説明

導電性成形体の製造方法、及び導電性成形体

【課題】 本発明の目的は、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、分散させた状態のカーボンナノチューブを成形体表面に保持させ、成形体自体の透明性や外観、機械的強度を損なうことのない導電性成形体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 基材の少なくとも一つの表面上に、カーボンナノチューブ(a)、導電性ポリマー(b)、溶媒(c)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物(Y)を塗工し、常温で放置または加熱処理を行って導電性塗膜(X)を形成させ、これに少なくとも一つの表面が密着するように成形体(d)を形成し、その後、該基材を剥離し、洗浄液(e)で洗浄することを特徴とする導電性成形体の製造方法、及び得られた導電性成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性成形体の製造方法に関する。更に詳しくは、成型体の少なくとも一つの表面上にカーボンナノチューブが保持されている導電性成形体の製造方法およびそれにより製造された導電性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは1991年に発見されて以来、その極めて特異的な構造から発現される、電気的、機械的特性から、その応用に関する研究開発が盛んに実施されている。しかしながら、カーボンナノチューブは、絡まった状態で製造されるため、取り扱いが非常に煩雑であり、樹脂や溶液に混合した場合は、さらに凝集し、成形加工してもカーボンナノチューブ本来の特性が発揮できないという問題がある。この為、カーボンナノチューブを物理的に処理したり、化学的に修飾したりして、溶媒や樹脂に均一に分散または溶解する試みがなされている。
【0003】
例えば、単層カーボンナノチューブを強酸中で超音波処理することにより短く切断して分散する方法が提案されている(非特許文献1)。しかしながら、強酸中で処理するため、操作が煩雑となり、工業的に適した方法ではなく、その分散化の効果も十分とはいえない。しかし、このように切断された単層カーボンナノチューブは、その両末端が開いており、カルボン酸基等の含酸素官能基で終端されている。その点に着目し、カルボン酸基を酸塩化物にした後、アミン化合物と反応させ長鎖アルキル基を導入し、溶媒に可溶化することが提案されている(非特許文献2)。しかしながら、本方法では単層カーボンナノチューブに共有結合によって長鎖アルキル基を導入しているため、カーボンナノチューブのグラフェンシート構造の損傷やカーボンナノチューブ自体の特性に影響を与えるなどの問題点が残されている。
【0004】
また、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、溶媒からなる組成物、及びそれから製造される複合体が提案されている。該組成物及び複合体は導電性ポリマーを共存させることでカーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブを水、有機溶剤、含水有機溶媒等の溶媒に分散化あるいは可溶化し、長期保存安定性に優れるカーボンナノチューブ含有組成物が提案されている(特許文献1)。導電性ポリマーが共存したカーボンナノチューブ組成物は、導電性、成膜性、成形性に優れ、簡便な方法で基材へ塗布、被覆可能であるが、導電性ポリマー由来の着色によって、無色透明性が求められる分野への応用は難しい。また、基材表面にカーボンナノチューブ分散液を塗布、被覆した場合、カーボンナノチューブは基材表面には存在しているが、基材との結合がないため、外部からの刺激によって容易に脱離してしまい、その性能を長期間維持することができないという問題がある。
【0005】
一方、導電性成形体は、導電性隔壁、導電性部材、帯電防止材、電磁波シールド材、電極、コネクター、センサー、発熱体など幅広い分野への適用が可能である。例えば合成樹脂を基材として用いる場合には、導電性フィラーを分散、混合して導電性を付与することが知られている。導電性フィラーとしては金属系やカーボン系などが使用されているが、極めて高度の導電性を付与する場合には、高濃度に導電性フィラーを添加する必要があり、その結果成形性や機械的強度が低下する、透明性や外観が低下する等、合成樹脂本来の特性を損ねる問題があった。そのため導電性フィラーの添加量は制限され、得られる成形体の導電性にも限界があった。また、透明導電性成形体としてはITO蒸着法が知られているが、蒸着の際に120℃程度の高温になるため、基材が限定されており、合成樹脂への応用は限られた材料にとどまっている。
【0006】
【特許文献1】WO2004/039893号
【非特許文献1】R.E.Smalley等,Science,280,1253(1998)
【非特許文献2】J.Chen等,Science,282,95(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、分散させた状態のカーボンナノチューブを成形体表面に保持させ、成形体自体の透明性や外観、機械的強度を損なうことのない導電性成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み、鋭意研究をした結果、基材の少なくとも一つの表面上にカーボンナノチューブを含有する導電性塗膜を予め形成しておき、この塗膜に少なくとも一つの表面が密着するように成形体を形成し、次いで基材を剥離することにより、成形体やカーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、簡便に導電性成形体が製造できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)基材の少なくとも一つの表面上に形成したカーボンナノチューブ(a)と導電性ポリマー(b)を含有する導電性塗膜(X)に、少なくとも一つの表面が密着するように成形体(d)を形成し、その後、該基材を剥離することを特徴とする導電性成形体の製造方法。(2)基材を剥離後、洗浄液(e)で洗浄することを特徴とする前記(1)記載の導電性成形体の製造方法。(3)導電性塗膜(X)が、カーボンナノチューブ(a)、導電性ポリマー(b)、および溶媒(c)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物(Y)を塗工し、常温で放置または加熱処理を行って形成することを特徴とする前記(1)または(2)記載の導電性成形体の製造方法。(4)カーボンナノチューブ含有組成物(Y)が高分子化合物(f)を含有することを特徴とする前記(3)記載の導電性成形体の製造方法。(5)カーボンナノチューブ含有組成物(Y)が塩基性化合物(g)を含有することを特徴とする前記(3)または(4)記載の導電性成形体の製造方法。(6)カーボンナノチューブ含有組成物(Y)が界面活性剤(h)を含有することを特徴とする前記(3)ないし(5)のいずれか一項に記載の導電性成形体の製造方法。(7)カーボンナノチューブ含有組成物(Y)が超音波を照射したものであることを特徴とする前記(3)ないし(6)のいずれか一項に記載の導電性成形体の製造方法。(8)前記(1)ないし(7)のいずれか一項に記載の方法によって製造された少なくとも一つの表面上にカーボンナノチューブが保持されている導電性成形体。(9)全光線透過率が50%以上であることを特徴とする前記(8)記載の導電性成形体。に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性成形体の製造方法は、「カーボンナノチューブ(a)」及び/または「導電性ポリマー(b)が付着しているカーボンナノチューブ(a)」が表面に保持されている成形体自体の特性が損なわれていない導電性成形体である。また、本発明の製造方法によれば、基材に密着させて成形体(d)を形成するという簡便な方法であるため、成形体(d)に制限がなく、さまざまな形状の表面に導電性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
<カーボンナノチューブ(A)>
本発明の導電性成形体に適用可能なカーボンナノチューブ(a)は、特に限定されるものではなく、通常のカーボンナノチューブ、すなわち、単層カーボンナノチューブ、何層かが同心円状に重なった多層カーボンナノチューブ、これらがコイル状になったもの等を用いることができる。カーボンナノチューブ(a)について更に詳しく説明すると、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒が、複数個入れ子構造になったものであり、nmオーダーの外径が極めて微小な物質が例示される。また、カーボンナノチューブの片側が閉じた形をしたカーボンナノホーンやその頭部に穴があいたコップ型のナノカーボン物質なども用いることができる。また、カーボンナノチューブ(a)の類縁体であるフラーレン、カーボンナノファイバーなども用いることができる。
【0012】
本発明に適用できるカーボンナノチューブ(a)の製造方法は、特に限定されるものではない。具体的には、二酸化炭素の接触水素還元、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法、気相成長法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法等が挙げられる。以上の製造方法によって得られるカーボンナノチューブ(a)としては、洗浄法、遠心分離法、ろ過法、酸化法、クロマトグラフ法等の種々の精製法によって、より高純度化されたカーボンナノチューブの方が、各種機能を十分に発現し、正確な物性評価をすることから、好ましく用いられる。また、カーボンナノチューブ(a)としては、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミルなどのボール型混練装置等を用いて粉砕しているものや、化学的、物理的処理によって短く切断されているものも用いることができる。
【0013】
<導電性ポリマー(B)>
本発明で用いる導電性ポリマー(b)は、フェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン、カルバゾリレン等を繰り返し単位として含むπ共役系高分子である。中でも、水溶性導電性ポリマーが本発明では好ましく用いられる。ここで、水溶性導電性ポリマーとは、π共役系高分子の骨格または該高分子中の窒素原子上に、酸性基、あるいは酸性基で置換されたアルキル基またはエーテル結合を含むアルキル基を有している導電性ポリマーである。これらの中でも特に、溶解性、導電性、成膜性の点で、スルホン酸及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーが好適に用いられる。
【0014】
スルホン酸及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーとしては、例えば、特開昭61−197633号公報、特開昭63−39916号公報、特開平01−301714号公報、特開平05−504153号公報、特開平05−503953号公報、特開平04−32848号公報、特開平04−328181号公報、特開平06−145386号公報、特開平06−56987号公報、特開平05−226238号公報、特開平05−178989号公報、特開平06−293828号公報、特開平07−118524号公報、特開平06−32845号公報、特開平06−87949号公報、特開平06−256516号公報、特開平07−41756号公報、特開平07−48436号公報、特開平04−268331号公報、特開平09−59376号公報、特開2000−172384号公報、特開平06−49183号公報、特開平10−60108号公報等に示された水溶性導電性ポリマーが好ましく用いられる。
【0015】
スルホン酸及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーとしては、具体的には、無置換及び置換されたフェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン及びカルバゾリレンからなる群より選ばれた少なくとも1種以上を繰り返し単位として含むπ共役系高分子の骨格または該高分子中の窒素原子上に、スルホン酸基及び/またはカルボキシル基、あるいはスルホン酸基及び/またはカルボキシル基で置換されたアルキル基またはエーテル結合を含むアルキル基を有している水溶性導電性ポリマーが挙げられる。この中でも特にチエニレン、ピロリレン、イミノフェニレン、フェニレンビニレン、カルバゾリレン、イソチアナフテンを含む骨格を有する水溶性導電性ポリマーが好ましく用いられる。
【0016】
好ましいスルホン酸基及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーは、下記式(1)〜(9)から選ばれた少なくとも一種以上の繰り返し単位を、ポリマー全体の繰り返し単位の総数中に20〜100%含有する水溶性導電性ポリマーである。
【化1】

