説明

導電性回路の製造方法

【課題】低温処理型の導電性インキを使用し、かつ、スクリーン印刷によって高精細な導電性パターンを形成することが可能であり、さらに、特殊な製造工程を必須とせず、かつ、抵抗値安定性に優れた導電性回路の製造方法を提供する。
【解決手段】上部基板2側の透明電極7端部に、多数本の高強度ステンレス線で構成される経線群及び同様の緯線群とからなる綾織のメッシュ織物が、枠体内に張設され、開口部を有するスクリーン印刷版と、スキージとを用い、導電性インキをスクリーン印刷・硬化し、低抵抗の導電性インキパターン層3を形成する。次いで、導電性インキ層3及びその近傍の上部基板2、透明電極7端部上に、絶縁層4を形成し、絶縁レジスト付き積層体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性インキを用いて得られる導電性回路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、電磁波シールド用の薄膜形成手段あるいは導電回路の形成手段として、一般的に、エッチング法および印刷法が知られている。エッチング法とは、金属の表面や形状を、化学あるいは電気化学的に溶解除去し、その表面処理を含めた広義の加工技術の意である。エッチングは、化学加工の一種であり、主に金属膜に希望のパターン形状を得るために行われるが、一般的に工程が煩雑であり、また後工程で廃液処理が必要であるため、費用もかかり問題が多い。また、エッチング法によって形成された導電回路は、アルミニウムや銅など金属材料等で形成されたものであるため、折り曲げ等の物理的衝撃に対して弱いという問題がある。
【0003】
そこで、これらの問題を解決してより安価に導電回路を形成するために、導電性インキが注目を集めている。導電性インキを印刷することにより、容易に導電回路を形成できる。さらに電子部品の小型軽量化、生産性の向上、低コスト化の実現が期待できるので、導電性インキについての研究開発が精力的になされ、多くの提案がなされている。また、ファインパターンを印刷する印刷部材についても多くの提案がなされている。(例えば、特許文献1〜11)。
【0004】
特許文献1には、溶剤吸収層を形成し、その上層に導電ペーストをスクリーン印刷する熱圧着接続部材の製造方法が記載されている。
特許文献2には、表面を粗面化した基材に対して、特定の平均粒径と最大粒径を持つ球状または粒状の金属粒子を含む導電インキを用い、印刷することにより高精細導電回路を形成する技術が開示されている。
特許文献3には、高精細なカラーフィルター等を形成するために、TI値(チキソインデックス、チキソ指数)を制御するスクリーン印刷用インキが開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、タップ密度が2.5〜6g/cm3の範囲内であり、かつ、平均粒径が0.02〜1μmの範囲である導電性粉体を60〜90重量%の範囲で含有し、有機成分を10〜40重量%の範囲で含有する平版オフセット印刷用途の導体インキが開示されている。
特許文献5には、平均粒径が20μm以下の銅粉又は銀めっきした銅粉、熱可塑性樹脂、添加剤および密着性向上剤としてシラン系カップリング剤を導電性塗料の固形分に対し0.001〜5.0重量%の範囲で含む有機溶媒中に分散させた導電性塗料が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献6には、ポリイミド基板に対して高い密着性を有し、耐折り曲げ性、耐溶剤性の良好な導電性ペーストを提供するために、アルミニウム化合物およびシランカップリング剤を1種又は2種以上含むバインダー樹脂を用いる導電性ペーストが開示されている。
【0007】
特許文献7には、導電性、耐マイグレーション性および高温多湿下で長時間電界を印加した後の導体の抵抗変化率に優れ、かつ銀色又は銀白色を呈し、基材がPETフィルムである場合にも基材の収縮・変形を惹起させない導電ペーストを提供するために、OH基を含む熱可塑性樹脂、鱗片状の複合導電粉、鱗片状の銀粉および溶剤を含有する導電ペーストが開示されている。
【0008】
また、特許文献8には、良好な導電性を付与できる導電ペーストを提供するために、扁平状導電紛、不定形状導電紛、熱可塑性合成樹脂および溶剤を含む導電ペーストが開示されている。熱可塑性合成樹脂の例として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等を使用することができることが開示されている。
さらに、特許文献9には、沸点が200〜250℃ の溶剤に、エポキシ当量が500を超えるとともに、分子量が10000を超えるエポキシ樹脂を溶解するとともに、導電性フィラーを分散した導電ペーストが開示されている。
【0009】
特許文献10には、ファインパターンを得るために高い粘度のペーストを用いることができるようにすべく、開口率を高くした印刷用スクリーンが開示されている。
特許文献11には、スクリーン印刷において微細なパターンでもにじみなく、また寸法精度高く行えるようにするメッシュ織物を提供するために、経線および緯線が引っ張り強度2500N/mm以上の高張力ステンレス線にて綾織によって形成されたスクリーン印刷版が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平06−68924号公報
【特許文献2】国際公開第2003/103352号
【特許文献3】特開2003−238876号公報
【特許文献4】特開2001−234106号公報
【特許文献5】特開2005−29639号公報
【特許文献6】特開2006−310022号公報
【特許文献7】特開2003−68139号公報
【特許文献8】特開2003−331648号公報
【特許文献9】特開2005−183301号公報
【特許文献10】特開平08−238862号公報
【特許文献11】特開2009−149024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、導電性インキに求められる特性、性能は厳しく、より優れた導電性インキが求められている。
【0012】
導電性インキは、上記特許文献4のような高温焼成型と、低温処理型に分類することができる。高温焼成型は、導電パターンを形成する際に基材や電子部品に高温を加えるので、電子部品にダメージを与えたり、熱収縮などによる問題が生じやすい。このため、近年においては、低温処理型の需要が急速に高まっている。
また、製品の歩留まり向上、製造コスト低減の観点から、製造工程の簡便化が求められている。このため、上記特許文献1のように溶剤吸収層を設ける工程や、上記特許文献2のように基材の粗面化工程を行う工程を経ずに印刷できる導電性インキが求められている。
【0013】
また、近年においては、導電性インキの印刷の高精細化も求められている。例えば、導電回路パターンの高精細化に対応すべく、100μm以下の幅のライン/スペース(100μm以下/100μm以下)(以下、「L/S」と略記する)の形成が可能なパターン性能が求められている。また、携帯電話、ゲーム機等の携帯端末の小型化、タッチスクリーンパネルの導入等により、導電回路パターンの高精細化は更に進んでおり、より微細な60μm以下の幅のL/S(60μm以下/60μm以下)の形成が可能なパターン性能も求められている。
【0014】
導電性インキの印刷方式には、特許文献4のような平版オフセット印刷法や、スクリーン印刷法などが知られている。このうち、スクリーン印刷法によれば、数μm以上の厚みの印刷パターンを確保することが可能である。一方、平版オフセット印刷法などの他の方法によれば、1〜2μm程度の厚みの印刷パターンを形成するのが限界となる。このため、スクリーン印刷法は、導電性回路等の導電パターンの低抵抗化を実現するために好適である。
【0015】
しかしながら、スクリーン印刷法は、特許文献4にも記載されているように、本来、高精細な印刷精度が求められる用途・分野には不向きではあるという問題がある。これは、スクリーン印刷法は、スクリーン刷版上にスクリーン印刷インキを盛り、スキージ等で押圧しながら、スクリーン刷版の開口部の網目を通して印刷インキを印刷する方法であることによる。つまり、スクリーン印刷法は、スキージ等で押圧することでスクリーン刷版を撓ませ、印刷する方法であることによる。このため、スクリーン印刷法によって、例えば、100μm以下のL/Sの配線パターンを形成しようとしても、目標とする線幅よりも印刷物の線幅が大きくなるのが実情である。その結果、隣り合う配線同士が接近したり、接触したりするという問題や、配線のエッジ部が滲んで境界線が不明瞭になる等の問題が生じてしまう。
【0016】
このような問題が生じる理由は、一般的な印刷インキに比して導電性インキに含有される導電性粒子の比重が大きく、かつ大量に含有しているためである。導電性インキをスクリーン版の開口部から通過させ、基材に転移後、乾燥・固化するまでの間に、導電性粒子自身の重量等によって、印刷領域よりも外側にはみ出すように流れて広がり易い。かかる問題は、L/Sの配線パターンが100μm以下に相当する高精細なパターンにおいて特に顕著となる。
【0017】
また、高精細な導電パターン(回路パターン)を印刷するためには、微細なスクリーンメッシュを使用する必要がある。微細なスクリーンメッシュを使用するためには、できるだけ粒径の小さい導電性粒子を使用することが好ましい。しかし、粒径の小さい導電性粒子は、粒径の大きいものに比して、印刷後の乾燥・固化中の導電性インキに含まれる溶剤やバインダー樹脂の動きに乗って流動しやすい。このため、印刷領域より外側にはみ出す、線幅の「太り」現象がより生じ易くなる。
【0018】
また、線幅の「太り」現象対策を講じ、高精細な導電パターンを印刷するために、従来から粘度の高い導電性インキを用いる必要がある。しかし、インキの高粘度化で線幅の「太り」を防止しようとすると、これまでスクリーン印刷版に使用されてきたスクリーン(メッシュ織物)では掠れが生じる。
一般にスクリーンは、メッシュ数が多い場合には細かい線径のものを用い、メッシュ数が少ない場合には太い線径のものが用いられる。具体的にはメッシュ数380本/インチは線径35μm、メッシュ数230本/インチは45μm、メッシュ数120本/インチは63μm等である。これらのメッシュ織物は何れも開口率は50%以下であり、このため、所望のインキ透過量を得るためには高粘度の導電性インキを用いる事が出来ない。高粘度のインキを用いると、インキがスクリーン開口部を透過しにくくなり、十分な量の導電性インキの印刷が出来なくなるからである。このような理由から、従来は70Pa・s程度の粘度の低い導電性インキを使用せざるを得なかったので、線幅の「太り」防止と掠れ防止の両立はできなかった。
【0019】
上記特許文献10には、高粘度のインキを用いることができるようにすべく、開口率を高くしたメッシュ織物が明示されている。具体的にはメッシュ数70本/インチ以上200本/インチ以下と少なくし、且つ線径を16μm以上30μm以下と小さくして開口率お50%以上としている。
開口率が大きいので、掠れ防止には効果的ではあるが、線幅が「太り」易く、高精細印刷には不向きである。
【0020】
上記特許文献11には、高強度の緯線・経線からなるメッシュ織物が開示されている。しかし、特許文献11に記載されるようなメッシュ織物を用いたスクリーン印刷版に、低弾性もしくは低粘度のインキを適用した場合、線幅が「太り」易く、高精細印刷には不向きである。
