説明

干渉フィルター、光モジュール、及び光分析装置

【課題】長波長域においても分解能を向上できる干渉フィルター、光モジュール、及び光分析装置を提供すること。
【解決手段】固定ミラー54と、固定ミラー54とギャップGを介して対向配置される可動ミラー55とを備える。固定ミラー54は、1層のTiO膜57と、1層のAg合金膜58とが積層されて形成される。また、可動ミラー55は、1層のTiO膜57と、1層のAg合金膜58とが積層されて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉フィルター、この干渉フィルターを備える光モジュール、及びこの光モジュールを備える光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の基板の互いに対向する面に、それぞれ反射膜としてのミラー(一対のミラー)が所定のギャップを介して対向配置された干渉フィルターが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1の干渉フィルターでは、入射光を一対のミラー間で光を多重干渉させ、多重干渉により互いに強め合った特定波長の光のみを透過させる。
ところで、ミラーには、高い反射特性、及び透過性を有する材料が求められるため、純銀(Ag)やAgの合金が有力な候補といえる。このため、例えば、特許文献1では、Agに炭素(C)を添加したAg−C合金がミラーに用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−251105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、ミラーにAg−C合金を用いた場合には、近赤外光の長波長域の光を吸収し易くなる。このため、近赤外光では長波長域のミラーを透過する光の検出光量が短波長域に比べて低下し、干渉フィルターの分解能が低下するという課題がある。
【0005】
本発明の目的は、長波長域においても分解能を向上できる干渉フィルター、光モジュール、及び光分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の干渉フィルターは、第1反射膜と、前記第1反射膜とギャップを介して対向配置される第2反射膜とを備え、前記第1反射膜は、1層の透明膜と、1層の金属膜とが積層されて形成され、前記第2反射膜は、1層の透明膜と、1層の金属膜とが積層されて形成されたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、各反射膜は、それぞれ、1層の透明膜と、1層の金属膜とが積層されて形成される。このような構成では、例えば、金属膜のみで形成される構成や、誘電多層膜の上に金属膜を設ける構成に比べて、金属膜による特定波長の吸光性を抑えることができ、透過光の光量低下や干渉フィルターの分解能の低下を抑制できる。これにより、近赤外光の長波長域の光の透過光量が低下することがなく、干渉フィルターの分解能を向上できる。
【0008】
本発明の干渉フィルターでは、第1基板と、前記第1基板に対向する第2基板とを備え、前記第1反射膜は、前記第1基板の前記第2基板に対向する面に設けられ、前記第1基板側から順に1層の前記透明膜と、1層の前記金属膜とが積層されて形成され、前記第2反射膜は、前記第2基板に設けられ、前記第1反射膜と所定のギャップを介して対向し、前記第2基板側から順に1層の前記透明膜と、1層の前記金属膜とが積層されて形成されたことが好ましい。
【0009】
本発明によれば、前述の効果を奏する他、各反射膜は、それぞれ、基板側から順に、1層の透明膜と、1層の金属膜とが積層されて形成されるので、反射膜を基板に直接成膜して形成することができる。これにより、反射膜を基板に対して安定して成膜でき、撓み等を抑制できる。
【0010】
本発明の干渉フィルターでは、前記金属膜は、銀(Ag)を主成分とするAg合金膜であることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、金属膜はAg合金膜により構成される。干渉フィルターとして、高分解能、高透過率を実現する必要があり、この条件を満たす素材として、反射特性及び透過特性に優れたAg膜を用いることが好ましい。一方、Ag膜は、環境温度や、製造プロセスにおいて劣化しやすい。これに対して、Ag合金膜を用いることで、環境温度や製造プロセスでの劣化も抑えられ、かつ高分解能、高透過率を実現することができる。
【0012】
