説明

射出成形による樹脂成形品の製造方法

【課題】端子金具等のインサート部品を内部に備える樹脂成形品を製造する際に、インサート部品が不適切な位置で露出してしまうことを防止でき、また、その位置精度を所望に確保できる技術を提供する。
【解決手段】射出成形装置100において、金型コアバック部50の可動タイミングを、インサート部品である端子90を金型スライド部40の端子先端保持部41に挿入した後にすることによって、端子90の位置の精度を向上させる。また、金型コアバック部50を射出成形前に所定量Dだけ可動する事により、金型コアバック部50と端子90との間に樹脂壁が形成される。これによって、端子90の不適切な露出、ショート及び異物の付着等の防止ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形による樹脂成形品の製造方法に係り、特に、樹脂成形品本体の内部にインサート部品として端子を備える樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品の製造技術として金型を用いた射出成形技術がある。この技術のひとつにコアバック成形があり、一般的に用いられている。コアバック成形では、発泡剤(ガスもしくは化学発泡剤)入りの樹脂を射出/充填後に金型が所定量だけ開かれ、樹脂が発泡するようになっている。つまり、コアバック成形では金型のコアを移動させて、金型のキャビティの拡大が行われている。コアバック成形の種類としては、プラテンの動作によるコアバック、テーパー状の受圧ブロックの移動によるコアバック、型締め圧/射出圧を受圧可能な可動式コァバックプレートを移動させるコアバックなどがある。
【0003】
図9に、コアバック成形において、速度制御や停止位置精度の確保を実現することを目的とした装置(成形機1)を示す。この成形機1にあっては、1つ又は2つ以上の固定型4と、その固定型4と同数の可動型3とを対向に配設し、固定型4と可動型3とを各組型締め状態とする。その後、全ての可動型3を、対向する固定型4に対して型開きに所定距離移動させ、固定型4に着脱可能に附設された受圧ブロック8を固定型4から取り外す。その後、固定型4を、型開き方向にサーボモーター制御もしくは油圧制御により所定距離移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−104072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、端子金具等のインサート部品を内部に備える樹脂成形品にあっては、端子金具等の不適切な露出や、それらの位置精度や変形が課題となっていた。つまり、端子金具等が露出するとショートの発生や異物の付着を引き起こしかねない。また、成形時の端子金具の位置精度が悪いと変形が生じ、製品不良発生の原因となる。上記特許文献1に開示の技術では、インサート部品については何ら考慮がされておらず、そのまま適用することはできないため別の技術が求められていた。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記課題を解決することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、固定金型、可動金型及びスライド金型とを備えそれら金型によって形成された空間に樹脂材を射出する射出成形装置を用いて、端子金具をインサート部品として備える樹脂成形品を製造する樹脂成形品製造方法に関する。この樹脂成形品製造方法は、前記固定金型に設けられた前記端子金具の第1の端部を挿入する第1の端子挿入手段と、前記固定金型に設けられコアバック動作可能に配置されたコアバック金型の外面に形成された端子配置溝とに、前記端子金具を配置する端子金具配置工程と、前記端子金具が配置された後に、前記可動金型を所定の位置に移動させる可動金型配置工程と、前記固定金具と前記可動金型とで形成された空間に、前記スライド金型を所定位置に移動させ、その移動に伴って前記スライド金型に設けられた第2の端子挿入手段に前記端子金具の前記第1の端部と反対側の第2の端部を挿入させるスライド金型配置工程と、前記コアバック金型を所定量だけ前記端子金具から離間する方向に移動させるコアバック工程と、前記樹脂材を前記固定金型と前記可動金型と前記スライド金型とで形成された空間に射出及び充填する樹脂材射出工程と、を備える。
