説明

封着用ガラスフリット

1000℃以下で金属部材やセラミックス部材を安定的に接合でき、且つその接合状態を常温から700乃至800℃の温度範囲で安定的に保つことができる封着用ガラスフリットを提供し、固体酸化物型燃料電池の接合に用いるものである。40〜70mol%のSiO、5〜20mol%のAl、4〜20mol%のNaO、4〜20mol%のKO、5〜20mol%のZnO、及び0.5〜5mol%のZrOであり、NaOとKOは、総量が12mol%以上の組成で、ガラスの重量として300gとなる分量の原料を調合し、白金ルツボを用いて1550℃で8時間溶融後、ステンレス製の金型枠にキャストし、650℃で2時間保持した後、5℃/分で常温まで冷却したものを乳鉢で粉砕し、粒経を10〜20μmに揃えた粉体を封着用ガラスフリットとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、封着用ガラスフリットに関する。
【背景技術】
セラミックス部材や金属部材を構成要素とする複合体の製造に際し、セラミックス部材や金属部材を接合して複合体とするための接合用材料として封着用ガラスフリットが広く用いられている。この封着用ガラスフリットの製造方法としては、まず、用途に応じた組成となるように複数種の無機材料を混合し、これらを高温下で溶融して組成比を均一とした後、冷却してガラス組成物を得、この得られたガラス組成物を粉砕してガラス粉末とし、必要に応じてフィラー(無機質結晶を含む充填剤)等の添加物を混合させる方法が知られている。
また、複合体の製造方法として、上述のようにして得られた封着用ガラスフリットを、例えばペースト状にした後に、セラミックス部材に塗布し、高温下で封着用ガラスフリットを軟化させることによってセラミックス部材に融着させ、融着された封着用ガラスフリットを介してセラミックス部材に金属部材を接合させて、これらを冷却する方法が知られている。
従来の一般的な封着用ガラスフリットとしては、600℃未満の低温域で用いられるBやPをベースにした封着用ガラスフリットと、1000℃以上の高温域で用いられる結晶化ガラスを利用した封着用ガラスフリットとが知られている。
さらに近年、複合体の中には作動温度が700乃至800℃近傍となる高温設備等の部材として用いることを要求されるものが増えてきており、この要求を満たす封着用ガラスフリットとしては、上記作動温度近傍で機械的及び化学的安定性を有する封着用ガラスフリットが知られている(例えば、特開2000−63146号公報参照)。
しかしながら、高温設備等は作動していないと常温まで冷却されるため、常温から高温設備等の作動温度近傍までの範囲で金属部材やセラミックス部材を安定的に接合する封着用ガラスフリットでなければ高温設備等に用いる部材の封着状態を安定的に保つことは困難である。従って、封着用ガラスフリットが高温設備等の作動温度近傍で機械的及び化学的安定性を有するものであっても、高温設備等に用いる部材の封着状態を安定的に保つものとしては不十分である。
一方、従来より用いられている600℃未満の低温域で用いられるBやPをベースにした封着用ガラスフリットは800℃程度の温度域では軟化してしまうことから、700乃至800℃近傍で封着状態を安定して保つことは困難である。
また、同じく従来より用いられている1000℃以上の温度域で用いられる結晶化ガラスを利用した封着用ガラスフリットは、使用温度域で行われた結晶化の程度によって結晶化ガラスの膨張率が大きく変化するため、大面積を封着する場合に、膨張率のバラツキが発生して封着状態を安定して保つことが困難となる。
本発明の目的は、1000℃以下で金属部材やセラミックス部材を安定的に接合でき、且つその接合状態を常温から700乃至800℃の温度範囲で安定的に保つことができる封着用ガラスフリットを提供することにある。
【発明の開示】
