説明

射出成形制御装置

【課題】本発明は、ダイカストマシン等の射出成形時における射出用油圧シリンダに対する油圧制御において、速度制御工程から圧力制御工程を円滑かつ短時間で行うことができ、溶融材料に所定のメタル圧を加える制御装置を提供する。
【解決手段】切換バルブ18のPポートが、溶融材料を射出成形する油圧シリンダ11の第2油圧室Rに接続され、Aポートが、油圧源ACCに速度制御弁16を介して接続されている油圧シリンダの第1油圧室Hに接続され、Bポートが、増圧時間制御弁17を介してタンクに接続され、切換バルブの可動スリーブに設けられた第1通路が該可動スリーブを摺動させてAポートに整合したとき、油圧シリンダを射出成形時の速度制御工程とし、可動スリーブを反対方向に摺動して可動スリーブの第2通路がBポートに整合したとき、第2油圧室に油圧源のみが接続され、油圧シリンダを射出成形時の増圧制御工程とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型によって溶融材料を射出成形する射出成形制御装置に関し、特に、ダイカストマシンや樹脂成形機の射出成形時における射出用油圧シリンダに対する制御において、速度制御工程から圧力制御工程に制御して、前記溶融材料に所定の圧力を加えることができる射出成形制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは、軽くて熱や電気の良導体であり、良好な耐食性と高い強度を持ち、しかも鋳造及び鍛造などの加工性に優れているという特徴を有する材料であるところから、従来から、多種多様な部品、構造材などに使用されている。例えば、自動車などにおいては、軽量化を目的として、アルミニウム合金製の部品が組み込まれている。この様な部品を製造するには、溶融したアルミニウム合金を金型で射出成形するダイカストマシンが使われている。
【0003】
近年では、このダイカストマシンで成形された製品についても、高品質なものが求められるようになってきているが、そのダイカストマシンの射出部の性能は、射出成形時のメタル圧の制御によって特徴付けられ、高品質な製品を得るためには、メタル圧を発生する射出シリンダの速度と圧力をミリセカンド(ms)のオーダーで制御しなければならない。
【0004】
そこで、その制御状態について説明するために、そのダイカストマシンの射出部の構成を、図7に示した。その射出部は、金型キャビティ3を形成する可動金型1と固定金型2を備えており、固定金型2には、金型キャビティ3に射出される所定量の溶融金属Mを貯留する金属スリーブ4が設けられている。この金属スリーブ4に開けられた注入口5から、アルミニウム合金の溶融金属Mが流し込まれる。金属スリーブ4の金型2と反対方向から、プランジャヘッド6が、速度Vで金属スリーブ4内を移動する。このプランジャヘッド6の移動により、溶融金属Mは、金属スリーブ4から金型キャビティ3内に充填される。
【0005】
プランジャヘッド6は、プランジャロッド7の先端に設けられており、油圧シリンダ(図示されていない)のピストンロッド8が駆動されると、ピストンロッド8の速度Vに応じて、プランジャヘッド6の移動位置が制御される。金属スリーブ4内に流し込まれた溶融金属Mを金型キャビティ3に充填して射出成形する場合、速度Vは、一定に制御されるわけではなく、品質の高い製品を得るためには、プランジャヘッド6の移動は、位置pから位置pまでは(低速域)、低速で、位置pから位置pまでは(高速域)、高速で制御される。
【0006】
金属スリーブ4内の空間が、溶融金属Mで充満された位置pが高速域開始点となり、金型キャビティ3へ溶融金属Mが高速充填される。その完了点が位置pである。位置pの直前では、溶融金属Mの流れ抵抗が大きくなり、速度が急激に低下する。増圧制御は、位置p付近から開始されるので(増圧域)、メタル圧Pも上昇し、溶融金属Mは、充填完了後、圧縮されると共に、凝固も進むので、プランジャは、位置pを過ぎると、微速で前進し、位置pで停止する。ここで、金型キャビティ3内で、溶融金属Mが冷却されて、製品となる。
【0007】
このメタル圧Pについて、図8に示したダイカストマシンの射出部の構成を参照して説明する。メタル圧Pは、プランジャヘッド6が金属スリーブ4内を移動することによって、プランジャヘッド6の溶融金属Mの接触面で発生するものであり、溶融金属Mが金型キャビティ3に充填完了されると、金型キャビティ3内の溶融金属Mの全体に増圧時のメタル圧Pがかかることになる。
【0008】
ここで、油圧シリンダの出力をFとすると、プランジャヘッド6の位置pでのメタル圧Pは、
=F/(d部面積)
で表される。なお、油圧シリンダのピストンを駆動する第1圧力室及び第2圧力室の圧力をそれぞれP、Pとし、該ピストンをD部、そして、該ピストンに連結するピストンロッド8をd部とすると、出力Fは、
=〔(D部面積)×P〕−〔(D部面積−d部面積)×P
である。
【0009】
以上のように、金属スリーブ4内に貯留された溶融金属Mを射出成形するには、プランジャヘッド6の移動について、低速域及び高速域における速度制御と、増圧域における増圧制御とが行われる必要がある。プランジャヘッド6の移動を制御して、溶融金属Mの射出成形を実現するために、油圧シリンダの制御を、速度制御してから増圧制御に切り換えて、所定の油圧出力が得られるように油圧制御回路を構成していた。以下に、代表的な油圧制御回路の種々の従来例を説明する。
【0010】
図9に、差動方式の油圧制御回路を示した。油圧制御される油圧シリンダ11は、移動するピストン12を挟んで、第1圧力室Hと第2圧力室Rとを有し、ピストン12は、直径Dであり、プランジャロッド7に連結されたピストンロッド13を有している。このピストンロッド8の直径は、dである。
【0011】
ピストンアキュムレータによる油圧源ACCに蓄積された油は、速度制御用のバルブ16により流量制御され、油圧シリンダの第1圧力室Hに入り、ピストン12は、左方に動く。同時に第2圧力室Rの油は、バルブ14を通って第1圧力室Hに入る。第1油圧室Hと第2油圧室Rの圧力は、ほぼ同一となり、従って、油圧源ACCからの油量は、ピストン12のロッド径dに相当する量で済む。しかし、出力も概略、(ロッド径dに相当する面積)×(H室の油圧)となり、小さい。
【0012】
