説明

密閉型圧縮機

【課題】異なる種類の冷媒を使用する場合においても、密閉容器の板厚を変える必要がなく同一の生産ラインで効率よく生産することが可能な密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】電動機の固定子を密閉容器に焼きバメ固定する高圧型の密閉型圧縮機において、使用する冷媒の吐き出し圧力に応じて降伏点応力の異なる密閉容器胴部鋼板材料を選択し、胴部の板厚を冷媒が変わっても同一とすることで、異なる冷媒を使用する場合でも密閉容器板厚を変更せず同一の生産ラインで効率よく生産することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気調和機等の冷凍サイクルに組み込まれる密閉型圧縮機、特にHFC410A等の高圧冷媒を使用する圧縮機の密閉容器の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和機等の冷凍サイクルに組み込まれる密閉型圧縮機は図3に示すような構成で、密閉容器101内に電動機102と圧縮機構部103が収容される。電動機下部には圧縮機構部103が配され、電動機102の固定子102aの外周は密閉容器101の胴部101aに焼きバメ固定されている。圧縮機構部103はこの例ではローリングピストンタイプで密閉容器101の外に付けられたアキュムレータ104に繋がる吸い込み管105は、圧縮機構部103のシリンダ106にあけられた孔107に差し込まれている。この吸い込み管105は密閉容器101とロウ付けで密封されている。吸い込み管105から圧縮機構部103で圧縮された冷媒は密閉容器101内部に吐き出され吐き出し管108より冷凍サイクル(図示せず)に吐き出される。従って、密閉容器101の内部は吐き出し圧力になっている。
【0003】
このような圧縮機の冷媒としては、従来HCFC22(R22)が用いられてきたが、その大気放出がオゾン層の破壊を招く可能性があるため、将来全廃することが決められている。このHCFC22の代替冷媒としてはいくつかのHFC冷媒が候補に挙がっているが、HFC125,HFC32,HFC134aの混合冷媒のR407CとHFC125とHFC32の混合冷媒のR410Aが有力候補としてあげられている。R407Cにおいてはその吐き出し圧力はほぼR22と同一であるが、R410Aにおいてはその吐き出し圧力がR22の約1.7倍となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような吐き出し圧力の大きな代替冷媒を密閉容器が吐き出し圧力である高圧型の密閉型圧縮機に使用する場合は密閉容器の耐圧強度を上げなければならない。
【0005】
密閉容器の耐圧力向上させる方法としてはその板厚を増す方法があるが、電動機の固定子を密閉容器に焼きバメするものにおいては密閉容器の板厚を増すと固定子にかかる応力が増し、電動機固定子のコアを変形させ、電動機巻線のレアーショートにつながる。
【0006】
さらに、代替冷媒の候補が各種あるためその要求される耐圧強度が異なる。電動機を密閉容器に固定するタイプの圧縮機においては電動機の焼きバメをはじめとして圧縮機の組立工程を密閉容器の内外径を基準に組み立てるため、密閉容器の厚さが異なると同一ラインで冷媒の異なる圧縮機が生産できなくなる。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するために成されたもので、冷媒が異なる場合においても共通の密閉容器板厚を変更する必要がない生産性に優れた密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、電動機の固定子を密閉容器に焼きバメ固定する高圧型の密閉型圧縮機において、使用する冷媒により密閉容器の鋼板材料に降伏点応力の異なるものを使用することで、密閉容器胴部板厚を、異なる冷媒を使用する圧縮機の間で共通として、同一ラインで冷媒の異なる圧縮機を効率よく生産することが出来る圧縮機を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の密閉型圧縮機は、使用する冷媒により前記密閉容器胴部の鋼板材料として降伏点応力の異なるものを使用し、胴部の板厚を冷媒が変わっても同一としたもので、耐圧強度が異なる冷媒圧縮機においても電動機の焼きバメをはじめとして圧縮機の組立工程を密閉容器の内外径を基準に組み立てることが出来、同一ラインで冷媒の異なる圧縮機が生産でき生産効率が上がる等の効果を持つものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、使用する冷媒により前記密閉容器胴部の鋼板材料として降伏点応力の異なるものを使用し、胴部の板厚を冷媒が変わっても同一としたもので、耐圧強度が異なる冷媒圧縮機においても電動機の焼きバメをはじめとして圧縮機の組立工程を密閉容器の内外径を基準に組み立てることができ、同一ラインで冷媒の異なる圧縮機が効率よく生産できる。
【0011】
(実施の形態1)
図1は本発明の一実施例を示したもので、密閉容器の1の内部に電動機2と圧縮機構部3を収納している。圧縮機構部3は本実施例はローリングピストンタイプのもので、シリンダ4、ピストン5、クランク軸6、これを支える主軸受け7、副軸受け8からなる。クランク軸6は電動機2のロータ2bに直結されている。密閉容器1の外側にアキュムレータ9が取り付けられ、アキュムレータ9と圧縮機構部3はシリンダ4にあけられた孔4aに挿入された吸い込み管10で連結されている。アキュムレータ9に入った吸い込みガスは、吸い込み管10から圧縮機構部3には入り、圧縮され、密閉容器内部11に吐き出され、吐き出し管12より冷凍サイクル(図示せず)に出ていく。従って、密閉容器1の内部11は吐き出し圧力になっている。
