説明

導電性エポキシ樹脂組成物及び燃料電池用セパレータ

【課題】 高導電性を有し、生産性に優れる射出成形やトランスファー成形に容易に適用できる導電性エポキシ樹脂組成物、並びに高強度及び高導電性の燃料電池用セパレータを提供する。
【解決手段】 エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤と、膨張黒鉛を含む炭素材料とを含み、かつ、前記硬化促進剤としてホスフィン系硬化促進剤、ホスホニウム系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤及びイミダゾール系硬化促進剤から選ばれる少なくとも1種を前記硬化剤100重量部に対して0.01〜10重量部の割合で含有する導電性エポキシ樹脂組成物、並びに前記導電性エポキシ樹脂組成物を射出成形またはトランスファー成形してなる燃料電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有するエポキシ樹脂組成物に関する。本発明はまた、前記導電性エポキシ樹脂組成物を成形してなる燃料電池用セパレータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば図1に概略斜視図で示すように、燃料電池用セパレータ10は、平板部11の両面に所定間隔で複数の隔壁12を立設して形成されている。燃料電池とするには、多数の燃料電池用セパレータ10を、隔壁12の突出方向(図中、上下方向)に積層する。そして、この積層により、隣接する一対の隔壁12で形成されるチャネル13に反応ガス(水素や酸素)を流通させる構成となっている。燃料電池用セパレータは、樹脂材料と、黒鉛等の導電性材料を含む樹脂組成物を上述したような形状に成形して製造される。
【0003】
燃料電池用セパレータの成形方法としては、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、硬化剤や硬化促進剤、炭素材料等を含む混合物を金型に充填し、熱間でプレスする熱圧縮成形により成形するのが一般的である。しかし、この熱圧縮成形は生産性が低いことから、射出成形により燃料電池用セパレータを製造することも試みられている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
射出成形では、上記組成の樹脂組成物からなるコンパウンドをシリンダーから金型内に射出するが、このとき、コンパウンドはランナーと呼ばれる狭い流路を通じて金型のキャビティに移送され、しかも、金型は閉じた状態であり、金型の隅々まで充填させるために、コンパウンドには高い流動性が必要となる。しかし、炭素材料として人造黒鉛や天然黒鉛を用いた場合、燃料電池用セパレータとして必要な導電性を確保するためには、多量添加する必要があり、相対的に樹脂量が少なくなることから樹脂組成物は粘度が高く、流動性が低いものとなる。
【0005】
炭素材料として、導電性に優れる膨張黒鉛を用い、その使用量を低減して樹脂組成物の流動性を高めることも考えられるが、膨張黒鉛は薄い燐片状であるため、樹脂材料との混練中に破砕されやすいという問題がある。これは、樹脂組成物は通常、樹脂材料、硬化剤、硬化促進剤、炭素材料等を溶融混練して得られるが、溶融混練の際に硬化剤の硬化が進行して増粘し、大きなせん断力が作用して膨張黒鉛を破砕するためである。また、溶融混練に代えて、ドライミックスにより樹脂組成物を調製することも行なわれているが(例えば、特許文献4参照)、ほとんど流動しないほど粘度が高くなり、射出成形は実質的に不可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2003−338294号公報
【特許文献2】特開2003−297386号公報
【特許文献3】特開2003−242994号公報
【特許文献4】特開2003−257447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、高導電性を有し、生産性に優れる射出成形やトランスファー成形に容易に適用できる導電性エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。また、このような導電性エポキシ樹脂組成物を成形してなり、高強度で、高導電性の燃料電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は以下を提供する。
(1)エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤と、膨張黒鉛を含む炭素材料とを含み、かつ、前記硬化促進剤としてホスフィン系硬化促進剤、ホスホニウム系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤及びイミダゾール系硬化促進剤から選ばれる少なくとも1種を前記硬化剤100重量部に対して0.01〜10重量部の割合で含有することを特徴とする導電性エポキシ樹脂組成物。
(2)硬化促進剤が、トリフェニルホスフィンまたは2−メチルイミダゾールであることを特徴とする上記(1)記載の導電性エポキシ樹脂組成物。
