射出成形品
【課題】熱可塑性樹脂にアルミを混入した複合樹脂材料を射出成形することにより、所要形状の射出成形品を成形する際、取付座を一体成形するとともに、取付座の剛性低下を招くことなく、樹脂の流動性を良好に保ち、外観性能を高める。
【解決手段】アームレストサイドカバー30は、熱可塑性樹脂にアルミを混入した複合樹脂を素材として、射出成形金型により所要形状に成形され、アームレストサイドカバー30の裏面に複数の取付座40が一体成形されている。この取付座40は、アームレストサイドカバー30の接合基部である大径のスカート部43の基部外周の一部に樹脂の流動性を円滑に制御するための細幅開口44を形成し、この細幅開口44の幅寸法を0.5〜1.0mmに設定することで、剛性低下を招くことなく、樹脂の良好な流動性を確保する。
【解決手段】アームレストサイドカバー30は、熱可塑性樹脂にアルミを混入した複合樹脂を素材として、射出成形金型により所要形状に成形され、アームレストサイドカバー30の裏面に複数の取付座40が一体成形されている。この取付座40は、アームレストサイドカバー30の接合基部である大径のスカート部43の基部外周の一部に樹脂の流動性を円滑に制御するための細幅開口44を形成し、この細幅開口44の幅寸法を0.5〜1.0mmに設定することで、剛性低下を招くことなく、樹脂の良好な流動性を確保する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱可塑性樹脂にアルミを混入してなる複合樹脂材料を射出成形してなる射出成形品であって、特に、射出成形品に取付座等を付設する際に剛性を低下させることなく、樹脂の良好な流動性を確保でき、優れた外観性能が得られる射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両の室内面に装着される内装部品は、ベースとしての内装部品の表面所定箇所に装飾性を高める装飾部材が設けられている。例えば、図7に示すように、ドアトリム1は、所要形状に成形されたベースとしてのドアトリム本体2の表面略中央が室内側に向けて膨出形成され、乗員が肘を掛けて休めるアームレスト2aとして設定されている。そして、ドアトリム本体2に対して装飾性を高めるために中接部にクロス等の中接シート3を装着するとともに、アームレスト2aの室内側面には、アームレストサイドカバー4が取り付けられている。
【0003】
上記アームレストサイドカバー4は、図8(a)の正面図、図8(b)の裏面図にそれぞれ示すように、車両の前後方向に沿って長尺でほぼフラットな形状をなしており、アームレストサイドカバー4の裏面周縁に沿って適宜ピッチ間隔で中空エンボス状の取付座5が立設されている。この取付座5は、アームレスト2aに対してビス止め固定、あるいは超音波溶着、熱溶着等のカシメ加工により接合一体化される。このようなアームレストサイドカバー4の一般的な構成については、特許文献1に詳細に示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−172964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来、ドアトリム本体2に装着されるアームレストサイドカバー4は、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等、汎用の熱可塑性樹脂を射出成形により所要形状に成形するのが一般的であるが、最近では、金属外観を製品表面に付与するためにアルミを適宜割合で配合してなる複合樹脂材料を使用することが多い。例えば、アームレストサイドカバー4を射出成形金型内で成形した際、図9に示すように、ゲートGを中心として放射状に拡散するように流動するが、特に、アルミを混入した複合樹脂材料を使用した場合においては、図10に示すように、取付座5が障害となり、流動が変化した部位で黒筋のラインL(ウエルドのようなもの)が発生し易く、外観不良を招くという不具合が指摘されている。この対策として、図11,図12に示すように、中空エンボス状の取付座5の基部において切欠き6を形成して複合樹脂材料の流動性を確保する試みが行なわれている。しかし、コーナー部に切欠き6を設定することで、取付座5自体の剛性が大きく低下し、ビス締めの回転方向、溶着の加圧方向で力が加わると取付座5は根元から座屈するため、安定した取付作業が期待できないという問題点が指摘されている。
