説明

導電性ペースト及びそれを用いた電磁波シールドフィルム、電磁波シールドフレキシブルプリント配線板

【課題】 柔軟性と耐熱性を両立し、耐屈曲性に優れたシールド層を形成可能な導電性ペースト、及びそれを用いた電磁波シールドフィルム、電磁波シールドフレキシブルプリント配線板を提供すること。
【解決手段】 導電性金属粉末、ウレタン変性ポリエステル樹脂、及びブロックイソシアネートを含有する導電性ペーストであって、前記ウレタン変性ポリエステル樹脂は、酸成分、アルコール成分、及び芳香族イソシアネートを含むイソシアネート成分を反応させて得られ、前記酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分に含まれる芳香族成分の合計が、前記酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分の合計に対して、5モル%以上50モル%以下であることを特徴とする、導電性ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ペースト及びそれを用いた電磁波シールドフィルム、電磁波シールドフレキシブルプリント配線板に関し、特に耐屈曲性が要求されるフレキシブルプリント配線板に好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストは、カーボンブラックやグラファイト粉、貴金属粉、銅粉、ニッケル粉、アルミニウム粉等の導電性フィラーと、バインダーとなる樹脂、溶剤を混合してペースト状にしたものである。これをフィルムや基板上にスクリーン印刷等の方法で塗布してパターン形成し、樹脂を固化することにより、導電性の配線を形成する。最近の電子部品のコンパクト化、軽量化に伴い、このような用途には高導電性の導電性ペーストが要求されている。
【0003】
特許文献1には、導電性フィラーとして銀を用いた導電性銀ペーストが開示されている。導電性フィラーとして用いる銀粉の形状は制限がなく、粒状、鱗片状、板状、樹枝状、粟状、サイコロ状等で、その大きさが0.1〜100μmのものを使用している。またバインダー樹脂としては飽和共重合ポリエステル樹脂及びブロックイソシアネートを使用している。また特許文献2には、導電性ペーストの耐屈曲性を向上するために、粒子径0.1〜5μmの1次粒子が3次元上につながって形成された銀粉末と、数平均分子量が3000以上の結合剤、硬化剤及び溶剤を主成分とする導電性ペーストが開示されている。結合剤としてはポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂が例示されている。
【0004】
導電性ペーストは電磁波シールド材料としても使用されている。特に、最近は情報の高速伝達のために、より高周波帯域の周波数を用いるようになってきており、今まで以上の電磁波シールド特性を持つ導電性ペーストが要求されている。特許文献3には、特定の粒径を持つ銀粉末を組み合わせることで導電性、シールド特性を向上した導電性銀ペーストとそれを用いた電磁波シールドフィルムが開示されている。
【特許文献1】特開平1−159906号公報
【特許文献2】特開平1−306240号公報
【特許文献3】特開2005−294254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フレキシブルプリント配線板のシールド層として導電性ペーストを使用する場合、導電性ペーストを塗布、固化してなるシールド層には、導電性や電磁波シールド特性の他に耐熱性、表面平滑性、耐屈曲性が求められる。特に携帯電話のヒンジ部等の可動部に用いる場合、機器の小型化によって、より小さい屈曲半径での耐久性が求められているため、耐屈曲性を向上させることが課題となる。
【0006】
特許文献3に記載の導電性ペーストでは、塗布、硬化後の耐熱性と柔軟性を両立するために、バインダー樹脂としてポリエステル樹脂を使用することが好ましいと記載されている。しかし現在求められている耐屈曲性を実現するためにはさらに耐屈曲性を向上する必要がある。
【0007】
耐屈曲性を向上させるためには柔軟性が必要であり、バインダー樹脂には柔軟な樹脂であるポリエステル樹脂が使用されてきた。ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸や酸無水物などの酸成分と、多価アルコール等のアルコール成分とを縮合重合して得られる樹脂であり、酸成分、アルコール成分の種類を選択することによって適宜その特性をコントロールすることができる。例えば脂肪族ジカルボン酸等の柔軟な成分を多く用いると柔軟性が向上する。しかし柔軟な成分を多く用いると耐熱性が低下し、必要な特性を満たすことができない。耐熱性を上げるためにはテレフタル酸等の剛直な芳香族成分の割合を増やす必要があるが、そうすると柔軟性が低下することとなる。
