説明

平滑薄片状粉体、高光輝性顔料及びそれらの製造方法

【課題】 本発明の目的は平滑薄片状粉体の製造方法を確立し、その粉体を用いた高光輝性顔料を得ることにある。
【解決手段】
粉砕にて得た平滑かつ薄片状な板状粒子であって、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置による累積粒子分布測定値を基にした次式1:
粒度分布定数=(90%径−10%径)/50%径(メジアン径) …式1
に規定する粒度分布定数が0.9〜1.2の粒子であることを特徴とする平滑薄片状粉体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平滑薄片状粉体、高光輝性顔料及びそれらの製造方法、特に粉体調製時の粉砕手法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
真珠光沢顔料は塗料、印刷インキ、プラスチック類、化粧品、セラミックス及びガラス用釉薬等の光機能性材料として有益であり、現在数多く上市されている。代表的な真珠光沢顔料としては、薄片状の基質に二酸化チタンを被覆し、薄膜干渉効果によって、様々な色調を呈するものがよく知られている。その他にも、酸化鉄、カーボンブラック、低次酸化チタン、酸化コバルト等を被覆又は混合した着色真珠光沢顔料も数多く上市されている。
【0003】
真珠光沢顔料の製造には表面が平滑でかつ薄片状の粒子を得ることが重要であると考えられている。たとえば従来技術として特許第2889837に示すように合成マイカを合成する際にマイカ微粉末を添加する方法や、特許第2922148に示すように剥離しやすい結晶塊を合成し粉砕する方法などがある。しかしいずれもマイカを合成する際に限定された技術であり真珠光沢顔料を製造するためにはマイカの合成を行わなくてはならなかった。このため、既に合成された合成マイカや天然マイカ、タルクなどの汎用な素材を用いて平滑な粒子を製造する手法が望まれている。
一般に既存粉体の粉砕方法としては、乾式粉砕法と湿式粉砕法が知られている。
乾式粉砕法は、粗粉砕した原料をハンマーミルのような凹凸壁面とハンマー状が高速回転し、凹凸壁面とハンマーとの隙間に原料を通して、衝撃粉砕させる。
一方、湿式粉砕法は粗粉砕した原料に液体を加え、例えば、ボールミルのような、容器に原料と液体とを投入して、これに球形ボールを入れて、容器を回転させてボールとボールの摩擦力と容器が回転する際のボールの落下衝撃によって粉砕する。
【特許文献1】 特許第2889837号
【特許文献2】 特許第2922148号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乾式粉砕法は、粉砕粒子は不定形になり粒度分布も幅広い。風簸分級装置で分級すると粒子の大きさで分級出来るが、粒子表面の平滑性は保てない。
湿式粉砕法は、時間と共に粉砕されるが粉砕により表面積が大きくなり、粉砕品と液体との粘度が高くなり粒度の細かい粒子は粒度の大きい粒子に付着し易くなる。水簸分級で分級しても、一度付着した細かい粒子は大きい粒子から分離せず、平滑性に劣る。これらを基板として、粒子表面に酸化チタンや酸化鉄を均一に被覆しても、高い光沢を示す真珠光沢顔料を製造することは極めて困難であった。
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は平滑薄片状粉体の製造方法を確立し、その粉体を用いた高光輝性顔料を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討の結果、汎用な素材を用いても湿式粉砕法で粉砕もしくは解砕する際に特定の粉砕助剤及び/又は水簸分級する際の分級助剤として分散剤を添加する事により、平滑でかつ薄片状の粒子が得られ、これを基板とすることによって、光輝性の高い真珠光沢顔料を製造する方法を開発するに至った。
【0006】