上記目的を達成するために、本発明によれば、金属部材又はセラミックス部材を接合する封着用ガラスフリットにおいて、、前記ガラスフリットの必須成分は、SiO:40〜70mol%、Al:5〜20mol%、NaO:4〜20mol%、KO:4〜20mol%、ZnO:5〜20mol%、及びZrO:0.5〜5mol%であり、NaOとKOは、総量が12mol%以上である封着用ガラスフリットが提供される。
本発明の封着用ガラスフリットにおいて、SiO:55〜65mol%、Al:5〜12mol%、NaO:4〜20mol%、KO:4〜20mol%、ZnO:5〜15mol%、ZrO:0.5〜3mol%、及びCoO:0〜3mol%であり、NaOとKOは、総量が15mol%以上であるのが好ましい。
または、LiO:0〜5mol%、MgO:0〜5mol%、CaO:0〜5mol%、SrO:0〜5mol%、BaO:0〜5mol%、TiO:0〜5mol%、B:0〜5mol%、CoO:0〜5mol%を総量10mol%以下添加されたことが好ましい。さらに、添加されたMgO、CaO、SrO、BaOの総量が4mol%以下であるのがより好ましい。
また、NaOとKOは、KOに対するNaOのmol%比率が2.0〜4.0の間にあることが好ましい。
また、NaOとKOは、KOに対するNaOのmol%比率が0.5〜2.0の間にあることが好ましい。
また、NaOとKOは、総量が15.5mol%以上であることが好ましい。
また、降伏点の温度が640℃以上であることが好ましい。
また、フィラーとして、アルミナ、コージェライト、シリカ、ジルコン、チタン酸アルミニウム、ホルステライト、ムライト、β−ユークリプタイト、β−スポジューメンの群から選択された少なくとも1種類を0.1〜10質量%添加されるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施の形態に係る封着用ガラスフリットによって接合された固体酸化物型燃料電池の構成要素の概略図である。
図2は、封着用ガラスフリットの融着性の評価の測定に用いられるステンレス基板及びリングの斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態に係る封着用ガラスフリットを構成する各成分の働きを説明する。
SiOは、ガラスを作製する場合の主成分であり、40mol%未満ではガラス化せず、70mol%を超えると1100℃でも充分な融着ができない。
Alは、700乃至800℃付近での剛性を保つための必須成分であり、5mol%未満では700乃至800℃付近での充分な剛性が得られず、20mol%より多いと融着時に失透し易くなる。
NaOは、封着用ガラスフリットの膨張率や融着温度を調整する上で必須成分であり、4mol%未満では1000℃以下での膨張率が90×10−7/℃より小さく、また、1100℃付近でも充分に金属部材及びセラミックス部材に封着用ガラスフリットを融着ができず、一方、20mol%より多いと、800℃付近での剛性が保てなくなる。
Oは、NaOと同様に膨張率や融着温度を調整する上で必須成分であり、4mol%未満では1000℃以下での膨張率が90×10−7/℃より小さく、また、1100℃付近でも充分に金属部材及びセラミックス部材に封着用ガラスフリットを融着ができず、一方、20mol%より多いと、800℃付近での剛性が保てなくなる。
また、NaOとKOの総量を15mol%以上にすると、常温から700乃至800℃までの範囲で90×10−7/℃以上の膨張率を維持することができ、NaOとKOの総量を15.5mol%以上にすると、常温から700乃至800℃までの範囲で90×10−7/℃以上の膨張率を維持することができ、さらに、KOに対するNaOのmol%比率が0.5〜2.0の間であると、失透しにくくなる。一方、KOに対するNaOのmol%比率が2.0〜4.0の間であると、金属部材中のCrと反応してもKCrOが生じにくい。KCrOは融点が975℃と800℃より高いため、接合した部分がKCrOの生成で剥離する可能性が高くなる。
ZnOは、700乃至800℃での剛性を保ちつつ、融着温度を下げるための必須成分であり、5mol%未満ではその効果が見られず、20mol%より多いと融着時に失透し易くなる。
