説明

対物行動推定装置およびサービス提供システム

【構成】 対物行動推定装置10は、コンピュータ30を含み、環境に設置された位置検出システム12によって検出される人間(16)および対象物(18)の位置情報に基づいて、環境内に存在する人間が特定の対象物に対してどのような行動を行っているかを推定する。コンピュータ30は、位置検出システム12から、人間および対象物の所定時間分の位置履歴データを取得し、この位置履歴データを用いて人間および対象物との相互間に関する特徴量を算出する。そして、算出した特徴量を判別式に与えることにより、人間の対物行動を推定する。
【効果】 特定の対象物に対する人間の行動を短時間で推定できるので、その行動に素早く対応したサービスを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は対物行動推定装置およびサービス提供システムに関し、特にたとえば、特定の対象物に対して人間がどのような行動を行っているかを推定する、新規な対物行動推定装置およびサービス提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄積された個人の位置情報や移動情報に基づいて、その人間がどのような行動を行っているかを推定する技術が提案されている。たとえば、特許文献1の技術では、GPS端末を利用して対象者の位置情報を取得し、移動履歴と移動にかかった時間とに基づいて、「あまり興味のない探索行動」、「ぶらぶらしている探索行動」、「興味の対象がある探索行動」といった対象者の行動状態を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−152655号公報 [G06Q 50/00]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術などの従来の行動推定装置では、特定の対象物と人間との位置関係は考慮されておらず、特定の対象物に対して人間がどのような行動を行っているかを推定する技術は存在しない。
【0005】
また、特許文献1の技術では、対象者の行動を推定するために、対象者を数分以上観測する必要があるので、対象者の行動に素早く対応したサービスを提供することができない。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、対物行動推定装置およびサービス提供システムを提供することである。
【0007】
この発明の他の目的は、特定の対象物に対して人間がどのような行動を行っているかを推定できる、対物行動推定装置およびサービス提供システムを提供することである。
【0008】
この発明のさらに他の目的は、特定の対象物に対して人間がどのような行動を行っているかを短時間の観測で推定できる、対物行動推定装置およびサービス提供システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、この発明を何ら限定するものではない。
【0010】
第1の発明は、特定の対象物に対して人間がどのような行動を行っているかを推定する対物行動推定装置であって、人間および対象物の所定時間分の位置履歴を取得する位置履歴取得手段、位置履歴取得手段によって取得した位置履歴から人間と対象物との相互間に関する特徴量を示す第1特徴量を算出する第1特徴量算出手段、および第1特徴量算出手段によって算出した第1特徴量を用いて対象物に対して人間が行っている行動を推定する行動推定手段を備える、対物行動推定装置である。
【0011】
第1の発明では、対物行動推定装置(10)は、コンピュータ(30)を含み、環境に設置された位置検出システム(12)によって検出される人間(16)および対象物(18)の位置情報に基づいて、環境内に存在する人間が特定の対象物に対してどのような行動を行っているかを推定する。位置履歴取得手段(32,36,S7,S15)は、位置検出システムから、人間および対象物の所定時間分、たとえば数秒ないし数十秒間分の位置履歴を取得する。第1特徴量算出手段(32,S19)は、人間および対象物の位置履歴データから、人間と対象物との相互間に関する特徴量である第1特徴量を算出する。たとえば、人間の位置座標と対象物の位置座標との距離や、対象物に対する人間の相対速度などを算出する。行動推定手段(32,38,S21)は、第1特徴量を用いて人間の行動を推定する。たとえば、閾値を用いて定義した判別式に第1特徴量を与えたり、サポートベクタマシン(SVM)等の学習アルゴリズムを用いたりすることによって、対象物に対して人間が行っている行動(対物行動)を推定する。
【0012】
第1の発明によれば、人間および対象物の位置履歴を検出し、人間と対象物との相互間に関する特徴量を用いることによって、対象物に対して人間が行っている行動を短時間で推定できる。したがって、その人間の対物行動に対応したサービスを素早く提供することができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明に従属し、位置履歴取得手段によって取得した位置履歴から人間の移動に関する特徴量を示す第2特徴量を算出する第2特徴量算出手段を備え、行動推定手段は、さらに第2特徴量を用いて対象物に対して人間が行っている行動を推定する。
