説明

小型冷却温熱装置および冷却温熱方法

【課題】 冷媒の漏洩がなく摩擦損失が少ないため、わずかな電力で長時間駆動することができ、高精度な部品が不要で簡易な構造であるから低コストで製造することができ、小型で軽量のため手軽に携帯して衣服内の温度を調節したり、医療用機器として人体の患部を冷やしたり温めることも可能な小型冷却温熱装置および冷却温熱方法を提供する。
【解決手段】 管路内に冷媒を循環させて冷却または温熱する小型冷却温熱装置1であって、圧縮手段2は、吸熱用熱交換手段5の出口から放熱用熱交換手段3の入口に至る管路を構成する可撓性チューブ21と、この可撓性チューブ21を外部から加圧して閉塞部6を形成するとともに、この閉塞部6を圧縮手段2の出口方向へ移動させることにより膨張手段4との間に存在する冷媒を圧縮する閉塞部移動手段7とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型冷却温熱装置および冷却温熱方法に係り、特に、衣服に装着して衣服内の温度調節をしたり、携帯して人体の患部を冷やしたり温めるための医療用携帯式冷却温熱装置として使用するのに好適な小型冷却温熱装置および冷却温熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、小型の冷却機としては、ペルチェ効果を利用した半導体利用のサーモモジュールが知られている(特許文献1)。このサーモモジュールは、N型とP型の半導体を直列に接続し、N型半導体にプラス、P型半導体にマイナスの電源を繋いで直流電流を流すと、両者の接続部が冷却され、両端が加熱されるというペルチェ効果を利用したものである。
【0003】
また、エアコンや冷蔵庫等に使用されている従来の冷却機として、シリンダー内でピストンを往復運動させて冷媒ガスを圧縮する往復動圧縮機や、2組の渦巻状の部品を対向させ、その一方を回転させることで冷媒ガスを圧縮するスクロール圧縮機が知られている。
【0004】
さらに、宇宙空間で使用する宇宙服においては、人体が発生する熱を冷却するため、水冷チューブを縫いこんだ水冷下着が使用されている。この水冷下着は、冷却水の一部を毛細管を経由して真空の宇宙空間に導いて蒸発させ、このとき奪われる蒸発潜熱によって水を凍らせ、生成された氷がさらに宇宙空間に昇華する際の昇華熱を利用して冷却水を冷却するようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−270987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明を含め、ペルチェ効果を利用する方法では、COP(Coefficient of Performance:冷却能力/所用動力)が0.3程度と効率が低いので、所望の冷却能力を得るために必要な電力が大きくなる。このため、固定電源のような大電力の電源が必要であり、電池によって駆動し得るような小型で携帯可能な冷却機への適用は困難である。
【0007】
また、エアコンや冷蔵庫等に使用されている従来の冷却機をそのまま小型化しようとすると、(ピストン摺動部のシール長さ)/(シリンダー内の冷媒体積)の比が大きくなるため、ピストン摺動部のシールの隙間寸法を小さくしない限り、冷媒の単位体積あたりの漏洩割合が増加してしまう。その一方で、摺動部の隙間寸法を狭めようとすると、工作精度を高める必要があるため、製作コストが上昇してしまう。また、前記隙間寸法の削減と上記の(ピストン摺動部のシール長さ)/(シリンダー内の冷媒体積)の比の増加は、ピストンの摩擦損失の増加による効率の低下につながるとともに、磨耗によって冷却機の寿命をも低下させてしまうという問題もある。
【0008】
