説明

定着装置および画像形成装置

【課題】装置の大型化を招くことなく、定着ベルトの抵抗発熱体層における傷の発生を検出することができる定着装置および当該定着装置を用いた画像形成装置を提供する。
【解決手段】抵抗発熱体層514を有する定着ベルト51を用いた定着装置であって、抵抗発熱体層514に絶縁層513を介して積層された、所定の電気抵抗値を有する破損検出用パターン512(線状パターン)と、破損検出用パターン512に電圧が印加されたときに流れる電流を検出する電流センサー56とを備え、電流センサー56の検出結果に基づいて、抵抗発熱体層514における傷の有無を判定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置およびこれを用いた画像形成装置に関し、特に、抵抗発熱体を用いた定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンター、複写機等の画像形成装置の定着装置として、ジュール発熱する抵抗発熱体の層を有するベルトを用いた定着装置が利用されている(例えば、特許文献1)。
このような方式の定着装置は、記録シートに接触するベルト自体に熱源を持たせているので、熱効率が高く、低消費電力化やウォームアップ時間の短縮化を図ることができる。
図13は、かかるベルトを用いた定着装置800の構成を示す概略斜視図である。
【0003】
同図に示すように、定着装置800は、定着ベルト851、押圧ローラー852、加圧ローラー853および外部の交流電源810に接続された一対の給電ローラー854a,854bなどを備えている。
定着ベルト851は、その内部に抵抗発熱層855を含む円筒状の弾性変形可能なベルトであり、外周の幅方向(回転軸J方向)の両端部には、抵抗発熱層855に給電するための電極層D9a,D9bが形成されている。給電ローラー854a,854bは、定着ベルト851の電極層D9a,D9bに回転接触される。これにより、交流電源810の電力が、電極層D9a,D9bを経て抵抗発熱層855に供給されて、抵抗発熱層855がジュール発熱する。このときの抵抗発熱層855に供給された電流Iは、電極層D9a,D9b間を流れる(図13に示す矢印)。なお、電流Iの向きは周期的に逆転するので、図13には、ある一瞬における状態が例示されている。
【0004】
上記の定着装置800では、不適切なジャム処理やステープルなどの異物の混入により、抵抗発熱層855に傷Kが生じる場合がある。このような傷Kが生じると、図13の拡大図に示すように、抵抗発熱体層855を回転軸Jと平行な方向に流れる電流Iが、当該傷Kの部分で迂回して流れざるを得なくなる。そのため、電流Iが迂回して流れる部分860では、電流密度が局部的に増加し、温度が急上昇するいわゆる異常発熱が生じて高温オフセットなどの画像ノイズが発生し、場合によっては、周辺の部材に熱による損傷を来すおそれがある。
【0005】
したがって、抵抗発熱体層855に傷が生じた場合には、これを早く検出して、定着ベルトへの電力供給の停止し、定着ベルトの交換などの対応をすることが望ましい。
そこで、例えば、定着ベルトの表面に沿って、回転軸方向に多数の温度センサーを列設し、定着ベルトを走行させて定着ベルトの表面温度を漏れなく検出するように構成し、検出された表面温度のうち、所定の閾値よりも高い温度があれば、そこに良好な定着を阻害するような大きな傷が発生していると判定することが考えられる(第1の構成)。
【0006】
また、1個の温度センサーを移動機構により回転軸方向に移動させながら、定着ベルトを回転させることにより定着ベルトの表面温度を漏れなく検出するように構成することも考えられる(第2の構成)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−109997号公報
【特許文献2】特開2001−22221号公報
【特許文献3】特開平6−202512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、第1の構成では、複数の温度センサーが必要であり、また第2の構成では、温度センサーを定着ベルトの幅方向に移動可能にする機構などが必要である。そのため構成が大掛かりになり、定着装置の小型化が難しいという問題がある。
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたものであって、装置の大型化を招くことなく、定着ベルトの抵抗発熱体層における傷の発生を検出することができる定着装置および、当該定着装置を搭載した画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る定着装置は、抵抗発熱体層を有する加熱回転体の周面に加圧部材を押圧させてニップ部を形成し、当該ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通紙して熱定着させる定着装置であって、前記抵抗発熱体層に絶縁層を介して積層され、所定の電気抵抗値を有する線状パターンと、前記線状パターンの両端に電圧が印加されているときにおける、当該線状パターンに流れる電流の状態を判定する電流状態判定手段と、前記判定された電流状態に基づき、前記抵抗発熱体層に傷が発生しているか否かを判定する傷発生判定手段とを備え、前記線状パターンは、前記加熱回転体の周方向に所定の間隔をおいて配された単位パターンを、直列又は並列に接続してなることを特徴とする。
【0010】
ここで、「線状パターンに流れる電流の状態を判定する」とは、当該線状パターンに電流が流れているか否か、電流が流れていても所定の閾値以下か否かなどの判定を意味するものとする。
【発明の効果】
【0011】
上記構成によれば、電流状態判定手段の判定結果により、線状パターンが断線状態を即時に判断することができる。通常、この種の定着ベルトは、熱容量を小さく抑えるため、薄く形成されており、線状パターンが断線しているときには、定着ベルトに断線の原因となる傷が生じていると判断できる。
定着ベルトの積層数が増えることにより従来よりも定着ベルトの厚みが若干増すが、定着ベルトの周辺に、多数の温度センサーを設置する場合や、1個の温度センサーを定着ベルトの幅方向に移動させる移動機構を設置する場合に比べて、定着装置が大型化することはない。
【0012】
ここでの抵抗発熱体層と線状パターンとは電気的に並列接続されて、共通の電源により電圧が印加される構成であり、かつ線状パターンの電気抵抗値が、抵抗発熱体層の電極間の電気抵抗値よりも大きいのが望ましい。
より好ましくは、線状パターンの電気抵抗値が、抵抗発熱体層の電気抵抗値の5〜200倍の範囲内に設定されているのがよい。
【0013】
また、抵抗発熱体層と線状パターンとは電気的に直列接続され、この直列接続体の両端に電圧が印加される構成であってもよく、この場合には、線状パターンの電気抵抗値が、抵抗発熱体層の電気抵抗値よりも小さいのが好ましい。
