説明

小麦粉又は小麦粉生地の改質方法及び装置

【課題】加工原料としての有効利用できる改質された小麦粉生地を得る方法およびそのための装置を提供する。
【解決手段】陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の電気化学反応槽に、小麦粉及び水を含む混合物Aを入れて通電処理し、反応槽1全体から該混合物を回収して均一にするか、該混合物を乾燥し、次いで粉末化する。通電処理中、小麦粉及び水を含む混合物の温度を5〜30℃の範囲に維持することが望ましく、また、定電流条件を10〜70mAの範囲にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質された小麦粉、小麦粉生地を得る方法に関する。詳しくは、本発明は、食品加工に於いて利用される小麦粉の特性を直流電流の通電を用いて改良し、加工原料としての有効利用性を向上させる方法に関する。本発明はさらに、上記の方法の実施に使用するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉は加水及び物理的撹拌により粘弾性のある小麦粉生地を形成し、これを成型加工し、あるいは醗酵させ、焼成や茹で上げなどによりパン、菓子、麺類などの食品となる。
生地形成には、小麦タンパク質が相互作用することにより、グルテンという巨大組織を形成することが重要な役割を果たすが、この生地の性質を支配しているのは、主に小麦粉のタンパク質含量である。各種の小麦粉を用いた食品に最適な生地を形成するためには、適切なタンパク質含量を持つ品種の小麦粉を選択するか、これを混合することにより最適なタンパク質含量を得ている。しかし、最適な品種の小麦粉は高価な場合があり、また、混合する場合も最適な混合比率に関する情報は限られており、経験則が適用できるのみである。
【0003】
従来、小麦粉あるいは小麦粉生地の性質を改良するための手段が種々提案されている。
例えば製麺工程において、麺生地又は麺帯もしくは麺線に対して電極間で通電させてジュール発熱により麺生地または麺帯もしくは麺線を加熱することが提案されている(特許文献1参照)。また、電解質を含む穀粉生地または麺帯に通電加熱することによって生地の形成、成形、熟成が促進され、化学的な生地の変化も生じると提案されている(特許文献2及び3参照)。その他、小麦粉に、静電気(正電荷、負電荷)を負荷し小麦粉の周りの酸素、窒素を活性化し、エージングと称される挽きたて小麦粉の安定化工程(自然酸化とも称される)を時間短縮する方法が提示されている(特許文献4参照)。
例えば上述の特許文献にあるように小麦粉生地の温度を上昇させると、生地の生成が促進する一方、生地がゆるくなる、べたつく、その結果、作業性が悪くなるといった問題が懸念される。上記のような先行技術を鑑み、加熱作用による不都合のない小麦粉又は小麦粉生地の改質方法が望まれる。
【0004】
【特許文献1】特開平2−154656号公報
【特許文献2】特開2001−204374号公報
【特許文献3】特開2001−218548号公報
【特許文献4】特開2001−340058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加熱作用によらない小麦粉又は小麦粉生地の改質方法を提供することである。本発明の目的は、小麦粉のタンパク質含量にかかわりなく特定の生地特性を得ることができ、小麦の品種によらず、所望の物性を有する小麦粉生地を得る方法を提供することである。本発明の目的はまた、添加物や副資材の配合に頼らない、小麦粉生地の改質方法を提供することである。また、本発明の目的は、小麦粉のタンパク質含量や品種によらずに、所望の小麦粉生地物性を達成することのできる、改質小麦粉を得る方法を提供することである。
本発明の目的はさらに、上記の方法を実施するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、小麦粉生地に直流電流を流すことにより、生地の性質を変化させることができることを見出した。具体的な機序として、陽極側における酸化的な環境により反応が起こり小麦粉生地の一部のSH結合が酸化されSS結合することから生地の性質が変化し、小麦タンパク質の結合が強固になって、生地として粘弾性の高い性質が得られると考えられる。また陰極側における還元的な環境により、小麦粉生地の一部のSS結合が還元され活性なSH基となることから生地の性質が変化すること、さらにその後の処理によって、例えばミキシングなどの機械的な力が加えられると再結合やSS交換反応により大きな分子が形成され、粘弾性が強い生地を得ることが可能であると考えられる。
【0007】
