説明

密閉型圧縮機

【課題】本発明の課題は、耐疲労破壊の信頼性を向上することができる密閉型圧縮機を提供することにある。
【解決手段】本発明の密閉型圧縮機は、密閉容器内に、冷媒の圧縮室16を形成するシリンダブロック1と、前記圧縮室16の内部で直線往復運動を行うピストン4と、前記圧縮室16に冷媒を吸入する吸入孔8b、及び前記圧縮室16から冷媒を吐出する吐出孔8aが形成される弁座8と、前記吸入孔8bを開閉する吸入バルブ10と、前記吐出孔8aを開閉する吐出バルブ11と、を備える密閉型圧縮機において、前記吸入バルブ10は、スリットで弁体が抜き出された板部材で形成されると共に、前記吸入バルブ10には、化学研磨処理が施されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルに搭載される密閉型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷蔵庫や空気調和機等の冷凍サイクルに採用される密閉型圧縮機は、密閉容器の内部に、冷媒の圧縮を行う圧縮部を有している。圧縮部は、冷媒の圧縮室を形成するシリンダブロックと、圧縮室の内部で直線往復運動を行うピストンと、シリンダブロックの圧縮室開口端面に接合されるシリンダヘッドと、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に設けられる弁装置とで主に構成されている。弁装置は吐出バルブ、弁座、吸入バルブ等の部材で構成されている。
【0003】
このような密閉型圧縮機は、ピストンの直線往復運動によって密閉容器の吸入管及び弁座の吸入孔を介して冷媒を圧縮室に吸入すると共に、圧縮室で圧縮した冷媒を弁座の吐出孔及び密閉容器の吐出管を介して送り出す。
【0004】
ところで、一般に、密閉型圧縮機の吸入バルブは、薄い圧延鋼板の鋼帯を順送りプレス加工により型抜きして製造される。この型抜きでは、圧延鋼板に舌片状の弁体が幅狭のスリットで抜き出される。次に参照する図4は、圧延鋼板から弁体を抜き出したスリットの様子を模式的に示す部分拡大斜視図である。
図4に示すように、弁体を抜き出したスリット10bのエッジに沿ってバリ10eが形成される。また、図示しないが、スリット10bには型抜きによる抜き傷も形成される。
ところが、このようなバリ10eや抜き傷は、これらが起点となって吸入バルブに疲労破壊をもたらす恐れがある。そのため、スリット10bで弁体を抜き出した圧延鋼板には、従来、バリ10eや抜き傷を除去するために、研磨材を使用した機械的研磨処理が施されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-310068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年においては、密閉型圧縮機の高効率化の要請が高まり、圧縮室のピストンの上死点における無効容積の低減が図られている。したがって、吸入バルブの舌片状の弁体を抜き出すスリットの幅も一段と狭くなっている。
しかしながら、スリットの幅が狭くなると、従来の機械的研磨処理では研磨材がスリット内に十分に入っていかないために、バリや抜き傷の除去が不十分となる恐れがある。そして、バリや抜き傷が残っている吸入バルブを使用した密閉型圧縮機は、耐疲労破壊の信頼性が不十分となる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、耐疲労破壊の信頼性を向上することができる密閉型圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の密閉型圧縮機は、密閉容器内に、冷媒の圧縮室を形成するシリンダブロックと、前記圧縮室の内部で直線往復運動を行うピストンと、前記圧縮室に冷媒を吸入する吸入孔、及び前記圧縮室から冷媒を吐出する吐出孔が形成される弁座と、前記吸入孔を開閉する吸入バルブと、前記吐出孔を開閉する吐出バルブと、を備える密閉型圧縮機において、前記吸入バルブは、スリットで弁体が抜き出された板部材で形成されると共に、前記吸入バルブには、化学研磨処理が施されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐疲労破壊の信頼性を向上することができる密閉型圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機の構成説明図である。
【図2】図1の密閉型圧縮機における圧縮部を模式的に表す部分拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係る密閉型圧縮機に使用される吸入バルブの平面図である。
