説明

平板金属瓦、この平板金属瓦を用いた屋根構造、およびその設置方法

【課題】雨仕舞いに優れ、変形や破損の少なく、熟練を要せず、誰でも簡単に施工できる平板金属瓦と、これを用いた屋根構造およびその設置方法を提供する。
【解決手段】軒側端部が、瓦本体部から下方に傾斜した水切り部と、該水切り部の先端から棟側に折り返された係止片と、該係止片の先端を下方にU字状に折り返してなる第1の水返し部とを備え、棟側端部が、瓦本体部からS字状に屈曲して伸長し、棟側凸部と軒側凸部が連続するS字片と、該S字片の先端から伸長する固定片と、該固定片の先端を上方にU字状に折り返してなる第2の水返し部とを備え、棟側に位置する平板金属瓦の棟側端部の前記S字片の棟側凸部を屋根上に設置された瓦桟の軒側側面に当接させた状態で、前記固定片を該瓦桟の上面に留め付けるとともに、軒側に位置する平板金属瓦の棟側端部の前記棟側凸部に対応して形成される係合溝に、前記棟側に隣接する平板金属瓦の軒側端部の前記係止片と第1の水返し部を挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板金属瓦、この平板金属瓦を用いた屋根構造、およびその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガルバリウム鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板などから形成される軽量な金属瓦が、防水、防火および耐震に優れた機能を発揮すること、さらに経済性にも優れていることから、屋根材として注目され、また普及してきている。特に、東日本大震災以降、家屋の耐震構造を向上させる観点から、金属瓦の需要がますます高まってきている。しかしながら、従来の金属瓦には、粘土瓦と比べて剛性が低く、外力によって容易に変形する、毛細管現象を起因として雨漏りが生ずるといった問題がある。
【0003】
特許文献1には、従来の金属瓦を施工した屋根構造として、棟側金属瓦の軒側端部と軒側金属瓦の棟側端部とを互いに係合させながら、複数の金属瓦を屋根傾斜方向に沿って並設する構造において、この係合部位で棟側金属瓦の軒側端部に形成された立ち上がり面よりも軒側で、軒側金属瓦に段違い状の浸水抑止面部を設け、軒側から棟側へ向かって屋根面を逆流する雨水の係合部位への浸入を阻止する構造が開示されている。
【0004】
しかしながら、このような構造では、棟側金属瓦の軒側端部が下向きに折り曲げられた後、棟側に折り返しされており、その折り返し部分が軒側金属瓦の表面と接触または近接した状態となっている。このため、棟側から軒側へ向かって流れる雨水が、棟側金属瓦の立ち上がり面から軒側金属瓦の表面に流れ落ちる際に、折り返し部分と軒側金属瓦の表面との間の微小な隙間から毛細管現象によって棟側に回り込み、この雨水が屋根内部へ浸入して雨漏りの原因となることがある。
【0005】
また、屋根平部においては、棟側金属瓦の軒側端部における折り返し部分が、軒側金属瓦の表面と接触または近接している場合、たとえば、施工時に金属瓦を上方より押さえ付けてしまったり、金属瓦上に異物などが落下したりすると、折り返し部分がただちに軒側金属瓦の表面に強く押し付けられて、金属瓦に変形や破損が生じやすいといった不具合がある。
【0006】
さらには、軒側金属瓦の表面に形成した段違い状の浸水抑止面部が外部に露出しているため、意匠上の制約となり、屋根の美観を損ねるといった不具合もある。
【0007】
一方、平板金属瓦の設置方法については留め付け方法により行う必要があるが、この場合、野地板にルーフィングを敷き詰め、その上に留め付け部が密着するため、十分な断熱性および遮音性を得ることができなかったばかりでなく、雨仕舞いについて施工精度に左右されるという問題がある。
【0008】
このような問題に対して、特許文献2には、棟側と軒側の金属瓦を係合させながら、金属瓦を並設した屋根構造において、棟側金属瓦の軒側端部に形成した水切り部の先端を、軒側金属瓦の表面から離間させ、軒側金属瓦の表面から立ち上がった水返し段差部を、棟側金属瓦の軒側端部から離間させ、これにより、棟側から軒側へ流れる雨水を、水切り部の先端から軒側金属瓦の表面へ確実に落下させ、かつ、軒側から棟側へ逆流する雨水の係合部位への浸入を水返し段差部によって阻止する構造が開示されている。また、この構造では、棟側と軒側の金属瓦間に、緩衝材を介装した隙間を形成して、金属瓦の下方への押し込みを許容している。