従って本発明は、小麦粉及び水を含む混合物を電気化学反応槽において、通電処理し、反応槽全体から該混合物を回収して、回収した該混合物を均一にすることを含む、小麦粉生地の改質方法である。本発明はさらに具体的に、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の電気化学反応槽に、小麦粉及び水を含む混合物を入れて、通電処理し、反応槽全体から該混合物を回収して、回収した該混合物を均一にすることを含む、小麦粉生地の改質方法である。本発明はまた、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の電気化学反応槽に、小麦粉及び水を含む混合物を入れて、通電処理し、反応槽全体から該混合物を回収して、回収した該混合物を均一にして、該混合物を乾燥し、次いで粉末化することを含む、小麦粉の改質方法である。本発明において使用できる、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の電気化学反応槽は、図1〜4に概略的に例示される。以下、電気化学反応槽を単に反応槽と表すこともある。
【0008】
上記小麦粉生地又は小麦粉の改質方法において、通電処理中、小麦粉及び水を含む混合物の温度を5〜30℃の範囲に維持することが望ましく、また、定電流条件を10〜70mAの範囲にすることが望ましい。
上記方法の出発原料となる小麦粉及び水を含む混合物として、小麦粉生地が挙げられる。該小麦粉生地の具体例として、バッター状生地、そぼろ状生地、保型性のある塊状の生地など様々な形態の生地が含まれる。上記小麦粉の改質方法において、出発原料となる小麦粉及び水を含む混合物は特にバッター状生地が挙げられる。
本発明の方法により得られた改質された小麦粉生地は、常法に従って種々の食品の製造に用いることができる。例えば、本発明の方法により改質された小麦粉又は小麦粉生地を用いて製麺することを含む、麺類の製造方法が挙げられる。
【0009】
本発明はまた、上記方法を実施するための通電処理装置に向けられている。本発明の方法で使用する通電処理装置は、電気化学反応槽を含み、両極間に直流電流を印加して通電することができる装置である。その一例として、電気化学反応槽を含み、電極が平板状の電極である、通電処理装置がある。このような通電処理装置は、図1及び2に概略的に示される。装置の別の例として、電気化学反応槽を含み、電極がシート状の電極である、通電処理装置がある。このような通電処理装置の例は、図3に概略的に示される。さらに、別の装置の例として、電気化学反応槽を含み、多数の電極棒を使用した通電処理装置が挙げられる。この装置としては、より具体的には、電気化学反応槽を含み、棒状の陽極及び陰極がそれぞれ複数あり、陽極棒と陰極棒とが隣り合うように近接して配置された電極を備えている、通電処理装置がある。このような通電処理装置の例は、図4に概略的に示される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小麦の品種によらず、例えば高価な品種の小麦にたよらずに、所望の最適な小麦粉生地を製造することが可能となる。従来の小麦粉生地の改質は、添加物・副資材配合による改質が主流であり、その結果、使用資材にアレルゲン原料が含まれていたりする制限の面や製造方法が複雑化したりコスト増の面で問題が生じやすい。本発明によれば、添加物や副資材の配合に頼らずに簡便な方法で、小麦粉又は小麦粉生地を改質することができる。このようにして得られた小麦粉生地及び小麦粉は、生地として粘弾性の高い性質を有する。
本発明により回収される材料は特に生地物性が固くなる傾向であるが、その程度は条件を変えることで任意に変えることができる。
小麦粉及び水を含む混合物へ通電することにより、含まれる小麦タンパク質の相互作用の程度を、通電の電力量や時間を制御することにより自由にコントロールできるとともに、従来の小麦粉より強固な相互作用を起こすことも可能である。このため、撹拌のみで小麦タンパク質の相互作用をコントロールしている従来の小麦粉よりも、本発明により得られる小麦粉又は小麦粉生地は食品原料として幅広く応用することができる。
本発明の方法により得られた、粘弾性の高い小麦粉又は小麦粉生地は、食品原料としてパン、菓子類、麺類などの食品に幅広く使用することができ、特にこしの強い麺類(うどん、中華麺、パスタ類など)などを製造するのに有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の方法の出発原料となる小麦粉及び水を含む混合物は、小麦粉生地であり得、この小麦粉生地の具体例として、バッター状生地(均一なスラリー)、そぼろ状生地、保型性のある塊状の生地など、種々の形態の生地が含まれる。