【0008】
そこで本発明は上記の問題に鑑み、柔軟性と耐熱性を両立し、耐屈曲性に優れた電磁波シールド層を形成可能な導電性ペースト、及びそれを用いた電磁波シールドフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、導電性金属粉末、ウレタン変性ポリエステル樹脂、及びブロックイソシアネートを含有する導電性ペーストであって、前記ウレタン変性ポリエステル樹脂は、酸成分アルコール成分、及び芳香族イソシアネートを含むイソシアネート成分を反応させて得られ、前記酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分に含まれる芳香族成分の合計が、前記酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分の合計に対して5モル%以上50モル%以下であることを特徴とする、導電性ペーストである(請求項1)。
【0010】
バインダー樹脂として、芳香族イソシアネートを含むイソシアネート成分で変性したウレタン変性ポリエステル樹脂を用いる。また酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分に含まれる芳香族成分の合計を、全成分の合計に対して5モル%以上50モル%以下とする。このような分子構造とすることで、耐屈曲性に必要な柔軟性と、耐熱性とを両立することができる。
【0011】
前記ウレタン変性ポリエステル樹脂の水酸基価は、5mgKOH/g以上60mgKOH/g以下とすることが好ましい(請求項2)。水酸基価はウレタン変性ポリエステル樹脂の架橋点(ブロックイソシアネートとの反応する水酸基)数に対する分子量を示す指標となり、水酸基価が大きいと分子量が小さく、水酸基価が小さいと分子量が大きくなる。水酸基価が5mgKOH/gよりも小さいと分子量が大きく、柔軟性には優れるが、ブロックイソシアネートと反応するための架橋点が少なくなることで耐熱性が低下する。また水酸基価が60mgKOH/gを超えると逆に分子量が小さくなり、耐熱性は向上するが柔軟性が低下する。
【0012】
前記ブロックイソシアネートは、数平均分子量が500以上3000以下であり、イソシアネートモノマーとポリヒドロキシ化合物とのアダクト型イソシアネートの末端をブロック剤でブロックした多官能ブロックポリイソシアネート化合物であると好ましい(請求項3)。このようなアダクト型イソシアネートは、1分子中の官能基(イソシアネート基)量が多いため、反応後のウレタン変性ポリエステル樹脂の架橋密度を上げることができ、耐熱性を向上することができる。
【0013】
前記ウレタン変性ポリエステル樹脂と前記ブロックイソシアネートの混合比は、前記ウレタン変性ポリエステル樹脂の水酸基(OH)と、前記ブロックイソシアネートのイソシアネート基(NCO)とのモル比率(NCO/OH)換算で0.8以上3.0以下であると好ましい(請求項4)。ブロックイソシアネート量がこの範囲よりも少ないと、ウレタン変性ポリエステル樹脂の架橋密度が低くなり、耐熱性が低くなる。またブロックイソシアネート量がこの範囲よりも多い場合、反応に寄与しないイソシアネートがバインダー樹脂中に残留することで耐熱性が低くなる場合がある。さらに好ましいモル比率の範囲は1.0以上2.0以下である。
【0014】
前記導電性金属粉末は、平均粒径が0.5μm〜20μmの金属粉末Aと、平均粒径が100nm以下の金属粉末Bとからなり、金属粉末Aと金属粉末Bの含有比率が、重量比で99.5:0.5〜70:30であると共に、前記導電性金属粉末の含有比率が、導電性ペーストの固形分量に対して50重量%以上85重量%以下であると好ましい(請求項5)。導電性金属粉末の含有比率を高くすると導電性は向上するが、高すぎると導電性ペーストの柔軟性が低下し、耐屈曲性が悪くなるため、導電性と耐屈曲性とを両立するためには、導電性金属粉末の含有比率を50重量%以上85重量%以下とすることが好ましい。
【0015】
また良好な導電性を得るために、粒径の異なる金属粉末Aと金属粉末Bとを特定の含有比率で組み合わせて使用することが好ましい。比較的粒径の大きい金属粉末A同士の隙間をナノサイズの金属粉末Bが充填することによって、導電性が向上すると共に、導電性ペーストを塗布した後の表面の平滑性を向上できる。表面の平滑性及は導電性と共に電磁波シールド特性に影響するため、導電性と平滑性を向上することで電磁波シールド特性をさらに向上できる。
【0016】
