説明

容量性負荷駆動回路及び液体噴射装置

【課題】電源電圧を超えた電圧の駆動信号を発生させることが可能で、しかも環境温度や部品の製造ばらつきの影響を受けることなく安定した駆動信号を発生させることが可能な容量性負荷駆動回路及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】容量性負荷駆動回路は、駆動信号(COM)の基準となる駆動波形信号(WCOM)を出力する駆動波形信号出力回路210と、WCOMと、帰還信号(dCOM)との差分を取ることによって誤差信号(dWCOM)を生成する演算回路220と、電力増幅信号(Vs)を生成する電力増幅回路280と、電圧バイアス信号(Vb)を生成するブートストラップ回路290と、ブートストラップ回路290からのVbをCOMとして容量性負荷に供給する誘導性素子250と、誘導性素子250からのCOMに対して、位相を進ませたdCOMとして演算回路220に負帰還させる位相進み補償回路270と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量成分が変動する容量性負荷を駆動する技術や、あるいは容量成分が異なる複数の容量性負荷を切り換えて駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターに搭載されている噴射ヘッドなどのように、所定の駆動信号を印加することによって液体を噴射するなどの動作を行うアクチュエーターは数多く存在する。アクチュエーターの動作は印加される電圧に依存するため、アクチュエーターの性能を十分に引き出すためには、高い電圧まで印加可能であることが望ましい。そこで、アクチュエーターへ印加する駆動波形信号を電力増幅してアクチュエーターに印加することが行われる。
【0003】
駆動波形信号を電力増幅する方法としては、例えばD級増幅器を用いる方法が知られている(例えば、特許文献1参考)。この方法では、駆動波形信号をパルス変調してパルス波状の変調信号に変換した後に電力増幅を行う。パルス変調の方式としては、パルス幅変調(PWM)方式又はパルス密度変調(PDM)方式のいずれも適用可能であるが、パルス幅変調されることが通常である。そして、得られたパルス波状の変調信号を電力増幅することによって、電源電圧とグランドとの間で変化するパルス波状の変調信号(電力増幅変調信号)に変換した後、平滑フィルターを用いて変調成分を取り除くことによって、電力増幅された駆動波形信号(駆動信号)を生成する。
【0004】
また、無線周波数帯域(RF)での電力増幅に用いられるE級増幅器も知られている。E級増幅器では、誘導性素子のインダクタンスと容量性負荷が有するキャパシタンスとの間で生じる共振現象を利用して電力増幅を行うため、電源電圧を超えた電圧を発生させることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−329710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来の技術では、駆動波形信号を電源電圧以上の電圧に増幅して駆動信号を生成し、しかも環境温度や素子温度、製造ばらつきの影響を受けることなく安定して駆動信号を生成することができないという問題がある。例えばD級増幅器では、パルス波状の変調信号のデューティー比を変化させることによって電圧を変化させているので、グランドに相当するデューティー比0%から、電源電圧に相当するデューティー比100%までの間でしか電圧を変化させることができない。しかも、パルス幅変調でデューティー比100%を実現しようとすると、無限に狭い幅のパルスが必要となるが、出力可能なパルス幅には限界があるので、実際には電源電圧まで増幅することも不可能である。また、パルス密度変調した場合は、電源電圧まで増幅することが可能となるが、パルスの発生周波数が低い部分が発生して、この部分では平滑フィルターでパルス成分を十分に除去することができないため、得られる駆動信号が歪んでしまう。
【0007】
更に、E級増幅器では、誘導性素子のインダクタンスLと容量性負荷が有するキャパシタンスCとの間で生じる共振現象(LC共振)を利用して電力増幅を行うが、共振が発生する周波数(共振周波数)は、環境温度や、素子の温度変化、あるいは素子の製造ばらつきの影響で変化する。そして、LC共振はQ値が高いため、共振周波数が変化すると増幅率が大きく変化してしまう。このため、駆動波形信号を安定して電力増幅して駆動信号を生成することができない。
【0008】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、電源電圧を超えた電圧の駆動信号を発生させることが可能で、しかも環境温度や部品の製造ばらつきなどの影響を受けることなく安定した駆動信号を発生させることが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]容量成分を有する容量性負荷に対して所定の駆動信号を印加することによって、該容量性負荷を駆動する容量性負荷駆動回路であって、前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を出力する駆動波形信号出力回路と、前記駆動波形信号と前記容量性負荷に印加された駆動信号を用いて生成された帰還信号との差分を取ることによって誤差信号を生成する演算回路と、前記誤差信号を電力増幅することにより、電力増幅信号を生成する電力増幅回路と、前記電力増幅信号の電圧をバイアスすることによって、電圧バイアス信号を生成するブートストラップ回路と、前記ブートストラップ回路と前記容量性負荷とを接続して、該ブートストラップ回路からの前記電圧バイアス信号を前記駆動信号として該容量性負荷に供給する誘導性素子と、前記誘導性素子からの前記駆動信号に対して、位相を進ませた前記帰還信号として前記演算回路に負帰還させる位相進み補償回路とを備えることを要旨とする。
