説明

射出成形品の除電方法及び射出成形方法並びに射出成形装置

【課題】静電気による塵埃等の異物の吸着が確実に防止され得る射出成形品の除電技術を提供する。
【解決手段】射出成形用金型16の複数の分割型26,28が型開きされた後において、射出成形品10が、未だ成形キャビティ32内に位置せしめられている状態から、複数の分割型26,28同士の間に突き出された状態を経て、複数の分割型26,28同士の間より外部に取り出されるまでの間にかけて、かかる射出成形品10に対してイオンを継続的に照射することにより、射出成形品10の除電処理を行うように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品の除電方法と射出成形方法と射出成形装置と射出成形システムとに係り、特に、射出成形品に発生する静電気を有利に除去し得る射出成形品の除電方法と射出成形方法と射出成形装置と射出成形システムとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、射出成形用金型と樹脂材料やゴム材料等の不導体(絶縁体)材料とを用いた射出成形によって射出成形品を得る場合、成形工程中に、不導体材料と射出成形用金型との間で生ずる摩擦帯電や、成形工程の終了後における型開き時、或いは射出成形品の成形キャビティ内からの突出し時に、射出成形用金型の分割型同士の間や射出成形品と射出成形用金型との間に生ずる剥離帯電等の様々な帯電現象によって、射出成形品に静電気が不可避的に発生する。そして、そのような静電気は、金型材料や不導体材料の種類等により若干の差はあるものの、±20kV以上もの高電圧となる場合がある。
【0003】
この射出成形品に発生した静電気は、製品表面に塵や埃等の異物を引き寄せるため、例えば塗装等の表面処理の実施時における不具合の発生原因となっていた。また、特に、そのような射出成形品が、クリーンルーム内で二次加工等されるものである場合、静電気によって射出成形品に付着した塵埃等の異物が、射出成形品と共にクリーンルーム内に持ち込まれてしまうといった深刻な事態が惹起されることとなる。
【0004】
そこで、従来から、そのような射出成形品や電子部品、医療用品等の成形加工に際しては、上記の如き様々な不具合の発生を未然に防止すべく、射出成形品に対する除電処理を行う方法や装置が、種々、提案されている。
【0005】
すなわち、例えば、下記特許文献1には、射出成形用金型から取り出された射出成形品を所定の場所に搬送する搬送コンベヤ等の搬送手段の途中に、イオン化エアを噴射する静電気除去装置や除電ブラシが取り付けられてなる射出成形システムが、明らかにされている。この射出成形システムにあっては、搬送コンベヤによる射出成形品の搬送中に、射出成形品に対して、静電気除去装置からイオン化エアが吹き付けられたり、除電ブラシが接触せしめられたりすることで、射出成形品に発生した静電気を除去すると共に、かかる静電気にて射出成形品の表面に吸着された塵埃等の異物を取り除く射出成形品の除電・除塵処理が行われるようになっている。
【0006】
しかしながら、公知の如く、静電気が生ぜしめられた物品の表面には、塵埃等の異物が、静電気の電圧の大きさに比例する極めて大きな力で吸着されるようになる。例えば、静電気の発生により5kVに帯電した物品の表面には、直径が1μmの塵埃等の異物が、14.6g/μm2 の力で吸着される。そのため、±20kV以上もの極めて高電圧の静電気が発生する射出成形品の表面に既に吸着されてしまった塵埃等の異物は、射出成形品に対して、単に、イオン化エアを吹き付けたり、除電ブラシを接触させたりするだけでは、射出成形品表面から容易に除去され得るものではなかった。それ故、上記せる従来の射出成形システムにおいては、射出成形品の表面に静電気により吸着した塵埃等の異物を完全に除去することが極めて困難であったのである。
【0007】
かかる状況下、下記特許文献2には、射出成形金型の複数の分割型が型開きされたときに、それら複数の分割型同士の間に、軟X線を放射する除電装置を侵入させて、成形キャビティ内からの射出成形品の突出し開始から終了までの間、軟X線を、除電装置から射出成形品に照射することにより、射出成形品に対する除電処理を行うようにした射出成形品の除電方法が、開示されている。そして、そこには、かかる手法を採用することで、分割型の型開きや射出成形品の成形キャビティ内からの突出しによって射出成形品に生ずる最も大きな静電気が、極めて速やかに除去されるようになり、以て、射出成形品が分割型同士の間に突き出されてから、射出成形用金型の外部に取り出され、更に、所定の場所に搬送されるまでの間にかけて、射出成形品表面への静電気による塵埃等の異物の吸着(付着)が効果的に防止され得ることが、記載されている。
【0008】
ところが、本発明者等が、そのような従来の射出成形品の除電方法について検証したところ、かかる手法には、以下の如き問題が内在することが、判明した。
【0009】
すなわち、射出成形品に生ずる静電気は、複数の分割型の型開き時や射出成形品の成形キャビティ内からの突出し時に惹起される剥離帯電現象等によって発生せしめられるだけでなく、成形キャビティ内から突き出された後の射出成形品の冷却時に惹起される成形収縮によっても発生する。それ故、下記特許文献2に開示される従来の除電方法を実施した場合、確かに、射出成形品の成形キャビティ内からの突出し直後には、静電気が殆ど除去されて、射出成形体の表面電位が、一時的にゼロ又はそれに近い値となるものの、突出し直後の射出成形品が完全に冷却されていないため、その後の冷却による収縮によって射出成形品に静電気が再び生ぜしめられ、結局、射出成形品の射出成形用金型からの取出し時や、その後の搬送時に、射出成形品の表面に対して、塵埃等の異物が、静電気にて不可避的に吸着されることが明らかとなったのである。
【0010】
【特許文献1】特開2002−46147号公報
【特許文献2】特開2006−88457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、射出成形品表面への静電気による塵埃等の異物の吸着が、より効果的に且つ確実に防止され得るようにした射出成形品の除電方法と射出成形方法と射出成形装置と射出成形システムとを、それぞれ提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明にあっては、除電除塵装置に係る課題の解決のために、その要旨とするところは、複数の分割型からなる射出成形用金型を用いて成形される射出成形品を除電処理する方法であって、前記射出成形品が前記射出成形用金型の成形キャビティ内で成形されて、該射出成形用金型の前記複数の分割型が型開きされた後において、該射出成形品が、該成形キャビティ内より突き出される前から、該複数の分割型同士の間に突き出された状態を経て、該複数の分割型同士の間より外部に取り出されるまでの間にかけて、該射出成形品に対してイオンを継続的に照射することにより、該射出成形品の除電処理を行うことを特徴とする射出成形品の除電方法にある。
【0013】
なお、この本発明に従う射出成形品の除電方法の好ましい態様の一つによれば、前記射出成形品に対して、プラスイオンとマイナスイオンとが同時に照射される。
【0014】
また、本発明に従う射出成形品の除電方法の別の有利な態様の一つによれば、前記射出成形品に対するイオンの照射による除電処理が、該イオンと該射出成形品の表面上の電荷との間に生ずるクーロン力による該イオンの該射出成形品表面への吸着作用のみに基づいて行われる。
【0015】
さらに、本発明に従う射出成形品の除電方法の望ましい他の態様の一つによれば、前記射出成形品に対するイオンの照射による除電処理が、該射出成形品が前記複数の分割型同士の間より外部に取り出された後、該射出成形品の突き出される側の面とそれとは反対側の面の両面に対して同時に行われることとなる。
【0016】
更にまた、本発明に従う射出成形品の除電方法の更に別の好適な態様の一つによれば、前記射出成形品に対するイオンの照射による除電処理が、該射出成形品が前記複数の分割型同士の間より外部に取り出されてから、所定の場所に搬送されるまでの間、更に継続して行われる。
【0017】
そして、本発明にあっては、射出成形方法に係る課題の解決のために、複数の分割型からなる射出成形用金型を用いて射出成形を行うに際して、射出成形品が前記射出成形用金型の成形キャビティ内で成形されて、該射出成形用金型の前記複数の分割型が型開きされた後において、該射出成形品が、該成形キャビティ内より突き出される前から、該複数の分割型同士の間に突き出された状態を経て、該複数の分割型の間より外部に取り出されるまでの間にかけて、該射出成形品に対してイオンを継続的に照射することにより、該射出成形品の該射出成形用金型からの取出し操作と該射出成形品に対する除電処理操作とを同時に行うようにしたことを特徴とする射出成形方法をも、また、その要旨とするところである。
【0018】
