説明

希土類焼結磁石製造方法及び塗布装置

【課題】希土類化合物を焼結体に、効率よくかつ、焼結体の表面に均一に塗布するができる希土類焼結磁石製造方法を提供することにある。
【解決手段】希土類化合物を含むスラリーを焼結体に塗布する塗布工程と、焼結体の長手方向の一方の端部と、一方の端部の反対側の他方の端部とを保持し、焼結体の長手方向に平行であり、かつ、焼結体を通る直線を回転軸として焼結体を回転させる回転工程と、スラリーが塗布され、焼結体を回転させつつ、乾燥させる乾燥工程と、スラリーが乾燥された焼結体を熱処理する熱処理工程と、を有し、塗布工程は、焼結体を回転させつつ、回転軸に直交する方向から、焼結体にスラリーを供給し、焼結体に前記スラリーを塗布することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体に希土類化合物を含むスラリーを塗布して希土類焼結磁石を製造する希土類焼結磁石製造方法及び塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
R−Fe−B(Rは希土類元素)の組成を有する希土類焼結磁石は、優れた磁気特性を有する磁石である。この希土類磁石の製造方法としては、焼結体に希土類を含むスラリーを塗布(付着)させた後、熱処理を施す方法がある。例えば、特許文献1には、Y及びScを含む希土類元素を含有する粉末を焼結磁石体の表面に存在させた状態で、焼結磁石体及び粉末を焼結磁石体の焼結温度以下の温度で真空又は不活性ガス中において1分〜100時間熱処理を施すことにより、当該粉末に含まれていた希土類元素を焼結磁石体に吸収させることを特徴とする希土類永久磁石の製造方法が開示されている。また、特許文献1には、焼結磁石体に希土類元素を含有する粉末を付着させる方法として、粉末を水や有機溶媒に分散させたスラリーに焼結磁石体を投入する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−147634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、粉末を水や有機溶媒に分散させたスラリーに焼結体を投入する方法では、塗布されるスラリーの厚みが表面の位置によって変化し、ムラが発生することがある。このように付着するスラリー(付着する希土類化合物の量)にムラがあると、その後、熱処理を行い、製造した磁石の性能にもむらが発生してしまう。具体的には、表面の磁束にばらつきが発生してしまう。
【0005】
また、焼結体に希土類化合物を塗布(付着)させる方法としては、蒸着により付着させる方法もあるが、この方法では、焼結体の表面のみならず、その周囲にも希土類化合物が塗布されてしまうため、無駄が発生する。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、希土類化合物を焼結体に、効率よくかつ、焼結体の表面に均一に塗布するができる希土類焼結磁石製造方法及び塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、希土類化合物を含むスラリーを焼結体に塗布する塗布工程と、前記焼結体の長手方向の一方の端部と、前記一方の端部の反対側の他方の端部とを保持し、前記焼結体の長手方向に平行であり、かつ、前記焼結体を通る直線を回転軸として前記焼結体を回転させる回転工程と、前記スラリーが塗布され、焼結体を回転させつつ、乾燥させる乾燥工程と、前記スラリーが乾燥された焼結体を熱処理する熱処理工程と、を有し、前記塗布工程は、焼結体を回転させつつ、前記回転軸に直交する方向から、前記焼結体にスラリーを供給し、前記焼結体に前記スラリーを塗布することを特徴とする。
【0008】
このように、焼結体を回転させることで、焼結体にむらなくスラリーを塗布することができる。
【0009】
また、前記塗布工程は、複数のスラリー流で焼結体にスラリーを塗布することが好ましい。これにより焼結体の回転軸に平行な方向において、全域により均一にスラリーを塗布することができる。
【0010】
また、前記塗布工程は、前記焼結体の配置位置の鉛直方向上方から前記スラリーを落下させることが好ましい。これにより、簡単な制御でスラリーの塗布を制御することができる。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、希土類化合物を含むスラリーを焼結体に塗布する塗布工程と、前記焼結体の長手方向の一方の端部と、前記一方の端部の反対側の他方の端部とを保持し、前記焼結体の長手方向に平行であり、かつ、前記焼結体を通る直線を回転軸として前記焼結体を回転させる回転工程と、前記スラリーが塗布され、焼結体を回転させつつ、乾燥させる乾燥工程と、前記スラリーが乾燥された焼結体を熱処理する熱処理工程と、を有し、前記塗布工程は、焼結体を回転させつつ、スラリーが貯留された領域に、前記焼結体を浸漬させることで、前記焼結体にスラリーを塗布することを特徴とする。これにより焼結体の回転軸に平行な方向において、全域に均一にスラリーを塗布することができる。
【0012】
ここで、前記回転工程は、前記塗布工程で前記スラリーを焼結体に塗布する間、焼結体を回転させることが好ましい。これにより、より適切に焼結体にスラリーを塗布することができる。
【0013】
また、前記塗布工程によりスラリーを焼結体に塗布する前に、前記焼結体を回転させるプレ回転工程をさらに有し、前記回転工程は、前記プレ回転工程で回転された焼結体を継続して回転させることが好ましい。これにより、より適切に焼結体にスラリーを塗布することができる。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、塗布装置であって、焼結体と接触して保持する保持手段と、前記焼結体の長手方向の一方の端部と、前記一方の端部の反対側の他方の端部とを保持し、前記焼結体の長手方向に平行であり、かつ、前記焼結体を通る直線を回転軸として、前記焼結体を回転させる回転手段と、希土類化合物を含むスラリーを前記焼結体に向けて供給し、前記焼結体の表面にスラリーを塗布するスラリー供給手段と、を有することを特徴とする。
【0015】
