説明

導電性樹脂充填用カーボンナノ物質及びその製造方法

【課題】樹脂材料粒子に導電性カーボンナノ物質を分散混合して導電性を付加する際に、分散混合が均一になる様に、凝集性を弱めた導電性カーボンナノ物質を提供する。
【解決手段】疎水性カーボンナノ材料1にオゾンを反応させる。オゾンにより、親水性基が疎水性カーボンナノ材料の表面に形成され、疎水性表面を親水性表面に変化させると共に、ベンゼン環同士の相互作用を阻害する。この親水化処理は、樹脂材料粒子への分散混合と同一の容器において行うことができる。これにより、樹脂材料粒子及び分散混合に使用される溶媒において、高分散性を有する様、親水性基を表面に結合させた高分散性カーボンナノ物質4が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有するカーボンナノ物質に関し、更に詳細には、樹脂に添加することにより導電性を付加する用途に用いられるカーボンナノ物質に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁体である樹脂に導電性が付加された導電性樹脂は、工業的に重要な用途に使用されている。例えば、静電気に対して脆弱な半導体製電子部品を運搬する際には、導電性樹脂により製造された運搬容器を使用することにより、前記電子部品を破損から防ぐことができる。又、自動車における燃料キャップなど、火花防止が必要な部材の製造にも使用されている。又、金属よりも軽量であり、加工性もより高い部材として、導電性樹脂は電子部品の製造にも使用されている。
【0003】
このような導電性樹脂の製造方法としては、絶縁体樹脂に導電性添加剤としてケッチェンブラック等のグラファイト系カーボン材料を添加する方法がある。しかし、この方法においては、前記導電性添加剤の導電性が低いので、十分な樹脂導電性を得る為には、大量な添加が必要となる。このような大量添加により、(1)樹脂の流動性が悪化し、成形性が悪化する、(2)樹脂と添加剤の熱収縮率の差による変形が発生する、(3)添加剤による硬化のため、二次加工が実施しにくくなる、(4)成型品の表面における、添加剤により発生する凹凸が顕著となる、及び(5)添加剤の発塵により、作業環境が汚染されたり製品性能が低下するという欠点を生じる。
【0004】
前記したグラファイト系カーボン材料より導電性が高い材料として、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等のカーボンナノ物質が前記導電性添加剤として使用されている。これらのカーボンナノ物質は、導電性が高いだけではなく、比表面積が高いので、相互に接触し易く、導電ネットワークを形成し易いために、添加量が前記グラファイト系カーボン材料よりも少量で済むという利点を有する。このようにカーボンナノチューブ等のカーボンナノ物質を樹脂への導電性添加剤として使用する例としては、特開2003−100147号公報(特許文献1)、特開2003−192914号公報(特許文献2)及び特開2003−221510号公報(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−100147号公報
【特許文献2】特開2003−192914号公報
【特許文献3】特開2003−221510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、導電性カーボンナノ物質は、樹脂への導電性添加物としては、重大な欠点を有する。それは、これらの材料が難分散性であることにより、導電性樹脂の製造に支障が生じ、従って前記導電性樹脂において高性能が得られにくいことである。
【0007】
カーボンナノ物質は、その生成時点においては、炭素原子のみにより組成される。従って、生成時点におけるカーボンナノ物質の表面においては、水と親和性を有する(親水性を有する)化学基が存在しないので、非常に強い疎水性を有する。この強い疎水性により、前記カーボンナノ物質の分子群が凝集し、非常に強固な凝集体を形成することが実験的に確認されている。この凝集体は、水及びアルコール等の親水性溶媒を使用して解砕できないことが確認されている。従って、親水性溶媒において、界面活性剤を添加しない状態では、安定なカーボンナノ物質の分散液は作製できないことが実験的に確認されている。又、前記凝集体が一旦形成されたら、非常に強い凝集力の為に、トルエン及びジクロロメタンなどの疎水性溶媒を使用しても、前記凝集体を解砕し難いことが、確認されている。従って、疎水性溶媒を使用しても、カーボンナノ物質の分散液は、作製しにくい。
【0008】
この強力な疎水性を有するカーボンナノ物質を樹脂内に分散させる際には、前記カーボンナノ物質の凝集体が前記樹脂内に形成され、従って前記カーボンナノ物質が前記樹脂内に均一に分散されず、製造される導電性樹脂の導電性を結果的に向上させることができない。このようなカーボンナノ物質の樹脂内における凝集は、特に樹脂分子がエステル及びアミドなどの親水性基を有する場合には、特に顕著となるが、ポリプロピレン等の疎水性基のみを有する樹脂においても見られる。
【0009】
又、カーボンナノ物質を樹脂内に分散させる為に溶媒を添加する場合には、前記溶媒が親水性であれば、樹脂の膨潤及び溶解が容易になる場合が多い。特に、前記カーボンナノ物質を、樹脂の表面から内部へ分散して混合させる場合においては、前記溶媒による樹脂の膨潤及び溶解が有用である。しかし、前記カーボンナノ物質の、前記溶媒への分散性が低い場合には、当然なことに前記樹脂の表面内部又は全体への分散の均一性が低くなる。この低分散性は、機械的攪拌又は超音波による混合などにより、ある程度まで克服できるが、カーボンナノ物質のミクロな凝集体は、この方法においても分解が困難である。従って、親水性溶媒に高分散性を示すカーボンナノ物質が必要となる。更に、樹脂の膨潤及び溶解に有利な溶媒が疎水性である場合においても、疎水性溶媒は、上記の理由により、カーボンナノ物質を分散し難いので、カーボンナノ物質の凝集体が問題となる。従って、疎水性溶媒を使用する場合においても、高分散性を示すカーボンナノ物質が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記した困難を克服する為になされたものであり、本発明の物質形態は、親水性を付加して凝集性を弱めることにより、前記樹脂材料の表面内部又は全体において、均一な分散を行うことができる高分散性カーボンナノ物質である。本発明においては、カーボンナノ物質が、表面から内部又は全体において分散状に混合された(分散混合層が形成された)樹脂材料粒子を、導電性樹脂成形体を作製するための材料として使用することを想定している。このように導電性樹脂成形体を作製することにより、成形後に導電膜を付加することが困難な構造を有する樹脂成形体を、成形当初から導電性を有する樹脂成形体として作製できる。又、本発明の製法形態は、カーボンナノ物質にオゾンガス又はオゾン含有ガスを酸化反応させることにより親水性を付加させ、前記カーボンナノ物質の樹脂材料粒子における均一な分散混合層の形成を容易にする方法である。
