説明

導電性銀ペースト、導電性パターンの形成方法及び導電性パターン印刷物

【課題】 より高精細の導電性パターンを、より低温より短時間で得られる導電性銀ペーストを提供する。
【解決手段】 銀粒子(A)と、25℃において固体である樹脂(B)と、引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)とを必須成分として含有し、かつ質量換算で、前記銀粒子(A)100部当たり前記有機環状エーテル化合物(C)15〜30部である導電性銀ペースト、基材上に当該導電性銀ペーストで印刷する導電性パターンの形成方法及び当該導電性パターンの形成方法で形成された導電性パターン印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性皮膜を形成するための導電性銀ペースト、導電パターンの印刷方法及び導電パターン印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル、電子ペーパー、及び各種電子部品に用いられる導電回路、電極等の導電パターン形成方法としては、印刷法またはエッチング法が知られている。
エッチング法により導電パターンを形成する場合、各種金属膜を蒸着した基板上にフォトリソグラフィーによってパターン化されたレジスト膜を形成した後に、不要な蒸着金属膜を化学的あるいは電気化学的に溶解除去し、最後にレジスト膜を除去する必要がありその工程は非常に煩雑で量産性に乏しい。
一方で印刷法では所望のパターンを低コストで大量生産を行うことが可能であり、さらに印刷塗膜を乾燥又は硬化させることによって容易に導電性を付与できる。
これら印刷方式としては形成したいパターンの線幅、厚さ、生産速度に合わせてフレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット等が提案されている。
【0003】
印刷パターンとしては電子デバイスの小型化、意匠性向上等の観点から線幅50μm以下の高精細な導電パターンの形成が求められている。
また電子デバイスの薄型化、軽量化、フレキシブル化への要求の高まりや、生産性の高いロール・ツー・ロール印刷に対応するために、プラスチックフィルム上に印刷して低温短時間の焼成で高い導電性、基材密着性、膜硬度などが得られる導電性インキが求められている。さらにプラスチックフィルムの中でも、安価で透明性の高いPETフィルムや、PETフィルムの上にITO膜が形成された透明導電フィルム上に印刷した際に、前記した物性が得られる導電性インキが求められている。
【0004】
特許文献1及び2では焼成温度が150℃であり、印刷基材がPETフィルムである場合には基材が変形する問題がある。
特許文献3では、焼成温度は120℃と比較的低温であるものの焼成時間が30分と長く生産性に劣る。また、透明導電フィルムのITO膜への密着性については検討されていない。
特許文献4では、低温短時間の焼成で高い導電性が得られているが、乾燥性の高い有機溶剤を用いているために機上安定性に劣る。また、印刷線幅に関しても3mmと太く、高精細パターニングの検討はされていない。
【0005】
【特許文献1】特開2009−62523公報
【特許文献2】特開2005−56778公報
【特許文献3】特開2006−302825公報
【特許文献4】WO2006/095611公報
【特許文献5】特開2007−119682公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した通り、従来の技術においては、より高精細の導電性パターンを、150℃未満という低温でも10分以内という短時間で得られる導電性銀ペーストは、未だ得られていないのが実情であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究の結果、特定の有機環状エーテル化合物を銀粒子に対して特定割合となる様に併用することで、上記した欠点が解消されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、銀粒子(A)と、25℃において固体である樹脂(B)と、引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)とを必須成分として含有し、かつ質量換算で、前記銀粒子(A)100部当たり前記有機環状エーテル化合物(C)15〜30部である導電性銀ペーストを提供する。
また本発明は、基材上に、上記記載の導電性銀ペーストで印刷する導電性パターンの形成方法を提供する。
さらに本発明は、上記記載の導電性パターンの形成方法で形成された導電性パターン印刷物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性銀ペーストは、特定の有機環状エーテル化合物を銀粒子に対して特定割合となる様に併用しているので、高精細の導電性パターンを低温短時間で得られるという格別顕著な効果を奏する。尚、本発明において、高精細とは、得る導電性パターンの形状にも依存するが、線幅で言えば、30μm未満、なかでも15〜25μmといった従来よりも細い画線(細線)を言う。
本発明の導電性パターンの形成方法は、特定の有機環状エーテル化合物を銀粒子に対して特定割合となる様に併用した導電性銀ペーストを用いているので、高精細の導電性パターン及びその印刷物が低温短時間で得られるという格別顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の導電性銀ペーストは、銀粒子(A)と、25℃において固体である樹脂(B)と、引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)とを必須成分として含有し、かつ質量換算で、前記銀粒子(A)100部当たり前記有機環状エーテル化合物(C)15〜30部である導電性銀ペーストである。