該混合物における小麦粉と水との質量比は、小麦粉100質量部に対して一般的に水25〜170質量部が適当である。小麦粉への加水量は、改質された小麦粉生地を得る場合、該小麦粉生地の用途によって、例えばパスタ用生地、うどん用生地、パン用生地あるいはバッター(均一なスラリーであって、例えば天ぷらの衣にする)によって、適宜選択することができる。加水量は、小麦粉100質量部に対して、例えばパスタ用生地であれば25〜40質量部程度が一般的であり、うどん用生地であれば30〜50質量部程度が一般的であり、パン用生地であれば50〜70質量部程度が一般的であり、バッター状生地であれば100〜170質量部が一般的である。
【0012】
出発原料となる小麦粉及び水を含む混合物には、改質された小麦粉生地を得る場合、生地の用途に応じて、塩(NaCl)、かん水(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸類のカリウム又はナトリウム塩など)、デンプン、砂糖、油脂、他の穀粉、タンパク質素材、pH調整剤、保存剤、調味料などの副資材を含めておいてもよい。このような副資材の量は、目的とする食品に応じて適量が用いられる。塩(NaCl)、かん水(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸のカリウム又はナトリウム塩など)、デンプン、砂糖、油脂、他の穀粉、タンパク質素材、pH調整剤、保存剤、調味料などの副資材は、通電処理を終えた後の小麦粉生地に添加することもできる。
最も好ましい態様としては、出発原料として小麦粉及び水からなる混合物を使用する。
出発原料であるバッター状生地(均一なスラリー)、そぼろ状生地、保型性のある塊状の生地などの作製方法は、通常の混練の仕方でよく、各種ミキサーを使用して、適宜の時間混合すればよい。
このように調製された出発原料を反応槽に入れる。
【0013】
こうして反応槽に出発原料を入れた後、両極間に直流電流を印加して通電する。
通電処理することの具体的機序として、小麦粉生地への通電処理により、陽極側における酸化的な環境により反応が起こり小麦粉生地の一部のSH結合が酸化されSS結合することから生地の性質が変化し、小麦タンパク質の結合が強固になって、生地として粘弾性の高い性質が得られると考えられる。また陽極側における環境により本来水には不溶である成分が大部分を占める小麦タンパク質が、水溶性もしくは高度の水分散性を獲得し、生地中の水分に溶出することを見出した。その後、ミキシングなどの機械的な力が加えられると再結合やSS交換反応などにより大きな分子が形成され、いっそう粘弾性が強い生地にすることも可能である。陰極側の通電試料の電気泳動分析の結果、特に顕著な変化は認められなかった。陰極側では還元的な環境となり、一部のSS結合が還元され活性なSH基となると考えられる。さらに、その後、ミキシングなどの機械的な力が加えられると再結合やSS交換反応により大きな分子が形成され、いっそう粘弾性が強い生地にすることも可能である。以上の様に陽極側、陰極側の環境において小麦粉生地中のタンパク質が活性化された状態となり、これらに機械的なミキシングが加えられることによりSS交換反応、疎水結合、イオン結合、水素結合などが活発に生じ粘弾性が強い生地にすることができると考えられる。
【0014】
本発明の方法によれば、通電処理中に、小麦粉及び水を含む混合物が昇温しないことが望ましく、かつ、上記したような効果を得るための通電条件は、ごく微弱なもので充分である。通電条件としては、定電流条件は10〜70mAの範囲、電圧は10〜100Vの範囲、時間は30分〜3時間の範囲が適当であり、試料温度は室温でよく、範囲として5〜30℃、好ましくは5〜25℃である。上記のような定電流条件、電圧及び通電時間では、品温はほとんど上昇しない。また、通電時間の短縮のために、電圧や電流を上げることも可能である。また物質の電気抵抗は温度により変化するので必要なら加温・冷却装置を反応槽に設置し望みの生地温度に誘導することも可能である。
このように処理された小麦粉及び水を含む混合物を反応槽全体から回収して、回収された該混合物を均一にする。処理された小麦粉及び水を含む混合物を均一にするには、適合な混合操作を行えばよい。例えばリボンミキサーなどの一般的な混合機で混合すればよい。
このようにして得られた小麦粉生地は、そのまま、単独で原材料として使うことの他、加工プロセスの中で原材料に添加して、材料の加工特性を調整することに用いることもできる。添加する場合は、通電後そのまま加えることの他、乾燥し、添加用粉末として原材料の一部とすることもできる。