(式(1)中、R1 、R2 は各々独立に、H、−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R712 、−NHCOR71、−OH、−O-、−SR71、−OR71、−OCOR71、−NO2 、−COOH、−R71COOH、−COOR71、−COR71、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、R71は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR1 、R2 のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−COOH及び−R71COOHからなる群より選ばれた基である。)
【0017】
【化2】

(式(2)中、R3 、R4 は各々独立に、H、−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R712 、−NHCOR71、−OH、−O-、−SR71、−OR71、−OCOR71、−NO2 、−COOH、−R71COOH、−COOR71、−COR71、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、R71は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR3 、R4 のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−COOH及び−R71COOHからなる群より選ばれた基である。)
【0018】
【化3】

(式(3)中、R5 〜R8 は各々独立に、H、−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R712 、−NHCOR71、−OH、−O-、−SR71、−OR71、−OCOR71、−NO2 、−COOH、−R71COOH、−COOR71、−COR71、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、R71は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR5 〜R8 のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−COOH及び−R71COOHからなる群より選ばれた基である。)
【0019】
【化4】

(式(4)中、R9 〜R13は各々独立に、H、−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R712 、−NHCOR71、−OH、−O-、−SR71、−OR71、−OCOR71、−NO2 、−COOH、−R71COOH、−COOR71、−COR71、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、R71は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR9 〜R13のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−COOH及び−R71COOHからなる群より選ばれた基である。)
【0020】
【化5】

(式(5)中、R14は、−SO3-、−SO3 H、−R72SO3-、−R72SO3 H、−COOH及び−R72COOHからなる群より選ばれ、ここで、R72は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基である。)
【0021】
【化6】

(式(6)中、R15〜R20は各々独立に、H、−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R712 、−NHCOR71、−OH、−O-、−SR71、−OR71、−OCOR71、−NO2 、−COOH、−R71COOH、−COOR71、−COR71、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、R71は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR15 〜R20のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−COOH及び−R71COOHからなる群より選ばれた基であり、Htは、NR73、S、O、Se及びTeよりなる群から選ばれたヘテロ原子基であり、R73は水素及び炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルキル基、もしくは置換、非置換のアリール基を表し、R15〜R20の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよく、このように形成される環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよく、nはヘテロ環と置換基R16〜R19を有するベンゼン環に挟まれた縮合環の数を表し、0または1〜3の整数である。)
【0022】
【化7】

(式(7)中、R21〜R29は各々独立に、H、−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R712 、−NHCOR71、−OH、−O-、−SR71、−OR71、−OCOR71、−NO2 、−COOH、−R71COOH、−COOR71、−COR71、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、R71は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR21〜R29のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−COOH及び−R71COOHからなる群より選ばれた基であり、nは置換基R21及びR22を有するベンゼン環と置換基R24〜R27を有するベンゼン環に挟まれた縮合環の数を表し、0または1〜3の整数である。)
【0023】
【化8】

(式(8)中、R30〜R39は各々独立に、H、−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R712 、−NHCOR71、−OH、−O-、−SR71、−OR71、−OCOR71、−NO2 、−COOH、−R71COOH、−COOR71、−COR71、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、R71は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR30〜R39のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−COOH及び−R71COOHからなる群より選ばれた基であり、nは置換基R30〜R32を有するベンゼン環とベンゾキノン環に挟まれた縮合環の数を表し、0または1〜3の整数である。)
【0024】
【化9】

