説明

差動伝送線路および多層配線基板

【課題】 外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することができる差動伝送線路および該差動伝送線路を備えた多層配線基板を提供することにある。
【解決手段】 絶縁層を挟んで上下に対向する第1配線導体2および第2配線導体3を有する一対の配線導体からなる差動伝送線路において、一方の第1配線導体2aの端部と他方の第1配線導体2bの端部とが絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体4を介して電気的に接続され、一方の第2配線導体3aの端部と他方の第2配線導体3bの端部とが絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体5を介して電気的に接続されており、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に接地貫通導体6が設けられている。外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層を挟んで対向する一対の配線導体により構成され、この一対の配線導体を通して電気信号を伝送する差動伝送線路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速で作動するIC、LSI等の半導体素子を実装封止したパッケージ実装部品や表面実装対応の電子部品の内部配線構造においては、高速の高周波信号を正確かつ効率よく伝播させることを目的として差動伝送線路構造が採用される。この差動伝送線路構造は、2本の信号線を用いて1つの信号を伝送する構造である。
【0003】
このような差動伝送線路構造には、複数の絶縁層を積層してなる絶縁基体の内部において、絶縁層を挟んで上下に対向するように一対の配線導体を配置した差動伝送線路構造があった。
【0004】
従来、このような差動伝送線路構造において、上層および下層の配線導体を分割し、貫通導体を介して上下で入れ替わる(交差する)ように電気的に接続するという構造が開示されていた(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−95134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の差動伝送線路は、絶縁層の表面では、一対の信号用配線導体を伝送する信号は同じ向きであり差動伝送線路構造となっているものの、一対の貫通導体では、それぞれの貫通導体を伝送する信号が逆向きとなり、一対の貫通導体が、差動伝送線路構造にならないという現象がおきていた。その結果、一対の貫通導体においては、差動配線構造とならないためにノイズが貫通導体部から進入した場合には受信側で信号を合成した際にノイズがキャンセルされないため、高周波信号を効率よく伝送することが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、その目的は、一対の貫通導体において、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することができる差動伝送線路および該差動伝送線路を備えた多層配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の差動伝送線路は、絶縁層を挟んで上下に対向する第1配線導体および第2配線導体を有する一対の配線導体からなる差動伝送線路において、前記第1配線導体は一方の第1配線導体と他方の第1配線導体とを有し、前記第2配線導体は一方の第2配線導体と他方の第2配線導体とを有しており、前記一方の第1配線導体と前記一方の第2配線導体とが前記絶縁層を挟んで上下に対向するとともに、前記他方の第1配線導体と前記他方の第2配線導体とが前記絶縁層を挟んで上下に対向しており、前記一方の第1配線導体の端部と前記他方の第1配線導体の端部とが前記絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体を介して電気的に接続され、前記一方の第2配線導体の端部と前記他方の第2配線導体の端部とが前記絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体を介して電気的に接続されており、前記第1貫通導体と前記第2貫通導体との間に接地貫通導体が設けられていることを特徴
とするものである。
【0009】
また、本発明の多層配線基板は、複数の絶縁層が積層されてなる絶縁基体の内部に、上記構成の本発明の差動伝送線路を備え、前記絶縁基体の一方主面および他方主面に接地導体層が形成されているとともに、該接地導体層に前記接地貫通導体が接続されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の差動伝送線路によれば、一方の第1配線導体の端部と他方の第1配線導体の端部とが絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体を介して電気的に接続され、一方の第2配線導体の端部と他方の第2配線導体の端部とが絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体を介して電気的に接続されており、第1貫通導体と第2貫通導体との間に接地貫通導体が設けられていることから、第1貫通導体と第2貫通導体との間に発生する電磁界結合を弱めることができるので、第1貫通導体および第2貫通導体にノイズが乗り難くなり、その結果、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。