【0014】
第2の発明では、第2特徴量算出手段(32,S9)は、人間(16)の位置履歴データから、人間の移動に関する特徴量である第2特徴量を算出する。たとえば、人間の移動距離、速度、角度および分散などに関する特徴量を算出する。行動推定手段(32,38,S21)は、さらに第2特徴量を用いて、人間の対物行動を推定する。
【0015】
第2の発明によれば、第1特徴量に加えて第2特徴量も算出し、人間の対物行動の推定に用いるので、より正確に人間の対物行動を推定できる。また、より多くの種類の対物行動を推定できるようになる。
【0016】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、対象物は環境内を移動する移動体を含み、位置履歴取得手段によって取得した位置履歴から移動体の移動に関する特徴量を示す第3特徴量を算出する第3特徴量算出手段を備え、行動推定手段はさらに第3特徴量を用いて対象物に対して人間が行っている行動を推定する。
【0017】
第3の発明では、対象物(18)は環境内を移動する移動体(18b)を含む。第3特徴量算出手段(32,S17)は、移動体の位置履歴データから、移動体の移動に関する特徴量である第3特徴量を算出する。たとえば、移動体の移動距離、速度、角度および分散などに関する特徴量を算出する。行動推定手段(32,38,S21)は、さらに第3特徴量を用いて、人間の対物行動を推定する。
【0018】
第3の発明によれば、第1特徴量に加えて第3特徴量も算出し、人間の対物行動の推定に用いるので、より正確に人間の対物行動を推定できる。また、より多くの種類の対物行動を推定できるようになる。
【0019】
第4の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の対物行動推定装置、および対物行動推定装置によって推定された人間の行動に応じたサービスを提供するサービス提供手段を備える、サービス提供システムである。
【0020】
第4の発明では、サービス提供システム(100)は、対物行動推定装置(10)を含み、環境に設置された位置検出システム(12)によって検出される人間(16)および対象物(18)の位置情報に基づいて、環境内に存在する人間が特定の対象物に対してどのような行動を行っているかを推定する。そして、サービス提供手段(10,14,S23)は、推定した人間の対物行動に応じたサービスをその人間に対して提供する。
【0021】
第4の発明によれば、第1の発明と同様に、環境内に存在する人間が特定の対象物に対して行っている行動を短時間で推定できるので、人間の対物行動に素早く対応したサービスを提供できる。
【0022】
第5の発明は、第4の発明に従属し、サービス提供手段は、音声および身体動作を用いてコミュニケーションを実行する機能を備えるコミュニケーションロボットを含む。
【0023】
第5の発明では、サービス提供手段(10,14,S23)は、コミュニケーションロボット(14,18b)を含む。たとえば、コミュニケーションロボットが或る地点で待機しているときに、人間(16)が近づいてきている場合には、コミュニケーションロボットも人間に向かって移動するように制御される。
【0024】
第5の発明によれば、対象物に対して人間がどのような行動を行っているかを推定することによって、現場の状況に応じたコミュニケーションロボットの制御が可能となるので、コミュニケーションロボットや人間の動きの無駄を省くことができ、より高度なサービスをより素早く提供できる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、人間および対象物の位置履歴を検出し、位置履歴から算出した人間と対象物との相互間に関する特徴量を利用することによって、環境内に存在する人間が特定の対象物に対してどのような行動を行っているかを短時間で推定できる。したがって、人間の行動に応じたサービスをその人間に対して素早く提供できる。
【0026】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明のサービス提供システムの一実施例を示す図解図である。
【図2】図1の位置検出システム12が適用された環境の様子を概略的に示す図解図である。
【図3】図1の位置検出システム12の電気的な構成を示す図解図である。
【図4】図1の位置検出システムが検出する位置履歴データの一例を示す図解図である。
【図5】「対象物に近づいている」人間の対物行動の一例を示す図解図である。
【図6】「対象物から離れていく」人間の対物行動の一例を示す図解図である。
【図7】「対象物についていく」人間の対物行動の一例を示す図解図である。
【図8】「対象物を待っている」人間の対物行動の一例を示す図解図である。
【図9】「対象物と対話している」人間の対物行動の一例を示す図解図である。
