説明

導電性金属酸化物除去方法及び装置

【課題】 基材に擦過痕などを残さず、基材に形成された導電性金属酸化物薄膜を除去する方法と装置を提供する。
【解決手段】 保持手段17によって導電性金属酸化物薄膜12を有する基材13を電解液11の界面近傍に位置させる。電解液11に第1電極14の一端側を浸漬させる。基材13の導電性金属酸化物薄膜12と対向状に、第2電極15の一端を電解液11の界面と間隔を存して配置する。電解液供給手段18により第2電極15に沿わせて電解液11を供給しつつ、第1電極14が負極、第2電極15が正極となるように電源16より電圧を印加し、第2電極15の一端側と、供給する電解液11の界面との間に発生させる放電現象によって導電性金属酸化物薄膜12を除去する。
【効果】 基材に形成された導電性金属酸化物薄膜を効率良く除去でき、半導体分野で用いられる高価な機能性ガラス基板などの再生利用が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着やめっきにより基材に形成された、酸化物導電性膜、金属膜などの導電性金属酸化物薄膜を、再利用が可能なように除去する方法及びその方法を実施する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばフラットパネルディスプレイに用いられる高機能ガラス基板は、光学的性能(透過率等)や機械的性能(平坦度等)に優れているが高価である。従って、その表面に形成される金属薄膜が品質管理基準を満足しない場合には、その金属薄膜を除去して再利用することで、コストの低減を図っている。
【0003】
この金属薄膜を除去する方法として、機械的擦過により除去する方法や、化学エッチングにより除去する方法がある。このうち前者の方法は、図6に示すように、被加工物1の表面に形成した金属薄膜を研摩ブラシ2により擦過することで、金属薄膜を除去するものである。
【0004】
また、後者の方法は、図7に示すように、金属薄膜を化学反応的に溶解させる化学液3に被加工物1を浸漬することで、その表面に形成した金属薄膜を除去するものである(例えば特許文献1,2)。
【特許文献1】特開平6−321581号公報
【特許文献2】特開平9−86968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機械的擦過によって除去する方法は、研摩ブラシを擦りつけることから、被加工物の表面に擦過痕(疵)が生じる場合があり、擦過痕が生じた場合には、再利用ができなくなる。また、対象とする被加工物がフラットパネルディスプレイの場合、ガラス基板のガラス厚みが0.5mm程度であり、接触方式の機械的擦過では破損する可能性がある。従って、微妙なブラシの圧力調整が必要で、完全に除去するためには長時間を要する。
【0006】
一方、化学エッチングによって除去する方法は、強酸や強アルカリの化学液を使用するので、取扱いに十分な注意を払う必要があり、作業性が悪くなるばかりでなく、使用後の電解液を廃液処理する必要がある。また、希少金属の回収には、別途抽出作業を要するために非常に不経済である。
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、機械的擦過による方法では、擦過痕が生じて基材を再利用できなくなり、また、ブラシの微妙な圧力調整が必要で完全除去に長時間を要するという点、化学エッチングによる方法では、作業性が悪くなるばかりか、使用後の電解液を廃液処理する必要があり、しかも、希少金属の回収に別途抽出作業が必要で、不経済であるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の導電性金属酸化物の除去方法は、
基材に擦過痕や応力変形などを残さず、かつ、強酸や強アルカリの化学液を使用しないで、基材に形成された導電性金属酸化物薄膜を除去するために、
1)導電性金属酸化物薄膜を有する基材を電解液に浸漬した状態で、
前記電解液に少なくとも一端側を浸漬した第1電極と、前記基材の導電性金属酸化物薄膜と対向状に、少なくとも一端側を前記電解液に浸漬すべく配備した第2電極とに、前記第1電極が負極、前記第2電極が正極となるように電圧を印加することによる、還元反応及び前記第2電極の一端側と、この一端側を浸漬させた電解液の界面との間における放電現象により、前記基材の導電性金属酸化物を除去するか、
或いは、
2)導電性金属酸化物薄膜を有する基材を電解液の界面近傍に位置させた状態で、
前記電解液に少なくとも一端側を浸漬した第1電極と、前記基材の導電性金属酸化物薄膜と対向状に、少なくとも一端側を、前記電解液の界面と間隔を存して配置した第2電極とに、この第2電極に沿わせて電解液を供給しつつ、前記第1電極が負極、前記第2電極が正極となるように電圧を印加することによる、還元反応及び、前記第2電極の一端側と、供給する電解液の界面との間における放電現象により、前記基材の導電性金属酸化物を除去する、
