説明

小胞体還元酵素によるミスフォールドタンパク質の分解促進技術

【課題】本発明は、ジスルフィド結合還元活性を有することを特徴とする、小胞体タンパク質を提供することを目的とする。また、該タンパク質によって、細胞内におけるミスフォールドタンパク質を分解および/または除去する方法の提供も目的とする。
【解決手段】本発明者らは、上記課題を解決するために、ジスルフィド活性を有するERdj5タンパク質を精製することに成功し、還元活性を示すことに成功した。また、細胞に直接この遺伝子を発現させることによって、ミスフォールドタンパク質の分解促進活性を直接示すことができた。すなわち、本発明者らは、既知の小胞体タンパク質ERdj5が従来報告されてきた結果と異なり、還元力を持ち、かつ細胞内においてミスフォールドしたタンパク質の分解を促進することを明らかにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスルフィド結合還元活性を有することを特徴とする、小胞体タンパク質に関する。また、該タンパク質によって、細胞内におけるミスフォールドタンパク質を分解および/または除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞はタンパク質を正しく合成し、正しい構造へとフォールディングさせる(productive folding)だけでなく、それが何らかの原因で正しい構造をとり得なくなった場合に、それらを再生したり、取り除いたりする、いわゆるタンパク質の品質管理機構をも備えている。特に小胞体は、多量のタンパク質合成の場であり、ミスフォールドタンパク質の品質管理機構は厳密に機能している。中でもミスフォールドタンパク質の分解(小胞体関連分解、ERAD)は重要であり、ミスフォールドタンパク質はトランスロコンと呼ばれる小孔を通って、サイトゾル(細胞質)に逆輸送され、ユビキチン・プロテアソームによって分解される(図1)。これが破綻すると種々の神経変性疾患をはじめとする傷害を引き起こすことになる。
【0003】
ERADにおいては、タンパク質フォールディングの際に形成されたジスルフィド結合が還元され、一本のポリペプチドにまでアンフォールドされないと基質はトランスロコンを通過し得ない。小胞体は酸化的な環境下にあり、強力な還元力をもった還元酵素が必要であると考えられてきた。
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】P.M.Cunnea,et al. J. Biol. Chem. 278 1059-1066, 2003
【非特許文献2】A. Hosoda et al. J. Biol. Chem. 278 2669-2676, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ジスルフィド結合還元活性を有することを特徴とするタンパク質またはその断片を提供することにある。
【0005】
また、該タンパク質またはその断片によりミスフォールドタンパク質を分解する方法、該タンパク質またはその断片を有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の分解を促進するための試薬、該タンパク質またはその断片を有効成分として含有する神経変性疾患、糖尿病、またはアミロイドーシスを治療するための薬剤の提供を課題とする。
【0006】
本発明は、また該タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制することにより、ミスフォールドタンパク質の分解を抑制する方法、該タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制する機能を有するDNAを有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の分解を抑制するための試薬、該タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制する機能を有するDNAを有効成分として含有する、膿胞性繊維症を治療するための薬剤の提供を課題とする。
【0007】
さらに、本発明は上記薬剤のスクリーニング方法、ERdj5タンパク質またはその断片に特異的に結合する抗体、および該抗体を用いてERdj5タンパク質またはその断片の量を定量することによるミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患または膿胞性繊維症の検査方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、ERdj5の報告はJ. Biol. Chem.に2報(非特許文献1、2)あるのみである。両方ともにこのタンパク質に酸化還元活性についてのデータはなく、data not shownで活性はないと述べている。本発明においては、recombinantタンパク質を精製し、還元活性を明確に示すとともに、ミスフォールドタンパク質が細胞内でジスルフィド結合の還元を受けること、分解が促進されることを示した(図2)。
【0009】
また、これまではミスフォールドタンパク質の還元によって分解を促進する方法は知られていなかったが、本発明においてはERdj5遺伝子を細胞に発現させることによって、ミスフォールドタンパク質が還元され、分解が促進されることを明らかにした。
【0010】
従来還元活性を示せなかったのは、活性を有するrecombinantタンパク質の精製ができず、in vitroで活性測定ができなかったことに由来する。本発明においてはERdj5遺伝子にタグを付け、大腸菌に発現させた後、数回の精製過程を経て、このタンパク質を精製することに成功し、還元活性を示すことに成功した。また、細胞に直接この遺伝子を発現させることによって、ミスフォールドタンパク質の分解促進活性を直接示すことができた。
【0011】
すなわち、本発明は、既知の小胞体タンパク質ERdj5が従来報告されてきた結果と異なり、還元力を持ち、かつ細胞内においてミスフォールドしたタンパク質の分解を促進することを明らかにし、本発明を完成するに到った。ERdj5は酸化還元に関与するCXXCモチーフ(配列番号:4)を4箇所有し、また小胞体内の分子シャペロンBiPとの結合部位と考えられるJドメインを有している。ERdj5は、小胞体における品質管理を効果的に働かせるために必要であり、タンパク質凝集などに由来する種々の病態の治療、予防などに応用可能な技術となる。
【0012】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔28〕を提供するものである。
〔1〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のジスルフィド結合還元活性を有することを特徴とする、単離された小胞体タンパク質。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とするタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とするタンパク質
〔2〕 〔1〕に記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつジスルフィド結合還元活性を有することを特徴とするタンパク質断片。
〔3〕 少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)およびCGPC(配列番号:9)からなる群より選択される少なくとも1つ以上のCXXCモチーフであることを特徴とする、〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕記載のタンパク質断片。
〔4〕 少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)であることを特徴とする、〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕記載のタンパク質断片。
〔5〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の小胞体タンパク質、または(e)に記載のタンパク質断片によって、ミスフォールドタンパク質を分解および/または除去する方法。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質断片
〔6〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の小胞体タンパク質、または(e)に記載のタンパク質断片によって、ミスフォールドタンパク質を還元する方法。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質断片
〔7〕 少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)およびCGPC(配列番号:9)からなる群より選択される少なくとも1つ以上のCXXCモチーフであることを特徴とする、〔5〕または〔6〕に記載の方法。
〔8〕 少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)であることを特徴とする、〔5〕または〔6〕に記載の方法。
〔9〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の小胞体タンパク質、もしくは(e)に記載のタンパク質断片、またはこれらをコードするDNAを有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の分解を促進するための試薬。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質断片
〔10〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の小胞体タンパク質、もしくは(e)に記載のタンパク質断片、またはこれらをコードするDNAを有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質を還元するための試薬。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質断片
〔11〕 少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)およびCGPC(配列番号:9)からなる群より選択される少なくとも1つ以上のCXXCモチーフであることを特徴とする、〔9〕または〔10〕に記載の試薬。
〔12〕 少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)であることを特徴とする、〔9〕または〔10〕に記載の試薬。