【図10】図1の対物行動推定装置の動作の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1を参照して、この発明の一実施例であるサービス提供システム(以下、「提供システム」という。)100は、対物行動推定装置(以下、「推定装置」という。)10、および位置検出システム12を含む。提供システム100は、イベント会場、ショッピングセンタ、美術館および遊園地などの環境に適用され、位置検出システム12によって検出される位置情報に基づいて、人間16の対物行動、つまり特定の対象物18に対して人間16がどのような行動を行っているかを推定する。そして、推定した人間16の対物行動に基づいて、コミュニケーションロボットや携帯電話などのサービス提供装置14に指示を与える等して、その対物行動に適したサービスをその人間16に対して提供する。
【0029】
なお、特定の対象物18は、提供システム100が適用される環境内に存在する物体であれば特に限定されないが、好ましくは人間16が何らかの働きかけを行う物体、或いは人間16に何らかの働きかけを行う物体が特定の対象物18として適宜選択される。また、特定の対象物18には、環境内に固定的に設けられる設置物18aと、環境内を移動可能な移動体18bとを含む。設置物18aとしては、自動販売機、展示棚および案内標識(地図)などが挙げられ、移動体18bとしては、コミュニケーションロボット(人間型ロボット)等の移動ロボット、および犬や猫などの動物などが挙げられる。
【0030】
先ず、位置検出システム12について説明する。図2は、位置検出システム12が適用された環境の様子を概略的に示す図解図であり、図3は、位置検出システム12の電気的な構成を示す図解図である。図2および図3に示すように、位置検出システム12は、人間16および対象物18の位置を検出するためのシステムであり、位置検出処理を実行するコンピュータ20、環境内に設置される複数のレーザレンジファインダ(LRF)22および無線IDタグリーダ24、ならびに人間16および移動体18b(移動可能な対象物18)に装着される無線IDタグ26を含む。
【0031】
位置検出システム12のコンピュータ20は、パーソナルコンピュータやワークステーションのような汎用のコンピュータである。このコンピュータ20には、たとえばRS-232Cのような汎用のインタフェースを介して、複数のLRF22および無線IDタグリーダ24が接続される。これらの機器22,24によって検出された情報を含むデータは、コンピュータ20に送信され、その検出時刻と共にコンピュータ20のメモリの所定領域や外部のデータベースに適宜記憶される。また、コンピュータ20のメモリには、XY2次元平面座標系で表される環境の地図データ、各機器22,24の位置データ、および設置物18a(固定的に設けられる対象物18)の位置データ等が予め記憶されている。設置物18aの位置座標(位置履歴)が必要なときには、このコンピュータ20のメモリに記憶された位置データが適宜読み出されて利用される。
【0032】
LRF22は、レーザ光線を利用した画像センサであり、パルスレーザを照射し、そのレーザ光が物体に反射して戻ってきた時間からその物体との距離を瞬時に測定するものである。LRF22としては、SICK社製のLRF(型式 LMS 200)などを用いることができる。LRF22は、たとえば、高さ約90cmの台座の上に設置され、主として環境内に存在する人間16の位置座標を検出するために利用される。
【0033】
この実施例では、コンピュータ20は、たとえば37.5回/秒の頻度でLRF22からのセンサ情報を取得し、パーティクルフィルタや人形状モデルによって人間16の腰部の位置座標や身体の方向などを推定する。この推定方法の詳細については、本件出願人が先に出願した特願2008−6105号に記載されているので参照されたい。
【0034】
無線IDタグ26は、環境内に存在する各人間16および各移動体18bに装着される。無線IDタグ26としては、たとえばRFID(Radio Frequency Identification)タグを用いることができる。RFIDは、電磁波を利用した非接触ICタグによる自動認識技術のことである。具体的には、RFIDタグは、識別情報用のメモリや通信用の制御回路等を備えるICチップおよびアンテナ等を含む。RFIDタグのメモリには、人間16および移動体18bを識別可能な情報が予め記憶され、その識別情報が所定周波数の電磁波・電波などによってアンテナから出力される。
【0035】
無線IDタグリーダ24は、たとえば環境内の天井に敷設されたレールに設置され、上述の無線IDタグ26からの出力情報を検出する。具体的には、無線IDタグリーダ24は、無線IDタグ26から送信される識別情報の重畳された電波を、アンテナを介して受信し、電波信号を増幅し、当該電波信号から識別情報を分離し、当該情報を復調(デコード)する。また、無線IDタグリーダ24は、検出した電波強度に基づいて、無線IDタグ26との距離を検出する。
