説明

導電部材、端子、導電部材の製造方法、及び端子の製造方法

【課題】他の導体と接触する接触部位が狭くても、他の導体と良好な電気的な接続を確保できる導電部材、及びこの導電部材を用いた端子を提供し、さらに、この導電部材及び端子を容易に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】他の導体11と接触する接触部位を有し、他の導体11との接触によって、他の導体11と電気的に接続される導電部材10であって、銅系材料からなる基材12と、基材12の表面の少なくとも前記接触部位に配置される導電性皮膜13とを備え、導電性皮膜13が、ガリウムと基材12に含まれる銅との固溶により形成され、前記他の導体11の表面に形成されている絶縁性皮膜15を貫通可能な形状を有する銅ガリウム系結晶を含むことを特徴とする導電部材10を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接続端子等に用いられる導電部材、この導電部材を用いた端子、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気接続端子等に用いられる導電部材の基材には、導電率が高く、延性に富み、適度な強度を有する銅(Cu)が好ましく用いられている。しかしながら、銅を含む銅系基材は、放置しておくと、その表面に酸化膜や硫化膜等の絶縁性皮膜が形成されてしまうため、他の導体との接触時における接触抵抗値が高くなり、電気回路の誤作動等を引き起こすことがあった。
【0003】
一方、このような絶縁性皮膜は、導電部材と他の導体との通電によって、破壊されることがあるが、例えば、電流値の低い発光ダイオード(LED)や信号用の回路では、通電による皮膜破壊がほとんど発生しない。このような場合、絶縁性皮膜が形成されると、接触抵抗値が高いままとなり、回路の動作が不安定となってしまう。
【0004】
そこで、導電部材としては、他の導体と接触する接触部位に、鋭利な凸部を形成させたものが用いられている。このような導電部材は、他の導体との接触時に前記凸部の先端が、他の導体の表面に形成された絶縁性皮膜に圧接する。このため、前記絶縁性皮膜に大きな荷重が加えられ、前記絶縁性皮膜が破壊される。従って、鋭利な凸部を形成させた導電部材は、絶縁性皮膜を破壊でき、新生面を露出させることによって、電気的な接続を確保しうる。
【0005】
このような導電部材としては、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1には、可動接点と固定接点とを備え、前記可動接点を移動させることによって、固定接点と接離可能なキースイッチであって、可動接点の、固定接点と接触する位置に、三角錐形状の突起物等を設けたものが記載されている。特許文献1に記載のキースイッチによれば、前記突起部が固定接点に形成された絶縁性皮膜を突き破ることが可能である旨が開示されている。
【0006】
また、同様の導電部材としては、例えば、特許文献2に記載されている。特許文献2には、ケース内に植設された固定接点と、前記ケース内に上下動可能に収納された作動体と、前記固定接点に対向し、前記作動体の上下動に伴い固定接点と接離する可動接点とからなり、前記可動接点又は前記固定接点の少なくとも一方の表面に、一部が重なる複数の凹部を設けた車両用のスイッチが記載されている。また、前記凹部は、表面に複数の突起部が設けられたポンチを、前記固定接点又は可動接点に複数回押圧することによって形成されることが記載されている。特許文献2に記載の車両用のスイッチによれば、一部が重なった複数の凹部によって、接点表面に先端が鋭利で不均一な高さの複数の凸部が形成されているため、接点表面に形成された絶縁性皮膜を突き破ることが可能であることが開示されている。
【特許文献1】特開平8−287762号公報
【特許文献2】特開2006−147552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電子機器の小型化等に伴って、導電部材と他の導体とが接触する接触部位の面積が狭くなっており、例えば、接触部位の直径が1mm以下となってきている。これに対して、特許文献1に記載のキースイッチや特許文献2に記載の車両用のスイッチにおける、固定接点と可動接点とが接触する領域は、比較的広い。
【0008】
