説明

平版印刷原版および平版印刷版の製造方法

【課題】画像形成後に現像や加熱等の後処理工程を一切必要としない無処理かつ親水性と耐刷性がともに優れた平版印刷原版を提供すること、および該原版にレーザー法、インクジェット法または感熱転写法により画像を形成し、現像や加熱等の後処理工程を一切必要としない平版印刷版の製造方法を提供する。
【解決手段】2つ以上のカルボジイミド基を有する架橋剤で架橋した親水性ポリマーと界面活性剤を含有する親水層を有する平版印刷原版を、レーザー法、インクジェット法または感熱転写法により画像を形成させ、現像や加熱等の後処理工程を一切必要としない平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー法、インクジェット法または感熱転写法により画像を形成する平版印刷原版、および平版印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの普及につれ、製版用フィルムを使用しないで、コンピュータ上の原稿から直接版材にレーザー光やサーマルヘッド、インクジェットで印字し製版するいわゆるコンピュータ・ツー・プレート(CTP)タイプの印刷版が登場し普及し始めている。このうちレーザー光を用いる印刷版はさらに光反応によるフォトンモードのものと、光熱変換を行って熱反応を起こさせるヒートモードの2つのタイプに分けられる。このうちヒートモードタイプのCTP版は、明室で取り扱えるといった利点があり、今後の主流になると言われている。また、フォトンモードでは露光後に未露光部が反応しないよう、失活や現像といった後処理工程が必須であるが、ヒートモードではこれらの後処理工程を省くことが可能であり、いわゆるプロセスレス版を得ることも可能になると期待されている。
【0003】
プロセスレス版には大きく分けて三つのタイプが挙げられる。例えば表面層をレーザー露光で焼き飛ばすアブレーションタイプ(例えば特開平6−186750号公報(特許文献1))、印刷機上で湿し水あるいはインクにより非画線部あるいは画線部を除去する印刷機上現像タイプ(例えば特開2004−223944号公報(特許文献2))、レーザー露光部の親水性が親油性に変化する極性変換タイプ(例えばWO01/83234号公報(特許文献3))の三つであり、各社から提案されている。
【0004】
このうちアブレーションタイプは、焼き飛ばした表面層がゴミとなり、版表面に付着するため、露光後に拭き取りあるいは洗浄の実施が推奨されている。また、印刷機上現像タイプは、印刷機上で現像するという工程が必要であり、除去物が湿し水に混入することで汚れやすくなったり、インキに混入することで印刷物の色が濁ったりするといった問題がある。
【0005】
これらに対し、極性変換タイプは拭き取り等の後処理工程が全く不要で、かつ印刷に悪影響を与える除去物の発生がないため、完全なプロセスレスが可能となり期待されている。しかし極性変換タイプの版は、レーザー露光で親油性に変化する親油化前駆体を親水性層中に含まなければならず、親水性不足となることが多い。また、親水性層に耐刷性を付与するため架橋剤等で硬化することが多いが、架橋密度が高くなると親水性が低下することが多く、親水性と耐刷性を両立することは非常に難しい。本出願人らは、例えばWO01/83234号公報に、メラミンや尿素などアミノ樹脂で架橋した親水性ポリマー層からなる印刷原版が開示しているが、これらの原版の親水性と耐刷性を高いレベルで両立したまま、さらに向上させることが求められている。
【0006】
一方、コンピュータ・ツー・プレート(CTP)タイプのうち、サーマルヘッドやインクジェットプリンターなどの簡易な装置で製版する平版印刷版は、レーザー光を使用する製版方式に比べ、解像度や精細性に劣るものの、製版機の低コスト化かつ小型化が容易であるため近年注目を集めている。
【0007】
感熱転写層を有する感熱転写シートとサーマルヘッドを用いた感熱転写法による印刷版やインクジェットで親油性の画像部を形成するインクジェット法による印刷版も各社から提案され始めているが、画像形成後に加熱硬化(特開平9−99662号公報(特許文献4))や印刷機上現像(特開平11−321143号公報(特許文献5))が必要であるなど、完全なプロセスレスには至っていない。
【0008】
ここで本明細書中でいうインクは、インクジェットプリンターより投射される液体、インキとは印刷機から印刷版に供給され紙やフィルム等の被印刷物に転写される印刷インキを示すものとする。
【特許文献1】特開平6−186750号公報
【特許文献2】特開2004−223944号公報
【特許文献3】WO01/83234号公報
【特許文献4】特開平9−99662号公報