また、前記端子金具は、略直角に屈曲する形状を呈しており、前記屈曲部分から前記第1の端子挿入手段に挿入され、前記第1の端子挿入手段の前記第1の端子が挿入される開口部分は、前記可動金具配置工程において前記可動金型が配置されたときに前記可動金型に覆われず、前記樹脂材射出工程において、射出された前記樹脂材が前記端子金具を覆ってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、端子金具等のインサート部品を内部に備える樹脂成形品を製造する際に、インサート部品が不適切な位置で露出してしまうことを防止でき、また、その位置精度を所望に確保できる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る、接続端子装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る、射出成形装置の断面構造の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る、接続端子装置の製造工程を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態に係る、接続端子装置の製造工程を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に係る、金型コアバック部の外形を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る、接続端子装置が形成されたときの状態を金型コアバック部と共に示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る、図6(b)から金型コアバック部を取り除いた状態の接続端子装置の断面図を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る、樹脂射出時の背面リブ形状部分の樹脂による押圧について示している射出成形装置の断面構造を示す図である。
【図9】従来技術に係る、コアバック式の成形機を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)を、図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、樹脂成形品の射出成形において、所定の金型を移動させながら成形を行うコアバック射出成形に関するものであり、以下では射出成形におけるコアバックのための金型の移動に着目して説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る接続端子装置60の概略構成を示す図であり、図1(a)が斜視図、図1(b)が断面図である。接続端子装置60は、例えば、自動車のECUケース等に用いられ、対応する別の接続装置に嵌合接続する。接続端子装置60は、図示のように、内部にケースキャビティ部71を形成した樹脂製の端子ケース70と、インサート部品である端子90とを備えている。ここで、端子90の数として9本の構造を例示している。それぞれの端子90は、導電性の棒状の金属が途中で直角に屈曲した形状を有しており、端子ケース70を成形する際に、一体に埋め込まれて所定の位置に配置される。端子90において、鉛直方向の延びる部分である端子外部接続部部91は、端子ケース70の背面に形成された背面リブ形状77から露出して延出しており、外部の回路基板等に接続される。また、水平方向に延びる部分である端子内部接続部92は、端子先端部93を所定長だけケースキャビティ部71に露出させている。以下、この接続端子装置60を製造する技術について説明する。
【0012】
図2は、射出成形装置100の断面構造の概略構成を示している。ここでは、金型に着目した断面構造を示しており、樹脂の射出装置(ホットランナ等)や金型の移動手段(油圧シリンダ等)については、省略している。また、以降の図における符号は、各構成要素の代表に付しており、適宜省略している。
【0013】
図示のように、射出成形装置100は、金型固定部20と、金型可動部30と、金型スライド部40と、金型コアバック部50とを備えている。ここでは、金型固定部20が下側に配置され、金型可動部30が金型固定部20に対抗するように上側に配置される。さらに、金型固定部20と金型可動部30とで形成される空間に、金型スライド部40が左側から挿入される。また、金型コアバック部50が金型固定部20のコアバックセット部21に可動状態に配置されている。そして、インサート部品である端子90を所定の位置に配置して、金型キャビティ部80に樹脂を射出し、金型コアバック部50をコアバックさせて、図1に示した所望の形状の樹脂成形品である端子ケース70が形成される。
【0014】
以下、具体的な製造工程および各部品の特徴的な構造について説明する。
図3および図4が、接続端子装置60の製造工程を説明する図である。図3(a)に示すように、まず、インサート部品である端子90が、金型固定部20にセットされる。具体的には、金型固定部20の上面であるキャビティ面25から鉛直に所定形状の空間がコアバックセット部21として外部と連通して形成されている。この空間の形状は、略直方体を呈しており、金型コアバック部50が可動状態に配置可能になっている。