また、本発明は、上記の導電性ペーストからなる層を基材上に有する電磁波シールドフィルムを提供する(請求項6)。また上記の導電性ペーストからなる層を有する電磁波シールドフレキシブルプリント配線板を提供する(請求項7)。このような電磁波シールドフィルム及び電磁波シールドフレキシブルプリント配線板は、耐屈曲性に優れるとともに、耐熱性、導電性、電磁波シールド特性にも優れるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、柔軟性と耐熱性とを両立でき、耐屈曲性に優れた電磁波シールド層を形成可能な導電性ペースト、及びそれを用いた電磁波シールドフィルム、電磁波シールドフレキシブルプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に使用するウレタン変性ポリエステル樹脂について説明する。ウレタン変性ポリエステル樹脂とは、酸成分と、アルコール成分、及びウレタン成分とを反応して得られるものである。一般にポリエステル樹脂は、多価カルボン酸又はその無水物等の酸成分と多価アルコール等のアルコール成分とを縮合重合して得られる。ここで得られたポリエステル樹脂の末端水酸基をイソシアネート成分と反応させることで、ウレタン変性ポリエステル樹脂が得られる。このように、イソシアネート成分は酸成分とアルコール成分との反応後に加えて反応させることが好ましいが、酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分を同時に反応させても良い。
【0019】
酸成分としては多価カルボン酸又はその無水物であれば特に限定されず、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸及びその無水物、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその無水物、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸やその無水物が例示される。これらは2種以上併用しても良い。
【0020】
アルコール成分としては多価アルコールであれば特に限定されず、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等の脂肪族グリコール、芳香族グリコール、脂環族グリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3価以上のアルコール等が例示される。これらは2種以上併用しても良い。
【0021】
イソシアネート成分は、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するものであり、分子中に芳香環を有する芳香族イソシアネートを必須とする。芳香族イソシアネートとしては、キシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ビフェニレンジイソシアネート等が例示される。これらは2種以上併用しても良い。また本発明の趣旨を損ねない範囲で、芳香族イソシアネートと併用して、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等を併用しても良い。
【0022】
上述したように、酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分中の芳香族成分の合計は全成分の合計に対して5モル%以上50モル%以下とする。これらの材料を常法により反応させて、ウレタン変性ポリエステル樹脂を得る。
【0023】
本発明に使用するブロックイソシアネートは、多官能イソシアネートの末端イソシアネート基をブロック剤で封鎖したものである。加熱によりブロック剤が解離し、イソシアネート基が生成する。このイソシアネート基がウレタン変性ポリエステル樹脂の水酸基と反応してウレタン変性ポリエステル樹脂を架橋する。
【0024】
ブロック剤としては、アルコール類、フェノール類、酸アミド類、オキシム類、活性メチレン等、活性水酸基を持つ化合物が例示される。
【0025】
多官能イソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等、任意のイソシアネートを使用することができる。中でも、一般式(I)で示される、イソシアネートモノマーとポリヒドロキシ化合物とのアダクト型イソシアネートが好ましい。
【0026】
【化1】

【0027】
(式中、R1〜R3は脂肪族、脂環族又は芳香族ジイソシアネートからイソシアネート基を除いた基を表し、R4は多価アルコール化合物から水酸基を除いた基を表す。)
【0028】