上記のような狭い領域の接触部位に、プレス加工等の機械的な加工によって、特許文献1や特許文献2に記載されているような、絶縁性皮膜を貫通することが可能な凸部を形成させることは困難であった。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、他の導体と接触する接触部位が狭くても、他の導体と良好な電気的な接続を確保できる導電部材、及びこの導電部材を用いた端子を提供し、さらに、この導電部材及び端子を容易に製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る導電部材は、他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材であって、銅系材料からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも前記接触部位に配置される導電性皮膜とを備え、前記導電性皮膜が、ガリウムと前記基材に含まれる銅との固溶により形成され、前記他の導体の表面に形成されている絶縁性皮膜を貫通可能な形状を有する銅ガリウム系結晶を含むことを特徴とするものである。
【0011】
この構成によれば、前記他の導体の表面に形成されている絶縁性皮膜を貫通可能な形状を有する銅ガリウム系結晶を含む導電性皮膜を前記接触部位に配置させることによって、
前記接触部位が狭い導電部材の場合であっても、他の導体と良好な電気的な接続を確保できる。このことは、他の導体の表面に絶縁性皮膜が形成されていたとしても、導電性が高い銅ガリウム系結晶が前記絶縁性皮膜を貫通して、他の導体の本体部分と直接接触することによる。すなわち、他の導体と良好な電気的な接続を図るために前記接触部位に機械的な加工を施すことにより凸部を形成させる必要がないので、前記接触部位の面積にかかわらず、他の導体と良好な電気的な接続を可能にする導電性皮膜を容易に形成できる。
【0012】
また、前記銅ガリウム系結晶が、ガリウムを含む金属を溶融した金属融液を前記基材の表面に塗布することにより形成されたものであることが好ましい。この構成によれば、前記金属融液を前記基材の表面に塗布することにより、前記基材に含まれる銅と前記金属融液に含まれるガリウムとが固溶して、前記銅ガリウム系結晶が形成される。このため、他の導体と接触する接触部位が狭くても、他の導体と良好な電気的な接続を確保するのに好適な前記銅ガリウム系結晶を形成できる。さらに、接触部位の形状にかかわらず、前記銅ガリウム系結晶を形成できる。従って、他の導体と接触する接触部位が狭くても、接触部位が複雑な形状であっても、他の導体と良好な電気的な接続を確保できる。
【0013】
前記銅ガリウム系結晶が、50〜254℃に加熱した前記金属融液に含まれるガリウムと前記基材に含まれる銅との固溶により形成されたものであることが好ましい。この構成によれば、前記基材の損傷を抑制しながら、他の導体と良好な電気的な接続を確保するのに好適な前記銅ガリウム系結晶を充分に形成できる。従って、他の導体とより良好な電気的な接続を確保できる。
【0014】
前記金属融液が、スズ、インジウム、及び亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
【0015】
前記銅ガリウム系結晶が、CuGa及びCuGaの少なくとも一方からなることが、導電性が高い点から好ましい。
【0016】
前記銅ガリウム系結晶が、正方晶又は立方晶であることが好ましい。このような形状の結晶であると、前記他の導体の表面に形成されている絶縁性皮膜を貫通しやすい。
【0017】
前記銅ガリウム系結晶の平均粒径が、1〜5μmであることが好ましい。このような大きさの結晶であると、前記他の導体の表面に形成されている絶縁性皮膜を貫通して、他の導体の新生面と通電しやすい。
【0018】
また、本発明の他の一態様に係る端子は、相手方端子と接触する接触部位を有し、前記相手方端子と嵌合することによって、前記相手方端子と接触し、前記相手方端子と電気的に接続される端子であって、少なくとも前記接触部位を含む部分が、前記導電部材からなることを特徴とするものである。
【0019】
この構成によれば、相手方端子の表面に絶縁性皮膜が形成されていたとしても、端子の接触部位に形成された前記銅ガリウム系結晶に、相手方端子を接触させ、荷重をかけると、相手方端子の表面に形成されている絶縁性皮膜を貫通することができる。このため、端子を相手方端子に嵌合したときに端子と相手方端子とを圧接させるばね力によって、前記銅ガリウム系結晶が絶縁性皮膜を容易に貫通する。この銅ガリウム系結晶による貫通によって、相手方端子の表面に絶縁性皮膜が形成されていたとしても、端子の銅ガリウム系結晶と相手方端子の本体部分とが直接接触するので、良好な電気的な接続を確保できる。
【0020】
