説明

屈曲性に優れた銅箔及びフレキシブル銅貼積層板

【課題】屈曲性に優れると共に強度を確保した銅箔及びそれを用いたフレキシブル銅貼積層板を提供する。
【解決手段】引張強度400MPa以上であり、かつ(200)面のX線回折強度比I/I0(200)が15以下であり、かつX線回折測定による(200)ピークの半値幅が0.15以下であり、かつ50℃/秒を超える昇温速度で300℃まで昇温して5秒保持する熱処理を加えた時の(200)面のX線回折強度比I/I0(200)が40以上である銅箔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路の屈曲部分に好適に用いられるフレキシブルプリント基板(FPC:Flexible Printed Circuit)に使用される銅箔、及びそれを用いたフレキシブル銅貼積層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話等の配線のうち、屈曲部分に使用されるFPCは、銅箔にポリイミドのワニスを塗布し、熱を加えて乾燥、硬化させ積層板とするキャスト法と呼ばれる方法や、予め接着力のある熱可塑性ポリイミドを塗布したポリイミドフィルムと銅箔とを重ねて加熱ロールなどを通して圧着するラミネート法と呼ばれる方法によって製造されている。これらの方法で得られたフレキシブル銅貼積層板は二層フレキシブル銅貼積層板と呼ばれている。
又、エポキシ系などの接着剤で銅箔とポリイミドフィルムを接着した三層フレキシブル銅貼積層板も知られている。
これらのFPC用銅箔として、再結晶焼鈍させ、屈曲性を与える200面のI/I0を40以上とした技術が知られている(特許文献1,2)。
【0003】
【特許文献1】特開2001-323354号公報(段落0014)
【特許文献2】特開平11-286760
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されている銅箔は、(200)方位への配向度を高めて屈曲性を向上させているものの、再結晶した銅箔は非常に柔らかいため、折れやシワが発生しやすく、樹脂との積層前に再結晶焼鈍を行うとフレキシブル銅貼積層板に積層する際の銅箔のハンドリングが困難になるという問題がある。そのため樹脂と積層した後に、ポリイミドワニスや熱可塑性ポリイミドを硬化させるための熱処理を利用して、銅箔を再結晶させる方法が一般的である。
しかし、ラミネート法で作製したCCLで、銅箔の(200)方位への配向度が高くならず、屈曲性が低下するという問題が発生している。発明者らは種々の検討の結果、銅箔の再結晶焼鈍における昇温速度が高いほど、銅箔の(200)方位への配向度が低下することを見出した。つまりCCL製造方法による配向度の差は、CCL製造工程での銅箔の再結晶焼鈍における昇温速度の違いに起因するものであると考えられる。
例えば、上記したキャスト法の場合、ワニスを乾燥、硬化させるため、銅箔が加熱炉で比較的ゆっくりと加熱され、(200)方位に十分に配向した再結晶集合組織が得られ、屈曲性も向上する。ところが、上記したラミネート法の場合、フィルムと銅箔とをヒートロールで圧着するため、銅箔がヒートロールにより急速に加熱され、(200)方位への配向度が高くならない。
【0005】
ここで、昇温速度によって銅箔の(200)配向度が異なる理由は以下のように推定される。まず、昇温速度が遅いと、銅箔が低温にさらされる時間が長いため、再結晶核生成エネルギーが低い結晶方位のみが再結晶し、他の方位の再結晶核が生成しない。そして、加熱温度が上昇するにつれ、生成された優先方位の再結晶核が成長し、銅箔全体が優先方位の結晶粒で占められる。一方、昇温速度が速いと、銅箔が短期間に高温になるので、再結晶核が生成しにくい結晶方位であっても核生成が生じ、ランダムな方位を持った再結晶組織が生成される。
【0006】