本発明の干渉フィルターでは、前記Ag合金膜の膜厚寸法は、30nm以上60nm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、Ag合金膜の膜厚寸法が30nm以上60nm以下であるので、Ag合金膜に入射する光の透過率が低下することなく、十分な透過性を維持できる。
つまり、Ag合金膜の膜厚寸法が30nm未満であると、厚さが薄すぎてAg合金膜の反射率が低下する。また、Ag合金膜をスパッタリング法で成膜する場合、厚さが薄いため、スパッタリング速度が速くなって、厚さのコントロールが難しくなり、製造安定性の低下を招くおそれもある。一方、Ag合金膜の膜厚寸法が60nmを超えると、透過率が低下するため、十分な透過光量を得ることができない。これに対して、Ag合金膜の膜厚寸法を30nm以上60nm以下とすることで、反射特性と、透過特性のバランスを良好に保つことができ、分解能が向上し、かつ透過光量をも十分に得ることができる。
【0014】
本発明の干渉フィルターでは、前記透明膜は、二酸化チタン(TiO)膜であることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、透明膜には、屈折率の高いTiO膜が用いられている。このため、所望の半値幅が変動してしまうことを抑制できる。これにより、光の透過率を高めることができ、干渉フィルターの分解能をより向上できる。
【0016】
本発明の干渉フィルターでは、前記透明膜の膜厚寸法をTとし、当該干渉フィルターを透過させる測定光の波長である測定波長をλとし、前記透明膜の前記測定波長における屈折率をrとして、
前記透明膜の膜厚寸法Tは、次式(1)を満たし、前記透明膜の膜厚寸法Tは、0.85T≦T≦1.25Tの範囲内に設定されことが好ましい。
【0017】
【数1】

【0018】
ここで、測定波長とは、反射膜間のギャップが可変しない干渉フィルターにおいて、これらの反射膜間で多重干渉させて透過させたい光の波長である。また、反射膜間のギャップを可変させる波長可変干渉フィルターでは、前記測定波長は、ギャップの可変により測定可能な波長域における中心波長である。
【0019】
本発明によれば、透明膜は上述の式(1)を満たす膜厚寸法Tに形成されている。このため、所望の測定波長に対して高反射特性を示し、半値幅をより小さくできる。例えば、所定の波長域において所望の半値幅で一定にすることができる。これにより、長波長域における透過率の低下を抑制でき、干渉フィルターの分解能を向上できる。
また、透明膜の膜厚寸法Tは、上述の範囲内に設定される。ここで、膜厚寸法Tが、0.85Tより小さい場合、及び1.25Tより大きい場合、干渉フィルターを透過した透過光のピーク波長における半値幅が、誘電多層膜上に金属膜を設ける構成に比べて大きくなり、分解能が低下する。これに対して、上記範囲内では、誘電多層膜上に金属膜を設ける構成に比べて、半値幅が小さくなり、分解能を向上させることができる。従って、透明膜の膜厚寸法Tがこのような範囲内に設定されるので、例えば、所定の波長域における最低光量を大きくでき、かつ、半値幅の変化量を小さくできる。従って、近赤外光の長波長域のミラーを透過する光の検出光量が短波長域に比べて低下することなく、干渉フィルターの分解能を向上できる。
【0020】
本発明の干渉フィルターでは、前記第1基板及び第2基板は、前記透明膜の屈折率とは異なる屈折率を有するガラスで形成されることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、各基板は透明膜の屈折率とは異なる屈折率を有するガラスで形成されるので、光の透過率が低下することなく、高透過率を実現できる。
【0022】
本発明の光モジュールは、上述の干渉フィルターと、前記干渉フィルターを透過した検査対象光を受光する受光部とを備えることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、光モジュールは、上述した分解能の向上した干渉フィルターを備えるので、所望波長の光の光量を正確に検出できる。
【0024】
本発明の光分析装置は、上述の光モジュールと、前記光モジュールの前記受光部により受光された光に基づいて、前記検査対象光の光特性を分析する分析処理部とを備えることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、光分析装置は、上述した干渉フィルターを有する光モジュールを備えるので、精度の高い光量の測定を実施でき、この測定結果に基づいて光分析処理を実施することで、正確な分光特性を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る一実施形態の測色装置の概略構成を示すブロック図。
