説明

射出成形用樹脂組成物

【課題】 金属製部材の表面に射出し、この金属製部材に対して高い接着強度を有する樹脂製部材を効率よく形成することができ、金属製部材及び樹脂製部材が一体化した構造物(複合体)とすることができる射出成形用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の射出成形用樹脂組成物は、[A]ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物及びマレイミド系化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含むビニル系単量体(b)を重合して得られたゴム強化共重合樹脂(A1)、又は、該ゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体の(共)重合体(A2)の混合物からなるゴム強化樹脂10〜90質量%と、[B]エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合及びアミド結合から選ばれる少なくとも1種の結合を含む熱可塑性結晶質重合体90〜10質量%と(但し、[A]+[B]=100質量%である。)を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用樹脂組成物に関し、更に詳しくは、金属製部材の表面に射出し、この金属製部材に対して高い接着強度を有する樹脂製部材を効率よく形成することができ、金属製部材及び樹脂製部材が一体化した構造物(複合体)とすることができる射出成形用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業用制御機器、家庭用電化製品、携帯電話、携帯型電子情報端末等の通信機器、医療機器、車両用電子機器等の、構造用部品、外装用部品等において、板金加工、プレス加工、切削加工等による金属製部材と、ビス、ピン、ツメ、リブ、ボス等の樹脂製部材とが一体化した構造物が1次部品等として用いられている。
接着剤を用いることなく金属製部材及び樹脂製部材が一体化された構造物としては、例えば、金属フレームと、この金属フレームの表面に被覆及び付着された、エポキシ系樹脂等の熱硬化性合成樹脂からなる層と、この層の上面に、熱可塑性合成樹脂が熱融着により形成された部材とを備える電子機器筐体(特許文献1参照)や、金属ケースと、この金属ケースの表面に射出成形され、熱融着された、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたオレフィン系樹脂を含む樹脂部材とを備える電子機器筐体(特許文献2参照)が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−298277号公報
【特許文献2】特開2002−225073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の各機器においては、小型化が図られているものもあり、その場合には、構成部品においても小型化が必要不可欠となり、ビス、ピン、ツメ、リブ、ボス等所定形状の樹脂製部材を、より少ない工程で効率よく形成する方法が検討されている。
本発明は、金属製部材の表面に射出し、この金属製部材に対して高い接着強度を有する樹脂製部材を効率よく形成することができ、金属製部材及び樹脂製部材が一体化した構造物(複合体)とすることができる射出成形用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、射出成形用の金型内部に配置した金属製部材の所定の位置に対して、特定の樹脂成分及び結晶質重合体を含む組成物を射出することにより、金属製部材と、樹脂製部材との接合周辺部におけるバリの発生が抑制され、金属製部材に対する高い接着強度を有する樹脂製部材を形成することができることを見出し、本発明の完成に至った。
即ち、本発明は、以下の通りである。
1.金型内部に配置された金属製部材の表面に射出成形される樹脂組成物において、
[A]ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物及びマレイミド系化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体化合物とを含むビニル系単量体(b)を重合して得られたゴム強化共重合樹脂(A1)、又は、該ゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体の(共)重合体(A2)の混合物からなるゴム強化樹脂3〜97質量%と、[B]エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合及びアミド結合から選ばれる少なくとも1種の結合を含む熱可塑性結晶質重合体97〜3質量%と(但し、[A]+[B]=100質量%である。)を含有することを特徴とする射出成形用樹脂組成物。
2.更に、充填剤を含み、該充填剤の含有量が、上記ゴム強化樹脂[A]及び上記熱可塑性結晶質重合体[B]の合計を100質量部とした場合に、1〜50質量部である上記1に記載の射出成形用樹脂組成物。
3.上記金属製部材の表面の少なくとも一部が、トリアジン系化合物を用いて処理されたものである上記1又は2に記載の射出成形用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の射出成形用樹脂組成物によれば、金属製部材の表面に射出することで、この金属製部材に対して高い接着強度を有する樹脂製部材を効率よく形成することができ、金属製部材及び樹脂製部材が一体化した構造物(複合体)を容易に得ることができる。また、金属製部材と、樹脂製部材との接合周辺部におけるバリの発生が抑制される。
また、本組成物が、更に、充填剤を所定量含有する場合には、金属製部材の線膨張係数に近い樹脂製部材を形成することができるので、界面剥離等の欠陥を低減するとともに、高い接着性を長期間持続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳しく説明する。
