説明

定着装置及び画像形成装置

【課題】トナー画像が形成された用紙を加熱する加熱ベルトの温度ムラを小さくすることができる誘導加熱式の定着装置を提供する。
【解決手段】電力制御部503はトナー画像を用紙に定着させる定着処理において、第1の電圧(第1の物理量)に第2の電圧(第2の物理量)を加算してコイル11に供給する制御をする。第1の電圧はコイル11への供給電力を指示する電力指示値に基づいたものである。第2の電圧は加熱ベルト15を回転させながらコイル11に第1の電圧が供給されることによって、コイル11に供給された実際の電力に対して逆位相の電力が得られるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘導加熱方式の定着装置及びそれを備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
定着装置は電子写真方式の画像形成装置に備えられており、トナー画像が形成された用紙を加熱及び加圧することによって、トナー画像を用紙に定着させる。定着装置の加熱方式の一つとして誘導加熱方式がある。この方式によれば、ハロゲンランプ方式に比べて急速かつ高効率な加熱が可能となる。
【0003】
誘導加熱方式の定着装置として、ニッケルのフィルム層を含む定着ベルトと、定着ベルトの上側に配置された上側誘導加熱部材と、定着ベルトの下側に配置された下側誘導加熱部材と、を備えるものが提案されている(例えば特許文献1参照)。上側誘導加熱部材及び下側誘導加熱部材には、それぞれ誘導コイルが配置されている。誘導コイルに高周波電流を流すことにより、定着ベルトを誘導加熱する。定着ベルトは加熱部材の一例であり、トナー画像が形成された用紙を加熱する。この定着装置によれば、定着ベルトが走行時に振動することで定着ベルトと誘導コイルとのギャップが変動しても、定着ベルトの温度ムラを小さくすることができる。理由は以下の通りである。
【0004】
この定着装置では上側誘導加熱部材が定着ベルトの上に位置し、下側誘導加熱部材が定着ベルトの下に位置する。したがって、定着ベルトが走行時に振動した場合に、定着ベルトと上側誘導加熱部材の誘導コイルとのギャップが大きくなれば、定着ベルトと下側誘導加熱部材の誘導コイルとのギャップが小さくなる。逆に、定着ベルトと上側誘導加熱部材の誘導コイルとのギャップが小さくなれば、定着ベルトと下側誘導加熱部材の誘導コイルとのギャップが大きくなる。よって、定着ベルトが振動しても定着ベルトに作用する磁界強度の変化を小さくできるので、定着ベルトの温度ムラを小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−108417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記定着装置では誘導加熱部材を上側誘導加熱部材と下側誘導加熱部材に分け、上側誘導加熱部材を定着ベルトの上方に配置し、下側誘導加熱部材を定着ベルトの下方に配置している。このため、誘導加熱部材の設置場所の自由度が低下する。また、上側誘導加熱部材の誘導コイルと下側誘導加熱部材の誘導コイルとにそれぞれ電力を供給するインバータ回路が必要となるので、その分だけコストがかかる可能性がある。
【0007】
本発明はトナー画像が形成された用紙を加熱する加熱部材の温度ムラを小さくすることができる誘導加熱式の定着装置及びそれを備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の一の局面に係る定着装置は、誘導加熱用のコイルと、前記コイルにより発生した磁束によって渦電流が流れて誘導加熱された状態で、回転しながらトナー画像が形成された用紙を加熱する加熱部材と、前記用紙が前記加熱部材によって加熱された状態で、回転しながら前記用紙を加圧する加圧部材と、前記トナー画像を前記用紙に定着させる定着処理において、電流又は電圧である第1の物理量に第2の物理量を加算して前記コイルに供給する制御をする電力制御部と、を備え、前記第1の物理量は、前記コイルへの供給電力を指示する電力指示値に基づいたものであり、前記第2の物理量は、前記加熱部材を回転させながら前記コイルに前記第1の物理量が供給されることによって、前記コイルに供給された実際の電力に対して逆位相の電力が得られるものである。
【0009】