【図2】前記実施形態のエタロンの概略構成を示す断面図
【図3】本発明に係る実施例における波長域と光量との関係を示すグラフ。
【図4】本発明に係る実施例における波長域と半値幅との関係を示すグラフ。
【図5】本発明に係る実施例におけるTiO膜の膜厚変動と最低光量との関係を示すグラフ。
【図6】本発明に係る実施例におけるTiO膜の膜厚変動と半値幅変化量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
〔1.測色装置の概略構成〕
図1は、本実施形態の測色装置1(光分析装置)の概略構成を示すブロック図である。
測色装置1は、図1に示すように、被検査対象Aに光を射出する光源装置2と、測色センサー3(光モジュール)と、測色装置1の全体動作を制御する制御装置4とを備える。そして、この測色装置1は、光源装置2から射出される光を被検査対象Aにて反射させ、反射された検査対象光を測色センサー3にて受光し、測色センサー3から出力される検出信号に基づいて、検査対象光の色度、すなわち被検査対象Aの色を分析して測定する装置である。
【0028】
〔2.光源装置の構成〕
光源装置2は、光源21、複数のレンズ22(図1には1つのみ記載)を備え、被検査対象Aに対して白色光を射出する。また、複数のレンズ22には、コリメーターレンズが含まれてもよく、この場合、光源装置2は、光源21から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから被検査対象Aに向かって射出する。なお、本実施形態では、光源装置2を備える測色装置1を例示するが、例えば被検査対象Aが液晶パネルなどの発光部材である場合、光源装置2が設けられない構成としてもよい。
【0029】
〔3.測色センサーの構成〕
測色センサー3は、図1に示すように、エタロン5(干渉フィルター)と、エタロン5を透過する光を受光する受光素子31(受光部)と、エタロン5で透過させる光の波長を可変する電圧制御部6とを備える。また、測色センサー3は、エタロン5に対向する位置に、被検査対象Aで反射された反射光(検査対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。そして、この測色センサー3は、エタロン5により、入射光学レンズから入射した検査対象光のうち、測定波長である所定波長の光のみを分光し、分光した光を受光素子31にて受光する。
受光素子31は、複数の光電交換素子により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、受光素子31は、制御装置4に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御装置4に出力する。
【0030】
(3−1.エタロンの構成)
図2は、本実施形態におけるエタロン5の概略構成を示す断面図である。
エタロン5は、例えば、平面視略正方形状の板状の光学部材であり、一辺が例えば10mmに形成されている。このエタロン5は、図2に示すように、第1基板51と、第2基板52とを備える。そして、これらの基板51,52は、例えば、プラズマ重合膜を用いたシロキサン接合などにより接合層53を介して互いに接合されて一体的に構成される。
ここで、第1基板51及び第2基板52は、後述する透明膜であるTiO膜57の屈折率rとは異なる屈折率を有する材料で形成される。具体的には、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスなどの各種ガラスなどが例示できる。
【0031】
また、第1基板51と、第2基板52との間には、固定ミラー54(第1反射膜)及び可動ミラー55(第2反射膜)が設けられる。ここで、固定ミラー54は、第1基板51における第2基板52に対向する面に固定され、可動ミラー55は、第2基板52における第1基板51に対向する面に固定されている。また、これらの固定ミラー54及び可動ミラー55は、ギャップGを介して対向配置されている。
さらに、第1基板51と第2基板52との間には、固定ミラー54及び可動ミラー55の間のギャップGの寸法を調整するための静電アクチュエーター56が設けられている。
【0032】
静電アクチュエーター56は、第1基板51側に設けられる第1電極561、及び第2基板52側に設けられる第2電極562を有し、これらの電極は対向して配置される。第1電極561及び第2電極562は、それぞれ図示しない電極引出部を介して電圧制御部6(図1参照)に接続されている。