【0009】
しかし、このような構造では、緩衝材が設けてあるとはいえ、金属瓦自体が支承されているわけではなく、大きな外力が作用した場合、あるいは、長時間にわたり外力が作用し続けた場合には、金属瓦の変形または破損を免れ得ないという問題がある。特に、軒側金属瓦の棟側端部には、立上り片や垂直片などの実質的に垂直に立ち上がる面を備えているので、軒側金属瓦の棟側端部をビスまたは釘を用いて屋根に固定する際に、この部分に施工者の足が乗ったり、物が落下したりした場合に、この部分が容易に変形することとなる。さらに、引用文献2では、棟側端部を瓦桟に固定した後に、端部同士を係合させる設置方法を採っているが、作業者の熟練度によっては、係合作業の際に金属瓦に変形が生じたり、金属瓦に作用する張力が不均一となったりするため、毛細管現象が生じる可能性がある。このため、引用文献2に記載の金属瓦は、従来構造との比較では雨仕舞いに優れた構造といえるが、上記理由により金属瓦に変形や破損が生じた場合、あるいは、施工精度が十分でない場合には、雨漏りを十分に防止できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許2694056号公報
【特許文献2】特開2004−225476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題を解決し、雨仕舞いに優れ、変形や破損が少なく、熟練を要せず、誰でも簡単に施工できる平板金属瓦、この平板金属瓦を用いた屋根構造、およびその設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の平板金属瓦は、
平板状に形成された瓦本体部と、該瓦本体部の軒側の端部を下方に屈曲して形成された軒側端部と、該瓦本体部の棟側の端部を上方に屈曲して形成された棟側端部とからなる平板金属瓦であって、
前記軒側端部は、該瓦本体部から下方に傾斜した水切り部と、該水切り部の先端から棟側に折り返された係止片と、該係止片の先端を下方にU字状に折り返してなる第1の水返し部とを備え、
前記棟側端部は、前記瓦本体部からS字状に屈曲して伸長し、棟側凸部と軒側凸部が連続するS字片と、該S字片の先端から伸長する固定片と、該固定片の先端を上方にU字状に折り返してなる第2の水返し部とを備える、
ことを特徴とする。
【0013】
前記瓦本体部は、その下面に防音断熱材を備えることが好ましい。
【0014】
前記水切り部が、前記瓦本体部に対して10°〜45°傾斜した傾斜片と、該傾斜片の先端から該瓦本体部に対して垂直方向に伸長する垂直片とからなり、前記係止片が該垂直片の先端から棟側に略90゜折り返されていることが好ましい。
【0015】
前記瓦本体部の側面にウォータチャンネルを備えることが好ましい。
【0016】
本発明の平板金属瓦を用いた屋根構造は、
棟側に位置する平板金属瓦の棟側端部の前記S字片の棟側凸部を屋根上に設置された瓦桟の軒側側面に当接させた状態で、前記固定片を該瓦桟の上面に留め付けるとともに、軒側に位置する平板金属瓦の棟側端部の前記棟側凸部に対応して形成される係合溝に、前記棟側に隣接する平板金属瓦の軒側端部の前記係止片と第1の水返し部を挿入することにより、これらの屋根勾配方向に隣接する平板金属瓦同士を互いに係合させながら、複数の平板金属瓦を屋根勾配方向に沿って並設した屋根構造であって、前記軒側に位置する平板金属瓦の棟側端部の第2の水返し部と、前記棟側に隣接する平板金属瓦の下面または該下面に備えられた防音断熱材を密接させることにより、棟側の平板金属瓦が軒側の平板金属瓦の第2の水返し部を介して前記瓦桟によって支承されている、
ことを特徴とする。
【0017】
この屋根構造において、前記平板金属瓦の下面または前記防音断熱材と屋根の野地板または該野地板上に設置されるルーフィングとの間に、空隙が設けてあることが好ましい。
【0018】
また、前記平板金属瓦の軒側端部と棟側端部の中間位置に対応する位置に、さらに瓦桟が設置されており、該平板金属瓦が、この中間位置においても支承されていることが好ましい。
【0019】
さらに、前記野地板が垂木上に設置されている場合に、前記瓦桟の長手方向と該垂木の長手方向とが直角をなし、該瓦桟が該垂木との交点において、該垂木に留め付けられていることが好ましい。
