説明

巻取式真空蒸着方法

【課題】電子ビーム蒸着を行う時にフィルム基材の帯電障害を極力抑え、損傷のなく安定に成膜を行う巻取式の真空蒸着方法を提供すること。
【解決手段】巻取装置によって真空中を走行するフィルム基材(4)の上に、電子ビーム(9)によって金属酸化物を被覆する反応蒸着方法において、蒸着材料を前記フィルム基材(4)の上に成膜ドラム(5)上で堆積した後に、成膜ドラム(5)からフィルム基材(4)が剥離する箇所に向けて液体蒸気を噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻取走行するフィルム基材に対し電子ビームによる加熱蒸発によって薄膜形成する巻取式真空蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック等のフレキシブル基材の表面に薄膜を形成し機能を付与したフィルム開発が盛んに行われている。特に、AlOX ,SiOX ,MgO等の金属酸化物からなる薄膜を基材フィルム上に最適な条件下で形成させた場合、フィルムの持つフレキシブル性能を損なうこと無く、透明性と酸素や水蒸気等の気体遮断性を持つ機能を有するフィルムとなり、食品包装材や電子部材の包装材、薬品包装など幅広い分野で利用されている。
【0003】
図3にフレキシブルフィルム基材上に電子ビームにより加熱蒸着する巻取式真空蒸着装置の概念図を示す。耐熱性と熱容量の大きい材料から構成される坩堝1内に挿入された蒸発材料2に高エネルギーの電子線を照射させることで前記蒸発材料を加熱、蒸発させることができる。巻出ロール3から巻出されたフィルム基材4は成膜ドラム5へ搬送される。フィルム基材4は、成膜室6内で蒸発材料2がフィルム基材4上に薄膜積層され、成膜ドラム5から離れた後に巻取ロール7によって巻き取られる。成膜ドラム5にはフィルム基材4から、蒸発過程で生じた熱によって発生する放出ガス及び坩堝1および蒸発材料2から放射される熱線によって基材が変形するのを抑制するために通常0°C〜−20°C近辺にまで冷却調整される。さらに、蒸発過程において成膜室内蒸発中に酸素や窒素などの反応性ガスを導入することにより酸化物や窒化物のセラミックス薄膜を形成することができる。
【0004】
一般的に電子ビームによって蒸着された基材には電子銃から放出された電子線が坩堝に衝突する際にエネルギーを失うがその一部の電子が反跳・散乱してフィルム基材上に打ち込まれる。このため、前記フィルム基材4が電荷を帯びて、成膜ドラム5から剥離する時に静電気力が働く。この力に巻取張力が打ち勝てば成膜ドラム5からフィルム基材4が剥離して巻取可能となるが、打ち勝てない場合は成膜ドラムに巻きついてしまい巻取不能となる。また、巻取可能な場合でも、成膜ドラム5とフィルム基材4間の界面には、剥離時に静電気力に応じた放電が生じフィルム基材4に放電痕(ピンホール)などの損傷を与えるばかりでなく、巻取張力も不安定になるため成膜されたフィルムを皺などのストレスを与えずに巻取ることが極めて困難になる。特に、生成される薄膜が金属酸化物である場合、誘電体となるために、電荷が蓄積しやすくなることで更なる巻取障害を引き起こす。このような問題に対処するために、成膜ドラム5上で剥離箇所の静電気力を減らす方法が数多く考案されているが、この問題を改善するためには、帯電の原因となる反跳・散乱電荷を抑えるか、成膜ドラムの静電容量を減らして電荷をフィルム表面に引き出した状態でイオン化した粒子を噴射させて静電気力を中和させる必要がある。(特許文献1参照。)
上記先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開2000−313953号公報。
【0005】
このイオンの役割はフィルム基材に到達する前もしくはフィルム基材上で帯電の要因となる電子を中和することで静電気力を緩和する。しかし、イオン発生のための放電装置が必要なことと成膜条件によってイオン中和の最適条件が変わってしまうことが問題となる。
また、一般的に放電させるために必要な導入ガスは成膜面と化学反応させないように、イオン化したアルゴンガスやネオンガスなどの不活性ガスが用いられるが、これらのガスは