なお、この本発明に従う射出成形方法の好ましい態様の一つによれば、前記射出成形品に対して、プラスイオンとマイナスイオンとが同時に照射される。
【0019】
また、本発明に従う射出成形方法の別の有利な態様の一つによれば、前記射出成形品に対するイオンの照射による除電処理が、該イオンと該射出成形品の表面上の電荷との間に生ずるクーロン力による該イオンの該射出成形品表面への吸着作用のみに基づいて行われる。
【0020】
さらに、本発明に従う射出成形方法の望ましい他の態様の一つによれば、前記射出成形品に対するイオンの照射による除電処理が、該射出成形品が前記複数の分割型同士の間より外部に取り出された後、該射出成形品の突き出される側の面とそれとは反対側の面の両面に対して同時に行われることとなる。
【0021】
更にまた、本発明に従う射出成形方法の更に別の好適な態様の一つによれば、前記射出成形品に対するイオンの照射による除電処理が、該射出成形品が前記複数の分割型同士の間より外部に取り出されてから、所定の場所に搬送されるまでの間、更に継続して行われる。
【0022】
そして、本発明にあっては、前記せる射出成形装置に係る課題を解決するために、その要旨とするところは、複数の分割型からなる射出成形用金型を有し、該射出成形用金型に形成される成形キャビティ内において射出成形品を成形する射出成形装置であって、(a)前記射出成形用金型の前記成形キャビティ内で成形される前記射出成形品を、前記複数の分割型の型開き状態下で、該成形キャビティ内から突き出す突出し機構と、(b)前記複数の分割型の型開き状態下で、それら複数の分割型同士の間に侵入し、前記突出し機構にて前記成形キャビティ内から突き出された前記射出成形品を、該複数の分割型同士の間から取り出す取出し機構と、(c)該取出し機構に装着され、前記複数の分割型の型開き状態下で、該取出し機構と共に該複数の分割型同士の間に侵入し、前記射出成形品が、前記成形キャビティ内より突き出される前から、該複数の分割型同士の間に突き出された状態を経て、該複数の分割型の間より外部に取り出されるまでの間にかけて、該射出成形品の少なくとも突き出される側とは反対側の面に対してイオンを継続的に照射する第一のイオン照射器とを含んで構成したことを特徴とする射出成形装置にある。
【0023】
なお、このような本発明に従う射出成形装置の好ましい態様の一つによれば、前記第一のイオン照射器が、前記射出成形品に対して、プラスイオンとマイナスイオンとを同時に照射し得るように構成される。
【0024】
また、本発明に従う射出成形装置の有利な態様の一つによれば、前記第一のイオン照射器が、前記イオンを、前記射出成形品の表面上の電荷との間に生ずるクーロン力による該射出成形品表面への吸着作用のみによって、該射出成形品に照射するように構成される。
【0025】
さらに、本発明に従う射出成形装置の別の望ましい態様の一つによれば、前記射出成形品が、前記取出し機構にて、前記複数の分割型同士の間より外部に取り出された状態下で、該射出成形品の突き出される側の面に対してイオンを照射する第二のイオン照射器が、更に設けられる。
【0026】
更にまた、本発明に従う射出成形装置の好適な他の態様の一つによれば、前記取出し機構が、前記射出成形用金型における前記複数の分割型同士の間より外部に取り出された前記射出成形品を所定の場所に移動させ得るように構成されると共に、該取出し機構に、該射出成形品が、該複数の分割型同士の間より外部に取り出されてから、該所定の場所に移動せしめられるまでの間にかけて、該射出成形品に対してイオンを継続的に照射する第三のイオン照射器が設けられる。
【0027】
そして、本発明にあっては、前記せる射出成形システムに係る課題の解決のために、前記せる如き特徴的な構造を有する射出成形装置と、該射出成形装置にて射出成形されて、前記取出し機構にて所定の場所に移動せしめられた前記射出成形品を、別の場所に更に搬送する搬送装置とを含んで構成した射出成形システムにして、前記搬送装置に、該搬送装置にて搬送される前記射出成形品に対してイオンを照射する第四のイオン照射器が、更に設けられていることを特徴とする射出成形システムをも、また、その要旨とするところである。
【0028】
なお、かかる本発明に従う射出成形システムの好適な態様の一つによれば、前記第四のイオン照射器が、イオンを発生するイオン発生手段と気体を送り出す気体送出手段とを含み、該イオン発生手段にて発生させたイオンを、該気体送出手段から送り出される気体と共に、前記射出成形品に吹き付けて、照射し得るように構成される。
【発明の効果】
【0029】
すなわち、本発明に従う射出成形品の除電方法にあっては、射出成形品の成形過程で、射出成形品において最も大きな静電気が不可避的に発生する間中、射出成形品に対する除電処理が継続的に実施されて、かかる静電気が中和除去されるようになっている。それ故、射出成形品が、その成形後に、最も強く帯電せしめられた状態で放置されることが回避され、以て、射出成形品の表面に対する塵埃等の異物の静電気による吸着が、未然に阻止され得る。そして、それにより、例えば、搬送装置上のみにおいて、射出成形品の成形途中や成形後に発生した静電気により塵埃等の異物が表面に既に吸着した射出成形品を除電処理する場合に比して、射出成形品表面から、塵埃等の異物が、より一層確実に除去され得る。更に、その結果、射出成形品への塵埃等の異物の付着に起因した二次加工での各種の不具合の発生が、更に一段と有利に阻止され得ることとなる。
【0030】
また、そのような本発明に係る射出成形品の除電方法では、射出成形品に対する除電処理が、射出成形品の成形から射出成形用金型からの取出しに至るまでの一連の操作の間に、除電処理のためだけの余分な時間を何等掛けることなく、かかる一連の操作と同時進行で、スムーズに継続され得る。これによって、射出成形品に対する除電処理環境が、射出成形品の成形サイクルタイム内で最大限確保され得る。その結果、表面への塵埃等の異物の付着が有利に防止された射出成形品の射出成形操作の効率化が、有利に実現され得るのである。
【0031】
さらに、かかる本発明手法においては、射出成形品に対する除電処理が、射出成形品の突出しの完了と同時に終了せしめられることなく、射出成形品が成形キャビティ内より突き出された後、射出成形用金型から取り出されるまでの間にかけても継続的に実施されるようになっている。そのため、射出成形品が、成形キャビティ内よりの突出し後に、その成形収縮に起因して静電気が発生し、再帯電せしめられた場合にも、かかる静電気が中和除去されるようになる。それ故、例えば、射出成形品に対する除電処理が、射出成形品の成形キャビティ内よりの突出しの完了と同時に終了せしめられる場合に比して、射出成形品表面への静電気による塵埃等の異物の付着が、更に一層効果的に防止され得ることとなる。
【0032】
また、本発明に係る射出成形品の除電方法では、射出成形品が大型であるために大きな静電気が発生する場合にあっても、上記せるように、射出成形品が成形キャビティ内より突き出された後、射出成形用金型から取り出されるまでの間にかけても継続的に実施されるため、射出成形品を射出成形用金型から取り出す時間が、射出成形品の除電処理時間として有効に利用され得る。これによって、射出成形品を、成形キャビティ内から突き出した後に、射出成形用金型内に止めたままで、射出成形品の除電処理を行う必要が有利に解消され得る。それ故、射出成形品の大きさ等に拘わらず、その成形から射出成形用金型からの取出しに至るまでの間に、射出成形品に対する除電処理のためだけに余分な時間を掛けることが回避され得て、射出成形品の射出成形操作の更なる効率化が、有利に実現され得る。
【0033】
加えて、本発明に従う射出成形品の除電方法では、射出成形品にイオンを照射することで、射出成形品に対する除電処理が行われるようになっているため、例えば、軟X線を射出成形品に照射することで、射出成形品の除電処理を行う場合とは異なって、そのような除電処理により人体に悪影響が及ぼされるような懸念が、効果的に皆無ならしめられ得るといった利点がある。
【0034】
そして、本発明に従う射出成形方法にあっても、射出成形用金型が型開きされた後、射出成形品が未だ成形キャビティ内に位置せしめられた状態から射出成形用金型より取り出されるに至るまでの間にかけて、射出成形品に対するイオン照射による除電処理が行われるようになっており、また、本発明に従う射出成形装置も、そのような射出成形品に対する除電処理が実施可能に構成されている。それ故、それら本発明に従う射出成形方法と射出成形装置の何れにおいても、前述せる本発明に従う射出成形品の除電方法において発揮される作用・効果と実質的に同一の作用・効果が奏され得ることとなる。
【0035】
