説明

射出成形機の成形方法

【課題】 比較的低い温度で溶融しやすい特定の成形材料を成形する場合でも、計量工程においてスクリュが空回りして計量不能になる不具合を解消し、また、実施の容易化及びコストダウンを図るとともに、汎用性及び安定性(信頼性)を高める。
【解決手段】 加熱筒2内に供給された樹脂ペレットによる成形材料をスクリュ3の回転により可塑化計量する計量工程S1cと、可塑化計量した加熱筒2内の溶融樹脂を金型4に射出充填する射出工程S3cとを有する成形方法であって、特定の成形材料Pe…により成形を行うに際し、射出工程S3cと計量工程S1c間で、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させることにより加熱筒2内の成形材料Pe…に対して計量工程S1cの反対の挙動を付与する分塊工程S10c(S10ce)を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱筒内に供給された樹脂ペレットによる成形材料をスクリュの回転により可塑化計量する計量工程を有する射出成形機の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、加熱筒内に供給された樹脂ペレットによる成形材料をスクリュの回転により可塑化計量する計量工程と、可塑化計量した加熱筒内の溶融樹脂を金型に対して射出充填する射出工程とを有する射出成形機の成形方法は知られており、この場合、計量工程では、米粒状の樹脂ペレット(成形材料)が、図3に示す射出成形機Mのホッパー12から加熱筒2内に供給され、スクリュ3の回転に従って前方へ移送されるとともに、加熱筒2及びスクリュ3による加熱混練作用により徐々に可塑化され、可塑化された溶融樹脂はスクリュ3の前方に計量蓄積される。
【0003】
ところで、樹脂ペレットとして特定の成形材料、例えば、比較的新しい樹脂材料であるイーストマン・ケミカル社製のPCTA樹脂材料等を使用して成形を行う場合、計量工程において早期に溶融が開始し、スクリュが加熱筒内で空回りすることにより、計量不能になる問題が発生する。即ち、PCTA樹脂材料等の特定の成形材料を使用した場合、成形材料は、ホッパー12の直下にある落下孔13に落下した直後から加熱筒2側の熱影響(40〜80〔℃〕程度)を受け、図3に示すF3位置で樹脂ペレットPe…の表面が溶融を開始する。これにより、同F3位置では、図9(a)のように、樹脂ペレットPe…同士がくっつき合う現象を生じるとともに、落下孔13から前方へスクリュフライト3fが1ピッチ分程度入り込んだ図3に示すF4位置では、図9(b)のように、表面の溶融がかなり進行し、スクリュフライト3f…間に、いわばオコシ状に詰まった状態となってしまう。そして、図3に示すF6位置では、図9(c)のように、ほとんど一体化した状態になる。この結果、成形を開始した後、10〜20ショット程度は計量が行われるも、これ以後は、スクリュ3が回転しても落下孔13内の成形材料Pe…がスクリュフライト3f…によっても加熱筒2内に食い込まなくなる。即ち、成形材料Pe…は落下孔13から前方へ送られにくくなり、計量不能に陥いる。なお、このような特定の樹脂材料に対しては、その樹脂特性にマッチングさせた専用成形機を設計すればよいが、他の樹脂材料に対する成形ができなくなるため、既存の射出成形機を利用して成形可能にすることが望ましい。
【0004】
従来、このような要請に応える得る射出成形機としては、特許文献1及び2で開示される射出成形機が知られており、特許文献1には、射出スクリュの基部温度を相対的に低くし、計量時における樹脂の搬送を確実にすることを目的として、射出シリンダにおける樹脂採取口の外周部に、シリンダ基部温調用のウォータージャケットを配備するとともに、このウォータージャケットの後方に、射出スクリュの基部外周面と嵌合する孔を設けた射出スクリュ温調用のウォータージャケットを配備した射出成形機の一部が開示され、また、特許文献2には、材料食い込み不良を解消し、樹脂の可塑化及び計量を安定に行うことを目的として、スクリュ有効長さの後端から先端までを順に供給部,圧縮部,計量部に区画し、その各部にわたりスクリュフライトを連続形成した射出スクリュであって、スクリュ外径Dと供給部スクリュ溝深さhfとの比をhf/D=0.14〜0.17に、スクリュフライト後面とスクリュ溝底面との間の曲率半径Rと、供給部スクリュ溝深さhfとの比を、R/hf=1.47〜2.1に、スクリュフライト前面とスクリュ溝底面との間の曲率半径rと、供給部スクリュ溝深さhfとの比を、r/hf=0.63〜0.88に設定した射出スクリュを備える射出成形機の一部が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−48053号公報
【特許文献2】特開2006−88533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来の射出成形機は、次のような解決すべき課題が存在した。
【0007】
第一に、特許文献1の場合は、ウォータージャケットを含む追加的な温調装置が必要になるとともに、特許文献2の場合は、デザイン変更したスクリュが必要になるなど、コスト面において無視できない追加的な構成要素が必要になる。したがって、実施に際しては、追加的な構成要素によるコストアップを招くとともに、追加的な構成要素は固定要素故に変更が困難となり、他の樹脂材料に対しては適合しない場合も生じ得るなど、汎用性に難がある。
【0008】
