説明

導電性膜形成用組成物及びその製造方法並びに導電性膜

【課題】安定性や機械的強度に優れ、高いイオン導電性を与え、電解質として有用な導電性膜を形成することが可能な導電性膜形成用組成物及びその製造方法、並びに該組成物を用いて形成された導電性膜を提供する。
【解決手段】(i)窒素原子の一部がアルコキシアルキル基で置換されたN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂と、(ii)重合性酸性リン酸化合物と、(iii)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物及び/又はその(部分)加水分解物もしくはその縮重合物と、(iv)有機溶剤を含むことを特徴とする導電性膜形成用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性膜形成用組成物及びその製造方法並びに該組成物を用いて形成された導電性膜に関する。とりわけ、一次電池、二次電池、燃料電池等の電解質膜、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜等に好適な導電性膜形成用組成物及びその製造方法、並びにプロトン導電性、耐水性及び強度のバランスに優れた透明性の電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子材料を用いたイオン導電性を有する膜の応用展開が様々な分野において図られている。こうした高分子材料として、陽イオン交換能を持つポリマー、例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、パーフルオロスルホン酸ポリマー、パーフルオロカルボン酸ポリマー等が報告されている。特にスルホン酸基を有する高分子材料は、特定のイオンと強固に結合したり、陽イオン又は陰イオンを選択的に透過したりする性質を有しているので、粒子状、繊維状又は膜状に成形され、燃料電池以外にも、電気透析膜、拡散透析膜、電池隔膜等の各種用途に利用されている。
【0003】
高分子電解質を用いた燃料電池(以下、燃料電池と略記する)の応用展開が様々な分野において図られている中でも、Nafion(デュポン(株)製)の商標で知られるパーフルオロ骨格の側鎖にスルホン酸基を有するフッ素系高分子電解質膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れており、苛酷な条件下での使用に耐える電解質膜として実用化されている。しかし、こうしたフッ素系電解質膜は、非常に高価であるという問題を抱えている。
【0004】
また、陰極線管、蛍光表示管、液晶表示板などの表示パネルのような透明基材の表面の帯電防止と反射防止を目的として、これらの表面に導電機能及び反射防止機能を有する透明保護被膜を形成することが行われていた。こうした保護被膜用途においては、従来の透明性、帯電防止性、反射防止性に加えて、陰極線管などから放出される電磁波を遮蔽することが望まれて、更なる導電性の向上が必要とされてきている。
【0005】
このような導電性透明被膜として、高価なフッ素を含まず、無加湿条件でも高いイオン伝導性を示す電解質を応用することが進められていた。例えば、アルコキシシランにリン酸化合物を反応させたホスホシリケートゲル等の無機系イオン伝導性の電解質を用いる手法が提案されている。こうしたリン酸とケイ素を用いた無機系の導電性材料は、リン酸がプロトン伝導による導電性を担い、ケイ素が材料の強度を担っており、乾燥条件でも比較的高いイオン伝導性が得られる特徴があり、無加湿条件で使用できる導電性材料として注目されている。しかしながら、ケイ素成分が多いと硬度が上がり、機械的強度は向上するが、導電性が十分でなく、リン酸成分が多いと導電性は向上するが、機械的強度が不十分で、リン酸成分がブリードアウトし易く、経時で導電性が低下するという問題点があった。更に、表面被覆材料として使用するには柔軟性に乏しく、クラックが起こり易く、また被覆操作中にゲル化が起こり易く、取り扱いが難しいという問題があった。
【0006】
高分子電解質の分野では、こうしたリン酸のブリードアウトにより経時で導電性が低下することを改良するために、重合性酸性リン酸化合物とエポキシ基含有アルコキシシランの反応を用いた例が、特許文献1(特開2004−95255号公報)で提案されている。しかしながら、このようなリン酸化合物を十分な帯電防止能が得られる量で添加すると、保護被膜の耐水性が悪化してしまい、逆に、少量の添加では帯電防止能が不十分になるという問題があった。
【0007】
また、親水性が高くて安価な炭化水素系高分子材料の一例としてポリビニルアルコール(PVA)があり、これにリン酸を混合してプロトン伝導性を持たせた材料がプロトン伝導性固体電解質として利用可能である。この材料ではPVAの高い吸水性によって高速なプロトンの移動が可能であるが、PVAが水に溶解し易いため、湿潤環境での材料安定性が低いという難点がある。
【0008】
そこで、特許文献2(特開2003−7133号公報)は、珪酸のアルカリ金属塩とリン酸とPVAとを溶解した水溶液を中和し、溶媒としての水を除去し、不要塩を除去することにより得られ、水を内包した珪酸化合物とリン酸化合物とPVAとからなるイオン伝導性固体電解質を提案している。このイオン伝導性固体電解質は、珪酸化合物による耐水性と、PVAによる吸水性とを兼備し、低価格である。しかし、特許文献2のイオン伝導性固体電解質は、珪酸化合物を含むため、薄膜加工が困難であるという問題点があり、PVAの耐水性改善も不十分であった。
【0009】