放電し、静電気力を緩和するために必要なガスであり、反応・吸着されることなく、排気ポンプにて全て排出されるため、成膜雰囲気に著しい圧力上昇を伴うこととなる。これを回避する対策として、剥離箇所や巻取室10と成膜室6との間に仕切り板や中間室などを設けることでガス分離する対策が考案されているが、設備のコストアップや複雑化、既存設備への大幅改造が余儀なくされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を回避しながら電子ビーム蒸着を行うときにフィルム基材の帯電障害を極力抑え、損傷のなく安定に成膜を行う製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は巻取装置によって真空中を走行するフィルム基材の上に、電子ビームによって金属酸化物を被覆する反応蒸着方法において、蒸発材料を前記フィルム基材の上に成膜ドラム上で堆積した後に、前記成膜ドラムから前記フィルム基材が剥離する箇所に向けて液体蒸気を噴射することを特徴とする巻取式真空蒸着方法である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の巻取式真空蒸着方法であって前記液体蒸気導入方法が、柔軟性に富んだチューブからなり、前記チューブの外面をアルミニウム、銀、銅、カーボンのいずれか一つの素材で被覆し、さらに液体蒸気噴出孔を設けた導入方法であることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1記載の巻取式真空蒸着方法において、前記液体蒸気導入方法が、柔軟性に富んだチューブからなり、前記チューブの外面をDLCの薄膜で被覆し、さらに液体蒸気噴出孔を設けた導入方法であることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1記載の巻取式真空蒸着方法において、前記液体蒸気導入方法が、柔軟性に富んだチューブからなり、前記チューブの外面を摩擦係数μが0.1〜0.2の薄膜で被覆し、さらに液体蒸気噴出孔を設けた導入方法であることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の巻取式真空蒸着方法において、前記液体蒸気が水蒸気または水蒸気とアルゴンやネオンガス等の不活性気体との混合ガス蒸気であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によると、巻取走行するフィルム基材に対し電子ビームによる加熱蒸発によって薄膜形成する巻取式真空蒸着方法において、電子ビームから生じる散乱電子や二次電子がフィルム基材に入射し成膜ドラムから基材フィルムが剥がれるときにフィルムを傷つけるような極めて高い静電エネルギーが放出されてしまう問題を改善するものであり、一般的に蓄積された静電エネルギーを無理なく放出するためには、剥離するエリア近傍の圧力を数Paレベルに上昇させる必要がある。しかし、通常の不活性ガスを導入すると成膜室の圧力も上昇してしまうために成膜環境に多大な影響を与えてしまう。〔一般的に成膜室の圧力が上昇すると、蒸発された分子の平均自由工程が小さくなり、基材フィルムに衝突するエネルギーが小さくなり、基材に対して密着不良が起こる。また、密度が疎(ポーラス)な膜になるために、膜の機能が失われることが多い。〕
本発明では、成膜後に基材に付着している電荷を除去し、易剥離するために、液体蒸気噴射孔を設けた柔軟性のあるチューブ外周にアルミや銀、銅やカーボンなどの導電材料を被覆、あるいは摩擦係数の極めて低いダイヤモンドライクカーボン膜を被覆することで、剥離時に成膜フィルム裏面とチューブが接触しても著しい傷を発生することを抑制し、且
つ、水蒸気を用いることで従来の不活性ガスの導入量をグロー放電開始電圧まで減少することが可能である。また、導入する液体蒸気は基材に付着した後に排気ポンプではなく水蒸気除去ユニットや成膜ドラム側面に吸着されるために、成膜環境(圧力)を著しく悪化させることもない。更に、基材に付着した水蒸気(水滴)ピンホール無く金属酸化物などのような誘電体薄膜を安定に巻取ることができる。また、柔軟性の良いチューブを使うことで万一フィルム剥離面にチューブを押し出すような強い静電気力がかかっても剥離面に接しながらガス導入を行えるため、効率良く放電開始電圧を下げることができる。フィルム基材や薄膜の絶縁破壊を起こさない程度の電圧になるため、放電は生じるがピンホールなどの障害が生じない程度にまでエネルギーを低減する効果が得られ、また高価な装置や大がかりな専用器具を必要とせずに、大変安価で簡単な取り付けで他の巻取成膜装置に応用できる特長も併せ持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1に本発明の巻取式真空蒸着装置の一例を示す。