説明

導電性ペースト及びこれを用いた印刷回路、面状発熱体

【課題】 導電性、密着性、耐屈曲性に優れ、低比抵抗にもかかわらず優れたPTC特性を発揮する導電性ペーストを提供する。
【解決手段】
導電性微粒子(A)、有機樹脂(B)、樹脂微粒子(C)および(D)を含んだ導電性ペーストにおいて、有機樹脂(B)が数平均分子量3000以上かつガラス転移温度が−40℃〜30℃のポリエステル樹脂、変性ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂であることを特徴とする導電性ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ペーストに関するものであり、さらに詳しくは導電性ペーストをフィルムまたは基板上に塗布または印刷、硬化することにより回路を形成したり、面状発熱体を作成したりすることに関わるものである。さらに詳しくは、PTC(Positive Temperature Coefficient)を有する面状発熱体を作成することに関わる。
【背景技術】
【0002】
面状発熱体は、床暖房、自動車や浴室のミラーの曇り止め、ペットや観葉植物などの保温などに使用されている。この内、自己温度コントロール機能のあるPTC特性のある面状発熱体は、PTCのない発熱体と比較して、連続的な温度コントロールができ、サーミスターなどが不要であるため部品点数が減らせるなどの特長があり、上記の用途に広く使用されている。通常、このような面状発熱体は樹脂および導電性物質から構成されており、面状発熱体の温度上昇に伴い樹脂が体積膨張をおこし、導電性物質の導通を遮断することによりPTC特性が発現するといわれている。
従来、このようなPTC特性を有する面状発熱体は、オレフィン系の樹脂にカーボンブラック、グラファイト、金属粉等からなる導電性物質を混練したもの、樹脂および導電性物質を溶剤に分散または可溶させてなるもの等が提案されている(例えば特許文献1)。また、製法としては、前者は押し出し成形またはプレス成形による方法、後者はスクリーン印刷等の手段で基材に塗布する手法が用いられてきたが、面状発熱体の形状自由度の高さからペーストタイプが広く採用されている。
ペーストタイプでは、ベースポリマーとしてエチレン‐酢酸ビニル共重合体(EVA)等の高分子を用いるものが提案されている(例えば特許文献2)。これは、ベースポリマー内のエチレン部分がPTC特性を示し、酢酸ビニル部分の溶剤溶解性を示す特性が、面状発熱体用導電ペースト材料として適しているとされている。この場合、溶剤可溶性とPTC特性を両立させるためにはEVAの酢酸ビニル含有量を限定する必要があるが、近年、製品への安全性向上の要求が高まる中で、上記のように限定された配合では、PTC要求特性と溶剤可溶性の両方を満足させることができない。すなわち、溶解性向上のために酢酸ビニルの共重合比を増大すると、PTC特性が低下する。逆に、酢酸ビニルの共重合比を減少すると、PTC特性は良好になるが、溶剤溶解性が悪化する問題がある。
また、ガラス転移温度が50℃以下の樹脂を用いることでPTC特性を向上させた導電ペーストが提案されている(例えば特許文献3)。しかし、この場合、繰り返し電圧を印加すると、PTC特性が低下する傾向にあった。これは、面状発熱体の使用温度となる40℃〜70℃付近に長時間、ベース樹脂が曝されると、樹脂中に微小な流動部が部分的に発生し、導電性微粒子の分散構造が変化することが一因と考えられる。
さらに、樹脂および結晶性樹脂を組み合わせた導電性ペーストが提案されている(例えば特許文献4)。この場合、体積変化の大きい結晶性樹脂を配合することで、PTC特性を向上させることができるが、このような導電性ペーストを用いても、バインダー成分である樹脂の溶剤溶解性が不十分なため、低温貯蔵下においてペーストが増粘し、作業性に劣るといった問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開平1−304704号公報
【特許文献2】特開平10−183039号公報
【特許文献3】特開2000−86872号公報
【特許文献4】特開2001−76850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、これら従来の導電性樹脂組成物、導電性ペーストが抱えている問題点を改良するものである。すなわち、溶剤溶解性が良好であり、さらに繰り返し昇温を実施しても比抵抗およびPTC特性が良好な導電ペーストを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上のような問題を解決するために、鋭意検討した結果、導電性微粒子、有機樹脂、樹脂微粒子および溶剤を含んだ導電性ペーストにおいて、有機樹脂が数平均分子量3000以上かつガラス転移温度が−40℃〜30℃のポリエステル樹脂、変性ポリエステル樹脂および/またはポリウレタン樹脂であることを特徴とする導電性ペーストを使用することにより、驚くべきことに高温領域でのPTC特性および導電性が大幅に改良しうることを見出し本発明に到達した。さらには、繰り返し昇温を行っても比抵抗が元の値に戻るリターン特性およびPTC特性が良好なため、面状発熱体用として非常に有用である。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の導電性ペースト及びこれを用いた印刷回路、面状発熱体に関する。