【特許文献5】特開平11−321143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、画像形成後に現像や加熱等の後処理工程を一切必要としないプロセスレスかつ親水性と耐刷性がともに優れた平版印刷原版を提供すること、および該原版にレーザー法、インクジェット法または感熱転写法により画像を形成し、現像や加熱等の後処理工程を一切必要としない平版印刷版の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、2つ以上のカルボジイミド(−N=C=N−)基を有する架橋剤で架橋した親水性ポリマーと界面活性剤を含有する親水層は、優れた親水性と同時に極めて高い耐刷性を有しており、かつレーザー法、インクジェット法または感熱転写法により形成した画像が、現像や加熱等の後処理工程を一切必要とせず優れた親油性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち本発明は、以下の構成からなるものである。
(1)2つ以上のカルボジイミド基を有する架橋剤により架橋した親水性ポリマーと界面活性剤を含む親水層を有することを特徴とする平版印刷原版。
(2)前記界面活性剤は、アニオン性界面活性剤である(1)に記載の平版印刷原版。
(3)前記アニオン性界面活性剤は、リン酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩系界面活性剤、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩系界面活性剤から選ばれる、少なくとも1種以上の界面活性剤である(2)に記載の平版印刷原版。
(4)前記親水層は、平均粒子径0.005〜0.5μmであり、かつ最低造膜温度が50℃以下の水分散ポリマーを含むものである(1)〜(3)に記載の平版印刷原版。
(5)(1)〜(4)に記載の平版印刷原版は光熱変換材を含み、レーザー照射により、現像工程なしで親油性部位を形成させることを特徴とする平版印刷版の製造方法。
(6)(1)〜(4)に記載の平版印刷原版を、インクジェットプリンターによりインクを画像様に投射することにより、後処理工程なしで親油性部位を形成させることを特徴とする平版印刷版の製造方法。
(7)(1)〜(4)に記載の平版印刷原版表面に、シート状の感熱転写層を設けて成る感熱転写シートの該感熱転写層を密着させた後、該感熱転写シート側から画像様に加熱を行い感熱転写層を転写することにより、後処理工程なしで親油性部位を形成させることを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の平版印刷原版を用いれば、優れた親水性と極めて高い耐刷性を両立する非画像部が形成でき、かつレーザー法、インクジェット法または感熱転写法により形成した画像が優れた親油性を示し、現像や加熱等の後処理工程を一切必要としない平版印刷版を提供できる。レーザー法の場合、レーザー照射後のアルカリ現像や機上現像等の後処理工程が一切不要となるため現像廃液等の処理が不要となり環境負荷低減できるとともに、現像のバラツキによる画像部の変動がなくなるため再現性の良い印刷物製造が容易となる。またインクジェット法や感熱転写法の場合、製版機の低コスト化かつ小型化が達成されるとともに、現像や加熱等の後処理工程なしに印刷物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
[親水層]
本発明の平版印刷原版に用いることのできる親水層に関して説明する。本発明の親水層は、親水性樹脂組成物を加熱架橋することで得ることができ、基板に直接又は下地層を介して親水性樹脂組成物を塗布・乾燥して形成することが好ましい。該親水層表面にレーザー法、インクジェット法または感熱転写法により親油性の画像部を形成し、現像や加熱等の後処理工程なしに印刷することが可能となる。本発明の親水層は親水性ポリマーと界面活性剤を含有しており、非常に高い親水性を示す。従って画像部を形成していない非画像部は、湿し水によって濡れ、インキを反撥する。一方、レーザー法、インクジェット法または感熱転写法により形成された親油性の画像部は、湿し水には濡れずインキに濡れるため形成された画像部の形状どおりにインキが付着する。この画像様インキをブランケットと呼ばれるゴムに転写し、このゴム上のインキを紙やフィルムに転写することで大量の印刷物を製造することができる。
【0014】
[架橋剤]
本発明の平版印刷原版は、親水層が2つ以上のカルボジイミド(-N=C=N-)基を有する架橋剤により架橋した親水性ポリマーを含有することと界面活性剤を含有することを特徴とするものである。本発明の平版印刷原版では、親水層がインキを反撥するためには非常に高い親水性が必要であるため、親水性ポリマーと界面活性剤を含むことが必須であるが、同時に印刷中に湿し水によって溶解あるいは磨耗しない高い耐刷性も必要である。本出願人は親水層組成物に2つ以上のカルボジイミド(-N=C=N-)基を有する架橋剤を含有させ、加熱架橋することで親水性と耐刷性を両立する親水層が得られることを見出した。カルボジイミド基はカルボキシル基、アミノ基、水酸基といった親水性官能基と反応しても、それぞれカルバモイルアミド、グアニジン、イソウレアを形成するため親水性がほとんど低下しないと考えられる。
【0015】