巻取式真空蒸着装置8には巻出ロール3と巻取ロール7、成膜ドラム5が配置され、その間をフィルム基材4が走行している。成膜ドラム5は冷却および回転などの要因で設置されるために、常に放電に対して設置電位となる場合が多い。成膜室6内に配置された蒸着材料2を電子銃14から生成された電子ビーム9で加熱蒸発し、巻取室10と成膜室6をそれぞれ排気ポンプ11にて真空排気する。成膜室6にて薄膜を形成した後に走行してきたフィルム基材4が成膜ドラム5から離れるエリア12に剥離箇所に向けて液体蒸気を噴出する小さな孔が多数存在する液体蒸気噴射口13がある。
【0014】
次に液体蒸気導入方法について説明する。液体の種類として水を用いる。純水を液体容器21に導入しヒータ22により温度を50°C〜80°Cになるまで昇温し、液体蒸気を作成する。生成された液体蒸気を水蒸気用に調整された質量流量制御弁23で流量を制御する。また、水蒸気を液体噴射装置13に送り込むことために、キャリアガスとしてアルゴンガスを質量流量制御弁20より添加し、流量バルブ24にて水蒸気と混合され液体蒸気噴射口14からエリア12に放出される。これによりエリア12の圧力を一時的に上昇させることでパッシェンの法則V=f(p×d)(Vは放電開始電圧〔V〕,fは圧力p〔Pa〕と放電間距離d〔m〕で決まる関数)の放電開始電圧Vを低減させることが可能になる(図2参照)。
【0015】
放電開始電圧Vは圧力pと放電間距離dの積で最小値を取る法則であるため、放電間距離dが一定であると仮定するならば、圧力pだけで放電開始電圧Vが決まり、Vを低下させることでフィルム基材4や薄膜にダメージを与えない程度の電圧に下げて放電を起こさせることができ、帯電障害が生じる程のエネルギーでの放電を抑制できることになる。本発明は、放電させるために必要なガス種をアルゴンやネオンのような不活性ガスだけではなく、水蒸気を導入することに特徴を有する。
【0016】
一般的に、AlOX やSiOX などの反応蒸着では成膜された後も暫く反応が促進することが経験的に知られており、この反応は生成された膜質に左右されるが、大気中(すなわち水蒸気のある雰囲気中)に暫く暴露することで透明性および防湿性を向上させる。従って、膜形成後に水蒸気を噴射させることで膜質(膜の性能)が劣化することは極めて少ないと考えられる。水蒸気導入の利点は、成膜室圧力の著しい低下を防ぎ、かつ帯電障害を抑制することが可能な点であり、導入された水蒸気を除去する手法として、成膜室内部に銅管を配置し、管の内部を−100°C以上に冷却された冷媒を循環させる方法が一般的に知られている。これらの水蒸気除去装置は不活性ガスを排気する真空ポンプに比してコンパクトであるため、既存設備にも容易に増設することが可能である。本発明においては上述の水蒸気除去機構15が配置されていることが望ましい。また、液体蒸気噴射口13は柔軟性の良いチューブ上にアルミニウムや銀、銅、カーボンなどの導電材料(電気抵
抗値が1000μΩから5Ωの素材が特に好ましく使用できる)、もしくは、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜のような摩擦係数が極めて低く、擦れに強い被膜を形成することが望ましく、柔軟性の良いチューブを使うことでフィルム剥離面がチューブを押し出すような強い静電気力がかかっても剥離面に接しながら液体蒸気の導入が行えるため、効率良く放電開始電圧を下げることができる。また、摩擦係数を低くすることによって、成膜裏面がチューブに触れた場合でも著しい傷を抑制することが可能となる。したがって、上記手法によって静電気力は数百V程度の放電電圧に変換されるために帯電障害が起こらない状態で巻取が可能となる。
【0017】
ここで用いるフィルム基材4は、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系(ナイロンー6、ナイロンー66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などが挙げられるが特に限定しない。蒸発材料2は、様々な金属(例えばAl,Cu,Ti,Si等)、TiO2 ,MgO,SiO2 ,SiO,Al2 3 ,ZrO2 ,ZnS等のセラミックが挙げられるが特に限定しない。