コイルへの供給電力を指示する電力指示値に基づいた第1の物理量を、加熱部材が回転された状態でコイルに供給した場合、加熱部材とコイルとのギャップが変動することが原因で、コイルに供給される実際の電力は電力指示値と異なる。本発明では、その実際の電力に対して逆位相の電力が得られる第2の物理量を用いる。逆位相とは一方の電力の位相に対して他方の電力の位相が180度ずれていることであり、振幅が等しい場合と振幅が等しくない場合のいずれも含む。そして、本発明によれば、定着処理において、第1の物理量に第2の物理量を加算してコイルに供給しているので、コイルに供給される電力を電力指示値に近づけることができる。したがって、上記ギャップが変動しても加熱部材に流れる渦電流の変動量を小さくすることができるので、コイルにより発生する磁束の強度変化を小さくでき、その結果、加熱部材の温度ムラを小さくすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第2の物理量は、前記逆位相の電力として、前記電力指示値と前記コイルに供給された実際の電力との差と等しい電力が得られる物理量である。
【0011】
この構成によれば、定着処理において、第1の物理量に第2の物理量を加算してコイルに供給することにより、コイルに供給される電力を電力指示値と同じにすることができる。この構成での第2の物理量は、逆位相の電力のうち、コイルに供給された実際の電力の振幅と等しい振幅を有する電力が得られる物理量である。
【0012】
上記構成において、前記第1の物理量が電圧であれば電流であり、電流であれば電圧である第3の物理量を測定するものであり、前記加熱部材を回転させながら前記コイルに前記第1の物理量が供給されることによって、前記コイルに供給される前記第3の物理量を測定する物理量測定部と、前記第1の物理量と前記物理量測定部で測定された前記第3の物理量とを用いて前記コイルに供給された実際の電力を演算し、前記実際の電力に対して逆位相の電力が得られる前記第2の物理量を演算する物理量演算部と、を備えることができる。
【0013】
この構成によれば、第2の物理量を演算することができるので、加熱部材を回転させながらコイルに第1の物理量を供給した場合にコイルに供給される実際の電力が、定着装置の工場出荷時から経時的に変化しても、その変化に対応することができる。
【0014】
上記構成において、前記物理量演算部は、前記コイルに供給された実際の電力の周期を、前記加熱部材が1回転する周期として、前記コイルに供給された実際の電力を演算することができる。
【0015】
この構成は、加熱部材を回転させながらコイルに第1の物理量を供給した場合にコイルに供給される実際の電力の周期を、加熱部材が1回転する周期と同じと見なしている。この構成によればコイルに供給される実際の電力の演算において周期の演算を省略することができる。
【0016】
上記構成において、前記加熱部材の1回転を検知できるセンサを備え、前記物理量演算部は、前記センサで検知された前記加熱部材が1回転する周期を、前記コイルに供給された実際の電力の周期として、前記コイルに供給された実際の電力を演算することができる。
【0017】
この構成によれば、センサで加熱部材の1回転を検知するので、加熱部材が1回転する周期が定着装置の工場出荷時から経時的に変化しても、それに対応することができる。
【0018】
上記構成において、前記物理量演算部は、予め記憶された前記加熱部材が1回転する周期を、前記コイルに供給された実際の電力の周期として、前記コイルに供給された実際の電力を演算することができる。
【0019】
この構成によれば、加熱部材の1回転を検知できるセンサを設けなくてもよい。
【0020】
上記目的を達成する本発明の他の局面に係る画像形成装置は、前記用紙に前記トナー画像を形成する画像形成部と、上記定着装置と、を備える。
【0021】
本発明は、本発明の一の局面に係る定着装置を画像形成装置に適用したものであり、上述した定着装置の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、トナー画像が形成された用紙を加熱する加熱部材の温度ムラを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の内部構造の概略を示す図である。
【図2】定着部の一例の構造を示す縦断面図である。
【図3】センタコアの平面図である。
【図4】図1に示す画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【図5】コイルに供給したい電力指示値の電力のデータ、電力指示値の電力の下でコイルに実際に供給される供給電力のデータ及び逆位相の電力のデータを示すグラフである。
【図6】逆位相の電力のデータを取得することを説明するフローチャートである。