【0011】
従って、本発明の第1の形態は、樹脂材料粒子の表面からその内側に向かってカーボンナノ物質を分散状に混合した分散混合層を前記樹脂材料粒子の全表面又は一部表面に少なくとも形成するために使用されるカーボンナノ物質であり、前記カーボンナノ物質の疎水性表面が親水性表面に変化されて、親水性溶媒に高分散する特性を有する高分散性カーボンナノ物質である。
【0012】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記カーボンナノ物質が、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノコイル、カーボンナノツイスト、カーボンナノホーン及びフラーレンの1種以上である高分散性カーボンナノ物質である。
【0013】
本発明の第3の形態は、第1又は2の形態における高分散性カーボンナノ物質を親水性溶媒又は親水性溶液に分散させた分散液である。
【0014】
本発明の第4の形態は、第3の形態において、前記親水性溶媒は水、二酸化炭素、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン、アミド又はニトリルである分散液である。
【0015】
本発明の第5の形態は、第3の形態において、前記親水性溶液は水溶液、二酸化炭素溶液、アルコール溶液、ケトン溶液、エーテル溶液、エステル溶液、カルボン酸溶液、アミン溶液、アミド溶液又はニトリル溶液である分散液である。
【0016】
本発明の第6の形態は、連続発生により生成されたオゾン又はオゾン含有ガスを、カーボンナノ物質が存在する気相中又は液相中へ導入して、前記カーボンナノ物質を酸化処理することにより、親水性溶媒に高分散する特性を前記カーボンナノ物質に付加する高分散性カーボンナノ物質の製造方法である。
【0017】
本発明の第7の形態は、第6の形態において、前記カーボンナノ物質の酸化処理と同時に又は前記処理後に、樹脂材料粒子における分散混合層の形成を、同一の容器内において行う高分散性カーボンナノ物質の製造方法である。
【0018】
本発明の第8の形態は、第6又は7の形態において、前記液相における液体が水、二酸化炭素、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン、アミド又はニトリルの1種以上を含有する高分散性カーボンナノ物質の製造方法である。
【0019】
本発明の第9の形態は、第6〜8の形態のいずれかにおいて、前記オゾン又はオゾン含有ガスの連続発生方法が高電圧印加による無声放電である高分散性カーボンナノ物質の製造方法である。
【0020】
本発明の第10の形態は、第6〜9の形態のいずれかにおいて、前記オゾン含有ガスのオゾン濃度が0.01vol%〜14vol%である高分散性カーボンナノ物質の製造方法である。
【0021】
本発明の第11の形態は、第6〜10の形態のいずれかにおいて、前記酸化処理の時間が1分〜200分である高分散性カーボンナノ物質の製造方法である。
【0022】
本発明の第12の形態は、第6〜11の形態のいずれかにおいて、前記酸化処理の温度が0℃〜100℃である高分散性カーボンナノ物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1の形態によれば、高分散性カーボンナノ物質の表面は親水性に変化されているので、親水性溶液への分散性が高く、また親水性基を有する樹脂への分散性も高い。従って、樹脂材料粒子の少なくとも全表面又は一部表面から内側への均一な分散混合(即ち、均一な分散混合層の形成)が容易になり、また形成される導電性樹脂材料粒子の導電性も高くなる。又、親水性溶媒にも安定に分散するので、前記親水性溶媒を添加して前記樹脂材料粒子への前記高分散性カーボンナノ物質を分散する際に、均一な分散混合層の形成が期待できる。
【0024】
上記した通り、本発明においては、カーボンナノ物質が、表面から内部又は全体において分散状に混合された(分散混合層が形成された)樹脂材料粒子を、導電性樹脂成形体を作製するための材料として使用することを想定している。ここにおける樹脂材料粒子とは、集合させて成形することより樹脂成形体を作製するための材料となる、粉末状又はペレット状の樹脂を指す。上記した通り、前記樹脂材料粒子に導電性を付加することにより、成形後に導電膜を付加することが困難な構造を有する樹脂成形体を、成形当初から導電性を有する樹脂成形体として作製できるという利点が発生する。
【0025】
又、ここにおける分散混合層とは、前記高分散性カーボンナノ物質が、樹脂材料粒子表面から内部に埋め込まれることにより形成される層であり、前記分散混合層の全体において、前記高分散性カーボンナノ物質により、導電性が付加される。ここにおける分散混合層は、高分散性カーボンナノ物質が樹脂材料粒子表面内に打込まれる分散打込層、高分散性カーボンナノ物質が樹脂材料粒子表面に練り込まれる分散練込層、及び高分散性カーボンナノ物質が樹脂材料表面内に埋め込まれる分散埋込層などがあるが、これらの層を全て包括した表現として、分散混合層としたものである。
【0026】
このような分散混合層を有する導電性樹脂材料粒子が成形される際に、前記分散混合層における高分散性カーボンナノ物質が、成形体内において導電性網を形成するので、この成形体は導電性となる。ここにおける導電性網を形成する為には、分散混合層が複合樹脂材料粒子の全表面に形成される必要はなく、一部表面でもよい。