尚、本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味する。
【0008】
本発明の射出成形用樹脂組成物は、金型内部に配置された金属製部材の表面に射出成形される樹脂組成物であり、[A]ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物及びマレイミド系化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体化合物とを含むビニル系単量体(b)を重合して得られたゴム強化共重合樹脂(A1)、又は、該ゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体の(共)重合体(A2)の混合物からなるゴム強化樹脂(以下、「成分[A]」ともいう。)3〜97質量%と、[B]エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合及びアミド結合から選ばれる少なくとも1種の結合を含む熱可塑性結晶質重合体(以下、「成分[B]」ともいう。)97〜3質量%と(但し、[A]+[B]=100質量%である。)を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る成分[A]は、ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物及びマレイミド系化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体化合物とを含むビニル系単量体(b)を重合して得られたゴム強化共重合樹脂(A1)であるか、又は、該ゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体の(共)重合体(A2)の混合物である。これらのゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体の(共)重合体(A2)は、それぞれ、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0010】
ゴム強化共重合樹脂(A1)の形成に用いられるゴム質重合体(a)としては、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン系ブロック共重合体及びその水素添加物等のジエン系ゴム;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・ブテン−1・非共役ジエン共重合体等のエチレン・α−オレフィン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム等が挙げられる。これらの重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらのうち、ジエン系ゴム、エチレン・α−オレフィン系ゴム及びアクリル系ゴムが好ましい。
【0011】
上記ゴム質重合体(a)がジエン系ゴム又はアクリル系ゴムである場合、そのゲル含率は、好ましくは98質量%以下であり、更に好ましくは40〜98質量%である。この範囲とすることにより、耐衝撃性に優れた樹脂製部材を形成可能な射出成形用樹脂組成物とすることができる。
ゲル含率は、以下に示す方法により求めることができる。
まず、ゴム質重合体(a)1gをトルエン100mlに投入し、室温で48時間静置する。その後、100メッシュの金網(質量をW1グラムとする)で濾過したトルエン不溶分と金網を、温度80℃で6時間真空乾燥して秤量(質量W2グラムとする)する。W1及びW2を、下記式(1)に代入して、ゲル含率を得る。
ゲル含率=[{W2(g)−W1(g)}/1(g)]×100 (1)
【0012】
尚、ゲル含率は、ゴム質重合体(a)の製造時に用いた架橋性単量体の種類及びその使用量、分子量調節剤の種類及び使用量、重合時間、重合温度、重合転化率等を、適宜、設定することにより調整される。
【0013】
ゴム強化共重合樹脂(A1)の形成に用いられるビニル系単量体(b)は、芳香族ビニル化合物並びにシアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物及びマレイミド系化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体化合物の組み合わせのほか、これらの単量体と、酸無水物;ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基等の官能基を有するビニル系化合物等とを、組み合わせて用いることができる。
【0014】
上記各ビニル系単量体の使用量は、下記のとおりである。但し、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%とする。
芳香族ビニル化合物の使用量は、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは10〜80質量%である。この範囲にあると、本組成物の成形加工性と、得られる樹脂製部材の機械的強度との物性バランスに優れる。
シアン化ビニル化合物を使用する場合には、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%である。この範囲にあると、本組成物の成形加工性と、得られる樹脂製部材の耐薬品性及び耐変色性との物性バランスに優れる。
(メタ)アクリル酸エステル化合物を使用する場合には、好ましくは1〜85質量%、より好ましくは10〜80質量%である。この範囲にあると、本組成物の成形加工性と、得られる樹脂製部材の着色性との物性バランスに優れる。
マレイミド系化合物を使用する場合には、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは10〜50質量%である。この範囲にあると、本組成物の成形加工性と、得られる樹脂製部材の耐熱性との物性バランスに優れる。