【0011】
また、本発明の多層配線基板によれば、複数の絶縁層が積層されてなる絶縁基体の内部に、上記構成の本発明の差動伝送線路を備え、絶縁基体の一方主面および他方主面に接地導体層が形成されているとともに、該接地導体層に接地貫通導体が接続されていることから、接地貫通導体によって、第1貫通導体と第2貫通導体との間に発生する電磁界結合を弱めて、第1貫通導体および第2貫通導体にノイズを乗り難くするとともに、絶縁基体の一方主面および他方主面に形成された接地導体層によって外部からのノイズの影響を低減することができるので、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の差動伝送線路および多層配線基板の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】(a)は、本発明の差動伝送線路および多層配線基板の実施の形態の他の例を示す平面図であり、(b)は、(a)のX−X線における断面図である。
【図3】(a)は、本発明の差動伝送線路および多層配線基板の実施の形態の他の例を示す平面図であり、(b)は、(a)のX−X線における断面図である。
【図4】本発明の差動伝送線路の実施の形態の他の例を示す要部拡大平面図である。
【図5】本発明の差動伝送線路の実施の形態の他の例を示す要部拡大平面図である。
【図6】本発明の差動伝送線路の実施の形態の他の例を示す要部拡大平面図である。
【図7】本発明の差動伝送線路および多層配線基板の実施の形態の他の例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の差動伝送線路および多層配線基板について以下に詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の差動伝送線路および多層配線基板の実施の形態の一例を示す斜視図である。図2(a)は、図1に示す例の多層配線基板を上からみた上面図で、一対の配線導体は透視して示されている。図2(b)は、図2(a)のX−X線における断面図である。図1および図2(a),(b)においては、絶縁層が3層ある例を示しており、1aは第1絶縁層,1bは第2絶縁層,1cは第3絶縁層であり、これらを積層して絶縁基体1が形成される。2は第1配線導体,3は第2配線導体で、これら第1配線導体2および第2配線導体3は一対の配線導体で、差動伝送線路構造をなす。第1配線導体2のうち、2aは一方の第1配線導体,2bは他方の第1配線導体である。第2配線導体3のうち、3aは一方の第2配線導体,3bは他方の第2配線導体である。一方の第1配線導体2aと
一方の第2配線導体3aとは絶縁層を挟んで上下に対向して配置され、他方の第1配線導体2bと他方の第2配線導体3bとは絶縁層を挟んで上下に対向して配置されている。これらの配線導体の電気的接続について以下に説明する。
【0015】
一方の第1配線導体2aの端部と他方の第1配線導体2bの端部とは、絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体4を介して電気的に接続されており、また一方の第2配線導体3aの端部と他方の第2配線導体3bの端部とは、絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体5を介して電気的に接続されている。このように、絶縁層を挟んで上下に形成された第1配線導体2および第2配線導体3が、第1貫通導体4および第2貫通導体5を介して上下で入れ替わり、交差するように接続されている。6は接地貫通導体で、第1貫通導体4および第2貫通導体5との間に設けられている。
【0016】
本発明の差動伝送線路は、図1および図2(a),(b)に示す例のように、絶縁層を挟んで上下に対向する第1配線導体2および第2配線導体3を有する一対の配線導体からなる差動伝送線路において、第1配線導体2は一方の第1配線導体2aと他方の第1配線導体2bとを有し、第2配線導体3は一方の第2配線導体3aと他方の第2配線導体3bとを有しており、一方の第1配線導体2aと一方の第2配線導体3aとが絶縁層を挟んで上下に対向するとともに、他方の第1配線導体2bと他方の第2配線導体3bとが絶縁層を挟んで上下に対向しており、一方の第1配線導体2aの端部と他方の第1配線導体2bの端部とが絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体4を介して電気的に接続され、一方の第2配線導体3aの端部と他方の第2配線導体3bの端部とが絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体5を介して電気的に接続されており、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に接地貫通導体6が設けられている。