説明

差動位相シフトキーイング光伝送システムおよびその光伝送方法

【課題】パルス拡がりが生じてもビット誤りを抑制することのできる差動位相シフトキーイング光伝送システムを提供する。
【解決手段】差動位相シフトキーイング光伝送方式の光伝送システムにおいて、送信機(300)において隣接する2つのパルスの偏波状態を直交させ、受信機(310)において偏波状態の同じスロット同士を合波するように構成することで、光ファイバ(307)の伝搬中に波長分散やその他の要因によって、例え光パルス幅が広がって隣接する光パルスが一部重なっても、不要な重なりに起因するビット誤りを起こさないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ伝送システムおよび方法に関し、より詳細には、位相変調した光の相対的位相差を利用してデジタル信号を伝送する差動位相シフトキーイング光伝送システムおよびその光伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ伝送システムは、長距離・大容量伝送を可能とするシステムとして広く普及している。光信号の送受信方式としては、従来は光強度を変調する強度変調方式が中心であったが、近年では受信感度が高く光ファイバの非線形効果の影響を受けにくい差動位相シフトキーイング(DPSK)の研究が盛んで、一部実用化も進められている。
【0003】
図1にDPSKシステムの基本構成を示す。送信機100はコヒーレント光パルス列を生成する光源101と位相変調器102とを有し、位相変調器102により{0,π}で位相変調された光信号106を、光ファイバ伝送路107を通じて受信機110へ送信する。この際、位相変調器102において、送りたいビット値が「0」の時には、前のパルスと同じ位相を印加し、送りたいビット値が「1」の時には、前のパルスからπシフトした位相を印加して、デジタル信号を符号化する。受信機110では、送られてきた光信号を光カップラ(C1)110で2分岐し、一方に1パルス間隔分の遅延Tを与えた後に、2×2の光カップラ(C2)114により再び合波する。光カップラ(C2)114の2つの出力端子には光検出器115,116がそれぞれ備えられ、光検出器115,116からの出力信号は差動合成回路117により差動合成される。
【0004】
このように構成すると、受信機110の合波カップラ(C2)114では、隣り合うパルス同士118,119が重なり合って干渉する。この干渉の結果、2パルス118,119の位相差が0の時には第1の光検出器115が、位相差がπの時には第2の光検出器116が、それぞれ光を検出する。この2つの光検出器115,116の出力を差動合成回路117により差動合成すると、第1の光検出器115で光が検出された時にはマイナスの信号が、第2の光検出器116で光が検出された時にはプラスの信号が、それぞれ差動合成回路117から出力されることになる。
【0005】
第1の光検出器115が光を検出するのは、送信機100がビット「0」を符号化した場合であり、第2の光検出器116が光を検出するのは、送信機100がビット「1」を符号化した場合である。そこで、受信機110の差動合成出力において、プラス信号値の場合はビット「1」、マイナス信号値の場合はビット「0」、と判別することにより、伝送信号を復号化する。
【0006】
なお、光DPSK伝送における分散の影響については、次の非特許文献1に詳しく述べられている。
【0007】
【非特許文献1】J. Wang and J. Kahn, “Impact of chromatic dispersion and polarization mode dispersion on DPSK systems using interferometric demodulation and direct detection”, Journal of Lightwave Technology, vol.22, No.22, pp.362-371 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
送受信装置及び伝送路が理想的であれば、上記により信号が正しく送受信される。しかしながら、実際には様々な要因で信号伝送特性は劣化する。光ファイバ伝送において代表的な信号劣化要因は、光ファイバの波長分散である。これは、光の波長によってファイバの屈折率が異なる、すなわち伝搬速度が異なる、という特性である。一般に変調信号光の周波数スペクトルは拡がっており、波長分散があると、周波数成分ごとにファイバ伝搬速度が異なることになる。すると、速い周波数成分は先へ進み、遅い周波数成分は後に遅れるので、結果として光パルス幅が拡がる。光パルス幅が拡がると、図2に示すように隣接する2連続パルスの一部が重なり合う。
【0009】
このように一部が重なった光信号が受信されると、ビット誤りを起こす。図2は、一部重なった2連続パルスを分岐・遅延・合波した時のパルスの重なり方を示した図で、上段の波形201が長経路(遅延経路)112を経た2パルス、下段の波形202が短経路113を経た2パルスである。四角の点線で囲った部分Bが1ビット分の時間スロットで、この時間スロット内の干渉結果から1ビットが復調される。本来なら別経路を経た隣接パルス同士が干渉して欲しいのだが、パルス拡がりのために別経路を経た自分自身の一部と干渉してしまう(図中の左斜線部)。この干渉成分は常にマイナス信号を出力するように作用するため、ビット「1」を復調する場合にビット誤りを起こす。また、同じ経路を通ったパルス間の干渉も起こる(図中の右斜線部)。この干渉結果は、別経路を経たパルス間の干渉結果とは逆特性となり、やはりビット誤りを起こす。