官能基を有するビニル系化合物を使用する場合には、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%である。この範囲にあると、成分[B]との相溶性を向上させ、機械的強度に優れた樹脂製部材を得ることができる。
【0015】
ゴム質重合体(a)の存在下に重合されるビニル系単量体(b)のうち、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。
【0016】
シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0018】
マレイミド化合物としては、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。尚、マレイミド系化合物単位を分子へ導入する方法としては、無水マレイン酸を共重合してからイミド化する等してもよい。
【0019】
酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
ヒドロキシル基を有する化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、ヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
アミノ基を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、(メタ)アクリルアミン、N−メチルアクリルアミン、(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、p−アミノスチレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
エポキシ基を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
カルボキシル基を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
オキサゾリン基を有する化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
上記ビニル系単量体(b)を用いる際の好ましい組み合わせの例を以下に示す。
(1)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物
(2)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/(メタ)アクリル酸エステル
(3)芳香族ビニル化合物/(メタ)アクリル酸エステル
(4)芳香族ビニル化合物/(メタ)アクリル酸エステル/マレイミド化合物
(5)芳香族ビニル化合物/マレイミド化合物
(6)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/マレイミド化合物
【0025】
ゴム強化共重合樹脂(A1)は、例えば、乳化重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及びこれらを組み合わせた重合法により製造することができる。これらのうち、乳化重合及び溶液重合が好ましい。
【0026】
ゴム強化共重合樹脂(A1)を乳化重合により製造する場合、通常、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤等が用いられる。
重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
また、重合開始助剤として、各種還元剤、含糖ピロリン酸鉄処方、スルホキシレート処方等のレドックス系を用いることもできる。
【0027】
連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類等が挙げられる。
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、ラウリル酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、パルミチン酸カリウム等の高級脂肪酸塩、ロジン酸カリウム等のロジン酸塩等が挙げられる。
【0028】
ゴム強化共重合樹脂(A1)を乳化重合により製造する場合、ゴム質重合体(a)及びビニル系単量体(b)の使用方法としては、ゴム質重合体(a)全量の存在下に、ビニル系単量体(b)を全量一括添加して重合してもよく、分割添加もしくは連続添加して重合してもよい。また、ゴム質重合体(a)の一部を重合途中で添加してもよい。
ゴム強化共重合樹脂(A1)を100質量部製造する場合、ゴム質重合体(a)の使用量は、好ましくは3〜85質量部、より好ましくは5〜75質量部、更に好ましくは5〜65質量部である。重合温度は、好ましくは50〜99℃である。
【0029】
乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により樹脂成分を凝固させ、更に、水洗、乾燥することにより、精製されたゴム強化共重合樹脂(A1)が得られる。凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の無機塩;硫酸、塩酸等の無機酸;酢酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸等を用いることができる。尚、2種以上のラテックスを製造した場合には、凝固を、別々に行ってもよいし、ラテックスを混合してから行ってもよい。
【0030】
ゴム強化共重合樹脂(A1)を溶液重合により製造する場合、通常、公知のラジカル重合用不活性重合溶媒中で重合される。その溶媒としては、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
重合温度は、好ましくは80〜140℃、更に好ましくは85〜120℃の範囲である。
【0031】