プランジャヘッド6が所定位置pまで左行すれば、速度制御優先工程から増圧制御優先工程に切り換えるため、図示されていない制御装置から切換指令が出される。その結果、バルブ14及び15は、各々「開から閉へ」、「閉から開へ」と制御され、油の流れ方が変わる。即ち、第2圧力室Rの油は、バルブ15から増圧時間制御バルブ17を通って、タンクに抜け、第2圧力室Rの油圧は、0になる。一方、第1圧力室Hには、油圧源ACCからの油が入り続け、ピストンロッド13の出力は、最大で、(ピストン径Dの面積)×(H室の最大油圧)となる。これが、増圧制御優先工程の状態である。
【0013】
以上のようにして、差動方式による油圧制御回路は、バルブ14とバルブ15とが、交互にON、OFF制御されることにより、速度制御優先工程から増圧制御優先工程に切り換えられる。
【0014】
図10に、ブースト方式による油圧制御回路を示した。油圧シリンダは、第1油圧シリンダ21と第2油圧シリンダ21’からなり、第1油圧シリンダ21には、第1圧力室H21と第2圧力室R21が、第2油圧シリンダ21’には、第1圧力室H22と第2圧力室R22が備えられている。第1油圧シリンダ21のピストンロッド23の先端に第2油圧シリンダ21’の第1圧力室H22内の油を介して第2油圧シリンダ21’のピストン22’に伝えられる。このブースト方式油圧制御回路の油圧出力は、ピストンロッド23’から得られ、ピストンロッド23’がプランジャロッド7に連結される。
【0015】
油圧源ACCに蓄積された油は、バルブ24を通って速度制御用のバルブ26により流量制御され、油圧シリンダ21’の第1圧力室H22に入り、ピストン22は、左方に動く。同時に、第2圧力室R22の油は、タンクへ抜ける。この際の油量は、差動方式のピストンロッド径dに対応するピストン径d’に相当する。出力も、差動方式の場合に同じである。制御工程の切換指令により、バルブ24及び25が、切り換えられ、油の流れは、油圧源ACCからバルブ25を通り、増圧時間制御バルブ27を通って、油圧シリンダ21の第1圧力室H21に入り、上述の差動方式の場合と同様の油圧を出力する。このとき、第2圧力室R21の油は、タンクに抜ける。
【0016】
このブースト方式による油圧制御回路でも、バルブ24とバルブ25とが、交互にON、OFF制御されることにより、速度制御優先工程から増圧制御優先工程に切り換えられる。
【0017】
次に、図11に、2段油圧源方式による油圧制御回路を示した。上述したブースト方式による油圧制御回路では、ピストンロッド23’の径をdとして、出力制御工程では、ブースト側のピストンの径Dを使い、第1圧力室H22の油圧を増圧して、所定の油圧を出力していた。ここでの2段油圧源方式では、第1圧力室Hの油圧用に、最初から必要な高い圧力で圧力源ACC32へ蓄積しおき、速度制御優先工程では、油圧源ACC31側の油圧を使用する。そして、増圧制御優先工程では、油圧源ACC32の油圧を使用する。
【0018】
結果として、上述の差動方式又はブースト方式の場合と同様に、バルブ34とバルブ35のON、OFFを切り換えることにより、速度制御優先工程から増圧制御優先工程に切り換えられる。
【0019】
以上に説明した3方式による油圧制御回路における長所と短所を比較すると、長所について、差動方式では、油圧源ACCの消費油量が小、機構が簡単、増圧機構が静的であり、ブースト方式では、可動するピストンの質量が小、最終メタル圧Pの値の変更が容易で安定であり、2段油圧源方式では、最終メタル圧P値の変更が容易で安定、ピストン径が上述した2方式の中間となっているのに対し、短所については、差動方式では、可動するピストンの質量が大、最終メタル圧P値の変更が難しいものであり、ブースト方式では、機構が複雑、増圧機構が動的であり、2段油圧源方式では、油圧源ACCの消費油量が大、油圧源ACCが2個必要でありメンテナンス増となることなどが挙げられる。
【0020】
そこで、上述した各油圧制御回路の長所及び短所を考慮し、速度制御優先工程から増圧制御優先工程に切り換える油圧制御回路として、図12に示されるように、図9に示される差動方式の油圧制御回路と、図11に示される2段油圧源方式による油圧制御回路とにおける特徴を組み合わせて、一つの系統による油圧制御回路を形成することができる。
【0021】
以上の種々の方式による油圧制御回路の特徴を纏めると、速度制御工程では、差動方式、ブースト方式及び2段油圧源方式について、射出シリンダ径d、油圧源ACCの圧力は、全て同じであり、増圧制御工程では、最終出力は、差動方式とブースト方式においては、(ピストン径Dの面積)×(油圧源圧力)となるのに対し、2段油圧源方式では、(ブーストシリンダ径Dの面積)×(油圧源の圧力)となる。
【0022】
ここで、油圧制御回路における油圧特性について、差動方式による油圧制御回路を例にして説明する。その油圧特性グラフを、図13に示した。同図において、横軸は、ミリセカンド(ms)の時間軸を示し、10ms単位で目盛ってある。時間0は、溶融金属Mの金型キャビティ3への充填が完了し、増圧制御が開始されるタイミング(高速充填完了時及び増圧開始基準点)を示し、このタイミングを基準にして目盛ってある。また、左側縦軸は、プランジャヘッドの速度Vを示している。さらに、右側縦軸は、第1圧力室Hの油圧P、第2圧力室Rの油圧P、そして、メタル圧Pをそれぞれ表しているが、油圧P及びPと、メタル圧Pとでは、それらの値の大きさが異なるため、目盛りの度合いを違えてある。
【0023】
図8に示されるように、溶融金属Mの射出成形時には、メタル圧Pが発生するが、良好な品質の製品が得られるためには、その射出成形時のメタル圧Pの時間に対する変化は、図13のグラフにおいて、太い実線で示される曲線Pとなることが望まれる。つまり、時間tまでは、速度制御工程であり、時間tにおいて、バルブ14及び15のON・OFF状態が切り換えられ、増圧制御工程に移行した後、所定圧力値まで増圧されるというものである。
【0024】
この様なメタル圧Pを発生させるため、図9に示された差動方式による油圧制御回路では、先ず、バルブ14をONに、バルブ15をOFFに制御すると、油圧Pと油圧Pとの差によって、ピストン12が左方向に、所定速度Vで駆動される。時間tを過ぎると、つまり、図7に示されるように、プランジャヘッド6が位置pに近づくと、溶融金属Mが金型キャビティ3にほぼ充填されるので、速度Vは、自然減速が始まる。
【0025】