(3)硬化剤が分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の導電性エポキシ樹脂組成物。
(4)エポキシ樹脂が多官能エポキシ樹脂であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の導電性エポキシ樹脂組成物。
(5)炭素材料の5〜100質量%が膨張黒鉛であり、残部が人造黒鉛、天然燐状黒鉛、土壌黒鉛、カーボンブラック及びカーボンファイバーの少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の導電性エポキシ樹脂組成物。
(6)炭素材料が組成物全量の35〜85質量%を占めることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の導電性エポキシ樹脂組成物
(7)エポキシ樹脂、硬化剤、膨張黒鉛を含む炭素材料をそれぞれ所定量と、ホスフィン系硬化促進剤、ホスホニウム系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤及びイミダゾール系硬化促進剤から選ばれる少なくとも1種を前記硬化剤100重量部に対して0.01〜10重量部となる量にて配合し、前記エポキシ樹脂または前記硬化剤の軟化温度以上の温度にて溶融混合することを特徴とする導電性エポキシ樹脂組成物の製造方法。
(8)上記(1)〜(6)の何れか1項に記載の導電性エポキシ樹脂組成物からなることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
(9)上記(1)〜(6)の何れか1項に記載の導電性エポキシ樹脂組成物を射出成形することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性エポキシ樹脂組成物は、膨張黒鉛は少ない使用量で十分な導電性を確保できるため、相対的に樹脂量を多くすることができ、流動性に優れたものとなる。また、特定の硬化促進剤により製造時の膨張黒鉛の破壊が抑えられ、膨張黒鉛による優れた導電性を維持できる。
【0010】
そのため、本発明の導電性エポキシ樹脂組成物を用いることにより、生産性が高い射出成形やトランスファー成形が可能になり、高強度で導電性に優れる成形体並びに燃料電池用セパレータを効率良く得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0012】
本発明の導電性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、膨張黒鉛を含む炭素材料と、特定の硬化促進剤とを必須成分として含有する。
【0013】
エポキシ樹脂は、エポキシ基を2個以上有する化合物であり、従来公知のものを利用することが出来る。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂等のビスフェノール型のエポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリス・ヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシンエポサイド、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、耐熱性と強度の高い成形体が得られるため、多官能型エポキシ樹脂が本発明においては好適に使用される。尚、エポキシ当量は好ましくは50以上500以下であり、更に好ましくは100以上300以下である。エポキシ当量が低すぎる場合は、成形体が脆くなる。一方、エポキシ当量が高すぎる場合は耐熱性と強度の低い成形体しか得られなくなる。
【0014】
エポキシ樹脂は、硬化剤と反応することによって、エポキシ硬化物を生成する。硬化剤も各種公知の化合物を使用することができる。例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、m-キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の脂肪族、脂環式、芳香族のポリアミンまたはその炭酸塩;無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ドデシル無水コハク酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、ポリアゼライン酸無水物等の酸無水物;フェノールノボラック、クレゾールノボラックのようなポリフェノール;ポリメルカプタン等が挙げられるが、これらに限定されない。複数の硬化剤を併用することもできる。
【0015】
上記の硬化剤の中で、ポリアミンやその炭酸塩、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン等の硬化剤は、自身がエポキシ化合物と重付加反応してエポキシ硬化物を構成するので、重付加型硬化剤と呼ばれる。重付加型硬化剤の過不足は未反応官能基の残存につながる故、添加量には適正域が存在する。一般に、エポキシ樹脂のエポキシ基1個当たり0.7〜1.2当量の、特に0.8〜1.1当量の重付加型硬化剤を使用するのが好ましい。これら硬化剤の種類、量とエポキシ樹脂の種類、量を種々に選択することにより、エポキシ樹脂の硬化速度を任意に変化させることができる。当業者であれば、所望の硬化条件に合わせ、エポキシ樹脂や硬化剤の種類及び使用量を決定することは容易であろう。