〔13〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の小胞体タンパク質、または(e)に記載のタンパク質断片を有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患を治療するための薬剤。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)(a)〜(d)に記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質断片
〔14〕 ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患が、神経変性疾患、糖尿病、アミロイドーシス、またはプリオン病であることを特徴とする、〔13〕に記載の薬剤。
〔15〕 少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)およびCGPC(配列番号:9)からなる群より選択される少なくとも1つ以上のCXXCモチーフであることを特徴とする、〔13〕または〔14〕に記載の薬剤。
〔16〕 少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)であることを特徴とする、〔13〕または〔14〕に記載の薬剤。
〔17〕 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAを含む遺伝子治療用ベクター。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
〔18〕 少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)およびCGPC(配列番号:9)からなる群より選択される少なくとも1つ以上のCXXCモチーフであることを特徴とする、〔17〕に記載のベクター。
〔19〕 少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)であることを特徴とする、〔17〕に記載のベクター。
〔20〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患を治療するための薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)〔1〕に記載のタンパク質をコードするDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞における〔1〕に記載のタンパク質の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該DNAの発現レベルを増加させる化合物を選択する工程
〔21〕 以下の(a)〜(d)の工程を含む、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患を治療するための薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)〔1〕に記載のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを増加させる化合物を選択する工程
〔22〕 〔1〕に記載のタンパク質またはその断片に特異的に結合する抗体。
〔23〕 被験者において、〔1〕に記載のタンパク質またはその断片の量を〔22〕に記載の抗体を用いて定量する工程を含む、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患、または膿胞性繊維症の検査方法。
〔24〕 下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAを細胞内に導入することによって、ミスフォールドタンパク質の分解を抑制する方法。
(a)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNAをコードするDNA
(d)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片を特異的に認識するアプタマーをコードするDNA
〔25〕 下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAを有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の分解を抑制するための試薬。
(a)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNAをコードするDNA
(d)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片を特異的に認識するアプタマーをコードするDNA
〔26〕 下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAを有効成分として含有する、膿胞性繊維症を治療するための薬剤。
(a)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNAをコードするDNA
(d)〔1〕に記載のタンパク質または〔2〕に記載のタンパク質断片を特異的に認識するアプタマーをコードするDNA
〔27〕 以下の工程(a)〜(c)を含む、膿胞性繊維症を治療するための薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)〔1〕に記載のタンパク質をコードするDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞における〔1〕に記載のタンパク質の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該DNAの発現レベルを減少させる化合物を選択する工程
〔28〕 以下の(a)〜(d)の工程を含む、膿胞性繊維症を治療するための薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)〔1〕に記載のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを減少させる化合物を選択する工程
【発明の効果】
【0013】
アルツハイマー病やポリグルタミン病をはじめ、種々の神経変性疾患は、神経細胞内におけるタンパク質のミスフォールディング、および凝集体形成によって神経細胞が傷害を受けることに起因する。本タンパク質の誘導を行うことによってこれら難治疾患の治療に応用できる可能性が開ける。また、その量を測定することによって、細胞のもつ自然治癒力(分解能力)の算定をし、その後の治療法を考えることが可能になる。さらには、遺伝子治療によって末期の神経変性疾患の治療が可能になる。
【0014】
〔発明の実施の形態〕
本発明は、ジスルフィド結合還元活性を有することを特徴とするERdj5タンパク質を提供する。本発明のERdj5タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:3に、cDNA配列を配列番号:1に、遺伝子配列を配列番号:2に示す。
【0015】
また本発明は、該タンパク質またはその断片によりミスフォールドタンパク質を分解する方法、該タンパク質またはその断片を有効成分として含有するミスフォールドタンパク質の分解を促進するための試薬、ミスフォールドタンパク質を還元するための試薬、該タンパク質またはその断片を有効成分として含有するミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患を治療するための薬剤を提供する。
【0016】
本発明は、該タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制することにより、ミスフォールドタンパク質の分解を抑制する方法、該タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制する機能を有するDNAを有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の分解を抑制するための試薬、該タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制する機能を有するDNAを有効成分として含有する、膿胞性繊維症を治療するための薬剤もまた提供する。
【0017】
さらに、本発明は上記薬剤のスクリーニング方法、ERdj5タンパク質またはその断片に特異的に結合する抗体、および該抗体を用いてERdj5タンパク質またはその断片の量を定量することによるミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患または膿胞性繊維症の検査方法を提供する。
【0018】
本発明のERdj5タンパク質としては、以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のジスルフィド結合還元活性を有することを特徴とする、単離された小胞体タンパク質が挙げられる。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とするタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とするタンパク質
【0019】
上記の「配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質」としては、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質を含む融合タンパク質が挙げられる。
【0020】
また、上記の「配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフを有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質」としては、「配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフを有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質」からなるタンパク質、「配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフを有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質」からなる融合タンパク質が挙げられる。
【0021】
本発明のタンパク質は、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とする。本発明のCXXCにおける第2位および第3位のアミノ酸は任意のアミノ酸を使用することができる。
本発明におけるCXXCモチーフとしては、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。より好ましくは、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)のアミノ酸配列、最も好ましくはCGPC(配列番号:9)のアミノ酸配列であるがこれらに限定されない。
