説明

定着装置

【課題】省スペース化に配慮しながらも、基材と面状発熱体との断熱性を高め、ヒートローラのウォームアップタイムの短縮化を図ることができる定着装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ヒートローラ12を備えた定着装置11であって、上記ヒートローラは、円筒形状でなる基材21と、該基材の外表面に断熱層26を介して貼り付けられて一体とされた面状発熱体22とを備え、上記断熱層は、耐熱性材でなり且つその厚み内に空気が滞留する多数の線状微細空間からなる空気層26aを含み、該線状微細空間は、上記基材の長手方向に沿い、且つその両端部間に亘り形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートローラを備えた定着装置に関し、詳しくはトナー画像を記録媒体上に定着させる定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、記録紙等の記録媒体に文字や図形等の画像情報を記録するための定着装置を用いた画像形成装置として、電子写真方式の複写機、ファクシミリ装置、プリンタ或いはこれらの機能を備えた所謂複合機等が知られている。このような画像形成装置には、感光体ドラムの周囲に、コロナ帯電方式の帯電器、LED等からなる露光器、現像器、転写ローラ(転写器)及び転写残トナーのクリーニング装置をこの順序で配したプロセス部と、その下流側の定着装置とより構成されるものがある。画像情報に基づく光学画像が露光器によって感光体ドラムの表面に照射され、感光体ドラムの表面に静電潜像が形成されると、この静電潜像は、バイアス印加された現像器で逐次現像されてトナー画像として感光体ドラムと転写ローラとの対合部に至る。転写ローラは、回転駆動されながら感光体ドラムと共に記録紙をニップ搬送し、この間に感光体ドラムの表面のトナー画像が記録紙に転写されるようになっている。そしてその後、定着装置に搬送されてきた記録紙は、ヒートローラとプレスローラとの対合部に至り、ニップ搬送される際に記録紙が加熱・加圧されることにより、トナー画像が記録紙上に定着されるようになっている。
【0003】
上述のような定着装置における従来のヒートローラは、その基材としてアルミニウムやステンレス等の金属からなる円筒状のものが用いられ、中空の基材内に熱源となるハロゲンランプを挿入してヒートローラを加熱するようになっている。しかしながら、中空の基材内の空気層を介してヒートローラを内部から加熱する構造は、熱効率が悪いため、ヒートローラの表面がトナー画像の定着に必要な温度(概ね180℃)に達するまでの立ち上がり時間(ウォームアップタイム)が長い点が問題となっていた。
【0004】
そこで下記特許文献1(図3参照)及び下記特許文献2には、ヒートローラの基材の外周面に断熱層、発熱層、離型層等を備え、発熱層として面状発熱体が用いられたものが開示されており、これらによれば、ヒートローラの表面を直接加熱することにより、上記ウォームアップタイムを短縮することができるとされている。
【特許文献1】特開2001−343850号公報
【特許文献2】特開2004−46081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような面状発熱体は180℃以上の高温となるため、基材自体に耐熱性が求められるとともに、面状発熱体が発する熱が、基材に奪われることなく、ヒートローラの外表面より放熱されるよう、基材と面状発熱体との間に断熱層を介在させたものがよくみられる。
上記特許文献1及び2の定着装置もそのような構造となっており、上記特許文献1には、耐熱性フィルムを多層に重ね、各耐熱性フィルムに穴が形成されたものや多孔質の耐熱性樹脂フィルムを用いた断熱層が、上記特許文献2には、樹脂製の中空構造体や樹脂を発泡させた発泡部材を用いた断熱層が夫々開示されている。
【0006】
これら特許文献1及び2は、断熱層に空気層を設けることにより断熱性を高めているが、長時間の使用によってはヒートローラの基材の温度が上昇することがある。この場合、ヒートローラの基材は、円筒状で構成されるため、温度上昇と共に拡径方向に膨張し易く、基材がこのように熱膨張すると、その表面に貼り付けられて一体とされた面状発熱体に、周方向に沿った面域方向の引張力が作用し、断線等が生じる懸念がある。
しかしながら、上記特許文献1や上記特許文献2に記載の断熱層は、空気層を設けて断熱性を高めるものであり、この空気層が基材の、特に拡径方向(周方向)の膨張を吸収する機能を奏することを意図したものではない。従って、面状発熱体の断線等の懸念はなお払拭されるものとは云えなかった。
