説明

尿素水噴射弁

【課題】尿素水の微粒化を促進させることで、アンモニア供給不足によるNOx浄化率の悪化やアンモニアスリップの問題を解消する尿素水噴射弁を提供する。
【解決手段】内燃機関の排気通路へ尿素水を噴射する尿素水噴射弁であって、尿素水を噴射する複数の噴孔28aが同心円上に形成されるとともに、噴孔28aに通じる尿素水通路27が内部に形成されたノズルホルダ24、ノズルボディ25及び噴孔プレート28等から構成されるボディ部材と、ノズルボディ25に形成された円環形状のシート部25aに着座離座することで尿素水通路27を開閉するニードル26と、を備える。そして、シート部25aの直径であるシート径Dsと、噴孔28aの前記同心円の直径であるピッチ径Dpとの比率Ds/Dpを、1.3<Ds/Dp<2.5とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路へ尿素水を噴射する尿素水噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発電所、各種工場、及び車両(特にディーゼルエンジン搭載の車両)等の内燃機関に適用されて、内燃機関の排気中のNOx(窒素酸化物)を高い浄化率で浄化する排気浄化装置として、特許文献1等に記載の尿素SCR(選択還元)システムの開発が進められており、一部実用化に至っている。この排気浄化装置は、NOx還元剤としての尿素水を排気通路へ噴射する尿素水噴射弁と、排気中のNOxを選択的に吸着する触媒とを備えている。そして、尿素水噴射弁から排気中へ噴射された尿素水は、排気熱で加水分解されることによりアンモニア(NH3)を生成し、生成されたアンモニアが触媒上でNOxを還元させることにより、その排気を浄化する。
【0003】
この種の尿素水噴射弁は、ガソリンを吸気通路へ噴射する噴射弁と構成が類似しており、以下に説明するボディ部材及びニードルを有して構成されることが一般的である。すなわち、ボディ部材には、尿素水を噴射する複数の噴孔が同心円上に形成されるとともに、噴孔に通じる尿素水通路が内部に形成されている。そして、ボディ部材に形成された円環形状のシート部にニードルが着座離座することで尿素水通路を開閉し、ひいては、尿素水の噴射と噴射停止を切替制御する。
【特許文献1】特表2002−503783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、尿素水噴射弁から噴射される尿素水はできるだけ微粒化させることが望ましく、微粒化が不十分であると尿素水が加水分解されるタイミングが遅くなる。すると、触媒へのアンモニア供給が不足してNOx浄化率が悪化するといった問題や、触媒の出口からアンモニアが漏れ出すアンモニアスリップといった問題が生じる。
【0005】
しかしながら、従来のガソリン用噴射弁をそのまま尿素水噴射弁に適用させようとすると、尿素水はガソリンより気化しにくいため噴射直後の噴霧同士が衝突して粒子の巨大化を誘発しやすく、微粒化されにくいことが分かった。しかも、そもそも尿素水はガソリンより高粘性のため、引きちぎりによる微粒化が為されにくい物性である。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、尿素水の微粒化を促進させることで、アンモニア供給不足によるNOx浄化率の悪化やアンモニアスリップの問題を解消する尿素水噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明では、
内燃機関の排気通路へ尿素水を噴射する尿素水噴射弁であって、
尿素水を噴射する複数の噴孔が同心円上に形成されるとともに、前記噴孔に通じる尿素水通路が内部に形成されたボディ部材と、
前記ボディ部材に形成された円環形状のシート部に着座離座することで前記尿素水通路を開閉するニードルと、
を備え、
前記シート部の直径であるシート径(Ds)と、前記同心円の直径であるピッチ径(Dp)との比率(Ds/Dp)を、1.3<Ds/Dp<2.5としたことを特徴とする。
【0009】