CXXCにおける第2位および第3位のアミノ酸部分にCXXCモチーフが活性を有するように任意のアミノ酸を配置することは、当業者であれば容易になし得る。また、任意のCXXCモチーフを、より活性の高いCXXC配列と交換するように、タンパク質のアミノ酸配列をデザインすることも当業者には容易になし得ることである。
また、本発明におけるCXXCモチーフとして、配列番号3:のアミノ酸配列における157位−161位(GCSHC)、479位−483位(WCPPC)、587−591位(WCHPC)、または739−743位(WCGPC)の領域を挙げることができる。
【0022】
本発明のタンパク質におけるCXXCモチーフの位置としては、配列番号3:のアミノ酸配列における158位−161位(N末端から1番目のCXXCモチーフ)、480位−483位(N末端から2番目のCXXCモチーフ)、588−591位(N末端から3番目のCXXCモチーフ)、または740−743位(N末端から4番目のCXXCモチーフ)に相当する位置を挙げることができる。本発明のタンパク質は上記CXXCモチーフの位置のうち、少なくとも1以上の位置にCXXCモチーフを有することを特徴とするが、その数および位置の組み合わせは特に限定されない。本発明のタンパク質は好ましくは、588−591位(N末端から3番目のCXXCモチーフ)、または740−743位(N末端から4番目のCXXCモチーフ)に相当する位置、より好ましくは740−743位(N末端から4番目のCXXCモチーフ)に相当する位置にCXXCモチーフを有する。
【0023】
本発明においてタンパク質に変異を導入する方法としては、具体的には、該タンパク質のアミノ酸配列を公知の分子モデリングプログラム、たとえば、WHATIF(Vriend et al., J. Mol. Graphics (1990) 8, 52-56 )を用いてその二次構造を予測し、さらに置換されるアミノ酸残基の全体に及ぼす影響を評価することにより行われる。適切な置換アミノ酸残基を決定した後、ERdj5遺伝子をコードする塩基配列を含むベクターを鋳型として、通常行われるPCR法によりアミノ酸が置換されるように変異を導入することにより、ERdj5変異体をコードする遺伝子が得られる。これを必要に応じて適当な発現ベクターに組み込み、発現、産生及び精製することによりERdj5変異体を得ることができる。
【0024】
本発明において、変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
【0025】
本発明のタンパク質との融合に付される他のタンパク質やペプチドとしては、融合タンパク質が本発明のタンパク質と機能的に同等なタンパク質である限り、特に限定されない。本発明のタンパク質との融合に付される他のペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210 )、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His等の公知のペプチドを使用することができる。本発明のタンパク質の融合に付されるペプチドとして、好ましくは、6×Hisである。
【0026】
ここで「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。該生物学的機能としては、ミスフォールドタンパク質を分解および/または除去する活性、ジスルフィド結合還元活性などが挙げられる。対象となるタンパク質が、配列番号:3のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同様の性質を有するか否かは、実施例に記載の方法で判定することができる。
【0027】
配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と共通または類似の構造的特徴を有する。構造的特徴としては、例えば、酸化還元に関与すると考えられる4箇所のチオレドキシン様ドメインを有し、それぞれにCXXCモチーフを有する点、小胞体内の分子シャペロンBiPとの結合部位と考えられるJドメインをN末端に有する点、などが挙げられる。
【0028】
本発明のERdj5タンパク質は、配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフを有することを特徴とするタンパク質を含む。
上記タンパク質におけるCXXCモチーフの位置としては、配列番号3:のアミノ酸配列における158位−161位(N末端から1番目のCXXCモチーフ)、480位−483位(N末端から2番目のCXXCモチーフ)、588−591位(N末端から3番目のCXXCモチーフ)、または740−743位(N末端から4番目のCXXCモチーフ)に相当する位置を挙げることができる。本発明のタンパク質は上記CXXCモチーフの位置のうち、少なくとも1以上の位置にCXXCモチーフを有することを特徴とするが、その数および位置の組み合わせは特に限定されない。本発明のタンパク質は好ましくは、588−591位(N末端から3番目のCXXCモチーフ)、または740−743位(N末端から4番目のCXXCモチーフ)に相当する位置、より好ましくは740−743位(N末端から4番目のCXXCモチーフ)に相当する位置にCXXCモチーフを有する。
【0029】
このようなタンパク質をコードするDNAを単離するためには、通常ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。上記タンパク質をコードするDNAを単離するためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0030】
また、ERdj5タンパク質をコードするDNA(配列番号:1または2)の配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、ERdj5タンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを単離することも可能である。
【0031】
これらハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術により単離されるDNAがコードする、ERdj5タンパク質と機能的に同等なタンパク質は、通常、ERdj5タンパク質とアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、配列番号:3のいずれかに記載のアミノ酸配列に対して、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al. J. Mol. Biol.215:403-410, 1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0032】
本発明は、上記ERdj5タンパク質の断片であって、ジスルフィド結合還元活性を有することを特徴とする、タンパク質断片もまた提供する。本発明のERdj5タンパク質の断片としては、例えば、J鎖(配列番号:3のアミノ酸配列において30−100位の領域)を含む断片、上述のCXXCモチーフを含む断片が挙げられるがこれに限定されない。本発明のERdj5タンパク質断片として、好ましくは、少なくとも1つのCXXCモチーフを有するタンパク質断片が挙げられる。
本発明のタンパク質断片におけるCXXCモチーフの位置としては、配列番号3:のアミノ酸配列における158位−161位(N末端から1番目のCXXCモチーフ)、480位−483位(N末端から2番目のCXXCモチーフ)、588−591位(N末端から3番目のCXXCモチーフ)、または740−743位(N末端から4番目のCXXCモチーフ)に相当する位置を挙げることができる。本発明のタンパク質断片は上記CXXCモチーフの位置のうち、少なくとも1以上の位置にCXXCモチーフを有することを特徴とするが、その数および位置の組み合わせは特に限定されない。本発明のタンパク質断片は好ましくは、588−591位(N末端から3番目のCXXCモチーフ)、または740−743位(N末端から4番目のCXXCモチーフ)に相当する位置、より好ましくは740−743位(N末端から4番目のCXXCモチーフ)に相当する位置にCXXCモチーフを有する。
【0033】
本発明のERdj5タンパク質は、通常のタンパク質の精製で使用されている公知の方法により精製することができる。例えば、プロテインAカラムなどのアフィニティーカラム、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、タンパク質を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0034】
本発明は、ERdj5タンパク質またはその断片によって、ミスフォールドタンパク質を分解および/または除去する方法を提供する。
タンパク質のフォールディングとは、アミノ酸残基の相互作用(水素結合)により、直鎖であるペプチドが折りたたまれて、αヘリックス構造やβシート構造などの二次構造をとり、それがタンパク質の立体構造を形成することをいう。タンパク質はフォールディングされることにより個々の特有の機能を発揮する。高次構造は、いずれも一次構造で決定されるアミノ酸配列による影響を受け、例えば疎水性アミノ酸残基同士は疎水結合、Cys同士はジスルフィド結合を形成して高次構造を安定化させるなどの特徴が挙げられる。
【0035】
本発明のERdj5タンパク質により分解が促進されるミスフォールドタンパク質とは、何らかの原因で正しいフォールディングが起こらず、正しい構造をとり得なくなったタンパク質をいう。
【0036】
小胞体におけるミスフォールドタンパク質の分解(小胞体関連分解、ERAD;ER associated degradation)は、ミスフォールドタンパク質がトランスロコンと呼ばれる小孔を通って、サイトゾル(細胞質)に逆輸送され、ユビキチン・プロテアソームによって分解されることにより行なわれる。本発明のERdj5タンパク質によるミスフォールドタンパク質の分解においては、分解の対象となるミスフォールドタンパク質が、トランスロコンを通過するために一本のポリペプチドにまでアンフォールドされる必要がある。
【0037】
本発明のERdj5タンパク質またはその断片は、ミスフォールドタンパク質を還元する活性を有する。これによって、ミスフォールドタンパク質においてフォールディングの際に形成された結合が還元され、該ミスフォールドタンパク質は一本のポリペプチドにアンフォールディングされる。本発明のERdj5タンパク質またはその断片によって還元される結合は、特に限定されないが、好ましくはジスルフィド結合が挙げられる。
【0038】