ポリヒドロキシ化合物は、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であり、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等が例示される。またジイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等が例示される。
【0029】
本発明に使用する導電性金属粉末は、銅、金、銀、白金、ニッケル等、任意の金属及びその合金を使用することができるが、導電性に優れる銀粉末を使用することが好ましい。また形状は特に限定されず、球状、鱗片状、顆粒状等が例示される。
【0030】
導電性金属粉末の含有量は、求められる特性に応じて任意に選択できる。導電性金属粉末の含有量を増やすと導電性を向上できるが、導電性金属粉末の含有量が多すぎると樹脂成分と導電性金属粉末との密着力(凝集力)が弱くなり、塗工後の導電性ペースト中に空隙が入ることで、印刷性や接着性の低下に影響する。また導電性も逆に低下することとなる。このため、導電性金属粉末の含有量は、導電性ペーストの固形分量全体に対して95%以下とすることが好ましい。
【0031】
また導電性金属粉末の含有量を増やすと導電性ペーストが硬くなり柔軟性が低下する。導電性ペーストの導電性と柔軟性とを両立するためには、導電性金属粉末の含有量を導電性ペーストの固形分量全体に対して50%以上85%以下とすることが好ましい。
【0032】
導電性金属粉末として、平均粒径が0.5μm〜20μmの金属粉末Aと、平均粒径が100nm以下の金属粉末とを併用し、金属粉末Aと金属粉末Bの含有比率を、重量比で99.5:0.5〜70:30とすると好ましい。金属粉末Aと金属粉末Bとの含有比率が99.5:0.5を超えて金属粉末Aが増加すると、組み合わせ効果が減少し、導電性が低下する。また含有比率が70:30を超えて金属粉末Bが増加すると、金属粉末Bの増量によりコスト高となり好ましくない。更に好ましい金属粉末Aと金属粉末Bの含有比率は、99:1〜90:10である。
【0033】
金属粉末Aの平均粒径は0.5μm〜20μmが好ましい。0.5μm以下では導電性が低下する。また平均粒径が20μmを超えると微細な印刷加工が困難になる。また同様の理由で、最大粒径が極端に大きいものを含まないものを使用することが好ましく、最大粒径が20μm〜50μmの範囲にあるものが好適である。なお、粒径は個々の粒子の最大径とし、その平均値を平均粒径としている。計測には走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いる。
【0034】
金属粉末Aとしては、1種類のみでなく、平均粒径や形状の異なる複数の粉末を組み合わせて使用することもできる。例えば、鱗片状の銀粉末と球状の銀粉末を組み合わせて使用することで、導電性及び塗工後の平滑性を更に向上できる。
【0035】
金属粉末Bは平均粒径が100nm以下の金属粉末である。ナノサイズの粉末は、粉末同士が凝集することがあるが、平均粒径とは1次粒子の粒径をさすものとする。またこのようなナノサイズの粉末は比表面積が大きいため、表面活性が大きい。よって表面を保護して2次凝集を抑えるために、表面が有機物で被覆されているものを用いるのが好ましい。有機物としてはポリカルボン酸、ポリアクリル酸等が例示される。
【0036】
平均粒径が100nm以下の金属粉末Bは、例えば以下のようにして作製できる。硝酸銀を水と低級アルコールの混合溶剤に溶解し、アンモニア水でpHを11以上に調整する。これに還元剤としてL−アスコルビン酸と分散剤としてポリアクリル酸を前記混合溶剤に溶解したものを加えることにより銀粒子が析出する。析出した銀粒子は、分散剤により2次凝集を抑えられた状態で濾過、洗浄、乾燥して得られる。銀粒子の平均粒子径は、pH、温度、各素材の濃度、混合の仕方等で変更できる。
【0037】
上記の工程を経て作成される銀粒子は、特に反応工程で分散剤を用いることにより、生成された銀の粒子の表面が分散剤で被覆された状態で得られる。生成段階で分散剤が銀の粒子の表面を被覆した状態となるため、外気の影響を受けにくく、且つ銀の粒子同士が2次凝集しにくい状態となる。たとえ凝集しても、分散剤が介在するため、有機溶剤等で簡単に凝集を破壊できる。また、樹脂への分散性も良好である。
【0038】
上記の導電性金属粉末、ウレタン変性ポリエステル樹脂、ブロックイソシアネートを混合して導電性ペーストを作製する。ウレタン変性ポリエステル樹脂及びブロックイソシアネートは溶剤に溶解して用いる。溶剤は樹脂を溶解可能であるもので有れば任意のものを使用でき、エステル系、エーテル系、ケトン系、エーテルエステル系、アルコール系、炭化水素系、アミン系の有機溶剤が例示される。導電性ペーストをスクリーン印刷して用いる場合には、印刷性の良い高沸点溶剤が好ましく、具体的にはカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどが特に好ましい。