このように、焼結体を回転させる手段を有することで、焼結体にむらなくスラリーを塗布することができる。
【0016】
さらに、前記焼結体に塗布されたスラリーを乾燥させる乾燥手段を有することが好ましい。乾燥手段を設けることで、塗布したスラリーの厚みにむらができることをより確実に抑制することができる。
【0017】
また、前記スラリー供給手段は、前記焼結体に塗布されなかったスラリーを回収し、再び前記焼結体に向けて供給するスラリー循環機構を有することが好ましい。これにより効率よくスラリーを使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる希土類焼結磁石製造方法及び塗布装置は、焼結体に希土類化合物を含有するスラリーを効率よく、均一に塗布することができ、位置における性能のバラツキが少ない磁石を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、塗布機構を有する磁石製造装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す磁石製造装置の塗布機構の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図3−1】図3−1は、保持手段の概略構成を示す正面図である。
【図3−2】図3−2は、保持手段の概略構成を示す上面図である。
【図4−1】図4−1は、塗布機構の動作を説明するための説明図である。
【図4−2】図4−2は、塗布機構の動作を説明するための説明図である。
【図5】図5は、磁石製造装置の動作を説明するためのフロー図である。
【図6】図6は、塗布機構の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図7】図7は、磁石製造装置の塗布機構の他の実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図8−1】図8−1は、塗布機構の動作を説明するための説明図である。
【図8−2】図8−2は、塗布機構の動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0021】
(実施形態)
図1は、塗布機構(塗布装置)を有する磁石製造装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、磁石製造装置10は、焼結体供給機構12と、塗布機構14と、乾燥機構16と、熱処理機構18と、搬送機構20と、制御機構22とを有する。なお、制御機構22は、各部の動作を制御する機構である。
【0022】
焼結体供給機構12は、複数の焼結体を保有しており、焼結体を供給する機構である。焼結体供給機構12から供給された焼結体は、搬送機構20によって搬送される。なお、焼結体供給機構12は、焼結体を生成し、供給してもよい。
【0023】
塗布機構14は、焼結体供給機構12から供給され、搬送機構20によって搬送された焼結体に、希土類化合物を含有するスラリーを塗布する。スラリーに含有させ焼結体に塗布する希土類化合物としては、希土類化合物:希土類元素R(Rは、Dy、Tbどちらかあるいは両方を必ず含む希土類元素)、R水素化物、R酸化物、Rフッ化物、RT合金(Tは遷移金属元素)、RT水素化物、RT酸化物、RTB合金(Bはボロン)、RTB水素化物、RTB酸化物を用いることができる。またスラリー中には樹脂を含むことが好ましく、これにより、希土類化合物の焼結体への密着性を上げることができる。使用する樹脂は特に限定はなく、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂等が用いられる。また使用される溶剤としては、樹脂を溶解できれば特に規定はない。なお、塗布機構14に関しては後ほど詳述する。
【0024】
乾燥機構16は、塗布機構14で焼結体に塗布されたスラリーを乾燥させる機構である。乾燥機構16は、スラリーが塗布された焼結体を乾燥、具体的には、スラリーに含まれる溶剤を揮発させる。乾燥機構16は、種々の乾燥方法を用いることができ、例えば、加熱、送風により乾燥させる方法を用いることができる。また、自然乾燥によりスラリーが塗布された焼結体を乾燥させてもよい。なお、後述するが乾燥機構16は、焼結体を回転させつつ乾燥を行う。
【0025】
熱処理機構18は、乾燥機構16でスラリーが乾燥された焼結体に熱処理を施す機構である。熱処理機構18は、搬送された焼結体を所定の時間、所定の温度状態で加熱する。
【0026】
搬送機構20は、焼結体を搬送させる搬送機構であり、焼結体供給機構12により供給された焼結体を塗布機構14まで搬送し、また、乾燥機構16で乾燥された焼結体を熱処理機構18まで搬送する。搬送機構20としては、種々の手段を用いることができ、例えば、ベルトコンベアや、ロボットアーム等を用いることができる。なお、塗布機構14から乾燥機構16への焼結体の搬送は、塗布機構14により行われる。
【0027】
次に、図2、図3−1及び図3−2を用いて、塗布機構14について説明する。ここで、図2は、図1に示す磁石製造装置の塗布機構の一実施形態の概略構成を示す模式図である。図3−1は、保持手段の概略構成を示す正面図であり、図3−2は、保持手段の概略構成を示す上面図である。なお、本実施形態では、焼結体34として板状の焼結体を用いた場合として説明する。塗布機構14は、焼結体34にスラリーを塗布する塗布手段30と、焼結体34を保持し、焼結体34を回転させる回転保持手段32とを有する。
【0028】
塗布手段30は、スラリーを焼結体34に向けて噴射して焼結体34の表面に塗布する塗布部40と、塗布部40にスラリーを供給し、かつ、塗布部40からスラリーを回収してスラリーを循環させるスラリー循環部42と、スラリー循環部42で循環されるスラリーの濃度を調整する濃度調整部44とを有する。
【0029】
