説明

差動装置の制御装置

【課題】燃費を向上ができる自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】第1遊星歯車機構と、第2遊星歯車機構と、差動装置と、車両の走行状態に基づき、ブレーキを締結状態としてクラッチを解放状態とする第1走行モードと、ブレーキを解放状態としてクラッチを締結状態とする第2走行モードと、のいずれかの走行モードを選択する選択手段と、選択手段により選択された走行モードに基づき、ブレーキおよびクラッチの締結状態を制御する制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌に搭載され、左右駆動輪の差動を許容して駆動力を分配する差動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンおよび変速機から出力される駆動力を、左右駆動輪の差動を許容して駆動力を分配する差動装置が車両に備えられている。
【0003】
この差動装置は、遊星歯車機構により差動を許容すると共に、クラッチの断続や歯車の摩擦力等によって駆動力の分配を動的に行うものが広く知られている。
【0004】
このような差動装置として、二組の遊星歯車機構を組み合わせて、車両左右旋回時においては、接地荷重に応じて左右車軸それぞれへの駆動力を分配し、車両直進時において加速させるなど高出力走行の際には、左右車軸の回転速度が等しくなるように差動を制限する左右駆動力分配装置が知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−128308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の従来技術では、左右旋回時に二組の遊星歯車機構を非直結状態(二組の遊星歯車機構の内少なくとも2つの回転部材が異なる回転速度にて回転している状態)として左右車軸それぞれの駆動力を分配する状態(第1の走行モード)と、高出力走行時に左右車輪に同一の駆動力が働くように、二組の遊星歯車機構を直結状態(二組の遊星歯車機構の全ての回転部材が同一回転速度にて回転している状態)として左右車軸の回転速度が等しくなる状態(第2の走行モード)とを、切り換える。
【0007】
ところで、このような従来の減速装置では、第1走行モードと第2走行モードとが等速に設定されている。すなわち、いずれの走行モードにおいても、第2遊星歯車機構に入力される回転速度は同一である。
【0008】
そのため、いずれの走行モードにおいても、所定の車速を得るためには同じエンジン回転速度が必要となるので、必要な車速を得るためにエンジン回転速度が上昇する。特に第2走行モードにおいては、高速巡航のときのエンジン回転速度が大きく上昇するため、燃費効率が低下するという問題がある。そこで、この第2走行モードにおけるエンジン回転速度を低下させることができれば、燃費の向上が見込まれる。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、複雑な構成となることなく、燃費を向上させることができる差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施態様によると、駆動源と連結する第1回転部材と、ブレーキと連結する第2回転部材と、ブレーキ締結時に第1回転部材より低い回転速度で回転する第3回転部材とを有する第1遊星歯車機構と、第3回転部材と連結する第4回転部材と、一方の駆動軸に連結する第5回転部材と、他方の駆動軸に連結する第6回転部材とを有する第2遊星歯車機構と、駆動源と第5回転部材及び第6回転部材との間に配されるクラッチから構成され、一方の駆動軸及び他方の駆動軸の差動を許容する差動装置と、車両の走行状態に基づき、ブレーキを締結状態としてクラッチを解放状態とする第1走行モードと、ブレーキを解放状態としてクラッチを締結状態とする第2走行モードと、のいずれかの走行モードを選択する選択手段と、選択手段により選択された走行モードに基づき、ブレーキおよびクラッチの締結状態を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、ブレーキを締結状態としてクラッチを解放状態とすることで第1回転部材より引く回転速度で第3回転部材を回転させる第1走行モードと、ブレーキを解放状態としてクラッチを締結状態とする第2走行モードと、を選択することができる。これにより、第2走行モードは第1走行モードと比較して差動装置におけるギヤ比を小さくすることができるので、複雑な構成となることなく、所定の車速を得るために必要な駆動源(エンジン)の回転速度を低下させることで、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の車両の駆動系の説明図である。