ことを最も主要な特徴としている。
【0009】
本発明の導電性金属酸化物の除去方法において、前記第2電極に印加する電圧をパルス電圧とした場合には、通常の直流電圧を印加する場合と比べて、還元反応と放電現象が規則的に繰り返されるため、基板上の導電性金属酸化物薄膜の還元反応から、放電現象による還元反応後の導電性金属酸化物薄膜の除去までが効率良く行われる。
【0010】
前記1)の導電性金属酸化物の除去方法は、
導電性金属酸化物薄膜を有する基材を電解液に浸漬した状態で位置させる保持手段と、
前記電解液に少なくとも一端側を浸漬させた第1電極と、
前記基材の導電性金属酸化物薄膜と対向状に、少なくとも一端側を前記電解液に浸漬すべく配備した第2電極と、
前記第1電極が負極、前記第2電極が正極となるように電圧を印加する電源を備えた第1の本発明装置を使用することによって実施できる。
【0011】
また、前記2)の導電性金属酸化物の除去方法は、
導電性金属酸化物薄膜を有する基材を電解液の界面近傍に位置させる保持手段と、
前記電解液に少なくとも一端側を浸漬させた第1電極と、
前記基材の導電性金属酸化物薄膜と対向状に、一端を前記電解液の界面と間隔を存して配置した第2電極と、
この第2電極に沿わせて電解液を供給する電解液供給手段と、
前記第1電極が負極、前記第2電極が正極となるように電圧を印加する電源を備えた第2の本発明装置を使用することによって実施できる。
【0012】
前記本発明の導電性金属酸化物の除去装置において、前記基材又は前記第2電極、或いは、前記基材及び前記第2電極の移動手段を設けた場合には、基材に形成した導電性金属酸化物の除去が効率的に行えるようになる。
【0013】
また、前記本発明の導電性金属酸化物の除去装置において、前記基材が金属又は半導体である場合、この基材を前記第1電極となせば、構成要素を少なくできる。
【0014】
以上の本発明において、電解液としては、抵抗率が10Ω・cmから103Ω・cmのものを使用することで、基材上の導電性金属酸化物を効率良く除去することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基材に疵や応力変形などを残すことなく、基材に形成された導電性金属酸化物薄膜を効率良く除去できるようになり、半導体分野で用いられる高価な機能性ガラス基板などの再生利用が可能になる。また、強酸や強アルカリの化学液を使用しないので、環境負荷も低減でき、基材を始めとする希少金属などの資源サイクルも可能になって、経済的にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明方法の基本原理を図1及び図2を用いて説明した後、本発明を実施するための最良の形態を図3〜図5を用いて詳細に説明する。
【0017】
例えば図1に示したように、電解液11の界面近傍に導電性金属酸化物薄膜12を有する絶縁物や導電物などの基材13を、前記導電性金属酸化物薄膜12が前記界面側になるように浸漬する。また、第1電極14と第2電極15の一端を電解液11に浸漬する。その際、第2電極15の一端が前記導電性金属酸化物薄膜12と対向すべく配置する。
【0018】
以上の状態で、前記第1電極14が負極、前記第2電極15が正極となるように、例えば電源16から直流電圧を印加すると、水の電気分解により、第2電極15の表面には酸素、第2電極15に対向する導電性金属酸化物薄膜12の表面には水素が発生する。
前記水の電気分解により、導電性金属酸化物薄膜は、水素による還元反応で、酸素が取り除かれる。酸素を取り除かれた導電性金属酸化物薄膜12は、金属元素のみ(導電性金属薄膜12)となり、基板13との結合力が低下する。
さらに、電圧を上げ、第2電極15の一端側とこの一端側を浸漬させた電解液11の界面との間で放電現象を発生させることにより、第2電極15の近傍(周辺)の電解液11が瞬間的に蒸発することによる蒸発圧力が発生する(以下、瞬時蒸発作用と呼ぶ。)。
【0019】
従って、図1のように、この放電現象が発生する近傍に導電性金属酸化物薄膜12を存在(通過させる場合を含む)させれば、還元反応により、基材13との結合力が低下した導電性金属薄膜12は、瞬時蒸発作用による蒸発圧力により、基材13から除去されることになる。
【0020】
ちなみに、前述のように、第1電極14(負極)と第2電極15(正極)の間に直流電圧を印加すると、印加した電圧と、発生した電流の関係は、図2に示したような曲線となる。
【0021】