本発明のERdj5タンパク質またはその断片による、ミスフォールドタンパク質の分解および/または除去、またはミスフォールドタンパク質の還元は、in vivoで行なわれてもよいし、in vitroで行なうこともできる。生体においては、小胞体内でミスフォールドタンパク質を分解および/または除去、または還元することが好ましい。また、in vitroにおいては、実施例のように精製したERdj5タンパク質を用いて細胞外でミスフォールドタンパク質を還元しても良いし、細胞内でERdj5タンパク質を発現させて行なってもよい。in vitroにおいて細胞内で還元を行なう場合には、培養したCOS細胞、HEK293T細胞、HeLa細胞、マウスBalb細胞、定常的にERdj5を発現させた細胞、またはミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患の患者由来の細胞等を使用することができる。
よって、本発明はERdj5タンパク質またはその断片によって、ミスフォールドタンパク質を還元する方法もまた提供する。
【0039】
本発明は、ERdj5タンパク質またはその断片を有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の分解を促進するための試薬を提供する。また本発明は、ERdj5タンパク質またはその断片を有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質を還元するための試薬を提供する。
【0040】
本発明の試薬は、上記、ERdj5タンパク質によってミスフォールドタンパク質の分解および/または除去、または還元する方法に用いることにより、ERdj5タンパク質の作用機構、およびミスフォールドタンパク質の分解機構等の研究に使用することができる。
【0041】
また、本発明はERdj5タンパク質もしくはその断片、またはこれらをコードするDNAを有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患を治療するための薬剤を提供する。
【0042】
本発明の薬剤は、経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型、経膣投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。
【0043】
本発明のタンパク質を薬剤として用いる場合には、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。このような治療目的で使用される本発明のタンパク質を含む薬剤は、必要に応じ、それらに対して不活性な適当な医薬的に許容される担体、媒体等と混和して製剤化することができる。例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、防腐剤、界面活性剤(PEG、Tween等)、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、マンニトールやソルビトール等の糖アルコールを含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0044】
本発明のタンパク質、またはこれらをコードするDNAを含む薬剤は、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患の治療において使用することが可能である。
ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患としては、神経変性疾患を挙げることができる。神経変性疾患には、アルツハイマー病、ポリグルタミン病、筋委縮性側索硬化症(ALS)が含まれ、さらに、ポリグルタミン病には、多くの小脳脊髄変性症が含まれる。
【0045】
またミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患としては、糖尿病を挙げることができる。本発明の薬剤を使用する糖尿病として、好ましくはインスリンの変性によって生じる糖尿病が挙げられる。
さらに、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患としてアミロイドーシスを挙げることができる。アミロイドーシスには、トランスサイレンチンを原因遺伝子とする全身性アミロイドーシス、免疫グロブリンの短鎖とβ2ミクログロブリンを原因遺伝子とする透析アミロイドーシスなどが挙げられる。
本発明の薬剤が使用される疾患としては、上記以外のミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患、例えば狂牛病などのプリオン病を挙げることができるが、これに限定されない。
【0046】
本発明は、以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAを含む遺伝子治療用ベクターを提供する。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
【0047】
上記ベクターとしては、通常、本発明のポリペプチドをコードするDNAを担持するプラスミドもしくはウイルスベクターが一般的である。当業者においては、所望のDNAを有するベクターを、一般的な遺伝子工学技術によって、適宜、作製することが可能である。通常、市販の種々のベクターを利用することができる。
【0048】
また、動物の生体内で本発明のポリヌクレオチド(DNA)を発現させる方法としては、本発明のDNAを適当なベクターに組み込み、例えば、レトロウィルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウィルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。これにより、遺伝子治療を行うことが可能である。用いられるベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクターやレトロウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに制限されない。ベクターへの本発明のDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である(Molecular Cloning ,5.61-5.63)。生体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。
【0049】
本発明は、ERdj5タンパク質もしくはその断片を発現する細胞において、ERdj5タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制させる工程を含む、ミスフォールドタンパク質の分解を抑制する方法に関する。
【0050】
本発明において、ERdj5タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制させるための方法としては、ERdj5タンパク質もしくはその断片をコードするDNAの転写産物と相補的なRNA、または該転写産物を特異的に開裂するリボザイムをコードするDNAの対象への投与を挙げることができる。
【0051】
本発明の「ERdj5タンパク質もしくはその断片の発現を抑制」という記載には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNAの発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0052】
本発明の「ERdj5タンパク質もしくはその断片をコードするDNAの転写産物と相補的なRNA」の一つの態様は、ERdj5タンパク質もしくはその断片をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAである。
【0053】
アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する。
【0054】
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれかの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、ERdj5遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であるものと考えられる。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNAは、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンスDNAの配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNA の長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
【0055】
「ERdj5タンパク質もしくはその断片をコードするDNAの転写産物と相補的なRNA」の他の一つの態様は、ERdj5タンパク質もしくはその断片をコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNAである。RNAiは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNA(以下dsRNA)を細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象である。細胞に約40〜数百塩基対のdsRNAが導入されると、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、dsRNAを3’末端から約21〜23塩基対ずつ切り出し、siRNA(short interference RNA)を生じる。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、ヌクレアーゼ複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)が形成される。この複合体はsiRNAと同じ配列を認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部で標的遺伝子のmRNAを切断する。また、この経路とは別にsiRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RsRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成される。このdsRNAが再びダイサーの基質となって、新たなsiRNAを生じて作用を増幅する経路も考えられている。
【0056】
本発明のRNAは、標的遺伝子mRNAのいずれかの領域に対するアンチセンスRNAをコードしたアンチセンスコードDNAと、標的遺伝子mRNAのいずれかの領域のセンスRNAをコードしたセンスコードDNAより発現させることができる。また、これらのアンチセンスRNAおよびセンスRNAよりdsRNAを作成することもできる。
【0057】
