説明

密閉形スクロール圧縮機

【課題】スクロール圧縮機では油注入用ポートは固定スクロールのラップ歯底面に対して垂直方向に設定加工されており、圧縮室に冷却油を注入した際に高速のガス流に押し流されてしまい、十分にガスと冷却油がミキシングされず、ガスと冷却油の熱交換が不十分なため、圧縮機の吐出ガス温度が十分に下がらないという問題があった。本発明は、ガスと冷却油との熱交換を改善することを目的とする。
【解決手段】上記本発明の目的は、旋回スクロールと固定スクロールとで冷媒を圧縮する圧縮室を形成し、前記固定スクロールは、前記圧縮室内にガス或いは液体を注入するための注入ポートを有する密閉形スクロール圧縮機において、前記注入用ポートが前記固定スクロールの台板に対して斜めに形成されていることを特徴とする密閉形スクロール圧縮機によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉形スクロール圧縮機に係り、特に冷凍・空調用およびヘリウム用の密閉形スクロール圧縮機に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、旋回スクロールと固定スクロールとで冷媒を圧縮する圧縮室を形成し、前記固定スクロールは、前記圧縮室内にガス或いは液体を注入するための注入ポートを有する密閉形スクロール圧縮機が知られている。
【0003】
特許文献1のスクロール圧縮機は、空気,冷媒等の気体を圧縮するものであり、筒状のケーシングと、このケーシングの端面を閉塞するようにケーシングに固着して設けられ、鏡板に渦巻状のラップが立設された固定スクロールと、ケーシング内に位置して駆動軸に旋回自在に設けられ、鏡板には固定スクロールのラップと重なり合って旋回する間に複数の圧縮室を形成する渦巻状のラップが立設された旋回スクロールとからなっている。
【0004】
そして、固定スクロールの鏡板には半径方向に離間して2箇所の油噴射口が穿設され、各油噴射口の半径方向間隔は旋回スクロールのラップ部歯厚と等しいか、または若干大となるように設定されている。各油噴射口は1箇所の油供給口に連通されている。また、中心部側の油噴射口は、旋回スクロールのラップが固定スクロールのラップの外側に接触した状態で旋回外側圧縮室と連通するように設置されている。
【0005】
また、従来の密閉形スクロール圧縮機として、特許文献2に開示されたヘリウム用密閉形スクロール圧縮機がある。この密閉形スクロール圧縮機は、密閉容器内に、圧縮機部とこの圧縮機部を駆動する電動機部とを収納して配置している。
【0006】
この圧縮機部は、円板状鏡板に渦巻状のラップを立設した固定スクロールと円板状鏡板に渦巻状のラップを立設した旋回スクロールとをこれらのラップを互いに内側にして噛み合わせ、旋回スクロールをクランク軸の偏心部に係合し、旋回スクロールを自転することなく固定スクロールに対し旋回運動させ、固定スクロールには中心部に開口する吐出口と外周部に開口する吸入口を設け、吸入口よりヘリウムガスを吸入し、固定スクロール及び旋回スクロールにて形成される圧縮室を中心に移動させ容積を減少してヘリウムガスを圧縮して吐出口より吐出するように構成している。
【0007】
また、圧縮機部は、圧縮途中の圧縮室に流体を注入するインジェクション管を密閉容器を貫通して固定スクロールのラップ歯底面に設けた1つの油注入用ポートに接続した油注入機構部を備えている。そして、この油注入用ポートの径は旋回スクロールのラップ幅より大きく設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公平1−17669号公報
【特許文献2】特開2004−232481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したスクロール圧縮機では油注入用ポートは固定スクロールのラップ歯底面に対して垂直方向に設定加工されており、圧縮室に冷却油を注入した際に高速のガス流に押し流されてしまい、十分にガスと冷却油がミキシングされず、ガスと冷却油の熱交換が不十分なため、圧縮機の吐出ガス温度が十分に下がらないという問題があった。
【0010】
例えば、圧縮室に固定スクロールのラップ歯底面に対して垂直方向に冷却油をある量注入した際にガスと冷却油の熱交換が不十分なために、ガスの温度が上昇し、固定スクロール及び旋回スクロールが過大な熱膨張をする。すると、互いが摩耗し合い、動力損失が発生して消費電力の増加を招く。
【0011】
また、例えば、圧縮室に固定スクロールのラップ歯底面に対して垂直方向に冷却油をある量注入した際にガスと冷却油の熱交換が不十分なため、ヘリウムガスを冷却するよう更に多くの冷却油を注入する必要がある。この場合には圧縮動力の増加による消費電力の増加を招く。