【図7】本実施形態に係る定着装置による定着処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態に係る画像形成装置1の内部構造の概略を示す図である。画像形成装置1は例えば、コピー、プリンタ、スキャナ及びファクシミリの機能を有するデジタル複合機に適用することができる。画像形成装置1は装置本体100、装置本体100の上に配置された原稿読取部200、原稿読取部200の上に配置された原稿給送部300及び装置本体100の上部前面に配置された操作部400を備える。
【0025】
原稿給送部300は自動原稿送り装置として機能し、原稿載置部301に置かれた複数枚の原稿を連続的に原稿読取部200に送ることができる。
【0026】
原稿読取部200は露光ランプ等を搭載したキャリッジ201、ガラス等の透明部材により構成された原稿台203、CCD(Charge Coupled Device)センサ(不図示)及び原稿読取スリット205を備える。原稿台203に載置された原稿を読み取る場合、キャリッジ201を原稿台203の長手方向に移動させながらCCDセンサにより原稿を読み取る。これに対して、原稿給送部300から給送された原稿を読み取る場合、キャリッジ201を原稿読取スリット205と対向する位置に移動させて、原稿給送部300から送られてきた原稿を、原稿読取スリット205を通してCCDセンサにより読み取る。CCDセンサは読み取った原稿を画像データとして出力する。
【0027】
装置本体100は用紙貯留部101、画像形成部103及び定着部105を備える。用紙貯留部101は装置本体100の最下部に配置されており、用紙の束を貯留することができる用紙トレイ107を備える。用紙トレイ107に貯留された用紙の束において、最上位の用紙がピックアップローラ109の駆動により、用紙搬送路111へ向けて繰り出される。用紙は用紙搬送路111を通って、画像形成部103へ搬送される。
【0028】
画像形成部103は搬送されてきた用紙にトナー画像を形成する。画像形成部103は感光体ドラム113、露光部115、現像部117及び転写部119を備える。露光部115は画像データ(原稿読取部200から出力された画像データ、パソコンから送信された画像データ、ファクシミリ受信の画像データ等)に対応する光を生成し、一様に帯電された感光体ドラム113の周面に照射する。これにより、感光体ドラム113の周面には画像データに対応する静電潜像が形成される。この状態で感光体ドラム113の周面に現像部117からトナーを供給することにより、周面には画像データに対応するトナー画像が形成される。このトナー画像は転写部119によって先ほど説明した用紙貯留部101から搬送されてきた用紙に転写される。
【0029】
トナー画像が転写された用紙は定着部105に送られる。定着部105において、トナー画像と用紙に熱と圧力が加えられて、トナー画像を用紙に定着させる。用紙はスタックトレイ121又は排紙トレイ123に排紙される。
【0030】
操作部400は操作キー部401と表示部403を備える。表示部403はタッチパネル機能を有しており、ソフトキーを含む画面が表示される。ユーザは画面を見ながらソフトキーを操作することによって、コピー等の機能の実行に必要な設定等をする。
【0031】
操作キー部401にはハードキーからなる操作キーが設けられている。具体的にはスタートキー405、テンキー407、ストップキー409、リセットキー411、コピー、プリンタ、スキャナ及びファクシミリを切り換えるための機能切換キー413等が設けられている。
【0032】
スタートキー405はコピー、ファクシミリ送信等の動作を開始させるキーである。テンキー407はコピー部数、ファクシミリ番号等の数字を入力するキーである。ストップキー409はコピー動作等を途中で中止させるキーである。リセットキー411は設定された内容を解除するキーである。
【0033】
機能切換キー413はコピーキー及び送信キー等を備えており、コピー機能、送信機能等を相互に切り替えるキーである。コピーキーを操作すれば、コピーの初期画面が表示部403に表示される。送信キーを操作すれば、ファクシミリ送信及びメール送信の初期画面が表示部403に表示される。
【0034】
次に、定着部105について詳細に説明する。図2は定着部105の一例の構造を示す縦断面図である。定着部105は加熱ローラ13、加熱ベルト(加熱部材の一例)15、定着ローラ17、加圧ローラ(加圧部材の一例)19、センサ21及び誘導加熱ユニット23を備える。これらは図2の紙面の垂直方向に延びている。
【0035】
定着ローラ17と加熱ローラ13とに無端の加熱ベルト15が掛けられている。定着ローラ17の表層はシリコーンスポンジの弾性層である。定着ローラ17の回転に従動して、加熱ベルト15、加熱ローラ13及び加圧ローラ19が回転する。定着ローラ17の近傍にはサーミスタ25が配置されている。サーミスタ25によって定着ローラ17の温度を測定する。