【0036】
この実施例では、コンピュータ20は、たとえば5回/秒の頻度で無線IDタグリーダ24によって検出される無線IDタグ26からのセンサ情報(識別情報および距離情報)を取得する。そして、取得した識別情報に基づいて、その無線IDタグ26を装着している人間16および移動体18bを特定する。また、同一の無線IDタグ26に対して3つの無線IDタグリーダ24から取得した距離情報と、予め記憶した無線IDタグリーダ24の位置データとに基づいて、その無線IDタグ26を所持している人間16および移動体18bの位置座標を特定する。
【0037】
そして、位置検出システム12のコンピュータ20は、各機器22,24によって検出されたセンサ情報(測位データ)或いはセンサ情報から推定した情報を統合し、各人間16および各移動体18bの位置座標(x,y)をその検出時刻tに対応付けて、メモリ或いはデータベースに記憶する。つまり、人間16および移動体18b(識別情報またはID番号)ごとに、時系列データとしてその位置履歴が記憶される。たとえば、時刻tnにおける位置をPtn(xn,yn)としたとき、時刻t0からtnまでの軌跡は、点列Pt0,Pt1,…,Ptnとして表される。すなわち、各人間16および各移動体18bの位置履歴データ(移動軌跡データ)は、図4に示すように、xy平面上のn+1個の点列で表され、各点(図4では丸印で示している)は、その点が観測された時刻の情報を含んでいる。
【0038】
なお、位置検出システム12は、各人間16および各移動体18bを識別して位置座標ないし位置履歴を検出できるものであれば、上述の構成のものに限定されず、たとえば、赤外線センサ、ビデオカメラ、床センサ、或いはGPS等を適宜利用するものであってもよい。また、移動体18bが環境の地図データを参照して自己位置を認識しながら移動するもの、たとえば自律移動型のロボット等である場合には、移動体18bから位置検出システム12のコンピュータ20に対して、自身の位置履歴データを送信させるようにしてもよい。
【0039】
推定装置10は、上述のような位置検出システム12から送信される人間16および対象物18の位置履歴データに基づいて、環境内に存在する人間16が行っている行動を推定する。換言すると、人間16と対象物18との位置関係の変化に基づいて、人間16の対物行動を推定する。
【0040】
図1に戻って、推定装置10は、位置履歴データから特徴量を算出し、人間16の対物行動を推定するコンピュータ30を含む。コンピュータ30は、たとえば、CPU32、メモリ34、通信装置36、入力装置および表示装置などを備える汎用のパーソナルコンピュータやワークステーションである。コンピュータ30のメモリ34は、HDDやROMおよびRAMを含む。HDDないしROMには、推定装置10の動作を制御するためのプログラムが記憶されており、CPU32は、このプログラムに従って処理を実行する。RAMは、CPU32の作業領域またはバッファ領域として使用される。通信装置36は、たとえば無線LANやインタネットのようなネットワークを介して、外部のコンピュータ(位置検出システム12やサービス提供装置14等)と無線または有線で通信するためのものである。
【0041】
また、推定装置10のコンピュータ30には、判別式DB38が接続される。なお、判別式DB38は、図1に示すようにコンピュータ30の外部に設けられてもよいし、コンピュータ30内のHDD等に設けられてもよいし、コンピュータ30と通信可能なネットワーク上の他のコンピュータに設けられてもよい。
【0042】
判別式DB38には、人間16および対象物18の位置履歴データから算出した特徴量に基づいて、環境内に存在する人間16が行っている対物行動を推定するための判別式が記憶される。人間16の対物行動を推定する際には、判別式DB38に記憶した判別式に応じて後述の特徴量が適宜算出される。この判別式の具体例については後述する。
【0043】
このような構成の提供システム100では、上述のように、位置検出システム12によって環境内に存在する人間16および対象物18の位置座標或いは位置履歴に関するデータが検出される。そして、推定装置10によって位置履歴データから特徴量が算出され、この特徴量に基づいて人間16の対物行動が推定される。
【0044】
推定装置10によって位置履歴データから算出される特徴量には、人間16と対象物18との相互間に関する特徴量(第1特徴量)と、人間16の移動に関する特徴量(第2特徴量)と、移動体18bの移動に関する特徴量(第3特徴量)とが含まれる。なお、設置物18aに関しては、位置座標は常に固定されている、つまり位置履歴データは常に同じ位置座標を示しているので、設置物18aの移動に関する特徴量は算出されない。設置物18aの位置履歴データ(位置座標)は、第1特徴量の算出に利用される。
【0045】
人間16と対象物18との相互間に関する特徴量には、人間16の位置座標と対象物18の位置座標との距離、対象物18に対する人間16の相対速度または人間16に対する対象物18の相対速度、人間16と対象物18とを結ぶ線と人間16または対象物18の進行方向とがなす角の角度、および人間16の進行方向と対象物18の進行方向とがなす角の角度などがある。