【0015】
本発明はさらに、上記のように通電処理された小麦粉及び水を含む混合物を、反応槽全体から該混合物を回収して、回収した該混合物を均一にして、該混合物を乾燥し、次いで粉末化することを含む、小麦粉の改質方法に向けられている。この小麦粉の改質方法は、出発原料として小麦粉及び水を含むバッター状生地を用いることが適している。すなわち、出発原料として小麦粉及び水を含むバッター状生地を用いて上記のように通電処理して、反応槽全体からバッター状生地を回収して、均一にし、その後、該生地を乾燥し、次いで粉末化することを含む方法である。
反応槽から回収したバッター状生地の乾燥は、適宜な手段で実施することができる。中でも凍結乾燥が好ましく、凍結乾燥は通常の棚式などの乾燥方法を採用して通常の条件が採用でき、例えば真空度0.13Pa、トラップ温度 −45℃の条件が用いられる。こうして凍結乾燥した生地を、粉末化する手段としては、ホモジナイザー型の粉砕機やピンミル、超遠心粉砕機などのミル類などを採用することができ、また、適当な粒度に粉砕することができ、例えば粒度として200μm以下が適当である。
こうして得られた改質小麦粉は、粘弾性が強く、こしの強い生地を作るのに適している。このような改質小麦粉は、単独で原料として用いることができるほか、添加用副原料として使用することができる。
【0016】
本発明の方法の実施に使用する通電処理装置の反応槽において、電極の材質としては、炭素、チタン及びカーボンファイバーなどが挙げられる。
電極の形状として棒状、平板状、針金状、シート状などがあり、電気が流れる面積を多くする観点から、平板状が好ましく、電極として、カーボンファイバーの板・シート、チタン板などが特に好ましく挙げられる。電極は反応槽の壁に設置されていてもよい。電極の面積を増やすために、多層電極とすることが提案される。具体的な態様として、2枚以上の平板状の電極を設置することが挙げられ、特に平面が隣り合うように2枚以上、好ましくは4枚以上、例えば4〜6枚並置することが挙げられる。また、多層電極の別の態様として、シート状電極を折り畳んだ形態、例えばカーボンファイバーシートを折り畳んだ形態がある。
また別の電極の態様として、多数の電極棒を備えた電極も好ましい。この実施態様としては、棒状の陽極及び陰極がそれぞれ複数あり、陽極棒と陰極棒とが隣り合うように近接して配置された剣山型の電極がある。このような陽極棒、陰極棒の材質としては、チタン、カーボンなどが適当である。
また、反応槽には温度調整装置を付けることが可能で、加温・冷却により5〜30℃の任意の生地温度を誘導してもよい。
【0017】
本発明の方法で使用できる通電処理装置の反応槽と電極の形態の例として、図1〜4に概略的に示されるものがある。
図1は、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の反応槽を表す。図2は、一槽式の反応槽において、電極が多層電極である構造の一例を表す。図3は、電極がシート状の畳まれた多層電極である反応槽の構造を断面からみた例を表し、このような多層電極は例えばカーボンファイバーシートで作ることができる。この多層電極は、例えば支持棒を反応槽上部に一定間隔で設置し、それにカーボンファイバーシートを掛け、畳んだ形状にすることにより実施できる。
図4は、多数の電極棒を備えた電極を使用した通電処理装置を表し、具体的には、棒状の陽極及び陰極がそれぞれ複数あり、陽極棒と陰極棒とが隣り合うように近接して配置された剣山型の電極を備えた反応槽を使用した装置であり、図4Aは該反応槽の構造を側面から見た図であり、図4Bは、該電極を下方から見た図である。
【実施例】
【0018】
[実施例1及び比較例1]
薄力粉(日本製粉(株)製「ハート」)600gに微粉砕氷300gをよく混合し、図3に概略される構造の一槽式の反応槽に該生地をセットした。氷が融解後、通電を行った。
電極として陽極側及び陰極側ともにカーボンファイバーシート(東レ(株)製)を用い、通電は40V、30mA、1時間の条件で行った。生地温度は24℃であった。反応槽全体から生地を回収し、均一にし、その一部をミキサーに移し、生地450gに対し食塩15gを加え、15分間混合し生地を調製後、30分間生地を寝かした。常法に従ってロール式製めん機を用いて厚み5mmと2mmの麺帯を調製した。試食用のうどんは厚み2mmの麺帯を用い、幅3mm(#10切刃)、厚み2mmの麺線を調製した。
比較例1として、同じ生地配合で得た生地を、通電せずに同じ時間だけ経過させ(生地温度は24℃)、これを用いて上記と同様に麺帯とうどんを得た。