特許文献3(特開2004−185891号公報)は、ポリビニルフォスフェート(PVAの水酸基をリン酸基で置換した構造を有する重合体)と塩基性分子(イミダゾール等)を混合して得られる高分子電解質膜を提案している。この膜では、塩基性分子がプロトン伝導媒体となるので、無加湿下でもプロトン伝導性を示し、加湿装置を必要としない。しかし燃料電池作動時に、高分子電解質膜から生じた遊離酸がシステム障害をもたらすおそれがある。
【0010】
特許文献4(特開2003−86021号公報)は、分子内に1個以上のリン酸基及び1個以上のエチレン性不飽和結合を有するリン酸基含有不飽和単量体と、分子内に1個以上のスルホン酸基及び1個以上のエチレン性不飽和結合を有するスルホン酸基含有不飽和単量体との共重合体からなる高分子電解質膜を提案している。
【0011】
また、特許文献5(特開2005−5046号公報)は、(メタ)アクリル酸エステル基を有するアルコキシシラン又はその加水分解生成物と、リン酸基を含有する(メタ)アクリル酸エステルとを付加共重合してなり、かつシロキサン架橋してなる固体高分子電解質を開示している。
【0012】
しかしながら、いずれの特許文献においても、特性の異なる2種類以上の樹脂を混合しているため、限られた溶剤にしか溶解せず、混合した2種類の高分子同士は本質的に相溶性がなく、経時で分離してしまい、再現性のよいプロトン導電を担うための膜を製膜することが困難であり、電解質としての応用は限定されていた。
【0013】
【特許文献1】特開2004−95255号公報
【特許文献2】特開2003−7133号公報
【特許文献3】特開2004−185891号公報
【特許文献4】特開2003−86021号公報
【特許文献5】特開2005−5046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、安定性や機械的強度に優れ、高いイオン導電性を与え、電解質として有用な導電性膜を形成することが可能な導電性膜形成用組成物及びその製造方法、並びに該組成物を用いて形成された導電性膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、従来の被膜用組成物に指摘されるような種々の欠点を克服すべく鋭意検討を重ねた結果、有機溶剤に可溶であるポリアミド樹脂に、モノマーである重合性酸性リン酸化合物と、重合性と加水分解性を併せ持つメタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物及び/又はその(部分)加水分解物とを組み合わせた組成物を、紫外線等による重合及び/又は加水分解・縮重合による高分子量化・架橋により製膜することにより得られた導電性膜が、イオン導電性を保持したまま、膜の強度や耐水性等の信頼性を向上させることができることを見出した。
そして、これにより、透明性と作業性と高強度と導電性が両立して向上する導電性膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
従って、本発明は、下記に示す導電性膜形成用組成物及びその製造方法並びに導電性膜を提供する。
〔1〕 (i)窒素原子の一部がアルコキシアルキル基で置換されたN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂と、(ii)重合性酸性リン酸化合物と、(iii)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物及び/又はその(部分)加水分解物もしくはその縮重合物と、(iv)有機溶剤を含むことを特徴とする導電性膜形成用組成物。
〔2〕 (i)窒素原子の一部がアルコキシアルキル基で置換されたN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド樹脂である〔1〕記載の導電性膜形成用組成物。
【化1】

(式中、R1、R2は非置換又は置換のアルキレン基を表し、m及びnはそれぞれ正の整数であり、100×〔m/(m+n)〕=10〜90モル%である。)
〔3〕 (i)〜(iii)成分の合計量に対して、
(i)成分の割合が5〜85質量%、
(ii)成分の割合が10〜90質量%、
(iii)成分の割合が5〜60質量%
であり、かつ(ii)成分と(iii)成分との合計の割合が40〜90質量%であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の導電性膜形成用組成物。
〔4〕 更に、重合開始剤及び/又はシリカゾルを含有する〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の導電性膜形成用組成物。
〔5〕 (i)成分を(iv)成分に溶解させたものと、(ii)成分と(iii)成分とを予め混合・反応させたものとを、混合することを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の導電性膜形成用組成物の製造方法。
〔6〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の導電性膜形成用組成物を基材に塗布して形成した膜を、60℃以上220℃以下の温度で加熱するか、可視光線よりも波長の短い電磁波を照射するか、又はこれらを併用して架橋することにより得られた自立性のある透明導電性膜。
【発明の効果】
【0017】