【0007】
1)導電性微粒子(A)、有機樹脂(B)、樹脂微粒子(C)および溶剤(D)を含んだ導電性ペーストにおいて、有機樹脂(B)が数平均分子量3000以上かつガラス転移温度が−40℃〜30℃であり、かつポリエステル樹脂、変性ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種以上を含むことを特徴とする導電性ペースト。
【0008】
2)導電性微粒子(A)の一部または全部が、平均粒子径が0.1〜30μmの球状カーボンであることを特徴とする1)に記載の導電性ペースト。
【0009】
3)有機樹脂(B)に用いられるポリウレタン樹脂が、脂肪族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリカーボネートポリオールおよび脂肪族ポリエーテルからなる群より選択されるポリオールと芳香族ポリエステルポリオールとの組み合わせによるブロックポリウレタンであることを特徴とする1)または2)に記載の導電性ペースト。
【0010】
4)有機樹脂(B)に用いられるポリエステル樹脂が、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートおよび脂肪族ポリエーテルからなる群より選択される脂肪族セグメントと芳香族ポリエステルセグメントとの組み合わせによるブロックポリエステルであることを特徴とする1)または2)に記載の導電性ペースト。
【0011】
5)導電性ペーストを印刷・乾燥した後、80℃で測定した抵抗値を30℃で測定した抵抗値で割った値が、3以上であることを特徴とする1)〜4)のいずれかに記載の導電性ペースト。
【0012】
6)1)〜5)のいずれかに記載の導電性ペーストが基材上に印刷されて、製造された印刷回路。
【0013】
7)1)〜5)のいずれかに記載の導電性ペーストが基材上に印刷されて、製造された面状発熱体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性ペーストは良好な導電性、PTC特性、密着性、耐屈曲性などの基本物性を有し、面状発熱体に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の導電ペーストの実施の形態について詳しく説明する。本発明の導電性ペーストは、貯蔵安定性が良好で、かつ良好なPTC特性を提供するものである。PTC特性とは、回路抵抗が温度の上昇と共に増大する特性を意味し、本発明では、実施例で示した80℃および30℃時の抵抗変化の倍率(シート抵抗(80℃)/シート抵抗(30℃))で3倍以上であれば、「PTC特性を有する」と定義する。PTC特性としては、5倍以上が好ましく、より好ましくは、10倍以上、さらに好ましくは100倍以上である。上限は特に限定されないが、一般的に50000倍以下である。一方、印刷方式で面状発熱体を作製する場合は乾燥膜厚が概ね20μm以下に限定されるため、押し出し成形方式の導電性樹脂組成物よりかなり低い比抵抗が要求される。本発明の印刷方式で使用する導電性ペーストの比抵抗としては、100Ω・cm以下が好ましく、より好ましくは10Ω・cm以下、さらに好ましくは1Ω・cm以下である。下限は特に限定されないが、一般的に1×10―2Ω・cm以上である。
【0016】
導電性微粒子としては、通常のカーボンブラック、グラファイト、金属フィラー等が使用される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、オイルファーネスブラック、有機樹脂ビーズを炭化した球状カーボン粉、フラーレン等公知の材料が使用できる。また、金属フィラーとしては、ニッケル、銅、金、パラジウム、銀等が挙げられ、形状としてフレーク状、粉末状等があるが、粒径はスクリーン印刷の場合、メッシュサイズを超えない範囲で何れも使用可能である。
これらの中で、PTC特性の面より、特に平均粒子径が0.1〜30μmの球状もしくはそれに準ずる形状のカーボン粉が好ましい。ここでいう球状とは、後述する電子顕微鏡でカーボン粒子を拡大観察した際に、その断面がほぼ円形に近く、その短径および長径の比が80%以上あるものを示す。球状カーボン紛としては、MC1020(日本カーボン(株)製)、GCP10(ユニチカ(株)製)等、市販されているものを使用できる。
また、これらの導電性微粒子は、要求される低温での比抵抗に合わせ、単独で用いても、複数を併用してもよい。
【0017】
導電性微粒子は、導電性を発揮するために、有機樹脂および樹脂微粒子の合計100質量部に対し、40〜200質量部含まれることが好ましく、分散性より60〜180質量部含まれることがより好ましく、塗膜硬度および密着性より80〜170質量部含まれることが最も好ましい。40質量部より少ない場合、所望の導電性が得られにくく、リターン特性が悪化する傾向にある。200質量部より多い場合はPTC特性が低下する傾向、または分散が困難となる可能性がある。また、カーボンブラックまたはグラファイト、およびそれら複数に対し金属フィラーを併用する際には、金属フィラーが全導電性微粒子の95質量部を超えないで含まれることがコスト面から好ましい。
その他、ペースト粘性を調整する目的などでシリカ粉、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、タルク、硫酸バリウムなどの非導電性フィラーを、発明の効果を損なわない範囲で少量配合しても良い。