【0011】
これによれば、本発明の容量性負荷駆動回路においては、次のようにして容量性負荷に駆動信号を印加する。まず、駆動信号の基準となる駆動波形信号と実際に容量性負荷に印加された駆動信号から生成された帰還信号との差分を取ることによって誤差信号を生成する。次に、この誤差信号を電力増幅して、電力増幅信号を生成する。そして、この電力増幅信号の電圧をバイアスした電圧バイアス信号を生成し、誘導性素子を介して容量性負荷に供給することによって、容量性負荷に駆動信号を印加する。誘導性素子と容量性負荷とが組み合わされると共振回路が形成されるので、誘導性素子のインダクタンスと、容量性負荷のキャパシタンスとによって決定される共振周波数では、容量性負荷に印加される駆動信号の電圧振幅が、電力増幅回路から生成された電力増幅信号若しくは誘導性素子に供給した電圧バイアス信号の電圧振幅よりも大きくなる。そこで、容量性負荷に印加される駆動信号に対して位相を進ませる補償(位相進み補償)を行った後、得られた信号を帰還信号として演算回路に負帰還させることによって、誘導性素子と容量性負荷との間の共振特性を電力増幅回路のゲイン以上の所望のゲインとなるように抑制する。
【0012】
誘導性素子と容量性負荷とによって形成される共振回路は、誘導性素子のインダクタンスと容量性負荷のキャパシタンスとによって決まる共振周波数の近傍で、鋭い共振ピークを発生させる。そして、誘導性素子のインダクタンスや容量性負荷のキャパシタンスは、環境温度の変化や素子の製造ばらつきによって変動する。したがって、これらの影響によって共振周波数が変動するので、電力増幅信号若しくは電圧バイアス信号に対する駆動信号のゲインは大きく変動する。また、誘導性素子や容量性負荷は、使用中の電力損失によって温度が上昇するから、容量性負荷の駆動中にゲインが大きく変動することも起こり得る。これに対して本発明の容量性負荷駆動回路では、容量性負荷に印加された駆動信号に対して位相進み補償を行った後に負帰還させることで、共振特性を抑制しているので、共振周波数の周辺でゲインが大きく変動することがない。このため、環境温度の変化や素子の製造ばらつきによって共振周波数が変動しても、電力増幅信号若しくは電圧バイアス信号に対する駆動信号のゲインは大きく変動することがない。
【0013】
位相進み補償によるゲインの調整によっては、容量性負荷に印加される駆動信号の電圧が負電圧となる場合が生じる。しかし、ピエゾアクチュエーターのような圧電素子を用いた場合、圧電素子に所定値以上の負電圧が印加されると、圧電素子を破壊する虞がある。そこで、ブートストラップ回路により電力増幅信号の電圧をバイアスすることで、容量性負荷に印加された駆動信号の電圧が所定値以上の負電圧になることを防ぐことが可能となる。その結果、電力増幅信号若しくは電圧バイアス信号を超えた電圧振幅を有する駆動信号を発生させることが可能で、しかも環境温度や部品の製造ばらつきなどの影響を受けることなく安定した駆動信号を発生させることが可能となる。
【0014】
[適用例2]上記容量性負荷駆動回路であって、前記容量性負荷に対して並列に接続された容量性素子を備えることとしてもよい。
【0015】
これによれば、上述したように、本発明の容量性負荷駆動回路は、誘導性素子と容量性負荷との間に発生する共振現象を利用することによって、電圧バイアス信号を増幅して駆動信号を生成している。したがって、こうした効果が得られるのは、共振回路の共振周波数の周辺の周波数範囲となる。ここで、共振周波数は誘導性素子のインダクタンスと容量性負荷のキャパシタンスとによって決定されるが、容量性負荷のキャパシタンスは、容量性負荷の大きさや特性などによってある程度まで決まってしまう。したがって、望ましい共振周波数を得るためには誘導性素子のインダクタンスを大きくしなければならず、大きな誘導性素子が必要になってしまう場合も起こり得る。このような場合には、容量性負荷に対して容量性素子(コンデンサーなど)を並列に接続することで、容量性負荷のキャパシタンスはそのままでも、誘導性素子からは、容量性負荷と容量性素子との合成キャパシタンスを有する容量性負荷が接続されているように見える。このため、大きな誘導性素子を搭載する必要がなくなるので、容量性負荷駆動回路が大きくなってしまうことを回避することが可能となる。
【0016】
[適用例3]上記容量性負荷駆動回路であって、前記ブートストラップ回路は、前記電力増幅回路に供給される電源に接続され、前記電力増幅信号を前記電源の電圧だけバイアスすることによって、電圧バイアス信号を生成する回路であってもよい。
【0017】
言い換えれば、ブートストラップ回路は、電力増幅回路に供給される電源と共通に接続され、電力増幅信号の電圧をその電源の電圧でバイアスすることによって、電圧バイアス信号を生成することとしてもよい。
【0018】
これによれば、電力増幅回路とブートストラップ回路との供給電源を共通化することによって、新たに電源を設けることがないため、電源に係る基板の面積の縮小やコストの削減が可能となる。
【0019】
[適用例4]上記容量性負荷駆動回路であって、前記電力増幅回路は、前記誤差信号をパルス変調することによって変調信号を生成する変調回路と、前記変調信号を電力増幅することにより、パルス波状の電力増幅信号を生成するデジタル電力増幅回路と、を備えることとしてもよい。
【0020】
これによれば、誘導性素子は、容量性負荷と組み合わされることによって共振周波数よりも高い周波数領域では平滑フィルターを構成するため、変調回路における変調周波数をこの共振周波数よりも十分に大きく設定することで、デジタル電力増幅回路から生成されるパルス波状の電力増幅信号の変調周波数成分が取り除かれて、電力増幅された信号成分(駆動波形信号)が駆動信号として容量性負荷に印加される。ここで、デジタル電力増幅回路では、入力された変調信号をデジタル増幅するので、アナログ波形をアナログ増幅する場合に比べて電力損失を大幅に抑制することが可能となる。
