説明

工作機械

【課題】ワーク加工時のびびり振動を自動的に抑制する工作機械を提供する。
【解決手段】2台のサーボモータ7a、8aはその駆動力を歯車で伝達して一つの傾斜送り軸を駆動する。制御装置Mはワークの加工中の上記歯車の接触歯面に予圧がかかるように制御する。制御装置Mは、加工中にびびり振動が検出されると、上記歯車の接触歯面の面圧を増加させてびびり振動を抑制するようにサーボモータ7a、8aを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のサーボモータで駆動する送り軸を有した工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
回転工具によってワークの切削加工等を行う工作機械において、加工中にびびり振動が発生することがある。びびり振動はワークの加工精度を悪化させるため、従来はびびり振動の抑制のために工具の回転速度、送り速度等の切削条件を変化させていた。この方法は切削加工の能率の低下を伴うものであった。
【0003】
特許文献1には、二つのサーボモータによって駆動される被駆動体の位置、速度を制御する制御方式において、駆動方向が逆転した時に生じる駆動系のバックラッシを解消する制御方式について記載されている。二つのサーボモータにより、被駆動体に予圧を与えてバックラッシを解消する方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−088740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の制御装置は、被駆動体に予圧を与えてバックラッシをなくすための装置であってびびり振動に対応するものではない。
【0006】
本発明は、ワーク加工時のびびり振動を自動的に抑制する工作機械を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、複数のサーボモータの駆動力を歯車で伝達して一つの送り軸を駆動する、送り軸を有した工作機械において、ワーク加工中の前記工作機械の振動を検出する検出手段と、ワーク加工中の前記歯車の接触歯面に予圧がかかるように、前記複数のサーボモータを制御するとともに、前記検出手段により、前記工作機械の振動が検出された際、前記歯車の接触歯面の圧力を増大させるように、前記複数のサーボモータを制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
歯車の接触歯面の圧力を増大させることにより、接触歯面間の摩擦力が増え、振動エネルギーが熱エネルギーに多く変換される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、工作機械に発生する振動を自動的に検出し、振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る工作機械の主軸ユニットの一実施形態を示す断面図であり、図2のI−Iにおける切断面を示す。
【図2】本発明に係る工作機械の主軸ユニットの一実施形態を示す模式図であり、図1の第2カバーを外してII方向から見た矢視図である。
【図3】本発明に係る工作機械の一実施形態を示す模式図である。
【図4】(a)は、図2と同一の方向から見た第1中間歯車11bと第1傾斜送り軸歯車11cとの接触状態を示す模式図である。(b)は、図2と同一の方向から見た第2中間歯車12bと第2傾斜送り軸歯車12cとの接触状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1〜図4を参照して本発明による送り軸の制御装置および工作機械の実施の形態について説明する。
まず、図3で本実施形態の工作機械3の構成を説明する。図3に示す工作機械3は、主軸頭傾斜型の5軸制御工作機械であって、ベッド33上にコラム29がZ軸(左右)方向に水平移動可能に立設され、コラム29に主軸台28、旋回台27及び主軸頭支持台17を介して主軸頭4がY軸(上下)方向に昇降可能に支持されている。主軸頭4に回転支持される主軸5には工具6が取り付けられている。旋回台27は、主軸台28に対してZ軸周りのC軸方向に回転送り可能に支持され、主軸頭4は、X軸と平行な傾動軸線17a周りのA軸方向に回転送り可能に主軸頭支持台17に支持され、主軸頭支持台17は、旋回台27に固定されている。
【0011】
