家禽・家畜から排出される温室効果ガス生成抑制用微生物製剤
【課題】地球温暖化の要因とされるメタンガスや二酸化炭素の生成抑制のため、牛などの反芻動物やめん羊に給与して消化器から排出されるメタンガス、二酸化炭素生成を抑制し、さらには、家禽・家畜から排出される糞・尿の汚臭を減少するための特定の微生物製剤を提供する。
【解決手段】バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物、さらには、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含み、米ぬか、パーム油残渣、澱粉類を含有する微生物製剤とすること。
【解決手段】バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物、さらには、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含み、米ぬか、パーム油残渣、澱粉類を含有する微生物製剤とすること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛、羊等の反芻動物の消化器におけるメタン、二酸化炭素の生成抑制剤等に関し、より詳しくは、バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物、さらには、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物と培養基質とを含むメタン生成、二酸化炭素の生成抑制剤、その製造方法、及び家畜の排泄物のメタン、その他臭気の抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が問題となっている近年では、京都議定書では、温暖化につながる温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素)の排出量削減に関連し、先進国等に対し、温室効果ガスを1990年比で、2008年から5年間で一定数値(日本の場合は6%)の割合で削減することを義務付けているなど、二酸化炭素、メタン等の減少化に地球規模で努力がなされている。メタンに関しては、大気中のメタンガスの量は、毎年1%以上の割合で増え続けているといわれており、湿地の泥から自然発生するものもあるが、7割は燃料の燃焼や生ごみなどの腐敗など人為的な活動に伴って発生する。メタン1分子当たりの熱吸収率は炭酸ガスの20倍以上であり、総温暖化の約20%と、炭酸ガスに次ぐ寄与率を示す。このように、メタンが少量でも温度上昇に与える影響は大きく、地球温暖化を防ぐにはメタンの発生抑制が緊急の課題である。発生するメタンには、前述の発生源のみならず、家畜や野生動物の消化器官発酵により生成される量は、地球上で放出されている全メタン発生量の16%に相当するとされており、メタンの発生源として注目されている。
【0003】
従来、反芻動物におけるメタンの生成抑制法としては、穀類などの濃厚飼料を増大させる方法や、硝酸塩又はハロゲン化合物、脂肪酸を投与する方法がとられていた。しかし、あまり濃厚飼料の割合が高いと飼料コストが上がるだけでなく、第1胃の内壁がただれ、牛が病気になることがわかってきた。また、硝酸塩も投与を多くすると、亜硝酸塩中毒を引き起こし、問題視されており、ハロゲン、脂肪酸投与も慢性中毒や繊維消化率の低減を引き起こしている。一方、抗生物質であるサリノマイシンやモネイシン等のイオノフォア類の使用によりメタン生成量が抑制されることも報告されているが、耐性菌の出現や畜体内の残留が懸念されている。
【0004】
反芻動物のルーメン内のメタン生成抑制技術として、有効成分として、システイン及びその塩の少なくとも1種を含有するメタン生成抑制剤(例えば、特許文献1参照)や、有効成分としてフマル酸を含有するメタン生成抑制剤(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0005】
また、抗生物質などを使用することによる弊害をなくすため、安全な原料・成分を用いる技術として、アセンヤク、チャ、プルーン及びステビアの内の1種又は2種以上を含有する牛の第1胃内発酵調整用飼料添加物(例えば、特許文献3参照)や、有効成分としてユーカリ油、ペパーミント油、ワサビ油、シネオール、ヨウ素及びこれらのサイクロデキストリン包接化合物の中から選ばれた少なくとも1種の物質を含有する反芻動物用メタン生成抑制剤(例えば、特許文献4参照)やリモネン、オイゲノール、サリチレート、キノリン、バニラ、チモール、またはクレゾールからなる群から選択される1種または複数の精油化合物を使用し、これを動物に投与することによって、動物の消化活動から生じるメタンの生成を減少させる方法(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0006】
さらに、微生物を有効成分として用いる技術としては、乳酸菌 、酵母及びオリゴ糖から選ばれる1種又は2種以上を含有する反芻動物用のメタン生成抑制用組成物(例えば、特許文献6参照)が知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−322828号公報
【特許文献2】特開平11−46694号公報
【特許文献3】特開2002−209529号公報
【特許文献4】特開2002−281912号公報
【特許文献5】特表2005−525117号公報
【特許文献6】特開2003−88301号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、反芻動物などの家畜消化器官内(例えば、牛の第1胃であるルーメン)におけるメタン生成及び二酸化炭素生成抑制を家畜消化器官内の微生物群のバランスを崩すことなく、かつ家畜に残留してヒトに影響するなどの健康に被害を及ぼさない、安全な家畜消化器官内におけるメタン及び二酸化炭素生成抑制剤及びその製造方法、並びに反芻動物、豚、家禽類の排泄物中のメタン、窒素化合物、硫化物等の臭気抑制剤の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、農水産業の分野で、特に家禽、家畜、養魚或いは農作物に施用して、安全・安価で、環境に強い、そして環境に対してよい影響を与える動植物とするために、有効な微生物製剤を求めて長い間研究を続けてきた。その過程で、反芻動物がゲップにより排出するメタンが、地球の温暖化に深く関わっていることに注目した。先ず、メタンの生成菌は動物の腸内(牛、羊のルーメン)、家畜の糞及び水田、土壌に存在しており、メタン生成菌の活性化のために適合する環境があれば、その活性によりメタンが発生するのであり、菌の生育、活性のための培地であるH(水素)がなければ、菌の生育のバランスがとれず、メタンの生成もできない。メタン生成菌にとって不可欠な培地のS(硫黄)、硫化化合物及びH(水素)を消去或いは削除することができれば、メタンの発生がなくなり、又は少なくなる。このようなメタンを発生する菌に対して、従来、乳酸菌や酵母の使用が確かめられていたが、さらに多種多岐に亘る微生物について検討し、乳酸菌、酵母に限らず、他の特定の菌を選択し、組み合わせて反芻動物の飼料に添加することにより、反芻動物のルーメン内の菌に影響し、それによって生成するメタン、さらには、二酸化炭素等の量を継続的に減少すること、さらには、家畜の排出する糞の臭気抑制にもつながることを見い出し本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、(1)バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物を含有することを特徴とする家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(2)さらに、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含むことを特徴とする前記(1)記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(3)バチルス(Bacillus)属に属する微生物がバチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・ナットウ(Bacillus natto)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ステロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(4)ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する微生物が、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruckii)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(5)ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物が、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(6)キャンディダ(Candida)属に属する酵母が、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(7)ピキア属に属する酵母が、ピキア・ファリノサ(Pichia farinosa)であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(8)米ぬか、パーム油残渣、乳酸カルシウムを含有することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤に関する。