本発明のdsRNAの発現システムを、ベクター等に保持させる場合の構成としては、同一のベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる場合と、異なるベクターからそれぞれアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる場合がある。例えば、同一のベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる構成としては、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセット、センスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを同方向にあるいは逆方向にベクターに挿入することにより構成することができる。また、異なる鎖上に対向するようにアンチセンスコードDNAとセンスコードDNAと逆向きに配置した発現システムを構成することもできる。この構成では、アンチセンスRNAコード鎖とセンスRNAコード鎖とが対となった一つの二本鎖DNA(siRNAコードDNA)が備えられ、その両側にそれぞれの鎖からアンチセンスRNA、センスRNAとを発現し得るようにプロモーターを対向して備えられる。この場合には、センスRNA、アンチセンスRNAの下流に余分な配列が付加されることを避けるために、それぞれの鎖(アンチセンスRNAコード鎖、センスRNAコード鎖)の3'末端にターミネーターをそれぞれ備えることが好ましい。このターミネーターは、A(アデニン)塩基を4つ以上連続させた配列などを用いることができる。また、このパリンドロームスタイルの発現システムでは、二つのプロモーターの種類を異ならせることが好ましい。
【0058】
また、異なるベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる構成としては、例えば、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAの上流にそれぞれ polIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセット、センスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを異なるベクターに保持させることにより構成することができる。
【0059】
本発明のRNAiにおいては、dsRNAとしてsiRNAが使用されたものであってもよい。「siRNA」は、細胞内で毒性を示さない範囲の短鎖からなる二重鎖RNAを意味し、例えば、15〜49塩基対と、好適には15〜35塩基対と、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。あるいは、発現されるsiRNAが転写され最終的な二重鎖RNA部分の長さが、例えば、15〜49塩基対、好適には15〜35塩基対、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。
【0060】
RNAiに用いるDNAは、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の相同性を有する。
dsRNAにおけるRNA同士が対合した二重鎖RNAの部分は、完全に対合しているものに限らず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などにより不対合部分が含まれていてもよい。本発明においては、dsRNAにおけるRNA同士が対合する二重鎖RNA領域中に、バルジおよびミスマッチの両方が含まれていてもよい。
【0061】
本発明の「ERdj5タンパク質もしくはその断片の発現の抑制」は、また、リボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある。
【0062】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA 配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である。例えば、阻害標的となる本発明の酵素のコード領域中には標的となりうる部位が複数存在する。
【0063】
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(J.M.Buzayan Nature 323:349,1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている。
【0064】
本発明において、ERdj5タンパク質もしくはその断片の活性を抑制させるための方法としては、ERdj5タンパク質もしくはその断片を特異的に認識するアプタマーをコードするDNAの対象への投与を挙げることができる。
本発明の「アプタマー」は、「アプタマー」単独で疾患の治療に使用することもできるが、他の分子種、例えば、蛍光標識色素などを結合させた形態で使用することもできる。
【0065】
本発明のアプタマーは、当業者において周知の方法を用いて製造することができる。限定はしないが、例えば、「インビトロセレクション法(SELEX法)」(Tuerk, C. and Gold, L., Science, 249, 505-510 (1990), Green, L. et al, Meths. Enzymol., 2, 75-86 (1991), Gold, L. et al, Annu. Rev. Biochem., 64,763-797 (1995), Uphoff, K. W. et al., Curr. Opin. Struct. Biol., 6, 281-288 (1996))により製造することができる。
【0066】
「インビトロセレクション法」は、ランダムな配列を含む核酸分子のプールからERdj5タンパク質に対して親和性を持つ分子を選択し、親和性を持たない分子を排除する方法である。選択された分子のみをPCR法で増幅し、さらに親和性による選択をするというサイクルを繰り返すことにより、強い結合能を持つ分子を濃縮することができる。
【0067】
具体的には、まず、20〜300塩基、好ましくは30〜150、より好ましくは30〜100塩基程度のランダムな塩基配列を含む1本鎖核酸分子、例えば、DNA、RNAなどを調製する。これらの核酸分子は、直接合成するか、RNA分子の場合には、まずDNA分子を合成したのち転写反応により調製してもよい。これらの核酸分子がDNAの場合は、PCR増幅を可能にするために、その両端にプライマーとなるべき塩基配列を有する。プライマー結合配列部分は、特に限定はしないが、PCR増幅後にプライマー部分を制限酵素によって切除し得るように適当な制限酵素サイトを有するべく調製してもよい。プライマー結合配列部分の長さは、特に限定はしないが、約20〜50、好ましくは20〜30塩基程度である。また、PCR増幅後の一本鎖DNAを電気泳動などで分離可能とするために、5’側末端に、放射標識、蛍光標識などによる標識を行ってもよい。さらに、RNA分子を調製する場合には、5’末端側のプライマーに適当なプロモーター、例えば、T7プロモーター配列などを配し、DNA分子からRNA分子への転写が可能となるように調製してもよい。
【0068】
次に、PCR増幅によって得られたランダムな核酸分子と、ERdj5タンパク質またはERdj5タンパク質の特定の領域を包含するペプチド断片とを適当な濃度比で混合し、適当な条件下でインキュベートする。インキュベート後、混合物を電気泳動にかけて、核酸分子−ERdj5タンパク質複合体と遊離核酸分子とを分離する。ERdj5タンパク質と複合体を形成している核酸分子を定法に従って抽出する。回収された核酸分子がDNAの場合には、さらにPCR増幅を行い、増幅されたDNAを熱変性するなどして、一本鎖DNAとして回収する。回収された核酸分子がRNAの場合には、該RNAを逆転写してcDNAとしたのち、PCR増幅し、増幅されたDNAを転写してRNAを調製する。
【0069】
上述の核酸分子とERdj5タンパク質との混合、ERdj5タンパク質と結合した核酸分子の分離、PCR増幅(RNAの場合には、逆転写後増幅)、増幅された核酸分子を再びERdj5タンパク質との結合に使用するまでの一連の操作は数ラウンド行う。ラウンドを繰り返し行うことにより、より特異的にERdj5タンパク質と結合する核酸分子を選別することができる。得られた核酸分子は、定法に従い配列決定を行うことができる。
【0070】
以上の工程により得られた核酸分子の配列に基づいて、リン酸骨格部分に修飾を加え、例えば、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホラミドチオエート結合、ホスホラミデート結合、ホスホルジアミデート結合、メチルホスホネート結合を含むリン酸骨格から構成されるアプタマーを得ることもできる。
【0071】
本発明は、上記ERdj5タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制させる機能を有するDNAを有効成分として含有するミスフォールドタンパク質の分解を抑制するための試薬を提供する。
本発明の試薬は、上記ミスフォールドタンパク質の分解を抑制する方法に用いることにより、ERdj5タンパク質の作用機構、およびミスフォールドタンパク質の分解機構等の研究に使用することができる。
【0072】
また、本発明は、上記ERdj5タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制させる機能を有するDNAを有効成分として含有する膿胞性繊維症を治療するための薬剤を提供する。
本発明の膿胞性繊維症を治療するための薬剤は、上述の方法で、投与または製剤化することが可能である。
本発明の上記ERdj5タンパク質もしくはその断片の発現または活性を抑制させる機能を有するDNAを含む薬剤は、膿胞性繊維症の治療において使用することが可能である。
【0073】
本発明者らは、ERdj5タンパク質によりミスフォールドタンパク質の分解および/または除去が促進されることを見出した。この結果は、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患の治療剤の候補化合物のスクリーニングが可能であることを示す。
【0074】
本発明のスクリーニング方法に用いる被検化合物は特に限定されず、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、抗体、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、抗体ライブラリー、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等を挙げることができる。
【0075】
本発明のスクリーニング方法の第一の態様は、ERdj5タンパク質をコードするDNAの発現レベルを増加または減少させる化合物のスクリーニングに関するものである。ERdj5タンパク質をコードするDNAの発現レベルを増加させる化合物はミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患を治療するための薬剤の候補化合物となりうる。一方、ERdj5タンパク質をコードするDNAの発現レベルを減少させる化合物は膿胞性繊維症を治療するための薬剤の候補化合物となりうる。