【0016】
本発明では、硬化剤としてフェノール性水酸基を2個以上有する化合物が好ましい。このような化合物としては、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、アラルキル型フェノールノボラック、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ナフトールノボラック、フェノールジシクロペンタジエン樹脂のようなポリフェノールやビスフェノールAが挙げられる。これらフェノール性水酸基を2個以上有する硬化剤は、耐熱性の高い成形体を得ることが出来る。
【0017】
本発明では、ホスフィン系硬化促進剤、ホスホニウム系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤及びイミダゾール系硬化促進剤から選ばれる少なくとも1種を使用する。好ましい具体例を挙げると、トリフェニルホスフィン、トリ−n−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p−tert−ブトキシフェニル)ホスフィン、トリ−2,4−キリルホスフィン、トリ−2.5−キリルホスフィン、トリ−3,5−キリルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィン、テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、メチル(トリフェニル)ホスホニウムブロマイド、メチル(トリフェニル)ホスホニウムクロライド、エチル(トリフェニル)ホスホニウムブロマイド、n−プロピルトリフェニルホスホニウムブロマイド、n−ブチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、2−カルボキシルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、ベンジルフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフルオロボレート、p-トリルトリフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート等のリン化合物;トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等のアミン化合物;2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール等のイミダゾール化合物; 1,8−ジアザビシクロ (5,4,0)ウンデセン−7(略称はDBU)または1,5−ジアザビシクロ (4,3,0)−ノネン−5(略称はDBN)及び6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ (5,4,0)ウンデセン−7等のジアザビシクロ化合物またはそれらと有機酸の塩等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。このうち、本発明では2−メチルイミダゾールとトリフェニルホスフィンが硬化促進作用が適度であり、かつ安価で、入手も容易であるために好ましい硬化促進剤である。
【0018】
本発明は、上記の特定の硬化促進剤を用いるとともに、その使用量を極力少なくすることを特徴とする。硬化促進剤の使用量が多すぎる場合は、短時間で硬化が可能となり、成形サイクルが短縮されて好ましいが、後述する理由により導電性が悪化する。但し、硬化促進剤の使用量が少なすぎる場合は、導電性は向上するが成形サイクルが長くなるといった問題がある。そこで、本発明では、硬化促進剤の使用量を硬化剤100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜7重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部、よりさらに好ましくは1〜3重量部とする。硬化促進剤の使用量をこの範囲とすることで、導電性と成形サイクルのバランスに優れた導電性エポキシ樹脂組成物となる。
【0019】
炭素材料は、膨張黒鉛を必須成分として含む。通常の鱗片状黒鉛は、薄板状の結晶が積層されたものである。これに対して、膨張黒鉛とは、鱗片状黒鉛を濃硫酸や硝酸や過酸化水素水等で処理し、薄板状結晶の隙間にこれら薬液をインターカレートさせ、更に加熱してインターカレートされた薬液が気化する際に薄板状結晶の隙間を広げることによって得られる黒鉛である。膨張黒鉛は、鱗片状黒鉛や球状黒鉛と比較して嵩密度が低く、表面積が大きく、粒子はより薄い薄板状となっているため、樹脂と混合した際に容易に導電パスを形成し、成形体の導電性が飛躍的に向上する。そのため、使用量を低減でき、相対的に樹脂量を増すことができるため、樹脂組成物の流動性を高めることができる。また、膨張黒鉛は薄板状となっているため、人造黒鉛や天然黒鉛と比較して柔軟であり、得られる成形体も柔軟なものとなる。