本発明の導電性膜形成用組成物は、マトリックスとして強度の高いポリアミド樹脂からなり、これにメタクリロキシ基又はアクリロキシ基から選ばれる官能基を有する有機ケイ素化合物及び/又はその(部分)加水分解物並びにリン酸化合物を含むので、この組成物を架橋・不溶化して得られる導電性膜は、プロトン導電性、耐水性及び強度のバランスに優れている。これは、本発明の導電性膜が、ポリアミド結合鎖中に、ビニル基が鎖状に結合した炭化水素骨格とからなる疎水部と、リン酸基及びシラノール基からなる親水部とを有するので、係る親水部が効率的なプロトン伝導経路となり、ポリアミド結合単位を有するので、これが耐水性及び高強度を発現しているものと考えられる。
これは、導電性膜形成用組成物が、有機溶剤可溶性の高分子化合物と相溶性のあるモノマーから構成されているので、膜形成時にクラックがなく、架橋した後は膜の強度や導電性に優れ、更に耐水性、透明性に優れる導電性透明被膜を形成できる。
従って、このような透明の導電性膜が形成された基材を表示装置の前面板として用いれば、帯電防止性能、電磁遮蔽性能に優れると共に、反射防止性能、耐久性、耐水性等に優れた表示装置を提供することができ、更に本発明の導電性膜形成用組成物は、帯電防止剤、防曇材料、紙・パルプ用改質剤、塗料、コーティング剤等の各種用途などに好適に利用できる。
また、本発明の導電性膜は、組成物中の重合性リン酸化合物の比率を高めることでプロトン伝導性(導電率:10-6〜10-3S・cm-1)を有するため、一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などに好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る導電性膜形成用組成物は、(i)窒素原子の一部がアルコキシアルキル基で置換されたN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂と、(ii)重合性酸性リン酸化合物と、(iii)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物及び/又はその(部分)加水分解物もしくはその縮重合物と、(iv)有機溶剤を含むものである。
【0019】
本発明の(i)成分の窒素原子の一部がアルコキシアルキル基で置換されたN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂としては、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するアミド樹脂を好ましく用いることができる。
【化2】

(式中、R1、R2は非置換又は置換のアルキレン基を表し、m及びnはそれぞれ正の整数であり、100×〔m/(m+n)〕=10〜90モル%である。)
【0020】
式中、R1、R2はそれぞれ独立に非置換又は置換のアルキレン基を表し、具体的には、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、1,1−ジメチルテトラメチレン基、ブチレン基、オクチレン基、デシレン基等の炭素数3〜20のアルキレン基を挙げることができる。
m及びnは、それぞれ正の整数で、アミド基の窒素をアルコキシアルキル化した割合を表し、置換率α=100×〔m/(m+n)〕が10〜90モル%であることが好ましい。αが10モル%未満の場合は、溶剤への溶解性が悪くなるため組成物を作ることが困難になる場合があり、αが90モル%を超える場合は、製造するためにホルマリンを多量に必要とし、また膜を形成したとき有毒なホルマリンガスの発生や黄変が起こり易くなるので望ましくない。通常は、置換率20〜40モル%のものを好適に用いることができる。
【0021】
こうしたポリアミド樹脂は、アルコールのような有機溶剤に対する溶解性を有するものであり、溶解性と強度のバランスからGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定されるポリスチレン換算数平均分子量が、1,000〜1,000,000であるのが好ましく、2,000〜500,000であるのがより好ましく、5,000〜150,000であるのが更に好ましい。
【0022】
一般式(1)のポリアミド樹脂の具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロン等をアルコキシアルキル化したものなどが挙げられるが、好ましくはナイロン6又はナイロン66のN−メトキシメチル化ポリアミド樹脂類である。商品としては、帝国化学産業(株)から製販されているトレジンF30K、トレジンMF−30、トレジンEF−30T、(株)鉛市から製販されているファインレジンFR101、ファインレジンFR104、ファインレジンFR105、ファインレジンFR301等が挙げられる。
【0023】
本発明に用いる(ii)成分の重合性酸性リン酸化合物としては、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するリン酸エステルあるいはホスホン酸基含有メタクリルアミド誘導体又はアクリルアミド誘導体が挙げられる。
【0024】
メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するリン酸エステルとしては、アシッドホスホキシエチルメタクリレート(商品名:ホスマーM、ユニケミカル(株)製、以下同じ)、3−クロロ−2−アシッドホスホキシプロピルメタクリレート(商品名:ホスマーCL)、アシッドホスホキシプロピルメタクリレート(商品名:ホスマーP)、アシッドホスホキシエチルアクリレート(商品名:ホスマーA)、アシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ホスマーPE)、アシッドホスホキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ホスマーPP)、メタクロイルオキシエチルアシッドホスヘートモノエタノールアミンハーフソルト(商品名:ホスマーMH)、メタクロイルオキシエチルアシッドホスヘートジメチルアミノエチルメタクリレートハーフソルト(商品名:ホスマーDM)、メタクロイルオキシエチルアシッドホスヘートジエチルアミノエチルメタクリレートハーフソルト(商品名:ホスマーDE)などが挙げられる。