また、本発明の他の一態様に係る導電部材の製造方法は、他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材の製造方法であって、銅系材料からなる基材の少なくとも前記接触部位の表面にガリウムを含む金属を溶融した金属融液を塗布して当該ガリウムと前記基材に含まれる銅とを固溶させることにより、前記他の導体の表面に形成されている絶縁性皮膜を貫通可能な形状を有する銅ガリウム系結晶を含む導電性皮膜を形成する皮膜形成工程を備えることを特徴とするものである。
【0021】
この構成によれば、前記金属融液を前記基材の表面に塗布することにより、前記基材に含まれる銅と前記金属融液に含まれるガリウムとが固溶して、前記銅ガリウム系結晶を含む導電性皮膜が形成される。このため、他の導体と接触する接触部位が狭くても、また、接触部位の形状にかかわらず、他の導体と良好な電気的な接続を確保するのに好適な前記銅ガリウム系結晶を形成できる。従って、他の導体と接触する接触部位が狭くても、接触部位が複雑な形状であっても、他の導体と良好な電気的な接続を確保できる導電部材を容易に製造できる。
【0022】
また、50〜254℃に加熱した前記金属融液に含まれるガリウムと前記基材に含まれる銅とを固溶させることにより、前記銅ガリウム系結晶を形成させることが好ましい。この構成によれば、前記基材の損傷を抑制しながら、他の導体と良好な電気的な接続を確保するのに好適な前記銅ガリウム系結晶を充分に形成できる。従って、他の導体と良好な電気的な接続を確保できる導電部材をより容易に製造できる。
【0023】
また、前記皮膜形成工程は、前記金属融液を塗布した後に余剰の金属融液を除去する金属融液除去工程を備えることが好ましい。この構成によれば、余剰の金属融液を除去することによって、基材の表面に塗布する金属融液量を厳密に制御する必要がない。また、余剰の金属融液が、所定の箇所以外に垂れ落ちたり、流れること等により、所定の箇所以外に、金属融液が接触してしまうことを防止できる。
【0024】
また、本発明の他の一態様に係る端子の製造方法は、相手方端子と接触する接触部位を有し、前記相手方端子と嵌合することによって、前記相手方端子と接触し、前記相手方端子と電気的に接続される端子の製造方法であって、少なくとも前記接触部位を含む部分を、前記導電部材の製造方法により製造することを特徴とするものである。この構成によれば、相手方端子の表面に絶縁性皮膜が形成されていたとしても、良好な電気的な接続を確保できる端子を容易に製造できる。さらに、端子の接触部位が狭くても、端子の接触部位の形状が複雑であったとしても容易に製造できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、他の導体と接触する接触部位が狭くても、他の導体と良好な電気的な接続を確保できる導電部材、及びこの導電部材を用いた端子を提供し、さらに、この導電部材及び端子を容易に製造できる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施形態に係る導電部材について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0027】
本発明の実施形態に係る導電部材は、他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材であって、銅系材料からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも前記接触部位に配置される導電性皮膜とを備え、前記導電性皮膜が、ガリウムと前記基材に含まれる銅との固溶により形成され、前記他の導体の表面に形成されている絶縁性皮膜を貫通可能な形状を有する銅ガリウム系結晶を含むことを特徴とするものである。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る導電部材10の接触部位を拡大して示す概略断面図であって、導電部材10と電気的に接続させる他の導体11とともに図示している。また、図1(a)は、導体11と接触させる前の状態を示し、図1(b)は、導体11と接触させることによって、導電部材10と導体11と電気的に接続させた状態を示す。
【0029】
導電部材10は、銅系材料からなる基材12と、銅ガリウム系結晶を含有する導電性皮膜13とを備える。また、前記導電部材10と接触させて電気的に接続させる導体11としては、例えば、銅系材料からなる基材14が用いられる。
【0030】