【0018】
本発明の導電性ペーストは、導電性微粒子、バインダー樹脂としての有機樹脂、樹脂微粒子および溶剤を組み合わせて使用される。
樹脂微粒子は、本発明の導電性ペーストに使用する溶剤に溶解しないものを用いる必要がある。その形状は、ビーズ状、球状、粟状、多面体状、さいころ状、金平糖状などが挙げられ、特に形状を限定するものではない。樹脂微粒子としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、マレイン化ポリプロピレンなどの変性ポリオレフィン、PTFE(ポリ4フッ化エチレン)、FEP、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、NBR、SBR、SRSなどの各種ゴム、シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。これらの内、融点を有する結晶性樹脂微粒子およびゴム微粒子などが好ましく、より好ましくは、変性ポリオレフィン微粒子が好ましい。これらの樹脂微粒子は、単体または組み合わせて使用できる。
樹脂微粒子の平均粒子径は、0.1〜30μmが好ましく、PTC特性およびリターン特性より、1〜20μmがより好ましく、さらに膜厚制御性より3〜15μmが最も好ましい。樹脂微粒子は、導電性物質と共にバインダー樹脂内に分散され、温度上昇により体積膨張を生じる。これにより、導電性物質間の電流が遮断され、PTC特性を発現することができる。さらに、面状発熱体では、一旦昇温後、低温まで下げた時の抵抗値は、昇温前と同等であることが要求され(リターン特性)、面状発熱体が繰り返し発熱できるとされている。従って、樹脂微粒子の平均粒子径が0.1μmより小さい場合は、一旦昇温した際に、比表面積が大きいことにより熱履歴を大きく受け、流動状態になりやすく、導電性物質の導通を遮断したままになってしまう場合がある。また、平均粒子径が30μmより大きい場合は、要求される比抵抗を満足させるために導電性物質を多く配合する必要があり、PTC特性が低下する場合がある。また、スクリーン印刷する場合は、スクリーン版の目詰まりを起こす可能性がある。
なお、樹脂微粒子は、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン等の結晶性樹脂微粒子単体で用いる場合、長期間、高温領域で使用後のPTC特性を発揮するために、融点は120℃〜180℃のものが好ましく、130℃〜170℃がさらに好ましい。塗膜物性より150〜165℃であることが最も好ましい。融点が130℃以下の場合、長期間、高温領域で使用した際に、樹脂の一部分が流動しやすくなり、ペースト内部における分散状態が変化しやすくなり、リターン特性が低下する場合がある。さらに、融点が180℃を超える樹脂微粒子を用いた場合、面状発熱体の使用上限温度を超えてもPTC特性が発生しない場合がある。
【0019】
本発明の有機樹脂は、基材への密着性および耐屈曲性および溶剤溶解性の観点から、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステルなどの各種変性ポリエステル樹脂、ポリエーテルウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂等のウレタン樹脂が使用される。
PTC特性よりガラス転移温度が−40℃〜30℃のものが好ましく、耐屈曲性および塗膜硬度より−30〜20℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が−40℃以下の場合、PTC特性の安定性が低下し、30℃を超えるとPTC特性が低下する場合がある。また、耐屈曲性の面から数平均分子量が3000以上が好ましく、より好ましくは8000以上である。数平均分子量が3000未満であると良好な耐屈曲性が得にくく、また、ペースト粘度が低下し、印刷性が低下するおそれがある。上限は特に限定しないが、ペースト粘度、溶解性の面より10万以下が好ましい。本発明のポリエステル樹脂は公知の方法により常圧または減圧下で重縮合して得られたものを使用できる。
また、無水トリメリット酸、無水フタル酸等の酸無水物を後付加してカルボキシル基をポリエステル分子末端に付与してもよい。
【0020】
本発明に用いられるポリエステル樹脂としては、全酸成分のうち芳香族ジカルボン酸が40モル%以上が好ましく、より好ましくは50モル%以上である。芳香族ジカルボン酸が40モル%未満では塗膜の強度が低下し、低温の耐屈曲性、耐熱性や耐湿性や耐熱衝撃性等の耐久性などが低下する可能性がある。芳香族ジカルボン酸の好ましい上限は100モル%である。
【0021】
ポリエステル樹脂に共重合する芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。この内、物性面と溶剤溶解性からテレフタル酸とイソフタル酸を併用することが好ましい。