【図2】本発明の実施形態の差動装置の説明図である。
【図3】本発明の実施形態の差動装置の共線図である。
【図4】本発明の実施形態の制御装置のフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態の高速巡航状態を判定するマップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態の差動装置について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態の差動装置30が適用された車両の駆動系の説明図である。
【0015】
車両の駆動系は、エンジン10と、変速機20と、差動装置30と、左車軸41に接続される左車輪40と、右車軸51に接続される右車輪50と、から構成される。
【0016】
エンジン10によって発生された駆動力は、変速機20によって運転状態に応じて減速される。変速機20から出力される駆動力は、出力側歯車21と係合する入力側歯車22を介して、差動装置30に入力される。
【0017】
差動装置30は、後述するように二組の遊星歯車機構等からなり、制御装置35によって制御されることによって、入力された駆動力を、左車軸41を介した左車輪40と、右車軸51を介した右車輪50とに分配して、差動を許容しながら伝達する。
【0018】
制御装置35は、エンジン10、変速機20等に備えられる各種センサによって、エンジン回転速度、スロットル開度、ステアリング操舵角、ヨーモーメント等を取得する。そして、これら取得した各種データに基づいて、差動装置30の動作状態を制御する。
【0019】
図2は、本発明の実施形態の差動装置30の機能ブロック図である。
【0020】
差動装置30は、リングギヤR1(第1回転部材)、サンギヤS1(第2回転部材)及びキャリアC1(第3回転部材)を有するシングルピニオン式の第1遊星歯車機構31と、リングギヤR2(第4回転部材)、サンギヤS2(第5回転部材)、キャリアC2(第6回転部材)を有するダブルピニオン式の第2遊星歯車機構32と備える。
【0021】
変速機20から入力される駆動力は、入力側歯車22と連結するリングギヤR1に入力される。
【0022】
また、この駆動力は、クラッチCL2を介して第2遊星歯車機構32のキャリアC2に入力される。また、クラッチCL1を介して第2遊星歯車機構32のサンギヤS2に連結された左車軸41にも入力される。
【0023】
また、第1遊星歯車機構31のキャリアC1と、第2遊星歯車機構32のリングギヤR2とが連結されている。
【0024】
また、第1遊星歯車機構31のサンギヤS1は、ブレーキBKを介して、差動装置30のケース33に接続されている。
【0025】
また、第2遊星歯車機構32のキャリアC2は右車軸51に連結され、サンギヤS2は左車軸41に連結されている。また、クラッチCL1又はCL2の締結状態によって、一方の駆動輪(左車輪40及び左車軸41)と他方の駆動輪(右車輪50及び右車軸51)との差動を許容する。
【0026】
これらクラッチCL1、クラッチCL2及びブレーキBKは、制御装置35からの指示に基づいてその締結力が制御され、締結状態、解放状態及びスリップ締結状態(入出力回転差を許容しながらトルクを伝達する状態)の3つの状態に制御可能である。
【0027】
次に、このように構成された差動装置30の動作を説明する。
【0028】
図3は、本発明の実施形態の差動装置30の駆動力の伝達の様子を示す共線図である。
【0029】
本実施形態の差動装置30は、左右旋回時において左右車軸の差動を許容するLowモード(第1走行モード)と、直進時において左右車軸の差動を制限するHighモード(第2走行モード)とを備える。
【0030】
図3(a)はLowモードを示し、図3(b)はHighモードを示す。
【0031】
Lowモードでは、ブレーキBKを締結状態とすることでリングギヤR1の回転速度よりも低い回転速度でキャリアC1が回転する。これにより、入力された駆動力を第1遊星歯車機構31において減速し、右車軸及び左車軸に連結された第2遊星歯車機構32へと伝達する。
【0032】
Lowモードにおける右旋回時は、クラッチCL1の係合圧を増大させて、入力駆動力を左車軸41へと出力すると共に、クラッチCL2を解放する。