第二に、既存の樹脂材料にとっては、ある程度の目的が達成されるとしても、上述したPCTA樹脂材料等のような特定の樹脂材料にとっては、必ずしも課題解決の有効な対応策とはならない。即ち、特定の樹脂材料により成形を行う際に発生する計量不能になるという固有の課題を解決するためには、特許文献1のように、射出スクリュの基部温度を相対的に低くしても加熱筒側への悪影響を防止する温度分布等の設定が容易に行えないとともに、特許文献2のように、特定の成形材料以外の他の樹脂材料に対する最適化を行ったとしても、必ずしも特定の樹脂材料にとって有効な対応策とはならない。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した射出成形機の成形方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る射出成形機Mの成形方法は、上述した課題を解決するため、加熱筒2内に供給された樹脂ペレットによる成形材料をスクリュ3の回転により可塑化計量する計量工程S1cと、可塑化計量した加熱筒2内の溶融樹脂を金型4に射出充填する射出工程S3cとを有する成形方法であって、特定の成形材料Pe…により成形を行うに際し、射出工程S3cと計量工程S1c間で、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させることにより加熱筒2内の成形材料Pe…に対して計量工程S1cの反対の挙動を付与する分塊工程S10c(S10ce)を行うようにしたことを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、特定の成形材料Pe…には、100〔℃〕以下の温度で溶融を開始する樹脂特性を有する、少なくとも、PCTA樹脂材料,PCTG樹脂材料又はポリ乳酸樹脂材料を含ませることができる。また、所定の角度Rrは、0.25〜4回転から選択することができる。さらに、射出工程S3cと計量工程S1c間には、射出工程S3cの終了から計量工程S1cの開始間、又は計量工程S1cの終了から射出工程S3cの開始間を含ませることができる。
【0012】
一方、本発明の他の形態に係る射出成形機Mの成形方法は、上述した課題を解決するため、加熱筒2内に供給された樹脂ペレットによる成形材料をスクリュ3の回転により可塑化計量する計量工程S1cと、可塑化計量した加熱筒2内の溶融樹脂を金型4に射出充填する射出工程S3cとを有する成形方法であって、特定の成形材料Pe…により成形を行うに際し、計量工程S1cにおける計量開始から計量終了までの計量時間Tmdを監視し、当該計量時間Tmdが設定した計量異常判定時間Tmsを超えたときは、射出工程S3cと計量工程S1c間で、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させることにより加熱筒2内の成形材料Pe…に対して計量工程S3cの反対の挙動を付与する分塊工程S10c(S10ce)を行うようにしたことを特徴とする。
【0013】
この場合、発明の好適な態様により、特定の成形材料Pe…には、100〔℃〕以下の温度で溶融を開始する樹脂特性を有する、少なくとも、PCTA樹脂材料,PCTG樹脂材料又はポリ乳酸樹脂材料を含ませることができる。また、所定の角度Rrに対して、予め基本角度Rroを設定し、最初に計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えたなら基本角度Rroだけ分塊工程S10c(S10ce)を行うとともに、この後、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えたなら、超える毎に、基本角度Rroから順次大きくした所定の角度Rrにより分塊工程S10c(S10ce)を行うことができる。この際、所定の角度Rrに対して、予め限界角度RLを設定し、所定の角度Rrが限界角度RLを超えたなら、異常処理を行うことができる。さらに、計量異常判定時間Tmsを超えたと判定する条件は、設定した判定回数Nだけ連続して超えたことを条件とすることができる。また、射出工程S3cと計量工程S1c間には、射出工程S3cの終了から計量工程S1cの開始間、又は計量工程S1cの終了から射出工程S3cの開始間を含ませることができる。
【0014】
他方、本発明の他の形態に係る射出成形機Mの成形方法は、上述した課題を解決するため、加熱筒2内に供給された樹脂ペレットによる成形材料をスクリュ3の回転により可塑化計量する計量工程S1cと、可塑化計量した加熱筒2内の溶融樹脂を金型4に射出充填する射出工程S3cとを有する成形方法であって、特定の成形材料Pe…により成形を行うに際し、射出工程S3cが終了した後における成形品の冷却時間Tcdを監視し、連続する冷却時間Tcdが設定した冷却限界判定時間Tcsを超えたときは、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させることにより加熱筒2内の成形材料Pe…に対して計量工程S1cの反対の挙動を付与する分塊工程S10cを行うようにしたことを特徴とする。
【0015】
この場合、発明の好適な態様により、特定の成形材料Pe…には、100〔℃〕以下の温度で溶融を開始する樹脂特性を有する、少なくとも、PCTA樹脂材料,PCTG樹脂材料又はポリ乳酸樹脂材料を含ませることができる。また、必要により、分塊工程S10cの終了後、当該分塊工程S10cの開始時の角度までスクリュ3を戻すための戻し工程S10crを行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
このような手法による本発明に係る射出成形機Mの成形方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0017】
(1) 特定の成形材料Pe…により成形を行うに際し、射出工程S3cと計量工程S1c間で、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させることにより加熱筒2内の成形材料Pe…に対して計量工程S1cの反対の挙動を付与する分塊工程S10c(S10ce)を行うようにしたため、くっついた成形材料Pe…同士を分離する方向に戻すことができる。即ち、成形材料Pe…がスクリュフライトにより加熱筒2内に移送される場合、スクリュ3の回転に従って当該回転方向に徐々に圧縮されるが、計量工程S1cの反対の挙動を付与する分塊工程S10c(S10ce)を行うことにより、圧縮状態の解放及び分離方向の回転付与により、くっついた成形材料Pe…同士が分離する方向に戻される。これにより、成形材料Pe…は、加熱筒2内に食い込み易くなり、比較的低い温度で溶融しやすい特定の成形材料Pe…を成形する場合であっても、計量工程S1cにおいてスクリュ3が空回りし、計量不能になる不具合を解消できる。
【0018】