ポリエステルに共重合するその他のジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、炭素数12〜28の2塩基酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、2−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ジカルボキシ水素添加ビスフェノールA、ジカルボキシ水素添加ビスフェノールS、ダイマー酸、水素添加ダイマー酸、水素添加ナフタレンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸、乳酸などのヒドロキシカルボン酸が挙げられるが、耐湿性の面からセバシン酸、アゼライン酸、1,4−シクロ
ヘキサンジメタノールが好ましい。
【0022】
また、発明の内容を損なわない範囲で、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの多価のカルボン酸、フマール酸などの不飽和ジカルボン酸、さらに、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩などのスルホン酸金属塩基含有ジカルボン酸を併用してもよい。また、ポリエステル樹脂を重合後、無水トリメリット酸、無水フタル酸などの酸無水物を後付加して酸価を付与してもよい。
【0023】
本発明におけるポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂に使用されるグリコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオールなどが挙げられる。また、発明の内容を損なわない範囲でトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ポリグリセリンなどの多価ポリオールを併用してもよい。
これらのうち、全グリコール成分量100モル%としたとき、結晶性と溶剤溶解性の面より、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群のうち少なくとも1種以上を20モル%以上共重合することが好ましい。
【0024】
本発明に用いるポリエステル樹脂としては、PTC特性より、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートおよびポリエーテルからなる群より選択される脂肪族セグメントと芳香族ポリエステルセグメントとの組み合わせによるブロックポリエステルであることが特に好ましい。
ブロックポリエステルの製造方法としては、ポリオール成分として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール−コ−エチレンオキシド、脂肪族ポリカーボネートジオールなどを共重合して得られる。また、ポリエステル樹脂を重合後、常圧で、180℃〜230℃でカプロラクトン等の環状エステルを後付加(開環付加)してブロック化することもできる。
【0025】
さらに、PTC特性より溶剤可溶性の結晶性のポリエステル樹脂および変性ポリエステル樹脂が使用できる。全ジカルボン酸量を100モル%としたとき、結晶性の面より、テレフタル酸及び/又は2,6−ナフタレンジカルボン酸を20モル%以上共重合されたものが好ましく、より好ましくは25モル%以上である。また、PTC特性の観点からテレフタル酸が20モル%以上であることがさらに好ましい。溶剤溶解性の面より、これらの上限は80モル%以下が好ましい。
【0026】
また、本発明の導電ペーストに使用するポリエステル樹脂はウレタン変性、エポキシ変性、(メタ)アクリレート変性、(メタ)アクリルグラフト変性など公知の方法により変性して使用できる。このうち、耐屈曲性、密着性の面よりウレタン変性が特に好ましい。ウレタン変性樹脂は公知の方法により、ポリエステルポリオールと必要に応じて鎖延長剤を用いてイソシアネート化合物と反応させて合成したものを使用できる。
【0027】
ウレタン変性ポリエステル樹脂に使用するポリオールには前述したポリエステルポリオールを使用するが、この他にポリエーテルポリオール、(メタ)アクリルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンポリオール、その他のポリオールを併用してもよい。その他のポリオールとしては、接着性、耐屈曲性、耐久性よりポリカーボネートジオールが特に好ましい。鎖延長剤として使用するポリオールとしてはネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、HPN(ネオペンチルグリコールのヒドロキシピバリン酸エステル)、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの公知のポリオールが挙げられる。さらにジメチロールプロピオン酸のようなカルボキシル基含有ポリオールなども鎖延長剤として使用できる。
【0028】
ウレタン変性に使用するジイソシアネート化合物は、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0029】
変性ポリエステル樹脂としてのポリエステルウレタン樹脂のウレタン基濃度において下限は、密着性、耐屈曲性の面から500当量/10g以上が好ましく、上限は溶解性の面から4000当量/10g以下が好ましい。
【0030】
さらに、PTC特性の観点より、脂肪族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリカーボネートポリオールおよび/またはポリエーテルと芳香族ポリエステルポリオールとの組み合わせによるブロックポリウレタンが特に好ましい。