【0021】
また、近年において携帯電話、ゲーム機等の携帯端末、パーソナルコンピュター等に多く使用されているタッチスクリーンパネルに使用される導電回路パターンに要求される項目としては、前述の高精細性のみならず、抵抗値安定性も挙げられる。タッチスクリーンパネルの方式には各種あり、光学方式、超音波方式、抵抗膜方式、静電容量方式、圧電方式等が挙げられる。これらのうち、構造の単純さ等から抵抗膜方式が最も多く用いられている。抵抗膜方式のタッチパネルは、透明導電膜が形成された二枚の透明導電基板がおよそ10〜150μmの間隔を開けて対向配置されている。指、ペン等でタッチした部分において、両透明電極基板が接触してスイッチとして作動し、ディスプレイ画面上のメニューの選択、手書き文字の入力等を行うことが出来る。
【0022】
抵抗膜方式のタッチスクリーンパネルの構造を更に詳細に説明する。
例えば、透明なプラスチックフィルム上に錫をドープした酸化インジウム(以下、ITOという)によりプラスチックフィルムが部分的に露出するように透明導電膜が設けられ、このプラスチックフィルム及び透明導電膜の上に導電性インキを用いて導電性回路(導電パターンともいう)が形成される。そして、導電性回路の上に絶縁層が形成され、透明導電性基板となる。次いで、透明導電膜同士が直に接触ないような間隔を開け、向かい合うような状態で、2枚の透明導電性基板が、両面粘着剤で貼り合わされる。
【0023】
しかしながら、高温高湿環境にタッチパネルが曝されると、その後端子間抵抗値、即ち、2枚の透明導電性基板間の抵抗値が上昇するという問題がしばしば発生する。導電性インキの抵抗値の安定性に大きな問題があった。例えば、カーナビ等に用いられる車載用のタッチパネルは、高温高湿環境下に曝されることがあり、このような環境負荷に対するタッチパネルの耐久性の向上が求められている。
【0024】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、いわゆる高温焼成型ではなく、低温処理型の導電性インキであって、かつ、スクリーン印刷によって高精細な導電性パターンを形成することが可能であり、さらに、特殊な製造工程を必須とせず、かつ、抵抗値安定性に優れた導電回路の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、
タップ密度が1.0〜10.0(g/cm)、D50粒子径(50%粒子径)が0.3〜5μm、BET比表面積0.3〜5.0m/gの導電性粒子と、数平均分子量(Mn)が10,000〜300,000であり、水酸基価2〜300(mgKOH/g)のエポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂中の水酸基とアルコール交換反応が可能である金属キレートとを含有する導電性インキと、
引っ張り強度2500N/mm以上の多数本の高強度ステンレス線で構成される経線群と、引っ張り強度2500N/mm以上の多数本の高強度ステンレス線で構成される緯線群とからなる綾織のメッシュ織物が、枠体内に張設され、開口部を有するスクリーン印刷版と、
スキージとを用い、
前記スクリーン印刷版上にスキージを当接させて揺動し、前記スクリーン印刷版上に置かれた前記導電性インキを、前記開口部から押し出し、被印刷体に転移させる、
ことを特徴とする導電性回路の製造方法に関する。
【0026】
前記のいずれかの発明において、綾線のメッシュ織物の開口部が50%以下であるスクリーン印刷版を用いることが好ましい。
【0027】
前記のいずれかの発明において、スクリーン印刷版と、スキージの導電性インキに作用する作用面との成す角度(以下、アタック角度という)が、30〜50°であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る導電性回路の製造方法によれば、いわゆる高温焼成型ではなく、低温処理型の導電性インキを使用し、かつ、スクリーン印刷によって高精細な導電性パターンを形成することが可能であり、さらに、特殊な製造工程を必須とせず、かつ、抵抗値安定性に優れた導電性回路を提供することできるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の導電性インキを配線構造に適用した抵抗膜式タッチスクリーンパネルの一例の要部の概略断面構成図であり、図2のA−A’切断線に相当する。
【図2】本発明の導電性インキを配線構造に適用して好適な抵抗膜式タッチスクリーンパネルの積層状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書において「任意の数A〜任意の数B」なる記載は、数Aおよび数Aより大きい範囲であって、数Bおよび数Bより小さい範囲を意味する。
本発明の導電性インキは、タップ密度が1.0〜10.0(g/cm)、D50粒子径が0.3〜5μm、BET比表面積0.3〜5.0m/gの導電性粒子と、数平均分子量(Mn)が10,000〜30,0000であり、水酸基価2〜300(mgKOH/g)のエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂中の水酸基とアルコール交換反応が可能であり、前記エポキシ樹脂100重量部に対して0.2〜20重量部の金属キレートとを含有するものである。
【0031】
本発明の導電性インキに用いる導電性粒子としては、例えば金、銀、銅、銀メッキ銅粉、銀−銅複合粉、銀−銅合金、アモルファス銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モルブテン、白金等の金属粉、これらの金属で被覆した無機物粉体、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム等の金属酸化物の粉末、これらの金属酸化物で被覆した無機物粉末、おとびカーボンブラック、グラファイト等を用いることができる。これらの導電性粒子は、1種または2種以上組み合わせて用いても良い。これらの導電性粒子のなかでも、コスト、高導電性で酸化による抵抗率の上昇が少ないことから銀が好ましい。
【0032】
この導電性粒子の形状は、上記特性を満たしていれば特に限定されず、不定形、凝集状、鱗片状、微結晶状、球状、フレーク状等を適宜用いることができる。高精細パターンの印刷性の観点や導体パターンの基材への密着性の観点から、粒径の小さな球状のものや、凝集状のものであっても、凝集体として比較的小さいものが好ましい。
本発明に係る導電性インキに用いられる導電性粒子は、タップ密度が1.0〜10.0(g/cm)であり、好ましくは2.0〜10.0(g/cm)であり、より好ましくは2.0〜6.0(g/cm)の範囲である。
また、導電性粒子のD50粒子径は0.3〜5μmであり、0.3〜1.2μmの範囲であることが好ましく、0.3〜1μmの範囲であることがさらに好ましい。
また、BET比表面積は0.3〜5.0m/gであり、0.8〜2.3m/gの範囲であることが好ましく、0.8〜2.0m/gの範囲であることがさらに好ましい。
【0033】
導電性粒子のタップ密度が1.0(g/cm)未満であると、導電性粒子が嵩高くなり、導電性粒子間に空隙が大きくなるため、導電性粒子同士の接触点が小さくなり、印刷物の体積抵抗率が大きくなる。また、導電性インキにしたときの分散性が悪くなり、高精細パターンの印刷性が劣る。
一方、タップ密度が10.0(g/cm)を越えると、導電性粒子のコストが高くなり、高精細導電回路の製造コストが高くなる。また、導電性インキにしたときに経時にて導電性粒子が沈殿し易くなる。
【0034】
本発明におけるタップ密度とは、一定容器中に一定量の粉体を上下に加振しながら入れた後の体積当たりの重量をいう。この値が大きいほど充填密度が大きく、導電性粒子としたときの粒子同士の接触点が大きくなるため、良好な導電性を得ることができるが、本発明ではタップ密度が10.0(g/cm)以下の導電性粒子を使用するのが適正である。
なお、タップ密度はJIS Z 2512:2006法に基づいて測定した。具体的には、目盛り付きガラス容器(容量100ml)に、導電性粒子(粉体量100g)を採取し、所定のタッチング装置にてタップストローク3mm、タップ回数100回/分の条件にてタップした。
【0035】
導電性粒子のD50粒子径が0.3μm未満であると、導電性インキにしたときに導電性粒子の分散性が悪くなるために導電性粒子同士の接触不良が生じ、印刷物の抵抗値が大きくなる可能性がある。また、導電性粒子のコストが高くなる。
一方、D50粒子径が5μmを越えると、高精細パターンの印刷性が劣る可能性がある。
なお、導電性粒子のD50粒子径は、島津製作所社製レーザー回折粒度分布測定装置「SALAD−3000」を用いて、体積粒度分布の累積粒度(D50)を測定した。
【0036】
導電性粒子のBET比表面積が0.3m/g未満であると導電性粒子同士の接触点が小さくなり、接触抵抗が大きくなる。
また、BET比表面積が5.0m/gを超えると導電性粒子の表面を被覆するのに多くの樹脂を必要とするため、バインダー樹脂であるエポキシ樹脂に対する濡れが劣り、導電性インキにした場合の流動性が悪くなり印刷塗膜の表面のレベリング性が低下するので好ましくない。また、導電性粒子の表面を被覆するのに多くの樹脂を必要とするため、基材に対する導電パターンの密着性も低下する。
BET比表面積とは、粉体粒子表面に吸着占有面積の分かった分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法であり、不活性気体の低温低湿物理吸着を利用したものがBET法である。BET比表面積は、島津製作所製流動式比表面積測定装置「フローソーブII」を用いて測定した表面積を、以下の式(1)を用いて算出した値と定義する。
式(1) 比表面積(m/g)=表面積(m)/粉末質量(g)
【0037】
本発明の導電性インキは、導電性粒子と後述するエポキシ樹脂との合計100重量%中に、導電性粒子を60〜95重量%含むことが好ましく、70〜95重量%含むことがより好ましく、85〜95重量%含むことがさらに好ましい。導電性粒子が60重量%未満では導電性が十分ではなく、95重量%を越えるとエポキシ樹脂が少なくなり導電性インキの基材への密着性、塗膜の機械強度が低下する恐れがあり好ましくはない。
【0038】
次に、金属キレートについて説明する。本発明において、金属キレートは導電性インキに使用されるエポキシ樹脂(後述)中の水酸基と反応し、スクリーン印刷法における高精細パターンの印刷性に必要なレオロジー特性を付与させるために必要である。かかる金属キレートとしては、金属アルコシドとβ−ジケトンやケトエステル(アセト酢酸エチル等)等のキレート化剤と反応したキレート化合物であり、アルミニウムキレート、ジルコニウムキレート、チタンキレート等が挙げられる。コスト、入手のし易さ等からアルミニウムキレートが好適に用いられる。
【0039】
金属キレートのうち本発明に用いられるアルミニウムキレートとしては、分子量が420以下のものであることが好ましく、アルミニウムのアセチルアセトネート錯体が好ましい。アセチルアセトネート錯体は、アセチルアセトネート基:−O−C(CH)=CH−CO(CH)や、メチルアセトアセテート基:−O−C(CH)=CH−CO−O−CHや、エチルアセトアセテート基:−O−C(CH)=CH−CO−O−C等を有する。本発明に用いられるアルミニウムキレートとしては、これらの基を1分子中に1〜3個有するものが好ましく、アセチルアセトネート基を1〜3個有するか、エチルアセトアセテート基を1〜3個有するアルミニウムキレートがより好ましい。