こうして得た厚み5mm麺帯は直径2.5cmにくり抜きレオメータ(RHEOTECH FUDOH RHEO METER RT-2002D-D + TR801レオプロッター、直径20mmの円形プランジャー、圧縮率6cm/分)を用いて圧縮法で硬さを測定した。この測定値が高いほど硬いことを示す。生地物性の硬さ測定にはくり抜いた生地3枚を用い、茹で生地物性測定には同じくり抜いた麺帯を沸騰水で10分間茹で上げ1枚を用いた。
麺は茹で上げ、パネラー10名により、試食評価した。
【0019】
【表1】

この結果から、通電処理した生地により、比較例の生地と比較して、硬さが増し、こしが強い麺が得られたことがわかる。特に茹で生地の物性が変化することがわかる。
【0020】
[参考例]
上記実施例1と同様にして、但し通電を定電流1Aで行ったところ、直ぐに生地温度が40℃を越え生地が柔らかくべとつき、製麺できる生地とならなかった。従って、強い電流を通電すると発熱が生じ、小麦粉生地が柔らかくべたつき、製麺不可となることが判った。
【0021】
[実施例2及び比較例2]
デュラム小麦粉(日本製粉(株)製「ジョーカーA」)300gに水105gを加え、菓子用縦型ミキサーで5分間混合しそぼろ状生地を調製後、図4に概略される構造の一槽式の反応槽に該生地をセットした。電極として陽極側及び陰極側ともに、チタン棒による多数の電極棒を備えた剣山型の電極を用い、通電は45V、30mA、30分の条件で行った。生地温度は23℃であった。反応槽全体から生地を回収し、均一にし、常法に従ってロール式製めん機を用いて平麺パスタ(#8角切刃、厚み1.2mm)を調製した。
比較例2として、同じ生地配合で得たそぼろ生地を、通電せずに30分経過させ(生地温度は23℃)、これを用いて上記と同様に平麺パスタを得た。こうして得たパスタを茹で上げ、パネラー10名により、硬さ及び弾力について試食評価した。判定基準は次の通りである。10名の判定値の平均を求め、表2に示す。
固さ
5:硬い、4:やや硬い、3:適度な硬さ、2:やや柔らかい、1:柔らかい
弾力
5:弾力が強い、4:やや弾力が強い、3:適度な弾力、2:やや弾力が弱い
1:弾力が弱い
【0022】
【表2】

この結果から、通電処理した生地により、比較例の生地と比較して固さが増し、こしが強い麺が得られたことがわかる。
【0023】
[実施例3及び比較例3]
薄力粉(日本製粉(株)製「ハート」)300gに水300gを加え、電動ミキサーで1分間混合し小麦粉バッター状生地を調製し、図2に概略される構造の反応槽にセットした。電極には陰極側と陽極側に炭素電極(板状4層)を用い、60mAの定電流条件で3時間通電を行った。この間、電圧は16.5〜39V、試料温度は18℃であった。
こうして3時間通電後のバッター状生地を、IWAKI FRD-50Mを使用し真空度 0.13Pa、トラップ温度 -45℃で凍結乾燥した。その後、超遠心粉砕機レッチェミルを使用し粉砕した。粉砕粉は目開き210μmの篩いで篩い、抜けたものを採取し通電処理小麦粉とした。
一方比較例3として、上記のように調製した小麦粉バッター状生地を通電せずに、18℃の品温で3時間経過させた。この3時間経過後のバッター状生地を、実施例3と同様に凍結乾燥して粉砕し篩い分けし、小麦粉を得、これをコントロール小麦粉とした。
【0024】
[試験例]
以下の各種小麦粉300gを用いてうどんを試作した。
1.標準の麺用小麦粉(薄力粉(日本製粉(株)製「ハート」)と強力粉(日本製粉(株)製「イーグル」)の1:1質量比の混合物)
2.上記強力粉のみ
3.上記薄力粉のみ
4.上記薄力粉250gと実施例3で得た通電処理小麦粉50g
5.上記薄力粉250gと比較例3で得たコントロール小麦粉50g
生地配合は、上記の小麦粉1〜5をそれぞれ300g、塩10g、水150gとした。
但し、上記小麦粉4及び5の場合、乾燥処理により水分が低くなるので、小麦粉の水分を薄力粉の水分に換算して、生地水分が薄力粉のみの場合と同等になるように加水量を調整した。
上記生地配合物をミキサーで15分間混合後、塊状生地を調製し、2時間静置した。生地は常法に従い、ロール式製めん機を用いて厚み2mmの麺帯にした。この麺帯を#10角切刃ロールで麺線状に切り、ゆでて試食した。表3に結果を示す。
【0025】
【表3】

試食による官能評価において食感の評価は、通電処理小麦粉で一部置換した上記小麦粉4によれば、標準のめんに近いかやや硬いものであった。
この結果から、強力粉を用いることなく、主に薄力粉を用いて、本発明の方法で得た改質小麦粉を添加することにより、こしの強い麺類を作ることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の方法の実施に使用できる通電処理装置の一例を表し、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の反応槽を含む通電処理装置の概略図である。