また、本発明に従う射出成形システムにあっては、本発明に従う射出成形装置と、射出成形品を所定の場所に搬送する搬送装置とが組み合わされて構成されると共に、かかる搬送装置に、射出成形品に対するイオン照射を行うイオン照射器が設置されているところから、前述せる射出成形装置の有利な特徴が発揮され得ることに加えて、射出成形品の搬送途中においても、射出成形品に生ずる静電気を中和除去することが可能となり、以て、射出成形品表面への静電気による塵埃等の異物の付着が、更に一層効果的に防止され得ることとなる。そして、搬送装置によって搬送された場所で二次加工が実施される場合には、かかる二次加工の工程中において、射出成形品への塵埃等の異物の付着に起因した各種の不具合が発生することが、有利に阻止され得ることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0037】
先ず、図1及び図2には、本発明に従う構造を有する射出成形システムの一実施形態として、矩形平板状の樹脂成形品(射出成形品)を射出成形した後、所定の二次加工場所に搬送する射出成形システムが、一部切欠図を含む正面形態と平面形態とにおいて、それぞれ概略的に示されている。それらの図から明らかなように、本実施形態の射出成形システムは、目的とする樹脂成形品10を成形するための射出成形装置11と、この射出成形装置11にて成形された樹脂成形品10を、例えば塗装等の二次加工を行う場所に搬送する搬送装置としての搬送コンベヤ12とを有し、それらが互いに隣り合うように並べられて、構成されている。なお、ここでは、かかる射出成形システムを構成する射出成形装置10と搬送コンベヤ12とが、例えば、ビニルシートパネル等の絶縁性パネル(図示せず)にて囲われた簡易のクリーンルーム13内に配置されている。
【0038】
より具体的には、射出成形装置11は、長手の基台14と、かかる基台14の長手方向略中央に設置された射出成形用金型16と、この射出成形用金型16を間に挟んで、基台14の両側に配されて、設置された射出成形機18及び型締装置20とを備えた従来と同様な基本構造を有している。
【0039】
それら基台14上に設置された射出成形用金型16と射出成形機18と型締装置20のうち、射出成形用金型16は、基台14上において、射出成形機18の側に位置固定に設けられた固定盤22と、型締装置20の側に固定盤22に対向して、基台14の長手方向に移動可能に配置された可動盤24と、固定盤22の可動盤24側の面に固定された固定型26と、可動盤24の固定盤22側に固定されて、可動盤24と共に基台14の長手方向に移動可能とされた可動型28とを、更に有している。そして、可動盤24が、型締装置20のラム30の先端に取り付けられており、このラム30の突出乃至引込作動に伴って、可動盤24が基台14の長手方向に移動せしめられることにより、可動型28が、固定型26に対して接近乃至離隔せしめられて、それら可動型28と固定型26とが型合せ(型締め)乃至型開きされるようになっている。即ち、ここでは、射出成形用金型16が、可動型28と固定型26の二つの分割型にて、構成されている。
【0040】
また、可動型28の固定型26との対向面(型合せ面)には、目的とする樹脂成形品10の外面形状に対応した内面形状を有するキャビティ形成凹所32が設けられている。そして、可動型28と固定型26との型合せ状態下で、かかるキャビティ形成凹所32と固定型26の型合せ面とにて、目的とする樹脂成形品10を与える成形キャビティ34が形成されるようになっている。また、この成形キャビティ34には、固定型26を貫通して延びるスプルー36が連通せしめられており、固定盤22を貫通して配置された射出成形機18の先端のノズル37から射出される可塑化、溶融状態の樹脂材料(84)が、スプルー36を通じて、成形キャビティ34内に充填されるようになっている(図3参照)。
【0041】
さらに、可動型28の内部には、突出しプレート38が、可動型28の移動方向(基台14の長手方向)に移動可能に配置されている。また、この突出しプレート38の固定型26側の面上には、複数の突出しピン40が、可動型28内の挿通孔に挿通して、キャビティ形成凹所32の底面に向かって真っ直ぐに延びるように突設されている。そして、型締装置20のラム30の引込作動に伴って、可動型28が固定型26から離間して、それら両型26,28との型開きされた際に、型締装置20に位置固定に設けられたエジェクタプレート42の可動盤24側の面に立設される複数のエジェクタロッド44にて、突出しプレート38が固定型26側に押し出されるようになっている。これにより、突出しプレート38の複数の突出しピン40の先端部が、可動型28のキャビティ形成凹所32の底面から突出せしめられ、以て、後述する如く、成形キャビティ34内で成形される樹脂成形品10が、型開きと同時に、成形キャビティ34(キャビティ形成凹所32)内から突き出され得るようになっている(図5参照)。このことから明らかなように、本実施形態では、型締装置20とエジェクタロッド44と突出しプレート38と突出しピン40とにて、突出し機構が、構成されている。
【0042】
また、かかる射出成形装置11には、上記の如く、突出しピン40にて成形キャビティ34内から突き出された樹脂成形品10を、射出成形用金型16の外部に取り出すための取出し機構46が、設けられている。
【0043】
この取出し機構46は、基台14の長手方向と直角な方向において、搬送コンベヤ12の配設側に向かって所定長さで延出して、固定盤22上に固定された案内レール48を有している。また、この案内レール48には、案内レール48から基台14の長手方向に延びる長手の部材からなる移動アーム50が、案内レール48の延出方向(基台14の長手方向と直角な方向)に移動可能に支持されている。
【0044】
すなわち、図示されてはいないものの、案内レール48には、案内溝が、案内レール48の延出方向に延びるように設けられており、かかる案内溝の内部には、ボールねじ軸が、それと共に案内溝内に配設されたステッピングモータによって回転駆動せしめられ得る状態で、移動不能に配設されている。また、移動アーム50は、その長手方向の一端部において、案内レール48の案内溝内が突入されており、この突入部において、案内溝内のボールねじ軸に螺合された雌ねじ部材に対して、ボールねじ軸の延出方向に移動可能に且つボールねじ軸回りに回転不能に取り付けられて、案内レール48に支持されている。これによって、取出し機構46においては、ステッピングモータの正逆回転駆動に伴うボールねじ軸のねじ送り作用にて、移動アーム50が、案内レール48の案内溝に案内されつつ、その延出方向に往復移動せしめられ得るようになっている。
【0045】
そして、ここでは、このような基台14の長手方向と直角な方向への移動アーム50の往復移動が、図2に実線で示される如く、移動アームの50の先端側部分を射出成形用金型16の真上に位置させる第一の位置と、図2に二点鎖線で示される如く、移動アームの50の先端側部分を搬送コンベヤ12の真上(後述する案内シュータ64の真上)に位置させる第二の位置との間で行われるように構成されている。
【0046】
また、そのような移動アーム50の先端側部分には、昇降バー52が、配設されている。この昇降バー52は、長手の棒状乃至は板状体からなり、移動アーム50の先端側部分において、移動アーム50の長手方向に延びるように設けられた幅広のスリット孔54と、かかるスリット孔54を幅方向に跨いで配置された昇降機構部56とを、それぞれ挿通して、上下方向に延びるように位置せしめられた状態で、昇降機構部56に支持されている。
【0047】
さらに、図示されてはいないものの、昇降機構部56は、二つのステッピングモータを内蔵しており、それらのうちの一つのステッピングモータの駆動軸に設けられたピニオンが、昇降バー52の側面に、その長さ方向に延びるように固定されたラックに噛合せしめられている一方、別の一つのステッピングモータの駆動軸に設けられたピニオンが、スリット孔54の内周面に、その長さ方向に延びるように固定されたラックに噛合せしめられている。これによって、昇降機構部56内の二つのステッピングモータの正逆方向への回転駆動に従って、昇降バー52が、その長さの範囲内において上下方向に往復移動可能、つまり昇降可能とされていると共に、スリット孔54の長さの範囲内で、昇降機構部56と共に、移動アーム50の長さ方向、即ち基台14の長手方向に往復移動可能とされている。
【0048】
また、そのような昇降バー52の下端縁よりも所定寸法上側に位置する部位には、チャック58が、設けられている。このチャック58は、二つの保持爪60(図1には一つのみを示す)を有しており、それら二つの保持爪60が、例えば、ラックとピニオンとの組合せによる公知のギヤ機構等により、チャック58に内蔵のステッピングモータの回転駆動に基づいて、互いに接近乃至は離隔移動せしめられることで、目的とする樹脂成形品10を幅方向の両側から挟んで保持し、或いはかかる保持状態を解消し得るように構成されている。
【0049】
そして、かかるチャック58に内蔵のステッピングモータと、前記せる如き基台14の長手方向と直角な方向への移動アーム50の往復移動を行わしめる、案内レール48に内蔵のステッピングモータと、基台14の長手方向と上下方向への移動アーム50の往復移動を行わしめる、昇降機構部に内蔵の二つのステッピングモータとが、何れも、基台14上に設置されたコントローラ61による制御に基づいて、回転駆動せしめられるようになっており、また、型締装置20のラム30の突出乃至引込作動も、かかるコントローラ61にて制御されている。