ZrOは、700乃至800℃での剛性を保ちつつ、融着温度を下げるための必須成分であり、0.5mol%未満ではその効果が見られず、5mol%より多いと融着時に失透し易くなる。
また、上述したガラスフリットの必須成分、即ち、SiO:40〜70mol%、Al:5〜20mol%、NaO:4〜20mol%、KO:4〜20mol%、ZnO:5〜20mol%、及びZrO:0.5〜5mol%であり、このNaOとKOは、総量が12mol%以上とすると、1000℃での粘度が融着に適した10000p以下とすることができ、もって、1000℃以下で金属部材やセラミックス部材を安定的に接合でき、また、かかる組成の封着用ガラスフリットは常温から、転移点より30℃低い温度までの平均膨張率を90×10−7/℃以上として封着用ガラスフリットの膨張率を金属部材やセラミックス部材のものに近づけることにより、接合状態を常温から700乃至800℃の温度範囲で安定的に保つことができる。
また、上記ガラスフリットに、SiO:55〜65mol%、Al:5〜12mol%、NaO:4〜20mol%、KO:4〜20mol%、ZnO:5〜15mol%、ZrO:0.5〜3mol%、及びCoO:0〜3mol%であり、NaOとKOは、総量が15mol%以上であると、700℃から800℃の温度で保持していても安定した接合状態を保つことができる。
また、上記ガラスフリットに、LiO:0〜5mol%、MgO:0〜5mol%、CaO:0〜5mol%、SrO:0〜5mol%、BaO:0〜5mol%、TiO:0〜5mol%、B:0〜5mol%、CoO:0〜5mol%を総量10mol%以下添加されると、700乃至800℃までの封着用ガラスフリットの剛性を保ちつつ、融着温度を下げることができること、前記MgO、CaO、SrO、BaOの総量が4mol%以下であると、常温から700乃至800℃の間での失透を起こりにくくすることができる。
LiO、MgO、CaO、SrO、BaO、TiO、B、及びCoOは、必須成分ではないが、ガラスフリット中の総量が10mol%を超えると、失透し易くなる。
また、LiOは、NaOやKOと組み合わせて使用することにより、膨張率や融着温度を調整することができる。但し、ガラスフリット中の含有量が5mol%を超えると800℃付近での剛性を保てなくなる。
さらに、MgO、CaO、SrO、BaOなどのアルカリ金属酸化物は、700乃至800℃での剛性を保ちつつ、融着温度を下げるための調整成分として用いることができる。但し、上記各成分の総量が5mol%より多いと、融着時に失透し易くなり、また、MgO、CaO、SrO、BaOの総量を4mol%より多い、常温から700乃至800℃の間で失透し易くなる。
また、TiOは、700乃至800℃での剛性を保ちつつ、融着性を向上させることができる。但し、5mol%より多いと、封着用ガラスフリットの膨張率が90×10−7/℃未満となり、さらには融着時に失透し易くなる。
また、Bは、封着用ガラスフリットとセラミックス部材、又は封着用ガラスフリットと金属部材との濡れ性が改善することができる。但し、5mol%より多いと、700乃至800℃で保持したときに形状安定性が保てなくなる。
また、CoOは、封着用ガラスフリットを構成するガラスに適量含有することで、セラミックス部材との接着性及び金属との接着性を向上することができる。但し、5mol%より多いと融着時に失透し易くなる。また、接着性を改善するための遷移金属酸化物としては、CoOが効果的ではあるが、V、Cr、MnO、Fe、NiO、CuO、Nb、Mo、Ta、Bi及びランタノイド系の遷移金属酸化物も融着するセラミックス部材や金属部材の種類によっては効果的に接着性を向上させる効果が得られる。
さらに、封着用ガラスフリットの降伏点の温度が640℃以上にすると、700乃至800℃の温度域で封着用ガラスフリットの剛性を保つことができる。
また、フィラーとして、アルミナ、コージェライト、シリカ、ジルコン、チタン酸アルミニウム、ホルステライト、ムライト、β−ユークリプタイト、β−スポジューメンの群から選択された少なくとも1種類を上記成分に0.1〜10質量%添加すると、封着用ガラスフリットの膨張率を適切に調整することができる。