分子量が420より大きいアルミニウムキレートや、1分子中にアセチルアセトネート基を4個以上有するアルミニウムキレートや、エチルアセトアセテート基を4個以上有するアルミニウムキレートや、更に長鎖のアルキル基を有するアルミニウムキレートは導電性粒子との濡れが阻害されてしまい、抵抗率が上昇する恐れがある。
アルミニウムキレートの代表的なものとしては、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピオネート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテテート)、アルミニウムジn−ブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジイソブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジsec−ブトキシドモノメチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0040】
金属キレートのうち本発明に用いられるジルコニウムキレートとしては分子量が350以上、1,000以下のものが好ましい。更に、ジルコニウムキレートとしては、アセチルアセトネート錯体で、その1分子中にアセチルアセトネート基を1〜4個含み、エチルアセトアセテート基を0〜2個を含むジルコニウムキレートがより好ましい。分子量が350未満のジルコニウムキレートは導電性インキの分散状態が不安定になり、抵抗率が上昇する恐れがある。
ジルコニウムキレートの代表的なものとしては、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0041】
金属キレートのうち本発明に用いられるチタンキレートとしては分子量が250以上1,500以下のものが好ましい。また、チタンキレートの好ましい例としては、(HORO)Ti(ORあるいは(HNRO)Ti(ORで表すことができるようなアルコキシチタンが挙げられる。ここで、RおよびRは炭化水素基である。例えば、ジ−i−プロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、ジ−n−ブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、チタニウム−i−プロポキシオクチレングリコレート、チタニウムステアレート、チタンアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート、ポリチタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等が挙げられる。分子量が250未満のジルコニウムキレートは導電性インキの分散状態が不安定になり、抵抗率が上昇する恐れがある。
【0042】
本発明に用いられる金属キレートの含有量は、後述するエポキシ樹脂100重量部に対して、金属キレートが0.2〜20重量部の範囲であり、2〜10重量部の範囲であることがより好ましい。金属キレートが0.2重量部未満ではスクリーン印刷法における高精細パターンの印刷性に必要な弾性的性質の付与効果が小さく、20重量部を越えると導電性インキの弾性的性質の付与が大きくなりすぎ、スクリーン印刷が出来なくなるとともに、導電性インキの抵抗値が高くなる恐れがある。
【0043】
ここで、スクリーン印刷における導電性インキの粘度について説明する。精度の高いスクリーン印刷を行うためには、スクリーンメッシュ、乳剤厚等の印刷諸条件を適宜設定したり、基材を適宜選択したりもするが、とりわけ、スクリーン印刷用インキの粘度について多くの検討がなされてきた。基材へのインキの転移量は、インキのスクリーン開口部からの通過量に大きく依存し、通過量が多くなると細線部分が滲んで、太りが起こりやすくなる。インキの通過量は、インキの粘度が低い方が多くなり、インキ粘度が低すぎる場合は、インキをスクリーン版の開口部から通過させる際、スクリーン版の開口部周辺の裏面にインキが付着してしまうといった不具合が生じ、精度の高い印刷を行うことが出来ない。
【0044】
そこで、インキの通過量を抑えるためにインキ粘度を高くする方法が取られていた。しかし、粘度を高くするだけでは、インキをスクリーン版の開口部から十分に通過させることが難しくなり、精度の高い印刷をすることが出来ない。特に、連続印刷では細線が掠れたり、断線が起こりやすくなる。そこで、精度の高いスクリーン印刷を行うためには、スキージ等によって外力が加えられた際には低粘度化し、外力が加えられない状態では高粘度を維持する特性、いわゆるチキソトロピー性を有することが必要であると一般に言われてきた。
【0045】
スクリーン印刷とスクリーン印刷用のインキのチキソトロピー性との関係に関する従来からの考え方を説明する。スクリーン印刷用インキの印刷時の挙動を考えると、印刷インキはスキージによってローリングと呼ばれる回転運動をしながらスクリーン刷版上を移動し、スクリーンに設けられた所定のパターンの開口部に充填され、開口部を通して基材上に供給されて基材に転移する。高精細な印刷パターンを形成することが可能なスクリーン印刷用インキとしては、充填・転移時には、より低粘度を呈し、基材に転移すると速やかに高粘度化して、基材上で印刷された形状を維持することが必要であると考えられてきた。このインキの充填・転移時の粘度を、回転粘度計による高速回転時の粘度に相当するものと捉える。また、インキに外力が加えられなくなった時点で静止状態となるが、この静止状態における粘度を、回転粘度計による低速回転時の粘度に相当するものと捉える。
【0046】
すなわち、回転粘度計(測定部の形状により、二重円筒型、円錐−円板型、平行円板型等に分けられる)を用いて、異なる回転数で粘度を測定し、回転数と粘度との関係を対数グラフにプロットした際に、各プロット間を結ぶ線が一定の傾きを有する直線となるか、もしくはそれに近い状態を呈するスクリーン印刷用インキが、高精細な印刷パターンを形成することが可能なスクリーン印刷用インキと考えられてきた。
なお、回転粘度計において、いずれの回転数の粘度が上述した高速回転時、および低速回転時粘度に対応するかについての絶対的な指標というものは存在しないが、n回転(低速回転)の10倍〜100倍程度を高速回転とし、高速回転時の粘度と低速回転時の粘度の比を求めて、TI値(チキソインデックス、チキソ指数)として評価するのが一般的である。
【0047】
導電性インキについても同様であり、任意の回転数=剪断速度(/sec)の場合の粘度=剪断応力(Pa)を測定し(いわゆる静的定常流測定)、さらに異なる回転数=異なる剪断速度の場合の粘度=剪断応力(Pa)を求め、両粘度の関係から、チキソトロピー性を評価しているものが多い。
【0048】
一般に合成樹脂等の高分子材料を含有する印刷性インキは、流動(粘性流動)と同時に弾性的な性質(弾性変形)を併せ持つ性質(粘弾性)を有しているが、弾性挙動と比較して粘性挙動の比率が高いので、上記のようにある回転数すなわち定常流で粘性挙動を把握することが多い。
しかし、定常流で測定される粘度は時間とともに大きく変化し、再現性のあるデータが得られないことが多く、回転粘度計で有られるTI値等のデータから、実際のインキの流動性(粘性流動)、さらに印刷性を評価することは難しい。特に、線幅50μmのような高精細な印刷が求められる場合には、単なる粘性流動の把握、制御だけでは不十分である。
【0049】
これまでの導電性インキは、通過量を粘性流動のみ(いわゆる粘度)でコントロールしており、通過量を抑えるために粘度を高くする方法が取られていた。しかし、粘度を高くするだけでは、連続印刷では細線が掠れたり、断線が起こりやすくなる。また、定常流測定において、低剪断速度では粘度が高く、高剪断速度では粘度が低くなる、いわゆるチキソトロピー性のみを付与した導電性インキを用いても、通過量を十分コントロールできず、高精細なパターン(例えば、線幅40μm/配線間の幅60μmのL/Sの導電パターン)の印刷は難しい。
【0050】
そこで、本発明に係る導電性インキは、特定の物性範囲のエポキシ樹脂と金属キレートとを反応させることによって、特定の弾性的性質を付与し、インキの通過量をコントロールした。これによって、高精細な導電パターン(例えば、線幅40μm/配線間の幅60μmのL/Sの導電パターン)の印刷において顕著な効果を発揮する。
【0051】
つまり、本発明の導電性インキは、弾性的性質において、25℃、周波数1(Hz)、振動応力50(Pa)にて、貯蔵弾性率G’が5,000〜5万(Pa)であり、損失弾性率G’’を貯蔵弾性率G’で除した値、tanδが1以下であることが、高精細パターンの印刷性を付与するために必要である。tanδは、0.3以上とすることが好ましい。tanδが0.3未満の場合、貯蔵弾性率G’が50,000を越えることが多く、インキとしての流動性が悪くなり、印刷性に問題が生じる可能性がある。
25℃、周波数1(Hz)、振動応力50(Pa)における貯蔵弾性率G’が5,000Pa未満では弾性が弱く、スクリーンの開口部をインキが通過し、基材に転移した後、所定のパターンの形状を維持することが難しくなり、高精細なパターンの印刷性に劣る。
一方、導電性インキの貯蔵弾性率G’が5万Paを超えると弾性が強くなりすぎ、スクリーン刷版上にてインキがローリングできず、またスクリーンに設けられた所定のパターンに充填しづらくなるために、スクリーン印刷ができない。
貯蔵弾性率G’は、5,000〜30,000であることが好ましく、5,000〜20,000であることがより好ましい。
また、導電性インキのtanδが1を超えると、弾性的性質が少なくなり高精細なパターン印刷性に劣る傾向がある。
導電性インキの粘弾性挙動評価は各方法があるが、正弦振動の周波数を固定し、振動応力を変化させた測定方法が、導電性インキ等の分散系の動的粘弾性を測定する場合には好ましい。
【0052】
次にエポキシ樹脂について説明する。
本発明に用いられるエポキシ樹脂としては、エポキシ基および水酸基を有し、数平均分子量(Mn)が10,000〜300,000であり、好ましくは15,000〜100,000であり、より好ましくは18,000〜100,000であり、さらに好ましくは20,000〜100,000であり、特に好ましいのは20,000〜70,000である。市販品の入手容易性を考慮すると、数平均分子量が15,000〜25,000程度のものが好ましい。製造容易性の点を考慮すると、数平均分子量が100,000以下が好ましく、70,0000以下がより好ましい。
また、水酸基価は2〜300(mgKOH/g)であり、水酸基価は10〜250(mgKOH/g)が好ましく、50〜250(mgKOH/g)がより好ましく、80〜200(mgKOH/g)がより好ましい。
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAD等のビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、いわゆるビスフェノール型高分子エポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂を好適に用いることができる。