本発明に好適な架橋剤は2つ以上のカルボジイミド基(-N=C=N-)を有していれば特に制限はなく、低分子量タイプでもポリマータイプでも構わないが、多数のカルボジイミド基により複雑かつ広範なポリマーネットワークを作り、耐刷性が良好となりやすいことからポリマータイプが好ましい。親水性ポリマーや他の組成物との相溶性から水溶性であることが好ましいが、油溶性でも構わない。油溶性の場合は乳化剤を用いて水分散エマルジョンとして使用するか、アルコールやケトン、酢酸エチル等の水と相溶性のある溶剤を併用することが好ましい。分子内にはカルボジイミド基以外の官能基が含まれていてもよい。2つ以上のカルボジイミド基を有する化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができるが、基本的には、従来のポリカルボジイミドの製造方法[例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28,2069−2075(1963)、Chemical Review l981,Vol.81 No.4、p619−621等]により、製造されたものを用いることができる。具体例として例えば、特開平10−316930号公報、特開平11−189633号公報、特開2003−268118号公報、特開2005−53870号公報等に記載された公知のカルボジイミド基を有する化合物が挙げられる。市販されており、使用に好適なものとしては日清紡(株)のカルボジライトTMシリーズ等が挙げられ、これを使用することが好ましい。特に水溶性タイプのV−02やエマルジョンタイプのE−02が好ましい。2つ以上のカルボジイミド基を有する架橋剤は、一種単独で使用しても二種以上を併用して用いてもよい。親水性ポリマーを架橋するための架橋温度は反応する官能基種および量によって異なるが、通常70〜250℃が好ましく、120〜220℃がより好ましい。これらの2つ以上のカルボジイミド基を有する架橋剤を用いることにより、親水性を維持しつつ、更に耐刷性も有する平版印刷用原版の提供が可能となった。
【0016】
[界面活性剤]
本発明の平版印刷原版においては、親水性付与のため親水層に界面活性剤を使用することも特徴である。ここで界面活性剤は親水層表面および層内部に存在し、水に対する濡れ性を著しく向上させ地汚れを防ぐ働きをすると考えられる。また界面活性剤は付着してしまったインキを脱離させる機能も併せ持つと考えられる。本発明に用いるものはこのような濡れ性を向上し、インキ脱離機能を有する界面活性剤であれば特に限定されず、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤、フッ素系界面活性剤等のいずれでも構わない。好ましくは少量で高い濡れ性向上効果とインキ脱離機能を与えることができるアニオン性界面活性剤を用いることが望ましい。アニオン性界面活性剤の具体例としては、スルホン酸塩系、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホ琥珀酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩やモノアルキルスルホ琥珀酸エステル塩等が挙げられる。またカルボン酸塩系、例えばジアルキル琥珀酸エステル塩、モノアルキル琥珀酸エステル塩、ポリカルボン酸等が挙げられる。また硫酸エステル塩系、例えばアルキルジフェニル硫酸オキシド、アルキル硫酸エステル、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エーテル塩等が挙げられる。また、リン酸エステル塩系、例えばアルキルエーテルリン酸エステル塩やアルコールリン酸エステル塩等も使用できる。特に好ましいアニオン性界面活性剤としては、リン酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩系界面活性剤、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩系界面活性剤等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。より具体的には、リン酸塩系界面活性剤としては、日本乳化剤株式会社のAntox EHDTMシリーズや花王株式会社のペレックスTMSS、第一工業製薬株式会社のプライサーフTMシリーズ等が挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸塩系界面活性剤としては、日本乳化剤株式会社のNewcolTM210や花王株式会社のネオペレックスTMシリーズ、第一工業製薬株式会社のネオゲンTMシリーズ等が挙げられる。ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩系界面活性剤としては、日本乳化剤株式会社のNewcolTM290や花王株式会社のペレックスTMOT−P、第一工業製薬株式会社のネオコールTMシリーズ、三井サイテック株式会社のAEROSOLTMOTシリーズ等が挙げられる。
【0017】
親水層への界面活性剤の添加量は、0.01〜5重量%であることが好ましく、0.1〜3重量%であることが更に好ましい。この範囲内にある方が、濡れ性向上効果とインキ脱離機能が十分見られ、また、基材あるいは下地層との密着性が良好であり、画像部の親油性が十分であり、好ましい。本発明において親水層に含有させる界面活性剤は、一種単独で使用しても、二種以上を併用して用いてもよい。