加熱回転体をその回転軸に直交する平面で切断した場合において、線状パターンにおける隣接する2つの単位パターンの、互いに遠い位置にある端縁から端縁までの周方向に沿った距離が、抵抗発熱層の全周長の30%以内となるように、所定の間隔の大きさが決定されているのが望ましい。
【0014】
また、複数の単位パターンの形成される領域は、少なくとも抵抗発熱層の通紙領域に重なる範囲を含むのが望ましい。
また、電流状態判定手段は、線状パターンに流れる電流のみを検出する電流検出手段を備え、当該電流検出手段の検出結果に基づき、電流状態を判定するようにすることが望ましい。
【0015】
また、本発明は、上記構成の定着装置を備えた画像形成装置であってもよく、これにより上記構成の定着装置と同様の効果を得ることができる。ここで、傷発生判定手段により抵抗発熱体層において傷が発生されていると判定された場合には、抵抗発熱体層への給電を停止するのが望ましい。
また、傷発生判定手段により抵抗発熱体層において傷が発生されていると判定された場合に、画像形成動作を停止するのがより望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係るプリンターの構成を示す概略図である。
【図2】上記プリンターにおける定着部の主要部の構成を示す斜視図である。
【図3】図2の定着装置を仮想面Vで切断したときの断面図である。
【図4】定着ベルトの積層構造を説明するための部分断面図である。
【図5】(a)は、定着ベルトの破損検出用パターンを露出させた状態の斜視図であり、(b)は、破損検出用パターンを平面に展開して、その全体を示した図である。
【図6】定着ベルトに生じた傷の一例を示す図である。
【図7】傷が深い場合の例示であり、(a)は、図6のL−L線で切断したときの定着ベルトの断面図、(b)は、図6のM−M線で切断したときの定着ベルトの断面図である。
【図8】傷が浅い場合の例示であり、(a)は、図6のL−L線で切断したときの定着ベルトの断面図、(b)は、図6のM−M線で切断したときの定着ベルトの断面図である。
【図9】抵抗発熱体層の破損検出処理の制御内容を示すフローチャートである。
【図10】第2の実施の形態に係る定着部が有する定着ベルトの部分断面と、定着ベルトに電力を供給する回路の主要構成とが示された図である。
【図11】変形例に係る定着部が有する定着ベルトの部分断面と、定着ベルトに電力を供給する回路の主要構成とが示された図である。
【図12】変形例に係る定着ベルトの破損検出用パターンを示す図である。
【図13】従来例に係る定着装置の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る画像形成装置の第1の実施の形態について、タンデム型カラープリンター(以下、単に「プリンター」という)を例にして図面に基づき説明する。
<プリンターの全体構成>
図1は、プリンターの構成を示す概略図である。
【0018】
同図に示すように、プリンター1は、画像プロセス部3、給紙部4、定着部5および制御部60を備えている。このプリンター1は、ネットワーク(例えばLAN)に接続されていて、外部の端末装置(不図示)からのプリントジョブの実行指示を受付けると、その指示に基づいてイエロー、マゼンダ、シアンおよびブラックの各色のトナー像を形成し、これらを多重転写してフルカラーの画像を形成した後、記録シートへの印刷処理を実行する構成を有している。
【0019】
以下、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの各再現色をY,M,C,Kと表し、各再現色に関連する構成部分の番号にこのY,M,C,Kを添字として付加する。
画像プロセス部3は、Y〜K色のそれぞれに対応する作像部3Y,3M,3C,3K、光学部10、中間転写ベルト11などを備えている。
作像部3Yは、感光体ドラム31Y、その周囲に配設された帯電器32Y、現像器33Y、一次転写ローラー34Y、感光体ドラム31Yを清掃するためのクリーナ35Yなどを備えており、感光体ドラム31Y上にY色のトナー像を作像する。他の作像部3M〜3Kも、作像部3Yと同様の構成になっており、同図では符号を省略している。
【0020】
中間転写ベルト11は、無端状のベルトであり、駆動ローラー12と従動ローラー13に張架されて矢印A方向に循環走行される。
光学部10は、レーザーダイオードなどの発光素子を備え、制御部60からの駆動信号によりY〜K色の画像形成のためのレーザー光Hを発し、感光体ドラム31Y〜31Kを露光走査する。
【0021】
この露光走査により、帯電器32Y〜32Kにより帯電された感光体ドラム31Y〜31K上に静電潜像が形成される。
各静電潜像は現像器33Y〜33Kにより現像されて、感光体ドラム31Y〜31K上にY〜K色のトナー像が作像される。
作像された各トナー像は、一次転写ローラー34Y〜34Kに印加された電圧による静電力により中間転写ベルト11上に一次転写される。この際、各色のトナー像が、走行する中間転写ベルト11の同じ位置に重ね合わせて転写されるように、作像部3Y,3M,3C,3Kにおける作像動作は、中間転写ベルト11の走行方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして実行される。
【0022】
一次転写の後、二次転写ローラー45に印加された電圧による静電力により、中間転写ベルト11上のトナー像が、給紙部4より搬送されてきた記録シートS上に一括して二次転写される。
給紙部4は、記録シートSを収容する給紙カセット41と給紙カセット41内の記録シートSを搬送路43上に一枚ずつ繰り出す繰り出しローラー42と、繰り出された記録シートSを二次転写位置46に送り出すタイミングをとるためのタイミングローラー対44などを備えている。記録シートSは、中間転写ベルト11上のトナー像のタイミングに合わせて給紙部4から二次転写位置46に搬送される。
【0023】
上記二次転写により、トナー像(未定着画像)が形成された記録シートSは、さらに定着部5に搬送される。定着部5において、記録シートS上のトナー像が加熱・加圧されて熱定着される。その後、記録シートSは、排出ローラー対71により排出トレイ72上に排出される。
制御部60は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memroy)、通信インターフェースおよび制御プログラムなどからなり、画像プロセス部3、給紙部4および定着部5の動作を制御する。
<定着部の構成>
次に、定着部5の構成について、図2および図3を参照しながら説明する。
【0024】
図2は、定着部5の主要部の構成を示す斜視図であり、図3は、図2の定着部5を仮想面Vで切断したときのY方向から見た断面図である。