【0027】
ここにおける樹脂材料粒子の材料となる樹脂としては、カルボニル、カルボキシル、アミド、エステル及びエーテル等の親水性基を有するものが多く存在する。例を挙げれば、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、及びポリエチレンテレフタラート(PET)等が挙げられる。カーボンナノ物質に親水性を付加することにより、これらの樹脂材料粒子における均一な分散混合層の形成が容易になり、製造される導電性樹脂材料粒子の導電性が高くなる。
【0028】
又、前記した通り、親水化された高分散性カーボンナノ物質は、疎水性物質にも容易に分散する。疎水性基のみを有する樹脂としては、ポリパーフルオロテトラエチレン(PFTE)、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレン等があるが、これらの樹脂材料粒子においても本形態における高分散性カーボンナノ物質を用いて均一な分散混合層を形成することができる。
【0029】
親水性溶媒としては、二酸化炭素、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン、アミド及びニトリル等が存在する。これらの溶媒は、親水性樹脂だけではなく、疎水性樹脂も膨潤軟化及び溶解させることができるので、樹脂材料粒子に高分散性カーボンナノ物質を分散混合させて分散混合層を形成する工程において有用である。本形態における高分散性カーボンナノ物質は、親水性溶媒に高分散性を有するので、樹脂材料粒子において均一な分散混合層の形成に使用できる。
【0030】
又、本形態における高分散性カーボンナノ物質は、トルエン及びジクロロメタンなどの疎水性溶媒にも分散させることができるので、疎水性溶媒を使用しても、樹脂材料粒子における均一な分散混合層の形成を行うことができる。
【0031】
本発明の第2の形態によれば、親水化できるカーボンナノ物質がカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノコイル、カーボンナノツイスト、カーボンナノホーン又はフラーレンの1種以上であるので、用途に応じて最も適応性を有するカーボンナノ物質を使用でき、従って導電性樹脂材料粒子の製造に融通性をもたらすことができる。
【0032】
これらのカーボンナノ物質は、全て縮合ベンゼン環により構成されているので、多数のベンゼン環同士の疎水性作用により強固な凝集体を形成しやすい。これらのカーボンナノ物質を親水化することにより、前記カーボンナノ物質の凝集力を弱めた高分散性カーボンナノ物質を製造し、樹脂材料粒子及び溶媒中に均一に分散させることができる。
【0033】
カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノコイル、カーボンナノツイスト、カーボンナノホーン及びフラーレン等のカーボンナノ物質は、自由電子の移動性が高いので、高導電性を有する。従って、少量の添加により十分な樹脂導電性が得られる。これらのカーボンナノ物質に親水性を付加することにより、樹脂材料粒子における均一な分散混合層を形成することができ、樹脂材料粒子及びそれから成形される成形体に高導電性を付加することができる。
【0034】
本発明の第3の形態によれば、分散液における分散物として第1又は2の形態における高分散性カーボンナノ物質を使用し、前記高分散性カーボンナノ物質の樹脂材料粒子への均一な分散混合を容易にすることができる
【0035】
本発明の第4の形態によれば、前記親水性溶媒として、水、二酸化炭素、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン、アミド又はニトリルを使用できるので、用途に応じて溶媒を使い分けることができる。
【0036】
二酸化炭素の分子は極性を有さない。しかし、水が二酸化炭素と反応して炭酸を形成することにより、水が二酸化炭素に溶解するので、親水性溶媒として分類できる。二酸化炭素は、液体状態(超臨界又は亜臨界)において、樹脂を膨潤軟化させることができる。従って、液体二酸化炭素を使用して安定なカーボンナノ物質分散液を作製すれば、この分散液を利用して、樹脂材料粒子における均一な高分散性カーボンナノ物質の分散混合層を形成できる。
【0037】
水、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン、アミド又はニトリルは、化学工業において広く使用されている溶媒であり、取扱方法も確立されている。また、これらの溶媒は、キャビテーションにより超音波を伝播することができる。従って、樹脂材料粒子への分散混合工程において、超音波を使用することにより、ミクロなカーボンナノ物質凝集体の解砕の促進を行うことができる。更に、超音波を用いることにより、前記樹脂材料粒子の表面内部又は全体における、高分散性カーボンナノ物質の分散混合層形成の促進を行うことができる。
【0038】
本発明の第5の形態によれば、前記親水性溶液は水溶液、二酸化炭素溶液、アルコール溶液、ケトン溶液、エーテル溶液、エステル溶液、カルボン酸溶液、アミン溶液、アミド溶液又はニトリル溶液であるので、第4の形態の説明において記載された溶媒が混合された溶液を使用できる。従って、これらの長所及び他の溶媒の長所を兼ね合わせた溶液を使用することにより、均一な高分散性カーボンナノ物質の分散混合層が形成された導電性樹脂材料粒子を製造できる。
【0039】
本発明の第6の形態によれば、オゾンガス又はオゾン含有ガスを、カーボンナノ物質上へ導入して、前記カーボンナノ物質を酸化処理することにより、親水化を行うので、容易且つ効率的にカーボンナノ物質の親水化を行うことができる。
【0040】
オゾンは反応性が高く、特にカーボンナノ物質を形成するsp電子構造を有する炭素原子への反応性が高いので、短時間でカーボンナノ物質の酸化反応を達成できる。又、オゾンは酸素ガス又は大気ガスから製造され、また酸化処理されたカーボンナノ物質上に残留物を残さず、更に過剰なオゾンは短時間で分解して酸素ガスのみを生成するので、硝酸などの他の酸化剤と比べて、廃棄物の処理が容易となる。
【0041】