【0010】
以上では、代表的な信号劣化要因である波長分散の影響について説明したが、その他の要因によってもパルス拡がりは起こり、いずれの場合も上記のように信号伝送特性を劣化させる。
【0011】
なお、ここでは、パルス列によって信号を伝送するRZ(return to zero)方式について述べたが、連続光を一定時間間隔(1ビットスロット)ごとに区切って変調するNRZ(not return to zero)方式でもパルス拡がりにより同様な不都合が生じる。
【0012】
本発明は、上記の点に鑑みて成されたもので、パルス拡がりが生じてもビット誤りを抑制することのできる差動位相シフトキーイング光伝送システムおよびその光伝送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、コヒーレントな光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する手段、および位相変調された該光パルス列を1パルスごとに直交する偏波状態に変調する手段を備えた送信機と、前記送信機から出力する前記光パルス列を伝送する光ファイバ伝送路と、前記送信機から送信された前記光パルス列を分岐する手段、および分岐された該光パルス列で偏波状態の同じスロット同士を合波する手段を備えた受信機とを備えたことを特徴とする。
【0014】
ここで、前記受信機が、前記送信機から送出されたコヒーレントな前記光パルス列を受信し、第1の光パルス列と第2の光パルス列に分岐する分岐手段と、前記第1の光パルス列を、前記送信機から送られた1パルスの時間間隔の2倍の時間だけ遅延させる遅延手段と、前記遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列を合波する合波手段と、前記合波手段に接続して、前記遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列の2つシフトしたスロット間の相対的位相差が0である場合に、光を検出する第1の光検出手段と、前記合波手段に接続して、前記遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列の2つシフトしたスロット間の相対的位相差がπである場合に、光を検出する第2の光検出手段と、前記第1の光検出手段と第2の光検出手段からの出力信号を差動合成する差動合成手段とを備えていることを特徴とすることができる。
【0015】
また、前記差動合成手段の出力がマイナスの値の時にはビット「0」、プラスの値の時にはビット「1」としてビット値を復号する信号復号手段をさらに有することを特徴とすることができる。
【0016】
また、前記送信機が、一定の時間間隔のパルスからなるコヒーレントな光パルス列を送出する光源と、前記光源からの前記光パルス列を分岐する分岐手段と、前記分岐手段で分岐された一方の前記光パルス列を前記光源から送られた光パルス列の時間間隔の半分の時間だけ遅延させる遅延手段と、前記遅延手段により遅延される前記光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する第1の位相変調手段と、前記分岐手段で分岐された他方の前記光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する第2の位相変調手段と、前記第1の位相変調手段で位相変調された前記光パルス列を直交する偏光状態へ変換する変換手段と、前記遅延手段により遅延され前記偏波変調手段から出力する前記光パルス列と前記第2の位相変調手段から出力する前記光パルス列とを合波する合波手段とを備えていることを特徴とすることができる。
【0017】
また、前記合波手段が偏波ビームスプリッタであることを特徴とすることができる。
【0018】
上記目的を達成するため、請求項6の発明は、送信機、受信機、およびそれら両者をつなぐ光ファイバ伝送路を備えた光ファイバ伝送システムにおける光伝送方法であって、前記送信機において、コヒーレントな光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する手順と、前記位相変調する手順により位相変調された前記光パルス列を1パルスごとに直交する偏波状態に変調する手順と、前記直交する偏波状態に変調する手順により直交する偏波状態に変調された前記光パルス列を前記送信機から前記光ファイバ伝送路に送出する手順とを含み、前記送信機において、前記送信機から送信された前記光パルス列を分岐する手順と、前記分岐する手順により分岐された該光パルス列で偏波状態の同じスロット同士を合波する手順とを含むことを特徴とする。
【0019】