定着部5は、抵抗発熱体層を有する無端状の定着ベルト51と、定着ベルト51の内側に遊嵌された押圧ローラー52と、定着ベルト51の外側に配された加圧ローラー53と、第1の給電部材54a,54b、第2の給電部材55a,55bと、不図示の電流センサーとを備えている。定着部5では、加圧ローラー53が、定着ベルト51を介して押圧ローラー52に押圧されており、定着ベルト51と加圧ローラー53との間に定着ニップ部N(図3参照)が形成されている。
【0025】
また、加圧ローラー53は、モーター(不図示)を動力源とし、歯車ギアやベルトなどの動力伝達機構を介して回転駆動される。押圧ローラー52および定着ベルト51は、加圧ローラー53の回転に従動して回転駆動され、互いに連動している。加圧ローラー53が矢印C方向に、押圧ローラー52および定着ベルト51が矢印B方向にそれぞれ回転する。なお、図2に示す仮想面Vは、押圧ローラー52の回転軸Jに直交する面である。
【0026】
以下、定着部5における各構成要素について詳しく説明する。
(押圧ローラー)
押圧ローラー52は、長尺で円柱状の芯金521の周囲に弾性層522が形成されてなる。
芯金521は、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等からなり、その軸方向両端部に、定着部5の、不図示の筐体に設けられた軸受部に回転自在に支持される軸部521a,521bを有している。弾性層522は、耐熱性および断熱性の高い、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の発泡弾性体などの材料からなる。この弾性層522を設けることにより、押圧ローラー52と定着ベルト51とが弾性接触するようにして、できるだけ接触圧の偏りを無くし、接触状態が良好になるようにしている。また、この弾性層522が断熱材としても機能するので、定着ベルト51で発生した熱が、押圧ローラー52を介して放熱されるのを抑制することができる。弾性層522の厚みは1〜20[mm]が望ましい。
【0027】
ここでは、芯金521(軸部521a,521bを除く)の外径が約14[mm]、弾性層522の厚みが約5[mm]であり、これらを合わせた押圧ローラー52の外径は、定着ベルト51の内径よりも小さく、26[mm]程度に設定されている。また、押圧ローラー52の軸部521a,521bを除いた長さは、後述する定着ベルト51の幅寸法と同じ390[mm]に設定されている。
(加圧ローラー)
加圧ローラー53は、長尺で円柱状の芯金531の周囲に、弾性層532と離型層533とがこの順に積層されている。
【0028】
芯金531は、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等からなり、その軸方向両端部に、定着部5の、不図示の筐体に設けられた軸受部に回転自在に支持される軸部531a,531bを有している。弾性層532は、例えば、シリコーンゴムからなり、離型層533は、例えば、PFA等のフッ素系樹脂からなる。この弾性層532を設けることにより、加圧ローラー53と定着ベルト51とが弾性接触するようにして、できるだけ接触圧の偏りを無くし、接触状態が良好になるようにしている。弾性層532の厚みは1〜20[mm]、離型層533の厚みは10〜50[μm]が望ましい。
【0029】
ここでは、芯金531(軸部531a,531bを除く)の外径が約30[mm]、弾性層532の厚みが約3[mm]である。また、加圧ローラー53の軸部531a,531bを除いた長さは、定着ベルト51の記録シートSが通紙される通紙領域Rの幅よりも大きく、かつ定着ベルト51の両端部における、第1の電極層D1a,D1bおよび第2の電極層D2a,D2bと接触しない大きさ330[mm]に設定されている。通紙領域Rの幅は、記録シートSの最大サイズの幅(例えば、A3縦通し)である。
(定着ベルト)
定着ベルト51は、半径方向にある程度の外力を加えると弾性変形し、変形状態から外力の付与を停止すると自身の復元力により元の状態に戻る自己形状保持可能なものが用いられている。
【0030】
この定着ベルト51の、回転軸J方向の一方の端部外周面には、第1および第2の電極層D1a,D2aが設けられ、他方の端部外周面には、第1および第2の電極層D1b,D2bが設けられている。
図4は、定着ベルト51の積層構造を説明するため、定着ベルト51を回転軸J方向に切断したときの部分断面図である。また、図4には、定着ベルト51に電力を供給する回路の主要構成が示されている。
【0031】
図4に示すように、定着ベルト51の回転軸J方向における、第1の電極層D1a,D1bの間の領域(通紙領域Rを含む領域)では、内周側から保護層511、破損検出用パターン512、絶縁層513、抵抗発熱体層514、弾性層515および離型層516がこの順で積層されている。
第1の電極層D1a,D1bの存する領域では、保護層511、破損検出用パターン512、絶縁層513、抵抗発熱体層514がこの順で積層されていて、その上に、第1の電極層D1a,D1bが積層されている。
【0032】
そして、回転軸J方向において、第1の電極層D1a,D1bよりもさらに両外側の領域には、破損検出用パターン512に給電するための第2の電極層D2a,D2bが、保護層511上に形成されている。
抵抗発熱体層514は、電力供給を受けてジュール熱を発生させる層であり、耐熱性の絶縁樹脂に、導電性フィラーを均一に分散して構成されている。このような抵抗発熱体層514では、絶縁樹脂中の導電性フィラーの体積含有率を変えることにより、単位体積当たりの電気抵抗率[Ω・m]を調整し、所望の発熱量が得られる電気抵抗値[Ω]に設定することができる。耐熱性の絶縁樹脂として、例えば、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等を用いることができる。導電性フィラーとしては、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル等の金属粉末や、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンマイクロコイル等の炭素化合物粉末、およびこれらのうち2種類以上混合したものを用いることができる。導電性フィラーの形状は、繊維状、フレーク状または球状が好ましい。
【0033】
弾性層515は、トナー像が押しつぶされたり、トナー像が不均一に溶融されたりするのを防止して、画像ノイズの発生を防止するための層である。このような弾性層515は、耐熱性、弾性および絶縁性を有するゴム材や樹脂材、例えばシリコーンゴムなどで構成される。
離型層516は、定着後の記録シートSとの離型性を高めるための層であり、耐熱性を有し、離型性に優れた絶縁樹脂で構成される。当該絶縁樹脂として、例えば、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)等のフッ素樹脂を使用することができる。
【0034】
破損検出用パターン512は、抵抗発熱体層514の破損を検出するためのものであり、所定の電気抵抗値を有している。また、この破損検出用パターン512は、一対の電極D2a、D2bの範囲内で蛇行しながら周方向に進む線状のパターンとなっている(図5(a),(b))。