【0011】
また本発明は、(9)前記(1)〜(8)記載のいずれかの微生物製剤を含むことを特徴とする飼料や、(10)前記(1)〜(8)記載のいずれかの微生物製剤を反芻動物、豚、家禽類に投与して、反芻動物、豚、家禽類の排泄物中のメタン、二酸化炭素、アンモニア、硫化水素等の臭気抑制方法に関する。
【0012】
さらに本発明は、(11)バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物を含有する微生物群と培養基質とを混合し、7〜10日間発酵させ、発酵経過中に澱粉類を添加することを特徴とする家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤の製造方法や、(12)培養基質が、米ぬか、パーム油残渣を含有することを特徴とする前記(11)記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素生成抑制用微生物製剤の製造方法や、(13)さらに、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含むことを特徴とする前記(11)又は(12)記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素生成抑制剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、家畜消化器官におけるメタン及び二酸化炭素の生成を抑制し、酢酸、プロピオン酸及びn−酪酸濃度などの有機酸の生成を高めると共に、家畜が排出する糞、尿の臭気を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤としては、バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物を含有するものであれば特に制限されないが、さらに硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含むことが好ましく、これら微生物は、反芻動物等の消化器官内微生物群に影響を及ぼさず、病原性を有さない菌が好ましい。また、死菌や菌体処理物等を使用することもできるが、生菌の状態で含有する製剤が好ましい。なかでも、米ぬか、パーム油残渣、乳酸カルシウムを含有する製剤が特に好ましい。
【0015】
バチルス(Bacillus)属に属する微生物としては、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・ナットウ(Bacillus natto)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ステロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0016】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する微生物としては、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruckii)等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物としては、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophillus)を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
キャンディダ(Candida)属に属する酵母としては、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)等を挙げることができ、ピキア属に属する酵母としては、ピキア・ファリノサ(Pichia farinosa)等を挙げることができる。
【0019】
本発明では、さらに、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1または2種以上の微生物を含むものであるが、硝化細菌として、ニトロバクタ−属、ニトロソモナス属に属する菌を挙げることができ、たとえば、Nitrobacter winogradskyi、Nitrobacter agile、Nitrosomonas europaea、Nitrosomonas monocellaを例示することができ、メタン酸化細菌として、Methylococcus、Methylomonas 属に属する菌を挙げることができ、Methylcoccus capsulatusを例示することができる。また、硫黄還元細菌として、Desulfovibrio属に属する菌を挙げることができ、光合成細菌として、いわゆるphotosynthetic bacteriaに属する菌を挙げることができる。
【0020】
本発明に係る微生物製剤の製造方法としては、各微生物を純粋培養して、病原菌の混入していないことを確認し、微生物製剤とすることができ、そのまま、或いは固体状の担体と配合し、必要に応じて、分散剤、安定剤、賦形剤、結合剤等を配合して製造することができる。その剤形は、例えば、顆粒剤、散剤、粉末剤等の所望のものにすることができる。本発明では、さらに微生物群と培養基質原料と混合して、発酵して製造する方法が好ましい。
【0021】
前記培養基質原料として、米ぬか、小麦フスマ、大豆粕、大豆胚芽、醤油粕、ポテトパルプ、こんにゃくトビ粉、パーム油残渣、カルシウム含有物、澱粉類を用いることができる。前記カルシウム含有物としては、卵殻、牡蠣貝殻、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等を1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。また、澱粉類としては、トウモロコシ、ソルガム、その他飼料用穀物、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、タピオカやサゴ澱粉、各種化工澱粉、ブドウ糖、異性化糖、水飴等を挙げることができる。
【0022】
具体的には、米ぬか50〜80重量%、パーム油残渣10〜25重量%、カルシウム含有物5〜15重量%、澱粉類2〜5重量%用いる。前記培養基質原料も、原料検査をして、重金属、残留農薬等が国で定められている基準以下であることを確認し、黴毒などで汚染されていないかをチェックし、さらに、殺菌して用いることが雑菌等の混入を防ぐことができ、該殺菌手段は通常の殺菌方法、すなわち加圧水蒸気殺菌等の加熱殺菌を採用することができる。
【0023】
微生物製剤の家禽・家畜への投与量は、菌の種類の組み合わせ、家禽・家畜の種類、生育段階、季節・場所等の飼育環境等により異なり、適宜変更できる。
【0024】
本発明の微生物製剤の飼料への添加量は、菌類合計で1g当たり106〜109個含む剤を飼料に0.05〜2重量%添加することが好ましい。
【0025】
本発明の微生物入り飼料が適用される家禽・家畜類としては、ゲップによりメタン等を生成する反芻動物の牛、めん羊の他、豚、馬、ヤギ等の家畜、鶏、鴨、ダチョウ等の家禽が挙げられ、また、飼料を摂取することにより、排出される糞、尿の汚臭発生を防止し得る、本発明の微生物製剤を適用できる家禽・家畜類として牛、めん羊の他、豚、馬、ヤギ等の家畜、鶏、鴨、ダチョウ等の家禽が挙げられる。
【0026】