このような構成により、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に接地貫通導体6が設けられていることから、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に発生する電磁界結合を弱めることができ、その結果、第1貫通導体4および第2貫通導体5を伝送する信号が逆向きで差動伝送線路構造とならなくても、第1貫通導体および第2貫通導体にノイズが乗り難くなるため、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。
【0017】
具体的には、第1貫通導体4および第2貫通導体5を伝送する信号の向きが逆向きとなることで、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に電磁界結合が発生してしまい、電磁界結合によってノイズが発生して、このノイズが第1貫通導体4および第2貫通導体5に乗ってしまうという不具合が生じる。この電磁界結合によって発生する電界分布の磁場の流れを断ち切って、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に発生する電磁界結合を弱めるために、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に接地貫通導体6を設けている。また、接地貫通導体6を設ける位置は、電界分布の磁場の流れに沿って接地貫通導体6を設けると効果的に電磁界結合の磁場を断ち切りやすくすることができるので好ましい。
【0018】
本発明の差動伝送線路は、図2(a),(b)および図3(a),(b)に示す例のように、接地貫通導体6は、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを結んだ直線上で、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを2分する位置に設けられていることが好ましい。この場合、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを結んだ直線上が最も電磁界結合が強いため、この部分に接地貫通導体6を設けることで効果的に電磁界結合を弱めることができる。その結果、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号をより効率よく伝送することができる。
【0019】
さらに、接地貫通導体6は、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを2分する位置に設けられていることで、第1貫通導体4,第2貫通導体5,接地貫通導体6のそれぞれの直径を同寸法とした場合に、接地貫通導体6の中心が、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを2分する位置に設けられることとなり、接地貫通導体6と第1
貫通導体4との距離および接地貫通導体6と第2貫通導体5との距離が等しくなり、第1貫通導体4および第2貫通導体5のそれぞれの特性インピーダンスが同じ値となるので、特性インピーダンスの違いによるノイズの発生を抑制することができるので好ましい。
【0020】
すなわち、接地貫通導体6と第1貫通導体4との距離および接地貫通導体6と第2貫通導体5との距離が異なると、第1貫通導体4および第2貫通導体5のそれぞれの特性インピーダンスが異なってしまい、この異なる特性インピーダンスによってノイズが発生して、このノイズが第1貫通導体4および第2貫通導体5に乗ってしまうこととなるため、これを抑制するために、本願発明は、接地貫通導体6を第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを2分する位置に設けて、接地貫通導体6と第1貫通導体4との距離および接地貫通導体6と第2貫通導体5との距離を等しいものとしている。
【0021】
一例として、第1貫通導体4,第2貫通導体5,接地貫通導体6のそれぞれの直径を同じ寸法で0.2mmとし、絶縁層の材質を比誘電率が9.5である95%アルミナとし、接地貫通導体6と第1貫通導体4との中心間距離および接地貫通導体6と第2貫通導体5との中心間距離をそれぞれ0.46mmとした場合に、第1貫通導体4および第2貫通導体5のインピーダンスが、それぞれ約50Ωとなるので、第1配線導体および第2配線導体間の差動配線のインピーダンスをそれぞれ100Ωに設定して50Ωのインピーダンスの信号を伝送する場
合に、一対の配線導体のインピーダンスが50Ωで、貫通導体のインピーダンスも50Ωとなっているので、配線導体から貫通導体へ信号が伝送する際にインピーダンスの変化が無くなり、伝送特性の低下が少なくなるので好ましい。この場合、第1貫通導体4および第2貫通導体5の中心間の距離は9.2mmとなり、接地貫通導体6の中心は、第1貫通導体4