【0021】
[適用例5]上記容量性負荷駆動回路であって、前記変調回路は、前記誤差信号をパルス幅変調することによって前記変調信号を生成する回路であってもよい。
【0022】
言い換えれば、変調回路は、誤差信号をパルス変調して変調信号を生成するに際して、誤差信号に応じてパルス幅を異ならせるいわゆるパルス幅変調することとしてもよい。
【0023】
これによれば、パルス幅変調は、極めて簡単な回路で実現することができるので、コンパクトな容量性負荷駆動回路を容易に実現することが可能となる。
【0024】
[適用例6]上記容量性負荷駆動回路であって、前記変調回路は、前記誤差信号をパルス密度変調することによって前記変調信号を生成する回路であってもよい。
【0025】
言い換えれば、変調回路は、誤差信号をパルス変調して変調信号を生成するに際して、誤差信号に応じてパルスの密度(発生頻度)を異ならせるいわゆるパルス密度変調することとしてもよい。
【0026】
これによれば、詳細なメカニズムについては後述するが、パルス密度変調を用いれば、電源電圧の変動などによる影響が抑制されるようにパルス変調することができる。このため、たとえ何らかの理由で電源電圧の変動などが生じても、こうしたことによる影響を受けることなく、安定した駆動信号を生成することが可能となる。
【0027】
[適用例7]上記のいずれか一項に記載の容量性負荷駆動回路を有することを特徴とする液体噴射装置。
【0028】
これによれば、かかる本発明の液体噴射装置では、上述した容量性負荷駆動回路によって、安定した駆動信号が生成されるので、アクチュエーターの動作を精度良く制御することができ、その結果、噴射する液体の量や液滴のサイズ、液体の噴射速度などを精度良く制御して液体を適切に噴射することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施例の容量性負荷駆動回路を搭載した液体噴射装置の構成を示した説明図。
【図2】本実施例の容量性負荷駆動回路の回路構成を示した説明図。
【図3】本実施例の容量性負荷駆動回路の周波数応答特性を解析するためのブロック線図。
【図4】本実施例のフィードバック回路の伝達関数の周波数応答特性を表すボード線図。
【図5】本実施例の容量性負荷駆動回路が、駆動波形信号から駆動信号を生成する動作を例示した説明図。
【図6】第1変形例の容量性負荷駆動回路で用いられる電力増幅回路及びブートストラップ回路の回路構成を示した説明図。
【図7】第1変形例の容量性負荷駆動回路が駆動波形信号から駆動信号を生成する動作を例示した説明図。
【図8】第2変形例の容量性負荷駆動回路の一部を例示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
B.容量性負荷駆動回路の回路構成:
C.容量性負荷駆動回路の動作:
D.変形例:
D−1.第1変形例:
D−2.第2変形例:
【0031】
A.装置構成:
図1は、本実施例の容量性負荷駆動回路を搭載した液体噴射装置の構成を示した説明図である。図示されているように液体噴射装置100は、大きく分けると、液体を噴射する噴射ユニット110と、噴射ユニット110から噴射される液体を噴射ユニット110に向けて供給する供給ポンプ120と、噴射ユニット110及び供給ポンプ120の動作を制御する制御ユニット130などから構成されている。
【0032】
噴射ユニット110は、金属製のフロントブロック113に、同じく金属製のリアブロック114を重ねてネジ止めしたような構造となっており、フロントブロック113の前面には円管形状の液体通路管112が立設され、液体通路管112の先端には噴射ノズル111が挿着されている。フロントブロック113とリアブロック114との合わせ面には、薄い円板形状の液体室115が形成されており、液体室115は、液体通路管112を介して噴射ノズル111に接続されている。また、リアブロック114の内部には、積層型圧電素子によって構成されたアクチュエーター116が設けられている。供給ポンプ120は、噴射しようとする液体(水、生理食塩水、薬液など)が貯められた液体タンク123から、チューブ121を介して液体を吸い上げた後、チューブ122を介して噴射ユニット110の液体室115内に供給する。このため、液体室115は液体で満たされた状態となっている。
【0033】
そして、制御ユニット130から駆動信号をアクチュエーター116に印加すると、アクチュエーター116が伸張して液体室115が押し縮められ、その結果、液体室115内に充満していた液体が、噴射ノズル111からパルス状に噴射されるようになっている。アクチュエーター116の伸張量は、駆動信号として印加される電圧に依存する。したがって、アクチュエーター116の能力を十分に引き出すためには、大きな電圧振幅を出力可能でしかも精度の良い駆動信号を生成して、アクチュエーター116に印加する必要がある。そこで、このような駆動信号を生成するために、制御ユニット130内には、以下に説明するような本実施例の容量性負荷駆動回路200が搭載されている。
【0034】
B.容量性負荷駆動回路の回路構成:
図2は、本実施例の容量性負荷駆動回路200の回路構成を示した説明図である。図示されているように、容量性負荷駆動回路200は大きく分けると、駆動信号の基準となる駆動波形信号(以下、WCOM)を出力する駆動波形信号発生回路(駆動波形信号出力回路)210と、駆動波形信号発生回路210から受け取ったWCOMと後述する帰還信号(以下、dCOM)とに基づいて誤差信号(以下、dWCOM)を出力する演算回路220と、演算回路220からのdWCOMを電力増幅して電力増幅信号(以下、Vs)を生成する電力増幅回路280と、電力増幅回路280からVsの電圧をバイアス電圧(以下、Vcc)でバイアスすることによって、電圧バイアス信号(以下、Vb)を生成するブートストラップ回路290と、ブートストラップ回路290からVbを受け取って、駆動信号(以下、COM)として噴射ユニット110のアクチュエーター116に供給するコイル(誘導性素子)250と、コイル250からアクチュエーター116に供給されたCOMに対して位相を進ませる補償を加えて、dCOM(帰還信号)を生成する位相進み補償回路270とを備えている。
【0035】
このうち、駆動波形信号発生回路210は、WCOMのデータを記憶した波形メモリーや、D/A変換器を備えており、波形メモリーから読み出したデータをD/A変換器でアナログ信号に変換することによって、WCOM(駆動波形信号)を生成する。こうして出力されたWCOMは、演算回路220の非反転入力端子に入力される。また、位相進み補償回路270からのdCOM(帰還信号)は演算回路220の反転入力端子に入力される。その結果、WCOMとdCOMとの差分に相当する信号が、dWCOM(誤差信号)として演算回路220から出力される。
【0036】
続いて、dWCOMは電力増幅回路280に入力される。ここで、電力増幅回路280は、変調回路230と、デジタル電力増幅回路240とを備えている。dWCOMが入力された変調回路230は、dWCOMを一定周期の三角波(以下、Tri)と比較して、dWCOMの方が大きければHigh状態(変調回路230の動作電圧)、Triの方が大きければLow状態(グランド電圧)となるようなパルス波状の変調信号(以下、MCOM)を生成する。そして、得られたMCOMは、デジタル電力増幅回路240に入力される。デジタル電力増幅回路240は、プッシュ・プル接続された2つのスイッチ素子(MOSFETなど)と、電源と、これらスイッチ素子を駆動するゲートドライバーとを備えている。MCOMがHigh状態の場合は、ハイサイド側のスイッチ素子がON状態になり、ローサイド側のスイッチ素子がOFF状態になって、電源の電圧VddがVsとして出力される。また、MCOMがLow状態の場合は、ハイサイド側のスイッチ素子がOFF状態になり、ローサイド側のスイッチ素子がON状態になってグランドの電圧がVsとして出力される。したがって、変調回路230の動作電圧とグランドとの間でパルス波状に変化するMCOMを、電源の電圧Vddとグランドとの間でパルス波状に変化するVsに電力増幅することができる。
【0037】
また、この増幅では、プッシュ・プル接続された2つのスイッチ素子のON/OFFを切り換えているだけなので、dWCOMをアナログ増幅する場合に比べて電力損失を大幅に抑制することが可能である。その結果、電力効率を向上させることが可能となるだけでなく、放熱のために大きなヒートシンクを設ける必要もなくなるので、回路を小型化することも可能となる。
【0038】
続いて、Vsはブートストラップ回路290に入力される。ブートストラップ回路290は、ブートストラップコンデンサー292とブートストラップダイオード294とを備えている。ブートストラップ回路290に入力されたVsは、ブートストラップコンデンサー292の一端に入力され、ブートストラップダイオード294を介してブートストラップコンデンサー292の他端に接続されたVccによりバイアスされて、Vb(電圧バイアス信号)として出力される。
【0039】
こうして出力されたVb(電圧バイアス信号)を、コイル250を通した後、COM(駆動信号)としてアクチュエーター116に印加する。詳細には後述するが、コイル250は、アクチュエーター116の容量成分と組み合わされることによって共振回路260を構成しているが、共振回路260の共振周波数よりも高い周波数領域では平滑フィルターとなるので、Vb中の変調成分が共振回路260によって減衰する結果、Vb中の信号成分が取り出されてCOMとして復調される。加えて、本実施例の容量性負荷駆動回路200では、Vbをコイル250に通して変調成分を減衰させるだけでなく、Vb中の信号成分を増幅している。このため、デジタル電力増幅回路240では、電圧Vddまでしか電力増幅できないにも拘わらず、電圧Vdd以上の電圧を含んだCOMを出力することが可能となる。こうしたことが可能となる理由についても、後ほど詳しく説明する。
【0040】
また、アクチュエーター116に印加されるCOMを負帰還させてフィードバック回路を構成するが、コイル250を通過したCOMは、共振回路260の位相特性によって、WCOMに対して位相が遅れている。そこで、COMを単純に負帰還させるのではなく、コンデンサーChと抵抗Rhとによって構成された位相進み補償回路270を通して位相を進ませる補償を行い、得られた信号をdCOMとして演算回路220の反転入力端子に入力することによって負帰還させるようになっている。
【0041】
C.容量性負荷駆動回路の動作:
図3は、本実施例の容量性負荷駆動回路200の周波数応答特性を解析するためのブロック線図である。まず、駆動波形信号発生回路210からのWCOM(駆動波形信号)は、演算回路220で位相進み補償回路270からのdCOM(帰還信号)が減算されて、dWCOM(誤差信号)を生成する。このdWCOMは、電力増幅回路280で増幅されてVs(電力増幅信号)に変換された後、ブートストラップ回路290でVsの電圧がVccでバイアスされてVb(電圧バイアス信号)に変換され、共振回路260で復調されてCOM(駆動信号)として出力される。こうして出力されたCOMは、位相進み補償回路270で位相進み補償が施された後、dCOMとしてWCOMに対して負帰還されることによって、全体としてフィードバック回路を構成している。ここで、ブートストラップ回路290のバイアス電圧は、ほぼ直流電圧であり、位相進み補償回路270でその直流電圧成分が遮断されるので、図3(A)は、図3(B)のように書き換えることができる。