さらに、上記の宇宙服における水冷下着は、軽量で圧縮機なども不要であり、水を補充するだけで作動するが、周囲雰囲気が真空でなければ作動しないため、地上で使用することを前提とする冷却機には適用することが事実上不可能である。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、冷媒の漏洩がなく摩擦損失が少ないため、わずかな電力で長時間駆動することができ、高精度な部品が不要で簡易な構造であるから低コストで製造することができ、小型で軽量のため手軽に携帯して衣服内の温度を調節したり、医療用機器として人体の患部を冷やしたり温めることも可能な小型冷却温熱装置および冷却温熱方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る小型冷却温熱装置の特徴は、冷媒を圧縮する圧縮手段と、この圧縮手段により圧縮された冷媒を放熱させる放熱用熱交換手段と、この放熱用熱交換手段により放熱された後の冷媒を減圧させる膨張手段と、この膨張手段により減圧された後の冷媒を吸熱させる吸熱用熱交換手段とをそれぞれ管路で結合し、この管路内に前記冷媒を循環させて冷却または温熱する小型冷却温熱装置であって、前記圧縮手段は、前記吸熱用熱交換手段の出口から前記放熱用熱交換手段の入口に至る管路を構成する可撓性チューブと、この可撓性チューブを外部から加圧して閉塞部を形成するとともに、この閉塞部を前記圧縮手段の出口方向へ移動させることにより前記膨張手段との間に存在する冷媒を圧縮する閉塞部移動手段とを有する点にある。
【0011】
また、本発明において、前記閉塞部移動手段は、前記可撓性チューブを沿わせる略円弧状のガイド面を備えたチューブガイドと、このチューブガイドのガイド面との間に前記可撓性チューブを狭持して閉塞部を形成する複数の押圧ローラと、これらの押圧ローラを前記チューブガイドに沿って自転させながら公転させるローラ駆動部とを有する構成としてもよい。
【0012】
さらに、本発明において、冷媒を循環させる管路全体を可撓性チューブにより構成し、膨張手段として前記可撓性チューブを外部から押圧して冷媒の通路を狭めるクリップ部材により構成し、前記放熱用熱交換手段として前記圧縮手段の出口から前記膨張手段の入口までの前記可撓性チューブにより構成し、前記吸熱用熱交換手段として前記膨張手段の出口から前記圧縮手段の入口までの前記可撓性チューブにより構成してもよく、この場合、各構成部を簡単かつ安価に構成し、可撓性チューブが劣化しても交換消耗品として簡単に交換し得る。
【0013】
また、本発明において、前記可撓性チューブは複数の層から構成されており、最内層は柔軟で押圧時の密着性が高い素材により形成されているとともに、外層は前記最内層よりも伸縮性が小さく折り曲げ抵抗が小さい素材により形成されていることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明において、前記圧縮手段と前記放熱用熱交換手段との間に、前記閉塞部との間に存在する冷媒を予備的に圧縮するとともに、前記放熱用熱交換手段側から前記圧縮手段側に圧縮された冷媒が逆流するのを防止するための逆止弁を備えていることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る冷却温熱方法の特徴は、管路内に封入した冷媒を圧縮する圧縮ステップと、この圧縮ステップにおいて圧縮された冷媒から放熱させる放熱ステップと、この放熱ステップにおいて放熱された後の冷媒を減圧させる膨張ステップと、この膨張ステップにおいて減圧された後の冷媒に吸熱させる吸熱ステップとを順次経ることにより冷却または温熱する冷却温熱方法であって、前記圧縮ステップでは、前記吸熱ステップによる処理終了出口から前記放熱ステップによる処理開始入口に至る管路を可撓性チューブにより構成し、この可撓性チューブにおける前記圧縮ステップの開始位置を外部から加圧して閉塞部を形成するとともに、この閉塞部を冷媒の循環方向へ移動させることにより前記膨張ステップの開始位置との間に存在する冷媒を圧縮する点にある。
【0016】