更に、オゾンを使用してカーボンナノ物質の処理を行うことにより、前記カーボンナノ物質の製造段階から残留するアモルファスカーボン及び触媒分子・原子等の不純物を分解して除去することができる。カーボンナノ物質はオゾンへの反応性は高い。しかし、カーボンナノ物質は比較的安定な物質であり、前記不純物の安定性は比較的に低い。従って、前記不純物のオゾンへの反応性は、カーボンナノ物質のオゾンへの反応性より高い。この為、カーボンナノ物質がオゾン処理される際に、前記不純物がより速く処理される。前記オゾン処理が液相において行われる場合は、前記不純物がオゾンとの反応によって親和化して可溶化されることにより除去される。前記オゾン処理が気相において行われる場合は、前記可溶化は望めないが、前記不純物の分子量が比較的低い場合は、前記不純物のガス化が起こるので、不純物減少は液相処理の場合よりは低効率ではあるが生じる。何れの場合においても、前記オゾン処理により不純物量が低下されるので、精製される導電性樹脂材料粒子の高機能化に繋がる。
【0042】
上記した様に、オゾンは短時間で分解し、カーボンナノ物質上に残留物を残さないので、酸化処理された高分散性カーボンナノ物質を短時間の放置又は減圧脱気後に樹脂材料粒子への分散混合に使用できる。又、本形態における酸化反応を、樹脂材料粒子への分散混合と同一の容器内において行っても良い。更に、原料となる疎水性カーボンナノ物質を、前記分散混合に用いられる溶液又はその一部に懸濁させても良い。従って、本形態におけるオゾン酸化反応は、気相で行っても良いし、また液相で行っても良い。
【0043】
本形態に使用される装置の材質としては、オゾンにより腐食されない材質が当然好ましい。材質の例としては、ガラス、ポリテトラフルオロエチレン(PFTE)、及び不動態化されたステンレスなどが挙げられる。オゾン発生に用いられるガスは酸素含有ガスであれば良く、例えば純酸素、酸素/窒素混合ガス又は空気が使用できる。
【0044】
本発明の第7の形態によれば、分散混合及び酸化処理を同一の容器において行うので、工程の簡易化が可能になる。例えば、液体(超臨界又は亜臨界)二酸化炭素を樹脂材料粒子への分散混合処理に使用する場合には、前記液体二酸化炭素をオゾン処理の際の液相として使用できる。オゾンは液体二酸化炭素には溶解しないが、カーボンナノ物質が懸濁された液体二酸化炭素内へ、オゾンをバブリングすることにより、気体/固体不均一系反応により前記カーボンナノ物質を酸化させることができる。又、樹脂材料粒子への分散混合処理において、事前に高分散性カーボンナノ物質を親水性溶媒に分散させる場合においては、前記親水性溶媒をオゾン処理における液相として使用できる。
【0045】
ここにおける樹脂材料粒子とは、集合させて成形することより樹脂成形体を作製するための材料となる、粉末状又はペレット状の樹脂を指す。上記した通り、前記樹脂材料粒子に導電性を付加することにより、成形後に導電膜を付加することが困難な構造を有する樹脂成形体を、成形当初から導電性を有する樹脂成形体として作製できるという利点が発生する。上記した通り、本発明においては、カーボンナノ物質が、表面から内部又は全体において分散状に混合された(分散混合層が形成された)樹脂材料粒子を、導電性樹脂成形体を作製するための材料として使用することを想定している。前記樹脂材料粒子に導電性を付加することにより、成形後に導電膜を付加することが困難な構造を有する樹脂成形体を、成形当初から導電性を有する樹脂成形体として作製できるという利点が発生する。
【0046】
又、ここにおける分散混合層とは、前記高分散性カーボンナノ物質が、樹脂材料粒子表面から内部に埋め込まれることにより形成される層であり、前記分散混合層の全体において、前記高分散性カーボンナノ物質により、導電性が付加される。ここにおける分散混合層は、高分散性カーボンナノ物質が樹脂材料粒子表面内に打込まれる分散打込層、高分散性カーボンナノ物質が樹脂材料粒子表面に練り込まれる分散練込層、及び高分散性カーボンナノ物質が樹脂材料表面内に埋め込まれる分散埋込層などがあるが、これらの層を全て包括した表現として、分散混合層としたものである。
【0047】
第6の形態により製造された高分散性カーボンナノ物質を使用して、前記樹脂材料粒子上に前記分散混合層を形成する工程において、この工程に使用される容器は、第6の形態において使用された容器と同一である必要は、勿論無い。しかし、これらの容器を同一とすることにより、カーボンナノ物質のオゾン酸化から前記分散混合層の形成までの全工程において、共通した溶媒を使用でき、また前記高分散性カーボンナノ物質の生成後における移替等も省くことができる。従って、材料の節約及び全工程の簡略化を実施できる。
【0048】
本発明の第8の形態によれば、カーボンナノ物質のオゾン処理における液相として、水、二酸化炭素、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン、アミド又はニトリルの1種以上を使用できる。これらの溶媒は、第4の形態の形態における親水性溶媒であるので、オゾン処理における液相において生成された高分散性カーボンナノ物質を、生成直後に前記液相内において分散させることができる。
【0049】
本発明の第9の形態によれば、オゾン又はオゾン含有ガスの連続発生方法が高電圧印加による無声放電であるので、効率的な方法によりオゾンを発生させ、カーボンナノ物質の酸化処理を行うことができる。無声放電によるオゾン発生法は、紫外線法などよりも効率的にオゾンを生産することができるので、カーボンナノ物質を大量に酸化処理することができる。従って、高分散性カーボンナノ物質及び導電性樹脂材料粒子の生産に向く。
【0050】
本発明の第10の形態によれば、オゾン含有ガスのオゾン濃度が0.01vol%〜14vol%であるので、オゾン酸化が確認可能な濃度である濃度を使用して、カーボンナノ物質の酸化処理を行うことができる。ここにおけるオゾン濃度が14vol%以上であっても、反応速度が飽和してしまい、反応時間が短縮されない。又、オゾン濃度が10vol%以上においては、オゾンを安全に取り扱うことが困難になり、更にオゾン濃度が14vol%以上においては、オゾン自体の爆発の危険性が生じてくる。従って、ここにおけるオゾン濃度は、5.0vol%〜10vol%が望ましい。