【0042】
ここで、コイル250のインダクタンスをL、アクチュエーター(圧電素子)116のキャパシタンスをCpとすると、共振回路260の伝達関数F(s)は、図3(C)に示した式で与えられる。また、位相進み補償回路270の伝達関数β(s)は、図3(D)に示した式で与えられる。ここで、Chは、位相進み補償回路270を構成するコンデンサーのキャパシタンスを表しており、Rhは位相進み補償回路270を構成する抵抗の抵抗値を表している。したがって、演算回路220、電力増幅回路280、共振回路260、位相進み補償回路270で構成されるフィードバック回路の伝達関数H(s)は、電力増幅回路280で電力増幅する際のゲインをGとすると、図3(E)に示した式で与えられる。尚、出力されるCOM(駆動信号)は、図3(F)で表される。
【0043】
図4は、本実施例のフィードバック回路の伝達関数H(s)の周波数応答特性を表すボード線図である。図4(A)にはゲイン線図が示されており、図4(B)には位相線図が示されている。また、ゲイン線図及び位相線図には、フィードバック回路の伝達関数H(s)の特性に加えて、電力増幅回路280を含めた共振回路260の伝達関数G・F(s)の特性や、位相進み補償回路270の伝達関数β(s)の特性も示されている。
【0044】
図4(A)のゲイン線図中に破線で示されているように、コイル250の誘導成分は、アクチュエーター(圧電素子)116の容量成分と共に共振回路を形成するので、図中に示された計算式で定まる共振周波数f0の付近で、ゲインの鋭いピークが現れる。そこで、COMを負帰還させることによって、ピークの鋭さ(Q値)を抑制する。ただし、図4(B)に示されるように、共振回路260の位相特性によって、COMは共振周波数f0よりも高い周波数領域で位相が180度遅れるから、COMをそのまま負帰還させたのでは制御ユニット130が不安定となる虞がある。そこで、図4中に一点鎖線で示した特性の位相進み補償回路270を用いて位相を進ませる補償を行った後、dCOM(帰還信号)として負帰還させる。こうすれば、制御ユニット130を不安定にすることなく、COMを負帰還させることが可能となり、その結果、図4(A)中に実線で示したようにゲイン線図に現れるピークの鋭さ(Q値)を抑制することが可能となる。
【0045】
ここで、本実施例の容量性負荷駆動回路200では、ゲインのピークを完全に抑制するのではなく、ある程度のピークを残している。このため、共振周波数f0の周辺の周波数領域では、電力増幅回路280のゲインGよりも大きなゲインが得られるようになっている。もちろん、COMを負帰還させているので、電力増幅回路280及び共振回路260の伝達関数G・F(s)に比べると、ゲインの変化はなだらかとなっている。このため、環境温度や、アクチュエーター116の温度変化、あるいはコイル250やアクチュエーター116の製造ばらつきの影響で、共振周波数が変化しても、そのことによってゲインが大きく変化することはない。その結果、電力増幅回路280で電力増幅した以上の電圧を含むCOM(駆動信号)を出力可能でありながら、環境温度や部品の製造ばらつきなどの影響を受けることなく安定したCOMを発生させることが可能となる。
【0046】
尚、以上の説明から明らかなように、ゲインの変動を抑制する観点からすれば、共振特性をできるだけ抑制することが望ましい。一方、Vs(電力増幅信号)に対してできるだけ大きなCOM(駆動信号)を生成する観点からすれば、共振特性はできるだけ抑制しないことが望ましい。すなわち、ゲインの変動を抑制することと、大きなゲインを確保することとは、互いに二律背反する関係にある。経験上からは、Vsに対するCOMのゲインが、1.5倍以上から5倍以下の範囲に収まるように(代表的にはゲインが2倍から4倍程度となるように)共振特性を抑制すると、ある程度のゲインを確保しながら、安定したCOMを発生させることが可能となる。
【0047】
また、位相進み補償回路270の調整により、Vsに対するCOMのゲインが2倍以上となる場合、アクチュエーター116に印加されるCOMの電圧が負電圧となる場合が生じる。しかし、アクチュエーター116に所定値以上の負電圧が印加されると、アクチュエーター116を破壊する虞がある。このため、ブートストラップ回路290によりVsの電圧をVccでバイアスすることで、アクチュエーター116に印加されるCOMの電圧が所定値以上の負電圧になるのを防ぐことが可能となる。こうしたことが可能となる理由についても、後ほど詳しく説明する。
【0048】
図5は、本実施例の容量性負荷駆動回路200が、WCOM(駆動波形信号)からCOM(駆動信号)を生成する動作を例示した説明図である。図5(A)中に示した太い実線は、駆動波形信号発生回路210から出力されるWCOMを表している。また、図5(A)中に示した破線は、位相進み補償回路270からのdCOM(帰還信号)を表している。図2を用いて前述したように、WCOMは演算回路220の非反転入力端子に入力され、dCOMは演算回路220の反転入力端子に入力されるので、演算回路220からは、WCOMからdCOMを減算した差分の信号が、dWCOM(誤差信号)として出力される。そして、このdWCOMが、変調回路230でMCOM(変調信号)にパルス変調される。
【0049】