すなわち、本発明にかかる平滑薄片状粉体は、粉砕にて得た平滑かつ薄片状な板状粒子であって、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置による累積粒子分布測定値を基にした次式1:
粒度分布定数=(90%径−10%径)/50%径(メジアン径) …式1
に規定する粒度分布定数が0.9〜1.2の粒子であることを特徴とする。
なお、ここでレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置としては、セイシン企業製LMS−30などが用い得る。
また、本発明にかかる粉体において、板状粒子の厚さが0.05〜1ミクロンであることが好適である。
また、本発明にかかる粉体において、板状粒子は合成雲母、天然雲母、タルク、セリサイト、薄片状金属酸化物からなる群より選択される一種又は二種以上であることが好適である。
また、本発明にかかる高光輝性顔料は、平滑薄片状粉体を、金属酸化物及び/又は金属水酸化物で被覆し、下記条件にて測定した光沢指数が1.0〜1.8であることを特徴とする。
光沢指数:
顔料を白黒の隠蔽率試験紙にニトロンクリア(ニトロセルロースラッカー:武蔵塗料製)と顔料1部対ニトロン15部の割合で混合し4ミルのアプリケーターにてコーティングした塗膜を白地上にて測定した光沢度について次式2:
光沢指数=(60°−60°)/(20°−20°) …式2
なお、光沢度の測定には、堀場製作所製のGloss Checker IG−330などが用い得る。
また、本発明にかかる平滑薄片状粉体の製造方法は、無機板状粒子を湿式粉砕する際に粉砕助剤を共存させることを特徴とする。
また、前記平滑薄片状粉体の製造方法において、前記粉砕助剤が水溶性ポリマーであることが好適である。
また、前記平滑薄片状粉体の製造方法において、水溶性ポリマーはポリカルボン酸塩及び/又はポリエチレングリコール誘導体であることが好適である。
また、前記平滑薄片状粉体の製造方法において、用いられる粉砕機は摩砕型粉砕機でかつ湿式であることが好適である。
また、前記平滑薄片状粉体の製造方法において、粉砕助剤の添加量が無機板状粒子に対して0.05〜10.0重量%であることが好適である。
また、本発明にかかる高光輝性顔料の製造方法は、前記平滑薄片状粉体に、金属酸化物及び/又は金属水酸化物にて被覆することを特徴とする。
また、前記高光輝性顔料の製造方法において、金属酸化物ないし金属水酸化物の金属種は、チタン、鉄、亜鉛、アルミニウム、珪素、ジルコニウム、コバルト、ニッケル、ビスマスからなる群より選択される一種または二種以上であることが好適である。
また、前記高光輝性顔料の製造方法において、被覆した金属酸化物及び/又は金属水酸化物を500〜900℃で焼成することが好適である。
また、本発明にかかる工業用塗料は、前記高光輝性顔料を0.1〜10%含有することを特徴とする。
また、本発明にかかる化粧料は、前記高光輝性顔料を0.1〜20%含有することを特徴とする。
すなわち本発明はマイカやタルク等の板状粘土鉱物や薄片状の酸化チタン、酸化アルミニウム等を湿式粉砕機で粉砕もしくは解砕する際に粉砕助剤を添加すると、細かい粒子と大きい粒子とが凝集することなく、非常に分散性が良くなり、更にこれらに助剤として分散剤を添加して水簸分級する事により、粒度幅が狭く、平滑性に優れた粒子が得られた。すなわち、粉砕助剤や分級助剤を添加することにより、粉砕されて細かくなった粒子表面に助剤が吸着して粒子同士の凝集がなくなる為に、水簸分級においても分散性が良く、分級効率が上がり、粒度幅も狭くなったものと推察される。
【0007】