【0051】
本発明の第11の形態によれば、前記酸化処理の時間が1分〜200分であるので、オゾン酸化が確認可能な時間であり、且つオゾンによる構造破壊が進行しない時間を使用して、カーボンナノ物質の酸化処理を行うことができる。
【0052】
本発明の第12の形態によれば、前記酸化処理の温度が0℃〜100℃であるので、他の酸化処理方法と比べて、低い温度で酸化処理できる。従って、酸化処理装置を簡略化でき、生産コストの低下に繋がる。オゾン発生温度が高い場合には、オゾン発生効率が低下してしまうが、本発明においては、オゾン発生装置と酸化処理容器が分離されているので、カーボンナノ物質の酸化処理温度が高くなっても、オゾン発生効率を低下させないという利点がある。酸化処理温度が高くなると、オゾンの自己分解も進み、結果的にオゾン濃度が低くなるという難点を生じる。100℃まではオゾンによるカーボンナノ物質の酸化速度が、オゾンの自己分解速度を上回るので、100℃が本形態における温度範囲の上限となる。但し、前記酸化処理温度を高く設定するためには、ヒーターなどの加熱装置が必要となり、これらの加熱装置がオゾンによる火災を誘発させる可能性が生じる。従って、酸化処理温度を高く設定することは、安全上好ましくなく、従って望ましい酸化処理温度は、室温付近の温度である10℃〜30℃となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】グラファイト型構造における炭素とオゾンの反応を示す化学構造図である。
【図2】疎水性カーボンナノ物質における相互作用及び高分散性カーボンナノ物質における相互作用の比較を示す概念図である。
【図3】樹脂分子と高分散性カーボンナノ物質の相互作用を示す概念図である。
【図4】カーボンナノ物質のオゾン処理装置の系統図である。
【図5】気相においてオゾン酸化を行い、後に液体二酸化炭素及び溶媒を添加する工程の作業図である。
【図6】溶媒においてオゾン酸化を行い、後に液体二酸化炭素を添加する工程の作業図である。
【図7】液体二酸化炭素においてオゾン酸化を行い、後に有機溶媒を添加する工程の作業図である。
【図8】液体二酸化炭素及び溶媒においてオゾン酸化及び分散混合を行う工程の作業図である。
【図9】気相においてオゾン処理を行い、後に溶媒を添加する工程の作業図である。
【図10】溶媒においてオゾン処理及び分散混合の両方を行う工程の作業図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に、本発明に係るカーボンナノ物質及びその製造方法の実施形態を図面に従って詳細に説明する。但し、本発明はここに記載する実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的逸脱しない範囲における種々の変形例や設計変更なども本発明の技術的範囲に包含されるのは言うまでもない。
【0055】
図1は、グラファイト型構造上の二重結合された炭素とオゾンの反応を示す化学構造図である。全ての導電性カーボンナノ物質は、電子構造がspである炭素原子を有し、このような炭素原子は、近接原子の内1個と必然的に二重結合を形成する。従って、オゾンのカーボンナノ物質との反応を理解する為には、オゾンと二重結合炭素の反応を理解する必要がある。
【0056】
図1Aは、オゾン酸化によりグラファイト型構造上の二重結合が分断される化学構造図である。図1Aにおいては、前記二重結合が分断される際に炭素原子上に形成される化学基は、2つのカルボニル基である。しかし、オゾン酸化における二重結合分断後の処理条件を変化させることにより、水酸基などの他の親水性基を形成することもできる。
【0057】
図1Bは、エポキシ化によりグラファイト型構造上の二重結合の1つが分断され、エポキシ基が生成される化学構造図である。通常は、炭素−炭素二重結合は、オゾンとの反応により両方の結合が分断される。しかし、グラファイト及びカーボンナノチューブなどの、グラファイト型構造を有する炭素物質においては、図1Bに示されるエポキシ化が、少なくとも部分的に進行する。このようにして形成されたエポキシ基は、化学反応性に富む。例えば、図1Bに示されるように、形成後において、大気中などの水分と反応することにより開環して、2つの隣り合わせた水酸基を形成することもできる。エポキシ基及びこれから形成される化学基は、何れも親水性を有する。従って、これらの反応により、親水基をオゾンのカーボンナノ物質への表面へ付加できる。
【0058】
又、ここにおける親水基は、親水性を高めるだけではなく、カーボンナノ物質の表面から外側に突出することにより、カーボンナノ物質同士の接触を防止する効果もある。前記エポキシ基は必然的にカーボンナノ物質の外側に形成される。又、前記エポキシ基が開環する際に形成される2つの水酸基の内、少なくとも1つは必然的にカーボンナノ物質の外側に形成される。オゾン酸化により形成された2つのカルボニル基は、立体障害により1つがカーボンナノ物質の外側に突出する。これらの親水基は、カーボンナノ物質同士における表面の接触を阻害することにより、カーボンナノ物質の凝集を防止する。
【0059】
図2は、疎水性カーボンナノ物質における相互作用及び高分散性カーボンナノ物質における相互作用の比較を示す概念図である。図2Aは、疎水性カーボンナノ物質1における相互作用を示す。ここにおいては、隣り合う物質の炭素原子同士が接触して、前記炭素原子が形成する多数のベンゼン環同士の疎水性作用により、強力な凝集作用が発生する。この凝集は、親水性溶媒では分解できず、疎水性溶媒を使用しても分解し難い。
【0060】
図2Bは、高分散性カーボンナノ物質4における相互作用を示す。ここにおいては、隣り合うカーボンナノ物質の炭素原子同士の接触が、前記高分散性カーボンナノ物質4の表面上に突出した親水性基により阻害される。従って、前記ベンゼン環同士の疎水性作用が起こり難い。親水性基同士による相互作用は起こるが、前記親水性基のカーボンナノ物質4上における密度が低いので、強力にはならない。従って、親水性基同士の相互作用による凝集においては、親水性溶媒により凝集が解砕され易い。又、疎水性溶媒を使用しても、前記凝集が解砕され易い。
【0061】