すなわち、電圧の印加とともに、第1電極及び第2電極の表面から、水の電気分解による酸素及び水素の発生に伴う気泡が発生し始める(還元作用)。さらに電圧を印加するについて、気泡の発生量も急増し、電流値も上昇する。気泡の発生量が急増すると、第1電極及び第2電極の表面は気泡に覆われて、絶縁膜が形成された状態になるため、電流値が急激に低下する。さらに電圧を印加すると、電極表面を覆っていた気泡が絶縁破壊を起こすことで、微小な放電現象(微小放電)が発生し始める。
【0022】
本発明は、この図2に示した還元作用から微小放電の範囲にて導電性金属酸化物薄膜の除去を行うものである。なお、微小放電の段階を超えると、急激な放電により、基材13表面への損傷の可能性があるため好ましくない。
【0023】
なお、使用する電解液は、一般に用いられる中性塩溶液でも利用可能であるが、好ましくは、抵抗率が10Ω・cmから103Ω・cmのものが良い。本発明では、第1電極14・第2電極15ともに基材13とは非接触であるため、抵抗率が10Ω・cm未満の導電性の高い電解液11では、第1電極14及び第2電極15間に印加された電圧が、導電性金属酸化物薄膜12を通さず、前記第1電極14及び第2電極15間で電解液11を通して導通状態となるため、導電性金属酸化物薄膜12の除去効率が低下するからである。また、抵抗率が103Ω・cmを超えると、放電現象が発生しないか、放電現象を発生させるために高電圧を印加する必要があり、経済上好ましくないからである。
【0024】
上記のように本発明では、抵抗率の比較的高い電解液11が適していることから、従来、電解液11としては好ましくなかった、水道水や河川水等を用いることができ、経済性および安全性の面においても優れている。
【0025】
本発明の導電性金属酸化物の除去方法は、上述の基本原理に基づくもので、例えば図3に示す本発明の導電性金属酸化物の除去装置を用いて実施する。
17は導電性金属酸化物薄膜12を有する基材13を電解液11の界面近傍に位置させる保持手段で、図3では複数の回転ローラで、図3(a)の紙面左右方向に基材13を移動できるものを示している。
【0026】
前記保持手段17によって基材13を電解液11の界面近傍に位置させた状態で、この電解液11に一端側を浸漬した第1電極14と、前記基材13の導電性金属酸化物薄膜12と対向状に、一端側を電解液11の界面と間隔を存して配置した第2電極15とに、電解液供給手段18によって第2電極15に沿わせて電解液11を供給しつつ、第1電極14が負極、第2電極15が正極となるように電源16から電圧を印加するのである。
【0027】
そして、前記電圧を印加することで、第2電極15の一端側と、供給する電解液11の界面との間に放電現象が発生し、この放電現象によって得られる酸化・還元反応および瞬時蒸発作用によって基材13の導電性金属酸化物薄膜12を除去するのである。
【0028】
以上の除去は、基材13の図3(a)の紙面右方向への移動と、図3(b)に示すように、基材13の前記移動と直交する、同一平面内での基材13の幅方向への第2電極15の移動により、基材13の全面に実施する。
【0029】
なお、放電除去後、基材13上に残留する(基材13の表面から浮いた状態にある)導電性金属薄膜の除去は、第2電極15の下流側に配置した、例えばジェット水流ノズル19等で非接触にて除去する。基材13に疵をつけないものであれば、スポンジ体などを用いても良い。
【0030】
本発明方法は図3に示した本発明装置のみによって実施できるものではなく、図4及び図5に示す本発明装置によっても実施できる。
すなわち、図4は第2電極15を長さの異なる2枚の導電性板15a,15bで構成し、これら2枚の導電性板15a,15bの間に、電解液供給手段18によって電解液11を供給するようにしたものである。この図4では、長さの長い方の導電性板15aが放電現象発生用の電極として用いられる。
【0031】
また、図5は第2電極15を円筒状の回転体で構成し、この円筒状の外周面に凹凸或いは金網状の金属体20を設けたものである。そして、この第2電極15の場合、円筒状の外周面が前記基材13の導電性金属酸化物薄膜12と対向するように配置され、電解液供給手段18によってこの第2電極13の外周面に沿わせて電解液が供給される。
【0032】
また、この図5は基材13が金属又は半導体の場合の例を示しており、この場合、保持手段17である移動架台上の基材13を第1電極14となしている。
【0033】
ちなみに、電解液として1%の硝酸ナトリウム水を使用し、その界面に配備した、ガラス基板上に膜厚が1000×10−10mのITO(インジウムとスズの酸化物で、透明導電性を有する膜)を形成した100mm×100mmの被加工物を、100mm/minで移動させながら、前記界面と0.5mmの距離を隔てて配備したCu棒製の第2電極(正極)に沿わせて前記硝酸ナトリウム水を連続的に滴下供給しつつ、この第2電極とCu製の第1電極(負極)とに約100Vの直流電圧を印加し、その下流側において回転スポンジ体でガラス基板の表面を擦過したところ、ITOが除去でき、ガラス基板の再生が可能になった。