【0046】
また、人間16または移動体18bの移動に関する特徴量には、たとえば、距離、速度、角度および分散に関する特徴量がある。図4を参照して、距離に関する特徴量は、0番目の点とk番目の点とのユークリッド距離、x方向距離およびy方向距離などである。速度に関する特徴量は、0番目の点とn番目の点との間の速度などであり、たとえば、k番目の点とk+1番目の点間の速度をk=0〜k=nまで求めたものの平均および分散(値のばらつき)である。角度に関する特徴量は、0番目の点とk番目の点とn番目の点とがなす角度などである。分散に関する特徴量は、0番目の点からk番目の点までのx座標の分散およびy座標の分散などである。
【0047】
もちろん、これら以外の特徴量を算出して人間16の対物行動の推定に利用することもできる。また、位置履歴データから算出される特徴量に加えて、他のデータを参照して対物行動を推定することもできる。たとえば、対象物18がコミュニケーションロボットの場合、コミュニケーションロボットが或る動作を実行しているときには、その実行中の動作を参照して人間16の対物行動を推定してもよい。
【0048】
この実施例では、上述のような特徴量を適宜用いて、「対象物18に近づいている」、「対象物18から離れていく」、「対象物18についていく」、「対象物18を待っている」および「対象物18と対話している」等の人間16が行っている対物行動(或いは人間16の対物状況ないし対物状態)を推定する。以下、図5−図9を参照して、人間16の対物行動の推定方法について説明する。
【0049】
人間16が「対象物18に近づいている」または「対象物18を追いかけている」状態は、図5に示すように、その行動を行っている間の或る一定時間(たとえば時刻t0からtnまでの数秒ないし数十秒間)において、人間16の移動方向に対象物18が存在し、かつ人間16と対象物18との距離が縮まっていく状態であると考えられる。したがって、人間16および対象物18を結ぶ線αと人間16の進行方向βとがなす角が所定角度(DegA_TH)よりも小さく、かつ人間16と対象物18との距離の減少量が所定量(Decrese_TH)よりも大きいときには、その人間16は対象物18に近づいている、または対象物18を追いかけていると判定できる。この場合、判別式DB38には、たとえば、“人間および対象物を結ぶ線と人間の進行方向とがなす角の角度<DegA_TH,かつ人間と対象物との距離の減少量>Decrese_TH ”を表わす判別式が記述される。
【0050】
人間16が「対象物18から離れていく」状態は、図6に示すように、その行動を行っている間の或る一定時間において、人間16の移動方向に対象物18が存在せず、かつ人間16と対象物18との距離が大きくなっていく状態であると考えられる。したがって、人間16および対象物18を結ぶ線αと人間16の進行方向βとがなす角が所定角度(DegL_TH)よりも小さく、かつ人間16と対象物18との距離の増加量が所定量(Increse_TH)よりも大きいときには、その人間16は対象物18から離れていくと判定できる。この場合、判別式DB38には、たとえば、“人間および対象物を結ぶ線と人間の進行方向とがなす角の角度>DegL_TH,かつ人間と対象物との距離の増加量>Increse_TH ”を表わす判別式が記述される。
【0051】
人間16が「対象物18についていく」状態は、図7に示すように、その行動を行っている間の或る一定時間において、人間16の移動方向と対象物18の移動方向とが同じであり、かつ人間16と対象物18との距離が変化しない状態であると考えられる。したがって、人間16の移動方向βと対象物18の移動方向γとがなす角が所定角度(DegF_TH)よりも小さく、かつ人間16と対象物18との距離δの変化量が所定量(DistF_TH)よりも小さいときには、人間16は対象物18についていっていると判断できる。この場合、判別式DB38には、たとえば、“人間の移動方向と対象物の移動方向とがなす角の角度<DegF_TH,かつ人間と対象物との距離の変化量<DistF_TH ”を表わす判別式が記述される。
【0052】
人間16が「対象物18を待っている」状態は、図8に示すように、その行動を行っている間の或る一定時間において、対象物18の移動方向に人間16が存在し、かつ人間16と対象物18との距離が縮まっていき、かつ人間16の位置が変わらない状態であると考えられる。したがって、人間16および対象物18を結ぶ線αと対象物18の進行方向γとがなす角が所定角度(DegW_TH)よりも小さく、かつ人間16と対象物18との距離の減少量が所定量(Decrese_TH)よりも大きく、かつ人間の移動量が所定量(DistI_TH)よりも小さいときには、人間16は対象物18を待っていると判定できる。この場合、判別式DB38には、たとえば、“人間および対象物を結ぶ線と対象物の進行方向とがなす角の角度<DegW_TH,かつ人間と対象物との距離の減少量>Decrese_TH,かつ人間の移動量<DistI_TH ”を表わす判別式が記述される。