従って、本発明の目的は、屈曲性に優れると共に強度を確保した銅箔及びそれを用いたフレキシブル銅貼積層板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、優先方位の再結晶核を銅箔中に作っておくことで、フレキシブル銅貼積層板に積層する際の昇温速度が急速であっても、(200)に優先方位をもった結晶粒を成長させることができることを見出した。
すなわち、本発明の銅箔は、引張強度400MPa以上であり、かつ(200)面のX線回折強度比I/I0(200)が15以下であり、かつX線回折測定による(200)ピークの半値幅が0.15以下であり、かつ50℃/秒を超える昇温速度で300℃まで昇温し、5秒保持する熱処理を加えた時の(200)面のX線回折強度比I/I0(200)が40以上である。
【0008】
タフピッチ銅、無酸素銅、又はタフピッチ銅若しくは無酸素銅に対し、Ag,Sn及びInの群から選ばれる1種以上を合計0.05質量%以下添加した組成からなり、厚み20μm以下の圧延銅箔であることが好ましい。
【0009】
焼鈍温度T(℃)、焼鈍時間t(h)とした時、式1;P=(T+273)×(14+log(t))で求められるPが、焼鈍時間0.5hでの半軟化温度Thに対して前記式1で求められるPhに対し、0.96Ph≦P≦Phの範囲内焼鈍され、かつ前記焼鈍の昇温過程において半軟化温度Thに対して0.4Th〜1.2Thとなる温度範囲に3秒を超えて曝されていることが好ましい。
【0010】
本発明のフレキシブル銅貼積層板は、前記銅箔と、基体樹脂とを積層してなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、屈曲性に優れると共に強度を確保した銅箔及びそれを用いたフレキシブル銅貼積層板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
高屈曲性を発揮するフレキシブル銅貼積層板を得るために重要な点は、積層板になった時点で、銅箔の金属組織を屈曲性にとって好ましい状態に再結晶させることである。屈曲性に最も好ましい金属組織は、立方体方位が非常に発達し、かつ結晶粒界が少ない、言い換えれば結晶粒が大きな組織である。ここで立方体方位の発達の程度は、200面のX線回折強度比I/I0(I:銅箔の200面の回折強度、I0:銅粉末の200面の回折強度)の大きさで表すことができ、この値が大きいほど立方体方位が発達していることを示す。
一方、フレキシブル銅貼積層板に積層する前の銅箔材料を、予め(200)方位の再結晶に適した温度範囲で充分に焼鈍しておき、(200)方位への配向度を高めておけば屈曲性はよくなるが、再結晶した銅箔は非常に柔らかいため、取り扱い時にオレやシワが発生しやすい。そのため、積層前の銅箔にはある程度の強度が必要である。この強度の目安として、一般的な圧延タフピッチ銅箔の強度である400MPaが相当する。
【0013】
つまり、完全な再結晶組織とならない程度まで(200)方位の再結晶に適した温度範囲で焼鈍しておけば、所定の強度を保ちつつ、フレキシブル銅貼積層板に積層時の加熱により、(200)方位への配向度を向上させて屈曲性を付与することができる。
図1は、本発明の実施形態に係る銅箔を製造するための熱処理を示す概念図である。本発明の好適な実施形態においては、銅箔基材に後述する所定の条件で焼鈍を施すことで、(200)方位が適度に発達し、その後の積層時の加熱(又は、これを模した昇温速度50℃/秒を超える昇温速度で300℃まで昇温した後に5秒保持する熱処理)により、(200)方位が増加する。又、焼鈍が過度にならないことで、銅箔の強度を維持し、積層時のハンドリング性を維持できるだけの強度を有する。
【0014】