および第2貫通導体5の中心間を2分した位置に形成されたものとなる。
【0022】
本発明の差動伝送線路は、図4に示す例のように、接地貫通導体6は、第1貫通導体4および第2貫通導体5の内側の第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを結んだ直線と直交する方向に複数設けられていることが好ましい。この場合、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを結んだ直線上で、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを2分する位置を中心にして、同心円状に電界分布の磁場が形成されるので、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを結んだ直線上の最も強い電磁界結合の磁場に加えて、その周囲に発生している電磁界結合の磁場をも接地貫通導体6でもって断ち切りやすくして、電磁界結合を弱めることができる。その結果、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号をより効率よく伝送することができる。
【0023】
本発明の差動伝送線路は、図5に示す例のように、接地貫通導体6は、第1貫通導体4および第2貫通導体5の外側の周囲に複数設けられていることが好ましい。この場合、第1貫通導体4および第2貫通導体5の外側の周囲に設けられた接地貫通導体6により、接地性を向上させ、第1貫通導体4および第2貫通導体5に外部からノイズが入ることを抑制し、高周波信号をより効率よく伝送することができる。接地貫通導体6が設けられている第1貫通導体4および第2貫通導体5の外側とは、具体的には上面視した場合に第1配線導体2と第2配線導体3とで囲まれた領域の外側のことである。
【0024】
本発明の多層配線基板は、図1に示す例のように、複数の絶縁層が積層されてなる絶縁基体1(図1においては3層の絶縁層を積層している)の内部に、上記構成の本発明の差動伝送線路を備え、絶縁基体の一方主面および他方主面に接地導体層7が形成されているとともに、該接地導体層7に接地貫通導体6を接続している。このような構成により、接地貫通導体6によって第1貫通導体4および第2貫通導体5にノイズが乗り難くなるとともに、絶縁基体1の一方主面および他方主面に形成された接地導体層7によって外部からのノイズの影響を低減することができるので、高周波信号を効率よく伝送することができる。
【0025】
絶縁基体1は複数の絶縁層からなり、該絶縁層は、例えば酸化アルミニウム(アルミナ:Al)質焼結体,窒化アルミニウム(AlN)質焼結体,炭化珪素(SiC)質焼結体,ムライト質焼結体,ガラスセラミックス等のセラミックスからなる。図1〜図3に示す例では、絶縁基体1が3層の絶縁層からなる例を示している。この例では、第3絶縁層1c,第2絶縁層1b,第1絶縁層1aが下から順次積層され、最上層が第1絶縁層1aであり、中間層が第2絶縁層1bであり、最下層が第3絶縁層1cである。
【0026】
一対の配線導体を構成する第1配線導体2および第2配線導体3ならびに第1貫通導体4,第2貫通導体5,接地貫通導体6は、絶縁層と同時焼成により形成される、タングステン(W),モリブデン(Mo),モリブデン−マンガン(Mo−Mn)合金,銀(Ag),銅(Cu),金(Au),銀−パラジウム(Ag−Pd)合金等の金属を主成分とするメタライズからなるものである。
【0027】
第1配線導体2は、一方の第1配線導体2aおよび他方の第1配線導体2bを有し、第2配線導体3もまた、一方の第2配線導体3aおよび他方の第2配線導体3bを有している。そして、一方の第1配線導体2aおよび他方の第2配線導体3bが、第2絶縁層1bの上面に形成され、他方の第1配線導体2bおよび一方の第2配線導体3aが、第3絶縁層1cの上面に形成されている。
【0028】
第1貫通導体4は、一方の第1配線導体2aと他方の第1配線導体2bとを電気的に接続する機能を有し、直径が0.05〜0.2mmの寸法が使用されるが、配線基板の要求される
特性インピーダンスと配線密度に応じて必要な寸法とすれば良い。
【0029】
第2貫通導体5は、一方の第2配線導体3aと他方の第2配線導体3bとを電気的に接続する機能を有し、直径が0.05〜0.2mmで第1貫通導体4と同じ寸法とすることで、第
1貫通導体4と同じインピーダンスの値にできるので好ましい。
【0030】
第1貫通導体4および第2貫通導体5は、第2絶縁層1bを貫通して設けられており、一方の第1配線導体2aと他方の第1配線導体2bとが第1貫通導体4を介して電気的に接続され、一方の第2配線導体3aと他方の第2配線導体3bとが第2貫通導体5を介して電気的に接続されている。
【0031】