【0015】
ここで金型コアバック部50について説明する。図5に金型コアバック部50の外形を示す。図5(a)は金型コアバック部50のみを、図5(b)は端子90が配置された状態を、さらに図5(c)は端子90が配置された後に金型コアバック部50がコアバックとして所定量Dだけ下方向に移動した状態を示している。
【0016】
図示のように、金型コアバック部50は、端子90の端子内部接続部92を配置するための形状として、端子保持溝51を有している。より具体的には、金型コアバック部50の上面55には、端子保持溝51が前後方向に所定深さで形成されている。図5(b)に示すように、端子保持溝51の幅d1は、端子90(端子外部接続部部91)の幅d2と略同一になっており、端子内部接続部92がスムーズに配置可能になっている。さらに、端子保持溝51の上側開口部分は外側に開くように形成されたテーパー状の斜面52が設けられている。なお、端子保持溝51の深さや斜面52の形状(寸法や開口角度)は、後述の金型コアバック部50が移動させて樹脂成形する際における、樹脂の流動性等を考慮して設計される必要がある。
【0017】
図3の説明に戻る。端子90を金型固定部20に配置する際に、金型固定部20の右側に設けられたインサート用溝部22に端子外部接続部部91が挿入される。インサート用溝部22は、端子90の端子外部接続部部91の形状に合わせた形状で形成されている。そして、金型コアバック部50が、金型固定部20のコアバックセット部21において、所定位置に配置されている。なお、インサート用溝部22は、金型キャビティ部80に形成されることから、インサート用溝部22の上側、つまり、端子90の屈曲部分は、樹脂成形時に樹脂が覆うようになっており、樹脂成形によって背面リブ形状77が形成される。
【0018】
そして、図3(b)および図5(b)に示すように、端子90が所定位置に全数量(ここでは9本)適正に配置されると、図3(c)に示すように、金型固定部20の上面に対抗するように、金型可動部30が移動して所定の位置に配置される。
【0019】
つづいて、図4(a)に示すように、端子ケース70のケースキャビティ部71の形状を定める金型として金型スライド部40が、金型固定部20と金型可動部30との間に形成された空間に、図示で左側から右側方向に所定位置に挿入される。金型スライド部40には、端子先端部93が樹脂成形後に所定量だけ適正に露出するように、端子先端部93を挿入可能な空間として端子先端保持部41が形成されている。図4(b)が金型スライド部40が挿入された状態を示す。このとき、金型コアバック部50の端子保持溝51に端子90の端子内部接続部92が配置されているため、端子先端部93の位置精度が確保されていることから、端子先端部93は端子先端保持部41に挿入される。金型コアバック部50を用いない構成であると、端子先端部93の方向がずれていることが発生した場合に、金型スライド部40の挿入に伴い、金型スライド部40が端子90を曲げたり折ってしまったりして、完成品の接続端子装置60に不良が発生することがあった。しかし、本実施形態のように、金型コアバック部50の端子保持溝51が一種のガイド機能を果たすため、端子90は適正に配置され、向きが不適切になることが防止される。
【0020】
つづいて、図4(b)に示す状態に金型スライド部40が挿入され適正に配置されると、金型コアバック部50が下方向に所定量Dだけ移動する。図5(c)が、金型コアバック部50がコアバックしたときの端子90との関係を示している。このとき、端子先端部93が金型スライド部40に挿入され保持され、また、端子外部接続部部91がインサート用溝部22に挿入され保持されていることから、端子90は位置の固定状態が保持されている。そして、図4(c)の状態で、溶融状態の樹脂材が、金型固定部20、金型可動部30および金型スライド部40で形成された空間である金型キャビティ部80に射出される。
【0021】
図6に、接続端子装置60(端子ケース70)が形成されたときの状態を金型コアバック部50と共に示している。図6(a)は斜視図であり、図6(b)は金型コアバック部50が配置される領域の横方向の断面図である。また、図7に、図6(b)から金型コアバック部50を取り除いた状態の接続端子装置60の断面図を示す。
【0022】
図6(b)や図7に示すように、金型コアバック部50が所定量移動したことに伴う部分、つまり、端子90の端子内部接続部92の下面と端子保持溝51の間に、樹脂壁75が形成される。この構造によって、端子内部接続部92が不適切に露出することがなく、また、端子先端部93を保護する機能として強度を向上できる。