【0020】
前記瓦桟は、屋根の勾配方向に伸長し、その幅方向に等間隔に並設された複数の帯状のキズリを介して屋根上に設置されていることが好ましく、該キズリの厚さが3mm〜15mmであることがより好ましい。
【0021】
また、本発明の平板金属瓦を設置する場合に、
棟側に位置する平板金属瓦の棟側端部の前記S字片の棟側凸部を屋根上に設置された瓦桟の軒側側面に当接させた状態で、前記固定片を該瓦桟の上面に留め付け、
軒側に位置する平板金属瓦の棟側端部の前記棟側凸部に対応して形成される係合溝に、前記棟側に隣接する平板金属瓦の軒側端部の前記係止片と第1の水返し部を挿入し、
前記軒側に位置する平板金属瓦の棟側端部の第2の水返し部と、前記棟側に隣接する平板金属瓦の下面または該下面に備えられた防音断熱材を密接させた状態で、これらの屋根勾配方向に隣接する平板金属瓦同士を互いに係合させる、
ことが好ましい。
【0022】
特に、屋根の幅方向に等間隔となるように、その勾配方向に伸長する複数の帯状のキズリを並設し、前記キズリと直角をなす方向に等間隔となるように、該キズリを介して、軒側から棟側にかけて順次前記瓦桟を設置した後、前記平板金属瓦を設置することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の平板金属瓦を用いた場合、雨仕舞いに優れ、変形や破損の少なく、熟練を要せず、誰でも簡単に施工することが可能となる。また、平板金属瓦の横並びを、容易に直線状とすることができるので、外観においてもきれいな仕上がりとすることができる。また、本発明の平板金属瓦は厚みをもった構造であるので、陶器製やその他の金属製の棟瓦と組み合わせることにより、意匠性に優れた屋根構造とすることもできる。さらに、陶器棟瓦の設置でも使用するビス留め乾式工法により設置できるので、瓦工など板金工以外の作業者でも、この屋根構造を容易に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の平板金属瓦について、その全体の形状を表した斜視図である。
【図2】本発明の平板金属瓦について、その全体の形状を表した概略縦断面図である。
【図3】本発明の平板金属瓦を用いた屋根構造の第1実施態様を示す概略拡大縦断面図である。
【図4】本発明の平板金属瓦を屋根に施工した状態を示す縦断面図である。
【図5】本発明の平板金属瓦を用いた屋根構造の第2実施態様を示す部分断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を、(1)平板金属瓦、(2)平板金属瓦を用いた屋根構造、(3)平板金属瓦の設置方法に分けて説明する。
【0026】
(1)平板金属瓦
まず、本発明の平板金属瓦の基本構造について、図1〜図3を参照しながら説明する。なお、本発明の平板金属瓦は、下記に例示されるものに限定されることはなく、基本的な構造を備える限り、施工する屋根の形状などに応じて、種々の変更を加えたものも含まれる。また、平板金属瓦の大きさについても特に限定されるものではないが、以下、全長200mm〜320mm、全幅300mm〜2000mm、板厚0.30mm〜0.50mmのものを例に挙げて説明する。なお、図1〜図3では、図示の都合上、平板金属瓦の板厚を他の構成要素との関係で実際よりも厚く描いている。この点については、図4および図5についても同様である。
【0027】
本発明の平板金属瓦(1)は、帯状の金属板を屈曲成形してなり、平板状の瓦本体部(2)と、瓦本体部(2)の軒側の端部を下方に屈曲して形成した軒側端部(3)と、棟側の端部を上方に屈曲して形成した棟側端部(4)とからなる。
【0028】
瓦本体部(2)の下面に、防音および断熱の観点から、防音断熱材(5)が取付けられていることが好ましい。このような防音断熱材(5)としては、シート状に加工できるものであれば特に限定されることはなく、たとえば、発泡ウレタン、発泡ポリスチレンなどの公知の材料を使用することができる。
【0029】
また、平板金属瓦(1)を設置した状態で、防音断熱材(5)と、野地板(6)上に貼り付けたルーフィング(7)との間には、一定の空隙(8)を設けることが好ましい。このような空隙(8)の存在により、防音断熱材(5)とルーフィング(7)との間に空気の層が形成されることになるので、防音効果および断熱効果をさらに高めることができる。
【0030】