(式(9)中、R40〜R44は各々独立に、H、−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R712 、−NHCOR71、−OH、−O-、−SR71、−OR71、−OCOR71、−NO2 、−COOH、−R71COOH、−COOR71、−COR71、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、R71は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR40〜R44のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−COOH及び−R71COOHからなる群より選ばれた基であり、Xa-は、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、リン酸イオン、ほうフッ化イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンよりなる1〜3価の陰イオン群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンであり、aはXのイオン価数を表し、1〜3の整数であり、pはドープ率であり、その値は0.001〜1である。)
【0025】
また、好ましいスルホン酸及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーとして、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフェートも用いられる。この水溶性導電性ポリマーは、導電性ポリマーの骨格にはスルホン酸基は導入されていないが、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸が付与している構造を有している。このポリマーは、3,4−エチレンジオキシチオフェン(バイエル社製 Baytron M)をトルエンスルホン酸鉄(バイエル社製 Baytron C)などの酸化剤で重合することにより製造することが可能である。また、このポリマーは、バイエル社製 Baytron Pとして入手可能である。
【0026】
以上のスルホン酸及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーのうち、下記式(10)で表される繰り返し単位を、ポリマー全体の繰り返し単位の総数中に20〜100%含む水溶性導電性ポリマーが更に好ましく用いられる。
【化10】

(式(10)中、yは0<y<1の任意の数を示し、R45〜R62は各々独立に、H、−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R712 、−NHCOR71、−OH、−O-、−SR71、−OR71、−OCOR71、−NO2 、−COOH、−R71COOH、−COOR71、−COR71、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、R71は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、R47〜R62のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−COOH及び−R71COOHからなる群より選ばれた基である。)
【0027】
ここで、ポリマーの繰り返し単位の総数に対するスルホン酸基及び/またはカルボキシル基を有する繰り返し単位の含有量が50%以上の水溶性導電性ポリマーは、水、含水有機溶媒等の溶媒(c)への溶解性が非常に良好なため、好ましく用いられる。スルホン酸基及び/またはカルボキシル基を有する繰り返し単位の含有量は、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは100%である。
【0028】
また、芳香環に付加する置換基は、導電性及び溶解性の面からアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基等が好ましく、特にアルコキシ基を有する水溶性導電性ポリマーが最も好ましい。これらの組み合わせの中で最も好ましい水溶性導電性ポリマーを下記式(11)に示す。
【化11】

(式(11)中、R63は、スルホン酸基、カルボキシル基、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及び置換アンモニウム塩からなる群より選ばれた1つの基であり、R64は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ドデシル基、テトラコシル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘプトキシ基、ヘクソオキシ基、オクトキシ基、ドデコキシ基、テトラコソキシ基、フルオロ基、クロロ基及びブロモ基からなる群より選ばれた1つの基を示し、Xは0<X<1の任意の数を示し、nは重合度を示し3以上である。)
ここで、 R63は、少なくともその一部が、遊離酸型のスルホン酸基及び/またはカルボキシル基であることが導電性向上の点から好ましい。
【0029】
本発明における水溶性導電性ポリマーとしては、化学重合または電解重合などの各種合成法によって得られるポリマーを用いることができる。例えば、本発明者らが提案した特開平7−196791号公報、特開平7−324132号公報に記載の合成方法が適用される。すなわち、下記式(12)で表される酸性基置換アニリン、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及び/または置換アンモニウム塩を、塩基性化合物を含む溶液中で酸化剤により重合させることにより得られた水溶性導電性ポリマーである。
【化12】

(式(12)中、R65〜R70は各々独立に、H、−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R712 、−NHCOR71、−OH、−O-、−SR71、−OR71、−OCOR71、−NO2 、−COOH、−R71COOH、−COOR71、−COR71、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、R71は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、R65〜R70のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R71SO3-、−R71SO3 H、−COOH及び−R71COOHからなる群より選ばれた基である。)
【0030】
特に好ましい水溶性導電性ポリマーとしては、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及び/または置換アンモニウム塩を塩基性化合物を含む溶液中で酸化剤により重合させることにより得られた水溶性導電性ポリマーが用いられる。
【0031】
本発明における水溶性導電性ポリマーに含有される酸性基は、導電性向上の観点から少なくともその一部が遊離酸型であることが望ましい。また、本発明における水溶性導電性ポリマーとしては、その質量平均分子量が、GPCのポリエチレングリコール換算で、2000以上、300万以下のものが導電性、成膜性及び膜強度に優れており好ましく用いられ、質量平均分子量3000以上、100万以下のものがより好ましく、5000以上、50万以下のものが最も好ましい。
【0032】
導電性ポリマー(b)はこのままでも使用できるが、公知の方法によって酸によるドーピング処理方法を実施して、外部ドーパントを付与したものを用いることができる。例えば、酸性溶液中に、導電性ポリマー(b)を含む導電体を浸漬させるなどの処理をすることによりドーピング処理を行うことができる。ドーピング処理に用いる酸性溶液は、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸;p−トルエンスルホン酸、カンファスルホン酸、安息香酸及びこれらの骨格を有する誘導体などの有機酸;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパン)スルホン酸、ポリビニル硫酸及びこれらの骨格を有する誘導体などの高分子酸を含む水溶液、あるいは、水−有機溶媒の混合溶液である。これらの無機酸、有機酸、高分子酸はそれぞれ単独で用いても、また2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0033】
<溶媒(C)>
本発明における溶媒(c)は、カーボンナノチューブ(a)、導電性ポリマー(b)、を溶解または分散するものであれば特に限定されない。溶媒(c)としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン、 N−エチルピロリドン等のピロリドン類;ジメチルスルオキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類;アニリン、N−メチルアニリン等のアニリン類が好ましく用いられる。導電性ポリマー(b)として水溶性導電性ポリマーを用いる場合には、水溶性導電性ポリマーの溶解性、カーボンナノチューブ(a)の分散性の点で、溶剤(c)としては、水または含水有機溶剤が好ましく用いられる。
【0034】
<カーボンナノチューブ含有組成物(Y)及び導電性塗膜(X)>
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物(Y)は、カーボンナノチューブ(a)、導電性ポリマー(b)、及び溶媒(c)を必須成分とする組成物である。さらに、性能向上のために、高分子化合物(f)、塩基性化合物(g)、界面活性剤(h)を添加することができる。基材にカーボンナノチューブ含有組成物(Y)を塗工し、常温放置または加熱処理により形成された塗膜を導電性塗膜(X)と言う。
【0035】
<高分子化合物(F)>
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物(Y)には、さらに高分子化合物(f)を含有することができる。高分子化合物(f)を用いることにより導電性塗膜(X)の塗布性、均一性、成形体(d)への密着性が向上する。本発明における高分子化合物(f)としては、本発明に用いる溶媒(c)に溶解または分散(エマルション形成)可能であれば特に限定されるものではなく、具体的にはポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルコール類;ポリアクリルアマイド、ポリ(N−t−ブチルアクリルアマイド)、ポリアクリルアマイドメチルプロパンスルホン酸などのポリアクリルアマイド類;ポリビニルピロリドン類、ポリスチレンスルホン酸及びそのソーダ塩類、セルロース、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン/マレイン酸共重合樹脂、フッ素樹脂及びこれらの共重合体などが用いられる。また、これらの高分子化合物(f)は2種以上を任意の割合で混合したものであってもよい。これら高分子化合物(f)の中でも、水溶性高分子化合物または水系でエマルジョンを形成する高分子化合物が溶媒(c)への溶解性、組成物の安定性、導電性の点で、好ましく用いられ、特に好ましくはアニオン基を有する高分子化合物が用いられる。また、その中でも、水系アクリル樹脂、水系ポリエステル樹脂、水系ウレタン樹脂および水系塩素化ポリオレフィン樹脂のうちの1種または2種以上を混合して使用することが好ましい。
【0036】
<塩基性化合物(G)>
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物(Y)には、さらに塩基性化合物(g)を含有することができる。塩基性化合物(g)は、カーボンナノチューブ含有組成物中に添加することにより水溶性導電性ポリマーを脱ドープし、溶媒(c)への溶解性をより向上させる効果がある。また、スルホン酸基及びカルボキシル基と塩を形成することにより水への溶解性が特段に向上するとともに、カーボンナノチューブ(a)の溶媒(c)への可溶化あるいは分散化が促進され、より均一な導電性塗膜(X)を形成することができる。
【0037】
塩基性化合物(g)としては、特に限定されるものではないが、例えば、アンモニア、脂式アミン類、環式飽和アミン類、環式不飽和アミン類やアンモニウム塩類、無機塩基などが好ましく用いられる。塩基性化合物(g)として用いられるアミン類の構造式を下記式(13)に示す。
【化13】