溶融金属Mの完全な充填が終了する時間tにおいては、油圧Pと油圧Pは、平衡状態となり、この平衡状態以上の油圧は、高くならない。そのため、メタル圧Pも上昇しないことになるので、この時間tのタイミングで、増圧制御工程を開始するように制御する。そこで、バルブ14をOFFに、バルブ15をONに制御すると、第2油圧室Rの油がタンクに流れ出し、油圧Pが0に向けて減圧され、ピストン12に作用する油圧が、油圧Pとなる。時間t以降において、この油圧Pが保持されれば、メタル圧Pが増圧され、油圧Pが0となる設定された増圧時間tにおいて、所定圧力で飽和するようになる。このメタル圧Pの増圧により、プランジャヘッド6は、増圧域の位置pまで進み、ここで止まる。
【0026】
なお、バルブ14及び15の制御系には、多少の遅れがあるため、時間tのタイミングでON・OFF制御がされるように、その遅れを見込んだ上で、時間tの段階で、バルブ切換指令を出すようにしている。時間tで、速度制御工程から増圧制御工程に円滑に切り換わるように制御される。
【0027】
【特許文献1】特開2001−300715号公報
【特許文献2】特開2001−269764号公報
【特許文献3】特開平03−158155号公報
【特許文献4】特開平03−157583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
しかしながら、油圧制御回路において、速度制御工程から増圧制御工程に円滑に切り換えられない場合がある。その切換タイミングが、例えば、切換予定の時間tから10ms遅れたとすると、メタル圧Pは、図13の太い破線で示したメタル圧PM1のような変化となる。これは、差動方式の油圧制御回路においては、油圧Pを減圧することで、メタル圧Pを得ているので、油圧PH1のように、10ms遅れて上昇しだすことによるものである。このメタル圧PM1の変化は、射出成形による製品の品質に大きく影響することになり、問題である。
【0029】
なお、図13に示したメタル圧PM1は、バルブ15の切換がバルブ14の切換より遅れた場合を示しているが、逆に、バルブ14の切換がバルブ15の切換より遅れた場合には、第2油圧室Rの油が早めに抜かれてしまうために、第1油圧室Hの油圧が一時的に下がることになるので、メタル圧Pが増圧されるべきであるのに、下がってしまい、全体として高い油圧が得られない(このときのメタル圧Pのグラフは、図示されていない)。
【0030】
ダイカストマシンの油圧シリンダを制御する油圧制御回路のいずれの方式によっても、これらは、いずれも2つのバルブをON・OFF制御することにより、速度制御工程から増圧制御工程に切り換えられるものである。速度制御工程では、スリーブ4に充満された溶融金属Mの凝固層が、極薄状態を維持している時間で、金型キャビティ3内にあるガス体をできる限り排出して、溶融金属Mを充填させる工程で、現在の実用値は、プランジャヘッド6の速度に換算して、V=2〜7(m/s)である。
【0031】
増圧制御工程では、金型キャビティ3に充填された溶融金属Mの凝固層が極薄状態の内に、溶融金属Mに高圧を加える必要があり、現在の実用値は、メタル圧P=40〜90(MPa)、増圧時間は、0.01〜0.1秒、程度である。この範囲で最適値を選んで設定している。
【0032】
この速度制御工程から増圧制御工程の切換時間の実用値は、0.02〜0.03秒であり、バラツキがないことが重要である。例えば、同じ金型で量産している鋳造条件が、メタル圧P=80(MPa)、増圧時間=0.03(秒)であった場合、切換時間のバラツキが0.02秒であるなら、増圧時間は0.03〜0.05秒となり、良品率は、大幅に低下する結果となる。そのため、この速度制御工程から増圧制御工程への切換時間は、0.01〜0.02秒が要求されている。
【0033】
従って、これを制御するには、0.001〜0.002秒の分解能が必要である。とりわけ、バルブ14とバルブ15との同期性は重要である。しかし、現状では、バルブ14とバルブ15について、それぞれ独立したバルブとして単独制御しているので、それらのバルブの射出特性(時間・速度・圧力)には、2つのバルブ間にバラツキがある。この特性差が、切換時間を増大させる結果となり、製品品質に影響し、問題となっている。
【0034】
図9乃至図11に示した油圧制御回路における2個のバルブは、各々独立したバルブであり、電気アクチュエータと油圧作動バルブとで構成されており、これらのバラツキは、現状、次のレベルである。
電気アクチュエータ系 0〜0.009秒
油圧アクチュエータ系 0〜0.015秒
これらを合わせると、0〜0.024秒となるので、この切換時間を、0〜0.005秒程度にする必要がある。
【0035】
そこで、本発明は、射出成形機を駆動する油圧シリンダの油圧制御において、2つのバルブによっていた油圧制御機能を一つの切換バルブで実現し、溶融金属の射出成形における速度制御工程から増圧制御工程への切換時間を短縮し、工程間の切換制御を円滑に行える射出成形制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
以上の課題を解決するため、本発明では、金型に溶融金属を射出成形するときに速度制御工程から増圧制御工程へ切換制御する射出成形制御装置において、第1ポート、第2ポート及び第3ポートを有するバルブ本体と、前記バルブ本体内で、該本体の内面と接して軸方向に摺動でき、該軸方向に所定距離だけ離れた第1通路及び第2通路を有する中空の可動スリーブと、前記バルブ本体内に、前記可動スリーブを軸方向に摺動させるパイロット圧力部と、を備え、前記第1ポートが前記中空部に連通しており、前記可動スリーブが前記バルブ本体内を前記パイロット圧力部の駆動により摺動させ、該第1通路が該第2ポートに整合したとき、該第1ポートと該第2ポートを通過する第1油流路に、又は、該第2通路が第3ポートに整合したとき、該第1ポートと該第3ポートを通過する第2油流路に切換えられ、前記溶融金属に所定圧力を加える油圧シリンダを前記速度制御工程から前記増圧制御工程へ切換制御することとした。
【0037】
さらに、前記パイロット圧力部は、前記バルブ本体の内面と前記可動スリーブの外面とで形成される圧力室と、前記可動スリーブの外面に、前記圧力室を第1圧力室と第2圧力室に分けるピストンと、を備え、前記第1圧力室と前記第2圧力室の各々に通ずる第1流路と第2流路を配設した。
【0038】
そして、前記第1流路から前記第1圧力室に油流を供給したとき、前記可動スリーブが一方の軸方向に摺動して、前記第1通路が前記第2ポートに整合し、前記第2流路から前記第2圧力室に油流を供給したとき、前記可動スリーブが他方の軸方向に摺動して、前記第2通路が前記第3ポートに整合することとした。
【0039】
前記パイロット圧力部において、前記ピストンの前記第2圧力室に係る面積を前記第1圧力室に係る面積より小さくし、さらには、前記第2圧力室の形成に寄与する前記可動スリーブの摺動外面を、前記バルブ本体の内面に近づけた。