【0020】
炭素材料の全てを膨張黒鉛としてもよく、一部を膨張黒鉛とし、それ以外を他の炭素材料としても良い。他の炭素材料としては、例えば、鱗片状人造黒鉛、球状人造黒鉛、天然の鱗辺状黒鉛、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、ダイヤモンドライクカーボン、フラーレン、カーボンナノホーン等が挙げられるが、これらに限定されない。炭素材料に占める膨張黒鉛の割合は、好ましくは5〜100質量%、より好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは30〜70質量%、特に好ましくは40〜60質量%である。膨張黒鉛の比率が低い場合は、接触抵抗が高くなる。また、膨張黒鉛は嵩密度が低いため、膨張黒鉛の比率が高い場合はコンパウンド作製の混練時の材料ハンドリング性が悪く、作業環境を汚す懸念がある。
【0021】
また、炭素材料は、樹脂組成物全量の35〜85質量%とする必要がある。炭素材料の比率が低すぎる場合は導電性が低下する。一方で、炭素材料の比率が高すぎる場合は強度が低くなり、また、コンパウンドの流動性が低くなるため、熱圧縮成形や射出成形の際に金型内に射出した再に金型内で成形材料の圧力分布が大きくなり、得られる成形体の寸法精度が悪くなるため問題である。
【0022】
本発明では、カルナバワックス等の滑剤を添加して、成形加工時に金型や混練機への貼りつきを防止することも可能である。滑剤としてはステアリン酸やモンタン酸ワックスやこれらの金属塩等の使用も可能である。また、導電性を低下させない範囲で、ガラス繊維、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム等の無機充填材や、木粉等の有機充填材、可塑剤を添加することも可能である。
【0023】
本発明の導電性エポキシ樹脂組成物は、溶融混合により得られる。エポキシ樹脂や硬化剤はある温度以上で軟化する。この軟化する温度は軟化点とよばれるが、本発明においては、エポキシ樹脂または硬化剤の何れかが軟化温度以上となるよう調整した装置で混合すればよい。エポキシ樹脂または硬化剤のいずれかが常温で液状である場合は、常温で混合してもよい。混合に使用する装置としては種々の慣用の装置を使用することが可能であり、例えば無圧ニーダー、加圧ニーダー、二軸押出機、単軸押出機、バンバリーミキサー、インターミックス、二本ロールミル、三本ロールミル等が挙げられるがこれらに限定されない。また、ドライミックスによって予備混合を行った材料を溶融混合してもよい。溶融混合の温度は、エポキシ樹脂や硬化剤の軟化温度以上であり、混合中に硬化反応が進行しがたい温度であればよく、上記に挙げたエポキシ樹脂や硬化剤では50〜120℃で好ましく、70〜100℃がより好ましく、80〜90℃が更に好ましい。また、混練時間は30秒〜5分が好ましく、1〜3分がより好ましい。
【0024】
また、導電性エポキシ樹脂組成物は、特に導電性及び流動性に優れたものとなるため、これを成形原料に用いることにより、機械的強度に優れかつ高い導電性を有する成形体を得ることができる。また、高流動性であることから、射出成形やトランスファー成形が可能であり、生産性にも優れる。
【0025】
本発明はまた、上記の導電性エポキシ樹脂組成物を成形してなる燃料電池用セパレータを提供する。成形方法としては、生産性に優れる射出成形が好ましい。射出成形では流動性の高い成形材料を使用する必要があるが、上述のように本発明の導電性エポキシ樹脂組成物は、炭素材料が高導電性の膨張黒鉛を含むためその含有量が少なくて済み、更に硬化促進剤を少量にしたためシリンダー温度での硬化反応の進行が抑えられ、射出成形が可能となる。以下に、射出成形条件の一例を示す。
【0026】
シリンダー温度は、ホッパ下からノズルに向かって段階的に高くなるように設定される。ホッパ下の設定温度は好ましくは30℃〜80℃、更に好ましくは40〜60℃である。ホッパ下の温度が高すぎる場合は、射出成形時にシリンダー内で導電性エポキシ樹脂組成物が逆流して金型のキャビティを充填できない場合がある。また、ホッパ下の温度が低すぎる場合は、スクリューでシリンダーの先端に移送された導電性エポキシ樹脂組成物が十分に溶融せず、流動性不足により金型のキャビティを充填できない場合がある。一方、ノズル部の温度は好ましくは50〜120℃、更に好ましくは70〜100℃である。ノズル部の温度が高すぎる場合は、シリンダー内でエポキシ樹脂が硬化してシリンダーから導電性エポキシ樹脂組成物を射出できなくなる場合がある。また、ノズル部の温度が低すぎる場合は、導電性エポキシ樹脂組成物が十分に溶融せず、流動性不足により金型のキャビティを充填できない場合がある。
【0027】
金型温度は好ましくは150〜200℃、より好ましくは160〜190℃である。金型温度が低すぎる場合は、導電性エポキシ樹脂組成物の流動性が不足して金型のキャビティを充填できない場合が発生したり、硬化に長時間要する。また、金型温度が高すぎる場合は、金型への射出開始から硬化による流動停止までの時間が短くなるため、金型のキャビティに導電性エポキシ樹脂組成物を充填できなくなる場合がある。