一方で、基材と面状発熱体との間に設けられる断熱層を、断熱性を高めるために厚手のものとしたり、或いはクッション性を持たせるために弾性層を設けたものとすると、ヒートローラの外径が大となり、省スペース化の要請に応えられないものとなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、省スペース化に配慮しながらも、基材と面状発熱体との断熱性を高め、ヒートローラのウォームアップタイムの短縮化を図ることができる定着装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の定着装置における上記ヒートローラは、円筒形状でなる基材と、該基材の外表面に断熱層を介して貼り付けられて一体とされた面状発熱体とを備え、上記断熱層は、耐熱性材でなり且つその厚み内に空気が滞留する多数の線状微細空間からなる空気層を含み、該線状微細空間は、上記基材の長手方向に沿い、且つその両端部間に亘り形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明において、断熱層は、外径が1.0mm以下の耐熱性樹脂からなる多数の円筒状チューブを面域方向に並列させて一体としたシート体で形成され、前記線状微細空間は前記円筒状チューブの中空部からなるものとすることができる。また断熱層は、波形耐熱性樹脂シートと平板状耐熱性樹脂シートとを積層して一体とした厚さが1.0mm以下のシート体で形成され、前記線状微細空間は前記両シートによる積層空間からなるものとすることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の定着装置におけるヒートローラによれば、基材の外表面に断熱層を介して貼り付けられて一体とされた面状発熱体とを備え、断熱層は、耐熱性材でなり且つその厚み内に空気が滞留する多数の線状微細空間からなる空気層を含んでいるので、該空気層を構成する多数の線状微細空間によって断熱効果が高まり、基材に面状発熱体が発する熱を奪われることなく、効果的にヒートローラの表面を加熱することができる。よって、ヒートローラの表面の温度を急速に上昇させることができ、ウォームアップタイムを顕著に短縮することができる。また、面状発熱体から基材への熱の伝導が、基材の長手方向に沿い且つその両端部間に亘り形成されている線状微細空間からなる空気層によって効果的に遮断され、基材の熱膨張を防止することができる。更に長時間の使用により、基材の温度が上昇し、基材が拡径方向(周方向)に多少膨張したとしても、空気層の線状微細空間が基材の長手方向に沿い、且つその両端部間に亘り形成されているので、これがクッションの役目を担って、基材の拡径方向(周方向)の膨張を吸収することができる。
これにより、基材の外表面に貼り付けられて一体とされた面状発熱体に対して面域方向の引張力が負荷されず、面状発熱体が導体パターンで形成されているものであっても、該導体パターンの断線を防止することができ、故障がなく、ヒートローラを安定して加熱可能な信頼性の高い定着装置を構成することができる。
【0011】
また本発明の定着装置におけるヒートローラによれば、断熱層は、外径が1.0mm以下の耐熱性樹脂からなる多数の円筒状チューブを面域方向に並列させて一体としたシート体で形成されたもの、或いは波形耐熱性樹脂シートと平板状耐熱性樹脂シートとを積層して一体とした厚さが1.0mm以下のシート体で形成されたものとすることができるので、高い断熱性を発揮するものでありながら、ヒートローラの外径が大となることなく、省スペース化の要請に応えることができる。
更に線状微細空間は、円筒状チューブの中空部や波形耐熱性樹脂シートと平板状耐熱性樹脂シートとによる積層空間からなるので、該線状微細空間の存在が基材の熱膨張による変形等を吸収可能なものとし、上述のように面状発熱体の断線等を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の最良の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明の定着装置を備えた画像形成装置の一実施形態を示す概略的縦断面図、図2は同定着装置の要部の拡大図、図3は同定着装置におけるヒートローラの一部破断斜視図とY部の拡大図、図4は同ヒートローラの他の実施形態であって、図3のY部に相当する図である。
【0013】