図5(B)には、変調回路230でdWCOMをMCOMに変換する様子が示されている。変調回路230では、図5(B)中に太い実線で表されたdWCOMと、細い破線で表されたTri(三角波)とを比較する。そして、dWCOMの方が大きければ、変調回路230の動作電圧を出力し(High状態)、Triの方が大きければ、グランド電圧を出力する(Low状態)。その結果、グランド電圧と、変調回路230の動作電圧との間で、パルス波状に電圧が変化する変調信号(MCOM)が生成される。図5(C)には、こうして得られたMCOMが示されている。
【0050】
続いて、MCOMをデジタル電力増幅回路240で電力増幅する。図2を用いて前述したように、デジタル電力増幅回路240は、プッシュ・プル接続された2つのスイッチ素子(MOSFETなど)の接続状態をMCOMによって切り換えることにより、図5(D)に示したような、電源の電圧Vddとグランド電圧とに切り換わるパルス波形、すなわちVs(電力増幅信号)を生成し、このVsの電圧をVccだけバイアスさせてVb(電圧バイアス信号)を生成する。そして、このVsをコイル250に通すことによって、図5(E)に示したように変調成分が除かれて、信号成分が復調される。
【0051】
こうして復調された信号成分は、デジタル電力増幅回路240でMCOMが電力増幅されていることに対応して、元になった信号(WCOM)よりも最大電圧が大きくなっている。加えて、図4(A)を用いて前述したように、伝達関数H(s)のゲインが電力増幅回路280のゲインGよりも大きくなっているので、Vsから復調された信号成分の最大電圧は、Vsの最大電圧(電圧Vdd)よりも大きくなる。更に、伝達関数H(s)の位相は、共振回路260の共振周波数f0を含んだ比較的広い周波数領域でなだらかに変化しているので、Vsに含まれる信号成分を復調する際に波形を歪ませることもない。また、ブートストラップ回路290によりVsの電圧をVccでバイアスしているので、アクチュエーター116に印加されるCOMの中心電圧もVccだけバイアスされる。したがって、Vsに対するCOMのゲインが2倍以上の場合においても、アクチュエーター116に印加されるCOMの電圧が所定値以上の負電圧になることを防ぐことが可能となる。その結果、図5(E)に例示したように、駆動波形信号発生回路210から出力されたWCOMが、Vsの最大電圧(電圧Vdd)よりも更に大きな電圧を含んだCOM(駆動信号)を得ることが可能となる。
【0052】
また、共振回路260の共振周波数f0は、コイル250のインダクタンスLと、アクチュエーター(圧電素子)116のキャパシタンスCpによって決まるから、環境温度の変化や、コイル250やアクチュエーター(圧電素子)116の製造ばらつきの影響によって共振周波数f0は変化する。しかし、図4(A)を用いて前述したように、伝達関数H(s)のゲインは、共振回路260の共振周波数f0を含んだ比較的広い周波数領域でなだらかに変化していることから、たとえ共振周波数f0が変化したとしても、そのことによってゲインが大きく変化することはない。その結果、環境温度の変化や、コイル250やアクチュエーター(圧電素子)116の製造ばらつきの影響を受けることなく、Vsの最大電圧(電圧Vdd)よりも更に大きな電圧を含んだCOM(駆動信号)を、安定して発生させることが可能となる。
【0053】
D.変形例:
上述した実施例の容量性負荷駆動回路200には、いくつかの変形例が存在する。以下では、これら変形例について簡単に説明する。尚、以下の変形例においては、上述した実施例と同様な構成部分については、上述した実施例と同様の符番を付すこととして、詳細な説明を省略する。
【0054】
D−1.第1変形例:
上述した実施例では、変調回路230が、いわゆるパルス幅変調(PWM)と呼ばれる方法を用いて、dWCOMをパルス変調するものとして説明した。しかし、パルス変調する方式はパルス幅変調方式に限られるものではなく、例えばパルス密度変調(PDM)と呼ばれる方式を用いてパルス変調することも可能である。以下では、PDMと呼ばれる方式で変調する本変形例について説明する。
【0055】
図6は、本変形例の容量性負荷駆動回路200で用いられる電力増幅回路285及びブートストラップ回路290の回路構成を示した説明図である。本変形例の電力増幅回路285は、変調回路235、及びデジタル電力増幅回路240から構成されている。変調回路235は、dWCOM(誤差信号)と、デジタル電力増幅回路240からのVs(電力増幅信号)を抵抗Rs及び抵抗Rgで分圧した信号との差分を積分する積分器236と、積分器236で得られた積分信号(以下、Vt)をパルス変調するヒステリシスコンパレーター237から構成されている。ここでヒステリシスコンパレーター237とは、出力がLow状態からHigh状態に切り換わるための閾値th1と、High状態からLow状態に切り換わるための閾値th2(th1>th2)とが異なる値に設定されたコンパレーターである。また、ブートストラップ回路290は、デジタル電力増幅回路240へ供給する電源(電圧Vdd)に接続されており、デジタル電力増幅回路240からのVsの電圧をVddでバイアスする。
【0056】
図7は、本変形例の容量性負荷駆動回路200が、WCOM(駆動波形信号)からCOM(駆動信号)を生成する動作を例示した説明図である。図7(A)中に示した太い実線は、駆動波形信号発生回路210から出力されるWCOMを表しており、図7(A)中に示した破線は、位相進み補償回路270からのdCOM(帰還信号)を表している。本変形例の容量性負荷駆動回路200においても、WCOMからdCOMを減算することによってdWCOM(誤差信号)を生成する。そして、このdWCOMを、図6に示した変調回路235に入力することによってパルス変調する。
【0057】