一方、乾式湿式を問わず粉砕を行う際に粉砕助剤を添加することで粉砕物の装置等への付着を抑制し、湿式粉砕におけるスラリーの粘度増大を制御する検討は既に行われている。しかしながらそれらの技術は粉体をより微細に粉砕することを目的として検討を行った技術であり、粒子表面の状態にまで着目した知見はない。これらの技術を転用するのみでは、粒子表面の微粒子の付着をある程度抑制できるものの高い平滑性の獲得は困難であり、高光輝性顔料の基板とはなり得なかった。また高い平滑性を有する基板が作成できてもその後の分級の際に残留した助剤が悪影響を及ぼすことも考えられるため、粉砕、分級を通した助剤の選択と技術の確立が不可欠であると予想された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明で用いられる板状粒子としては白雲母、金雲母、黒雲母等の天然雲母、合成雲母、タルク、セリサイト等の粘土鉱物、板状酸化アルミニウム、板状酸化珪素、板状酸化チタン、板状酸化鉄等の金属酸化物が上げられる。
これらを湿式にて粉砕もしくは解砕する粉砕機としてはボールミル、ジェット混合機、高速回転ミル、石臼式ミル、アルティマイザーなどが使用できるが、特にこれらに限定されない。
【0009】
粉砕および解砕を行う際に粉砕助剤を共存させる効果としては、形状の異なる粒子もしくは粘土鉱物を加えることによって、粉砕時にメディア、羽などから板状粒子に加えられるエネルギーをより効率良く伝達し、粉砕効果を増大させることが考えられる。また粉砕および解砕に伴って微粒子化しスラリー内における粒子の表面積が著しく増大した場合、粘度上昇および粒子間の摩擦による発熱などが観察され粉砕の継続が困難になることがある。
【0010】
粉砕・分級時に添加する助剤としては水溶性高分子が優れており、中でもポリカルボン酸誘導体およびポリオキシエチレン誘導体が優れた効果を示すものとして上げられる。
上記助剤の添加量としては板状粒子に対してそれぞれ0.1〜10%の範囲内であり、0.1%を下回る場合にはその効果は発揮されず、10%を超える場合には真珠光沢顔料の性能に影響を及ぼす恐れがある。
【0011】
板状粒子を湿式粉砕分級して得られた、所望の平滑性と粒径幅に優れた薄片状粒子表面に金属水酸化物および/又は金属水酸化物を常法で被覆し、該被覆薄片状粒子を500〜900℃で焼成して得られた真珠光沢顔料は、光輝性が非常に高く、塗料、印刷インキ、プラスチック類、化粧品、セラミックス及びガラス用釉薬等の光機能性材料として有益な物であった。
【0012】
また上記高光輝性顔料は、従来公知の各種表面処理、例えばシリコーン処理、シラン処理、フッ素化合物処理、金属石鹸処理、ワックス処理、脂肪酸処理、N−アシル化リジン処理、水溶性高分子処理、樹脂処理、プラズマ処理、メカノケミカル処理等が行われていてもいなくとも構わない。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明にかかる平滑薄片状粉体によれば、粒度分布の揃った、しかも平滑性に優れた粉体を提供することができる。
また、前記平滑薄片状粉体を用いた高光輝性顔料によれば、平滑性が高いため、高い光輝性を得ることができる。
また、本発明にかかる平滑状粉体の製造方法によれば、粉砕段階で水溶性ポリマーに代表される粉砕助剤を用いることにより、平滑度が高い薄片状粉体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下具体的な製造例について記載する。尚、これらの製造例により、本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【実施形態1】
【0015】
[平滑薄片状粉体]
予め合成マイカ100Kgをジョークラッシャで粗粉砕し、2メッシュの篩を通過させ10メッシュの篩未通過品70Kgを得た。該粗粉砕品を用いて、横型回転式ポットミル20Lに、粗粉砕合成マイカ2.0Kgと粉砕助剤液と長径10mmの球状アルミナボール16Kgを入れて、毎分100回転で36時間粉砕した。分級助剤液を用いてポットミルを洗浄しながら、粉砕合成マイカを高さ1mの容器に移した。プロペラ撹拌して、十分に分散させた後静置し、360分間放置後水面からの高さ80cm迄の上澄みを回収した。再び分級助剤液を加えてプロペラ撹拌して、十分に分散させた後静置し、360分間放置後高さ80cm迄の上澄みを回収した。同様な操作を3回繰り返した。回収した分散液を濾過水洗して微細粒子とした。