(2) 分塊工程S10c(S10ce)を行うに際しては、射出工程S3cと計量工程S1c間で、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させれば足りるため、追加的な構成要素を伴うことなく、ソフトウェア(制御プログラム)の変更により容易に実施可能となる。したがって、実施の容易化及びコストダウンを図ることができるとともに、固定要素が追加されるなどの変更が生じないため、他の樹脂材料の成形に悪影響を及ぼす虞れがなく、汎用性及び安定性(信頼性)に優れる。
【0019】
(3) 計量工程S1cにおける計量開始から計量終了までの計量時間Tmdを監視し、当該計量時間Tmdが設定した計量異常判定時間Tmsを超えたときに、射出工程S3cと計量工程S1c間で、分塊工程S10c(S10ce)を行うようにすれば、実際の計量時間Tmdにより判定できるため、特定の成形材料Pe…の樹脂特性が未知の場合であっても、計量不能になる不具合を確実に解消し、本発明に係る成形方法の有効性を享受できる。
【0020】
(4) 成形品の冷却時間Tcdを監視し、連続する冷却時間Tcdが設定した冷却限界判定時間Tcsを超えたときに、分塊工程S10cを行うようにすれば、成形材料Pe…における表面の溶融及び成形材料Pe…同士のくっつきの進行を停止できるため、成形品の冷却時間Tcdが長くなる場合であっても、計量不能になる不具合を確実に解消し、本発明に係る成形方法の有効性を享受できる。
【0021】
(5) 好適な態様により、特定の成形材料Pe…に、100〔℃〕以下の温度で溶融を開始する樹脂特性を有する、少なくとも、PCTA樹脂材料,PCTG樹脂材料又はポリ乳酸樹脂材料を含ませれば、固有の樹脂特性を有するこれらの特定の成形材料Pe…に対して、計量不能になる不具合を解消する観点から好適であり、確実かつ安定した計量、更には成形を行うことができる。
【0022】
(6) 好適な態様により、射出工程S3cと計量工程S1c間に、射出工程S3cの終了から計量工程S1cの開始間、又は計量工程S1cの終了から射出工程S3cの開始間を含ませれば、射出工程S3cの終了から計量工程S1cの開始間における冷却時間、或いは計量工程S1cの終了から射出工程S3cの開始間における待ち時間等の条件を考慮し、分塊工程S10c又は10ceを行う際の最適なタイミングを選定できる。
【0023】
(7) 好適な態様により、所定の角度Rrとして、0.25〜4回転から選択すれば、分塊工程S10c(S10ce)の有効性を確保する観点からその最適化を図ることができる。
【0024】
(8) 好適な態様により、所定の角度Rrに対して、予め基本角度Rroを設定し、最初に計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えたなら基本角度Rroだけ分塊工程S10c(S10ce)を行うとともに、この後、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えたなら、超える毎に、基本角度Rroから順次大きくした所定の角度Rrにより分塊工程S10c(S10ce)を行うようにすれば、分塊工程S10c(S10ce)の有効性を確実に担保することができる。
【0025】
(9) 好適な態様により、所定の角度Rrに対して、予め限界角度RLを設定し、所定の角度Rrが限界角度RLを超えたなら、異常処理を行うようにすれば、分塊工程S10c(S10ce)を行うことに伴う成形品質への影響を回避することができ、成形不良が発生する前に、成形動作を停止したり異常警報を発するなどの異常処理を行い、必要な対応策を講じることができる。
【0026】
(10) 好適な態様により、計量異常判定時間Tmsを超えたと判定する条件として、設定した判定回数Nだけ連続して超えたことを条件とすれば、一時的に計量異常判定時間Tmsを超えるノイズ的な要素を排除でき、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを実質的に超える場合のみを確実に検出できる。
【0027】
(11) 好適な態様により、分塊工程S10cの終了後、当該分塊工程S10cの開始時の角度までスクリュ3を戻すための戻し工程S10crを行うようにすれば、特に、冷却時間Tcdが長くなり、分塊工程S10cの回数が増えるような場合であっても、分塊工程S10cにより発生する可能性がある計量後の溶融樹脂(計量値)に対する影響を相殺できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の好適実施形態に係る成形方法の処理手順を説明するためのフローチャート、
【図2】同成形方法を実施する射出成形機の油圧駆動部を含む構成図、
【図3】同射出成形機のホッパー付近の断面を示す側面図、
【図4】同成形方法を実施した際のショット順に対する計量時間のグラフ、
【図5】同成形方法における分塊工程を行うタイミングの説明図、
【図6】分塊工程時にスクリュを回転させる角度をパラメータとしたショット順に対する計量時間のグラフ、
【図7】本発明の変更実施形態に係る成形方法における分塊工程及び戻し工程を行うタイミングの説明図、
【図8】冷却工程において連続する冷却時間をパラメータとしたショット順に対する計量時間のグラフ、
【図9】背景技術の課題を説明するための特定の成形材料の計量時の写真、
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0030】
まず、本実施形態に係る成形方法を実施できる射出成形機Mの構成について、図2及び図3を参照して説明する。
【0031】
図2は、射出成形機Mの全体構成を示す。射出成形機Mは射出装置Miと型締装置Mcを備える。射出装置Miは、加熱筒2を備え、この加熱筒2は、先端に射出ノズル11を、後部にホッパー12をそれぞれ有する。そして、ホッパー12の下端は落下孔13を介して加熱筒2の内部に連通する。14…は加熱筒2及び射出ノズル11の外周面に装着したヒータを示す。また、加熱筒2には、スクリュ3を装填するとともに、加熱筒2の後端には、スクリュ3を進退駆動する射出シリンダ15及び当該スクリュ3を回転駆動する計量モータ(オイルモータ)16を備える。他方、型締装置Mcは、金型4を支持する固定盤17及び可動盤18を備えるとともに、可動盤18を進退駆動することにより、金型4に対する型開閉及び型締を行う型締シリンダ19を備える。その他のアクチュエータとしては、図示を省略したが、金型4における成形品の突き出しを行う突出しシリンダや射出装置Miを進退移動させて金型4に対するノズルタッチ又はその解除を行う射出装置移動シリンダ等を備えている。