図3は、樹脂分子及び高分散性カーボンナノ物質4の相互作用を示す概念図である。ここにおいては、ポリエチレンテレフタラート(PET)を樹脂分子5の例として描いている。PETは、エステル樹脂の1種であり、親水性基(エステル)を有する。高分散性カーボンナノ物質4上の水酸基は、樹脂分子5上のエステル基における酸素原子と水素結合6を形成する。又、高分散性カーボンナノ物質上のエポキシ基及びカルボニル基における双極子7は、エステル基における双極子7と相互作用を起こす。従って、高分散性カーボンナノ物質4における親水性基は、樹脂分子における親水性基と親和性を有し、前記高分散性カーボンナノ物質4が樹脂材料粒子において均一な分散混合層を形成するのに貢献する。
【0062】
図4は、カーボンナノ物質のオゾン処理装置の系統図である。ここにおいては、疎水性カーボンナノ物質1をフラスコ2に充填して、フラスコ2を水槽3に浸す。水槽3の温度調整により、フラスコ2内の温度調整を行う。酸素タンク11からの酸素ガス及び窒素ガス12からの窒素ガスを混合して、マスフローコントロラ73により流量を制御する。この混合ガスは、マスフローコントロラ73においては、圧力が0.2MPaG、流量が1L/minである。この混合ガスをオゾン発生装置100へ導く。オゾン発生装置100において発生したオゾン含有ガスの圧力は0.1MPaGである。このオゾン含有ガスを、カーボンナノ物質処理ライン111を通じてフラスコ2に導き、疎水性カーボンナノ物質1を、大気圧においてオゾン処理する。疎水性カーボンナノ物質1のオゾン処理に使用されたオゾン含有ガスは、オゾン分解触媒筒82においてオゾンの分解が行われた後、屋外120へ放出される。
【0063】
又、フラスコ2へ導かれる前のオゾン含有ガスの一部を、分析ライン113を通じてオゾン濃度計74に導き、オゾン含有ガスのオゾン濃度を測定する。測定後は、オゾン含有ガスは、オゾン分解触媒筒81においてオゾンの分解が行われ、屋外120へ放出される。
【0064】
フラスコ2内は、図4においては大気圧に保たれるが、このフラスコ2を耐圧容器と取り替えてもよい。この場合においては、オゾン処理と、樹脂材料粒子への高圧力下における分散混合を、同一の容器内において行うことができる。又、このような耐圧容器を使用することにより、ここにおけるオゾン処理を、高圧力下において実施することができる。
【0065】
図5〜10は、高分散性カーボンナノ物質4の作製及び樹脂材料粒子への分散混合を示す作業図である。どのような溶媒をどの時点において充填するかにより、4種類の工程が可能になる。使用される溶媒は、液体二酸化炭素及びその他の溶媒に区別できる。
【0066】
液体二酸化炭素は、疎水性カーボンナノ物質1のオゾン処理における液相としても使用でき、また作製された高分散性カーボンナノ物質4の樹脂材料粒子への分散混合において、前記樹脂材料粒子を膨潤軟化させるのにも使用できる。液体二酸化炭素を用いる場合においては、前記二酸化炭素を液状に保持する為に、高圧力を用いる必要がある。従って、大気圧下においても液体である他の溶媒とは取扱方法の相違等の理由により区別する必要がある。又、オゾンは液体二酸化炭素には溶解し難いので、オゾンと疎水性カーボンナノ物質1の反応は、気体/固体不均一系反応となり、この理由によっても液体二酸化炭素と他の溶媒を区別する必要が生じる。
【0067】
又、疎水性カーボンナノ物質1のオゾン処理及び生成された高分散性カーボンナノ物質4の樹脂材料粒子への分散混合においては、樹脂材料粒子の表面内部又は全体において高分散性カーボンナノ物質4の分散性を高める為に、超音波を反応系へ照射することがある。しかし、液体二酸化炭素は、超音波を伝播しない。従って、超音波を伝播するための溶液が必要となる。液内においては、超音波はキャビテーションにより伝播する。このキャビテーションは、溶存気体を含む液体内において起こると考えられ、例えば溶存空気を含む水内において起こる。又、前記溶存気体が気体状二酸化炭素でも良く、例えば溶媒が液体二酸化炭素に溶解された場合は、部分的に気体化された二酸化炭素が前記溶存気体の役割を果たすことにより、キャビテーションが可能になる。
【0068】
図5〜10の説明においては、「溶媒」とは、前記オゾン酸化処理又は前記分散混合処理温度を実施する温度及び圧力において液状であるり、超音波を伝播できる溶媒を示す。この超音波の伝播性により、液体二酸化炭素と区別する。又、前記溶媒と液体二酸化炭素を混合した溶液は、液状を保持する為には高気圧下に保つことが必要であり、従って取扱方法は、純粋な液体二酸化炭素と同様となる。従って、図5〜10の説明においては、「液体二酸化炭素」とは、液体二酸化炭素と他の溶媒の混合溶液も含む。
【0069】
図5は、気相において疎水性カーボンナノ物質1のオゾン酸化を行い、生成された高分散性カーボンナノ物質4への樹脂材料粒子の充填時において液体二酸化炭素及び溶媒を添加する工程を示す。この方法は、オゾン酸化装置におけるカーボンナノ物質の容器が、樹脂材料粒子への分散混合工程の条件に耐性を有さない場合において有用であり、また分散混合工程における容器が、前記オゾン処理の条件に耐性を有さない場合においても有用である。更に、前記溶媒又は前記樹脂材料粒子がオゾンに対して耐性を有さない場合においても有用である。
【0070】
図6は、溶媒において疎水性カーボンナノ物質1のオゾン酸化を行い、生成された高分散性カーボンナノ物質4を樹脂材料粒子へ分散混合する時点において、液体二酸化炭素を添加する工程を示す。この場合は、オゾン処理前において、疎水性カーボンナノ物質1を溶媒に予め懸濁させて、その後にオゾン処理を行うことにより、高分散性カーボンナノ物質4の生成と同時に、前記高分散性カーボンナノ物質4の分散液を作製することができる。この分散液は、溶媒が親水性である場合は長時間に亘って安定であるので、前記オゾン処理後において、高分散性カーボンナノ物質4を分散混合装置へ運搬するのに使用することができる。
【0071】
図6の工程においては、溶媒は前記オゾン酸化処理を実施する温度及び圧力において液状であるので、前記圧力が常圧付近であれば、前記オゾン酸化に使用する容器は、耐圧性を必要としない。従って、ここにおける方法は、オゾン酸化装置及び分散混合装置の耐性の制限などにより、オゾン酸化工程及び分散混合工程をそれぞれ別容器において行う必要がある場合において有用である。