【0016】
同様な操作で、放置する時間を変えて水簸分級を繰り返した。中粒子は180分間静置、大粒子は23分間静置の3段階に分級した。
なお、各試験例の粉砕助剤液及び分級助剤液は表1に示すとおりである。また、得られた分級品粒度分布は、レーザー回折による粒度分布とその粒度分布定数として表2に示した。
【表1】

【表2】

表2に示す結果より明らかなように、粉砕助剤を用いない場合(試験例1−1)には、粒度分布定数が大きく、粒度の均質化が図られていない。これに対し、粉砕助剤としてヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液、ポリエチレングリコールを用いた場合(試験例1−2,3,4)には粒度分布定数が小さくなり、粒度の均質化が図られていることが理解される。しかも、これらの粉砕助剤のうち、ポリエチレングリコールを用いた場合(試験例1−3,1−4)に顕著に粒度均質化が図られる傾向にある。
そこで、本発明者らはさらに粉砕助剤の種類と粒度分布の関係について検討を行った。各試験例に用いた粉砕助剤液の内容を表3に、また各試験例の粒度分布測定値を表4に示す。
【表3】

【表4】

表4及び前記表2の結果を考慮すると、粒度分布に及ぼす粉砕助剤の効果は、金属粉の扁平化などの際に用いられる塩化カリウム、塩化ナトリウム、或いはステアリン酸ナトリウムなどよりも、水溶性高分子、特にポリカルボン酸ナトリウムないしポリエチレングリコールにおいて特に顕著である。
さらに本発明者らは、分級で得られる微細粒子、中粒子、及び大粒子の割合には、各試験例とも大きな相違はなく、それぞれの分級区分内での粒度分布が大きいことに着目した。すなわち、粉砕助剤は、粉砕程度に影響を与えているのみではなく、分級時の粒子間の再凝集が粒度分布定数に大きな影響を与えていることが考えられる。
そこで、本発明者らはさらに、微細粉砕物が大粒子ないし中粒子に再付着するのを防止するため、分級時に分級助剤を添加することを試みた。
【表5】

【表6】

上記表6の結果より明らかなように、粉砕助剤を用いずに分級助剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを添加したとき(試験例3−1)には、粒度分布の改善効果はきわめて小さい。一方、試験例3−2,3−3を対比すると、カルボン酸ナトリウムの添加効果は粉砕時に添加することにより得られるものであり、分級時のみに添加しても効果は小さい。
以上のことから、水溶性ポリマーは粉砕助剤として用いた場合に顕著であり、さらに分級時にヘキサメタリン酸ナトリウム等の分級助剤を用いることにより粒度分布の改善効果が一層改善される。
また、図1,2,3はそれぞれ試験例3−1,3−4,3−5で得られた粉体の電子顕微鏡写真である。
同図より明らかなように、試験例3−4の粉体は単に粒度分布の改善が認められるばかりでなく、粒子表面上への破砕残渣の再付着が防止されていることが裏付けられる。したがって、本発明における水溶性ポリマーの添加効果は、分級された薄片状粉体の平滑度を示すものといえる。
【0017】
[高光輝性顔料]
前記試験例で得られた、合成マイカの粉砕分級品に金属酸化物及び/又は金属水酸化物を被覆し高光輝性顔料を製造した、その製造例について記載する。
粉砕分級した合成マイカの微細粒子200gを3Lのビーカーに秤、これに上水2Lと塩酸12mlとを加え撹拌しながら加熱して、80℃とした。これに塩酸と苛性ソーダーとを加えてpHを2.2とした。撹拌しながら温度、pHを一定に保ち、四塩化チタン塩酸水溶液と苛性ソーダー水溶液を加え、四塩化チタン塩酸水溶液を300g添加した。添加後苛性ソーダーを加えてpHを7とし、冷却後、濾過・水洗・乾燥した。乾燥粉末を大気中800℃で2時間焼成し、銀色の光沢微細粉末約280gを得た。
【0018】