破損検出用パターン512の一端は、第2の電極層D2aに接続されている。また、図4の断面図には現れていない破損検出用パターン512の他端が第2の電極層D2bに接続されている。
【0035】
本実施の形態では、この破損検出用パターン512の通電状態を監視することにより抵抗発熱体層514の破損を検出する構成を採っている。破損検出用パターン512の詳細な構成、および抵抗発熱体層514の破損検出の方法については後述する。
絶縁層513は、抵抗発熱体層514と、破損検出用パターン512および第2の電極層D2a,D2bとの間の絶縁性を確保する層であり、PI、PPS、PEEK等の耐熱性の絶縁樹脂で構成される。
【0036】
保護層511は、絶縁性およびベルトの強度を確保する層であり、絶縁層513と同様、PI、PPS、PEEK等の耐熱性の絶縁樹脂で構成される。
第1の電極層D1a,D1bおよび第2の電極層D2a,D2bは、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、黄銅、SUS等の金属材料を用いて形成される。各電極層の幅は、例えば15[mm]に設定される。
【0037】
上記各層の厚みは、全周に亘って均一である。具体的には、保護層511が5〜100[μm]、破損検出用パターン512が1〜20[μm]、絶縁層513が5〜100[μm]、抵抗発熱体層514が5〜100[μm]、弾性層515が10〜800[μm]、離型層516が5〜100[μm]である。また、第1の電極層D1a,D1bおよび第2の電極層D2a,D2bが5〜50[μm]である。なお、本実施の形態では、第2の電極層D2a,D2bの厚みは、破損検出用パターン512と同じ厚みに設定されている。
【0038】
定着ベルト51の内径は、30[mm]に設定されている。
また、定着ベルト51の幅寸法は、記録シートSの最大通紙幅(例えば、A3縦通し)よりも大きく、かつ幅方向両端の第1の電極層D1a,D1bが加圧ローラー53と接触しないように390[mm]に設定されている。
(給電部材)
第1の給電部材54a,54bおよび第2の給電部材55a,55bは、それぞれブロック状のカーボンブラシであって、摺動性および電導性を有する銅黒鉛質や炭素黒鉛質等の材料からなる。
【0039】
このうち第1の給電部材54aと第2の給電部材55aは、外部の交流電源500の一端に、第1の給電部材54bと第2の給電部材55bは当該交流電源500の他端に、それぞれリード線501を介して接続されている。
また、第1の給電部材54bは、不図示のガイド部材により矢印E方向(図3参照)に移動可能に保持され、かつ不図示の付勢部材により定着ベルト51に向けて付勢されている。こうして付勢された第1の給電部材54bが、図4に示すように、第1の電極層D1bに摺接される。残りの給電部材54a,55a,55bも同様である。そして、第1の給電部材54aが第1の電極層D1aに、第2の給電部材55aが第2の電極層D2aに、第2の給電部材55bが第2の電極層D2bにそれぞれ摺接される。
【0040】
これにより交流電源500からの電力が、第1の給電部材54a,54bを介して第1の電極層D1a,D1bから抵抗発熱体層514に供給されるとともに、第2の給電部材55a,55bを介して第2の電極層D2a,D2bから破損検出用パターン512に供給される。このように抵抗発熱体層514と破損検出用パターン512とは、互いに電気的に並列に接続された構成となっている。
【0041】
各給電部材54a,54b,55a,55bの大きさは、例えば、縦10[mm](Y軸方向)、横10[mm](X軸方向)、高さ5[mm](Z軸方向)に設定される。
交流電源500は、例えば、電圧100[V]、周波数が50[Hz]または60[Hz]の家庭用電源である。
リード線501において、交流電源500から、第1の給電部材54a側と第2の給電部材55a側への分岐点Jctまでの間には、制御部60からの入力信号に基づいて、電力供給をON・OFF制御する公知のリレースイッチ57が挿設されている。
(電流センサー)
また、リード線501の分岐点Jctから第2の給電部材55aまでの間に、破損検出用パターン512に供給される電流を検出する電流検出手段として、電流センサー56が設けられている。電流センサー56は、例えば、公知であるホール電流センサー、またはクランプ式電流センサーなどからなり、検出した電流の大きさを示す信号を制御部60に出力する。
<破損検出用パターンの構成>
次に、破損検出用パターン512の構成について、図5を参照しながら説明する。
【0042】
図5(a)は、定着ベルト51の外周側から、第1の電極層D1a,D1b、離型層516、弾性層515、抵抗発熱体層514を取り除いて、破損検出用パターン512を露出させた状態の斜視図である。図5(b)は、破損検出用パターン512を平面に展開して、その全体を示した図である。
破損検出用パターン512は、図5(b)に示すように、回転軸J方向に延びる直線部分a1(単位パターン)と、破損検出用パターン512の回転軸J方向端部において、第2の電極層D2a(D2b)に達する前に折り返す折返し部分a2とが交互に形成されてなり、蛇行しながら周方向全体に亘って設けられている。そして、破損検出用パターン512における電極層D2aに接続された端部がT1、電極層D2bに接続された端部がT2で示されている。図4には、この図5(b)のH−H線で切断したときの破損検出用パターン512の断面が示されている。
【0043】
各直線部分a1は、回転軸J方向において、第1の電極層D1a、D1b(図4参照)に相当する領域α1,α2間に延在し、それぞれの両端が通紙領域Rからはみ出る長さに設定されている。これにより、少なくとも通紙領域内における抵抗発熱層に発生した傷の検出が可能となり、画像ノイズの発生を未然に防ぐことができる。
本実施の形態では、破損検出用パターン512が、15本の直線部分a1と、14箇所の折返し部分a2とで構成されている。直線部分a1および折返し部分a2の線幅wは、それぞれ約2[mm]であり、周方向に並ぶ直線部分a1の間隔gは約4.6[mm]である。
【0044】
破損検出用パターン512の電極間の電気抵抗値は、定着ベルト51の仕様に応じて設定されるが、発熱を抑制し、かつ定着ベルト51全体の消費電力を抑制するため、抵抗発熱体層514の電極間の電気抵抗値よりも大きくして、破損検出用パターン512に流れる電流値が小さくなるように設定するのがよい。具体的には、抵抗発熱体層514の電気抵抗値の5〜200倍の範囲内が好ましい。
【0045】
破損検出用パターン512は、本実施の形態では、例えば、SUS、銅、銀、アルミ、チタン等の金属材料で構成される。
このような破損検出用パターン512は、例えば、保護層511上に、金属材料をメッキした後、フォトエッチング法やフォトリソグラフィー法を用いて形成することができる。
【0046】