【0072】
図7は、液体二酸化炭素内において疎水性カーボンナノ材料物質1のオゾン酸化を行い、生成された高分散性カーボンナノ物質4を樹脂材料粒子へ分散混合する時点において、有機溶媒を添加する工程を示す。オゾンは液体二酸化炭素には溶解し難いが、疎水性カーボンナノ物質1が懸濁された液体二酸化炭素内へ、オゾンをバブリングすることにより、気体/固体不均一系反応による酸化を発生させることができる。ここにおいては、前記オゾン酸化に使用される容器は、前記液体二酸化炭素を液状に保持するための圧力に耐性を有するものでなければならない。
【0073】
図8は、液体二酸化炭素(又は液体二酸化炭素及び他の溶媒の混合液)内で疎水性カーボンナノ物質1のオゾン酸化を行い、樹脂材料粒子の充填時において、他の溶媒を添加せずに、分散混合を行う工程を示す。ここにおいては、前記オゾン酸化に使用される容器は、前記液体二酸化炭素を液状に保持するための圧力に耐性を有するものでなければならない。図8に示される工程の利点としては、前記液体二酸化炭素及び前記溶媒を、オゾン酸化工程及び分散混合工程の両方において使用するので、同一の反応容器を用いて全行程を行うことができるという点がある。又、前記溶媒がオゾン溶解性を有するものであれば、オゾン処理段階において疎水性カーボンナノ材料1の懸濁液におけるオゾン濃度を高めることができ、前記オゾン処理の効率を高めることができる。
【0074】
以上の工程においては、液体二酸化炭素及び溶媒を両方使用することを前提にしている。しかし、液体二酸化炭素が不必要であり、溶媒のみで全行程を行うことができ、更に前記溶媒が常圧において液体である場合は、耐圧容器が不要となるので、工程及び装置を簡略化できる。図9は、気相において疎水性カーボンナノ物質1のオゾン処理を行い、形成された高分散性カーボンナノ物質4を用いて、樹脂材料粒子へ分散混合を行う時点において、溶媒を添加する工程を示す。図10は、溶媒において疎水性カーボンナノ材料1のオゾン処理及び生成された高分散性カーボンナノ物質4の分散混合の両方を行う工程を示す。前記溶媒がオゾン溶解性を有するものであれば、オゾン処理段階において疎水性カーボンナノ材料1の懸濁液におけるオゾン濃度を高めることができ、前記オゾン処理の効率を高めることができる。図9及び10の何れの場合においても、耐圧容器が不要となるので、工程が簡略化される。
【0075】
図6〜8及び10における工程においては、疎水性カーボンナノ物質1のオゾン処理を液相内において行い、樹脂材料粒子の充填時において、前記液相を形成する溶媒を除去しない。しかし、樹脂材料粒子の充填時において、前記溶媒を蒸発、沈殿及び濾過などにより除去することも勿論可能である。このように、前記溶媒を除去することにより、残留オゾンによる樹脂材料粒子の劣化を防ぐことができる。樹脂材料粒子には、フッ素系樹脂など、オゾンにたいして耐性を有するものが存在するが、ポリウレタン系樹脂及びポリオレフィン系樹脂など、オゾンにより劣化しやすいものがより多く存在する。残留オゾンは分解し易く、また前記したオゾンにより劣化しやすい樹脂も、一定のオゾン耐性は有する。しかし、高機能性を有する高導電性樹脂材料粒子を得る為には、前記劣化による直接の悪影響を回避する必要があり、また前記劣化により生成する不純物による悪影響も回避する必要がある。従って、残留オゾンを除去することは重要となる。
【0076】
液相反応後に速やかに残留オゾンを除去する他の方法としては、前記液相において真空ポンプによる減圧脱気を行うことが挙げられる。この方法は、液体二酸化炭素には応用できないが、常温常圧において液体である溶媒に応用できる。従って、図6及び10に示される工程に応用できる。この減圧脱気の処理時間としては、10〜120分が使用でき、好ましくは30〜60分である。前記液相における溶媒が液体二酸化炭素を含む場合において、残留オゾンを積極的に除去する必要がある場合は、温度の上昇及び/又は不活性ガスのバブリングにより残留オゾンの分解・除去を行う必要があり、これには約2時間必要となる。
【0077】
[実施例1:カーボンナノチューブのオゾン処理]
市販のカーボンナノチューブ(CNT、BAYER社製、BaytubesC150P)に対し、図5のオゾン処理装置を用いて、酸化処理を行った。オゾンを発生させる為の原料ガスとしては純酸素を用い、オゾン発生装置としては住友精密工業(株)製の無声放電方式のオゾン発生装置「オゾナイザ」SG−01A型を用い、オゾンを連続発生させた。表1は、CNTのオゾン酸化処理に用いられた処理条件である。
【0078】
【表1】

【0079】
オゾン処理による酸化処理の効果を確認する為に、CNT分散液を作製し、評価を行った。表2は、CNT分散液の作成条件及び評価結果である。作製直後の状態においては、何れのCNT分散液も黒く懸濁していたが、120時間静置後の状態においては、オゾン処理を行わなかったサンプルが沈殿分離したのに対し、オゾン処理を行ったサンプルは分散状態が保持され、オゾンによる酸化処理の効果を有することが判明した。
【0080】
【表2】

【0081】
加えて、120時間静置後の各CNT分散液の上澄み液を回収し、遠心分離処理を行った。遠心分離作業においては、1次遠心分離(2,200rpm、10min)を行い、各サンプルの上澄み液を回収し、更に、その上済み液を2次遠心分離(10,000rpm、30min)し、沈殿物が生じるか否かを観察した。
【0082】
2次遠心分離を行った結果、オゾン処理を行わなかったサンプルには全く沈殿物が生じなかったのに対し、オゾン処理を行ったサンプルには沈殿物が生じた。オゾン処理を行ったサンプルの沈殿物をSEMにより観察した結果、これらの沈殿物はCNTであることが判明した。
【0083】
[実施例2:高分散性CNTの樹脂への混入]
オゾン処理を実施したCNT及びオゾン処理を施していないCNT(何れもBAYER社製、BaytubesC150P)を充填剤として用いて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を原料に使用した導電性樹脂の成形を行った。
【0084】