【0018】
[親水性ポリマー]
本発明の親水層に用いられる親水性ポリマーは、親水性基を有していれば問題なく、より好ましくは親水性基及びカルボジイミド基と反応する官能基(架橋官能基)を有するものである。親水性ポリマーの親水性基としては、例えば、水酸基、アミド基、アミノ基、スルホンアミド基、オキシメチレン基、オキシエチレン基等、更にカルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸性基やこれら酸性基のアルカリ金属塩やアミン塩等が挙げられる。又架橋官能基としては、水酸基、アミド基、アミノ基、カルボキシル基およびカルボキシル基のアルカリ金属塩やアミン塩等が挙げられる。
【0019】
親水性ポリマーのより具体的な例としては、水溶性の以下のポリマーが挙げられる。即ち、セルロース類、ゼラチン、前記した親水性基や架橋官能基を有する不飽和酸及びその誘導体類やN―ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、酢酸ビニル、ビニルエーテル等を重合、共重合してなるポリマー及びこのポリマーの加水分解ポリマー等である。
【0020】
前記した親水性基や架橋官能基を有する不飽和酸及びその誘導体の具体例としては、水酸基を有する不飽和酸誘導体としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチロール(メタ)アクリルアミドや、該メチロール(メタ)アクリルアミドとメチルアルコールやブチルアルコールとの縮合物であるメトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0021】
アミド基を有する不飽和酸誘導体としては、無置換又は置換(メタ)アクリルアミド、無置換又は置換イタコン酸アミド、無置換又は置換フマル酸アミド、無置換又は置換フタル酸アミド、N―ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド等が挙げられる。無置換又は置換(メタ)アクリルアミドのより具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、スルホン酸プロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。前記イタコン酸アミド等の二塩基酸アミドの場合は一方のカルボキシル基がアミド化されたモノアミドであっても良く、両方のカルボキシル基がアミド化されたジアミドであっても良い。更に、グリシジル基を有する不飽和酸誘導体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、パラビニルフェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0022】
カルボキシル基を有する不飽和酸としては、(メタ)アクリル酸等の一塩基不飽和酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸及びその無水物等の二塩基不飽和酸やこれら二塩基不飽和酸のモノエステル、モノアミド等が挙げられる。
【0023】
又、スルホン酸基を有する不飽和酸としては、スルホエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルメチルスルホン酸、イソプロぺニルメチルスルホン酸、(メタ)アクリル酸にエチレンオキシド、又はプロピレンオキシドを付加したアルコールの硫酸エステル、(メタ)アクリロイロキシエチルスルホン酸、モノアルキルスルホコハク酸エステルとアリル基を有する化合物とのエステル、モノアルキルスルホコハク酸エステルとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物等が、ホスホン酸基を有する重合性不飽和モノマーとしては、ビニルリン酸、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレート、リン酸モノアルキルエステルのモノ(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
これらのカルボキシル基、スルホン酸基やホスホン酸基はアルカリ金属、アルカリ土類金属やアミン類で中和されていても良い。中和に用いられるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等が、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム等が、及びアミン類としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0025】
重合するに際しては、前記した不飽和酸及びその誘導体と共重合可能なモノマーを併用しても良い。共重合可能なモノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0026】