【0012】
このような構造の密閉型圧縮機においてR22の代替冷媒の候補であるR410Aを使用すると、密閉容器の内部11の圧力は、R22の場合過負荷条件で2.6MPaであったものが、4.2MPaとなる。この圧力に対して密閉容器1は十分な耐圧強度も持つことが必要である。そのため通常は上記の圧力に対し3倍から5倍の破壊圧力を設定する。本発明においては密閉容器1は胴部1a、上鏡板部1b、下鏡板部1cの3部品から構成している。図2に胴部1aを示す。胴部1aは降伏点応力の大きい自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板、または圧力容器鋼板を使用し、その板厚をR22で使用されているものと同一に設定している。自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板は引っ張り強さが490N/mm2 以上、降伏点が325N/mm2 以上であり、降伏点応力も高く、溶接性も良い。円筒形状の胴部1aは平板を巻いてその端部1eを溶接して作成する。この作成法では板厚を増すより、抗張力を増す方が作成しやすい。また、電動機2の固定子2aはこの密閉容器胴部1aに焼きバメ固定されている。胴部の鋼板材の降伏点応力を大きくしているが、鋼の弾性係数はほぼ同じであるので、板厚がR22用の胴部と同じであれば、密閉容器の焼きバメによって固定子にかかる応力も変わらないため、電動機固定子のコアを変形させて、電動機の巻線のレアーショートにつながることがない。
【0013】
R22の代替冷媒としてはいくつかのHFC冷媒が候補に挙がっているが、HFC125,HFC32,HFC134aの混合冷媒のR407CとHFC125とHFC32の混合冷媒のR410Aが有力候補としてあげられている。R407Cにおいてはその吐き出し圧力はほぼR22と同一であるが、R410Aにおいてはその吐き出し圧力がR22の約1.7倍となる。過負荷状態での圧力はR22で2.6MPa,R407Cで2.8MPa,R410Aで4.2MPaである。このため、各冷媒によりその要求される耐圧強度が異なる。
【0014】
電動機2を密閉容器1に固定するタイプの圧縮機においては電動機2の焼きバメをはじめとして圧縮機の組立工程を密閉容器1aの内外径を基準に組み立てるため、密閉容器1aの厚さが異なると同一ラインで冷媒の異なる圧縮機が生産できなくなる。本発明においては、R22、およびR407C用圧縮機については密閉容器の胴部1aの材料を一般用構造用炭素鋼管,一般構造用圧延鋼材を使用し、R410A用には自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板、または圧力容器鋼板を使用することにより、密閉容器胴部1aの板厚を同じ厚さにすることが出来る。
【0015】
これにより、電動機の固定子2aの外周の径を共通に出来るため、電動機の巻き線工程を共通にすることが出来る。また、圧縮機の組立においては、密閉容器の胴部1aへの電動機固定子2aの焼きバメ,密閉容器1aへの圧縮機構部3の挿入位置決め固定,上下の鏡板1b,1cの溶接等は密閉容器胴部1aの外周の径を基準に行う。密閉容器の胴部1aの板厚が冷媒が異なっても同一であるため、同じラインの共通のジグを使用して組み立てることができ、非常に効率的な生産が可能となる。
【0016】
以上は、ロータリー圧縮機の実施例で述べたが、スクロール圧縮機など高圧式の他の形式の圧縮機においても同様なことが言える。また、吸い込み管10については胴部1aに挿入する例を示したが、鏡板1bに挿入するものも本発明を適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0017】
以上のように本発明にかかる密閉型圧縮機は、冷媒が異なる場合においても密閉容器板厚を共通とすることで効率的な生産が可能となるので、空気調和機等の冷凍サイクルに幅広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例を示す密閉型圧縮機の縦断面図
【図2】本発明の一実施例の密閉容器胴部の断面図
【図3】従来の密閉型圧縮機の縦断面図
【符号の説明】
【0019】
1 密閉容器
1a 胴部
1b 上鏡板
1c 下鏡板
2 電動機
2a 電動機固定子
3 圧縮機構部
10 吸い込み管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器の内部を吐き出しガス雰囲気とし、その内部に電動機とこの電動機で駆動する圧縮機構部を配設し、前記密閉容器を円筒形の胴部と鏡板から構成し、前記電動機の固定子の外周を前記密閉容器胴部に焼きバメ固定した密閉型圧縮機において、使用する冷媒により前記密閉容器胴部の鋼板材料として降伏点応力の異なるものを使用し、胴部の板厚を冷媒が変わっても同一とした密閉型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−107537(P2007−107537A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8832(P2007−8832)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【分割の表示】特願平9−160845の分割
【原出願日】平成9年6月18日(1997.6.18)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】