ここで、前記受信機において、前記送信機から送出されたコヒーレントな前記光パルス列を受信し、第1の光パルス列と第2の光パルス列に分岐する手順と、前記第1の光パルス列を、前記送信機から送られた1パルスの時間間隔の2倍の時間だけ遅延させる手順と、前記遅延させる手順により遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列とを合波する手順と、前記遅延させる手順により遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列の2つシフトしたスロット間の相対的位相差が0である場合に、光を検出する第1の光検出手順と、前記遅延させる手順により遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列の2つシフトしたスロット間の相対的位相差がπである場合に、光を検出する第2の光検出手順と、前記第1の光検出手順で得られる検出信号と第2の光検出手順で得られる検出信号とを差動合成する手順とを含むことを特徴とすることができる。
【0020】
また、前記送信機において、一定の時間間隔のパルスからなるコヒーレントな光パルス列を生成する手順と、前記光パルス列を分岐する手順と、前記分岐する手順により分岐された一方の前記光パルス列を該光パルス列の時間間隔の半分の時間だけ遅延させる手順と、前記遅延させる手順により遅延される前記光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する第1の位相変調手順と、前記分岐する手順により分岐された他方の前記光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する第2の位相変調手順と、前記第1の位相変調手順で位相変調された前記光パルス列を直交する偏光状態へ変換する変換手順と、前記遅延させる手順により遅延され前記偏波変調手順により偏波変調された光パルス列と前記第2の位相変調手順で位相変調された光パルス列とを合波する手順とを含むことを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
上記のような構成により、本発明によれば、偶数番目の光パルスと奇数番目の光パルスの偏波は直交しているので、不要に重なったパルス同士は干渉しない。従って、本発明によれば、光パルス幅拡がり(または1ビットスロット信号成分の時間拡がり)による信号受信特性劣化を抑えた差動位相シフトキーイング光伝送方式が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
図3は、本発明の第1の実施形態に係る差動位相シフトキーイング光伝送システムの基本構成を示す。図3に示すように、この光伝送システムは送信機(光送信機)300と光ファイバ伝送路307と受信機(光受信機)310とからなる。
【0024】
送信機300は、コヒーレント光パルス列を生成する光源301、コヒーレント光パルス列から一定時間間隔(1ビットスロット)で0またはπで位相変調された光信号を生成する位相変調器302、およびその位相変調された光信号を1ビットスロット(1パルス間隔)Tごとに直交する2つの偏波状態に変調する偏波変調器303を備える。
【0025】
光源301は位相変調器302に接続されており、位相変調器302は偏波変調器303に接続されている。光源はコヒーレント光パルス列を送出し、この光パルス列は位相変調器302に入力される。送信機300は、位相変調器302により、送信したいビット信号に応じた位相変調を光源301から入力された光パルスに与えた後、この光パルス列を偏波変調器303に受け渡す。より具体的には、位相変調器302において、送りたいビット値が「0」であれば2パルス前のパルスと同じ位相とし、「1」であれば、2パルス前のパルスからπだけシフトした位相を与える。これにより、位相変調器302から出力される光パルスの相対位相は1ビットスロットごとに0またはπとなる。
【0026】
偏波変調器303は、位相変調器302から入力された光パルスを、パルスごと(1ビットスロットごと)に交互に、直交する2つの偏波状態として変調した後、光ファイバ伝送路307を介して受信機310に対して送出する。これにより、例えば、奇数番目のパルスは縦偏波状態(V)、偶数番目は横偏波状態(H)、という光パルス列306が送信機300から光ファイバ伝送路307へと出力される。
【0027】
受信機310は、光分岐手段(C1)311、長経路312および短経路313、2×2合波カップラ(C2)314、第1の光検出器315、第2の光検出器316、および差動合成回路317を備える。光ファイバ伝送路307に接続する光分岐手段(C1)311は、長経路312および短経路313に接続されている。2×2合波カップラ(C2)314には、入力端子および出力端子がそれぞれ2つずつ備わっている。その入力端子は長経路312および短経路313に接続されており、その出力端子は第1の光検出器315および第2の光検出器316に接続されている。
【0028】
2×2合波カップラ(C2)314は、一方の入力端子で長経路312からの光パルス列を受信し、他方の入力端子で短経路313からの光パルス列を受信する。2×2合波カップラ(C2)314は、その後、2つの光パルス列の位相差が0の場合には一方の出力端子から第1の光検出器315に光を出力し、2つの光パルス列の位相差がπの場合には他方の出力端子から第2の光検出器316に光を出力する特性を有する。
【0029】