【0032】
一方、21は油圧駆動部であり、油圧駆動源となる可変吐出型油圧ポンプを利用した油圧ポンプ22及び各種切換バルブを配した油圧パネル23を備える。油圧ポンプ22は、サーボモータ24により回転駆動されるとともに、このサーボモータ24の回転数は、当該サーボモータ24に付設したロータリエンコーダ25により検出される。なお、26はオイルタンクを示す。
【0033】
また、射出成形機Mの全体の制御を司るコンピュータ機能を有する成形機コントローラ31を備え、この成形機コントローラ31は、本実施形態に係る成形方法を実行するための制御プログラム31pを格納する。成形機コントローラ31はサーボ回路を内蔵し、このサーボ回路には上述したサーボモータ24に接続する。これにより、サーボモータ24の回転数を可変制御し、油圧ポンプ22の吐出流量及び吐出圧力を可変制御できるため、上述した各シリンダ15,19…及び計量モータ16等の駆動制御により成形サイクルにおける各動作工程を駆動制御できる。32はスクリュ3の位置(スクリュ位置)を検出する位置センサであり、成形機コントローラ31に接続する。
【0034】
他方、成形機コントローラ31には、ディスプレイ33を接続する。ディスプレイ33には、タッチパネル33pが付設されており、このタッチパネル33pにより各種設定等を行うことができる。したがって、タッチパネル33pを付設したディスプレイ33は、設定部34を構成する。この設定部34により、本実施形態に係る成形方法の実施に用いる計量異常判定時間Tmsや冷却限界判定時間Tcs等を設定することができる。また、成形機コントローラ31は、内蔵するシーケンスコントローラを介して油圧パネル23に接続するとともに、射出成形機Mの動作状態を検出する圧力センサ及び温度センサ等の各種センサを含むセンサ群、及びサーボモータ24に付設されたロータリエンコーダ25は、成形機コントローラ31の入力ポートに接続する。さらに、成形機コントローラ31は、内蔵するヒータドライバを介してヒータ14…に接続する。
【0035】
次に、射出成形機Mを用いた本実施形態に係る成形方法の原理について、図6を参照して説明する。
【0036】
前述したように、樹脂ペレットとして、比較的新しい樹脂材料であるイーストマン・ケミカル社製のPCTA樹脂材料等(特定の樹脂材料Pe…)を使用して成形を行う場合、計量工程においてスクリュ3が加熱筒2内で空回りし、事実上、計量不能になる問題を生じる。即ち、PCTA樹脂材料等の特定の成形材料Pe…を使用した場合、成形材料Pe…は、ホッパー12の直下にある落下孔13に落下した直後から加熱筒2側の熱影響(40〜80〔℃〕程度)を受け、表面の溶融が開始することにより、樹脂ペレット(成形材料Pe…)同士がくっつき合うとともに、スクリュ3により移送された直後からスクリュ3のスクリュフライト3f…間にオコシ状に詰まった状態となる。この結果、成形を開始した後、10〜20ショット程度は計量が行われるも、これ以後は、スクリュ3のスクリュフライト3f…が回転しても、落下孔13内の成形材料Pe…は加熱筒2内に食い込まなくなる。即ち、成形材料Pe…は落下孔13から前方へ送られにくくなり、計量不能に陥いる。
【0037】
このように、比較的低い温度で溶融しやすいPCTA樹脂材料等の特定の成形材料Pe…を成形する場合、通常の樹脂材料よりも早い段階で表面の溶融が開始し、成形材料Pe…同士がくっつき合うことにより、スクリュフライト3f…の回転によっても加熱筒2の内部に食い込まなくなる。そこで、くっつき合った成形材料Pe…同士を再度バラバラな状態に戻すことが有効と考えれるため、スクリュ3を計量時とは反対方向に回転させることによりその有効性を検証した。即ち、計量工程では、スクリュ3の回転により、成形材料Pe…がその回転方向に圧縮されるため、オコシ状になる前に、スクリュ3を所定の角度Rrだけ計量時とは反対方向に回転させ、圧縮された成形材料Pe…に対して計量時とは反対の挙動を付与すれば、くっつき合った成形材料Pe…同士を分離させることができると考えられるため、その確認を試みた。
【0038】
図6は、特定の成形材料Pe…を計量した際に、スクリュ3を計量時とは反対方向に回転させる角度Rrをパラメータとしたショット順に対する計量時間Tmd〔秒〕の変化を示す。この場合、特定の成形材料Pe…には、100〔℃〕以下の温度で溶融を開始する樹脂特性を有するPCTA樹脂材料(イーストマン・ケミカル社製AN014(品番))を使用し、落下孔13内の温度は40〔℃〕に設定した。図6中、R90は各ショットの計量開始前にスクリュ3を計量時に対して反対方向へ90〔゜〕回転させた場合、R180は各ショットの計量開始前にスクリュ3を同方向へ180〔゜〕回転させた場合、R360は各ショットの計量開始前にスクリュ3を同方向へ360〔゜〕回転させた場合、Rnは各ショットの計量開始前に同方向へのスクリュ3の回転は行わない場合をそれぞれ示す。
【0039】
図6から明らかなように、Rnの場合、成形(ショット)の開始から9ショット程度までは計量可能であっても、その後、急激に計量時間Tmdが延び、計量不能になる。なお、正常に計量が行われた場合の計量時間Tmdは、図6より2.5〜3〔秒〕程度である。また、R90の場合、成形の開始から22ショット程度までは計量可能であっても、その後、急激に計量時間Tmdが延び、計量不能になる。これに対して、R180とR360の場合、成形の開始から80ショットを超えても計量可能である。
【0040】
この結果、一ショット毎に、スクリュ3を計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rr、即ち、例示の場合、180〔゜〕以上、回転させれば、成形材料Pe…を加熱筒2内に食い込み可能な状態に再生可能であり、比較的低い温度で溶融しやすい特定の成形材料Pe…を成形する場合であっても、加熱筒2内で生じるスクリュ3の空回りを回避し、計量不能になる不具合を解消できる。