前記基材12としては、銅を主成分として含む銅系材料からなっていればよく、例えば、銅単体からなっていてもよいし、銅合金からなっていてもよい。銅合金の場合、銅以外に含有する成分としては、例えば、鉄、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、ニッケル、クロム、コバルト、モリブテン、スズ、リン、及びアルミニウム等が挙げられる。また、銅合金としては、例えば、鉄、リン及びスズを含有する耐熱性の高い銅合金、スズ及びリンを含有するリン青銅、亜鉛を含有する黄銅等が挙げられる。また、前記基材14としては、前記基材12と同様の銅系材料からなっているものが挙げられる。
【0031】
前記導電性皮膜13は、銅とガリウムとを含む化合物からなり、銅ガリウム系結晶を含む。そして、前記導電性皮膜13は、前記基材12の表面全体に配置されていてもよいが、少なくとも導体11と接触する接触部位を含む部分に配置されている。
【0032】
一般的に、銅系材料からなる前記基材14は、放置しておくと、特に高温等の過酷な環境に放置しておくと、その表面に酸化膜や硫化膜等の絶縁性皮膜15が形成されてしまい、導電性を有する導電部材と単に接触させても、良好な電気的な接続が困難である。これに対して、本実施形態に係る導電部材10を用いると、図1(b)に示すように、導体11に圧接させることによって、前記銅ガリウム系結晶の凸部16が、導体11の表面に形成されている絶縁性皮膜15を貫通できる。この銅ガリウム系結晶からなる凸部16による貫通によって、導電性の高い銅ガリウム系結晶と、前記基材12とが直接接触するので、良好な電気的な接続を確保できる。
【0033】
また、銅ガリウム系結晶は、化学的に安定であるので、その表面に酸化膜等の絶縁性皮膜が形成されたとしても非常に薄い。よって、前記導体11と接触させることによって、絶縁性皮膜を容易に破壊することができるので、銅ガリウム系結晶表面に形成される絶縁性皮膜は、電気的な接続をほとんど阻害しない。
【0034】
従って、前記導電部材10は、機械的な加工により鋭利な凸部を形成させる必要がないので、前記導体11と接触する接触部位が狭くても、前記導体11と良好な電気的な接続を確保できる。
【0035】
前記銅ガリウム系結晶は、銅とガリウムとからなる結晶であることが好ましく、好適な具体例としては、例えば、CuGa及びCuGa等が挙げられる。よって、導電性皮膜13は、CuGa及びCuGaからなる結晶を含むことが好ましい。
【0036】
また、前記導電性皮膜13は、ガリウムを含む金属を溶融した金属融液を前記基材12の表面に塗布することにより形成されたものであることが好ましい。このように形成された導電性皮膜13は、前記基材12に含まれる銅と前記金属融液に含まれるガリウムとが固溶して形成される前記銅ガリウム系結晶が含有される。このため、導体11と接触する接触部位が狭くても、導体11と良好な電気的な接続を確保するのに好適な前記銅ガリウム系結晶を形成できる。さらに、接触部位の形状にかかわらず、前記銅ガリウム系結晶を形成できる。なお、ここで形成される導電性皮膜13は、X線回折法等により、銅とガリウムとを含み、CuGaが主成分であることが推定される。
【0037】
また、前記基材12の表面に塗布される金属融液の温度が高いほど、前記導電性皮膜13中に前記銅ガリウム系結晶が多く形成される。よって、前記金属融液は、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。前記金属融液の温度が低すぎると、銅とガリウムとが固溶して、銅とガリウムとを含む化合物を形成できるが、銅とガリウムとの固溶がゆるやかに進行しすぎて、前記銅ガリウム系結晶が形成されにくい傾向がある。また、金属融液の温度が高いと、銅とガリウムとの種々の化合物が形成され、特に254℃を超えると、CuGa,CuGa等が形成され、CuGaが安定して得られない。よって、254℃以下であることが好ましい。また、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。前記金属融液の温度が、CuGaを形成する温度であっても高すぎると、銅とガリウムとの固溶が急激に進行しすぎて、前記銅ガリウム系結晶が大きくなりすぎる傾向がある。前記銅ガリウム系結晶が大きくなりすぎると、隣り合って形成された前記銅ガリウム系結晶の間に存在する、銅と固溶しなかった金属融液を除去しにくくなる。金属融液を塗布する際に温度を維持するために基材を金属融液と同温に加熱することが好ましい。
【0038】
また、前記銅ガリウム系結晶が、正方晶又は立方晶であることが好ましい。このような形状の結晶であると、導電性皮膜13に凸部16が形成されやすく、前記導体11の表面に形成されている絶縁性皮膜15を貫通しやすい。