図1の画像形成装置Xは、電子写真方式の記録部を備えたプリンタを例に採って示しているが、これに限らず、画像読取装置を備えた複写機、ファクシミリ装置或いはこれらの機能を兼ね備えた所謂複合機等であっても良く、また、白黒の電子写真方式の記録部に限られず、各種カラー記録方式の記録部などを備えた各種装置にも本実施形態に係る定着装置の適用が可能である。
図において、画像形成装置Xの装置本体1は、記録紙(記録媒体)の給紙部2と、電子写真方式の画像記録部3と、印字後の記録紙の排出部4とが、この順序で高さ方向に層積されて構成されている。
【0014】
記録紙の給紙部2は、多数枚の記録紙を堆積収納し得る抜差し可能な給紙カセット2aと、該給紙カセット2aの給紙方向前端部に設置された分離給紙ローラ2bと、該分離給紙ローラ2bの周面に弾接する分離パッド2cとよりなる。
尚、給紙カセット2aの下に、更に同様のカセットを段積みして多段カセットとし、或いは、オプションカセット(不図示)を設置し得るよう構成することも可能である。また、上記分離パッド2cに代えリタードローラとすることも可能である。
【0015】
画像記録部3は、感光体ドラム5の周囲に、コロナ帯電方式の帯電器(コロナ放電器)6、LED等からなる露光器7、現像器8、転写ローラ(転写器)9及び転写残トナーのクリーニング装置10をこの順序で配したプロセス部と、その下流側の後記する定着装置11とより構成される。これらプロセス部は、露光器7及び転写ローラ9を除き、感光体ドラム5、帯電器6及びクリーニング装置10を一括したドラムユニット50と、現像器ハウジング81、攪拌搬送スクリュー82、83、供給パドル84及び現像ローラ85等を一括した現像器ユニット80とよりなるプロセスユニットとされる。
【0016】
図例の現像器ユニット80は、2成分現像剤を用いる方式の現像器であって、樹脂成型された現像剤容器を兼ねる現像器ハウジング81内にトナーとキャリアを収容し、2本の平行な攪拌・搬送スクリュー82、83で攪拌・搬送しながら、供給パドル84によりバイアス印加された現像ローラ85に現像剤を供給するよう構成されている。現像器ハウジング81の外面には磁気センサー86が付設され、現像器ハウジング81内のトナー濃度(トナーとキャリアの混合比)が検出される。この現像器ユニット80から離間した位置には、トナータンク14及びトナーホッパー15が設置され、磁気センサ86により現像器ハウジング81内のトナー濃度が低下したことが検出されると、トナーホッパー15よりスクリューコンベア(パイプスクリュー)16を介してトナーが現像器ハウジング81内に補給される。トナーホッパー15へのトナーの供給は、トナータンク14によりなされる。
尚、本実施形態では、前記のように2成分現像剤を用いる方式の現像器を例示しているが、これに限られず、1成分方式にも適用可能である。
【0017】
ドラムユニット50及び現像器ユニット80は、装置本体1に対してその前面側より、個々に或いは両者を何等かの結合手段で結合した状態で着脱可能に装着される。また、露光器7及び転写ローラ9を除く全てのプロセス部を一括してプロセスユニットとすることも可能である。更に、後記する廃トナータンク17とトナータンク14とが一体とされて構成されたトナーカートリッジ18も装置本体1に対して、その前面側より着脱可能に装着される。これらプロセスユニット50、80及びトナーカートリッジ18は、消耗品として適宜新品に交換される。ここで、装置本体1の前面側とは、図1における紙面手前側を言い、給紙カセット2aも装置本体1に対して前面側より抜差し可能とされている。
【0018】
定着装置11の下流側には、切替ゲート4b、排出ローラ対4c及び排出トレイ4dが連設され、これらによって排出部4が構成される。上記プロセス部の上流側近傍には、レジストローラ対4aが配設され、上記給紙カセット2aから、分離給紙ローラ2b及び分離パッド2cの作用により1枚ずつ分離繰出された記録紙(用紙)は、該レジストローラ対4aによりレジストされて、前記感光体ドラム5と転写ローラ9との対合部に導入される。感光体ドラム5は図1の矢示方向に回転しながら、帯電器6によりその表面が一様にマイナス帯電され、画像情報に基づく光学画像が露光器7によって感光体ドラム5の表面に照射され、感光体ドラム5の表面には静電潜像が形成される。この静電潜像は、感光体ドラム5の表面の光導電体の特性により、光の照射部分の電位が変化し、その他の部位の電位が維持されて形成されるものである。
【0019】
