説明

干渉波抑圧装置及び干渉波抑圧方法

【課題】 干渉波抑圧時に発生する信号の不連続性を緩和することができ、これによって断続的な異音発生を抑制する。
【解決手段】 ウェイトベクトル演算部3で求められた演算結果からアレイ応答値を求め(S21)、アレイ応答値の遷移期間を設定し(S22)、遷移期間の開始位置と終了位置のアレイ応答値からアレイ応答補正値を計算する(S23)。上記設定のもとで、遷移期間内であるかどうかの判定を行い(S24)、遷移期間内の場合には、受信信号にウェイトとアレイ応答補正値を掛け合わせることで、指向方位の利得の急激な変化を抑制して出力データとし(S25)、遷移期間外の場合には、受信信号にウェイトのみを掛け合わせて出力データとする(S26)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無線通信、レーダ、センサアレイによる到来方向推定システム等に用いられ、干渉波抑圧アルゴリズム(DCMP:Directionally Constrained Minimization of Power)を使用して到来電波の干渉波成分を抑圧する干渉波抑圧装置及び干渉波抑圧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、無線通信、レーダ、センサアレイによる到来方向推定システム等において、妨害波あるいは不要波による干渉波の抑圧方法としてDCMPが知られている(例えば特許文献1参照)。このDCMPはウェイトにおける拘束条件の下で出力電力を最小化させる方法である。
【0003】
ところで、従来のDCMPによる干渉波抑圧処理を行った結果に不連続が発生する場合がある。これは、干渉波の変化によって処理単位毎の干渉波抑圧ウェイトが急激に変動し、所望波の振幅位相も急激に変化することで、処理単位毎に不連続点が発生するためである。
【特許文献1】特開2003−215231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上述べたように、従来のDCMPによる干渉波抑圧処理では、干渉波の変化によって所望波の振幅・位相も急激に変化することで不連続点が発生するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、干渉波抑圧時に発生する信号の不連続性を緩和することができる干渉波抑圧装置及び干渉波抑圧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明は、到来電波の干渉波成分を抑圧する干渉波抑圧装置及び方法において、前記到来電波の受信信号にウェイトをかけて拘束条件の下で出力電力を最小化させるDCMP(Directionally Constrained Minimization of Power)演算結果に対し、前記DCMP演算のウェイト演算結果から干渉波の変化によって振幅・位相が変化して発生する不連続点を求め、連続化に要する遷移期間を設定し、遷移期間の開始位置及び終了位置それぞれのウェイト演算値から遷移期間中の比率が徐々に1になるように補正値を計算し、遷移期間内の場合には、受信信号にウェイトと補正値を掛け合わせて出力データとし、遷移期間外の場合には、受信信号にウェイトのみを掛け合わせて出力データとすることを特徴とする。
【0007】
このように、本発明では、干渉波抑圧ウェイトの急激な変動を緩和させるため、演算処理の継ぎ目に遷移期間を設け、遷移期間の補正値を求め、干渉波抑圧時における信号の不連続性を除去する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、干渉波抑圧時に発生する信号の不連続性を緩和することができ、これによって断続的な異音発生を抑制することのできる干渉波抑圧装置及び干渉波抑圧方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明に係る干渉波抑圧方法を適用したセンサアレイによる到来方向推定システムの構成を示すブロック図である。図1において、センサアレイ受信信号は共分散行列演算部1に入力されて信号受信値の共分散行列が求められ、続いて逆行列演算部2で逆行列が求められてウェイトレベル演算部3に送られる。一方、上記受信信号は方向ベクトル演算部4で方向ベクトルが求められ、さらに拘束ベクトル/拘束応答ベクトル演算部5にて方向ベクトルから拘束ベクトルと拘束応答ベクトルが求められて、それぞれウェイトベクトル演算部3に送られる。
【0011】
上記ウェイトベクトル演算部3では、演算部2,5で求められた演算結果からウェイトベクトルが求められる。このウェイトベクトルは、第1の乗算器6にてセンサアレイ受信信号と掛け合わされ、これによって不要波抑圧後のデータが得られる。また、第2の乗算器7にて演算部4で得られた方向ベクトルと掛け合わされ、これによってDCMPの電力指向パターンが得られる。
【0012】
上記構成において、本発明ではさらに補正処理部8を備える。この補正処理部8は、ウェイトベクトル演算部3の出力を入力値としてアレイ応答値(利得)の不連続点を求め、各不連続点から遷移期間を設定してアレイ応答補正値を求め、遷移期間内外で選択的に補正値を第1の乗算器6に供給して不要波抑圧処理の不連続性を緩和する。この補正処理部8の具体的な処理の流れを図2に示す。
【0013】
図2において、まず、演算部3で求められたウェイトベクトル演算結果からアレイ応答値の不連続点を求め(ステップS21)、アレイ応答値の連続化に要する遷移期間を設定する(ステップS22)。ここで、遷移期間の開始位置kブロック目のアレイ応答値をDkと終了位置k+1ブロック目のアレイ応答値をDk+1とし、これら2つのアレイ応答値からアレイ応答補正値Rを計算する(ステップS23)。
【0014】
上記設定のもとで、遷移期間内であるかどうかの判定を行い(ステップS24)、遷移期間内の場合には、受信信号にウェイトとアレイ応答補正値を掛け合わせることで、指向方位の利得の急激な変化を抑制して出力データとし(ステップS25)、遷移期間外の場合には、受信信号にウェイトのみを掛け合わせて出力データとする(ステップS26)。
【0015】
例えば、直線的にアレイ応答補正値を求める場合、アレイ応答補正値を適応する前の干渉波抑圧後のデータが図3の直線で示すようになるとする。ここで、補正を施す遷移期間Tを設ける。遷移期間Tはパラメータとし、1処理以下とする。遷移期間Tを短く設定するとアレイ応答値の急激な変化が緩和されず、不連続性を除去できない。また、遷移期間Tを長く設定すると急激な変化は緩和され、不連続性は除去できるが、補正後のデータが補正前に比べて大きく変化する。このため、最適なパラメータを求める必要がある。
【0016】
いま、ウェイトを
【0017】
【数1】