【0012】
さらに、冷却油の注入量が増加したとき、旋回スクロールのラップが注入用ポートを塞ぐとすれば油撃現象が発生し、油配管系の配管振動と配管応力の増大、延いては圧縮機騒音及び圧縮機全体の振動の増大を招く。
【0013】
つまり、ガスと冷却油との熱交換を改善することで、以上の問題についても改善することができる。
【0014】
そこで、本発明は、ガスと冷却油との熱交換を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記本発明の目的は、
旋回スクロールと固定スクロールとで冷媒を圧縮する圧縮室を形成し、
前記固定スクロールは、前記圧縮室内にガス或いは液体を注入するための注入ポート
を有する密閉形スクロール圧縮機において、
前記注入用ポートが前記固定スクロールの台板に対して斜めに形成されている
ことを特徴とする密閉形スクロール圧縮機
によって達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガスと冷却油との熱交換の程度をより高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】圧縮機の全体構成を示す縦断面図。
【図2】図1の固定スクロールの平面図。
【図3】図2の固定スクロールの縦断面図。
【図4】図1の旋回スクロールの平面図。
【図5】図4の旋回スクロールの縦断面図。
【図6】図7のA1−A2結線での断面を吸込側から見た図。
【図7】図1の固定スクロールと旋回スクロールを組み合わせた状態を示す平面断面図。
【図8】図7に対して旋回スクロールをさらに回転させたときの平面断面図。
【図9】第1実施形態における旋回外側圧縮室及び旋回内側圧縮室の吸入容積とクランク軸回転角と関係を説明する図。
【図10】本発明の第2実施形態の固定スクロールと旋回スクロールを組み合わせた状態を示す平面断面図。
【図11】図10のA3−A4結線での断面を吸込側から見た図。
【図12】ヘリウム用密閉形スクロール圧縮機を備えた冷凍装置の全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の複数の実施形態について図を用いて説明する。各実施形態の図における同一符号は同一物または相当物を示す。
【0019】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を図1から図12を用いて説明する。
【0020】
図12において、冷凍装置300は、縦型タイプのヘリウム用密閉形スクロール圧縮機100(以下、適宜、圧縮機100と略す。)と、冷凍機110とを備えて構成される。圧縮機100と冷凍機110とは、配管120,130を介して接続されることにより、作動冷媒を循環させる冷凍サイクル140を構成する。冷凍サイクル140には、ガス冷却器150,油分離器160,油吸着器170が配設されている。また、油分離器160から油吸着器170及び冷凍機110をバイパスして圧縮機100に油を戻す配管180が設けられている。このような冷凍サイクル140の作動冷媒としてはヘリウムガスが用いられる。
【0021】
一方、圧縮機100には、圧縮機100内の潤滑油を外部に抜き出して冷却し、再び圧縮機100に戻して循環させる油インジェクション回路190が設けられている。油インジェクション回路190には、油冷却器200,油流量調整弁210を備え、これらを配管220,230で接続することにより構成される。この油インジェクション回路190は、圧縮機100内の底部に溜まる潤滑油23と連通する油取り出し管30と、圧縮機100の圧縮室8に連通する油インジェクション管31との間に接続されている。
【0022】
密閉容器1の底部に溜められた潤滑油23は、密閉容器1の内部空間の吐出圧力によって油取り出し管30から外部に取り出され、配管220を介して油冷却器200に導かれ、ここで外部空気により冷却された後、油流量調整弁210,配管230を経て油インジェクション管31に至るという油配管経路を流れる。油インジェクション管31内の油は、油注入用ポート22(図1参照)を経て圧縮機100の圧縮室8に注入されることにより、圧縮機100内に戻される。
【0023】