【0040】
前記バルブ本体は、該本体の端部において、軸方向端に停止していた前記可動スリーブが摺動開始するときに加速圧力を付加する加速圧力部を有することとした。
【0041】
前記加速圧力部は、前記可動スリーブ端に当接する板体を支持し、軸方向に駆動されるピストンを備え、該ピストンは、前記第2流路に連通する第3流路で供給される油流によって、所定距離だけ前記軸方向に限定的に駆動されることとした。
【0042】
また、前記第1流路又は前記第2流路を通じて前記パイロット圧力部に一定圧力の油流を供給するパイロット制御バルブを備えることとした。
【0043】
該パイロット制御バルブは、さらに第1乃至第3接続ポート部を有し、前記第1接続ポート部が選択されると、前記第2流路に前記油流が供給され、前記第2接続ポート部が選択されると、前記第1流路及び第2流路に前記油流が共に供給され、前記第3接続ポート部が選択されると、前記第1流路に前記油流が供給されることとし、前記第1乃至第3接続ポート部は、切換指令に基づいて電磁駆動部により選択駆動されることとした。
【発明の効果】
【0044】
以上の様に、本発明の射出成形制御装置によれば、従来の射出成形の油圧制御回路において、速度制御工程から増圧制御工程に切り換えるために、独立制御される2つのバルブを用いなければならなかったため、それらのバルブの制御には、バラツキがあり、その切換を適切なタイミングで行うことができなったのに対し、これら2つのバルブの切換機能を一つの切換制御装置に纏めることができたことにより、速度制御工程から増圧制御工程への切換制御が円滑に行われ、その切換タイミングがずれることがない。
【0045】
また、切換制御装置の可動スリーブを駆動するパイロット圧力室において、該圧力室の第1圧力室と第2圧力室との面積を異ならせ、或いは、可動スリーブの移動開始時のみに加速を付加する加速圧力部を設けたので、速度制御工程から増圧制御工程への切換に要する時間を大幅に短縮することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
次に、溶融金属を射出成形するときにおける速度制御工程から増圧制御工程に切り換える本発明の実施形態について、図1乃至図7を参照して説明する。
【0047】
従来の射出成形の油圧制御回路において、速度制御工程から増圧制御工程に切り換えるために、独立制御される2つのバルブを用いていたため、それらのバルブの制御には、バラツキがあり、その切換を適切なタイミングで行うことができなった。そこで、本実施形態の油圧制御回路に使用するバルブは、これら2つのバルブの切換機能を一つの切換バルブに纏めることとした。そして、この切換バルブにおいて、切換が円滑に行われ、その切換に要する時間をできるだけ短縮する工夫を施した。
【0048】
図1に、本実施形態が適用される油圧制御回路において、速度制御工程から増圧制御工程へ切換制御するための切換バルブに関する具体的な構成を示した。同図では、切換バルブ100について、その断面で示しており、さらに、該切換バルブ100を作動させるパイロット制御バルブ200についても、記号化して示している。
【0049】
切換バルブ100は、バルブボディ101をベースとしており、バルブボディ101は、適当な肉厚を有した軸方向に長い有底円筒形状をなし、その内周面を摺動する可動スリーブ111を収納している。バルブボディ101の端部には、Pポート102が開口しており、その他端部には、加速圧力形成部120が備えられている。そして、バルブボディ101の円筒壁部には、Aポート103とBポート104が開口している。
【0050】
バルブボディ101内に収納される可動スリーブ111は、軸方向円筒状に形成され、内部が空洞になっている。可動スリーブ111の円筒壁体には、軸方向に摺動して移動することによってAポート103と整合し、可動スリーブ111の内部に通じる通路112と、Bポート104と整合し、内部に通じる通路113とが設けられている。可動スリーブ111が移動して、通路112がAポート103に重なるときには、Pポート102とAポート103との間に、油の流れが形成される。また、通路113がBポート104に重なるときには、Pポート102とBポート104との間に油の流れが形成される。可動スリーブ111の移動によって、このどちらかの油の流れが形成されるようになっている。
【0051】
さらに、バルブボディ101の円筒壁部には、Bポート104から離れた位置に、パイロット圧力室が形成されている。このパイロット圧力室は、第1パイロット圧力室105と第2パイロット圧力室106からなり、各圧力室は、バルブボディ101の円筒壁部に設けられた内周凹部と、可動スリーブ111の外周面とで形成されている。この円筒壁部に形成された内周凹部の直径Dは、可動スリーブ111の直径Dより大きくなっている。そして、パイロット圧力室は、可動スリーブ111の外周面に取り付けられたパイロットピストン114によって、第1パイロット圧力室105と第2パイロット圧力室106とに仕切られている。
【0052】
バルブボディ101の円筒壁部には、第1パイロット圧力室105に油を注入又は引き抜きするための流路aが設けられ、また、第2パイロット圧力室106にたいしても、油を注入又は引き抜きするための流路bが設けられている。そこで、流路aから第1パイロット圧力室105に油を注入し、流路bから第2パイロット圧力室106の油を抜けば、可動スリーブ111が、図1で見て、右方向に移動し、通路112がAポート103に整合するようになり、反対に、流路aから第1パイロット圧力室105に油を抜き、流路bから第2パイロット圧力室106に油を注入すると、可動スリーブ111が、図1で見て、左方向(図中の矢印方向)に移動し、通路113がBポート103に整合するようになる。
【0053】
パイロット圧力室を、以上のような構成によって、バルブボディ101の円筒壁部の内周側に形成するだけでも、例えば、Pポート102からAポート103に流れている油の流れを、Pポート102からBポート103への油の流れに切り換えることができる。そして、通路112と通路113の開口位置を、Aポート103とBポート104との位置関係を適宜設計しておけば、流路aと流路bの油量を調整することにより、Pポート102、Aポート103、Bポート104の3通路を連通させることも可能である。
【0054】