このようなことから、本発明の銅箔は、引張強度400MPa以上であり、かつ(200)面のX線回折強度比I/I0(200)が15以下であり、かつX線回折測定による(200)ピークの半値幅が0.15以下であり、かつ50℃/秒を超える昇温速度で300℃まで昇温し、5秒保持する熱処理を加えた時の(200)面のX線回折強度比I/I0(200)が40以上である。
引張強度400MPa以上とした理由は、一般的な圧延タフピッチ銅箔の強度が400MPaであり、これより高強度であれば、フレキシブル銅貼積層板に積層する際のハンドリングが困難とならないためである。
ここで、本発明の銅箔は、上記した比I/I0が40以上になる特性を有するものであるが、上記した熱処理をした銅箔を積層して銅貼積層板を製造するという意味ではなく、本発明の銅箔を、積層前に取り出して別途、上記した熱処理を加えると比I/I0が40以上になる性質があるという意味である。
【0015】
又、熱処理条件を、50℃/秒を超える昇温速度で300℃まで昇温するとした理由は、この条件は、ラミネート法でフレキシブル銅貼積層板を製造する際、ポリイミドフィルムと銅箔とを重ねて加熱ロールで圧着するための加熱条件(通箔速度3m/分程度)に近似するからである。一般的なラミネート法では、ロール温度が250〜300℃であり、ロールと銅箔との接触時間は数秒である。つまり、銅箔の昇温速度は70〜150℃/秒程度と推定される。また、50℃/秒を超える昇温速度で300℃まで昇温し、5秒保持する熱処理でI/I0(200)が40以上となれば、ラミネート法より昇温速度が遅い他の方法でフレキシブル銅貼積層板を製造しても、確実にI/I0(200)が40以上となる。積層板になった時点で、I/I0(200)が40以上であれば銅箔の屈曲性が優れていることになる。なお、積層板になった後は、銅箔が基体樹脂と積層されるので、銅箔自体の強度が400MPa未満に低下しても問題とならない。
【0016】
銅箔の引張強度を400MPa以上とし、かつ(200)面のX線回折強度比I/I0(200)が15以下であり、かつX線回折測定による(200)ピークの半値幅が0.15以下であり、かつ50℃/秒を超える昇温速度で300℃まで昇温し、5秒保持する熱処理を加えた時の(200)面のX線回折強度比I/I0(200)を40以上とするような特性を銅箔に付与する方法としては、銅箔基材を焼きなまし過ぎない程度に焼鈍し、適度に強度を保つようにすることが挙げられる。
具体的には、例えば焼鈍温度T(℃)、焼鈍時間t(h)とした時、式1;
P=(T+273)×(14+log(t))で求められるPが、焼鈍時間0.5hでの半軟化温度Thに対して前記式1で求められるPhに対し、0.96Ph≦P≦Phの範囲内で焼鈍され、かつ該焼鈍の昇温過程において半軟化温度Thに対して0.4Th〜1.2Thとなる温度範囲に銅箔が3秒を超えて曝されることが好ましい。この条件で焼鈍することにより、上記した強度と方位を持つ銅箔を製造することができる。ここで、0.4Th〜1.2Thとなる温度範囲に3秒を超えて銅箔基材が曝される必要がある理由は、上記温度範囲への銅箔基材の暴露時間(保持時間)が3秒以下となるような急速な焼鈍の場合、この温度範囲を超える最高焼鈍温度で充分な時間銅箔基材を暴露(保持)したとしても、銅箔が短時間のうちに高温になるためである。そして、このような急速な焼鈍では、再結晶核が生成しにくい結晶方位であっても核生成が生じ、ランダムな方位を持った再結晶組織が生成され、再結晶集合組織が発達しないためである。
上記した条件で焼鈍を行うためには、熱風循環式または輻射熱式の焼鈍炉を用いることが望ましい。低温から高温までの温度の異なる多数の加熱ロールに順次接触させる方法でも昇温速度を制御することはできるが、設備が複雑になるために実用的ではない。
【0017】