なお、防音断熱材(5)の厚さや空隙(8)の高さ寸法は、特に限定されるものではなく、必要とされる防音効果、断熱効果、施工する屋根の形状などを考慮して、適宜選択されるものである。本実施例では、防音断熱材(5)の厚さは4mm〜10mm、空隙(8)の高さ寸法は0mm〜18mm程度となっている。
【0031】
瓦本体部(2)の側面には、ウォータチャンネル(26)を設けることが好ましい。ウォータチャンネル(26)を設けることにより、横方向に並設された平板金属瓦のつなぎ目における雨水の流れを円滑にすることができる。また、雨水の流れを一定方向にし、平板金属瓦の剛性を高める観点から、瓦本体部(2)の表面にスレート調のエンボス加工を施すことが好ましい。
【0032】
軒側端部(3)は、瓦本体部(2)に対して10°〜45°傾斜した傾斜片(9)と、傾斜片(9)の先端から瓦本体部(2)に対して垂直方向に伸張する垂直片(10)と、垂直片(10)の先端から棟側に向かう方向に90°折り返してなる係止片(11)と、係止片(11)の先端を下方にU字状に折り返してなる第1の水返し部(12)とを備えている。
【0033】
このうち、傾斜片(9)と垂直片(10)は、水切り部(13)として作用し、たとえば、棟側から軒側にかけて平板金属瓦(1)の表面を雨水が流れ落ちる際、隣接する平板金属瓦同士の係合部に雨水が浸入することを防止する。具体的には、垂直片(10)の下端は、隣接する平板金属瓦(1)の表面から所定の間隔離間しているため、毛細管現象による雨水の棟側への回り込みを防止することができる。この垂直片(10)の下端と、隣接する平板金属瓦(1)の表面との間隔は、好ましくは8mm〜15mm、より好ましくは8mm〜10mmとなるように平板金属瓦(1)の各部の寸法、形状などを規制する。8mm未満では、毛細管現象を十分に防止することができず、15mmを超える場合には強度上の問題が生じる可能性がある。
【0034】
傾斜片(9)は、雨水の巻き込みを防止する機能を有する。このため、瓦本体部に対する傾斜角は10°〜45゜であることが必要であり、10°〜20゜であることが好ましい。10°未満では上記機能が十分に発揮されず、45゜を超えると軒側端部の強度が低下するという問題が生じる。
【0035】
なお、本実施例では、水切り部(13)を、傾斜片(9)と垂直片(10)とにより構成しているが、瓦本体部(2)から所定の角度(10°〜45°)で斜め下方に伸長する1つの傾斜片から構成することもできる。また、この傾斜片(9)を異なる角度を有する複数の傾斜片により構成したり、湾曲片から構成したりしてもよい。
【0036】
また、係止片(11)は、その先端に設けられた第1の水返し部(12)が、係止片(11)の先端を下方にU字状に折り返した形状となっているため、隣接する平板金属瓦の係合部への雨水の浸入を効果的に防止することができる。
【0037】
棟側端部(4)は、瓦本体部からS字状に屈曲して伸長し、棟側凸部(19)と軒側凸部(20)が連続するS字片(15)と、S字片(15)の先端から伸長する固定片(17)と、固定片(17)の先端を上方にU字状に折り返してなる第2の水返し部(18)とを備える。
【0038】
この棟側凸部(19)に対応して、その内側に形成された係合溝(14)が、別の平板金属瓦の係止片(11)と係合可能に形成されている。
【0039】
S字片(15)は、ルーフィング(7)の上に設置した瓦桟(16)の高さ寸法に応じて適宜成形するものであるが、係合溝(14)の最奥部の寸法が板厚の2.0倍〜2.5倍程度となるように成形する必要がある。2.0倍以下では、係止片(11)を奥まで挿入することができず、2.5倍を超えると係合部の隙間が大きくなり、いずれの場合にも係合部への雨水の浸入を十分に抑止することができない。
【0040】
本発明では、平板金属瓦(1)を設置する際に、S字片(15)の棟側凸部(19)をルーフィング(7)の上に設置した瓦桟(16)の軒側側面に当接させた状態で、固定片(17)を瓦桟(16)の上面に、タッピングビス、ネジ、釘などの留め付け具(21)によって留め付ける。このように瓦桟(16)を基準として、平板金属瓦(1)を設置することにより、平板金属瓦(1)の横並びを容易に直線状とすることが可能となり、熟練を要せず、誰が施工してもきれいな仕上がりとすることができる。
【0041】