破損検出用パターン512の厚みは上記したように1〜20[μm]の範囲であり、また、破損検出用パターン512と抵抗発熱体層514との間に介在する絶縁層513も5〜100[μm]と非常に薄い。絶縁層513は樹脂製で比較的硬度も小さいので、不適切なジャム処理やステープルなどの異物の混入により抵抗発熱体層514に傷が生じたときには、当該絶縁層513を突き抜けて破損検出用パターン512までも損傷する。
【0047】
図6は、定着ベルト51に生じた傷の一例を示す図である。
また、図7、図8は、それぞれ図6に示す傷Kの部分での定着ベルトの断面を示しており、(a)は、図6のL−L線で切断したときの定着ベルト51の断面図、(b)は、図6のM−M線で切断したときの定着ベルト51の断面図である。なお、図6から図8では、傷Kを識別し易くするため、黒く塗りつぶしている。
【0048】
図7(a)および(b)に示すように、傷Kが深く、定着ベルト51内の破損検出用パターン512に達する場合には、当該傷Kによって抵抗発熱体層514が破損するとともに、破損検出用パターン512の線状部の全部もしくは一部が切断される。線状部の全部が切断されれば、電流は0[A]になる。したがって、破損検出用パターン512に流れる電流値を検出することにより抵抗発熱層514における傷の発生を知ることができる。
【0049】
もし、傷Kが浅く、図8(a)および(b)に示すように、破損検出用パターン512を切断するまでに到らない場合であっても、定着ベルト51の回転に伴い傷Kが定着ニップ部Nを通過するときに、加圧ローラー53の押圧力が加わって変形するが、傷Kの部分の強度が低下していると共に、傷Kの裂け目の左右において変形量が微妙に異なることにより、傷Kの先端部Sなどに応力が集中する。
【0050】
通常、ニップ部に加えられる押圧力は、400Nにも及ぶので、上記集中応力により、1〜20[μm]と薄い破損検出用パターン512も裂かれ、図7と同様の結果が得られる。
このように抵抗発熱体層514に傷が発生したときには、抵抗発熱体層514の傷の発生と同時に、または、その後、定着ベルトの傷Kの位置がニップ部を通過する際に、破損検出用パターン512が断線状態になるので、当該電流値のみ監視しておけば、迅速に抵抗発熱体層514の傷の発生を確認することができる。
【0051】
なお、本発明で問題となるのは、発生した傷の軸方向の長さでなく、周方向の長さである。周方向における長さが大きくなるほど、当該傷の端の部分における電流密度が高くなり、異常発熱発生のおそれが高くなるからである(図13の○で囲んだ拡大図参照)。
そして、破損検出用パターン512の隣接する直線部分a1同士の周方向における間隔g(図5(b)参照)が小さいほど、周方向の長さが小さな傷の検出が可能となる。本発明者らによれば、抵抗発熱体層に生じた傷の周方向の長さが、抵抗発熱体層の全周の30[%]以下のときには、異常発熱による実質的な問題がないと判定している。この観点から、隣接する2つの直線部分a1の各線幅wと、当該2つの直線部分a1の間の周方向における間隔gとの合計(=(W×2)+g)が、抵抗発熱体層の全周の30[%]以下になるように、間隔gの大きさが設定されることが望ましい。これにより、異常発熱を惹起する周方向の長さが30[%]を超える傷が発生すれば、少なくとも破損検出用パターン512の1つの直線部分a1が断線することになるので、その大きさの傷を必ず検出できるからである。もちろん間隔である以上、g>0[mm]であることはいうまでもないが、定着品質に全く影響のない小さな傷を発見してもあまり意味がないので、間隔gの大きさは、全周の2[%]以上であることが望ましい。
<抵抗発熱体層の破損検出処理について>
上記したように、抵抗発熱体層514に傷が発生し、これに伴って破損検出用パターン512が断線状態になると、破損検出用パターン512に電流が流れないので、電流センサー56による検出結果が0[A]になる。
【0052】
したがって、制御部60は、電流センサー56による検出結果により破損検出用パターン512が断線しているか否かを判断し、これにより抵抗発熱体層514に傷が発生していると判定することができる。本実施の形態では、制御部60が傷発生判定手段として機能する。
図9は、制御部60で実行される「抵抗発熱体層の破損検出処理」の制御内容を示すフローチャートである。
【0053】
この制御は、ウォームアップ時や定着時等において定着ベルト51の温度を所定の目標温度に維持する制御が行われているときに、当該制御と並行して、定着ベルト51の抵抗発熱体層514の破損を検出するために実行されるものである。
まず、制御部60は、電流センサー56から出力された電流値の絶対値を平均して平均電流値を取得する(ステップS101)。この平均電流値の取得は、例えば、電流センサー56の出力をサンプリングしていき、サンプリングされた電流値の絶対値を当該交流電源の半周期分(もしくは、その整数倍分)だけ加算し、加算値を当該加算したサンプリング回数で割ることにより求められる。
【0054】
なお、破損検出用パターン512に印加される電圧が本実施の形態のように交流ではなく、直流の場合には、特に平均値を求める必要はない。
そして、求めた平均電流値が0[A]以上か否かを判定する(ステップS102)。
平均電流値が、0[A]以上のときには(ステップS102:YES)、ステップS101に戻り、電流センサー56の出力値のサンプリングを繰り返す。なお、このサンプリング周期は、抵抗発熱体層514の傷の見逃しがないように、交流電源の周期よりも十分小さな値に設定される。
【0055】
電流値が0[A]以下のときには(ステップS102:NO)、制御部60は、破損検出用パターン512が断線していると判断し、これにより抵抗発熱体層514に傷が発生していると判定する(ステップS103)。
そして、制御部60は、リレースイッチ57をOFFにして、定着ベルト51への電力供給をストップさせると共に(ステップS104)、プリンター1の不図示の表示パネルに、エラーを表示させる(ステップS105)。また、制御部60は、プリンター1が管理者用端末とネットワークで繋がっている場合には、当該管理者用端末に、エラーメッセージを送信する。
【0056】
なお、この際、制御部60は、加圧ローラー53の回転駆動や、給紙部4による記録シートの給紙も止めて、印刷処理を停止するのが望ましい。定着部に問題がある以上、他の部分に印刷動作を実行させても意味がないからである。
以上で、抵抗発熱体層の破損検出処理を終了する。
上記構成の定着部5によれば、電流センサー56が、定着ベルト51の破損検出用パターン512に流れる電流を検出して、破損検出用パターン512が断線しているか否かを判断し、これにより、抵抗発熱層514に傷が発生しているか否かを判定することができる。
【0057】
こうして抵抗発熱層514の傷を検出したとき、定着ベルト51への電力供給を止めることにより、当該傷による異常発熱を事前に抑制し、周辺部材に熱による損傷を与えるのを未然に防止することができる。