【0036】
加熱ベルト15は基材、表層及び離型層を備える。基材は強磁性材料(例えばニッケル)を含む。表層は基材の上に形成されており、薄膜の弾性層(例えばシリコーンゴム)を含む。離型層は表層をコーティングしており、例えばPFA(ポリテトラフルオロエチレン)を含む。
【0037】
加熱ローラ13は芯材及びその周囲に形成された離型層(例えばPFA)を備える。芯材は磁性金属(例えば鉄)を含む。
【0038】
センサ21は定着ローラ17と加熱ローラ13との間であって、加熱ベルト15の近くに配置されている。センサ21は加熱ベルト15の1回転を検知するセンサである。センサ21は例えば、投光部と受光部を備える光センサである。投光部から照射された光は加熱ベルト15で反射され、反射された光は受光部で受光される。加熱ベルト15の所定箇所には他の箇所と光の反射率が異なるマーク27が設けられている。加熱ベルト15が回転して、マーク27がセンサ21によって検知された時の加熱ベルト15の位置が、加熱ベルト15のホームポジションを示している。
【0039】
加圧ローラ19は定着ローラ17と加熱ベルト15を介して接触して配置されている。トナー画像が形成された用紙39は、回転する加熱ベルト15と加圧ローラ19とでニップされて、用紙搬送路の下流側へ送られる。ニップの際に、トナー画像が形成された用紙39は加熱ベルト15により加熱され、加圧ローラ19により加圧されて、トナー画像が用紙39に定着させられる。加圧ローラ19の近傍にはサーミスタ29が配置されている。サーミスタ29によって加圧ローラ19の温度を測定する。
【0040】
誘導加熱ユニット23は加熱ローラ13の上側半分を覆って配置されている。誘導加熱ユニット23は誘導加熱用のコイル11、アーチコア31、サイドコア33及びセンタコア35を備える。
【0041】
センタコア35を挟んで、コイル11の用紙搬送方向上流側部分と下流側部分、一対のアーチコア31及び一対のサイドコア33が配置されている。
【0042】
コイル11は、加熱ベルト15のうち加熱ローラ13に掛けられている部分及び加熱ローラ13と所定のギャップを設けて配置されている。
【0043】
アーチコア31の一方がコイル11の一方を覆って配置され、アーチコア31の他方がコイル11の他方を覆って配置されている。アーチコア31の材料はフェライトである。
【0044】
アーチコア31の端部の一方側にセンタコア35が配置され、端部の他方側にサイドコア33が配置されている。サイドコア33の材料はフェライトである。アーチコア31の一方、サイドコア33の一方及びセンタコア35によって形成された空間に、コイル11の一方が配置されている。アーチコア31の他方、サイドコア33の他方及びセンタコア35によって形成された空間に、コイル11の他方が配置されている。
【0045】
センタコア35は筒型の形状を有する。センタコア35の材料はフェライトである。センタコア35は図示しない回転機構により、回転可能にされている。図3はセンタコア35の平面図である。センタコア35はその両端部に遮蔽層37が設けられている。図3の(A)は遮蔽層37が誘導加熱用ユニット23の外側に位置した状態を示し、(B)は遮蔽層37が加熱ローラ13の両端と対向している状態を示している。
【0046】
遮蔽層37の材料としては、非磁性かつ良導電部材が好ましく、例えば無酸素銅が用いられる。遮蔽層37は遮蔽層37の面に垂直な磁界が貫通することによる誘導電流により逆磁界を発生させ、錯交磁束をキャンセルすることで遮蔽する。また、良導電性部材を用いることで渦電流によるジュール発熱を抑制し、効率よく磁界を遮蔽することができる。
【0047】
定着部105での誘導加熱について簡単に説明する。コイル11に高周波電流を流すことで、コイル11により磁界(交番磁束)が発生する。この磁界によって加熱ローラ13及び加熱ベルト15に渦電流が流れてジュール熱が発生し、加熱ローラ13及び加熱ベルト15が誘導加熱される。
【0048】
ここで、加熱ベルト15は加熱部材の一例である。加熱部材はコイル11により発生した磁束によって渦電流が流れて誘導加熱された状態で、回転しながらトナー画像が形成された用紙39を加熱する。加圧ローラ19は加圧部材の一例である。加圧部材は用紙39が加熱部材によって加熱された状態で、回転しながら用紙39を加圧する。
【0049】
用紙39のサイズが大きければ、センタコア35は図3の(A)の状態にされ、小さければセンタコア35は図3の(B)の状態にされる。これにより、用紙39のサイズが小さい場合に、加熱ローラ13及び加熱ベルト15の両端部が過度に誘導加熱されることを防止している。
【0050】