受信機310へ入力された光信号(すなわち、1パルスごとに直交する2つの偏波状態(H,V)に変調された光パルス列)306は、光分岐手段(C1)311により長経路312および短経路313にエネルギー的に等分(50対50)にそれぞれ分岐される。長経路312に分岐された光パルス列は、一定の遅延時間だけ遅延させられた後、2×2光合波カップラ(C2)314で短経路313を通った光パルス列と再び合波される。ここで、一定の遅延時間は、図3に示すように、入力された光パルス列のパルス間隔Tの2倍に等しいものとする。
【0030】
上記のように受信機310の回路を構成すると、受信機310の2×2合波カップラ(C2)314では、1つおきのパルス(奇数番目のパルス同士/偶数番目のパルス同士)が重なり合う。すなわち、送信機300から送出された光パルス列の各パルスは、一定の時間間隔Tで送出されており、また長経路312を通った光パルス列は一定の時間間隔2Tだけ遅延しているので、長経路312を通った光パルス列はちょうど2パルス分遅延した状態で、短経路313を通った光パルス列と合波される。また、送信機300から送出された光パルス列は1パルスごとに直交する偏波状態で送出されているので、1つおきのパルス同士は同じ偏波状態である。したがって、重なり合ったパルスは干渉を起こす。かかる状態については、図4を参照して詳細に説明する。
【0031】
図4は、図3で説明したパルスが送信された場合の受信パルスの重なり具合を示し、上段のパルス列が長経路(遅延経路)312を経たパルス列、下段のパルス列が短経路313を経たパルス列である。図4では、右斜線長方形(1、3、5)と左斜線長方形(2、4、6)のパルスが示されているが、右斜線長方形は縦偏波(V)で送信されたパルスを表わし、左斜線長方形は横偏波(H)で送信されたパルスを表わす。なお、光ファイバ307の伝送中に偏波状態は変化しており、受信機310への入力状態は縦・横偏波であるとは限らないが、両者が直交関係にあることは光ファイバ伝送後も保持されている。
【0032】
上記の2×2合波カップラ(C2)314での合波による干渉の結果、パルス間の位相差が0ならば第1の光検出器315が光を検出し、パルス間の位相差がπならば第2の光検出器316が光を検出する。2つの光検出器315,316からの検出信号は、差動合成回路317により差動合成される。これにより、例えば第1の光検出器315からの信号をS1、第2の光検出器316からの信号をS2とすると(S1,S2≧0)、差動合成回路317から(S2−S1)という信号が出力される。
【0033】
パルス間の位相差は、送信機300の送信ビットが「0」の時は0、送信機300の送信ビットが「1」の時はπであり、パルス間の位相差が0の時は第1の光検出器315が検出信号S1を出力し、πの時は第2の光検出器316が検出信号S2を出力する。したがって、差動合成回路317からは、送信機300からの送信ビットが「0」の時にはマイナスの信号が出力され、「1」の時にはプラスの信号が出力される。
【0034】
そこで、差動合成回路317の出力がマイナスの時には、ビット「0」、プラスの時にはビット「1」としてビット値を複号する。これにより、送信機300から受信機310へデジタル信号が伝送される。
【0035】
次に、本発明を適用した本実施形態においては、光ファイバ伝送途中で光パルス幅が拡がった場合でも、信号が正しく伝送されることを説明する。
【0036】
図5に、パルス幅が拡がった5連続パルスを受信した場合のパルスの重なり具合を示し、上段の波形が長経路(遅延経路)312を経たパルス、下段の波形が短経路313を経たパルスである。本来は、受信時間スロット内(符号Cで示す四角の破線内)で異なる経路312,313を経た1つおきのパルス(パルス2とパルス4)が重なるべきところを、パルス拡がりのため、異なる経路を経たパルス2と3/パルス2と5/パルス1と4/パルス3と4、及び同じ経路を経たパルス1と2/パルス2と3/パルス3と4/パルス4と5、の一部が重なり合っている。図5の斜線部分は、枠C内での重なり部分を示している。
【0037】
しかしながら、本実施形態では前述のように偶数番目の光パルスと奇数番目の光パルスの偏波は直交しているので、上記のように不要に重なったパルス同士は干渉しない。したがって、本実施形態では不要な干渉によるビット誤りは生じない。これらのもれこみ成分は非干渉クロストークとしてビット誤りを起こす可能性があるが、干渉クロストークによるビット誤りに比べるとその確率は十分に小さい。
【0038】
以上の理由により、本発明によれば、光ファイバ伝送路内で光パルス幅が拡がっても、ビット誤りなく(あるいは、ビット誤りがあっても十分に小さい確率で)信号が伝送されることができる。
【0039】
なお、以上では光パルス列を信号変調するRZ(return to zero)方式について述べたが、連続光を一定時間間隔(1ビットスロット)ごとに区切って変調するNRZ(not return to zero)方式でも同様に適用でき、同様な効果が得られる。
【0040】
(第2の実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態に係る差動位相シフトキーイング光伝送システムの基本構成を示す。本実施形態のシステム全体の構成は図3の第1の実施形態と同様であるが、送信機300において交互に直交である偏波状態の光パルス列を作り出す手段が異なっている。
【0041】
送信機300の光源301は一定の時間間隔2Tでコヒーレント光パルス列601を送出し、光源301からの出力光601は光分岐手段602により長経路603および短経路604にエネルギー的に等分(50対50)にそれぞれ分岐される。