また、本発明において、前記圧縮ステップでは、前記可撓性チューブをチューブガイドと押圧ローラとの間に狭持し、前記押圧ローラを前記チューブガイド側へ押し付けることによって前記閉塞部を形成するとともに、前記押圧ローラを自転させながら冷媒の循環方向へ回転させることにより前記冷媒を圧縮することが好ましい。
【0017】
さらに、本発明において、冷媒を循環させる管路全体を可撓性チューブにより構成し、前記放熱ステップでは前記圧縮ステップの終了位置から前記膨張ステップの開始位置までの間に存在する前記可撓性チューブを介して冷媒から放熱し、前記膨張ステップでは前記可撓性チューブを外部から押圧して形成した微小隙間に冷媒を通過させることによって冷媒を減圧し、前記吸熱ステップでは前記膨張ステップの終了位置から前記圧縮ステップの開始位置までに存在する前記可撓性チューブを介して吸熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、冷媒の漏洩がなく摩擦損失が少ないため、わずかな電力で長時間駆動することができ、高精度な部品が不要で簡易な構造であるから低コストで製造することができ、小型で軽量のため手軽に携帯して衣服内の温度を調節したり、医療用機器として人体の患部を冷やしたり温めることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る小型冷却温熱装置1および冷却温熱方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0020】
図1は本実施形態における小型冷却温熱装置1の全体構成を示す模式図であり、図2は、本実施形態の冷却温熱原理を示す図である。本実施形態の小型冷却温熱装置1は、主として、冷媒を圧縮する圧縮機2と、この圧縮機2で圧縮された冷媒を放熱させる放熱用熱交換器3と、この放熱用熱交換器3で放熱後の冷媒を減圧させる膨張弁4と、この膨張弁4で減圧後の冷媒を吸熱させる吸熱用熱交換器5とを有しており、これら各構成部を管路で結合し、この管路内に冷媒を循環させるようになっている。
【0021】
そして、本実施形態の小型冷却温熱装置1における冷却温熱原理は、冷媒を低温低圧下で周囲の熱により蒸発させ、周囲を冷却する蒸気圧縮式を採用している。具体的には、図2の(1)において、冷媒は低圧の飽和蒸気状態であり、圧縮機2で圧縮されることにより(圧縮ステップ)、(2)において高温高圧気体となる。これを放熱用熱交換器3によって周囲に熱Q1を放出することで(放熱ステップ)、冷媒は冷却されて凝縮し、(3)において高圧の飽和液となる。この液状の冷媒は膨張弁4で絞り膨張され(膨張ステップ)、(4)において低温低圧の気液混合状態となり、吸熱用熱交換器5で周囲から熱Q2を奪った後(吸熱ステップ)、(1)の状態に戻る。
【0022】
上記した冷凍サイクルでは、吸熱用熱交換器5で周囲を冷却し、また放熱用熱交換器3で周囲を暖めるようになっている。そして、本装置を冷却装置として使用する場合には、吸熱用熱交換器5の冷却作用を利用し、放熱用熱交換器3からの熱は、周囲空気中に放散させる。一方、本装置を温熱装置として使用する場合には、放熱用熱交換器3からの放熱を温熱に利用し、吸熱用熱交換器5では周囲空気中から吸熱するものとする。
【0023】
なお、放熱用熱交換器3および吸熱用熱交換器5における管路内の冷媒とその外部環境との間の伝熱は、この2つの熱交換器3,5を単に外部環境内に置くことによって生じる自然対流伝熱によって行ってもよい。また、それぞれの熱交換器3,5に小型の電動ファンを設置した場合には、外気を吹き付けることで効率の良い強制対流伝熱を利用することができるので、それぞれの熱交換器部3,5の大きさを小さくすることが可能となる。
【0024】
つぎに、図1を参照しつつ本実施形態を構成する具体的な各構成部について説明する。