上述したパイロット圧力室の構成では、流路aと流路bに流す油の量が一定であるとすると、可動スリーブ111の移動速度は、左右方向で同じである。しかし、油の流れをAポート103からBポート104に切り換えるときには、早くする必要がある。この場合に対応するため、第2パイロット圧力室106を形成する可動スリーブ111の外周直径Dを、可動スリーブ111における他の部分の外周直径Dより大きくしてやる。つまり、パイロット圧力室に係る各直径の関係を、D<D<Dのようにする。この様にすると、流路aと流路bに流れる油量が一定ならば、可動スリーブ111の移動は、左方向の方が右方向より早くなる。
【0055】
なお、図1に示された切換バルブ100のPポート102側を下にして、軸方向を鉛直にして設置された場合には、可動スリーブ111の自重自体が、可動スリーブ111の移動に影響を与えるが、パイロット圧力室に係る各直径の大きさの関係を上記のようにすると、可動スリーブ111を上方の位置に保持しやすく、また、可動スリーブ111を下方に移動させるときには、その移動速度をより早くさせるという利点がある。
【0056】
一方、図1の切換バルブ100の軸方向を水平にして設置した場合に、可動スリーブ111の移動を、さらに早くするための工夫として、バルブボディ101のPポート102の反対側に、加速圧力形成部120を備えた。この加速圧力形成部120は、可動スリーブ111の移動開始時の短時間だけ、可動スリーブ111自体を押圧するものであり、これによって、可動スリーブ111が動き始めるときの慣性に打ち勝ち、立ち上がる速さを早めることができる。結果として、切り換えバルブ100の切換時間の短縮を図ることができる。
【0057】
加速圧力形成部120は、加速圧力室内で僅かな距離Sだけ移動可能な直径Dの加速用ピストン121を有しており、そして、加速用ピストン121の端部には、可動スリーブ111がバルブボディ101内で一番右側に位置したとき、可動スリーブ11の最端部に接する当接板122を設けている。なお、直径Dの大きさは、可動スリーブ111の直径Dより小さくしてある。
【0058】
加速圧力室の加速用ピストン121のヘッド側には、僅かな空隙を設け、ここに流路bに連通する流路bを配設する。また、距離Sの空隙を設けた側には、油を出入りさせる流路bを配設する。
【0059】
このような加速圧力形成部120が、切換バルブ100に備えられていると、Aポート103側からBポート104側に切り換える場合、可動スリーブ111を左方向に移動させるときに流路bに油が注入されるが、このとき、流路bに連通する流路bにも、油が注入される結果、加速用ピストン121も加圧される。この加速用ピストン121が加圧されることにより、当接板122が距離Sの間だけ、可動スリーブ111を押すことになる。このときには、流路bに油が注入され、第2パイロット圧力室106にも油が注入されるので、パイロットピストン114によって、可動スリーブ111が左方向に動き出そうとしている。
【0060】
したがって、可動スリーブ111が最右端の位置から移動を開始するとき、可動スリーブ111には、パイロット圧力室の押圧力に加えて、加速圧力形成部120の押圧力が作用することになり、可動スリーブ111の立上り速度を早くすることができる。結果として、加速圧力形成部120の設置は、切換バルブ100の切換時間を短縮することになる。
【0061】
以上で、本実施形態に係る切換バルブ100本体の構成について説明したが、次に、切換バルブ100の切換を制御するパイロット制御バルブ200について説明する。このパイロット制御バルブ200は、図1に、その構成を記号化して示されている。
【0062】
パイロット制御バルブ200は、切換バルブ100に設けられた流路aと流路bとに、油を注入し又は引き抜きするためのバルブであり、この制御を行うためは、電磁駆動部204及び205を備えている。電磁駆動部204及び205は、駆動電源206で駆動制御され、3つの接続ポート部201乃至203を切り換える。この切換は、マイコン制御による指令信号が駆動指令入力端子207に送信されることによって行われる。なお、切換駆動指令を発信する条件要素には、時間・位置・圧力・速度があり、これらの要素の内、単独又は複数の組合せで構成される。
【0063】
このパイロット制御バルブ200は、4つのポートを有しており、Pポートには、一定油圧の圧力源が接続され、もう一つには、引き抜いた油を溜めるタンクが接続される。Aポートは、流路aに、そして、Bポートは、流路bにそれぞれ接続される。
【0064】
ここで、パイロット制御バルブ200が接続ポート部201に駆動制御された場合には、一定油圧の油がBポートを通って流路bに注入され、流路aから油を抜くことになるので、可動スリーブ111が左方向に加速駆動される。反対に、接続ポート部203に駆動制御されたときには、一定油圧の油は、Aポートを通って流路aに注入され、流路bから油が抜かれるので、可動スリーブ111は、右方向に移動される。このとき、加速用ピストン121が、流路bから油が抜かれることにより、次の加速に備えて元の位置に戻る。
【0065】
ところで、例えば、可動スリーブ111を右端の位置で止めたときには、パイロット制御バルブ200は、接続ポート部202に駆動制御される。この接続ポート部202は、Pポートからの一定油圧の油がAポートとBポートの両方に流れるように、例えば、それぞれ1/2ずつ流れるように接続されている。そのため、可動スリーブ111の停止時には、Aポートが流路aに、Bポートが流路bに微小通路で接続される。
【0066】
そこで、次に、右端にある可動スリーブ111を左方向に移動させるときに、パイロット制御バルブ200は、接続ポート部202から接続ポート部201に切換駆動されることになるが、この切り換え直前までは、流路aと流路bとには、Pポートから一定油圧の50%がかかっているので、切換後において、流路bにかかる油圧が100%に立ち上がるのに必要な時間を、50%分短くすることができる。
【0067】
したがって、パイロット制御バルブ200において、可動スリーブ111の停止時に、AポートとBポートのそれぞれに油圧を印加するようにしたので、このようなパイロット制御バルブ200の制御の工夫によって、可動スリーブ111を停止状態から移動開始するまでの立上り時間を短縮することができる。結果として、切換バルブ100におけるAポート103からBポート104への切換、又はその逆の切換に要する時間を短くすることができる。
【0068】