(式(13)中、R80〜R82は各々互いに独立に、水素、炭素数1〜4(C1 〜C4 )のアルキル基、CH2OH 、CH2CH2OH、CONH2 またはNH2 を表す。)
【0038】
塩基性化合物(g)として用いられるアンモニウム塩類の構造式を下記式(14)に示す。
【化14】

(式(14)中、R83〜R86は各々互いに独立に、水素、炭素数1〜4(C1 〜C4 )のアルキル基、CH2OH 、CH2CH2OH、CONH2 またはNH2 を表し、X- はOH- 、1/2・SO42-、NO3-、1/2CO32-、HCO3-、1/2・(COO)22-、またはR’COO- を表し、R’は炭素数1〜3(C1 〜C3 )のアルキル基である。)
【0039】
環式飽和アミン類としては、ピペリジン、ピロリジン、モリホリン、ピペラジン及びこれらの骨格を有する誘導体及びこれらのアンモニウムヒドロキシド化合物などが好ましく用いられる。環式不飽和アミン類としては、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピロリン及びこれらの骨格を有する誘導体及びこれらのアンモニウムヒドロキシド化合物などが好ましく用いられる。
【0040】
無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水酸化物塩が好ましく用いられる。塩基性化合物(g)は2種以上を混合して用いても良い。例えば、アミン類とアンモニウム塩類を混合して用いることにより更に導電性を向上させることができる。具体的には、NH3 /(NH42CO3 、NH3 /(NH4)HCO3、NH3 /CH3COONH4 、NH3 /(NH42SO4 、N(CH33/CH3COONH4、N(CH33/(NH42SO4 などが挙げられる。またこれらの混合比は任意の割合で用いることができるが、アミン類/アンモニウム塩類=1/10〜10/0が好ましい。
【0041】
<界面活性剤(H)>
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物(Y)には、さらに界面活性剤(h)を含有することができる。本発明のカーボンナノチューブ含有組成物(Y)は、界面活性剤(h)を加えると更に可溶化あるいは分散化が促進するとともに、平坦性、塗布性及び導電率の均一性などが向上し、少量のカーボンナノチューブ使用で、表面電気特性の均一性が高く、透明性の高い導電性成形体を得ることができる。
【0042】
界面活性剤(h)の具体例としては、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルカルボン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、ジアルキルスルホコハク酸、α−スルホン化脂肪酸、N−メチル−N−オレイルタウリン、石油スルホン酸、アルキル硫酸、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸、アルキルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびこれらの塩などのアニオン系界面活性剤;第一〜第三脂肪アミン、四級アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルベンジルアンモニウムアルキルピリジニウム、2−アルキル−1−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウム、N,N−ジアルキルモルホリニウム、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミド、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物の第四級アンモニウムおよびこれらの塩などのカチオン系界面活性剤;N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどのベタイン類、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩などのアミノカルボン酸類などの両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステル、トリアルキルアミンオキサイドなどの非イオン系界面活性剤;およびフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなどのフッ素系界面活性剤;ラウリル酸、ミリスチン酸、バルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸などの脂肪酸系界面活性剤が用いられる。ここで、アルキル基は炭素数1〜24が好ましく、炭素数3〜18がより好ましい。なお、界面活性剤は二種以上用いても何らさしつかえない。
【0043】
前記導電性ポリマー(b)と溶媒(c)の使用割合は、溶媒(c)100質量部に対して導電性ポリマー(b)が0.001〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜30質量部である。これらの範囲内で導電性、溶解性あるいは分散性が特に良好であり、また、これ以上増大しても性能に更に大きな向上はない。
【0044】
前記カーボンナノチューブ(a)と溶媒(c)の使用割合は、溶媒(c)100質量部に対してカーボンナノチューブ(a)が0.0001〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.001〜10質量部である。これらの範囲内で導電性、溶解性あるいは分散性が特に良好であり、また、これ以上増大しても性能に大きな向上はない。
【0045】
前記高分子化合物(f)と溶媒(c)の使用割合は、溶媒(c)100質量部に対して高分子化合物(f)が0.1〜400質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜300質量部である。高分子化合物(f)が0.1質量部以上であれば成膜性、成形性、強度がより向上し、一方、400質量部以下の時、水溶性導電性ポリマー(b)やカーボンナノチューブ(a)の溶解性の低下が少なく、高い導電性が維持される。
【0046】
前記塩基性化合物(g)と溶媒(c)の使用割合は、溶媒(c)100質量部に対して塩基性化合物(g)が0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5質量部である。塩基性化合物(g)がこの範囲にあるとき、水溶性導電性ポリマーの溶解性が特に良くなり、カーボンナノチューブ(a)の溶媒(c)への可溶化あるいは分散化が促進され、導電性が向上する。
【0047】
前記界面活性剤(h)と溶媒(c)の使用割合は、溶媒(c)100質量部に対して界面活性剤(h)が0.0001〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜5質量部である。これらの範囲内で導電性、溶解性あるいは分散性、塗布性が特に良好であり、また、これ以上増大しても性能に向上はない。
【0048】
更に本発明のカーボンナノチューブ含有組成物(Y)には、必要に応じて、シランカップリング剤、コロイダルシリカを添加することができる。シランカップリング剤やコロイダルシリカを添加することによって、塗膜の耐水性や強度を向上することができる。さらに、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物(Y)には、必要に応じて、可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤などの公知の各種物質を添加して用いることができる。
【0049】
また、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物(Y)には、その導電性を更に向上させるために導電性物質を含有させることができる。導電性物質としては、炭素繊維、導電性カーボンブラック、黒鉛等の炭素系物質、酸化錫、酸化亜鉛等の金属酸化物、銀、ニッケル、銅等の金属が挙げられる
【0050】
<カーボンナノチューブ含有組成物(Y)の製造方法>