そして、電圧制御部6から出力される電圧により、第1電極561及び第2電極562の間に静電引力が働き、ギャップGの寸法が調整され、当該ギャップGに応じて、エタロン5を透過する光の透過波長が決定される。すなわち、静電アクチュエーター56によりギャップGを適宜調整することで、エタロン5を透過する光が決定されて、エタロン5を透過した光が受光素子31で受光される。
次に、固定ミラー54及び可動ミラー55について説明し、エタロン5の詳細な構成については、後述する。
【0033】
(3−1−1.固定ミラー及び可動ミラーの構成)
固定ミラー54及び可動ミラー55は、各基板51,52の基板側から順に、1層の二酸化チタン(TiO)膜57(透明膜)、及び1層の銀(Ag)合金膜58(金属膜)が積層される2層構造にそれぞれ形成される。また、図示を省略したが、Ag合金膜58の上には、保護膜として、ケイ素(Si)の酸化膜が覆われている。なお、本実施形態では、保護膜として、ケイ素(Si)の酸化膜を用いたが、アルミニウム(Al)の酸化膜や、マグネシウム(Mg)のフッ化膜などを用いることができる。
【0034】
TiO膜57の膜厚寸法Tは、以下の式(1)の関係を満たす。そして、膜厚寸法Tは、0.85T≦T≦1.25Tの範囲内に設定される。
【0035】
【数2】

【0036】
λは、エタロン5の波長変化域の中心波長であり、rは、TiO膜57の屈折率である。なお、本実施形態では、波長可変型のエタロン5を例示するが、例えば、ギャップ寸法が可変させる構成を有さない、波長固定型のエタロンでは、ギャップ寸法に応じた透過光の波長を測定波長λとすればよい。
【0037】
なお、本実施形態では、本発明の透明膜として、TiO膜57を用いたが、第1基板51や第2基板52よりも屈折率が高い膜を使用すればよく、例えばタンタル(Ta)の酸化膜や、ニオブ(Nb)の酸化膜を用いることができる。この中でも、最も屈折率が高く、かつ可視光域の光に対して、良透過特性を示すTiO膜が好ましい。
【0038】
Ag合金膜58の膜厚寸法Sは、30nm以上、60nm以下に形成される。
これは、エタロン5において、固定ミラー54及び可動ミラー55の反射率及び透過率のバランスが重要であるためである。
【0039】
つまり、固定ミラー54及び可動ミラー55を形成するAg合金膜58の膜厚寸法Sを大きくすることで高い反射率を得ることができるものの、透過率が低下するためエタロン5としての検出感度の点で問題となる。
特に、Ag合金膜58の膜厚寸法Sが30nm未満であると、膜厚寸法Sが小さすぎてAg合金膜58の反射率が低く、さらに、プロセス加工や経時変化による反射率低下も大きくなる。また、Ag合金膜58をスパッタリング法で成膜する場合、Ag合金膜58のスパッタリング速度が速いため、膜厚のコントロールが難しくなり、製造安定性の低下を招くおそれもある。
一方、固定ミラー54及び可動ミラー55を形成するAg合金膜58の膜厚寸法Sを小さくすることで、高い透過率を得ることができるものの、反射率が低下してしまうため、エタロン5としての分光性能が低下してしまう。
特に、Ag合金膜58の膜厚寸法Sが60nmを超えると、光透過率が低下し、エタロン5の固定ミラー54及び可動ミラー55としての機能も低下する。
このような観点から、固定ミラー54、及び可動ミラー55を形成するAg合金膜58の膜厚寸法Sは、30nm以上、60nm以下に設定することが好ましく、この範囲内で、透過波長の半値幅が所望の値となるように適宜設定される。
【0040】
・銀(Ag)、サマリウム(Sm)、及び銅(Cu)を含有するAg−Sm−Cu合金膜
・銀(Ag)、及び炭素(C)を含有するAg−C合金膜
・銀(Ag)、パラジウム(Pd)、及び銅(Cu)を含有するAg−Pd−Cu合金膜
・銀(Ag)、ビスマス(Bi)、及びネオジム(Nd)を含有するAg−Bi−Nd合金膜
・銀(Ag)、ガリウム(Ga)、及び銅(Cu)を含有するAg−Ga−Cu合金膜
・銀(Ag)、及び金(Au)を含有するAg−Au合金膜
・銀(Ag)、インジウム(In)、及びスズ(Sn)を含有するAg−In−Sn合金膜
・銀(Ag)、及び銅(Cu)を含有するAg−Cu合金膜
【0041】
また、Ag以外を用いた金属膜であってもよく、例えば、純金(Au)膜、金(Au)を含有する合金膜、純銅(Cu)膜、銅(Cu)を含有する合金膜を用いてもよい。ただし、可視光域を測定対象波長域とする場合、Ag膜が最も透過特性、反射特性に優れている。
【0042】
(3−1−2.第1基板の構成)
第1基板51は、厚みが例えば500μmのガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。この第1基板51には、図2に示すように、電極形成溝511及びミラー固定部512がエッチングにより形成される。