溶液重合の際には、重合開始剤を用いてもよいし、重合開始剤を使用せずに、熱重合で重合してもよい。重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物等が好ましく用いられる。
連鎖移動剤を用いる場合、メルカプタン類;ターピノーレン類;α−メチルスチレンダイマー等を用いることができる。
また、ゴム強化共重合樹脂(A1)を塊状重合又は懸濁重合で製造する場合、公知の方法を適用でき、溶液重合において例示した重合開始剤、連鎖移動剤等を用いることができる。
【0032】
上記各方法により得られたゴム強化共重合樹脂(A1)中に残存する未反応のビニル系単量体(b)の含有量は、好ましくは10,000ppm以下、更に好ましくは5,000ppm以下である。
【0033】
上記のようにして製造されたゴム強化共重合樹脂(A1)は、通常、ビニル系単量体(b)がゴム質重合体(a)にグラフト(共)重合してなる共重合樹脂(グラフト化ゴム質重合体)と、ゴム質重合体(a)にグラフトしていない未グラフト成分(ビニル系単量体(b)の(共)重合体)とを含む。グラフト化ゴム質重合体の数平均粒子径は、好ましくは500〜50,000Å、より好ましくは1,000〜20,000Å、更に好ましくは、1,000〜8,000Åの範囲にある。尚、数平均粒子径は、電子顕微鏡を用いる等、公知の方法で測定することができる。
【0034】
ゴム強化共重合樹脂(A1)のグラフト率は、好ましくは5〜200質量%、より好ましくは10〜150質量%、更に好ましくは10〜100質量%である。このグラフト率が上記範囲にあると、得られる樹脂製部材の耐衝撃性に優れる。
尚、グラフト率は、以下に示す方法により求めることができる。
ゴム強化共重合樹脂(A1)1グラム中のゴム質重合体(a)の質量をSグラム、ゴム強化共重合樹脂(A1)1グラムをアセトン(但し、ゴム質重合体(a)にアクリルゴムを用いた場合はアセトニトリルを用いる。)20mlに溶解(振とう機により2時間振とう)させ、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離した際の不溶分の質量をTグラムとしたとき、グラフト率を下記式(2)により求めることができる。
グラフト率={(T−S)/S}×100 (2)
【0035】
ゴム強化共重合樹脂(A1)のアセトン可溶分の極限粘度[η](溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、好ましくは0.15〜1.0dl/g、より好ましくは0.2〜0.8dl/gである。この極限粘度[η]が上記範囲にあると、成形加工性と、得られる樹脂製部材の機械的強度との物性バランスに優れる。
【0036】
尚、グラフト率及び極限粘度[η]は、ゴム強化共重合樹脂(A1)を製造する際の、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶媒等の種類や使用量、更には、重合時間、重合温度等を変化させることにより、容易に制御することができる。
【0037】
次に、(共)重合体(A2)は、ビニル系単量体の(共)重合体である。
この(共)重合体(A2)の形成に用いられるビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、酸無水物、官能基(ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基等)を有するビニル系化合物等が挙げられる。いずれも、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)の形成に用いるビニル系単量体(b)の説明において例示した化合物を用いることができる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
本発明に係るビニル系単量体は、芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物及びマレイミド系化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体化合物とを含むことが好ましい。
尚、各化合物の使用量は、特に限定されないが、上記ビニル系単量体(b)と同様とすることができる。
従って、上記(共)重合体(A2)は、上記のゴム強化共重合樹脂(A1)の形成に用いたビニル系単量体(b)と全く同じ種類の化合物を用いて得られた(共)重合体であってよいし、異なる種類の化合物を用いて得られた(共)重合体であってもよい。
【0039】
(共)重合体(A2)としては、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・アクリロニトリル・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・フェニルマレイミド共重合体、アクリロニトリル・α−メチルスチレン共重合体、スチレン・α−メチルスチレン・アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
尚、(共)重合体(A2)は、公知の重合法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合により製造することができる。
【0040】
(共)重合体(A2)のアセトン可溶分の極限粘度[η](溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、好ましくは0.15〜1.2dl/g、より好ましくは0.2〜1.0dl/g、更に好ましくは0.2〜0.8dl/gである。この極限粘度[η]が上記範囲にあると、成形加工性と、得られる樹脂製部材の機械的強度との物性バランスに優れる。
尚、この極限粘度[η]は、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)の場合と同様、各種の製造条件を変化させることにより制御することができる。
【0041】
上記成分[A]としては、得られる樹脂製部材の耐衝撃性が安定して発揮されることから、ゴム強化共重合樹脂(A1)及び(共)重合体(A2)の混合物を用いることが好ましい。