【0041】
次に、本実施形態に係る具体的な成形方法について、図2〜図5を参照しつつ図1に示すフローチャートに従って説明する。
【0042】
最初に、設定部34を利用して必要な設定を行う。なお、使用する特定の樹脂材料Pe…は、図6の実験において使用した樹脂材料Pe…と同じPCTA樹脂材料であり、加熱筒2の加熱温度は240〔℃〕、落下孔13内の温度は40〔℃〕である。主要な設定項目は以下のとおりである。
【0043】
(a) 計量開始から計量終了までの計量時間Tmdの長さに対して異常の有無を判定するための計量異常判定時間Tmsを設定する。例示(図6)の場合、正常な計量時間Tmdは、2.5〜3〔秒〕程度であるため、計量異常判定時間Tmsは5〔秒〕に設定した。
【0044】
(b) 計量異常判定時間Tmsを超えたと判定する条件は、計量異常判定時間Tmsを判定回数Nだけ連続して超えたことを条件とするため、この判定回数Nを設定する。例示の場合、2回に設定した。
【0045】
(c) スクリュ3を計量時の回転方向に対して反対方向に回転させる所定の角度Rrを設定する。例示の場合、所定の角度Rrの初期値、即ち、基本角度Rroとして、180〔゜〕を設定した。また、所定の角度Rrは、計量異常判定時間Tmsを超える毎に、基本角度Rroから順次大きくする。この場合、加算値(例示は、180〔゜〕)を設定し、基本角度Rro(180〔゜〕)から180〔゜〕ずつ順次加算するようにした。なお、所定の角度Rrを順次大きくする方法は、任意であり、例えば、加算値は加算する毎に異なる値であってもよいし、基本角度Rro又は使用中の所定の角度Rrに対して係数を乗ずる方法などであってもよい。基本角度Rroの大きさの選定は任意であるが、一定の効果を確保し、かつ計量値等に対する無用な影響を回避する観点から、0.25〜2回転(90〜720〔゜〕)の範囲に選定し、特に、後述する分塊工程の有効性を確保する観点からその最適化を図ることが望ましい。
【0046】
(d) 所定の角度Rrに対する限界角度RLを設定する。例示は、4回転を設定し、限界角度RL(4回転)を超えたなら異常処理を行うようにした。これにより、後述する分塊工程を行うことに伴う成形品質への影響を回避することができ、成形不良が発生する前に、成形動作を停止したり異常警報を発するなどの異常処理を行い、必要な対応策を講じることができる。
【0047】
(e) スクリュ3を計量時に対して反対方向へ角度Rrだけ回転させるタイミングを設定する。このタイミングには、射出工程S3と計量工程S1間、即ち、射出工程S3の終了から計量工程S1の開始間、又は計量工程S1の終了から射出工程S3の開始間を選択できる。例示の場合、射出工程S3の終了から計量工程S1の開始間のタイミングを選択した。
【0048】
以下、具体的な成形手順について説明する。まず、特定の樹脂材料Pe…をホッパー12に投入する。特定の樹脂材料Pe…は、素材としてPCTA樹脂材料を用いた大きさが米粒状の樹脂ペレットである。そして、成形機コントローラ31は油圧パネル23を切換え、サーボモータ24を制御することにより、オイルモータ16を、計量時の回転方向へ設定した回転速度により回転させる計量工程を行う(ステップS1)。この際、射出シリンダ15の後油室には所定の背圧を付与する。次いで、計量工程S1が終了したなら、成形機コントローラ31は油圧パネル23を切換え、サーボモータ24を制御することにより、射出シリンダ15のピストンを、設定した射出速度により前進させる射出工程を行う(ステップS2,S3)。
【0049】
一方、成形機コントローラ31は、上述した計量工程S1が終了した段階において、計量開始から計量終了までの時間である計量時間Tmdの取込みを行う(ステップS2,S4)。したがって、成形機コントローラ31は計量開始から計量終了までの時間を検出するタイマ機能を備えている。また、成形機コントローラ31は取り込んだ計量時間Tmdが予め設定した計量異常判定時間Tmsを超えたか否かを判定する(ステップS5)。この際、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えていない場合には、次に述べるカウント数をリセットし、このショットの判定処理を終了する。これに対して、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えている場合には、異常判定として1をカウントし、このショットの判定処理を終了する。そして、カウントによりカウント数が2になった場合には、連続して超えた回数が2、即ち、予め設定した判定回数の2に達するため、これに基づいて分塊指令を出力する(ステップS6,S7)。分塊指令を出力したなら、カウント数はリセットする。
【0050】
他方、射出工程が終了した際に、上述した分塊指令が出力していない場合には、成形品の冷却工程等の後続する工程を経て、一ショット分の成形が終了する(ステップS8,S9)。これに対して、射出工程が終了した際に、上述した分塊指令が出力している場合には、分塊工程、即ち、成形機コントローラ31は油圧パネル23を切換え、サーボモータ24を制御することにより、オイルモータ16を計量時の回転方向に対して反対方向へ設定速度で回転させる分塊工程を行う(ステップS8,S9,S10)。この場合、反対方向へスクリュ3を回転させる角度Rrは、予め設定した180〔゜〕となる。また、回転させる設定速度は、計量時の回転速度を用いることができるが、この回転速度は任意に設定可能である。さらに、分塊工程S10を行う際は、成形機コントローラ31により、スクリュ3の前後方向位置を固定する位置制御を行う。
【0051】
そして、次の成形があれば、以後、同様の成形工程(成形サイクル)が繰返して行われる(ステップS11,S1…)。この場合、分塊工程が行われた以降は、通常、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えることのないショットが継続することとなるが、様々な環境により、再度、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超える場合がある(ステップS4,S5,S6)。この場合には、基本角度Rro(180〔゜〕)に対して、加算値として設定した180〔゜〕を加算し、以後は、所定の角度Rrを360〔゜〕に変更して分塊工程を行う(ステップS6,S7)。したがって、この後、さらに、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超える場合が発生したときは、360〔゜〕に