塗布部40は、スプレーヘッド48と、複数の噴射口50と、受け皿52とを有する。スプレーヘッド48は、スラリー循環部42から供給されるスラリーを一時的に貯留し、一定圧以上に圧縮する貯留部である。噴射口50は、スプレーヘッド48の下面に設けられた開口であり、スプレーヘッド48から一定圧以上で供給されたスラリーを霧状に噴射させる。本実施例では、複数の噴射口50が、スプレーヘッド48の下面に形成されている。受け皿52は、スプレーヘッド48の鉛直方向下側に配置されたスラリー回収部であり、スプレーヘッド48の噴射口50から噴射され、焼結体34に付着しなかったスラリーを回収する。受け皿52は、側面が傾斜面となっており、側面に付着したスラリーを回収口が形成された下面に流す構成となっている。
【0030】
ここで、スラリーを焼結体34に塗布する際は、図2に示すように、噴射口50と受け皿52との間に焼結体34が配置される。これにより、塗布部40は、噴射口50からスラリーを噴射することで、噴射口50の鉛直方向下側にある焼結体34にスラリーを塗布することができる。また、焼結体34に塗布されなかった、つまり付着しなかったスラリーは、焼結体34よりも鉛直方向下側にある受け皿52によって回収される。
【0031】
スラリー循環部42は、スラリータンク54と、攪拌機56と、ポンプ58と、を有する。スラリータンク54は、スラリーを貯留するタンクであり、一定量のスラリーが貯められている。また、スラリータンク54は、配管55aを介して、スプレーヘッド48と接続し、配管55bを介して受け皿52と接続されている。
【0032】
攪拌機56は、スラリータンク54内のスラリーを攪拌する機構である。攪拌機56で、スラリータンク54内のスラリーを攪拌することで、希土類化合物等が沈殿することを抑制し、スラリータンク54内のスラリーの濃度を均一にする。
【0033】
ポンプ58は、スラリータンク54に貯留されているスラリーを循環させる駆動源である。ポンプ58は、スラリータンク54に貯留されているスラリーを、配管55aからスプレーヘッド48に供給する。なお、上記実施形態では、スラリー循環部42により、スラリーを循環させるようにしたが、本発明はこれに限定されず、噴射したスラリーを回収し再利用しない構成としてもよい。本実施形態のようにスプレー方式で吹き付ける場合は、噴射量、噴射タイミングを調整することで、噴射したスラリーを効率よく焼結体に付着させることが可能である。
【0034】
濃度調整部44は、溶剤タンク64と、ポンプ66とを有する。溶剤タンク64は、スラリーを構成する溶剤(溶媒)が貯留されたタンクであり、配管65を介してスラリータンク54に接続されている。ポンプ66は、配管65に設けられており、溶剤タンク64に貯留された溶剤をスラリータンク54に供給する。濃度調整部44は、ポンプ66を駆動して、溶剤タンク64に貯留された溶剤をスラリータンク54に供給し、スラリータンク54及び配管55aのスラリーの密度を一定範囲に維持する。スラリーの密度を維持することで、溶媒(溶剤)と溶質(希土類化合物)との割合を一定範囲にすることができ、スラリーの濃度を一定範囲にすることができる。
【0035】
なお、濃度調整部44は、さらに、スラリーの密度を計測する計測手段を設けることが好ましい。濃度調整部44は、計測手段を設けることで、適宜スラリータンク中のスラリーまたは循環されているスラリーの密度を計測することができ、その計測結果に基づいて、所定の値となるように適宜調整することができる。
【0036】
塗布手段30は、複数の噴射口50からスラリーを噴射させることで、焼結体の表面にスラリーを塗布する。また、受け皿52に受け止められたスラリーは配管55bからスラリータンク54に回収され、スラリー循環部42により、再びスプレーヘッド48に供給され、噴射口50から放出される。
【0037】
次に、回転保持手段32は、図3−1及び図3−2に示すように、接触部70と、回転部72と、着脱部74とを有する。なお、回転保持手段32は、回転軸に垂直な対称面を軸として、左右対称の形状であり、焼結体34の両端に2つの接触部70をそれぞれ接触させて、焼結体34を挟み込む構造である。
【0038】
2つの接触部70は、焼結体34と接触する部材であり、回転部72、着脱部74により保持されている。2つの接触部70は、向かい合うように配置されており、焼結体34は、2つの接触部70に挟まれて配置される。つまり、焼結体34は、両端(本実施形態では、焼結体34の長手方向の端部)が、接触部70と接触する。
【0039】
回転部72は、接触部70に対応して設けられており、接触部70を回転させる駆動機構である。回転部72は、接触部70を、焼結体34の長手方向に平行な軸を回転軸として(図中R方向に)回転させる。回転部72によって接触部70を回転させる方法は、特に限定されない。例えば、接触部70を連結している軸と、回転モータとを伝達ベルト(プーリ)で連結し、回転モータの回転を、伝達ベルトを介して接触部70に伝達することで、接触部70を回転させる方法がある。また、接触部70にモータを直接連結し、接触部70を回転させるようにしてもよい。
【0040】
着脱部74は、腕部74aと、腕部74bと、腕部74a及び腕部74bを駆動する着脱駆動部7cとを有する。腕74a、74bは、それぞれ接触部70を回転自在に支持ししている。着脱駆動部74cは、腕部74a、74bを回転軸に平行な方向(図中矢印A方向)に移動させることで、接触部70を回転軸に平行な方向(図中矢印A方向)に移動させる移動機構である。着脱部74は、2つの接触部70を回転軸に平行な方向に移動させることで、2つの接触部70間の距離を調整することができる。これにより、2つの接触部70間の距離を広げ、焼結体34の長手方向の長さよりも長くすることで、焼結体34を取り外し可能な状態とすることができる。また、2つの接触部70間の距離(焼結体34と接触する部分同士の距離)を短くし、焼結体34の長手方向の長さと略同じ長さとすることで、焼結体34を接触部70で保持することができる。また、着脱部74は、腕74a、74bを一体で種々の方向に移動可能な構成であり、焼結体34を保持した状態で移動することもできる。
【0041】
このように、回転保持手段32は、接触部70を着脱部74により回転軸に平行な方向に移動させることで、焼結体34を着脱し、回転部72により接触部70を回転軸周りに回転させることで、焼結体34を回転軸周りに回転させる。また、着脱部74により焼結体34を移動させることが可能であり、焼結体34を、噴射口50と受け皿52との間となる位置から他の位置へ移動、また、他の位置から噴射口50と受け皿52との間となる位置へ移動させることができる。