【0025】
この具体例としては、CH2=CHCOOCH2CH2OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)COOCH2CH2OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)COOCH2CH(CH2Cl)OP(O)(OH)2、(CH2=CHCOOCH2CH2O)2P(O)OH、(CH2=C(CH3)COOCH2CH2O)2P(O)OH、CH2=C(CH3)CO(OCH2CH24OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)CO(OCH2CH25OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)CO(OCH2CH(CH3))5OP(O)(OH)2及びCH2=C(CH3)CO(OCH2CH(CH3))6OP(O)(OH)2等が挙げられ、これらの中でも、CH2=C(CH3)COOCH2CH2OP(O)(OH)2及びCH2=CHCOOCH2CH2OP(O)(OH)2が相溶性及び硬度の面で好ましい。
【0026】
ホスホン酸基含有(メタ)アクリルアミド誘導体は、アクリルアミドあるいはメタクリルアミドのような単量体と、リン酸やポリリン酸のようなリン酸源化合物とを反応させ、得られた反応生成物を加水分解してなるものである。具体例として、アクリルアミドホスホン酸、アクリルアミドジホスホン酸及びホスホン酸基含有ターシャリーブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。
これらは所望により1種を単独で又は2種類以上を用いることができる。
【0027】
(iii)成分のメタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物としては、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0028】
このようなシラン化合物は、例えば、水−アルコール混合溶媒中で酸触媒の存在下、加水分解することによって得ることができる(部分)加水分解物、あるいは加水分解物の縮重合物を用いることができる。なお、(部分)加水分解物は、部分加水分解物又は完全加水分解物であることを意味する。
【0029】
とりわけ、(ii)成分の重合性酸性リン酸化合物は酸性であるため、(iii)成分のシラン化合物と混合するだけで雰囲気に存在する水分を利用して加水分解が進行する。このものは、(ii)成分又は(iii)成分を単独で(i)成分の有機溶剤溶液と混合しようとするよりも、容易に均一溶液を形成できる。従って、(i)〜(iv)成分を混合する順序は、特に限定するものではないが、(i)成分と(iv)成分、(ii)成分と(iii)成分を十分に混合したものを作り、これらを最後に混合することが最も望ましい。
【0030】
このとき使用する(iv)成分の有機溶剤は、希釈により本発明組成物の塗布性の改善、作業性の向上、保護膜の膜厚調整のためのものである。
この有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、エチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等の含窒素系溶剤が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上混合して使用してもよいが、ポリアミド樹脂の溶解性が高く、沸点が低いため製膜しやすいメタノールを最も好適に用いることができる。
【0031】
本発明において、上記(i)〜(iv)成分の割合は、加工性を含めた組成物の形成に重要であり、(i)成分であるポリアミド樹脂が少ない組成物から得られる硬化膜は、もろくなり自立膜ができなくなる場合があり、(ii)成分である重合性酸性リン酸化合物が少ない組成物から得られる硬化膜は、導電性が悪くなる場合があり、(iii)成分であるシラン化合物が少ない組成物から得られる硬化膜は、柔らかくなりすぎ、十分な膜強度が得られなくなる場合があるため、膜の特性発現のために(i)〜(iii)成分の割合は、(i)〜(iii)成分の合計量に対して、(i)成分であるN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂成分の割合が5〜85質量%の範囲にあり、(ii)成分である重合性酸性リン酸化合物の割合が10〜90質量%の範囲にあり、(iii)成分であるシラン化合物の割合が5〜60質量%の範囲にあることが好ましい。
【0032】
更により望ましい特性のためには、(i)〜(iii)成分の合計量に対して、(i)成分であるN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂成分の割合が5〜60質量%、特に10〜60質量%の範囲にあり、(ii)成分である重合性酸性リン酸化合物の割合が20〜90質量%、特には30〜80質量%の範囲にあり、(iii)成分であるシラン化合物の割合が5〜60質量%、特に10〜60質量%の範囲にあることが好ましい。
【0033】
