラ12のいずれにも適用可能である。つまり、本発明の定着ローラは、定着処理時に所定の温度にまで加熱されるローラであって、記録紙のトナー画像形成面に圧接するローラ、または、記録紙のトナー画像形成面とは反対側の面に圧接するローラに適用可能なのである。
【0125】
さらに、本実施形態の定着装置では、第1定着ローラ11と第2定着ローラ12とのいずれにも内部熱源を構成しているが、いずれか一方のローラにのみ内部熱源が構成されている定着装置に対しても本発明の定着ローラを適用できる。
【0126】
つぎに、以上にて説明した本実施の形態の定着装置が備えられる画像形成装置について詳細に説明する。
【0127】
<画像形成装置の説明>
図6は、本実施形態の定着装置10を備えた画像形成装置100の概略構成を示す断面図である。この画像形成装置100は、電子写真方式のプリンタであって、いわゆるタンデム式かつ中間転写方式が採用された構成であり、フルカラー画像を形成することができる。
【0128】
図6に示すように、画像形成装置100は、4色分(C,M,Y,K)の可視像形成ユニット50a〜50d、転写ユニット40、及び定着装置10を備えている。
【0129】
転写ユニット40には、中間転写ベルト45(像担持体)と、4つの一次転写装置42a〜42d、二次転写前帯電装置43、二次転写装置44、及び転写用クリーニング装置46を備えている。
【0130】
中間転写ベルト45は、可視像形成ユニット50a〜50dによって可視化された各色のトナー像が重ね合わせて転写されるとともに、転写されたトナー像を記録紙に再転写するためのものである。具体的には、中間転写ベルト45は無端状のベルトであり、一対の駆動ローラ及びアイドリングローラによって張架されているとともに、画像形成の際には所定の周速度に制御されて搬送駆動される。
【0131】
一次転写装置42a〜42dは、可視像形成ユニット50a〜50dごとに設けられており、それぞれの一次転写装置42a〜42dは、対応する可視像形成ユニット50a〜50dと中間転写ベルト45を挟んで反対側に配置されている。
【0132】
二次転写前帯電装置43は、中間転写ベルト45に重ね合わせて転写されたトナー像を再帯電させるためのものであり、イオンを放出することによってトナー像を帯電させるようになっている。
【0133】
二次転写装置44は、中間転写ベルト45上に転写されたトナー像を、記録紙に対して再転写するためのものであり、中間転写ベルト45に接して設けられている。転写用クリーニング装置46は、トナー像の再転写が行われた後の中間転写ベルト45の表面をクリーニングするためのものである。
【0134】
なお、転写ユニット40において、中間転写ベルト45の周囲には、中間転写ベルト45の搬送方向上流から、一次転写装置42a〜42d、二次転写前帯電装置43、二次転写装置44、転写用クリーニング装置46の順で各装置が配置されている。
【0135】
さらに、二次転写装置44の記録紙搬送方向下流側には、定着装置10が設けられている。定着装置10は、二次転写装置44によって記録紙上に転写されたトナー像を記録紙に定着させるためのものである。
【0136】
また、中間転写ベルト45には、4つの可視像形成ユニット50a〜50dがベルトの搬送方向に沿って接して設けられている。4つの可視像形成ユニット50a〜50dは、用いるトナーの色が異なっている点以外は同一であり、それぞれ、イエロー(Y)・マゼンタ(M)・シアン(C)・ブラック(K)のトナーが用いられている。以下では、可視像形成ユニット50aのみについて説明し、その他の可視像形成ユニット50b〜50dについては説明を省略する。
【0137】
可視像形成ユニット50aは、感光体ドラム(像担持体)51と、この感光体ドラム51の周りに配置された潜像用帯電装置52、レーザ書き込みユニット(レーザ光照射手段,図示せず)、現像装置53、一次転写前帯電装置54、クリーニング装置55などを備えている。
【0138】
潜像用帯電装置52は、感光体ドラム51の表面を所定の電位に帯電させるためのものである。本実施形態では、潜像用帯電装置52から放出するイオンによって感光体ドラム51を帯電させるようになっている。
【0139】
レーザ書き込みユニットは、外部装置から受信した画像データに基づいて、感光体ドラム51にレーザ光を照射(露光)し、均一に帯電された感光体ドラム51上に光像を走査して静電潜像を書き込むものである。
【0140】
現像装置53は、感光体ドラム51の表面に形成された静電潜像にトナーを供給し、静電潜像を顕像化してトナー像を形成するものである。一次転写前帯電装置54は、感光体ドラム51の表面に形成されたトナー像を転写前に再帯電させるためのものであり、本実施形態では、イオンを放出することによってトナー像を帯電させるようになっている。