電極形成溝511は、ミラー固定部512の外周縁から、電極形成溝511の内周壁面までの間に、リング状の電極固定面511Aが形成される。この電極固定面511Aには、上述した第1電極561がリング状に形成される。
ミラー固定部512は、上述したように、電極形成溝511と同軸で、かつ電極形成溝511よりも小さい径寸法となる円柱状に形成される。そして、ミラー固定部512の第2基板52に対向するミラー固定面512Aが、電極固定面511Aよりも第2基板52に近接して形成される。このミラー固定面512Aには、上述した固定ミラー54が形成される。
【0043】
(3−1−3.第2基板の構成)
第2基板52は、例えば厚み寸法が200μmのガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。
具体的には、第2基板52には、基板厚み方向に見る平面視(以下、エタロン平面視)で、基板中心点を中心とした円形の可動部521と、可動部521と同軸であり、エタロン平面視で円環状に形成されて可動部521を第2基板52の厚み方向に移動可能に保持する連結保持部522とを備える。
可動部521は、連結保持部522よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、第1基板52の厚み寸法と同一寸法である200μmに形成されている。また、可動部521の第1基板51に対向する側の可動面521Aには、上述した可動ミラー55が形成される。
連結保持部522は、可動部521の周囲を囲うダイヤフラムであり、例えば厚み寸法が50μmに形成されている。この連結保持部522の第1基板51に対向する面には、上述した第2電極562がリング状に形成される。
【0044】
(3−2.電圧制御部の構成)
電圧制御部6は、制御装置4からの入力される制御信号に基づいて、静電アクチュエーター56の第1電極561及び第2電極562に印加する電圧を制御する。
【0045】
〔4.制御装置の構成〕
制御装置4は、測色装置1の全体動作を制御する。この制御装置4としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、制御装置4は、図1に示すように、光源制御部41、測色センサー制御部42、及び測色処理部43(分析処理部)などを備えて構成されている。
【0046】
光源制御部41は、光源装置2に接続されている。そして、光源制御部41は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置2に所定の制御信号を出力し、光源装置2から所定の明るさの白色光を射出させる。
測色センサー制御部42は、測色センサー3に接続されている。そして、測色センサー制御部42は、例えば利用者の設定入力に基づいて、測色センサー3にて受光させる光の波長を設定し、この波長の光の受光量を検出する旨の制御信号を測色センサー3に出力する。これにより、測色センサー3の電圧制御部6は、制御信号に基づいて、利用者が所望する光の波長のみを透過させるよう、静電アクチュエーター56への印加電圧を設定する。
測色処理部43は、測色センサー制御部42を制御して、エタロン5のミラー間ギャップを変動させて、エタロン5を透過する光の波長を変化させる。また、測色処理部43は、受光素子31から入力される受光信号に基づいて、エタロン5を透過した光の光量を取得する。そして、測色処理部43は、上記により得られた各波長の光の受光量に基づいて、被検査対象Aにより反射された光の色度を算出する。
【0047】
〔5.本実施形態の作用効果〕
本実施形態によれば、各ミラー54,55は、それぞれ、基板側から順に、1層のTiO膜57と、1層のAg合金膜58とが積層されて形成される。このような構成では、例えば、基板上に金属膜のみが形成される構成や、基板上に誘電多層膜を形成し、その上に金属膜を設ける構成に比べて、金属膜による特定波長の吸光性を抑えることができ、透過光の光量低下やエタロン5の分解能の低下を抑制できる。これにより、近赤外光の長波長域の光の透過光量が低下することがなく、エタロン5の分解能を向上できる。
【0048】
また、金属膜はAg合金膜58により構成される。エタロン5として、高分解能、高透過率を実現する必要があり、この条件を満たす素材として、反射特性及び透過特性に優れたAg膜を用いることが好ましい。一方、Ag膜は、環境温度や、製造プロセスにおいて劣化しやすい。これに対して、Ag合金膜58を用いることで、環境温度や製造プロセスでの劣化も抑えられ、かつ高分解能、高透過率を実現することができる。