接地貫通導体6は、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に設けられることが重要である。このような構成により、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に設けられた接地貫通導体6によって、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に発生する電磁界結合を弱めることができ、その結果、外部からのノイズの影響を低減することができる。
【0032】
接地貫通導体6は、直径が0.05〜0.2mmで第1貫通導体4および第2貫通導体5と同
じ寸法とすることで、第1貫通導体4および第2貫通導体5と同じインピーダンスの値にできるので好ましく、その形成位置は、電界分布の磁場の流れに沿って接地貫通導体6を設けると効果的に電磁界結合の磁場を断ち切りやすくなり、電磁界結合を弱めることができるので好ましい。
【0033】
具体的には、接地貫通導体6が設けられる位置は、図1〜図3に示す例のように、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを結んだ直線上が最も電磁界結合が強いため、この部分に接地貫通導体6を設けることで効果的に電磁界結合の磁場が断ち切りやすくなり、電磁界結合を弱くすることができる。
【0034】
接地貫通導体6は、図4に示す例のように、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の
中心とを結んだ直線上で、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを2分する位置を中心にして、左右の横方向に並ぶように複数設けることが好ましい。この場合、電磁界結合による電界分布の磁場は、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを結んだ直線上で、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを2分する位置を中心にして、同心円状に形成されるので、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを結んだ直線上の最も強い電磁界結合の磁場に加えて、その周囲に発生している電磁界結合の磁場をも接地貫通導体6でより効果的に断ち切りやすくすることができる。その結果、電磁界結合を弱めて、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号をより効率よく伝送することができるので好ましい。
【0035】
接地貫通導体6は、図5に示す例のように、第1貫通導体4の中心と第2貫通導体5の中心とを結んだ直線上で、第1貫通導体4および第2貫通導体5のそれぞれの外側に設けられていることが好ましい。この場合、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に発生する電磁界結合により生じる電界分布の磁場を効果的に断ち切りやすくして、電磁界結合を弱め、ノイズの影響を低減させるとともに、第1貫通導体4および第2貫通導体5のそれぞれの外側に設けられた接地貫通導体6によっても、第1貫通導体4および第2貫通導体5に外部からノイズが入るのを抑制し、高周波信号をより効率よく伝送することができる。
【0036】
図6に示す例は、接地貫通導体6が、第1貫通導体4および第2貫通導体5の間に複数設けられるとともに、第1貫通導体4および第2貫通導体5の外側の周囲にも複数設けられている例である。この場合、第1貫通導体4と第2貫通導体5との間に発生する電磁界結合により生じる電界分布の磁場を効果的に断ち切りやすくして、電磁界結合を弱めることができ、その結果、第1貫通導体4および第2貫通導体5への外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号をより効率よく伝送することができる。
【0037】
本発明の多層配線基板は、図1〜図3に示す例のように、複数の絶縁層が積層されてなる絶縁基体1の内部に、上記構成の本発明の差動伝送線路を備え、絶縁基体の一方主面および他方主面に接地導体層7が形成されているとともに、該接地導体層7に接地貫通導体6が接続されているものである。
【0038】
図1〜図3に示す例は、3層の絶縁層を積層した例であり、これら3層の絶縁層は、図7に示す例のように、第3絶縁層1c,第2絶縁層1b,第1絶縁層1aが下から順次積層されている。図7に示す例は、本願発明の多層配線基板を上層から下層にかけて順次層毎に示した分解斜視図であり、第1絶縁層1a,第2絶縁層1b,第3絶縁層1cにおける貫通導体の接続は破線で示している。絶縁層の中央部には上述した第1貫通導体4と第2貫通導体5と、さらにこれらの貫通導体の間に接地貫通導体6が設けられている。そして絶縁層の外周部には、第1配線導体2および第2配線導体4に電気的に接続する貫通導体が設けられ、この貫通導体を介して、第1配線導体2および第2配線導体3が端子8に導出されて電気信号が伝送される。
【0039】