【図4】圧延鋼板から弁体を抜き出したスリットの様子を模式的に示す部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の密閉型圧縮機は、化学研磨処理を施した吸入バルブを備えることを主な特徴とするが、ここではまず密閉型圧縮機の全体構成について説明した後に、吸入バルブについて説明する。
なお、以下の説明において、上下方向は図1に示す上下方向を基準とする。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る密閉型圧縮機Cは、密閉容器14内に設けられた軸受部1a及びフレーム1bと一体に成形されたシリンダブロック1内をピストン4が直線往復運動して冷媒を圧縮するレシプロ型の圧縮機である。
【0013】
フレーム1bの下部には、固定子5と、この固定子5との電磁気的相互作用により回転する回転子6とを有する電動機12を備えている。回転子6の回転中心にはフレーム1bの軸受部1aに支承されるクランクシャフト3の下端部が直結し、クランクシャフト3は回転子6と共に回転するようになっている。
【0014】
クランクシャフト3の上端部には、クランクシャフト3の回転中心から偏心した位置にクランクピン3aが設けられている。そして、このクランクピン3aには、スコッチヨークタイプのピストン4がコンロッド2を介して連結しており、回転子6が回転することで、ピストン4がシリンダブロック1内で直線往復運動するようになっている。
【0015】
また、クランクシャフト3の下端部には筒状の給油ピース7が設けられている。この給油ピース7は、クランクシャフト3が回転した際に共に回転し、その遠心力を利用して密閉容器14の底部に貯留した潤滑油(図示省略)を、クランクシャフト3を伝って上昇させるものである。そして、上昇した潤滑油(図示省略)は、クランクシャフト3の上部に設けられた開口より噴出する構造となっている。
【0016】
次に、冷媒を圧縮する密閉型圧縮機Cの圧縮部について更に詳しく説明する。
図2に示すように、圧縮部15は、冷媒の圧縮室16を形成するシリンダブロック1と、圧縮室16の内部で直線往復運動を行う前記したピストン4と、シリンダブロック1の圧縮室16の開口端面に接合されるシリンダヘッド9と、シリンダブロック1とシリンダヘッド9との間に設けられる弁装置20とで主に構成されている。
そして、弁装置20は、吸入孔8b及び吐出孔8aが形成された弁座8と、この弁座8に設けられて吐出孔8aを開閉する吐出バルブ11と、弁座8に設けられて吸入孔8bを開閉する吸入バルブ10とを備えて構成されている。
【0017】
圧縮部15は、前記したように、ピストン4が、図2の右方向に移動して圧縮室16の容積を広げる際に(吸入工程の際に)、所定の冷凍サイクルから戻ってきた低圧の冷媒ガスが、シリンダヘッド9の内側に形成された吸入室9b、吸入孔8b及び吸入バルブ10を介して圧縮室16内に吸入される。この際、吸入バルブ10は、圧縮室16から吸入室9bへの冷媒ガスの逆流を防止する。
【0018】
また、ピストン4が、図2の左方向に移動して圧縮室16の容積を縮める際に(圧縮工程の際に)、圧縮室16内の冷媒ガスが、吐出孔8a及び吐出バルブ11を介してシリンダヘッド9の内側に形成された吐出室9aに吐出され、高温高圧となるように圧縮された冷媒ガスは、吐出室9aから再び冷凍サイクルに供給される。この際、吐出バルブ11は、吐出室9aから圧縮室16への冷媒ガスの逆流を防止する。
このような吸入工程及び圧縮工程が繰り返されることによって、圧縮された冷媒ガスは冷凍サイクルに連続的に供給される。
図2中、符号10aは、吸入バルブ10の弁体である。
【0019】
次に、吸入バルブ10について更に詳しく説明する。
図2に示すように、吸入バルブ10は、圧延鋼板で形成された薄い板部材であり、シリンダブロック1と弁座8との間に配置されている。
【0020】
このような吸入バルブ10は、図3に示すように、シリンダブロック1及び弁座8の平面形状に応じて概ね同じ略矩形の平面形状を呈している。
吸入バルブ10は、その中央部に舌片状の弁体10aが幅狭のスリット10bで抜き出されて形成されている。そして、弁体10aは、図2に示すように、弁座8の吸入孔8bを圧縮室16側から塞ぐように配置されることとなる。
【0021】
図3中、符号10cは、図2に示すシリンダヘッド9及び弁座8と一緒にシリンダブロック1にボルトで共締めする際のボルト孔であり、符号10dは、図2に示す弁座8の吐出孔8aと圧縮室16とを連通させる連通孔である。ちなみに、図3に示す弁体10a部分は、吸入孔8bを開閉する際のバルブ可動部となり、密閉型圧縮機Cが吸入工程と圧縮工程とを繰り返す際に、吸入孔8bの周囲で弁座8と衝突して、衝撃荷重を繰り返して受けることとなる。
【0022】