上記金属部材及び上記セラミックス部材は、例えば、後述する図1の固体酸化物型燃料電池の構成要素であり、当該構成要素を接合するのに上記封着用ガラスフリットを用いると、固体酸化物型燃料電池の長寿命化を図ることができる。
図1は、本発明の実施の形態に係る封着用ガラスフリットによって接合された固体酸化物型燃料電池の構成要素の概略図である。
図1において、固体酸化物型燃料電池10は、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)/Niサーメットから成るカソード12、Ni−Cr合金から成るセパレータ13、(La,Sr)MnOから成るアノード14、及びこれらが順に積層されたものを挟持するYSZから成る電解質11から成る。
セパレータ13は、カソード12側にOを通す溝である空気流通層13aと、アノード14側にH,CO,CHを通す溝である燃料流通層13bとから成る。
セパレータ13と、カソード12及びアノード14とは、夫々、上述の封着用ガラスフリットにより接合される。電解質11は、例えば750℃の動作温度以上に加熱されたときにイオン導電性を発揮して電解質としての機能を果たす。また、カソード12とアノード14とは、夫々電線で接続されている。
上記固体酸化物型燃料電池10では、燃料流通層13b内を通るH,CO,CHとセパレータ13中を通って燃料流通層13bに供給されるOがアノード14側にある電解質11で酸化反応を起こして、HO,COを生成する。このとき同時に電子が遊離してアノード14に移動する。アノード14に移動した電子は、アノード14と接続する電線を介してカソード12に送電される。
一方、空気流通層13a内を通るOはカソード12側にある電解質11で還元反応を起こして、O−を生成する。このO−がセパレータ13中を通って燃料流通層13bに供給される。
固体酸化物型燃料電池10は、上述のように、作動時は電解質11にイオン導電性を発揮させるために、通常750℃の動作温度に昇温すべく加熱され、非作動時は常温まで放熱される。その結果、固体酸化物型燃料電池10の温度は動作温度と常温の間にあることとなる。これが、1000℃付近で封着用ガラスフリットにより接合された金属部材やセラミックス部材の接合状態を、750℃以下で安定的に保つために金属部材やセラミックス部材の接合に上記封着用ガラスフリットを用いる所以である。
本発明の実施の形態によれば、上記組成のガラスから成る封着用ガラスフリットが固体酸化物型燃料電池10を構成するカソード12、セパレータ13、及びアノード14の夫々の間を接合するのに用いられるので、固体酸化物型燃料電池10の長寿命化を図ることができる。
尚、本発明の封着用ガラスフリットは、固体酸化物型燃料電池10に用いられる場合に限定されるわけでなく、1000℃以下で金属部材やセラミックス部材と安定して接着でき、さらに、被接着物の温度を常温から700乃至800℃まで変化させる際の剥離等を防止することができることを要するものに用いられればよいことはいうまでもない。
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
MG300gとなる分量の原料を表1、表2に示す組成で調合し、白金ルツボを用いて1550℃で8時間溶融した。この融体をステンレス製の金型枠にキャストし、650℃で2時間保持した後、5℃/分で常温まで冷却した。


このようにして作製した実施例1〜11、比較例1〜14までのガラスブロックを用いて、膨張率、降伏点、1000℃での金属部材及びセラミックス部材に対する融着性、形状安定性を夫々評価した。
膨張率、降伏点は以下のように測定した。作製した各ガラスブロックの一部を直径5mm、長さ18mmの円柱状に加工し、膨張率、降伏点測定用のサンプルとした。測定にはリガク製熱分析装置TAS−100(TMA)を用いた。測定温度域は室温(50℃)から降伏点(640℃)付近までで、昇温速度は5℃/分とした。