一方、圧縮機100から吐出管20を通して吐出されたヘリウムガスは、配管310を介してガス冷却器150に流入し、ここで冷却された後、配管320を介して油分離器160に導かれる。ここで油がある程度分離されたヘリウムガスは、配管330を介して油吸着器170に流入し、さらに油の残分が分離された後、配管130を介して冷凍機110に導入される。冷凍機110に導入されたヘリウムガスは、その内部で断熱膨張されることにより冷熱源となる。冷凍機110から吐出されたヘリウムガスは、配管120,吸入配管340を通り、常温の吸入ガスとして圧縮機100に直接戻される。ここで、吸入配管340には、配管180が接続されており、油分離器160で分離された油が戻されるようになっている。
【0024】
次に、図1を主に参照しながら圧縮機100の全体構成について説明する。圧縮機100は、縦長の密閉容器1の中に、圧縮機部4と電動機となるモータ部3とを上下に配置して収納している。密閉容器1は、上蓋2aと筒状のケーシング部である胴部2bと底部2cとを組み合わせて構成される。圧縮機部4は、固定スクロール5と旋回スクロール6とを互いに噛み合わせることで、密閉空間となる圧縮室8を形成している。なお、本実施例では、いわゆる非対称ラップ型のスクロール圧縮機が対象である。
【0025】
固定スクロール5は、円板状の鏡板5aと、これに直立したインボリュート曲線あるいはこれに近似の曲線に形成されたラップ5bとからなり、その中心部に吐出口10、外周部に吸入口15を備えている。この吸入口15は、吸入管17に連通される第1の吸入口15aと、この吸入口15aに連通される第2の吸入口15bとからなっている(図2及び図3参照)。なお、吸入管17と固定スクロール5との間には高圧部と低圧部とをシールするOリング53が設けられている。
【0026】
旋回スクロール6は、円板状の鏡板6aと、これに直立し、固定スクロールのラップ5bと同一形状に形成されたラップ6bと、鏡板6aの反ラップ面に形成されたボス部6cとからなっている。フレーム7の中央部に主軸受40が形成され、その主軸受40にクランク軸14が支承されている。クランク軸先端の偏心軸14aは、ボス部6cに旋回運動が可能なように挿入されている。
【0027】
固定スクロール5はフレーム7に複数本のボルトによって固定されている。旋回スクロール6はオルダムリング及びオルダムキーよりなるオルダム機構38によってフレーム7に支承され、固定スクロール5に対して自転しないで旋回運動をするように形成されている。クランク軸14にはモータ軸14bが一体に連設され、このモータ軸14bがモータ部3に直結されている。
【0028】
ヘリウムガスを冷却する油を供給する油インジェクション管31は、密閉容器1の上蓋2aを貫通して固定スクロール5の鏡板5aに設けた油注入用ポート22に連通するように設けられている。この油注入用ポート22は、旋回スクロール6に対向して開口している。ヘリウムガスを密閉容器1内に吸入する吸入管17は、密閉容器1の上蓋2aを貫通して固定スクロール5の吸入口15に接続されている。
【0029】
密閉容器1内は、固定スクロール5の吐出口10が開口する吐出室1aとモータ室1bとがフレーム7によって上下に区画して形成されている。吐出室1aは固定スクロール5及びフレーム7の外縁部の第一通路18a,18bを介してモータ室1bと連通され、モータ室1bは密閉容器1の胴部2bを貫通する吐出管20と連通されている。
【0030】
吐出管20は第1流路18a,18bの位置に対してほぼ反対側の位置に設置されている。モータ室1bは、ステータ3aの上部空間1b1とステータ3aの下部空間1b2とに区分され、この空間1b1,1b2を連通するように、ステータ3aと胴部2bの内壁面2mとの間に油とガスの流路部となる通路25b,25cが形成されている。また、モータエアーギャップの隙間25gも通路となり、この隙間25gを介して上部空間1b1と下部空間1b2とが連通されている。なお、旋回スクロール6の旋回運動に伴い生じる遠心力を相殺するために、バランスウェイト9aと副バランスウェイト9bとがクランク軸14とロータ3bとに設けられている。
【0031】
このような容器内部の空間1b1,1b2のガスと冷却油の混合体の流れによって、例えば60℃〜70℃の比較的低温なインジェクション油によるモータ部3への直接冷却が可能となる。ガス中の油は、上部空間1b1において、ガスから分離されて下方の第二通路25bを介して周囲部材を冷却しながら流下する。
【0032】
旋回スクロール6の鏡板6aの背面には、圧縮機部4とフレーム7で囲まれた空間36(以下、中間圧室36という。)が形成されている。この中間圧室36には旋回スクロール6の鏡板6aを貫通する中間圧穴6dを介して吸入圧力と吐出圧力との中間の圧力が導入され、旋回スクロール6を固定スクロール5に押付ける軸方向の付与力が与えられる。
【0033】