【0033】
この状態では、左車軸41の駆動力が増大される。また、駆動力の増大は、クラッチCL1の締結力により制御される。これによって、右旋回ヨーモーメントが発生するので、スムーズな旋回が可能となる。
【0034】
また、Lowモードにおける左旋回時は、クラッチCL2の係合圧を増大させて、入力駆動力を右車軸51へと出力すると共に、クラッチCL1を解放する。
【0035】
この状態では、右車軸51の駆動力が増大される。また、駆動力の増大は、クラッチCL2の締結力により制御される。これによって、左旋回ヨーモーメントが発生するので、スムーズな旋回が可能となる。
【0036】
また、Lowモードにおいて、直進時は、ブレーキBKを締結状態としてサンギヤS1をケース33に固定させると共に、クラッチCL1及びクラッチCL2を解放する。
【0037】
この状態では、第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32とが非直結状態(サンギヤS1とC1とが異なる回転速度にて回転している。このように少なくとも2つの回転部材(本実施形態においては、例えば、キャリアC1とリングギヤR1)が異なる回転速度にて回転している状態を、非直結状態と称す。)となる。第1遊星歯車機構31によって減速された駆動力が、左車軸41及び右車軸51それぞれに均等して出力される。
【0038】
一方、Highモードにおいては、ブレーキBKを解放すると共にクラッチCL1及びクラッチCL2を共に最大係合圧で締結する。
【0039】
この状態では、第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32とが直結状態(キャリアC1とリングギヤR2、リングギヤR1とキャリアC2、リングギヤR1とサンギヤS2の三組が連結している。このように少なくとも二組が連結して、第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32の全ての回転部材(本実施形態においては、サンギヤS1、キャリアC1、リングギヤR1、サンギヤS2、キャリアC2、リングギヤR2)が同一回転速度にて回転する状態を、直結状態と称す)となる。左車軸41には入力駆動力がクラッチCL1を介して直接伝達される。また、右車軸51には入力駆動力がクラッチCL2及びキャリアC2を介して直接伝達される。
【0040】
すなわち、Highモードでは、第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32とが直結状態となることで、差動装置30に入力された駆動力が減速されることなく、左車軸41及び右車軸51に伝達される。
【0041】
次に、制御装置35による差動装置30の制御について説明する。
【0042】
図4は、本発明の実施形態の制御装置35のフローチャートである。
【0043】
この図4に示すフローチャートは、車両が運転状態であるときに制御装置35によって所定の周期(例えば0.1ms毎)に実行される。
【0044】
まず、制御装置35は、現在の運転状態が高速巡航状態であるか否か判定する(S101)。
【0045】
高速巡航状態であるか否かは、変速機20の変速段が最高速段であり、かつ、スロットル開度と車速との関係が、予め設定したマップにより所定の条件を満たしている場合に、高速巡航状態であると判定する。
【0046】
例えば、変速機20の変速段が最高速段であり、車速が十分高く、かつ、スロットル開度が十分小さい場合に、高速巡航状態であると判定する。この車速及びスロットル開度の一例として、車速(VSP)が80km/h以上であり、かつ、スロットル開度(TVO)が2/8未満とする。
【0047】
また、予め設定されるマップとして、図5に示すようなマップを制御装置35が予め記憶しておき、このマップに基づいて高速巡航状態であるか否かを判定してもよい。この図5に示すマップの一例では、高速巡航状態を判定する閾値を、車速が大きくなるほどスロットル開度が大きな開度となるように設定している。このようにすることによって、高速巡航状態をより適切に判定することができる。
【0048】
またさらに、ステアリング操舵角が所定の操舵角未満(例えば80deg未満)である場合という条件を、高速巡航状態の判定に追加してもよい。
【0049】
高速巡航状態であると判定した場合はステップS102に移行し、制御装置35は、差動装置30のモードをHighモードに決定する。高速巡航状態でないと判定した場合はステップS104に移行し、差動装置30のモードをLowモードに決定する。