また、(ii)成分の重合性酸性リン酸化合物と(iii)成分のシラン化合物との合計の割合が、(i)〜(iii)成分の合計量に対し、40〜90質量%の範囲にあることが好ましい。
【0034】
更に、(iv)成分の有機溶剤の使用量は、後述する粘度範囲となるように用いればよく、特に限定されるものではないが、通常、組成物全体の10〜90質量%、特に20〜80質量%とすることが好ましい。
【0035】
本発明の導電性膜形成用組成物には、更に、速やかな製膜加工性、膜強度特性の改善のために、(v)重合開始剤や(vi)シリカゾルを加えることができる。
【0036】
(v)成分の重合開始剤は、本発明組成物を架橋硬化させて、不溶性の膜を形成させるために添加するものである。本発明で用いられるラジカル発生剤は、ビニル基や(メタ)アクリル系化合物に対して反応し、架橋能を付与するものであればよく、ラジカルを発生させる化合物を含む熱ラジカル発生剤や光ラジカル発生剤が挙げられ、光ラジカル発生剤や有機過酸化物、アゾ化合物が利用でき、必要に応じてこれらのものを組み合わせて使用することができる。生産性及び速硬化性といった点から、アセトフェノン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾインエーテル誘導体、キサントン誘導体から選ばれる光ラジカル発生剤を好適に使用することができる。
【0037】
本発明で用いる(v)重合開始剤としては、(1)R3−(CO)x−R4(R3,R4=水素原子又は炭化水素基、x=2〜3)で表される隣接ポリケトン化合物類(例えば、ジアセチル、ジベンジル等)、(2)R3−CO−CHOH−R4(R3,R4=水素原子又は炭化水素基)で表されるα−カルボニルアルコール類(例えば、ベンゾイン等)、(3)R5−CH(OR7)−CO−R6(R5,R6,R7=炭化水素基)で表されるアシロイン・エーテル類(例えば、ベンゾインメチルエーテル等)、(4)Ar−CR8(OH)−CO−Ar(Ar=アリール基、R8=炭化水素基)で表されるα−置換アシロイン類(例えば、α−アルキルベンゾイン等)、及び(5)多核キノン類(例えば、9,10−アンスラキノン等)があり、これらの重合開始剤を、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
この具体例としては、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、イソブチルベンゾインエーテル、ベンゾインメチルエーテル−1−チオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1などが挙げられる。商品名では、BASF社製ルシリンTPO(アシルホスフィンオキサイド)、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製ダルキュアー1173(ヒドロキシケトン)、イルガキュアー907(アミノケトン)などが容易に入手できる。
【0039】
重合開始剤の使用量は、上記(i)〜(iii)成分の合計量に対し、0.5〜10質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量%の範囲である。0.5質量%未満であると、所定の紫外線照射時間内に重合が完結せず、未反応単量体が残留する場合があり、10質量%を超える量であると、得られる樹脂の重合度が低くなる上、樹脂が着色する傾向にある。
【0040】
また、本発明の導電性膜形成用組成物には、(vi)シリカゾルを含有させてもよく、その含有量は、上記(i)〜(iii)成分の合計量に対し、0〜50質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜30質量%の範囲である。50質量%を超えると、膜の柔軟性が不十分となり、自立膜に割れが起こりやすくなるおそれがある。
【0041】
本発明に係る組成物の実際の使用にあたっては、その扱いやすさを考慮すると、回転粘度計により測定した25℃における粘度が10,000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5,000Pa・sであることが好ましい。
【0042】
次に、本発明に係る導電性膜を形成させる方法について具体的に説明する。
本発明の導電性膜形成用組成物をディッピング法、スピナー法、スプレー法、ロールコーター法、フレキソ印刷法などの湿式薄膜形成方法により、ガラス、プラスチック、セラミックなどからなるフィルム、シートあるいはその他の成形体などの基材上に塗布し、必要に応じて乾燥することで導電性膜が形成できる。
また、基材として、フッ素系膜や、フッ素系膜で被覆した基材を用い、これに上記と同様の方法により導電性膜形成用組成物を塗布後、架橋・不溶化して製膜した導電性膜を該基材から剥離することで、導電性自立膜を得ることができる。ここで、フッ素系膜としては、ポリテトラフルオロエチレン板を、フッ素系被覆膜としては、アフレックス(旭硝子(株)製)等を使用することができる。
【0043】
本発明の導電性膜形成用組成物において、(i)成分のN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂は、酸触媒により架橋してメタノール不溶性になり、(ii)成分の重合性酸性リン酸化合物は、酸性でありかつラジカル重合性の不飽和C−C結合を持ち、(iii)成分のシラン化合物は、加水分解性のアルコキシ基とラジカル重合性の不飽和C−C結合を持つ。このため導電性膜形成用組成物を基材に塗布して形成した膜を、60℃以上220℃以下の温度で加熱するか、可視光線よりも波長の短い紫外線、電子線、X線、γ線などの電磁波を照射するか、又はこれらを併用して架橋・不溶化することで導電性膜が形成でき、更に、該導電性膜を基材より剥離すれば導電性自立膜を得ることができる。