【0031】
本発明の導電性ペーストは有機樹脂と反応し得る硬化剤を配合しても良い。硬化剤を配合することにより、PTC特性は低下するものの、融点以上の高温時における塗膜物性の向上を期待できる。これらの樹脂に反応し得る硬化剤は、種類は限定しないが接着性、耐屈曲性、硬化性などからイソシアネート化合物が特に好ましい。さらに、これらのイソシアネート化合物はブロック化して使用することが貯蔵安定性から好ましい。イソシアネート化合物以外の硬化剤としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、ベンゾグアナミン、尿素樹脂などのアミノ樹脂、酸無水物、イミダゾール類、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの公知の化合物が挙げられる。
【0032】
イソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族のジイソシアネート、3価以上のポリイソシアネートがあり、低分子化合物、高分子化合物のいずれでもよい。例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートあるいはこれらのイソシアネート化合物の3量体、及びこれらのイソシアネート化合物の過剰量と例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の低分子活性水素化合物または各種ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類の高分子活性水素化合物などと反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物が挙げられる。
【0033】
イソシアネート基のブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノールなどのフェノール類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類,エチレンクロルヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノールなどのハロゲン置換アルコール類、t−ブタノール、t−ペンタノールなどの第三級アルコール類、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピロラクタムなどのラクタム類が挙げられ、その他にも芳香族アミン類、イミド類、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステルなどの活性メチレン化合物、メルカプタン類、イミン類、イミダゾール類、尿素類、ジアリール化合物類、重亜硫酸ソーダ等も挙げられる。このうち、硬化性よりオキシム類、イミダゾール類、アミン類がとくに好ましい。
【0034】
これらの架橋剤には、その種類に応じて選択された公知の触媒あるいは促進剤を併用することもできる。
【0035】
本発明の導電性ペーストに用いるに溶剤はその種類に制限はなく、エステル系、ケトン系、エーテルエステル系、塩素系、アルコール系、エーテル系、炭化水素系などが挙げられ、使用する有機樹脂の溶解性、乾燥速度を考慮して最適なものが選定される。このうち、スクリーン印刷する場合はエチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、イソホロン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、ベンジルアルコール、N−メチル−2−ピロリドン、テトラリンなどの高沸点溶剤が好ましい。
【0036】
本発明の導電性ペーストはスクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、グラビア印刷、転写印刷、ロールコート、コンマコート、フローコート、スプレー塗装等公知の方法で、PETフィルム(シート)を始めとするプラスチックフィルムに印刷して回路や面状発熱体に使用できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中、単に部とあるものは質量部を示す。また、各測定項目は以下の方法に従った。
【0038】
1.数平均分子量
テトラヒドロフランを溶離液としたウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)150cを用いて、カラム温度35℃、流量1ml/分にてGPC測定を行なった結果から計算して、ポリスチレン換算の測定値を得た。ただしカラムは昭和電工(株)shodex KF−802、804、806を用いた。
【0039】
2.ガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)
サンプル5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計(DSC)DSC−220を用いて、200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、融解熱の最大ピーク温度を結晶融点として求めた。ガラス転移温度は、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0040】