まず、Ds/Dp<2.5としたことによる効果を以下に説明する。Ds/Dpが過大である、つまりシート径Dsに対するピッチ径Dpの値が過大であると、複数の噴孔が互いに近づくこととなる。すると、先述の如く尿素水は気化しにくいため噴射直後の噴霧同士が衝突して粒子が巨大化し、微粒化の妨げとなる。これに対し請求項1記載の発明では、Ds/Dp<2.5としたことによりシート径Dsに対するピッチ径Dpの値が十分に小さくなり、複数の噴孔を十分に離間させることができる。よって、噴射直後の噴霧同士が衝突して巨大化することを抑制でき、尿素水の微粒化を促進できる。したがって、アンモニア供給不足によるNOx浄化率の悪化やアンモニアスリップの問題を解消できる。
【0010】
図7は、本発明者による試験結果であり、噴射された尿素水の平均噴霧粒径(SMD)を縦軸に、尿素水の噴射圧力を横軸に示すグラフである。そして、グラフ中のA1はDs/Dpが2.63の場合、A2,A3はDs/Dpが1.76の場合の試験結果である。なお、A1,A2の試験結果が得られた噴射弁は噴孔の数が6個であり、A3の試験結果が得られた噴射弁は噴孔の数が4個である。この試験結果によれば、Ds/Dp<2.5とすることで十分に微粒化できることが分かる。
【0011】
次に、1.3<Ds/Dpとしたことによる効果を以下に説明する。Ds/Dpが過小である、つまり、例えばシート径Dsをピッチ径Dpよりも小さくすると(Ds/Dp<1)、尿素水通路のうちシート部から噴孔の流入口にかけての連通路部分(例えば、図4中の符号25cに示す部分)において、シート径よりも拡大した拡大部を形成させることが必要となり、このようにボディ部材を加工することは座ぐり等の加工を要し、ボディ部材の成形性が極めて悪くなる。これに対し請求項1記載の発明では、1.3<Ds/Dpとしたことにより、シート部から噴孔の流入口にかけての連通路部分について上述した拡大部の形成を不要にできる。よって、ボディ部材の成形性悪化を抑制できる。
【0012】
請求項2記載の発明では、前記噴孔の流入口が流出口よりも前記同心円の径方向外側に位置するよう、前記噴孔は前記ニードルの軸方向に対して傾くテーパ状に形成されており、前記流出口のうち前記同心円の径方向内側に位置する部分を内側エッジ部(図4中の符号28d参照)と称し、径方向外側に位置する部分を外側エッジ部(図4中の符号28e参照)と称し、前記尿素水通路のうち前記ニードル先端より下流側に位置するとともに前記噴孔の上流側に位置する部分を連通路(図4中の符号25b参照)と称した場合において、前記外側エッジ部を、前記連通路の内壁面よりも前記同心円の径方向外側に位置させるとともに、前記内側エッジ部を、前記連通路の内壁面よりも前記同心円の径方向内側に位置させることを特徴とする。
【0013】
このように、外側エッジ部を連通路の内壁面よりも外側に位置させることで、複数の噴孔を十分に離間させることができる。よって、噴射直後の噴霧同士が衝突して巨大化することを抑制でき、尿素水の微粒化を促進できる。また、内側エッジ部を連通路の内壁面よりも内側に位置させることで、シート径よりも拡大した拡大部を連通路に形成させることを不要にできる。よって、ボディ部材の成形性悪化を抑制できる。
【0014】
請求項3記載の発明では、
内燃機関の排気通路へ尿素水を噴射する尿素水噴射弁であって、
尿素水を噴射する複数の噴孔が同心円上に形成されるとともに、前記噴孔に通じる尿素水通路が内部に形成されたボディ部材と、
前記ボディ部材に形成された円環形状のシート部に着座離座することで前記尿素水通路を開閉するニードルと、
を備え、
前記噴孔の流入口が流出口よりも前記同心円の径方向外側に位置するよう、前記噴孔は前記ニードルの軸方向に対して傾くテーパ状に形成されており、
前記流出口のうち前記同心円の径方向内側に位置する部分を内側エッジ部(図4中の符号28d参照)と称し、径方向外側に位置する部分を外側エッジ部(図4中の符号28e参照)と称し、前記尿素水通路のうち前記ニードル先端より下流側に位置するとともに前記噴孔の上流側に位置する部分を連通路(図4中の符号25b参照)と称した場合において、
前記外側エッジ部を、前記連通路の内壁面よりも前記同心円の径方向外側に位置させるとともに、前記内側エッジ部を、前記連通路の内壁面よりも前記同心円の径方向内側に位置させることを特徴とする。