粉砕分級した合成マイカの中粒子50gを2Lのビーカーに秤、これに上水1Lと塩酸3mlとを加えて撹拌しながら加熱して、80℃とした。これに塩酸水溶液と苛性ソーダー水溶液とを加えてpHを2.3とした。撹拌しながら温度、pHを一定に保ち、四塩化チタン塩酸水溶液と苛性ソーダー水溶液を加え、四塩化チタン塩酸水溶液を146g添加した。添加後苛性ソーダー水溶液を加えてpHを7とし、冷却後、濾過・水洗・乾燥した。乾燥粉末を大気中800℃で2時間焼成し、青色の光沢粉末約85gを得た。
【0019】
粉砕分級した合成マイカの大粒子900gを30Lの琺瑯タンクに秤、これに上水20Lと塩酸90gとを加えて撹拌して、80℃とした。これに塩酸水溶液と苛性ソーダー水溶液とを加えてpHを2.2とした。撹拌しながら温度、pHを一定に保ち、四塩化チタン塩酸水溶液と苛性ソーダー水溶液を加え、四塩化チタン塩酸水溶液を2000g添加した。添加後苛性ソーダー水溶液を加えてpHを7とし、冷却後、濾過・水洗・乾燥した。乾燥粉末を大気中800℃で2時間焼成し、緑色の光沢粉末約1400gを得た。
上記で得られた各光沢粉末1gとクリアーラッカー15gとを混合して、白黒の隠蔽率試験紙にアプリケーター4ミルで塗布し、塗膜の白地上の光沢度をGloss Checker IG−330で入射角60°受光角60°と入射角20°受光角20°にて測定し、その値の比を光沢指数とした。表7にはそれら光沢の測定値とその指数を示した。
【0020】
【表7】


表7に示す結果より明らかなように、被覆粉体の輝度は原料となる薄片状粉体の粒度分布、すなわち本発明においては薄片状粉体の平滑度に依存して向上することが理解される。
【0021】
[製造例2]
製造例1で粗粉砕した合成マイカ50Kgを500Lのポットミルに投入し、これに0.1%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50Kg及びポリカルボン酸ナトリウム(NSA−400L)5Kgを添加して、直径15mmの球状アルミナボール350Kgを入れ、40時間粉砕した。0.05%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液1300Kgを用いてポットミルを洗浄しながら、粉砕合成マイカを高さ2mの容器に移した。プロペラ撹拌して、十分に分散させた後静置した。675分間静置後水面からの高さ150cm迄の上澄みを回収した。再び0.05%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を加えて、同じ時間静置後、水面からの高さ150cm迄の上澄みを回収した。同様な操作を3回繰り返した。回収した分散液を濾過水洗して微細粒子とした。
【0022】
同様な操作で、放置する時間を変えて水簸分級を繰り返した。中粒子は338分間静置、大粒子は43分間静置の3段階に分級した。分級品は各々微細粒子14Kg,中粒子12Kg,大粒子20Kg得られた。得られた分級品のレーザー回折による粒度分布とその粒度分布定数は、表8にそれらの粒度分布測定値を示した。
【0023】
【表8】

【0024】
表8で得られた、合成マイカに製造例1と同様に金属酸化物及び/又は金属水酸化物を被覆し高光輝性顔料を製造した、その製造例を記載する。
粉砕分級した合成マイカの微細粒子25Kgを500Lのジャケット付ガラスライニング反応釜に秤、これに上水300Lと塩酸9L、塩化スズ400gを加え撹拌しながら加熱して、80℃とした。これに塩酸と苛性ソーダーとを加えてpHを2.0とした。撹拌しながら温度、pHを一定に保ったまま、四塩化チタン塩酸水溶液と苛性ソーダー水溶液を加え、四塩化チタン塩酸水溶液を22.5Kg添加した。添加後苛性ソーダーを加えてpHを7とし、冷却後濾過水洗乾燥した。乾燥粉末を大気中800℃で2時間焼成し、銀色の光沢微細粉末31Kgを得た。
【0025】