具体的には、第1配線導体2および第2配線導体3の端子8への導出経路は、図2(b)および図3(b)に示す例のように、第2絶縁層1bの上面に形成された一方の第1配線導体2aおよび他方の第2配線導体3bは、第1絶縁層1aを貫通して設けられた貫通導体を介して絶縁基体1の一方主面の端子8に導出される。また第3絶縁層1cの上面に形成された他方の第1配線導体2bおよび一方の第2配線導体3aは、第1絶縁層1aおよび第2絶縁層1bを貫通して設けられた貫通導体を介して絶縁基体1の一方主面の端子8に導出される。
【0040】
第1配線導体2を流れる信号線の伝搬は、信号線が絶縁基体1の一方主面の端子8から
入り、第1絶縁層1aを貫通して設けられた貫通導体を介して一方の第1配線導体2aに伝搬し、第1貫通導体4を経由して、他方の第1配線導体2bに伝搬し、第1絶縁層1aおよび第2絶縁層1bを貫通して設けられた貫通導体を経由して絶縁基体1の一方主面の端子8へと伝搬するという経路をたどる。
【0041】
同様に、第2配線導体3を流れる信号線の伝搬は、信号線が絶縁基体1の一方主面の端子8から入り、第1絶縁層1aおよび第2絶縁層1bを貫通して設けられた貫通導体を介して一方の第2配線導体3aに伝搬し、第2貫通導体5を経由して、他方の第2配線導体3bに伝搬し、第1絶縁層1aを貫通して設けられた貫通導体を経由して絶縁基体1の一方主面の端子8へと伝搬するという経路をたどる。
【0042】
このとき、第1配線導体2を流れる信号線の線路長は、第2絶縁層1bの上面に形成された一方の第1配線導体2aの長さと、第3絶縁層1cの上面に形成された他方の第1配線導体2bの長さと、第2絶縁層1bを貫通して設けられ一方の第1配線導体2aと他方の第1配線導体2bとを電気的に接続する第1貫通導体4の長さと、第1絶縁層1aを貫通して設けられた貫通導体の長さと、第1絶縁層1aおよび第2絶縁層1bを貫通して設けられた貫通導体の長さとを足した長さとなる。
【0043】
同様に、第2配線導体3を流れる信号線の線路長は、第3絶縁層1cの上面に形成された一方の第2配線導体3aの長さと、第2絶縁層1bの上面に形成された他方の第2配線導体3bの長さと、第2絶縁層1bを貫通して設けられ一方の第2配線導体3aと他方の第2配線導体3bとを電気的に接続する第2貫通導体5の長さと、第1絶縁層1aを貫通して設けられた貫通導体の長さと、第1絶縁層1aおよび第2絶縁層1bを貫通して設けられた貫通導体の長さとを足した長さとなり、上述した第1配線導体2を流れる信号線の線路長と同じ長さとなる。
【0044】
このように、絶縁層を挟んで上下に対向するように一対の配線導体を配置した差動伝送線路において、一方の第1配線導体2aと他方の第1配線導体2bとが絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体4を介して電気的に接続され、一方の第2配線導体3aと他方の第2配線導体3bとが絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体5を介して電気的に接続されていることから、絶縁層を挟んで上下に形成された第1配線導体2および第2配線導体3が第1貫通導体4および第2貫通導体5を介して上下で入れ替わり、交差するように接続されることとなる。その結果、上述したように端子8間における第1配線導体2と第2配線導体3との線路長がほぼ同じものとなるので、抵抗を同じにすることができる。
【0045】
このような絶縁基体1および一対の配線導体(第1配線導体2および第2配線導体3)ならびに第1貫通導体4,第2貫通導体5,接地貫通導体6を有する多層配線基板は、以下の方法により作製される。
【0046】
例えば、絶縁層が酸化アルミニウム質焼結体で形成される場合には、まず、酸化アルミニウム,酸化珪素,酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの原材料粉末に適当な有機バインダおよび溶媒を添加混合して泥漿状となすとともに、これをドクターブレード法等によってシート状に成形し、絶縁層となる複数のセラミックグリーンシートを作製する。
【0047】
次に、セラミックグリーンシートの第1貫通導体4および第2貫通導体5ならびに接地貫通導体6が形成される所定位置に適当な打ち抜き加工により貫通孔を形成するとともに、貫通孔に導体ペーストを充填する。また、スクリーン印刷法等によってセラミックグリーンシートの所定位置に第1配線導体2および第2配線導体3となる導体ペースト層を10μm〜20μmの厚みに形成する。導体ペーストは、タングステン(W),モリブデン(Mo),モリブデン−マンガン(Mo−Mn)合金等の融点の高い金属粉末と適当な樹脂バ
インダおよび溶剤とを混練することにより作製される。
【0048】
最後に、これらセラミックグリーンシートを重ね合わせて加熱圧着して積層体を作製し、この積層体を1500℃〜1600℃程度の高温で焼成することによって絶縁層と配線導体と貫通導体とが焼結一体化された多層配線基板が作製される。
【0049】
接地導体層7は、絶縁基体1の一方主面および他方主面に形成され、接地貫通導体6が接続されている。接地導体層7の厚みは、特に規定は無いが、0.1μm〜20μm程度であ