本発明に好適な官能基としては、架橋した後も良好な親水性を持ち、かつ膜強度が強く耐刷性に優れていることからアミド基がもっとも好ましく、好適な親水性ポリマーとしては、1種または2種以上の無置換または置換(メタ)アクリルアミドを80重量%以上含むモノマーを重合してなるポリマーが挙げられる。尚、前記の記載述に於いて、(メタ)アクリルアミド等に於ける(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルの両者を意味する。
【0027】
[水分散ポリマー]
本発明の親水層には、レーザー照射部が親油性に変化しやすいように、またインクジェットプリンターから投射されたインクや感熱転写層によって強固な画像部を形成しやすいように水分散ポリマーを用いることが好ましい。水分散ポリマーを使用することで、レーザー照射部で熱融着や発泡が起こり、親水性が低下し親油性となり易い。またインクジェットプリンターのインク中の成分によって溶融し親油性の膜を版表面に形成したり、溶融した水分散ポリマー中への界面活性剤の移動によって、版表面の親水性が低下し、強固な画像部が形成しやすくなる。また、インクや熱転写層の固着も起こりやすくなり、強固な画像部が容易に形成される。水分散ポリマーの平均粒子径としては非画像部の親水性の点から、0.005〜0.5μmが好ましく、0.01〜0.3μmのものが更に好ましい。水分散ポリマーの最低造膜温度としては、レーザー照射時の親油性の膜の作り易さやインクとの接触による親油性の膜の作り易さの点から、50℃以下が好ましく、30℃以下のものが更に好ましい。水分散ポリマーとは、微細な親油性ポリマー粒子と必要に応じて該粒子を覆う保護剤とからなる粒子を水および水を主成分とする水性液に分散させた親油性ポリマーを意味し、不飽和モノマーを乳化重合や懸濁重合することによって作られた親油性ポリマー、特に酸性基を有する親油性ポリマー、又は該ポリマーの有機溶剤溶液を必要ならば酸性基を中和したり、分散安定剤を加えて水中に分散させした親油性ポリマー、さらに必要ならば該有機溶剤を溜去して得られた親油性ポリマー等が挙げられる。この中でも特に自己乳化型水分散ポリマーと呼ばれる、酸性基を有する親油性ポリマーおよびその酸性基を中和した親油性ポリマーは、親水性ポリマーや架橋剤との配合安定性や、非画線部の親水性の点から好ましい。水分散ポリマーは、より具体的には例えば、ビニルポリマー系ラテックス、共役ジエンポリマー系ラテックス、アクリル系ラテックス、水分散ポリウレタン樹脂、水分散ポリエステル樹脂、水分散エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0028】
水分散ポリマーの平均粒径は、一般的には水で薄めて粒度測定器(例えば「マイクロトラック」等)により測定することが可能である。その他、水分散ポリマーを凍結後スライスして透過型電子顕微鏡で測定することもでき、特に平均粒径が0.01μm以下の場合には特にこの方法が好ましく用いられる。最低造膜温度とは分散溶媒が蒸発したときにエマルジョン状のポリマーが融着してフィルム化(造膜)する最低温度を言う。最低造膜温度は低いほどエネルギー照射、特に熱により親油化するときの変化が起こり易いため好ましい。尚、最低造膜温度はISO2115に準拠した方法で測定し、測定機として例えば(株)井元製作所の造膜温度(MFT)試験装置を使用することができる。
【0029】
[光熱変換材]
本発明の平版印刷版がレーザー法によって画像部を形成する場合、親水層組成物にはレーザー光を熱に変換する光熱変換材を用いることが好ましい。光熱変換材としては、光を吸収して熱を生じるものであればよく、光の照射に際しては光熱変換材が吸収する波長域の光を適宜用いればよい。光熱変換材の具体例としては、シアニン系色素、ポリメチン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アントラシアニン系色素、ポルフィリン系色素、アゾ系色素、ベンゾキノン系色素、ナフトキノン系色素、ジチオール金属錯体類、ジアミンの金属錯体類、ニグロシン等の各種色素、及びカーボンブラック等が挙げられる。
【0030】
これらの色素に於いては、明室での取り扱い性、レーザー露光機に用いる光源の出力や使い易さの点から波長750〜1100nmの領域の光を吸収する色素が好ましい。色素の吸収波長域に関しては置換基やπ電子の共役系の長さ等により変えることが出来る。これらの光熱変換材は親水層組成物に溶解していても、又分散していても良い。
【0031】
[基材]
本発明に使用する平版印刷原版の基材としては特に制限はなく、公知のものが使用可能である。具体例としては、アルミ板、鋼板、ステンレス板、銅板等の金属板やポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂等のプラスチックフィルムや紙、プラスチックフィルムラミネート紙、表面コート不織布等が挙げられる。コストおよび耐熱性など物理的性質や引張強度など機械的性質からポリエステルフィルム、より具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン―2,6−ナフタレート(PEN)等が好ましい。これらの基材の厚さは特に制限はないが、通常50〜400μm程度である。又、これらの基材には親水層あるいは下地層との密着性の改良等のために酸化処理、クロメート処理、サンドブラスト処理、コロナ放電処理等の表面処理を施してもよい。
