説明

屋外構造物

【課題】腐食環境に応じてセンサの長寿命化を図ることができる腐食検知装置を備えた屋外構造物を提供する。
【解決手段】屋外構造物に備えられる腐食検知装置10Aは、腐食環境を監視する腐食センサ110と、腐食センサ110の劣化度合いを計測する劣化度合い判定部である表面劣化度合い分析部11と、表面劣化度合い判定部11の判定の結果に応じて、腐食センサを使用する際に、計測時のみスイッチングをONとする指令を行う制御装置12とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩害等による腐食を事前に検知することができる腐食検知装置を備えた屋外構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば風車等の屋外構造物は、海上や沿岸で設置するので、風車の外部塗装や、風車の内部に設けたトランス、制御盤等が塩害により腐食することが懸念されている。
そのため、装置内部の材質、塗装に即した塩害予測が必要となってきている。
【0003】
その評価方法としてJISZ2371「塩水噴霧試験方法」及びJISK5621「複合サイクル試験」等が確立されている(非特許文献1、2)。
【0004】
また、近年塩害腐食量を予測するセンサとして腐食センサの提案がある(特許文献1)。
【0005】
この腐食センサについて説明すると、二つの異種金属(基板と導電部)を互いに絶縁部で絶縁した状態とし、両者の端部を環境へ露出すると、その環境に応じて両金属間を水膜が連結するので腐食電流が流れる。この電流は卑な金属の腐食速度に対応するので、その腐食センサとして用いられている。
【0006】
この腐食センサは、「大気腐食モニタ」(Atmospheric Corrosion Monitor)あるいはACM型腐食センサと称されている。
このセンサの一例を図6乃至図8に示す。図6及び図7に示すように、ACM型腐食センサ(以下、「腐食センサ」という。)110は、厚さ0.8mmの炭素鋼板を64mm×64mmに切り出し、基板111としており、この基板111の上に、厚膜IC用精密スクリーン印刷機を用いて絶縁ペースト(厚さ30〜35μm:SiO2)の絶縁部112を塗布し、硬化させている。
続いて、導電ペースト(厚さ30〜40μm、フィラー:Ag)を、基板111との絶緑が保たれるように、絶縁部112のパターン上に積層印刷し、硬化させて導電部113とし、腐食センサを構成している(非特許文献3)。
ここで、前記基板111を第1の導電部とすると共に、導電部113を所定間隔を持って複数設けられる直線状の第2の導電部としている。
【0007】
そして、図8に示すように、湿度や海塩(塩化物イオン等)等の水膜114により、導電部113と基板111とが短絡し、これに起因するFe−Agのガルバニック対の腐食電流を電流計115で計測している。なお、図6中、符号116a、116bは端子である。炭素鋼板(Fe)表面の露出部がセンサのアノード(陽極)となり、導電ペースト(Ag)がカソード(陰極)となる。
このガルバニック対の腐食電流は、鋼材料や亜鉛材料の腐食量に対して相関があることから、腐食速度を定量評価できるものである。
【0008】
また、前記ACM型腐食センサを用いた、太陽光発電システム部材の塩害腐食量予測法が提案され、湿度と測定電流値及び海塩付着量との関係図より、海塩付着量を推定することが提案されている(非特許文献4及び5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−157647号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】JISZ2371
【非特許文献2】JISK5621
【非特許文献3】http://www.nims.go.jp/mdss/corrosion/ACM/ACM1.htm
【非特許文献4】松下電工技法(Nov.2002) p79−85
【非特許文献5】材料と環境「ACMセンサによる環境腐食性評価」 54、3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、JISZ2371規格及びJISK5621規格試験においては、試験環境が実際の環境と一致していないので、試験精度が悪いという問題がある。
【0012】
前記ACM型腐食センサは、自己腐食型のセンサであるので、長時間使用していくとセンサ自身の劣化により、基板である炭素鋼板の腐食が生じることで、絶縁層と剥離が生じ、センサ性能を維持できないという問題がある。
【0013】
しかしながら、ACM型腐食センサは、腐食しなければ、腐食環境の測定精度が悪くなる場合があるので、センサの長寿命化という目的のために、センサの腐食を抑制しすぎると、腐食環境そのものの測定自体が実施できなくなる、という問題もある。
よって、腐食環境に応じてセンサの長寿命化を図ることが切望されている。