また、この場合、1つの電流センサー56により、抵抗発熱層514の破損を検出しているので、温度センサーを用いて異常発熱を検出する従来の定着装置と比べて、構成が簡単であり、かつレイアウト上の制約が少ないので、装置の小型化が可能になる。
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態に係る定着部は、電源に電気的に接続された給電部材を一対のみ備え、この一対の給電部材を介して定着ベルトの抵抗発熱体層および破損検出用パターンのそれぞれに給電するように構成されている点で、第1の実施の形態とは相違する。
【0058】
その他の構成については基本的に第1の実施の形態の定着部5と同様であるので、同じ構成については、簡単のため、同じ符号で示し、その説明を省略する。
図10は、第2の実施の形態に係る定着部が有する定着ベルト150の部分断面と、定着ベルト150に電力を供給する回路の主要構成とが示された図である。
図10に示すように、定着ベルト150における回転軸J方向の両端部外周面に設けられた第1の電極層D3a,D3bの領域では、保護層151、第2の電極層D4a(またはD4b)、抵抗発熱体層154がこの順で積層されている。
【0059】
なお、回転軸J方向における、第1の電極層D3a,D3bの間の領域では、第1の実施の形態と同様、内周側から保護層151、破損検出用パターン152、絶縁層153、抵抗発熱体層154、弾性層155および離型層156がこの順で積層されている。
このように本実施の形態では、第1の電極層D3aと第2の電極層D4aとが抵抗発熱体層154を介して積層されているので、第1の電極層D3aに給電すれば、抵抗発熱体層154を介して第2の電極層D4aにも給電できる。第1の電極層D3bと第2の電極層D4bとの関係も同様である。
【0060】
これにより、交流電源500からの電力を、給電部材160a,160bを介して第1の電極層D3a,D3aに供給することにより、抵抗発熱体層154および破損検出用パターン152にそれぞれに給電できる。したがって、抵抗発熱体層および破損検出用パターンへの給電のため、それぞれに一対、計二対の給電部材を設けた第1の実施の形態(図4参照)と比べて、給電部材の数を少なくすることができる。
【0061】
また、給電部材の摺接のため第2の電極層D4a,D4bの位置を外側に伸ばして露出させなくてもよいので、図4に示すように、第2の電極層D2a,D2bと第1の電極層D1a,D1aとをベルトの幅方向(回転軸J方向)に並べる場合に比べて、定着ベルトの幅寸法を短くすることができる。
このように本実施の形態の定着部によれば、第1の実施の形態と比べて、給電部材の数が少なく、かつ定着ベルトの幅寸法を短くすることができるので、定着部の小型化、ならびに部品および製造コスト削減が図れるという利点を有している。
【0062】
破損検出用パターン152は、回転軸J方向の長さが異なるという点を除いて、第1の実施の形態の破損検出用パターン512の構成と基本的に同じであり、蛇行パターンからなる。ここでも、蛇行パターンを構成する各直線部分(不図示)は、回転軸J方向において、少なくとも通紙領域Rを横切るように形成されている。
なお、ここでは、電流センサー56が、リレースイッチ57と給電部材160aとの間に、設けられており、抵抗発熱体層154および破損検出用パターン152の双方に流れる電流の総和を検出する。
【0063】
したがって、例え、破損検出用パターン152が断線したとしても、抵抗発熱体層154には電流が流れているので、抵抗発熱体層154における傷の有無の判定は、電流センサー56による検出結果の変化を見ることにより行うことができる。具体的には、図9のフローチャートにおけるステップS102において、ステップS101で求めた平均電流値が、閾値Ih1を超えるか否かを判定することにより行うことができる。
【0064】
ここでの閾値Ih1は、電源500の電圧を印加したときにおける、抵抗発熱体層154のみに流れる平均電流値をIa、傷のない初期状態の破損検出用パターン152と抵抗発熱体層154を並列に接続したときに流れる平均電流値をIbとした場合に、このIaとIbとの間であって、無視できない傷が発生したときの平均電流値を下回らない値が、予め実験などに基づき決定され、制御部60のROM内に格納される。
【0065】
なお、破損検出用パターン152の電気抵抗値が大き過ぎると、破損検出用パターン152に流れる電流が小さくなり過ぎて、破損検出用パターン152が断線したときと、断線してないときに検出される電流の差が小さ過ぎる場合には、電流センサー56の精度によっては誤った判断がなされるおそれがある。このため、破損検出用パターン152の電気抵抗値は、電流センサーの精度等仕様を考慮し、具体的には、抵抗発熱体層154の電気抵抗値の5〜30倍の範囲内が好ましい。
【0066】
本実施の形態において制御部60で実行される「抵抗発熱体層の破損検出処理」の内容は、図9のステップS102の内容が、「平均電流値>Ih1[A]?」と変更される以外は、第1の実施の形態と全く同じであるので、フローチャートの図示および説明を省略する。
[変形例]
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明が上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することができる。
【0067】
(1)例えば、図11に示すように、定着ベルト250の破損検出用パターン252に給電する第2の給電部材265aを、定着ベルト250の内側に配し、内周面に設けられた第2の電極層D6bに摺接させて給電する構成としても良い。
抵抗発熱体層254に給電する第1の給電部材264aは、定着ベルト250の外側に配し、外周面に設けられたに摺接される。この場合、定着ベルト250の軸方向における第1の給電部材264aと第2の給電部材265aとの位置を合わせることができるので、第2の実施の形態と同様、定着ベルトの幅寸法を短くすることができ、定着部の小型化が図れる。
【0068】
また、この場合には、第1および第2の給電部材264a,265aを、それぞれ不図示の付勢部材により定着ベルト250に向けて付勢して、定着ベルト250を挟み込む構成となるので、第1の給電部材264aと第1の電極層D5bとの間、および第2の給電部材265aと第2の電極層D6bとの間において、接触不良が生じにくくなるという利点がある。
【0069】
(2)上記実施の形態では、破損検出用パターン512における各直線部分a1が、回転軸J方向において、第1の電極層D1a、D1bに相当する領域α1,α2間に延伸された構成(図5(b)参照)を示したが、これに限定するものではない。
例えば、第2の電極層D2a,D2bに接続される端T1,T2を含む直線部分a1以外の、残りの直線部分a1は、回転軸J方向において、通紙領域Rの一端から他端までの間にのみ延伸された構成としてもよい。この場合、少なくとも抵抗発熱体層の通紙領域Rに発生した傷を検出することができるので、高温オフセットなどの画像ノイズが発生するのを抑制することができる。