【0042】
次に、図4−1及び図4−2を用いて、塗布機構14の動作について説明する。図4−1及び図4−2は、塗布機構の動作を説明するための説明図である。塗布機構14は、回転保持手段32で保持した焼結体34を回転させつつ、塗布手段30によるスラリーの塗布を行う。これにより、図4−1及び図4−2に示すように、噴射口50から噴射されたスラリーが一定面積に広がって到達する位置にある焼結体34は、姿勢を変化させながらスラリーと接触する。これにより、焼結体34は、略全面がスラリーの到達位置を通過し、噴射口50から噴射されたスラリーが塗布される。
【0043】
次に、図5を用いて、磁石製造装置10の動作を説明する。ここで、図5は、磁石製造装置の動作を説明するためのフロー図である。磁石製造装置10は、焼結体供給機構12から供給される焼結体を搬送機構20により塗布機構14に搬送する。その後、磁石製造装置10は、ステップS12として、塗布機構14の回転保持手段32により、焼結体34を保持する。
【0044】
磁石製造装置10は、ステップS12で焼結体34を保持したら、ステップS14として、焼結体34の回転を開始する。つまり、塗布機構14の回転保持手段32の回転部72により接触部70を回転させて、焼結体34を回転させる。
【0045】
磁石製造装置10は、ステップS14で焼結体34の回転を開始したら、ステップS16として、焼結体34にスラリーを塗布する。具体的には、塗布機構14の回転保持手段32は、焼結体34を回転させつつ、噴射口50と受け皿52との間に移動させる。なお、塗布手段30は、スラリー循環部42によりスラリーが循環され、スプレーヘッド48にスラリーが供給されている。このため、噴射口50からは、スラリー噴射されている。
【0046】
磁石製造装置10は、ステップS16で焼結体34にスラリーを塗布したら、ステップS18として焼結体34に付着した(塗布された)スラリーを乾燥させる。具体的には、回転保持手段32が、焼結体34を乾燥機構16に移動させる。乾燥機構16は、回転保持手段32により保持された焼結体34を乾燥させる。なお、回転保持手段32は、焼結体34を回転させたまま移動させ、乾燥機構16による乾燥時も焼結体34を回転させている。
【0047】
磁石製造装置10は、ステップS18で焼結体34に付着したスラリーを乾燥させたら、ステップS20として、焼結体34の回転を停止させる。つまり、回転保持手段32の回転部72の駆動を停止し、焼結体34の回転を停止させる。
【0048】
その後、磁石製造装置10は、搬送機構20により、回転保持手段32に保持されている焼結体34を回収し、熱処理機構18に移動させ、ステップS22として、焼結体34に熱処理を施す。熱処理を施すことにより、表面に付着したスラリーの希土類化合物を拡散させる。磁石製造装置10は、熱処理を施し、焼結体34に希土類化合物を拡散させることで、希土類焼結磁石を製造し、処理を終了する。
【0049】
このように、磁石製造装置10は、焼結体34を回転させつつ、スラリーを塗布し、さらに、乾燥終了まで回転させ続けることで、焼結体34に均一にスラリーを塗布することができる。また、スラリーを均一に塗布した焼結体34に熱処理を行うことで、表面磁束、残留磁束密度、保磁力等のばらつきの発生を抑制することができる。つまり、表面の位置によって表面磁束、残留磁束密度、保磁力に差が生じることを抑制することができる。このように、表面磁束等のバラツキを抑制できることで、磁石としての性能を高くすることができ、例えばモータの磁石として用いた場合に、コギング等を発生しにくくさせることができる。
【0050】
また、本実施形態のように希土類化合物を溶かしたスラリーを焼結体34に塗布して、希土類化合物を焼結体34に付着させるようにすることで、希土類化合物を効率よく利用することができる。つまり、希土類化合物が焼結体34の表面以外に付着することを抑制することができる。具体的には、希土類化合物を蒸着により付着させる方法では、焼結体34以外の一定領域にも希土類化合物が付着するが、希土類化合物を含むスラリーを塗布することで、焼結体34以外の部分に希土類化合物が付着することを抑制することができ、効率よく希土類化合物を使用することができる。また、本実施形態のように、スラリーを循環させる、つまり、回収し、再利用することで、より無駄なく希土類化合物を使用することができる。
【0051】
また、本実施形態のように、接触部70が焼結体34の両端のみと接触する構成とすることで、焼結体34の接触部分以外の全面にスラリーを塗布することができる。つまり、焼結体23を固定する機構により、スラリーが塗布されない部分を少なくすることができる。これにより、より均一な性能の磁石を製造することができる。なお、上記効果を得ることがため、2つの保持部を焼結体の両端と接触させ、挟み込む形状とすることが好ましいが本発明はこれに限定されない。例えば、焼結体の一方の端部のみを保持する構成としてもよい。
【0052】
また、本実施形態のように、焼結体34の回転を開始させてから、スラリーの塗布を開始する(つまり、塗布前に回転させるプレ回転工程と、塗布中に回転させる回転工程とを連続して行うことで)ことで、焼結体34上にスラリーが必要以上溜まることを抑制でき、スラリーが飛び散ることを抑制することができる。また、短時間で適切に、スラリーの塗布を終了させることができ、エネルギー効率、作業効率を高くすることができる。また、効率よくスラリーを塗布することができる。なお、本実施形態では、上記効果を得ることができるため、焼結体34にスラリーを塗布する前に焼結体34の回転を開始させたが、これには限定されない。塗布機構14は、スラリーを塗布した焼結体34を回転させ、焼結体34の表面に付着したスラリーの厚みを均一化させればよく、回転開始のタイミングは、いつでもよい。
【0053】
塗布機構14は、スラリーの塗布中、つまり、スラリーの塗布を開始してから塗布が終了するまでの間に、焼結体34を回転させるようにしてもよい。このように、スラリーの塗布中に回転を開始させても、スラリーを焼結体に均一に塗布することができる。また、塗布中に回転させることでも、効率よくスラリーを焼結体34に塗布することができる。