【0039】
また、本発明の導電性銀ペーストには、印刷作業性向上のため、増粘剤、レベリング剤等の添加物を加えることもできる。更に本発明の性能を損なわない範囲で、カーボンやシリカ等の無機フィラーを添加することも可能である。これらの材料をボールミル、3本ロール、回転撹拌脱泡機などにより混合、分散して均一な状態とし、導電性ペーストを作製する。
【0040】
本発明の電磁波シールドフィルムは、上記の導電性ペーストからなる層を基材上に有するものである。上記の導電性ペーストを基材上に塗布した後、溶媒を乾燥させて固化することで電磁波シールドフィルムが得られる。基材としてはポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等を用いることができる。屈曲性を考慮すると、ポリイミドフィルムが好ましい。図1は電磁波シールドフィルムの一例を表す断面模式図である。基材1の上に、導電性ペースト層2を有している。導電性ペースト層を保護するために、導電性ペースト層2の上に保護フィルム8を設けても良い。保護フィルム8は使用時に剥がされる。
【0041】
上記の電磁波シールドフィルムをフレキシブルプリント配線板の片面又は両面に貼り付けることで、本発明の電磁波シールドフレキシブルプリント配線板が得られる。図2は電磁波シールドフレキシブルプリント配線板の一例を表す断面模式図である。フレキシブルプリント配線板7は、基材4上に銅箔5からなる配線が形成されており、その上をカバーレイが被覆している。カバーレイは、ポリイミド等からなるカバーレイフィルム6aとカバーレイ接着剤6bとから構成される。フレキシブルプリント配線板のカバーレイ側に電磁波シールドフィルム3が貼り付けられている。なお、導電性ペーストを直接フレキシブルプリント配線板に塗布して導電性ペースト層を設けても良い。
【0042】
導電性ペーストの塗布厚みは特に制限されないが、10μm〜50μmの範囲とすることが好ましい。厚みが10μm以下であると望ましい電磁波シールド特性が得られない反面、厚みを50μm以上とするとシールド層の柔軟性が悪くなり、耐屈曲特性が低下する。
【0043】
導電性ペーストの塗布方法としては、スクリーン印刷、凹版印刷、平板印刷、ディスペンサー等が例示される。形成される配線の精細性、膜厚、また生産性の点から、スクリーン印刷が最も好適に用いられる。
【0044】
また本発明の導電性ペーストをフレキシブルプリント配線板に直接塗布、固化して電磁波シールド層とすることもできる。このような方法によっても、本発明の導電性ペーストからなる層を有する電磁波シールドフレキシブルプリント配線板が得られる。同様に、パソコンや携帯電話等の電子機器の筐体に塗布することで、本発明の導電性ペーストからなる層を有する電磁波シールド筐体が得られる。
【0045】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0046】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
(導電性ペーストの作製)
表1に記載の酸成分、アルコール成分及びイソシアネート成分を反応させて得られるウレタン変性ポリエステルを準備した。具体的には、四つ口フラスコに表1記載の酸成分とアルコール成分、及び酢酸ブチルカルビトールとブチルカルビトールの混合溶剤を入れて窒素気流下で60℃に加熱した後、さらにイソシアネート化合物を添加して80℃5時間加熱し、ウレタン変性ポリエステルを合成した。
【0047】
作製したウレタン変性ポリエステル樹脂に、導電性金属粉末として平均粒子3.0μmの鱗片状銀粉末と平均粒子径25nmの球状銀粉末、及びブロックイソシアネートを混合して導電性ペーストを作製した。ウレタン変性ポリエステルとブロックイソシアネートの配合比は等量モル比とし、導電性金属粉末の配合比率は以下の比率とした。
・鱗片状銀粉末の配合比(重量)=(ウレタン変性ポリエステル樹脂の重量+ブロックイソシアネートの重量)×2.1
・球状銀粉末の配合比(重量)=(ウレタン変性ポリエステル樹脂 重量+ブロックイソシアネート 重量)×0.233
【0048】
(評価用試料の作製)
ポリイミドフィルムに銅箔を積層した無接着剤銅貼積層板(2層CCL)を準備し、サブトラクティブ法により銅箔部分を選択的にエッチングし、線幅50μmのパターンを形成した。さらにこの上にカバーレイフィルムを貼り付けて評価用のフレキシブルプリント配線板を作製した。このフレキシブルプリント配線板のカバーレイフィルム側に上記の導電性ペーストをスクリーン印刷法により塗布し、オーブン炉で熱硬化した。さらに摺動屈曲性評価用サンプルについては、導電性ペースト上にソルダーレジストを塗布し、オーブン炉で熱硬化した。