【0006】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、アルミを混入した複合樹脂材料を使用する射出成形品において、取付座等の剛性が低下することなく、かつ樹脂の良好な流動性が確保でき、優れた外観性能が得られる射出成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者は、鋭意研究の結果、射出成形品の裏面所定位置に形成される中空エンボス状の取付座の基部において、幅寸法を適切に設定した細幅開口を設けることで、剛性を確保するとともに、樹脂の流動性を良好に保つことができることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂にアルミを混入した複合樹脂材料を射出成形金型のキャビティ内に射出充填して所要形状に成形してなる射出成形品であって、この射出成形品の裏面所定箇所には、相手部品に取り付けるための中空エンボス状の取付座が立設されているとともに、前記取付座の剛性を低下させることなく、取付座近傍部分における複合樹脂材料の良好な流動性を確保するために、取付座の基部外周の一部に、幅寸法0.5〜1.0mmの細幅開口が設けられていることを特徴とする。
【0009】
ここで、射出成形品としては、ドアトリム本体の表面中央に取り付けられるアームレストサイドカバー、ウエスト部に取り付けられるウエストフィニッシャー、またはアームレストの上面にスイッチ素子を組み込んだスイッチエスカッションパネル等に適用することができる。そして、この射出成形品は、中空エンボス状に立設した取付座を内装トリム本体に対してビス止め固定、あるいは取付座先端部分を熱溶着、超音波溶着カシメ加工することで、射出成形品が内装トリム本体の所定位置に取り付けられる。
【0010】
更に、この射出成形品に使用する材料としては、一般の熱可塑性樹脂にアルミを適宜配合比で混入した複合樹脂材料を使用する。熱可塑性樹脂材料としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等の使用が可能である。また、熱可塑性樹脂とアルミとの配合比は100:4の範囲が好ましい。
【0011】
次に、取付座における基部の外周の一部に設ける細幅開口の幅寸法について、幅寸法が0.5mm未満の場合は樹脂が流れない、逆に、幅寸法が1.0mmを越えた場合、流動が変化し、製品表面に黒筋が発生する傾向にある。幅寸法が0.5mmの場合には流動の変化が少なく、流動性に影響されない傾向を示す。従って、切欠きの幅寸法は0.5〜1.0mmの範囲が適切である。
【0012】
以上の構成のように、取付座における基部の外周の一部において、幅寸法が0.5〜1.0mmの細幅開口を設定することで、樹脂の流動性を確保できるとともに、剛性の大幅な低下を回避することができる。従って、射出成形品を相手部品に取り付ける際、ビス締めの回転方向、溶着の加圧方向で力が加わった際に、根元部分で座屈することがなく、確実な取付性を確保できるとともに、良好な流動性を確保できるため、黒筋等が発生することがなく、良好な外観性能が得られる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明した通り、本発明に係る射出成形品は、アルミを混入した複合樹脂材料を所要形状に成形してなる射出成形品であって、裏面所定位置に中空エンボス状の取付座が立設されるとともに、この取付座における基部の外周の一部において、0.5〜1.0mmの幅寸法の細幅開口を設定することで、剛性の大幅な低下を招くことなく、良好な外観性能を確保できるというものであるから、安定した取付作業性が期待できるとともに、外観性能を高めることができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る射出成形品を自動車用ドアトリムのアームレスト部に装着するアームレストサイドカバーに適用した実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0015】
図1乃至図6は本発明の一実施例を示すもので、図1は本発明に係る射出成形品の一例であるアームレストサイドカバーを取着したドアトリムを示す正面図、図2は同アームレストサイドカバーの正面図、図3は同アームレストサイドカバーの裏面図、図4は同アームレストサイドカバーに設けた取付座の平面図、図5は同取付座の斜視図、図6は同取付座の変形例を示す斜視図である。
【0016】