【0014】
本発明は、前記問題に鑑み、腐食環境に応じてセンサの長寿命化を図ることができる腐食検知装置を備えた屋外構造物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、腐食環境を監視する腐食センサと、腐食センサの劣化度合いを計測する劣化度合い判定部と、劣化度合い判定部の判定の結果に応じて、腐食センサを使用する際に、計測時のみスイッチングをONとする指令を行う制御装置とを有する腐食検知装置を備えたことを特徴とする屋外構造物にある。
【0016】
第2の発明は、第1の発明において、前記劣化度合い判定部が、表面の劣化度合いを色で判定することを特徴とする屋外構造物にある。
【0017】
第3の発明は、第1の発明において、前記劣化度合い判定部が、電気量で判定することを特徴とする屋外構造物にある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、腐食環境に応じてセンサの長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施例1に係る腐食検知装置の概略図である。
【図2】図2は、スイッチングの様子を示す作用図である。
【図3】図3は、腐食センサを用いた計測時間と、積算電気量(クーロン)との関係図である。
【図4】図4は、実施例2に係る腐食検知装置の概略図である。
【図5】図5は、実施例2に係る腐食センサを入れる容器の概略図である。
【図6】図6は、従来技術に係る腐食センサの平面図である。
【図7】図7は、従来技術に係る腐食センサの概略図である。
【図8】図8は、従来技術の腐食時における概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0021】
本発明による実施例に係る腐食検知装置を備えた屋外構造物について、図面を参照して説明する。図1は、実施例1に係る屋外構造物に備えられる腐食検知装置の概略図である。図1に示すように、本実施例に係る屋外構造物に備えられる腐食検知装置10Aは、腐食環境を監視する腐食センサ110と、腐食センサ110の劣化度合いを計測する劣化度合い判定部である表面劣化度合い分析部11と、表面劣化度合い判定部11の判定の結果に応じて、腐食センサ110を使用する際に、計測時のみスイッチングをONとする指令を行う制御装置12とを有するものである。図1中、符号111は基板、113は導電部を図示する。
【0022】
腐食センサ110は、その使用開始初期は、炭素鋼板の表面には、酸化鉄等の不動態被膜が存在している部分があり、これにより、腐食センサ110の基板に腐食が十分に起こらない部分が存在する。しかし、表面が赤錆(水酸化鉄(III)等)で覆われるにつれて、不動態被膜は破壊される。本発明は、腐食の進行の度合いを表面劣化度合い分析部11による色(銀色から褐色(茶色)に変化)で判定するので、それ以降の腐食の測定の際には、計測の時にのみスイッチ15をONとすることで、電流を余分に流すことがなくなり、腐食センサの長寿命化を図ることができる。
【0023】
すなわち、炭素鋼板の表面の一部に存在する不動態被膜の存在のために腐食が十分に起こらない部分が存在するが、褐色の赤錆が形成されるにつれて、不動態被膜が破壊され、腐食が時間の経過と共に、進行するので、回路をつないだままであると、計測している以外にも、基板の腐食を促進させることとなる。
【0024】
よって、電池回路にスイッチング機能をもたせて、腐食電流を計測したいときのみ、スイッチングをONとすることで、腐食センサ110の劣化が抑制されることとなる。この結果、腐食センサ110の寿命を増加させることができる。
【0025】
前記表面劣化度合い分析部11は、例えば基準の発光を腐食センサ110の表面に照射し、その反射光をスペクトラム解析するものであり、例えば「カラーアナライザ」、「色差計」等の市販の機器を用いることができる。
また、カラーアナライザ以外としては、例えば分光手段(波長を分割できる機能)を有する光検出器等を用いるようにしてもよい。
【0026】
ここで、腐食センサの劣化度合いの判定に際しては、例えば検査領域を複数に分割し、分割した領域毎に劣化度合いを判定することもできる。
そして、所定の褐色となった場合には、その情報13を制御装置12に送る。
図2は、スイッチングの様子を示す作用図である。図2に示すように、制御装置12でスイッチングを開始する指令14がスイッチ15に送られ、腐食電流の計測毎にスイッチングONの指令をスイッチ15に送るようにしている。
【0027】
具体的には、腐食センサ110の領域を8分割又は16分割し、その分割された領域毎のRGB値を計測し、所定の褐色(茶色)であるか否かを判断する。
そして、所定の褐色であると判断される割合が、50%を超えた場合には、腐食センサ110のスイッチング機能をONとするようにしている。
【0028】