ヘリウムガスと分離された油は潤滑油23として密閉容器1の底部に溜められる。この潤滑油23は、密閉容器1の内部空間の高圧の圧力(吐出圧力)と中間圧室36の中間圧力との差庄により、油吸上管27へ吸い上げられた後、クランク軸14内の中央穴13を上昇し、中央穴13の上端から旋回軸受32へ給油されると共に、横穴51を介して副軸受39,主軸受40へ給油される。旋回軸受32,主軸受40へ給油された潤滑油23は、中間圧室36,中間圧穴6dを通じてスクロールラップで形成される圧縮室8へ注入され、ここで圧縮ガスと混合され、ヘリウムガスと共に吐出室1aへ吐出される。なお、密閉容器1の底部に溜められた潤滑油23の油面上にはフォーミング防止用油板47が設けられ、圧縮機100の起動時に発生する潤滑油23のフォーミング現象を防止するようになっている。
【0034】
密閉容器1の底部には、潤滑油23を器外へ取り出す油取り出し管30が設けられている。密閉容器1の底部に溜められた潤滑油23は、密閉容器1の内部空間の高圧圧力(吐出圧力)と圧縮途中の圧縮室8の圧力(吐出圧力よりも低い圧力)との差圧により、油取り出し管30の流入部30aから油取り出し管30内に流入する。この潤滑油23は冷却器200にて適宜冷却された後、油インジェクション管31及び油注入用ポート22を経て圧縮室8へ注入される。
【0035】
このようにして圧縮室8へ注入された油は、圧縮室8内においてヘリウムガスの冷却作用及びスクロールラップ先端部等の摺動部を潤滑する役目を果す。そして、この油は作動ガスと共に、吐出口10より吐出室1aへ吐出され、下方のモータ室1bへと移動する。
【0036】
次に、図2及び図3を主に参照しながら、固定スクロール5の構成について説明する。
【0037】
固定スクロール5は、上述したように、円板状の鏡板5aと、これに直立したラップ5bとからなり、その中心部に吐出口10、外周部に吸入口15(15a,15b)を備えている。ラップ5bは、ラップ終端部の点58,59までそれぞれインボリュート曲線のラップ外周面562,ラップ内周面561を形成し、吸入室5fにおいて吸入口15と接続されている。Okは座標中心点であり、Xk,Ykは座標軸を表している。
【0038】
点53と54は圧縮室8を形成する最外周部の接点位置を示す。即ち、点53と点54は、旋回スクロール6のラップ終端部がラップ外周面562及びラップ内周面561にそれぞれ接触して圧縮室8を形成する際の接点位置となる。
【0039】
旋回スクロールラップ外側曲線661と固定スクロールラップ内側曲線561とにより形成される旋回外側圧縮室8a側の行程容積Vthsは、旋回スクロールラップ内側曲線662と固定スクロールラップ外側曲線562とにより形成される旋回内側圧縮室8b側の行程容積Vthkに対して増大する。固定スクロールラップ内側曲線561の旋回外側圧縮室8aを形成する最外周部の接点位置となる点54は、従来技術に対してπrad分の巻き角度を延長している。
【0040】
ラップ始端部(最内周部)の点51と点52は、円弧半径Rk1により滑らかに接続されている。また内側曲線561のラップ始端部側の点55は、点52と円弧半径Rk2の凹部形状により滑らかに接続されている。5kは鏡板5a面に設けた潤滑のためのリング状油溝であり、5p,5rは鏡板5a面に設けた潤滑のための円弧状油溝である。
【0041】
固定スクロール5の歯溝寸法(図2のDt寸法)は次の式(1)で与えられる。
【0042】

【0043】
次に、図4及び図5を主に参照しながら、旋回スクロール6の構成について説明する。
【0044】
旋回スクロール6は、上述したように、円板状の鏡板6aと、これに直立したラップ6bとからなり、ラップ終端部6kの点64,点65までそれぞれインボリュート曲線のラップ内周面662とラップ外周面661を形成している。点64と点65は円弧半径Rs3にて滑らかに接続されている。ラップ端部6nの点61と点62及び点63とは、円弧半径Rs1の凸部形状と円弧半径Rs2の凹部形状とで滑らかに接続されている。なお、Osは座標中心点であり、Xs,Ysは座標軸である。
【0045】
溝6mは、固定スクロール5の吐出口10と対向する位置に設けられ、吐出口10と同等の大きさになる凹部で形成されている。
【0046】
旋回スクロール6において、鏡板部6aを軸方向に貫通する単一の中間圧穴6dと、鏡板6a内に軸中心方向に設けた放射状の横穴6hとこれに連通してラップ方向に開口する軸方向の排油穴6fとからなる単一の排油機構とを備え、中間圧穴6dと排油穴6fの開口部を外側曲線661に沿った位置に配置している。中間圧穴6dは、圧縮室8a,8bが圧力的にπradずれた構成のために、旋回スクロール6の内側曲線662に沿った位置に設定していない。内側曲線662に沿った位置に設定すると、更にπrad内側の位置となるように穴6d,6fを旋回軸受側方向に位置するようになり、穴加工が難しくなるという加工上の弊害が発生するためである。