図1は車両のドアパネルの室内面に内装されるドアトリム10を示す正面図であり、ドアトリム10は、ベースとなるドアトリム本体20に各種機能部品や装飾部品を取り付けて構成されている。具体的には、ドアトリム本体20のウエスト部やや前方にインサイドハンドルエスカッション21が取着されており、表面ほぼ中央には、乗員が肘を掛けて休めるように室内側に膨出するアームレスト22がドアトリム本体20と一体、あるいは別体に設けられている。そして、このアームレスト22の上方中接部分には、装飾シート23が装着されているとともに、アームレスト22の下方には、備品を収容できるドアポケット24が設けられており、ドアポケット24のフロント側にドアトリム本体20と一体、あるいは別体にスピーカグリル25が形成されている。
【0017】
そして、このドアトリム10は、外観見栄えを高めるために、上述したように、ドアトリム本体20の中接部分に装飾シート23を装着する一方、アームレスト22の室内側面にアームレストサイドカバー30が装着され、特に、ドアトリム本体20の樹脂外観に対してアームレストサイドカバー30により金属外観を現出させることで両者の対比が強調でき、優れた外観意匠性をもたらしている。
【0018】
本発明は、このアームレストサイドカバー30の構造に特徴があり、図2でアームレストサイドカバー30の正面図、図3においてアームレストサイドカバー30の裏面図をそれぞれ示すが、材質としては、アルミを混入した熱可塑性樹脂材料を使用している。熱可塑性樹脂材料として、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等を使用できる。本実施例ではポリプロピレン樹脂を使用しており、ポリプロピレン樹脂とアルミとの配合比は100:4に設定されている。
【0019】
そして、アルミを混入した複合樹脂材料を図示しない射出成形金型のキャビティ内に射出充填することで、所要の曲面形状でドアトリム10のアームレスト22の室内側面に沿わせて装着するようにほぼフラット形状の長尺体からなるアームレストサイドカバー30を成形することができる。特に、本発明においては、アルミを混入した複合樹脂材料を使用しても、黒筋等の表面不良が生じることがなく、しかもドアトリム本体20に対して安定した取付強度を確保できる。
【0020】
すなわち、図3に示すように、アームレストサイドカバー30の裏面周縁に沿って、所定ピッチ毎に取付座40が立設されているが、この取付座40は、図4,図5に示すように、円筒体41の外側面から3方に向けて補強リブ42が一体化され、更に、アームレストサイドカバー30との間の接合部分は、大径のスカート部43としてアームレストサイドカバー30に接合している。そして、アームレストサイドカバー30の成形時に取付座40を一体成形する際、このスカート部43により樹脂の流動性が支障を受けることを回避するために、スカート部43は一部が切欠部43aとして切欠き形成されているとともに、アームレストサイドカバー30の境界部分には、幅寸法(図5中符号dで示す)が0.5〜1.0mmに設定された細幅開口44がスカート部43の基部の外周に沿う一部に開設されている。この細幅開口44の形成箇所を図4中斜線で示す。そして、この細幅開口44の幅寸法dの上限値を特定した理由は、幅寸法dが1.0mmを越えた場合には、樹脂成形時における流動が変化し、黒筋(ウエルドライン)(図10中符号Lで示す)が発生する傾向にあり、アームレストサイドカバー30に外観不良が生じるためである。一方、下限値を特定した理由は、幅寸法dを0.5mmに設定した場合、流動の変化が少なく、流動性に影響されないことが知見でき、0.5mm未満にした場合は、樹脂が流れない傾向にあるためである。すなわち、細幅開口44の幅寸法dが0.5〜1.0mmの範囲であるため、スカート部43の剛性低下を招くことがないことから、アームレストサイドカバー30をドアトリム本体20に取り付ける際に取付座40が座屈により破損することがなく、取付作業を安定させることができるとともに、アームレストサイドカバー30の成形時に樹脂の流動性を良好に確保できるため、アームレストサイドカバー30の製品表面に黒筋が生じることがなく、良好な外観見栄えが得られる。
【0021】