【0054】
また、塗布機構14は、スラリーの塗布が終了してから、焼結体34を回転させるようにしてもよい。このように、塗布後に焼結体を回転させても、スラリーを焼結体に均一に塗布することができる。また、塗布時にスラリーの厚みにムラがある場合でも、回転させることで、均一にすることができる。さらに、焼結体34を回転させつつスラリーを塗布することができない塗布方法も用いることが可能となり、塗布方法の自由度をより高くすることができる。
【0055】
なお、磁石製造装置10は、本実施形態のように、焼結体34の回転を開始したら、スラリーの乾燥が終了するまで連続して焼結体を回転させる、つまり、スラリーが乾燥するまで焼結体34を回転させることで、塗布したスラリーが一部に溜まることをより確実に抑制することができる。これにより、液状のスラリーが焼結体34の鉛直方向下側の一部に溜まり、スラリーの量が位置によって不均一になることを抑制することができ、性能がより均一の磁石を製造することが可能となる。上記効果を得ることができるため、焼結体34の回転を開始したら、スラリーの乾燥が終了するまで連続して焼結体34を回転させることが好ましいが、スラリーの乾燥が終了するまで回転させ続けなくてもよい。例えば、一定時間間隔で回転駆動と停止とを繰り返すようにしてもよい。また、乾燥の途中で回転を停止させても良い。
【0056】
なお、上記実施形態では、ステップS16で回転保持手段32により焼結体34を噴射口50と受け皿52との間に移動させることで、塗布を開始したが、本発明はこれに限定されない。例えば、先に焼結体34を噴射口50と受け皿52との間に移動させ、移動が完了したら、塗布手段30を駆動させ、噴射口50からのスラリーの噴射を開始するようにしてもよい。
【0057】
また、塗布機構14の回転保持手段32を搬送機構20の一部として設け、回転保持手段32により、焼結体供給機構12から塗布機構14への移動、乾燥機構16から熱処理機構18への移動を行う構成としてもよい。
【0058】
また、本実施形態のように、噴射口50を複数設け、さらに、列上に設けることで、焼結体の位置に応じて、塗布量が片寄ることを抑制することができ、均一に塗布することができる。なお、噴射口50の数は特に限定されない。
【0059】
なお、上記実施形態では、制御が簡単となり、構造が簡単になるため、噴射口から鉛直方向下側(真下)にスラリーを噴射させる構造としたが、本発明はこれに限定されず、スラリーを焼結体に塗布することができればよく、スラリーの噴射方向を斜め方向や、横方向としてもよい。なお、スプレーヘッド48及び噴射口50は、噴射方向の先に焼結体34がある位置に配置する。つまり、噴射口50が焼結体34と向かい合う位置関係とする必要はある。
【0060】
また、回転保持手段32は、噴射口50から放出されるスラリーと当たる部分の焼結体34が、噴射口50に近づく方向に回転する向きで焼結体34を回転させることが好ましい。焼結体34を上記向きで回転させることで、スラリーを効率よく焼結体34に塗布させることができ、またスラリーが飛び散ることも抑制することができる。
【0061】
また、濃度調整部44により濃度を調整することで、焼結体34に適切な濃度のスラリーを塗布することができる。具体的には、スラリーの溶媒が揮発、蒸発しても、濃度を一定に保つことができる。なお、上記実施形態では、溶媒となる溶剤のみを補充するようにしたが、基準濃度よりも濃度が高いスラリー(コンク液)を貯留したタンクを設け、スラリーの濃度が基準よりも低くなったら、コンク液を補充するようにしてもよい。
【0062】
ここで、回転保持手段32は、焼結体を5rpm以上50rpm以下で回転させることが好ましく、10rpm以上40rpm以下で回転させることがより好ましい。回転数を5rpm以上とすることで、塗布されたスラリーを迅速に移動させることができ、つまり、レベリングのためのスラリーの移動を適切に行い、より好適にスラリーの塗布膜を均一化することができる。また、50rpm以下とすることで、スラリーに作用する遠心力を適切な大きさにすることができ、好適な膜厚でスラリーを塗布することができる。
【0063】
次に、図6を用いて、塗布機構の他の実施形態(実施形態2)を説明する。ここで、図6は、塗布機構の他の実施形態の概略構成を示す模式図である。なお、図6に示す塗布機構104は、塗布手段110の塗布部112の構成を除いた他の構成は、図2に示す塗布機構14と同様である。従って、以下では、塗布機構14と同様の構成については、説明を省略し、塗布機構104に特有の点を重点的に説明する。塗布手段110は、塗布部112と、スラリー循環部42と、濃度調整部44とを有する。なお、スラリー循環部42と、濃度調整部44とは、上述した塗布手段30の各部と同様の構成である。
【0064】
塗布部112は、スラリー槽114と、受け皿52とを有する。スラリー槽114は、スラリー循環部42の配管55aから供給されるスラリーを溜める貯留部である。スラリー槽114は、鉛直方向上側の面が開放されており、開放されている面から焼結体34を投入可能な構成となっている。つまり、焼結体34をスラリー槽114内に貯留されているスラリーに浸けることできる。
【0065】
また、受け皿52は、スラリー槽114の鉛直方向下方側にスラリー槽114の外周を覆うように配置されている。受け皿52は、スラリー槽114から溢れたスラリーを回収する。受け皿52に回収されたスラリーは、配管55bを介してスラリータンク54に送られる。
【0066】
塗布機構104は、回転保持手段32により焼結体34を、スラリー槽114のスラリーが溜められている領域に移動させることで、焼結体34にスラリーを付着させる。このように、スラリーが溜められている領域に焼結体34を移動させて、スラリーを塗布するようにしても、回転保持手段32により焼結体34を回転させることで、焼結体34に均一にスラリーを塗布することができ、上記効果と同様の効果を得ることができる。
【0067】
次に、図7を用いて、塗布機構の他の実施形態(実施形態3)を説明する。ここで、図7は、塗布機構の他の実施形態の概略構成を示す模式図である。なお、図7に示す塗布機構204は、塗布手段230の塗布部240の構成を除いた他の構成は、図2に示す塗布機構14と同様である。従って、以下では、塗布機構14と同様の構成については、説明を省略し、塗布機構204に特有の点を重点的に説明する。