【0011】
本発明の導電性銀ペーストに用いる銀粒子(A)としては、公知慣用のものをいずれも使用することができるが、例えば、平均粒径としてメジアン粒径(D50)が100nm〜15μmである球状銀粉末を用いることができる。
この様な銀粒子(A)としては、例えば、SPQ03S(三井金属鉱山(株)製、平均粒径D50:0.5μm)、EHD(三井金属鉱山(株)製、平均粒径D50:0.5μm)、AG2−1C(DOWAエレクトロニクス(株)製、平均粒径D50:0.8μm)、AG2−1(DOWAエレクトロニクス(株)製、平均粒径D50:1.3μm)、シルベストAgS−050((株)徳力化学研究所製、平均粒径D50:1.4μm)、シルベストC−34((株)徳力化学研究所製、平均粒径D50:0.6μm)などが挙げられる。
【0012】
中でも、メジアン径(D50)1.0〜10.0μmの銀粒子と、メジアン径(D50)0.2〜0.7μmの銀粒子とを併用すると、より高精細細線の導電性パターン形成と、150℃未満の焼成により十分な導電性付与とを兼備させることができるので好ましく、質量換算で、メジアン径(D50)1.0〜10.0μmの銀粒子100部当たり、メジアン径(D50)0.2〜0.9μmの銀粒子50〜200部を併用することで、導電性銀ペーストの流動性を更に良好とすることができ、フレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、又はグラビアオフセット印刷といった特定印刷方法において、これら印刷機上での連続的に印刷した場合においても、トラブルが起こり難く安定的に良好な導電性パターン印刷物を得やすくなるので、特に好ましい。
【0013】
本発明の導電性銀ペーストでは、銀粒子(A)を必須成分として用いるが、必要であれば、その他の単体金属や合金の粒子を併用しても良い。
【0014】
次に、25℃において固体である樹脂(B)は、それ単独でタックフリーの樹脂皮膜を形成可能なものであればいずれも使用できるが、例えば、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0015】
導電性パターンを形成する基材としては、狭い筐体内に高密度に電子部品を充填可能となるよう、近年、可とう性の高い(フレキシブルな)プラスチックフィルム素材の使用が求められている。このような需要の下では、反りがある状態で長期間保持されても、導電性パターンが基材から剥離しないような高い密着性が求められる。導電性銀ペーストの導電性パターンを形成する基材が、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)である場合には、この25℃において固体である樹脂(B)として、PETへの密着性が良好である、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体やポリエステル樹脂が、好適に使用される。
【0016】
上記した塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体としては、日新化学工業株式会社製のソルバインシリーズが、一方、ポリエステル樹脂としては、東洋紡績株式会社製のバイロンシリーズが、それぞれ挙げられる。
【0017】
これら樹脂(B)は25℃において固体であるため、通常は、液媒体に溶解等した上で、基材上に細線パターンを塗布したり印刷したりすることが必要となる。そのため、同樹脂(B)の選択に当たっては、液媒体への溶解性を考慮することが必要である。
【0018】
本発明の導電性銀ペーストでは、後記する引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)を、前記液媒体として機能させることが好ましい。
そのため、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体としては、共重合体中にビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を3〜9重量%含有するものが、水酸基のような親水性基の存在によりそれを有さない場合に比べ、銀粒子(A)の分散性を促進できると共に、PETへの密着性より高めること可能である点から好ましい。
またポリエステル樹脂としては、線状(リニアー)のポリエステル樹脂は、それ自体引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)により溶解しやすく、ベンゼン環のような芳香環を分子構造中に含む、線状の芳香族ポリエステル樹脂は、PETとの構造上の類似性から、より高い密着性が期待できる。
【0019】
共重合体中にビニルアルコールの重合単位を含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を部分鹸化することで容易に得ることができるし、共重合体中に(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、塩化ビニル、酢酸ビニルに加えてヒドロキシエチル(メタ)アクリレートやヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの様な(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルを共単量体として用い共重合させることで容易に得ることができる。
線状のポリエステル樹脂は、例えば、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸の様なジカルボン酸やその酸塩化物と、例えば、エチレングルコール、プロピレングリコール、ブタンジオールの様な有機ジオールとを、脱水縮合や脱塩酸させる等することで容易に得ることが出来る。