【0044】
特に効果的な架橋・製膜方法として、紫外線のような高エネルギーの電磁波を用いる光架橋方法を好適に用いることができる。これは、短時間で表面から架橋が進むため経済的に有利な製膜方法であるが、深部まで光が届きづらく、厚い膜形成や高濃度に着色したものには不適であるため、加熱との併用による異なる架橋方法を用いて架橋させることにより、双方の長所を活かして、比較的短時間で深部まで架橋を進めることができる。
【0045】
具体的には、この組成物を塗布した基板は、乾燥時又は乾燥後に、60℃以上220℃以下の温度で、より好ましくは80℃以上180℃以下の温度で加熱するか、未硬化の膜に可視光線よりも波長の短い紫外線、電子線、X線、γ線などの電磁波を照射することで架橋することもよい。
【0046】
ここで、加熱する場合は、60℃以上220℃以下の温度で、より好ましくは80℃以上180℃以下の温度とするが、加熱温度が60℃未満では厚い膜の場合、深部が十分架橋せず、膜強度が低下することがあり、220℃を超える温度では膜が変色したり、劣化したりすることがある。また、加熱時間としては1分〜10時間、特に5分〜1時間とすることが好ましい。
【0047】
紫外線を照射する場合は、高圧水銀灯を用いることができ、照射エネルギーは、365nmの波長の紫外線量で、20〜20,000mJ/cm2、より望ましくは50〜5,000mJ/cm2照射することができる。照射時間は1秒〜10分間、特に10秒〜1分間とすることが好ましい。紫外線照射距離は、上記照射条件の範囲で十分硬化するように適宜設定する。
【0048】
あるいは、紫外線等の照射と熱処理を併用することで、膜形成成分の硬化が促進され、得られる膜の強度を向上させることができる。とりわけ、異なる架橋機構を併用したこの方法は、熱ラジカル重合反応、光重合反応、縮合反応が併用されるので、架橋密度が上がり、膜強度を高めることが可能である。この方法を用いる場合、上述したように紫外線照射重合を行った後、更に空気循環式のオーブン等を用いて60〜150℃で10分〜4時間加熱するのが好ましい。
【0049】
得られる導電性膜の厚さは、1,000μm以下であることが好ましく、より好ましくは1〜500μm、更に好ましくは10〜100μmである。導電性膜が厚すぎると膜の歪みによりカールする場合があり、薄すぎると強度が低くなり破れる場合がある。
【0050】
本発明の導電性膜形成用組成物は、高い透明性、機械的強度と柔軟性、並びに高いイオン伝導性を有し、この組成物により得られる導電性膜は、高プロトン伝導性、高透明性で、十分な強度を有するものであり、特に組成物を架橋させてなる導電性膜は、高透明で、柔軟性と機械的強度に優れ、プロトン伝導性の高いものである。
なお、本発明の導電性膜形成用組成物は、組成物中の重合性酸性リン酸化合物の比率を上記(i)〜(iii)成分の合計量に対して、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは30〜80質量%に高めることで、プロトン伝導性(導電率:10-6〜10-3S・cm-1)を有する導電性膜を得ることができるものである。
【0051】
本発明の導電性膜を燃料電池の電解質として使用する場合、メタノールに可溶性であるが酸触媒により不溶化するポリアミド樹脂を用いることで、材料に強度と柔軟性や水分の透過性を付与する効果を有し、重合性酸性リン酸化合物と、シラン化合物により得られた無機と有機のハイブリッドのイオン導電性膜であることによって、高硬度の高い導電性でありながらクラックが生成しにくくなると推定している。
【0052】
本発明の導電性膜は、(1)ポリアミド樹脂が造膜性に優れること、(2)ポリアミド樹脂のアミド基と、重合性リン酸化合物と重合性シラン化合物とが縮合反応することにより、ポリアミド樹脂とリン酸基含有樹脂とが架橋すること、(3)重合性シラン化合物のゾルゲル反応により生成するシラノール基間の会合により見かけの架橋が生成すること等が寄与しているものと考えられる。特にポリアミド樹脂として、N−アルコキシアルキル化ポリアミドを用いた場合は、リン酸基が、N−アルコキシアルキル化ポリアミドの脱アルコキシアルキル化触媒として作用し、ポリアミド同士が鎖間の水素結合による結晶化により不溶化することも寄与しているものと考えられ、これに起因する強度と耐水性の向上が効果を奏しているものと考えられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0054】
[原料]
導電性膜形成用組成物の調製のための原料として、以下のものを用いた。
(i)N−メトキシメチル化ポリアミド樹脂として、帝国化学産業(株)製のトレジンEF−30Tを用いた。
(ii)重合性酸性リン酸エステルとして、ユニケミカル(株)製のホスマーA(アシッドホスホキシエチルアクリレート)、ホスマーN2P(ビス(ジアシッドホスホキシ)アクリルアミド)を用いた。
(iii)アクリロキシ基を含有するシラン化合物として、信越化学工業(株)製のKBM−5103(3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を用いた。
(iv)有機溶剤として、メタノールを用いた。
(v)重合開始剤として、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製の光重合開始剤 ダルキュアー1173(DC1173と略記する。)を用いた。