【0068】
塗布手段230は、スラリーを焼結体34に向けて放出して焼結体34の表面に塗布する塗布部240と、塗布部240にスラリーを供給し、かつ、塗布部240からスラリーを回収してスラリーを循環させるスラリー循環部42と、スラリー循環部42で循環されるスラリーの濃度を調整する濃度調整部44とを有する。なお、スラリー循環部42と、濃度調整部44とは、上述した塗布手段30の各部と同様の構成である。
【0069】
塗布部40は、ヘッド248と、複数の吐出口と、受け皿52とを有する。ヘッド248は、スラリー循環部42から供給されるスラリーを一時的に貯留する貯留部である。ノズル250は、ヘッド248の下面に設けられた開口であり、ヘッド248に貯留されたスラリーをスラリー流として放出(吐出、排出)する。本実施例では、複数のノズル250が、ヘッド248の下面に列上に形成されている。受け皿52は、ヘッド248の鉛直方向下側に配置されたスラリー回収部であり、ノズル250から放出されたスラリーを回収する。受け皿52は、側面が傾斜面となっており、側面に付着したスラリーを回収する回収口が形成された下面に流れる構成となっている。
【0070】
ここで、スラリーを焼結体34に塗布する際は、図7に示すように、ノズル250と受け皿52との間に焼結体34が配置される。これにより、塗布部40は、ノズル250からスラリーを放出することで、ノズル250の鉛直方向下側にある焼結体34にスラリーを塗布することができる。また、焼結体34に塗布されなかった、つまり付着しなかったスラリーは、焼結体34よりも鉛直方向下側にある受け皿52によって回収される。
【0071】
次に、図8−1及び図8−2を用いて、塗布機構204の動作について説明する。図8−1及び図8−2は、塗布機構の動作を説明するための説明図である。塗布機構204は、回転保持手段32で保持した焼結体34を回転させつつ、塗布手段30によるスラリーの塗布を行う。これにより、図8−1及び図8−2に示すように、ノズル250から放出されたスラリーが落下する位置にある焼結体34は、姿勢を変化させながらスラリーと接触する。これにより、焼結体34は、略全面がスラリーの到達位置を通過し、ノズル250から放出されたスラリーが塗布される。
【0072】
このように、複数のノズル250から焼結体に向けてスラリー流を放出する構成とすることでも、焼結体の表面にスラリーを塗布することができる。また、本実施形態のようにスラリー流を落下させるのみの構成とすることで、簡単な構成でスラリーを焼結体に向けて移動させることができる。
【0073】
また、本実施形態のように、ノズル250を複数設け、さらに、列上に設けることで、焼結体の位置に応じて、スラリー流が片寄ることを抑制することができ、均一に塗布することができる。つまり、スラリー流が開口の中央にまとまっても、ノズル250自体を複数個設け、所定の間隔で配置することで、列上の端部側にも適切にスラリーを放出することができる。
【0074】
なお、上記実施形態では、制御が簡単となり、構造が簡単になるため、ノズルから鉛直方向下側(真下)にスラリーを放出(落下)させる構造としたが、本発明はこれに限定されず、スラリーを焼結体に塗布することができればよく、ノズルから斜め方向や、横方向にスラリーを放出させる構成としてもよい。
【0075】
また、焼結体へのスラリーの塗布方法は、ノズルからスラリーを放出して塗布する方法、スラリーが溜められているスラリー槽に浸けて塗布する方法、スプレーを用いてスラリーを塗布する方法に限定されず、スラリーを塗布する種々の手段を用いることができる。
【0076】
なお、焼結体に塗布する膜の厚みは、スラリーの濃度を調整することで、調整すればよい。つまり、スラリーの濃度を高くすることで、膜厚を高くすることができ、スラリーの濃度を低くすることで、膜厚を低くすることができる。
【0077】
また、濃度調整部は、スラリーを基準値±0.050g/ccの範囲、つまり、スラリーの密度を0.100g/ccの範囲に維持することが好ましく、±0.035g/ccの範囲、つまり、スラリーの密度を0.070g/ccの範囲とすることがより好ましい。スラリーを上記範囲とすることで、製造した磁石間で性能のムラが発生することを抑制することができる。
【0078】
なお、スラリーの濃度は、目的とする厚みで焼結体に塗布できる濃度以上であればよく、下限値は特に限定されない。また、スラリーの濃度は、70wt%以下、好ましくは60wt%以下とすることが好ましい。スラリーの濃度を70wt%以下とすることで、スラリーを焼結体上で適切に移動させることができ、回転させることで、スラリーの厚みを均一にさせることができる。
【0079】
また、上記実施形態では、いずれも、塗布機構と乾燥機構と搬送機構とを別々の装置としたが、本発明はこれに限定されず、1つの装置としてもよい。つまり、塗布機構と乾燥機構とを塗布装置としてもよい。なお、この場合は、塗布機構の回転保持手段により焼結体を乾燥機構の処理領域に移動させればよい。なお、焼結体を移動させる搬送機構を別途設けても良いし、上述した搬送機構の一部の機能を塗布装置に加えるようにしてもよい。
【0080】
以下、実験例を用いて、より詳細に説明する。まず、実施例1として、以下のようにして希土類磁石を作成した。
【0081】
<焼結体の製造>
以下に示す方法で製造した焼結体(焼結体磁石)を製造した。まず、主に磁石の主相を形成する主相系合金と、主に粒界を形成する粒界系合金を、SC法で鋳造した。主相系合金の組成は23.0wt%Nd−2.6wt%Dy−5.9wt%Pr−0.5wt%Co−0.18wt%Al−1.1wt%B−bal.Feで、粒界系合金の組成は30.0wt%Dy−0.18wt%Al−0.6wt%Cu−bal.Feであった。
【0082】