さらに、Ag合金膜58の膜厚寸法Sが30nm以上60nm以下であるので、Ag合金膜58に入射する光の透過率が低下することなく、十分な透過性を維持できる。
【0049】
また、透明膜には、屈折率の高いTiO膜57が用いられている。このため、所望の半値幅が変動してしまうことを抑制できる。これにより、光の透過率を高めることができ、エタロン5の分解能をより向上できる。
さらに、TiO膜57は上述の式(1)を満たす膜厚寸法Tに形成されている。このため、所定の波長可変域において所望の半値幅で一定にすることができる。これにより、長波長域における透過率の低下を抑制でき、エタロン5の分解能を向上できる。
また、TiO膜57の膜厚寸法Tは、上述した0.85T≦T≦1.25Tの範囲内に設定される。ここで、膜厚寸法Tが、0.85Tより小さい場合、及び1.25Tより大きい場合、エタロン5を透過した透過光のピーク波長における半値幅が、誘電多層膜上に金属膜を設ける構成に比べて大きくなり、分解能が低下する。これに対して、上記範囲内では、誘電多層膜上に金属膜を設ける構成に比べて、半値幅が小さくなり、分解能を向上させることができる。従って、TiO膜57の膜厚寸法Tがこのような範囲内に設定されるので、例えば、所定の波長可変域における最低光量を大きくでき、かつ、半値幅の変化量を小さくできる。従って、近赤外光の長波長域のミラー54,55を透過する光の検出光量が短波長域に比べて低下することなく、エタロン5の分解能を向上できる。
【0050】
各基板51,52は、TiO膜57の屈折率とは異なる屈折率を有するガラスで形成されるので、光の透過率が低下することなく、高透過率を実現できる。
なお、本実施形態では、第1基板の固定ミラーおよび第2基板に設けられる可動ミラーの両者をTiO膜とAg合金膜とを積層した構成としたが、どちらか一方のミラーをTiO膜とAg合金膜とを積層した構成としてもよく、従来に比べて干渉フィルターの分解能を向上できる。
【0051】
[実施形態の変形]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、エタロン5を本発明に係る干渉フィルターとして説明したが、これに限られない。ミラー間のギャップの大きさを変化させない干渉フィルターに対しても、上記金属膜及び透明膜で形成される一対のミラーを適用できる。
【0052】
前記実施形態では、静電アクチュエーター56により、ミラー間ギャップGを調整可能なエタロン5の構成を例示したが、例えば、電磁コイルと永久磁石とを有する電磁アクチュエーターや、電圧印加により伸縮可能な圧電素子を設ける構成としてもよい。
前記実施形態において、各基板51,52は、接合層53により接合されるとしたが、これに限られない。例えば、接合層53が形成されず、各基板51,52の接合面を活性化し、活性化された接合面を重ね合わせて加圧することにより接合する、いわゆる常温活性化接合により接合させる構成などとしてもよく、いかなる接合方法を用いてもよい。
前記実施形態では、第2基板52の厚み寸法を例えば200μmとしたが、第1基板51と同じ500μmとしてもよい。この場合には、可動部521の厚み寸法も500μmとなって厚くなるため、可動ミラー55の撓みを抑制でき、各ミラー54,55をより平行に維持できる。
【0053】
前記実施形態では、本発明の光モジュールとして、測色センサー3を例示し、光分析装置として、測色センサー3を備えた測色装置1を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、センサー内部にガスを流入させ、入射光のうちガスにて吸収された光を検出するガスセンサーを本発明の光モジュールとして用いてもよく、このようなガスセンサーによりセンサー内に流入されたガスを分析、判別するガス検出装置を本発明の光分析装置としてもよい。さらに、光分析装置は、このような光モジュールを備えた分光カメラ、分光分析器などであってもよい。
また、各波長の光の強度を経時的に変化させることで、各波長の光でデータを伝送させることも可能であり、この場合、光モジュールに設けられたエタロン5により特定波長の光を分光し、受光部で受光させることで、特定波長の光により伝送されるデータを抽出することができ、このようなデータ抽出用光モジュールを備えた光分析装置により、各波長の光のデータを処理することで、光通信を実施することもできる。
【実施例】
【0054】
〔1.波長域における光量の変化、及び半値幅の変化の評価〕
(実施例1)