粉砕分級した合成マイカの中粒子10Kgを300Lのジャケット付ガラスライニング反応釜に秤、これに上水200Lと塩酸480ml、塩化スズ240gとを加えて撹拌しながら加熱して、80℃とした。これに塩酸水溶液と苛性ソーダー水溶液とを加えてpHを2.1とした。撹拌しながら温度、pHを一定に保ったまま、四塩化チタン塩酸水溶液と苛性ソーダー水溶液を加え、四塩化チタン塩酸水溶液を11.9Kg添加した。添加後苛性ソーダー水溶液を加えてpHを7とし、冷却後濾過水洗乾燥した。乾燥粉末を大気中800℃で2時間焼成し、銀色の光沢粉末13Kgを得た。
【0026】
粉砕分級した合成マイカの大粒子20Kgを500Lのジャケット付ガラスライニング反応釜に秤、これに上水400Lと塩酸1L、塩化スズ450gとを加えて撹拌して、80℃とした。これに塩酸水溶液と苛性ソーダー水溶液とを加えてpHを2.0とした。撹拌しながら温度、pHを一定に保ったまま、四塩化チタン塩酸水溶液と苛性ソーダー水溶液を加え、四塩化チタン塩酸水溶液を12.5Kg添加した。添加後苛性ソーダー水溶液を加えてpHを7とし、冷却後濾過水洗乾燥した。乾燥粉末を大気中800℃で2時間焼成し、銀色の光沢粉末23Kgを得た。
【0027】
上記で得られた各光沢粉末1gとクリアーラッカー15gとを混合して、白黒の隠蔽率試験紙にアプリケーター4ミルで塗布し、塗膜の白地上の光沢度をGloss Checker IG−330で入射角60°受光角60°と入射角20°受光角20°を測定してその値の比を光沢指数とした。表9にはそれら光沢の測定値とその指数を示した。
【0028】
【表9】

【0029】
[市販品との比較]
合成マイカを基板とし、この粒子表面に酸化チタンや酸化鉄を被覆した市販真珠光沢顔料について、本発明と同様の粒度分布、輝度評価を行った。
結果を次の表10及び11に示す。
【0030】
【表10】

【表11】

表に示したように、 市販品は粒度分布定数が大きくしかも光沢指数も大きい。特に光沢については20°−20°の値が低い。このことは乱反射が強く高光輝顔料とは言えない光沢領域であることを示している。
【0031】
これに対して本発明の粒子の大きさにかかわらず光沢度指数が低くあらゆる方向からの光に対しても強い正反射を示すことから、優れた高光輝性顔料であることが示された。
【0032】
本発明は、製造例の如く製造された高光輝性顔料を前述の用途として使用するものであり、以下、その代表的な用途例を記載する。なを、これらの用途により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0033】
[用途例1:自動車用塗料]
電着塗膜上に中塗り塗膜が形成された鋼板を用意し、カラーベース塗料を塗装後、145℃で30分間焼き付け乾燥した。次に、アクリル樹脂とメラミン樹脂からなる樹脂液中に上記試験例3−5に準じて得られた、微細合成マイカを基板として銀色干渉色を有する高光輝性顔料を5重量%含むベース塗料を用意し、カラーベース塗膜表面に膜厚15μmになるようにスプレー塗装した。該塗膜が乾燥後アクリル・メラミン系クリア塗装をさらに膜厚40μmとなるようにWet−on−Wetにてスプレー塗装し、145℃で30分間焼き付けてベース塗膜とクリア塗膜を一体的に硬化させた。
【0034】
[用途例2:自動車用塗料]
用途例1と同様な方法で、前記試験例3−4に準じて得られた微細合成マイカを基板とした、銀色干渉色を有する高光輝性顔料を配合した。塗料の種類や塗膜の厚さ等については用途例1と同一条件で塗装した。
【0035】
[比較用途例1:自動車用塗料]
用途例1と同様な方法で、前記試験例1−1に準じて製造した、微細合成マイカを基板とした銀色干渉色を持った真珠光沢顔料を配合した。塗料の種類や塗膜厚さ等用途例1と同一条件で塗装した。
【0036】
[比較用途例2:自動車用塗料]
用途例1と同様な方法で市販の銀色干渉色の酸化チタン被覆合成マイカ(SKY社製SK−R901D Reflex Rutile Fine)を配合した。塗料の種類や塗膜厚さ等は用途例1と同一条件で塗装した。
【0037】