また、図6に示すように、取付座40におけるスカート部43において、細幅開口44の上部側に折曲リブ45を付設する形状を採用することができる。そして、この場合においても、樹脂の流動性に悪影響を与えることがないため、アームレストサイドカバー30成形時における黒筋(図10中符号Lで示す)の発生を皆無とでき、外観見栄えを高めることができるとともに、特に、折曲リブ45の補強機能により、取付座40の剛性をより強化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ドアトリム本体20のアームレスト22に取着するアームレストサイドカバー30に適用したが、熱可塑性樹脂にアルミを混入した複合樹脂材料を射出成形してなり、取付座40のような中空エンボス状の突起を一体に成形する射出成形品全般に適用でき、アームレストサイドカバー30以外にも、ウエストフィニッシャー、スイッチエスカッションパネル等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るアームレストサイドカバーを取り付けた自動車用ドアトリムを示す正面図である。
【図2】本発明に係るアームレストサイドカバーを示す正面図である。
【図3】本発明に係るアームレストサイドカバーを示す裏面図である。
【図4】本発明に係るアームレストサイドカバーにおける取付座を示す平面図である。
【図5】本発明に係るアームレストサイドカバーにおける取付座を示す斜視図である。
【図6】本発明に係るアームレストサイドカバーにおける取付座の変形例を示す斜視図である。
【図7】従来のアームレストサイドカバーを取り付けたドアトリムを示す正面図である。
【図8】従来のアームレストサイドカバーを示す正面図並びに裏面図である。
【図9】従来のアームレストサイドカバー成形時における樹脂の流動性を示す説明図である。
【図10】従来のアームレストサイドカバー成形時における不具合を示す説明図である。
【図11】従来のアームレストサイドカバーにおける取付座を示す斜視図である。
【図12】従来のアームレストサイドカバーにおける取付座を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
10 自動車用ドアトリム
20 ドアトリム本体
21 インサイドハンドルエスカッション
22 アームレスト
23 装飾シート
24 ドアポケット
25 スピーカグリル
30 アームレストサイドカバー
40 取付座
41 円筒体
42 補強リブ
43 スカート部
44 細幅開口
45 折曲リブ
d 細幅開口の幅寸法
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱可塑性樹脂にアルミを混入してなる複合樹脂材料を射出成形してなる射出成形品であって、特に、射出成形品に取付座等を付設する際に剛性を低下させることなく、樹脂の良好な流動性を確保でき、優れた外観性能が得られる射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両の室内面に装着される内装部品は、ベースとしての内装部品の表面所定箇所に装飾性を高める装飾部材が設けられている。例えば、図7に示すように、ドアトリム1は、所要形状に成形されたベースとしてのドアトリム本体2の表面略中央が室内側に向けて膨出形成され、乗員が肘を掛けて休めるアームレスト2aとして設定されている。そして、ドアトリム本体2に対して装飾性を高めるために中接部にクロス等の中接シート3を装着するとともに、アームレスト2aの室内側面には、アームレストサイドカバー4が取り付けられている。
【0003】
上記アームレストサイドカバー4は、図8(a)の正面図、図8(b)の裏面図にそれぞれ示すように、車両の前後方向に沿って長尺でほぼフラットな形状をなしており、アームレストサイドカバー4の裏面周縁に沿って適宜ピッチ間隔で中空エンボス状の取付座5が立設されている。この取付座5は、アームレスト2aに対してビス止め固定、あるいは超音波溶着、熱溶着等のカシメ加工により接合一体化される。このようなアームレストサイドカバー4の一般的な構成については、特許文献1に詳細に示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−172964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来、ドアトリム本体2に装着されるアームレストサイドカバー4は、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等、汎用の熱可塑性樹脂を射出成形により所要形状に成形するのが一般的であるが、最近では、金属外観を製品表面に付与するためにアルミを適宜割合で配合してなる複合樹脂材料を使用することが多い。例えば、アームレストサイドカバー4を射出成形金型内で成形した際、図9に示すように、ゲートGを中心として放射状に拡散するように流動するが、特に、アルミを混入した複合樹脂材料を使用した場合においては、図10に示すように、取付座5が障害となり、流動が変化した部位で黒筋のラインL(ウエルドのようなもの)が発生し易く、外観不良を招くという不具合が指摘されている。この対策として、図11,図12に示すように、中空エンボス状の取付座5の基部において切欠き6を形成して複合樹脂材料の流動性を確保する試みが行なわれている。しかし、コーナー部に切欠き6を設定することで、取付座5自体の剛性が大きく低下し、ビス締めの回転方向、溶着の加圧方向で力が加わると取付座5は根元から座屈するため、安定した取付作業が期待できないという問題点が指摘されている。