上記成分[A]に含有されるゴム質重合体(a)の含有割合は、好ましくは3〜50質量%、より好ましくは5〜45質量%、更に好ましくは5〜40質量%である。
【0042】
本発明の射出成形用樹脂組成物において、成分[A]の含有量は、成分[A]及び[B]の合計を100質量%とした場合、3〜97質量%であり、好ましくは15〜85質量%、更に好ましくは20〜80質量%である。この範囲にあれば、本組成物の金属製部材に対する接着性に優れ、バリ発生の不良現象が抑制される。尚、この含有量が3質量%未満では、バリが発生する傾向にあり、一方、97質量%を超えると、樹脂製部材と金属製部材との接着強度が低下する傾向にある。
【0043】
本発明に係る成分[B]は、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合及びアミド結合から選ばれる少なくとも1種の結合を含む熱可塑性結晶質重合体である。即ち、極性を有する重合体である。この熱可塑性結晶質重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
エーテル結合を含む結晶質重合体としては、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、セルロース等が挙げられる。
チオエーテル結合を含む結晶質重合体としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリチオエーテルスルホン等が挙げられる。
エステル結合を含む結晶質重合体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサン−1,4−ジメチルテレフタレート、ポリネオペンチルテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート等のポリエステル;液晶ポリエステル等が挙げられる。
アミド結合を含む結晶質重合体としては、ナイロン4、6、7、8、11、12、6.6、6.9、6.10、6.11、6.12、6T、6/6.6、6/12、6/6T、6T/6I等のポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0045】
上記成分[B]としては、エステル結合を含む結晶質重合体が好ましく、特に、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
尚、上記成分[B]としては、射出成形用に市販されている熱可塑性樹脂を好適に用いることができる。
【0046】
本発明の射出成形用樹脂組成物において、成分[B]の含有量は、成分[A]及び[B]の合計を100質量%とした場合、97〜3質量%であり、好ましくは85〜15質量%、更に好ましくは80〜20質量%である。
【0047】
本発明の射出成形用樹脂組成物は、上記の成分[A]及び[B]の混和性等を向上させるために、相溶化剤を含有してもよい。
相溶化剤は、成分[A]及び[B]の種類及び組み合わせにより、適宜、選択される。例えば、成分[B]がポリブチレンテレフタレートである場合には、下記の重合体等を用いることができ、エポキシ基等の官能基を有するビニル系化合物(上記ゴム強化共重合樹脂(A1)の形成に用いることができる官能基含有ビニル系化合物)を含む単量体を重合して得られた(共)重合体が好ましく用いられる。
(1)エチレン・酢酸ビニル共重合体
(2)エチレン・メタクリル酸グリシジル共重合体
(3)エチレン・メタクリル酸グリシジル・酢酸ビニル共重合体
(4)エチレン・メタクリル酸グリシジル・アクリル酸メチル共重合体
【0048】
上記相溶化剤を用いる場合の含有量は、上記の成分[A]及び[B]の合計を100質量部とした場合、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜15質量部である。
【0049】
本発明の射出成形用樹脂組成物は、目的、用途に応じて、更に、充填剤、難燃剤、帯電防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、耐候(光)剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、摺動剤、着色剤、発泡剤、抗菌剤、結晶核剤等の添加剤を含有してもよい。
【0050】
本発明の射出成形用樹脂組成物は、充填剤を含有することが好ましい。この充填剤を含有することにより、形成される樹脂製部材の線膨張係数と、金属製部材の線膨張係数との差を小さくすることができ、一体化した構造物(複合体)の耐久性を高めることができる。
【0051】
充填剤としては、金属、合金、無機化合物、有機化合物、高分子化合物、無機・有機複合物等からなるものを、繊維状(ウィスカーを含む)、粉末状、塊状、中空状、板状等として、目的、用途等に応じて用いることができる。この充填剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記のうち、繊維状の充填剤が好ましい。
【0052】
繊維状の充填剤としては、ガラス繊維;炭素繊維;カーボンナノチューブ;上記の金属からなる金属繊維;アルミナ繊維、チタン酸カルシウム繊維、窒化ケイ素繊維等のセラミックス繊維;アラミド繊維、フェノール樹脂繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維等が挙げられる。これらのうち、ガラス繊維が好ましい。