ここで、水酸基は後述するように金属キレートのアルコキシ基とアルコール交換反応し、スクリーン印刷法における高精細パターンの印刷性に必要な貯蔵弾性率G’等のレオロジー特性を付与させるため、さらには硬化剤を使用した場合、金属キレートのアルコキシド基との反応に使用した後の余剰の水酸基として反応する官能基として必要である。
【0053】
エポキシ樹脂の数平均分子量(Mn)が10,000未満では、金属キレートを用いても十分な貯蔵弾性率G’が得られず、300,000を超えると貯蔵弾性率G’が高くなりすぎて、スクリーン印刷性に問題が生じ得る。
また、水酸基が2(mgKOH/g)未満では、金属キレートを用いても十分な貯蔵弾性率G’が得られず、水酸基価が300(mgKOH/g)を超えると貯蔵弾性率G’が高くなりすぎて、高精細なパターンのスクリーン印刷性に問題が生じ得る。
【0054】
一般的なビスフェノール型エポキシ樹脂の製造方法には、タフィー法とアドバンスド法、大きく2種類の方法がある。
タフィー法はエピクロルヒドリンと、ビスフェノールAやビスフェノールF等のビスフェノール類とを、必要に応じアルカリ触媒の存在下に所定の分子量まで縮合させる方法である。
アドバンスド法は、ビスフェノール類の両端にエポキシ基を有する、いわゆるビスフェノールA型エポキシモノマーやビスフェノールF型エポキシモノマー等のビスフェノール型エポキシモノマーと、ビスフェノール類とを、必要に応じアルカリ触媒の存在下に所定の分子量まで縮合させたり、あるいは市販されているエポキシ樹脂をエポキシモノマーとして扱い、上記と同様にして、市販のエポキシ樹脂とビスフェノール類とを、必要に応じアルカリ触媒の存在下に、所定の分子量まで縮合させたりする方法である。
本発明で好適に用いられるビスフェノール型高分子エポキシ樹脂は、常法、例えば特開平07−109331号公報、特開平10−77329号公報、特開平11−147930号公報、特開2006−36801号公報等に記載されるように、アルカリ触媒の種類と量、用いる有機溶剤の種類と量、反応温度と時間等を適宜調整することによって得ることができる。
【0055】
本発明に係る導電性インキは、基材上に印刷により導電パターンを形成し、導電パターン付き積層体を製造することができる。この導電パターン付き積層体は、導電パターンを被覆するようにさらに絶縁層を備えることができる。また、この導電パターンの下層側には、導電パターンと電気的に接続された所定のパターンを有する他の導電膜を基材上にさらに形成することができる。無論、導電パターンの上層に他の導電膜を設けてもよく、導電性インキからなるパターンを複数層、積層することも可能である。また、印刷以外の方法により導電パターンを形成したり、塗工することも可能である。
本発明に係る導電性インキにより形成した導電パターンは、ITO層等の透明導電膜と接続する場合に、従来から求められてきた抵抗値安定性を実現することができるので、特に威力を発揮する。従って、本発明に係る導電性インキにより形成した導電パターン付き積層体は、特にタッチスクリーンパネルに好適である。
【0056】
本発明に用いられる上述の特定の物性範囲のエポキシ樹脂は、ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等の他樹脂に比して、タッチスクリーンパネルを高温高湿下に曝露した場合、タッチスクリーンパネルの端子間抵抗値の上昇を抑制するのに有効である。
タッチスクリーンパネル用の積層体において、導電性インキにより形成した導電パターン(以下、「導電性インキパターン」とも云う)と透明導電膜とは、透明導電膜としてITO層を用いた場合、ITO層/導電性インキパターン/絶縁層/粘着剤層、又はITO層/導電性インキパターン/粘着剤層という積層構成となる。
【0057】
ITO層への導電性インキパターンの密着性が著しく悪い場合、高温高湿下に曝露するまでもなく、セロハンテープによる密着性試験でITO層から導電性インキパターンが剥がれる。場合によっては、セロハンテープを使うまでもなく、剥がれる・BR>アともある。
ITO層への導電性インキパターンの密着性が少々改良されると、初期状態ではITO層に密着しているが、高温高湿下に曝露後、密着性試験をすると導電性インキパターンがITO層から剥がれる。
ITO層への導電性インキパターンの密着性がもう少し改良されると、高温高湿下に曝露後、密着性試験をしても、導電性インキパターンがITO層から剥がれなくなる。ところが、上記特性が得られた場合であっても、導電性インキパターンに絶縁層や粘着剤が接している状態で高温高湿下に曝露させた後、絶縁層等の上から密着性試験をすると、絶縁層と一緒に導電性インキパターンがITO層との界面から剥がれやすくなる。このため、ITO層/導電性インキパターン/絶縁層の積層構造を有する場合、密着性のさらなる改良が必要となる。
【0058】
ITO層/導電性インキパターン/絶縁層の積層構造を有するタッチスクリーンパネル用積層体形成用の導電性インキにおいては、導電性インキパターンに絶縁層や粘着剤が接している状態で高温高湿下に曝露しても、絶縁層等の上からの密着性試験によって、絶縁層と一緒に導電性インキパターンがITO層から剥がれないことが求められる。
タッチスクリーンパネルの用途が広がり、要求性能が高まってくると、高温高湿下に曝露しても、端子間抵抗値ができるだけ上昇しないことが従来以上に強く求められる。
【0059】
ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等の他樹脂を用いた導電性インキにおいては、高温高湿下に曝露すると、曝露前に比して端子間抵抗値が大きく上昇するという問題があった。
一方、本発明に係る導電性インキを用いることにより、端子間抵抗値の上昇を小さくすることができる。これは、上述の特定の物性範囲のエポキシ樹脂を用いたことによるものである。すなわち、本発明に係る導電性インキにより、従来より抵抗値安定性に特に問題のあったITO層/導電性インキパターン/絶縁層の積層構造を有する導電パターン付き積層体において、良好な抵抗値安定性が得られることがわかった。
【0060】
なお、上記においては、透明導電膜としてITO膜を用いる例を述べたが、酸化インジウム・酸化亜鉛(IZO:Indium Zinc Oxide)や、酸化亜鉛(ZnO)などの透明導電膜を適用してもよい。
【0061】
本発明の導電性インキに硬化剤を添加することにより、高温高湿曝露前後での端子間抵抗値の上昇を、更に抑制することができる。
かかる硬化剤としては、エポキシ基や水酸基と反応し得るものが用いられ、エポキシ基と反応するものが好ましい。硬化剤としては、イソシアネート化合物、アミン化合物、酸無水物化合物、メルカプト化合物、イミダゾール化合物、ジシアンジアミド化合物、有機酸ヒドラジド化合物等が挙げられる。
例えば、エポキシ樹脂の水酸基と反応させる場合は、硬化剤としてイソシアネート化合物を用いることができる。
エポキシ樹脂のエポキシ基と反応させる場合は、アミン化合物、酸無水物化合物、メルカプト化合物、イミダゾール化合物、ジシアンジアミド化合物、有機酸ヒドラジド化合物を硬化剤として用いることができる。
【0062】
硬化剤として用い得るイソシアネート化合物としては、非ブロック化イソシアネート、ブロック化イソシアネート等を挙げることができる。
イソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート化合物が好ましい。ポリイソシアネート化合物としては、従来公知の芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、またはこれらのブロック体であるブロック化イソシアネートを使用でき、これらは単種および2種以上を使用してもよい。芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートのオリゴマーなどが挙げられる。
脂肪族ポリイシシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのウレトジオン、トリレンジイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネートからなるコポリマーのイソシアヌレート体が挙げられる。脂環族ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体が挙げられる。ブロック化イソシアネートとしては、ポリイソシアネートがε−カプロラクタム、ブタノンオキシム、フェノール、活性メチレン化合物等でブロックされた従来公知のものを使用することができる。
【0063】
本発明の導電性インキに用いられる硬化剤のうちアミン化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等の脂肪族アミン、N−アミノエチルピペラジン、メンゼンジアミン、イソホロンジアミン、水素添加m−キシレンジアミン等の脂環族アミン、m―キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルソルフォン等の芳香族アミン等が挙げられる。また、これらアミンを変性した、アミンアダクト類、ケチミン類や、ダイマー酸とポリアミンの縮合により生成する、分子中に反応性の一級アミンと二級アミンを有するポリアミド樹脂等も挙げられる。
【0064】
本発明の導電性インキに用いられる硬化剤のうち酸無水物化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、アルキルスチレン−無水マレイン酸共重合体、クロレンド酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、無水メチルナジック酸等が挙げられる。
【0065】
本発明の導電性インキに用いられる硬化剤のうちメルカプト化合物としては、液状ポリメルカプタン、ポリスルフィド樹脂等が挙げられる。
【0066】
本発明の導電性インキに用いられる硬化剤のうちイミダゾール化合物としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物、およびこれらイミダゾール化合物とエポキシ樹脂を反応させて溶剤に不溶化したタイプ、またはイミダゾール化合物をマイクロカプセルに封入したタイプ等の保存安定性を改良した潜在性硬化剤が挙げられる。
【0067】
本発明の導電性インキに用いられる硬化剤のうちジシアンジアミド化合物としては、ジシアンジアミド(DICY)等が挙げられる。
【0068】
本発明の導電性インキは、エポキシ樹脂100重量部に対して、硬化剤を0.5〜50重量部含有することが好ましい。硬化剤が0.5重量部未満では、印刷物に十分な密着性、耐熱性等を付与することができず、50重量部を超えると未反応の硬化剤が導電性インキに残りやすくなり、同様に十分な密着性、耐熱性等を付与することが難しい。
【0069】
本発明の導電性インキには、エポキシ樹脂と硬化剤との熱硬化を促進する硬化促進剤等を含有させることができる。
【0070】