画像形成装置1の説明に戻る。図4は図1に示す画像形成装置1の構成を示すブロック図である。画像形成装置1は装置本体100、原稿読取部200、原稿給送部300、操作部400、制御部500、通信部600及び共振電源701がバスによって相互に接続された構成を有する。装置本体100、原稿読取部200、原稿給送部300及び操作部400に関しては既に説明したので、説明を省略する。
【0051】
制御部500はCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び画像メモリ等を備える。CPUは画像形成装置1を動作させるために必要な制御を、装置本体100等の画像形成装置1の上記構成要素に対して実行する。ROMは画像形成装置1の動作の制御に必要なソフトウェアを記憶している。RAMはソフトウェアの実行時に発生するデータの一時的な記憶及びアプリケーションソフトの記憶等に利用される。画像メモリは画像データ(原稿読取部200から出力された画像データ、パソコンから送信された画像データ、ファクシミリ受信の画像データ等)を一時的に記憶する。
【0052】
制御部500は回転制御部501、電力制御部503及び電圧演算部505を備える。回転制御部501は画像形成装置1に備えられるモータ及びクラッチ等を制御して、定着ローラ17の回転を制御する。定着ローラ17の回転に従動して、加熱ベルト15、加熱ローラ13及び加圧ローラ19が回転する。したがって、加熱ローラ13、加熱ベルト15、定着ローラ17及び加圧ローラ19は、回転制御部501によって回転制御される。
【0053】
電力制御部503は定着処理において、共振電源701を制御して第1の電圧に第2の電圧を加算してコイル11に供給する制御をする。第1の電圧は第1の物理量を意味し、第2の電圧は第2の物理量を意味する。第1の電圧はコイル11への供給電力を指示する電力指示値に基づいたものである。第1の電圧は一定電圧であり、第1の電圧をコイル11に供給すれば、理想的な状態では電力指示値の電力がコイル11へ供給される。
【0054】
第2の電圧は、加熱ベルト15を回転させながらコイル11に第1の電圧が供給されることによってコイル11に供給された実際の電力に対して、逆位相の電力を生じさせる電圧である。さらに、第2の電圧は、コイル11に供給された実際の電力の振幅と等しい振幅を有する逆位相の電力が得られる電圧であり、言い換えれば電力指示値とコイル11に供給された実際の電力との差と等しい電力を生じさせる電圧である。
【0055】
図5はコイル11への供給電力を指示する電力指示値D1、コイル11に供給された実際の電力D2、電力D2に対して逆位相の電力D3の一例を示すグラフである。電力指示値D1は1000Wの一定電力である。第1の電圧は電力指示値D1に基づく一定の電圧である。しかし、加熱ベルト15を回転させながらコイル11に第1の電圧を供給した場合、コイルに11に供給された実際の電力D2は電力指示値D1と異なる。この理由を説明する。
【0056】
共振電源701は一定電圧である第1の電圧を出力するフィードバック制御がされている。加熱ローラ13、加熱ベルト15及び定着ローラ17の回転に応じて加熱ベルト15とコイル11とのギャップの変動が不可避的に発生する。したがって、加熱ローラ13及び加熱ベルト15に流れる渦電流が変化するので、それに応じて、共振電源701からコイル11に供給される電流(第3の物理量)が変動する。その結果、コイル11に第1の電圧を供給しても、コイル11に供給された実際の電力D2は一定電力である電力指示値D1と一致せずに、脈動した電力となる。
【0057】
符号D3で示す電力は逆位相の電力として、コイル11に供給された実際の電力D2の振幅(電力指示値D1を基準にした振幅)と等しい振幅を有する電力であり、言い換えれば電力指示値D1とコイル11に供給された実際の電力D2との差と等しい電力である。従って、電力D2と電力D3を加算すれば、電力指示値D1と一致する。
【0058】
加熱ローラ13とコイル11とのギャップの変動は、加熱ローラ13の偏心で生じる。また、そのギャップの変動は、定着ローラ17及び加圧ローラ19のそれぞれの偏心によって、定着ベルト15が加熱ローラ13を引っ張り、加熱ローラ13の回転軸が撓む等の原因でも生じる。そこで、加熱ローラ13の1回転の周期でなく、加熱ベルト15の1回転の周期を電力D2及び電力D3の1周期と見なしている。
【0059】
図4の説明に戻る。画像形成装置1は物理量測定部の一例である電流計703を備える。電流計703は加熱ベルト15を回転させながらコイル11に第1の電圧(第1の物理量)が供給されることによって、コイル11に供給される電流(第3の物理量)を測定する。第1の物理量が電圧であれば第3の物理量は電流であり、第1の物理量が電流であれば第3の物理量は電圧である。本実施形態では第1の物理量が電圧であり、第3の物理量が電流である。