る。25〜40GHz程度の高い周波数の信号を伝送する場合には、接地導体層7の電気抵抗率が高くなると伝送特性が劣化するおそれがあるので、接地導体層7の電気抵抗率は4mΩ・cm以下であることが好ましい。
【0050】
接地導体層7の形成方法は、第1絶縁層1aの上面に接地導体層7となる導体ペーストを印刷塗布し、同様に第3絶縁層1cの下面の全面に接地導体層7となる導体ペーストを印刷塗布することで形成される。この接地導体層7となる導体ペーストは、上述した第1配線導体2および第2配線導体3となる導体ペーストと同様の材料および作製方法で製作される。
【0051】
なお、本発明は、上述した最良の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を行なうことは何ら差し支えない。例えば、本実施形態では、差動伝送線路は絶縁基体1の上面の端子8から絶縁基体1の内部の配線に接続されて形成され、再度上面の端子8に接続されているが、例えば、上面の端子8から内部の配線に接続されて形成され、下面の端子8に接続されても良く、その逆でも良く、側面に端子8を形成しても良い。また、例えば本実施形態の一例では、絶縁基体1をセラミックスからなるものとしたが、絶縁基体1をポリイミド層等の絶縁樹脂層で形成し、配線導体および貫通導体を銅で形成しても良い。このような場合、本発明の多層配線基板が、プローブピンを接触させて半導体素子の電気特性を確認するプローブカード用の多層配線基板に用いられる場合には、この多層配線基板の上面に複数の絶縁樹脂層を積層するので、多層配線基板と絶縁樹脂層とがともに有機樹脂であり、絶縁樹脂層からなる多層配線基板と絶縁樹脂層との界面の接合を良好にすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1・・・・・・・絶縁基体
1a・・・・・・第1絶縁層
1b・・・・・・第2絶縁層
1c・・・・・・第3絶縁層
2・・・・・・・第1配線導体
2a・・・・・・一方の第1配線導体
2b・・・・・・他方の第1配線導体
3・・・・・・・第2配線導体
3a・・・・・・一方の第2配線導体
3b・・・・・・他方の第2配線導体
4・・・・・・・第1貫通導体
5・・・・・・・第2貫通導体
6・・・・・・・接地貫通導体
7・・・・・・・接地導体層
8・・・・・・・端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層を挟んで上下に対向する第1配線導体および第2配線導体を有する一対の配線導体からなる差動伝送線路において、
前記第1配線導体は一方の第1配線導体と他方の第1配線導体とを有し、
前記第2配線導体は一方の第2配線導体と他方の第2配線導体とを有しており、
前記一方の第1配線導体と前記一方の第2配線導体とが前記絶縁層を挟んで上下に対向するとともに、前記他方の第1配線導体と前記他方の第2配線導体とが前記絶縁層を挟んで上下に対向しており、
前記一方の第1配線導体の端部と前記他方の第1配線導体の端部とが前記絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体を介して電気的に接続され、
前記一方の第2配線導体の端部と前記他方の第2配線導体の端部とが前記絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体を介して電気的に接続されており、
前記第1貫通導体と前記第2貫通導体との間に接地貫通導体が設けられていることを特徴とする差動伝送線路。
【請求項2】
前記接地貫通導体は、前記第1貫通導体の中心と前記第2貫通導体の中心とを結んだ直線上で、前記第1貫通導体の中心と前記第2貫通導体の中心とを2分する位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載の差動伝送線路。
【請求項3】
前記接地貫通導体は、前記第1貫通導体および前記第2貫通導体の内側の前記第1貫通導体の中心と前記第2貫通導体の中心とを結んだ直線と直交する方向に複数設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の差動伝送線路。
【請求項4】
前記接地貫通導体は、前記第1貫通導体および前記第2貫通導体の外側の周囲に複数設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の差動伝送線路。
【請求項5】
複数の絶縁層が積層されてなる絶縁基体の内部に、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の差動伝送線路を備え、前記絶縁基体の一方主面および他方主面に接地導体層が形成されているとともに、該接地導体層に前記接地貫通導体が接続されていることを特徴とする多層配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−93521(P2013−93521A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236106(P2011−236106)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】