【0047】
次に、図1〜図3,図6,図7を主に参照しながら、油注入機構部について説明する。
【0048】
圧縮機本体の冷却及びヘリウムガスの断熱圧縮時の発生熱による温度上昇を冷却すること及びラップ間の摺動部の潤滑とシールのために、冷却用の油インジェクション構造を備えている。冷却用液体として油を使用する油注入用ポート22が鏡板5aに設けられている。この油注入用ポート22の固定スクロールラップ歯溝底面側の開口部を油注入用ポート開口部22aとし、油インジェクション管31との接続側の開口部を油注入用ポート開口部22bとする。これによって、旋回外側圧縮室8a及び旋回内側圧縮室8bのそれぞれのガスと冷却油の流れを乱すことによってミキシング機能を促進させ、ガスと冷却油の熱交換機能を高めることができる。この作用によって、必要な冷却油の注入量を低減できる。
【0049】
一方、圧縮機内での冷却効果を高めることによって圧縮室間の内部漏れ、再圧縮動力が低減できる効果をもたらす。このため、ガスと冷却油の圧縮動力の低減が図られ、圧縮機全体の消費電力の低減ができる。また、熱交換機能が高まることで固定スクロール5と旋回スクロール6の過大な熱膨張を防止して、摺動による固定スクロールラップ5bと旋回スクロールラップ6bの磨耗を防止できることになる。
【0050】
油注入用ポート22は、旋回スクロール外側曲線661と固定スクロール内側曲線561とで形成する旋回外側圧縮室8a及び旋回スクロール内側曲線662と固定スクロール外側曲線562とで形成する旋回内側圧縮室8bへ油を注入するものであり、ラップ歯溝底面5mの溝幅に対してほぼ中央の位置に設けられている。
【0051】
そして、油注入用ポート開口部22aは固定スクロール外側曲線562側の側壁部に進向するように、油注入用ポート22の中心線Zkをラップ歯溝底面5mに対して固定スクロール内側曲線561側へ角度θ1(約60度)斜め方向に噴射する形状である。また、油注入用ポート22の流路長さL5を適切な長さに設定している。
【0052】
油インジェクション管31と固定スクロール5との間には、高圧室である吐出室1aと圧縮室8との間をシールするためのOリング31eが設けられている。また、油注入用ポート22の穴径Φd1はラップ厚さtと同等もしくはそれより大きく設定されている。この構造により、図6に示すように、旋回内側圧縮室8bに注入された油は流路抵抗によって生じるガスの低速領域T1(点線範囲)となる固定スクロール外側曲線562側の側壁部を沿って旋回スクロールの歯溝底面へと移動し、ガスと冷却油との流れを乱し、ミキシング機能を促進させるので、ガスと冷却油の熱交換の程度を高めることが可能となる。
【0053】
そして、上述したように消費電力の低減と圧縮機の信頼性の向上が図られるものである。さらに、ガスと冷却油の熱交換を高めることは冷却油注入時における注入量の低減により油撃現象を更に防止できるので、油配管系の配管振動と配管応力の低減と圧縮機騒音及び圧縮機全体の振動を低減できる効果が得られる。
【0054】
油注入用ポート22の位置は、点5j(図2参照)に対してスクロールラップ巻き角度にして、約2×πrad分だけ内側の位置に設定している。これらの位置に設定することにより、ヘリウムガスの吸入行程が終了した直後に、油注入作用(油インジェクション)を行うために、旋回外側圧縮室8a及び旋回内側圧縮室8bでのインジェクション油の注入による加熱作用を低減せしめ、圧縮機の体積効率の向上効果が得られる。
【0055】
油インジェクション管31はエルボ構造となっている。油インジェクション管31は、密閉容器1の上蓋2aを貫通して固定スクロール5の鏡板5aに設けた油注入用ポート22に連通している。
【0056】
次に、図7〜図9を主に参照しながら、圧縮機部4について説明する。
【0057】
旋回スクロール6が旋回を始めると、旋回スクロール6と固定スクロール5との接触点が中心部に向かって移動する。このとき、図7及び図8に示すように、旋回スクロール6のラップ端部6nのラップ外周面661と固定スクロール5のラップ内周面662とで囲まれる空間には旋回外側圧縮室8aが形成され、旋回スクロール6のラップ内周面662と固定スクロール5のラップ外周面562とで囲まれる空間には旋回内側圧縮室8bが形成される。旋回外側圧縮室8a,旋回内側圧縮室8bは、中心部に向かって順次容積を縮小して移動し、その結果、吸入口15から吸い込まれた低圧のヘリウムガスが圧縮されて吐出口10から密閉容器1内の空間1aに吐出される。