【0032】
[下地層]
本発明の平版印刷原版においては、上記基材上に直接親水層を設置しても良いが、密着性を高めるため下地層を設置することも好ましい態様である。この時に用いる下地層の組成は特に制限はなく、公知のウレタン系、アクリル系、酢酸ビニル系、合成ゴム系、エチレン系等のポリマーを使用することができる。親水層に水分散ポリマーを使用する場合には、同じ水分散ポリマーを下地層として使用することが密着性の点から好ましい態様である。
【0033】
水分散ポリマーは塗布後、分散溶媒(水)が蒸発すると融着して造膜する特性を有することが好ましい。製造上問題がなければ最低造膜温度は特に限定されない。下地層には1種類または2種類以上の前記水分散ポリマーを混合して使用できる。さらに、架橋剤を加えて強靭な膜を作ることも可能である。
【0034】
[親水性樹脂組成物の製造]
親水層を形成する親水性樹脂組成物は、前述の2つ以上のカルボジイミド基を有する架橋剤、水溶液あるいはエマルジョン状の親水性ポリマー、界面活性剤及び水分散ポリマーを攪拌しながら混合することで製造することができる。親水性ポリマーに対する架橋剤及び水分散ポリマーの配合量は、親水性ポリマー100質量部に対し、それぞれ5〜100質量部、0〜300質量部であることが好ましい。配合量がこの範囲である場合に、非画像部の親水性、耐刷性、画像部の親油性、インクや感熱転写層の固着性等が良好となるため好ましい。界面活性剤の配合量は前記したとおりである。
【0035】
[平版印刷原版の製造]
前記親水性樹脂組成物を、基材に直接又は下地層上に塗布、加熱架橋することで親水層を有する平版印刷原版が形成される。加熱架橋の条件は前記したとおりである。塗布するときには例えば、バーコーター、ロールコータ、ブレードコータ、グラビアコータ、カーテンフローコータ、ダイコータ、ディップコータやスプレー法等を用いれば良い。親水層の膜厚は特に制限はないが、耐水性や加熱架橋時間の点から、熱処理後の乾燥膜厚として0.5〜10μm程度が好ましい。
【0036】
[平版印刷版の製造]
本発明の平版印刷原版は、レーザー法、インクジェット法、感熱転写法の何れかにより画像部を形成し印刷版となる。
【0037】
[レーザー法]
レーザー法を用いる場合は、親水性樹脂組成物に上記した光熱変換材を用いることが好ましい。光熱変換材を用いた親水層からなる平版印刷原版をレーザーを搭載した露光機、いわゆるプレートセッターに装着し、レーザー光を画像様に照射することで製造できる。照射されたレーザー光は光熱変換材等で熱に変換され、水分散ポリマーの熱融着や親水性ポリマーの親水性官能基の発泡により親油化し、画像部となる。原版表面でのエネルギー量は親水層の組成により大きく異なり、適宜最適なエネルギー量となるように調整するが、一般的には50〜1000mJ/cmである。レーザー照射された部位は既に親油性となっており、一方未照射部は親水性であるため、現像や拭き取り等の後工程を一切必要とせずに印刷することが可能である。照射する光としては市販の一般的なレーザー光で良いが、特に750〜1100nmの波長域の発振波長を有するレーザー光が好ましく、例えば830nmの高出力半導体レーザーや1064nmのYAGレーザーが好ましく用いられる。これらのレーザーを搭載した露光機は、サーマル用プレートセッターとして既に市場に供されている。
【0038】
[インクジェット法]
インクジェット法で画像部を形成する場合、平版印刷原版には光熱変換材は必ずしも必要ではない。上記した製造法により作製した原版をインクジェットプリンターに装着し、インクを画像様に投射することで製造することができる。インクが投射された部位が親油性に変化する、または投射されたインクが原版表面に固着し親油性部位を形成するため、現像や加熱などの後処理工程を一切必要とせずに印刷することが可能である。インクジェットプリンターとしては一般に市販されている汎用品でも工業用の大判サイズ品でも使用することができ、インクヘッドのインク投射原理としては熱タイプでも圧電タイプでも構わない。インクとしては投射された版表面が十分な親油性を発現させることができるものであれば特に制限はなく、水性、油性、溶剤性、ソリッドタイプのいずれでも良い。
【0039】
[感熱転写法]
感熱転写法で画像部を形成する場合、平版印刷原版に光熱変換材は必ずしも必要ではない。上記した製造法により作製した原版の親水層表面に、感熱転写層を有するシート状の感熱転写シートを密着させる。その後、感熱転写シート側から、たとえばサーマルヘッドを用いて画像様に加熱を行う。この加熱で、加熱部分に対応する感熱転写層を原版側に転写する。これによって、原版の親水層上に親油性の感熱転写層が転写され、これが画像部となる。このとき、加熱手段としては、サーマルヘッドの代わりにレーザー光を使用することもできる。
【0040】