本発明の微生物製剤は、単独又は、飼料と混合して用いるが、飼料に混合して家禽・家畜に与えることが好ましく、また、別途投与する場合は、その時期としては、特に限定されないが、飼料がルーメン内に滞留している間であればいずれの時期でもよい。メタンが生成される前にルーメン内に本発明の微生物製剤が存在することが好ましく、飼料投与直前、或いは同時に微生物製剤を投与することが好ましい。
【0027】
なお、呼気中やルーメン中のメタン(CH4)は、例えば三ツワ理化学工業株式会社製の揮発性炭化水素濃度計「Model TVA-1000B」により、また二酸化炭素(CO2)は、例えばリオンテック株式会社製のCO2モニター「FCDR-02」により測定することができる。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
(各菌の調整)
保存されているバチルス・ナットウ、ラクトバチルス・アシドフィラス、ストレプトコッカス・フェカリス、キャンディダ・ユーティリス、ピキア・ファリノサの各菌体を、30℃〜37℃で12時間〜24時間培養し、それぞれ各種培養物を得た。各種培養物をさらに適合する培地で30℃〜37℃で24時間〜48時間培養後遠心分離機にかけ、上清液を取り除き、供試菌体を得た。各供試菌の菌数を調整し、同数ずつとなるように混合し、微生物混合物を得た。
【実施例2】
【0030】
実施例1の微生物に、さらに、硝化細菌(ニトロバクタ・アギル)、メタン酸化細菌(メチロコッカス・カプサルタス)、硫黄還元細菌(Desulfovibrio属)及び光合成細菌(photosynthetic bacteriaに属する菌)を実施例1と同様の方法により処理して各菌を同数ずつ混合し、微生物混合物を得た。
【実施例3】
【0031】
(微生物製剤)
米ぬかを予め残留農薬、重金属、カビ毒の有無について原料検査し、基準を超えないことを確認した後、120℃で蒸気滅菌し、80〜100℃で乾燥し、粉砕した。米ぬか70重量部、パーム油残渣17重量部、水500重量部とを混合し、実施例1で得られた微生物混合物30重量部を添加・混合した。この混合物を40℃、7日間発酵を行った。発酵3日目で乳酸カルシウム10重量部、コーンスターチ3重量部を添加した。発酵終了後60℃以下で水分値が10重量%以下となるまで乾燥して、微生物製剤(以下、「製剤A」という)を得た。該微生物製剤は、pH4.8〜5.1であり、雑菌や病原菌は検出されず、水分含量1.0%以下を示すものである。
【実施例4】
【0032】
微生物として実施例2により得られた微生物混合物を用いて、発酵を10日間行った以外は、実施例3と同様の方法により、微生物製剤(以下、「製剤B」という)を得た。
【実施例5】
【0033】
(1)供試動物として表1に示す4頭のめん羊を用い、インビボ培養試験における呼気中のCH4及びCO2の動態に及ぼす製剤Aの影響、並びに飼料消化率について測定した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1に示すめん羊4頭を馴致期間1週間の後、無投与のめん羊と、製剤A投与開始前日を0日目として、以後投与開始7日目及び14日目にめん羊からルーメン液を採取し培養試験を行った。培養試験には、図1に示すメタン連続発酵解析装置を用いて、上記表2に示す反応液組成を調製し、メタン生成量を測定した。0日目の累積メタン生成量を図2(0日メタン)に、7日目の累積メタン生成量を図3(7日メタン)に、14日目の累積メタン生成量を図4(14日メタン)、さらに14日目の累積二酸化炭素生成量を図5(14日二酸化炭素)に示す。
【0037】
以上図2〜図4に示すように、製剤A投与前(0日目)で約3.5%、投与後7日目で約9%、投与後14日目で約8%のメタン抑制効果が示された。
また、図5に示すように、投与後14日目で約26%の二酸化炭素抑制効果が示された。
【0038】
(2)めん羊における消化率の効果について
供試飼料としてチモシー乾草を用い、1日あたり55gDM(乾物)/MBSを給与した。該飼料の化学成分を表3に示す。そして各化学成分の消化率は、第1期(7日目)、第2期(14日目)に測定し、表4に示すとおりである。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
DM(乾物)、OM(有機物)、CP(粗タンパク質)、NDF(中性デタージェント繊維)、CL(セルロース)の各消化率とも製剤A4g添加により第1期よりも第2期の方が向上する結果となった。
【0042】
以上、めん羊のルーメン培養試験の結果から製剤A投与後7日目及び14日目でメタン生成量が約8%抑制されることがわかり、また、消化試験の結果からNDF消化率が向上することがわかった。さらに、セルロースやヘミセルロースなどの繊維類が、次の下記(2)の経路によると推測される。
【0043】
【表5】
【0044】
(3)乾乳牛の呼気CH4抑制、飼料消化率、糞尿排泄量及び血液成分に及ぼす影響について
供試動物は、表6に示す、3頭の乾乳牛を用いた。
【0045】
【表6】
【0046】
試験は、2005年7月16日より開始し、1期〜3期とし、各期を21日間とする試験区とした。この試験設計の概要を表7に示す。
【0047】
【表7】
【0048】
0区では対照区として牧草サイレージのみ給与し、10区では製剤Aを1日10g、20区では製剤Aを1日20g、牧草サイレージ給与の際にトップドレスで給与した。また、製剤Aの菌の定着を促進するため、10区及び20区の試験開始日に製剤A150gをおがくずと混合し、ストール牛床に敷いた。
【0049】
各区において、最初の14日間は予備期としてタイストールで繋留し、各試験期の最終7日間を本期として、図6、図7に示す代謝試験ストールに各牛を繋留した。代謝試験ストールでは、呼気メタン、乾物摂取量、飲水量、糞尿排泄量、ルーメン内容液性状、血液成分を測定した。ルーメン液を使用して、メタン抑制率を測定する方法は、めん羊における累積メタン生成測定と同様に、メタン連続発酵解析装置を用いてメタンの動態を測定した。製剤A投与14日目の累積メタン生成量について、図8に示す。図8から、製剤A添加区平均のメタン抑制率は、製剤A無添加区に対し、27.1%であることがわかった。
【0050】
ア)乾物摂取量、飲水量及び糞尿量に及ぼす影響について
乾乳牛3頭0区、10区、20区の乾物摂取量、飲水量、糞量、乾物糞量、尿量及び糞尿量の平均値を表8に示す。
【0051】
【表8】
【0052】
具体的に各乾乳牛の乾物摂取量を図9に、飲水量を図10に、糞量を図11に、乾物糞量を図12に、尿量を図13に、糞尿量を図14に示す。表7及び図9〜14から、糞量、乾物糞量は、0区での乾物摂取量が低かった665番の乾乳牛を除く他の2頭は、0区に対して、10区及び20区で低くなる傾向があり尿量及び糞尿量も同様の傾向であった。
【0053】
イ)乾物及び飼料成分消化率に及ぼす影響について
乾乳牛3頭0区、10区、20区の乾物消化率(%)、OM(有機物)消化率(%)、NDF(デタージェント繊維)消化率(%)、CP(粗繊維)消化率(%)、EE消化率(%)の平均値を表9に示す。
【0054】
【表9】
【0055】
具体的に各乾乳牛の乾物消化率を図15に、OM消化率を図16に、NDF消化率を図17に、CP消化率を図18にEE消化率を図19に示す。図15の乾物消化率の変化から、0区に比べ、10区及び20区で有意に高く、製剤Aの添加効果が示された。飼料成分の消化率では、OM及びNDF消化率に0区と10区及び20区で有意差が認められ、製剤Aの添加による繊維成分の消化率向上効果が示された。
【0056】
ウ)ルーメン内容液性状に及ぼす影響について
表10にルーメン内容液性状のpH、アンモニア態窒素濃度及び各VFA濃度の平均値を示す。
【0057】
【表10】
【0058】
具体的に各乾乳牛のルーメン内溶液の変化について、pHを図20に、ルーメン内溶液アンモニア態窒素濃度を図21に、ルーメン内溶液酢酸濃度を図22に、ルーメン内溶液ピロピオン酸濃度を図23に、ルーメン内溶液n−酪酸濃度を図24に、ルーメン内溶液総VFA濃度を図25に、ルーメンルーメン内溶液A/P比を図26に、ルーメン内溶液総VFAに占めるプロピオン酸割合を図27に示す。これらの図から、ルーメン内溶液のVFA濃度のうち、酢酸、プロピオン酸及びn−酪酸濃度は、0区に対して10区及び20区でそれぞれ有意に高い傾向を示し、総VFA濃度においても同様の結果となった。また、総VFA濃度に占めるプロピオン酸の割合は、0区に対して10区及び20区でそれぞれ有意に高くなる傾向を示し、製剤Aの添加効果が示唆された。
【0059】
エ)血液性状に及ぼす影響について
乾乳牛の血液性状の変化について、エネルギー代謝、蛋白質代謝、ミネラル代謝、肝機能、脂質代謝について、各値の平均値を表11に示す。
【0060】
【表11】
【0061】