【0049】
(導電性ペーストの評価:体積固有抵抗)
この試料を幅5mmで切り出し、4端子法による抵抗値測定(端子間距離100mm)及び表面粗さ計による銀ペースト硬化膜の厚み測定を行い、体積固有抵抗を算出した。
【0050】
(導電性ペーストの評価:体積固有抵抗)
この試料を最高温度260℃に設定したリフロー炉に2回通した後、銀ペースト硬化膜とカバーレイフィルム間に切り欠きを作り、銀ペースト硬化膜を180°方向に折り曲げて、50mm/分の速度で引っ張ることで密着強度を測定した。
【0051】
(導電性ペーストの評価:摺動屈曲試験)
上記と同様に、試料を最高温度260℃のリフロー炉に2回通した後、ストローク100mm、15秒/サイクル、摺動屈曲半径1.0mmの条件で摺動屈曲させ、配線抵抗が20%上昇した時点の摺動屈曲回数を評価した。以上の結果を表1に示す。なお、それぞれの評価項目において、密着強度0.8N/cm以上、摺動屈曲回数7万回以上、体積固有抵抗90×10−6Ω・cm以下が良好範囲である。









【0052】
【表1】

【0053】
酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分に含まれる芳香族成分の合計が、前記酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分の合計に対して5モル%未満である比較例1では、リフロー処理後の密着力が低く、耐熱性が劣っている。同様に、イソシアネート成分に芳香族成分が含まれない比較例2でもリフロー処理後の密着力が低く、耐熱性が劣っている。また、芳香族成分の合計が50モル%を超える比較例3では、密着力は良好であるが摺動屈曲性が悪い。
【0054】
(実施例4〜8)
ウレタン変性ポリエステル樹脂の重合度を変えることで、水酸基価の異なるウレタン変性ポリエステル樹脂を作製した。この樹脂を用いて、実施例1〜3と同様に導電性ペーストを作製し、リフロー処理後の密着力、摺動屈曲性、体積固有抵抗を評価した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
ウレタン変性ポリエステル樹脂の水酸基価とリフロー処理後の密着力とは相関しており、水酸基価が大きくなるほど密着力が向上している。水酸基価が5mgKOH/g未満の実施例4では密着力が0.8N/cmであり、やや低い値となっている。また、水酸基価が60mgKOH/gを超える実施例8は、柔軟性に乏しく、摺動屈曲回数がやや低い結果となっている。
【0057】
(実施例9〜13)
表3に記載のように、種々の数平均分子量を持つ多官能ブロックポリイソシアネート化合物を準備した。多官能ブロックポリイソシアネート化合物は、イソシアネートモノマーとポリヒドロキシ化合物とのアダクト型イソシアネートの末端をブロック剤でブロックしたものである。これを硬化剤として用い、実施例1に記載のウレタン変性ポリエステル樹脂と組み合わせて実施例1〜3と同様に導電性ペーストを作製し、リフロー処理後の密着力、摺動屈曲性、体積固有抵抗を評価した。
【0058】
【表3】

【0059】
全てのサンプルにおいて、密着性、摺動屈曲性、比抵抗は要求特性を満たしているが、多官能ブロックポリイソシアネート化合物の数平均分子量が500未満の実施例9では摺動屈曲回数が8万回とやや低い結果となっている。また数平均分子量が3000を超える実施例13では、体積抵抗がやや高くなっている。
【0060】
(実施例14〜18)
実施例1で使用したウレタン変性ポリエステル樹脂と多官能ブロックポリイソシアネート化合物を用い、両者の配合比率を変えることでNCO/OH比率を変えて実施例1〜3と同様に導電性ペーストを作製し、リフロー処理後の密着力、摺動屈曲性、体積固有抵抗を評価した。結果、表4に示すように、NCO/OH比率が0.8未満の実施例14では体積抵抗値がやや高くなっている。これは、NCO/OH比率が低いと架橋密度が低下するからであると推測される。またNCO/OH比率が3.0を超える実施例18ではリフロー処理後の密着力がやや低くなっている。NCO/OH比率が高いと、過剰の硬化剤が残留することで耐熱性が低下するためであると推測される。
【0061】
【表4】

【0062】
(実施例19〜23)
導電性金属粉末として、平均粒径が4.8μmの金属粉末Aと、平均粒径が30nmの金属粉末Bを準備した。金属粉末Aと金属粉末Bの含有比率を変え、実施例1〜3に記載の方法と同様に導電性ペーストを作製し、リフロー処理後の密着力、摺動屈曲性、体積固有抵抗を評価した。この時、金属粉末Aと金属粉末Bとの総重量は、ウレタン変性ポリエステル樹脂の重量とブロックイソシアネートとの重量和を2.333倍した配合とした。