圧縮機2は、吸熱用熱交換器5の出口から放熱用熱交換器3の入口に至る管路に設けられており、当該管路を構成する可撓性チューブ21と、この可撓性チューブ21を沿わせる略円弧状のガイド面22を備えたチューブガイド23と、このチューブガイド23のガイド面22との間で可撓性チューブ21を挟んで押圧しながら回転する4つの押圧ローラ24と、これらの押圧ローラ24を支持アーム25に軸支してチューブガイド23に沿って回転移動させるローラ駆動部26とを有している。
【0025】
圧縮機2では、押圧ローラ24を使って可撓性チューブ21をチューブガイド23のガイド面22に押しつけることにより、可撓性チューブ21内に閉塞部6を形成する。そして、ローラ駆動部26により押圧ローラ24を公転させることで、閉塞部6を圧縮機2の出口方向へ移動させる閉塞部移動手段7として機能するようになっている。押圧ローラ24が自転しながらガイド面22に沿って移動することにより、可撓性チューブ21がしごかれ、閉塞部6より下流の冷媒ガスが圧縮機2の出口方向へ押し出されるように移動する。これにより、前記閉塞部6と膨張弁4との間における冷媒が圧縮される。このように冷媒ガスを移動、圧縮するために、チューブガイド23のガイド面22と押圧ローラ24との間隔は可撓性チューブ21の壁厚の2倍以下に設定されており、これにより可撓性チューブ21内に閉塞部6が形成される。
【0026】
なお、各押圧ローラ24はローラ駆動部26に支持アーム25によって軸支されているが、円盤ディスクをローラ駆動部26に取り付け、その円盤ディスクの円周縁に回転自在に軸支するような構成にしてもよい。また、押圧ローラ24の個数についても4つに限らず、圧縮効率を考慮して増減させてよい。なお、押圧ローラ24の個数を増加させると、系の冷媒の圧力変動が減少し圧縮効率が増加するが、ローラ個数の増加により摩擦抵抗も増加するので、通常2個から5個程度の押圧ローラ24を使用する。
【0027】
放熱用熱交換器3は、冷媒から周囲へ放熱させる凝縮器として機能するものである。また、吸熱用熱交換器5は、周囲から冷媒への吸熱を行う蒸発器として機能するものである。いずれの熱交換器も通常のものを使用してよいが、本実施形態では、各構成部を連結する管路を可撓性チューブ21によって構成し、この可撓性チューブ21をそのまま放熱用熱交換器3および吸熱用熱交換器5として使用している。つまり、1つの長いループ状の可撓性チューブ21を使用し、その一部を圧縮機2として使用するとともに、圧縮機2の出口から膨張弁4の入口までの部分を放熱用熱交換器3として使用し、膨張弁4の出口から圧縮機2の入口までの部分を吸熱用熱交換器5として使用する。
【0028】
また、膨張弁4は通常、絞り弁が使用されるところ、ループ状の可撓性チューブ21を使用する場合、放熱用熱交換器3と吸熱用熱交換器5との間の可撓性チューブ21を外部から適度に圧迫し、前記可撓性チューブ21内に形成される微小隙間を絞り弁として利用する。この場合、可撓性チューブ21を圧迫する部材としては、図1に示すような可撓性チューブ21の壁厚の2倍に絞り弁隙間を加えた幅の隙間を有するクリップ状の部材によって前記可撓性チューブ21を挟めばよい。これにより、閉塞部6と膨張弁4との間に存在する冷媒が密封された状態に近くなるため、閉塞部6を圧縮機2の出口方向に移動させることで冷媒が圧縮される。もちろん従来から使用されている絞り弁やキャピラリーチューブ等も使用可能である。
【0029】
また、圧縮機2と放熱用熱交換器3との間には、逆止弁8が取り付けられている。この逆止弁8は、閉塞部6との間に存在する冷媒を予備的に圧縮する機能と、放熱用熱交換器3から圧縮機2に高圧の冷媒が逆流するのを防止する機能を兼ね備えている。具体的には、圧縮機2から放熱用熱交換器3への方向に冷媒を押し出す場合、所定の圧力(ここでは逆止弁8の反対側の圧力)以上の冷媒のみを通過させるとともに、放熱用熱交換器3から圧縮機2への方向には冷媒を通過させないようになっている。これにより、逆止弁8は、閉塞部6との間で冷媒を所定の圧力まで予備的に圧縮させるとともに、その高圧となった冷媒を逆流させることなく放熱用熱交換器3へ送ることが可能となる。もちろん、この逆止弁8がなくても冷却温熱装置として機能するが、ローラ駆動部26によって押圧ローラ24が回転移動するのに伴って1個の押圧ローラ24がチューブガイド23の端部から外れたとき、前記逆止弁8がないと、放熱用熱交換器3から高圧の冷媒ガスが逆流し、前記放熱用熱交換器3内の圧力が一瞬低下してしまう。このような押圧ローラ24の回転に伴う放熱用熱交換器3内の圧力変動を軽減することができる。