【0058】
ここで、旋回外側圧縮室8aの吸入容積と旋回内側圧縮室8bの吸入容積は、交互に増減する関係、つまり、一方が増大すると他方が減少するように変化する。
【0059】
旋回外側圧縮室8aにて設定される設定容積比Vrsは、下記式(2)により定義される。ここで、設定容積比Vrsとは、旋回外側圧縮室8aの行程容積Vthsを圧縮室8の吐出行程直前の旋回外側圧縮室8a側の最内室の容積Vd1で除した値を意味する。
【0060】

【0061】
一方、旋回内側圧縮室8bにて設定される設定容積比Vrkは、下記式(3)により定義される。ここで、設定容積比Vrkとは、旋回内側圧縮室8bの行程容積Vthkを圧縮室の吐出行程直前の旋回内側圧縮室8b側の最内室の容積Vd1で除した値を意味する。
【0062】

【0063】
旋回外側圧縮室8aと旋回内側圧縮室8bの行程容積は、その幾何学的形状により、Vths>Vthkの関係となる。なお、旋回スクロール6の6mは、固定スクロール5側の吐出口10と同等の大きさになる凹部の溝形状である。
【0064】
また、旋回外側圧縮室8aの設定容積比Vrsと旋回内側圧縮室8bの設定容積比Vrkとをほぼ同等に設定せしめるものである。
【0065】
図4のラップ終端部の位置6kがラップ巻き終わり角度λ1sとλ1kとなり、ラップ端部6nの位置が上記のラップ巻き始め角度λSSとλSkとなる。歯溝寸法(図4のDt寸法)は固定スクロールラップと同様に次の式(4)で与えられる。
【0066】

【0067】
前記のDt寸法とRs2寸法またはRk2寸法とは、ほぼ、Dt=Rs2×2.0またはDt=Rk2×2.0の関係となっている。
【0068】
ここで、旋回外側圧縮室8aの吸入容積が最大となるときの状態と、旋回内側圧縮室8bの吸入容積が最大となるときの状態について、図7,図8を用いて説明する。
【0069】
図7に示すように、旋回外側圧縮室8aの吸入容積が最大となるときには、旋回スクロール6の終端部のラップ外周面661が固定スクロール5のラップ内周面561と接触し、このとき点65と点54は接触する。図7は旋回外側圧縮室8aの最大密閉容積を形成するタイミング時となる吸い込み完了時の状態である。点65が点54と重なった状態で、油注入用ポート開口部22aは旋回スクロールラップ歯先部に塞がれた状態の位置関係となる。
【0070】
これに対し、図8に示すように、旋回内側圧縮室8bの吸入容積が最大となるときには、旋回スクロール6の終端部のラップ内周面662が固定スクロール5のラップ外周面562と接触し、このとき点64と点53は接触する。図8は、旋回内側圧縮室8bの最大密閉容積を形成するタイミング時となる吸い込み完了時の状態である。この後、クランク軸が180度旋回すると、図7の状態に移行することになる。
【0071】
係る位置関係とすることにより、旋回外側圧縮室8aと旋回内側圧縮室8bへの作動室内のガス冷却機能とシール機能の両面をほぼ均等に機能せしめることができる。また、両圧縮室の圧縮効率(図示効率)を同等に向上できるものである。
【0072】
本実施形態では、固定スクロール5において、旋回スクロール6の終端部との接点位置となる点53,54の巻き角度(巻き終わり角度)を、点53の巻き角度に対して点54の巻き角度をπrad延長させるとともに、旋回スクロール6において、点64,65の巻き角度(巻き終わり角度)を固定スクロール5の点54の巻き角度と一致させるように、スクロールラップの形状を形成している。
【0073】
図9に、本実施形態における旋回外側圧縮室8aと旋回内側圧縮室8bの吸入容積とクランク軸の回転角との関係を示す。本実施形態のスクロールラップの形状によれば、旋回外側圧縮室8aの吸入容積が最大となる吸い込み完了のタイミングはB点であり、旋回内側圧縮室8bの吸入容積が最大となる吸い込み完了のタイミングはA点となる。このため、両圧縮室8が最大容積となるタイミングは180度の回転位相差を生じることになり、吸い込み完了のタイミングは、クランク軸14の1回転中で2回となる。
【0074】
本実施形態では、旋回外側圧縮室8a,旋回内側圧縮室8bが圧力的にπradずれた構成のために、中間圧穴6dと排油穴6fを旋回スクロール6の内側曲線662に沿った位置に配置していない。内側曲線662に沿った位置に配置すると、更にπrad内側の位置となるように、中間圧穴6d,排油穴6fを旋回軸受け方向に配置しなければならず、穴加工が難しくなるという加工上の弊害が生じるためである。中間圧穴6d,排油穴6fの位置は、実用的には、おおよそ次の式(5)〜(7)の位置となる。