【0039】
また、前記銅ガリウム系結晶の平均粒径が、1〜5μmであることが好ましい。前記銅ガリウム系結晶が小さすぎると、導電性皮膜13に形成される凸部16が小さく、前記導体11の表面に形成されている絶縁性皮膜15を充分に貫通できない傾向がある。また、前記銅ガリウム系結晶が大きすぎると、隣り合って形成された前記銅ガリウム系結晶の間に存在する、銅と固溶しなかった金属融液を除去しにくくなる。
【0040】
次に、導電部材10の製造方法について説明する。
【0041】
まず、銅系基材の表面に形成されている酸化膜等の絶縁性皮膜を研磨や酸洗浄等で除去する。次に、この銅系基材を、プレス加工等によって、所定の形状に加工する。なお、この形状加工は、絶縁性皮膜の除去を行っていない銅系基材に施し、形状加工した後に、絶縁性皮膜の除去を行ってもよい。
【0042】
そして、得られた銅系基材の表面に、ガリウムを含む金属を溶融した金属融液を塗布する。そうすることによって、銅系基材の表面に、前記銅ガリウム系結晶を含有する導電性皮膜が形成される。また、前記形状加工を施す前に、前記銅ガリウム系結晶を含有する導電性皮膜を形成させ、その後、前記形状加工を施してもよい。
【0043】
前記金属融液は、ガリウムを含む金属を溶融したものであればよい。前記金属融液の金属としては、例えば、ガリウム単体であってもよいし、ガリウム合金であってもよい。なお、前記金属として、ガリウム単体を用いる場合、ガリウムの融点が29.7℃であるので、加熱して得られるガリウム融液にする必要がある。
【0044】
また、前記金属融液は、上記の理由により、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。また、254℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
【0045】
前記ガリウム合金としては、Ga及びInを含むGa−In系合金が好ましく、Snをさらに含む合金がより好ましい。ガリウム合金の具体例としては、例えば、Ga60〜80質量%、In10〜30質量%、Sn5〜20質量%からなる合金が好ましい。ガリウム合金のより具体的な例示としては、例えば、Ga62.5質量%、In21.5質量%、Sn16質量%からなる合金(融点10.7℃)、Ga62質量%、In25質量%、Sn13質量%からなる合金(融点10.6℃)、Ga62質量%、In23質量%、Sn13質量%、Zn2質量%からなる合金(融点9.8℃)等が挙げられ、これらの中でも、Ga62.5質量%、In21.5質量%、Sn16質量%からなる合金(融点10.7℃)がより好ましい。
【0046】
前記金属のガリウム以外に含有する好ましい成分としては、例えば、スズ(Sn)、インジウム(In)及び亜鉛(Zn)等が挙げられる。これらの金属は、銅と固溶して、前記銅ガリウム系結晶や銅系基材中に進入することがないので、これらの成分を含有していても、前記金属融液として、ガリウム融液を用いた場合と同様の導電性皮膜を形成できる。また、これらの金属が含有されると、前記金属の融点が低下するので、基材表面に金属融液を塗布する際や余剰の金属融液を除去する際に、金属融液が基材への接触等によって、金属融液の温度が部分的に低下しても、液体状態を保つことができるので好ましい。
【0047】
前記金属融液の塗布方法は、特に限定されず、どのような塗布方法で採用できる。例えば、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法、ローラー法、スクリーン印刷等の印刷法、ロールコーター法、カーテンフローコーター法、刷毛塗り法等が挙げられる。また、前記金属は、銅系基材の表面全面に塗布してもよいが、少なくとも接触部位に部分的に塗布すればよい。
【0048】
銅系基材と液体状態の金属との接触時間(処理時間)は、1分間〜1時間と広い範囲のいずれの処理時間であっても、形成される導電性皮膜に含まれる銅ガリウム系結晶の大きさや形状等がほとんど変わらないので、処理時間を厳密に制御する必要は特にないが、5〜15分間であることが好ましい。そうすることによって、前記導電性皮膜が確実に形成されており、さらに、製造効率が高い。
【0049】
また、前記皮膜形成工程は、液体状態の金属を塗布した後に余剰の金属を除去する金属除去工程を備えることが好ましい。金属除去工程としては、例えば、綿棒、紙ウエス及び不織布等で余剰の金属融液を拭き取る工程、酸洗等によって余剰の金属融液を除去する工程、高圧ガス又は液剤を吹き付ける工程等が挙げられる。
【0050】