【0030】
一方、可撓性チューブ21の構造は、複数の層状に構成されている。そして、可撓性チューブ21の最内層は柔軟で押圧ローラ24による押圧時の密着性が高い素材により形成されている。また、外層は最内層よりも伸縮性が小さく折り曲げ抵抗が小さい素材により形成されている。たとえば、最内層の素材としては、シリコンゴムの他、天然ゴム、ウレタンゴム等、各種の天然・合成ゴム素材が使用可能であり、外層の素材としては、ガラス繊維編組布の他、ポリエステルや、ポリプロピレン系の熱可塑プラスチックエラストマーであるノープレンが使用可能である。たとえば、内径8mmのシリコンゴムチューブ内に内圧3.77ataの冷媒ガスが封入されていると、その外側に被覆したフィルムには長さ方向10mmあたり約10Nの引っ張り力がかかる。25μmの厚さのポリエステルフィルムは、弾性限界内で約20N/(10mm幅)の引張力に耐えられるので、3.77ataの内圧には十分耐えられる。このような2層構造のチューブは、2種類の素材を同時に押出成形する共押出成形技術によって成形可能である。
【0031】
また、押圧ローラ24によって押圧された際に変形可能な柔軟性があり、また高圧側の冷媒ガスの内圧に耐えられる強度を有する素材で形成された単層のチューブ(例えばノープレンチューブ)は、通常、上記の多層構造のチューブに比べて硬い、つまり圧迫時の変形抵抗が大きいので、ローラの駆動動力は増加するが、機能的には本実施形態の圧縮機2に使用可能である。
【0032】
本実施形態における可撓性チューブ21としては、チューブ内径8mm、シリコンゴム肉厚0.8mmのシリコンゴムガラス編組チューブ(日星電気製:HST−10)を使用した。このチューブは、内径8mm、肉厚0.8mmのシリコンゴムチューブの外周に補強のためのガラス繊維を編組被覆したものである。シリコンチューブは柔軟性、機械的変形に対する耐久性に優れ、圧縮機2内において押圧ローラ24により外部から押圧されたときの内壁同士の密着性が良好である。このため、閉塞部6の前後の可撓性チューブ21内では、放熱用熱交換器3側の高圧冷媒ガスと吸熱用熱交換器5側の低圧冷媒ガスの差圧に抗して、両側の冷媒ガスを小さい押圧力で遮断することができる。このように押圧ローラ24の押圧力が小さくできれば、押圧ローラ24の回転機構における摩擦動力が小さくなるから、ひいては圧縮機2の駆動動力が低減できる。ちなみに、シリコンゴムチューブと、これより柔軟性に欠けるタイゴンチューブ(米国ノートン社製)とを比較すると、同じ2.3気圧の差圧が漏れないように閉塞するためのローラ押圧力が、それぞれ30Nおよび50Nとなり、また両者を用いた圧縮機2の駆動トルクは、それぞれ0.51Nmおよび0.68Nmとなり、大きな差が生じる。
【0033】
このように可撓性チューブ21の特性としては、ローラ駆動動力を低減するために、小さい押圧力下で内面の密着性がよく、柔軟であり、押圧時の変形抵抗が小さいことが必要である。このため、同じシリコンゴムチューブでも肉厚が0.8mmと薄いものを使用している。しかし、このような薄肉のシリコンゴムチューブでは、高圧冷媒ガスの内圧(絶対圧3.77気圧)に耐えず、膨張してしまう。これを防止するため、本実施形態では、可撓性チューブ21の外層を内層の素材より伸縮性の少ない薄い素材で被覆した2層構造のチューブを使用した。つまり、上述したようにシリコンゴムチューブの外層にガラス繊維で編んだ薄い布を被覆した。この編組布は薄いため、押圧ローラ24による可撓性チューブ21の押圧時には柔軟につぶれるが、内圧によってシリコンゴムチューブが膨張しようとすると、編組布の伸縮性が内層のシリコンチューブよりはるかに小さいので、この膨張を抑制することができる。