【0028】
射出圧力は10〜250MPa、硬化時間は20秒〜10分とすることができるが、シリンダー温度や金型温度と同様に、使用するエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤の各種類、燃料電池用セパレータの形状等により適宜条件を設定すればよい。必要に応じて、成形後に切削加工を施すことも可能である。
【0029】
また、圧縮成形も可能であり、金型温度は150℃〜220℃程度が適当である。導電性エポキシ樹脂組成物の流動性が高いことにより、金型の転写性が良好となるため、熱圧縮成形においても寸法精度に優れた燃料電池用セパレータを得ることができる。
【0030】
本発明の重要な点は、膨張黒鉛の使用とともに、特定の硬化促進剤を規定量使用し、これらを溶融混合することにある。特定の硬化促進剤を規定量用いても、膨張黒鉛の代わりに天然黒鉛や人造黒鉛等の一般的な黒鉛を用いた場合、溶融混合時やスクリュー内で硬化しない熱安定性に優れた導電性エポキシ樹脂組成物を得ることができるが、膨張黒鉛を用いたときと同様の導電性を得るためには、黒鉛を大量に添加する必要がある。そのため、導電性エポキシ樹脂組成物の流動性を向上させる樹脂量が減り、流動性を低下させる炭素材料の使用量が増し、導電性エポキシ樹脂組成物は流動性が低下して成形性が大幅に悪化する。また、膨張黒鉛を用いても、特定の効果促進剤を規定量よりも多く使用した場合は、硬化反応が進行しやすくなるために導電性エポキシ樹脂組成物の溶融混合時もしくは射出成形のスクリュー内で硬化反応が進行する。そのため、硬化反応進行に伴い、粘度が急激して溶融混合時もしくは射出成形のスクリュー内で膨張黒鉛が砕かれてしまい、成形体の強度も低下して導電性も大幅に低下する。また、ドライミックスした場合は、混練よる膨張黒鉛の破砕は無く、導電性に優れる導電性エポキシ樹脂組成物が得られるが、流動性が低く、熱圧縮成形でも金型内で十分に流動しないために、寸法精度が低い成形体しか得られないという問題が発生する。また、射出成形するためには粘度が高すぎ、金型に充填することが出来なくなる。
【0031】
これに対し、膨張黒鉛と、規定量の特定の硬化促進剤とを併用すると、これらの問題は解決される。特定の硬化促進剤を規定量使用した場合は、導電性エポキシ樹脂組成物が混練時や射出成形のシリンダー内で想定される100℃以下の低温では硬化反応が進行しがたく、コンパウンドに負荷される剪断力を抑えることが可能となる。剪断力が抑制されると膨張黒鉛の粉砕が最小限に抑えられる。また、鱗片状黒鉛や球状黒鉛と比較して嵩密度が低く,表面積が大きく、粒子はより薄い薄板状となっている膨張黒鉛が、樹脂と混合した際に容易に導電パスを形成し、かつ十分に成形材料が流動する適度な粉砕状態となる。
【0032】
即ち、特定の硬化促進剤を規定量より多く使用した場合は、膨張黒鉛が粉砕され導電パスが形成されにくいが、規定量使用することにより膨張黒鉛は粉砕されず、導電パスが形成されやすくなる。その結果、導電性エポキシ樹脂組成物中で樹脂量を増すことができるようになり、流動性が上昇して成形体の寸法精度が大幅に向上するとともに、生産性に優れる射出成形が可能になる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
(実施例1〜5及び比較例1〜5)
表1に示す配合に従い、材料合計500gを10Lのヘンシェルミキサーで予備混合した後、1Lの加圧ニーダーで、チャンバー温度100℃で5分間混練した。これを粉砕機で粒径約2mmの粒子状に粉砕して成形材料とし、射出成形を行った。また、比較例4では、ヘンシャルミキサーで予備混合、即ちドライミックスしたものをそのまま成形材料として用いた。尚、表1の配合の単位は質量%である。
【0034】
射出成形は、型締め力80tの熱硬化性樹脂用成形機(菱屋精工製)を用いて行い、シリンダー温度はホッパ下50℃、ノズルは90℃とし、金型温度は170℃とし、射出速度20mm/sec、硬化時間は60〜180秒とした。成形圧力は30〜70MPaの範囲で適宜設定した。そして、成形材料を1辺100mm、厚さ2mmの正方形薄板状の形状に射出成形した。
【0035】
各成形体に切断加工を施して試験体とし、下記に示す導電性の評価を行った。尚、成形体に膨れが生じた場合は、膨れの無い箇所を切り取って試験体とした。
【0036】
(導電性の評価)
図2に示す方法で貫通方向の抵抗を測定し、導電性の評価を行った。試験体から切り出した試料21を、カーボンペーパー22を介して電極23にセットし、電極間に流した電流(電流計24で測定)とカーボンペーパー間の電圧(電圧計25で測定)から、電気抵抗を計算し、これに試料面積を掛けて貫通方向の抵抗率とした。結果を表1に示す。
【0037】
(熱間曲げ強さの測定)
JIS K7171 プラスチック−曲げ特性の試験方法に準じて求めた。試験は恒温槽付きのインストロン型万能試験機を使用し、試験雰囲気を100℃で行った。試験結果を表1に示す