【0034】
本発明は、前述の例に限るものではなく、例えば第2電極15を筒状となし、電解液供給手段18によってこの筒状の内部に電解液11を供給するようにしたものでも良いなど、各請求項に記載の技術的思想の範囲内において、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の基本原理を示した図である。
【図2】本発明において、第1電極と第2電極間に印加する電圧と、発生した電流の関係を示した図である。
【図3】本発明方法を実施する本発明装置の第1の例を説明する図で、(a)は側面図、(b)は上方から見た斜視図である。
【図4】本発明方法を実施する本発明装置の第2の例を説明する図である。
【図5】本発明方法を実施する本発明装置の第3の例を説明する図である。
【図6】機械的擦過により金属薄膜を除去する方法について説明する図である。
【図7】化学エッチングにより金属薄膜を除去する方法について説明する図である。
【符号の説明】
【0036】
11 電解液
12 導電性金属酸化物薄膜(還元後は導電性金属薄膜)
13 基材
14 第1電極
15 第2電極
15a,15b 導電性板
16 電源
17 保持手段
18 電解液供給手段
20 金属体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属酸化物薄膜を有する基材を電解液に浸漬した状態で、
前記電解液に少なくとも一端側を浸漬した第1電極と、前記基材の導電性金属酸化物薄膜と対向状に、少なくとも一端側を前記電解液に浸漬すべく配備した第2電極とに、前記第1電極が負極、前記第2電極が正極となるように電圧を印加することによる、還元反応及び前記第2電極の一端側と、この一端側を浸漬させた電解液の界面との間における放電現象により、前記基材の導電性金属酸化物を除去することを特徴とする導電性金属酸化物の除去方法。
【請求項2】
電解液に浸漬した前記基材を電解液の界面近傍に位置させると共に、
前記第2電極の一端側を、電解液に浸漬することに代えて、電解液の界面と間隔を存して配置し、
この第2電極に沿わせて電解液を供給することにより、供給電解液が液面と接触することで前記放電現象を誘発し、この放電現象の剥離作用を与えることを特徴とする請求項1に記載の導電性金属酸化物の除去方法。
【請求項3】
前記電解液の抵抗率が、10Ω・cmから103Ω・cmであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の導電性金属酸化物の除去方法。
【請求項4】
請求項1に記載の導電性金属酸化物の除去方法を実施する装置であって、
導電性金属酸化物薄膜を有する基材を電解液に浸漬した状態で位置させる保持手段と、
前記電解液に少なくとも一端側を浸漬させた第1電極と、
前記基材の導電性金属酸化物薄膜と対向状に、少なくとも一端側を前記電解液に浸漬すべく配備した第2電極と、
前記第1電極が負極、前記第2電極が正極となるように電圧を印加する電源を備えたことを特徴とする導電性金属酸化物の除去装置。
【請求項5】
請求項2に記載の導電性金属酸化物の除去方法を実施する装置であって、
導電性金属酸化物薄膜を有する基材を電解液の界面近傍に位置させる保持手段と、
前記電解液に少なくとも一端側を浸漬させた第1電極と、
前記基材の導電性金属酸化物薄膜と対向状に、一端を前記電解液の界面と間隔を存して配置した第2電極と、
この第2電極に沿わせて電解液を供給する電解液供給手段と、
前記第1電極が負極、前記第2電極が正極となるように電圧を印加する電源を備えたことを特徴とする導電性金属酸化物の除去装置。
【請求項6】
前記基材又は前記第2電極、或いは、前記基材及び前記第2電極の移動手段を設けたことを特徴とする請求項4又は5に記載の導電性金属酸化物の除去装置。
【請求項7】
前記基材が金属又は半導体である場合、この基材を前記第1電極となすことを特徴とする請求項4〜6の何れかに記載の導電性金属酸化物の除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−56335(P2007−56335A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244496(P2005−244496)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】