係る硬化促進剤としては、エポキシ樹脂の水酸基とイソシアネート化合物との反応においては、有機錫化合物、アミン化合物等を用いることができる。有機錫化合物としては、例えばスタナスオクタエート(SO)、ジブチルチンジラウレート(DBTDL)等が挙げられる。アミン化合物としては、ジアザビシクロオクタン(DABCO)、N−エチルモルフォリン(NEM)、トリエチルアミン(TEA)、N,N,N’,N'',N''−ペンタメチルジエチルトリアミン(PMDETA)等が挙げられる。
【0071】
また、エポキシ樹脂のエポキシ基と前述した硬化剤との反応においての硬化促進剤としては、ジシアンジアミド、3級アミン化合物、ホスフィン化合物、イミダゾール化合物、カルボン酸ヒドラジド、脂肪族または芳香族ジメチルウレアなどのジアルキルウレア類等が挙げられる。3級アミン化合物としては、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセンー7、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノネン−5等を挙げることができる。ホスフィン化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等を挙げることができる。イミダゾール化合物としては、前述の硬化剤で挙げられたイミダゾール化合物を挙げることができる。例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物、およびこれらイミダゾール化合物とエポキシ樹脂を反応させて溶剤に不溶化したタイプ、またはイミダゾール化合物をマイクロカプセルに封入したタイプ等の保存安定性を改良した潜在性硬化促進剤を挙げることができる。カルボン酸ヒドラジドとしては、コハク酸ヒドラジド、アジピン酸ヒドラジド等を挙げることができる。
【0072】
本発明の導電性インキは、各種溶剤で溶解、希釈する事ができ、固形分としては50〜90重量%であることが好ましい。
希釈用の溶剤は、使用する樹脂の溶解性や印刷方法等の種類に応じて、選択する事ができる。
例えば、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤、脂環族系溶剤、芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、水等の1種または2種以上を混合して用いる事ができるが、これらに限定されるものではない。
例えば、エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、炭酸ジメチル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンベンゼン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、シクロヘキサンノン等が挙げられる。
グリコールエーテル系溶剤としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等、これらモノエーテル類の酢酸エステル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等や、これらモノエーテル類の酢酸エステル等が挙げられる。
脂肪族系溶剤としては、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられる。
芳香族系溶剤としては、トルエン、キシレン、テトラリン等が挙げられる。
【0073】
本発明の導電性インキは、導電性粒子、エポキシ樹脂、金属キレート及び溶剤等を所定の割合で配合してディスパーにて混合、必要に応じて3本ロール等にて混合分散させることにより得ることができる。
【0074】
また、本発明の導電性インキは、必要に応じて分散剤、耐摩擦向上剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、酸化防止剤、有機顔料、無機顔料、消泡剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、保湿剤等を添加することができる。
【0075】
本発明に係る導電性インキは、前述のように貯蔵弾性率G’が7,000〜25,000であることが好ましく、特に目標とするL/Sが50μm以下の場合は、G’は1,5000以上が好ましい。G’が1,5000以上の導電性インキは、弾性的性質の寄与が大きく、インキの流動性が少ないので、印刷時には通常よりも印圧を高くして印刷を行う事が好ましい。また、高弾性インキを用いる場合、版離れの点で版と被印刷物との間の距離であるクリアランスは通常よりも多く取ることが好ましい。
高印圧、高クリアランスで印刷する場合においても、スクリーン印刷版には、寸法安定性、耐破断性等耐久性が必要である。
【0076】
本発明で使用されるスクリーン印刷版は、引っ張り強度2500N/mm以上の多数本の高強度ステンレス線で構成される経線群と、引っ張り強度2500N/mm以上の多数本の高強度ステンレス線で構成される緯線群とからなる綾織のメッシュ織物が、枠体内に張設され、開口部を有するものであり、良好な耐久性を有している。
【0077】
一般に、高精細回路パターンを印刷するためには、高密度に織り込んだメッシュ織物が必要である。高密度にするには経線と緯線の両方の線を細くしなければならない。これまでの一般的な高密度のメッシュ織物としては、引っ張り強度600〜1500N/mmのステンレス線が使用され、例えばメッシュ数が500メッシュの場合には19μmの線径が、640メッシュの場合には15μmの線径が、840メッシュの場合には11μmの線径が使用されている。
【0078】
しかしながらスクリーン印刷版に使用されている平織構造では、引っ張り強度600〜1500N/mmのステンレス線しか使用できない。平織では隣接する線が周期的に上下に曲がり、メッシュ数が大きくなると上下の各頂点部の曲率も大きくなる。しかし、引っ張り強度の高い線は硬いため、細かく織ると、線上下の曲率の大きな部分でクラックが入ってしまう。そこで、引っ張り強度2500N/mm以上の高強度ステンレス線を使用する場合は、綾織(径線と緯線が2本以上ずつ組み合わさったもの)により構成することで、経線と緯線の上下に波打つ周期が平織の場合よりも大きいため、同じメッシュ数であっても各線の曲率が小さくなりクラックが入りにくくなる。これにより、平織の場合よりもより多くのメッシュ数にして、開口率の低い細かな目を有し、耐久性が良好なメッシュ織物を得ることができる。なお、導電回路パターンの高精細化に対応すべく高密度なメッシュ数、特に400〜650メッシュ数程度の高密度なメッシュのスクリーンを用いることが好ましい。
【0079】
メッシュ織物の開口率は50%以下が好ましく、35〜50%がさらに好ましい。開口率が50%を越えると高精細回路パターン印刷を行った場合、線の太り、にじみが出やすくなる。また、経線および緯線の線径は14〜20μmであることが好ましい。線径が14μm未満では開口率が50%を越えるものが多くなる。また、線形が20μmを越えると開口率が35%未満のものが多くなり、高精細回路パターン印刷を行った場合、掠れやすくなる。なお、メッシュ織物の開口率は以下の式(2)を用いて算出した値と定義する。
式(2) 開口率(%)=(1−(A/25.4)×B)×100
但し、Aはメッシュ数(本/インチ)、Bは線径(mm)、経線と緯線は同径。
【0080】
本発明の導電性インキと、前記スクリーン印刷版と、スキージを用い、前記スクリーン印刷版上にスキージを当接させて揺動し、戦記スクリーン印刷版上に置かれた前記導電性インキを前記開口部から押し出し、被印刷体に転移させることにより、導電性回路を形成する。前記スクリーン印刷版と、スキージの導電性インキに作用する作用面との成す角度(アタック角度)は、30〜45°であることが好ましい。
【0081】
一般にスクリーン印刷では、アタック角度は50〜80°である。アタック角度は導電性インキをスクリーン印刷版の開口部から押し出す力と関係し、同じ印圧においてもアタック角度が小さい方が導電性インキを押し出す力(下方向への力)の作用が大きくなる。通常の低粘度導電性インキにおいては、アタック角度は70〜80°程度の大きな角度においても、導電性インキをスクリーン印刷版の開口部から押し出す力の作用は十分であり印刷は可能であるが、貯蔵弾性率の高い導電性インキでは、開口部からインキを押し出す力が不十分となり印刷時にかすれが生じやすくなる。アタック角度を30〜50°にすることにより、貯蔵弾性率の高い導電性インキにおいても開口部からインキを押し出す力の作用が大きくなり、十分な量の導電性インキがスクリーンを透過し、掠れが生じにくくなる。
【0082】
本発明で使用されるスキージは、素材としてはウレタンゴム製が好ましく、ゴム硬度としては60〜90°のものが好ましい。形状としては平スキージ、角スキージ、剣スキージ、先端片カットスキージ、先端両カットスキージ等であり、特に限定されないが、アタック角度の設定容易さ、設定範囲の広さ、スキージエッジの状態(尖状度合い)の点より先端両カットスキージが好ましい。
【0083】
本発明に係わる導電回路パターンとしては、各種配線パターン、電極パターン等であり、特に限定されない。導電性回路パターンは、電子部品の回路基板の配線に好適に用いることができる。
【0084】
本発明の導電性インキを用い、各種印刷法により基材上に印刷することにより、高精細な導電パターンを形成することができる。導電パターンとしては、導電性回路パターン、各種配線パターン、電極パターン等であり、特に限定されない。導電性回路パターンは、電子部品の回路基板の配線に好適に用いることができる。
【0085】
基材フィルムとしては、特に限定されるものではなく、例えばポリイミドフィルム、ポリパラフェニレンテレフタルアミドフィルム、ポリエーテルニトリルフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等が挙げられる。
また、基材フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのポリエステルフィルム、ポリカーボネート、ポリエーテルサルホン、アクリル樹脂等の高分子フィルム上にITO層をスパッタリング、ウェットコート等により形成したいわゆるITOフィルム、ITO層をガラス上に形成したITOガラス等を用いてもよい。また、セラミック、ガラス基材等も用いることができる。特にタッチスクリーンパネルにおいては、ポリエスエルフィルム上にITO層を形成したITOフィルム、ガラス上にITO層を形成したITOガラスが多く用いられる。
【0086】
また、必要に応じ、本発明に係る導電性回路パターンである高精細パターン配線の印刷性をさらに向上させる目的で、基材にアンカーコート層を設け、このアンカーコート層上に導電性インキを印刷することもできる。アンカーコート層は、基材との密着性、更には導電性インキの密着性が良好であれば、特に限定させず、また樹脂ビーズ等の有機フィラーや金属酸化物等の無機フィラーも必要に応じ添加することができる。アンカーコート層を設ける方法も特に限定されず、従来公知の塗工方法にて塗布、乾燥、硬化して得ることができる。
【0087】
本発明の導電性インキは、特にスクリーン印刷に好適に適用することができるが、従来公知の種々の印刷法に適用してもよい。スクリーン印刷法においては、導電回路パターンの高精細化に対応すべく微細なメッシュ、特に好ましくは400〜650メッシュ程度の微細なメッシュのスクリーンを用いることが好ましい。この時のスクリーンの開放面積は約20〜50%が好ましい。スクリーン線径は約10〜70μmが好ましい。