【0141】
クリーニング装置55は、中間転写ベルト45にトナー像を転写した後の感光体ドラム51上に残留したトナーを除去・回収して感光体ドラム51上に新たな静電潜像およびトナー像を記録することを可能にするものである。
【0142】
なお、可視像形成ユニット50aの感光体ドラム51の周囲には、感光体ドラム51の回転方向上流から、潜像用帯電装置52、レーザ書き込みユニット、現像装置53、一次転写前帯電装置54、一次転写装置42a、クリーニング装置55の順で各装置が配置されている。
【0143】
次に、画像形成装置100の画像形成動作について説明する。
【0144】
まず、画像形成装置100は、外部装置から画像データを取得する。また、画像形成装置100の図示しない駆動ユニットが、感光体ドラム51を図6に示した矢印の方向に所定の速度で回転させるとともに、潜像用帯電装置52が感光体ドラム51の表面を所定の電位に帯電させる。
【0145】
つぎに、取得した画像データに応じてレーザ書き込みユニットが感光体ドラム51の表面を露光し、感光体ドラム51の表面に上記画像データに応じた静電潜像の書き込みを行う。続いて、感光体ドラム51の表面に形成された静電潜像に対して、現像装置53がトナーを供給する。これにより、静電潜像にトナーを付着させてトナー像が形成される。
【0146】
そして、一次転写装置42aが、感光体ドラム51の表面に形成されたトナー像とは逆極性のバイアス電圧を感光体ドラム51に印加することにより、トナー像を感光体ドラム51から中間転写ベルト45へ転写する。
【0147】
可視像形成ユニット50a〜50dがこの動作を順に行うことにより、中間転写ベルト45には、Y,M,C,Kの4色のトナー像が順に重ねあわされていく。
【0148】
重ねあわされたトナー像は、中間転写ベルト45によって二次転写前帯電装置43まで搬送され、搬送されたトナー像に対して、二次転写前帯電装置43が再帯電を行う。そして、再帯電が行われたトナー像を担持する中間転写ベルト45を、二次転写装置44が図示しない給紙ユニットから給紙された記録紙に対して圧接することにより、記録紙にトナー像が転写される。
【0149】
その後、定着装置10がトナー像を記録紙に定着させ、画像の記録された記録紙が排紙ユニット(図示せず)に排出される。なお、上記の転写後に感光体ドラム51上の残存したトナーはクリーニング装置55によって、また、中間転写ベルト45上の残存したトナーは転写用クリーニング装置46によって除去・回収される。以上の動作により、記録紙に適切な印刷を行うことができる。
【0150】
なお、本発明の定着装置が適用される画像形成装置はカラーではなくモノクロの画像形成装置であっても良い。
【0151】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態において開示された各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の定着ローラは、電子写真方式のプリンタ、複写機、複合機などに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】定着ローラを示した断面図である。
【図2】図1に示した定着ローラの斜視図である。
【図3】ピーリング試験に用いられる試験設備を示した側面図である。
【図4】定着温度と限界剥離温度との関係を示したグラフである。
【図5】本発明の一実施形態の定着ローラを備えた定着装置を示した模式図である。
【図6】図5の定着装置を備えた画像形成装置の内部構造の一部を示した模式図である。
【符号の説明】
【0154】
10 定着装置
11 第1定着ローラ
12 第2定着ローラ
100 画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置の定着装置に備えられる定着ローラであり、芯金と、上記芯金の外周に形成される弾性材料からなる弾性層と、上記弾性層の外周に形成されるフッ素樹脂からなる樹脂層とを含む定着ローラにおいて、
上記樹脂層の厚みが40μm以上であり、上記定着装置においての上記定着ローラの周速度が300mm/s以上に設定されており、
下記の剥離試験を行うことによって得られる下記の限界温度をTr(℃)、上記定着装置において定着処理が実行される時の上記定着ローラの温度をTc(℃)とする場合、
Tr≧Tc+60