加算値となる180〔゜〕を加算し、所定の角度Rrを540〔゜〕に変更した分塊工程を行う(ステップS6,S7)。このように、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えたなら、超える毎に、基本角度Rroから順次大きくした所定の角度Rrにより分塊工程を行う。これにより、分塊工程の有効性を確実に担保することができる。
【0052】
一方、所定の角度Rrが大きくなり、予め設定した限界角度RLを超えたなら、異常処理、例えば、成形動作を停止したり異常警報を発するなどの異常処理を行う(ステップS12,S13)。このように、所定の角度Rrに対して、予め限界角度RLを設定し、所定の角度Rrが限界角度RLを超えたなら、異常処理を行うようにすれば、分塊工程を行うことに伴う成形品質への影響を回避することができ、成形不良が発生する前に必要な対応策を講じることができる利点がある。
【0053】
図4に、本実施形態に係る成形方法を実施した際におけるショット順に対する計量時間の変化を示している。同図から明らかなように、最初のショットから7番目のショットまでの計量時間Tmdはいずれも計量異常判定時間Tmsを超えていないが、8番目のショットと9番目のショットの計量時間Tmdは連続して計量異常判定時間Tmsを超えている。したがって、9番目のショットが終了した時点ではカウント数が2、即ち、連続して超えた回数が判定回数の2になるため、分塊指令が出力される。これにより、次のショットから分塊工程がショット毎に行われる。
【0054】
なお、図4において、10番目のショットでは、分塊工程が行なわれることにより計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えることはないが、11番目のショットでは、再び計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えている。しかし、12番目のショットでは、再び計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えなくなるため、11番目のショットの挙動は判定回数の2には達しないため、一時的なバラツキとして判断する。例示の場合、13番目のショット以降は、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを超えることなく安定した計量が行われる。このように、計量異常判定時間Tmsを超えたと判定する条件として、設定した判定回数Nだけ連続して超えたことを条件とすれば、一時的に計量異常判定時間Tmsを超えるノイズ的な要素を排除でき、計量時間Tmdが計量異常判定時間Tmsを実質的に超える場合のみを確実に検出できる利点がある。
【0055】
図5は、本実施形態に係る成形方法における分塊工程S10c(S10ce)を行うタイミングを示す。図1の実施形態では、分塊工程S10cを行うタイミングとして、射出工程S3cの終了から計量工程S1cの開始間に行う場合を示したが、図5に示す分塊工程S10ceのように、計量工程S3cの終了から射出工程S3cの開始間に行ってもよい。いずれのタイミングにより行っても、特定の樹脂材料Pe…の表面が溶融する状態に対して一定時間が経過する前に分塊工程S10c(S10ce)を挿入できる点で同様の作用を呈する。このように、射出工程S3cの終了から計量工程S1cの開始間、又は計量工程S1cの終了から射出工程S3cの開始間のいずれにも適用できるため、射出工程S3cの終了から計量工程S1cの開始間における冷却時間、或いは計量工程S1cの終了から射出工程S3cの開始間における待ち時間等の条件を考慮し、分塊工程S10cを行う際の最適なタイミングを選定できる。
【0056】
よって、このような本実施形態に係る成形方法によれば、特定の成形材料Pe…により成形を行うに際し、射出工程S3cと計量工程S1c間で、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させることにより加熱筒2内の成形材料Pe…に対して計量工程S1cの反対の挙動を付与する分塊工程S10cを行うようにしたため、成形材料Pe…は、加熱筒2内に食い込み易くなり、比較的低い温度で溶融しやすい特定の成形材料Pe…を成形する場合であっても、計量工程S1cにおいてスクリュ3が空回りし、計量不能になる不具合を解消できる。また、分塊工程S10cを行うに際しては、射出工程S3cと計量工程S1c間で、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させれば足りるため、追加的な構成要素を伴うことなく、ソフトウェア(制御プログラム)の変更により容易に実施可能となる。したがって、実施の容易化及びコストダウンを図ることができるとともに、固定要素が追加されるなどの変更が生じないため、他の樹脂材料の成形に悪影響を及ぼす虞れがなく、汎用性及び安定性(信頼性)に優れる。特に、上記実施形態では、計量工程S1cにおける計量開始から計量終了までの計量時間Tmdを監視し、当該計量時間Tmdが設定した計量異常判定時間Tmsを超えたときに、以後の成形から、射出工程S3cと計量工程S1c間で、分塊工程S10cを行うようにすれば、実際の計量時間Tmdにより判定できるため、特定の成形材料Pe…の樹脂特性が未知の場合であっても、計量不能になる不具合を確実に解消し、本発明に係る成形方法の有効性を享受できる。
【0057】
他方、図7及び図8は、本発明の変更実施形態に係る成形方法を示す。変更実施形態に係る成形方法は、特定の成形材料Pe…により成形を行うに際し、図7に示すように、射出工程S3cが終了した後における成形品の冷却時間Tcdを監視し、連続する冷却時間Tcdが設定した冷却限界判定時間Tcsを超えたときは、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させることにより加熱筒2内の成形材料Pe…に対して計量工程の反対の挙動を付与する分塊工程S10cを行うようにしたものである。