具体的に、各乾乳牛のBUN(尿素窒素)の推移を図28に、総コレステロールの推移を図29に示す。表11、図28、図29に示すように、いずれの血液成分も異常値は見られず、むしろ血糖、総コレステロールは、有意に低くなる傾向があった。
【0062】
オ)製剤Aの環境に及ぼす影響について
a)製剤Aを添加する豚糞及び豚尿の水への影響等について
豚舎から排出される、豚糞及び豚尿を含む汚水について、14日間のバッ気処理、30日間のバッ気処理におけるBOD等の測定値を表12に、製剤A添加(4〜5ヶ月)した豚糞の臭味及びその中の物質変化について表13に、製剤Aが養豚の汚水処理における除臭効果及び水質改善効果について表14に製剤Aの豚養殖期間中の臭気分析について表15に、製剤Aの台湾国営及び民営養豚場の排水処理野沈殿池の水質分析(PPM)について表16に示す。
【0063】
【表12】
【0064】
【表13】
【0065】
【表14】
【0066】
【表15】
【0067】
【表16】
【0068】
b)製剤Aを給与した鶏糞の発酵試験について
栃木県の養鶏場において、製剤A区:ジュリア種、78齢、40330羽、対照区:ハイラインN36種、130日齢、41220羽を用いた。鶏舎構造は、ウインドレス高床式であり、給与方法としては、製剤Aを飼料に0.1%添加して給与し、試験期間6ヶ月とした。
【0069】
臭気測定は、表面より20〜30cm深部の鶏糞を密閉容器に採取して北川式検知管を用いて測定した。アンモニア濃度を製剤A給与開始日55日目から製剤A給与区、無添加の対照区の測定値、及び対照区が製剤A給与区の何倍に相当するかの値を表17に示した。また、硫化水素を鶏舎内でその臭気が認知されたので、途中から測定を開始し、製剤A給与区、無添加の対照区の測定値を表18に示した。表17及び表18から、製剤A添加区での養鶏場から発生する臭気は、アンモニアでは無添加の最低でも約1/2以下であり、硫化水素では、1/2以下であることがわかった。
【0070】
【表17】
【0071】
【表18】
【0072】
また、製剤Aに代えて製剤Bを用いた場合、製剤Aを用いた場合とほぼ同様な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の、メタン生成量を測定するために用いるメタン連続発酵装置を示す図である。
【図2】本発明の、めん羊0日目の累積メタン生成量を示す図である。
【図3】本発明の、めん羊7日目の累積メタン生成量を示す図である。
【図4】本発明の、めん羊14日目の累積メタン生成量を示す図である。
【図5】本発明の、めん羊14日目の累積二酸化炭素生成量を示す図である。
【図6】本発明の、牛1頭分が測定される代謝試験ストールを撮影した写真である。
【図7】本発明の、複数の牛が測定される代謝試験ストールを撮影した写真である。
【図8】本発明の、牛14日目の累積メタン生成量を示す図である。
【図9】本発明の、各牛0区(予備期14日、本期7日)、10区(予備期14日、本期7日)、20区(予備期14日、本期7日)の乾物摂取量を示す図である。
【図10】本発明の、各牛0区、10区、20区の飲水量を示す図である。
【図11】本発明の、各牛0区、10区、20区の糞量を示す図である。
【図12】本発明の、各牛0区、10区、20区の乾物糞量を示す図である。
【図13】本発明の、各牛0区、10区、20区の尿量を示す図である。
【図14】本発明の、各牛0区、10区、20区の糞尿量を示す図である。
【図15】本発明の、各牛0区、10区、20区の乾物消化率を示す図である。
【図16】本発明の、各牛0区、10区、20区のOM消化率を示す図である。
【図17】本発明の、各牛0区、10区、20区のNDF消化率を示す図である。
【図18】本発明の、各牛0区、10区、20区のCP消化率を示す図である。
【図19】本発明の、各牛0区、10区、20区のEE消化率を示す図である。
【図20】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液pHを示す図である。
【図21】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液アンモニア態窒素濃度を示す図である。
【図22】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液酢酸濃度を示す図である。
【図23】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液プロピオン酸濃度を示す図である。
【図24】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液n−酪酸濃度を示す図である。
【図25】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液総VFA濃度を示す図である。
【図26】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液A/P比を示す図である。
【図27】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液総VFAに占めるプロピオン酸割合を示す図である。
【図28】本発明の、各牛0区、10区、20区のBUNの推移を示す図である。
【図29】本発明の、各牛0区、10区、20区の総コレステロールの推移を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛、羊等の反芻動物の消化器におけるメタン、二酸化炭素の生成抑制剤等に関し、より詳しくは、バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物、さらには、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物と培養基質とを含むメタン生成、二酸化炭素の生成抑制剤、その製造方法、及び家畜の排泄物のメタン、その他臭気の抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が問題となっている近年では、京都議定書では、温暖化につながる温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素)の排出量削減に関連し、先進国等に対し、温室効果ガスを1990年比で、2008年から5年間で一定数値(日本の場合は6%)の割合で削減することを義務付けているなど、二酸化炭素、メタン等の減少化に地球規模で努力がなされている。メタンに関しては、大気中のメタンガスの量は、毎年1%以上の割合で増え続けているといわれており、湿地の泥から自然発生するものもあるが、7割は燃料の燃焼や生ごみなどの腐敗など人為的な活動に伴って発生する。メタン1分子当たりの熱吸収率は炭酸ガスの20倍以上であり、総温暖化の約20%と、炭酸ガスに次ぐ寄与率を示す。このように、メタンが少量でも温度上昇に与える影響は大きく、地球温暖化を防ぐにはメタンの発生抑制が緊急の課題である。発生するメタンには、前述の発生源のみならず、家畜や野生動物の消化器官発酵により生成される量は、地球上で放出されている全メタン発生量の16%に相当するとされており、メタンの発生源として注目されている。
【0003】
従来、反芻動物におけるメタンの生成抑制法としては、穀類などの濃厚飼料を増大させる方法や、硝酸塩又はハロゲン化合物、脂肪酸を投与する方法がとられていた。しかし、あまり濃厚飼料の割合が高いと飼料コストが上がるだけでなく、第1胃の内壁がただれ、牛が病気になることがわかってきた。また、硝酸塩も投与を多くすると、亜硝酸塩中毒を引き起こし、問題視されており、ハロゲン、脂肪酸投与も慢性中毒や繊維消化率の低減を引き起こしている。一方、抗生物質であるサリノマイシンやモネイシン等のイオノフォア類の使用によりメタン生成量が抑制されることも報告されているが、耐性菌の出現や畜体内の残留が懸念されている。
【0004】
反芻動物のルーメン内のメタン生成抑制技術として、有効成分として、システイン及びその塩の少なくとも1種を含有するメタン生成抑制剤(例えば、特許文献1参照)や、有効成分としてフマル酸を含有するメタン生成抑制剤(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0005】
また、抗生物質などを使用することによる弊害をなくすため、安全な原料・成分を用いる技術として、アセンヤク、チャ、プルーン及びステビアの内の1種又は2種以上を含有する牛の第1胃内発酵調整用飼料添加物(例えば、特許文献3参照)や、有効成分としてユーカリ油、ペパーミント油、ワサビ油、シネオール、ヨウ素及びこれらのサイクロデキストリン包接化合物の中から選ばれた少なくとも1種の物質を含有する反芻動物用メタン生成抑制剤(例えば、特許文献4参照)やリモネン、オイゲノール、サリチレート、キノリン、バニラ、チモール、またはクレゾールからなる群から選択される1種または複数の精油化合物を使用し、これを動物に投与することによって、動物の消化活動から生じるメタンの生成を減少させる方法(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0006】