スクリーン版の種類としては、ポリエステルスクリーン、コンビネーションスクリーン、メタルスクリーン、ナイロンスクリーン等が挙げられる。また、高粘度なペースト状態のものを印刷する場合は、高張力ステンレススクリーンを使用することができる。
スクリーン印刷のスキージは丸形、長方形、正方形いずれの形状であっても良く、またアタック角度(印刷時の版とスキージの角度)を小さくするために研磨スキージも使用することができる。その他の印刷条件等は従来公知の条件を適宜設計すればよい。
【0088】
本発明に係る導電性インキは、基板等の基材上に印刷後、加熱して乾燥・固化させる。また、導電性インキに硬化剤を添加している場合は、これを硬化させる。
硬化剤を含有しない場合は、溶剤の十分な揮発のため、また、硬化剤を含有する場合は、溶剤の十分な揮発および硬化剤とエポキシ樹脂との反応のために、加熱温度は80〜230℃、加熱時間としては10〜120分が好ましい。これにより、導電パターン付き積層体を得ることができる。導電パターン付き積層体は、必要に応じて、導電パターンを被覆するように、絶縁層を設けることができる。絶縁層としては、特に限定されず、公知の絶縁層を適用することができる。また、導電パターン付き積層体は、他の層に形成された導電膜と電気的に接続する構成とすることができる。例えば、ITO膜等の透明導電層と本発明に係る導電性インキから形成した導電パターンとを当接させて電気的に接続する構成とすることができる。
【0089】
本発明に係る導電パターン付き積層体は、特にタッチスクリーンパネルの透明電極上に配線構造を形成する際に好適に用いることができる。
ここで、本発明の導電性インキを抵抗膜方式のタッチスクリーンパネルに適用した場合の一例を図1及び図2を用いつつ説明する。なお、本図1、2は抵抗膜式タッチスクリーンパネルの簡易的な概念図であり、配線の本数、配線幅、配線と配線の間隔は概念図として表している。なお、図2では、三層の中間、粘着材5の位置に視点を置き、下部基板1側は見下ろす状態で、上部基板2側は見上げる状態で各基板側の積層状態を模式的に示した。
【0090】
タッチスクリーンパネルは、ガラス又はプラスチックフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリカーボネートフィルム等)の基材からなる下部基板1及び上部基板2を具備する。下部基板1及び上部基板2上には、ITO等の透明電極6,7がそれぞれ部分的に形成されている。その結果、下部基板1及び上部基板2と、透明電極6,7とがそれぞれ露出することとなる。
そして、下部基板1上の透明電極6の両端部には、導電性インキパターン層3からなる下側駆動電極13,14がそれぞれ形成されている。導電性インキ層3は、絶縁層4によって被覆されている。導電性インキパターン層3は、図1に示すように、基材1、ITO等の透明電極6、そして絶縁層4に接する。
同様に上部基板2上の透明導電7の両端部にも、導電性インキ層3からなる上部駆動電極9,10がそれぞれ形成されている。
【0091】
具体的には、上部基板2側の透明電極7端部に、本発明の導電性インキを用い、スクリーン印刷し、乾燥・硬化し、低抵抗の導電性インキパターン層3を形成する。次いで、導電性インキ層3及び該導電性インキパターン層3の近傍の上部基板2、透明電極7端部の上に、絶縁レジスト(図示省略)をスクリーン印刷等により印刷する。その後、乾燥・硬化し、絶縁層を形成し、本発明の絶縁レジスト付き積層体を形成する。下部基板1側も同様である。
【0092】
下部基板1上に設けられた透明電極6上の適所には、本来の目的である入力の時以外に透明電極6、7とが接触することを防ぐために、図1に示すように透明電極6上の適所には、微小なドットスペーサー8が一定の間隔で設けられる。
そして、本来の目的である入力の時以外に透明電極6、7とが接触しないように、一定の間隔(例えば、10〜150μmの間隔)を開け(図1参照)、下部基板1側の絶縁層4と上部基板2、下部基板1と上部基板2、下部基板1と上部基板2側の絶縁層4が、それぞれ粘着材5により貼り合わされ、積層される。粘着材5は、額縁状に配置することができる。また、図2に示されるように、下部基板1側の駆動電極13,14と、前記上部基板2側の上側駆動電極9,10とは、平面視上において直交するように形成され得る。
更に、前記上部基板2側の駆動電極9,10には、接続電極11,12がそれぞれ導電性接着剤で接続されている。同様に、前記下部基板1側の駆動電極13,14には、接続電極15,16に導電性接着剤でそれぞれ接続されている。
【0093】
下部基板1側および上部基板2側のそれぞれに本発明の導電性インキを用いて導電性インキパターン層3を形成したタッチスクリーンパネルは、抵抗値安定性が良好であり、長期間にわたり各種電子機器の機能を切り替える部品として安定して使用できると共に、電気的特性に優れたものである。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例中、「部」、「%」は、それぞれ「重量部」、「重量%」を、水酸基価はKOHmg/gを、それぞれ意味する。
【0095】
(バインダー1)
ジャパンエポキシレジン社製、JER1256(重量平均分子量が57,400,数平均分子量が25,000、エポキシ当量が7,500、水酸基価が190)40部をイソホロン60部に溶解し、不揮発分40%のバインダー(1)溶液を得た。
【0096】
(バインダー2)
ジャパンエポキシレジン社製、JER4250(重量平均分子量が57,600、数平均分子量が24,000、エポキシ当量が8,500、水酸基価が180)40部をイソホロン60部に溶解し、不揮発分40%のバインダー(2)溶液を得た。
【0097】
(バインダー3)
ジャパンエポキシレジン社製、JER1009(重量平均分子量が27,700、数平均分子量が5,200、エポキシ当量が2,500、水酸基価が220)40部をイソホロン60部に溶解し、不揮発分40%のバインダー(3)溶液を得た。
【0098】
(バインダー4)エポキシ樹脂の合成
攪拌機、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、数平均分子量380、エポキシ当量190のビスフェノールA液状エポキシ樹脂100部、水酸基当量114のビスフェノールA59.1部(エポキシ基/水酸基モル比1.015)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート106部を入れた。窒素気流下、100℃に加熱し溶解・均一化した後、触媒として50重量%のテトラメチルアンモニウムクロライド水溶液0.9部を添加し、160℃に温度を上げ、160℃で7時間重合反応を行った。更にイソホロン132部を添加し、不揮発分40%のバインダー(4)溶液を得た。
なお、得られたエポキシ樹脂は固形分あたり、重量平均分子量が145,000、数平均分子量が54,000、エポキシ当量が16,500、水酸基価が194を有するものであった。
【0099】
(バインダー5)エポキシ樹脂の合成
攪拌機、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、数平均分子量380、エポキシ当量190のビスフェノールA液状エポキシ樹脂100部、水酸基当量114のビスフェノールA57.6部(エポキシ基/水酸基モル比1.041)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート105部を入れた。窒素気流下、100℃に加熱し溶解・均一化した後、触媒として50重量%のテトラメチルアンモニウムクロライド水溶液0.7部を添加し、160℃に温度を上げ、160℃で7時間重合反応を行った。更にイソホロン131部を添加し、不揮発分40%のバインダー(5)溶液を得た。
なお、得られたエポキシ樹脂は固形分あたり、重量平均分子量が51,600、数平均分子量が17,000、エポキシ当量が6,900、水酸基価が185を有するものであった。
【0100】
(バインダー6)エポキシ樹脂の合成
攪拌機、温度計、コンデンサー、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、数平均分子量380、エポキシ当量190のビスフェノールA液状エポキシ樹脂100部、水酸基当量114のビスフェノールA57.4部(エポキシ基/水酸基モル比1.045)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート128部を入れた。窒素気流下、100℃に加熱し溶解・均一化した後、触媒としてトリプロピルアミン0.4部を添加し、160℃で7時間重合反応を行った。更に反応系内の温度を70℃に下げた後、フェニルイソシアネート35部、ジブチル錫ジラウレート0.04部を仕込み、100℃間で昇温後6時間反応させた。更にイソホロン161部を添加し、不揮発分40%のバインダー(6)溶液を得た。
なお、得られたエポキシ樹脂は固形分あたり、重量平均分子量が60,500、数平均分子量が27,000、エポキシ当量が8,800、水酸基価が92を有するものであった。
【0101】
(バインダー7)ポリエステル樹脂の合成
攪拌機、温度計、精留管、窒素ガス導入管、減圧装置を備えた反応装置にテレフタル酸ジメチル20.3部、イソフタル酸ジメチル20.3部、エチレングリコール12.9部、ネオペンチルグリコール18.2部、及びテトラブチルチタネート0.03部を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら180℃まで徐々に加熱し、180℃で3時間エステル交換反応を行なった。ついで、セバシン酸28.3部を仕込み180〜240℃まで徐々に加熱し、エステル化反応を行なった。240℃で2時間反応し、酸価を測定し、15以下になったら反応缶を徐々に1〜2トールまで減圧し、所定の粘度に達した時、反応を停止し取り出し、重量平均分子量が52,900、数平均分子量が23,000、水酸基価が5、酸価が1のポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂40部をイソホロン60部に溶解し、不揮発分40%のバインダー(7)溶液を得た。
【0102】
(バインダー8)ポリウレタン樹脂の合成
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イソフタル酸と3−メチル−1,5ペンタンジオールとから得られるポリエステルポリオール((株)クラレ製「クラレポリオールP−2030」、Mn=2033)127.4部、ジメチロールブタン酸4.2部、イソホロンジイソシアネート19.2部、及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート32.5部を仕込み、窒素気流下にて90℃で3時間反応させ、ついでジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート115部を加えて、重量平均分子量が48,600、数平均分子量が18,000、水酸基価が4、酸価が10のポリウレタン樹脂の溶液を得た。ポリウレタン樹脂の溶液100部にイソホロン26部を加え、不揮発分40%のバインダー(8)溶液を得た。