【0015】
このように、外側エッジ部を連通路の内壁面よりも外側に位置させることで、複数の噴孔を十分に離間させることができる。よって、噴射直後の噴霧同士が衝突して巨大化することを抑制でき、尿素水の微粒化を促進できる。したがって、アンモニア供給不足によるNOx浄化率の悪化やアンモニアスリップの問題を解消できる。また、内側エッジ部を連通路の内壁面よりも内側に位置させることで、シート径よりも拡大した拡大部を連通路に形成させることを不要にできる。よって、ボディ部材の成形性悪化を抑制できる。
【0016】
ここで、噴孔の数が過小であると尿素水の噴射量を十分に確保することが困難となり、噴孔の数が過大であると複数の噴孔を十分に離間させることが困難となり微粒化促進の妨げとなる。これらの点を鑑みて為された請求項4記載の発明では、前記噴孔の数を3個以上6個以下としたことを特徴とするので、上記噴射量確保と微粒化促進との両立を好適に図ることができる。
【0017】
ところで、ニードル外周に沿ってニードル軸方向に流通した尿素水は、シート部下流にてニードル軸方向に対して垂直方向に向きを変え、その後再び、ニードル軸方向に向きを変えて噴孔の流入口に流入し、流出口から噴射される構成が一般的である。そして、従来のガソリン用噴射弁では噴射圧力が10MPa以上の高圧であり、この場合には、シート部下流から流入口に至るまでの垂直方向に流れる経路をある程度長くすることで、尿素水を引きちぎる作用を生じさせ、微粒化が図れる場合がある。そして、上述の如く垂直方向経路をある程度長くするということは、複数の噴孔をある程度近づけさせるということである。
【0018】
しかしながら、尿素水の噴射圧力を1MPa以下の低圧にした場合には、複数の噴孔をある程度近づけさせると、上述した引きちぎる作用による微粒化のメリットがあまり得られないことに加え、圧力損失が大きくなるというデメリットが大きくなり、却って微粒化促進の妨げとなる。よって、請求項5記載の如く噴孔からの噴射圧力が1MPa以下の低圧である場合に上記請求項1〜4に記載の発明を適用させると、上記デメリットを抑制できるので、微粒化促進を図る上で好適である。
【0019】
ここで、ボディ部材のうち噴孔が形成される先端部分は内燃機関の高温排気にさらされる。そして、高温(例えば約500℃)になった先端部分は焼き鈍りによる硬度低下を招くおそれがある。また、高温(例えば160℃以上)になると、排気中に含まれる異物(例えば、PM(粒子状物質)、未燃燃料、潤滑油、添加剤、又はこれらが化学反応して生成された物質)がデポジットとして付着しやすくなることが一般的に知られており、デポジットが噴孔を詰まらせる等の不具合を誘発するおそれが生じる。
【0020】
これらの不具合を抑制すべく、請求項6記載の発明では、前記排気通路を内部に形成する排気管には、当該排気管の内壁から排気管径方向の外側に凹む収容室が形成されており、前記ボディ部材のうち少なくとも前記噴孔が形成されている先端部分は、前記収容室に配置されていることを特徴とする。
【0021】
このように、排気管の内壁から排気管径方向の外側に凹む収容室に先端部分を収容すれば、排気の主流が直接先端部分に向かって流れてくることを回避できるので、先端部分の高温化を抑制できる。なお、排気の主流から分流した副流は収容室内に流入してくるものの、当該副流は主流よりも熱エネルギが小さいため、先端部分の高温化を抑制できる。
【0022】
ところが、このように収容室に先端部分を配置した請求項6記載の発明では、噴射した尿素水が収容室の内壁面に付着してしまうことが懸念される。特に、噴孔の流入口が流出口よりも同心円の径方向外側に位置するよう、噴孔をニードルの軸方向に対して傾くテーパ状に形成する場合においては、その傾きを大きくすると前記付着が生じやすくなるため、前記傾きは所定以下となるよう制限する必要がある。そして、このような制限は、複数の噴孔から噴射された直後の噴霧同士が衝突しやすくなり、微粒化促進の妨げとなる。したがって、このように微粒化促進の妨げとなる要因を含む尿素水噴射弁に、上記請求項1〜5記載の発明を適用すれば、上述した如く複数の噴孔を十分に離間させることによる微粒化促進の効果が、好適に発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態に係る尿素水噴射弁は、図1に示す排気浄化装置を構成するものであり、この排気浄化装置は、車載ディーゼルエンジン(内燃機関)の燃焼室から排出されて排気管10の排気通路10aを流れる排気を浄化する。