【0018】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0019】
フィルム基材として12μmの厚みを有するPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを選定し、加速電圧40kV、12kWの電子ビームをアルミニウム塊に照射し溶融・蒸発させた環境下に、酸素ガスを導入し60m/min.の速さでフィルム基材上にアルミナ薄膜を形成した。フィルム走行面(蒸着裏面)と成膜ロールの間のエリアに剥離面に向けて噴射するように固定された直径6mmのPET製のチューブを配置し、直径1mm、ピッチ10mmの気体噴出孔から2×10-43 /min.のアルゴンガスを導入しながら膜形成を行った。
【実施例2】
【0020】
気体噴出孔を構成するチューブの材質をアルミニウムにて被覆したものに変更した以外は実施例1と同じ条件で成膜評価を実施した。
【実施例3】
【0021】
気体噴出孔を構成するチューブの材質を約1μmからなるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜にて被覆したものに変更した以外は実施例1と同じ条件で成膜評価を実施した。
【実施例4】
【0022】
〈比較例1〉
実施例1と同様の装置で、液体蒸気噴射口に水蒸気およびアルゴンガスを導入しない条件で成膜を実施し評価した。
【実施例5】
【0023】
〈比較例2〉
実施例1と同様の装置で、PET製のチューブから構成される気体噴出孔にアルゴンガス:5×10-53 /min.と水蒸気:1.5×10-53 /min.の混合ガスを剥離箇所に導入した以外では、実施例1と同じ条件で成膜を実施し評価した。
【実施例6】
【0024】
〈比較例3〉
実施例2と同様の装置で、液体蒸気噴射口に系内に水蒸気およびアルゴンガスを導入しない条件で成膜を実施し評価した。
【実施例7】
【0025】
〈比較例4〉
実施例2と同様の装置で、気体噴出孔にアルゴンガス:5×10-53 /min.と水蒸気:1.5×10-53 /min.の混合ガスを剥離箇所に導入した以外では、実施例1と同じ条件で成膜を実施し評価した。
【実施例8】
【0026】
〈比較例5〉
実施例3と同様の装置で、液体蒸気噴射口に水蒸気およびアルゴンガスを導入しない条件で成膜を実施し評価した。
【実施例9】
【0027】
〈比較例6〉
実施例3と同様の装置で、気体噴出孔にアルゴンガス:5×10-53 /min.と水蒸気:1.5×10-53 /min.の混合ガスを剥離箇所に導入した以外では、実施例1と同じ条件で成膜を実施し評価した。
〈評価〉
1.酸化アルミ層酸素透過率:モダンコントロール社製酸素透過度測定器
(MOCON OXTRAN)用いて 40°C―90%RH雰囲気下にてフィルムを測定。
2.酸化アルミ層のピンホール:薄膜面側から強浸透性の液体を噴霧し、浸透させ裏面に滲出したかを目視にて観察。
3.フィルムの巻姿:巻き取られた原反を目視にて観察、皺が要因で発生するゲージバンドや巻取張力不安定により発生する蛇行による巻きズレ量を定規にて測定。
4.フィルムの裏面傷:巻取成膜された原反を巻き剥がし、成膜されたフィルムの巻取方向での縦傷を目視にて観察。
5.アルミナ成膜中の圧力:熱陰極電離真空計(イオンゲージ)を用いてアルミナ蒸着中の成膜室および、巻取室の圧力を観察。
【0028】
評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

約80〜120nmのAlOX 薄膜上に強浸透性の液体をそれぞれ噴霧したところ、実施例1、実施例5(比較例2)、実施例2、実施例7(比較例4)、実施例3、実施例9(比較例6)ではほとんど滲出は確認されなかったが、実施例4(比較例1)、実施例6(比較例3)、実施例8(比較例5)では広範囲に渡り液体が滲出し、ピンポールが非常に多く存在していた。
また実施例5(比較例2)、実施例7(比較例4)、実施例9(比較例6)では通常巻取時に発生するフィルム皺によるゲージバンドも見られず、巻きズレ量も±2mm程度と良好であり、さらに巻き取られたフィルムの裏面に傷も観察されなかった。しかしながら、実施例1、実施例6(比較例3)、実施例8(比較例5)では液体蒸気噴射孔由来の縦傷が多数観測され、特に実施例4(比較例1)ではフィルムがチューブに巻き込まれ、巻取不良が発生した。