そして、この静電潜像は、バイアス印加された現像器8で逐次現像されてトナー画像として感光体ドラム5と転写ローラ9との対合部に至る。この現像の際、光の照射により電位が変化した部位には、現像器8との電位差によりトナーが感光体ドラム5に吸引されて黒部分となり、その他の部分にはトナーは吸引されず白部分となって、全体として、画像情報に基づく白黒のトナー画像が形成される。上記レジストローラ対4aは、感光体ドラム5の表面のトナー画像に同期して記録紙がこの対合部に導入されるようレジスト制御されて回転駆動される。
【0020】
転写ローラ9はバイアス印加されており、感光体ドラム5と対合され且つ矢示方向(感光体ドラム5とウイズ方向)に回転駆動されながら記録紙をニップ搬送し、この間感光体ドラム5の表面のトナー像が記録紙に転写される。感光体ドラム5の表面に残ったトナー等(紙粉を含むことがある)は、クリーニング装置10で除去・回収される。トナー像が転写された記録紙は、定着装置11に導入され、永久画像として定着された後、切替ゲート4bを押し上げ、排出ローラ対4cを経て排出トレイ4d上に排出される。この一連の記録紙の給送は、給紙カセット2aからの繰出し直後に略垂直(鉛直)に立ち上がり、排出ローラ対4cでは給紙カセット2aからの繰出し方向とは略180度の方向にUターンするような主給送パスPに沿ってなされる。このようなレイアウト構成により、装置全体のコンパクト化が図られる。
前記クリーニング装置10で除去回収された廃トナーは、スクリューコンベア19を介して、トナーカートリッジ18を構成する廃トナータンク17に収容される。
【0021】
図例の画像形成装置Xは、両面記録機能を更に備えており、上記主給送パスPの切替ゲート4bの取付け位置から、前記レジストローラ対4aの上流側で上記主給送パスPに循環合流する反転給送パスP1に沿って、記録紙が搬送されてなされる。
尚、図において、符号1aは、記録紙の手差機能を構成する手差給紙トレイであり、符号1bは、前記主給送パスP及び反転給送パスP1などで紙ジャムが発生した場合などに開閉されるジャムアクセスカバーである。
【0022】
本実施形態に係る定着装置について図2に基づいて詳説する。
定着装置11は、ドラムユニット50(図1参照)の下流側に配設され、樹脂成型された定着装置ハウジング11a内に、互いに圧接されたヒートローラ12とプレスローラ13とを備えている。
定着装置ハウジング11aの記録紙搬送方向上流側(紙面下方、以下、上流側とする場合がある)には、主給送パスPに沿って搬送される記録紙を受入れる上流側開口11bが開設され、記録紙搬送方向下流側(紙面上方、以下、下流側とする場合がある)には、トナー画像が定着された記録紙を排出部4に向けて排出する下流側開口11cが開設されている。
装置本体1に装着された状態で定着装置11は、図1に示すように、ヒートローラ12とプレスローラ13とのニップ部nが主給送パスPに沿うように配置される。
【0023】
また、定着装置ハウジング11aには、搬送される記録紙をヒートローラ12から剥離するための剥離爪11dと記録紙の搬送をガイドするガイドリブ11eがローラ軸方向に沿って複数箇所に配設されている。
剥離爪11dは、その基端部が軸支されて揺動自在に構成され、トーションバネなどにより常にヒートローラ12の外表面に、その先端が当接するように付勢されている。
【0024】
更に、定着装置ハウジング11aには、ヒートローラ12の面状発熱体22への給電を行うためのAC電源(不図示)に接続されている電極板11k、ブラシ付勢手段11j、給電ブラシ11iが設けられている。ブラシ付勢手段11jは、圧縮コイルバネや板バネ等からなり、給電ブラシ11iを所定の押圧力で、環状電極部材24に向けて付勢している。
尚、電極板11k及びブラシ付勢手段11jをりん青銅で形成し、給電ブラシ11iを銅、黒鉛合金等で形成されたものとしてもよい。
【0025】
環状電極部材24は、リング状に形成された電極部材、即ち給電部であり、銅、黒鉛合金等からなり、電極板11k、ブラシ付勢手段11j、給電ブラシ11iを介し、AC電源と電気的に接続されている。そして面状発熱体22のヒータ層の導通部(不図示)に周着するように片側に1個ずつ、計2個の環状電極部材24が配備される。尚、ここでは給電部として環状の電極部材を用いた例を示すが、これに限定されるものではなく、面状発熱体22に給電を行えるものであればよい。
【0026】
ヒートローラ12の外表面には、サーモスタット等、表面温度を計測する温度センサ11fが当接(摺接)或いは近接して配置されており、該温度センサ11fにおいて計測された温度に基づいて、ヒートローラ12の外表面が最適な温度に維持されるように後記する面状発熱体22の発熱部の制御がなされる。