【0024】
排気浄化装置は、排気浄化反応を促進する触媒装置(図示せず)と、触媒装置の排気上流側に配置され、排気通路10a中の排気に対して尿素水溶液(以下、単に尿素水と呼ぶ)を噴射供給する尿素水噴射弁20とを有して構成されている。触媒装置は、NOxの還元反応(排気浄化反応)を促進するものである。
【0025】
このような構成による排気浄化装置では、噴射弁20により排気中へ尿素水を噴射供給し、排気の流れ(排気流)を利用してその排気共々尿素水を下流の触媒へ供給するとともに、該触媒上でNOxの還元反応を行うことによってその排気を浄化する。NOxの還元に際しては、尿素水が排気熱で加水分解されることによりアンモニア(NH3)が生成され、触媒にて選択的に吸着された排気中のNOxに対し、このアンモニアが添加される。そして、同触媒上で、そのアンモニアに基づく還元反応が行われることによって、NOxが還元、浄化されることになる。
【0026】
尿素水タンク11に貯蔵された尿素水は、尿素水ポンプ12により汲み上げられて吐出され、フィルタ13を介して噴射弁20に供給される。なお、尿素水ポンプ12から吐出された余剰尿素水は、レギュレータ14により尿素水タンク11に戻される。また、尿素水ポンプ12及び噴射弁20の作動はエンジンECU15により制御される。
【0027】
次に、図2、図3及び図4を参照して噴射弁20の構成について説明する。図2は噴射弁20の断面図であり、図3は図2の拡大図、図4は図3の拡大図である。噴射弁20のハウジング21は円筒状に形成されている。ハウジング21は、第一磁性部21a、非磁性部21b及び第二磁性部21cを有している。非磁性部21bは、第一磁性部21aと第二磁性部21cとの磁気的な短絡を防止する。
【0028】
ハウジング21の軸方向の一方の端部には入口部材22が取り付けられている。入口部材22に形成された尿素水入口22aには、尿素水ポンプ12から吐出された尿素水が供給される。尿素水入口22aに供給された尿素水は、異物を除去するフィルタ23を経由してハウジング21の内周側に流入する。
【0029】
ハウジング21の他方の端部にはノズルホルダ24が設置されている。ノズルホルダ24は、円筒状に形成され、内側にノズルボディ25を収容する。ノズルボディ25は、円筒状に形成され、例えば圧入あるいは溶接などにより、ノズルホルダ24に固定されている。ノズルホルダ24とノズルボディ25との間には、複数の噴孔28aが形成された金属製の噴孔プレート28(図3参照)が挟持されている。噴孔28aは、噴孔プレート28をプレス加工することで形成してもよいし、レーザ加工により形成してもよい。なお、ノズルホルダ24、ノズルボディ25及び噴孔プレート28は、特許請求の範囲に記載の「ボディ部材」に相当するものである。
【0030】
ハウジング21、ノズルホルダ24及びノズルボディ25により、内部に収容室を形成するバルブボディを構成している。その収容室には、ニードル26が軸方向(図2の上下方向)へ往復移動可能に収容されている。ニードル26は、ノズルボディ25と概ね同軸上に配置されており、ノズルボディ25との間に尿素水が流れる尿素水通路27を形成する。ノズルボディ25は、図3に示すように先端に近づくにつれて内径が小さくなる円錐状の内壁面にシート部25aを有している。そして、ニードル26の端部には、面取り加工によるテーパ面26aが形成されており、テーパ面26aのうち最も直径が大きい部分は、ノズルボディ25のシート部25aと当接する当接部26aとして機能する。
【0031】