【0050】
これによって、後述する如く、移動アーム50が前記第一の位置に位置せしめられた状態下で、射出成形用金型16の可動型28と固定型26とが型開きされたときに、昇降バー52が昇降機構部56にて下降せしめられて、昇降バー52の下端部とそこに設けられたチャック58とが、可動型28と固定型26のそれぞれの型合せ面間に侵入位置せしめられ、また、かかる侵入下において、成形キャビティ34内から突き出された樹脂成形品10が、チャック58の二つの保持爪60によって固定的に保持され得るようになっている(図5参照)。そして、それら二つの保持爪60による樹脂成形品10の保持状態での昇降機構部56による昇降バー52の上昇により、樹脂成形品10が、可動型28と固定型26との型合せ面間から外部に取り出されて、それら両型28,26からなる射出成形用金型16の真上に位置せしめられるようになっている(図6参照)。更に、そのような可動型28と固定型26との型合せ面間からの樹脂成形品10の取出し状態下において、移動アーム50が、基台14の長手方向とは直角な方向に、前記第二の位置にまで移動せしめられることで、樹脂成形品10が、前記搬送コンベヤ12の真上にまで移動せしめられ得るようになっている。つまり、取出し機構46にて、樹脂成形品10の射出成形用金型16からの取出しと搬送コンベヤ12上への移動とが行われるようになっているのである。
【0051】
一方、搬送コンベヤ12は、公知のベルトコンベヤ式の構造を有し、無端の搬送ベルト62が、図示しない電動モータの駆動に伴って走行せしめられることにより、搬送ベルト62上に載置されて、支持された樹脂成形品10を搬送し得るようになっている。そして、この搬送コンベヤ12においては、射出成形装置11の移動アーム50が第二の位置に位置せしめられたときに、樹脂成形品10の搬送方向の上流側の端部が、かかる移動アーム50の先端側部分の直下に位置するように配置されている。また、かかる搬送コンベヤ12の上流側端部には、案内シュータ64が設けられている。更に、搬送コンベヤ12における樹脂成形品10の搬送方向の下流側端部は、樹脂成形品10の塗装を行う二次加工場所に位置せしめられている。なお、望ましくは、案内シュータ64と搬送ベルト62等、搬送コンベヤ12において樹脂成形品と直接に接触する部分が、樹脂材料やゴム材料等の電気絶縁性材料にて構成される。
【0052】
かくして、本実施形態では、上述せるように、取出し機構46により射出成形用金型16から取り出された樹脂成形品10が、移動アーム50にて搬送コンベヤ12の案内シュータ64の真上にまで移動せしめられたときに、保持爪60による保持状態から開放されることで、案内シュータ64上に落下し、かかる案内シュート64上を滑って、搬送コンベヤ12の搬送ベルト62上に載置されるようになっている。そして、搬送ベルト62の走行により、塗装が行われる二次加工場所まで搬送され得るようになっているのである。
【0053】
而して、かくの如き構造とされた本実施形態の射出成形システムにおいては、特に、射出成形装置11と搬送コンベヤ12とに対して、樹脂成形品10に発生した静電気を除去するための、従来システムには見られない特別な構造が付与されている。
【0054】
すなわち、本実施形態では、射出成形装置11の取出し機構46に対して、射出成形装置11にて成形された樹脂成形品10にイオンを照射する第一のイオン照射器66と第二のイオン照射器68とが設けられ、また、搬送コンベヤ12の途中に、搬送コンベヤ12に搬送される樹脂成形品に対して、イオンと共に圧縮空気を吹き付ける、第四のイオン照射器としての吹付けヘッド70が設置されている。
【0055】
より詳細には、第一のイオン照射器66は、取出し機構46の昇降バー52の下端部におけるチャック58の配設部位よりも更に下側の下端縁に、位置固定に設置されている。また、その作動開始と停止とが、取出し機構46や案内レール48に設けられたステッピングモータの回転駆動や型締装置の作動を制御するコントローラ61にて制御されるようになっている。
【0056】
これによって、可動型28と固定型26との型開き状態下での樹脂成形品10の取出しに際して、昇降バー52の下降に伴って、第一のイオン照射器66が、昇降バー52のチャック58と共に、可動型28と固定型26との互いの型合せ面間に侵入位置せしめられ、また、昇降バー52の上昇に伴って、チャック58と共に、可動型28と固定型26との互いの型合せ面間から離脱せしめられるようになっている。そして、そのような第一のイオン照射器66が、チャック58との一体移動状態下で、コントローラ61による制御に基づいて作動せしめられることで、射出成形装置11にて成形された樹脂成形品10が未だ可動型28と固定型26との間に位置せしめられているときから、チャック58にて保持されつつ、可動型28と固定型26との間から取り出されて、それら両型26,28の真上に位置せしめられるまで、かかる樹脂成形品10の前記突出しピン40による突出し側となる裏面67とは反対側の面、つまり樹脂成形品10の意匠面69に対して、イオンを継続的に照射し得るようになっている(図5及び図6参照)。なお、この第一のイオン照射器66にあっては、昇降バー52の下降により、チャック58が、可動型28と固定型26との間において樹脂成形品10を保持可能な位置に達したときに、かかる樹脂成形品10の略中央部と対向する位置に配置されるようになっており、それによって、樹脂成形品10の意匠面69の全面に、イオンを照射可能とされている。
【0057】
また、第二のイオン照射器68は、取出し機構46の移動アーム50の先端側部位における昇降バー52の配設部位よりも更に先端側の部分に、所定長さの棒状支持部71を介して、位置固定に取り付けられている。そして、かかる第二のイオン照射器68においては、昇降バー52が、上昇限度位置、つまり、チャック58を型開き状態の可動型28と固定型26との間に侵入位置させる前、或いはそれら両型28,26の間からチャック58による保持状態で樹脂成形品10を取り出した後の位置に配置されているときに、昇降バー52の下端部に設けられる第一のイオン照射器66と同一の高さ位置において、かかる第一のイオン照射器66に対して、樹脂成形品10の厚さよりも十分に大きな距離を隔てて対向配置されるようになっている。また、この第二のイオン照射器68にあっても、その作動開始と停止とが、取出し機構46や案内レール48に設けられたステッピングモータの回転駆動や型締装置の作動、更には第一のイオン照射器66の作動を制御するコントローラ61にて制御されるようになっている。
【0058】
これによって、可動型28と固定型26の型開き状態下で、樹脂成形品10がチャック58にて保持されつつ、可動型28と固定型26との間から取り出されて、射出成形用金型16の真上に位置せしめられたときに、第二のイオン照射器68が、樹脂成形品10の裏面67の全面に対して、イオンを照射し得るようになっている(図6参照)。また、この第二のイオン照射器68による樹脂成形品10へのイオン照射は、樹脂成形品10が射出成形用金型16の真上に位置せしめられた上記の時点から、前述せるように、案内レール48の案内に移動アーム50の移動により、樹脂成形品10が搬送コンベヤ12の案内シュータ64の真上に位置せしめられて、チャック58の保持が開放されるまでの間にかけて継続的に実施される。更に、それと同様に、第一のイオン照射器66による樹脂成形品10の意匠面69の面の全面へのイオン照射も、樹脂成形品10が搬送コンベヤ12の真上に位置せしめられて、チャック58の保持が開放されるまで、更に継続的に行われるようになっている。このことから明らかなように、ここでは、第一のイオン照射器66と第二のイオン照射器68のうちの少なくとも何れか一方にて、第三のイオン照射器が構成されている。
【0059】
なお、本実施形態においては、そのような第一のイオン照射器66と第二のイオン照射器68として、イオンが照射されるべき樹脂成形品10に対して、圧縮空気と共にイオンを吹き付ける、例えばエアガン式のものとは異なって、気体の吹付けを何等行うことなく、内部に設けられたイオン発生部にて発生せしめられるイオンが、射出成形装置11による成形過程で静電気が発生した樹脂成形品10の表面の電荷との間に生ずるクーロン力に基づく樹脂成形品10の裏面67や意匠面69への吸着作用のみによって、樹脂成形品10に照射されるように構成されたものが、用いられている。また、それら第一及び第二のイオン照射器66,68は、何れも、イオン発生部にて、プラスイオンとマイナスイオンの両方が発生せしめられて、樹脂成形品10に対して同時に照射され得るようになっている。
【0060】