以下、本発明に係る導電部材を用いた例示として、下記実施形態に係る端子について説明するが、本発明に係る導電部材は、端子に用いられる場合に限られず、他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材であればよい。例えば、常閉スイッチの接点部分等に適用可能である。ただし、高温や排気ガス等の雰囲気ガスにより、酸化や硫化が起こりやすい過酷な状態で使用される車両用の電気回路部品やコネクタ等の小電流の回路に、本発明に係る導電部材を用いると、安定した導通が得られ、好ましい。
【0051】
次に、本発明の実施形態に係る端子の一例について説明する。この端子は、前記導電部材を用いた端子であり、雄端子と雌端子とが嵌合可能な端子対であって、雄端子及び雌端子のいずれか一方が、前記導電部材を用いた端子であってもよいし、雄端子及び雌端子の両方が、前記導電部材を用いた端子であってもよい。
【0052】
図2は、本発明の実施形態に係る端子からなる端子対20を示す概略断面図である。前記端子対20は、雄端子21と雌端子31とから構成される。なお、図2は、前記端子対20の雄端子21と雌端子31とが嵌合した嵌合状態を示す。
【0053】
前記雄端子21は、挿入部22と、被覆電線の端末が接続される図略の電線接続部とを備える。雄端子21は、相手方端子である雌端子31に挿入(挿嵌)する部材である。挿入部22の形状は、雌端子31に挿入(挿嵌)可能であれば、特に限定されず、例えば、板状、棒状、円筒状等の種々の形状から適宜選択できる。
【0054】
前記雌端子31は、挿入部22が挿入(挿嵌)される端子嵌合部32と、雄端子21に接続されている被覆電線とは別の被覆電線の端末が接続される図略の電線接続部とを備える。
【0055】
端子嵌合部32は、雌型であり、筒状部33とばね片34とを備える。筒状部33は、雌端子31の相手方端子である雄端子21が挿嵌方向に沿って挿入(挿嵌)可能となるように、先端側が開口した角筒状に形成され、天井壁35(図2では上面)、底壁36(図2では下面)及び図略の側壁を備えている。
【0056】
ばね片34は、筒状部33の内側に、天井壁35に近接する方向(図2では斜め上方)に向かって傾斜しつつ、筒状部33の開口先端(底壁36の先端)から後方に向かって片持ち状に延設されている。そして、後方末端で下方にU字状に曲折させる曲折部34aを経て、底壁36に近接する方向(図2では斜め下方)に向かって傾斜しつつ、曲折部34aから前方に向かって延設され、さらに、底壁36の近傍で曲折して天井壁35に近接する方向に向かって傾斜した自由端となっている。さらに、ばね片34は、筒状部33の開口先端と曲折部34aとの間で、天井壁35に近接する方向に凸部34bが形成されている。このように構成されることで、雄端子21の挿入部22が、端子嵌合部32に挿嵌された際、この挿入部22とばね片34の凸部34bとが接触して、ばね片34は、凸部34bが下方に沈むように弾性変形する。このばね片34の弾性変形に基づく弾発力により、挿入部22がばね片34によって上方に押圧される。その結果、天井壁35とばね片34の凸部34bとで挿入部22が狭持され、電気的な接続がなされる。
【0057】
次に、雄端子21及び雌端子31の構成について説明する。ここでは、雄端子21及び雌端子31のいずれもが、前記導電部材を用いた端子である場合について説明するが、雄端子21及び雌端子31のいずれかが、前記導電部材を用いた端子であってもよい。
【0058】
雄端子21及び雌端子31は、銅系基材と、導電性皮膜とを備える。この導電性皮膜は、前記導電部材10の導電性皮膜13と同様である。また、雄端子21の場合、導電性皮膜は、雄端子21と雌端子31とが嵌合したときに、ばね片34の凸部34bと接触する位置及び天井壁35と接触する位置(接触部位)を含む部分に形成されている。また、雌端子31の場合、導電性皮膜は、雄端子21と雌端子31とが嵌合したときに、雄端子21の挿入部22と接触する位置(接触部位)を含む部分に形成されている。従って、雄端子21及び雌端子31は、少なくとも接触部位を含む部分に前述の導電性皮膜が形成されており、図2に示す端子対20は、雄端子21の導電性皮膜と雌端子31の導電性皮膜との接触によって、電気的な接続がなされ、通電可能としている。なお、導電性皮膜は、少なくとも接触部位を含む部分に形成されていればよく、雄端子21と雌端子31との表面全面を被覆していてもよい。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明について、実施例を挙げて説明する。
【0060】
[実施例A]
まず、前記銅ガリウム系結晶を形成させた導電部材の効果について検討した。