【0006】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、アルミを混入した複合樹脂材料を使用する射出成形品において、取付座等の剛性が低下することなく、かつ樹脂の良好な流動性が確保でき、優れた外観性能が得られる射出成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者は、鋭意研究の結果、射出成形品の裏面所定位置に形成される中空エンボス状の取付座の基部において、幅寸法を適切に設定した細幅開口を設けることで、剛性を確保するとともに、樹脂の流動性を良好に保つことができることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂にアルミを混入した複合樹脂材料を射出成形金型のキャビティ内に射出充填して所要形状に成形してなる射出成形品であって、この射出成形品の裏面所定箇所には、相手部品に取り付けるための中空エンボス状の取付座が立設されているとともに、前記取付座の剛性を低下させることなく、取付座近傍部分における複合樹脂材料の良好な流動性を確保するために、取付座の基部外周の一部に、幅寸法0.5〜1.0mmの細幅開口が設けられていることを特徴とする。
【0009】
ここで、射出成形品としては、ドアトリム本体の表面中央に取り付けられるアームレストサイドカバー、ウエスト部に取り付けられるウエストフィニッシャー、またはアームレストの上面にスイッチ素子を組み込んだスイッチエスカッションパネル等に適用することができる。そして、この射出成形品は、中空エンボス状に立設した取付座を内装トリム本体に対してビス止め固定、あるいは取付座先端部分を熱溶着、超音波溶着カシメ加工することで、射出成形品が内装トリム本体の所定位置に取り付けられる。
【0010】
更に、この射出成形品に使用する材料としては、一般の熱可塑性樹脂にアルミを適宜配合比で混入した複合樹脂材料を使用する。熱可塑性樹脂材料としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等の使用が可能である。また、熱可塑性樹脂とアルミとの配合比は100:4の範囲が好ましい。
【0011】
次に、取付座における基部の外周の一部に設ける細幅開口の幅寸法について、幅寸法が0.5mm未満の場合は樹脂が流れない、逆に、幅寸法が1.0mmを越えた場合、流動が変化し、製品表面に黒筋が発生する傾向にある。幅寸法が0.5mmの場合には流動の変化が少なく、流動性に影響されない傾向を示す。従って、切欠きの幅寸法は0.5〜1.0mmの範囲が適切である。
【0012】
以上の構成のように、取付座における基部の外周の一部において、幅寸法が0.5〜1.0mmの細幅開口を設定することで、樹脂の流動性を確保できるとともに、剛性の大幅な低下を回避することができる。従って、射出成形品を相手部品に取り付ける際、ビス締めの回転方向、溶着の加圧方向で力が加わった際に、根元部分で座屈することがなく、確実な取付性を確保できるとともに、良好な流動性を確保できるため、黒筋等が発生することがなく、良好な外観性能が得られる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明した通り、本発明に係る射出成形品は、アルミを混入した複合樹脂材料を所要形状に成形してなる射出成形品であって、裏面所定位置に中空エンボス状の取付座が立設されるとともに、この取付座における基部の外周の一部において、0.5〜1.0mmの幅寸法の細幅開口を設定することで、剛性の大幅な低下を招くことなく、良好な外観性能を確保できるというものであるから、安定した取付作業性が期待できるとともに、外観性能を高めることができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る射出成形品を自動車用ドアトリムのアームレスト部に装着するアームレストサイドカバーに適用した実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0015】