ここで、Pは応力緩和試験で用いられるラーソンミラーパラメータのことであり、式1に示すとおり、熱処理時間と熱処理温度の両方を含む値である。応力緩和と熱処理による回復再結晶はいずれも転位および結晶粒界の移動による現象であることから、ラーソンミラーパラメータが回復の程度を一般に評価するのに適当であると考えられる。又、Pは本発明者らが行った実験結果をよく再現した。
【0018】
又、焼鈍時間0.5hでの半軟化温度Thに対して前記式1でPhを求めるのは、以下の理由による。つまり、軟化挙動の異なる種々の組成の銅合金について、熱処理条件に対する軟化の程度を表すのに半軟化温度Thが好適であるため、ThにおけるPhを前記式1から求め、このPhを基準として、銅箔のPを管理することが有効であるからである。
なお、Thは、焼鈍温度を0.5hとしたときの強度が、焼鈍前の強度と完全に焼き鈍った状態の強度の和の1/2となる焼き鈍し温度である。
そして、Phを超える熱処理では再結晶組織が発達するが、柔らかくなり過ぎて強度が400MPa未満に低下するため、銅箔のハンドリング性が低下してしまう場合がある。又、0.96Ph未満となる熱処理では、転位が充分に動かないため熱処理による(200)方位の発達効果が得られない場合がある。
【0019】
銅箔の具体的な焼鈍温度や焼鈍時間は、上記式1で規定されるPの範囲内であれば問題ない。例えば焼鈍温度が100℃であれば焼鈍時間は5時間程度、焼鈍温度が250℃であれば焼鈍時間は10秒程度となる。
以上からバッチ焼鈍、連続ライン等のいずれにも好ましい焼鈍の条件は、焼鈍温度100〜200℃、焼鈍時間10秒〜5時間の範囲であり、さらに好ましくは焼鈍温度100〜140℃、焼鈍時間5分〜5時間の範囲である。
なお、本発明において、「焼鈍温度」とは、所定の焼鈍時間内での最高到達温度である。又、焼鈍は、銅箔の製造時に行ってもよく、銅箔に粗化処理を行った後に行ってもよい。
【0020】
なお、上記式1の値14は、応力緩和の進みやすさ(原子の拡散、転位の移動のしやすさ)を反映した材料固有の材料定数Cである。通常、焼鈍条件に対する特性(強度)を実測し、最小自乗法によって求めるが、本発明では純銅系銅合金で一般に用いられる14を値として採用している。
【0021】
上記した焼鈍であれば、優先方位の(200)再結晶核を優先的に銅箔材料中に生じさせることができる。そのため、フレキシブル銅貼積層板に積層する際の昇温速度が急速であっても、(200)に優先方位をもった結晶粒を成長させることができる。
又、焼鈍が過度になることが無いので、銅箔の強度を保つことができる。
【0022】
銅箔の(200)面のX線回折強度比I/I0(200)が15以下であり、かつX線回折測定による(200)ピークの半値幅が0.15以下であることは、以下の理由による。
通常、高屈曲用途で用いられる銅箔は完全に再結晶するまで焼鈍した場合に銅箔のI/I0(200)が40以上となるものであるから、銅箔のI/I0(200)が15以下であるとは、完全には再結晶していないことを示す。つまり、I/I0(200)が15以下であるとは、焼鈍が過度でないことの指標となる。一方、I/I0(200)が15を超えてI/I0(200)が40を超えない場合には、その後にラミネート工程で加熱をしてもI/I0(200)が40を超えることはない。
【0023】
又、X線回折における(200)ピークの半値幅は結晶のひずみの程度を反映し、結晶がひずんでいるほど、局所的な原子間距離にばらつきがあるためピーク幅が太く、半値幅は大きくなる。つまり、圧延ままの銅箔では半値幅が大きい。
従って、半値幅が0.15以下とは、銅箔が熱処理を受け、圧延時の加工ひずみが解放された状態を示し、圧延後に焼鈍をしていない銅箔が除かれる。これは、仮に圧延ままであって、引張強度400MPa以上を有する銅箔があっても、このように圧延後に焼鈍をしていない銅箔は、50℃/秒を超える昇温速度で300℃まで昇温した後に5秒保持する熱処理を加えてもI/I0(200)が40以上に増加しないからである。