噴射弁20は、ニードル26を駆動する駆動部40を有している。駆動部40は、スプール41、コイル42、固定コア43、プレートハウジング44及び可動コア47を有している。スプール41は、ハウジング21の外周側に設置されるとともに絶縁材で筒状に形成され、スプール41の外周側にはコイル42が巻かれている。コイル42は、コネクタ45の端子部46に接続している。ハウジング21を挟んでコイル42の内周側には固定コア43が設置されている。固定コア43は、例えば鉄などの磁性材料により筒状に形成され、ハウジング21の内周側に圧入などにより固定されている。磁性材で形成されたプレートハウジング44はコイル42の外周側を覆っている。
【0032】
可動コア47は、ハウジング21内にて軸方向へ往復移動可能に設置されており、例えば鉄などの磁性材料により形成されている。そして、可動コア47にはニードル26の端部が圧入又は溶接等により接続されており、ニードル26と可動コア47とは一体的に軸方向(図2の上下方向)へ往復移動する。また、可動コア47は、スプリング48の弾性力により、シート部25aに向けて押し付けられている。したがって、可動コア47と接続されているニードル26は、当接部26aをシート部25aに着座させる向きに押し付けられる。
【0033】
コイル42に通電していないとき、可動コア47及びニードル26はシート部25a側へ押し付けられ、当接部26aはシート部25aに着座する。これにより、尿素水通路27が遮断されて、噴孔28aからの尿素水噴射が停止される。一方、コイル42に通電したときには、可動コア47が固定コア43に吸引されてニードル26がシート部25aから離座し、尿素水通路27が開放される。すると、尿素水入口22aに供給された尿素水は、入口部材22内部、ハウジング21内部、ノズルホルダ24内部、ノズルボディ25内部を順に流通した後、噴孔28aから排気通路10aに噴射される。
【0034】
また、これらノズルホルダ24及びノズルボディ25は、高温の排気により加熱され、焼き鈍りによる硬度低下を招くことが懸念される。また、ノズルボディ25が高温(例えば160℃以上)になると、排気中に含まれる異物(例えば、PM(粒子状物質)、未燃燃料、潤滑油、又はこれらが化学反応して生成された物質)や噴射された尿素水がデポジットとして付着しやすくなることが一般的に知られており、デポジットが噴孔28aを詰まらせることが懸念される。
【0035】
これらの懸念を解消すべく、ノズルホルダ24の外周側には冷却手段60が備えられている(図1参照)。冷却手段60は、ジャケット61内部の冷却通路62に冷却液を循環させるよう構成されており、この冷却液には、燃焼室を内部に形成するシリンダブロック等を冷却するエンジン冷却液が用いられている。
【0036】
図1に示すように、噴射弁20は、触媒装置へ向かって尿素水を噴射するように排気管10に対して傾けて、すなわち噴孔28aを触媒の側へ向けて配設されている。このように噴射弁20を傾けて排気管10に取り付けることを実現するために、排気管10には分岐管17が溶接等により傾けて接続され、この分岐管17の端部に取付部材16を取り付けている。したがって、分岐管17の内部空間は、排気管10の内壁から排気管径方向の外側に凹む形状の空間となり、排気通路10aの一部を構成するとともに噴射弁20の先端部分(以下、ボディ先端部と呼ぶ)が収容される収容室17aとして機能する。
【0037】
このように、排気管径方向の外側に凹む形状の収容室17aに噴射弁20のボディ先端部を収容することにより、排気通路10aを流れる排気の主流Y1がボディ先端部に直接向かって流れてくることを回避する。よって、ボディ先端部が排気で加熱されることの低減を図っている。なお、排気の主流Y1から分流した副流Y2(図1参照)が収容室17aに流入してくるものの、当該副流Y2は主流Y1よりも熱エネルギが小さいため、ボディ先端部の高温化を抑制できる。
【0038】
さらに本実施形態では、このような副流Y2がボディ先端部に直接衝突して高温化を招くことを回避すべく、ボディ先端部に対向配置されたプレート部材70を設けている。プレート部材70は、取付部材16の貫通穴16a全体を覆う円盤形状であり、プレート部材70の中央部分には、噴孔28aから噴射された尿素水を通過させる通過穴70aが形成されている。通過穴70aは、噴射弁20の中心線J1と同軸に位置する円形である。このプレート部材70により、排気主流Y1から分岐してボディ先端部に向かって流れてくる副流Y2は、図1中の矢印Y3に示すようにボディ先端部から逸れるよう偏向される。よって、排気流Y3がボディ先端部に直接衝突することを抑制できるので、ボディ先端部の高温化を抑制でき、ボディ先端部の硬度低下及びデポジット付着の懸念を低減できる。