【0018】
とし、利得をAとすると、アレイ応答値Dk
【0019】
【数2】

【0020】
のように表され、アレイ応答値Dk,Dk+1より、アレイ応答補正値Dk
【0021】
【数3】

【0022】
と表される。遷移期間Tがmサンプルに相当するとすれば、t秒後(遷移期間Tをm分割したn番目)のアレイ応答補正値R
【0023】
【数4】

【0024】
となる。このように、遷移期間中にアレイ応答値の利得比が徐々に1になるように遷移期間中の補正値Rを計算し、以下のように、遷移期間外では受信信号にウェイトのみを掛け合わせ、遷移期間中は受信信号にウェイトだけでなく補正値を掛け合わせて適応させる。
【0025】
【数5】

【0026】
これにより、図3の実線のような急激な値変化から破線のような緩やかな値変化のアレイ応答を得ることができる。
【0027】
上記の処理をDCMPによる干渉波抑圧処理に当て嵌めた場合、図4(a)に示す断続的な高利得ビームについて、従来のDCMPでは図4(b)に示すように処理単位の継ぎ目に不連続な干渉波が残留してしまうが、上記実施形態によれば、図4(c)に示すように処理単位の継ぎ目に不連続も干渉の残像もない出力を得ることができる。
【0028】
以上のことから、本発明を適用すれば、遷移期間を設けてアレイ応答補正値をウェイトと同様に受信信号に掛け合わせることによって、不連続性を緩和することができる。
【0029】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る干渉波抑圧方法を適用したセンサアレイによる到来方向推定システムの一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】上記実施形態の補正処理部の具体的な処理の流れを示すフローチャート。
【図3】上記実施形態の処理について、直線的なアレイ応答補正を行う様子を説明するための波形図。
【図4】上記実施形態の処理について、DCMPによる干渉波抑圧処理に当て嵌めた場合の様子を説明するための波形図。
【符号の説明】
【0031】
1…共分散行列演算部、2…逆行列演算部、3…ウェイトレベル演算部、4…方向ベクトル演算部、5…拘束ベクトル/拘束応答ベクトル演算部、6,7…乗算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来電波の干渉波成分を抑圧する干渉波抑圧装置において、
前記到来電波の受信信号にウェイトをかけて拘束条件の下で出力電力を最小化させるDCMP(Directionally Constrained Minimization of Power)演算手段と、
前記DCMP演算手段のウェイト演算結果から干渉波の変化によって振幅・位相が変化して発生する不連続点を求め、連続化に要する遷移期間を設定し、遷移期間の開始位置及び終了位置それぞれのウェイト演算値から遷移期間中の比率が徐々に1になるように補正値を計算し、遷移期間内の場合には、受信信号にウェイトと補正値を掛け合わせて出力データとし、遷移期間外の場合には、受信信号にウェイトのみを掛け合わせて出力データとする補正手段とを具備することを特徴とする干渉波抑圧装置。
【請求項2】
到来電波の受信信号にウェイトをかけて拘束条件の下で出力電力を最小化させるDCMP(Directionally Constrained Minimization of Power)方法を用いて到来電波の干渉波成分を抑圧する干渉波抑圧方法において、
前記DCMP演算のウェイト演算結果から干渉波の変化によって振幅・位相が変化して発生する不連続点を求めるステップと、
連続化に要する遷移期間を設定するステップと、
前記遷移期間の開始位置及び終了位置それぞれのウェイト演算値から遷移期間中の比率が徐々に1になるように補正値を計算するステップと、
前記遷移期間内外を判定するステップと、
前記遷移期間内の場合には、受信信号にウェイトと補正値を掛け合わせて出力データとするステップと、
前記遷移期間外の場合には、受信信号にウェイトのみを掛け合わせて出力データとするステップと
を具備することを特徴とする干渉波抑圧方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−51984(P2007−51984A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239085(P2005−239085)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】