所定の構成成分を混合する際、超音波、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリットミキサーなどの撹拌又は混練装置が用いられる。特に、カーボンナノチューブ(a)、導電性ポリマー(b)、溶媒(c)、および他の成分を混合し、これに超音波を照射することが好ましく、この際、超音波照射とホモジナイザーを併用(超音波ホモジナイザー)して処理をすることが特に好ましい。超音波照射処理の条件は、特に限定されるものではないが、カーボンナノチューブ(a)を溶媒(c)中に均一に分散あるいは溶解させるだけの十分な超音波の強度と処理時間があればよい。例えば、超音波発振機における定格出力は、超音波発振機の単位底面積当たり0.1〜2.0ワット/cm2 が好ましく 、より好ましくは0.3〜1.5ワット/cm2 の範囲であり、発振周波数は、10〜200KHzが好ましく、より好ましくは20〜100KHzの範囲である。また、超音波照射処理の時間は、1分〜48時間が好ましく、より好ましくは5分から48時間である。この後、更にボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミルなどのボール型混練装置を用いて分散あるいは溶解を徹底化することが望ましい。
【0051】
<導電性塗膜(X)の形成方法>
本発明における導電性塗膜(X)は、上記カーボンナノチューブ含有組成物(Y)を一般の塗工に用いられる方法で塗工することによって基材の表面に形成される。例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーコーティング等の噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等が用いられる。
【0052】
基材の表面にカーボンナノチューブ含有組成物(Y)を塗工した後は、常温で放置することもできるが、塗膜を加熱処理することもできる。加熱処理により残留する溶媒(c)の量をより低下することができ、導電性がさらに向上するため好ましい。加熱処理温度は、20℃以上、250℃以下が好ましく、特に40℃〜200℃の加熱が好ましい。250℃より高いと導電性ポリマー(b)自体が分解、不溶化する恐れがあり、導電性成形体の色調、透明性、外観が悪化することがある。
【0053】
導電性塗膜(X)の膜厚は、0.01〜100μmの範囲が好ましく、更に好ましくは0.1〜50μmの範囲である。
【0054】
本発明の導電性塗膜(X)は、このままでも優れた導電性を有するものであるが、基材の少なくとも一つの面上に、カーボンナノチューブ含有組成物(Y)を塗工して導電性塗膜(X)を形成した後に、酸によりドーピング処理を行い、次いで常温で放置あるいは加熱処理をすることにより、さらに導電性を向上させることができる。酸によるドーピング処理方法は、特に限定されるものではなく公知の方法を用いることができる。例えば、酸性溶液中に導電体を浸漬させるなどの処理をすることによりドーピング処理を行うことができる。酸性溶液は、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸や、p−トルエンスルホン酸、カンファスルホン酸、安息香酸及びこれらの骨格を有する誘導体などの有機酸や、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパン)スルホン酸、ポリビニル硫酸及びこれらの骨格を有する誘導体などの高分子酸を含む水溶液、あるいは、水−有機溶媒の混合溶液である。なお、これらの無機酸、有機酸、高分子酸はそれぞれ単独で用いても、また2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0055】
<基材>
カーボンナノチューブ含有組成物(Y)を塗工して導電性塗膜(X)が形成される基材の種類は、特に限定されないが、カーボンナノチューブ含有組成物(Y)に溶解または膨潤しない基材が好ましい。合成樹脂、木材、紙材、セラミックス、繊維、不織布、炭素繊維、炭素繊維紙、及びこれらのフィルム、シート、発泡体、多孔質膜、エラストマー、そして、ガラス板、ステンレス板等の無機材料が挙げられる。合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、これらのフィルム、シート、発泡体及びエラストマーなどが例示される。これらの合成樹脂はそれぞれ単独で用いても、また2種類以上の混合物でも用いることができる。また、上記基材の表面に微少な凹凸を有する材料を用いることによって、表面に微少な凹凸を有する導電性成形体を得ることもできる。
【0056】
<成形体(D)及び成形体(D)の形成方法>
表面にカーボンナノチューブ(a)を保持する成形体(d)は特に限定されないが、得られる導電性成形体の加工性の点から、合成樹脂であることが好ましい。合成樹脂としてはアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、フッ素樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレン−アクリル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂等が好適に使用可能である。
【0057】
必要に応じて上記の樹脂の組合せ(層状構造を含む)、これらの樹脂のブレンド、これらの樹脂を構成する各成分(単量体、等)の組合せを含む共重合体等を使用してもよい。透明性、耐衝撃性、易成形性の観点から、特に好ましくはアクリル樹脂である。
本発明で使用される成形体(d)を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、成形体(d)を加熱し溶融させた成形体溶融物を冷却する方法、成形体(d)を溶剤に溶解、膨潤あるいは分散させた組成物を乾燥させる方法、特に成形体(d)が合成樹脂の場合には、合成樹脂として重合する前の単量体や、前記単量体とその部分重合体を含有する重合性原料を重合させる方法等が挙げられる。
【0058】
成形体(d)を溶剤に溶解、膨潤あるいは分散させた組成物を乾燥させる方法では、均一な導電性成形体を形成するためには、成形体(d)は溶剤に溶解する方が好ましい。その溶剤は成形体を溶解、膨潤あるいは分散できるものであれば特に限定されないが、例えば成形体(d)がアクリル樹脂の場合には、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、四塩化炭素、二塩化エチレン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶剤や成形体の単量体である(メタ)アクリル酸のエステル類が使用できる。
【0059】
成形体(d)を溶剤に溶解、膨潤あるいは分散させた組成物を、基材表面に形成した導電性塗膜(X)と密着するように配置し乾燥させて成形体(d)を得る。該組成物を導電性塗膜(X)と密着するように配置する方法としては、特に限定されないが、例えば、組成物を塗布する、組成物中に基材を浸漬する等が挙げられる。乾燥の方法は特に限定されないが、乾燥機で溶剤が揮発する温度で乾燥する、真空乾燥機で乾燥する、大気中で乾燥する、等が挙げられる。
【0060】
重合性原料を重合させる方法では、アクリル樹脂の場合、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸のエステル類を主成分とする単量体、この単量体の部分重合体を含有する重合性原料を例示できる。(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸のエステル類としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フエニル、(メタ)アクリル酸ペンジル、(メタ)アクリルジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド等のメタクリル酸エステルを挙げることができる。これらの他にも、スチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン等の分子中に不飽和二重結合を有する(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸のエステル類以外の化合物等も好適に用いられる。上記単量体は2種類以上混合して使用することができる。前述の重合性原料における単量体の一部が重合した(共)重合体と単量体との混合物とは重合率が35重量%以下のものが好ましい。