【図2】本発明の方法の実施に使用できる通電装置装置の一例を表し、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の反応槽を含み、電極が多層電極である、通電処理装置の概略図である。
【図3】本発明の方法の実施に使用できる通電処理装置の一例を表し、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の反応槽を含み、電極がシート状で折り畳まれた多層電極である、通電処理装置の概略図である。
【図4A】本発明の方法の実施に使用できる通電処理装置の一例として、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の反応槽を含み、棒状の陽極及び陰極がそれぞれ複数あり、陽極棒と陰極棒とが隣り合うように近接して配置された剣山型の電極を備えた通電処理装置を、側面から見た概観を表す。
【図4B】図4Aの通電処理装置を、電極の下方から見た概観を表す。
【符号の説明】
【0027】
1 反応槽
2 電極
A 小麦粉及び水を含む混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉及び水を含む混合物を電気化学反応槽において、通電処理し、反応槽全体から該混合物を回収して、回収した該混合物を均一にすることを含む、小麦粉生地の改質方法。
【請求項2】
陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の電気化学反応槽に、小麦粉及び水を含む混合物を入れて、通電処理し、反応槽全体から該混合物を回収して、回収した該混合物を均一にすることを含む、小麦粉生地の改質方法。
【請求項3】
陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の電気化学反応槽に、小麦粉及び水を含む混合物を入れて、通電処理し、反応槽全体から該混合物を回収して、回収した該混合物を均一にして、該混合物を乾燥し、次いで粉末化することを含む、小麦粉の改質方法。
【請求項4】
通電処理中、小麦粉及び水を含む混合物の温度を5〜30℃の範囲に維持する、請求項1〜3のいずれか1項記載の小麦粉生地又は小麦粉の改質方法。
【請求項5】
通電処理中、定電流条件を10〜70mAの範囲にする、請求項1〜4のいずれか1項記載の小麦粉生地又は小麦粉の改質方法。
【請求項6】
小麦粉及び水を含む混合物が小麦粉生地である、請求項1〜5のいずれか1項記載の小麦粉生地又は小麦粉の改質方法。
【請求項7】
小麦粉及び水を含む混合物がバッター状生地である、請求項3記載の小麦粉の改質方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法により改質された小麦粉生地又は小麦粉を用いて製麺することを含む、麺類の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法を実施するための通電処理装置であって、電気化学反応槽を含み、電極が平板状の電極である、通電処理装置。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法を実施するための通電処理装置であって、電気化学反応槽を含み、電極がシート状の電極である、通電処理装置。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法を実施するための通電処理装置であって、電気化学反応槽を含み、多数の電極棒を備えた通電処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2009−207436(P2009−207436A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55060(P2008−55060)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月6日 「社団法人 日本食品科学工学会」主催 「日本食品科学工学会 第54回大会」における文書による発表 〔刊行物等〕 平成19年9月7日 「社団法人 日本家政学会 東北支部」主催 「日本家政学会 東北・北海道支部 第52回 研究発表会」における文書による発表
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【Fターム(参考)】