【0060】
電圧演算部505は物理量演算部の一例であり、第1の電圧(第1の物理量)と電流計703で測定された電流(第3の物理量)とを用いて、コイル11に供給された実際の電力D2を演算し、実際の電力D2に対して逆位相の電力D3が得られる第2の電圧(第2の物理量)を演算する。
【0061】
通信部600はファクシミリ通信部601及びネットワークI/F部603を備える。ファクシミリ通信部601は相手先ファクシミリとの電話回線の接続を制御するNCU(Network Control Unit)及びファクシミリ通信用の信号を変復調する変復調回路を備える。ファクシミリ通信部601は電話回線605に接続される。
【0062】
ネットワークI/F部603はLAN(Local Area Network)607に接続される。ネットワークI/F部603はLAN607に接続されたパソコン等の端末装置との間で通信を実行するための通信インターフェイス回路である。
【0063】
次に、本実施形態に係る定着装置の動作について主に図2及び図4を用いて説明する。定着装置は図4に示す定着部105、回転制御部501、電力制御部503、電圧演算部505及び電流計703を備える。定着装置は定着処理の前提として、以下に示すステップで逆位相の電力D3が得られる第2の電圧のデータを取得する。図6は第2の電圧のデータを取得することを説明するフローチャートである。
【0064】
第2の電圧のデータは例えば画像形成装置1の自動メンテナンス時に取得する。自動メンテナンスとは画像形成装置1において画像を形成した用紙の枚数が予め定められた枚数に到達すれば、画像形成装置1がメンテナンス動作をして自動的にメンテナンスをすることである。
【0065】
回転制御部501が定着ローラ17を回転させる制御して定着ローラ17が回転する。これにより、加熱ベルト15が回転する。加熱ベルト15が回転することにより、加熱ローラ13が回転する。また、定着ローラ17が回転することによって加圧ローラ19が従動して回転する(ステップS1)。
【0066】
電力制御部503はコイル11への供給電力を指示する電力指示値D1に基づいた第1の電圧を、共振電源701からコイル11に供給させる制御をする。これにより、共振電源701からコイル11に高周波電流が流れて、加熱ローラ13及び加熱ベルト15が誘導加熱される(ステップS3)。
【0067】
加熱ベルト15が回転して、マーク27がセンサ21の検知範囲を通過した時、センサ21がマーク27を検知する(ステップS5)。
【0068】
センサ21がマーク27を検知した時、すなわち加熱ベルト15がホームポジションに位置した時、制御部500は電流計703を用いてコイル11に供給される電流の測定を開始する(ステップS7)。
【0069】
共振電源701からコイル11に一定電圧である第1の電圧が供給されている。上記したように、加熱ローラ13、加熱ベルト15及び定着ローラ17の回転に応じて加熱ローラ13とコイル11とのギャップの変動が不可避的に発生する。したがって、加熱ローラ13及び加熱ベルト15に流れる渦電流が変化するので、それに応じて、コイル11に供給される電流が変動する。
【0070】
電流計703で測定されたコイル11に供給される電流のデータは電圧演算部505へ送られ、電圧演算部505のメモリ507に記憶される。これにより、コイル11に供給された電流のデータがメモリ507に記憶される。
【0071】
センサ21がマーク27を検知してから、加熱ベルト15が1回転すると、マーク27がセンサ21の検知範囲に来るので、センサ21がマーク27を再び検知する(ステップS9)。
【0072】
センサ21がマーク27を再び検知した時、すなわち加熱ベルト15がホームポジションに再び位置した時、制御部500は電流計703を用いたコイル11に供給される電流の測定を終了する(ステップS11)。
【0073】
電圧演算部505は第1の電圧とメモリ507に記憶されているコイル11に供給された電流とを用いて、加熱ベルト15の1回転の周期において、コイル11に供給された実際の電力D2を演算する(ステップS13)。すなわち、加熱ベルト15の1回転の周期において、各位相での電力(言い換えれば振幅)を演算する。電圧演算部505はその演算された電力D2に対して逆位相の電力D3を演算する。そして、逆位相の電力D3が得られる第2の電圧を演算する(ステップS15)。電圧演算部505は、それを第2の電圧の最新データとして電力制御部503のメモリ509に記憶させる。
【0074】