(vi)シリカゾルとして、日産化学工業(株)製のメタノールシリカゾル(シリカ含有量30質量%)を用いた。
【0055】
導電性膜用組成物の調製とその評価
[実施例1]
ホスマーA 10gに、KBM−5103 10gを撹拌下に混合したところ、最初白濁状態であったものが、発熱して反応し、均一な透明粘稠溶液になったので、更に回転器で1時間混合した。これは、A−1液と表記した。
トレジンEF−30T 10gをメタノール60gに加え、60℃に加熱して溶解させた。このメタノール溶液70g(N−メトキシメチル化ポリアミド樹脂成分として10g)に、撹拌下にDC1173 1gを添加後、更にA−1液20gを加え、回転器で1時間混合して、導電性膜用組成物を調製した。
PETフィルム上に上記の導電性膜用組成物を塗布し、室温で1時間風乾してメタノールを除き製膜した。これをアイグラフィック社製紫外線照射装置(高圧水銀灯)中に入れ、UVメーター(UVPF36)で測定した365nm領域の照射エネルギー300mJ/cm2で紫外線を照射して架橋した後、PETフィルムから剥離して自立膜を作製した。これは、膜厚が70μmで透明で柔軟性のある膜であった。
この膜の強度を引っ張り試験機で測定したところ、42kgf/cm2であった。この膜を10×30mmに切り出し、イオン交換水中に24時間浸漬した後、水分を拭きとって電気抵抗測定用の試料片とした。電気抵抗は、電気抵抗計(SolartronSI1260/SI1287東陽テクニカ(株)製:インピーダンスアナライザー:Sweep1−100KHz,DCPotential3V)を用いて、25℃の環境下で、交流インピーダンス法で測定した。白金線を各0.3cm離して等間隔に貼り付けた25×40mmのガラス板上に、導電性膜の試料片を付着させ、うち2本の白金間に交流を加えて電気抵抗を測定し、電極間距離と比抵抗の関係から、膜の面方向の導電率を評価したところ、導電率は8.45×10-6S/cmであった。結果を表1に示した。
【0056】
[実施例2]
実施例1のホスマーAをホスマーN2Pに替え、KBM−5103と反応させた。この得られたものをB−1液とした。これ以外は実施例1と全く同様にして操作を行った。照射エネルギー200mJ/cm2で紫外線架橋した後、PETフィルムから剥離して自立膜を作製したところ、透明で柔軟性のある均一な膜が得られた。結果を表1に示した。
なお、ホスマーN2PとKBM−5103を予め反応させずに各成分を一緒に混合したところ、加工性が悪く、自立膜はできたものの不均一で発泡しており、引っ張り強度の測定に耐えるだけの膜は得られなかった。
【0057】
[比較例1]
比較のために、N−メトキシメチル化ポリアミド樹脂であるトレジンEF−30Tを全く用いずに、A−1液にDC1173を加え、実施例1と同様の操作を行ったところ、得られた膜は硬く脆いため、自立膜は得られず、引っ張り強度は測定できなかった。
【0058】
[比較例2]
実施例1との比較において、KBM−5103を使用しない系を検討するため、A−1液20gの替わりにホスマーA 10gを用いて、実施例1と同様の操作を行ったところ、UV照射により収縮を起こし、非常に柔らかい膜しか得られなかった。これは黄変した強度の低い膜であった。
【0059】
[比較例3]
実施例2との比較において、KBM−5103を使用しない系を検討するため、B−1液の替わりにホスマーN2P 10gを用いて、実施例2と同様の操作を行ったところ、UV照射により微発泡を起こしたゴム状の柔らかい膜が得られた。黄変した強度の低い膜であった。
【0060】
[比較例4]
比較のために、ホスマーAを全く用いず、それ以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、均一ではあるが白色の膜しか得られなかった。また、電気抵抗は高く、膜の導電性は10-9S/cmレベルと実施例1よりも3桁近く低いものであった。
【0061】
【表1】

【0062】
[実施例3]
実施例1と同様にして、トレジンEF−30TとA−1液の量比を(不揮発分換算で)33/67w/w%から20/80w/w%に変えた表2に示す量を用いて、実施例1と同様の操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表2に示した。
【0063】
[実施例4]
実施例1と同様にして、トレジンEF−30TとA−1液の量比を(不揮発分換算で)33/67w/w%から50/50w/w%に変えた表2に示す量を用いて、実施例1と同様の操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表2に示した。
【0064】
[実施例5]
ホスマーA 10gに、KBM−5103 20gを撹拌下に混合し、更に回転器で1時間混合した。これは最初白濁状態であったものが、発熱して反応し、均一な透明粘稠溶液になった。これは、A−2液とした。
実施例1のA−1液 20gをA−2液 30gに替え、KBM−5103 10gと混合した。これ以外は実施例1と全く同様にして操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表2に示した。
【0065】
【表2】

【0066】
[実施例6]
ホスマーN2P 20gに、KBM−5103 10gを撹拌下に混合し、更に回転器で1時間混合した。これは、最初白濁状態であったものが、発熱して反応し、均一な透明粘稠溶液になった。これは、B−2液とした。
実施例2のB−1液 20gをB−2液 30gに替え、これ以外は実施例2と全く同様にして操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表3に示した。
【0067】