【0023】
以上、本実施形態の製造工程を簡単にまとめると以下の通りである。つまり、当該製造方法は、端子金具配置工程と、可動金型配置工程と、スライド金型配置工程と、コアバック工程と、樹脂材射出工程と、を有する。端子金具配置工程は、金型コアバック部50の端子保持溝51と金型固定部20のインサート用溝部22に端子90を配置する。つづいて可動金型配置工程として、金型可動部30が所定位置に移動され、さらに、スライド金型配置工程として金型スライド部40が金型固定部20と金型可動部30で形成された空間に挿入される。このとき、端子90の端子先端部93が端子先端保持部41に挿入さる。その後、コアバック工程として、金型コアバック部50が下方向に所定量Dだけ移動され、樹脂材射出工程として、金型キャビティ部80に樹脂が射出され、図1に示した接続端子装置60が完成する。
【0024】
このような射出成形装置100及び製造方法によると、金型コアバック部50の可動タイミングを、インサート部品である端子90(端子先端部93)を金型スライド部40の端子先端保持部41に挿入後にすることによって、端子90の位置の精度が向上する。また、金型コアバック部50を射出成形前に所定量Dだけ可動する事により、金型コアバック部50と端子90との間に樹脂壁75が形成され、端子90の不適切な露出、ショート及び異物の付着等の防止が可能となる。さらにまた、図8に示すように、端子ケース70の背面において、端子90の屈曲部分近傍(端子外部接続部部91の上方部分)に背面リブ形状77(図1参照)が形成される構造としたことで、射出成形時の樹脂圧(図示の矢印A、B)を利用し、端子90を押さえることができる。その結果、端子90の位置精度や変形防止の向上が実現できる。
【0025】
以上、本発明を実施形態を基に説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素及びその組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0026】
100 射出成形装置
20 金型固定部
21 コアバックセット部
22 インサート用溝部
25 キャビティ面
30 金型可動部
40 金型スライド部
41 端子先端保持部
50 金型コアバック部
51 端子保持溝
52 斜面
60 接続端子装置
70 端子ケース
71 ケースキャビティ部
75 樹脂壁
77 背面リブ形状
90 端子
91 端子外部接続部
92 端子内部接続部
93 端子先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型、可動金型及びスライド金型とを備えそれら金型によって形成された空間に樹脂材を射出する射出成形装置を用いて、端子金具をインサート部品として備える樹脂成形品を製造する樹脂成形品製造方法であって、
前記固定金型に設けられた前記端子金具の第1の端部を挿入する第1の端子挿入手段と、前記固定金型に設けられコアバック動作可能に配置されたコアバック金型の外面に形成された端子配置溝とに、前記端子金具を配置する端子金具配置工程と、
前記端子金具が配置された後に、前記可動金型を所定の位置に移動させる可動金型配置工程と、
前記固定金型と前記可動金型とで形成された空間に、前記スライド金型を所定位置に移動させ、その移動に伴って前記スライド金型に設けられた第2の端子挿入手段に前記端子金具の前記第1の端部と反対側の第2の端部を挿入させるスライド金型配置工程と、
前記コアバック金型を所定量だけ前記端子金具から離間する方向に移動させるコアバック工程と、
前記樹脂材を前記固定金型と前記可動金型と前記スライド金型とで形成された空間に射出及び充填する樹脂材射出工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形品製造方法。
【請求項2】
前記端子金具は、略直角に屈曲する形状を呈しており、前記屈曲部分から前記第1の端子挿入手段に挿入され、
前記第1の端子挿入手段の前記第1の端子が挿入される開口部分は、前記可動金具配置工程において前記可動金型が配置されたときに前記可動金型に覆われず、前記樹脂材射出工程において、射出された前記樹脂材が前記端子金具を覆う
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−255537(P2011−255537A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130001(P2010−130001)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】