3.酸価
試料0.2gを精秤し20mlのクロロホルムに溶解した。ついで、0.01Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定して求めた。指示薬には、フェノールフタレイン溶液を用いた。
【0041】
4.密着性
厚み100μmのアニール処理をしたPETフィルムに導電性ペーストをスクリーン印刷し、25×200mmのパターンを印刷し、150℃で30分乾燥、硬化したものをテストピースとした。乾燥膜厚は20〜30μmになるように調整した。このテストピースを用いてJIS K5600 5−6に準じて評価した。粘着テープは、セロハンテープCT−12(ニチバン(株)製)を用いた。
【0042】
5.比抵抗
4.で作製したテストピースを用いてシート抵抗と膜厚を測定し、比抵抗を算出した。尚、シート抵抗は4端子式のデジタルマルチメーターを用いて測定した。
【0043】
6.PTC特性
4.で作製したテストピースを用いてシート抵抗を30℃と80℃で測定し、次式で計算した抵抗変化の倍率で評価した。数字が大きいほど、良好なPTC特性である。
抵抗変化の倍率(倍)=シート抵抗(80℃)/シート抵抗(30℃)
【0044】
7.リターン特性
6.に記載の方法で、30℃から80℃で5回昇温、降温を繰り返した後、30℃に冷却してシート抵抗を測定し、初期のシート抵抗との差異で評価した。
○:初期の抵抗値とほぼ同じ値(80〜120%) △:初期の抵抗値の2〜5倍 ×:著しく上昇
【0045】
8.貯蔵安定性
導電性ペーストを5℃で1ヶ月貯蔵した後、25℃で粘度を測定し、粘度変化で評価した。
○:初期の粘度とほぼ同じ値 △:初期の粘度の1.5〜2倍増粘 ×:著しく増粘
【0046】
9.走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子径の測定方法
樹脂微粒子および球状カーボン紛の粒子径は、SEMにより測定した。微粒子懸濁液を0.1ml取り、アセトンで10倍に希釈して60分間超音波処理を行った。カーボン製のSEM試料台の表面を鏡面研磨し、上記懸濁液を滴下、乾燥させ、SEM観察用の試料とした。日立製S4500走査型電子顕微鏡で、樹脂微粒子の加速電圧5kV、あるいは球状カーボンでは15kVで、倍率5,000倍で観察、写真撮影を行った。SEMで撮影した粒子100個について粒子径を測定し、その平均値で表した。
【0047】
合成例.1(ポリエステル樹脂I)
グビリュー精留塔を具備した四口フラスコにジメチルテレフタル酸101部、ジメチルイソフタル酸35部、エチレングリコール93部、ネオペンチルグリコール73部、テトラブチルチタネート0.068部を仕込み、180℃で3時間エステル交換を実施した。次いで、セバシン酸61部を仕込み、さらにエステル化反応を行なった。次に、1mmHg以下まで徐々に減圧し、240℃、1.5時間重合した。得られた共重合ポリエステルの組成は、テレフタル酸/イソフタル酸/セバシン酸/エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=52/18/30/55/45(モル比)、還元粘度0.75dl/g、酸価30eq/10g、Tg9℃であった。結果を表1に示す。
【0048】
合成例.2〜5(ポリエステル樹脂II〜V)
合成例.1と同様に合成した。結果を表1に示す。還元粘度の低いポリエステル樹脂IIは、ウレタン変性用のベース樹脂である。ポリエステルIIIは、溶剤溶解性の良好な融点を有する結晶性ポリエステルである。ポリエステル樹脂IV、Vは、ブロックポリエステルであり、ε−カプロラクトンを除く酸成分とポリオール成分を用いて、合成例.1と同様にポリエステルを重合した後、常圧、窒素気流下でε−カプロラクトンを添加し、200℃で30分反応させて合成した。
【0049】
合成例.6(ウレタン変性ポリエステル樹脂VI)
温度計、攪拌機、冷却器を具備した反応容器中に合成例のポリエステル樹脂II100部、脂肪族ポリエステルポリオールとしてのODX−688(大日本インキ(株)製)150部、鎖延長剤としての1,6−ヘキサンジオール5部、ネオペンチルグリコール15部、溶剤としてエチルカルビトールアセテート/ブチルセロソルブアセテート=75/25(wt比)を仕込み、80℃で溶解後、ジフェニルメタンジイイソシアネート(MDI)78部及びジブチル錫ジラウレート0.08部を仕込み、固形分濃度35%、80℃で3時間以上かけて残存イソシアネートが無くなるまで反応させた後、エチルカルビトールアセテート/ブチルセロソルブアセテート=75/25(wt比)で固形分濃度25%に希釈し、ウレタン変性ポリエステル樹脂VIを得た。数平均分子量は40000、酸価10eq/10g、Tg−2℃であった。尚、このポリウレタン樹脂は、芳香族ポリエステルセグメントと脂肪族ポリエステルセグメントからなるブロックポリウレタン樹脂である。
【0050】
実施例.1