【0061】
(実施例)
実施例1では、図3に示すような電気接続構造40を製造し、後述の評価を行った。図3は、実施例に係る導電部材を用いた電気接続構造40の概略断面図を示す。図3に示す電気接続構造40は、導電部材41と導体42とから構成されている。導電部材41及び導体42は、以下のように製造した。
【0062】
まず、鉄0.1質量%、リン0.03質量%、スズ2質量%含有する銅合金からなる2枚の基材44,45を用意した。
【0063】
一方の基材44を、プレス加工により、直径1mmの半球状の凸部43を形成した。そして、このプレス加工した基材44を希塩酸で洗浄して、表面の酸化膜等の絶縁性皮膜を除去した。その後、約110℃に加熱したガリウム融液を塗布した。そして、表面に残存しているガリウム融液を、不織布で拭き取り、さらに、希塩酸で表面を洗浄して、基材表面上のガリウム融液を除去した。そうすることによって、銅系基材44の表面上に銅ガリウム系結晶を含有する導電性皮膜46が形成された導電部材41が得られた。
【0064】
次に、もう一方の基材45を、大気中で180℃4時間熱処理した。そうすることによって、厚み70〜80nmの酸化膜47が形成された導体42が得られた。
【0065】
そして、得られた導電部材41と導体42とを、図3に示すように対向させ、荷重を加えた。そうすることによって、電気接続構造40が得られた。なお、導体42と接触する導電部材41の凸部43の部位が、導電部材41の接触部位(接点)である。
【0066】
(比較例)
上記導電部材41の代わりに、ガリウム融液を塗布していない基材44を用いること以外、実施例と同様である。
【0067】
実施例に係る電気接続構造40は、0.2Nの荷重を加えて、接触抵抗値を測定すると、0.1Ω以下であった。これに対して、比較例に係る電気接続構造は、接触抵抗値を測定すると、5Nの荷重を加えても、1kΩ以上であり、導通しなかった。このことは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察することによっても説明できる。図4は、本実施例に係る導電部材を圧接した後の酸化膜のSEMによる10,000倍の拡大写真である。なお、写真下部の白線は1μmの長さを表す。図4には、導電部材表面に形成されている銅ガリウム系結晶が酸化膜を貫通することによって形成された凹部が確認できる。
【0068】
[実施例B]
次に、基材に塗布するガリウム融液の温度の影響について検討した。
【0069】
ガリウム融液の温度を代えたこと以外、上記実施例Aの実施例と同様である。
【0070】
図5は、導電部材の接触抵抗値に対するガリウム融液の温度による影響を示すグラフである。なお、接触抵抗値は、5Nの荷重を加えたときの接触抵抗値である。図5からわかるように、ガリウム融液の温度が50℃以上、接触抵抗値が低くなり、特に70℃以上であると、0.1mΩ以下となり、良好な電気的な接続が確保できる。
【0071】
このことは、種々の温度のガリウム融液を用いて製造した導電部材を、走査型電子顕微鏡(SEM)観察することによっても説明できる。図6は、導電部材のSEMによる5,000倍の拡大写真である。なお、写真下部の白線は5μmの長さを表し、図6(a)は、ガリウム融液の温度が30℃である場合を示し、図6(b)は、ガリウム融液の温度が50℃である場合を示し、図6(c)は、ガリウム融液の温度が100℃である場合を示し、図6(d)は、ガリウム融液の温度が150℃である場合を示す。
【0072】
図6からわかるように、ガリウム融液の温度が高くなるにしたがって、銅ガリウム系結晶が大きくなる。そして、50℃以上の場合には、銅ガリウム系結晶が明確に確認できる。
【0073】
[実施例C]
ガリウム融液の代わりに、Ga62.5質量%、In21.5質量%、Sn16質量%からなる合金を溶融して得られた金属融液を用いたこと以外、実施例Aの実施例と同様である。
【0074】
実施例Cの実施例に係る電気接続構造40は、5Nの荷重を加えて、接触抵抗値を測定すると、0.7mΩであった。また、金属融液の温度を28℃にして得られた電気接続構造40は、5Nの荷重を加えて、接触抵抗値を測定すると、1.4mΩであった。
【0075】
したがって、ガリウム合金からなる金属融液を用いても、本発明に係る導電部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施形態に係る導電部材10の接触部位を拡大して示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る端子からなる端子対20を示す概略断面図である。