【0039】
次に、図3〜図5を用いて、噴孔28aの形状配置等を詳細に説明する。なお、図5は噴孔プレート28単体を示す3面図であり、図5(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
【0040】
図5に示すように噴孔プレート28は有底の円筒形状に形成されており、噴孔プレート28の底部分には、貫通する4つの噴孔28aが同心円上に等間隔で形成されている。図5(a)中の符号Rは前記同心円を表す仮想線であり、噴孔28aの流入口28bの中心を通る円である。
【0041】
また、図3及び図4に示すように、噴孔28aが噴孔プレート28を貫通する向きは、噴孔28aの流出口28cが噴孔28aの流入口28bよりも中心線J1の外側に位置するように傾斜している。つまり、噴孔28aの流入口28bが流出口28cよりも同心円Rの径方向外側に位置するよう、噴孔28aの軸方向J2はニードル26の軸方向J1に対して傾くテーパ状に形成されている。さらに噴孔28aは、流入口28bから流出口28cにかけて徐々に通路径を拡大させる末広がり形状に形成されている。
【0042】
ところで、先述した通り、噴孔28aから噴射される尿素水はできるだけ微粒化されていることが望ましく、微粒化を促進させることは、触媒におけるNOx浄化率及びアンモニアスリップの低減を図る上で有効である。以下、微粒化を図るための構成を説明する。図4,図5中の符号Dpは、4つの噴孔28aの同心円Rの直径(以下ピッチ径Dpと呼ぶ)を示す。図4中の符号Dsは、ノズルボディ25のうちニードル26が着座する部分であるシート部25aの直径(以下シート径Dsと呼ぶ)を示す。そして、これらシート径Dsとピッチ径Dpとの比率Ds/Dpを、1.3<Ds/Dp<2.5としている。
【0043】
また、図4中の符号28dは、噴孔28aの流出口28cのうち同心円Rの径方向内側に位置する部分である内側エッジ部28dを示す。図4中の符号28eは、噴孔28aの流出口28cのうち同心円Rの径方向外側に位置する部分である外側エッジ部28eを示す。図4中の符号25bは、尿素水通路27のうちニードル26の先端より下流側に位置するとともに噴孔28aの流入口28bより上流側に位置する部分である連通路25bを示す。この連通路25bは、ノズルボディ25の下流端部分にて開口する形状であり、その開口直径を符号Dhに示す。
【0044】
そして、外側エッジ部28eを、連通路25bの内壁面よりも同心円Rの径方向外側に位置させるとともに、内側エッジ部28dを、連通路25bの内壁面よりも同心円Rの径方向内側に位置させる。要するに、噴孔28aの流出口28cは、同心円Rの径方向において連通路25bの内壁面を跨ぐように配置されている。また、連通路25bの開口直径Dhは、ピッチ径Dpよりも大きく、シート径Dsよりも小さくなるよう設定されている。
【0045】
以上詳述した本実施形態によれば、Ds/Dp<2.5としたことと、外側エッジ部28eを連通路25bの内壁面よりも外側に位置させることで、複数の噴孔28aが十分に離間されることとなる。よって、噴射直後の噴霧同士が衝突して巨大化することを抑制でき、尿素水の微粒化を促進できる。したがって、アンモニア供給不足によるNOx浄化率の悪化やアンモニアスリップの問題を解消できる。
【0046】
また、先述した図7の試験結果によれば、Ds/Dp<2.5とすることで十分に微粒化できることが分かる。なお、本実施形態に係る噴射弁20による試験結果は実線A3に示し、図7中の実線A2の試験結果は、本実施形態の変形例に係る噴射弁であり、図6に示す如く噴孔28aを6個にした場合の噴射弁による試験結果を示す。また、図7中の実線A1の試験結果は、Ds/Dpを2.63とした従来の噴射弁による試験結果を示す。
【0047】