本実施形態に係る吸入バルブ10は、スリット10bの幅が0.1〜0.7mmの範囲で形成されており、後記する化学研磨処理が施されたものである。
【0023】
更に詳しく説明すると、本実施形態に係る吸入バルブ10は、材料としての圧延鋼板に舌片状の弁体10aを幅狭のスリット10bで打ち抜いたバルブ基材を形成する基材形成工程と、前記バルブ基材に化学研磨処理を施す化学研磨処理工程と、この化学研磨処理工程を施した後のバルブ基材に圧縮残留応力を付与する機械的圧縮処理工程と、を経て得られたものである。
【0024】
圧延鋼板の材質としては、例えば、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0025】
圧延鋼板の厚さとしては、0.1〜0.3mmの範囲で設定することができる。
スリット10bの幅は、前記した範囲で設定することができる。
【0026】
次に、バルブ基材には、化学研磨処理が施される。化学研磨処理の方法としては、バルブ基材を化学研磨処理剤の水溶液に浸漬する方法が望ましい。
【0027】
化学研磨処理剤としては、例えば、硫酸、塩酸等の酸類、水酸化ナトリウム等のアルカリ類が挙げられる。
【0028】
化学研磨処理剤の水溶液濃度並びにバルブ基材の浸漬時間及び浸漬温度は、圧延鋼板の材質に応じて適宜に決定することができる。
【0029】
ちなみに、この化学研磨処理を施した後のバルブ基材には、圧延鋼板の材質に応じた金属が析出し、例えば、クロムモリブデン鋼を使用した場合には、クロムやモリブデンが析出することとなる。その結果、化学研磨処理を施したものと、施していないものとは区別することができる。
【0030】
次いで、化学研磨処理を施したバルブ基材には、機械的圧縮処理が施される。この工程では、前記したように、バルブ基材に圧縮残留応力が付与される。
【0031】
機械的圧縮処理の方法としては、例えば、ショットピーニング法、バレル研磨処理法等が挙げられる。この際、バルブ基材にショット粒やバレル石が衝突することで、その表面層はその延性によって延びようとする一方で、その内部層により表面層が拘束されるために、表面層には圧縮残留応力が発生する。その結果、この機械的圧縮処理工程を経て得られる吸入バルブ10は、機械的強度に優れたものとなる。
【0032】
以上のような吸入バルブ10は、化学研磨処理が施されるので、従来の機械的研磨処理が施されたもの(例えば、特許文献1参照)と異なって、密閉型圧縮機Cの高効率化のために(ピストン4の上死点における無効容積を低減するために)弁体10aを抜き出すスリット10bが幅狭になっていても、スリット10bに形成されたバリや抜き傷を効率よく除去することができる。
その結果、吸入バルブ10は、疲労破壊の起点となるバリや抜き傷が十分に除去されるので、このような吸入バルブ10を備える密閉型圧縮機Cは、耐疲労破壊の信頼性を一段と向上させることができる。
【0033】
また、吸入バルブ10は、化学研磨処理が施された後に更に機械的圧縮処理が施されているので、その表面に付与された圧縮残留応力によって機械的強度が向上する。
その結果、この吸入バルブ10を備える密閉型圧縮機Cによれば、耐用年数を更に延長することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 シリンダブロック
4 ピストン
8 弁座
8a 吐出孔
8b 吸入孔
9 シリンダヘッド
9a 吐出室
9b 吸入室
10 吸入バルブ
10a 弁体
10b スリット
11 吐出バルブ
14 密閉容器
16 圧縮室
C 密閉型圧縮機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に、
冷媒の圧縮室を形成するシリンダブロックと、
前記圧縮室の内部で直線往復運動を行うピストンと、
前記圧縮室に冷媒を吸入する吸入孔、及び前記圧縮室から冷媒を吐出する吐出孔が形成される弁座と、
前記吸入孔を開閉する吸入バルブと、
前記吐出孔を開閉する吐出バルブと、
を備える密閉型圧縮機において、
前記吸入バルブは、スリットで弁体が抜き出された板部材で形成されると共に、前記吸入バルブには、化学研磨処理が施されていることを特徴とする密閉型圧縮機。
【請求項2】
前記吸入バルブは、圧縮残留応力を付与する機械的圧縮処理が更に施されていることを特徴とする請求項1に記載の密閉型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−231733(P2011−231733A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104993(P2010−104993)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】