また、本発明の平板金属瓦の材料については、特に限定されることなく、ガルバリウム鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板などの公知の材料を用いることができる。使用地域の環境や、屋根の形状などを考慮して、目的に応じた材料を選ぶことが好ましい。たとえば、耐震性の向上を図るためには軽量なアルミニウム板が好ましく、酸性雨などが問題となる地域では、耐食性の高いガルバリウム鋼板が適している。
【0042】
なお、本発明では、平板金属瓦の耐久性向上の観点から、板厚は0.30mm〜0.50mm程度を基本としているが、この範囲に限定されるものではなく、使用する材料の特性や目的に応じて適宜選択することが好ましい。
【0043】
(2)平板金属瓦を用いた屋根構造
【0044】
(2−a)第1実施態様
次に、図3および図4を用いて、本発明の平板金属瓦(1)を用いた屋根構造の第1実施態様について説明する。本実施態様は、軒側に位置する平板金属瓦(1)の係合溝(14)に、棟側に隣接する平板金属瓦(1)の係止片(11)を挿入して、これら屋根勾配方向に隣接する平板金属瓦(1)同士を互いに係合させながら、複数の平板金属瓦(1)を屋根勾配方向に沿って並設した屋根構造としている点に特徴がある。
【0045】
特に、本発明では、軒側に位置する平板金属瓦(1)の棟側端部(4)の第2の水返し部(18)と、棟側に隣接する平板金属瓦(1)の防音断熱材(5)とが密接することにより、平板金属瓦(1)が、第2の水返し部(18)を介して瓦桟(16)によって支承されていることを特徴としている。
【0046】
このため、この係合部に外力が作用した場合であっても、その外力が第2の水返し部(18)の弾性と瓦桟(16)によって支承されるため、平板金属瓦(1)の変形や破損を効果的に防止することが可能となっている。また、外力が加わった状態で、第2の水返し部(18)も瓦桟(16)によって支承されるため、変形や破損することなく、外力の喪失とともに、その弾性により復元し、さらには水切り部(13)の弾性による復元力と合わせて、平板金属瓦(1)を元の状態に復帰させることができる。なお、防音断熱材(5)として緩衝作用を有するものを使用したり、防音断熱材(5)と固定片(17)の間、さらには、防音断熱材(5)とルーフィング(7)の間に、別途緩衝材を挿入したりすることにより、平板金属瓦(1)の変形や破損の防止効果をさらに高めることも可能である。
【0047】
また、固定片(17)は留め付け具(21)により、瓦桟(16)に固定され、棟側の平板金属瓦(1)の軒側端部(3)により完全に覆われているので、この留め付け具(21)の腐食を防止することができるとともに、平板金属瓦(1)の外観の意匠に問題を生じさせることもない。なお、仮に留め付け具(21)に腐食が生じても、野地板(6)やルーフィング(7)に直接影響が及ぶことはないので、この構造により屋根の耐久性を高めることができる。
【0048】
さらに、本発明は、係合部への雨水の浸入を効果的に防止していることにも特徴を有している。上述したように、棟側から軒側に流れ落ちる雨水に対しては、水切り部(13)の作用により流水機能が向上し、隣接する平板金属瓦(1)同士の係合部への水の浸入は阻止される。
【0049】
これに対して、台風などの暴風雨時においては、雨水が軒側から棟側へ逆流する場合も想定される。この場合、雨水の大部分は、係止片(11)の先端に設けた第1の水返し部(12)の作用により係合部への浸入が阻止される。雨水の一部が、毛細管現象により、係合部を通過したとしても、その先には空隙(22)が存在しているため、それ以降の毛細管現象が起こることはない。仮に、雨水が第2の水返し部(18)付近に到達したとしても、この第2の水返し部(18)の作用によりさらなる浸入が阻止される。特に、第2の水返し部(18)を防音断熱材(5)と密接させることにより、毛細管現象の発生を防止し、雨水の浸入が完全に阻止される。
【0050】
本発明では、前述したように防音断熱材(5)とルーフィング(7)との間に空隙(8)を設けることが好ましい。これにより、防音断熱材(5)とルーフィング(7)との間に空気の層が形成されるため、防音効果および断熱効果を一層高めることができる。さらに、空隙(8)の存在により高い通気性を確保できるので、ルーフィング(7)あるいは野地板(6)の腐食を防止し、これらを含めた屋根材の長寿命化を図る観点からも効果的であるといえる。