一方、搬送コンベヤ12の途中に設けられる吹付ヘッド70は、ヘッド本体72と、小径の先端開口部を備えた複数(ここでは三つ)のノズル74とを有している。この吹付ヘッド70のヘッド本体72は、全体として、搬送コンベヤ12の搬送ベルト62の幅と略同程度の大きさの幅を有する横長矩形の筐体形態を呈している。また、複数のノズル74は、かかるヘッド本体72の下面の幅方向に互いに等間隔を隔てた位置に、ヘッド本体72内に連通する状態で、それぞれ取り付けられている。
【0061】
さらに、ヘッド本体72には、例えば、気体送出手段としての圧縮空気の発生源たるコンプレッサ76が、吸気パイプ78を通じて接続されており、また、この吸気パイプ78の途中には、例えば、一対の電極を有し、それら一対の電極間でのコロナ放電によりイオンを発生させる公知の構造を備えた、イオン発生手段としてのイオン発生器80が設置されている。これによって、コンプレッサ76にて発生せしめられた圧縮空気が、先ず、給気パイプ78の上流側部分を通じてイオン発生器80内に導入されて、そこでのコロナ放電によりイオン化され、その後、このイオン化された空気(イオンを含む空気)が、イオン発生器80よりも下流側の給気パイプ78部分を通じて、吹付ヘッド70のヘッド本体72内に供給されるようになっている。
【0062】
そして、そのような吹付ヘッド70が、ヘッド本体72を、搬送コンベヤ12の途中の部分の上方において、その幅方向に延びるように位置せしめた状態で、かかる搬送コンベヤ12の途中の部分に跨って配置された門型の支持フレーム82に固定されて、支持されている。また、かかる支持状態下において、複数のノズル74の全てが、搬送コンベヤ12による樹脂成形品10の搬送方向の上流側(移動方向の後方側)に向かって下傾せしめられている。
【0063】
かくして、樹脂成形品10が搬送コンベヤ12にて二次加工場所まで搬送される途中で、吹付ヘッド70のヘッド本体72内に供給されたイオン化された空気が、吹付ヘッド70の各ノズル74から、その先端開口部の開口方向、つまり樹脂成形品10の搬送方向の上流側に向かって噴射されて、かかる搬送途中の樹脂成形品10に吹き付けられるようになっている。また、ここでは、各ノズル74が小径とされていることで、各ノズル74から噴射されるイオン化空気を樹脂成形品10に吹き付ける際に、イオン化空気が、樹脂成形品10の全体でなく、その一部分に吹き付けられるようになっている。
【0064】
次に、上述せる如き構造を有する本実施形態の射出成形システムを用いて、目的とする樹脂成形品10を成形し、その後、この成形された樹脂成形品10を射出成形用金型16から取り出して、二次加工場所まで搬送するまでの間に、かかる樹脂成形品10に対する除電処理を実施する方法について、説明する。
【0065】
すなわち、先ず、図1に示されるように、射出成形用金型16が型合せ及び型締めされて、可動型28と固定型26との間に成形キャビティ34が、形成される。このとき、取出し機構46の移動アーム50は、昇降バー52や昇降機構部56が設置される先端側部分が、射出成形用金型16の真上に位置せしめられる前記第一の位置に位置せしめられる。また、昇降バー52は、チャック58や第一のイオン照射器66が、射出成形用金型16の真上に位置せしめられる上昇限度位置に位置せしめられる。
【0066】
次に、図3に示される如く、射出成形機18のノズル37から、可塑化、溶融せしめられた樹脂材料84が、スプルー36を通じて、成形キャビティ34内に射出されて、充填される。また、それに引き続き、成形キャビティ34内に充填された樹脂材料84が、所定時間だけ放冷されて、硬化せしめられ、それにより、成形キャビティ34内で、目的とする樹脂成形品10が成形される。
【0067】
そして、成形キャビティ34内で樹脂成形品10が成形されたら、図4に示されるように、型締装置20のラム30の引込作動により、可動型28が固定型26から離隔せしめられて、射出成形用金型16が型開きされる。このとき、成形された樹脂成形体10においては、溶融せしめられた樹脂材料84がスプルー36内や成形キャビティ34内を流動せしめられるときに生ずる帯電現象や、かかる樹脂材料84の冷却時に生ずる帯電現象、更には可動型28と固定型26との型開き時に生ずる帯電現象等によって、静電気が発生する。
【0068】
そして、そのような静電気が発生した樹脂成形体10が可動型28のキャビティ形成凹所32内に未だ収容されている状態での射出成形用金型16の型開きの進行中に、コントローラ61による制御の下で、取出し機構46の昇降バー52が所定の位置まで下降せしめられて、第一のイオン照射器66が、キャビティ形成凹所32(成形キャビティ34)の開口部から露呈される樹脂成形体10の意匠面69の中央部に対向配置される。また、かかる昇降バー52の下降開始と同時に、第一のイオン照射器66が作動せしめられて、それに内蔵されるイオン発生部でプラスイオンとマイナスイオンとが同時に発生せしめられる。そして、それらプラスイオンとマイナスイオンのうちの何れか一方、又はそれらの両方が、静電気の発生により正又は負に帯電せしめられた樹脂成形品10の表面上の電荷との間に生ずるクーロン力によるイオンの樹脂成形体10表面への吸着作用のみに基づいて、樹脂成形品10の意匠面69に照射される。これによって、上記の帯電現象により樹脂成形品10に発生した静電気を樹脂成形品10の意匠面69に照射されるイオンにて中和除去する樹脂成形品10に対する除電処理が、樹脂成形品10がキャビティ形成凹所32内に未だ位置せしめられたままの状態で、実施される。
【0069】
その後、図5に示されるように、型締装置20のラム30の更なる引込作動により、可動型28が固定型26から更に離隔せしめられて、射出成形用金型16が完全に型開きされる。このとき、可動型28内の突出しプレート38のエジェクタロッド44による押出しにより、複数の突出しピン40にて、樹脂成形品10がキャビティ形成凹所32内から突き出され、更に、この突き出された樹脂成形品10が、二点鎖線で示される位置から実線で示される位置まで移動アーム50の先端側に移動せしめられた昇降バー52のチャック58の保持爪60にて、固定的に保持される。
【0070】
また、本工程では、樹脂成形品10の突出し操作が行われている間、更には、かかる突出し操作を経て、射出成形用金型16の型開き操作が完了するまで、第一のイオン照射器66による樹脂成形品10の意匠面69へのイオン照射が継続して実施される。そうして、樹脂成形品10が突き出された際に、樹脂成形品10とキャビティ形成凹所32の内面との間で生ずる帯電現象により、樹脂成形品10に新たに発生する静電気を、第一のイオン照射器66から照射されるイオンにて中和除去する除電処理が行われる。
【0071】
引き続いて、図6に示されるように、チャック58にて樹脂成形品10が保持されたままで、昇降バー52が前記上昇限度位置まで上昇せしめられる。これにより、樹脂成形品10が、可動型28と固定型26の間から取り出されて、それら両型28,26の上方に位置せしめられる。
【0072】
また、かかる状態下で、第一のイオン照射器66が、樹脂成形品10の意匠面69に対して対向位置せしめられる一方、第二のイオン照射器68が、樹脂成形品10の裏面67に対して対向位置せしめられて、それら第一及び第二のイオン照射器66,68から、樹脂成形品10の意匠面69と裏面67のそれぞれにイオンが照射される。なお、第一のイオン照射器66から樹脂成形品10の意匠面69へのイオン照射は、樹脂成形品10がチャック58にて保持されつつ、可動型28と固定型26の間から取り出されている間においても、継続される。これによって、樹脂成形品10の意匠面69に生ずる静電気を中和除去する除電処理と、裏面67に生ずる静電気を中和除去する除電処理とが同時に実施される。
【0073】
しかも、本工程においては、樹脂成形品10が、キャビティ形成凹所32内より突き出された時点から、可動型28と固定型26との間より取り出されて、それら両型28,26の上方に位置せしめられるまでの間にかけて、イオンが、樹脂成形品10の意匠面69に、第一のイオン照射器66にて継続的に照射されるようになっている。それ故、樹脂成形品10に対するイオン照射が、樹脂成形品10のキャビティ形成凹所32内よりの突出しの完了と同時に終了せしめられる場合とは異なって、キャビティ形成凹所32内から突き出された樹脂成形品10が未だ完全に冷却されていないために、樹脂成形品10が、キャビティ形成凹所32内よりの突出しの完了から、冷却の進行に伴う成形収縮に起因して静電気が発生し、再帯電せしめられた場合にも、かかる静電気が、第一のイオン照射器66から照射されるイオンにて中和除去され得るようになる。
【0074】