【0061】
また重合性原料には連鎖移動剤を添加することもできる。連鎖移動剤としては、通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いればよいが、好ましくは炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸、チオフェノールあるいはそれらの混合物などのメルカプタン系連鎖移動剤である。さらには好ましくは、n−オクチルメルカプタンやn−ドデシルメルカプタンのようなアルキル鎖の短いメルカプタンである。
【0062】
この重合性原料を加熱により重合させるには、アゾ化合物あるいは有機過酸化物等のラジカル重合開始剤を用いるのが好ましい。アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)等を挙げられるができ、他方、有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。また、レドックス系の重合開始剤、例えば有機過酸化物とアミン類との組合せも用いることができる。
【0063】
また、この重合性原料を紫外線により重合させるには、フェニルケトン系化合物、ベンゾフェノン系化合物等の通常の光重合開始剤を用いることができ、「イルガキュア184」(日本チバガイギー(株)製)、「イルガキュア907」(日本チバガイギー(株)製)、「ダロキュア1173」(メルク・ジャパン(株)製)、「エザキュアKIP100F」(日本シーベルヘグナー(株)製)等の市販品を用いることができる。また、紫外線による重合を行う場合には光増感剤を用いることができる。光増感剤としては、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロゲキシルフェニルケトン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイドその他の一般に知られる光増感剤を挙げることができる。また400nm以下の波長域において増感作用を有する光増感剤を添加する場合もある。
【0064】
本発明において、成形体(d)として合成樹脂を用いて導電性成形体を製造する際には、例えば、注型重合型あるいは成形型を用いて成形することも可能である。この方法においては、例えば、注型重合型あるいは成形型の表面に、カーボンナノチューブ含有組成物(Y)を塗工し、導電性塗膜(X)を形成させる。次いで導電性塗膜(X)に密着するように重合性原料を注型重合、あるいは溶融樹脂を成形することにより樹脂成形品を形成させ、該樹脂成形品の表面にカーボンナノチューブ(a)を保持させればよい。このような方法により、任意の表面形状を有する成形型または注型重合型を使用した場合には、その形状を有する導電性成形体を得ることができ、特に表面平滑な成形型または注型重合型を用いたときには、表面平滑な導電性成形体を得ることが可能である。
【0065】
このような本発明の態様に適用できる注型重合法は特に限定されないが、例えば、上記重合性組成物をガラス等からなる注型重合型に注入して、重合させるいわゆるキャスト重合法が挙げられる。このキャスト重合法を用いる場合は、カーボンナノチューブ含有組成物(Y)をガラス型の内面に塗布し、導電性塗膜(X)を形成した後、同ガラス注型重合型内部にて、該重合性原料のキャスト重合を行うことができる。このガラス板からなるガラス注型重合型の製造ないし組み立て方法は特に制限されないが、例えば2枚のガラス板の間にガスケット(軟質ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等からなる)をはさみ込み、クランプ等で固定ないしとめることにより、組み立てることができる。
【0066】
また連続的にキャスト重合する方法として、例えば特公昭46−41602号公報に記載されている公知の装置において、2枚のスチールベルトの間でメタクリル酸メチル等をキャスト重合する方法が知られているが、このような連続的キャスト重合を用いる場合においては、例えば、スチールベルト表面にカーボンナノチューブ含有組成物(Y)を塗布し、導電性塗膜(X)を形成することにより、実施することができる。
【0067】
注型重合を行う際の重合性原料は特に制限されないが、例えば、重合生成物の透明性の点からは、メタクリル酸メチルを主成分とする単量体または少量の重合体を含有する重合性原料が好適に使用可能である。ここで「メタクリル酸メチルを主成分とする」とは、「メタクリル酸メチルを50質量%以上含む」ことをいう。
【0068】
本発明の導電性成形体の製造方法は、射出成形への応用も可能である。この射出成形を使用する場合には、例えば、予め基材である成形型の内面にカーボンナノチューブ含有組成物(Y)を塗工し、導電性塗膜(X)を形成し、次いで成形型内部に合成樹脂を溶融・射出成形した後、成形型より合成樹脂を剥離し、洗浄液(e)で洗浄することにより、導電性成形体を製造することができる。
【0069】
<成形体に保持されているカーボンナノチューブの形態>
上記カーボンナノチューブ(a)は導電性成形体の少なくとも一つの表面に保持されている。保持の形態は特に限定されないが、例えば、成形体(d)の表面に密着している、カーボンナノチューブ(a)あるいはカーボンナノチューブ(a)の一部が成形体中に入り込んでいる、カーボンナノチューブ(a)あるいは一部分が成形体(d)中に入り込んでいるカーボンナノチューブ(a)が成形体(d)とファンデルワールス力等によって吸着している、カーボンナノチューブ(a)あるいは一部分が成形体(d)中に入り込んでいるカーボンナノチューブ(a)が、水素結合、静電相互作用、π電子相互作用等の相互作用により弱く結合している、カーボンナノチューブ(a)が成形体(d)と結合している等が挙げられる。
【0070】
<カーボンナノチューブに付着している導電性ポリマーの形態>
本発明に使用されるカーボンナノチューブ(a)は導電性ポリマー(b)が付着しているものが好ましく用いられる。付着の形態は特に限定されないが、例えば、カーボンナノチューブ(a)の表面に密着している、導電性ポリマー(b)がカーボンナノチューブ(a)と静電相互作用、π電子相互作用等の相互作用により弱い結合を持っている、導電性ポリマー(b)がカーボンナノチューブ(a)にポリマーラッピングしている、導電性ポリマー(b)がカーボンナノチューブ(a)と結合している等が挙げられる。
【0071】
<洗浄液(E)>
本発明で剥離した導電性成形体を洗浄する洗浄液(e)は、導電性ポリマー(b)を溶解し、成形体(d)を犯さない液であることが好ましい。洗浄液(e)としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン、 N−エチルピロリドン等のピロリドン類;ジメチルスルオキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類等;アニリン、N−メチルアニリン等のアニリン類が好ましく用いられる。上記洗浄液は、1種類、または2種類以上の混合洗浄液として用いることもできる。導電性ポリマー(b)として水溶性導電性ポリマーを用いる場合には、水溶性導電性ポリマーの溶解性、溶剤(c)としては、水または含水有機溶剤が好ましく用いられる。
【0072】
洗浄方法は特に限定されない。例えば、導電性成形体を洗浄液(e)に浸漬する、浸漬した後数分〜数時間振とうする、浸漬した後数分〜数時間超音波により洗浄する、導電性成形体の表面に洗浄液(e)をシャワーリングする、等が挙げられる。洗浄液(e)の温度は特に限定されないが、室温以上、250℃以下が好ましく、特に20℃〜200℃が好ましい。250℃より高いと導電性ポリマー(b)自体が分解、不溶化する恐れがあり導電性が著しく低下し、洗浄液(e)によって洗い流すことができなくなることがあるため、導電性成形体の色調、透明性、外観が悪化する可能性がある。
【0073】
<全光線透過率>
本発明の導電性成形体は、洗浄液(e)でカーボンナノチューブ(a)以外の例えば導電性ポリマー等の着色由来成分を除去することができるため、透明性に優れる。そのため全光線透過率は、50%以上、好ましくは70%以上のものであり、透明導電性成形体として各種用途に適用可能である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、原料のカーボンナノチューブは、ILJIN社製、CVD法により製造された多層カーボンナノチューブ を使用した。