【0020】
引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)としては、カチオン重合しうる官能基であるオキセタン環が一つの一官能オキセタン化合物や、二官能オキセタン化合物及び三官能以上のオキセタン化合物が挙げられる。なかでも25℃において液状であり、オキセタン環以外の重合性官能基を有さないオキセタン化合物である、東亞合成株式会社製のアロンオキセタンシリーズである、OXT−101、OXT−212、OXT−121及びOXT−221等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
しかしながら、導電性銀ペーストの基材上での皮膜強靭性を高めるに当たっては、引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)として二官能オキセタン化合物を必須成分として用いることが好ましい。
【0021】
上記した25℃において固体である樹脂(B)と引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)との割合は、特に制限されるものではないが、質量換算で、前者樹脂(B)不揮発分1部当たり、後者化合物(C)不揮発分にして、通常1〜10部、中でも1〜7.5部とすることが好ましい。
【0022】
導電性パターンは、紫外線硬化でも熱乾燥でも得ることが可能であるが、導電性銀ペースト中に重合開始剤を含ませず熱乾燥で導電性パターンを得るようにした方が、別途、紫外線照射装置のような高価な装置を改めて準備する必要もなく、熱風乾燥、IR乾燥等により、より安価に導電性パターンを得ることが可能となるので好ましい。
【0023】
上記したように、本発明では、引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)自体が導電性銀ペースト中における液媒体として作用するので、従来から導電性銀ペーストの調製に用いていた有機溶剤を併用することが不要になる。また、後記する様に、導電性銀ペーストから印刷装置にて導電性パターンを形成する際に、多用されている直鎖のエーテル系またはエーテルエステル系有機溶剤を併用して長時間印刷を行った場合において強く懸念されてきた、版、ブランケット、ロール等の劣化を遅延させたり、排除することもできる。
【0024】
本発明の導電性銀ペーストは、銀粒子(A)と、25℃において固体である樹脂(B)と、引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)とを、混合することで調製することができる。導電銀ペーストは、上記の原料を必須成分として混練し、均一化することで製造することができる。
【0025】
本発明では、質量換算で、前記銀粒子(A)100部当たり前記有機環状エーテル化合物(C)15〜30部となる様にすることで、25℃において固体である樹脂(B)だけでは不充分であった、導電性銀ペーストの可塑性を高め流体としての取り扱い性を改善すると共に、より高精細の導電性パターンが、150℃未満という低温でも10分以内という短時間で得ることに成功した。
【0026】
本発明の導電性銀ペーストの調製に当たっては、質量換算で、銀粒子(A)100部当たり、25℃において固体である樹脂(B)は不揮発分として1〜10部、引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)は20〜35部を用いる様にすることが、最終的に得られる導電性パターンの性能を高められる点で好ましい。
【0027】
銀粒子(A)の導電性銀ペースト中の含有率は、60〜95質量%が好ましく、70〜90質量%であればさらに好ましい。この範囲であると、皮膜中の銀粒子(A)の密度が十分であり良好な導電性を得ることができ、流動性のある、ペースト状に調製することが容易となる。
【0028】
25℃において固体である樹脂(B)の導電性銀ペースト中の含有率は、1〜10質量%が好ましく、2〜7質量%であればさらに好ましい。この範囲であると、導電性パターンを設ける基材への密着性を確保することができる。
【0029】
引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)の導電性銀ペースト中の含有率は、10〜40質量%が好ましく、15〜25質量%であればさらに好ましい。この範囲であると、ペースト粘度がより適正になり、特に、グラビア印刷又はグラビアオフセット印刷において、画線のコーナー部分やマトリックスの交差点にピンホール欠陥を起こすことなく、より高精細な導電性パターンを形成することができる。
【0030】
本発明の導電性銀ペーストは、各種印刷方法に適用可能な粘度となる様に調製することが好ましいが、25℃における粘度3〜30Pa・Sとすることが、グラビア印刷又はグラビアオフセット印刷といった印刷方法への適用を可能とするためには好ましい。こうした粘度とすることで、上記した、画線のコーナー部分やマトリックスの交差点にピンホール欠陥を起こすことなく、より高精細な導電性パターンを形成することができ、かつ、凹版へのインキング性、凹版からブランケットへの転移性の問題も生じ難くなる。本発明における導電性銀ペーストの粘度は、レオメーターにより測定した値とする。
【0031】
本発明の導電性銀ペーストには、上述の成分以外にも、必要に応じて、有機溶剤、分散剤、消泡剤、可塑剤などの各種添加剤を適宜適量配合することができる。
【0032】
本発明の導電性銀ペーストは、任意の方法で、例えば、プラスチックフィルム、セラミックフィルム、ガラス又は金属プレートの何れかの基材上に、塗布または印刷することで導電性パターンを形成することができる。