【0042】
2経路に分岐された光パルス列はそれぞれ、各経路に設けた位相変調器605,606に入力される。位相変調器605,606は、それぞれ、入力された光パルスを、送信したいビット値に応じて0またはπで位相変調する。より具体的には、送りたいビット値が「0」であれば前のパルスと同じ位相とし、送りたいビット値が「1」であれば前のパルスとπだけシフトした位相を与える。すなわち、位相変調器605,606から出力される光パルス列に含まれるパルスのそれぞれの位相は、0またはπである。
【0043】
長経路603に分岐された光パルス列は、偏波回転素子607により偏波状態を直交状態(H→V)に変換され、さらに光源301からのパルス列の時間間隔の1/2、すなわちTだけ遅延させられた後、偏波ビームスプリッタ608で短経路604を通った光パルス列と再び合波される。
【0044】
偏波ビームスプリッタ608の入力においては、長経路603を通った光パルスの偏波状態と短経路604を通った光パルス列の偏波状態は直交している。偏波ビームスプリッタ608では、この2つのパルス列が同一経路307へと合波される。これにより、偏波ビームスプリッタ608からは、長経路603を経由してきた光パルス列と短経路604を経由してきた光パルス列が、直交する偏波状態として出力される。さらに、長経路603を経由してきた光パルス列は、時間間隔2Tのパルス列が時間Tだけ遅延されて合波されているので、時間間隔がT、かつ奇数番目と偶数番目のパルスが直交偏波状態である光パルス列306が出力される。
【0045】
偏波ビームスプリッタ608以後の構成と動作は図3の第1の実施形態と同様である。
【0046】
(他の実施形態)
上記では、本発明の好適な実施形態を例示して説明したが、本発明の実施形態は上記例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内であれば、その構成部材等の置換、変更、追加、個数の増減、形状の設計変更等の各種変形は、全て本発明の実施形態に含まれる。例えば、本発明は、位相変調した光パルス列の相対位相差を利用して、安全な暗号鍵を供給する量子暗号鍵配送システムにも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来の差動位相シフトキーイング光伝送システムの構成図である。
【図2】図1の受信機におけるパルス拡がりのある光信号の重なり方を示す概念図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る差動位相シフトキーイング光伝送システムの構成図である。
【図4】図3の受信機におけるパルスの重なり方を示す概念図である。
【図5】図3の受信機におけるパルス拡がりのある光信号の受信状態を説明する概念図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る送信機の構成図である。
【符号の説明】
【0048】
300 送信機(光送信機)
301 光源
302 位相変調器
303 偏波変調器
307 光ファイバ伝送路
310 受信機(光受信機)
311 光分岐手段
312 長経路
313 短経路
314 2×2合波カップラ
315 第1の光検出器
316 第2の光検出器
317 差動合成回路
602 光分岐手段
603 長経路
604 短経路
605,606 位相変調器
607 偏波回転素子
608 偏波ビームスプリッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレントな光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する手段、および位相変調された該光パルス列を1パルスごとに直交する偏波状態に変調する手段を備えた送信機と、
前記送信機から出力する前記光パルス列を伝送する光ファイバ伝送路と、
前記送信機から送信された前記光パルス列を分岐する手段、および分岐された該光パルス列で偏波状態の同じスロット同士を合波する手段を備えた受信機と
を備えたことを特徴とする差動位相シフトキーイング光伝送システム。
【請求項2】
前記受信機が、
前記送信機から送出されたコヒーレントな前記光パルス列を受信し、第1の光パルス列と第2の光パルス列に分岐する分岐手段と、
前記第1の光パルス列を、前記送信機から送られた1パルスの時間間隔の2倍の時間だけ遅延させる遅延手段と、
前記遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列を合波する合波手段と、
前記合波手段に接続して、前記遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列の2つシフトしたスロット間の相対的位相差が0である場合に、光を検出する第1の光検出手段と、
前記合波手段に接続して、前記遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列の2つシフトしたスロット間の相対的位相差がπである場合に、光を検出する第2の光検出手段と、
前記第1の光検出手段と第2の光検出手段からの出力信号を差動合成する差動合成手段と
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の差動位相シフトキーイング光伝送システム。