さらに、微生物を有効成分として用いる技術としては、乳酸菌 、酵母及びオリゴ糖から選ばれる1種又は2種以上を含有する反芻動物用のメタン生成抑制用組成物(例えば、特許文献6参照)が知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−322828号公報
【特許文献2】特開平11−46694号公報
【特許文献3】特開2002−209529号公報
【特許文献4】特開2002−281912号公報
【特許文献5】特表2005−525117号公報
【特許文献6】特開2003−88301号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、反芻動物などの家畜消化器官内(例えば、牛の第1胃であるルーメン)におけるメタン生成及び二酸化炭素生成抑制を家畜消化器官内の微生物群のバランスを崩すことなく、かつ家畜に残留してヒトに影響するなどの健康に被害を及ぼさない、安全な家畜消化器官内におけるメタン及び二酸化炭素生成抑制剤及びその製造方法、並びに反芻動物、豚、家禽類の排泄物中のメタン、窒素化合物、硫化物等の臭気抑制剤の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、農水産業の分野で、特に家禽、家畜、養魚或いは農作物に施用して、安全・安価で、環境に強い、そして環境に対してよい影響を与える動植物とするために、有効な微生物製剤を求めて長い間研究を続けてきた。その過程で、反芻動物がゲップにより排出するメタンが、地球の温暖化に深く関わっていることに注目した。先ず、メタンの生成菌は動物の腸内(牛、羊のルーメン)、家畜の糞及び水田、土壌に存在しており、メタン生成菌の活性化のために適合する環境があれば、その活性によりメタンが発生するのであり、菌の生育、活性のための培地であるH(水素)がなければ、菌の生育のバランスがとれず、メタンの生成もできない。メタン生成菌にとって不可欠な培地のS(硫黄)、硫化化合物及びH(水素)を消去或いは削除することができれば、メタンの発生がなくなり、又は少なくなる。このようなメタンを発生する菌に対して、従来、乳酸菌や酵母の使用が確かめられていたが、さらに多種多岐に亘る微生物について検討し、乳酸菌、酵母に限らず、他の特定の菌を選択し、組み合わせて反芻動物の飼料に添加することにより、反芻動物のルーメン内の菌に影響し、それによって生成するメタン、さらには、二酸化炭素等の量を継続的に減少すること、さらには、家畜の排出する糞の臭気抑制にもつながることを見い出し本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、(1)バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物を含有することを特徴とする家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(2)さらに、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含むことを特徴とする前記(1)記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(3)バチルス(Bacillus)属に属する微生物がバチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・ナットウ(Bacillus natto)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ステロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(4)ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する微生物が、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruckii)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(5)ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物が、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(6)キャンディダ(Candida)属に属する酵母が、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(7)ピキア属に属する酵母が、ピキア・ファリノサ(Pichia farinosa)であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤や、(8)米ぬか、パーム油残渣、乳酸カルシウムを含有することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤に関する。
【0011】
また本発明は、(9)前記(1)〜(8)記載のいずれかの微生物製剤を含むことを特徴とする飼料や、(10)前記(1)〜(8)記載のいずれかの微生物製剤を反芻動物、豚、家禽類に投与して、反芻動物、豚、家禽類の排泄物中のメタン、二酸化炭素、アンモニア、硫化水素等の臭気抑制方法に関する。
【0012】
さらに本発明は、(11)バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物を含有する微生物群と培養基質とを混合し、7〜10日間発酵させ、発酵経過中に澱粉類を添加することを特徴とする家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤の製造方法や、(12)培養基質が、米ぬか、パーム油残渣を含有することを特徴とする前記(11)記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素生成抑制用微生物製剤の製造方法や、(13)さらに、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含むことを特徴とする前記(11)又は(12)記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素生成抑制剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、家畜消化器官におけるメタン及び二酸化炭素の生成を抑制し、酢酸、プロピオン酸及びn−酪酸濃度などの有機酸の生成を高めると共に、家畜が排出する糞、尿の臭気を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤としては、バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物を含有するものであれば特に制限されないが、さらに硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含むことが好ましく、これら微生物は、反芻動物等の消化器官内微生物群に影響を及ぼさず、病原性を有さない菌が好ましい。また、死菌や菌体処理物等を使用することもできるが、生菌の状態で含有する製剤が好ましい。なかでも、米ぬか、パーム油残渣、乳酸カルシウムを含有する製剤が特に好ましい。
【0015】
バチルス(Bacillus)属に属する微生物としては、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・ナットウ(Bacillus natto)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ステロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0016】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する微生物としては、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruckii)等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物としては、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophillus)を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