【0076】
このスクリーニングにおいては、まず、ERdj5タンパク質をコードするDNAを有する細胞(ヒト細胞を含む)に被検化合物を接触させる。ERdj5タンパク質をコードするDNAを有する細胞(ヒト細胞を含む)としては、例えば、COS細胞、HEK293T細胞、HeLa細胞、マウスBalb細胞、定常的にERdj5を発現させた細胞、またはミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患もしくは膿胞性繊維症の患者由来の細胞等が挙げられる。
【0077】
また、本発明において「接触」は、例えば、細胞の培養液に被検化合物を添加することにより行うことができる。このスクリーニングにおいては、次いで、該細胞におけるERdj5タンパク質をコードするDNAの発現レベルを測定し、被検化合物を接触させていない場合と比較して、該DNAの発現レベルを増加または減少させる化合物を選択する。
【0078】
DNAの発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、mRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT-PCR法を実施することによってDNAの発現レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、DNAの発現レベルを測定することも可能である。また、ERdj5タンパク質を含む画分を定法に従って回収し、該ERdj5タンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、ERdj5タンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、酵素結合免疫測定法(ELISA)、および免疫蛍光法などを実施し、該ERdj5タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。
【0079】
ERdj5遺伝子の発現レベルを増加させる化合物のスクリーニングは、レポーター遺伝子を用いた系でも行うことができる。まず、ERdj5遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する。ここで、「機能的に結合した」とは、ERdj5遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、ERdj5遺伝子のプロモーター領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、ERdj5遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
ERdj5遺伝子のプロモーター領域としては、例えば、配列番号:2に記載の塩基配列の第1位〜第351位を含む領域、または11位〜19位を含む領域を挙げることができる。
上記レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。
【0080】
このスクリーニングにおいては、次いで、上記細胞または上記細胞抽出液に被検化合物を接触させる。次いで、該細胞または該細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-グルクロニド(X-Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
このスクリーニングにおいては、次いで、被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを増加または減少させる化合物を選択する。
【0081】
本発明は、ERdj5タンパク質またはその断片に特異的に結合する抗体を提供する。本発明の抗体としては、ERdj5タンパク質またはその断片に特異的に結合し、かつERdj5タンパク質のジスルフィド結合還元活性を阻害する抗体も例示することができる。
本発明で使用される該タンパク質またはその断片に特異的に結合する抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される該ペプチドを認識する抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はERdj5タンパク質と結合することにより、被験者におけるERdj5タンパク質量の定量に使用することができる。該タンパク質量の定量により、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患の治療指針に役立てることができる。また、ERdj5タンパク質の活性阻害にも使用することができる。
【0082】
該タンパク質またはその断片に特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、該タンパク質を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0083】
具体的には、該タンパク質をコードする塩基配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的の該タンパク質を公知の方法で精製し、この精製タンパク質を感作抗原として用いればよい。また、該タンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質を感作抗原として用いてもよい。
【0084】
また、本発明は、ERdj5遺伝子の発現量を測定する工程を含む、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患の検査方法を提供するものである。ここで、「ERdj5遺伝子の発現」には、ERdj5のmRNAの発現だけでなく、ERdj5タンパク質の発現もまた含まれる。
以下に、本発明の検査方法の態様を例示するが、本発明の検査方法はそれらに限定されるものではない。上記検査方法の一つの態様としては、まず、被検者のRNA試料を調製する。
【0085】
本方法においては、次いで、該RNA試料に含まれるERdj5タンパク質をコードするRNAの量を測定する。次いで、測定されたRNAの量を対照と比較する。このような方法としては、ノーザンブロッティング法、DNAアレイ法、または、RT-PCR法等を例示することができる。
【0086】
また、上記検査方法は、ERdj5タンパク質の発現量を測定することにより、下記の如く実施することができる。まず、被検者からタンパク質試料を調製する。
【0087】
本方法においては、次いで、該タンパク質試料に含まれるERdj5タンパク質の量を測定する。次いで、測定されたERdj5タンパク質の量を対照と比較する。このような方法としては、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、並びにERdj5タンパク質に結合する抗体を用いた、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、酵素結合免疫測定法(ELISA)、および免疫蛍光法を例示することができる。
該タンパク質量の定量により、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患の治療指針に役立てることができる。
【0088】
具体的には、例えば、ERdj5タンパク質量が正常状態より少ない場合には、該被験者は、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患に罹患していることが予測できる。この結果は、遺伝子治療などによりERdj5を補充し、ミスフォールドタンパク質の蓄積を抑制し、蓄積に伴う細胞変性を抑制するなどの治療に役立てることが可能である。
【0089】
また、ERdj5タンパク質量が正常状態より多い場合、該被験者は、膿胞性線維症などの疾患に罹患していることが予測できる。この結果は、RNAiやアンチセンス核酸などによってERdj5の発現を抑制させ、ミスフォールドタンパク質を通常状態に戻すなどの治療に役立てることが可能である。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕recombinant ERdj5の精製
pMCSG7-ERdj5(N末端Hisタグ融合ベクター)を大腸菌(OrigamiB (DE3); Novergen, USA)にトランスフォームし、プラスミドを保有する菌株をLB(Ampicillin 100 μg/ml, Kanamycin 15 μg/ml, Tetracycline 12.5 μg/ml含有)プレートで24時間培養した。プレートよりコロニーをピックアップし、18 LのLB(Ampicillin 100μg/ml含有)培地に播種し、37℃でOD600 = 0.5 〜 0.6になるまで培養した。その後、培養温度を18℃まで下げた後に、IPTG (終濃度20μg/ml)を培地に加え、導入遺伝子のタンパク質発現誘導を行った。10時間後に大腸菌を回収し、菌体を-80℃に保存した。
recombinant ERdj5の精製は以下のような過程により行なった。
1.菌体を細胞溶解液への懸濁
2.超音波による細胞破砕機(astrason, MISONIX, USA)による大腸菌の破砕
3.遠心(45000g, 40 min, 4℃)による不溶性画分の除去
4.可溶性画分に硫酸アンモニウムを加え30%飽和させた後、遠心により沈殿を回収
5.4.により得られた沈殿を細胞溶解液に再溶解
6.HisTrap HP 5mlカラム(Amersham Biosciences)を用いたアフィニティ精製、Imidazole溶液による溶出
7.サンプルの希釈
8.陽イオン交換HiTrap HP S 5 ml カラム(Amersham Biosciences)による精製、NaCl濃度による溶出
9.再度6.7.の操作
10.陰イオン交換HiTrap Q 5 mlカラム(Amersham Biosciences)による精製、NaCl濃度による溶出
11.限外ろ過法(VIVASPIN; Vivascience AG, Germany)による濃縮
・細胞溶解液;50 mM Tris-HCl pH 7.5, 150 mM NaCl, 0.2 % Tween 20, 1 mM DTT, 1 mM EDTA
・Imidazole溶液;20 mM HEPES, 50 mM NaCl, 10 % Glycerol, 0.5 M Imidazole, 0.1 % Tween 20
以上により、図3にみられるようなERdj5の精製標品を得た。
【0091】
〔実施例2〕ERdj5のインスリン還元活性
インスリン還元活性のアッセイ条件は、以下の通りである。
(反応液)
50 mM HEPES−NaOH buffer, pH 7.0 (25℃)