【0070】
上記実施の形態では、各直線部分a1の両端が少なくとも通紙領域の幅より大きな構成、つまり各直線部分a1の形成される領域(傷検知可能領域)が、通紙領域と重なる範囲を含んでいる構成としたが、さらに、傷検知可能領域を広くして、抵抗発熱体層の発熱領域(第1の電極層D1a、D1b間に相当)と重なるようにしてもよい。
この構成であれば、抵抗発熱体層の発熱領域(通紙領域Rを含む)における傷を検出することができるので、高温オフセットなどの画像ノイズが発生するのを抑制するだけでなく、抵抗発熱体層の異常発熱により周辺部材が損傷するのを抑制することができるからである。
【0071】
(3)上記実施の形態では、破損検出用パターン512が、蛇行する1本の線状部分からなる構成を示したが、これに限定するものではない。
例えば、図12(a)に示すように、破損検出用パターン512を、蛇行する4本の線状部分P1a〜P1dで構成してもよい。これら線状部分P1a〜P1dは、それぞれ電極層D7a,D7b間において互いに電気的に並列に接続されるように構成されている。
【0072】
また、図12(b)に示す破損検出用パターン512ように、複数の直線部分Pt1が、電極層D7a,D7b間において互いに電気的に並列に接続されるように構成としてもよい。
図12(a)および(b)に示す破損検出用パターン512のように、複数の線状部分を並列接続する場合には、一本の線状部分が短くなるほど、また、並列接続する線状部分の数が多いほど、全体の電気抵抗値が小さくなるので、所望の電気抵抗値が得られるように、線状部分を構成する材料、線幅、厚さ等の構成を適宜選択するのが好ましい。
【0073】
このように、破損検出用パターンは、周方向に所定の間隔をおいて配された直線部分Pt1を単位パターンとし、複数の単位パターンを(A)直列に接続する、(B)並列に接続する、または(C)直列に接続したものを、並列に複数接続するなど、組み合わせて構成することができる。
例えば、図12(a)の破損検出用パターン512は、上記(C)の組み合わせ例であり、線状部分P1a〜P1dが、それぞれ3本の直線部分Pt1が曲線部分Pt2を介して直列に接続されてなり、これら線状部分P1a〜P1dが並列に接続された構成となっている。
【0074】
また、図12(b)の破損検出用パターン512は、上記(B)組み合わせ例である。そして、上記(A)組み合わせ例としては、上記実施の形態の図5(b)に示す破損検出用パターン512があげられる。
なお、図12(a)および(b)の破損検出用パターン512の場合には、一部の直線部分Pt1が断線しただけでは、破損検出用パターン512に流れる電流が0[A]にはならない。この場合には、1本の直線部分Pt1だけが断線した場合の、破損検出用パターン512に流れる電流の大きさを所定値とし、電流センサーにより検出された電流値が、当該所定値以下の場合に、線状パターンが断線していると判断するように構成するのがよい。
【0075】
(4)また、上記実施の形態、および図12に示す変形例では、破損検出用パターンにおける直線部分a1,Pt1が回転軸J方向に平行な構成を示したが、これに限定するものではなく、直線部分が回転軸J方向に対して傾いた構成としてもよい。
この場合、破損検出用パターンの隣接する2つの直線部分の間隔の大きさは、次のようにして決定するのが望ましい。
【0076】
すなわち、破損検出用パターンが形成された定着ベルトを、その回転軸方向に直交する平面で切断した場合において、隣接する2つの直線部分の、互いに遠い位置にある端縁から端縁までの周方向に沿った距離が、抵抗発熱層の全周長の30%以内となるように、2つの直線部分の間隔の大きさを決定する。これにより、抵抗発熱体層において、異常発熱を惹起する周方向の長さが30[%]を超える傷が発生すれば、その傷を必ず検出できるようになるからである。
【0077】
(5)上記実施の形態では、定着ベルトの抵抗発熱体層と破損検出用パターンとが、並列接続される構成を示したが、これに限定するものではなく、抵抗発熱体層と破損検出用パターンとを直列接続した構成としてもよい。この場合には、破損検出用パターンの電気抵抗値を小さくするのが望ましい。破損検出用パターンの電気抵抗値が小さいほど電源電圧が小さくてすむからである。
【0078】
また、この場合に、例えば、破損検出用パターンを、図5(b)に示すような1本の線状部分からなる構成にしたときには、破損により破損検出用パターンが断線した時点で抵抗発熱体層に電流が流れなくなるので、抵抗発熱体層の異常発熱を確実に抑制することができるという利点がある。
(6)上記実施の形態では、定着ベルトの抵抗発熱体層および破損検出用パターンのそれぞれに、同じ交流電源500から電力が供給される構成を示したが、これに限定するものではない。例えば、2つの電源を用意し、抵抗発熱体層に電力供給する電源と、破損検出用パターンに電力供給する電源とを分けても構わない。この場合には、破損検出用パターンに対応する電源の調整により、破損検出用パターンに流す電流の大きさを決定することができるので、破損検出用パターンの電気抵抗値を、抵抗発熱体層の電気抵抗の大きさに関係なく設定することができる。よって、破損検出用パターンの構成(例えば、材料、線状部分の長さおよび断面積の大きさなど)の自由度が高まるという利点がある。
【0079】
(7)上記実施の形態では、定着ベルトが、保護層、破損検出用パターン、絶縁層、抵抗発熱体層、弾性層および離型層をこの順で積層した積層構造からなる構成を示したが、これに限定するものではない。
例えば、破損検出用パターンを、抵抗発熱体層の内周側ではなく、外周側に絶縁層を介して積層する構成としてもよい。この場合、不適切なジャム処理や異物の混入などにより、定着ベルトに生じた傷が抵抗発熱体層に達するときには、抵抗発熱体層の破損と同時に、またはそれよりも前に、破損検出用パターンが損傷する構成となるので、抵抗発熱体層の破損を早期に検出することができる。したがって、異常発熱を早期段階で抑制することができるので、安全性の面から好ましいといえる。
【0080】
また、例えば、定着ベルトの仕様によっては、破損検出用パターンの内周側に保護層を設けなくてもよい。保護層に限らず、定着ベルトの構成は、定着ベルト、または定着部の仕様に応じて適宜選択することができる。
(8)上記実施の形態では、電流センサー56が、公知であるホール電流センサー、またはクランプ式電流センサーからなる構成を示したが、これに限定するものではない。
【0081】
(9)上記実施の形態では、押圧ローラー52が、定着ベルト51の内側に遊嵌された構成を示したが、これに限定するものではなく、例えば、押圧ローラー52が定着ベルト51の内側に絞まり嵌めされた構成としても構わない。