次いで、これらの原料合金をそれぞれ水素粉砕により粗粉砕した後、高圧Nガスによるジェットミル粉砕を行い、それぞれ平均粒径D=4μmの微粉末とした。得られた主相系合金の微粉末と、粒界系合金の微粉末とを、主相系合金:粒界系合金=9:1の割合で混合して、希土類磁石の原料粉末である磁性粉末を調製した。次いで、この磁性粉末を用い、成型圧1.2t/cm、配向磁場15kOeの条件で磁場中成型を行い、成型体を得た。それから、得られた成型体を、1060℃、4時間の条件で焼成することで、上記の組成を有する希土類磁石の焼結体を製造した。その後、製造した焼結体を、3wt%硝酸/エタノールの混合溶液に3分間浸漬させた後、エタノールに1分間浸漬する処理を2回行い、焼結体の表面処理を行った。また、これらの処理は、いずれも超音波を印加しながら行った。
【0083】
<スラリーの製造>
次に、焼結体に付着させるスラリーは、以下のようにして製造した。まず、イソプロピルアルコール550量部中にブチラール樹脂(積水化学 BM−S)5重量部を溶解し、樹脂溶液を作製した。次にこの樹脂溶液とDyH(平均粒径D=5μm)445重量部をボールミルに投入し、Ar雰囲気下で3mmのジルコニアボールにて10時間分散を行い、スラリーを製造した。なお、使用したDy水素化物は、Dy粉末を水素雰囲気下350℃で1時間吸蔵させ、これに続いてAr雰囲気下、600℃で1時間処理することにより作製したものである。このようにして得られた水素化物は、X線回折測定を行い、ASTMカード 47−978のErHからの類推により、DyHであると同定することができる。
【0084】
<スラリーの塗布、乾燥>
上記のようにして製造したスラリーを塗布機構14のスラリータンク54に投入し、500cc/minの流量で循環させた。また、循環中の溶剤揮発による濃度変動を防ぐために、濃度調整部44により、スラリーの密度が、1.258〜1.263(g/cc)の範囲となるように、調整した。具体的には、測定結果に応じてポンプ66を駆動し、溶剤タンク64からスラリータンク54に溶剤を投入した。次に、焼結体34を回転保持手段32により保持した状態で、回転部72により、回転数20rpmにて回転させた。この回転している焼結体34に対して、噴射口50から5秒間スラリーの塗布(スラリーの噴射)を行い、その後、焼結体34を回転させたまま乾燥を行なった。なお、本実施例の目標の膜厚は20μmである。また、膜厚20μmとすることで、焼結体の表面にDyHを5.0mg/cmの割合で付着させることができる。
【0085】
その後、乾燥後の焼結体に対し、800℃、1時間の熱処理を行った後、540℃、1時間の時効処理を更に行うことにより、希土類磁石を製造した。なお、得られた希土類磁石の大きさは、2mm(厚み:磁気異方化方向)×45mm×30mmであった。
【0086】
[特性評価]
次に、製造した希土類磁石の特性を以下の方法で測定した。なお、特性としては、希土類磁石の焼結体に対する重希土類化合物の付着量と、磁気特性を測定した。まず、焼結体をDy化合物のスラリーを塗布する前の重量と、スラリーを塗布して乾燥させた後の重量とを測定し、これらを比較することによって、焼結体へのDy化合物の付着量を算出する。この結果から焼結体の単位表面積あたりのDy化合物の付着量(g/cm)を算出した。次に、焼結体の面積が最も大きい面を9分割し、その各領域の厚みを、マイクロメータを用いて測定した。なお、回転軸に直交する方向(面の短手方向)の一方の端で、回転軸に平行な方向(面の長手方向)の一方の端を第1領域、回転軸に平行な方向(面の長手方向)において第1領域の隣の領域を第2領域、回転軸に直交する方向の一方の端で、回転軸に平行な方向(面の長手方向)の他方の端を第3領域とし、以下、回転軸に直交する方向において中央となる領域で、第1領域に隣接する領域を第4領域、回転軸に直交する方向において中央となる領域で、第2領域に隣接する領域を第5領域、回転軸に直交する方向において中央となる領域で、第3領域に隣接する領域を第6領域、回転軸に直交する方向の他方の端で、第4領域に隣接する領域を第7領域、回転軸に直交する方向の他方の端で、第5領域に隣接する領域を第8領域、回転軸に直交する方向の他方の端で、第6領域に隣接する領域を第9領域とした。
【0087】
また、実施例2として、塗布機構の構成を、図6に示す塗布機構104に変更し、焼結体34をスラリー槽に5秒浸漬させ、その後、回転部72により20rpmで、回転させたこと以外は、実施例1と同様の条件で、希土類磁石を製造し、同様に特性を計測した。
【0088】
また、実施例3として、図7に示す塗布機構204を用いて、焼結体にスラリーの塗布を行なったこと以外は、実施例1と同様の条件で、希土類磁石を製造し、同様に特性を計測した。
【0089】
具体的には、上記のようにして製造したスラリーを塗布機構14のスラリータンク54に投入し、500cc/minの流量で循環させた。また、循環中の溶剤揮発による濃度変動を防ぐために、濃度調整部44により、スラリーの密度が、1.258〜1.263(g/cc)の範囲となるように、調整した。具体的には、測定結果に応じてポンプ66を駆動し、溶剤タンク64からスラリータンク54に溶剤を投入した。次に、焼結体34を回転保持手段32により保持した状態で、回転部72により、回転数20rpmにて回転させた。この回転している焼結体34に対して、噴射口50から5秒間スラリーの塗布を行い、その後、焼結体34を回転させたまま乾燥を行なった。なお、本実施例の目標の膜厚は20μmである。また、膜厚20μmとすることで、焼結体の表面にDyHを5.0mg/cmの割合で付着させることができる。
【0090】
次に、実施例4として、回転速度を10rpmにした他は実施例3と同様の条件で、希土類磁石を製造し、同様に特性を計測した。また、実施例5として、回転速度を30rpmにした他は、実施例3と同様の条件で、希土類磁石を製造し、同様に特性を計測した。また、実施例6として、スラリーを焼結体の保持位置の側面から塗布し、つまりノズルの鉛直方向における位置を焼結体と略同じ位置として、ノズルから水平方向にスラリー流をとする構成とした他は、実施例3と同様の条件で、希土類磁石を製造し、同様に特性を計測した。
【0091】
次に、実施例7として、回転速度を1rpmにした他は実施例3と同様の条件で、希土類磁石を製造し、同様に特性を計測した。また、実施例8として、回転速度を60rpmにした他は、実施例3と同様の条件で、希土類磁石を製造し、同様に特性を計測した。