【図3】実施例に係る導電部材を用いた電気接続構造40の概略断面図を示す。
【図4】導電部材を圧接した後の酸化膜表面のSEMによる10,000倍の 拡大写真である。
【図5】導電部材の接触抵抗値に対するガリウム融液の温度による影響を示すグラフである。
【図6】導電部材のSEMによる5,000倍の拡大写真である。
【符号の説明】
【0077】
10,41 導電部材
11,42 導体
12,14,44,45 基材
13,46 導電性皮膜
15 絶縁性皮膜
16 凸部
17 新生面
20 端子対
21 雄端子
22 挿入部
31 雌端子
32 端子嵌合部
33 筒状部
34 片
34a 曲折部
34b 凸部
35 天井壁
36 底壁
40 電気接続構造
43 凸部
47 酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材であって、
銅系材料からなる基材と、
前記基材の表面の少なくとも前記接触部位に配置される導電性皮膜とを備え、
前記導電性皮膜が、ガリウムと前記基材に含まれる銅との固溶により形成され、前記他の導体の表面に形成されている絶縁性皮膜を貫通可能な形状を有する銅ガリウム系結晶を含むことを特徴とする導電部材。
【請求項2】
前記銅ガリウム系結晶が、ガリウムを含む金属を溶融した金属融液を前記基材の表面に塗布することにより形成されたものである請求項1に記載の導電部材。
【請求項3】
前記銅ガリウム系結晶が、50〜254℃に加熱した前記金属融液に含まれるガリウムと前記基材に含まれる銅との固溶により形成されたものである請求項2に記載の導電部材。
【請求項4】
前記金属融液が、スズ、インジウム、及び亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含む請求項2又は請求項3に記載の導電部材。
【請求項5】
前記銅ガリウム系結晶が、CuGa及びCuGaの少なくとも一方からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電部材。
【請求項6】
前記銅ガリウム系結晶が、正方晶又は立方晶である請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電部材。
【請求項7】
前記銅ガリウム系結晶の平均粒径が、1〜5μmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電部材。
【請求項8】
相手方端子と接触する接触部位を有し、前記相手方端子と嵌合することによって、前記相手方端子と接触し、前記相手方端子と電気的に接続される端子であって、
少なくとも前記接触部位を含む部分が、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電部材からなることを特徴とする端子。
【請求項9】
他の導体と接触する接触部位を有し、前記他の導体との接触によって、前記他の導体と電気的に接続される導電部材の製造方法であって、
銅系材料からなる基材の少なくとも前記接触部位の表面にガリウムを含む金属を溶融した金属融液を塗布して当該ガリウムと前記基材に含まれる銅とを固溶させることにより、前記他の導体の表面に形成されている絶縁性皮膜を貫通可能な形状を有する銅ガリウム系結晶を含む導電性皮膜を形成する皮膜形成工程を備えることを特徴とする導電部材の製造方法。
【請求項10】
50〜254℃に加熱した前記金属融液に含まれるガリウムと前記基材に含まれる銅とを固溶させることにより、前記銅ガリウム系結晶を形成させる請求項9に記載の導電部材の製造方法。
【請求項11】
前記皮膜形成工程は、前記金属融液を塗布した後に余剰の金属融液を除去する金属融液除去工程を備える請求項9又は請求項10に記載の導電部材の製造方法。
【請求項12】
相手方端子と接触する接触部位を有し、前記相手方端子と嵌合することによって、前記相手方端子と接触し、前記相手方端子と電気的に接続される端子の製造方法であって、
少なくとも前記接触部位を含む部分を、請求項9〜11のいずれか1項に記載の導電部材の製造方法により製造することを特徴とする端子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−299113(P2009−299113A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153366(P2008−153366)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】