図7(B)には、変調回路235の中の積分器236の動作が表されている。図6に示したように積分器236は、dWCOM(誤差信号)と、デジタル電力増幅回路240からのVs(電力増幅信号)を抵抗Rs及び抵抗Rgで分圧した信号との差分を積分して、Vt(積分信号)を生成する。したがって、差分が大きければVtは速やかに変化し、逆に差分が小さければVtはゆっくりと変化することとなって、結局、図7(B)中に細い破線で示した三角波形となる。そして、このVtをヒステリシスコンパレーター237によってパルス変調することにより、図7(C)に示したMCOMを得ることができる。
【0058】
こうしてMCOMが得られたら、得られたMCOMをデジタル電力増幅回路240で電力増幅することによって、図7(D)に示すVs(電力増幅信号)を生成し、このVsの電圧をVddでバイアスしてVb(電圧バイアス信号)を生成した後、このVbをコイル250に通すことによって信号成分を復調する。こうすれば、図7(E)に示すように、電力増幅されたCOMを得ることができる。
【0059】
以上に示した第1変形例においても、共振回路260の共振周波数f0を含んだ周波数領域では、Vsに対するCOMのゲインを、1.5倍以上から5倍以下の範囲に設定しておくことで、デジタル電力増幅回路240の電源電圧Vddよりも高い電圧を有するCOMを発生させることが可能となる。また、伝達関数H(s)の位相線図から明らかなように、Vsに対するCOMの位相はなだらかに変化しているので、Vsから信号成分を復調してCOMを生成する際に波形が歪むこともない。更に、環境温度の変化や、コイル250やアクチュエーター(圧電素子)116の製造ばらつきの影響を受けることなく、デジタル電力増幅回路240の電源電圧Vddよりも大きな電圧を含んだCOM(駆動信号)を、安定して発生させることができる。
【0060】
加えて、上述した変形例のようにPDM方式でパルス変調した場合、前述のPWM方式でパルス変調した場合に比べて、次のような利点も得ることができる。まず、デジタル電力増幅回路240で得られるVsは、グランド電圧と、電源電圧Vddとの間で電圧値が切り換わるパルス波形となる。したがって、何らかの理由で電源電圧Vddが変動すると、Vsの振幅が変化する。このため、PWM方式でパルス変調した場合には、デジタル電力増幅回路240の電源電圧Vddの変動やトランジスターの特性のばらつきなどが、そのままCOMに影響を与えてしまう。ところが、PDM方式でパルス変調した場合には、以下の理由から、デジタル電力増幅回路240の電源電圧Vddの変動や、トランジスターの特性のばらつきが、COMに与える影響を抑制することが可能となる。
【0061】
まず、PDM方式では、ヒステリシスコンパレーター237に入力されるVt(積分信号)は、演算回路220からのdWCOMと、デジタル電力増幅回路240からのVsを分圧した値との差を積分することによって得られる。したがって、デジタル電力増幅回路240の電源電圧Vddが低下すると、Vtの立下りの傾きは緩やかとなる。その結果、ヒステリシスコンパレーター237から出力されるMCOMがHigh状態となる期間が長くなる。また、デジタル電力増幅回路240の電源電圧Vddが上昇すると、Vtの立下りの傾きは急になる。その結果、ヒステリシスコンパレーター237から出力されるMCOMがLow状態となる期間が長くなる。
【0062】
すなわち、何らかの理由でデジタル電力増幅回路240の電源電圧Vddが低下すると、MCOMはHigh状態の期間が長めの信号となり、逆に電源電圧Vddが高くなると、MCOMはLow状態の期間が長めの信号となる。そして、MCOMのHigh状態の期間が長めとなれば、共振回路260に通した後に得られる電圧は高めとなり、MCOMのLow状態の期間が長めとなれば、共振回路260に通した後に得られる電圧は低めとなる。結局、デジタル電力増幅回路240の電源電圧Vddが変動しても、その影響がCOMに現れないようにMCOMが変化する。このため、PDM方式を用いてパルス変調した場合には、電源電圧Vddの変動の影響を受けることなく、常に安定したCOM(駆動信号)を生成することが可能となる。
【0063】
また、ブートストラップ回路290でバイアスする電圧を電力増幅回路285に供給される電源電圧Vddと共通にしており、ブートストラップ回路290用に新たに電源を設けることないため、電源に係る基板の面積の縮小やコストの削減が可能となる。尚、この場合では、Vsに対するCOMのゲインが2倍から4倍の場合においても、アクチュエーター116に印加されるCOMの電圧が負電圧になることがない。
【0064】
D−2.第2変形例:
以上に説明した実施例あるいは第1変形例では、コイル250とアクチュエーター(圧電素子)116とによって共振回路260が構成されるものとして説明した。しかし、アクチュエーター116に対して並列に接続されるようにコンデンサーを設けておき、このコンデンサーと、コイル250と、アクチュエーター116とによって共振回路260を構成するようにしても良い。
【0065】
図8は、このようにして構成された本変形例の容量性負荷駆動回路200の一部を例示した説明図である。図示されるように、本変形例の容量性負荷駆動回路200では、アクチュエーター116に対して並列に接続されるように、コンデンサー(容量性素子)252が設けられている。このような構成では、コイル250のインダクタンスLと、アクチュエーター116のキャパシタンスCpと、コンデンサー252のキャパシタンスCcとによって共振回路が形成される。そして、互いに並列に接続されたアクチュエーター116のキャパシタンスCpと、コンデンサー252のキャパシタンスCcとは、合成キャパシタンス(大きさは、Cp+Cc)として取り扱うことができるから、この共振回路の共振周波数は、コイル250のインダクタンスLと、合成キャパシタンスCp+Ccとによって決まる周波数となる。
【0066】