キャンディダ(Candida)属に属する酵母としては、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)等を挙げることができ、ピキア属に属する酵母としては、ピキア・ファリノサ(Pichia farinosa)等を挙げることができる。
【0019】
本発明では、さらに、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1または2種以上の微生物を含むものであるが、硝化細菌として、ニトロバクタ−属、ニトロソモナス属に属する菌を挙げることができ、たとえば、Nitrobacter winogradskyi、Nitrobacter agile、Nitrosomonas europaea、Nitrosomonas monocellaを例示することができ、メタン酸化細菌として、Methylococcus、Methylomonas 属に属する菌を挙げることができ、Methylcoccus capsulatusを例示することができる。また、硫黄還元細菌として、Desulfovibrio属に属する菌を挙げることができ、光合成細菌として、いわゆるphotosynthetic bacteriaに属する菌を挙げることができる。
【0020】
本発明に係る微生物製剤の製造方法としては、各微生物を純粋培養して、病原菌の混入していないことを確認し、微生物製剤とすることができ、そのまま、或いは固体状の担体と配合し、必要に応じて、分散剤、安定剤、賦形剤、結合剤等を配合して製造することができる。その剤形は、例えば、顆粒剤、散剤、粉末剤等の所望のものにすることができる。本発明では、さらに微生物群と培養基質原料と混合して、発酵して製造する方法が好ましい。
【0021】
前記培養基質原料として、米ぬか、小麦フスマ、大豆粕、大豆胚芽、醤油粕、ポテトパルプ、こんにゃくトビ粉、パーム油残渣、カルシウム含有物、澱粉類を用いることができる。前記カルシウム含有物としては、卵殻、牡蠣貝殻、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等を1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。また、澱粉類としては、トウモロコシ、ソルガム、その他飼料用穀物、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、タピオカやサゴ澱粉、各種化工澱粉、ブドウ糖、異性化糖、水飴等を挙げることができる。
【0022】
具体的には、米ぬか50〜80重量%、パーム油残渣10〜25重量%、カルシウム含有物5〜15重量%、澱粉類2〜5重量%用いる。前記培養基質原料も、原料検査をして、重金属、残留農薬等が国で定められている基準以下であることを確認し、黴毒などで汚染されていないかをチェックし、さらに、殺菌して用いることが雑菌等の混入を防ぐことができ、該殺菌手段は通常の殺菌方法、すなわち加圧水蒸気殺菌等の加熱殺菌を採用することができる。
【0023】
微生物製剤の家禽・家畜への投与量は、菌の種類の組み合わせ、家禽・家畜の種類、生育段階、季節・場所等の飼育環境等により異なり、適宜変更できる。
【0024】
本発明の微生物製剤の飼料への添加量は、菌類合計で1g当たり106〜109個含む剤を飼料に0.05〜2重量%添加することが好ましい。
【0025】
本発明の微生物入り飼料が適用される家禽・家畜類としては、ゲップによりメタン等を生成する反芻動物の牛、めん羊の他、豚、馬、ヤギ等の家畜、鶏、鴨、ダチョウ等の家禽が挙げられ、また、飼料を摂取することにより、排出される糞、尿の汚臭発生を防止し得る、本発明の微生物製剤を適用できる家禽・家畜類として牛、めん羊の他、豚、馬、ヤギ等の家畜、鶏、鴨、ダチョウ等の家禽が挙げられる。
【0026】
本発明の微生物製剤は、単独又は、飼料と混合して用いるが、飼料に混合して家禽・家畜に与えることが好ましく、また、別途投与する場合は、その時期としては、特に限定されないが、飼料がルーメン内に滞留している間であればいずれの時期でもよい。メタンが生成される前にルーメン内に本発明の微生物製剤が存在することが好ましく、飼料投与直前、或いは同時に微生物製剤を投与することが好ましい。
【0027】
なお、呼気中やルーメン中のメタン(CH4)は、例えば三ツワ理化学工業株式会社製の揮発性炭化水素濃度計「Model TVA-1000B」により、また二酸化炭素(CO2)は、例えばリオンテック株式会社製のCO2モニター「FCDR-02」により測定することができる。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
(各菌の調整)
保存されているバチルス・ナットウ、ラクトバチルス・アシドフィラス、ストレプトコッカス・フェカリス、キャンディダ・ユーティリス、ピキア・ファリノサの各菌体を、30℃〜37℃で12時間〜24時間培養し、それぞれ各種培養物を得た。各種培養物をさらに適合する培地で30℃〜37℃で24時間〜48時間培養後遠心分離機にかけ、上清液を取り除き、供試菌体を得た。各供試菌の菌数を調整し、同数ずつとなるように混合し、微生物混合物を得た。
【実施例2】
【0030】
実施例1の微生物に、さらに、硝化細菌(ニトロバクタ・アギル)、メタン酸化細菌(メチロコッカス・カプサルタス)、硫黄還元細菌(Desulfovibrio属)及び光合成細菌(photosynthetic bacteriaに属する菌)を実施例1と同様の方法により処理して各菌を同数ずつ混合し、微生物混合物を得た。
【実施例3】
【0031】
(微生物製剤)
米ぬかを予め残留農薬、重金属、カビ毒の有無について原料検査し、基準を超えないことを確認した後、120℃で蒸気滅菌し、80〜100℃で乾燥し、粉砕した。米ぬか70重量部、パーム油残渣17重量部、水500重量部とを混合し、実施例1で得られた微生物混合物30重量部を添加・混合した。この混合物を40℃、7日間発酵を行った。発酵3日目で乳酸カルシウム10重量部、コーンスターチ3重量部を添加した。発酵終了後60℃以下で水分値が10重量%以下となるまで乾燥して、微生物製剤(以下、「製剤A」という)を得た。該微生物製剤は、pH4.8〜5.1であり、雑菌や病原菌は検出されず、水分含量1.0%以下を示すものである。
【実施例4】
【0032】
微生物として実施例2により得られた微生物混合物を用いて、発酵を10日間行った以外は、実施例3と同様の方法により、微生物製剤(以下、「製剤B」という)を得た。
【実施例5】
【0033】
(1)供試動物として表1に示す4頭のめん羊を用い、インビボ培養試験における呼気中のCH4及びCO2の動態に及ぼす製剤Aの影響、並びに飼料消化率について測定した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1に示すめん羊4頭を馴致期間1週間の後、無投与のめん羊と、製剤A投与開始前日を0日目として、以後投与開始7日目及び14日目にめん羊からルーメン液を採取し培養試験を行った。培養試験には、図1に示すメタン連続発酵解析装置を用いて、上記表2に示す反応液組成を調製し、メタン生成量を測定した。0日目の累積メタン生成量を図2(0日メタン)に、7日目の累積メタン生成量を図3(7日メタン)に、14日目の累積メタン生成量を図4(14日メタン)、さらに14日目の累積二酸化炭素生成量を図5(14日二酸化炭素)に示す。
【0037】
以上図2〜図4に示すように、製剤A投与前(0日目)で約3.5%、投与後7日目で約9%、投与後14日目で約8%のメタン抑制効果が示された。
また、図5に示すように、投与後14日目で約26%の二酸化炭素抑制効果が示された。
【0038】
(2)めん羊における消化率の効果について
供試飼料としてチモシー乾草を用い、1日あたり55gDM(乾物)/MBSを給与した。該飼料の化学成分を表3に示す。そして各化学成分の消化率は、第1期(7日目)、第2期(14日目)に測定し、表4に示すとおりである。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
DM(乾物)、OM(有機物)、CP(粗タンパク質)、NDF(中性デタージェント繊維)、CL(セルロース)の各消化率とも製剤A4g添加により第1期よりも第2期の方が向上する結果となった。
【0042】
以上、めん羊のルーメン培養試験の結果から製剤A投与後7日目及び14日目でメタン生成量が約8%抑制されることがわかり、また、消化試験の結果からNDF消化率が向上することがわかった。さらに、セルロースやヘミセルロースなどの繊維類が、次の下記(2)の経路によると推測される。