【0033】
本発明の導電性銀ペーストは、任意の基材に、例えば、フレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、又はグラビアオフセット印刷の印刷方法にて印刷することで、導電性パターンを形成することができる。
【0034】
本発明の導電性銀ペーストからの導電性パターンの形成方法としては、少なくとも、導電性パターンを有する凹版印刷版に導電性インキを供給する工程、シリコーンブランケットを押圧し、導電性インキを該ブランケット上に転移する工程、該ブランケット上の導電性インキを基材に転写する工程を有するグラビアオフセット印刷方法を、好適に採用できる。
【0035】
この際の凹版印刷版としては、通常のグラビア版、ガラス板上の感光性樹脂を露光、現像、洗浄により形成した凹版、ガラス板をケミカルエッチングおよびレーザーエッチングにより形成した凹版が使用できる。
【0036】
また、シリコーンブランケットとしては、シリコーンゴム層、PET層、スポンジ層の様な層構造を有するシートである。通常、ブランケット胴と称される剛性のある円筒に巻きつけた状態で使用できる。
【0037】
本発明の導電性銀ペーストからの導電性パターン形成方法において、上記グラビアオフセット印刷方法を採用した場合、シリコーンブランケットには、凹版からの転写性、及び、基材への転写性が求められる。基材への十分な転写性を得るためには、ブランケット表面で、導電性銀ペースト中の液体成分を一定割合で吸収することが必要である。吸収が不十分であると基材への転写時に導電性銀ペースト層が層間剥離を起こし易く、逆に、一定割合を超えて吸収するとブランケット表面で導電性銀ペーストが乾燥し、基材への転写不良を起こし易いという問題があった。
【0038】
本発明の導電性銀ペーストでは、上記液体成分の主成分が、引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)から構成されており、それ自体が、低温短時間での乾燥後においては、それが導電性パターンに取り込まれる。そのため、上記した問題を解決するための適切な有機溶剤を選択するという煩雑な作業や、単なる有機溶剤を用いた様な場合に生じるペーストの取り扱い性としての欠点や、より高精細な導電性パターンを得る際に欠点が発現し得ない、という大きな長所がある。
【0039】
本発明の導電性銀ペーストから形成させる導電性パターンは、ベタのような太い線幅の画線であっても良いが、本発明の導電性銀ペーストを用いた場合の特徴は、上記した様な従来よりも細い線幅画線を基材上に設ける際に、特に顕著に発揮される。
【0040】
また、本発明の導電性銀ペーストからの導電性パターンは、従来より低温かつ短時間で形成できることから、本発明の導電性銀ペーストの特徴は、セラミックフィルム、ガラス又は金属プレートの様な耐熱性の高い基材よりも、耐熱性がより低く熱変形しやすい、PETのような汎用プラスチックフィルム上に導電性パターンを形成する際に、特に顕著に発揮される。
【0041】
こうして本発明の導電性銀ペーストを用いて、各種基材上に各種印刷方法にて印刷することで導電性パターンが設けられた基材は、導電性パターン印刷物として、必要に応じて配線等を行うことで、各種の電気部品、電子部品とすることができる。具体的に本発明の導電性銀ペーストは、透明ITO電極の様な透明導電フィルムへの密着性に優れている。
【0042】
最終製品としては、例えばタッチパネルの取り出し電極やディスプレイの取り出し電極、電子ペーパー、太陽電池、その他の配線品等が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。ここで「%」は、特に断らない限り「質量%」である。
【0044】
銀粒子と、25℃において固体である樹脂と、引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)等を、以下の表1に記載の質量部数となるよう用いて、これら原料を充分に混合して、実施例である本発明の各導電性銀ペースト及び比較例である従来の各導電性銀ペーストを調製した。実施例及び比較例の各導電性銀ペーストは、いずれも、25℃における粘度3〜30Pa・Sの範囲にあった。
これらの各導電性銀ペーストについて、以下の測定項目にて、導電性銀ペースト自体の特性、それから得られる導電性パターンの特性及び導電性パターンの生産性を評価した。その評価結果も以下の表1にまとめて示した。
【0045】
本発明の、「より高精細の導電性パターンを、150℃未満という低温でも10分以内という短時間で得られる」という技術的効果は、表1における、塗膜物性の欄「比抵抗」と、印刷適正の欄の「機上安定性」と「細線再現性」の結果がいずれも優れている(兼備している)ことから判断した。
【0046】
(比抵抗)
比抵抗は、体積抵抗率を意味する。アプリケーターを用いて透明導電フィルム上(ITO膜面)に導電性銀ペーストを乾燥後の膜厚が6μmになるように塗布し140℃2分乾燥させた。該乾燥塗膜を用いて、ロレスタGP MCP−T610(三菱化学社製)で四端子法にて測定した。この値が小さいほど、導電性に優れている。
【0047】
(基材密着性)
前記の比抵抗の評価と同様にして作製した、ペーストからの乾燥塗膜を用いて、ISO2409(Paints and varnishes−Cross-cut test)の手順で試験を実施し、以下の基準に従って評価をした。
合格: 分類0または分類1(塗膜の剥がれが5%以内)
不合格: 分類2〜5(塗膜の剥がれが5%を超える)
【0048】
(機上安定性)
導電性銀ペーストの粘度を測定した後、厚さ10μm程度に引き伸ばした状態で10時間放置し、その後に該ペーストの粘度を同様に測定した。放置前後でのペーストの増粘率を算出して、以下の基準に従って評価をした。