【0051】
平板金属瓦(1)の軒側端部(3)と棟側端部(4)の中間位置に対応する位置に、さらに瓦桟(図示せず)を設置することが好ましい。これにより、平板金属瓦(1)が、この中間位置においても支承されていることになるので、この中間位置に外力が作用した場合であっても、平板金属瓦(1)の変形や破損を防止することが可能となる。なお、この中間位置に設置する瓦桟の高さ方向の寸法は、平板金属瓦(1)を設置した際に表面に凹凸が現れないように適宜調整することが必要となる。
【0052】
本発明の屋根構造においては、瓦桟(16)の長手方向と垂木(23)の長手方向とが直角をなし、瓦桟(16)が、垂木(23)との交点において、タッピングビス、ネジ、釘により、垂木(23)に留め付けられていることが好ましい。このような構造では、瓦桟(16)は、垂木(23)に支承されることとなり、また、瓦桟(16)が屋根の補強材としての機能を果たすことにもなるので、屋根自体の強度を高めることができる。
【0053】
また、本発明では、軒先端部に、平板金属瓦(1)の軒側と同様の構造を備える軒先スタータ(24)が平板金属瓦(1)の軒先端部(3)と係合した状態で設置されている。この軒先スタータ(24)は、従来のものとの比較では、瓦を固定する力が高いため、耐風力を向上させることができる。
【0054】
加えて、本発明の平板金属瓦は、それ自体が厚みをもった構造となっているので、棟部の納めに陶器製の三角棟瓦と組み合わせて使用することが可能である。また、棟部の納めのみならず陶器棟瓦と併用して、屋根構造を構築することも可能である。このような併用タイプの構造では、屋根構造全体の意匠性を向上させることができるばかりでなく、平板金属瓦の配置を安定させることができるため、さらに耐震性および耐久性を向上させることもできる。
【0055】
(2−b)第2実施態様
図5に本発明の平板金属瓦を用いた第2実施態様を示す。この実施態様は、本発明の平板金属瓦を、キズリ(流し桟)工法に適用したものであり、その他の点ついては第1実施態様と同様であるため、共通する部分については省略または簡略して説明をする。なお、キズリ工法とは、雨水処理や通気性を保持することを目的として、ルーフィングと瓦桟との間に空隙が形成されるように、これらの間に、屋根の勾配方向に伸長するキズリを設置する工法をいう。
【0056】
本実施態様では、瓦桟(16)は、屋根の幅方向に等間隔に並設され、屋根の勾配方向に伸長する複数の帯状のキズリ(27)を介して屋根上に設置されているため、このキズリ(27)の厚さの分だけ、ルーフィング(7)と瓦桟の間に空隙(28)が形成されることとなる。本発明の平板金属瓦(1)を用いた場合には、雨水などの侵入を防止することができるが、万一、平板金属瓦(1)の係合部から雨水が侵入した場合、あるいは、空隙(8)内で水蒸気が結露した場合であっても、雨水または結露により生じた水は、瓦桟(16)により堰き止められることなく、空隙(28)を介して、軒先部分から外部へ排出されることとなる。さらには、空隙(28)の存在により、通気性や通水性を向上させることができるため、防音断熱材(5)やルーフィング(7)などを素早く乾燥することができ、これらの腐食が防止されるので、屋根構造の耐久性の向上を図ることができる。
【0057】
キズリ(27)を構成する材料としては、木材、人工木材、合成樹脂などを使用することができるが、作業性の観点から、木材を使用することが好ましい。
【0058】
キズリ(27)の厚さは3mm〜15mm、好ましくは3mm〜10mm、より好ましくは3mm〜5mmとする。キズリ(27)の厚さが3mm未満では、上記効果を得ることができない。一方、15mmを越えると、耐風圧性が低下するという問題が生じる可能性がある。
【0059】
また、キズリ(27)の幅は15mm〜30mm、好ましくは15mm〜21mmとする。キズリ(27)の幅が15mm未満では、瓦桟の固定が不安定になる可能性がある。一方、30mmを超えると、通気性や通水性を向上させることができないばかりか、コストの上昇を招く。
【0060】
(3)平板金属瓦の設置方法
本発明の平板金属瓦の設置方法は、瓦桟を利用することにより、平板金属瓦(1)の横並びを直線状にきれいに配置することができる。以下、図4を用いて、本発明の第1実施態様の平板金属瓦の設置方法について説明する。
【0061】