また、粉末状等の充填剤としては、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、極微細活性化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、シリカ、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミナ、硫酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、カオリン、カオリンクレー、焼成クレー、パイロフライトクレー、シラン処理クレー、セリサイト、タルク、微粉タルク、ウォラスナイト、ゼオライト、ゾーノトナイト、アスベスト、マイカ、胡粉、セピオライト、エレスタダイト、ハイドロタルサイト、硫酸バリウム、二硫化モリブデン、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、二酸化チタン、錫コート酸化チタン、錫コートシリカ、ガラスバルン、シリカバルン、フライアシュバルン、シラスバルン、カーボン系バルン、ガラスビーズ等が挙げられる。
【0053】
尚、上記充填剤は、公知のカップリング剤、表面処理剤、集束剤等で処理したものを用いることもできる。このカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。
【0054】
上記充填剤の配合量は、上記の成分[A]及び[B]の合計を100質量部とした場合、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは3〜45質量部である。この範囲にあれば、形成される樹脂製部材に十分な強度を付与することができ、形成直後の収縮を抑制することができる。
【0055】
難燃剤としては、有機系難燃剤、無機系難燃剤、反応系難燃剤等が挙げられる。
有機系難燃剤としては、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂、ブロム化ポリスチレン樹脂、ブロム化架橋ポリスチレン樹脂、ブロム化ビスフェノールシアヌレート樹脂、ブロム化ポリフェニレンエーテル、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA及びそのオリゴマー、ブロム化アルキルトリアジン化合物等のハロゲン系難燃剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トキヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル及びこれらを各種置換基で変性した化合物、各種の縮合型のリン酸エステル化合物、リン元素と窒素元素を含むホスファゼン誘導体等のリン系難燃剤;ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ジルコニウム系、モリブデン系、スズ酸亜鉛、グアニジン塩、シリコーン系、ホスファゼン系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
反応系難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA、ジブロモフェノールグリシジルエーテル、臭素化芳香族トリアジン、トリブロモフェノール、テトラブロモフタレート、テトラクロロ無水フタル酸、ジブロモネオペンチルグリコール、ポリ(ペンタブロモベンジルポリアクリレート)、クロレンド酸(ヘット酸)、無水クロレンド酸(無水ヘット酸)、臭素化フェノールグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記難燃剤の配合量は、上記の成分[A]及び[B]の合計を100質量部とした場合、通常、2〜30質量部、好ましくは5〜25質量部である。
【0057】
尚、上記難燃剤を配合する場合には、難燃助剤を併用することが好ましい。難燃助剤としては、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酒石酸アンチモン等のアンチモン化合物や、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、水和アルミナ、酸化ジルコニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化スズ等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
本発明の射出成形用樹脂組成物は、上記の成分[A]、[B]、相溶化剤、添加剤等を各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、連続ニーダー、ロール等に投入し、加熱下で溶融混練することにより得ることができる。各成分は、一括投入してから混練してよいし、分割して投入してもよい。
【0059】
本発明の射出成形用樹脂組成物を、金型内部に配置された金属製部材に射出し、金属製部材の表面に熱融着させ、樹脂製部材が形成・接合された複合体を製造することができる。
上記金属製部材は、金属又は合金(以下、併せて「金属」という。)からなるものであり、例えば、アルミニウム及びそれを含む合金、銅(無酸素銅等)及びそれを含む合金(黄銅、青銅、アルミ黄銅等)、ニッケル、クロム、チタン、鉄、コバルト、スズ、亜鉛、パラジウム、ステンレス、マグネシウム、マンガン等が挙げられる。これらのうち、アルミニウム、及びアルミニウムを含む合金が好ましい。これらを用いると、金属製部材と、樹脂製部材との接着強度が一段と優れる。
上記金属製部材の形状は、平板状、曲板状、棒状、筒状、塊状等とすることができ、これらの組み合わせからなる構造体(貫通穴を有してもよい)であってもよい。
【0060】
上記金属製部材は、樹脂製部材との接着強度を高めるために、その表面に前処理を施したものを用いることができる。前処理としては、化学的処理、物理的処理等が挙げられる。これらを組み合わせてもよい。また、これらのうち、化学的処理が好ましい。
【0061】
化学的処理としては、トリアジン系化合物を用いる処理、トリアゾール系化合物を用いる処理、脱脂処理等が挙げられる。
上記トリアジン系化合物としては、下記式(I)〜(XI)で表される化合物等を用いることができる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

これらのうち、式(I)〜(VIII)で表されるトリアジンチオール系化合物が好ましい。
【0062】