【請求項3】
前記差動合成手段の出力がマイナスの値の時にはビット「0」、プラスの値の時にはビット「1」としてビット値を復号する信号復号手段をさらに有することを特徴とする請求項2に記載の差動位相シフトキーイング光伝送システム。
【請求項4】
前記送信機が、
一定の時間間隔のパルスからなるコヒーレントな光パルス列を送出する光源と、
前記光源からの前記光パルス列を分岐する分岐手段と、
前記分岐手段で分岐された一方の前記光パルス列を前記光源から送られた光パルス列の時間間隔の半分の時間だけ遅延させる遅延手段と、
前記遅延手段により遅延される前記光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する第1の位相変調手段と、
前記分岐手段で分岐された他方の前記光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する第2の位相変調手段と、
前記第1の位相変調手段で位相変調された前記光パルス列を直交する偏光状態へ変換する変換手段と、
前記遅延手段により遅延され前記偏波変調手段から出力する前記光パルス列と前記第2の位相変調手段から出力する前記光パルス列とを合波する合波手段と
を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の差動位相シフトキーイング光伝送システム。
【請求項5】
前記合波手段が偏波ビームスプリッタであることを特徴とする請求項4に記載の差動位相シフトキーイング光伝送システム。
【請求項6】
送信機、受信機、およびそれら両者をつなぐ光ファイバ伝送路を備えた光ファイバ伝送システムにおける光伝送方法であって、
前記送信機において、コヒーレントな光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する手順と、
前記位相変調する手順により位相変調された前記光パルス列を1パルスごとに直交する偏波状態に変調する手順と、
前記直交する偏波状態に変調する手順により直交する偏波状態に変調された前記光パルス列を前記送信機から前記光ファイバ伝送路に送出する手順とを含み、
前記送信機において、前記送信機から送信された前記光パルス列を分岐する手順と、
前記分岐する手順により分岐された該光パルス列で偏波状態の同じスロット同士を合波する手順とを含むことを特徴とする差動位相シフトキーイング光伝送方法。
【請求項7】
前記受信機において、
前記送信機から送出されたコヒーレントな前記光パルス列を受信し、第1の光パルス列と第2の光パルス列に分岐する手順と、
前記第1の光パルス列を、前記送信機から送られた1パルスの時間間隔の2倍の時間だけ遅延させる手順と、
前記遅延させる手順により遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列とを合波する手順と、
前記遅延させる手順により遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列の2つシフトしたスロット間の相対的位相差が0である場合に、光を検出する第1の光検出手順と、
前記遅延させる手順により遅延させられた前記第1の光パルス列と前記第2の光パルス列の2つシフトしたスロット間の相対的位相差がπである場合に、光を検出する第2の光検出手順と、
前記第1の光検出手順で得られる検出信号と第2の光検出手順で得られる検出信号とを差動合成する手順と
を含むことを特徴とする請求項6に記載の差動位相シフトキーイング光伝送方法。
【請求項8】
前記差動合成する手順で得られた出力がマイナスの値の時にはビット「0」、プラスの値の時にはビット「1」としてビット値を復号する手順をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の差動位相シフトキーイング光伝送方法。
【請求項9】
前記送信機において、
一定の時間間隔のパルスからなるコヒーレントな光パルス列を生成する手順と、
前記光パルス列を分岐する手順と、
前記分岐する手順により分岐された一方の前記光パルス列を該光パルス列の時間間隔の半分の時間だけ遅延させる手順と、
前記遅延させる手順により遅延される前記光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する第1の位相変調手順と、
前記分岐する手順により分岐された他方の前記光パルス列を1パルスごとに0またはπで位相変調する第2の位相変調手順と、
前記第1の位相変調手順で位相変調された前記光パルス列を直交する偏光状態へ変換する変換手順と、
前記遅延させる手順により遅延され前記偏波変調手順により偏波変調された光パルス列と前記第2の位相変調手順で位相変調された光パルス列とを合波する手順と
を含むことを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の差動位相シフトキーイング光伝送方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−50735(P2010−50735A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213147(P2008−213147)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】