なお、画像形成装置1の工場出荷時及びその後に取得した実際の電力D2のデータ、第2の電圧データをメモリ507に蓄積しておき、最新の第2の電圧データを演算する際にそれらのデータを利用してもよい。
【0075】
以上が第2の電圧のデータを取得するステップである。次に、本実施形態に係る定着装置による定着処理について説明する。図7はその処理を説明するフローチャートである。画像形成装置1において画像形成ジョブが発生すると、回転制御部501の制御により、加熱ローラ13、加熱ベルト15、定着ローラ17及び加圧ローラ19が回転させられる(ステップS21)。
【0076】
センサ21がマーク27を検知した時(ステップS23)、電力制御部503はメモリ509に記憶されている第2の電圧の最新データを読み出して、第1の電圧に第2の電圧を加算した電圧を共振電源701からコイル11に供給させる制御をする(ステップS25)。これによって、コイル11に第1の電圧が供給されることでコイル11に供給された実際の電力D2に対して、逆位相の電力D3を加算して、コイル11に供給することができる。つまり、コイル11に電力指示値D1の電力を供給することができる。
【0077】
そして、図4に示す画像形成部103において、画像データを基にして静電潜像を形成し、静電潜像を現像してトナー画像を形成し、トナー画像を用紙39に形成する処理がされる(ステップS27)。
【0078】
トナー画像が形成された用紙39は定着部105に送られて、加熱ベルト15と加圧ローラ19とでニップされて用紙搬送路の下流へ送られる。このニップの際にトナー画像は用紙39に定着する(ステップS29)。
【0079】
本実施形態の主な効果を説明する。
【0080】
コイル11への供給電力を指示する電力指示値D1に基づいた第1の電圧を、加熱ベルト15が回転された状態でコイル11に供給した場合、加熱ベルト15とコイル11とのギャップが変動することが原因で、コイル11に供給される実際の電力D2は電力指示値D1と異なる。本実施形態では、電力指示値D1とコイル11に供給された実際の電力D2との差と等しい逆位相の電力D3を生じさせる第2の電圧を用いる。そして本実施形態によれば、ステップS25で説明したように、定着処理において、第1の電圧に第2の電圧を加算してコイル11に供給しているので、コイル11に供給される電力を電力指示値D1と同じにすることができる。したがって、上記ギャップが変動しても加熱ベルト15に流れる渦電流の変動量を小さくすることができるので、コイル11により発生する磁束の強度変化を小さくでき、その結果、加熱ベルト15の周方向の温度ムラを小さくすることができる。
【0081】
なお、本実施形態では、コイル11に供給された実際の電力D2の振幅と等しい振幅を有する逆位相の電力D3の場合で説明したが、逆位相の電力D3が実際の電力D2と振幅が等しくない態様でもよい。この態様では、定着処理において、第1の電圧に第2の電圧を加算してコイル11に供給することにより、コイル11に供給される電力を電力指示値D1に近づけることができる。
【0082】
また、本実施形態によれば、第1の電圧に第2の電圧を加算してコイル11に供給することで、加熱ローラ13及び加熱ベルト15の周方向の温度ムラを小さくしている。したがって、加熱ベルト15の上下に誘導加熱部材を設ける必要がないので、誘導加熱部材(誘導加熱ユニット23)の設置場所の自由度を向上させることができる。また、加熱ベルト15の上下に誘導加熱部材を設ける必要がないことにより、上側の誘導加熱部材のコイルと下側の誘導加熱部材のコイルとにそれぞれ電力を供給するインバータ回路を設ける必要がないので、その分だけコストを下げることが可能性とある。
【0083】
さらに、本実施形態によれば、ステップS15で説明したように、定着装置が第2の電圧を演算する機能を有する。したがって、加熱ベルト15を回転させながらコイル11に第1の電圧を供給した場合にコイル11に供給される実際の電力D2が、画像形成装置1の工場出荷時から経時的に変化しても、その変化に対応することができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、加熱ベルト15を回転させながらコイル11に第1の電圧を供給した場合にコイル11に供給される実際の電力D2の周期を、加熱ベルト15が1回転する周期と同じと見なしている。よって、コイル11に供給される実際の電力D2の演算において周期の演算を省略することができる。
【0085】
本実施形態によれば、ステップS5,S9で説明したように、センサ21で加熱ベルト15の1回転を検知している。したがって、加熱ベルト15が1回転する周期が画像形成装置1の工場出荷時から経時的に変化しても、それに対応することができる。
【0086】
本実施形態の変形例について説明する。