トリアジンチオール系化合物を用いた化学的処理としては、例えば、特開平2−298284号公報等に開示されている。この方法は、トリアジンチオール系化合物の溶液を電着溶液として用い、金属製部材を陽極に、白金、チタン又はカーボンからなる板等を陰極として通電する電気化学的表面処理であり、該化合物の皮膜形成を行うものである。電圧及び電流を調整することにより、所定の厚さの皮膜を形成することができる。
【0063】
また、物理的処理としては、ブラスト処理等が挙げられる。このブラスト処理は、金属製部材の表面に対し、金属粉、砂、ガラス粉等を吹き付けて表面を処理するものであり、ウェット型、ドライ型等、金属製部材の構成材料により選択することができる。
【0064】
複合体を製造する際には、公知の射出成形機を用いることができる。金型としては、例えば、図2に示すものが好適である。
【0065】
図2の金型は、互いに嵌合可能な、内面に金属製部材11を配置する凹部を有する可動側型板21と、組成物を注入(射出)して樹脂製部材とするためのキャビティ221及び222を有する固定側型板22a及び22bとを一体化させてなるものである。(図2は、熱融着される金属製部材11を配置した概略図である。)
【0066】
従って、図2の金型を用いた場合について説明すると、この金型を備える射出成形機を用い、予め、所定の温度、例えば、50〜100℃に加熱された金型に、図2の右方より、溶融した組成物をキャビティ221及び222に射出・充填し、その後、金型を冷却することにより、樹脂製部材12a及び12bが金属製部材11の表面の所定の位置に形成・接合された複合体1が製造される(図3参照)。
【0067】
上記のようにして得られる複合体は、被接着体(金属製部材)と成形体(樹脂製部材)との接着性に優れるため、接着強度(後述の実施例に示した試験法に準ずる)を1,000N以上、好ましくは1,200〜1,500Nとすることができる。また、金属製部材と、樹脂製部材との接合周辺部におけるバリの発生が抑制されるため、ビス、ピン、ツメ、リブ、ボス等所定形状の樹脂製部材を、より少ない工程で効率よく形成することができる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、実施例中において部及び%は、特に断らない限り質量基準である。
【0069】
1.射出成形用樹脂組成物の原料成分
組成物の調製に用いる原料成分を以下に示す。
1−1.ゴム強化樹脂
下記のゴム強化共重合樹脂A1と、共重合体A2とを、1:1の質量比で混合し、ゴム強化樹脂として用いた。
(1)ゴム強化共重合樹脂A1
以下の方法で得られた樹脂を用いた。
撹拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、窒素気流中、イオン交換水75部、ロジン酸カリウム0.5部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエンラテックス(数平均粒子径;3,500Å、ゲル含率;85%、固形分濃度;40%)40部(固形分)、スチレン15部及びアクリロニトリル5部を投入し、撹拌しながら昇温した。内温が45℃に達した時点で、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部及びブドウ糖0.2部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加え、更に攪拌した。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始した。
1時間重合させた後、更にイオン交換水50部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン30部、アクリロニトリル10部、tert−ドデシルメルカプタン0.05部及びクメンハイドロパーオキサイド0.01部を3時間かけて連続的に添加した。
1時間重合を継続した後、2、2’−メチレンービス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加し重合を完結させた。反応生成物であるラテックスから、樹脂成分を硫酸水溶液により凝固、水洗した後、乾燥してゴム強化共重合樹脂A1を得た。このA1のグラフト率は68%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は、0.45dl/gであった。
【0070】
(2)アクリロニトリル・スチレン共重合体A2
以下の方法で得られた共重合体を用いた。
内容積30リットルのリボン翼を備えたジャケット付き重合反応容器を2基連結し、窒素置換した後、1基目の反応容器にスチレン75部、アクリロニトリル25部及びトルエン20部を連続的に添加した。その後、分子量調節剤としてtert−ドデシルメルカプタン0.06部及びトルエン5部の溶液、並びに、重合開始剤として、1、1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)0.1部及びトルエン5部の溶液を連続的に供給し、1基目の反応容器における重合温度を110℃にコントロールし、平均滞留時間2.0時間として重合を行った。重合転化率は57%であった。
次いで、得られた重合体溶液は、1基目の反応容器の外部に設けたポンプにより、スチレン、アクリロニトリル、トルエン、分子量調節剤、及び重合開始剤の供給量と同量を連続的に取り出し2基目の反応容器に供給した。2基目の反応容器の重合温度は、130℃で行い、重合転化率は75%であった。2基目の反応容器で得られた共重合体溶液は、2軸3段ベント付き押出機を用いて、直接未反応単量体と溶剤を脱揮し、極限粘度[η]が0.62dl/gのアクリロニトリル・スチレン共重合体A2を得た。
【0071】
1−2.熱可塑性結晶質重合体
(I)ポリブチレンテレフタレート
ポリプラスチックス社製「ジュラネックス2002」(商品名)を用いた。
(II)ポリプロピレン
プライムポリマー社製「プライムポリプロJ108M」(商品名)を用いた。
【0072】
1−3.充填剤