【0075】

【0076】
中間圧穴6dの旋回外側圧縮室8aに開口する開口部は、旋回スクロール6のラップ外周部の吸入室5fに間欠的に連通する連通角度をΔλd(1.0〜1.5rad)とし、更に、排油穴6fは、0.5rad分、吸入室5fに間欠的に連通するようにする。これにより、横穴6hと排油穴6rとからなる排油機構は、旋回スクロール6の外周部に溜まった油を圧力差により圧縮室8側に逃がし、その外周部での油撹拌動力を低減することができるため、圧縮機のモータの消費電力を軽減することができる。
【0077】
すなわち、ヘリウムガスは油の中に溶け込まないため、ヘリウム用密閉形スクロール圧縮機においては、例えば、油の粘度は約20cStであるのに対し、ヘリウムガスを用いない冷凍・空調用のスクロール圧縮機においては、作動ガスが油の中に溶け込み希釈されるため、例えば、油粘度が約10cStまで低下する。そして、旋回スクロール6の外周部において油撹拌動力の大きさは油粘度に比例して大きくなるため、圧縮機100の油撹拌動力は、本実施形態の排油機構がない場合、約2倍の撹拌損失動力を生じることになる。したがって、ヘリウム用密閉形スクロール圧縮機においては、このような大きな油撹拌動力を低減するために、本実施形態の排油機構が必要である。
【0078】
このように排油穴6fが吸入室5fと間欠的に連通するようになると、吸入室5fは最も低い吸入圧力であるため、旋回スクロール6の外周部の圧力(中間圧力)と吸入室5fの圧力との差圧により、旋回スクロール6の外周部に溜まった油を圧縮室8側に逃がしやすくなり、油撹拌動力の低減が容易になる。
【0079】
また、本実施形態では、図7に示すように、旋回スクロール6のラップ終端部の外周面が固定スクロールの内周面と接して点65と点54が重なったときに、旋回スクロール6のラップ歯先部が油注入用ポート開口部22aのほぼ中央に位置するように設定している。更に、クランク軸が180度回転し、図8に示すように、旋回スクロール6のラップ終端部の内周面が固定スクロールの外周面と接して点64と点53が重なったときに、図7と同様、旋回スクロール6のラップ歯先部が油注入用ポート開口部22aのほぼ中央に位置するように設定している。
【0080】
このような位置関係とすることにより、旋回外側圧縮室8aと旋回内側圧縮室8bに対してガス冷却機能とシール機能の両方をほぼ均等に機能させるとともに、両圧縮室8の圧縮効率を同等に向上させることができる。
【0081】
また、油注入用ポート開口部22aは、吸入完了寸前までに旋回スクロール6のラップ外周側の吸入室5fと間欠的に連通し、クランク軸14の1回転中に吸い込み工程が180度の位相を変えて2回行われる。すなわち、中間圧穴6dと排油穴6fは、図7の状態では下流側に位置する油注入用ポート22と圧縮室8を介して連通していないが、図8の状態になると、旋回外側圧縮室8aを介して連通する。そして、油注入用ポート22は中間圧穴6d及び排油穴6fと間欠的に連通する位置に配置されている。これにより、圧縮室8に溜まった油の起動初期時における油圧縮を未然に防止する機能を持たせることができる。また、吸入室5fにて油溜まりを効果的に排出できるため、吸入室5fでの油撹拌損失の低減作用が得られるというヘリウム用密閉形スクロール圧縮機の固有の効果がある。
【0082】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図10,図11を用いて説明する。
【0083】
この第2実施形態は、次に述べる点で第1実施形態と相違するものであり、その他の点については第1実施形態と基本的には同一であるので、重複する説明を省略する。
【0084】
この第2実施形態では、油注入用ポート開口部22aは冷却油が固定スクロール内側曲線561側の側壁部に進行するように、油注入用ポート22の中心線Zkをラップ歯溝底面5mに対して固定スクロール外側曲線562側へ角度θ2(約60度)斜め方向に噴射する形状である。この構造により、旋回外側圧縮室8aに注入された油は流路抵抗によって生じるガスの低速領域T2(点線範囲)である固定スクロール内側曲線561側の側壁部を沿って旋回スクロールの歯溝底面へと移動し、ガスと冷却油の流れを乱し、ミキシング機能を促進させ、ガスと冷却油の熱交換機能を高めることが可能となる。そして、第1実施形態と同様に消費電力の低減と圧縮機の信頼性の向上が図られるものである。さらに、ガスと冷却油の熱交換を高めることは冷却油注入時における注入量の低減により油撃現象を更に防止できるので、油配管系の配管振動と配管応力の低減と圧縮機騒音及び圧縮機全体の振動を低減できる効果が得られる。