【0075】
<評価方法>
実施例及び比較例で得られた導電性成形体は、下記の方法で、表面抵抗値、全光線透過率、表面外観の測定を行った。
(表面抵抗値)
25℃、15%RHの条件下で表面抵抗値の測定には、表面抵抗値が10Ω以上の場合は二探針法(電極間距離:20mm)を用い、表面抵抗値が10Ω以下の場合は四探針法(各電極間距離:5mm)を用いた。
(全光線透過率)
全光線透過率(%)は日本電色製HAZEMETER NDH2000により測定した。
(表面外観)
目視により導電性成形体の色調及び状態を観察した。
○:表面が均一な導電性成形体が形成された。
×:カーボンナノチューブが不均一に存在する導電性成形体が形成された。
【0076】
<導電性ポリマーの製造>
(製造例1−1、導電性ポリマー(A−1))
ポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)の合成:
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを25℃で4mol/Lのトリエチルアミン水溶液に攪拌溶解し、これにペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolの水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間更に攪拌した後に反応生成物を濾別洗浄後乾燥し、ポリマー粉末15gを得た。この導電性ポリマー(A−1)の体積抵抗値は9.0Ω・cmであった。
【0077】
(製造例1−2、導電性ポリマー(A−2))
ポリ(2−スルホ−1,4−イミノフェニレン)の合成:
m−アミノベンゼンスルホン酸100mmolを25℃で4モル/リットルのトリメチルアミン水溶液に攪拌溶解し、これにペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolの水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間更に攪拌した後に、反応生成物を濾別洗浄後乾燥し、ポリマー粉末10gを得られた。この導電性ポリマー(A−2)の体積抵抗値は12.0Ω・cmであった。
【0078】
<カーボンナノチューブ含有組成物の調製>
(製造例2−1)カーボンナノチューブ含有組成物1:
上記製造例1−1の導電性ポリマー(A−1)5質量部、カーボンナノチューブ0.4質量部を水100質量部に室温にて混合してカーボンナノチューブ含有組成物1を調製した。
【0079】
(製造例2−2)カーボンナノチューブ含有組成物2:
上記製造例1−1の導電性ポリマー(A−1)5質量部、カーボンナノチューブ0.4質量部を水100質量部に室温にて混合して超音波ホモジナイザー処理(SONIC社製 vibra cell 20kHz)を1時間実施しカーボンナノチューブ含有組成物2を調製した。
【0080】
(製造例2−3)カーボンナノチューブ含有組成物3:
上記製造例1−1の導電性ポリマー(A−1)5質量部、カーボンナノチューブ0.1質量部、水系エマルジョンであるアクリル樹脂「ダイヤナールMX−1845」(三菱レイヨン社製、樹脂分40質量%)20質量部を水100質量部に室温にて混合して超音波ホモジナイザー処理(SONIC社製 vibra cell 20kHz)を1時間実施しカーボンナノチューブ含有組成物3を調製した。
【0081】
(製造例2−4)カーボンナノチューブ含有組成物4:
上記製造例1−2の導電性ポリマー(A−2)5質量部、カーボンナノチューブ0.1質量部、アンモニア1質量部を水100質量部に室温にて混合して超音波ホモジナイザー処理(SONIC社製 vibra cell 20kHz)を1時間実施しカーボンナノチューブ含有組成物4を調製した。
【0082】
(製造例2−5)カーボンナノチューブ含有組成物5:
上記製造例1−1の導電性ポリマー(A−1)3質量部、カーボンナノチューブ0.4質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸0.5質量部を水/メタノール混合溶媒(質量比9/1)100質量部に室温にて混合して超音波ホモジナイザー処理(SONIC社製 vibra cell 20kHz)を1時間実施しカーボンナノチューブ含有組成物5を調製した。
【0083】
<カーボンナノチューブ含有組成物の塗工と導電性塗膜の形成>
(製造例3−1):基材1〜基材3
上記製造例2−1〜製造例2−3の各カーボンナノチューブ含有組成物1〜3をガラス基板にバーコーター法(バーコートNo.3使用)により塗布し、80℃で5分間乾燥させ、表面に導電性塗膜を形成した基材1〜3を得た。
【0084】
(製造例3−2):基材4〜基材5
上記製造例2−4〜製造例2−5の各カーボンナノチューブ含有組成物4〜5をステンレス基板にバーコーター法(バーコートNo.3使用)により塗布し、80℃で5分間乾燥させ、表面に導電性塗膜を形成した基材4〜基材5を得た。
【0085】
(製造例3−3):基材6〜基材10
上記製造例2−1〜製造例2−5の各カーボンナノチューブ含有組成物1〜5をセルキャスト重合用ガラス基板にバーコーター法(バーコートNo.3使用)により塗布し、80℃で5分間乾燥させ、表面に導電性塗膜を形成した基材6〜基材10を得た。
【0086】
<導電性成形体の製造>
(実施例1)
上記製造例3−1の基材1の導電性塗膜に密着するように、アセトン80質量部にメタクリル酸メチルポリマー20質量部を溶解させた溶液をキャストし、室温で1日乾燥後、真空乾燥機中70℃で3時間乾燥した。基材1を剥離し、流水で洗浄した。
【0087】
(実施例2)
上記製造例3−1の基材2の導電性塗膜に密着するように、アセトン80質量部にメタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合ポリマー(質量比98/2)20質量部を溶解させた溶液をキャストし、室温で1日乾燥後、真空乾燥機中70℃で3時間乾燥した。基材2を剥離し、流水で洗浄した。
【0088】
(実施例3)
上記製造例3−1の基材3の導電性塗膜に密着するように、テトラヒドロフラン80質量部にメタクリル酸メチルポリマー15質量部、スチレン5質量部を溶解させた溶液をキャストし、室温で1日乾燥後、真空乾燥機中70℃で3時間乾燥した。基材3を剥離し、流水で洗浄した。
【0089】
(実施例4)
上記製造例3−2の基材4の導電性塗膜に密着するように、アセトン80質量部にメタクリル酸メチルポリマー20質量部を溶解させた溶液をキャストし、室温で1日乾燥後、真空乾燥機中70℃で3時間乾燥した。基材4を剥離し、流水で洗浄した。
【0090】
(実施例5)
上記製造例3−2の基材5の導電性塗膜に密着するように、アセトン80質量部にメタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合ポリマー(質量比95/5)20質量部を溶解させた溶液をキャストし、室温で1日乾燥後、真空乾燥機中70℃で3時間乾燥した。基材5を剥離し、流水で洗浄した。
【0091】
(実施例6)
上記製造例3−3の基材6ともう一枚の表面には何も塗布していないセルキャスト重合用ガラス板を、軟質塩化ビニル製のガスケットと組合せて金具で固定し、セルキャスト重合用の注入重合型を組み立てた。
この注型重合型にポリメタクリル酸メチル15質量部、メタクリル酸メチル85質量部とを含む組成物100質量部当たり、重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を含む重合性組成物を注液し、湯浴中80℃で30分、オーブン中130℃で1時間重合させた。注型重合型を分解し、水流で洗浄した。
【0092】
(実施例7)
上記製造例3−3の基材7ともう一枚の表面には何も塗布していないセルキャスト重合用ガラス板を、軟質塩化ビニル製のガスケットと組合せて金具で固定し、セルキャスト重合用の注入重合型を組み立てた。