上記に於いて得られた塗装鋼板について、専門者の目視判定によって光輝感、彩度、色調などによる意匠性の度合いを相対的に判定した。その結果を表9に示した。
【0038】
【表12】

表12に示した判定結果の基準は、◎印が良好、△印がやや劣る、×印が劣るとこを示している。
【0039】
[使用例3:印刷用インキ組成物]
下記成分を混合し、サンドミルで混練して印刷用インキ組成物を得た。
配合成分 配合量(重量部)
1.本発明の製造例1の中粒子合成マイカを基板
とした青色干渉色を持った高光輝性顔料 12.5
2.アクリル樹脂 25.0
3.ナフサ 30.0
4.ブチルセロソルブ 32.5
この用途例の印刷インキ組成物を用いて、乾燥後の塗膜厚さ50μmになるように白紙上に印刷を行ったところ、塗装体は青色の鮮やかな光沢のある干渉色を有していた。
【0040】
[使用例4:化粧料粉末固形ファンデーション]
下記1〜9の粉末部を秤取り、ヘンシェルミキサーで混合して、これに10〜14を加熱溶解混合した液を、混合した粉末部に添加し、再びヘンシェルミキサーで混合した。該混合組成物をパルベライザーで粉砕混合した。この粉砕混合品を中皿に成型し、所望する粉末固形ファンデーションをえた。
配合成分 配合量(重量部)
1.本発明の製造例1の中粒子合成マイカを基板
とした青色干渉色を持った高光輝性顔料 15.0
2.タルク 20.0
3.セリサイト 20.0
4.白雲母 20.0
5.ナイロンビーズ 9.2
6.窒化ホウ素 1.0
7.赤酸化鉄 0.7
8.黄酸化鉄 1.0
9.黒酸化鉄 0.1
10.ジメチルポリシロキサン 5.0
11.2−エチルヘキサン酸セチル 5.0
12.ソルビタンセスキオレート 1.0
13.パラベン 適量
14.香料 適量
この用途例の粉末固形ファンデーションは、伸びが軽く、顔料色と本発明の高光輝性顔料から生じる青色干渉色の補色の作用により、塗布した肌色を美しく改善する効果が認められた。
【0041】
[使用例5:化粧料アイシャドー]
下記の1〜8の粉末部を秤取り、ヘンシェルミキサーで混合した、これに9〜13の各成分を混合したものを加えて再びヘンシェルミキサー混合し、中皿に成型してアイシャドーを得た。
配合成分 配合量(重量部)
1.本発明の製造例1の大粒子合成マイカを基板
とした緑色干渉色を持った高光輝性顔料 8.0
2.タルク 残余
3.セリサイト 6.0
4.合成マイカ 12.0
5.球状PMMA粉末 3.0
6.板状硫酸バリウム 2.0
7.酸化鉄 2.0
8.窒化ホウ素 3.0
9.スクワラン 2.0
10.ジメチルポリシロキサン 3.0
11.モノオレイン酸ソルビタン 1.0
12.防腐剤 適量
13.香料 適量
【0042】
本発明は、無機板状粒子を湿式粉砕し光輝性顔料の基板を作成する際に粉砕助剤を共存させる事によって平滑な表面状態を保持したまま粉砕分級して、粒度分布定数が(90%径−10%径)/50%径(メジアン径)が0.9〜1.2の粒子を得る。粉砕分級して得られた平滑な薄板状粒子表面に金属酸化物及び/又は金属水酸化物を被覆した高光輝性顔料の製法に関する。より具体的には、塗料、印刷インキ、プラスチック類、化粧品、セラミックス及びガラス用釉薬等の光機能性材料として有益な高光輝性顔料の製法に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】 試験例3−1(比較例)の薄片状粉体の電子顕微鏡写真
【図2】 試験例3−4(実施例)の平滑薄片状粉体の電子顕微鏡写真
【図3】 試験例3−5(実施例)の平滑薄片状粉体の電子顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕にて得た平滑かつ薄片状な板状粒子であって、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置による累積粒子分布測定値を基にした次式1:
粒度分布定数=(90%径−10%径)/50%径(メジアン径) …式1