【0050】
ステップS102において、差動装置30をHighモードに決定した場合は、ステップS103において、制御装置35は、ブレーキBKを解放状態に、クラッチCL1及びクラッチCL2を締結状態に、それぞれ制御する。
【0051】
このステップS103の制御によって、入力駆動力がクラッチCL1を介して左車軸41に伝達される。また、入力駆動力はクラッチCL2、キャリアC2を介して右車軸に伝達される。
【0052】
この状態では、差動装置30に入力された駆動力が減速されることなく、左車軸41及び右車軸51に伝達される。
【0053】
ステップS104においてLowモードを決定した場合は、ステップS105において、制御装置35は、右旋回が開始されているか否かを判定する。
【0054】
右旋回が開始されているか否かは、制御装置35がステアリングの操舵角を取得し、この操舵角の変化量が所定値以上右旋回側に変化したか否かによって判定する。
【0055】
右旋回の開始であると判定した場合はステップS106に移行し、Low右旋回モードを決定する。
【0056】
Low右旋回モードでは、制御装置35は、ブレーキBKを締結状態に、クラッチCL1をスリップ締結状態に、クラッチCL2を解放状態に、それぞれ制御する。
【0057】
このステップS106の制御によって、入力駆動力がクラッチCL1を介して左車軸41に伝達される。また、入力駆動力は第2遊星歯車機構32により減速されて、右車軸51に伝達される。
【0058】
この状態では、差動装置30に入力された駆動力は、クラッチCL1のスリップに応じて増力されて左車軸41に伝達される。
【0059】
次に、ステップS107において、制御装置35は、車速、スロットル開度、ステアリング操舵角等から算出した予想ヨー角度と、車両の加速度センサ等から取得した現在の実ヨー角度をと比較する。
【0060】
ステップS107において、予想ヨー角度が実ヨー角度を超えていると判定した場合はステップS108に移行する。この場合は、ステアリング操舵角に対して、実際の車両の挙動がアンダーステア状態である。そこで、制御装置35は、クラッチCL1の締結圧を増大させることでクラッチCL1のスリップ量を減少させて、左車軸41の駆動力を増速させる。
【0061】
これにより、右車軸51に対する左車軸41の駆動力を増速させて、実ヨー角度を上昇させるので、アンダーステアが解消される。
【0062】
ステップS107において、予想ヨー角度が実ヨー角度を超えていないと判定した場合はステップS109に移行する。この場合は、ステアリング操舵角に対して、実際の車両の挙動がオーバーステア状態である。そこで、制御装置35は、クラッチCL1の締結圧を減少させることでクラッチCL1のスリップ量を増加させ、左車軸41の駆動力を減少させる。
【0063】
これにより、右車軸51に対する左車軸41の駆動力を減少させて、実ヨー角度を減少させるので、オーバーステアが解消される。
【0064】
ステップS105において、右旋回の開始でないと判定した場合は、ステップS110に移行して、左旋回が開始されているか否かを判定する。
【0065】
左旋回が開始されているか否かは、ステップS105の制御と同様に、制御装置35がステアリングの操舵角を取得し、この操舵角の変化量が所定値以上左旋回側に変化したか否かによって判定する。
【0066】
左旋回の開始であると判定した場合はステップS111に移行し、Low左旋回モードを決定する。
【0067】
Low左旋回モードでは、制御装置35は、ブレーキBKを締結状態に、クラッチCL1を解放状態に、クラッチCL2をスリップ締結状態に、それぞれ制御する。
【0068】
このステップS111の制御によって、入力駆動力がクラッチCL2、キャリアC2を介して右車軸51に伝達される。また、入力駆動力は第2遊星歯車機構32によって減速されて、左車軸41に伝達される。
【0069】
この状態では、差動装置30に入力された駆動力は、クラッチCL2のスリップに応じて増力されて右車軸51に伝達される。
【0070】
次に、ステップS112において、制御装置35は、車速、スロットル開度、ステアリング操舵角等から算出した予想ヨー角度と、車両の加速度センサ等から取得した現在の実ヨー角度をと比較する。
【0071】
ステップS112において、予想ヨー角度が実ヨー角度を超えていると判定した場合はステップS113に移行する。この場合は、ステアリング操舵角に対して、実際の車両の挙動がアンダーステア状態である。そこで、制御装置35は、クラッチCL2の締結圧を増大させることでクラッチCL2のスリップ量を減少させて、右車軸51の駆動力を増速させる。