図1乃至図6は本発明の一実施例を示すもので、図1は本発明に係る射出成形品の一例であるアームレストサイドカバーを取着したドアトリムを示す正面図、図2は同アームレストサイドカバーの正面図、図3は同アームレストサイドカバーの裏面図、図4は同アームレストサイドカバーに設けた取付座の平面図、図5は同取付座の斜視図、図6は同取付座の変形例を示す斜視図である。
【0016】
図1は車両のドアパネルの室内面に内装されるドアトリム10を示す正面図であり、ドアトリム10は、ベースとなるドアトリム本体20に各種機能部品や装飾部品を取り付けて構成されている。具体的には、ドアトリム本体20のウエスト部やや前方にインサイドハンドルエスカッション21が取着されており、表面ほぼ中央には、乗員が肘を掛けて休めるように室内側に膨出するアームレスト22がドアトリム本体20と一体、あるいは別体に設けられている。そして、このアームレスト22の上方中接部分には、装飾シート23が装着されているとともに、アームレスト22の下方には、備品を収容できるドアポケット24が設けられており、ドアポケット24のフロント側にドアトリム本体20と一体、あるいは別体にスピーカグリル25が形成されている。
【0017】
そして、このドアトリム10は、外観見栄えを高めるために、上述したように、ドアトリム本体20の中接部分に装飾シート23を装着する一方、アームレスト22の室内側面にアームレストサイドカバー30が装着され、特に、ドアトリム本体20の樹脂外観に対してアームレストサイドカバー30により金属外観を現出させることで両者の対比が強調でき、優れた外観意匠性をもたらしている。
【0018】
本発明は、このアームレストサイドカバー30の構造に特徴があり、図2でアームレストサイドカバー30の正面図、図3においてアームレストサイドカバー30の裏面図をそれぞれ示すが、材質としては、アルミを混入した熱可塑性樹脂材料を使用している。熱可塑性樹脂材料として、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等を使用できる。本実施例ではポリプロピレン樹脂を使用しており、ポリプロピレン樹脂とアルミとの配合比は100:4に設定されている。
【0019】
そして、アルミを混入した複合樹脂材料を図示しない射出成形金型のキャビティ内に射出充填することで、所要の曲面形状でドアトリム10のアームレスト22の室内側面に沿わせて装着するようにほぼフラット形状の長尺体からなるアームレストサイドカバー30を成形することができる。特に、本発明においては、アルミを混入した複合樹脂材料を使用しても、黒筋等の表面不良が生じることがなく、しかもドアトリム本体20に対して安定した取付強度を確保できる。
【0020】
すなわち、図3に示すように、アームレストサイドカバー30の裏面周縁に沿って、所定ピッチ毎に取付座40が立設されているが、この取付座40は、図4,図5に示すように、円筒体41の外側面から3方に向けて補強リブ42が一体化され、更に、アームレストサイドカバー30との間の接合部分は、大径のスカート部43としてアームレストサイドカバー30に接合している。そして、アームレストサイドカバー30の成形時に取付座40を一体成形する際、このスカート部43により樹脂の流動性が支障を受けることを回避するために、スカート部43は一部が切欠部43aとして切欠き形成されているとともに、アームレストサイドカバー30の境界部分には、幅寸法(図5中符号dで示す)が0.5〜1.0mmに設定された細幅開口44がスカート部43の基部の外周に沿う一部に開設されている。この細幅開口44の形成箇所を図4中斜線で示す。そして、この細幅開口44の幅寸法dの上限値を特定した理由は、幅寸法dが1.0mmを越えた場合には、樹脂成形時における流動が変化し、黒筋(ウエルドライン)(図10中符号Lで示す)が発生する傾向にあり、アームレストサイドカバー30に外観不良が生じるためである。一方、下限値を特定した理由は、幅寸法dを0.5mmに設定した場合、流動の変化が少なく、流動性に影響されないことが知見でき、0.5mm未満にした場合は、樹脂が流れない傾向にあるためである。すなわち、細幅開口44の幅寸法dが0.5〜1.0mmの範囲であるため、スカート部43の剛性低下を招くことがないことから、アームレストサイドカバー30をドアトリム本体20に取り付ける際に取付座40が座屈により破損することがなく、取付作業を安定させることができるとともに、アームレストサイドカバー30の成形時に樹脂の流動性を良好に確保できるため、アームレストサイドカバー30の製品表面に黒筋が生じることがなく、良好な外観見栄えが得られる。