また、本工程では、例えば、成形される樹脂成形品10が比較的に大型であって、樹脂成形品10の成形時やキャビティ形成凹所32内よりの突出し時に生ずる静電気量が大きいために、そのような静電気を完全に中和除去する上で、樹脂成形品10に対するイオン照射を、突出しの完了時点から更に所定の時間を掛けて行う必要がある場合にあっても、キャビティ形成凹所32内より突き出された樹脂成形品10を可動型28と固定型26との間から取り出す時間、更には、それら両型28,26の上方に位置させるまでの間の時間が、何れも、静電気の中和除去するための樹脂成形品10へのイオン照射時間として有効に利用され得、それ故、樹脂成形品10を可動型28と固定型26との間に所定時間だけ止めたままで、第一のイオン照射器66にて、樹脂成形品10にイオンを照射する作業を行う必要が有利に解消され得るようになる。
【0075】
そして、樹脂成形品10が、可動型28と固定型26との間から取り出されて、それら両型28,26の上方に位置せしめられたら、図7に示されるように、取出し機構46の移動アーム50が、射出成形用金型16の真上に配置される、二点鎖線で示される位置(前記第一の位置)から、搬送コンベヤ12の案内シュータ64の真上に配置される、実線で示される位置(前記第二の位置)にまで、案内レール48に案内されて、移動せしめられる。その後、チャック58による樹脂成形品10の保持状態が解消されて、樹脂成形品10が、案内シュータ64上に落下し、案内シュータ64上を滑って、搬送コンベヤ12の搬送ベルト62上に、意匠面69を上方に向けた状態で載置される。
【0076】
また、本工程では、移動アーム50が案内シュータ64の真上にまで移動し、樹脂成形品10が案内シュータ64上に落下せしめられるまでの間、第一及び第二のイオン照射器66,68による樹脂成形品10の意匠面69と裏面67へのイオン照射が継続して行われる。これにより、樹脂成形品10の冷却に伴って、樹脂成形品10の意匠面69と裏面67に生ずる静電気を中和除去する除電処理が、樹脂成形品10の射出成形用金型16からの取出し時に実施される除電処理に継続して、行われる。
【0077】
その後、図7に示されるように、搬送コンベヤ12の搬送ベルト62上に載置された樹脂成形品10が、搬送ベルト62の走行により、樹脂成形品10に対する塗装を行う場所にまで搬送される。そして、その搬送途中で、搬送コンベヤ12の上方に位置するように設置された吹付ヘッド70の複数のノズル74から吹き出されるイオン化空気が、樹脂成形品10の意匠面69に向かって吹き付けられる。これによって、樹脂成形品10の意匠面69に対する除電処理が更に行われ、また、かかる意匠面69に塵埃等の異物が付着している場合に、それを高速のイオン化空気によって吹き飛ばす、意匠面69に対する除塵処理が同時に実施される。
【0078】
このように、本実施形態においては、射出成形装置11にて成形された樹脂成形品10に対する除電処理が、射出成形用金型16が型開きされて、樹脂成形品10がキャビティ形成凹所32(成形キャビティ34)内に未だ位置せしめられている状態から始まって、キャビティ形成凹所32内より突き出された後、可動型28と固定型26から取り出され、更に、搬送コンベヤ12上にまで移動せしめられて、それに載置されるまでの間、継続的に実施され、しかも、樹脂成形品10が、搬送コンベヤ12にて、かかる樹脂成形品10の塗装等を行う二次加工場所に搬送される途中においても、樹脂成形品10に対する除電処理が行われるようになっている。これにより、樹脂成形品10の成形直後から、樹脂成形品10に対する除電処理環境が、成形サイクルタイム内で最大限確保され得、以て、樹脂成形品10の表面に、塵埃等の異物が、静電気によって吸着されることが、より効果的に且つ確実に防止され得る。そして、その結果として、樹脂成形品10に対する塗装等の二次加工において、樹脂成形品10表面への塵埃等の異物の付着に起因する各種の不具合の発生が、極めて有利に阻止され得ることとなる。
【0079】
また、本実施形態にあっては、樹脂成形品10に対する除電処理が、樹脂成形品10の成形から所定場所への搬送に至るまでの一連の操作の間に、除電処理のためだけの余分な時間を何等掛けることなく、かかる一連の操作と同時進行で、スムーズに継続され得る。それによって、樹脂成形品10の除電処理操作、更には塵埃等の異物の付着のない樹脂成形品10の射出成形操作及び搬送操作の更なる効率化が、効果的に実現され得ることとなる。
【0080】
さらに、本実施形態では、第一及び第二のイオン照射器66,68や吹付ヘッド70により、樹脂成形品10にイオンを照射することで、樹脂成形品10に対する除電処理が行われるようになっているため、例えば、軟X線を樹脂成形品10に照射することで、樹脂成形品10に対する除電処理を行う場合とは異なって、そのような除電処理により人体に悪影響が及ぼされるような懸念が、効果的に皆無ならしめられ得る。
【0081】
そして、本実施形態にあっては、特に、射出成形用金型16の型開き後において、樹脂成形品10のキャビティ形成凹所32内よりの突出し操作の開始前から、樹脂成形品10が突き出された状態を経て、射出成形用金型16の外部に取り出されるまでの間にかけて、樹脂成形品10に対する除電処理が継続的に行われるようになっている。つまり、樹脂成形品10を射出成形し、それを樹脂成形品10の塗装等を行う二次加工場所に搬送するまでの間に、樹脂成形品10において最も大きな静電気が不可避的に発生する間中、かかる樹脂成形品10に対する除電処理が継続されるようになっているため、樹脂成形品10が、その成形後に、最も強く帯電せしめられた状態で放置されることが回避され、以て、樹脂成形品10の表面に対する塵埃等の異物の静電気による吸着が、未然に阻止され得る。そして、それにより、例えば、搬送コンベヤ12上のみにおいて、樹脂成形品10の成形過程や成形後に発生した静電気により塵埃等の異物が表面に既に吸着した樹脂成形品10を除電処理する場合に比して、樹脂成形品10表面から、塵埃等の異物が、より一層確実に除去され得る。更に、その結果として、樹脂成形品10の意匠面69への塵埃等の異物の付着に起因した二次加工での各種の不具合の発生が、更に一段と有利に阻止され得ることとなる。
【0082】
また、本実施形態では、樹脂成形品10に対する除電処理が、樹脂成形品10の突出しの完了と同時に終了せしめられることなく、樹脂成形品10がキャビティ形成凹所32内より突き出された後、射出成形用金型16から取り出されるまでの間にかけても継続的に実際され、それによって、樹脂成形品10が、キャビティ形成凹所32内よりの突出し後に、その成形収縮に起因して静電気が発生し、再帯電せしめられた場合にも、かかる静電気が、第一のイオン照射器66から照射されるイオンにて中和除去されるようになっている。それ故、例えば、樹脂成形品10に対するイオン照射が、樹脂成形品10のキャビティ形成凹所32内よりの突出しの完了と同時に終了せしめられる場合よりも、樹脂成形品10表面への静電気による塵埃等の異物の付着が、更に一層効果的に防止され得ることとなる。
【0083】
さらに、そのように、樹脂成形品10がキャビティ形成凹所32内より突き出された後、可動型28と固定型26との間から取り出されるまでの間にかけても、樹脂成形品10に対する除電処理が継続せしめられることで、例えば、キャビティ形成凹所32内よりの突出し時に、樹脂成形品10に、それが大型であるために大きな静電気が発生する場合においても、樹脂成形品10を射出成形用金型16から取り出す時間が、静電気の中和除去するための樹脂成形品10へのイオン照射時間として有効に利用されて、樹脂成形品10を可動型28と固定型26との間に所定時間だけ止めたままで、樹脂成形品10の除電処理を行う必要が有利に解消され得る。それ故、樹脂成形品10のサイズ等に拘わらず、その成形から所定場所への搬送に至るまでの間に、かかる樹脂成形品10に対する除電処理のためだけに余分な時間を掛けることが解消され得て、樹脂成形品10の射出成形操作及び搬送操作の更なる効率化が、有利に実現され得る。
【0084】
また、本実施形態においては、樹脂成形品10が射出成形用金型16より外部に取り出されてから搬送コンベヤ12の搬送ベルト62上に載置されるまでの間にかけても、樹脂成形品10に対する除電処理が継続的に行われるところから、上記せる如き樹脂成形品10の成形収縮に伴って生ずる静電気が、更に確実に中和除去され得、しかも、例えば樹脂成形品10が大型であるために、キャビティ形成凹所32内よりの突出し時に大きな静電気が生じても、そのような静電気が、より効率的に中和除去され得ることとなる。
【0085】
さらに、本実施形態では、樹脂成形品10が射出成形用金型16より外部に取り出されてから搬送コンベヤ12の搬送ベルト62上に載置されるまでの間にかけて、樹脂成形品10の意匠面69と共に、その裏面67にもイオンが照射されて、樹脂成形品10の除電処理が行われるようになっているため、樹脂成形品10の略全面に生ずる静電気が確実に中和除去され、それによって、樹脂成形品10の全面への静電気による塵埃等の異物の付着が、より一層効果的に防止され得ることとなる。
【0086】