金属に対する融着性の評価は以下のように行った。前述の各ガラスブロックの別の部分を乳鉢で粉砕し、粒径を10〜20μmに揃えた粉体を封着用ガラスフリット21とし、これを5g程度時計皿に取り、メタノールを加えてペースト状にし、厚み1mm、縦・横が30mmのステンレス基板23上に置かれた直径10mmのリング22の中に高さが1〜2mmとなるように適量詰めて乾燥させ、充分乾燥した後にリング22を外して、融着試験用のサンプルとした(図2)。そのままの状態で、昇温速度100℃/時間で1000℃まで温度を上げ、1000℃で10時間保持した後、100℃/時間で常温まで冷却した。その後、サンプルがステンレス基板23に融着しているか確認した。具体的には、上記評価は、常温まで冷却した後のサンプルがステンレス基板23から全く剥離していない場合を「優」、一部剥離している場合を「良」、完全に剥離した場合を「不良」とした。
金属に対する接合性の評価は、以下のように行った。上述の封着用ガラスフリット21で2枚のステンレス基板23を接合して接合性試験用のサンプルとした。そのままの状態で常温及び750℃まで温度変化を行った後、接合したステンレス基板23が剥離しているか否かを確認した。具体的には、上記評価は、常温まで冷却した後全く剥離していない場合を「優」、一部剥離している場合を「良」、完全に剥離した場合を「不良」とした。
また、セラミックス部材に対する融着性及び接合性の評価は、ステンレス基板23をアルミナから成るセラミックス基板に変更する点を除き上記方法と同様の方法で行った。
形状安定性の評価は以下のように評価した。前述の各ガラスブロックから約5mm角の立方体ブロックを切り出し、形状安定性評価用のサンプルとした。各サンプルをアルミナ基板上に置いて、電気炉に入れ、昇温速度100℃/時間で750℃まで温度を上げ、750℃で48時間保持した後、100℃/時間で常温まで冷却した。このようにして熱処理した各サンプルに変形や失透が見られないか調べた。具体的には、上記評価は、常温まで冷却した後のサンプルに全く変形及び失透が見られなかった場合を「優」、一部変形又は失透が見られた場合を「良」、サンプル全体が変形及び失透した場合を「不良」とした。
上記膨張率、膨張率、降伏点、1000℃での金属部材及びセラミックス部材に対する融着性、接合性、形状安定性の各評価を表1、表2に示す。
表1の実施例4のように、ガラスフリットにMgO、CaO、SrO、BaOの各成分を5mol%以下となるように添加したところ、700乃至800℃での剛性を保ちつつ、融着温度を下げることができ、750℃での金属部材及びセラミックス部材に対する融着性と形状安定性が向上した。また、表1の実施例4のように、ガラスフリットにMgO、CaO、SrO、BaOを総量で4mol%以下となるように添加したところ、常温から700乃至800℃の間での失透がおこりにくくなった。
表1の実施例5に記載された組成のガラスフリットにLiOを5mol%以下となるように添加すると、NaOやKOによる膨張率や融着温度の調整を確実に行うことができるようになり、750℃での金属部材及びセラミックス部材に対する融着性と形状安定性の各評価を共に向上した。しかし、ガラスフリットLiOを5mol%を超えるまで添加すると800℃付近での剛性を保てなくなり、形状安定性が低下した。
表1記載の実施例11のように、ガラスフリットを構成するNaOとKOは、KOに対する、NaOのmol%比率が2.0〜4.0の間とすると、金属部材中のCrと反応してもKCrO4が生じにくい。KCrOは融点が975℃と800℃より高いため、接合した部分がKCrOの生成で剥離する可能性が高くなる。
比較例1において、形状安定性が低いのは、降伏点が614℃と低く、また、Alが1.4mol%と少量であると、750℃付近での充分な剛性が得られないためである。
比較例2において、形状安定性が低いのは、降伏点が599℃と低く、また、Alが4.6mol%と少量であると、750℃付近での充分な剛性が得られないためである。