【0021】
また、図6に示すように、取付座40におけるスカート部43において、細幅開口44の上部側に折曲リブ45を付設する形状を採用することができる。そして、この場合においても、樹脂の流動性に悪影響を与えることがないため、アームレストサイドカバー30成形時における黒筋(図10中符号Lで示す)の発生を皆無とでき、外観見栄えを高めることができるとともに、特に、折曲リブ45の補強機能により、取付座40の剛性をより強化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ドアトリム本体20のアームレスト22に取着するアームレストサイドカバー30に適用したが、熱可塑性樹脂にアルミを混入した複合樹脂材料を射出成形してなり、取付座40のような中空エンボス状の突起を一体に成形する射出成形品全般に適用でき、アームレストサイドカバー30以外にも、ウエストフィニッシャー、スイッチエスカッションパネル等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るアームレストサイドカバーを取り付けた自動車用ドアトリムを示す正面図である。
【図2】本発明に係るアームレストサイドカバーを示す正面図である。
【図3】本発明に係るアームレストサイドカバーを示す裏面図である。
【図4】本発明に係るアームレストサイドカバーにおける取付座を示す平面図である。
【図5】本発明に係るアームレストサイドカバーにおける取付座を示す斜視図である。
【図6】本発明に係るアームレストサイドカバーにおける取付座の変形例を示す斜視図である。
【図7】従来のアームレストサイドカバーを取り付けたドアトリムを示す正面図である。
【図8】従来のアームレストサイドカバーを示す正面図並びに裏面図である。
【図9】従来のアームレストサイドカバー成形時における樹脂の流動性を示す説明図である。
【図10】従来のアームレストサイドカバー成形時における不具合を示す説明図である。
【図11】従来のアームレストサイドカバーにおける取付座を示す斜視図である。
【図12】従来のアームレストサイドカバーにおける取付座を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
10 自動車用ドアトリム
20 ドアトリム本体
21 インサイドハンドルエスカッション
22 アームレスト
23 装飾シート
24 ドアポケット
25 スピーカグリル
30 アームレストサイドカバー
40 取付座
41 円筒体
42 補強リブ
43 スカート部
44 細幅開口
45 折曲リブ
d 細幅開口の幅寸法
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂にアルミを混入した複合樹脂材料を射出成形金型のキャビティ内に射出充填して所要形状に成形してなる射出成形品(30)であって、この射出成形品(30)の裏面所定箇所には、相手部品(20)に取り付けるための中空エンボス状の取付座(40)が立設されているとともに、前記取付座(40)の剛性を低下させることなく、取付座(40)近傍部分における複合樹脂材料の良好な流動性を確保するために、取付座(40)の基部外周の一部に、幅寸法0.5〜1.0mmの細幅開口(44)が設けられていることを特徴とする射出成形品。
【請求項1】
熱可塑性樹脂にアルミを混入した複合樹脂材料を射出成形金型のキャビティ内に射出充填して所要形状に成形してなる射出成形品(30)であって、この射出成形品(30)の裏面所定箇所には、相手部品(20)に取り付けるための中空エンボス状の取付座(40)が立設されているとともに、前記取付座(40)の剛性を低下させることなく、取付座(40)近傍部分における複合樹脂材料の良好な流動性を確保するために、取付座(40)の基部外周の一部に、幅寸法0.5〜1.0mmの細幅開口(44)が設けられていることを特徴とする射出成形品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−12325(P2009−12325A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177350(P2007−177350)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】
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