結果、表5記載のように、金属粉末Aと金属粉末Bの含有比率が99.5:0.5未満の実施例19では体積固有抵抗がやや高い結果となっている。また金属粉末Aと金属粉末Bの含有比率が70:30を超える実施例23では特性の向上効果は特に見られない。平均粒径がナノサイズの金属粉末は高価であるので、導電性ペーストの特性とコストを考慮すると、金属粉末Aと金属粉末Bの含有比率は99.5:0.5〜70:30の範囲が好ましい。
【0063】
【表5】

【0064】
(実施例24〜28)
導電性金属粉末として、平均粒径が4.8μmの金属粉末Aと、平均粒径が30nmの金属粉末Bを準備した。ここで、金属粉末Aと金属粉末Bの含有比率は90:10に固定し、金属粉末Aと金属粉末Bとを合計した金属粉末の含有比率を変えて導電性ペーストを作製し、リフロー処理後の密着力、摺動屈曲性、体積固有抵抗を評価した。
結果、表6記載のように、金属粉末含有比率が50重量%未満の実施例24では体積抵抗がやや高い結果となっている。また、金属粉末含有比率が85重量%を超える実施例28では、摺動屈曲性能がやや低い。金属粉末含有比率が高すぎると柔軟性が劣るからであると推測される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の電磁波シールドフィルムの断面模式図である。
【図2】本発明の電磁波シールドフレキシブルプリント配線板の断面模式図である。
【符号の説明】
【0066】
1 基材
2 導電性ペースト層
3 保護フィルム
4 基材
5 銅箔
6a カバーレイフィルム
6b カバーレイ接着剤
7 フレキシブルプリント配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属粉末、ウレタン変性ポリエステル樹脂、及びブロックイソシアネートを含有する導電性ペーストであって、
前記ウレタン変性ポリエステル樹脂は、酸成分、アルコール成分、及び芳香族イソシアネートを含むイソシアネート成分を反応させて得られ、
前記酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分に含まれる芳香族成分の合計が、前記酸成分、アルコール成分、イソシアネート成分の合計に対して5モル%以上50モル%以下であることを特徴とする、導電性ペースト。
【請求項2】
前記ウレタン変性ポリエステル樹脂の水酸基価が、5mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であることを特徴とする、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記ブロックイソシアネートは、数平均分子量が500以上3000以下であり、イソシアネートモノマーとポリヒドロキシ化合物とのアダクト型イソシアネートの末端をブロック剤でブロックした多官能ブロックポリイソシアネート化合物である、請求項1又は2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記ウレタン変性ポリエステル樹脂と、前記ブロックイソシアネートの混合比は、前記ウレタン変性ポリエステル樹脂の水酸基(OH)と、前記ブロックイソシアネートのイソシアネート基(NCO)とのモル比率(NCO/OH)換算で0.8以上、3.0以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記導電性金属粉末は、平均粒径が0.5μm〜20μmの金属粉末Aと、平均粒径が100nm以下の金属粉末Bとからなり、金属粉末Aと金属粉末Bの含有比率が、重量比で99.5:0.5〜70:30であると共に、前記導電性金属粉末の含有比率が、導電性ペーストの固形分量に対して50重量%以上85重量%以下であることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性ペーストからなる層を基材上に有する、電磁波シールドフィルム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性ペーストからなる層を有する、電磁波シールドフレキシブルプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−118280(P2010−118280A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291596(P2008−291596)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】