【0103】
なお、バインダー(1)〜(8)の重量平均分子量、数平均分子量、エポキシ当量、酸価および水酸基価は以下の方法に従って求めた。
【0104】
<重量平均分子量、数平均分子量の測定>
装置:GPC(ゲルパーミッションクロマトグラフィー)
機種:昭和電工(株)製 Shodex GPC−101
カラム:昭和電工(株)製 GPC KF−G+KF805L+KF803L+KF8 02
検出器:示差屈折率検出器 昭和電工(株)製 Shodex RI−71
溶離液:THF
流量 :サンプル側:1mL/分、リファレンス側:0.5mL/分
温度 :40℃
サンプル:0.2%THF溶液(100μLインジェクション)
検量線:東ソー(株)製の下記の分子量の標準ポリスチレン12点を用いて検量線を作成した。
F128(1.09X10)、F80(7.06X10)、F40(4.27X10)、F20(1.90X10)、F10(9.64X10)、F4(3.79X10)、F2(1.81X10)、F1(1.02X10)、A5000(5.97X10)、A2500(2.63X10)、A1000(1.05X10)、A500(5.0X10)。
ベースライン:バインダー(3)以外は、GPC曲線の最初のピークの立ち上がり点を起点とし、リテンションタイム25分(分子量3,150)でピークが検出されなかったので、これを終点とした。そして、両点を結んだ線をベースラインとして、分子量を計算した。
バインダー(3)は、リテンションタイム25分にはまだ主たるピークが検出されていた。そこで、主たるピークの低分子量側に連続する複数の小さなピークがほぼ検出されなくなった、リテンションタイム30分(分子量250)を終点として、他のバインダーの場合と同様にベースラインを設定し、分子量を求めた。
【0105】
<エポキシ当量の測定>
JIS K 7236 に準拠して測定した。
<水酸基価、酸価の測定>
JIS K 0070 に準拠して測定した。
【0106】
[銀粉A]
DOWAエレクトロニクス社製球状銀粉(タップ密度5.5g/cm、D50粒子径0.9μm、比表面積0.93m/g)を銀粉Aとした。
【0107】
[銀粉B]
DOWAエレクトロニクス社製球状銀粉(タップ密度4.0g/cm、D50粒子径0.5μm、比表面積1.77m/g)を銀粉Bとした。
【0108】
[銀粉C]
METALOR社製球状銀粉(タップ密度2.2g/cm、D50粒子径0.8μm、比表面積1.40m/g)を銀粉Cとした。
【0109】
[銀粉D]
三井金属社製球状銀粉(タップ密度4.5g/cm、D50粒子径0.25μm、比表面積1.70m/g)を銀粉Dとした。
【0110】
[銀粉E]
福田金属社製フレーク銀粉(タップ密度4.8g/cm、D50粒子径7.9μm、比表面積0.95m/g)を銀粉Eとした。
【0111】
[銀粉F]
三井金属社製球状銀粉(タップ密度0.9g/cm、D50粒子径5.1μm、比表面積1.91m/g)を銀粉Fとした。
【0112】
[銀粉G]
METALOR社製フレーク銀粉(タップ密度6.1g/cm、D50粒子径15.3μm、比表面積0.09m/g)を銀粉Gとした。
【0113】
[銀粉H]
SINO−PLATINUM社製フレーク銀粉(タップ密度2.9g/cm、D50粒子径5.2μm、比表面積5.60m/g)を銀粉Hとした。
【0114】
<銀粉のタップ密度、D50粒子径およびBET比表面積の測定>
1)D50粒子径
島津製作所社製レーザー回折粒度分布測定装置「SALAD−3000」を用いて体積粒度分布の累積粒度(D50)を測定した。
2)タップ密度
JIS Z 2512:2006法に基づいて測定した。
3)BET比表面積
島津製作所製流動式比表面積測定装置「フローソーブII」を用いて測定した表面積より以下の計算式により算出した値を比表面積と定義し記載した。
比表面積(m/g)=表面積(m)/粉末質量(g)
【0115】
[金属キレートA]
アルミキレートとして、川研ファインケミカル株式会社製ALCH(一般式(1)、固形分90%)を金属キレートAとした。
【0116】
一般式(1)
【化1】

【0117】
[金属キレートB]
チタンキレートとして、マツモトファインケミカル株式会社製オルガチックスTC−100(チタンアセチルアセトナート、固形分75%)を金属キレートBとした。
【0118】
[金属キレートC]
ジルコニウムキレートとして、マツモトファインケミカル株式会社製オルガチックスZC−540(ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、固形分45%)を金属キレートCとした。
【0119】
[硬化剤1]
ブロック型ヘキサメチレンジイソシアネート硬化剤、デュラネートMF−K60X(旭化成ケミカルズ社製、固形分60%)を硬化剤(1)とした。
[硬化剤2]
イミダゾール硬化剤、キュアダクトP−0505(四国化成社製、固形分100%)を硬化剤(2)とした。
【0120】
実施例1<導電性インキの調製>
40重量部のエポキシ樹脂を含むバインダー(1)溶液:100重量部と、0.81重量部のアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピオネートを含む金属キレートA:0.9重量部、銀粉A:330重量部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート:40重量部とをディスパーにて混合後、3本ロールにより分散し、導電性インキを調製した。
得られた導電性インキは、固形分が約79重量%であり、エポキシ樹脂と銀粉との合計370重量部中、銀粉は約89重量%、エポキシ樹脂は11重量%である。
そして、ティー・エイ・インスツルメント社製レーオメーター「AR−G2」を使用して、25℃の温度下で、周波数1Hzに固定し、振動応力1.0〜10,0000Paの範囲で貯蔵弾性率G’等の動的粘弾性特性を測定したところ、実施例1の導電性インキの貯蔵弾性率G’は7,200、tanδは0.89であった。
【0121】
実施例2〜9、比較例1〜9<導電性インキの調製>
表1、2に示す配合比率にて銀粉、バイダー樹脂溶液、金属キレート、硬化剤、溶剤をディスパーにて混合後、3本ロールにより分散し、実施例1と同様にして導電性インキを調製した。得られた導電性インキの特性を下記の方法で測定した。
【0122】
(1)基本物性の評価
<テストピースの作成>
厚さ75μmのコロナ処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETという)に実施例1〜12、比較例1〜9の導電性インキを、15mm×30mmのパターン形状にスクリーン印刷し、150℃オーブンにて30分乾燥させ、膜厚が8〜10μmの導電性印刷物を得た。
【0123】
<膜厚の測定>
上記印刷物の膜厚は、仙台ニコン社製MH−15M型測定器を用いて測定した。
【0124】
<表明抵抗値の測定>
上記印刷物の表面抵抗値は、25℃、湿度50%環境下にて三菱化学社製ロレスタAPMCP−T400測定器を用い、測定した。
【0125】
<体積抵抗率の算出>
上記方法で測定された表面抵抗値、および膜厚より、体積抵抗率を算出した。体積抵抗率の目標値は5.0×10−5Ω・cm以下である。なお、5.0×10−5Ω越え、8.0×10−5Ω・cm以下は、一応実用性があるが、8.0×10−5越えでは、通常、実用性がない。
体積抵抗率(Ω・cm)=(表面抵抗率:Ω/□)×(膜厚:cm)
【0126】
<ITO積層フィルムに対する密着性>
ITO積層フィルム(日東電工社製、V270L−TEMP、75μm厚)の一部を塩酸でエッチングしてITO層を除去して基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を露出させたものを用意した。そして、ITO積層部分およびエッチングして基材が露出した部分に、実施例1〜9、比較例1〜9の各導電性インキを、乾燥後の膜厚が8〜10μmになるように15mm×30mmのパターンをスクリーン印刷し、150℃オーブンにて30分乾燥させ、この印刷物の密着性を評価した。評価方法および評価基準は下記の通りである。
【0127】
<テープ密着試験>:JIS K5600に準拠して、テープ密着試験を実施した。
ITO残存部分、ITOエッチング部分それぞれの領域上の導電インキ層に、幅1m間隔に10マスX10マスの計100マス目をカッターで入れ、ニチバン製セロハンテープ(25mm幅)を印刷面に貼り付け、急激に剥離し、残ったマス目の状態にて評価を行った。
○:剥離無し(密着性良好レベル)
△:マスの端がわずかに欠ける(密着性やや不良だが、実用上使用可能レベル)
×:1マス以上の剥離が観察される(密着性不良レベル)
【0128】
<ポリイミドフィルムに対する密着性>
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン100H、25μm厚)上に、実施例1〜9、比較例1〜9の各導電性インキを、乾燥後の膜厚が8〜10μmになるように15mm×30mmのパターンをスクリーン印刷した。その後、180℃オーブンにて30分乾燥させ、この印刷物の密着性を評価した。評価方法および評価基準は下記の通りである。
ニチバン製セロハンテープ(25mm幅)を印刷物表面に貼り付け、急激に剥離し、印刷物の密着性を評価した。
○:剥離なく、密着性良好。
△:若干剥離有り、密着性やや不良。
×:全面剥離が有り、密着性不良。
【0129】
(2)細線印刷性の評価
高精度スクリーン印刷装置(東海精機株式会社製SERIA)を用いて、実施例1〜12、比較例1〜9の各導電性インキを、200mm×200mmの領域に、線幅50μm、線間の幅50μm(L/S=50μm/50μm)の微細配線パターンを多数有するスクリーン版にて、厚さ75μmのコロナ処理PETに20枚連続印刷した。その後、150℃で30分乾燥させた。印刷の条件は下記の通りである。
【0130】
(スクリーン印刷条件1)
<版:スクリーン版(A)>
・スクリーンメッシュ:500メッシュ
・スクリーン線材:引っ張り強度3000N/mmステンレス線、線径19μm(経線、緯線とも)
・開口率:39%
・乳剤厚:15μm
・スクリーン枠:650×550mm
<スキージ諸条件等>
・スキージ:先端両カットポリウレタンスキージ
・カット角度:スキージのインキに作用する面は法線に対し30°カット、スキージエッジは90°カット
・スキージ硬度:80°
・スキージ設定角度:70°
・アタック角度:40°
・スキージ速度〔印刷速度〕:20mm/秒
・スキージ印圧:30kg/cm
・クリアランス:4mm
【0131】
(線幅のばらつき度合いの評価)
スクリーン印刷した配線パターンの微細配線部分を、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製VHX−900)を用いて倍率500倍で撮影した。撮影した拡大写真をニレコ社製小型汎用画像解析装置「LUZEX AP」を用いて印刷後の細線幅を読み取った。
具体的には、5枚目、20枚目の印刷物について、それぞれ任意の細線8本を選択し、1本につき460箇所、8本合計で3680箇所の線幅を測定し、最小値、最大値、平均値、標準偏差、細線の太りの度合い「(平均値−50μm)/50μm(%)」を求めた。