[実施例7]
ホスマーN2P 30gに、KBM−5103 10gを撹拌下に混合し、更に回転器で1時間混合した。これは、最初白濁状態であったものが、発熱して反応し、均一な透明粘稠溶液になった。これは、B−3液とした。
実施例2のB−1液 20gをB−3液 40gに替え、これ以外は実施例2と全く同様にして操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表3に示した。
【0068】
[実施例8]
ホスマーN2P 10gに、KBM−5103 20gを撹拌下に混合し、更に回転器で1時間混合した。これは、最初白濁状態であったものが、発熱して反応し、均一な透明粘稠溶液になった。これは、B−4液とした。
実施例2のB−1液 20gをB−4液 30gに替え、これ以外は実施例2と全く同様にして操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表3に示した。
【0069】
[実施例9]
実施例2のB−1液 20gをB−4液 30gに替え、かつ30%メタノールシリカゾル33g(不揮発分換算で10g)加え、これ以外は実施例2と全く同様にして操作を行ったところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表3に示した。
【0070】
【表3】

【0071】
結論として、N−メトキシメチル化ポリアミド樹脂と、重合性リン酸化合物と、シラン化合物の組み合わせの場合のみ、透明で強度のある導電性の自立膜が得られた。重合性リン酸化合物がないものは、不透明で十分な導電性は得られず、シラン化合物がないものは、柔らかすぎて十分な強度は得られず、N−メトキシメチル化ポリアミド樹脂がないものは、硬く脆くなるため十分な可とう性がある自立膜は得られず、いずれも実用的に使用できるものにはならなかった。
【0072】
とりわけ重合性リン酸化合物とシラン化合物の組成比が、膜の物性に大きく影響を与えており、重合性リン酸化合物を多量に用いた系の場合では、導電率が大きく向上し、実施例7では燃料電池として使用可能な領域である、1.3×10-3S/cmレベルの導電率が得られた。また、シランを多量に用いたり、シリカとの組み合わせ系の場合では、100kgf/cm2を超えた引っ張り強度の導電性の良好な膜が得られた。更に、N−メトキシメチル化ポリアミド樹脂、重合性リン酸化合物、シラン化合物の使用量を、それぞれこれら成分の固形分合計量の10〜60質量%、30〜80質量%、10〜60質量%(いずれも固形分)とすることで、導電性、透明性、強度のバランスの取れた良好な膜が得られた。
【0073】
こうした特性の発現は、表1の参考例1の結果から分かるように、重合性リン酸化合物とシラン化合物は別々にポリアミド樹脂と混ぜたのでは、均一性が確保できず強度が十分ではないため、重合性リン酸化合物とシラン化合物は前もって反応させておくことが重要であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)窒素原子の一部がアルコキシアルキル基で置換されたN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂と、(ii)重合性酸性リン酸化合物と、(iii)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物及び/又はその(部分)加水分解物もしくはその縮重合物と、(iv)有機溶剤を含むことを特徴とする導電性膜形成用組成物。
【請求項2】
(i)窒素原子の一部がアルコキシアルキル基で置換されたN−アルコキシアルキル化ポリアミド樹脂が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド樹脂である請求項1記載の導電性膜形成用組成物。
【化1】

(式中、R1、R2は非置換又は置換のアルキレン基を表し、m及びnはそれぞれ正の整数であり、100×〔m/(m+n)〕=10〜90モル%である。)
【請求項3】
(i)〜(iii)成分の合計量に対して、
(i)成分の割合が5〜85質量%、
(ii)成分の割合が10〜90質量%、
(iii)成分の割合が5〜60質量%
であり、かつ(ii)成分と(iii)成分との合計の割合が40〜90質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性膜形成用組成物。
【請求項4】
更に、重合開始剤及び/又はシリカゾルを含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の導電性膜形成用組成物。
【請求項5】
(i)成分を(iv)成分に溶解させたものと、(ii)成分と(iii)成分とを予め混合・反応させたものとを、混合することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の導電性膜形成用組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の導電性膜形成用組成物を基材に塗布して形成した膜を、60℃以上220℃以下の温度で加熱するか、可視光線よりも波長の短い電磁波を照射するか、又はこれらを併用して架橋することにより得られた自立性のある透明導電性膜。

【公開番号】特開2008−262858(P2008−262858A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105748(P2007−105748)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】