に規定する粒度分布定数が0.9〜1.2の粒子であることを特徴とする平滑薄片状粉体。
【請求項2】
請求項1記載の粉体において、板状粒子の厚さが0.05〜1ミクロンであることを特徴とする平滑薄片状粉体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の粉体において、板状粒子は合成雲母、天然雲母、タルク、セリサイト、薄片状金属酸化物からなる群より選択される一種又は二種以上であることを特徴とする平滑薄片状粉体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の平滑薄片状粉体を、金属酸化物及び/又は金属水酸化物で被覆し、下記条件にて測定した光沢指数が1.0〜1.8であることを特徴とする高光輝性顔料。
光沢指数:
顔料を白黒の隠蔽率試験紙にニトロンクリア(ニトロセルロースラッカー:武蔵塗料製)と顔料1部対ニトロン15部の割合で混合し4ミルのアプリケーターにてコーティングした塗膜を白地上にて測定した光沢度について次式2:
光沢指数=(60°−60°)/(20°−20°) …式2
【請求項5】
無機板状粒子を湿式粉砕する際に粉砕助剤を共存させることを特徴とする平滑薄片状粉体の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、前記粉砕助剤が水溶性ポリマーであることを特徴とする平滑薄片状粉体の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法において、水溶性ポリマーはポリカルボン酸塩及び/又はポリエチレングリコール誘導体であることを特徴とする平滑薄片状粉体の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の方法において、用いられる粉砕機は摩砕型粉砕機でかつ湿式であることを特徴とする平滑薄片状粉体の製造方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の方法において、粉砕助剤の添加量が無機板状粒子に対して0.05〜10.0重量%であることを特徴とする平滑薄片状粉体の製造方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれかに記載の平滑薄片状粉体を、金属酸化物及び/又は金属水酸化物にて被覆することを特徴とする高光輝性顔料の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法において、金属酸化物ないし金属水酸化物の金属種は、チタン、鉄、亜鉛、アルミニウム、珪素、ジルコニウム、コバルト、ニッケル、ビスマスからなる群より選択される一種または二種以上であることを特徴とする高光輝性顔料の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11記載の顔料において、被覆した金属酸化物及び/又は金属水酸化物を500〜900℃で焼成することを特徴とする高光輝性顔料の製造方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載の高光輝性顔料を0.1〜10%含有することを特徴とする工業用塗料。
【請求項14】
請求項10〜12のいずれかに記載の高光輝性顔料を0.1〜20%含有することを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−174698(P2008−174698A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35486(P2007−35486)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(594053590)日本光研工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】