【0043】
【表5】
【0044】
(3)乾乳牛の呼気CH4抑制、飼料消化率、糞尿排泄量及び血液成分に及ぼす影響について
供試動物は、表6に示す、3頭の乾乳牛を用いた。
【0045】
【表6】
【0046】
試験は、2005年7月16日より開始し、1期〜3期とし、各期を21日間とする試験区とした。この試験設計の概要を表7に示す。
【0047】
【表7】
【0048】
0区では対照区として牧草サイレージのみ給与し、10区では製剤Aを1日10g、20区では製剤Aを1日20g、牧草サイレージ給与の際にトップドレスで給与した。また、製剤Aの菌の定着を促進するため、10区及び20区の試験開始日に製剤A150gをおがくずと混合し、ストール牛床に敷いた。
【0049】
各区において、最初の14日間は予備期としてタイストールで繋留し、各試験期の最終7日間を本期として、図6、図7に示す代謝試験ストールに各牛を繋留した。代謝試験ストールでは、呼気メタン、乾物摂取量、飲水量、糞尿排泄量、ルーメン内容液性状、血液成分を測定した。ルーメン液を使用して、メタン抑制率を測定する方法は、めん羊における累積メタン生成測定と同様に、メタン連続発酵解析装置を用いてメタンの動態を測定した。製剤A投与14日目の累積メタン生成量について、図8に示す。図8から、製剤A添加区平均のメタン抑制率は、製剤A無添加区に対し、27.1%であることがわかった。
【0050】
ア)乾物摂取量、飲水量及び糞尿量に及ぼす影響について
乾乳牛3頭0区、10区、20区の乾物摂取量、飲水量、糞量、乾物糞量、尿量及び糞尿量の平均値を表8に示す。
【0051】
【表8】
【0052】
具体的に各乾乳牛の乾物摂取量を図9に、飲水量を図10に、糞量を図11に、乾物糞量を図12に、尿量を図13に、糞尿量を図14に示す。表7及び図9〜14から、糞量、乾物糞量は、0区での乾物摂取量が低かった665番の乾乳牛を除く他の2頭は、0区に対して、10区及び20区で低くなる傾向があり尿量及び糞尿量も同様の傾向であった。
【0053】
イ)乾物及び飼料成分消化率に及ぼす影響について
乾乳牛3頭0区、10区、20区の乾物消化率(%)、OM(有機物)消化率(%)、NDF(デタージェント繊維)消化率(%)、CP(粗繊維)消化率(%)、EE消化率(%)の平均値を表9に示す。
【0054】
【表9】
【0055】
具体的に各乾乳牛の乾物消化率を図15に、OM消化率を図16に、NDF消化率を図17に、CP消化率を図18にEE消化率を図19に示す。図15の乾物消化率の変化から、0区に比べ、10区及び20区で有意に高く、製剤Aの添加効果が示された。飼料成分の消化率では、OM及びNDF消化率に0区と10区及び20区で有意差が認められ、製剤Aの添加による繊維成分の消化率向上効果が示された。
【0056】
ウ)ルーメン内容液性状に及ぼす影響について
表10にルーメン内容液性状のpH、アンモニア態窒素濃度及び各VFA濃度の平均値を示す。
【0057】
【表10】
【0058】
具体的に各乾乳牛のルーメン内溶液の変化について、pHを図20に、ルーメン内溶液アンモニア態窒素濃度を図21に、ルーメン内溶液酢酸濃度を図22に、ルーメン内溶液ピロピオン酸濃度を図23に、ルーメン内溶液n−酪酸濃度を図24に、ルーメン内溶液総VFA濃度を図25に、ルーメンルーメン内溶液A/P比を図26に、ルーメン内溶液総VFAに占めるプロピオン酸割合を図27に示す。これらの図から、ルーメン内溶液のVFA濃度のうち、酢酸、プロピオン酸及びn−酪酸濃度は、0区に対して10区及び20区でそれぞれ有意に高い傾向を示し、総VFA濃度においても同様の結果となった。また、総VFA濃度に占めるプロピオン酸の割合は、0区に対して10区及び20区でそれぞれ有意に高くなる傾向を示し、製剤Aの添加効果が示唆された。
【0059】
エ)血液性状に及ぼす影響について
乾乳牛の血液性状の変化について、エネルギー代謝、蛋白質代謝、ミネラル代謝、肝機能、脂質代謝について、各値の平均値を表11に示す。
【0060】
【表11】
【0061】
具体的に、各乾乳牛のBUN(尿素窒素)の推移を図28に、総コレステロールの推移を図29に示す。表11、図28、図29に示すように、いずれの血液成分も異常値は見られず、むしろ血糖、総コレステロールは、有意に低くなる傾向があった。
【0062】
オ)製剤Aの環境に及ぼす影響について
a)製剤Aを添加する豚糞及び豚尿の水への影響等について
豚舎から排出される、豚糞及び豚尿を含む汚水について、14日間のバッ気処理、30日間のバッ気処理におけるBOD等の測定値を表12に、製剤A添加(4〜5ヶ月)した豚糞の臭味及びその中の物質変化について表13に、製剤Aが養豚の汚水処理における除臭効果及び水質改善効果について表14に製剤Aの豚養殖期間中の臭気分析について表15に、製剤Aの台湾国営及び民営養豚場の排水処理野沈殿池の水質分析(PPM)について表16に示す。
【0063】
【表12】
【0064】
【表13】
【0065】
【表14】
【0066】
【表15】
【0067】
【表16】
【0068】
b)製剤Aを給与した鶏糞の発酵試験について
栃木県の養鶏場において、製剤A区:ジュリア種、78齢、40330羽、対照区:ハイラインN36種、130日齢、41220羽を用いた。鶏舎構造は、ウインドレス高床式であり、給与方法としては、製剤Aを飼料に0.1%添加して給与し、試験期間6ヶ月とした。
【0069】
臭気測定は、表面より20〜30cm深部の鶏糞を密閉容器に採取して北川式検知管を用いて測定した。アンモニア濃度を製剤A給与開始日55日目から製剤A給与区、無添加の対照区の測定値、及び対照区が製剤A給与区の何倍に相当するかの値を表17に示した。また、硫化水素を鶏舎内でその臭気が認知されたので、途中から測定を開始し、製剤A給与区、無添加の対照区の測定値を表18に示した。表17及び表18から、製剤A添加区での養鶏場から発生する臭気は、アンモニアでは無添加の最低でも約1/2以下であり、硫化水素では、1/2以下であることがわかった。
【0070】
【表17】
【0071】
【表18】
【0072】
また、製剤Aに代えて製剤Bを用いた場合、製剤Aを用いた場合とほぼ同様な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の、メタン生成量を測定するために用いるメタン連続発酵装置を示す図である。
【図2】本発明の、めん羊0日目の累積メタン生成量を示す図である。
【図3】本発明の、めん羊7日目の累積メタン生成量を示す図である。
【図4】本発明の、めん羊14日目の累積メタン生成量を示す図である。
【図5】本発明の、めん羊14日目の累積二酸化炭素生成量を示す図である。
【図6】本発明の、牛1頭分が測定される代謝試験ストールを撮影した写真である。
【図7】本発明の、複数の牛が測定される代謝試験ストールを撮影した写真である。
【図8】本発明の、牛14日目の累積メタン生成量を示す図である。
【図9】本発明の、各牛0区(予備期14日、本期7日)、10区(予備期14日、本期7日)、20区(予備期14日、本期7日)の乾物摂取量を示す図である。
【図10】本発明の、各牛0区、10区、20区の飲水量を示す図である。
【図11】本発明の、各牛0区、10区、20区の糞量を示す図である。
【図12】本発明の、各牛0区、10区、20区の乾物糞量を示す図である。
【図13】本発明の、各牛0区、10区、20区の尿量を示す図である。
【図14】本発明の、各牛0区、10区、20区の糞尿量を示す図である。
【図15】本発明の、各牛0区、10区、20区の乾物消化率を示す図である。
【図16】本発明の、各牛0区、10区、20区のOM消化率を示す図である。
【図17】本発明の、各牛0区、10区、20区のNDF消化率を示す図である。
【図18】本発明の、各牛0区、10区、20区のCP消化率を示す図である。
【図19】本発明の、各牛0区、10区、20区のEE消化率を示す図である。
【図20】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液pHを示す図である。
【図21】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液アンモニア態窒素濃度を示す図である。
【図22】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液酢酸濃度を示す図である。
【図23】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液プロピオン酸濃度を示す図である。