この計測は、表面劣化度合い分析部11が、R(赤)、G(緑)、B(青)のカラーセンサを有するカラー分析計の場合、RBGの計測結果により、茶色(JIS慣用色名)のカラー値(R(115):G(78):B(48))近傍になったときに、スイッチング機能をONとするようにしている。
【0029】
図3は、腐食センサを用いた計測時間と、積算電気量(クーロン)との関係図である。図3に示すように、本実施例によれば、腐食の進行の度合いを表面劣化度合い分析部11による色(銀色から褐色(茶色)に変化)で判定するので、それ以降の腐食の測定の際には、計測の時にのみスイッチングをONとすることで、従来のような比較例のように、常にONの状態し、電流を余分に流すことがなくなり、腐食が勝手に進行することを阻止することができ、この結果、腐食センサの長寿命化を図ることができる。
【0030】
これにより、例えば、タンカーなどのように、一度航海に出ると、母港に戻るまでは、腐食センサの交換ができない場合には、超寿命化を図ることで、センサの交換を行うことなく、長期間の腐食環境のモニタリングが可能となる。
【実施例2】
【0031】
本発明による実施例に係る腐食検知装置を備えた屋外構造物について、図面を参照して説明する。図4は、実施例2に係る屋外構造物に備えられる腐食検知装置の概略図である。図4に示すように、本実施例に係る腐食検知装置10Bは、腐食環境を監視する腐食センサ110と、腐食センサ110の劣化度合いを積算電気量で判定し、判定の結果に応じて、腐食センサを使用する際に、計測時のみスイッチングをONとする指令を行う制御装置12とを有するものである。
【0032】
実施例1では、計測の開始は、腐食の進行がある程度進むまで、待機してから、色で判断してスイッチングを開始しているが、実施例2では、計測の開始からスイッチングを開始できるようにしている。
【0033】
そのために、図4に示すように、腐食センサ110を容器20に入れ、そこに水21を導入して、腐食センサ110を積極的に腐食させている。ただし、腐食の程度は、電流計115で計測し、その積算電気量が0.5〜2C(クーロン)となるまでを閾値として設定している。
【0034】
そして、積算電気量が0.5〜2C(クーロン)になった時点において、水21を排出して、窒素(N2)でパージして、それ以上腐をなるべく促進食させないようにしている。
図4中、符号22は電流計115から制御装置12への情報の信号である。
図5に容器20に腐食センサ110を入れて、腐食させている様子を示す。ここで、図5中符号20aは蓋部、20bは容器本体、20cはヒンジ部である。
【0035】
腐食センサ110は、使用開始初期においては、基板である炭素鋼板の表面が硬い不動態被膜で覆われている部分があるので、腐食環境がマイルドな場合には、腐食電流が小さく、測定値の精度が悪化する場合がある。そこで、使用開始から直ちに、新の腐食電流を計測できるように、予め初期腐食させるようにしている。
ただし、腐食をしすぎると腐食が進行するので、初期腐食の目安である2C(クーロン)程度を閾値としている。
【0036】
以上は、本発明の屋外構造物として、例えばタンカーを例示したが、本発明は、これに限定されるものではなく、海岸等の塩害対策が必要な例えば風力発電装置、橋梁設備や太陽電池設備、発電プラント設備、鉄筋建造物、鉄道設備等にも適用することができる。さらに、車両、船舶等の移動体の塩害対策に適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明に係る腐食検知装置を備えた屋外構造物は、腐食環境に応じてセンサの長寿命化を図ることができる、例えば風力発電装置の構成部材の劣化の判断に用いて適している。
【符号の説明】
【0038】
10A、10B 腐食検知装置
110 腐食センサ
11 表面劣化度合い判定部
20 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食環境を監視する腐食センサと、
腐食センサの劣化度合いを計測する劣化度合い判定部と、
劣化度合い判定部の判定の結果に応じて、腐食センサを使用する際に、計測時のみスイッチングをONとする指令を行う制御装置とを有する腐食検知装置を備えたことを特徴とする屋外構造物。
【請求項2】
請求項1において、
前記劣化度合い判定部が、表面の劣化度合いを色で判定することを特徴とする屋外構造物。
【請求項3】
請求項1において、
前記劣化度合い判定部が、電気量で判定することを特徴とする屋外構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−137759(P2011−137759A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298894(P2009−298894)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】