(10)上記実施の形態において、給電部材の大きさ、形状、配置等を限定するものではない。例えば、電極層に摺接されるブロック状の給電部材に変えて、回転接触する給電ローラーを用いることができる。給電部材と定着ベルトの電極層との接触が良好に維持できればよく、給電部材の大きさ、形状、配置等は、定着部の仕様に応じて、適宜選択することができる。
【0082】
(11)上記実施の形態で示した定着ベルトは、公知の製造方法を用いて作製することができ、特に製造方法を限定するものではない。
(12)上記実施の形態では、制御部60が、抵抗発熱体層514に傷が発生しているか否かを判定する傷発生判定手段として機能する構成を示したが、これに限定するものではない。例えば、定着部5に、マイコンなどで構成され、かかる傷発生判定手段として機能する専用の傷発生判定部を設けても良い。
【0083】
(13)上記実施の形態では、制御部60が、電流センサー56の検出結果に基づいて、破損検出用パターンに電流が流れているか否か、または流れる電流が閾値以下か否かを判定していて、電流センサー56と制御部60とを組み合わせて電流状態判定手段として機能する構成を示したが、これに限定するものではない。例えば、制御部60に代えて、定着部5に、マイコンなどで構成され、電流センサー56の検出結果に基づき、破損検出用パターンに流れる電流状態を判定する専用の電流状態判定部を設けても良い。
【0084】
(14)上記実施の形態では、抵抗発熱体層の破損を検出するのに、破損検出用パターンの線状部の全部が切断(断線)する場合の例をあげて説明したが、本発明の適用範囲は、これに限らず、破損検出用パターンの線状部の一部が切断する場合にも適用することができる。この場合には、切断部分での電流の流れる断面積が小さくなり抵抗値が上昇することから、その分流れる電流が低下するので、使用する電流センサーの精度や破損検出用パターンの材料によっては、十分破損検出用パターンに流れる電流値の変化を検出して、抵抗発熱層における傷の発生を知ることができるからである。
【0085】
(15)上記実施の形態では、画像形成装置として、タンデム型カラープリンターを用いて説明したが、本発明の適用範囲は、これに限らず、抵抗発熱体を用いた定着部を有する複写機、ファクシミリ装置、プリンターなどに適用することができる。
また、上記実施の形態及び変形例の内容は、可能な限り組み合わせても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、抵抗発熱体を用いた定着装置において抵抗発熱体の傷の発生を検出する技術として好適である。
【符号の説明】
【0087】
1 プリンター
3 画像プロセス部
4 給紙部
5 定着部
10 光学部
11 中間転写ベルト
31 感光体ドラム
32 帯電器
33 現像器
51 定着ベルト
52 押圧ローラー
53 加圧ローラー
54a,54b 第1の給電部材
55a,55b 第2の給電部材
56 電流センサー
57 リレースイッチ
60 制御部
150 定着ベルト
152 破損検出用パターン(線状パターン)
153 絶縁層
154 抵抗発熱体層
500 交流電源
511 保護層
512 破損検出用パターン(線状パターン)
513 絶縁層
514 抵抗発熱体層
515 弾性層
516 離型層
a1 直線部分(単位パターン)
D1a,D1b 第1の電極層
D2a,D2b 第2の電極層
Pt1 直線部分(単位パターン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗発熱体層を有する加熱回転体の周面に加圧部材を押圧させてニップ部を形成し、当該ニップ部に、未定着画像が形成された記録シートを通紙して熱定着させる定着装置であって、
前記抵抗発熱体層に絶縁層を介して積層され、所定の電気抵抗値を有する線状パターンと、
前記線状パターンの両端に電圧が印加されているときにおける、当該線状パターンに流れる電流の状態を判定する電流状態判定手段と、
前記判定された電流状態に基づき、前記抵抗発熱体層に傷が発生しているか否かを判定する傷発生判定手段と
を備え、
前記線状パターンは、前記加熱回転体の周方向に所定の間隔をおいて配された単位パターンを、直列又は並列に接続してなる
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記抵抗発熱体層と線状パターンとは電気的に並列接続されて、共通の電源により電圧が印加される構成であり、かつ前記線状パターンの電気抵抗値が、前記抵抗発熱体層の電極間の電気抵抗値よりも大きい
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記線状パターンの電気抵抗値が、前記抵抗発熱体層の電気抵抗値の5〜200倍の範囲内に設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記抵抗発熱体層と線状パターンとは電気的に直列接続され、この直列接続体の両端に電圧が印加される構成であり、かつ前記線状パターンの電気抵抗値が、前記抵抗発熱体層の電気抵抗値よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記加熱回転体をその回転軸に直交する平面で切断した場合において、
前記線状パターンにおける隣接する2つの単位パターンの、互いに遠い位置にある端縁から端縁までの周方向に沿った距離が、前記抵抗発熱層の全周長の30%以内となるように、前記所定の間隔の大きさが決定されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記複数の単位パターンの形成される領域は、少なくとも抵抗発熱層の通紙領域に重なる範囲を含む
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記電流状態判定手段は、前記線状パターンに流れる電流のみを検出する電流検出手段を備え、当該電流検出手段の検出結果に基づき、前記電流状態を判定する
ことを特徴とする請求項1から6までのいずれかに記載の定着装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
前記傷発生判定手段により抵抗発熱体層において傷が発生されていると判定された場合には、前記抵抗発熱体層への給電を停止することを特徴とする請求項8に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記傷発生判定手段により抵抗発熱体層において傷が発生されていると判定された場合には、画像形成動作を停止することを特徴とする請求項8に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−252191(P2012−252191A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125238(P2011−125238)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】