【0053】
人間16が「対象物18と対話している」状態は、図9に示すように、その行動を行っている間の或る一定時間において、人間16の位置が変わらず、かつ人間16が対象物18の方向を向いており、かつ対象物18の動作状態が対話中の状態であると考えられる。したがって、人間16の移動量が所定量(DistI_TH)よりも小さく、かつ人間16および対象物18を結ぶ線αと人間16の体の向きεとがなす角が所定角度(DegB_TH)よりも小さく、かつ対象物16の動作状態が対話中であるときには、その人間16は対象物18と対話していると判定できる。この場合、判別式DB38には、たとえば、“人間の移動量<DistI_TH,かつ人間および対象物を結ぶ線と人間の体の向きとがなす角の角度<DegB_TH,かつ対象物の動作状態が「対話中」 ”を表わす判別式が記述される。
【0054】
なお、上述の人間16の対物行動およびその判別式はあくまでも例示であり、推定装置10(提供システム100)は、他の対物行動を推定するようにしてもよいし、他の判別式を用いて対物行動を推定するようにしてもよい。また、上述のような閾値を用いて定義した判別式によって人間16の対物行動を推定することに限定されず、たとえば、サポートベクタマシン(SVM)やニューラルネットワーク(NN)等の公知の学習アルゴリズムと学習データとを用いて人間16の対物行動を推定することもできる。この場合にも、人間16および対象物18の位置履歴データから算出した上述のような特徴量が適宜用いられる。
【0055】
このように、人間16および対象物18の位置履歴を検出し、人間16と対象物18との相互間に関する特徴量、人間16の移動に関する特徴量および対象物18(移動体18b)の移動に関する特徴量を算出して、これらの特徴量を判別式に適宜与えることによって、環境内に存在する人間16が行っている対物行動を正確に推定することができる。なお、対物行動の推定は、人間16と対象物18との相互間に関する特徴量のみを用いて推定することもできるが、それと共に人間16の移動に関する特徴量や対象物18の移動に関する特徴量、或いは他のデータを用いることによって、より正確に、またより多くの種類の対物行動を推定できるようになる。
【0056】
また、このような人間16の対物行動の推定は、数秒ないし数十秒の短時間、人間16および対象物18の位置履歴を検出するだけで実行できるので、その人間16の行動に素早く対応したサービスを提供することができる。
【0057】
たとえば、ロボットをサービス提供装置14として環境内に配置しておき、推定した人間16の対物行動に応じたサービスをロボットに提供させるようにするとよい。ロボットとしては、音声および身体動作を用いてコミュニケーションを実行する機能を備える相互作用指向のもの(コミュニケーションロボット)を用いるとよく、たとえば本件出願人が開発したロボビー(登録商標)を用いることができる。また、たとえば、携帯電話やPDA等の端末をサービス提供装置14として人間16に所持させておき、推定した人間16の対物行動に応じた情報をその端末に提示することもできる。
【0058】
具体的には、人間16が環境内に設置されている案内地図や展示棚(設置物18a)などに近づいている場合には、その推定を行った時点でロボットを設置物18aの場所に移動させるようにし、案内地図の見方を説明させたり、展示棚に展示された展示物の内容を説明させたりするとよい。たとえば、人間16が設置物18aの場所に到着してからロボットを移動させると、ロボットが人間16に近づくまでに時間がかかってしまい、サービスの提供が遅れてしまう。また、ロボットを設置物18aの場所に常在させておくと、ロボットは他のサービスを提供できなくなってしまう。しかし、この実施例のように、人間16の対物行動を推定(予測)して、それに応じてロボットを制御することによって、ロボットが人間16に近づくまでの時間を短縮でき、より速やかにサービスを提供できるようになる。また、ロボットの手が空いているときには、他のサービスを人間16に対して提供することもできるので、ロボットは効率よく働くことができる。
【0059】
また、ロボットが或る地点で待機しているときに、人間16が近づいてきている場合には、ロボットをその人間16に向かって移動させたり、ロボットが環境内を巡回しているときに、人間16が追いかけてくる場合には、ロボットを立ち止まらせてその人間16を待たせたりするとよい。さらに、ロボットが或るサービスを提供しようとして人間16に向かって移動しているときに、人間16がロボットを待っている状態であれば、そのまま人間16に向かって近づかせるようにするとよい。一方、ロボットが人間16に向かって移動しているときに、人間16がロボットから離れていく状態であれば、サービスは必要ないと判断して移動を中断させるようにするとよい。
【0060】