【0072】
これにより、左車軸41に対する右車軸51の駆動力を増速させて、実ヨー角度を上昇させるので、アンダーステアが解消される。
【0073】
ステップS112において、予想ヨー角度が実ヨー角度を超えていないと判定した場合はステップS113に移行する。この場合は、ステアリング操舵角に対して、実際の車両の挙動がオーバーステア状態である。そこで、制御装置35は、クラッチCL2の締結圧を減少させることでクラッチCL2のスリップ量を増加させ、右車軸51の駆動力を減少させる。
【0074】
これにより、左車軸41に対する右車軸51の駆動力を減少させて、実ヨー角度を減少させるので、オーバーステアが解消される。
【0075】
ステップS110において、左旋回の開始でないと判定された場合は、ステップS115に移行し、制御装置35は、右車輪50のスリップが発生したか否かを判定する。
【0076】
右車輪50のスリップの発生は、左右旋回でない状態において、右車軸51の回転速度から左車軸41の回転速度を差し引いた値が、所定値以上であるときに、スリップを判定する。
【0077】
右車輪50のスリップが発生したと判定した場合は、ステップS116に移行して、制御装置35は、ブレーキBKを締結状態に、クラッチCL1をスリップ締結状態に、クラッチCL2を解放状態に、それぞれ制御する。
【0078】
このステップS116の制御によって、差動装置30に入力された駆動力は、クラッチCL1のスリップに応じた駆動力として左車軸41に伝達される。
【0079】
この制御によって、スリップが発生した右車輪50とは逆側の左車軸41に駆動力を伝達させて、スリップによる駆動力の減少を抑制して、車両の挙動変化を抑制することができる。
【0080】
ステップS116において、右車輪50のスリップが発生していないと判定した場合は、ステップS117に移行し、制御装置35は、左車輪40のスリップが発生したか否かを判定する。
【0081】
左車輪40のスリップの発生は、左右旋回でない状態において、左車軸41の回転速度から右車軸51の回転速度を差し引いた値が、所定値以上であるときに、スリップを判定する。
【0082】
左車輪40のスリップが発生したと判定した場合は、ステップS118に移行して、制御装置35は、ブレーキBKを締結状態に、クラッチCL2をスリップ締結状態に、クラッチCL1を解放状態に、それぞれ制御する。
【0083】
このステップS118の制御によって、差動装置30に入力された駆動力は、クラッチCL2のスリップに応じて駆動力として右車軸51に伝達される。
【0084】
この制御によって、スリップが発生した左車輪40とは逆側の右車軸51の駆動力を伝達させて、スリップによる駆動力の減少を抑制して、車両の挙動変化を抑制することができる。
【0085】
すなわち、このステップS115からS118の制御によって、スリップ側の車輪とは逆側の車輪に駆動力を発生させて差動を制限することで、いわゆるリミテッド・スリップ・ディファレンシャル(LSD)として機能させることができる。
【0086】
また、ステップS117において、左車輪40のスリップが発生していないと判定し場合はステップS119に移行する。
【0087】
すなわち、左右旋回でなく、かつ、左右車輪のいずれもスリップが発生していない場合は、直進状態である。
【0088】
ステップS119では、Low直進モードを決定する。
【0089】
Low直進モードでは、制御装置35は、ブレーキBKを締結状態に、クラッチCL1を解放状態に、クラッチCL2を解放状態に、それぞれ制御する。
【0090】
このステップS119の制御によって、入力駆動力が第1遊星歯車機構31によって減速された後、第2遊星歯車機構32によって左車軸41及び右車軸51に分配されて伝達される。
【0091】
その後、本フローチャートによる処理を終了する。
【0092】
このような処理によって、差動装置30において、車両の挙動(左右旋回、スリップ等)に応じて左車軸41と右車軸51とに駆動力を分配することができる。また、高速巡航時には、駆動力を減速することなく左車軸41及び右車軸51へと伝達することができる。
【0093】
なお、このように、制御装置35が、車両の走行状態に基づいて、第1遊星歯車機構31に入力された回転速度を減速して第2遊星歯車機構32へと出力するLowモード(第1走行モード)と、第1遊星歯車機構31に入力された回転速度をそのまま等速で第2遊星歯車機構32へと出力するHighモード(第2走行モード)と、を選択することによって、選択手段が構成される。