最初に、ルーフィング(7)が貼り付けられた野地板(6)の上の軒先部分に垂木(23)の長手方向と直角をなす方向に、第1の瓦桟(16a)を設置し、この第1の瓦桟(16a)と平行かつ等間隔となるように、軒側から棟側にかけて順次瓦桟(16b〜c)を設置していく。これらの瓦桟同士の間隔は、施工する平板金属瓦(1a〜c)の全長を考慮して、あらかじめ定めておく。また、隣接する瓦桟の略中間位置に、別途瓦桟(図示せず)を設置することで、平板金属瓦の中間位置での変形および破損を防止することができる。
【0062】
次に、軒先部分に軒先スタータ(24)を第1の瓦桟(16a)に取り付けた後、軒先スタータ(24)の先端部と第1の平板金属瓦(1a)の軒側端部(3a)とを係合させ、この平板金属瓦(1a)の下面に取り付けた防音断熱材(5a)と、軒先スタータ(24)の上面とを密接させた状態で、棟側凸部(19a)を第2の瓦桟(16b)の軒側側面に当接させた上で、固定片(17a)を第2の瓦桟(16b)の上面に押し当て、留め付け具(21)によって留め付ける。なお、第1の瓦桟(16a)と防音断熱材(5a)とを密接させることが困難である場合には、この間に別途緩衝材(25)などを挿入することによって調整することが好ましい。
【0063】
軒先部分に第1の平板金属瓦(1a)を設置した後、この平板金属瓦(1a)の係合溝(14a)に、隣接して設置する第2の平板金属瓦(1b)の係止片(11b)を挿入し、軒側の平板金属瓦(1a)の第2の水返し部(18a)と、棟側に隣接する第2の平板金属瓦(1b)の下面に取り付けられた防音断熱材(5b)とを密接させた状態で、棟側に隣接する第2の平板金属瓦(1b)の棟側凸部(19b)を瓦桟(16c)の軒側側面に当接させ、固定片(17b)を瓦桟(16c)の上面に留め付ける。以降、同様にして、軒側から棟側にかけて順次、平板金属瓦を設置していく。
【0064】
なお、第2実施態様の場合の平板金属瓦(1)の設置方法は、基本的には第1実施態様と同様であるが、以下の点で異なる。すなわち、第2実施態様では、瓦桟(16)の設置に先立ち、ルーフィング(7)が貼り付けられた野地板(6)の上に、屋根の幅方向に等間隔となるように、その勾配方向に伸長する複数の帯状のキズリ(27)を並設し、このキズリと直角をなす方向に等間隔となるように、該キズリを介して、軒側から棟側にかけて順次前記瓦桟を設置した後、軒側から棟側にかけて順次、平板金属瓦を設置していく点において、第1実施態様と異なっている。キズリ(27)の設置間隔は、瓦桟(16)を安定して固定する観点から、300mm〜450mmとすることが好ましい。
【0065】
なお、キズリ(27)は、タッピングビス、ネジ、釘などの留め付け具(21)によりルーフィング(27)に固定される。
【0066】
本発明の平板金属瓦の設置方法は、いずれも陶器棟瓦を設置する際に用いられるビス留め乾式工法と呼ばれるものであり、平板金属瓦の位置があらかじめ寸法決めされた瓦桟により自動的に決まるため、熟練を要せずとも、平板金属瓦の横並びを容易に直線状にすることができる。よって、瓦工など板金工以外の作業者でも、この屋根構造を容易に施工することができる。また、瓦桟の間隔および係合部の構造により、隣接する平板金属瓦に作用する屋根勾配方向の張力が一定となるため、雨仕舞いにも優れ、かつ、バラツキなく施工することが可能となるため、工期の短縮やコスト低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0067】
1、1a〜c 平板金属瓦
2 瓦本体部
3、3a〜c 軒側端部
4 棟側端部
5、5a〜c 防音断熱材
6 野地板
7 ルーフィング
8 空隙
9 傾斜片
10 垂直片
11、11a〜c 係止片
12 第1の水返し部
13 水切り部
14、14a〜c 係合溝
15 S字片
16、16a〜c 瓦桟
17、17a〜c 固定片
18、18a〜c 第2の水返し部
19、19a〜c 棟側凸部
20 軒側凸部
21 留め付け具
22 空隙
23 垂木
24 軒先スタータ
25 緩衝材
26 ウォータチャンネル
27 キズリ(流し桟)
28 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状に形成された瓦本体部と、該瓦本体部の軒側の端部を下方に屈曲して形成された軒側端部と、該瓦本体部の棟側の端部を上方に屈曲して形成された棟側端部とからなる平板金属瓦であって、