180 mM NaCl, 75 mM imidazole, 0.5% Tween 20 (ERdj5 安定化のため)
8 mM GSH
30 μM Insulin
1 unit/ml glutathione reductase from Bakers Yeast (Sigma)
120 μM NADPH
GSHを加えることで反応を開始し、340nmの吸光度の減少を測定する。
本実験の原理は以下のとおりである。インスリンが還元される時に、GSH(グルタチオン)が酸化型グルタチオン(GSSG)に変換される。GSSGはグルタチオンレダクターゼ(還元酵素)によって再還元されるが、その際、NADPHが酸化されてNADPに変換される。すなわちNADPHの減少が起こるが、これを340 nmの吸光度の減少として測定するものである。
PDI(Protein disulfide isomerase):thiol disulfide異性化を触媒する事で、disulfide formationを形成する分泌タンパクの酸化的な折りたたみ(folding)を促進する酵素である。この系では、還元反応のpositive controlとして使用した。
以上の結果、濃度依存的なERdj5のインスリン還元活性を示した(図4)。
【0092】
〔実施例3〕細胞内におけるERdj5によるミスフォールドタンパク質の分解促進
ヒト細胞(HEK293細胞)にヒトERdj5遺伝子を過剰発現させ、ミスフォールドタンパク質のモデル基質である免疫グロブリンJ鎖の分解を検討した。細胞内で合成されるタンパク質を[35S]-メチオニンおよびシステインで15分間放射標識し、その後6時間まで追跡した。J鎖にはMyc標識体が付加されており、各細胞抽出液を抗Myc抗体で免疫沈降し、J鎖の放射活性を定量することでJ鎖の分解を追跡した。図5に見られるように、ERdj5の過剰発現細胞(J/ERdj5と表示)においては、導入していない対照(J/Mockと表示)に較べて、J鎖の分解が促進されることがわかった。
【0093】
〔実施例4〕細胞内における他のミスフォールドタンパク質(NHK)の分解促進
ヒト細胞(HEK293細胞)にヒトERdj5遺伝子を過剰発現させ、ミスフォールドタンパク質のモデル基質であるNHK(α1アンチトリプシンタンパク質のC端付近を欠失したタンパク質であり、小胞体関連分解ERADのモデル基質としてもっとも良く用いられる基質)の分解を検討した。同様に放射標識し、その後2時間まで追跡した。各細胞抽出液を抗α1アンチトリプシン抗体で免疫沈降し、NHKの放射活性を定量した。図6に見られるように、ERdj5の過剰発現細胞(NHK/ERdj5と表示)においては、対照(NHK/Mockと表示)に較べて、NHKの分解が促進されている。
【0094】
〔実施例5〕ERdj5によるミスフォールドタンパク質の分解促進には、ERdj5の還元活性が必須である。
ERdj5には4つのCXXCモチーフ(配列番号:4)が存在し、酸化還元活性には、これらのモチーフが重要であるということが知られている。そこでERdj5によるミスフォールドタンパク質の分解促進に、その還元活性が必須であるかどうかを検討するため、4箇所のCXXCモチーフにすべて変異を導入し、SXXS(配列番号:5)に変えた遺伝子を用意した。この変異遺伝子(CS1234)をHEK293細胞に導入し、実施例4と同様にNHKの分解促進効果を調べた。図6にみられるように、変異導入ERdj5にはNHKの分解促進活性は見られなかった(NHK/CS1234)。
【0095】
〔実施例6〕ERdj5はJ鎖による高分子量の複合体形成を抑制する
ヒト細胞(HEK293細胞)にマウスERdj5遺伝子を過剰発現させ、免疫グロブリンJ鎖の複合体形成への影響を観察した。細胞内で合成されるタンパク質を[35S]-メチオニンおよびシステインで15分間放射標識し、細胞抽出液を抗Myc抗体で免疫沈降した。その後、サンプルを非還元条件(DTT+)および還元条件(DTT-)でSDS-PAGEを行った。図7に見られるように、非還元条件ではJ鎖による高分子量の複合体が観察されたが、還元条件では観察されなかった。このことよりJ鎖による高分子量の複合体はジスルフィド結合を介しており、ERdj5を過剰発現させることによりJ鎖複合体の形成抑制が見られた。
【0096】
〔実施例7〕CXXCモチーフのERdj5の酸化還元活性への影響
ERdj5には、配列番号3:のアミノ酸配列における158位−161位(CSHC、配列番号:6)、480位−483位(CPPC、配列番号:7)、588−591位(CHPC、配列番号:8)、および740−743位(CGPC、配列番号:9)の4つのCXXCモチーフ(配列番号:4)が存在する。4つのうち、どのCXXCモチーフが酸化還元活性に重要であるかを検討するため、3箇所のCXXCモチーフを、不活性なAXXA(配列番号:10)に変異させたERdj5変異体C1からC4を作成した。C1からC4は、それぞれ、CSHC(配列番号:6、N末端から1番目のCXXCモチーフ)、CPPC(配列番号:7、N末端から2番目のCXXCモチーフ)、CHPC(配列番号:8、N末端から3番目のCXXCモチーフ)、CGPC(配列番号:9、N末端から4番目のCXXCモチーフ)を保持するERdj5変異体を意味する。
NHKを基質として細胞(ヒト HEK293細胞)に導入し、同時にERdj5変異体遺伝子を導入して、2日後に細胞を[35S]-メチオニンで放射標識し、標識されたNHKの分解をパルスチェイス法により測定した。電気泳動後のNHKのバンドの放射活性を測定し、パルス直後のものに較べてどれだけ放射活性が減少したかを測定した。
図8に示すように、C1およびC2は分解促進活性がまったくなく、C4だけで野生型と同様の活性を有することが判明した。またC3についてはやや活性があった。配列番号:9に記載のCXXCモチーフによる還元活性が分解促進に中心的に作用し、配列番号:8に記載のCXXCモチーフが一部関与していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】ミスフォールドタンパク質の品質管理機構を示す図である。小胞体において正しくフォールドしたタンパク質はゴルジ体を通って細胞外あるいは膜へ輸送される。しかし、ミスフォールドしたタンパク質は、EDEMなどの認識分子によってトランスロコンを通りサイトゾルへ逆輸送され、ユビキチン・プロテアソーム系によって分解処理される。
【図2】ERdj5の還元力によってジスルフィド結合を開裂させ、分解を促進する機構を示す図である。酸化的な小胞体環境下ではジスルフィド結合が作られ、タンパク質の構造を安定化している。これがトランスロコンを通過する為には、ジスルフィド結合が還元され、一本のポリペプチドになる必要がある。ERdj5はこの還元に寄与し、ミスフォールドタンパク質の分解を促進する。
【図3】精製ERdj5標品の純度を示す写真である。実施例1の方法によって精製したERdj5をSDS電気泳動によって純度を検定した。
【図4】ERdj5によるインスリンの還元活性を示す図である。インスリンの還元を実施例2で説明した原理により、最終的にNADPHの減少として、340nmの吸光度減少で測定した。「酵素なし」は何もトランスフェクトしていない対照実験を示す。ERdj5が0.2μMおよび0.5μM存在下にインスリンが濃度依存的に還元されていることを示している。陽性対照としてこの条件下に還元活性を発揮することが明らかなPDI(タンパク質ジスルフィド異性化酵素)による還元活性を示す。Erdj5のCXXCモチーフに変異を入れた変異体では、還元活性が完全に消失している。
【図5】免疫グロブリンJ鎖の分解をERdj5が促進することを示す図である。免疫グロブリンJ鎖遺伝子とERdj5遺伝子をHEK293細胞に発現させ、放射性メチオニンによって新生タンパク質を放射標識した後、チェイス法によって標識タンパク質の消失を検討した。標識直後、3時間後、6時間後のJ鎖タンパク質の量を免疫沈降法によって測定した。Mockは何もトランスフェクトしていない対照実験。ERdj5の過剰発現細胞では、J鎖の分解が促進されている。
【図6】NHKタンパク質の分解のERdj5による促進効果、及びCXXCモチーフの役割を示す図である。ERADのモデル基質NHKとERdj5遺伝子をHEK293細胞に発現させ、放射性メチオニンによって新生タンパク質を放射標識した後、チェイス法によって標識タンパク質の消失を検討した。標識直後、0.5、1、2時間後のNHKタンパク質の量を免疫沈降によって算定した。Mockは何もトランスフェクトしていない対照実験を示す。ERdj5の過剰発現細胞ではHNKの分解が促進されている(NHK/ERdj5)。また、ERdj5に存在する4つのCXXCモチーフのシスティン残基に変異を入れる(セリンSに変異)事によって、ERdj5の還元活性を消失させると分解促進活性は見られなくなる(NHK/CS1234)。
【図7】細胞内においてERdj5はミスフォールドタンパク質を還元し、高分子から低分子へ移行させることを示す写真である。基質として免疫グロブリンJ鎖を細胞にトランスフェクトし、還元剤DTT存在下、非存在下に電気泳動を行う。J鎖だけをトランスフェクトした場合、DTT非存在下(DTT -)ではJ鎖は主として高分子量複合体のところに泳動される。これがジスルフィド結合を介した高分子量複合体であることは、DTT存在下にそれらが還元型単量体のところに泳動されることから明らかである。J鎖とともに、ERdj5を細胞にトランスフェクトすると、DTT非存在下にも高分子量複合体は少なくなり、還元型単量体のバンドが増える。これはERdj5によって、J鎖のジスルフィド結合が還元され、単量体化されたことを示している。
【図8】ERdj5の酸化還元活性におけるCXXCモチーフの役割を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のジスルフィド結合還元活性を有することを特徴とする、単離された小胞体タンパク質。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とするタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とするタンパク質
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつジスルフィド結合還元活性を有することを特徴とするタンパク質断片。
【請求項3】
少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)およびCGPC(配列番号:9)からなる群より選択される少なくとも1つ以上のCXXCモチーフであることを特徴とする、請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片。
【請求項4】
少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)であることを特徴とする、請求項1に記載のタンパク質または請求項2記載のタンパク質断片。