ベッド33上にはさらに、X軸方向(紙面前後方向)にスライド可能にテーブル32が支持され、テーブル32上にはイケール31を介してワーク30が取り付けられている。この構成により主軸5に取り付けられた工具6と、テーブル32上に取り付けられたワーク30は、X軸、Y軸、Z軸、A軸、C軸方向に相対移動し、ワーク30が加工される。
本実施形態の工作機械は、びびり振動抑制用の加速度センサSと、制御装置Mを備えている。
【0012】
次に、工作機械3のコラム29に取付けられる主軸ユニット1について図1及び図2で説明する。
まず主軸ユニット1の傾斜送り軸の構成について説明する。
図1に示すように、工具6を装着する主軸5は、図示しない軸受にて主軸5の軸線周りに回転可能に主軸頭4に支持されている。主軸頭4は、主軸頭支持台17の互いに離間した一対の側壁20、21の間に配設され、図1では上下方向、図2では紙面前後方向に主軸頭5の軸線と直交する傾動軸線17a周りに傾斜回転可能に、すなわち図2のA軸方向に回転可能に側壁20、21に取付けられている。以下にこの主軸頭4の傾斜回転の駆動源装置7、8及び動力伝達機構について説明する。
【0013】
主軸頭支持台17において、主軸5の配置されている方向を前方、その反対方向を後方として説明する。図1に示すように、主軸頭支持台17には主軸頭4の後方に中間壁19が設けられており、後壁18との間にスペースが形成されている。このスペースに第1サーボモータ7a及び第2サーボモータ8aが、各々第1減速機9及び第2減速機10に連結されて収納されている。以下、第1サーボモータ7a及び第1減速機9を第1駆動源装置7、第2サーボモータ8a及び第2減速機10を第2駆動源装置8とする。
【0014】
第1駆動源装置7及び第2駆動源装置8は互いに水平位置にある主軸5の軸線に対して180°回転対称の位置に設けられる。すなわち水平位置にある主軸5の軸線周りに主軸頭支持台17を180°回転させると第1駆動源装置7は第2駆動源装置8の元の位置に、第2駆動源装置8は第1駆動源装置7の元の位置に重なるように配設される。
【0015】
図1に示すように、側壁20及び21の間に、第1駆動源装置7及び第2駆動源装置8は、各々の出力軸15a、15bが各々側壁20、21を向くように反対向きに設けられる。各々の出力軸15a、15bの先端には、テーパギヤが取り付けられ、動力伝達機構であるテーパギヤ列に接続されている。
【0016】
図1には主軸頭4の傾斜回転の駆動機構について、図2のI−I断面図が描かれている。そのため、図2の紙面手前側に見えている第2側壁21に第2減速機10を介して取り付けられている第2モータ8が図1に実線で示されている。
【0017】
2台のサーボモータ7a、8aはその駆動力を歯車で伝達して一つの傾斜送り軸を駆動する。第1のサーボモータ7aの出力軸は第1減速機9を介して第1駆動歯車11a、第1中間歯車11b、第1傾斜送り軸歯車11cに連結している。第2のサーボモータ8aの出力軸は第2減速機10を介して第2駆動歯車12a、第1中間歯車12b、第2傾斜送り軸歯車12cに連結している。第1傾斜送り軸歯車11c及び第2傾斜送り軸歯車12cは各々主軸頭4に連結されている。
【0018】
2台のサーボモータ7a、8aは、加工の際、工具の傾斜送りの反転時等に歯車にバックラッシが生じないように、常に歯車の第1中間歯車11bと第1傾斜送り軸歯車11cとの接触面、及び第2中間歯車12bと第2傾斜送り軸歯車12cとの接触面に予圧がかかるように制御されている。そして、加工中、加速度センサSの信号を振動検出部Vで処理することより工作機械のびびり振動が検出された際、傾斜送り軸に駆動力を伝達する前記2箇所の接触歯面に加わる面圧を増大させるように、前記2台のサーボモータ7a、8aを制御する。
【0019】
びびり振動については、加工中の加速度センサSの信号を振動検出部Vで処理し、振動の振幅が所定のしきい値を超えた状態が所定時間続いたときにびびり振動が発生したと判断する。本実施形態では振動の検出を加速度センサSで行っているが、変位センサ、速度センサ等他のセンサで行ってもよいし、また、2台のサーボモータ7a、8aの電流値の振幅で検出する方法で行ってもよい。
【0020】
次に、図4でサーボモータの制御方法について説明する。