前記軒側端部は、該瓦本体部から下方に傾斜した水切り部と、該水切り部の先端から棟側に折り返された係止片と、該係止片の先端を下方にU字状に折り返してなる第1の水返し部とを備え
前記棟側端部は、前記瓦本体部からS字状に屈曲して伸長し、棟側凸部と軒側凸部が連続するS字片と、該S字片の先端から伸長する固定片と、該固定片の先端を上方にU字状に折り返してなる第2の水返し部とを備える、
平板金属瓦。
【請求項2】
前記瓦本体部は、その下面に防音断熱材を備える、請求項1に記載の平板金属瓦。
【請求項3】
前記水切り部が、前記瓦本体部に対して10°〜45°傾斜した傾斜片と、該傾斜片の先端から該瓦本体部に対して垂直方向に伸長する垂直片とからなり、前記係止片が該垂直片の先端から棟側に略90°折り返されている、請求項1に記載の平板金属瓦。
【請求項4】
前記瓦本体部の側面にウォータチャンネルを備える、請求項1に記載の平板金属瓦。
【請求項5】
棟側に位置する平板金属瓦の棟側端部の前記S字片の棟側凸部を屋根上に設置された瓦桟の軒側側面に当接させた状態で、前記固定片を該瓦桟の上面に留め付けるとともに、軒側に位置する平板金属瓦の棟側端部の前記棟側凸部に対応して形成される係合溝に、前記棟側に隣接する平板金属瓦の軒側端部の前記係止片と第1の水返し部を挿入することにより、これらの屋根勾配方向に隣接する平板金属瓦同士を互いに係合させながら、複数の平板金属瓦を屋根勾配方向に沿って並設した屋根構造であって、前記軒側に位置する平板金属瓦の棟側端部の第2の水返し部と、前記棟側に隣接する平板金属瓦の下面または該下面に備えられた防音断熱材を密接させることにより、棟側の平板金属瓦が軒側の平板金属瓦の第2の水返し部を介して前記瓦桟によって支承されている、請求項1〜4のいずれかに記載の平板金属瓦を用いた屋根構造。
【請求項6】
前記平板金属瓦の下面または前記防音断熱材と屋根の野地板または該野地板上に設置されるルーフィングとの間に、空隙が設けてある、請求項5に記載の屋根構造。
【請求項7】
前記平板金属瓦の軒側端部と棟側端部の中間位置に対応する位置に、さらに瓦桟が設置されており、該平板金属瓦が、この中間位置においても支承されている、請求項5または6に記載の屋根構造。
【請求項8】
前記野地板が垂木上に設置されており、前記瓦桟の長手方向と該垂木の長手方向とが直角をなし、該瓦桟が該垂木との交点において、該垂木に留め付けられている、請求項6または7に記載の屋根構造。
【請求項9】
前記瓦桟は、屋根の幅方向に等間隔となるように並設され、屋根の勾配方向に伸長する複数の帯状のキズリを介して屋根上に設置されている、請求項5〜8のいずれかに記載の屋根構造。
【請求項10】
前記キズリは、その厚さが3mm〜15mmである、請求項9に記載の屋根構造。
【請求項11】
請求項1〜4の何れかに記載の平板金属瓦の設置方法であって、
棟側に位置する平板金属瓦の棟側端部の前記S字片の棟側凸部を屋根上に設置された瓦桟の軒側側面に当接させた状態で、前記固定片を該瓦桟の上面に留め付け、
軒側に位置する平板金属瓦の棟側端部の前記棟側凸部に対応して形成される係合溝に、前記棟側に隣接する平板金属瓦の軒側端部の前記係止片と第1の水返し部を挿入し、
前記軒側に位置する平板金属瓦の棟側端部の第2の水返し部と、前記棟側に隣接する平板金属瓦の下面または該下面に備えられた防音断熱材を密接させた状態で、これらの屋根勾配方向に隣接する平板金属瓦同士を互いに係合させる、
平板金属瓦の設置方法。
【請求項12】
屋根の幅方向に等間隔となるように、その勾配方向に伸長する複数の帯状のキズリを並設し、前記キズリと直角をなす方向に等間隔となるように、該キズリを介して、軒側から棟側にかけて順次前記瓦桟を設置した後、前記平板金属瓦を設置する、請求項11に記載の平板金属瓦の設置方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−68073(P2013−68073A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195990(P2012−195990)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【出願人】(399111897)
【Fターム(参考)】