【0092】
また、比較例1として、実施例1で作製したスラリーをディップ槽に投入し、超音波を印加しながら、10秒間浸漬した後、引き上げ乾燥を行なった以外は、実施例1と同様の条件で、希土類磁石を製造し、同様に特性を計測した。つまり、比較例1として焼結体を回転させることなく、スラリーの塗布及び乾燥を行って希土類磁石を製造した。なお、比較例1では、膜厚の計測時の9つに分けた領域の第1領域から第3領域が、浸漬時に鉛直方向上方となった領域であり、第7領域から第9領域が、浸漬時に鉛直方向下方となった領域である。また磁気特性計測時は、4つに分けた領域の第1領域と第2領域が、浸漬時に鉛直方向上方となった領域であり、第3領域と第4領域が、浸漬時に鉛直方向下方となった領域である。
【0093】
以上の実施例1から実施例8及び比較例1の測定結果を表1に示す。ここで、表1には、計測した塗布量、膜圧、及び平均値を示す。
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示すように、焼結体を回転させない(比較例1)よりも回転させる(実施例1、から実施例8)ことで、より均一にスラリーを塗布できることがわかる。また、回転数を適切にすること(実施例1から実施例6)で、適正な膜圧にできることがわかる。具体的には、回転数を早くしすぎる(実施例8)と、膜圧が薄くなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上のように、本発明にかかる希土類焼結磁石製造方法及び塗布装置は、希土類焼結磁石を製造するのに有用である。
【符号の説明】
【0097】
10 磁石製造装置
12 焼結体供給機構
14、104、204 塗布機構
16 乾燥機構
18 熱処理機構
20 搬送機構
22 制御機構
30、110、230 塗布手段
32 回転保持手段
34 焼結体
40、112 塗布部
42 スラリー循環部
44 濃度調整部
48 スプレーヘッド
50 噴射口
52 受け皿
54 スラリータンク
56 攪拌機
58 ポンプ
64 溶剤タンク
66 ポンプ
70 接触部
72 回転部
74 着脱部
114 スラリー槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類化合物を含むスラリーを焼結体に塗布する塗布工程と、
前記焼結体の長手方向の一方の端部と、前記一方の端部の反対側の他方の端部とを保持し、前記焼結体の長手方向に平行であり、かつ、前記焼結体を通る直線を回転軸として前記焼結体を回転させる回転工程と、
前記スラリーが塗布され、焼結体を回転させつつ、乾燥させる乾燥工程と、
前記スラリーが乾燥された焼結体を熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記塗布工程は、焼結体を回転させつつ、前記回転軸に直交する方向から、前記焼結体にスラリーを供給し、前記焼結体に前記スラリーを塗布することを特徴とする希土類焼結磁石製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程は、複数のスラリー流で焼結体にスラリーを塗布することを特徴とする請求項1に記載の希土類焼結磁石製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程は、前記焼結体の配置位置の鉛直方向上方から前記スラリーを落下させることを特徴とする請求項2に記載の希土類焼結磁石製造方法。
【請求項4】
希土類化合物を含むスラリーを焼結体に塗布する塗布工程と、
前記焼結体の長手方向の一方の端部と、前記一方の端部の反対側の他方の端部とを保持し、前記焼結体の長手方向に平行であり、かつ、前記焼結体を通る直線を回転軸として前記焼結体を回転させる回転工程と、
前記スラリーが塗布され、焼結体を回転させつつ、乾燥させる乾燥工程と、
前記スラリーが乾燥された焼結体を熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記塗布工程は、焼結体を回転させつつ、スラリーが貯留された領域に、前記焼結体を浸漬させることで、前記焼結体にスラリーを塗布することを特徴とする希土類焼結磁石製造方法。
【請求項5】
前記回転工程は、前記塗布工程で前記スラリーを焼結体に塗布する間、焼結体を回転させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石製造方法。
【請求項6】
前記塗布工程によりスラリーを焼結体に塗布する前に、前記焼結体を回転させるプレ回転工程をさらに有し、
前記回転工程は、前記プレ回転工程で回転された焼結体を継続して回転させることを特徴とする請求項5に記載の希土類焼結磁石製造方法。
【請求項7】
焼結体と接触して保持する保持手段と、
前記焼結体の長手方向の一方の端部と、前記一方の端部の反対側の他方の端部とを保持し、前記焼結体の長手方向に平行であり、かつ、前記焼結体を通る直線を回転軸として、前記焼結体を回転させる回転手段と、
希土類化合物を含むスラリーを前記焼結体に向けて供給し、前記焼結体の表面にスラリーを塗布するスラリー供給手段と、を有することを特徴とする塗布装置。
【請求項8】
さらに、前記焼結体に塗布されたスラリーを乾燥させる乾燥手段を有することを特徴とする請求項7に記載の塗布装置。
【請求項9】
前記スラリー供給手段は、前記焼結体に塗布されなかったスラリーを回収し、再び前記焼結体に向けて供給するスラリー循環機構を有することを特徴とする請求項7または8に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【公開番号】特開2011−129871(P2011−129871A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186589(P2010−186589)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【分割の表示】特願2009−285558(P2009−285558)の分割
【原出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】