更にまた、本実施形態においては、第一のイオン照射器66と第二のイオン照射器68とが、プラスイオンとマイナスイオンの両方を同時に発生して、樹脂成形品10に照射し得るようになっているところから、樹脂成形品10が、その材質等に応じて、正と負のどちらの静電気を発生しても、かかる静電気を中和除去する除電処理が確実に実際され得る。また、第一及び第二のイオン照射器66,68が、プラスイオンとマイナスイオンの何れか一方のみを発生して、樹脂成形品10に照射する場合とは異なって、静電気が中和除去されてから更にイオン照射されることにより、生ぜしめられた静電気の極性とは逆の極性に帯電せしめられるようなことが未然に阻止され得る。そして、それらによって、樹脂成形品10への塵埃等の異物の付着が、更に有利に防止され得ることとなる。
【0087】
さらに、本実施形態にあっては、第一のイオン照射器66と第二のイオン照射器68にて発生するイオンが、樹脂成形品10表面上の電荷との間に生ずるクーロン力によるイオンの樹脂成形体10表面への吸着作用のみに基づいて、樹脂成形品10の意匠面69や裏面67に照射されるようになっている。それ故、例えば、樹脂成形品10の表面に、圧縮空気と共にイオンが吹き付けられる場合や、イオン化された空気が吹き付けられる場合とは異なって、樹脂成形品10の周囲に塵埃等の異物が浮遊している場合に、成形品10に吹き付けられる空気に塵埃等の異物が巻き込まれる等して、成形環境が悪化することが未然に防止され得ると共に、樹脂成形品10に吹き付けられる空気に巻き込まれた塵埃等の異物が、直接に空気が吹き付けられない樹脂成形品10の表面部分に回り込んで付着するようなことも、効果的に回避され得る。
【0088】
更にまた、本実施形態では、第一のイオン照射器66と第二のイオン照射器68とが、射出成形用金型16内から樹脂成形品10を取り出す取出し機構46のうち、射出成形用金型16の型開き状態下で、可動型28と固定型26との間に侵入せしめられる昇降バー52の下端部に設置されているところから、射出成形用金型16の型開きと同時に、可動型28と固定型26との間に確実に侵入せしめられて、樹脂成形品10に対する除電処理が、より効率的行われ得る。
【0089】
しかも、本実施形態においては、第一のイオン照射器66と第二のイオン照射器68とが、それらが設置される昇降バー52に設けられたチャック58にて固定的に保持された樹脂成形品10にイオンを照射するようになっているため、次々と連続的に成形される樹脂成形品10の何れのものに対しても、常時、同じ角度、同じ距離で、イオンが照射され、それによって、連続的に成形される樹脂成形品10の全てに対して、安定した除電処理が実施され得ることとなる。
【0090】
次に、本実施形態の射出成形システムが上記の如き優れた特徴を発揮するものであることを確かめるために、本発明者等によって実施された比較試験について、詳述する。
【0091】
先ず、図1及び図2に示される如き本発明に従う構造を備えた射出成形システムを準備し、ポリプロピレン樹脂を用いた射出成形を行って、長さ×幅×厚さ=450mm×250mm×5mmの矩形平板形状を呈する樹脂成形品を成形し、これを供試品1とした。
【0092】
その後、かかる供試品1を射出成形用金型から取り出す一方で、前述せるように、射出成形用金型の型開き状態下で、かかる供試品1がキャビティ形成凹所内より突き出される前から、可動型と固定型との間に突き出された状態を経て、それら両型の間から取り出されるまでの間にかけて、供試品1に対してイオンを継続的に照射することにより、供試品1の除電処理を行った。このとき、供試品1に対するイオン照射を行うイオン照射器として、市販の除電機[TAS-801SFS-1510(TRINC株式会社製)]を使用した。
【0093】
また、そのような供試品1の射出成形用金型からの取出し操作の最中に、供試品1の厚さ方向一方の面における長さ方向の一端部:A部と、その他端部:B部と、その中央部:C部のそれぞれの帯電量を、供試品1がキャビティ形成凹所(成形キャビティ)内に未だ位置せしめられている射出成形用金型の型開き直後の時点と、かかる時点から1秒後と2秒後と3秒後のそれぞれの時点において、各々、公知の手法により測定した。そして、供試品1のA部とB部とC部の各時点の帯電量の測定値の平均値を算出した。それらの測定値と算出した平均値とを下記表1に示し、また、算出した平均値を図8に示した。
【0094】
また、比較のために、上記と同様にして、供試品1と同一の大きさと形状を有する樹脂成形品を射出成形し、これを供試品2とした。その後、この供試品2に対する除電処理を何等行うことなく、射出成形用金型から供試品2を取り出した。また、そのような供試品2の取出し最中に、上記と同様にして、供試品2のA部、B部、C部のそれぞれの帯電量を、上記の各時点においてそれぞれ測定した。そして、供試品2のA部とB部とC部の各時点の帯電量の測定値の平均値を算出した。それらの測定値と算出した平均値とを下記表1に併せて示し、また、算出した平均値を図8に併せて示した。
【0095】
【表1】

【0096】
かかる表1及び図8から明らかなように、供試品1においては、本発明手法に従って除電処理が行われることにより、型開き直後から3秒後に、帯電量が略0kVとなっている。これに対して、供試品2では、除電処理が何等行われていないために、型開き直後から帯電量が徐々に増大している。
【0097】
また、供試品1及び2を成形する際と同様にして、それらと同一の大きさと形状を有する二つの樹脂成形品を別々に射出成形し、それらを供試品3及び4とした。その後、供試品3に対しては、キャビティ形成凹所内に未だ位置せしめられている射出成形用金型の型開き直後の時点から、キャビティ形成凹所内より突き出されるまでの間に限って、上記せる市販の除電機を用いた除電処理を行って、キャビティ形成凹所内からの突出し完了後からは、除電処理を何等行わないようにした。一方、供試品4に対しては、キャビティ形成凹所内に未だ位置せしめられている射出成形用金型の型開き直後の時点から、キャビティ形成凹所内よりの突出し操作と、射出成形用金型よりの取出し操作を経た後、更に15分以上に亘って、上記せる市販の除電機を用いた除電処理を継続的に実施した。
【0098】
そして、それら供試品3と供試品4のA部、B部、C部のそれぞれの帯電量を、供試品3及び4がキャビティ形成凹所内に未だ位置せしめられている射出成形用金型の型開き直後の時点と、供試品1及び3がキャビティ形成凹所(成形キャビティ)内から突き出された直後の時点と、供試品3及び4のキャビティ形成凹所内からの突出し直後の時点から5分後と10分後と15分後のそれぞれの時点において、各々、公知の手法により測定した。そして、供試品3と供試品4のそれぞれにおける前記A部、B部、C部の各時点の帯電量の測定値の平均値を算出した。それらの測定値と算出した平均値とを下記表2に示し、また、算出した平均値を図9に示した。
【0099】
【表2】

【0100】
かかる表2及び図9から明らかなように、キャビティ形成凹所内からの突出し完了してからもなお除電処理を実施した供試品4においては、一旦、帯電量が略0kVとなってからは、そのままの状態が維持されている。これに対して、キャビティ形成凹所内からの突出し完了の時点で除電処理を終了した供試品3にあっては、キャビティ形成凹所内からの突出し完了までの除電処理により、帯電量が、一旦、略0kVとなってはいるものの、除電処理が終了してから再帯電が惹起されて、突出し操作完了から15分後には、帯電量が、平均で−5kV程度となっている。
【0101】
このような表1及び2と図8及び9に示される結果から、本発明手法に従って射出成形品を除電処理することで、射出成形品表面に発生する静電気が確実に中和除去せしめられて、射出成形品表面への静電気による塵埃等の異物の吸着が効果的に且つ確実に防止され得ることが、明確に認識され得るのである。
【0102】
以上、本発明の代表的な一つの実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示であって、本発明は、そのような実施形態における具体的な記述によって何等限定的に解釈されるものでない。
【0103】
例えば、前記実施形態では、第一のイオン照射器66と第二のイオン照射器68とが、取出し機構46に設けられていたが、射出成形用金型16の型開き時に、可動型28と固定型26との間に侵入せしめられて、少なくとも、樹脂成形品10がキャビティ形成凹所32内に未だ位置せしめられた状態から、射出成形用金型16の外部に取り出されるまでの間にかけて、かかる樹脂成形品10にイオンを継続的に照射し得るのであれば、それら第一及び第二のイオン照射器66,68を、取出し機構46とは別個に設けても良い。
【0104】
また、それら第一及び第二のイオン照射器66,68が、樹脂成形品10に対して、気体と共にイオンを吹き付けるように構成されたものであっても、何等差し支えない。なお、第二のイオン照射器68は省略可能である。
【0105】