平均値、標準偏差、細線の太りの度合いを表1、2に示す。
なお、標準偏差は細線の直線性(細線の凸凹)を示す。
【0132】
また、細線の太りの度合い「(平均値−50μm)/50μm(%)」の評価基準は次
の通りである。
25%未満:線幅の太りがほとんど認められず、細線印刷性は良好
25〜40%:線幅の太りがやや認められるが、細線印刷性は実用上差し支えの無いレベル
40%を越える:線幅の太りが認められ、細線印刷性は不良
【0133】
さらに、印刷配線パターンの微細配線部分の形状を下記の基準で評価した。結果を表1、2に示す。
○:微細配線部分は、蛇行による太さのばらつき、にじみ、掠れを生じておらず、微細配線部分の境界線が明瞭で良好であった。
△:微細配線部分は、蛇行による太さのばらつきが多少見られたが、にじみ、掠れを生じておらず、実用上差し支えの無いレベルであった。
×:微細配線部分は、蛇行による太さのばらつきが見られ、にじみ、掠れがあり、境界線が不明瞭であった。
【0134】
(3)抵抗値安定性評価
透明導電性フィルムからなる可動電極基板とガラス電極基板からなる固定電極基板を両面テープによる両面粘着層で貼り合わせて、前述の図1及び図2に示す構成の抵抗膜式タッチスクリーンパネルを作製した。
図2の駆動電極、取り回し回路、接続電極を、実施例1〜12、比較例1〜9の導電性インキを用い、ITO透明電極膜部およびITOをエッチングにより除去した基材上にスクリーン印刷にて印刷を行い、135℃で30分乾燥させた。
次いで、上記駆動電極、取り回し回路上に、ポリウレタン樹脂系の絶縁レジスト(東洋インキ製造社製、リオレジストNSP−11)をスクリーン印刷にて印刷し、120℃で30分乾燥させた。完成した上下の電極基板を両面テープにて貼り合わせ、抵抗膜式タッチスクリーンパネルを作製した。なお、取り出し回路末端部は端子A、Bとするために、絶縁レジスト層を設けなかった(図示省略)。
【0135】
得られた抵抗膜式タッチスクリーンパネルについて、25℃、湿度50%環境下にて図2の端子Aと端子B間の端子間抵抗値を測定した。次いで、60℃、90%の環境下で240時間保存した後の端子間抵抗値を25℃、湿度50%環境下にて測定し、環境保存試験後の端子間抵抗値の上昇率にて下記の基準で評価した。結果を表1、2に示す。なお、端子間抵抗値は、三和電気計器製PC500型テスターを用い、測定した。
○:環境保存試験後の端子間抵抗値の上昇率が0〜10%
△:環境保存試験後の端子間抵抗値の上昇率が10〜20%
×:環境保存試験後の端子間抵抗値の上昇率が20%を越える
環境保存試験後の端子間抵抗値の上昇率が20%以下は、標準仕様のタッチスクリーンパネルでは実用上問題のないレベルである。
【0136】
【表1】

【0137】
【表2】

【0138】
表1から明らかなように、実施例1〜12の導電性インキは、良好な(体積抵抗率、細線印刷性、ITO積層フィルムへの密着性)を示す。
硬化剤(1)を添加した実施例10は、ポリイミドフィルムへの密着性が向上する。更にタッチスクリーンパネルに使用した場合、高温高湿環境下に曝されても端子間抵抗の上昇が少なく良好である。
一方、硬化剤(2)を添加した実施例11、及び硬化剤(3)を添加した実施例12は、ポリイミドフィルムへの密着性は、硬化剤を加えない場合と同等であるが、細線印刷性の点で優れると共に、タッチスクリーンパネルに使用した場合、高温高湿環境下に曝されても端子間抵抗の上昇が少ないという点で優れている。
【0139】
それに対し、表2に示すように、比較例1はバインダー樹脂がポリエステル樹脂のため60℃、90%、240時間にてタッチパネルの端子間抵抗が上昇し、抵抗値安定性が不良であった。
また、比較例2もバインダー樹脂がウレタン樹脂のため、抵抗値安定性が不良であった。
比較例3はバインダー樹脂がエポキシ樹脂であるが、数平均分子量が10,000未満のため抵抗値安定性が不良であり、また導電性インキの弾性成分が小さいため細線印刷性も劣る。
【0140】
比較例4は、用いた銀粉のD50粒子経が0.3μm未満であり、インキ塗膜の体積抵抗率が高く、使用不可のレベルであった。
一方、比較例5は、用いた銀粉のD50粒子経が5μmを超えており、細線印刷性にて20枚印刷した時点で、細線の掠れがひどかったので、線幅を測定できなかった。印刷後のスクリーン印刷版のメッシュ部分を観察すると、多くの箇所でメッシュに銀粉が詰まっている状態が観察された。銀粉のD50粒子経大による不具合と考察される。
【0141】
比較例6は、用いた銀粉のタップ密度が1.0g/cm未満であり、インキ塗膜の体積抵抗率が高くて使用不可のレベルであった。
【0142】
比較例7は、用いた銀粉の比表面積が0.3m/g未満であり、インキ塗膜の体積抵抗率が高く使用不可のレベルであった。また、用いた銀粉のD50粒子経が5μmを超えており、比較例2と同様に細線印刷性にて20枚印刷した時点で、メッシュの詰まりによる細線の掠れがひどかったので、線幅を測定できなかった。
【0143】
比較例8は、用いた銀粉の比表面積が5.0m/gを超えており、導電性粒子の表面を被覆するのに多くのバインダー樹脂を必要とするため、ITOエッチングフィルム、ポリイミドフィルムに対する密着性が劣っていた。
【0144】
比較例9は、金属キレートを使用しておらず、導電性インキの弾性成分が小さく、基材にインキが転移した後にその形状を維持しにくく、線「太り」やすかった。
【0145】
実施例3と比較例9については、粘度を測定し、チキソ性についてもさらに評価した。
なお、実施例3と比較例9は、バインダー(1)溶液と銀粉Cを用い、金属キレートを含有するか否かの点だけが相違する。
【0146】
(粘度測定方法)
測定機:東機産業製E型粘度計TVE−22H
ローター:コーン型ローター#7(θ3°、R7.7mm)
測定温度:25℃
サンプル量:0.1mL
回転数:2rpm、5rpm、20rpm
測定方法:銀ペーストサンプルを、1mLシリンジを用いて0.1mL測り取り、粘度計にセットする。1分放置後、2rpmにて2分間撹拌した後の粘度を測定する。その後、5rpm、20rpmにおいてそれぞれ2分間攪拌した後の粘度を測定する。
TI値は次の式により算出する。
TI=(2rpmの粘度)/(20rpmの粘度)
金属キレートを含有する実施例3の場合、2rpm:150Pas、5rpm:95Pas、20rpm:56Pasであり、TI値:2.68であった。
一方、金属キレートを含有しない比較例9の場合、2rpm:168Pas、5rpm:92Pas、20rpm:46Pasであり、TI値:3.66であった。
つまり、単なるチキソ性の点では両者にさほど大きな違いはない。しかし、実施例3の貯蔵弾性率G’は6,100、比較例9の貯蔵弾性率G’は1,100であり、印刷性において全く異なる結果を示す。
【0147】
実施例13<印刷条件の違いによる細線印刷性の評価>
スキージ諸条件等を以下のように変更した以外は、スクリーン版(A)を用い、実施例4と同様にして導電性インキを厚さ75μmのコロナ処理PETに20枚連続印刷、乾燥し、微細配線パターンを形成した。 ・スキージ設定角度:70°
・アタック角度:70°
・スキージ速度:10mm/秒
・スキージ印圧:50kg
・クリアランス:5mm
【0148】
実施例14<印刷条件の違いによる細線印刷性の評価>
下記のスクリーン版(B)を用いた以外は、実施例4と同様にして導電性インキを厚さ75μmのコロナ処理PETに20枚連続印刷、乾燥し、微細配線パターンを形成した。
<スクリーン版(B)>
・スクリーンメッシュ:500メッシュ
・スクリーン線材:引っ張り強度3000N/mmステンレス線、線径14μm(経線、緯線とも)
・開口率:52%
・乳剤厚:13μm
【0149】
比較例10<印刷条件の違いによる細線印刷性の評価>
下記のスクリーン版(C)を用いた以外は、実施例4と同様にして導電性インキを厚さ75μmのコロナ処理PETに20枚連続印刷、乾燥し、微細配線パターンを形成した。
<版:スクリーン版(C)>
・スクリーンメッシュ:500メッシュ
・スクリーン線材:引っ張り強度1000N/mmステンレス線、線径19μm(経線、緯線とも)
・開口率:39%
・乳剤厚:14μm
【0150】
<線幅のばらつき度合いの評価方法>
線幅のばらつき度合いを、前記「細線印刷性の評価」方法にて平均値、標準偏差、細線の太りの度合い「(平均値−50μm)/50μm(%)」を求めた。
平均値、標準偏差、細線の太りの度合いを表3に示す。
【0151】
【表3】

【0152】
表3から明らかなように、実施例4、13、14は、高強度ステンレス線によるスクリーンメッシュ印刷版を使用して印刷しており、良好な細線印刷性を示す。
【0153】
比較例10は、スクリーン印刷版の線材が引っ張り強度1000N/mmステンレス線を使用しているため、印刷15枚目でスクリーン印刷版のメッシュが破断し印刷不可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明に係る導電性回路を用いて形成した導電パターン付き積層体は、高湿度化における導電性変化が少ないので、印刷配線板用の導電性回路形成や、電子機器等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0155】
1:下部基板
2:上部基板
3:導電性インキパターン層
4:絶縁層
5:粘着材(貼り合わせ)
6:下部基板の透明電極
7:上部基板の透明電極
8:ドットスペーサー
9,10:上部側駆動電極
11,12:上部側接続電極
13,14:下部側駆動電極
15,16:下部側接続電極
17:取り回し回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ密度が1.0〜10.0(g/cm)、D50粒子径が0.3〜5μm、BET比表面積0.3〜5.0m/gの導電性粒子と、数平均分子量(Mn)が10,000〜300,000であり、水酸基価2〜300(mgKOH/g)のエポキシ樹脂と、
前記エポキシ樹脂中の水酸基とアルコール交換反応が可能である金属キレートとを含有する導電性インキと、
引っ張り強度2500N/mm以上の多数本の高強度ステンレス線で構成される経線群と、引っ張り強度2500N/mm以上の多数本の高強度ステンレス線で構成される緯線群とからなる綾織のメッシュ織物が、枠体内に張設され、開口部を有するスクリーン印刷版と、
スキージとを用い、
前記スクリーン印刷版上にスキージを当接させて揺動し、前記スクリーン印刷版上に置かれた前記導電性インキを、前記開口部から押し出し、被印刷体に転移させる、
ことを特徴とする導電性回路の製造方法。
【請求項2】
綾線のメッシュ織物の開口率が50%以下であるスクリーン印刷版を用いる、請求項1記載の導電性回路の製造方法。
【請求項3】
スクリーン印刷版と、スキージの導電性インキに作用する作用面との成す角度が、30〜50°である、請求項1又は2記載の導電性回路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−253172(P2012−253172A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124073(P2011−124073)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】