波長可変域を600nm〜1100nmとし、固定ミラー54及び可動ミラー55における透明膜をTiO膜、金属膜をAgSmCu合金膜としたエタロン5を製造した(ギャップ変化可能量200〜460nm)。
エタロン5において、上述の式(1)を用いて、TiO膜57の膜厚寸法Tを92nmに設定した。また、ピーク波長の半値幅を10nmとするため、AgSmCuの膜厚寸法Sを51nmとした。
【0055】
(比較例1)
基板側にAg−Sm−Cu合金膜の単膜を形成したエタロンを製造した。この際、ピーク波長の半値幅を10nmとするため、Ag−Sm−Cu合金膜の膜厚寸法を46.5nmとした。
【0056】
(比較例2)
基板側からTiO膜及び二酸化ケイ素(SiO)膜の積層体、及び前記積層体の上にAg−Sm−Cu合金膜を順に形成したエタロンを製造した。この際、ピーク波長の半値幅を10nmとするため、TiO膜の膜厚寸法を46nmとし、SiO膜の膜厚寸法を73nmとし、Ag−Sm−Cu合金膜の膜厚寸法を49nmとした。
【0057】
(評価)
実施例1、比較例1、比較例2の各エタロンに対して、対象波長域の強度が等しい光源から射出された光を入射させ、各エタロンにおけるギャップ寸法を可変させた。
これにより、波長可変域(600nm〜1100nm)における光量の変化(図3に示すグラフ)、および上記波長域における半値幅の変化(図4に示すグラフ)を得た。
【0058】
図3に示すように、実施例1では、比較例1、2に比べて、近赤外光の長波長域での光量の低下が少ないことが確認できた。具体的に、実施例1は、波長1100nmにおいて、比較例1及び比較例2の約1.8倍の光量となることが確認できた。また、比較例1、2では、波長により透過光量の比率が大きく変化するが、実施例1では、各波長に対して均一な透過率が得られることが確認できた。
【0059】
図4に示すように、実施例1では、他の比較例1、2に比べて、波長域内において、所望の半値幅である10nmでほぼ一定となることが分かった。一方、比較例1では、波長約800nmにおいて、半値幅10nmとなるものの、特に、波長600nmで半値幅が14nmとなるなど、波長域内において、半値幅の変化が大きいことが分かった。また、比較例2では、半値幅10nmに対して、比較例1と比べると、半値幅の変化は大きくないが、実施例1と比べると、半値幅の変化が大きく、波長依存性が強いことが確認できた。これに対して実施例1では、全波長域において、半値幅が均一となり、波長依存性の分解能の低下がないことが確認できた。
【0060】
以上のように、実施例1では、近赤外光の長波長域での光量の低下が少なく、所望の半値幅10nmに対して全波長域で均一となることが分かった。また、実施例1では、Ag−Sm−Cu合金膜の膜厚寸法Sを51nmとし、比較例1及び比較例2の金属膜に比べて膜厚寸法を大きくしたが、近赤外光の長波長域の光の透過光量が低下することがなく、波長域内で半値幅を一定に維持でき、分解能を向上できることが分かった。
【0061】
〔2.TiO膜の膜厚寸法Tの変化に対する最低光量の変化、及び半値幅の変化量の評価〕
次に、上記実施例1のエタロン5において、TiO膜57の膜厚寸法Tを変化させたエタロン5を6点(実施例1から実施例6)用意した。
【0062】
(実施例2)
TiO膜57の膜厚寸法Tを73.6nm(0.8T)とした。
(実施例3)
TiO膜57の膜厚寸法Tを82.8nm(0.9T)とした。
(実施例4)
TiO膜57の膜厚寸法Tを101.2nm(1.1T)とした。
(実施例5)
TiO膜57の膜厚寸法Tを110.4nm(1.2T)とした。
(実施例6)
TiO膜57の膜厚寸法Tを119.6nm(1.3T)とした。
【0063】
(評価)
上記実施例1〜6、比較例1,2に対して、透過波長を600〜1100nmの間で変化させた場合の最低光量を検出した。その結果を図5のグラフに示す。
また、実施例1〜6、比較例1,2に対して、透過波長を600〜1100nmの間で変化させた場合の半値幅の変化量を検出した。その結果を図6のグラフに示す。
なお、図5、図6の比較例1,2のグラフは実施例との比較の意味で掲載したが、このデータはそれぞれの典型的な水準を示すもので、TiO膜厚が変化したときの値を示してはいない。
【0064】
図5に示すように、比較例1の最低透過光量は、最低光量が100となり、比較例2の最低透過光量は、最低光量が約110となった。
これに対して、実施例1〜6では、いずれも、比較例1,2を上回ることが確認できた。
【0065】
図6に示すように、比較例1での半値幅の最大変化量は、約5nmとなり、比較例2での半値幅の最大変化量は、約1.6nmとなった。