【0027】
ヒートローラ12は、両端に取り付けられたローラ軸部材25を介して軸受(不図示)等で定着装置ハウジング11a内に回転自在に支持されており、モータ等の駆動手段(不図示)により駆動されて、回転駆動がなされる。
ローラ軸部材25は、基材21の円心と同心とされた円柱状の軸部25aと、円板状フランジ部25cとを備えており、これらが金属材若しくは樹脂材等により一体形成されている。ローラ軸部材25は、基材21の軸方向両端の開口部に嵌め合わされ、この際にフランジ部25cと嵌め合わされるように基材21の開口部には段部(不図示)が形成されている。図において、符号25bは、ローラ軸部材25に開設された空気抜き孔である。
このヒートローラ12が図2の矢印方向へ回転駆動することにより、プレスローラ13が従動回転し、ニップ部nに導入された記録紙がニップ搬送され、ニップ部nを記録紙が通過する間に、転写されたトナー画像が熱圧着により記録紙に定着される。そしてその後、排出部4側へとニップ搬送される。
【0028】
プレスローラ13は、鉄鋼材等の金属材料で形成されたプレスローラ軸13aと、該プレスローラ軸13aの外周面を覆う円筒状弾性部材13bとからなる。円筒状弾性部材13bは、シリコーン、ウレタン等のゴム体或いはスポンジ体からなり、プレスローラ軸13aに接着剤等を介して取り付けられている。
円筒状弾性部材13bには、記録紙やトナーの剥離性を高めるための離型層として、例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニル共重合体等のフッ素系樹脂チューブ13cが外装されている。
尚、プレスローラ軸13aに適用される金属材料としては、SUM24LやS20C等の鉄鋼材に、ニッケル鍍金を施したものとしてもよい。またフッ素系樹脂チューブ13cの厚みは、30μm〜50μm程度のものが望ましい。
【0029】
プレスローラ軸13aは、その両端が軸受体11gにより回転自在に支持されている。該軸受体11gは、定着装置ハウジング11aに対してスライド自在に設けられており、定着装置ハウジング11aに固定されたコイルバネ等からなるローラ付勢手段11hにより付勢されている。
このローラ付勢手段11hにより、プレスローラ13は、ヒートローラ12に向けて圧接され、ニップ部nが形成されている。
【0030】
尚、ローラ付勢手段11hは、定着装置ハウジング11a内に固定された金属シャーシ(不図示)に固定支持されている。
また、ローラ付勢手段11hとしては、コイルバネに限らず、プレスローラ13をヒートローラ12に対して付勢可能な付勢手段であればどのようなものでもよい。
さらに、図示していないが、定着装置11では、ヒートローラ12とプレスローラ13とのニップを解除するニップ解除機構、ヒートローラ12の表面に付着した紙粉やトナーを除去するクリーニングローラあるいはクリーニングブレードなどを備えている。
【0031】
次に、本実施形態に係る定着装置が備えるヒートローラの一例について、図3に基づいて詳説する。尚、図3の一点鎖線拡大図は、Y部の拡大図であり、図3は説明のため、ヒートローラ12を一部破断し、環状給電部材24、ローラ軸部材25の図示は省略する。
ヒートローラ12は、中空円筒からなる基材21、基材21の外周面に形成される断熱層26、面状発熱体22及び面状発熱体22の外周面を覆う離型層23とからなるローラ体20と、上述の環状電極部材24と、ローラ軸部材25とから構成されている。
基材21は、電気絶縁性を有する樹脂、例えばポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略す)樹脂を中空円筒状に成型して構成されている。
PPS樹脂は、耐熱性、強度、寸法安定性等に優れ、ヒートローラ12の基材21として好適であるが、その他、少なくとも外周面を電気絶縁性とした、耐熱性の他の樹脂材、金属材から構成されたものとしてもよい。
【0032】
面状発熱体22は、ヒータ層22a、絶縁層22b、伝熱層22cを半径方向外方にこの順に積層した3層構造とされている。
絶縁層22bとしては、ポリイミドフィルムが挙げられ、伝熱層22cとしては、銅箔が挙げられ、面状発熱体22は、例えば、ポリイミドフィルムからなる絶縁層22bの一方の面に、銅箔からなる伝熱層22cを貼り付けられて、他方の面に、ステンレスやニッケルクロムからなる箔状の材料を、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等の耐熱接着剤で加熱圧着させ、ウェットエッチング等の公知の方法により、複数の線を有するパターン形状に加工してヒータ層22aを形成することにより形成される。