さらに、搬送装置たる搬送コンベヤ12の途中に設置された、樹脂成形品10に対して気体と共にイオンを吹き付ける構造の吹付ヘッド70に代えて、第一及び第二のイオン照射器66,68と同様に、イオンと樹脂成形品10の表面上の電荷との間に生ずるクーロン力によるイオンの樹脂成形品10表面への吸着作用のみに基づいて、樹脂成形品10に対する除電処理を行う構造のイオン照射器を、第四のイオン照射器として用いることも出来る。
【0106】
更にまた、搬送装置は、例示の搬送コンベヤ12に特に限定されるものでないことは、勿論である。
【0107】
また、第四のイオン照射器は、搬送装置に対して複数設けることも出来る。
【0108】
加えて、前記実施形態では、本発明を、樹脂成形品からなる射出成形品の除電方法と射出成形方法と射出成形装置と射出成形システムとに適用したものの具体例を示したが、本発明は、樹脂成形品以外の不導体材料からなる射出成形品の除電方法と射出成形方法と射出成形装置と射出成形システムの何れに対しても、有利に適用され得るものであることは、勿論である。
【0109】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明に従う構造を有する射出成形システムの一実施形態を示す一部切欠図を含む正面説明図である。
【図2】図1の平面説明図である。
【図3】本発明手法に従って、射出成形品を除電処理する際に実施される工程の一例を説明するための図であって、射出成形用金型の成形キャビティ内に溶融樹脂材料を射出充填した状態を示している。
【図4】図3に示される工程に引き続いて実施される工程例を説明するための図であって、射出成形用金型の型開き後において、成形キャビティ内に未だ位置せしめられた射出成形品に対して除電処理を行っている状態を示している。
【図5】図4に示される工程に引き続いて実施される工程例を説明するための図であって、成形キャビティ内から突き出された射出成形品に対して除電処理を行っている状態を示している。
【図6】図5に示される工程に引き続いて実施される工程例を説明するための図であって、射出成形用金型から取り出された射出成形品に対して除電処理を行っている状態を示している。
【図7】図6に示される工程に引き続いて実施される工程例を説明するための図であって、射出成形用金型から取り出された射出成形品を搬送装置にまで移動させた状態を示している。
【図8】本発明手法に従って除電処理された射出成形品と、除電処理が何等実施されていない射出成形品のそれぞれの帯電量の経時変化を示すグラフである。
【図9】本発明手法に従って除電処理された射出成形品と、除電処理が途中で終了せしめられた射出成形品のそれぞれの帯電量の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0111】
10 樹脂成形品 11 射出成形装置
12 搬送コンベヤ 16 射出成形用金型
26 固定型 28 可動型
32 キャビティ形成凹所 34 成形キャビティ
46 取出し機構 58 チャック
66 第一のイオン照射器 68 第二のイオン照射器
70 吹付ヘッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分割型からなる射出成形用金型を用いて成形される射出成形品を除電処理する方法であって、
前記射出成形品が前記射出成形用金型の成形キャビティ内で成形されて、該射出成形用金型の前記複数の分割型が型開きされた後において、該射出成形品が、該成形キャビティ内より突き出される前から、該複数の分割型同士の間に突き出された状態を経て、該複数の分割型同士の間より外部に取り出されるまでの間にかけて、該射出成形品に対してイオンを継続的に照射することにより、該射出成形品の除電処理を行うことを特徴とする射出成形品の除電方法。
【請求項2】
前記射出成形品に対して、プラスイオンとマイナスイオンとが同時に照射されるようになっている請求項1に記載の射出成形品の除電方法。
【請求項3】
前記射出成形品に対するイオンの照射による除電処理が、該イオンと該射出成形品の表面上の電荷との間に生ずるクーロン力による該イオンの該射出成形品表面への吸着作用のみに基づいて行われるようになっている請求項1又は請求項2に記載の射出成形品の除電方法。
【請求項4】
前記射出成形品に対するイオンの照射による除電処理が、該射出成形品が前記複数の分割型同士の間より外部に取り出された後、該射出成形品の突き出される側の面とそれとは反対側の面の両面に対して同時に行われるようになっている請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の射出成形品の除電方法。
【請求項5】
前記射出成形品に対するイオンの照射による除電処理が、該射出成形品が前記複数の分割型同士の間より外部に取り出されてから、所定の場所に搬送されるまでの間、更に継続して行われるようになっている請求項1乃至請求項4のうちの何れか1項に記載の射出成形品の除電方法。
【請求項6】
複数の分割型からなる射出成形用金型を用いて射出成形を行うに際して、
射出成形品が前記射出成形用金型の成形キャビティ内で成形されて、該射出成形用金型の前記複数の分割型が型開きされた後において、該射出成形品が、該成形キャビティ内より突き出される前から、該複数の分割型同士の間に突き出された状態を経て、該複数の分割型の間より外部に取り出されるまでの間にかけて、該射出成形品に対してイオンを継続的に照射することにより、該射出成形品の該射出成形用金型からの取出し操作と該射出成形品に対する除電処理操作とを同時に行うようにしたことを特徴とする射出成形方法。
【請求項7】
複数の分割型からなる射出成形用金型を有し、該射出成形用金型に形成される成形キャビティ内において射出成形品を成形する射出成形装置であって、
前記射出成形用金型の前記成形キャビティ内で成形される前記射出成形品を、前記複数の分割型の型開き状態下で、該成形キャビティ内から突き出す突出し機構と、
前記複数の分割型の型開き状態下で、それら複数の分割型同士の間に侵入し、前記突出し機構にて前記成形キャビティ内から突き出された前記射出成形品を、該複数の分割型同士の間から取り出す取出し機構と、
該取出し機構に装着され、前記複数の分割型の型開き状態下で、該取出し機構と共に該複数の分割型同士の間に侵入し、前記射出成形品が、前記成形キャビティ内より突き出される前から、該複数の分割型同士の間に突き出された状態を経て、該複数の分割型の間より外部に取り出されるまでの間にかけて、該射出成形品の少なくとも突き出される側とは反対側の面に対してイオンを継続的に照射する第一のイオン照射器と、
を含んで構成したことを特徴とする射出成形装置。
【請求項8】
前記第一のイオン照射器が、前記射出成形品に対して、プラスイオンとマイナスイオンとを同時に照射し得るようになっている請求項7に記載の射出成形装置。
【請求項9】
前記第一のイオン照射器が、前記イオンを、前記射出成形品の表面上の電荷との間に生ずるクーロン力による該射出成形品表面への吸着作用のみによって、該射出成形品に照射するように構成されている請求項7又は請求項8に記載の射出成形装置。
【請求項10】
前記射出成形品が、前記取出し機構にて、前記複数の分割型同士の間より外部に取り出された状態下で、該射出成形品の突き出される側の面に対してイオンを照射する第二のイオン照射器が、更に設けられている請求項7乃至請求項9のうちの何れか1項に記載の射出成形装置。
【請求項11】
前記取出し機構が、前記射出成形用金型における前記複数の分割型同士の間より外部に取り出された前記射出成形品を所定の場所に移動させ得るように構成されると共に、該取出し機構に、該射出成形品が、該複数の分割型同士の間より外部に取り出されてから、該所定の場所に移動せしめられるまでの間にかけて、該射出成形品に対してイオンを継続的に照射する第三のイオン照射器が設けられている請求項7乃至請求項10のうちの何れか1項に記載の射出成形装置。
【請求項12】
前記請求項7乃至請求項11のうちの何れか1項に記載の射出成形装置と、該射出成形装置にて射出成形されて、前記取出し機構にて所定の場所に移動せしめられた前記射出成形品を、別の場所に更に搬送する搬送装置とを含んで構成した射出成形システムにして、
前記搬送装置に、該搬送装置にて搬送される前記射出成形品に対してイオンを照射する第四のイオン照射器が、更に設けられていることを特徴とする射出成形システム。
【請求項13】
前記第四のイオン照射器が、イオンを発生するイオン発生手段と気体を送り出す気体送出手段とを含み、該イオン発生手段にて発生させたイオンを、該気体送出手段から送り出される気体と共に、前記射出成形品に吹き付けて、照射し得るようになっている請求項12に記載の射出成形システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−119822(P2009−119822A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299185(P2007−299185)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】