【0034】
なお、可撓性チューブ21は、外部からの圧力によって容易につぶれるので、内部の冷媒ガスが大気圧以下になるとつぶれてしまう。したがって本実施形態における放熱用熱交換器3の温度は、使用している冷媒の大気圧に対応した飽和温度以下に下げることはできない。たとえばノルマルブタンを冷媒とする場合、その温度は−0.3℃である。
【0035】
一方、冷媒は、ループ状可撓性チューブ21あるいは逆止弁8付きループ状可撓性チューブ21にあらかじめ封入して供給することが好ましい。可撓性チューブ21への冷媒の封入は、例えば、可撓性チューブ21のうち、圧縮機2に挟み込まれる部分以外の部分にT字状の分岐を設け、ここから内部の空気を一旦、真空に吸引し、その後所定の圧力まで冷媒ガスを封入し、ついでこのT字状の分岐の根元を熱で溶融して封じ切ることにより実現できる。もっともこのような方法に限られるものではない。
【0036】
また、冷媒の種類について検討すると、多数の候補が挙げられるが、本実施形態の小型冷却温熱装置1は多くの人によって屋外で使用されることを想定しているため、冷媒漏れによる環境問題は無視できない。このため非フロン系が前提となる。また、冷媒の使用環境は平均的な東京の夏季の日中を想定して35℃とする。このような前提の下で冷媒に求められる条件には、
1.価格が安価で容易に入手できること
2.毒性がないこと
3.35℃環境下において、冷媒圧縮時に大気圧よりも数気圧高い程度の圧力で凝縮し、また、そのときの冷媒温度が外気温度より少し高い程度であること
4.35℃環境下において、冷媒蒸発時に大気圧よりも少し高い程度の圧力で蒸発し、また、そのときの冷媒温度が外気温度よりも低いこと
の4点が必要である。この条件に適する自然冷媒はノルマルブタン(n−butane:C10 R600)である。このノルマルブタンは、家庭用卓上カセットコンロのカートリッジ燃料として使用され、容易に入手できる。また、本実施形態によって使用する場合、使用環境を気温35℃、生成したい冷媒の温度(冷媒の蒸発温度)を10℃、排熱時の温度(冷媒の凝集温度)を40℃と想定すると、ノルマルブタンの40℃における飽和蒸気圧は379.6kPa、10℃における飽和蒸気圧は149.0kPaであり、高圧側も低圧側も適度な圧力であることがわかる。
【0037】
また、ノルマルブタンを使用可能であることから、使用者が自ら可撓性チューブ21に充填することも可能となる。例えば、図3に示すように、可撓性チューブ21に締切弁9、排気弁10、圧力制御弁11の3つの弁を取り付けてノルマルブタンカセット12により充填できる。具体的な操作は、まず締切弁9を閉め、排気弁10を大気圧雰囲気に開放し、ノルマルブタンカセット12(カセット式卓上コンロのカートリッジで可)のノズルを圧力制御弁11の入り口に差し込んで押すと、冷媒ガスが可撓性チューブ21内に流入する。ここで前記圧力制御弁11は、カセットからのノルマルブタンの圧力が、可撓性チューブ21内の圧力より一定差圧以上高い場合のみガスを通し、この差圧が一定以下になると閉じる弁である。数秒で可撓性チューブ21内の残存気体が排気弁10から排出され、ノルマルブタンが可撓性チューブ21内に充満するので、排気弁10を閉じる。その後、ノルマルブタンカセット12のノズルを圧力制御弁11から引き抜き、締切弁9を開けば、ノルマルブタンの充填が完了する。このような機構によって使用者が自分で容易に冷媒を充填あるいは再充填することが可能である。なお、図3の冷媒の封入機構において、弁以外の部分を可撓性チューブ21で構成すれば、3つの弁のうち締切弁9と排気弁10は該当部分の可撓性チューブ21を外部から押圧して閉鎖することにより実現可能である。また、いったん冷媒を封入した後は、圧力制御弁11の弁座部分からの冷媒漏洩防止のため、圧力制御弁11と可撓性チューブ21の間を閉鎖しておくことが望ましい。