容量性負荷駆動回路200の駆動負荷であるアクチュエーター116のキャパシタンスCpは、多くの場合、決まっている。したがって、仮にコンデンサー252がなかったとすると、共振周波数を所望の周波数に設定しようとするためにはコイル250のインダクタンスLで調整する必要がある。その結果、場合によっては、大きなコイル250が必要になって、容量性負荷駆動回路200が大きくなってしまうことがある。ところが、このような場合でも、アクチュエーター116に並列にコンデンサー252を接続してやれば、コンデンサー252のキャパシタンスを適切に設定することで、コイル250を大きくすることなく、共振周波数を所望の周波数に設定することが可能となる。
【0067】
尚、以上に説明した実施例あるいは各変形例では、電力増幅回路280として変調回路230及びデジタル電力増幅回路240を用いているが、これに限らず、別の電力増幅回路を用いてもよい。例えば、COM(駆動信号)が非常に複雑な形状や高いスルーレートを有している場合などは、電力増幅回路としてAB級増幅器などのアナログ増幅器を用いることで非常に歪の少ないCOMを生成することが可能となる。
【0068】
以上、実施例及び各変形例の容量性負荷駆動回路について説明したが、本発明は上記すべての実施例及び各変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、薬剤や栄養剤を内包するマイクロカプセルを形成することに用いる流体噴射装置など、医療機器を含む様々な電子機器に本実施例の容量性負荷駆動回路を適用することで、電力効率が良く小型化の電子機器を提供することができる。また、インクジェットプリンターに搭載されて、インクを噴射する噴射ノズルを駆動するための容量性負荷駆動回路に対しても、本発明を好適に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
100…液体噴射装置、110…噴射ユニット、111…噴射ノズル、112…液体通路管、113…フロントブロック、114…リアブロック、115…液体室、116…アクチュエーター(圧電素子)、120…供給ポンプ、121,122…チューブ、123…液体タンク、130…制御ユニット、200…容量性負荷駆動回路、210…駆動波形信号発生回路(駆動波形信号出力回路)、220…演算回路、230,235…変調回路、236…積分器、237…ヒステリシスコンパレーター、240…デジタル電力増幅回路、250…コイル(誘電性素子)、252…コンデンサー(容量性素子)、260…共振回路、270…位相進み補償回路、280,285…電力増幅回路、290…ブートストラップ回路、292…ブートストラップコンデンサー、294…ブートストラップダイオード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量成分を有する容量性負荷に対して所定の駆動信号を印加することによって、該容量性負荷を駆動する容量性負荷駆動回路であって、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を出力する駆動波形信号出力回路と、
前記駆動波形信号と、前記容量性負荷に印加された駆動信号を用いて生成された帰還信号との差分を取ることによって誤差信号を生成する演算回路と、
前記誤差信号を電力増幅することによって、電力増幅信号を生成する電力増幅回路と、
前記電力増幅信号の電圧をバイアスすることによって、電圧バイアス信号を生成するブートストラップ回路と、
前記ブートストラップ回路と前記容量性負荷とを接続して、該ブートストラップ回路からの前記電圧バイアス信号を前記駆動信号として該容量性負荷に供給する誘導性素子と、
前記誘導性素子からの前記駆動信号に対して、位相を進ませた前記帰還信号として前記演算回路に負帰還させる位相進み補償回路と、
を備えることを特徴とする容量性負荷駆動回路。
【請求項2】
前記容量性負荷に対して並列に接続された容量性素子を備えることを特徴とする請求項1に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記ブートストラップ回路は、前記電力増幅回路に供給される電源に接続され、前記電力増幅信号を該電源の電圧だけバイアスすることによって、電圧バイアス信号を生成する回路であることを特徴とする容量性負荷駆動回路。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記電力増幅回路は、
前記誤差信号をパルス変調することによって変調信号を生成する変調回路と、
前記変調信号を電力増幅することにより、パルス波状の電力増幅信号を生成するデジタル電力増幅回路と、
を備えることを特徴とする容量性負荷駆動回路。
【請求項5】
請求項4に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記変調回路は、前記誤差信号をパルス幅変調することによって前記変調信号を生成する回路であることを特徴とする容量性負荷駆動回路。
【請求項6】
請求項4に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記変調回路は、前記誤差信号をパルス密度変調することによって前記変調信号を生成する回路であることを特徴とする容量性負荷駆動回路。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の容量性負荷駆動回路を有することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−235201(P2012−235201A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100842(P2011−100842)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】