耐圧容器内に平均粒径5μmのPFTE粉末(16g)、溶媒としてエタノールを用いたCNT濃度を1.0wt%分散液を、CNT重量がPFTEに対し2.9wt%になるよう(48g)充填し、液体二酸化炭素は溶媒に対する比率で1:1になるよう(48g)充填した。この耐圧容器を65℃に保持された水槽に浸漬し、水槽下部に設置された超音波発信子(超音波発信器はギンセン(株)製、GSD−600AT)を使用して、5時間の超臨界超音波分散混合を実施した。分散混合処理後に、耐圧容器を開放し、液体二酸化炭素を蒸発させた。更に、常圧電気炉を使用して、105℃にて24時間処理することにより、エタノールを揮発させて、CNT添加PFTE粉末を得た。
【0085】
これらのオゾン処理CNT及びオゾン未処理CNTの2種類のCNT添加PFTE粉末を原料とし、磁性灰皿(長さ50mm、幅30mm、高さ10mm)にそれぞれを圧粉充填し、真空電気炉を用いて350℃にて1時間の焼き入れを行い、成型体1(オゾン処理CNT使用)及び成型体2(オゾン未処理CNT使用)を得た。
【0086】
これらの成型品の表面抵抗を表面抵抗測定器(シシド静電気(株)製、MEGARESTA−H0709)を使用して測定したところ、成型体1は測定下限界の1.0×10Ω/cmを下回ったのに対して、成型体2は2.9×10Ω/cmであり、オゾン処理を行ったCNTを導電性樹脂充填剤として使用することにより、高導電性材料が成形できた。従って、本実施例において、高分散性カーボンナノ物質を使用することによる樹脂成形体の導電性の向上が検証された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
疎水性カーボンナノ物質を親水化処理することにより、導電性を有する高分散性カーボンナノ物質を樹脂材料粒子の表面内部又は全体において均一且つ容易に分散混合することができるので、高性能且つ安価な導電性樹脂材料粒子及び導電性樹脂形成体を作製することができる。このような高導電性樹脂は、電子部材及び電子器具、及び静電気防止用器具などの生産に貢献し、従って工業発展に貢献する。
【符号の説明】
【0088】
1 疎水性カーボンナノ物質
2 フラスコ
3 水槽
4 高分散性カーボンナノ物質
5 樹脂分子
6 水素結合
7 双極子
10 酸素タンク
11 窒素タンク
23 バルブ
24 バルブ
25 バルブ
26 3方向バルブ
27 3方向バルブ
31 圧力調整バルブ
32 圧力調整バルブ
33 圧力調整バルブ
41 チェックバルブ
51 圧力計
52 圧力計
61 温度計
62 温度計
63 温度計
64 温度計
65 温度計
71 フィルタ
72 フィルタ
73 マスフローコントローラ
74 オゾン濃度計
75 データロガー
81 オゾン分解触媒筒
82 オゾン分解触媒筒
90 ドラフト
91 オゾン環境モニタ
92 警告ブザー
100 オゾン発生装置
111 カーボンナノ物質処理ライン
112 パージライン
113 分析ライン
114 分析ライン
120 屋外

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料粒子の表面からその内側に向かってカーボンナノ物質を分散状に混合した分散混合層を前記樹脂材料粒子の全表面又は一部表面に少なくとも形成するために使用されるカーボンナノ物質であり、前記カーボンナノ物質の疎水性表面が親水性表面に変化されて、親水性溶媒に高分散する特性を有することを特徴とする高分散性カーボンナノ物質。
【請求項2】
前記カーボンナノ物質がカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノコイル、カーボンナノツイスト、カーボンナノホーン及びフラーレンの1種以上である請求項1に記載の高分散性カーボンナノ物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高分散性カーボンナノ物質を親水性溶媒又は親水性溶液に分散させたことを特徴とする分散液。
【請求項4】
前記親水性溶媒は水、二酸化炭素、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン、アミド又はニトリルである請求項3に記載の分散液。
【請求項5】
前記親水性溶液は水溶液、二酸化炭素溶液、アルコール溶液、ケトン溶液、エーテル溶液、エステル溶液、カルボン酸溶液、アミン溶液、アミド溶液又はニトリル溶液である請求項3に記載の分散液。
【請求項6】
連続発生により生成されたオゾン又はオゾン含有ガスを、カーボンナノ物質が存在する気相中又は液相中へ導入して、前記カーボンナノ物質を酸化処理することにより、親水性溶媒に高分散する特性を前記カーボンナノ物質に付加することを特徴とする高分散性カーボンナノ物質の製造方法。
【請求項7】
前記カーボンナノ物質の酸化処理と同時に又は前記処理後に、樹脂材料粒子における分散混合層の形成を、同一の容器内において行う請求項6に記載の高分散性カーボンナノ物質の製造方法。
【請求項8】
前記液相における液体が水、二酸化炭素、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン、アミド又はニトリルの1種以上を含有する請求項6又は7に記載の高分散性カーボンナノ物質の製造方法。
【請求項9】
前記オゾン又はオゾン含有ガスの連続発生方法が高電圧印加による無声放電である請求項6〜8のいずれかに記載の高分散性カーボンナノ物質の製造方法。
【請求項10】
前記オゾン含有ガスのオゾン濃度が0.01vol%〜14vol%である請求項6〜9のいずれかに記載の高分散性カーボンナノ物質の製造方法。
【請求項11】
前記酸化処理の時間が1分〜200分である請求項6〜10のいずれかに記載の高分散性カーボンナノ物質の製造方法。
【請求項12】
前記酸化処理の温度が0℃〜100℃である請求項6〜11のいずれかに記載の高分散性カーボンナノ物質の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−235320(P2010−235320A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81736(P2009−81736)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】