合格: 増粘率が10%未満
不合格: 増粘率が10%以上
【0049】
(細線再現性)
導電性銀ペーストを用いて、下記の方法によりグラビアオフセット印刷を行い導電回路を作成した。
ガラス製の凹版に本発明の導電ペーストをドクターブレードを用いてインキングした後に、ブランケットを巻きつけたシリンダーに押圧、接触させ、所望のパターンをブランケット上に転移させた。その後、該ブランケット上の塗膜を基材である透明導電フィルムに押圧、転写させて線幅20μm〜100μmの導電回路を作成した。前記した導電回路のうち、線幅20μmラインを顕微観察し、細線再現性を以下の基準に従って評価をした。
合格: 線の直線性に優れ、断線箇所なし
不合格: 線の直線性に劣り、断線箇所あり
【0050】
【表1】

【0051】
尚、表1中、導電性銀ペーストの調製に用いた各原料の詳細は以下の通りである。
・シルベスト AGS−050:
メジアン径(D50)が1.4μmの銀粒子乾燥粉体(徳力化学研究所社製)
・シルベスト C−34:
メジアン径(D50)が0.35μmの銀粒子乾燥粉体(徳力化学研究所社製)
・ソルバインC:
塩化ビニル/酢酸ビニルの共重合質量比が87/13の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業社製)
・ソルバインAL:
塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコールの共重合質量比が93/2/5の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業社製)
・OXT−221:
引火点144℃の2官能オキセタン化合物(アロンオキセタン、東亜合成社製)
・OXT−101:
引火点112℃の1官能オキセタン化合物(アロンオキセタン、東亜合成社製)
・BDGAc: ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
・PGMAc: プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0052】
表1の評価結果からわかる通り、実施例1〜3の導電性銀ペーストは、比抵抗及び印刷適性のいずれも満足できる水準にあるのに対して、比較例1〜2の導電性銀ペーストは、これらのうち一方又は両方が不満足の水準にあることが明白である。
また、実施例1と実施例3との対比から、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体として、共重合体中にビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を3〜9重量%含有するものが、それを有さない場合に比べ、PETへの密着性により優れていることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の導電性銀ペーストは、各種の電気部品・電子部品の導電性パターン形成用の導電性銀ペーストとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粒子(A)と、25℃において固体である樹脂(B)と、引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)とを必須成分として含有し、かつ質量換算で、前記銀粒子(A)100部当たり前記有機環状エーテル化合物(C)15〜30部である導電性銀ペースト。
【請求項2】
25℃における粘度3〜30Pa・Sである請求項1記載の導電性銀ペースト。
【請求項3】
引火点50〜200℃の有機環状エーテル化合物(C)が、二官能オキセタン化合物である請求項1または2記載の導電性銀ペースト。
【請求項4】
25℃において固体である樹脂(B)が、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体及び/又は線状のポリエステル樹脂である請求項1〜3のいずれか一項記載の導電性銀ペースト。
【請求項5】
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が、共重合体中にビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を3〜9重量%含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体である請求項4記載の導電性銀ペースト。
【請求項6】
銀粒子(A)として、質量換算で、メジアン径(D50)1.0〜10.0μmの銀粒子100部当たり、メジアン径(D50)0.2〜0.9μmの銀粒子50〜200部を併用した請求項1〜5のいずれか一項記載の記載の導電性銀ペースト。
【請求項7】
重合開始剤を含まない請求項1〜6のいずれか一項記載の導電性銀ペースト。
【請求項8】
基材上に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の導電性銀ペーストでグラビア印刷又はグラビアオフセット印刷する導電性パターンの形成方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の導電性銀ペーストで形成された導電性パターン印刷物。

【公開番号】特開2012−38615(P2012−38615A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178539(P2010−178539)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】