これに対して、実施例2,6(TiOの膜厚寸法TがTの−15%(0.85T)より小さい場合、+25%(1.25T)より大きい場合)において、半値幅の最大変化量が比較例1よりも下回ったものの、比較例2よりも上回った。一方、実施例1,3〜5(TiOの膜厚寸法TがTの−15%以上+25%以下の場合)において、半値幅の最大変化量が比較例1,2よりも下回った。
以上から、半値幅の最大変化量が比較例1及び比較例2よりも下回る条件は、TiO膜の膜厚寸法Tが0.85T≦T≦1.25Tであることが分かった。
【0066】
以上のように、TiO膜の膜厚寸法Tを0.85T≦T≦1.25Tの範囲内に設定した場合での最低光量は、上述したように、比較例1,2における最低光量を上回っている。このため、TiO膜の膜厚寸法Tを0.85T≦T≦1.25Tに設定すれば、最低光量を比較例1,2よりも大きくでき、かつ、半値幅の最大変化量を比較例1,2よりも小さくできることが分かった。
【符号の説明】
【0067】
1…測色装置(光分析装置)、3…測色センサー(光モジュール)、5…エタロン(干渉フィルター)、31…受光素子(受光部)、43…測色処理部(分析処理部)、51…第1基板、52…第2基板、54…固定ミラー(第1反射膜)、55…可動ミラー(第2反射膜)、57…TiO膜(透明膜)、58…Ag合金膜(金属膜)、G…ギャップ、T,T…膜厚寸法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1反射膜と、
前記第1反射膜とギャップを介して対向配置される第2反射膜とを備え、
前記第1反射膜は、1層の透明膜と、1層の金属膜とが積層されて形成され、
前記第2反射膜は、1層の透明膜と、1層の金属膜とが積層されて形成された
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の干渉フィルターにおいて、
第1基板と、
前記第1基板に対向する第2基板とを備え、
前記第1反射膜は、前記第1基板の前記第2基板に対向する面に設けられ、前記第1基板側から順に1層の前記透明膜と、1層の前記金属膜とが積層されて形成され、
前記第2反射膜は、前記第2基板に設けられ、前記第1反射膜と所定のギャップを介して対向し、前記第2基板側から順に1層の前記透明膜と、1層の前記金属膜とが積層されて形成された
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の干渉フィルターにおいて、
前記金属膜は、銀(Ag)を主成分とするAg合金膜である
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項4】
請求項3に記載の干渉フィルターにおいて、
前記Ag合金膜の膜厚寸法は、30nm以上60nm以下である
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の干渉フィルターにおいて、
前記透明膜は、二酸化チタン(TiO)膜である
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の干渉フィルターにおいて
前記透明膜の膜厚寸法をTとし、当該干渉フィルターを透過させる測定光の波長である測定波長をλとし、前記透明膜の前記測定波長における屈折率をrとして、
前記透明膜の膜厚寸法Tは、次式(1)を満たし、
【数1】


前記透明膜の膜厚寸法Tは、0.85T≦T≦1.25Tの範囲内に設定される
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれかに記載の干渉フィルターにおいて、
前記第1基板及び第2基板は、前記透明膜の屈折率とは異なる屈折率を有するガラスで形成される
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の干渉フィルターと、
前記干渉フィルターを透過した検査対象光を受光する受光部とを備える
ことを特徴とする光モジュール。
【請求項9】
請求項8に記載の光モジュールと、
前記光モジュールの前記受光部により受光された光に基づいて、前記検査対象光の光特性を分析する分析処理部とを備える
ことを特徴とする光分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−108440(P2012−108440A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259044(P2010−259044)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】