このように、対象物18に対して人間16がどのような行動を行っているかを推定することによって、現場の状況に応じたロボットの制御が可能となり、ロボットや人間16の動きの無駄を省くことができ、より高度なサービスをより素早く提供できるようになる。なお、この場合、ロボットはサービス提供装置14として機能すると共に、対象物18としても機能している。
【0061】
以下には、上述のような推定装置10の動作の一例をフロー図を用いて説明する。具体的には、推定装置10のコンピュータ30のCPU32が、図10に示すフロー図に従って、特定の対象物18に対して人間16が行っている行動を推定する処理(行動推定処理)を実行する。図10に示すように、コンピュータ30のCPU32は、ステップS1で、環境内に人間16および対象物18が存在するか否かを判断する。たとえば、通信装置36を介して、環境内に存在する無線IDタグ26の識別情報を位置検出システム12から取得し、人間16および対象物18が環境内に存在するかどうかを判断する。ステップS1で“NO”のとき、すなわち環境内に人間16および対象物18が存在しないときには、そのままこの行動推定処理を終了する。一方、ステップS1で“YES”のとき、すなわち環境内に人間16および対象物18が存在するときには、ステップS3に進む。
【0062】
ステップS3では、人間16のID番号を示す変数iおよび対象物18のID番号を示す変数kを初期化する(i=0,k=0)。たとえば、ステップS1で複数の人間16および複数の対象物18の存在が確認され、それら各人間16のID番号iを0〜Lとし、各対象物18のID番号kを0〜Mとした場合、i=0およびk=0に設定する。
【0063】
続くステップS5では、i=Lか否かを判断する。つまり、環境内に存在する全ての人間16に対して対物行動を推定したか否かを判断する。ステップS5で“YES”のとき、すなわち環境内に存在する全ての人間16に対して行動推定を行ったときには、この行動推定処理を終了する。一方、ステップS5で“NO”のとき、すなわち環境内に行動推定を行っていない人間16が存在するときには、ステップS7に進む。
【0064】
ステップS7では、人間16の所定時間分の位置履歴を取得する。具体的には、位置検出システム12から、その人間16の位置履歴を、たとえば時刻t0からtnまでの数秒ないし数十秒間分、通信装置36を介して取得する。このとき、ID番号がiである人間16(つまり人間i)の時刻がjのときの位置座標は、式Traj_ij(i=0…L,j=t0…tn)で表現され、図4に示すように、各人間16の位置履歴データは、時刻の情報を含むxy平面上のn+1個の点列で表される。
【0065】
続くステップS9では、ステップS7で取得した人間16の位置履歴データから、第2特徴量、つまり人間16の移動に関する特徴量を算出する。たとえば、人間の移動距離、速度、角度および分散などに関する特徴量を算出する。なお、このステップS9で算出する第2特徴量は、判別式DB38に記憶された判別式に応じて適宜決定される。
【0066】
ステップS11では、k=Mか否かを判断する。つまり、環境内に存在する全ての対象物18に対するその人間16の対物行動を推定したか否かを判断する。ステップS11で“YES”のとき、すなわち環境内に存在する全ての対象物18に対してその人間16の行動推定を行ったときには、ステップS13に進み、変数iをインクリメントしてステップS5に戻る。一方、ステップS11で“NO”のとき、すなわち環境内に存在する全ての対象物18に対してその人間16の行動推定を行っていないときには、ステップS15に進む。
【0067】
ステップS15では、対象物18の所定時間分の位置履歴を取得する。具体的には、位置検出システム12から、その対象物18の位置履歴を、たとえば時刻t0からtnまでの数秒ないし数十秒間分、通信装置36を介して取得する。このとき、対象物18が移動体18bである場合には、ID番号がkである対象物18(対象物k)の時刻がjのときの位置座標は、式Traj_kj(k=0…M,j=t0…tn)で表現され、人間16と同様に、対象物18の位置履歴データは、時刻の情報を含むxy平面上のn+1個の点列で表される。また、対象物18が設置物18aである場合には、どの時刻においても位置座標は同じであるので、対象物18の位置履歴データは、xy平面上の1個の点で表される。
【0068】
続くステップS17では、ステップS15で取得した対象物18の位置履歴データから、第3特徴量、つまり移動体18bの移動に関する特徴量を算出する。このステップS17で算出する第3特徴量も、判別式DB38に記憶された判別式に応じて適宜決定される。なお、対象物18が設置物18aである場合には、このステップS17は実行されず、そのままステップS19に進む。
【0069】
ステップS19では、ステップS7およびS15で取得した人間16および対象物18の位置履歴から、第1特徴量、つまり人間16と対象物18との相互間に関する特徴量を算出する。たとえば、人間16の位置座標と対象物18の位置座標との距離や、人間16と対象物18とを結ぶ線と人間16または対象物18の進行方向とがなす角の角度などを算出する。このステップS19で算出する第1特徴量も、判別式DB38に記憶された判別式に応じて適宜決定される。