【0024】
本発明の銅箔としては、タフピッチ銅自体、無酸素銅自体の他、タフピッチ銅や無酸素銅に微量の元素添加を行った銅合金箔等を用いることができる。又、本発明の銅箔として、通常、片面に化学処理(銅系粗化めっき)を施したものも用いることができる。銅箔の加工度や厚みも限定されないが、厚み20μm以下のものが好ましい。特に、タフピッチ銅または無酸素銅に対し、Ag,Sn及びInの群から選ばれる1種以上を合計0.05質量%以下添加した組成からなり、厚み20μm以下の圧延銅箔が好ましい。
【0025】
本発明のフレキシブル銅貼積層板は、銅箔と基体樹脂とを積層したものであればよい。特に、エポキシ系等の接着剤を使用せずに銅箔と基体樹脂とを積層した二層フレキシブル銅貼積層板が好ましい。二層フレキシブル銅貼積層板としては、例えば銅箔にポリイミドのワニスを塗布し、熱を加えて乾燥、硬化させ積層板とするキャスト法と呼ばれる方法や、予め接着力のある熱可塑性ポリイミドを塗布したポリイミドフィルムと銅箔とを重ねて加熱ロールなどを通して圧着するラミネート法と呼ばれる方法によって製造されるものが一般的である。
基体樹脂としては例えばポリイミドが挙げられるが、ラミネート法の場合は積層前にフィルム状であり、キャスト法の場合は積層前に液体の(未硬化の)ポリイミドであり、これを銅箔に塗布して加熱すると硬化して基体樹脂(層)になる。
【実施例】
【0026】
以下の実施例では、ラミネート法で二層フレキシブル銅貼積層板を作製した。
<銅箔>
二層フレキシブル銅貼積層板用の銅箔は、溶解鋳造で厚み200mm程度の直方体のインゴットを製造し、熱間圧延で10mm前後まで加工し、冷間圧延と焼鈍とを繰り返して製造し、冷間圧延後に、以下の各表に示す(予備)焼鈍を行ったものを用いた。銅箔の組成は各表に示すとおりである。銅箔は99%の最終加工度で圧延し、厚み12μmとした。焼鈍後の箔の片面に化学処理(銅系粗化めっき)を施し、積層に供した。
なお、タフピッチ銅については、各実施例及び比較例に応じて、最終圧延加工度を変えた。
室温で、銅箔の200面のX線回折強度比I/I0及び引張強度を測定した。半値幅は、JIS K0131に基づいて得られ、X線回折強度のピーク高さの半分の値におけるピーク幅である。
【0027】
<ラミネート法>
ラミネート法で二層フレキシブル銅貼積層板を製造するためのポリイミドフィルムとして、両面に熱可塑性ポリイミドを接着剤として塗布した厚み25μmのフィルム(宇部興産社製のユーピレックスVT)を用いた。表面の熱可塑性ポリイミド接着剤は、コア部のポリイミドフィルムと異種の樹脂ではなく、銅箔と積層した後は、全体として基体樹脂となって二層フレキシブル銅貼積層板になる。
図2に示すように、接着剤4aを両面に有する上記ポリイミドフィルム4の両面に、上記した化学処理面がそれぞれ対向するように2枚の銅箔(符号2)を重ね、フィルム4を各銅箔で挟み込んで積層し、約300℃の加熱ロールで通箔速度3m/分として加熱した。
【0028】
<屈曲性の評価>
ラミネート法で得た二層フレキシブル銅貼積層板のうち、片方の銅箔を塩化第ニ鉄水溶液でエッチングして除去した。この後、既知のフォトリソグラフイ技術を用い、残った銅箔に回路幅200μmの配線を形成し、エポキシ系の接着剤が塗布されたポリイミドフィルムをカバーレイとして熱圧着して屈曲試験用のFPCを作製した。
IPC摺動屈曲試験機を使用し、曲げ半径1mmで毎分100回の繰り返し摺動を上記FPC片に負荷し、配線の電気抵抗が初期から10%上昇した屈曲回数を終点とした。屈曲回数が10万回を超える場合を良い(○)、10万回未満を悪い(×)と判定した。
【0029】