【0085】
(第3実施形態)
上述した実施形態では、非対称ラップを適用した圧縮機について説明したが、対称ラップ形状のスクロール圧縮機においても、本発明の適用となるもので同様の作用効果が得られるものである。
【0086】
上述した実施形態では、作動ガスがヘリウムガスであって冷却媒体として油を注入する圧縮機について説明したが、本発明は、フロンガス冷媒を使用する冷凍・空調用スクロール圧縮機に対しても、冷却用インジェクション配管構造および固定スクロール側に設けた冷却のための液冷媒あるいは湿り状態の冷媒注入用構造としても適用できるものである。具体的には、作動ガスがフロン冷媒ガス、例えば、R22,R410A,R404A冷媒等の場合においては、冷却用液体が高圧フロン用液冷媒であり、あるいは圧縮室にガス或いは液冷媒ないし湿り状態のフロン冷媒が注入される圧縮機構造であることを特徴とするものである。
【0087】
以上のとおりであり、各実施例は、旋回外側圧縮室及び旋回内側圧縮室のそれぞれのガスと冷却油の流れを乱すことによってミキシング機能を促進させ、ガスと冷却油の熱交換機能を高め、つまり、熱交換の程度をより高めることができる。そして、冷却に必要な最小インジェクション量を注入できる構造によって、消費電力の低減ができ、しかも油配管系の配管振動と配管応力の低減と圧縮機騒音及び圧縮機全体の振動の低減による圧縮機の信頼性の向上ができる。
【0088】
また、旋回外側圧縮室及び旋回内側圧縮室のそれぞれのガスと冷却油の流れを乱すことによってミキシングを促進させ、ガスと冷却油の熱交換を高めると共に、圧縮動力の低減と消費電力の低減ができる。
【符号の説明】
【0089】
1 密閉容器
1a 吐出室
1b,1b1,1b2 モータ室
2b ケーシング部
3 モータ部
4 圧縮機部
5 固定スクロール
5a,6a 鏡板
5b,6b ラップ
5f 吸入室
6 旋回スクロール
6n ラップ端部
7 フレーム
8 圧縮室
8a 旋回外側圧縮室
8b 旋回内側圧縮室
10 吐出口
14 クランク軸
14a 偏心軸
15,15a,15b 吸入口
17 吸入管
20 吐出管
22 油注入用ポート
22a,22b 油注入用ポート開口部
23 潤滑油
30 油取り出し管
31 油インジェクション管
32 旋回軸受
39 副軸受
40 主軸受
561 固定スクロールのラップ内周面
562 固定スクロールのラップ外周面
Rk1 固定スクロールラップ始端部の円弧半径
Rs1 旋回スクロールラップ始端部の円弧半径
Vrs 旋回外側圧縮室の設定容積比
Vths 旋回外側圧縮室の行程容積
Vrk 旋回内側圧縮室の設定容積比
Vthk 旋回内側圧縮室の行程容積
θ1,θ2 油注入用ポートの傾き


【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回スクロールと固定スクロールとで冷媒を圧縮する圧縮室を形成し、
前記固定スクロールは、前記圧縮室内にガス或いは液体を注入するための注入ポート
を有する密閉形スクロール圧縮機において、
前記注入用ポートが前記固定スクロールの台板に対して斜めに形成されていることを特徴とする密閉形スクロール圧縮機。
【請求項2】
前記密閉形スクロール圧縮機の作動ガスがヘリウムガスであり、前記圧縮室に油が注入されることを特徴とする請求項1記載の密閉形スクロール圧縮機。
【請求項3】
前記密閉形スクロール圧縮機の作動ガスがフロン冷媒であり、前記圧縮室にガス或いは液ないし湿り状態の冷媒が注入されることを特徴とする請求項1記載の密閉形スクロール圧縮機。
【請求項4】
前記注入用ポートの穴径の寸法が、対向する旋回スクロールのラップ厚さの寸法以下であることを特徴とする請求項3記載の密閉形スクロール圧縮機。
【請求項5】
前記注入用ポートの穴径の寸法が、対向する旋回スクロールのラップ厚さの寸法に対して大きいことを特徴とする請求項2記載の密閉形スクロール圧縮機。
【請求項6】
注入するガス或いは液体が、前記固定スクロールの歯底から、前記圧縮室を形成する前記固定スクロールラップの側壁部に向かって斜めに噴射するように、前記注入用ポートが前記台板に対して斜めに形成されていることを特徴とする請求項1記載の密閉形スクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−219791(P2012−219791A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89703(P2011−89703)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】