この注型重合型にポリメタクリル酸メチル15質量部、メタクリル酸メチル84質量部、アクリル酸メチル1質量部とを含む組成物100質量部当たり、重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を含む重合性組成物を注液し、湯浴中80℃で30分、オーブン中130℃で1時間重合させた。注型重合型を分解し、流水で洗浄した。
【0093】
(実施例8)
上記製造法3−3の基材8と、もう一枚の表面には何も塗布していないセルキャスト重合用ガラス板を、軟質塩化ビニル製のガスケットと組合せて金具で固定し、セルキャスト重合用の注入重合型を組み立てた。
この注型重合型にポリメタクリル酸メチル15質量部、メタクリル酸メチル80質量部、アクリル酸n−ブチル5質量部とを含む組成物100質量部当たり、重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を含む重合性組成物を注液し、湯浴中80℃で30分、オーブン中130℃で1時間重合させた。注型重合型を分解し、水流で洗浄した。
【0094】
(実施例9)
上記製造法3−3の基材9と、もう一枚の表面には何も塗布していないセルキャスト重合用ガラス板を、軟質塩化ビニル製のガスケットと組合せて金具で固定し、セルキャスト重合用の注入重合型を組み立てた。
この注型重合型にポリメタクリル酸メチル15質量部、メタクリル酸メチル45質量部、スチレン40質量部とを含む組成物100質量部当たり、重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を含む重合性組成物を注液し、湯浴中80℃で30分、オーブン中130℃で1時間重合させた。注型重合型を分解し、水流で洗浄した。
【0095】
(実施例10)
上記製造法3−3の基材10と、もう一枚の表面には何も塗布していないセルキャスト重合用ガラス板を、軟質塩化ビニル製のガスケットと組合せて金具で固定し、セルキャスト重合用の注入重合型を組み立てた。
この注型重合型にポリメタクリル酸メチル20質量部、メタクリル酸メチル80質量部とを含む組成物100質量部当たり、重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を含む重合性組成物を注液し、湯浴中80℃で30分、オーブン中130℃で1時間重合させた。注型重合型を分解し、水流で洗浄した。
【0096】
(比較例)
<カーボンナノチューブ含有組成物の調製>
(比較製造例2−1)カーボンナノチューブ含有組成物6:
カーボンナノチューブ0.1質量部を水100質量部に室温にて混合してカーボンナノチューブ含有組成物6を調製した。
【0097】
<カーボンナノチューブ含有組成物の塗工>
(比較製造例3−1):基材11
上記比較製造例2−1のカーボンナノチューブ含有組成物6をガラス基板にバーコーター法(バーコートNo.3使用)により塗布し、80℃で5分間乾燥させ、塗膜を形成した。
【0098】
(比較製造例3−2):基材12
上記比較製造例2−1のカーボンナノチューブ含有組成物6をセルキャスト重合用ガラス板にバーコーター法(バーコートNo.3使用)により塗布し、80℃で5分間乾燥させ、導電性塗膜を形成した。
【0099】
<導電性成形体の製造>
(比較例1)
上記比較製造例3−1の基材11の導電性塗膜に密着するように、メタクリル酸メチルポリマー20質量部を溶解させたアセトン溶液をキャストし、室温で1日乾燥後、真空乾燥機中70℃で3時間乾燥した。基材7を剥離し、流水で洗浄した。
【0100】
(比較例2)
上記比較製造例3−2の基材12ともう一枚の表面には何も塗布していないセルキャスト重合用ガラス板を、軟質塩化ビニル製のガスケットと組合せて金具で固定し、セルキャスト重合用の注入重合方を組み立てた。
この注型重合型にポリメタクリル酸メチル15質量部、メタクリル酸メチル85質量部とを含む組成物100質量部当たり、重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を含む重合性組成物を注液し、湯浴中80℃で30分、オーブン中130℃で1時間重合させた。注型重合型を分解し、水流で洗浄した。
【0101】
(比較例3)
カーボンナノチューブ含有組成物1をガラス基板にバーコーター法(バーコートNo.3使用)により塗布し、80℃で5分間乾燥させ、塗膜を形成した。
【0102】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の導電性成形体は、各種帯電防止剤、コンデンサー、電池、燃料電池及びその高分子電解質膜、電極層、触媒層、ガス拡散層、ガス拡散電極層、セパレーターなどの部材、EMIシールド、化学センサー、表示素子、非線形材料、防食剤、接着剤、繊維、紡糸用材料、帯電防止塗料、防食塗料、電着塗料、メッキプライマー、静電塗装用導電性プライマー、電気防食、電池の蓄電能力向上、半導体、電器電子部品などの工業用包装材料、オーバーヘッドプロジェクタ用フィルム、スライドフィルムなどの電子写真記録材料等の帯電防止フィルム、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータ用テープ、フロッピィディスクなどの磁気記録用テープの帯電防止、電子デバイスのLSI配線、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)の電子銃(源)及び電極、水素貯蔵剤、更に透明タッチパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイなどの入力及び表示デバイス表面の帯電防止や透明電極、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する発光材料、バッファ材料、電子輸送材料、正孔輸送材料及び蛍光材料、熱転写シート、転写シート、熱転写受像シート、受像シート等の用途に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一つの表面上に形成したカーボンナノチューブ(a)と導電性ポリマー(b)を含有する導電性塗膜(X)に、少なくとも一つの表面が密着するように成形体(d)を形成し、その後、該基材を剥離することを特徴とする導電性成形体の製造方法。
【請求項2】
基材を剥離後、洗浄液(e)で洗浄することを特徴とする請求項1記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項3】
導電性塗膜(X)が、カーボンナノチューブ(a)、導電性ポリマー(b)、および溶媒(c)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物(Y)を塗工し、常温で放置または加熱処理を行って形成することを特徴とする請求項1または2記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項4】
カーボンナノチューブ含有組成物(Y)が高分子化合物(f)を含有することを特徴とする請求項3記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブ含有組成物(Y)が塩基性化合物(g)を含有することを特徴とする請求項3または4記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項6】
カーボンナノチューブ含有組成物(Y)が界面活性剤(h)を含有することを特徴とする請求項3ないし5のいずれか一項に記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項7】
カーボンナノチューブ含有組成物(Y)が超音波を照射したものであることを特徴とする請求項3ないし6のいずれか一項に記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の方法によって製造された少なくとも一つの表面上にカーボンナノチューブが保持されている導電性成形体。
【請求項9】
全光線透過率が50%以上であることを特徴とする請求項8記載の導電性成形体。

【公開番号】特開2006−45383(P2006−45383A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229549(P2004−229549)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】