図7に係る試験の条件をより詳細に説明すると、噴孔プレート28の厚み寸法はA1〜A3の全てにおいて0.2mmである。噴孔28aの流入口28b側の穴径寸法は、A2,A3においては0.130mm、A1においては0.180mmである。ピッチ径Dpは、A2,A3においては0.9mm、A1においては0.6mmである。
【0048】
そして、このように尿素水の微粒化を促進できた結果、アンモニア供給不足によるNOx浄化率の悪化やアンモニアスリップの問題を解消できる。図8は、触媒から漏れ出たアンモニアスリップ量を縦軸に、触媒によるNOxの低減率を横軸に示すグラフである。この図8中の破線B1はDs/Dpが2.63の場合を示し、実線B2はDs/Dpが1.76の場合を示している。
【0049】
そして、これら2つの曲線は、尿素水の供給量を多くしていくにつれ、NOx低減率が向上し、アンモニアスリップ量が増大する傾向となることを示している。また、この図から確認できるように、Ds/Dpが1.76の場合の方が、Ds/Dpが2.63の場合に比べて、NOx低減率を高く、かつアンモニアスリップ量を低減できることが分かる。
【0050】
ところで、一般的には、NOx低減率の向上とアンモニアスリップ量の低減とはトレードオフの関係にあると言われている。これに対し、上述した図8に示すように、Ds/Dpが1.76の方が、Ds/Dpが2.63に比べて、NOx低減率を高く、かつアンモニアスリップ量を低減できる。そのため、Ds/Dpを2.63としたB1の噴射弁に比べ、Ds/Dpを1.76としたB2,B3の噴射弁の方が、NOx低減率向上とアンモニアスリップ量低減とを両立できることが分かる。
【0051】
しかも、本実施形態においては、収容室17aに噴射弁20のボディ先端部を収容する構造で、ボディ先端部が排気で加熱されることの低減を図っているため、噴孔28aの軸方向J2をニードル26の軸方向J1に対して傾ける角度を単純に大きくしただけでは、噴射した尿素水が、分岐管17の内壁面及びプレート部材70の内壁面に付着してしまうという制約がある。このような制約がある状態において、本実施形態ではDs/Dp<2.5としたことと、外側エッジ部28eを連通路25bの内壁面よりも外側に位置させることにより、前記内壁面への尿素水付着を回避しつつ、噴射直後の噴霧同士が衝突することの抑制を図ることができる。
【0052】
さらに本実施形態によれば、1.3<Ds/Dpとしたことと、内側エッジ部28dを連通路25bの内壁面よりも内側に位置させることで、ノズルボディ25のうち、シート部25aから噴孔28aの流入口28bにかけての連通路部分25cに、座ぐり等による通路拡大部を形成することを不要にできる。よって、ノズルボディ25の成形性悪化を抑制できる。
【0053】
(他の実施形態)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。また、本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0054】
・図2等に示す上記実施形態では、ノズルホルダ24、ノズルボディ25及び噴孔プレート28により特許請求の範囲に記載の「ボディ部材」を構成しているが、本発明の実施にあたり、例えば噴孔プレート28を廃止して、ノズルホルダ24及びノズルボディ25のいずれか一方に噴孔を形成するようにしてもよい。また、当該ボディ部材は、別体に形成されたノズルホルダ24、ノズルボディ25及び噴孔プレート28を溶接等により接続して構成してもよいし、同一の母材から削り出し、又は鋳造等により一体に構成してもよい。
【0055】
・本発明の実施にあたり、尿素水の噴射圧力を例えば0.4MPa〜1.0MPaに設定するのが望ましく、0.9MPaに設定することがより望ましい。
【0056】
・本発明の実施にあたり、噴孔28aの数を3個〜6個に設定するのが望ましく、4個に設定することがより望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係る尿素水噴射弁が適用された、排気浄化装置を示す模式図。
【図2】図1の尿素水噴射弁を示す断面図。
【図3】図2の拡大図。
【図4】図3の拡大図。
【図5】図4の噴孔プレート単体を示す3面図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は底面図。