前記のような構成により、面状発熱体22は、可撓性を有したシート状のヒータとして、基材21の外周面に後記する断熱層26を介して、基材21の外周面に巻き付けられる。
【0033】
ヒートローラ12の最外周となる離型層23は、トナーや紙粉の付着を低減するためのもので、例えば厚みを30μm程度とすることが望ましい。離型層23の材料としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニル共重合体等のフッ素系樹脂が用いられる。
【0034】
基材21と面状発熱体22との間には、断熱層26が介在し、面状発熱体22が発する熱が基材21に奪われないよう構成されている。
断熱層26は、テフロン(登録商標)系、フッ素系の耐熱性樹脂材や上述のPPS樹脂等の耐熱性樹脂材が用いられ、その厚み内に空気が滞留する多数の線状微細空間からなる空気層26aを含んで形成されている。耐熱性樹脂材として弾性を備えた材料を用いれば、後記するシート体26cのクッション性を一層向上させることができ、好適である。
【0035】
この実施形態に示す断熱層26は、断面が略円形の円筒状チューブ26bを多数本、並列に連ね、相互に溶着等によって一体としたシート体26cで形成されており、円筒状チューブ26bの中空部が、線状微細空間からなる空気層26aとなって、その中空部に空気が滞留するよう構成されている。即ち、円筒状チューブ26bが基材21の長手方向に沿い、且つその両端部に亘って連続して並べられることにより、多数の線状微細空間からなる空気層26aを含んだ断熱層26が構成される。ここに形成される線状微細空間は、円筒状チューブ26bの中空部からなるので、単に平板状のシート体からなる断熱層と比べて、基材21の熱膨張による変形等を吸収可能な弾性を備えたものとすることができる。
断熱層26は、基材21の外表面に巻き付けられ、接着剤により貼り付けられて一体とされる。このとき、接着剤として、エポキシ系等の耐熱性接着剤を用いれば、より一層断熱効果を高めることができる。
またシート体26cで構成される断熱層26のチューブ26bの外径dは、ヒートローラ12の外径が大とならないよう、省スペース化の要請に応えるため、1.0mm以下とする。
【0036】
これによれば、断熱層26に形成される空気層26aによって、面状発熱体22が発する熱が遮断され、断熱効果が高まり、基材21に面状発熱体22が発する熱を奪われることなく、効果的にヒートローラ12の表面を加熱することができる。よって、ヒートローラ12の表面の温度を急速に上昇させることができ、ウォームアップタイムを顕著に短縮することができる。
また、面状発熱体22から基材21への熱の伝導が、線状微細空間からなる空気層26aによって効果的に遮断され、基材21の熱膨張を防止することができる。更に長時間の使用により、基材21の温度が上昇し、基材21が拡径方向に多少膨張したとしても、空気層26aの線状微細空間が基材21の長手方向に沿い、且つその両端部間に亘り形成されているので、これがクッションの役目を担って、基材21の拡径方向(周方向)の膨張を吸収することができる。
これにより基材21に貼り付けられて一体とされた面状発熱体22に対して、その面域方向への引張力が負荷されないので、ヒータ層22aに形成される導体パターン、特に各線パターンを繋ぐ導通部(不図示)の断線を防止することができる。よって、故障がなく、ヒートローラ12を安定して加熱可能な信頼性の高い定着装置11を構成することができる。
【0037】
尚、断熱層26の構成はこれに限定されるものではなく、空気が滞留する多数の線状微細空間からなる空気層26aを含んでいるものであればよい。例えば、図3に示す円筒状チューブ26bを面域方向に複数並列させたシート体26cの上下を平板状耐熱樹脂シートで挟んで構成したシート体としてもよい。これによれば、断熱層26の外表面及び内表面がともに、平板状となるので、基材21や面状発熱体22との貼着性がよいものとすることができる。
【0038】
次に、他の実施形態について図4に基づいて詳説する。上述の実施形態と共通する部分には共通の符号を付し、共通する部分の説明は割愛する。