【0094】
以上のように、本発明の実施形態の差動装置30は、駆動力を減速し、左車軸41又は右車軸51の差動を許容しながら駆動力を分配するLowモードと、駆動力を減速することなく左車軸41及び右車軸51に伝達するHighモードを選択することができる。
【0095】
特に、Highモードでは、Lowモードと比較してギヤ比を小さくするので、車速を得るのに必要なエンジン回転速度を低下させることができるので、燃費を向上させることができる。
【0096】
より具体的には、本発明の実施形態の差動装置30は、第1遊星歯車機構31のリングギヤR1に駆動力が入力され、第1遊星歯車機構31のキャリアC1から駆動力が出力される構成としている。
【0097】
この場合、Lowモード(第1走行モード)において第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32とを非直結とした場合は、第1遊星歯車機構31によって減速された駆動力が第2遊星歯車機構32を介して左右車軸へと伝達される。
【0098】
一方で、Highモード(第2走行モード)において第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32とを直結とした場合は、入力された駆動力が第1遊星歯車機構31によって減速されることなく、左右車軸へと伝達される。
【0099】
このような構成によって、LowモードとHighモードとのギヤ比に差を持たせることができる。
【0100】
また、本発明の実施の形態の差動装置30は、従来から一般に用いられているシングルピニオン式及びダブルピニオン式の遊星歯車機構、クラッチ及びブレーキから構成されるので、複雑な構成部品が増加することがないので、製造コスト、組立コストを抑制することができる。
【0101】
また、変速機20の最高速段(例えば変速段7段)であって、エンジン回転速度とスロットル開度とから高速巡航時と判断したときにはHighモードに移行するので、高速巡航時に、差動装置30におけるギヤ比を小さくすることができるので、燃費を向上させることができる。
【0102】
特に、高速巡航時では、車両が横風を受けたときや半径の大きいカーブを走行するときなど、横方向の力を受けたときにも、左右駆動軸に同一の駆動力を働かせることによって、車両を直進させようとする力を働かせることができ、車両の安定性を高めることができる。
【0103】
また、本発明の実施形態の差動装置30は、Lowモードと、Lowモードよりもギヤ比の小さいHighモードとを選択することができるので、このギヤ比の変更を2段変速段として扱うことができる。
【0104】
近年、自動変速機の多段化により、自動変速機自体の体積、重量が大きくなり、設置スペースの確保が難しくなると共に燃費向上の妨げとなっていた。
【0105】
これに対して、本発明の実施形態の差動装置30を適用することによって、差動装置30側で2段変速を行うことができる。
【0106】
より具体的には、変速段が6速である変速機を搭載し、かつ、本実施形態の差動装置30を適用することによって、実質的に変速段が7速である変速機を搭載したとして作用することができる。
【0107】
これによって、達成される変速段が低減されることがない。例えば、6速の変速機を搭載しても、本発明の差動装置30によって実質的に7速の変速機と同等の変速機とすることができる。そのため、変速機の小型化、軽量化が可能となり、設置スペースの自由度が高くなり、燃費効率やコストを向上させることができる。
【0108】
なお、本発明の実施形態では、変速機は有段/無段に限られず、CVT等の他の方式の変速機であってもよい。また、自動変速機であっても手動変速機であってもよい。
【0109】
また、本発明の実施形態ではFF車両を例に説明したが、これに限られるものではなく、FR車両や4WD等、他の駆動方式の車両においても同様に適用可能である。
【0110】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0111】
10 エンジン
20 変速機
30 差動装置
31 第1遊星歯車機構
32 第2遊星歯車機構
33 ケース
35 制御装置
40 左車輪
41 左車軸
50 右車輪
51 右車軸
BK ブレーキ
CL1 クラッチ(第1クラッチ)
CL2 クラッチ(第2クラッチ)
C1 キャリア(第1キャリア)
C2 キャリア(第2キャリア)
R1 リングギヤ(第1リングギヤ)
R2 リングギヤ(第2リングギヤ)
S1 サンギヤ(第1サンギヤ)