比較例3において、融着性及び接合性が低いのは、NaOとKOの総量が8.0mol%と少量であると、常温から750℃までの範囲で90×10−7/℃以上の膨張率を維持することができず、大面積を封着する場合に、膨張率のバラツキが発生して封着状態を安定して保つことが困難となるためである。
比較例4において、形状安定性が低いのは、SiOはガラスを作製する場合の主成分であり、39.3mol%と少量であるとガラス化しないためである。また、降伏点が620℃と低いため、700乃至800℃の温度域で封着用ガラスフリットの剛性を保つことができないからである。さらにAlが0.7mol%と少量であるため、750℃付近での剛性を保つことができないからである。また、Bが10mol%と多量にあると、700乃至800℃で保持したときに形状安定性が保てなくなるためである。さらに、NaOとKOの総量が9.2mol%と少量であると、常温から700乃至800℃までの範囲で90×10−7/℃以上の膨張率を維持することができないためである。
比較例5において、融着性、接合性、及び形状安定性が共に低いのは、MgOとCaOの総量が4mol%より大きく、常温から700乃至800℃の間での失透が起こり易くなる結果、接合部分に体積変化が起こって剥離し易くなるためである。
比較例6において、融着性及び接合性が低いのは、SiOが75mol%もあり、1100℃でも充分な融着ができないためである。
比較例7において、形状安定性が低いのは、Alが25mol%もあると融着時に失透し易くなる結果、接合部分に体積変化が起こって剥離し易くなるためである。
比較例8において、形状安定性が低いのは、ZnOが25mol%もあると融着時に失透し易くなるためである。
比較例9において、形状安定性も融着性もないのは、ZnOが3mol%と少量であると、750℃での剛性を保ちつつ、融着温度を下げる効果を発揮しえなかったためである。
比較例10において、融着性が低いのは、NaOが0.5mol%、NaOとKOが総量で4mol%と少量であると、常温から700乃至800℃までの範囲で膨張率が90×10−7/℃より小さくなり、1100℃付近でも金属部材及びセラミックス部材を充分に融着ができなかったためである。また、形状安定性が低いのは、KOに対するNaOのmol%比率が0.2と低い場合、失透が起こり易くなるためである。
比較例11において、形状安定性が低いのは、NaOが30mol%もあると、800℃付近での剛性が保てず、また、KOに対するNaOのmol%比率が3.0と高い場合、失透が起こり易くなるためである。
比較例12において、形状安定性が低いのは、CoOを加えた量が5mol%もあると、融着時に失透し易くなるためである。
比較例13において、形状安定性が低いのは、700乃至800℃での剛性を保ちつつ、融着温度を下げるという効果を有するZrOが全く含まれていないためその効果が見られない一方、ZrOが5.3mol%と多量に含まれていると融着時に失透が起こり易くなるためである。
比較例14において、形状安定性が低いのは、TiOが5.3mol%もあると膨張率が90×10−7/℃未満となり、さらには融着時に失透し易くなるためである。
表1、表2に示す実施例1〜11及び比較例1〜14の結果から以下のことがわかった。
ガラスフリットの必須成分は、SiO:40〜70mol%、Al:5〜20mol%、NaO:4〜20mol%、KO:4〜20mol%、ZnO:5〜20mol%、及びZrO:0.5〜5mol%であり、このNaOとKOは、総量が12mol%以上であるので、1000℃での粘度が融着に適した10000p以下とすることができ、もって、1000℃以下で金属部材やセラミックス部材を安定的に接合でき、また、かかる組成の封着用ガラスフリットは常温から、転移点より30℃低い温度までの平均膨張率を90×10−7/℃以上として封着用ガラスフリットの膨張率を金属部材やセラミックス部材のものに近づけることにより、接合状態を700乃至800℃以下で安定的に保つことができる。