(上記剥離試験とは、上記弾性層と上記樹脂層とを含めるようにして上記定着ローラの一部分をサンプルとして切り出し、切り出したサンプルに荷重を作用させながら当該サンプルに温度X(℃)の加熱体を接触させることによって当該サンプルを加熱し、この加熱後に上記サンプルにおいて上記樹脂層が上記弾性層から剥離するか否かを確認する試験である。そして、上記剥離試験を複数回行い(試験を行う度に上記温度X(℃)を変更する)、上記剥離が確認されなかった各剥離試験のなかから温度X(℃)が最高の剥離試験を特定し、特定した剥離試験の温度X(℃)を上記限界温度とする。)
が満たされることを特徴とする定着ローラ。
【請求項2】
画像形成装置の定着装置に備えられる定着ローラであり、芯金と、上記芯金の外周に形成される弾性材料からなる弾性層と、上記弾性層の外周に形成されるフッ素樹脂からなる樹脂層とを含む定着ローラにおいて、
上記樹脂層の厚みが40μm以上であり、上記定着装置においての上記定着ローラの周速度が355mm/s以上に設定されており、
下記の剥離試験を行うことによって得られる下記の限界温度をTr(℃)、上記定着装置において定着処理が実行される時の上記定着ローラの温度をTc(℃)とする場合、
Tr≧Tc+75
(上記剥離試験とは、上記弾性層と上記樹脂層とを含めるようにして上記定着ローラの一部分をサンプルとして切り出し、切り出したサンプルに荷重を作用させながら当該サンプルに温度X(℃)の加熱体を接触させることによって当該サンプルを加熱し、この加熱後に上記サンプルにおいて上記樹脂層が上記弾性層から剥離するか否かを確認する試験である。そして、上記剥離試験を複数回行い(試験を行う度に上記温度X(℃)を変更する)、上記剥離が確認されなかった各剥離試験のなかから温度X(℃)が最高の剥離試験を特定し、特定した剥離試験の温度X(℃)を上記限界温度とする。)
が満たされることを特徴とする定着ローラ。
【請求項3】
上記弾性材料は、シリコーンゴムであることを特徴とする請求項1または2に記載の定着ローラ。
【請求項4】
上記フッ素樹脂は、PFA(テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項5】
上記弾性層の厚みが2mm以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項6】
上記弾性材料のアスカーC硬度が、20度以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項7】
上記樹脂層における上記弾性層と対向する面にはプライマーが塗布されており、上記プライマーの単位面積当たりの塗布量は0.144g/cm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項8】
上記プライマーの単位面積当たりの塗布量は0.006g/cm以上であることを特徴とする請求項7に記載の定着ローラ。
【請求項9】
上記プライマーは、樹脂系プライマーであることを特徴とする請求項7または8に記載の定着ローラ。
【請求項10】
上記樹脂層における上記弾性層と対向する面には、金属ナトリウムが溶解されている液体アンモニアを処理液としたエッチング処理が施されていることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項11】
上記樹脂層における上記弾性層と対向する面には、エキシマレーザを照射することによるエッチング処理が施されていることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項12】
定着ローラの周速度が300mm/s以上に設定されている画像形成装置の定着装置であって、請求項1に記載の定着ローラを備えた定着装置。
【請求項13】
定着ローラの周速度が355mm/s以上に設定されている画像形成装置の定着装置であって、請求項2に記載の定着ローラを備えた定着装置。
【請求項14】
定着ローラの周速度が300mm/s以上に設定されている画像形成装置であって、請求項12に記載の定着装置を備えた画像形成装置。
【請求項15】
定着ローラの周速度が355mm/s以上に設定されている画像形成装置であって、請求項13に記載の定着装置を備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−191342(P2008−191342A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24786(P2007−24786)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】