【実施例】
【0038】
つぎに、前述したノルマルブタンを使用して本実施形態の小型冷却温熱装置1を試作し、特性を測定した結果について説明する。家庭用卓上ガスコンロ用のカートリッジに入っているノルマルブタンを使用した場合、吸熱用熱交換器温度(蒸発器温度)を10℃、放熱用熱交換器温度(凝縮器温度)を40℃とすると、放熱用熱交換器3内の圧力は絶対圧力で1.43気圧、吸熱用熱交換器5内の圧力は3.77気圧となり、冷却能力13.6Wの試作機による実験ではCOPが1.86程度となり、従来のサーモモジュールに比べると大幅に高い効率を達成できた。
【0039】
以上のような本実施形態によれば、圧縮機2として、可撓性チューブ21に形成した閉塞部6を移動させることにより内部の冷媒を圧縮する構成としたため、冷媒の漏洩がなく摩擦損失が少なくなり、わずかな電力で長時間駆動することができる。また、高精度な部品が不要で簡易な構造であるから低コストで製造することができる。したがって、小型で軽量に構成できることから手軽に携帯して衣服内の温度を調節したり、医療用機器として人体の患部を冷やしたり温めることができる等の効果を奏し得る。
【0040】
なお、本発明に係る小型冷却温熱装置1および冷却温熱方法は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0041】
例えば、上述した本実施形態では、チューブガイド23と、押圧ローラ24と、ローラ駆動部26とにより閉塞部移動手段7を構成しているがこれに限られるものではなく、可撓性チューブ21に閉塞部6を形成し、その閉塞部6を圧縮機2の出口方向へと移動させられるものであればよい。また、冷媒を圧縮させる方法として、例えば、閉塞部6を形成する2つの押圧ローラ24に速度差を設けて、後方の押圧ローラ24から前方の押圧ローラ24へ圧力を付与する状態に保持することにより、両押圧ローラ24間で冷媒を圧縮する方法を選択してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る小型冷却温熱装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本実施形態の冷却温熱原理を示す模式図である。
【図3】本実施形態における冷媒の封入機構の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0043】
1 小型冷却温熱装置
2 圧縮機
3 放熱用熱交換器
4 膨張弁
5 吸熱用熱交換器
6 閉塞部
7 閉塞部移動手段
8 逆止弁
9 締切弁
10 排気弁
11 圧力制御弁
12 ノルマルブタンカセット
21 可撓性チューブ
22 ガイド面
23 チューブガイド
24 押圧ローラ
25 支持アーム
26 ローラ駆動部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮手段と、この圧縮手段により圧縮された冷媒を放熱させる放熱用熱交換手段と、この放熱用熱交換手段により放熱された後の冷媒を減圧させる膨張手段と、この膨張手段により減圧された後の冷媒を吸熱させる吸熱用熱交換手段とをそれぞれ管路で結合し、この管路内に前記冷媒を循環させて冷却または温熱する小型冷却温熱装置であって、
前記圧縮手段は、
前記吸熱用熱交換手段の出口から前記放熱用熱交換手段の入口に至る管路を構成する可撓性チューブと、
この可撓性チューブを外部から加圧して閉塞部を形成するとともに、この閉塞部を前記圧縮手段の出口方向へ移動させることにより前記膨張手段との間に存在する冷媒を圧縮する閉塞部移動手段と
を有することを特徴とする小型冷却温熱装置。
【請求項2】