成膜中での剥離面を観察したところ、実施例5(比較例2)、実施例2、実施例7(比較例4)、実施例3、実施例9(比較例6)では剥離面周辺に薄く発光するグロー放電が観察され、成膜後のフィルムが液体蒸気噴射孔に接触することなく剥離できていることが確
認できたが、実施例1、実施例4(比較例1)、実施例6(比較例3)、実施例8(比較例5)においては、フィルムと液体蒸気噴射孔が配置されている柔軟性のチューブにフィルムが接触し、剥離面に沿うように強い放電発光が見えて剥離箇所が前後に移動するといった若干不安定な状態であった。この要因は、大量に蓄積された静電気力が強い放電発光を伴いながら一度に瞬間的にエネルギーを放出しフィルムを弛ませたことにより、張力が一定に制御できずフィルムが上下に波を打つ挙動を引き起こしたため、皺が発生したと考えられる。
また、酸素バリア性においては、水とアルゴンの混合ガスを導入することで、巻取不良を抑え、かつ、液体蒸気噴射孔の材質がPETの場合よりもPETにAlを被覆した場合や、PETにDLCを被覆した場合のほうが優れていることが確認された。この要因は、PETの場合に比べて、Alを被覆することでフィルムに滞在する電子を逃がす効果があり、またDLCを被覆することにより、基材とチューブの間の摩擦帯電を緩和させる効果があると予測できる。また、金属酸化物の膜物性〔ガス遮断性〕を向上させるためには、成膜室内の圧力を極力下げればよい傾向があり、今回の評価結果でも、前述の傾向が確認され、不活性ガスのみを大量に導入するよりも、放電に必要な最小ガス流量に絞り、水蒸気を導入するほうが、より成膜室内の圧力上昇を抑えることが可能であったためガス遮断性能が向上しているものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の巻取式真空蒸着装置を示す説明図である。
【図2】本発明の液体蒸気導入系統図を示す断面図である。
【図3】従来の巻取式真空蒸着装置の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1‥‥坩堝
2‥‥蒸発材料
3‥‥巻出ロール
4‥‥フィルム基材
5‥‥成膜ドラム
6‥‥成膜室
7‥‥巻取ロール
8‥‥成膜装置
9‥‥電子ビーム
10‥‥巻取室
11‥‥真空ポンプ
12‥‥剥離エリア
13‥‥液体蒸気噴射装置
14‥‥液体蒸気噴射口
20‥‥アルゴン用質量流量制御弁
21‥‥液体容器
22‥‥ヒータ
23‥‥水蒸気用質量流量制御弁
24‥‥流量バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取装置によって真空中を走行するフィルム基材の上に、電子ビームによって金属酸化物を被覆する反応蒸着方法において、蒸発材料を前記フィルム基材の上に成膜ドラム上で堆積した後に、前記成膜ドラムから前記フィルム基材が剥離する箇所に向けて液体蒸気を噴射することを特徴とする巻取式真空蒸着方法。
【請求項2】
前記液体蒸気導入方法が、柔軟性に富んだチューブからなり、前記チューブの外面をアルミニウム、銀、銅、カーボンのいずれか一つの素材で被覆し、さらに液体蒸気噴出孔を設けた導入方法であることを特徴とする請求項1記載の巻取式真空蒸着方法。
【請求項3】
前記液体蒸気導入方法が、柔軟性に富んだチューブからなり、前記チューブの外面をDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の薄膜で被覆し、さらに液体蒸気噴出孔を設けた導入方法であることを特徴とする請求項1記載の巻取式真空蒸着方法。
【請求項4】
前記液体蒸気導入方法が、柔軟性に富んだチューブからなり、前記チューブの外面を摩擦係数μが0.1〜0.2の薄膜で被覆し、さらに液体蒸気噴出孔を設けた導入方法であることを特徴とする請求項1記載の巻取式真空蒸着方法。
【請求項5】
前記液体蒸気が水蒸気または水蒸気とアルゴンやネオンガス等の不活性気体との混合ガス蒸気であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の巻取式真空蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−348338(P2006−348338A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174686(P2005−174686)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】