【0087】
ステップS13で説明したように、本実施形態では、センサ21で検知された加熱ベルト15が1回転する周期を用いて、コイル11に供給される実際の電力D2を測定している。変形例1では加熱ベルト15が1回転する周期のデータを、電圧演算部505のメモリ507に予め記憶させている。電圧演算部505はメモリ507に予め記憶された加熱ベルト15が1回転する周期を用いて、コイル11に供給される実際の電力D2を測定する。変形例1によれば、加熱ベルト15の1回転を検知できるセンサ21を設けなくてもよい。
【0088】
本実施形態では逆位相の電力D3を生じさせる第2の電圧を電圧演算部505で演算している。変形例2では画像形成装置1の工場出荷時に第2の電圧のデータをメモリ509に予め記憶させる。変形例2によれば第2の電圧の演算が不要なので、電圧演算部505を設ける必要がなくなる。
【0089】
本実施形態では加熱ベルト式の定着装置を説明している。変形例3では加熱ベルト15を備えておらず、加熱ローラ13と定着ローラ17を兼用するローラを備えている。兼用するローラと加圧ローラ19とでトナー画像が形成された用紙39を加熱及び加圧する。
【符号の説明】
【0090】
1 画像形成装置
11 誘導加熱用のコイル
15 加熱ベルト(加熱部材の一例)
19 加圧ローラ(加圧部材の一例)
21 センサ
505 電圧演算部(物理量演算部の一例)
703 電流計(物理量測定部の一例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱用のコイルと、
前記コイルにより発生した磁束によって渦電流が流れて誘導加熱された状態で、回転しながらトナー画像が形成された用紙を加熱する加熱部材と、
前記用紙が前記加熱部材によって加熱された状態で、回転しながら前記用紙を加圧する加圧部材と、
前記トナー画像を前記用紙に定着させる定着処理において、電流又は電圧である第1の物理量に第2の物理量を加算して前記コイルに供給する制御をする電力制御部と、を備え、
前記第1の物理量は、前記コイルへの供給電力を指示する電力指示値に基づいたものであり、
前記第2の物理量は、前記加熱部材を回転させながら前記コイルに前記第1の物理量が供給されることによって、前記コイルに供給された実際の電力に対して逆位相の電力が得られるものである定着装置。
【請求項2】
前記第2の物理量は、前記逆位相の電力として、前記電力指示値と前記コイルに供給された実際の電力との差と等しい電力が得られる物理量である請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記第1の物理量が電圧であれば電流であり、電流であれば電圧である第3の物理量を測定するものであり、前記加熱部材を回転させながら前記コイルに前記第1の物理量が供給されることによって、前記コイルに供給される前記第3の物理量を測定する物理量測定部と、
前記第1の物理量と前記物理量測定部で測定された前記第3の物理量とを用いて前記コイルに供給された実際の電力を演算し、前記実際の電力に対して逆位相の電力が得られる前記第2の物理量を演算する物理量演算部と、を備える請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記物理量演算部は、前記コイルに供給された実際の電力の周期を、前記加熱部材が1回転する周期として、前記コイルに供給された実際の電力を演算する請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記加熱部材の1回転を検知できるセンサを備え、
前記物理量演算部は、前記センサで検知された前記加熱部材が1回転する周期を、前記コイルに供給された実際の電力の周期として、前記コイルに供給された実際の電力を演算する請求項4に記載の定着装置。
【請求項6】
前記物理量演算部は、予め記憶された前記加熱部材が1回転する周期を、前記コイルに供給された実際の電力の周期として、前記コイルに供給された実際の電力を演算する請求項4に記載の定着装置。
【請求項7】
前記用紙に前記トナー画像を形成する画像形成部と、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の定着装置と、を備える画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−88533(P2012−88533A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235219(P2010−235219)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】