請求項1において、前記閉塞部移動手段は、前記可撓性チューブを沿わせる略円弧状のガイド面を備えたチューブガイドと、このチューブガイドのガイド面との間に前記可撓性チューブを狭持して閉塞部を形成する複数の押圧ローラと、これらの押圧ローラを前記チューブガイドに沿って自転させながら公転させるローラ駆動部とを有していることを特徴とする小型冷却温熱装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、冷媒を循環させる管路全体を可撓性チューブにより構成し、前記膨張手段として前記可撓性チューブを外部から押圧して冷媒の通路を狭めるクリップ部材により構成し、前記放熱用熱交換手段として前記圧縮手段の出口から前記膨張手段の入口までの前記可撓性チューブにより構成し、前記吸熱用熱交換手段として前記膨張手段の出口から前記圧縮手段の入口までの前記可撓性チューブにより構成したことを特徴とする小型冷却温熱装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかにおいて、前記可撓性チューブは複数の層から構成されており、最内層は柔軟で押圧時の密着性が高い素材により形成されているとともに、外層は前記最内層よりも伸縮性が小さく折り曲げ抵抗が小さい素材により形成されていることを特徴とする小型冷却温熱装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかにおいて、前記圧縮手段と前記放熱用熱交換手段との間に、前記閉塞部との間に存在する冷媒を予備的に圧縮するとともに、前記放熱用熱交換手段側から前記圧縮手段側に圧縮された冷媒が逆流するのを防止するための逆止弁を備えていることを特徴とする小型冷却温熱装置。
【請求項6】
管路内に封入した冷媒を圧縮する圧縮ステップと、この圧縮ステップにおいて圧縮された冷媒から放熱させる放熱ステップと、この放熱ステップにおいて放熱された後の冷媒を減圧させる膨張ステップと、この膨張ステップにおいて減圧された後の冷媒に吸熱させる吸熱ステップとを順次経ることにより冷却または温熱する冷却温熱方法であって、
前記圧縮ステップでは、前記吸熱ステップによる処理終了出口から前記放熱ステップによる処理開始入口に至る管路を可撓性チューブにより構成し、この可撓性チューブにおける前記圧縮ステップの開始位置を外部から加圧して閉塞部を形成するとともに、この閉塞部を冷媒の循環方向へ移動させることにより前記膨張ステップの開始位置との間に存在する冷媒を圧縮することを特徴とする冷却温熱方法。
【請求項7】
請求項6において、前記圧縮ステップでは、前記可撓性チューブをチューブガイドと押圧ローラとの間に狭持し、前記押圧ローラを前記チューブガイド側へ押し付けることによって前記閉塞部を形成するとともに、前記押圧ローラを自転させながら冷媒の循環方向へ回転させることにより前記冷媒を圧縮することを特徴とする冷却温熱方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、冷媒を循環させる管路全体を可撓性チューブにより構成し、前記放熱ステップでは前記圧縮ステップの終了位置から前記膨張ステップの開始位置までの間に存在する前記可撓性チューブを介して冷媒から放熱し、前記膨張ステップでは前記可撓性チューブを外部から押圧して形成した微小隙間に冷媒を通過させることによって冷媒を減圧し、前記吸熱ステップでは前記膨張ステップの終了位置から前記圧縮ステップの開始位置までに存在する前記可撓性チューブを介して吸熱することを特徴とする冷却温熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−226569(P2006−226569A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38839(P2005−38839)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】