【0070】
続くステップS21では、ステップS9、S17およびS19で算出した第1−3特徴量を、判別式DB38から読み出した判別式に与え、その人間16が対象物18に対して行っている行動を推定する。たとえば、人間16および対象物18を結ぶ線と人間16の進行方向とがなす角の角度<DegA_TH、かつ人間16と対象物18との距離の減少量>Decrese_THであるときには、その人間16はその対象物18に近づいていると判定する。
【0071】
そして、ステップS23では、その人間16の行動パターンを、ステップS21で算出した対物行動、たとえば「対象物に近づいている」に設定し、続くステップS25で変数kをインクリメントしてステップS11に戻る。
【0072】
なお、コンピュータ30または他のコンピュータは、ステップS23で設定された人間16の行動パターンに応じて、コミュニケーションロボットや携帯電話などのサービス提供装置14に指示を与える。つまり、サービス提供装置14に制御指示を与える制御指示処理を実行して、その人間16の対物行動に適したサービスを提供する。
【0073】
この実施例によれば、人間16および対象物18の位置履歴を検出し、人間16と対象物18との相互間に関する特徴量、人間16の移動に関する特徴量および対象物18(移動体18b)の移動に関する特徴量を判別式に与えることによって、対象物18に対して人間16が行っている行動を短時間で推定できる。したがって、その人間16の対物行動に対応したサービスを素早く提供することができる。
【0074】
なお、上述の実施例では、位置検出システム12と推定装置10とで、異なるコンピュータ20,30を用いてそれぞれの処理(位置検出処理、行動推定処理および制御指示処理など)を分担して行うようにしたが、1つのコンピュータが一括してこれらの処理を行うこともできるし、3つ以上のコンピュータでさらに処理を分担して行うこともできる。
【符号の説明】
【0075】
10 …対物行動推定装置
12 …位置検出システム
14 …サービス提供装置
16 …人間
18,18a,18b …対象物
20 …位置検出システムのコンピュータ
22 …レーザレンジファインダ
24 …無線IDタグリーダ
26 …無線IDタグ
30 …対物行動推定装置のコンピュータ
38 …判別式DB
100 …サービス提供システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の対象物に対して人間がどのような行動を行っているかを推定する対物行動推定装置であって、
前記人間および前記対象物の所定時間分の位置履歴を取得する位置履歴取得手段、
前記位置履歴取得手段によって取得した前記位置履歴から、前記人間と前記対象物との相互間に関する特徴量を示す第1特徴量を算出する第1特徴量算出手段、および
前記第1特徴量算出手段によって算出した前記第1特徴量を用いて、前記対象物に対して前記人間が行っている行動を推定する行動推定手段を備える、対物行動推定装置。
【請求項2】
前記位置履歴取得手段によって取得した前記位置履歴から、前記人間の移動に関する特徴量を示す第2特徴量を算出する第2特徴量算出手段を備え、
前記行動推定手段は、さらに前記第2特徴量を用いて、前記対象物に対して前記人間が行っている行動を推定する、請求項1記載の対物行動推定装置。
【請求項3】
前記対象物は、環境内を移動する移動体を含み、
前記位置履歴取得手段によって取得した前記位置履歴から、前記移動体の移動に関する特徴量を示す第3特徴量を算出する第3特徴量算出手段を備え、
前記行動推定手段は、さらに前記第3特徴量を用いて、前記対象物に対して前記人間が行っている行動を推定する、請求項1または2記載の対物行動推定装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の対物行動推定装置、および
前記対物行動推定装置によって推定された人間の行動に応じたサービスを提供するサービス提供手段を備える、サービス提供システム。
【請求項5】
前記サービス提供手段は、音声および身体動作を用いてコミュニケーションを実行する機能を備えるコミュニケーションロボットを含む、請求項4記載のサービス提供システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−224878(P2010−224878A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71586(P2009−71586)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト、コミュニケーション知能(社会・生活分野)の開発、公共空間における情報支援知能モジュール群の開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】