【0058】
図8には、射出工程が終了した後における成形品の冷却時間Tcdをパラメータとしたショット順に対する計量時間の変化に対するシミュレーション結果を示す。図8中、C30は冷却時間Tcdが30〔秒〕間連続した場合、C60は冷却時間Tcdが60〔秒〕間連続した場合、C90は冷却時間Tcdが90〔秒〕間連続した場合、C120は冷却時間Tcdが120〔秒〕間連続した場合をそれぞれ示す。
【0059】
冷却時間Tcdの連続時間が長くなった場合、成形材料Pe…がホッパー12の下方にある落下孔13及びスクリュフライト3f…間に滞在し、その状態で表面の溶融が進行する度合が高くなるため、その後、スクリュ3を回転しても空回りする可能性も高くなる。そこで、冷却限界判定時間Tcsを設定し、連続する冷却時間Tcdが冷却限界判定時間Tcsを超えたときには、分塊工程S10cを行うようにした。これにより、連続する冷却時間Tcdが長くなることに伴う不具合を回避できる。
【0060】
例えば、図8の場合、冷却限界判定時間Tcsを60〔秒〕に設定すれば、計量不能になることを回避できるため、図7に示す計量工程S1cと射出工程S3c間における冷却時間Tcdが、例えば、90秒であるとすれば、この冷却時間Tcdでは、射出工程S3cが終了した後、60〔秒〕の経過後に、分塊工程S10cが行われる。したがって、冷却時間Tcdが更に長い場合には、60〔秒〕を経過する度に、繰り返し分塊工程S10cを行えばよい。この場合、使用する所定の角度Rrは、0.25〜4回転(90〜1440〔゜〕)の範囲、望ましくは0.25〜2回転(90〜720〔゜〕)の範囲により設定できる。
【0061】
このように、成形品の冷却時間Tcdを監視し、連続する冷却時間Tcdが設定した冷却限界判定時間Tcsを超えたときに、分塊工程S10cを行うようにすれば、成形材料Pe…における表面の溶融及び成形材料Pe…同士のくっつきの進行を停止できるため、成形品の冷却時間Tcdが長くなる場合であっても、計量不能になる不具合を確実に解消し、本発明に係る成形方法の有効性を享受できる。
【0062】
また、図7は、分塊工程S10cの終了後、当該分塊工程S10cの開始時の角度までスクリュ3を戻すための戻し工程S10crを行う場合を示す。即ち、分塊工程S10cにより、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させることにより加熱筒2内の成形材料Pe…に対して計量工程S1cの反対の挙動を付与するとともに、直後に、戻し工程S10crを行い、スクリュ3を、計量時の回転方向に、同角度Rrだけ回転させることにより、スクリュ3を分塊工程S10cの開始時の角度まで戻すようにしたものである。これにより、特に、冷却時間Tcdが長くなり、分塊工程S10cの回数が増えるような場合であっても、分塊工程S10cにより発生する可能性がある計量後の溶融樹脂(計量値)に対する影響を相殺することが可能となる。なお、分塊工程S10c及び戻し工程S10crを行う際は、スクリュ3の前後方向位置を固定する位置制御を行う。
【0063】
以上、好適実施形態及び変更実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,素材,数量,数値,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0064】
例えば、本発明は、基本的に、特定の成形材料Pe…により成形を行うに際し、射出工程S3cと計量工程S1c間で、スクリュ3を、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度Rrだけ回転させることにより加熱筒2内の成形材料Pe…に対して計量工程S1cの反対の挙動を付与する分塊工程S10cを行うことが計量工程S1cを行うに際して有効な手法であるため、特定の成形材料Pe…の樹脂特性等が明確に解っている場合には、予め所定の角度Rrを設定し、最初からショット毎に分塊工程S10cを行うようにしてもよい。この場合、使用する所定の角度Rrは、0.25〜4回転(90〜1440〔゜〕)の範囲、望ましくは0.25〜2回転(90〜720〔゜〕)の範囲により設定できる。
【0065】
また、例示の各実施形態は、組合わせて利用することができる。したがって、例えば、計量工程S1cにおける計量開始から計量終了までの計量時間Tmdを監視し、当該計量時間Tmdが設定した計量異常判定時間Tmsを超えたときに、射出工程S3cと計量工程S1c間で分塊工程S10cを行う場合、成形の開始から計量異常判定時間Tmsを超えるまでは、設定した基本角度Rro(例えば、180〔゜〕)だけ反対方向にスクリュ3を回転させる初期分塊工程を行い、計量異常判定時間Tmsを超えたときは、より大きい所定の角度Rr(例えば、360〔゜〕)だけ反対方向にスクリュ3を回転させる分塊工程S10cを行うようにしてもよい。このように、成形の開始から計量異常判定時間Tmsを超えるまで、設定した初期設定角度(基本角度)Rroだけ反対方向にスクリュ3を回転させる初期分塊工程を行うようにすれば、特定の成形材料Pe…を使用し、計量不能になる可能性が高いような場合には、最初から初期分塊工程が行われるため、成形材料Pe…同士のくっつきを低減し、より正確で安定した計量を行うことができる。さらに、戻し工程S11cも、他の各実施形態における分塊工程S10c(S10ce)に対して、組合わせ使用できる。
【0066】