ここで用いる感熱転写シートの感熱転写層の材料は、加熱により溶融して原版の親水層上に転写され、インキを受容するものであれば特に制限なく使用できる。たとえば感熱転写層として、加熱により溶融する樹脂及び無機顔料から成り、必要に応じて染料を添加したものを用いることができる。その場合の樹脂例としては、パラフィンワックス、天然ロジン、高級脂肪酸エステル、ポリアミド、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアクリル酸エステル等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル等を挙げることができる。無機顔料の例としては、シリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラック、チタンホワイト等を挙げることができる。顔料や染料を添加したものは、画像部の視認性に効果があり、また加熱手段がレーザー光の場合には、レーザー光を吸収し発熱する光熱変換材としても作用し得る。このような感熱転写法に好適な感熱転写プリンタとしては一般に市販されている汎用品でも工業用の大判サイズ品でも使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
(平版印刷原版の作製)
厚み0.19mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製テトロンTMHLW)に下記親水性樹脂組成物をワイヤーバー#14を用いて均一に塗布した後、140℃で10分間加熱架橋し、約2μmの膜厚の親水層を成膜した。
【0042】
カルボジイミド基含有架橋剤(日清紡(株)カルボジライトTME−02、固形分40重量%):5部
リン酸エステル塩系界面活性剤(第一工業製薬(株)製、プライサーフTMA207H、固形分100重量%):0.1部
アクリルアミド:ヒドロキシエチルメタクリレート=90:10(重量比)の親水性ポリマー水溶液(固形分10重量%):40部
自己乳化型水分散ウレタン樹脂(三井化学(株)製、オレスターTMUD350、平均粒径0.03μm、最低造膜温度5℃以下、固形分40重量%):10部
シアニン色素の5%水溶液(メタノール溶液中でのλmax 784nm, εmax 2.5×10Lmol−1cm−1):20部
(平版印刷版の作製)
この原版に、波長830nmの半導体レーザーを搭載したサーマルプレートセッターに装着し、原版表面で350mJ/cmの照射エネルギー密度となるように集光しながら走査照射して、175線/インチの画像情報の描画を行った。
【0043】
(印刷物の作製)
この平版印刷版を現像や加熱等の後処理を一切行わず、オフセット印刷機三菱重工業(株)製ダイヤ1F−4にセットし、湿し水として(株)日研化学研究所のH液アストロマーク3の2%水溶液、インキとして大日本インキ製造(株)製のバリウスTMG−Nを使用して印刷を行った。このとき、水量が目盛り50(PS版同等)でも非画像部に地汚れは全くなく、一方描画した画像情報どおりにインキが付着し美しい印刷物を得ることができた。1万枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0044】
[実施例2]
実施例1の架橋剤を、カルボジライトTMV−02−L2(固形分40%)に替えた以外は実施例1と同様にして平版印刷版を作り印刷した。水量が目盛り52(PS版同等)でも非画像部に地汚れは全くなく、一方描画した画像情報どおりにインキが付着し美しい印刷物を得ることができた。1万枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0045】
[実施例3]
実施例1の界面活性剤を、アルキルベンゼンスルホン酸塩系界面活性剤ネオゲンTMR(固形分60重量%)に替えた以外は実施例1と同様にして平版印刷版を作り印刷した。水量が目盛り50(PS版同等)でも非画像部に地汚れは全くなく、一方描画した画像情報どおりにインキが付着し美しい印刷物を得ることができた。1万枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0046】
[実施例4]
実施例1の界面活性剤を、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩系界面活性剤ネオコールTMYSK(固形分70重量%)に替えた以外は実施例1と同様にして平版印刷版を作り印刷した。水量が目盛り48(PS版同等)でも非画像部に地汚れは全くなく、一方描画した画像情報どおりにインキが付着し美しい印刷物を得ることができた。1万枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0047】
[実施例5]
実施例1のシアニン色素水溶液を使用しない以外は実施例1と同様にして平版印刷原版を作製した。
【0048】
(平版印刷版の作製)
この原版に、インクカートリッジとしてICM31を装着したセイコーエプソン(株)製インクジェットプリンターCalarioTMPX−V600で画像を描画し、平版印刷版を得た。
【0049】
(印刷物の作製)