次に、図1に示された本実施形態による切換バルブ100を、図9に示される差動方式の油圧制御回路に適用した第1の実施形態について、その具体例を、図2に示した。同図において、油圧制御回路に組み込まれた切換バルブ100は、切換バルブ18として、切換機能による記号方式で示した。油圧シリンダに関する油圧制御回路における速度制御工程と増圧制御工程との油の流れは、基本的に変わっていないので、図2に示した油圧制御回路における切換バルブ18以外の各要素は、図9の場合と同じものを使用しており、同じものには、同じ符号を付した。
【0069】
そこで、本実施形態による切換バルブ18を使用した差動方式の油圧制御回路の作動について説明する。切換バルブ18のPポートは、油圧シリンダ11の第2油圧室Rに接続され、Aポートは、第1油圧室Hと速度制御バルブ16に接続され、さらに、Bポートは、増圧制御バルブ17に接続されているものとする。
【0070】
先ず、油圧シリンダ11のピストンロッド13を速度制御する場合には、従来の差動方式油圧制御回路では、バルブ14をON状態に、バルブ15をOFF状態に制御して、油圧源ACCからの油を第1油圧室Hに注入し、第2油圧室Rの油を第1油圧室Hに戻すようにしていた。図2の差動方式油圧制御回路では、バルブ14のON状態とバルブ15のOFF状態との機能を実現するため、パイロット制御バルブ200を接続ポート部203に切換駆動し、可動スリーブ111を右方向に移動させる(図1に示した位置)。可動スリーブ111が所定位置に停止したならば、接続ポート部203から接続ポート部202に切り換えておく。この様に、切換バルブ18が切換制御されると、Pポートから第2油圧室Rの油が、Aポートを通って第1油圧室Hに戻り、速度制御工程に入る。
【0071】
油圧源ACCに蓄積された油が、速度制御用バルブ16を通って、油圧シリンダ11の第1油圧室Hに入る(この場合、バルブ16の開度は、低速である)。ピストンロッド13は、左方向に動くので、第2油圧室Rの油は、バルブ14を通って第1油圧室Hに入る。ピストンロッド13が位置p相当の所へ移動したとき、高速射出の指令が出され、速度制御用バルブ16が急激に開度を開き(時間は、0.01秒)、ピストンロッド13の速度は、高速となる。油の通路は、低速の場合と同じである。ピストンロッド13が位置p相当の所に近づいたときには、溶融金属Mの流れ抵抗が急増するので、速度は、急激に低下すると共に、メタル圧Pも流れ抵抗に比例して、上昇する。この時間も、0.01秒程度である。油圧制御回路のままの出力は、ピストンのロッド径dに相当する出力が最大であり、増圧メタル圧値(P)には達しない。従って、位置pの直前で、切換バルブ18を作動させ、ピストン径Dに相当する出力値が必要となる。
【0072】
次いで、図13に示されるメタル圧Pの特性が得られるように、時間tまで速度制御工程が続くが、この時間tのタイミングで速度制御工程から増圧制御工程に切り換えられる必要がある。従来の差動方式制御回路では、バルブ14とバルブ15とを独立してON・OFF状態の切換制御を行っていたため、これらのバルブに存在する動作バラツキの影響で、所望するメタル圧Pが得られない。
【0073】
そこで、図2に示した油圧制御回路では、切換バルブ18のパイロット制御バルブ200において、接続ポート部202から接続ポート部201への切換制御が行われる。この切換前では、接続ポート部202が接続されていたので、接続ポート部201に切り換えられたとき、可動スリーブ111は、加速圧力の付加と、立上り時間の短縮との相乗効果によって、極めて短時間で左方向に移動することができ、Pポート102からの油の流れが、Aポート103方向からBポート104方向に極めて短時間の間に切り換えられる。
【0074】
ここで、可動スリーブ111に設けた通路112と通路113の間隔と、バルブボディ101に設けたAポート103とBポート104の間隔とを適宜調整して配設されると、上述の油に係る流れ方向の切換途中において、通路112が、Aポート103に整合している間に、通路113の開口がBポート104に臨む状態が存在する。この状態は、油の流れが、Aポート103方向からBポート104方向に完全に切り換えられる前に、図2の切換バルブ18に示されるように、Pポート102、Aポート103、Bポート104のいずれにも連通する中間状態となる。これにより、油の流れ方向が、上述した極めて短時間の間においても、徐々に切り換えられることになり、油の流れを瞬断させることがなく、円滑な切換を実現できる。
【0075】
この様にして、切換バルブ18の駆動制御によって、油圧シリンダ11に係る速度制御工程から増圧制御工程へと切り換えられることになるが、この切換バルブ18における切換が、時間tに合ったタイミングで行われるためには、パイロット制御バルブ200の制御特性上の遅れを考慮し、パイロット制御バルブ200への駆動指令信号は、時間tのタイミングで入力端子207に送信するようにする。
【0076】
そして、パイロット制御バルブ200が、接続ポート部201に切換制御されると、可動スリーブ111が左方向の最終的な所定位置まで移動し、時間tにおいて、通路112は、Aポート103と完全に切断され、通路113がBポート104と完全に整合することになる。切換バルブ18における切換が、この状態になると、第2油圧室Rの油が抜かれる状態となり、第1油圧室Hには、油圧源ACCの油圧がかかることになり、油圧シリンダ11が、増圧制御工程に移行する。
【0077】
以上のように、第1の実施形態によれば、図2に示した差動方式油圧制御回路に切換バルブ18として、図1に示される構成の切換バルブ100を使用して、速度制御工程から増圧制御工程に切り換えるようにしたので、制御用の油の流れを、短時間で、しかも、円滑に切り換えられ、図13に示されるような所望のメタル圧Pの特性を得ることが可能となり、切換タイミングについても、正確に設定することができる。そのため、ダイカストマシンで射出成形される製品の品質を向上でき、品質管理が容易となる。
【0078】
これまで、図1に示した本実施形態による切換バルブ100を差動方式の油圧制御回路に適用した場合について、説明してきたが、他の方式であるブースト方式又は2段油圧源方式の油圧制御回路に切換バルブ100を適用する場合も、図2の差動方式油圧制御回路の場合と同様である。図3に、第2の実施形態として、ブースト方式の油圧制御回路の場合、図4に、第3の実施形態として、2段油圧源方式の油圧制御回路の場合をそれぞれ示した。
【0079】
この第2及び第3の実施形態による油圧制御回路においては、従来には、独立制御されていた2つのバルブの代わりに、切換バルブ100に置き換えたものであり、基本的な速度制御工程から増圧制御工程への切換動作は、図2に示した差動方式の油圧制御回路における切換動作と同様であるので、ここでは、その説明を省略する。