S2 サンギヤ(第2サンギヤ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と連結する第1回転部材と、ブレーキと連結する第2回転部材と、前記ブレーキ締結時に前記第1回転部材より低い回転速度で回転する第3回転部材とを有する第1遊星歯車機構と、
前記第3回転部材と連結する第4回転部材と、一方の駆動輪に連結する第5回転部材と、他方の駆動輪に連結する第6回転部材とを有する第2遊星歯車機構と、
前記駆動源と前記第5回転部材及び前記第6回転部材の少なくとも一方との間に配されるクラッチから構成され、前記一方の駆動輪及び前記他方の駆動輪の差動を許容する差動装置と、
車両の走行状態に基づき、前記ブレーキを締結状態として前記クラッチを解放状態とする第1走行モードと、前記ブレーキを解放状態として前記クラッチを締結状態とする第2走行モードと、のいずれかの走行モードを選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された走行モードに基づき、前記ブレーキおよび前記クラッチの締結状態を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする差動装置の制御装置。
【請求項2】
前記選択手段は、車両の走行状態が高速巡航走行状態であるか否を判定し、前記判定結果に基づいて車両の走行状態が前記高速巡航走行であると判定した場合に、前記第2走行モードを選択し、前記高速巡航モードでないと判定した場合に、前記第1走行モードを選択することを特徴とする請求項1に記載の差動装置の制御装置。
【請求項3】
前記第1遊星歯車機構は、前記駆動源からの駆動力を第1リングギヤに入力されるシングルピニオン式遊星歯車であり、
前記第2遊星歯車機構は、ダブルピニオン式遊星歯車であり、
前記第1遊星歯車機構の第1キャリアと前記第2遊星歯車機構の第2リングギヤとが連結されており、
前記第2遊星歯車機構の第2サンギヤに連結された左車軸と、
前記第2遊星歯車機構の第2キャリアに連結された右車軸と、
締結状態によって前記駆動源からの駆動力を前記第2遊星歯車機構の第2サンギヤに入力する第1クラッチと、
締結状態によって前記駆動源からの駆動力を前記第2遊星歯車機構の第2キャリア入力する第2クラッチと、
締結状態によって前記第1遊星歯車機構の第1サンギヤを停止させるブレーキと、
を備え、
前記制御手段は、車両の走行状態によって、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ及び前記ブレーキの締結状態を制御して、前記第1走行モード又は第2走行モードのいずれかの走行モードを選択することを特徴とする請求項1に記載の差動装置の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1走行モードにおいて、
前記車両が右旋回であると判定したときは、前記第1クラッチを所定の入出力回転差によるスリップ締結とし、前記第2クラッチを解放し、前記ブレーキを締結させ、
前記車両が左旋回であると判定したときは、前記第1クラッチを解放し、前記第2クラッチを所定の入出力回転差によるスリップ締結とし、前記ブレーキを締結させることを特徴とする請求項3に記載の差動装置の制御装置。
【請求項5】
駆動源と連結する第1回転部材と、ブレーキと連結する第2回転部材と、前記ブレーキ締結時に前記第1回転部材より低い回転速度で回転する第3回転部材とを有する第1遊星歯車機構と、
前記第3回転部材と連結する第4回転部材と、一方の駆動輪に連結する第5回転部材と、他方の駆動輪に連結する第6回転部材とを有する第2遊星歯車機構と、
前記駆動源と前記第5回転部材及び前記第6回転部材の少なくとも一方との間に配されるクラッチから構成され、前記一方の駆動輪及び前記他方の駆動輪の差動を許容する差動装置と、
から構成され、
車両の走行状態に基づき、前記ブレーキを締結状態として前記クラッチを解放状態とする第1走行モードと、前記ブレーキを解放状態として前記クラッチを締結状態とする第2走行モードと、を選択可能であることを特徴とする差動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−220483(P2011−220483A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92164(P2010−92164)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】