上述のように、びびり振動が発生していない通常の加工状態においては、バックラッシを防止する目的で図4(a)、(b)に示す接触歯面に予圧を与えるべく、図示する歯面の接触状態において、送り軸を位置Pに位置決めする場合、第1のサーボモータ7aには位置指令Pを与え、第2のサーボモータ8aには位置指令(P+ΔP)を与える(ΔP>0)。第2のサーボモータは速度ループの積分制御を行わず、第1のサーボモータのみに速度ループの積分制御を行わせることで、位置指令Pを維持した状態でギヤの歯の当たり面に接触圧p1が確保される。この状態で2台のサーボモータ7a、8aを反転させ、傾斜送り軸の駆動方向を切替えても図4(a)、(b)の接触面は同じ面圧p1を保ち、接触歯面は離間することがないため、バックラッシの発生が防止される。なお、ΔPの値は、工作機械ごとに試験を行って、バックラッシの発生しない制御条件を求め、その試験結果のデータにより決定する。
【0021】
加工中にびびり振動が発生すると、上記加速度センサSの信号が振動検出部Vにて処理され、びびり振動発生の信号が制御装置Mに伝えられる。制御装置Mはこの際、上記のバックラッシ防止用の制御をびびり振動抑制のための制御に切替える。
【0022】
びびり振動抑制のための制御は上記第1のサーボモータ7aへの位置指令Pは変えずに、第2のサーボモータ8aへの位置指令を(P+ΔP’)とすることにより行う(ΔP’>ΔP)。すなわち、第2のサーボモータ8aへの位置指令の第1のサーボモータ7aへの位置指令とのずれ量を所定量増加させることにより、接触歯面の面圧を増大(p1→p2)させる。これにより、接触歯面間の摩擦力を増大させることで、接触歯面で発生する熱量を増大させ、びびり振動のエネルギーを熱エネルギーに変換させることでびびり振動を抑制する。ΔP’の値についても、工作機械ごとに試験を行い、びびり振動を発生させてこれを抑制する制御条件を求め、その試験結果のデータにより決定する。
【0023】
びびり振動の抑制のための制御の解除については、加工の負荷等を考慮して、発生時の判断基準と同様に、振動値の範囲と継続時間で解除条件を定めることができる。
【0024】
本実施形態では2台のサーボモータ7a、8aの制御をサーボモータへの位置指令にて行うが、これをサーボモータのトルク制御で行う方式としてもよい。すなわち、2台のサーボモータ7a、8aに作用するトルク値をサーボモータの駆動電流値にて制御する方式である。例えば通常の加工時は、バックラッシ防止用の設定トルクT1が作用するように2台のサーボモータ7a、8aを制御し、びびり振動発生時は設定トルクT2(T2>TI)が作用するように2台のサーボモータ7a、8aを制御する。
【0025】
本実施形態の傾斜送り軸の制御装置は、びびり振動が発生した場合だけこれを検知して動力伝達機構の歯車の接触面圧を増大させる(p2)ため、通常の加工時はバックラッシの防止用の接触面圧(p1)が加わるのみであり、駆動機構に過大な負担をかけずに自動的にびびり振動を抑制することができる。
【0026】
本実施形態の工作機械として図3にマシニングセンタを示した。工具としてはエンドミルの他、フライスやドリルなどにも使用できる。また、本発明の工作機械は旋盤等でもよい。さらに、本発明の送り軸は、回転送り軸だけでなく直線送り軸に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 主軸ユニット
3 工作機械
4 主軸頭
5 主軸
6 工具
7 第1駆動源装置
8 第2駆動源装置
11a 第1駆動歯車
11b 第1中間歯車
11c 第1傾斜軸歯車
12a 第2駆動歯車
12b 第2中間歯車
12c 第2傾斜軸歯車
17 主軸頭支持台
27 旋回台
28 主軸台
29 コラム
30 ワーク
31 イケール
32 テーブル
33 ベッド
S 加速度センサ
V 振動検出部
M 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサーボモータの駆動力を歯車で伝達して一つの送り軸を駆動する、送り軸を有した工作機械において、
ワーク加工中の前記工作機械の振動を検出する検出手段と、
ワーク加工中の前記歯車の接触歯面に予圧がかかるように、前記複数のサーボモータを制御するとともに、前記検出手段により、前記工作機械の振動が検出された際、前記歯車の接触歯面の圧力を増大させるように、前記複数のサーボモータを制御する制御手段と、
を具備する工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−51083(P2012−51083A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196683(P2010−196683)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000154990)株式会社牧野フライス製作所 (116)
【Fターム(参考)】