【0080】
一方、第4の実施形態として、図12に示した差動方式と2段油圧源方式を組み合わせた複合方式の油圧制御回路において、図1に示した本実施形態の切換バルブ100を適用した場合を、図5に示した。図5に示される油圧制御回路は、図12に示した従来の油圧制御回路における基本的構成を採用しているが、バルブ44とバルブ45を、切換バルブ51に、そして、バルブ46とバルブ47を、切換バルブ52にそれぞれ置き換えていることが特徴である。図5では、切換バルブ51及び52について、簡略なバルブ記号で示したが、それぞれの切換バルブ自体の構成は、図1に示される切換バルブ100と同じものであり、図2に示された切換バルブ18と同様の作動記号で表している。
【0081】
切換バルブ51に関して、Pポート102は、油圧シリンダ41の第2油圧室Rに、Aポート103は、第1油圧室Hに、そして、Bポート103は、油溜めタンクに接続される。また、切換バルブ52に関して、Pポート102は、第1油圧室Hに、Aポート103は、第1油圧源ACC41に、そして、Bポート104は、第2油圧源ACC42にそれぞれ接続される。
【0082】
切換バルブ51及び52における個々の切換動作は、図1に示した切換バルブ100と同様であり、それぞれの切換制御のために、パイロット制御バルブ200が接続されており、それらのパイロット制御バルブ200の切換制御は、マイコンで生成された駆動指令信号に基づいて行われる。
【0083】
油圧シリンダ41を速度制御工程の状態にするには、切換バルブ52のパイロット制御バルブ200を接続ポート部203の状態に切換制御し、第1油圧源ACC41から第1油圧室Hに油を注入し、切換バルブ51のパイロット制御バルブ200において接続ポート部203の状態に切換制御し、第2油圧室Rの油が第1油圧室Hに流れ込むようにする。そして、各パイロット制御バルブ200は、接続ポート部203から接続ポート部202の状態に駆動される。
【0084】
そこで、油圧シリンダ41を速度制御工程から増圧制御工程に切換制御する場合には、実際の切換タイミング時間tより早めの時間tにおいて、マイコンから、各パイロット制御バルブ200に駆動指令信号を同時に送信する。そうすると、切換バルブ51と52の各パイロット制御バルブ200において、接続ポート部202から接続ポート部201の状態へ共に駆動制御される。
【0085】
このときに、切換バルブ51と52において、可動スリーブ111が、短時間で、左方向に駆動され、Pポート102、Aポート103、Bポート104が共に連通状態を経た後、Pポート102とBポートとが完全に連通した状態に切り換えられる。そこで、第2油圧室Rの油が、タンクに抜かれる状態となり、第1油圧源ACC41から高圧の第2油圧源ACC42の油圧が、第1油圧室Hに印加される。
【0086】
この様に、一連の切換バルブの作動制御によって、油圧シリンダ41を速度制御工程から増圧制御工程に切り換えるようにしたので、第1の実施形態の場合と同様に、制御用の油の流れを、短時間で、しかも、円滑に切り換えられ、増圧時のより高い所望のメタル圧Pの特性を得ることが可能となり、切換タイミングについても、正確に設定することができる。そのため、ダイカストマシンで射出成形される製品の品質を向上でき、品質管理も容易になる。
【0087】
そこで、第4の実施形態による油圧制御回路における圧力特性を、図6のグラフに示した。図6に示したグラフの表示方法は、図13に示した圧力特性のグラフの場合と同様である。Pは、第1油圧室Hの油圧を、Pは、第2油圧室Rの油圧を、そして、Pは、金属スリーブ4内でのメタル圧をそれぞれ示している。Vは、油圧シリンダ41のピストンロッド43の移動速度を表している。
【0088】
図6において、時間tが、油圧制御回路における速度制御工程から増圧制御工程に切り換えられるタイミングを示しており、これらの工程が、このタイミングで切り換わるように、各パイロット制御バルブ200に、時間tで切換駆動指令が発せられる。
【0089】
図6に示された圧力特性と、図13に示された圧力特性とを比較したとき、大きく異なる点は、増圧制御工程での油圧Pである。第1の実施形態の差動方式においては、第1油圧室Hの油圧が、油圧源ACCに依存するものであったが、図6の第4の実施形態による複合方式の場合においては、第1油圧室Hに係る油圧は、時間tで、第1油圧源ACC41から第2油圧源ACC42による油圧に切り換えられており、増圧制御工程での油圧Pは、第1油圧源ACC41の油圧より高くなる。
【0090】
そのため、第4の実施形態による複合方式の油圧制御回路によれば、増圧制御工程に切換後のメタル圧Pを、第1の実施形態の差動方式油圧制御回路におけるメタル圧Pを一層高くすることができ、しかも、増圧に切り換え直後の立ち上がりを急峻にできる。したがって、速度制御工程から増圧制御工程に切り換えたときの、時間tからtまでの増圧時間設定値を短くすることができる。
【0091】
射出成形時の速度制御工程から増圧制御工程への切換に関しては、図1の本実施形態による切換バルブを使用することで、図2乃至図4に示される第1乃至第3の実施形態の油圧制御回路を形成したことにより、切換制御が大幅に改善されたが、上述した短所は、除かれていなかった。そこで、第4の実施形態による油圧制御回路とすることにより、メタル圧P値の変更幅を大きくでき、かつメタル圧P値が安定し、切換時間を最も短くできる。さらに、メタル圧Pの立上りを滑らかにできると共に、メタル圧P値を一定とすれば、ピストン径Dを小さくできるので、より高性能なダイカストマシンを提供することができる。
【0092】
したがって、本発明によれば、溶融金属の射出成形時の速度制御工程から増圧制御工程への切換タイミングを変更することができ、その切換を円滑に行うことができるようになり、所望するメタル圧特性を得られるため、射出成形製品の品質を向上し、安定した品質管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の射出成形工程切換制御に適用される切換バルブの実施形態を説明する構成図である。
【図2】本実施形態の切換バルブを差動方式の油圧制御回路に組み込んだ第1の実施形態の射出成形工程切換制御を説明する図である。
【図3】本実施形態の切換バルブをブースト方式の油圧制御回路に組み込んだ第2の実施形態の射出成形工程切換制御を説明する図である。