【図24】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液n−酪酸濃度を示す図である。
【図25】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液総VFA濃度を示す図である。
【図26】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液A/P比を示す図である。
【図27】本発明の、各牛0区、10区、20区のルーメン内溶液総VFAに占めるプロピオン酸割合を示す図である。
【図28】本発明の、各牛0区、10区、20区のBUNの推移を示す図である。
【図29】本発明の、各牛0区、10区、20区の総コレステロールの推移を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物を含有することを特徴とする家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項2】
さらに、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含むことを特徴とする請求項1記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項3】
バチルス(Bacillus)属に属する微生物がバチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・ナットウ(Bacillus natto)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ステロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項4】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する微生物が、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruckii)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項5】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物が、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項6】
キャンディダ(Candida)属に属する酵母が、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項7】
ピキア属に属する酵母が、ピキア・ファリノサ(Pichia farinosa)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項8】
米ぬか、パーム油残渣、乳酸カルシウムを含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項9】
請求項1〜8記載のいずれかの微生物製剤を含むことを特徴とする飼料。
【請求項10】
請求項1〜8記載のいずれかの微生物製剤を反芻動物、豚、家禽類に投与して、反芻動物、豚、家禽類の排泄物中のメタン、二酸化炭素、アンモニア、硫化水素等の臭気抑制方法。
【請求項11】
バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物を含有する微生物群と培養基質とを混合し、7〜10日間発酵させ、発酵経過中に澱粉類を添加することを特徴とする家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤の製造方法。
【請求項12】
培養基質が、米ぬか、パーム油残渣を含有することを特徴とする請求項11記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素生成抑制用微生物製剤の製造方法。
【請求項13】
さらに、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含むことを特徴とする請求項11又は12記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素生成抑制剤の製造方法。
【請求項1】
バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物を含有することを特徴とする家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項2】
さらに、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含むことを特徴とする請求項1記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項3】
バチルス(Bacillus)属に属する微生物がバチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・ナットウ(Bacillus natto)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ステロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項4】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する微生物が、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruckii)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項5】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する微生物が、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項6】
キャンディダ(Candida)属に属する酵母が、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項7】
ピキア属に属する酵母が、ピキア・ファリノサ(Pichia farinosa)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項8】
米ぬか、パーム油残渣、乳酸カルシウムを含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤。
【請求項9】
請求項1〜8記載のいずれかの微生物製剤を含むことを特徴とする飼料。
【請求項10】
請求項1〜8記載のいずれかの微生物製剤を反芻動物、豚、家禽類に投与して、反芻動物、豚、家禽類の排泄物中のメタン、二酸化炭素、アンモニア、硫化水素等の臭気抑制方法。
【請求項11】
バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Strptococcus)属、キャンディダ(Candida)属及びピキア(Pichia)属に属する微生物を含有する微生物群と培養基質とを混合し、7〜10日間発酵させ、発酵経過中に澱粉類を添加することを特徴とする家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素の生成抑制用微生物製剤の製造方法。
【請求項12】
培養基質が、米ぬか、パーム油残渣を含有することを特徴とする請求項11記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素生成抑制用微生物製剤の製造方法。
【請求項13】
さらに、硝化細菌、メタン酸化細菌、硫黄還元細菌及び光合成細菌の群から選ばれる1又は2種以上の微生物を含むことを特徴とする請求項11又は12記載の家畜消化器官におけるメタン及び/又は二酸化炭素生成抑制剤の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2009−57284(P2009−57284A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368878(P2005−368878)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(505287335)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(505287335)
【Fターム(参考)】
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