得られた結果を表1、2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1から明らかなように、各実施例の場合、積層前の銅箔の引張強度が400MPa以上であると共に、ラミネート時の加熱を模した、昇温速度70℃/秒で300℃まで昇温し、5秒保持した熱処理後の200面のX線回折強度比(I/I0)が40以上であり、銅箔の予備焼鈍時の強度(取り扱い性)と銅貼積層後の屈曲性がいずれも良好であった。又、各実施例の場合、冷間圧延後の予備焼鈍において、0.4Th〜1.2Thとなる温度範囲に3秒を超えて銅箔が曝されていた。
【0033】
一方、予備焼鈍時のP/Phが1を超えた比較例1、3、4、9、10、11、14、16、17の場合、いずれも銅箔の引張強度が400MPa未満に低下した。これは、予備焼鈍が過度になって銅箔がなまり過ぎたためと考えられる。
又、予備焼鈍を行わなかった比較例12、15、及び予備焼鈍時のP/Phが0.96未満である比較例2、7、8,13,18の場合、ラミネート時の加熱を模した昇温速度70℃/秒で300℃まで昇温し5秒保持した熱処理後での200面のX線回折強度比(I/I0)が40未満に低下し、銅貼積層後の屈曲性が劣った。これは、予備焼鈍の効果が不足し、(200)に優先方位をもった結晶粒を銅箔中に十分に導入させることができなかったためと考えられる。
【0034】
冷間圧延後の予備焼鈍時の昇温速度が速く、昇温過程において銅箔が0.4Th〜1.2Thの温度範囲にさらされる時間が3秒以下となった比較例5、6、11の場合、銅貼積層後の屈曲性が劣った。
なお、比較例5の場合、予備焼鈍温度を200℃としたため、P/Phは0.96〜1.0の間の値となったが、比較例6の場合、予備焼鈍温度が300℃と高くなったためP/Phが1を超えた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る銅箔を製造するための熱処理を示す概念図である。
【図2】本発明の実施形態に係る二層フレキシブル銅貼積層板の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
2 銅箔
4 基体樹脂(ポリイミドフィルム)
4a 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度400MPa以上であり、かつ(200)面のX線回折強度比I/I0(200)が15以下であり、かつX線回折測定による(200)ピークの半値幅が0.15以下であり、かつ50℃/秒を超える昇温速度で300℃まで昇温して5秒保持する熱処理を加えた時の(200)面のX線回折強度比I/I0(200)が40以上である銅箔。
【請求項2】
タフピッチ銅、無酸素銅、又はタフピッチ銅若しくは無酸素銅に対し、Ag,Sn及びInの群から選ばれる1種以上を合計0.05質量%以下添加した組成からなり、厚み20μm以下の圧延銅箔である請求項1に記載の銅箔。
【請求項3】
焼鈍温度T(℃)、焼鈍時間t(h)とした時、式1;
P=(T+273)×(14+log(t))で求められるPが、焼鈍時間0.5hでの半軟化温度Thに対して前記式1で求められるPhに対し、0.96Ph≦P≦Phの範囲内で焼鈍され、かつ前記焼鈍の昇温過程において半軟化温度Thに対して0.4Th〜1.2Thとなる温度範囲に3秒を超えて曝されている請求項1又は2記載の銅箔。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の銅箔と、基体樹脂とを積層してなるフレキシブル銅貼積層板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−100887(P2010−100887A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272702(P2008−272702)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】