この平版印刷版を現像や加熱等の後処理を一切行わず、オフセットカード印刷機プレクスター(株)製ARXEZにセットし、湿し水として(株)日研化学研究所のH液アストロマークTM3の2%水溶液、インキとして大日本インキ製造(株)製のバリウスTMG−Nを使用して印刷を行った。版面に湿し水を供給した時点でインクは流れてしまったが、印刷インキを供給すると画像どおりにインキが付着し、紙に転写することで印刷物を得ることができた。このとき、水量を目盛り10(PS版同等)で印刷してもインクが投射されていない非画像部には地汚れは全くなかった。5千枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0050】
[実施例6]
実施例5の平版印刷版の作製を、感熱転写法で行った以外は実施例5と同様にして印刷した。
【0051】
(平版印刷版の作製)
実施例5と同様にして作製した原版に、感熱転写シートとしてワープロ共通インクリボンタイプEW黒を装着した東芝パーソナルワープロRupo F550で画像を描画し、平版印刷版を得た。
【0052】
(印刷物の作製)
この平版印刷版を現像や加熱等の後処理を一切行わず、オフセットカード印刷機プレクスター(株)製ARXEZにセットし、湿し水として(株)日研化学研究所のH液アストロマークTM3の2%水溶液、インキとして大日本インキ製造(株)製のバリウスTMG−Nを使用して印刷を行った。このとき、水量を目盛り10(PS版同等)で印刷してもインクが投射されていない非画像部には地汚れは全くなかった。5千枚印刷後も画像は全く変化せず、地汚れも全く発生しなかった。
【0053】
[比較例1]
実施例1にカルボジイミド基含有架橋剤を使用しないこと以外は実施例1と同様にして平版印刷版を作製し印刷した。親水層が架橋硬化されていないため、湿し水を供給すると溶解し始め、湿し水供給後30秒で親水層が全て消失した。残ったポリエチレンテレフタレートフィルム全体にインキが付着し印刷することができなかった。
【0054】
[比較例2]
実施例1の140℃10分加熱架橋を、室温(20℃)1時間の乾燥だけで作製した以外は実施例1と同様にして平版印刷版を作製し印刷した。親水層が架橋硬化されていないため、湿し水を供給すると溶解し始め、湿し水供給後45秒で親水層が全て消失した。残ったポリエチレンテレフタレートフィルム全体にインキが付着し印刷することができなかった。
【0055】
[比較例3]
実施例1に界面活性剤を使用しないこと以外は実施例1と同様にして平版印刷版を作製し印刷した。水量を最大供給量である目盛り99にしても、版全面にインキが付着した。一旦印刷を中止し、版全体を(株)日研化学研究所のプレートクリーナーサイバー10で洗浄し再度印刷を開始したが、すぐに版全面にインキが付着し印刷することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の平版印刷原版と、レーザー法、インクジェット法、感熱転写法により画像を形成させる平版印刷版の製造方法を用いれば、現像や加熱等の後処理工程なしに印刷物を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上のカルボジイミド基を有する架橋剤により架橋した親水性ポリマーと界面活性剤を含む親水層を有することを特徴とする平版印刷原版。
【請求項2】
前記界面活性剤は、アニオン性界面活性剤である請求項1に記載の平版印刷原版。
【請求項3】
前記アニオン性界面活性剤は、リン酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩系界面活性剤、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩系界面活性剤から選ばれる、少なくとも1種以上の界面活性剤である請求項2に記載の平版印刷原版。
【請求項4】
前記親水層は、平均粒子径0.005〜0.5μmであり、かつ最低造膜温度が50℃以下の水分散ポリマーを含むものである請求項1〜3に記載の平版印刷原版。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の平版印刷原版は光熱変換材を含み、レーザー照射により、現像工程なしで親油性部位を形成させることを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4に記載の平版印刷原版を、インクジェットプリンターによりインクを画像様に投射することにより、後処理工程なしで親油性部位を形成させることを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4に記載の平版印刷原版の表面に、シート状の感熱転写層を設けて成る感熱転写シートの該感熱転写層を密着させた後、該感熱転写シート側から画像様に加熱を行い、感熱転写層を転写することにより、後処理工程なしで親油性部位を形成させることを特徴とする平版印刷版の製造方法。

【公開番号】特開2006−264093(P2006−264093A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85091(P2005−85091)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】