導電性微粒子として球状カーボンMC1020(日本カーボン(株)製)23.0部、樹脂微粒子としてのユニストールR200X(三井化学(株)製)2部、有機樹脂としてポリエステル樹脂Iのエチルカルビトールアセテート/ブチルセロソルブアセテート=75/25(重量比)溶解品64部(固形分25%)、レベリング剤としてのMKコンク(共栄社化学(株))1.0部を配合し、充分プレミックスした。次いで、チルド3本ロールで3回分散して、導電性ペーストを得た。得られた導電性ペーストは、やや黒色で良好な粘性であった。比抵抗は5.3Ω・cm、PTC特性は5倍と非常に良好であった。また、PETフィルムに対する密着性は良好であった。この導電性ペーストで作製した線幅0.4mmの回路を、印刷面を内折りにして指折りで5回折り曲げたところ、ほとんど抵抗値の上昇はなく、良好な耐屈曲性であった。また、このペーストを5℃で7日間放置したところ、増粘などは認められず、良好な貯蔵安定性を示した。
【0051】
実施例.2〜8
実施例1と同様に評価した。結果を表2,3に示す。いずれのペーストも良好なPTC特性、密着性、貯蔵安定性を示した。実施例2は融点を有する結晶性ポリエステル樹脂を用いることよりPTC特性が良好であった。また、貯蔵安定性も良好であった。実施例3は、ブロック型のポリエステル樹脂を用いているため、PTC特性が良好で、リターン特性がさらに良好であった。実施例4はガラス転移温度の低いブロック型のポリエステル樹脂を用いたため、PTC特性が良好で、溶剤溶解性が良好であった。実施例5はガラス転移温度の低いブロック型ウレタン変性ポリエステル樹脂を用いたため、PTC特性がさらに良好であった。実施例6は球状カーボンに替えて粒子径の小さいカーボンブラックを用いたが、比抵抗およびリターン特性ともに良好であった。実施例7は球状カーボンMC1020に替えて粒子径の小さいMC0520を用いたが、比抵抗が低く、リターン特性およびPTC特性がさらに良好であった。実施例8では、樹脂微粒子ユニストールR200Xに替えて低融点のR300を用いたが、シリコーン粒子Eー606(東レ・ダウコーニング(株)製)、ポリスチレン粒子SX8703(A)−02(JSR(株)製)、アクリル系粒子MX220(綜研化学(株)製)を用いたところ、PTC特性、リターン特性ともに良好であった。
【0052】
比較例1〜3
実施例1と同様に作成した。結果を表4に示す。比較例1では、低分子量でガラス転移温度が高いポリエステル樹脂を用いたため、PTC特性および耐屈曲性を満足しなかった。比較例2は、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を用いた例であるが、PTC特性は比較的良好であったが、貯蔵安定性が悪く、低温(5℃)保管において著しく増粘した。比較例3では、樹脂微粒子を用いずに検討したが、リターン特性、PTC特性が共に悪かった。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の導電性ペーストは良好な導電性、PTC特性、密着性、耐屈曲性などの基本物性を有し、面状発熱体に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子(A)、有機樹脂(B)、樹脂微粒子(C)および溶剤(D)を含んだ導電性ペーストにおいて、有機樹脂(B)が数平均分子量3000以上かつガラス転移温度が−40℃〜30℃であり、かつポリエステル樹脂、変性ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種以上を含むことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
導電性微粒子(A)の一部または全部が、平均粒子径が0.1〜30μmの球状カーボンであることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
有機樹脂(B)に用いられるポリウレタン樹脂が、脂肪族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリカーボネートポリオールおよび脂肪族ポリエーテルからなる群より選択されるポリオールと芳香族ポリエステルポリオールとの組み合わせによるブロックポリウレタンであることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
有機樹脂(B)に用いられるポリエステル樹脂が、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートおよび脂肪族ポリエーテルからなる群より選択される脂肪族セグメントと芳香族ポリエステルセグメントとの組み合わせによるブロックポリエステルであることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
導電性ペーストを印刷・乾燥した後、80℃で測定した抵抗値を30℃で測定した抵抗値で割った値が、3以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の導電性ペーストが基材上に印刷されて、製造された印刷回路。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の導電性ペーストが基材上に印刷されて、製造された面状発熱体。

【公開番号】特開2008−269876(P2008−269876A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109188(P2007−109188)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】