この実施形態では、断熱層26は、波形の耐熱性樹脂シート26eと平板状の耐熱性樹脂シートとを積層して一体としたシート体26cで形成されたものを示している。詳しくは、ここに示す断熱層26は、所謂ダンボール構造からなり、2枚の平板状耐熱性樹脂シート26dの間に挟まれた波形の耐熱性樹脂シート26eによって形成される積層空間が、線状微細空間からなる空気層26aとなって、ここに空気が滞留し、断熱層26として構成される。そして、2枚の平板状耐熱性樹脂シート26dの間に挟まれた波形の耐熱性樹脂シート26eの山部、谷部が基材21の長手方向に沿い、その両端部に亘って形成されているので、単に平板状のシート体からなる断熱層と比べて、基材21の熱膨張による変形等を吸収可能な弾性を備えたものとすることができる。
シート体26cで構成される断熱層26の厚さは、ヒートローラ12の外径が大とならないよう、省スペース化の要請に応えるため、1.0mm以下とする。
【0039】
これによれば、断熱層26に形成される空気層26aによって、面状発熱体22が発する熱が遮断され、断熱効果が高まり、基材21に面状発熱体22が発する熱を奪われることなく、効果的にヒートローラ12の表面を加熱することができる。よって、ヒートローラ12の表面の温度を急速に上昇させることができ、ウォームアップタイムを顕著に短縮することができる。
また、面状発熱体22から基材21への熱の伝導が、線状微細空間からなる空気層26aによって効果的に遮断され、基材21の熱膨張を防止することができる。更に長時間の使用により、基材21の温度が上昇し、基材21が拡径方向に多少膨張したとしても、空気層26aの線状微細空間が基材の長手方向に沿い、且つその両端部間に亘り形成されているので、これがクッションの役目を担って、基材21の拡径方向(周方向)の膨張を吸収することができる。
これにより基材21に貼り付けられて一体とされた面状発熱体22に対して、その面域方向への引張力が負荷されないので、ヒータ層22aに形成される導体パターン、特に各線パターンを繋ぐ導通部(不図示)の断線を防止することができる。よって、故障がなく、ヒートローラ12を安定して加熱可能な信頼性の高い定着装置11を構成することができる。
尚、断熱層26の構成はこれに限定されるものではなく、空気が滞留する多数の線状微細空間からなる空気層26aを含んでいるものであればよい点は上述と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の定着装置を備えた画像形成装置の一実施形態を示す概略的縦断面図である。
【図2】同定着装置の要部の拡大図である。
【図3】同定着装置におけるヒートローラの一部破断斜視図とY部の拡大図である。
【図4】同ヒートローラの他の実施形態であって、図3のY部に相当する図である。
【符号の説明】
【0041】
X 画像形成装置
11 定着装置
12 ヒートローラ
21 基材
22 面状発熱体
26 断熱層
26a 空気層
26b 円筒状チューブ
26c シート体
26d 平板状耐熱性樹脂シート
26e 波形耐熱性樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートローラを備えた定着装置であって、
上記ヒートローラは、円筒形状でなる基材と、該基材の外表面に断熱層を介して貼り付けられて一体とされた面状発熱体とを備え、
上記断熱層は、耐熱性材でなり且つその厚み内に空気が滞留する多数の線状微細空間からなる空気層を含み、該線状微細空間は、上記基材の長手方向に沿い、且つその両端部間に亘り形成されていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の定着装置において、
前記断熱層は、外径が1.0mm以下の耐熱性樹脂からなる多数の円筒状チューブを面域方向に並列させて一体としたシート体で形成され、前記線状微細空間は前記円筒状チューブの中空部からなることを特徴とする定着装置。
【請求項3】
請求項1に記載の定着装置において、
前記断熱層は、波形耐熱性樹脂シートと平板状耐熱性樹脂シートとを積層して一体とした厚さが1.0mm以下のシート体で形成され、前記線状微細空間は前記両シートによる積層空間からなることを特徴とする定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−287024(P2008−287024A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132105(P2007−132105)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】