また、好ましくは、NaOとKOは、KOに対するNaOのmol%比率が0.5〜2.0の間にあると、失透を起こりにくくすることができる。さらに好ましくは、NaOとKOは、総量が15.5mol%以上であると、常温から、転移点より30℃低い温度までの平均膨張率を90×10−7/℃以上として封着用ガラスフリットの膨張率を金属部材やセラミックス部材のものにより近づけることにより、接合状態を700乃至800℃以下でより安定的に保つことができる。
また、上記必須成分を含むガラスに、LiO:0〜5mol%、MgO:0〜5mol%、CaO:0〜5mol%、SrO:0〜5mol%、BaO:0〜5mol%、TiO:0〜5mol%、B:0〜5mol%、CoO:0〜5mol%を総量10mol%以下添加されると、700乃至800℃までの封着用ガラスフリットの剛性を保ちつつ、融着温度を下げることができ、前記MgO、CaO、SrO、BaOの総量が4mol%以下であると、常温から700乃至800℃の間での失透を起こりにくくすることができる。
さらに、降伏点の温度が640℃以上であると、700乃至800℃の温度域で封着用ガラスフリットの剛性を保つことができる。また、フィラーとして、アルミナ、コージェライト、シリカ、ジルコン、チタン酸アルミニウム、ホルステライト、ムライト、β−ユークリプタイト、β−スポジューメンの群から選択された少なくとも1種類を0.1〜10質量%添加されると、封着用ガラスフリットの膨張率を適切に調整することができる。
【産業上の利用可能性】
以上、詳細に説明したとおり、本発明の封着用ガラスフリットによれば、封着用ガラスフリットの必須成分は、SiO:40〜70mol%、Al:5〜20mol%、NaO:4〜20mol%、KO:4〜20mol%、ZnO:5〜20mol%、及びZrO:0.5〜5mol%であり、このNaOとKOは、総量が12mol%以上であるので1000℃での粘度が融着に適した10000p以下とすることができ、もって、1000℃以下で金属部材やセラミックス部材を安定的に接合でき、また、かかる組成の封着用ガラスフリットは常温から、転移点より30℃低い温度までの平均膨張率を90×10−7/℃以上として封着用ガラスフリットの膨張率を金属部材やセラミックス部材のものに近づけることにより、その接合状態を常温から700乃至800℃の温度範囲で安定的に保つことができる。
本実施の形態に係る封着用ガラスフリットによれば、SiO:55〜65mol%、Al:5〜12mol%、NaO:4〜20mol%、KO:4〜20mol%、ZnO:5〜15mol%、ZrO:0.5〜3mol%、及びCoO:0〜3mol%であり、NaOとKOは、総量が15mol%以上であるので、700℃から800℃の温度で保持していても安定した接合状態を保つことができる。
本実施の形態に係る封着用ガラスフリットによれば、封着用ガラスフリットの必須成分に、LiO:0〜5mol%、MgO:0〜5mol%、CaO:0〜5mol%、SrO:0〜5mol%、BaO:0〜5mol%、TiO:0〜5mol%、B:0〜5mol%、CoO:0〜5mol%を総量10mol%以下添加されるので、700乃至800℃までの封着用ガラスフリットの剛性を保ちつつ、融着温度を下げることができる。
本実施の形態に係る封着用ガラスフリットによれば、封着用ガラスフリットを構成するMgO、CaO、SrO、BaOの総量が4mol%以下であると、常温から700乃至800℃の間での失透を起こりにくくすることができる。
本実施の形態に係る封着用ガラスフリットによれば、封着用ガラスフリットを構成するNaOとKOは、KOに対するNaOのmol%比率が2.0〜4.0の間にあると金属部材中のCrと反応してもKCrOが生じにくく、接合した部分がKCrOの生成により剥離することを防止することができる。
本実施の形態に係る封着用ガラスフリットによれば、封着用ガラスフリットを構成するNaOとKOは、KOに対するNaOのmol%比率が0.5〜2.0の間にあると、失透を起こりにくくすることができる。