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、本発明に従い、膨張黒鉛を含む炭素材料、並びに2メチルイミダゾールまたはトリフェニルホスフィンを規定量以下の量を配合した各実施例の成形材料は、高強度で電気抵抗の低い成形体を得ることが出来た。これは、熱安定性が高く、混練温度やシリンダー温度で硬化反応進行に伴う増粘が起こりにくく、膨張黒鉛の混練工程や成形工程での破砕が防がれたためと思われる。また、流動性も高く、容易に射出成形を実施できた。
【0040】
これに対し、本発明の規定量よりも多量の硬化促進剤を使用している比較例1と比較例2の成形材料では、得られる成形体は各実施例の成形体よりも強度が低く、導電性も問題がある。また、硬化促進剤を使用していない比較例3の成形材料は、硬化時間180秒では硬化せず、脱型することが出来なかった。また、硬化時間を600秒まで伸ばしてもなお硬化せず、脱型出来ずに成形体を得ることが出来なかった。成形材料をドライミックスした比較例4は流動性が低く、射出成形機のシリンダーから射出することが出来ず、成形体を得ることが出来なかった。炭素材料として人造黒鉛を使用した比較例5の成形材料では、得られる成形体の電気抵抗が非常に高く問題である。
【0041】
以上の結果から、本発明により、導電性と寸法精度と強度に優れた燃料電池セパレータが得られることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】燃料電池用セパレータの一例を示す概略斜視図である。
【図2】実施例において貫通方向抵抗の測定方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0043】
10 燃料電池用セパレータ
11 平板部
12 隔壁
13 チャネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤と、膨張黒鉛を含む炭素材料とを含み、かつ、前記硬化促進剤としてホスフィン系硬化促進剤、ホスホニウム系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤及びイミダゾール系硬化促進剤から選ばれる少なくとも1種を前記硬化剤100重量部に対して0.01〜10重量部の割合で含有することを特徴とする導電性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
硬化促進剤が、トリフェニルホスフィンまたは2−メチルイミダゾールであることを特徴とする請求項1記載の導電性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
硬化剤が分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有することを特徴とする請求項1または2記載の導電性エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂が多官能エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の導電性エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
炭素材料の5〜100質量%が膨張黒鉛であり、残部が人造黒鉛、天然燐状黒鉛、土壌黒鉛、カーボンブラック及びカーボンファイバーの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の導電性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
炭素材料が組成物全量の35〜85質量%を占めることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の導電性エポキシ樹脂組成物
【請求項7】
エポキシ樹脂、硬化剤、膨張黒鉛を含む炭素材料をそれぞれ所定量と、ホスフィン系硬化促進剤、ホスホニウム系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤及びイミダゾール系硬化促進剤から選ばれる少なくとも1種を前記硬化剤100重量部に対して0.01〜10重量部となる量にて配合し、前記エポキシ樹脂または前記硬化剤の軟化温度以上の温度にて溶融混合することを特徴とする導電性エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載の導電性エポキシ樹脂組成物からなることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか1項に記載の導電性エポキシ樹脂組成物を射出成形することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−249338(P2006−249338A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69900(P2005−69900)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】