一方、特定の成形材料Pe…として、PCTA樹脂材料を例示したが、類似の樹脂材料であるPCTG樹脂材料(イーストマン・ケミカル社製)やポリ乳酸樹脂材料、即ち、100〔℃〕以下の温度で溶融を開始する樹脂特性を有する樹脂材料であってもよい。これらの特定の成形材料Pe…を使用すれば、固有の樹脂特性を有するこれらの特定の成形材料Pe…に対して、計量不能になる不具合を解消する観点から好適であり、確実かつ安定した計量、更には成形を行うことができる。もちろん、これらの例示以外の特定の樹脂材料Pe…を用いることを排除するものではない。また、計量異常判定時間Tmsを超えたと判定する条件は、設定した判定回数の2だけ連続して超えたことを条件とする場合を示したが、判定回数は3以上に設定してもよいし、1の場合を排除するものではない。さらに、計量時間Tmdを取込み、計量異常判定時間Tmsにより異常を判定する場合を例示したが、計量時間の代わりに、計量速度又は一定時間経過しても設定位置に達しないこと等を利用して判定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る成形方法は、加熱筒内に供給された樹脂ペレットによる成形材料をスクリュの回転により可塑化計量する計量工程を有する各種タイプの射出成形機に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
M:射出成形機,2:加熱筒,3:スクリュ,4:金型,S1c:計量工程,S3c:射出工程,S10c(S10ce):分塊工程,S11c:戻し工程,Pe…:特定の成形材料,Tmd:計量時間,Tms:計量異常判定時間,Tcd:冷却時間,Tcs:冷却限界判定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱筒内に供給された樹脂ペレットによる成形材料をスクリュの回転により可塑化計量する計量工程と、可塑化計量した前記加熱筒内の溶融樹脂を金型に射出充填する射出工程とを有する射出成形機の成形方法において、特定の成形材料により成形を行うに際し、前記射出工程と前記計量工程間で、前記スクリュを、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度だけ回転させることにより前記加熱筒内の成形材料に対して前記計量工程の反対の挙動を付与する分塊工程を行うことを特徴とする射出成形機の成形方法。
【請求項2】
前記特定の成形材料には、100〔℃〕以下の温度で溶融を開始する樹脂特性を有する、少なくとも、PCTA樹脂材料,PCTG樹脂材料又はポリ乳酸樹脂材料を含むことを特徴とする請求項1記載の射出成形機の成形方法。
【請求項3】
前記所定の角度は、0.25〜4回転から選択することを特徴とする請求項1又は2記載の射出成形機の成形方法。
【請求項4】
前記射出工程と前記計量工程間には、前記射出工程の終了から前記計量工程の開始間、又は前記計量工程の終了から射出工程の開始間を含むことを特徴とする請求項1,2又は3記載の射出成形機の成形方法。
【請求項5】
加熱筒内に供給された樹脂ペレットによる成形材料をスクリュの回転により可塑化計量する計量工程と、可塑化計量した前記加熱筒内の溶融樹脂を金型に射出充填する射出工程とを有する射出成形機の成形方法において、特定の成形材料により成形を行うに際し、前記計量工程における計量開始から計量終了までの計量時間を監視し、当該計量時間が設定した計量異常判定時間を超えたときは、前記射出工程と前記計量工程間で、前記スクリュを、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度だけ回転させることにより前記加熱筒内の成形材料に対して前記計量工程の反対の挙動を付与する分塊工程を行うことを特徴とする射出成形機の成形方法。
【請求項6】
前記特定の成形材料には、100〔℃〕以下の温度で溶融を開始する樹脂特性を有する、少なくとも、PCTA樹脂材料,PCTG樹脂材料又はポリ乳酸樹脂材料を含むことを特徴とする請求項5記載の射出成形機の成形方法。
【請求項7】
前記所定の角度に対して、予め基本角度を設定し、最初に前記計量時間が前記計量異常判定時間を超えたなら前記基本角度だけ前記分塊工程を行うとともに、この後、前記計量時間が前記計量異常判定時間を超えたなら、超える毎に、前記基本角度から順次大きくした所定の角度により前記分塊工程を行うことを特徴とする請求項5又は6記載の射出成形機の成形方法。
【請求項8】
前記所定の角度に対して、予め限界角度を設定し、前記所定の角度が前記限界角度を超えたなら、異常処理を行うことを特徴とする請求項7記載の射出成形機の成形方法。
【請求項9】
前記計量異常判定時間を超えたと判定する条件は、設定した判定回数だけ連続して超えたことを条件とすることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の射出成形機の成形方法。
【請求項10】
前記射出工程と前記計量工程間には、前記射出工程の終了から前記計量工程の開始間、又は前記計量工程の終了から射出工程の開始間を含むことを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の射出成形機の成形方法。
【請求項11】
加熱筒内に供給された樹脂ペレットによる成形材料をスクリュの回転により可塑化計量する計量工程と、可塑化計量した前記加熱筒内の溶融樹脂を金型に射出充填する射出工程とを有する射出成形機の成形方法において、特定の成形材料により成形を行うに際し、前記射出工程が終了した後における成形品の冷却時間を監視し、連続する冷却時間が設定した冷却限界判定時間を超えたときは、前記スクリュを、計量時の回転方向に対して反対方向に、所定の角度だけ回転させることにより前記加熱筒内の成形材料に対して前記計量工程の反対の挙動を付与する分塊工程を行うことを特徴とする射出成形機の成形方法。
【請求項12】
前記特定の成形材料には、100〔℃〕以下の温度で溶融を開始する樹脂特性を有する、少なくとも、PCTA樹脂材料,PCTG樹脂材料又はポリ乳酸樹脂材料を含むことを特徴とする請求項11記載の射出成形機の成形方法。
【請求項13】
前記分塊工程の終了後、当該分塊工程の開始時の角度まで前記スクリュを戻すための戻し工程を行うことを特徴とする請求項11又は12記載の射出成形機の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−104817(P2011−104817A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260272(P2009−260272)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】