【図6】図5の噴孔プレートに対する変形例を示す3面図。
【図7】本発明による尿素水微粒化の効果を示す試験結果。
【図8】尿素水微粒化によるアンモニアスリップ量低減及びNOx低減率向上の効果を示す試験結果。
【符号の説明】
【0058】
10a…排気通路、20…尿素水噴射弁、24…ノズルホルダ(ボディ部材)、25…ノズルボディ(ボディ部材)、25a…シート部、25b…連通路、26…ニードル、27…尿素水通路、28…噴孔プレート(ボディ部材)、28a…噴孔、28b…噴孔の流入口、28c…噴孔の流出口、28d…内側エッジ部、28e…外側エッジ部、Ds…シート径、Dp…ピッチ径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路へ尿素水を噴射する尿素水噴射弁であって、
尿素水を噴射する複数の噴孔が同心円上に形成されるとともに、前記噴孔に通じる尿素水通路が内部に形成されたボディ部材と、
前記ボディ部材に形成された円環形状のシート部に着座離座することで前記尿素水通路を開閉するニードルと、
を備え、
前記シート部の直径であるシート径(Ds)と、前記同心円の直径であるピッチ径(Dp)との比率(Ds/Dp)を、1.3<Ds/Dp<2.5としたことを特徴とする尿素水噴射弁。
【請求項2】
前記噴孔の流入口が流出口よりも前記同心円の径方向外側に位置するよう、前記噴孔は前記ニードルの軸方向に対して傾くテーパ状に形成されており、
前記流出口のうち前記同心円の径方向内側に位置する部分を内側エッジ部と称し、径方向外側に位置する部分を外側エッジ部と称し、前記尿素水通路のうち前記ニードル先端より下流側に位置するとともに前記噴孔の上流側に位置する部分を連通路と称した場合において、
前記外側エッジ部を、前記連通路の内壁面よりも前記同心円の径方向外側に位置させるとともに、前記内側エッジ部を、前記連通路の内壁面よりも前記同心円の径方向内側に位置させることを特徴とする請求項1記載の尿素水噴射弁。
【請求項3】
内燃機関の排気通路へ尿素水を噴射する尿素水噴射弁であって、
尿素水を噴射する複数の噴孔が同心円上に形成されるとともに、前記噴孔に通じる尿素水通路が内部に形成されたボディ部材と、
前記ボディ部材に形成された円環形状のシート部に着座離座することで前記尿素水通路を開閉するニードルと、
を備え、
前記噴孔の流入口が流出口よりも前記同心円の径方向外側に位置するよう、前記噴孔は前記ニードルの軸方向に対して傾くテーパ状に形成されており、
前記流出口のうち前記同心円の径方向内側に位置する部分を内側エッジ部と称し、径方向外側に位置する部分を外側エッジ部と称し、前記尿素水通路のうち前記ニードル先端より下流側に位置するとともに前記噴孔の上流側に位置する部分を連通路と称した場合において、
前記外側エッジ部を、前記連通路の内壁面よりも前記同心円の径方向外側に位置させるとともに、前記内側エッジ部を、前記連通路の内壁面よりも前記同心円の径方向内側に位置させることを特徴とする尿素水噴射弁。
【請求項4】
前記噴孔の数を3個以上6個以下としたことを特徴とする請求項2又は3記載の尿素水噴射弁。
【請求項5】
前記噴孔からの噴射圧力が1MPa以下の低圧であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の尿素水噴射弁。
【請求項6】
前記排気通路を内部に形成する排気管には、当該排気管の内壁から排気管径方向の外側に凹む収容室が形成されており、
前記ボディ部材のうち少なくとも前記噴孔が形成されている先端部分は、前記収容室に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の尿素水噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−250161(P2009−250161A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101175(P2008−101175)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】