【請求項5】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の小胞体タンパク質、または(e)に記載のタンパク質断片によって、ミスフォールドタンパク質を分解および/または除去する方法。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質断片
【請求項6】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の小胞体タンパク質、または(e)に記載のタンパク質断片によって、ミスフォールドタンパク質を還元する方法。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質断片
【請求項7】
少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)およびCGPC(配列番号:9)からなる群より選択される少なくとも1つ以上のCXXCモチーフであることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)であることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項9】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の小胞体タンパク質、もしくは(e)に記載のタンパク質断片、またはこれらをコードするDNAを有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の分解を促進するための試薬。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質断片
【請求項10】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の小胞体タンパク質、もしくは(e)に記載のタンパク質断片、またはこれらをコードするDNAを有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質を還元するための試薬。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質断片
【請求項11】
少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)およびCGPC(配列番号:9)からなる群より選択される少なくとも1つ以上のCXXCモチーフであることを特徴とする、請求項9または10に記載の試薬。
【請求項12】
少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)であることを特徴とする、請求項9または10に記載の試薬。
【請求項13】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の小胞体タンパク質、または(e)に記載のタンパク質断片を有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患を治療するための薬剤。
(a)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAによってコードされるタンパク質
(b)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質
(e)(a)〜(d)に記載のタンパク質の断片であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質断片
【請求項14】
ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患が、神経変性疾患、糖尿病、アミロイドーシス、またはプリオン病であることを特徴とする、請求項13に記載の薬剤。
【請求項15】
少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)およびCGPC(配列番号:9)からなる群より選択される少なくとも1つ以上のCXXCモチーフであることを特徴とする、請求項13または14に記載の薬剤。
【請求項16】
少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)であることを特徴とする、請求項13または14に記載の薬剤。
【請求項17】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のDNAを含む遺伝子治療用ベクター。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1または2に記載の塩基配列を含むDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるタンパク質であって、少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)を有することを特徴とし、かつ配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNA
【請求項18】
少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CSHC(配列番号:6)、CPPC(配列番号:7)、CHPC(配列番号:8)およびCGPC(配列番号:9)からなる群より選択される少なくとも1つ以上のCXXCモチーフであることを特徴とする、請求項17に記載のベクター。
【請求項19】
少なくとも1つ以上のCXXCモチーフ(配列番号:4)が、CHPC(配列番号:8)またはCGPC(配列番号:9)であることを特徴とする、請求項17に記載のベクター。
【請求項20】
以下の工程(a)〜(c)を含む、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患を治療するための薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)請求項1に記載のタンパク質をコードするDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞における請求項1に記載のタンパク質の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該DNAの発現レベルを増加させる化合物を選択する工程
【請求項21】
以下の(a)〜(d)の工程を含む、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患を治療するための薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)請求項1に記載のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを増加させる化合物を選択する工程
【請求項22】
請求項1に記載のタンパク質またはその断片に特異的に結合する抗体。
【請求項23】
被験者において、請求項1に記載のタンパク質またはその断片の量を請求項22に記載の抗体を用いて定量する工程を含む、ミスフォールドタンパク質の蓄積を原因とする疾患、または膿胞性繊維症の検査方法。
【請求項24】
下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAを細胞内に導入することによって、ミスフォールドタンパク質の分解を抑制する方法。
(a)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNAをコードするDNA
(d)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片を特異的に認識するアプタマーをコードするDNA
【請求項25】
下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAを有効成分として含有する、ミスフォールドタンパク質の分解を抑制するための試薬。
(a)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNAをコードするDNA
(d)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片を特異的に認識するアプタマーをコードするDNA
【請求項26】
下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNAを有効成分として含有する、膿胞性繊維症を治療するための薬剤。
(a)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片をコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNAをコードするDNA
(d)請求項1に記載のタンパク質または請求項2に記載のタンパク質断片を特異的に認識するアプタマーをコードするDNA
【請求項27】
以下の工程(a)〜(c)を含む、膿胞性繊維症を治療するための薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)請求項1に記載のタンパク質をコードするDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞における請求項1に記載のタンパク質の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該DNAの発現レベルを減少させる化合物を選択する工程
【請求項28】
以下の(a)〜(d)の工程を含む、膿胞性繊維症を治療するための薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)請求項1に記載のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程
(b)該細胞または該細胞抽出液に被検化合物を接触させる工程
(c)該細胞または該細胞抽出液における該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(d)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを減少させる化合物を選択する工程

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図3】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−161185(P2008−161185A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313282(P2007−313282)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(301050902)株式会社ロコモジェン (15)
【Fターム(参考)】