【図4】本実施形態の切換バルブを2段油圧源方式の油圧制御回路に組み込んだ第3の実施形態の射出成形工程切換制御を説明する図である。
【図5】本実施形態の切換バルブを複合方式の油圧制御回路に組み込んだ第4の実施形態の射出成形工程切換制御を説明する図である。
【図6】図5に示した射出成形工程切換制御における圧力特性を説明する図である。
【図7】溶融金属を射出成形する工程を説明する図である。
【図8】溶融金属を射出成形しているときのメタル圧を説明する図である。
【図9】従来の差動方式の油圧制御回路を説明する図である。
【図10】従来のブースト方式の油圧制御回路を説明する図である。
【図11】従来の2段油圧源方式の油圧制御回路を説明する図である。
【図12】従来の差動・2段油圧源方式の複合方式油圧回路を説明する図である。
【図13】溶融金属を射出成形したときの圧力特性を説明する図である。
【符号の説明】
【0094】
1 可動金型
2 固定金型
3 金型キャビティ
4 金属スリーブ
5 注入口
6 プランジャヘッド
7 プランジャロッド
8、13、23、23’、33、43 ピストンロッド
11、21、21’、31、41 油圧シリンダ
12、22、22’、32、42 ピストン
14、15、24、25、34、35、44、45、46、47 バルブ
16、26、36、48 速度制御バルブ
17、27、37、49 増圧時間制御バルブ
18、28、38、51、52、100 切換バルブ
101 バルブボディ
102 Pポート
103 Aポート
104 Bポート
105 第1パイロット圧力室
106 第2パイロット圧力室
111 可動スリーブ
112、113 通路
114 パイロットピストン
115 径大部
120 加速圧力形成部
121 加速用ピストン
122 当接板
200 パイロット制御バルブ
201、202、203 接続ポート部
204、205 電磁駆動部
206 駆動電源
207 駆動指令入力端子
、b〜b 流路
ACC〜ACC42 油圧源
〜H 第1油圧室
〜R 第2油圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型に溶融金属を射出成形するときに速度制御工程から増圧制御工程へ切換制御する射出成形制御装置であって、
第1ポート、第2ポート及び第3ポートを有するバルブ本体と、
前記バルブ本体内で、該本体の内面と接して軸方向に摺動でき、該軸方向に所定距離だけ離れた第1通路及び第2通路を有する中空の可動スリーブと、
前記バルブ本体内に、前記可動スリーブを軸方向に摺動させるパイロット圧力部と、を有し、
前記第1ポートが前記中空部に連通しており、前記可動スリーブが前記バルブ本体内を前記パイロット圧力部の駆動により摺動させ、該第1通路が該第2ポートに整合したとき、該第1ポートと該第2ポートを通過する第1油流路に、又は、該第2通路が第3ポートに整合したとき、該第1ポートと該第3ポートを通過する第2油流路に切換えられ、前記溶融金属に所定圧力を加える油圧シリンダを前記速度制御工程から前記増圧制御工程へ切換制御することを特徴とする射出成形制御装置。
【請求項2】
前記パイロット圧力部は、前記バルブ本体の内面と前記可動スリーブの外面とで形成される圧力室と、
前記可動スリーブの外面に、前記圧力室を第1圧力室と第2圧力室に分けるピストンと、を有し、
前記第1圧力室と前記第2圧力室の各々に通ずる第1流路と第2流路を配設したことを特徴とする請求項1に記載の射出成形制御装置。
【請求項3】
前記第1流路から前記第1圧力室に油流を供給したとき、前記可動スリーブが一方の軸方向に摺動して、前記第1通路が前記第2ポートに整合し、
前記第2流路から前記第2圧力室に油流を供給したとき、前記可動スリーブが他方の軸方向に摺動して、前記第2通路が前記第3ポートに整合することを特徴とする請求項2に記載の射出成形制御装置。
【請求項4】
前記パイロット圧力部において、前記ピストンの前記第2圧力室に係る面積を前記第1圧力室に係る面積より小さくしたことを特徴とする請求項2又は3に記載の射出成形制御装置。
【請求項5】
前記パイロット圧力部において、前記第2圧力室の形成に寄与する前記可動スリーブの摺動外面を、前記バルブ本体の内面に近づけたことを特徴とする請求項4に記載の射出成形制御装置。
【請求項6】
前記バルブ本体は、該本体の端部において、軸方向端に停止していた前記可動スリーブが摺動開始するときに加速圧力を付加する加速圧力部を有することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の射出成形制御装置。
【請求項7】
前記加速圧力部は、前記可動スリーブ端に当接する板体を支持し、軸方向に駆動されるピストンを有し、
前記ピストンは、前記第2流路に連通する第3流路で供給される油流によって、所定距離だけ前記軸方向に限定的に駆動されることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一項に記載の射出成形制御装置。
【請求項8】
前記第1流路又は前記第2流路を通じて前記パイロット圧力部に一定圧力の油流を供給するパイロット制御バルブを備えたことを特徴とする請求項2乃至7のいずれか一項に記載の射出成形制御装置。
【請求項9】
前記パイロット制御バルブは、第1乃至第3接続ポート部を有し、
前記第1接続ポート部が選択されると、前記第2流路に前記油流が供給され、
前記第2接続ポート部が選択されると、前記第1流路及び第2流路に前記油流が共に供給され、
前記第3接続ポート部が選択されると、前記第1流路に前記油流が供給されることを特徴とする請求項2乃至8のいずれか一項に記載の射出成形制御装置。
【請求項10】
前記第1乃至第3接続ポート部は、切換指令に基づいて電磁駆動部により選択駆動されることを特徴とする請求項9に記載の射出成形制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−290041(P2007−290041A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199370(P2007−199370)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【分割の表示】特願2002−236624(P2002−236624)の分割
【原出願日】平成14年8月14日(2002.8.14)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】