ガラス繊維として、旭ファイバーグラス社製「CS03MA51A」(商品名)を用いた。このガラス繊維は、アミノシラン系カップリング剤、エポキシ系収束剤(AS)により処理されたものである。外径13μm、3mmチョッパー。
1−4.難燃剤
大日本インキ化学社製エポキシ系臭素化難燃剤「プラザームEC−20」(商品名)を用いた。
【0073】
2.射出成形用樹脂組成物の製造及び評価
実施例1〜4及び比較例1〜3
上記の原料成分を、表1の配合割合でヘンシェルミキサーにより混合した。その後、二軸押出機を用いて溶融混練(シリンダー設定温度220℃)し、ペレット化された射出成形用樹脂組成物を得た。
【0074】
上記で得た射出成形用樹脂組成物を、図2に示す金型に代えて、図1に示す評価用試験片が成形可能な金型及びスクリュー(内径19mm)を備える電動式竪型射出成形機(型式「TH−20RE」、日精樹脂工業社製)により、幅1.2cm、長さ5cm及び厚さ0.2cmのJIS規格アルミニウム板11(A1050)が配置されたキャビティ空間に注入し、射出成形機における保圧を30kg/cmとした場合、及び50kg/cmとした場合の両方について、アルミニウム板11の表面の端部に板状成形体12(幅1.2cm、長さ5cm及び厚さ0.2cm)を形成・接合し、評価用試験片(複合体)を作製した(図1参照)。接着面積は、幅1.2cm及び長さ1.07cmである。成形条件を表1に示した。
尚、上記アルミニウム板は、予め、特開平2−298284号に記載された方法で前処理を行い、表面にトリアジンチオール系化合物を含む皮膜を形成させたものを、金型内に配置後1分間予熱してから用いた。
【0075】
得られた評価用試験片(複合体)について、島津製作所社製精密万能試験機「オートグラフAG5000E」(商品名)を用いて、引張速度50cm/分で接着強度を測定し、下記評価基準で接着安定性を評価した。更に、アルミニウム板の表面で、接合された板状成形体の周辺部におけるバリの発生の有無を目視観察した。これらの結果を表1に併記した。
○ ; 破壊モードがすべて材料破壊であり、接着強度のばらつきが±50kg以内である。
△ ; 破壊モードがすべて材料破壊であるが、接着強度のばらつきが±50kg以上である。
× ; 破壊モードが材料破壊及び界面破壊の両方である。
【0076】
【表1】

【0077】
3.実施例の効果
表1より、以下のことが明らかである。
実施例1〜4は、本発明の溶着成形用樹脂組成物の例であり、接着強度及び接着安定性に優れ、バリ発生の不良現象が改良されている。
比較例1は、ゴム強化樹脂〔A〕の含有量が、本発明の範囲外で少ない例であり、バリ発生が防止できなかった。比較例2は、熱可塑性結晶質重合体〔B〕の含有量が本発明の範囲外で少ない例であり、接着強度及び接着安定性に劣る。また、比較例3は、本発明の範囲外の熱可塑性結晶質重合体を用いた例であり、接着強度及び接着安定性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の射出成形用樹脂組成物は、産業用制御機器、家庭用電化製品、携帯電話、携帯型電子情報端末等の通信機器、医療機器、車両用電子機器等の、構造用部品、外装用部品等、各種形状の金属製部材の表面又は内面に形成されるビス、ピン、ツメ、リブ、ボス等の樹脂製部材を備える複合体に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例にて作製した評価用試験片(複合体)を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の射出成形用樹脂組成物を用いて複合体を製造する際に用いる金型の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の射出成形用樹脂組成物を用いて形成された複合体を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1;複合体、11;アルミニウム板(金属製部材)、12;板状成形体(樹脂製部材)、12a及び12b;ピン(樹脂製部材)、21;可動側型板、22a及び22b;固定側型板、221及び222;キャビティ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内部に配置された金属製部材の表面に射出成形される樹脂組成物において、
[A]ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物及びマレイミド系化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体化合物とを含むビニル系単量体(b)を重合して得られたゴム強化共重合樹脂(A1)、又は、該ゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体の(共)重合体(A2)の混合物からなるゴム強化樹脂3〜97質量%と、[B]エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合及びアミド結合から選ばれる少なくとも1種の結合を含む熱可塑性結晶質重合体97〜3質量%と(但し、[A]+[B]=100質量%である。)を含有することを特徴とする射出成形用樹脂組成物。
【請求項2】
更に、充填剤を含み、該充填剤の含有量が、上記ゴム強化樹脂[A]及び上記熱可塑性結晶質重合体[B]の合計を100質量部とした場合に、1〜50質量部である請求項1に記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項3】
上記金属製部材の表面の少なくとも一部が、トリアジン系化合物を用いて処理されたものである請求項1又は2に記載の射出成形用樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−63381(P2007−63381A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250317(P2005−250317)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】