本実施の形態に係る封着用ガラスフリットによれば、封着用ガラスフリットを構成するNaOとKOは、総量が15.5mol%以上であると、常温から、転移点より30℃低い温度までの平均膨張率を90×10−7/℃以上として封着用ガラスフリットの膨張率を金属部材やセラミックス部材のものにより近づけることにより、接合状態を700乃至800℃以下でより安定的に保つことができる。
本実施の形態に係る封着用ガラスフリットによれば、降伏点の温度が640℃以上であると、700乃至800℃の温度域で封着用ガラスフリットの剛性を保つことができる。
本実施の形態に係る封着用ガラスフリットによれば、フィラーとして、アルミナ、コージェライト、シリカ、ジルコン、チタン酸アルミニウム、ホルステライト、ムライト、β−ユークリプタイト、β−スポジューメンの群から選択された少なくとも1種類を0.1〜10質量%添加されたとき、封着用ガラスフリットの膨張率を適切に調整することができる。
本実施の形態に係る封着用ガラスフリットによれば、固体酸化物型燃料電池を構成するカソード、セパレータ、及びアノードの夫々の間を接合するのに用いられるので、固体酸化物型燃料電池の長寿命化を図ることができる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材又はセラミックス部材を接合する封着用ガラスフリットにおいて、
前記ガラスフリットの必須成分は、SiO:40〜70mol%、Al:5〜20mol%、NaO:4〜20mol%、KO:4〜20mol%、ZnO:5〜20mol%、及びZrO:0.5〜5mol%であり、
NaOとKOは、総量が12mol%以上であることを特徴とする封着用ガラスフリット。
【請求項2】
SiO:55〜65mol%、Al:5〜12mol%、NaO:4〜20mol%、KO:4〜20mol%、ZnO:5〜15mol%、ZrO:0.5〜3mol%、及びCoO:0〜3mol%であり、
NaOとKOは、総量が15mol%以上であることを特徴とする請求項1に記載の封着用ガラスフリット。
【請求項3】
前記必須成分にLiO:0〜5mol%、MgO:0〜5mol%、CaO:0〜5mol%、SrO:0〜5mol%、BaO:0〜5mol%、TiO:0〜5mol%、B:0〜5mol%、CoO:0〜5mol%を総量10mol%以下添加されたことを特徴とする請求項1記載の封着用ガラスフリット。
【請求項4】
MgO、CaO、SrO、BaOの総量が4mol%以下であることを特徴とする請求項3記載の封着用ガラスフリット。
【請求項5】
NaOとKOは、KOに対するNaOのmol%比率が2.0〜4.0の間にあることを特徴とする請求項1に記載の封着用ガラスフリット。
【請求項6】
NaOとKOは、KOに対するNaOのmol%比率が0.5〜2.0の間にあることを特徴とする請求項1に記載の封着用ガラスフリット。
【請求項7】
NaOとKOは、総量が15.5mol%以上であることを特徴とする請求項1に記載の封着用ガラスフリット。
【請求項8】
降伏点の温度が640℃以上であることを特徴とする請求項1記載の封着用ガラスフリット。
【請求項9】
フィラーとして、アルミナ、コージェライト、シリカ、ジルコン、チタン酸アルミニウム、ホルステライト、ムライト、β−ユークリプタイト、β−スポジューメンの群から選択された少なくとも1種類を0.1〜10質量%添加されたことを特徴とする請求項1に記載の封着用ガラスフリット。
【請求項10】
固体酸化物型燃料電池を構成するカソード、セパレータ、及びアノードの夫々の間を接合するのに用いられることを特徴とする請求項1に記載の封着用ガラスフリット。

【国際公開番号】WO2004/031088
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541236(P2004−541236)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012218
【国際出願日】平成15年9月25日(2003.9.25)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】